(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023045380
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】ニップ形成部材、定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20230327BHJP
【FI】
G03G15/20 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021153761
(22)【出願日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【弁理士】
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】加幡 利幸
(72)【発明者】
【氏名】山口 嘉紀
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 隆
(72)【発明者】
【氏名】吉永 洋
(72)【発明者】
【氏名】山下 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 大輔
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033AA02
2H033AA21
2H033BA25
2H033BA26
2H033BA31
2H033BA32
2H033BB18
2H033BB23
2H033BB39
2H033BC03
2H033BE03
2H033BE06
(57)【要約】
【課題】ベルトとの摺動性を良好に保つことができ、定着装置に用いられた際に、小型、軽量で長期に渡り高品質の画像形成を行える定着装置とすることが可能なニップ形成部材を提供する。
【解決手段】無端状のベルト21と、ベルトの外側に設けられ、ベルトと対向する加圧部材22と、ベルトを加熱する加熱部材23と、ベルトの内側に設けられ、ベルトと加圧部材との間に定着ニップを形成するニップ形成部材27と、を有する定着装置20に用いるニップ形成部材27である。当該ニップ形成部材は、基材がアルミニウムであり、少なくとも定着ニップを形成する面に封孔処理が施された陽極酸化皮膜が形成されており、定着ニップを形成する部分の厚みが0.40mm以上1.20mm以下であり、定着ニップを形成する面に形成された前記封孔処理が施された陽極酸化皮膜の厚みが22μm以上45μm以下であり、かつ、厚みのばらつきが20%以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状のベルトと、
前記ベルトの外側に設けられ、前記ベルトと対向する加圧部材と、
前記ベルトを加熱する加熱部材と、
前記ベルトの内側に設けられ、前記ベルトと前記加圧部材との間に定着ニップを形成するニップ形成部材と、を有する定着装置に用いるニップ形成部材であって、
当該ニップ形成部材は、基材がアルミニウムであり、少なくとも前記定着ニップを形成する面に封孔処理が施された陽極酸化皮膜が形成されており、
当該ニップ形成部材における前記定着ニップを形成する部分の厚みが0.40mm以上1.20mm以下であり、
前記定着ニップを形成する面に形成された前記封孔処理が施された陽極酸化皮膜の厚みが22μm以上45μm以下であり、かつ、厚みのばらつきが20%以下であることを特徴とするニップ形成部材。
【請求項2】
前記封孔処理が施された陽極酸化皮膜は、当該ニップ形成部材における前記定着ニップを形成する面以外の面にも形成されていることを特徴とする請求項1に記載のニップ形成部材。
【請求項3】
前記ベルト、前記加圧部材、前記加熱部材、及び、請求項1又は2に記載のニップ形成部材を有することを特徴とする定着装置。
【請求項4】
前記ベルトの内側と前記ニップ形成部材との間に、潤滑剤が付与されることを特徴とする請求項3に記載の定着装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の定着装置を有することを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニップ形成部材、定着装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、ファクシミリ、プリンタ、またはそれらの複合機等の画像形成装置として、電子写真方式を利用した画像形成装置が種々考案されており公知技術となっている。その画像形成プロセスは、像担持体である感光ドラムの表面に静電潜像を形成し、感光ドラム上の静電潜像を現像剤であるトナー等によって現像して可視像化し、現像された画像を転写装置により記録媒体(用紙、記録紙、シート、記録材ともいう)に転写して画像を担持させ、定着装置によって記録媒体上のトナー画像を定着する過程により成立している。
【0003】
定着装置は、例えば加熱部材により所定の温度に維持された定着部材と、定着部材に圧接する加圧部材とを備える。このような定着装置は、例えば加圧部材と定着部材との圧接によって形成されたニップ部において未定着トナー像を担持した記録媒体を挟持搬送しつつ加熱し、定着させる。
【0004】
これらの定着装置のうち、ウォームアップ時間が短く、消費電力の少ない定着装置として、無端状のベルト(定着ベルト)と、前記ベルトの外側に設けられ、前記ベルトと対向する加圧部材と、前記定着ベルトを加熱する加熱部材と、前記ベルト内部に設けられ、前記ベルトと前記加圧部材との間に定着ニップを形成するニップ形成部材を有する定着装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【0005】
定着ベルト内面を加熱する方法としては、前記加圧部材が加熱部材を兼ね、定着ニップ裏面のみを加熱する方法と、加圧部材以外の箇所をランプヒータ等で加熱する方法が知られている。定着ニップ裏面のみを加熱する方法は、消費エネルギーが少なく好ましい反面、加熱している領域が限られているため、印刷スピードの速い画像形成装置では、定着ニップ部の温度が不安定になりやすい欠点がある。一方、定着ニップ部裏面以外の箇所を加熱する方法は、定着ベルトの広範囲を加熱することができるため、印刷スピードの速い画像形成装置においても、定着ニップ部の温度を安定させやすく、大変好ましい。
【0006】
ニップ形成部材と定着ベルトは、その間に潤滑剤を介在させて摺動させている。定着ベルトは高温となるため、潤滑剤にはシリコーンオイル、シリコーングリース、フッ素オイル、フッ素グリースが用いられる。
【0007】
ニップ形成部材には画像形成の際に加圧部材からの大きな力がかかるため、機械的強度が求められる。また、ニップ形成部材は、定着ベルト内面と接しているため、ニップ形成部材の表面は平滑であることが望ましい。
【0008】
ニップ形成部材には、熱伝導性が良く、軽量で、安価なアルミニウムが用いられている。アルミニウムは金属の中でも比較的柔らかい材料であるため、アルミニウムをニップ形成部材として用いるためには、厚いアルミニウムを用いる必要がある。しかし、厚いアルミニウムを用いたとしても、社会ニーズに伴う画像形成速度の高速化、装置の長寿命化に対応することが難しかった。
【0009】
これに対して、例えば特許文献2では、表面をアルマイト加工したアルミニウムをニップ形成部材に用いる定着装置が提案されている。アルマイト加工は、アルミニウム表面に陽極酸化皮膜(酸化アルミニウム皮膜)を作る加工方法である。アルマイト加工により形成された陽極酸化皮膜は非常に硬く、ニップ形成部材に適していると考えられていた。
【0010】
一般的にアルマイト加工された陽極酸化皮膜は、表面から垂直に伸びる微細な細孔の集合体であるため、比表面積が高い。そのため、潤滑剤との馴染みが良く、特に連続して画像形成を繰り返す条件では、ニップ形成部材として非常に優れた性能を示す。
【0011】
また特許文献3では、陽極酸化皮膜の細孔の径の大きさを、ニップ形成部材と定着ベルトの間に塗布したフッ素グリースの増ちょう剤の径よりも小さくしたニップ形成部材が開示されている。このようにすることで、フィルム内面とニップ部形成部材表面との間の摺動性を長期に渡り良好に保つことができるとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来技術では、ベルトとの摺動性を良好に保つことができ、定着装置に用いられた際に、小型、軽量で長期に渡り高品質の画像形成を行える定着装置とすることが可能なニップ形成部材が得られていなかった。
【0013】
そこで本発明は、ベルトとの摺動性を良好に保つことができ、定着装置に用いられた際に、小型、軽量で長期に渡り高品質の画像形成を行える定着装置とすることが可能なニップ形成部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明のニップ形成部材は、無端状のベルトと、前記ベルトの外側に設けられ、前記ベルトと対向する加圧部材と、前記ベルトを加熱する加熱部材と、前記ベルトの内側に設けられ、前記ベルトと前記加圧部材との間に定着ニップを形成するニップ形成部材と、を有する定着装置に用いるニップ形成部材であって、当該ニップ形成部材は、基材がアルミニウムであり、少なくとも前記定着ニップを形成する面に封孔処理が施された陽極酸化皮膜が形成されており、当該ニップ形成部材における前記定着ニップを形成する部分の厚みが0.40mm以上1.20mm以下であり、前記定着ニップを形成する面に形成された前記封孔処理が施された陽極酸化皮膜の厚みが22μm以上45μm以下であり、かつ、厚みのばらつきが20%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ベルトとの摺動性を良好に保つことができ、定着装置に用いられた際に、小型、軽量で長期に渡り高品質の画像形成を行える定着装置とすることが可能なニップ形成部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明における画像形成装置の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明における定着装置の一例を示す概略図である。
【
図3】本発明における定着装置の他の例を示す概略図である。
【
図4】本発明における定着装置の他の例を示す概略図である。
【
図5】ニップ形成部材の定着ニップを形成する面における陽極酸化皮膜の一例の電子顕微鏡写真である。
【
図6】ニップ形成部材の定着ニップを形成する面における封孔処理を施した陽極酸化皮膜の一例の電子顕微鏡写真である。
【
図7】ニップ形成部材の定着ニップを形成する面における封孔処理を施した陽極酸化皮膜の他の例の電子顕微鏡写真である。
【
図8】本発明におけるニップ形成部材の一例を示す概略図である。
【
図9】本発明におけるニップ形成部材の他の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るニップ形成部材、定着装置及び画像形成装置について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0018】
従来技術の特許文献2では、ニップ形成部材と定着ベルトの間に付与された潤滑剤のオイル成分が徐々に陽極酸化皮膜の微細な細孔に侵入し、オイル切れあるいはグリースの粘性の上昇が生じる問題があった。オイル切れが生じると、ニップ形成部材と定着ベルトの間の摺動性が著しく低下し、定着ベルト内面が削れることにより画像品質が劣化する。更に、定着ベルト内面の削り粉により、トルク上昇が急速に起きてしまう。
【0019】
特に、潤滑剤にフッ素グリースを用いた場合、潤滑剤のオイル切れが生じやすい。基油のフッ素オイルは、温度による体積変化が大きいため、画像形成が終了した後、定着装置の温度が室温付近にまで低下した際、陽極酸化皮膜の微細な細孔にフッ素オイルが侵入して潤滑剤のオイル切れが生じる。
【0020】
陽極酸化皮膜は、基材となるアルミニウムが酸化されることで形成される。陽極酸化皮膜は、酸化される部分のアルミニウムの厚みに対して、基材の垂直方向に約二倍に厚くなることが知られている。このように、陽極酸化皮膜を形成する際に、陽極酸化皮膜で大きな体積変化が起きるため、陽極酸化皮膜の厚みにばらつきが生じやすい。
【0021】
なお、本実施形態では、アルミニウムに対して陽極酸化を行うことをアルマイト処理またはアルマイト加工とも称することがある。アルマイト加工は、アルミニウム表面に陽極酸化皮膜(酸化アルミニウム皮膜)を作る加工方法である。また、アルミニウムに対して陽極酸化を行い、形成された陽極酸化皮膜(酸化アルミニウム皮膜)をアルマイト層とも称することがある。
【0022】
アルマイト加工により形成された陽極酸化皮膜は非常に硬く、ニップ形成部材に適していると考えられていた。アルミニウムと陽極酸化皮膜は、強度に非常に大きな差があるため、陽極酸化皮膜の厚みにばらつきがあると、画像形成を繰り返すに従い、ニップ形成部材が変形しやすくなる。ニップ形成部材が変形すると、画像品質が劣化するとともに、定着ベルト内面が削れやすくなり、その削り粉により、トルク上昇が急速に起きてしまう不具合があった。
【0023】
一方、従来技術の特許文献3では、陽極酸化皮膜の細孔の径の大きさを増ちょう剤の径よりも小さくしているため、潤滑剤のオイル切れは生じにくいと考えられる。
しかしながら、陽極酸化皮膜の細孔が小さくなることで、ニップ形成部材と定着ベルトの間に塗布した潤滑剤のオイル成分の陽極酸化皮膜の微細な細孔に侵入する速度は遅くなるものの、オイル切れあるいはグリースの粘度上昇は起きてしまう。このため、定着ベルト内面が削れることにより、画像品質が劣化するとともに、定着ベルト内面の削り粉により、トルク上昇が急速に起きてしまう不具合があった。
【0024】
また、特許文献3では、特許文献2と同様に、陽極酸化皮膜の厚みにばらつきがあると、画像形成を繰り返すに従い、ニップ形成部材が変形しやすくなる。ニップ形成部材が変形すると、画像品質が劣化するとともに、定着ベルト内面が削れやすくなり、その削り粉により、トルク上昇が急速に起きてしまう不具合があった。
【0025】
本発明者らは、陽極酸化皮膜の細孔はアルマイトの封孔処理により塞げるとの情報を得た。本発明者らは、封孔処理前後の陽極酸化皮膜表面を電子顕微鏡により観察し、検討を行った。後述の
図5に示すように、陽極酸化皮膜上には微小な細孔が全面にあるのに対して、後述の
図6に示すように、陽極酸化皮膜を封孔処理することにより、細孔はほとんど埋まり、わずかに残存する穴も内部は埋まっていることを見出した。
【0026】
本発明者らは、アルミニウムの陽極酸化皮膜を封孔処理したものをニップ形成部材として用いて定着装置を作製した。このような定着装置では、ニップ形成部材と定着ベルト内面との間に塗布した潤滑剤のオイル切れあるいはグリースの粘度上昇はほぼなくなった。
【0027】
本発明者らは、社会ニーズに伴う画像形成速度の高速化、装置の長寿命化に対応した定着装置を開発すべく、様々なアルミニウムの陽極酸化皮膜を封孔処理したニップ形成部材を検討した。この結果、その性能は様々であることがわかった。
【0028】
不具合が生じたニップ形成部材について調査したところ、ニップ形成部材が、部分的に、微小に変形していることが原因であることを見出した。
部分的に起きる微小な変形について調査したところ、前述のように、アルミニウム表面に陽極酸化皮膜が形成される際、陽極酸化されるアルミニウムが約二倍に膨らみ、陽極酸化皮膜となる。このため、陽極酸化皮膜が硬い分、陽極酸化皮膜の厚みにばらつきがあると、機械的ストレスが溜まってしまい、そのストレスは、封孔処理を行っても解消されない。このような状態で画像形成を繰り返すに従い、ニップ形成部材が、部分的に、微小に変形してしまうことが分かった。
この現象は、アルミニウムの厚みを非常に厚くすれば解消される問題ではあるが、アルミニウムの厚みを厚くすると定着装置のサイズ、重量が大きくなるとともに、コスト的にも好ましいことではない。
【0029】
本発明者らは、アルミニウムの陽極酸化皮膜を封孔処理した実用的な厚みのニップ形成部材は、如何にあるべきか、鋭意検討を繰り返した。その結果、ニップ形成部材に機械的なストレスを与えている陽極酸化皮膜の厚みを均一にすることが重要であることを見出した。
【0030】
本発明のニップ形成部材は、無端状のベルトと、前記ベルトの外側に設けられ、前記ベルトと対向する加圧部材と、前記ベルトを加熱する加熱部材と、前記ベルトの内側に設けられ、前記ベルトと前記加圧部材との間に定着ニップを形成するニップ形成部材と、を有する定着装置に用いるニップ形成部材であって、当該ニップ形成部材は、基材がアルミニウムであり、少なくとも前記定着ニップを形成する面に封孔処理が施された陽極酸化皮膜が形成されており、当該ニップ形成部材における前記定着ニップを形成する部分の厚みが0.40mm以上1.20mm以下であり、前記定着ニップを形成する面に形成された前記封孔処理が施された陽極酸化皮膜の厚みが22μm以上45μm以下であり、かつ、厚みのばらつきが20%以下であることを特徴とする。
【0031】
本発明によれば、ベルトとの摺動性を良好に保つことができ、定着装置に用いられた際に、小型、軽量で長期に渡り高品質の画像形成を行える定着装置とすることが可能なニップ形成部材を提供できる。
【0032】
なお、ニップ形成部材の陽極酸化皮膜を封孔処理した面は、定着ベルト側だけではなく、定着ベルトの反対側及び側面にも陽極酸化皮膜形成し、封孔処理することが好ましいことを見出した。
【0033】
また、本発明によれば、本発明のニップ形成部材を備えた定着装置及び画像形成装置が提供される。本発明の定着装置及び画像形成装置によれば、小型、軽量で長期に渡り高品質の画像形成を行うことができる。
【0034】
まず、
図1を参照して、本発明の実施の一形態に係る画像形成装置の全体構成及び動作について説明する。
図1に示す画像形成装置1は、カラーレーザープリンタであり、その装置本体の中央には、4つの作像部4Y,4M,4C,4Kが設けられている。各作像部4Y,4M,4C,4Kは、カラー画像の色分解成分に対応するイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の異なる色の現像剤を収容している以外は同様の構成となっている。
【0035】
具体的に、各作像部4Y,4M,4C,4Kは、潜像担持体としてのドラム状の感光体5と、感光体5の表面を帯電させる帯電装置6と、感光体5の表面にトナーを供給する現像装置7と、感光体5の表面をクリーニングするクリーニング装置8などを備える。なお、
図1では、ブラックの作像部4Kが備える感光体5、帯電装置6、現像装置7、クリーニング装置8のみに符号を付しており、その他の作像部4Y,4M,4Cにおいては符号を省略している。
【0036】
各作像部4Y,4M,4C,4Kの下方には、感光体5の表面を露光する露光装置9が配設されている。露光装置9は、光源、ポリゴンミラー、f-θレンズ、反射ミラー等を有し、画像データに基づいて各感光体5の表面へレーザー光を照射するようになっている。
【0037】
各作像部4Y,4M,4C,4Kの上方には、転写装置3が配設されている。転写装置3は、転写体としての中間転写ベルト30と、一次転写手段としての4つの一次転写ローラ31と、二次転写手段としての二次転写ローラ36と、二次転写バックアップローラ32と、クリーニングバックアップローラ33と、テンションローラ34、ベルトクリーニング装置35を備える。
【0038】
中間転写ベルト30は、無端状のベルトであり、二次転写バックアップローラ32、クリーニングバックアップローラ33及びテンションローラ34によって張架されている。ここでは、二次転写バックアップローラ32が回転駆動することによって、中間転写ベルト30は図の矢印で示す方向に周回走行(回転)するようになっている。
【0039】
4つの一次転写ローラ31は、それぞれ、各感光体5との間で中間転写ベルト30を挟み込んで一次転写ニップを形成している。また、各一次転写ローラ31には、図示しない電源が接続されており、所定の直流電圧(DC)及び/又は交流電圧(AC)が各一次転写ローラ31に印加されるようになっている。
【0040】
二次転写ローラ36は、二次転写バックアップローラ32との間で中間転写ベルト30を挟み込んで二次転写ニップを形成している。また、一次転写ローラ31と同様に、二次転写ローラ36にも電源が接続されており、所定の直流電圧(DC)及び/又は交流電圧(AC)が二次転写ローラ36に印加されるようになっている。
【0041】
ベルトクリーニング装置35は、中間転写ベルト30に当接するように配設されたクリーニングブラシとクリーニングブレードを有する。このベルトクリーニング装置35から伸びた廃トナー移送ホースは、廃トナー収容器の入り口部に接続されている。
【0042】
プリンタ本体の上部には、ボトル収容部2が設けられており、ボトル収容部2には補給用のトナーを収容した4つのトナーボトル2Y,2M,2C,2Kが着脱可能に装着されている。各トナーボトル2Y,2M,2C,2Kと上記各現像装置7との間には、補給路が設けてあり、この補給路を介して各トナーボトル2Y,2M,2C,2Kから各現像装置7へトナーが補給されるようになっている。
【0043】
一方、プリンタ本体の下部には、記録媒体としての用紙Pを収容した給紙トレイ10や、給紙トレイ10から用紙Pを搬出する給紙ローラ11等が設けてある。ここで、記録媒体には、普通紙以外に、厚紙、はがき、封筒、薄紙、塗工紙(コート紙やアート紙等)、トレーシングペーパ、OHPシート等が含まれる。また、図示しないが、手差し給紙機構が設けてあってもよい。
【0044】
プリンタ本体内には、用紙Pを給紙トレイ10から二次転写ニップを通過させて装置外へ排出するための搬送路Rが配設されている。搬送路Rにおいて、二次転写ローラ36の位置よりも用紙搬送方向上流側には、二次転写ニップへ用紙Pを搬送する搬送手段としての一対のレジストローラ12が配設されている。
【0045】
また、二次転写ローラ36の位置よりも用紙搬送方向下流側には、用紙Pに転写された未定着画像を定着するための定着装置20が配設されている。さらに、定着装置20よりも搬送路Rの用紙搬送方向下流側には、用紙を装置外へ排出するための一対の排紙ローラ13が設けられている。また、プリンタ本体の上面部には、装置外に排出された用紙をストックするための排紙トレイ14が設けてある。
【0046】
続いて、
図1を参照して、本実施形態に係るプリンタの基本的動作について説明する。
作像動作が開始されると、各作像部4Y,4M,4C,4Kにおける各感光体5が駆動装置によって図の時計回りに回転駆動され、各感光体5の表面が帯電装置6によって所定の極性に一様に帯電される。帯電された各感光体5の表面には、露光装置9からレーザー光がそれぞれ照射されて、各感光体5の表面に静電潜像が形成される。
【0047】
このとき、各感光体5に露光する画像情報は所望のフルカラー画像をイエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの色情報に分解した単色の画像情報である。このように各感光体5上に形成された静電潜像に、各現像装置7によってトナーが供給されることにより、静電潜像はトナー画像として顕像化(可視像化)される。
【0048】
また、作像動作が開始されると、二次転写バックアップローラ32が図の反時計回りに回転駆動し、中間転写ベルト30を図の矢印で示す方向に周回走行させる。そして、各一次転写ローラ31に、トナーの帯電極性と逆極性の定電圧又は定電流制御された電圧が印加される。これにより、各一次転写ローラ31と各感光体5との間の一次転写ニップにおいて転写電界が形成される。
【0049】
その後、各感光体5の回転に伴い、感光体5上の各色のトナー画像が一次転写ニップに達したときに、上記一次転写ニップにおいて形成された転写電界によって、各感光体5上のトナー画像が中間転写ベルト30上に順次重ね合わせて転写される。かくして中間転写ベルト30の表面にフルカラーのトナー画像が担持される。また、中間転写ベルト30に転写しきれなかった各感光体5上のトナーは、クリーニング装置8によって除去される。その後、除電装置によって各感光体5の表面が除電され、表面電位が初期化される。
【0050】
画像形成装置の下部では、給紙ローラ11が回転駆動を開始し、給紙トレイ10から用紙Pが搬送路Rに送り出される。搬送路Rに送り出された用紙Pは、レジストローラ12によってタイミングを計られて、二次転写ローラ36と二次転写バックアップローラ32との間の二次転写ニップに送られる。このとき二次転写ローラ36には、中間転写ベルト30上のトナー画像のトナー帯電極性と逆極性の転写電圧が印加されており、これにより、二次転写ニップに転写電界が形成されている。
【0051】
その後、中間転写ベルト30の周回走行に伴って、中間転写ベルト30上のトナー画像が二次転写ニップに達したときに、上記二次転写ニップにおいて形成された転写電界によって、中間転写ベルト30上のトナー画像が用紙P上に一括して転写される。また、このとき用紙Pに転写しきれなかった中間転写ベルト30上の残留トナーは、ベルトクリーニング装置35によって除去され、除去されたトナーは廃トナー収容器へと搬送され回収される。
【0052】
その後、トナー画像が転写された用紙Pは定着装置20へと搬送され、定着装置20によって用紙P上のトナー画像が当該用紙Pに定着される。そして、用紙Pは、排紙ローラ13によって装置外へ排出され、排紙トレイ14上にストックされる。
【0053】
以上の説明は、用紙上にフルカラー画像を形成するときの画像形成動作であるが、4つの作像部4Y,4M,4C,4Kのいずれか1つを使用して単色画像を形成したり、2つ又は3つの作像部を使用して、2色又は3色の画像を形成したりすることも可能である。
【0054】
次に、本発明の定着装置の構成に関して説明する。
本発明の定着装置は、無端状のベルトと、前記ベルトの外側に設けられ、前記ベルトと対向する加圧部材と、前記ベルトを加熱する加熱部材と、前記ベルトの内側に設けられ、前記ベルトと前記加圧部材との間に定着ニップを形成するニップ形成部材と、を有する。
なお、無端状のベルトを定着ベルト、無端状ベルトとも称することがあり、単にベルトと称することがある。
【0055】
本発明では、前記無端状のベルトの内側と前記ニップ形成部材との間に、潤滑剤が付与されることが好ましい。
潤滑剤としては、例えば、シリコーンオイル、シリコーングリース、フッ素オイル、フッ素グリース等が挙げられる。
潤滑剤が存在することにより、良好な摺動性が保たれるため、高画質の画像を長期に渡り画像形成が可能な定着装置や画像形成装置を提供することができる。
【0056】
加圧部材は、例えばローラ形状とすることができ、加圧部材が回転することにより、加熱部材により加熱された無端状ベルトも回転する。
【0057】
トナー画像を転写した用紙Pは、回転する加熱部材と加熱部材により加熱された無端状ベルトの間の定着ニップを通過することにより、トナー画像は用紙Pに定着する。
【0058】
本発明の定着装置の具体的な実施形態について、
図2を用いて説明する。
図2は、本発明の定着装置20の一実施形態を示す概略的な断面構成図である。
定着装置20は、定着部材21(以下、「定着ベルト」ともいう)、加熱源23(23A、23B)、ニップ形成ユニット、対向回転体22(以下、「加圧ローラ」ともいう)を備えている。
定着部材21は、回転可能な無端ベルト状の定着部材である。
加熱源23(23A、23B)は、定着ベルト21を加熱する。
ニップ形成ユニットは、定着ベルト21の内側に配設されている。
対向回転体22は、定着ベルト21を介してニップ形成ユニットとの間に定着ニップ部Nを形成する。
【0059】
定着ベルト21及び加圧ローラ22はいずれも、回転軸に対し垂直、つまり
図2において紙面に対して垂直方向に、用紙Pの幅より長く延びた形状を有している。その間に用紙Pを挟んで搬送する。
【0060】
定着ベルト21は、内部(ループ内)に設けられた複数の加熱源23(23A、23B)としてのハロゲンヒータの輻射熱によって加熱される。なお、加熱源23としてはハロゲンヒータに限定されない。
【0061】
反射板28(28A、28B)は、ハロゲンヒータの輻射熱を反射し、効率的に定着ベルト21を加熱することができる。
【0062】
定着ベルト21の内部には、ニップ形成ユニットが配設されている。ニップ形成ユニットは、少なくともニップ形成部材27を備え、必要に応じて、ベース部材24、ステー部材25等を備える。
ニップ形成部材27は、定着ベルト21内周との内周面と当接し、加圧ローラ22の押圧によって厚みが変化せず、かつ熱移動を行う。
ベース部材24は、ニップ形成部材27の定着ベルト21との当接面の反対側の面に備えられている。
ステー部材25は、ベース部材24を補強する。
【0063】
図示されるニップ形成部材27は、断面がコの字型の形状であるが、ニップを形成する面が平坦であれば板状やその他の形状であっても良い。
【0064】
本発明に用いられるニップ形成部材は、基材がアルミニウムであり、少なくとも定着ニップを形成する面に封孔処理が施された陽極酸化皮膜が形成されている。
図8に、本発明に用いられるニップ形成部材27の一例の概略図を示す。基材27aがアルミニウムであり、定着ニップを形成する面27cに封孔処理が施された陽極酸化皮膜27bが形成されている。また、図中の両矢印は、ニップ形成部材27における定着ニップNを形成する部分(ニップ形成部)の厚みを模式的に示している。
また、
図9に、本発明に用いられるニップ形成部材27の他の例の概略図を示す。
図9に示す例では、基材27aの全面に封孔処理が施された陽極酸化皮膜27bが形成されている。
【0065】
ニップ形成部材27における定着ニップNを形成する部分(ニップ形成部)の厚みは0.40mm以上1.20mm以下であることを要し、0.45mm以上1.00mm以下であることが好ましい。ニップ形成部の厚みは、封孔処理が施された陽極酸化皮膜を含めた厚みである。
ニップ形成部材27のニップ形成部の厚みが0.40mmよりも薄いと、ニップ形成部材27のニップ形成部を平坦に保つことが難しくなるとともに、画像形成時のニップ形成部の温度分布を均一に保つことが難しくなる。
ニップ形成部の厚みが1.20mmよりも厚いと、ニップ形成部材27の重量が重く、コストが高くなり、定着装置が大きくなってしまうとともに、装置立ち上げ時に、ニップ形成部の温度を所定の温度にするのに時間がかかる。
【0066】
ニップ形成部材27の幅は、加圧ローラ22を加圧した際に、十分なニップを形成することができるようにするため、10mm以上25mm以下が好ましく、15mm以上20mm以下がより好ましい。
ニップ形成部材27の幅が10mmよりも短いと、十分なニップ形成ができなくなるため、高画質の画像形成が難しくなる。ニップ形成部材27の幅が25mmよりも長いと、定着装置が大きくなり、装置立ち上げ時に、ニップ形成部の温度を所定の温度にするのに時間がかかる。
【0067】
ニップ形成部材27における定着ニップNを形成する面に形成された陽極酸化皮膜の厚みは22μm以上45μm以下であることを要し、好ましくは25μm以上40μm以下である。
ニップ形成部の陽極酸化皮膜の厚みが22μmより薄いと、陽極酸化皮膜の厚みにばらつきが生じやすくなるため、ニップ形成部の平滑性が悪くなる。このため、画像形成を繰り返すに従い、定着ベルト21の内面を削り、その削り粉により、トルク上昇が起きやすくなるため好ましくない。
ニップ形成部の陽極酸化皮膜の厚みが45μmよりも厚いと、陽極酸化皮膜の形成に非常に時間がかかるため、製造コストが高くなる。また、ニップ形成部の平滑性が悪くなるため、画像形成を繰り返すに従い、定着ベルト21の内面を削り、その削り粉により、トルク上昇が起きやすくなるため好ましくない。
【0068】
ニップ形成部材27における定着ニップNを形成する面に形成された陽極酸化皮膜の厚みのばらつきは20%以下であることを要し、好ましくは2%以上10%以下である。
ニップ形成部材27のニップ形成部の陽極酸化皮膜の厚みのばらつきが20%より大きくなると、ニップ形成部の平滑性が悪くなる。このため、画像形成を繰り返すに従い、定着ベルト21の内面を削り、その削り粉により、トルク上昇が起きやすくなるため好ましくない。
【0069】
ニップ形成部の陽極酸化皮膜の厚みのばらつきは小さいほど良いが、陽極酸化皮膜を形成する前のアルミニウム基材の表面に凹凸があるため、陽極酸化皮膜の厚みのある程度のばらつきは許容される。但し、ニップ形成部の陽極酸化皮膜の厚みのばらつきは、20%を超えてはならない。
【0070】
陽極酸化皮膜は、溶液中でのアルミニウムを陽極にして電気分解することにより行われる。このため、陽極酸化皮膜が形成されるニップ形成部材(陽極)と対極(陰極)との距離を十分にとること、電気分解を行う際の電流密度をあまり大きくせず、電流が集中させないようにすることが好ましい。このようにすることで、上記の規定を満たす本実施形態のニップ形成部材が得られる。
【0071】
陽極酸化皮膜の封孔処理は、加圧蒸気封孔、沸騰水封孔、酢酸ニッケル添加封孔、酢酸コバルト添加封孔等の既存の封孔処理を用いることができる。
【0072】
ニップ形成部材の定着ニップを形成する面における陽極酸化皮膜の一例の電子顕微鏡写真(SEM(走査型電子顕微鏡)の写真)を
図5、
図6に示す。
図5は陽極酸化皮膜の一例の電子顕微鏡写真であり、
図6は陽極酸化皮膜の一例を封孔処理したときの電子顕微鏡写真である。
図5に示すように、陽極酸化皮膜上には微小な細孔が全面にあるのに対して、
図6に示すように、陽極酸化皮膜を封孔処理することにより、細孔はほとんど埋まり、わずかに残存する穴も内部は埋まっている。このように、ニップ形成部材のニップ形成部に形成された陽極酸化皮膜に封孔処理が施されているかどうかは、電子顕微鏡により観察することにより判別できる。
【0073】
ニップ形成部材27のニップ形成部の陽極酸化皮膜の厚み及び陽極酸化皮膜の厚みのばらつきは、ニップ形成部の断面をSEM観察することにより測定される。
ニップ形成部の断面作製は、機械研磨、化学エッチング、ドライエッチング等、種々の方法により行うことができるが、本発明者らは、SM-09010 クロスセクションポリッシャ(日本電子製)を用いて、断面作製を行った。クロスセクションポリッシャは、Arイオンによるドライエッチングであるため、陽極酸化皮膜を壊すことなく、シャープな断面作製を行うことができる。
【0074】
ニップ形成部の陽極酸化皮膜の厚みは、ニップ形成部材の表面を上方にして撮影したSEM像で、SEM像の横幅100μmにおける平均膜厚として求めることができる。また、ニップ形成部の陽極酸化皮膜の厚みのばらつきは、ニップ形成部材の表面を上方にして撮影したSEM像で、SEM像の横幅100μmにおける陽極酸化皮膜の膜厚の最大値と最小値の差を、平均膜厚で割った値で求めることができる。
【0075】
ニップ形成部の陽極酸化皮膜の厚みとばらつきは、ニップ形成部の多くの箇所で測定することが好ましいが、三箇所の測定で十分であり、製造方法が安定した場合には、1箇所のみの測定でかまわない。複数箇所測定を行う場合には、全ての箇所で、陽極酸化皮膜の厚みとばらつきは、本発明の範囲内であることが求められる。本発明の実施例、比較例における陽極酸化皮膜の厚みとばらつきは、ニップ形成部三箇所を測定した値の平均値とした。
【0076】
図7に、本発明に用いるニップ形成部材27のニップ形成部の断面SEM像を示す。図示されるように、アルミニウム基材と陽極酸化皮膜の界面がはっきりと認識することができる。また、
図7は、封孔処理を施した陽極酸化皮膜について測定したものである。
図7に示す例では、陽極酸化皮膜の厚みは31.1μmであり、ばらつきは9.0%である。
【0077】
陽極酸化皮膜の厚みとばらつきはニップ形成部の複数箇所を測定し、複数の測定箇所の平均値とすることが好ましい。
図7に用いたニップ形成部材について、ニップ形成部の別の二箇所について陽極酸化皮膜の厚みをとばらつきを測定した。その結果、陽極酸化皮膜の厚みがそれぞれ31.2μm、31.1μmであり、ばらつきがそれぞれ9.0%、8.9%であり、陽極酸化皮膜は均一に形成されていることが分かった。
【0078】
図7に用いたニップ形成部材の例について補足する。上述のように、
図7の測定では、陽極酸化皮膜の厚みは31.1μmであり、ばらつきは9.0%であるため、本発明の規定を満たしているといえる。このニップ形成部材について、その他にも二箇所の測定を行ったところ、上述のように、陽極酸化皮膜の厚みがそれぞれ31.2μm、31.1μmであり、ばらつきがそれぞれ9.0%、8.9%であった。厚みについて複数個所の平均値は、31.1μm、31.2μm、31.1μmの平均を求めることであり、厚みのばらつきについて複数個所の平均値は、9.0%、9.0%、8.9%の平均を求めることである。本実施形態では、このような平均値を求めることが好ましい。
【0079】
本発明に用いるニップ形成部材のニップ部の陽極酸化皮膜は、前述のように封孔処理が行われている。封孔処理方法としては既存の方法が用いられ、封孔処理を行うことにより、ニップ形成部材と定着ベルト内面との間に塗布した潤滑剤のオイル切れあるいはグリースの粘度上昇を防止することができる。
【0080】
また、前述のように、ニップ形成部材27の表面は、ニップ形成部以外の面にも封孔処理が施された陽極酸化皮膜が形成されていることが好ましい。換言すると、封孔処理が施された陽極酸化皮膜は、ニップ形成部材における定着ニップを形成する面以外の面にも形成されていることが好ましい。
これにより、陽極酸化皮膜を形成するときの体積変化に伴う機械的ストレスを緩和することができる。ニップ形成部以外の表面の陽極酸化皮膜の厚みと厚みのばらつきについては、極端に厚くならない限り、特別管理する必要はなく、陽極酸化皮膜が形成されていれば、機械的ストレスを緩和するのには十分である。
【0081】
ニップ形成部材の封孔処理が施された陽極酸化皮膜の上に、摺動性の向上、耐食性の付与及び物理的形状形成によるグリースの保持を目的に、塗装が施されていても良い。塗装としては、フィラーとして炭素材料、グラファイト、ポリテトラフルオロエチレン、窒化ホウ素、に硫化モリブデン等の固体潤滑剤を含有し、ポリアミドイミド樹脂・エポキシ樹脂・アクリル系樹脂等の耐熱性樹脂をバインダーとした塗装が用いられる。
【0082】
ニップ形成部材27と定着ベルト21との当接面の間には、シリコーンオイル、フッ素オイル等の耐熱性オイル類、シリコーングリース、フッ素グリース等の潤滑剤が付与されることが好ましい。化学的安定性、耐熱性の面からフッ素グリースが存在することが好ましい。
【0083】
図2の定着装置には、フッ素グリースを蓄えておく箇所が特別ないので、過剰に供給してしまうことを防止でき、高価なフッ素グリースの使用量を少なくすることが可能となり、経済的に有利である。
【0084】
本実施形態では、定着ベルト21の幅方向に渡って配設されたベース部材24がステー部材25によって固定支持されている。これにより、加圧ローラ22からの圧力によってベース部材24に撓みが生じることを防止し、加圧ローラ22の軸方向(長手方向)に渡って均一なニップ幅が得られる。
【0085】
ベース部材24は、機械的強度が高く耐熱温度200℃以上の耐熱性部材、特に耐熱性樹脂、例えばポリイミド(PI)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、それらをガラス繊維で強化したもので構成されることが好ましい。これにより、トナー定着温度域で、熱によるベース部材24の変形が防止され、安定した定着ニップ部Nの状態が確保され、出力画質の安定化が図られる。
【0086】
また、ステー部材25やハロゲンヒータ23A、23Bは、その長手方向両端を、定着装置20の側板あるいは別途設けられたホルダに固定保持されている。
【0087】
定着ベルト21としては、ニッケルやSUSなどの金属ベルトやポリイミドなどの樹脂材料を用いた無端ベルト(もしくはフィルム)を用いることができる。
【0088】
また、定着ベルト21の表層は、PFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)またはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)による層などの離型層を有していてもよい。この場合、トナーが付着しないように離型性を持たせることができる。
【0089】
定着ベルト21は、ベルトの基材と離型層の間にシリコンゴムの層などで形成する弾性層があってもよい。シリコンゴムの層がない場合は熱容量が小さくなり、定着性が向上するが、未定着画像を押し潰して定着させるときにベルト表面の微小な凹凸が画像に転写されて画像のベタ部にユズ肌状の光沢ムラ(ユズ肌画像)が残るという不具合が生じる。これを改善するにはシリコンゴム層を100μm以上設けることが好ましい。シリコンゴム層の変形により、微小な凹凸が吸収されユズ肌画像が改善する。
なお、定着ベルト21については、以下の
図3の構成でも同様のベルト構成である。
【0090】
加圧ローラ22は、例えば芯金の外周に弾性ゴム層を設け、離型性を得るために表面に離型層(PFAまたはPTFEの層)が設けてある。
また、加圧ローラ22は、例えばスプリングなどにより定着ベルト1側に押し付けられており、弾性ゴム層が押し潰されて変形することにより、所定のニップ幅を有している。加圧ローラ22は、画像形成装置に設けられたモータなどの駆動源からギヤを介して駆動力が伝達され回転する。
【0091】
加圧ローラ22は、中空のローラであっても良く、加圧ローラ22にハロゲンヒータなどの加熱源を有していても良い。
弾性ゴム層は、ソリッドゴムでも良いが、加圧ローラ22内部にヒータが無い場合は、スポンジゴムを用いても良い。スポンジゴムの方が、断熱性が高まり定着ベルトの熱が奪われにくくなるので、より望ましい。
なお、加圧ローラ22については、以下の
図3の構成、
図4の構成でも同様のローラ構成である。
【0092】
図3は、本発明の定着装置の他の例を示す構成図である。
定着装置は、加圧部材(加圧ローラ22)とベルト(定着ベルト21)を有している。定着ベルト21は、熱源(ハロゲンヒータ23)により内周側からの輻射で直接加熱される。定着ベルト21の内部には、ニップ形成ユニットが配設されている。
【0093】
ニップ形成ユニットは、少なくともニップ形成部材27を有し、必要に応じてベース部材24、ステー部材25等を有する。
ニップ形成部材27は、定着ベルト21の内周面と当接し、加圧ローラ22の押圧によって厚みが変化せず、かつ熱移動を行う。
ベース部材24は、ニップ形成部材27の定着ベルト21との当接面の反対側の面に設けられる。
ステー部材25は、ベース部材24を補強する
【0094】
本実施形態では、定着ベルト21の幅方向に渡って配設されたベース部材24がステー部材25によって固定支持されている。これにより、加圧ローラ22からの圧力によってベース部材24に撓みが生じることを防止し、加圧ローラ22の軸方向(長手方向)に渡って均一なニップ幅が得られる。
【0095】
図3の定着装置のベース部材24に加熱機構を設けてもよい。その場合は、ハロゲンヒータ23の出力を低く設定することも可能になり、場合により、ハロゲンヒータ23を省くことも可能になる。
【0096】
図4は、本発明の定着装置20の他の例を示す構成図である。
定着装置20は、主として、定着ベルト121、IHヒータの外部誘導加熱部(IHコイルユニット44)、加圧ローラ22、分離ユニット40等で構成される。
【0097】
ここで、定着ベルト121の内部には、ニップ形成ユニットが配設されている。
ニップ形成ユニットは、少なくともニップ形成部材27を有し、必要に応じてベース部材24、ステー部材25等を有する。
ニップ形成部材27は、定着ベルト121の内周面と当接し、加圧ローラ22の押圧によって厚みが変化せず、かつ熱移動を行う。
ベース部材24は、ニップ形成部材27の定着ベルト121との当接面の反対側の面に設けられる。
ステー部材25は、ベース部材24を補強する。
【0098】
ニップ形成部材27と定着ベルト121との当接面の間には、前述のフッ素グリースが付与されている。具体的には、ニップ形成部材27と定着ベルト121との当接面全面には、前述のフッ素グリースが存在している。
【0099】
本実施形態では、定着ベルト121の幅方向に渡って配設されたベース部材24がステー部材25によって固定支持されている。これにより、加圧ローラ22からの圧力によってベース部材24やニップ形成部材27に撓みが生じることを防止し、加圧ローラ22の軸方向(長手方向)に渡って均一なニップ幅が得られる。
【0100】
上記の例と同様に、加圧ローラ22は、駆動部によって図中の矢印方向に回転し、それに伴い定着ベルト121も図中の矢印方向に回転する。
【0101】
定着ベルト121は、IH定着用の構成となっており、例えば内側からベース層、発熱層、複合機能層、弾性層、離型層からなる多層構造のエンドレスベルト(無端状ベルト)である。
【0102】
本例では、各層を例えば以下のようにしたが、これに限られるものではない。
ベース層としては、直径30mmのシームレスポリイミドを用いた。発熱層としては、薄膜非磁性金属である銅を用いた。複合機能層としては、ニッケルを用いた。弾性層としては、シリコンゴムを用いた。離型層としては、PFA樹脂を用いた。離型層によってトナーに対する離型性を担保できる。
また、全体の厚みは約300μmとした。
【0103】
定着ベルト121の内側であり、IHコイルユニット44と対向する位置には、温感磁性合金50とアルミ製の磁場遮蔽板51が設けられている。温感磁性合金50は、定着ベルト121と非接触で設けられている。
【0104】
図示するように、IHコイルユニット44は、定着ベルト121の外側であって、定着ニップと反対側に設けられている。
【0105】
本例のIH定着方式では、IH用の定着ベルト121とIHコイルユニット44を、二つの強磁性体であるソフトフェライト45と温感磁性合金50とで挟み込むように構成される。本例では、IHコイルユニット44から発生する磁束を効率よく熱エネルギーにすることで定着ベルト121を加熱している。
【0106】
本例の定着装置では、定着ベルト121と加圧ローラ22との当接部である定着ニップに用紙Pが搬送される。定着ニップの出口側には、分離ユニット40を設けてもよい。分離ユニット40は、用紙Pの搬送を案内するとともに用紙Pを定着ベルト21から分離する。
【0107】
また、IHコイルユニット44の近傍には、非接触温度検知手段29を設置してもよい。非接触温度検知手段29は、定着ベルト121上の表面温度(定着温度)を検知する。本例では、定着ベルト121上の表面温度(定着温度)の検知内容に基づいてIHヒータ温度の制御を行っている。
【0108】
なお、
図2~
図4の定着装置は、定着ベルトのみを加熱する方式であるが、ニップ形成部材を加熱する方式であっても、好ましい性能が得られる。
【実施例0109】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0110】
(実施例1、2、比較例1、2)
カラーレーザープリンタSP C840(リコー社製)の定着装置を取り出し、
図2に示す定着装置20を組み込んだ試験機を作製した。
【0111】
<実施例1>
定着装置20におけるニップ形成部材27には、基材をアルミニウムとし、全面に対して陽極酸化(アルマイト処理)と封孔処理を施したものを用いた。アルマイト処理と沸騰水封孔処理を施したニップ形成部材のニップ形成部の厚みは0.65mmであった。また、ニップ形成部材のニップ形成部の封孔処理が施された陽極酸化皮膜(アルマイト層)の厚みは32.2μmであり、厚みのばらつきは11.0%であった。
【0112】
定着ベルト21の内面とニップ形成部材27との間の摺動部に、塗布単位面積当たりの塗布量10~45mg/cm2となるように、フッ素グリースを塗布した。そして、塗布後の定着装置20を上記カラーレーザープリンタSP C840に組み付け、12℃の温度環境でランニング試験を行った。ランニング試験は、5枚連続印刷を行った後に50秒休止する一連の処理を複数回繰返し、定着の(定着ベルト21の)トルクの推移を測定した。トルク測定には、トルク検出器SS-050(小野測器製)を用いた。そして、定着のトルクの推移から、規定枚数(300000枚)の印刷が可能か否かを評価したところ、規定枚数においても、高品質の画像形成を行うことができた。
【0113】
<比較例1>
実施例1において、ニップ形成部材27の作製の際に、全面に対してアルマイト処理のみを施し、封孔処理は行わなかった。
作製されたニップ形成部材のニップ形成部の厚みは0.65mmであった。
また、ニップ形成部材のニップ形成部のアルマイト層の厚みは40.9μmであり、厚みのばらつきは20.5%であった。
このようなニップ形成部材とした以外は実施例1と同様の画像形成装置を作製した。
この装置を用いてランニング試験を行ったところ、規定枚数に達する前に、トルク上昇が発生し、画像形成不能となった。画像形成不能となった時点で、定着装置を調べたところ、定着ベルト21の内面とニップ形成部材27との間の摺動部にフッ素グリースの存在していない箇所があり、定着ベルトの内面は、激しく削れていた。
【0114】
<実施例2>
定着装置20におけるニップ形成部材27には、基材をアルミニウムとし、全面に対して実施例1と同様の陽極酸化(アルマイト処理)と封孔処理を施したものを用いた。
実施例2では、実施例1の陽極酸化(アルマイト処理)と封孔処理において、アルマイト処理及び封孔処理を行う前のニップ形成部材の厚み、陽極酸化の電流値、陽極酸化の時間の製作条件を変更することで、陽極酸化皮膜の厚みと厚みのばらつきが下記の値となるようにした。
ニップ形成部材のニップ形成部の厚みは0.46mmであった。また、ニップ形成部材のニップ形成部の封孔処理が施された陽極酸化皮膜(アルマイト層)の厚みは23.2μmであり、厚みのばらつきは16.8%であった。
このようなニップ形成部材とした以外は実施例1と同様の画像形成装置を作製した。
この装置を用いてランニング試験を行ったところ、規定枚数においても、高品質の画像形成を行うことができた。
【0115】
<比較例2>
定着装置20におけるニップ形成部材27には、基材をアルミニウムとし、ニップ形成部のみに対して実施例1と同様の陽極酸化(アルマイト処理)と封孔処理を施した。
ニップ形成部材のニップ形成部の厚みは0.39mmであった。また、ニップ形成部材のニップ形成部の封孔処理が施された陽極酸化皮膜(アルマイト層)の厚みは45.5μmであり、厚みのばらつきは23.8%であった。
このようなニップ形成部材とした以外は実施例1と同様の画像形成装置を作製した。
この装置を用いてランニング試験を行ったところ、定枚数に達する前に、トルク上昇が発生し、画像形成不能となった。画像形成不能となった時点で、定着装置を調べたところ、定着装置を調べたところ、定着ベルト21の内面の内面は削れていた。
また、画像形成を行った画像は、光沢ムラが目立ち、画像品質は好ましいものではなかった。
【0116】
(実施例3~7、比較例3)
定着装置20におけるニップ形成部材として、表1に示すニップ形成部材を用いる以外は、実施例1と同様の画像形成装置を作製し、ランニング試験を行った。結果を表1に示す。
【0117】
【0118】
なお、表1中、A、B、C、は、各々、以下を示す。
A:余裕をもって規定枚数を印刷可能
B:規定枚数を印刷可能
C:規定枚数を印刷できない
【0119】
なお、上記評価結果「A」の「余裕をもって規定枚数を印刷可能」とは、規定枚数(上記300000枚)を印刷しても、画質劣化が全く発生しない事を意味する。
また、上記評価結果「B」の規定枚数を印刷可能とは、印刷した規定枚数の内、規定枚数(上記300000枚)以内で、薄れ、色ズレが僅かに発生するものの、画像品質として許容範囲である状態を意味する。
また、上記評価結果「C」の「規定枚数を印刷できない」とは、印刷した規定枚数の内、規定枚数(上記300000枚)以内で、許容できない異常画像が発生する。または、紙詰まりが発生し、印刷不能となる状態を意味する。
【0120】
(実施例8)
カラーレーザープリンタSP C841(リコー社製)の定着装置を取り出し、
図4の構成の定着装置20を組み込んだ試験機を作製した。
ニップ形成部材には実施例1で用いたものを用い、ニップ形成部材27における定着ベルト121との対向面の全面に渡って、単位面積当たりの塗布量10~45mg/cm
2となるように、フッ素グリースを塗布した。そして、塗布後の定着装置20を上記カラーレーザープリンタSP C841に組み付け、30℃の温度環境でランニング試験を行った。ランニング試験は、18枚連続印刷を行った後に110秒休止する一連の処理を複数回繰返し、定着の(定着ベルト121の)トルクの推移を測定した。トルク測定にはトルク検出器SS-050(小野測器製)を用いた。そして、定着のトルクの推移から、規定枚数(300000枚)の印刷が可能か否かを評価した。その結果、余裕をもって規定枚数を画像形成することが可能であった。また、規定枚数における画像は、高品質であった。