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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023045221
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】光学フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20230327BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230327BHJP
   C08J 7/02 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
G02B5/30
C08J5/18 CFD
C08J7/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021153494
(22)【出願日】2021-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 恭輔
【テーマコード(参考)】
2H149
4F071
4F073
【Fターム(参考)】
2H149AB02
2H149AB26
2H149BA02
2H149CA02
2H149CB01
2H149CB11
2H149EA12
2H149FA12X
2H149FD05
2H149FD07
2H149FD26
4F071AA46
4F071AC02
4F071AC03
4F071AF31Y
4F071AG12
4F071AH12
4F071AH19
4F071BB06
4F071BB07
4F071BC01
4F071BC12
4F073AA14
4F073BA24
4F073EA03
4F073EA14
4F073EA19
4F073HA09
(57)【要約】
【課題】ポリエチレンテレフタレートを含み、虹斑が抑制された光学フィルム及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂で形成され、NZ係数が1.10以下であり、面内レターデーションが2000nm以上であり、有機溶媒を1重量%以上含む、光学フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂で形成され、
NZ係数が1.10以下であり、面内レターデーションが2000nm以上であり、
有機溶媒を1重量%以上含む、光学フィルム。
【請求項2】
前記有機溶媒が、クロロホルム、塩化メチレン、及びトルエンからなる群より選ばれる1種類以上である、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
偏光板の保護フィルムとして用いられる、請求項1または請求項2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂で形成された樹脂フィルムを用意する工程(a)と、
前記樹脂フィルムを、有機溶媒に接触させて、面内方向の複屈折を変化させる工程(b)と、を含む光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記樹脂フィルムが延伸フィルムである、請求項4に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記工程(a)において用意された前記延伸フィルムの面内レターデーションをRe1とし、前記工程(b)において前記面内方向の複屈折を変化させた前記延伸フィルムの面内レターデーションをRe2としたとき、Re2/Re1で表される面内レターデーションの増加率が1.5倍以上である、請求項5に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記有機溶媒が、クロロホルム、塩化メチレン、及びトルエンからなる群より選ばれる1種類以上である、請求項4~6のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂を用いたフィルムの製造技術が提案されている(特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6642553号
【特許文献2】国際公開第2021/020023号
【特許文献3】特開平02-064141号公報
【特許文献4】特開2010-79239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリエチレンテレフタレートを含むフィルムは、従来から、種々の分野において広く用いられており、近年では、例えば、偏光板の保護フィルム等の光学フィルムとしての利用の検討が進められている。ポリエチレンテレフタレートを含むフィルムは、複屈折の影響により、虹のような色ムラ(虹斑)が観察されやすく、例えば表示装置の視認側に配置した場合に画質低下の要因となることから、改善が求められている。
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、ポリエチレンテレフタレートを含み、虹斑が抑制された光学フィルム、及び上記光学フィルムを簡単に製造することが可能な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記の課題を解決するべく鋭意検討した。その結果、ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂フィルムに有機溶媒を接触させることで、面内方向の複屈折を変化させうること、及び、面内方向の複屈折を変化させることでNZ係数及び面内レターデーションを調整し、虹斑が抑制された光学フィルムを簡単な製造方法により得うることを見出し、本発明を完成させた。本発明は以下の内容を含む。
【0007】
[1] ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂で形成され、NZ係数が1.10以下であり、面内レターデーションが2000nm以上であり、有機溶媒を1重量%以上含む、光学フィルム。
[2] 前記有機溶媒が、クロロホルム、塩化メチレン、及びトルエンからなる群より選ばれる1種類以上である、[1]に記載の光学フィルム。
[3] 偏光板の保護フィルムとして用いられる、[1]または[2]に記載の光学フィルム。
[4] ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂で形成された樹脂フィルムを用意する工程(a)と、前記樹脂フィルムを、有機溶媒に接触させて、面内方向の複屈折を変化させる工程(b)と、を含む光学フィルムの製造方法。
[5] 前記樹脂フィルムが延伸フィルムである、[4]に記載の光学フィルムの製造方法。
[6] 前記工程(a)において用意された前記延伸フィルムの面内レターデーションをRe1とし、前記工程(b)において前記面内方向の複屈折を変化させた前記延伸フィルムの面内レターデーションをRe2としたとき、Re2/Re1で表される面内レターデーションの増加率が1.5倍以上である、[5]に記載の光学フィルムの製造方法。
[7] 前記有機溶媒が、クロロホルム、塩化メチレン、及びトルエンからなる群より選ばれる1種類以上である、[4]~[6]のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポリエチレンテレフタレートを含み、虹斑が抑制された光学フィルム、及び上述の光学フィルムを簡単に製造しうる製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0010】
以下の説明において、フィルムの面内レターデーションReは、別に断らない限り、Re=(nx-ny)×dで表される値である。また、フィルムの面内方向の複屈折は、別に断らない限り、(nx-ny)で表される値であり、よってRe/dで表される。さらに、フィルムの厚み方向のレターデーションRthは、別に断らない限り、Rth=[{(nx+ny)/2}-nz]×dで表される値である。また、フィルムの厚み方向の複屈折は、別に断らない限り、[{(nx+ny)/2}-nz]で表される値であり、よってRth/dで表される。さらに、フィルムのNZ係数は、別に断らない限り、(nx-nz)/(nx-ny)で表される値である。ここで、nxは、フィルムの厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、フィルムの前記面内方向であってnxの方向に垂直な方向の屈折率を表す。nzは、フィルムの厚み方向の屈折率を表す。dは、フィルムの厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、590nmである。
【0011】
以下の説明において、「長尺」の形状とは、幅に対して、5倍以上の長さを有する形状をいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムの形状をいう。長さの上限に特段の制限は無いが、通常、幅に対して10万倍以下である。
【0012】
以下の説明において、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±5°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0013】
「偏光板」とは、別に断らない限り、剛直な部材だけでなく、例えば樹脂製のフィルムのように可撓性を有する部材も含む。
【0014】
[1.第一実施形態に係る光学フィルムの概要]
本発明の第一実施形態に係る光学フィルムは、ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂で形成され、NZ係数が1.10以下であり、面内レターデーションが2000nm以上であり、有機溶媒を1重量%以上含む。
【0015】
第一実施形態によれば、NZ係数及び面内レターデーションが所定の範囲であることにより、虹斑が抑制された光学フィルムとしうる。そのため、光学フィルムを表示装置の視認側に配置した場合、虹斑が観察されることを抑制しうることから、表示装置の画質の低下を抑制しうる。
【0016】
また、第一実施形態によれば、有機溶媒を樹脂フィルムに接触させるといった簡単な方法で面内方向の複屈折を変化させて上述のNZ係数及び面内レターデーションを付与し、生産性が高く、製造コストが抑制された光学フィルムとしうる。このような製造方法により得られた、第一実施形態の光学フィルムは、通常、有機溶媒を含む。
【0017】
[2.ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂]
第一実施形態に係る光学フィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)を含む樹脂で形成されている。光学フィルムに含まれるポリエチレンテレフタレートは、結晶性を有していてもよく、結晶性を有していなくてもよい。ポリエチレンテレフタレートが結晶性を有するとは、融点Tmを有することを表し、具体的には示唆操作熱量計(DSC)で融点を観察することができることを表す。
【0018】
ポリエチレンテレフタレートは、示唆操作熱量計(DSC)にて、通常、260℃付近に融点を観測しうる。また、ポリエチレンテレフタレートは、示唆操作熱量計(DSC)にて、通常、75℃付近にガラス転移温度を観測しうる。ポリエチレンテレフタレート(PET)の融点及びガラス転移点は、例えば、以下の方法により測定しうる。PETを、加熱によって融解させ、融解したPETをドライアイスで急冷する。続いて、このPETを試験体として用いて、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の昇温速度(昇温モード)で、PETのガラス転移温度Tg及び融点Tmを測定しうる。
【0019】
光学フィルムを構成する樹脂におけるポリエチレンテレフタレートの割合は、好ましくは、50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。ポリエチレンテレフタレートの割合が前記範囲の下限値以上である場合、光学フィルムの複屈折の発現性を高めることができる。ポリエチレンテレフタレートの割合の上限は100重量%でありうる。
【0020】
光学フィルムを構成する樹脂は、ポリエチレンテレフタレートに加えて、任意の成分を含みうる。任意の成分としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤;石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリアルキレンワックス等のワックス;ソルビトール系化合物、有機リン酸の金属塩、有機カルボン酸の金属塩、カオリン及びタルク等の核剤;ジアミノスチルベン誘導体、クマリン誘導体、アゾール系誘導体(例えば、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、及びベンゾチアソール誘導体)、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ナフタル酸誘導体、及びイミダゾロン誘導体等の蛍光増白剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤;タルク、シリカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維等の無機充填材;着色剤;難燃剤;難燃助剤;帯電防止剤;可塑剤;近赤外線吸収剤;滑剤;フィラー;及び、軟質重合体等の、ポリエチレンテレフタレート以外の任意の重合体;などが挙げられる。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。任意の成分の量は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で適宜定めうる。任意の成分の量は、例えば、光学フィルムの全光線透過率を85%以上に維持できる範囲でありうる。
【0021】
[3.光学フィルムのNZ係数及びレターデーション]
第一実施形態に係る光学フィルムは、NZ係数が1.10以下であり、面内レターデーションが2000nm以上である。
【0022】
第一実施形態に係る光学フィルムのNZ係数は、通常1.10以下であり、好ましくは1.10未満であり、より好ましくは1.05以下である。光学フィルムのNZ係数の下限値は任意であるが、例えば、1.0以上としうる。
【0023】
光学フィルムのNZ係数は、そのフィルムの面内レターデーションRe及び厚み方向のレターデーションRthから計算により求めうる。
【0024】
第一実施形態に係る光学フィルムの面内レターデーションReは、通常、2000nm以上であり、好ましくは2500nm以上であり、より好ましくは3000nm以上であり、好ましくは4000nm以下であり、より好ましくは3600nm以下である。ポリエチレンテレフタレートを含む光学フィルムにおいては、面内レターデーションReが上述した範囲にある場合において、特に虹斑が生じやすい傾向にあり、NZ係数を1.10以下に調整することにより、効果的に虹斑を抑制することができるからである。
【0025】
第一実施形態に係る光学フィルムの厚み方向のレターデーションRthは、例えば、1000nm以上であり、好ましくは1200nm以上であり、より好ましくは1500nm以上であり、好ましくは2400nm以下であり、より好ましくは2200nm以下である。
【0026】
フィルムのレターデーションは、位相差計(AXOMETRICS社製「AxoScan OPMF-1」)により測定しうる。
【0027】
[4.光学フィルムに含まれる有機溶媒]
第一実施形態に係る光学フィルムは、有機溶媒を含む。この有機溶媒は、通常、後述する光学フィルムの製造方法の工程(b)においてフィルム中に取り込まれたものである。
【0028】
詳細には、工程(b)においてフィルム中に取り込まれた有機溶媒の全部又は一部は、ポリエチレンテレフタレートの内部に入り込みうる。したがって、乾燥を行ったとしても、容易には有機溶媒を完全に除去することは難しい。よって、第一実施形態に係る光学フィルムは、有機溶媒を含む。
【0029】
前記の有機溶媒としては、ポリエチレンテレフタレートを溶解しないものを用いうる。好ましい有機溶媒は、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、及びトルエンが挙げられる。有機溶媒の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0030】
第一実施形態に係る光学フィルム100重量%に対する、当該光学フィルムに含まれる前記有機溶媒の比率としての溶媒含有率は、通常、1重量%以上であり、3重量%以上でありうる。また、前記の溶媒含有率は、例えば20重量%以下でありえ、16重量%以下でありうる。
【0031】
光学フィルムの溶媒含有率は、実施例において説明する測定方法により測定しうる。
【0032】
[5.光学フィルムのその他の特性]
第一実施形態に係る光学フィルムは、その用途に応じた適切な範囲の面内方向の複屈折Re/dを有することが好ましい。例えば、光学フィルムの具体的な面内方向の複屈折Re/dは、好ましくは60.0×10-3以上、より好ましくは65.0×10-3以上、好ましくは80.0×10-3以下、より好ましくは75.0×10-3以下である。
【0033】
第一実施形態に係る光学フィルムは、その用途に応じた適切な範囲の厚み方向の複屈折Rth/dを有することが好ましい。例えば、光学フィルムの具体的な厚み方向の複屈折Rth/dは、好ましくは35.0×10-3以上、より好ましくは40.0×10-3以上、好ましくは50.0×10-3以下、より好ましくは45.0×10-3以下である。
【0034】
光学フィルムは、高い透明性を有することが好ましい。光学フィルムの具体的な全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、特に好ましくは88%以上である。フィルムの全光線透過率は、紫外・可視分光計を用いて、波長400nm~700nmの範囲で測定しうる。
【0035】
光学フィルムは、小さいヘイズを有することが好ましい。光学フィルムのヘイズは、好ましくは1.0%未満、より好ましくは0.8%未満、特に好ましくは0.5%未満であり、理想的には0.0%である。このようにヘイズが小さい光学フィルムは、表示装置に設けた場合に、その表示装置に表示される画像の鮮明性を高くできる。フィルムのヘイズは、ヘイズメーター(例えば、日本電色工業社製「NDH5000」)を用いて測定しうる。
【0036】
光学フィルムは、延伸処理を施されていないフィルムであってもよいが、延伸処理を施された光学延伸フィルムであることが好ましい。光学フィルムが光学延伸フィルムである場合、当該光学延伸フィルムは一軸延伸フィルムであることが好ましい。一軸延伸フィルムとは、積極的に延伸処理をするのは一の方向のみであり、それ以外の方向への積極的な延伸処理が行われていないフィルムを表す。一軸延伸フィルムは、一方向のみへの延伸によって製造できるので、製造工程をシンプルにでき、よって簡単な製造を実現できる。
【0037】
光学フィルムは、枚葉のフィルムであってもよく、長尺の形状を有する長尺フィルムであってもよい。
【0038】
光学フィルムの厚みは、光学フィルムの用途に応じて適切に設定できる。光学フィルムの具体的な厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは30μm以上であり、好ましくは400μm以下、より好ましくは300μm以下で、特に好ましくは200μm以下である。
【0039】
[6.第二実施形態に係る光学フィルムの製造方法]
本発明の第二実施形態に係る光学フィルムの製造方法は、ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂で形成された樹脂フィルムを用意する工程(a)と、樹脂フィルムを、有機溶媒に接触させて、面内方向の複屈折を変化させる工程(b)と、を含む。
【0040】
第二実施形態によれば、工程(b)において樹脂フィルムを有機溶媒に接触させることで、面内方向の複屈折率を変化させることができるため、NZ係数及び面内レターデーションを調整することができる。そのため、樹脂フィルムに有機溶媒を接触させるといった簡単な方法で虹斑が抑制された光学フィルムを製造することができる。
【0041】
前記の製造方法によって光学フィルムが得られる仕組みを、本発明者は下記の通りであると推察する。ただし、本発明の技術的範囲は、下記の仕組みによって制限されるものではない。
【0042】
ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂で形成された樹脂フィルムに有機溶媒を接触させると、その有機溶媒が樹脂フィルム中に浸入する。浸入した溶媒の作用により、フィルム中のポリエチレンテレフタレートの分子にミクロブラウン運動が生じて、分子が配向する。本発明者の検討によれば、この分子鎖の配向の際には、ポリエチレンテレフタレートの溶媒誘起結晶化現象が進行することがありうると考えられる。
【0043】
[7.工程(a):樹脂フィルムの用意]
工程(a)は、ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂で形成された樹脂フィルムを用意する工程である。以下の説明では、工程(b)における有機溶媒との接触前の樹脂フィルムを、適宜、「原反フィルム」と称して説明する場合がある。
【0044】
工程(a)において用意される原反フィルムは、ポリエチレンテレフタレートで形成されている。原反フィルムを構成する樹脂については、上述した[2.ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂]の項目で説明した内容と同様とすることができる。
【0045】
原反フィルムとしては、光学等方性を有する樹脂フィルムであってもよく、光学異方性を有する樹脂フィルムであってもよいが、後者であることが好ましい。また、光学異方性を有する樹脂フィルムとしては、延伸フィルムであることが好ましい。後述する工程(b)において、面内方向の複屈折を変化させやすくすることができるからである。その理由について、本発明者は以下のように推測する。ただし、本発明の技術的範囲は、下記の仕組みによって制限されるものではない。
【0046】
ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂で形成された延伸フィルムに含まれるポリエチレンテレフタレートの分子は、延伸条件に応じた程度で配向している。通常、延伸は、フィルムの厚み方向に対して垂直な面内方向において行われるので、ポリエチレンテレフタレートの分子の大部分は、延伸フィルムの面内方向に配向しうる。このように配向したポリエチレンテレフタレートの分子を含む延伸フィルム中に有機溶媒が浸入すると、浸入した溶媒の作用による分子のミクロブラウン運動により、フィルム中の分子の配向が更に進行して、配向の程度が大きくなる。このように分子の配向の程度が大きくなると、フィルムの複屈折が変化し、ひいてはレターデーションも変化しうる。通常は、レターデーションの変化は、面内レターデーションReが大きくなるように進行する。
【0047】
原反フィルムとして延伸フィルムを用いる場合、延伸フィルムの面内方向の複屈折Re/dは50.0×10-3以上、60.0×10-3以下でありえ、厚み方向の複屈折Rth/dは、40.0×10-3以上、50.0×10-3以下でありうる。また、延伸フィルムの面内レターデーションReは、例えば、2000nm以上2500nm以下でありうる。また延伸フィルムの厚み方向のレターデーションRthは、例えば、1500nm以上2000nm以下でありうる。樹脂フィルムのNZ係数は、例えば、1.20以上1.5以下でありうる。
【0048】
一方、原反フィルムが光学等方性を有する場合、面内方向の複屈折Re/dは、通常1.0×10-3未満であり、厚み方向の複屈折の絶対値|Rth/d|は、通常1.0×10-3未満でありうる。
【0049】
原反フィルムは、有機溶媒の含有量が小さいことが好ましく、有機溶媒を含まないことがより好ましい。原反フィルム100重量%に対する、当該原反フィルムに含まれる有機溶媒の比率としての溶媒含有率は、好ましくは、1%重量%以下であり、より好ましくは0.5重量%以下、特に好ましくは0.1重量%以下であり、理想的には0重量%である。
【0050】
原反フィルムの溶媒含有率は、密度によって測定しうる。
【0051】
原反フィルムの厚みは、製造しようとする光学フィルムの厚みに報じて設定することが好ましい。また、原反フィルムは枚葉フィルムであってもよいが、長尺フィルムであることが好ましい。長尺フィルムを用いることにより、ロール・トゥ・ロール法による光学フィルムの連続的な製造が可能であるので、光学フィルムの生産性を効果的に高めることができる。
【0052】
原反フィルムの製造方法としては、有機溶媒を含まない原反フィルムが得られることから、射出成形法、押出成形法、プレス成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、注型成形法、圧縮成形法等の樹脂成型法が好ましい。これらの中でも、厚みの制御が容易であることから、押出成形法が好ましい。
【0053】
押出成形法における製造条件は、好ましくは下記の通りである。シリンダー温度(溶融樹脂温度)は、好ましくはTm以上、より好ましくは「Tm+20℃」以上であり、好ましくは「Tm+100℃」以下、より好ましくは「Tm+50℃」以下である。また、フィルム状に押し出された溶融樹脂が最初に接触する冷却体は特に限定されないが、通常はキャストロールを用いる。このキャストロール温度は、好ましくは「Tg-50℃」以上であり、好ましくは「Tg+70℃」以下、より好ましくは「Tg+40℃」以下である。さらに、冷却ロール温度は、好ましくは「Tg-70℃」以上、より好ましくは「Tg-50℃」以上であり、好ましくは「Tg+60℃」以下、より好ましくは「Tg+30℃」以下である。このような条件で原反フィルムを製造する場合、厚み1μm~1mmの原反フィルムを容易に製造できる。ここで、「Tm」は、ポリエチレンテレフタレートの融点を表し、「Tg」はポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度を表す。
【0054】
原反フィルムが延伸フィルムである場合、原反フィルムの製造方法は、通常、延伸前フィルムを用意し、必要に応じて予熱処理を行った後で、その延伸前フィルムを延伸することを含みうる。通常、延伸により、延伸前フィルムに含まれるポリエチレンテレフタレートの分子を延伸方向に応じた方向に配向させて、延伸フィルムを得ることができる。
【0055】
延伸前フィルムは、例えば、上述した樹脂成型法により得ることができる。本実施形態においては、延伸前フィルムを用意した後、その延伸前フィルムを延伸する前に、延伸前フィルムを延伸温度に加熱するための予熱処理を行う工程を含んでいてもよい。通常、予熱温度と延伸温度は同じであるが、異なっていてもよい。予熱温度は、延伸温度T1に対し、好ましくはT1-10℃以上、より好ましくはT1-5℃以上であり、また、好ましくはT1+5℃以下、より好ましくはT1+2℃以下である。予熱時間は任意であり、好ましくは1秒以上、より好ましくは5秒以上であり、また、好ましくは60秒以下、より好ましくは30秒以下である。
【0056】
延伸方向に制限はなく、例えば、長手方向、幅方向、斜め方向などが挙げられる。ここで、斜め方向とは、厚み方向に対して垂直な方向であって、幅方向に平行でもなく垂直でもない方向を表す。また、延伸方向は、一方向でもよく、二以上の方向でもよい。よって、延伸方法としては、例えば、延伸前フィルムを長手方向に一軸延伸する方法(縦一軸延伸法)、延伸前フィルムを幅方向に一軸延伸する方法(横一軸延伸法)等の、一軸延伸法;延伸前フィルムを長手方向に延伸すると同時に幅方向に延伸する同時二軸延伸法、延伸前フィルムを長手方向及び幅方向の一方に延伸した後で他方に延伸する逐次二軸延伸法等の、二軸延伸法;延伸前フィルムを斜め方向に延伸する方法(斜め延伸法);などが挙げられる。
【0057】
延伸倍率は、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上であり、好ましくは20.0倍以下、より好ましくは10.0倍以下、更に好ましくは5.0倍以下、特に好ましくは2.0倍以下である。具体的な延伸倍率は、製造したい光学フィルムの光学特性、厚み、強度などの要素に応じて適切に設定することが望ましい。延伸倍率が前記範囲の下限値以上である場合、延伸によって複屈折を大きく変化させることができる。また、延伸倍率が前記範囲の上限値以下である場合、遅相軸の方向を容易に制御したり、フィルムの破断を効果的に抑制したりできる。
【0058】
延伸温度は、好ましくは「Tg+5℃」以上、より好ましくは「Tg+10℃」以上であり、好ましくは「Tg+100℃」以下、より好ましくは「Tg+90℃」以下である。ここで、「Tg」はポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度を表す。延伸温度が前記範囲の下限値以上である場合、ポリエチレンテレフタレートを含む樹脂を十分に軟化させて延伸を均一に行うことができる。また、延伸温度が前記範囲の上限値以下である場合、得られる延伸フィルムのヘイズを小さくして透明性を高めることができる。
【0059】
工程(a)においては、前記の製造方法により原反フィルムを自ら製造することにより用意してもよく、第三者から原反フィルムを購入することにより用意してもよい。
【0060】
[8.工程(b):樹脂フィルムと有機溶媒との接触]
工程(b)は、工程(a)において用意された原反フィルムとしての樹脂フィルムを、有機溶媒に接触させて、面内方向の複屈折を変化させる工程(b)である。有機溶媒としては、樹脂フィルムに含まれるポリエチレンテレフタレートを溶解させずに当該樹脂フィルム中に浸入できる溶媒を用いうる。有機溶媒としては、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、及びトルエンが挙げられる。有機溶媒の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0061】
樹脂フィルムと有機溶媒との接触方法は、任意である。接触方法としては、例えば、樹脂フィルムに有機溶媒をスプレーするスプレー法;樹脂フィルムに有機溶媒を塗布する塗布法;有機溶媒中に樹脂フィルムを浸漬する浸漬法;などが挙げられる。中でも、連続的な接触を容易に行えることから、浸漬法が好ましい。
【0062】
樹脂フィルムに接触させる有機溶媒の温度は、有機溶媒が液体状態を維持できる範囲で任意であり、よって、有機溶媒の融点以上沸点以下の範囲に設定しうる。
【0063】
樹脂フィルムと有機溶媒とを接触させる時間は、特に指定はなく、有機溶媒の種類に応じて適宜調整しうる。接触時間は、例えば、5.0秒以上、好ましくは10秒以上であり、また例えば24時間以下、好ましくは1時間以下、より好ましくは120秒以下、特に好ましくは80秒以下、さらに好ましくは60秒以下である。接触時間が前記範囲の下限値以上である場合、有機溶媒との接触によるNZ係数の調整を効果的に行うことができる。他方、浸漬時間を長くしてもNZ係数の調整量は大きく変わらない傾向がある。よって、接触時間が前記範囲の上限値以下である場合、光学フィルムの品質を損なわずに生産性を高めることができる。
【0064】
工程(b)で有機溶媒と接触させられることにより、樹脂フィルムの面内方向の複屈折Re/dは、変化する。これにより、NZ係数及び面内レターデーションReの調整が行われ、例えば、1.10以下のNZ係数で2000nm以上の面内レターデーションReが得られる。
【0065】
第二実施形態においては原反フィルムとして延伸フィルムを用いることが好ましいことから、工程(b)においては、延伸フィルムである原反フィルムの複屈折に対する、溶媒接触後の樹脂フィルムの複屈折が所定の範囲となるように調整することが好ましい。原反フィルムとしての延伸フィルムの面内レターデーションをRe1と表し、その厚みをd1と表し、工程(b)により面内方向の複屈折を変化させた延伸フィルムの面内レターデーションをRe2と表し、その厚みをd2と表したとき、面内方向の複屈折Re/dの変化量を面内方向の複屈折Re/dの変化の絶対値(|(Re2/d2)-(Re1/d1)|)で表される量を、延伸フィルムの面内方向の複屈折Re/dの変化量とする。工程(b)における延伸フィルムの面内方向の複屈折Re/dの変化量は、好ましくは、10.0×10-3以上、より好ましくは15.0×10-3以上であり、好ましくは、25.0×10-3以下、より好ましくは20.0×10-3以下である。
【0066】
樹脂フィルムの厚み方向の複屈折Rth/dは、有機溶媒との接触によって変化してもよく変化しなくてもよい。光学フィルムの厚み方向のレターデーションRthの制御を簡単にする観点では、有機溶媒との接触によって樹脂フィルムに生じる厚み方向の複屈折Rth/dの変化は小さいことが好ましく、変化を生じないことがより好ましい。
【0067】
原反フィルムとしての延伸フィルムの厚み方向のレターデーションをRth1と表し、その厚みをd1と表し、工程(b)により面内方向の複屈折を変化させた延伸フィルムの厚み方向のレターデーションをRth2と表し、その厚みをd2と表したとき、厚み方向の複屈折Rth/dの変化量を厚み方向の複屈折Rth/dの変化の絶対値(|(Rth2/d2)-(Rth1/d1)|)で表される量を、延伸フィルムの面内方向の複屈折Re/dの変化量とする。工程(b)における延伸フィルムの面内方向の複屈折Re/dの変化量は、好ましくは、0.00×10-3以上5.00×10-3以下である。
【0068】
工程(b)においては、有機溶媒と接触させられることにより、樹脂フィルムの面内レターデーションは、通常、大きくなる。原反フィルムとしての延伸フィルムの面内レターデーションをRe1と表し、面内方向の複屈折を変化させた延伸フィルムの面内レターデーションをRe2と表したとき、Re2/Re1で表される量を、面内レターデーションの増加率とする。工程(b)における面内レターデーションの増加率Re2/Re1は、好ましくは、1.50倍以上、より好ましくは1.53倍以上であり、好ましくは2.0倍以下であり、より好ましくは1.8倍以下である。工程(b)においては、通常、面内方向へのポリエチレンテレフタレートの分子の配向が促進されることにより、面内レターデーションが大きくなることから、Re2/Re1で表される面内レターデーションの増加率は、ポリエチレンテレフタレートの分子の配向促進率とも捉えうる。
【0069】
工程(b)においては、有機溶媒と接触させられることにより、樹脂フィルムの厚み方向のレターデーションRthは、変化してもよく変化しなくてもよい。原反フィルムとしての延伸フィルムの厚み方向のレターデーションをRth1と表し、工程(b)により面内方向の複屈折を変化させた延伸フィルムの厚み方向のレターデーションをRth2と表したとき、Rth2/Rth1で表される厚み方向のレターデーションの変化率は、好ましくは0.9倍以上1.2倍以下である。
【0070】
第二実施形態に係る製造方法では、工程(b)を施された後の樹脂フィルムに、更に任意の工程を施してもよい。
【0071】
[9.任意の工程]
上述した製造方法によれば、長尺の樹脂フィルムを用いて、長尺の光学フィルムを製造することができる。光学フィルムの製造方法は、このように製造された長尺の光学フィルムをロール状に巻き取る工程を含んでいてもよい。さらに、光学フィルムの製造方法は、長尺の光学フィルムを所望の形状に切り出す工程を含んでいてもよい。
【0072】
[10.製造される光学フィルム]
本発明の第二実施形態に係る光学フィルムの製造方法によれば、原反フィルムを有機溶媒に接触させるという簡単な工程によって面内方向の複屈折の調整が可能であるので、所望のNZ係数及び面内レターデーションを有する光学フィルムを簡単に製造できる。よって、例えば、NZ係数が1.10以下であり、厚み方向のレターデーションReが2000nm以上であり、有機溶媒を1重量%以上含むといった、第一実施形態に係る光学フィルムを簡単に製造することができる。
【0073】
第二実施形態に係る製造方法で製造される光学フィルムのNZ係数は、詳細には、第一実施形態に係る光学フィルムのNZ係数と同じでありうる。さらに、第二実施形態に係る製造方法で製造される光学フィルムは、NZ係数以外の特性についても、第一実施形態に係る光学フィルムと同じでありうる。よって、第二実施形態に係る製造方法で製造される光学フィルムは、当該光学フィルムが含む樹脂;当該光学フィルムのヘイズ;当該光学フィルムが含む有機溶媒の量;当該光学フィルムのレターデーションRe及びRth;当該光学フィルムの複屈折Re/d及びRth/d;当該光学フィルムの全光線透過率;当該光学フィルムの厚み;などの特性が、第一実施形態に係る光学フィルムと同じでありうる。
【0074】
[11.光学フィルムの用途]
上述した第一実施形態に係る光学フィルム、及び、第二実施形態に係る製造方法で製造された光学フィルムの用途に制限は無い。これらの光学フィルムは、それ単独又は他の部材と組み合わせて、光学分野の広範な用途に使用しうる。光学フィルムの用途の例としては、当該基材フィルム上に任意の層を形成するための基材フィルム;偏光板の保護フィルム;などが挙げられる。中でも、光学フィルムの用途としては、偏光板の保護フィルムであることが好ましい。表示装置の視認側に配置される偏光板の保護フィルムとして光学フィルムを用いることにより、虹斑による表示装置の画質の低下を抑制することができるからである。
【実施例0075】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温常圧(23℃1気圧)大気中の条件において行った。
【0076】
[評価方法]
(フィルムのレターデーション、NZ係数の測定方法)
フィルムの面内レターデーションRe、厚み方向のレターデーションRth、NZ係数及び遅相軸方向は、位相差計(AXOMETRICS社製「AxoScan OPMF-1」)により測定した。測定波長は590nmであった。
【0077】
(フィルムの厚みの測定方法)
フィルムの厚みは、接触式厚み計(MITUTOYO社製 Code No. 543-390)を用いて測定した。
【0078】
(光学フィルムの溶媒含有率の測定方法)
サンプルとしての光学フィルムを製造するために用いた非晶状態配向フィルム(溶媒浸漬前の延伸フィルム、以下「原反フィルム」と称する)を熱重量分析(TGA:窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分、30℃~300℃)によって、その重量を測定した。30℃における原反フィルムの重量WO(30℃)から300℃における原反フィルムの重量WO(300℃)を引き算して、300℃における原反フィルムの重量減少量ΔWOを求めた。後述する実施例及び比較例で用いた原反フィルムは、溶融押出法によって製造されたものであるので、溶媒を含まない。よって、この原反フィルムの重量減少量ΔWOを、後述する式(X)ではリファレンスとして採用した。
【0079】
また、サンプルとしての光学フィルムについて、前記と同じく熱重量分析(TGA:窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分、30℃~300℃)によって、その重量を測定した。30℃における光学フィルムの重量WR(30℃)から300℃における光学フィルムの重量WR(300℃)を引き算して、300℃における光学フィルムの重量減少量ΔWRを求めた。
【0080】
前記の300℃における原反フィルムの重量減少量ΔWO、及び、300℃における光学フィルムの重量減少量ΔWRから、以下の式(X)により、光学フィルムの溶媒含有率を算出した。
溶媒含有率(%)={(ΔWR-ΔWO)/WR(30℃)}×100 (X)
【0081】
(虹斑)
バックライトに偏光フィルムを置き、直線偏光を発する面光源を準備した。直線偏光の振動方向と光学フィルムの遅相軸が一致するように評価する光学フィルムを置いた。部屋を暗くして、バックライトの光のみとし、あらゆる角度から光学フィルムを観察した。虹斑が観察されなかったものはA、わずかに観察されたものはB、虹斑が強く観察されたものはCとした。
【0082】
[製造例1:未延伸の原反フィルムの製造]
結晶性のポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルム(東レ社製、「ルミラーT60」、厚み100μm、ガラス転移温度Tg:76℃、融点263℃)を用意した。前記PET樹脂フィルムを粉砕機にて細かく粉砕して得られた樹脂をTダイを備える熱溶融押出しフィルム成形機(Optical Control Systems社製「Measuring Extruder Type Me-20/2800V3」)を用いて溶融押し出しし、およそ幅120mmの長尺の樹脂フィルムを得た。フィルム成形機の運転条件を、以下に箇条書きで記す。
・バレル温度設定=280℃~300℃
・ダイ温度=300℃
・スクリュー回転数=60rpm
・キャストロール温度=70℃
【0083】
[製造例2:延伸フィルム(原反フィルム)の製造]
延伸装置(エトー株式会社製「SDR-562Z」)を用意した。この延伸装置は、矩形の樹脂フィルムの端部を把持可能なクリップと、オーブンとを備えていた。クリップは、樹脂フィルムの1辺当たり5個、及び、樹脂フィルムの各頂点に1個の合計24個設けられていて、これらのクリップを移動させることで樹脂フィルムの延伸が可能であった。また、オーブンを備えており延伸温度を設定することが可能であった。
【0084】
上記延伸装置を用い、製造例1で得られたフィルムを延伸温度105℃、及び延伸張り率5.0倍で延伸することにより、延伸フィルムを得た。
【0085】
[実施例1]
製造例2で得られた延伸フィルムを50mm×50mmのサイズにカットした。バットを処理溶媒であるクロロホルムで満たし、延伸フィルムを処理溶媒に10秒間(10s)浸漬させた。その後、処理溶媒から延伸フィルムを取り出し、ガーゼで表面をふき取った。得られた延伸フィルムを、光学フィルムとして上述した方法で評価した。
【0086】
[実施例2]
処理溶媒を塩化メチレンとした点以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを得た。
【0087】
[実施例3]
処理溶媒をトルエンとし、処理溶媒への浸漬時間を24時間(24hrs)とした点以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを得た。
【0088】
[比較例1]
処理溶媒をトルエンとし、処理溶媒への浸漬時間を10秒間(10s)とした点以外は、実施例1と同様にして光学フィルムを得た。
【0089】
[比較例2]
製造例2で得られた延伸フィルムを、クリップで把持したまま熱処理用のオーブンに移動させ、170℃で60秒間(60s)熱処理を行った。この熱処理後の延伸フィルムを光学フィルムとして上述した方法で評価した。
【0090】
[結果]
上述した実施例及び比較例の結果を下記表に示す。下記の表において、略称の意味は、以下の通りである。
PET:ポリエチレンテレフタレート。
d:厚み
Re:面内レターデーション
Rth:厚み方向のレターデーション
【0091】
【表1】
【0092】
[検討]
実施例1~3に示すように、樹脂フィルムに対し有機溶媒を接触させて面内方向の複屈折を変化させることによりNZ係数が1.10以下であり面内レターデーションが2000nm以上である光学フィルムを製造することができた。また、得られた光学フィルムは、比較例2において熱処理によりNZ係数及び面内レターデーションを調整した光学フィルムに比べて虹斑を抑制できることが確認された。
【0093】
比較例3に示すように光学フィルムの面内レターデーションが2000nm以上であり、NZ係数が1.10を超える場合は虹斑が強く観察された。