IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社リコーの特許一覧

特開2023-4571樹脂構造体の製造方法及び樹脂構造体の製造装置
<>
  • 特開-樹脂構造体の製造方法及び樹脂構造体の製造装置 図1
  • 特開-樹脂構造体の製造方法及び樹脂構造体の製造装置 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004571
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】樹脂構造体の製造方法及び樹脂構造体の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/46 20060101AFI20230110BHJP
【FI】
C08F2/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021106356
(22)【出願日】2021-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】大木本 美玖
(72)【発明者】
【氏名】鷹氏 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】野勢 大輔
(72)【発明者】
【氏名】杉原 直樹
【テーマコード(参考)】
4J011
【Fターム(参考)】
4J011AC03
4J011AC04
4J011DB22
4J011TA07
4J011TA08
4J011UA01
4J011VA02
4J011VA06
4J011WA02
(57)【要約】
【課題】 重合性化合物の重合に伴って多孔質構造が形成される樹脂構造体の製造においては、重合条件に基づいて多孔質樹脂の構造及び性質等が変化するため、空隙率及び重合率が高い樹脂構造体を得るのが困難である課題がある。
【解決手段】 重合性化合物及び溶媒を含む液体組成物を付与する付与工程と、付与された液体組成物に対して第一の活性エネルギー線を照射する第一の照射工程と、第一の活性エネルギー線を照射された液体組成物に対して第二の活性エネルギー線を照射する第二の照射工程と、を含む樹脂構造体の製造方法であって、樹脂構造体は、樹脂を骨格とする多孔質構造を有し、多孔質構造は、液体組成物中における重合性化合物が第一の活性エネルギー線及び第二の活性エネルギー線を照射されることで形成され、第二の活性エネルギー線の照射強度は、第一の活性エネルギー線の照射強度より高いことを特徴とする樹脂構造体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性化合物及び溶媒を含む液体組成物を付与する付与工程と、
付与された前記液体組成物に対して第一の活性エネルギー線を照射する第一の照射工程と、
前記第一の活性エネルギー線を照射された前記液体組成物に対して第二の活性エネルギー線を照射する第二の照射工程と、を含む樹脂構造体の製造方法であって、
前記樹脂構造体は、樹脂を骨格とする多孔質構造を有し、
前記多孔質構造は、前記液体組成物中における前記重合性化合物が前記第一の活性エネルギー線及び前記第二の活性エネルギー線を照射されることで形成され、
前記第二の活性エネルギー線の照射強度は、前記第一の活性エネルギー線の照射強度より高いことを特徴とする樹脂構造体の製造方法。
【請求項2】
前記重合性化合物及び前記溶媒は相溶し、
前記多孔質構造は、前記液体組成物中における前記重合性化合物が重合していく過程で生じる重合物及び前記溶媒が相溶しなくなることで形成される請求項1に記載の樹脂構造体の製造方法。
【請求項3】
前記第一の照射工程において前記第一の活性エネルギー線を照射する時間は、前記液体組成物を用いて算出される構造決定時間以上である請求項1又は2に記載の樹脂構造体の製造方法。
【請求項4】
前記第一の活性エネルギー線の照射強度は、1W/cm以下である請求項1から3のいずれか一項に記載の樹脂構造体の製造方法。
【請求項5】
前記第二の活性エネルギー線の照射強度は、300mW/cm以上である請求項1から4のいずれか一項に記載の樹脂構造体の製造方法。
【請求項6】
前記第二の活性エネルギー線の照射強度は、前記第一の活性エネルギー線の照射強度に対して5倍以上である請求項1から5のいずれか一項に記載の樹脂構造体の製造方法。
【請求項7】
前記第二の照射工程後に、前記樹脂構造体から前記溶媒を除去する除去工程を含む請求項1から6のいずれか一項に記載の樹脂構造体の製造方法。
【請求項8】
前記除去工程は、加熱することにより前記樹脂構造体から前記溶媒を除去する工程である請求項1から7のいずれか一項に記載の樹脂構造体の製造方法。
【請求項9】
前記液体組成物を撹拌しながら測定した前記液体組成物の波長550nmにおける光の透過率が30%以上であり、
前記液体組成物を用いて作製したヘイズ測定用素子におけるヘイズ値の上昇率が1.0%以上である請求項1から8のいずれか一項に記載の樹脂構造体の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂構造体は、複数の孔が連続して連結している共連続構造を有する請求項1から9のいずれか一項に記載の樹脂構造体の製造方法。
【請求項11】
前記樹脂構造体の空隙率は、30%以上である請求項1から10のいずれか一項に記載の樹脂構造体の製造方法。
【請求項12】
前記樹脂構造体の厚さは、0.01μm以上500μm以下である請求項1から11のいずれか一項に記載の樹脂構造体の製造方法。
【請求項13】
前記樹脂構造体の重合率は、90%以上である請求項1から12のいずれか一項に記載の樹脂構造体の製造方法。
【請求項14】
前記付与工程は、電極基体上に形成された活物質層に対して前記液体組成物を付与する工程である請求項1から13のいずれか一項に記載の樹脂構造体の製造方法。
【請求項15】
前記付与工程は、インクジェット方式で前記液体組成物を吐出する工程である請求項1から14のいずれか一項に記載の樹脂構造体の製造方法。
【請求項16】
前記液体組成物の粘度は、25℃において1.0mPa・s以上150.0mPa・s以下である請求項1から15のいずれか一項に記載の樹脂構造体の製造方法。
【請求項17】
前記液体組成物の粘度は、25℃において1.0mPa・s以上30.0mPa・s以下である請求項1から16のいずれか一項に記載の樹脂構造体の製造方法。
【請求項18】
重合性化合物及び溶媒を含む液体組成物を付与する付与手段と、
付与された前記液体組成物に対して第一の活性エネルギー線を照射する第一の照射手段と、
前記第一の活性エネルギー線を照射された前記液体組成物に対して第二の活性エネルギー線を照射する第二の照射手段と、を含む樹脂構造体の製造装置であって、
前記樹脂構造体は、樹脂を骨格とする多孔質構造を有し、
前記多孔質構造は、前記液体組成物中における前記重合性化合物が前記第一の活性エネルギー線及び前記第二の活性エネルギー線を照射されることで形成され、
前記第二の活性エネルギー線の照射強度は、前記第一の活性エネルギー線の照射強度より高いことを特徴とする樹脂構造体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂構造体の製造方法及び樹脂構造体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、多孔質樹脂は様々な用途に活用できる。例えば、多孔質樹脂における空孔の形状、空孔の大きさ、及び骨格部分の表面特性等を適宜選択することで、特定の物質のみを透過または遮断する分離層を提供できる。また、別の例としては、多孔質樹脂が有する広大な表面積や空隙容積を活用することで、外部から取り込んだ気体や液体の効率的な反応場や貯蔵場を提供できる。そのため、取扱性に優れ、多用な箇所に容易に塗布可能な多孔質樹脂形成用の液体組成物を提供できれば、多孔質樹脂のアプリケーションの幅は大きく拡大する。
【0003】
このような多孔質樹脂形成用の液体組成物としては、例えば、特許文献1において、光重合性モノマー(A)と、光重合性モノマー(A)とは非相溶の有機化合物(B)と、光重合性モノマー(A)と有機化合物(B)とに相溶する共通溶媒(C)および光重合開始剤(D)を必須成分とする多孔質形成性光硬化型樹脂組成物が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、重合性化合物の重合に伴って多孔質構造が形成される樹脂構造体の製造においては、重合条件に基づいて多孔質樹脂の構造及び性質等が変化するため、空隙率及び重合率が高い樹脂構造体を得るのが困難である課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、重合性化合物及び溶媒を含む液体組成物を付与する付与工程と、付与された前記液体組成物に対して第一の活性エネルギー線を照射する第一の照射工程と、前記第一の活性エネルギー線を照射された前記液体組成物に対して第二の活性エネルギー線を照射する第二の照射工程と、を含む樹脂構造体の製造方法であって、前記樹脂構造体は、樹脂を骨格とする多孔質構造を有し、前記多孔質構造は、前記液体組成物中における前記重合性化合物が前記第一の活性エネルギー線及び前記第二の活性エネルギー線を照射されることで形成され、前記第二の活性エネルギー線の照射強度は、前記第一の活性エネルギー線の照射強度より高いことを特徴とする樹脂構造体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、重合性化合物の重合に伴って多孔質構造が形成される樹脂構造体において、空隙率及び重合率を向上させることができる製造方法及び製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、樹脂構造体の製造装置の一例を示す模式図である。
図2図2は、マテリアルジェット方式の造形装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0009】
<<樹脂構造体の製造方法>>
本実施形態の樹脂構造体の製造方法は、重合性化合物及び溶媒を含む液体組成物を付与する付与工程と、付与された液体組成物に対して第一の活性エネルギー線を照射する第一の照射工程と、第一の活性エネルギー線を照射された液体組成物に対して第二の活性エネルギー線を照射する第二の照射工程と、を含む。また、本実施形態の樹脂構造体の製造方法は、必要に応じて、第二の照射工程後に、樹脂構造体から溶媒を除去する除去工程などを有してもよい。
【0010】
<付与工程>
付与工程は、基材等の被付与物に対して重合性化合物及び溶媒を含む液体組成物を付与する工程である。付与された液体組成物は、被付与物上に液体組成物の液膜である液体組成物層を形成することが好ましい。液体組成物を付与する方法としては、特に制限されず、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェット印刷法等の各種印刷方法が挙げられる。これらの中でも、液体組成物を付与する位置の制御が可能である観点から、インクジェット印刷法などの液体吐出方法が好ましい。
【0011】
-液体組成物-
液体組成物は、重合性化合物、溶媒、及び必要に応じて重合開始剤などのその他成分を含む。また、液体組成物は、硬化させられることで樹脂を骨格とする多孔質構造を有する樹脂構造体(以降の説明において「多孔質樹脂」とも称する)を形成する。
なお、本開示において、液体組成物は多孔質樹脂を形成するが、これは、液体組成物中において多孔質樹脂が形成される場合だけでなく、液体組成物中において多孔質樹脂の前駆体(例えば、多孔質樹脂の骨格部)が形成され、その後の工程(例えば、加熱工程等)で多孔質樹脂が形成される場合等も含む意味である。また、液体組成物が多孔質樹脂を形成するとは、液体組成物中の一部成分(重合性化合物等)が硬化(重合)させられることで多孔質樹脂の骨格を形成し、液体組成物中のその他成分(溶媒等)が硬化させられずに多孔質樹脂を形成しない場合等も含む意味である。
【0012】
--重合性化合物--
重合性化合物は、重合することにより樹脂を形成し、液体組成物中において重合した場合に多孔質樹脂を形成する。重合性化合物により形成される樹脂は、活性エネルギー線の付与等(例えば、光の照射や熱を加えること等)で形成される網目状の構造体を有する樹脂であることが好ましく、例えば、アクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル樹脂、及びエン-チオール反応により形成される樹脂が好ましい。また、反応性の高いラジカル重合を利用して構造体を形成することが容易な点から、(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物により形成される樹脂であるアクリレート樹脂、メタアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂や、ビニル基を有する重合性化合物により形成される樹脂であるビニルエステル樹脂が生産性の観点からより好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、重合性化合の組み合わせとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、柔軟性付与のため、ウレタンアクリレート樹脂を主成分として他の樹脂を混合することが好ましい。なお、本開示ではアクリロイル基またはメタクリロイル基を有する重合性化合物を、(メタ)アクリロイル基を有する重合性化合物と称する。
【0013】
重合性化合物は、少なくとも1つのラジカル重合性官能基を有することが好ましい。その例としては、1官能、2官能、3官能以上のラジカル重合性化合物、機能性モノマー、及びラジカル重合性オリゴマーなどが挙げられる。これらの中でも、2官能以上のラジカル重合性化合物が好ましい。
【0014】
1官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2-エチルヘキシルカルビトールアクリレート、3-メトキシブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソブチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、セチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ステアリルアクリレート、スチレンモノマーなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0015】
2官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、EO変性ビスフェノールFジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0016】
3官能以上のラジカル重合性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、グリセロールトリアクリレート、ECH変性グリセロールトリアクリレート、EO変性グリセロールトリアクリレート、PO変性グリセロールトリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、EO変性リン酸トリアクリレート、2,2,5,5-テトラヒドロキシメチルシクロペンタノンテトラアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0017】
液体組成物中における重合性化合物の含有量は、液体組成物全量に対して、5.0質量%以上70.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以上50.0質量%以下がより好ましく、20.0質量%以上40.0質量%以下が更に好ましい。重合性化合物の含有量が70.0質量%以下である場合、得られる多孔質樹脂の空孔の大きさが数nm以下と小さくなりすぎず、多孔質樹脂が適切な空隙率を有し、液体や気体の浸透が起きにくくなる傾向を抑制することができるので好ましい。また、重合性化合物の含有量が5.0質量%以上である場合、樹脂の三次元的な網目構造が十分に形成されて多孔質構造が十分に得られ、得られる多孔質構造の強度も向上する傾向が見られるため好ましい。
【0018】
--溶媒--
溶媒(以降の記載において「ポロジェン」とも称する)は、重合性化合物と相溶する液体である。また、溶媒は、液体組成物中において重合性化合物が重合していく過程で生じる重合物(樹脂)と相溶しなくなる(相分離を生じる)液体である。液体組成物中に溶媒が含まれることで、重合性化合物は、液体組成物中において重合した場合に、言い換えると、液体組成物中において第一の活性エネルギー線及び第二の活性エネルギー線を順次照射された場合に、多孔質樹脂を形成する。また、光または熱によってラジカル又は酸を発生する化合物(後述する重合開始剤)を溶解可能であることが好ましい。溶媒は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。なお、溶媒は重合性を有さない。
【0019】
ポロジェンの1種単独としての沸点または2種以上を併用した場合の沸点は、常圧において、50℃以上250℃以下であることが好ましく、70℃以上200℃以下であることがより好ましい。沸点が50℃以上であることにより、室温付近におけるポロジェンの気化が抑制されて液体組成物の取扱が容易になり、液体組成物中におけるポロジェンの含有量の制御が容易になる。また、沸点が250℃以下であることにより、重合後のポロジェンを乾燥させる工程における時間が短縮されて、多孔質樹脂の生産性が向上する。また、多孔質樹脂の内部に残存するポロジェンの量を抑制することができるので、多孔質樹脂を物質間の分離を行う物質分離層や反応場としての反応層などの機能層として利用する場合に品質が向上する。
また、ポロジェンの1種単独としての沸点または2種以上を併用した場合の沸点は、常圧において、120℃以上であることが好ましい。
【0020】
ポロジェンとしては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエチレングリコール類、γブチロラクトン、炭酸プロピレン等のエステル類、NNジメチルアセトアミド等のアミド類等を挙げることができる。また、テトラデカン酸メチル、デカン酸メチル、ミリスチン酸メチル、テトラデカン等の比較的分子量の大きな液体も挙げることができる。また、アセトン、2-エチルヘキサノール、1-ブロモナフタレン等の液体も挙げることができる。
なお、上記の例示された液体であれば常にポロジェンに該当するわけではない。ポロジェンとは、上記の通り、重合性化合物と相溶する液体であって、且つ液体組成物中において重合性化合物が重合していく過程で生じる重合物(樹脂)と相溶しなくなる(相分離を生じる)液体である。言い換えると、ある液体がポロジェンに該当するか否かは、重合性化合物および重合物(重合性化合物が重合することにより形成される樹脂)との関係で決まる。
また、液体組成物は、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有するポロジェンを少なくとも1種類含有していればいいため、液体組成物作製時の材料選択の幅が広がり、液体組成物の設計が容易になる。液体組成物作製時の材料選択の幅が広がることで、多孔質構造の形成以外の観点で液体組成物に求められる特性がある場合に、対応の幅が広がる。例えば、液体組成物をインクジェット方式で吐出する場合、多孔質形成以外の観点として、吐出安定性等を有する液体組成物であることが求められるが、材料選択の幅が広いため、液体組成物の設計が容易になる。
なお、液体組成物は、上記の通り、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有するポロジェンを少なくとも1種類含有していればいいため、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有さない液体(ポロジェンではない液体)を追加的に含有していてもよい。但し、重合性化合物との間で上記の特定の関係を有さない液体(ポロジェンではない液体)の含有量は、液体組成物全量に対して10.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることが更に好ましく、含まれないことが特に好ましい。
【0021】
液体組成物中におけるポロジェンの含有量は、液体組成物全量に対して、30.0質量%以上95.0質量%以下が好ましく、50.0質量%以上90.0質量%以下がより好ましく、60.0質量%以上80.0質量%以下が更に好ましい。ポロジェンの含有量が30.0質量%以上である場合、得られる多孔質体の空孔の大きさが数nm以下と小さくなりすぎず、多孔質体が適切な空隙率を有し、液体や気体の浸透が起きにくくなる傾向を抑制することができるので好ましい。また、ポロジェンの含有量が95.0質量%以下である場合、樹脂の三次元的な網目構造が十分に形成されて多孔質構造が十分に得られ、得られる多孔質構造の強度も向上する傾向が見られるため好ましい。
【0022】
液体組成物中における重合性化合物の含有量とポロジェンの含有量の質量比(重合性化合物:ポロジェン)は、1.0:0.4~1.0:19.0が好ましく、1.0:1.0~1.0:9.0がより好ましく、1.0:1.5~1.0:4.0が更に好ましい。
【0023】
---重合誘起相分離---
多孔質樹脂は、重合誘起相分離により形成される。重合誘起相分離は、重合性化合物とポロジェンは相溶するが、重合性化合物が重合していく過程で生じる重合物(樹脂)とポロジェンは相溶しない(相分離を生じる)状態を表す。相分離により多孔質樹脂を得る方法は他にも存在するが、重合誘起相分離の方法を用いることで、網目構造を有する多孔質体を形成できるために、薬品や熱に対する耐性の高い多孔質体が期待できる。また、他の方法と比較して、プロセス時間が短く、表面修飾が容易といったメリットも挙げられる。
【0024】
次に、重合誘起相分離を用いた多孔質樹脂の形成プロセスについて説明する。重合性化合物は、光照射等により重合反応を生じて樹脂を形成する。このプロセスの間、成長中の樹脂におけるポロジェンに対する溶解度が減少し、樹脂とポロジェンの間における相分離が生じる。最終的に、樹脂は、ポロジェン等が孔を満たしている多孔質構造を形成する。これを乾燥すると、ポロジェン等は除去され、多孔質樹脂が残る。そのため、適切な空隙率を有する多孔質樹脂を形成するため、ポロジェンと重合性化合物との相溶性、及びポロジェンと重合性化合物が重合することにより形成される樹脂との相溶性が検討される。
【0025】
ポロジェンと重合性化合物との相溶性については次のようにして判断する。
まず、液体組成物を石英セルに注入し、攪拌子を用いて300rpmで攪拌させながら、液体組成物の波長550nmにおける光(可視光)の透過率を測定する。本開示では、光の透過率が30%以上である場合を重合性化合物とポロジェンとが相溶の状態、30%未満である場合を重合性化合物とポロジェンとが非相溶の状態であると判断する。なお、光の透過率の測定に関する諸条件を以下に示す。
・石英セル:スクリューキャップ付き特殊ミクロセル(商品名:M25-UV-2)
・透過率測定装置:Ocean Optics社製USB4000
・撹拌速度:300rpm
・測定波長:550nm
・リファレンス:石英セル内が空気の状態で、波長550nmにおける光の透過率を測定
して取得する(透過率:100%)
【0026】
ポロジェンと重合性化合物が重合することにより形成される樹脂との相溶性については次のようにして判断する。
まず、無アルカリガラス基板上に、スピンコートにより樹脂微粒子を基板上に均一分散させ、ギャップ剤とする。続いて、ギャップ剤を塗布した基板を、ギャップ剤を塗布していない無アルカリガラス基板と、ギャップ剤を塗布した面を挟むようにして互いに貼り合わせる。次に液体組成物を、貼り合わせた基板間に毛細管現象を利用して充填し、「UV照射前ヘイズ測定用素子」を作製する。続いて、UV照射前ヘイズ測定用素子にUV照射して液体組成物を硬化させる。最後に基板の周囲を封止剤で封止することで「ヘイズ測定用素子」を作製する。作製時の諸条件を以下に示す。
・無アルカリガラス基板:日本電気硝子製、40mm、t=0.7mm、OA-10G
・ギャップ剤:積水化学製、樹脂微粒子ミクロパールGS-L100、平均粒子径100μm
・スピンコート条件:分散液滴下量150μL、回転数1000rpm、回転時間30s
・充填した液体組成物量:160μL
・UV照射条件:光源としてUV-LEDを使用、光源波長365nm、照射強度30mW/cm、照射時間20s
・封止剤:TB3035B(Three Bond社製)
次に、作製したUV照射前ヘイズ測定用素子とヘイズ測定用素子を用いてヘイズ値(曇り度)を測定する。UV照射前ヘイズ測定用素子における測定値をリファレンス(ヘイズ値0)とし、ヘイズ測定用素子における測定値(ヘイズ値)のUV照射前ヘイズ測定用素子における測定値に対する上昇率を算出する。ヘイズ測定用素子におけるヘイズ値は、重合性化合物が重合することにより形成される樹脂とポロジェンとの相溶性が低いほど高くなり、相溶性が高いほど低くなる。また、ヘイズ値が高いほど重合性化合物が重合することにより形成される樹脂が多孔質構造を形成しやすくなることを示す。本開示では、ヘイズ値の上昇率が1.0%以上である場合を樹脂とポロジェンとが非相溶の状態、1.0%未満である場合を樹脂とポロジェンとが相溶の状態であると判断する。なお、測定に用いた装置を以下に示す。
・ヘイズ測定装置:Haze meter NDH5000 日本電色工業製
【0027】
--重合開始剤--
重合開始剤は、光や熱等のエネルギーによって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、重合性化合物の重合を開始させることが可能な材料である。重合開始剤としては、公知のラジカル重合開始剤やカチオン重合開始剤、塩基発生剤等を、1種単独もしくは2種以上を組み合わせて用いることができ、中でも光ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。
【0028】
光ラジカル重合開始剤としては、光ラジカル発生剤を用いることができる。例えば、商品名イルガキュアーやダロキュアで知られるミヒラーケトンやベンゾフェノンのような光ラジカル重合開始剤、より具体的な化合物としては、ベンゾフェノン、アセトフェノン誘導体、例えばα-ヒドロキシ-もしくは、α-アミノセトフェノン、4-アロイル-1,3-ジオキソラン、ベンジルケタール、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェン、p-ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、pp’-ジクロロベンゾフェン、pp’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンジルジメチルケタール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾインパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、メチルベンゾイルフォーメート、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインn-ブチルエーテル、ベンゾインn-プロピル、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モリフォリノプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(ダロキュア1173)、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンモノアシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド又はチタノセン、フルオレセン、アントラキノン、チオキサントン又はキサントン、ロフィンダイマー、トリハロメチル化合物又はジハロメチル化合物、活性エステル化合物、有機ホウ素化合物、等が好適に使用される。
更に、ビスアジド化合物のような光架橋型ラジカル発生剤を同時に含有させても構わない。また、熱のみで重合させる場合は通常のラジカル発生剤であるazobisisobutyronitrile(AIBN)等の熱重合開始剤を使用することができる。
【0029】
重合開始剤の含有量は、十分な硬化速度を得るために、重合性化合物の総質量を100.0質量%とした場合に、0.05質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましい。
【0030】
--その他--
本開示の液体組成物は、液体組成物中に分散物を含まない非分散系組成物であっても、液体組成物中に分散物を含む分散系組成物であってもよいが、非分散系組成物であることが好ましい。液体組成物が非分散系組成物であることで、液体組成物を様々な付与手段に用いることができるためである。例えば、吐出安定性を維持することが重要となるインクジェット方式にも安定して使用することができるので好ましい。
【0031】
-液体組成物の製造方法-
液体組成物は、重合開始剤を重合性化合物に溶解させる工程、ポロジェンや他の成分を更に溶解させる工程、及び均一な溶液とするために撹拌する工程などを経て作製するのが好ましい。
【0032】
-液体組成物の物性-
液体組成物の粘度は、液体組成物を付与する際の作業性の観点から25℃において、1.0mPa・s以上150.0mPa・s以下が好ましく、1.0mPa・s以上30.0mPa・s以下がより好ましく、1.0mPa・s以上25.0mPa・s以下が特に好ましい。液体組成物の粘度が1.0mPa・s以上30.0mPa・s以下であることにより、液体組成物をインクジェット方式に適用する場合においても、良好な吐出性が得られる。ここで、粘度は、例えば、粘度計(装置名:RE-550L、東機産業株式会社製)などを使用して測定することができる。
【0033】
<第一の照射工程>
第一の照射工程は、付与工程において付与された液体組成物に対して第一の活性エネルギー線を照射する工程である。第一の照射工程は、最終的に製造される多孔質樹脂の空隙率を向上させ、これにより、例えば、多孔質樹脂における液体又は気体などの流体の取込性を向上させる。具体的には、液体組成物に対して第一の活性エネルギー線を照射することにより、空隙率の高い多孔質樹脂を形作る上で基礎となる多孔質構造を有する多孔質前駆体を形成する。なお、第一の照射工程においては、多孔質前駆体が形成されていれば、未反応成分としての重合性化合物が残存していてもよい。
【0034】
なお、第一の活性エネルギー線としては、重合性化合物の重合反応を進める上で必要なエネルギーを付与できるものであればよく、特に限定されないが、例えば、紫外線、電子線、α線、β線、γ線、X線等が挙げられる。これらの中でも紫外線であることが好ましい。なお、特に高エネルギーな光源を使用する場合には、重合開始剤を使用しなくても重合反応を進めることができる。
【0035】
第一の照射工程により、多孔質前駆体を形成する理由について説明する。
上記の通り、重合誘起相分離により多孔質樹脂を形成する場合、重合条件に基づいて多孔質樹脂の構造及び性質等が変化する。例えば、液体組成物に対して照射強度の強い活性エネルギー線を照射して重合性化合物の重合が促進される条件下で多孔質樹脂の形成を行った場合、相分離が十分に生じる前に重合が進行してしまい、空隙率の高い多孔質樹脂を製造することが困難になる傾向がある。
そのため、空隙率の高い多孔質樹脂を形作る上で基礎となる多孔質構造を有する多孔質前駆体を形成することを目的とした第一の照射工程においては、照射される第一の活性エネルギー線の照射強度は高すぎないように設定される。具体的には、未反応成分としての重合性化合物の重合反応促進を目的とした後述する第二の照射工程において照射される第二の活性エネルギー線の照射強度より第一の活性エネルギー線の照射強度が低くなるように設定される。
より具体的には、第一の活性エネルギー線の照射強度は、1W/cm以下が好ましく、300mW/cm未満がより好ましく、100mW/cm以下が更に好ましい。但し、第一の活性エネルギー線の照射強度が低すぎると、相分離が過度に進行することで多孔質構造のばらつきや粗大化が生じやすくなり、更に、照射時間も長くなって生産性が低下することから、10mW/cm以上であることが好ましく、30mW/cm以上であることがより好ましい。なお、第一の活性エネルギー線を照射する光源と液体組成物が相対的に移動しながら第一の照射工程が行われる場合、液体組成物表面における照射強度は連続的に変化する。このような場合における照射強度は、第一の照射工程が実行される領域内から満遍なく(均一に)選択される複数箇所において測定された照射強度の平均値を表す。
【0036】
第一の照射工程において第一の活性エネルギー線を照射する時間は、空隙率の高い多孔質樹脂を形作る上で基礎となる多孔質構造が決定される構造決定時間以上であることが好ましい。第一の活性エネルギー線を照射する時間が構造決定時間以上であることで、多孔質構造の形成が不十分な状態で後述する第二の照射工程が実行されることを避けることができ、結果として、空隙率の高い多孔質樹脂を製造することができる。
【0037】
構造決定時間は、液体組成物を用い、以下の方法により算出することができる。
まず、無アルカリガラス基板上に、スピンコートにより樹脂微粒子を基板上に均一分散させ、ギャップ剤とする。続いて、ギャップ剤を塗布した基板を、ギャップ剤を塗布していない無アルカリガラス基板と、ギャップ剤を塗布した面を挟むようにして互いに貼り合わせる。次に、液体組成物を、貼り合わせた素子間に毛細管現象を利用して充填し、最後に基板の周囲を封止剤で封止することで「構造決定時間測定用素子」を作製する。作製時の諸条件を以下に示す。
・無アルカリガラス基板:日本電気硝子製、40mm、t=0.7mm、OA-10G
・ギャップ剤:積水化学製、樹脂微粒子ミクロパールGS-L100、平均粒子径100μm
・スピンコート条件:分散液滴下量150μL、回転数1000rpm、回転時間30s
・充填した液体組成物量:160μL
・封止剤:TB3035B(Three Bond社製)
次に、作製した構造決定時間測定用素子に対して第一の照射工程と同一条件で第一の活性エネルギー線を照射する。照射前の素子における透過率をリファレンスとし、素子における測定値(透過率)の照射中の減衰を計測する。第一の活性エネルギー線が過剰に照射されることで減衰変化が無くなったときの透過率を100%として減衰率を算出する。減衰率は、重合により多孔質構造が形成されるほど高くなる。本開示では、照射開始から透過率の減衰率が50%となるまでに要した時間を構造決定時間と定義する。なお、測定に用いた装置を以下に示す。
・透過率測定装置:LCD-5200 大塚電子株式会社製
【0038】
<第二の照射工程>
第二の照射工程は、第一の活性エネルギー線を照射された液体組成物に対して第二の活性エネルギー線を照射する工程である。第二の照射工程は、第一の照射工程における未反応成分として残存する重合性化合物の重合反応を促進させることで多孔質樹脂の重合率を向上させ、これにより、例えば、多孔質樹脂における強度を向上させる。具体的には、多孔質樹脂の重合率は90%以上であることが好ましい。また、多孔質樹脂が蓄電素子用の絶縁層(セパレーター)として用いられる場合、未反応成分である重合性化合物の残存を抑制することができるので、これにより、重合性化合物の残存により生じる電池特性の低下(例えば、ガス発生等)を抑制することができる。なお、本開示において、第二の活性エネルギー線を照射される「第一の活性エネルギー線を照射された液体組成物」とは、第一の照射工程において液体組成物が第一の活性エネルギー線を照射されたことで生じる被照射物等を表し、具体的には、第一の照射工程で生じた多孔質前駆体、未反応成分としての重合性化合物、及び溶媒などの複合物である。
【0039】
なお、第二の活性エネルギー線としては、重合性化合物の重合反応を進める上で必要なエネルギーを付与できるものであればよく、特に限定されないが、例えば、紫外線、電子線、α線、β線、γ線、X線等が挙げられる。これらの中でも紫外線であることが好ましい。なお、特に高エネルギーな光源を使用する場合には、重合開始剤を使用しなくても重合反応を進めることができる。
また、第一の活性エネルギー線及び第二の活性エネルギー線の種類は同一であっても相違してもよいが同一であることが好ましく、共に紫外線であることが好ましい。第一の活性エネルギー線及び第二の活性エネルギー線が共に紫外線である場合、ピーク波長は同一であっても相違してもよいが同一であることが好ましい。
【0040】
第二の照射工程により、第一の照射工程における未反応成分として残存する重合性化合物の重合反応を促進させる理由について説明する。
上記の通り、重合誘起相分離により多孔質樹脂を形成する場合、重合条件に基づいて多孔質樹脂の構造及び性質等が変化する。具体的には、上記の第一の照射工程は、空隙率の高い多孔質樹脂を形作る上で基礎となる多孔質構造を有する多孔質前駆体を形成することを目的として、照射される第一の活性エネルギー線の照射強度が高すぎないように設定されるため、第一の照射工程における未反応成分として重合性化合物が残存する場合があり、重合率の高い多孔質樹脂を製造することが困難になる傾向がある。
そのため、重合率の高い多孔質樹脂を形成することを目的とした第二の照射工程においては、第二の活性エネルギー線の照射強度は第一の活性エネルギー線の照射強度より高くなるように設定される。
具体的には、第二の活性エネルギー線の照射強度は、300mW/cm以上が好ましく、400mW/cm以上がより好ましく、1W/cm以上が更に好ましい。なお、第二の活性エネルギー線を照射する光源と被照射物(第一の活性エネルギー線を照射された液体組成物)が相対的に移動しながら第二の照射工程が行われる場合、被照射物表面における照射強度は連続的に変化する。このような場合における照射強度は、第二の照射工程が実行される領域内から満遍なく(均一に)選択される複数箇所において測定された照射強度の平均値を表す。
また、第二の活性エネルギー線の照射強度は第一の活性エネルギー線の照射強度に対して5倍以上であることが好ましく、10倍以上であることがより好ましい。
【0041】
なお、多孔質樹脂における重合率を測定する方法としては、特に限定されないが、例えば、赤外分光法により測定する方法などが挙げられる。具体的には、=CH面外変角振動に対応する820~800cm-1のピーク値、=CH面内変角振動に対応する1430~1400cm-1のピーク値、又はC=Cに対応する1640~1620cm-1のピーク値などを読み取り、未照射時の数値と比較することで算出する。
【0042】
<除去工程>
除去工程は、第二の照射工程後に、多孔質樹脂から溶媒を除去する工程である。溶媒を除去する方法としては特に限定されず、例えば、加熱することにより多孔質樹脂から溶媒を除去する方法が挙げられる。このとき、減圧下で加熱することで溶媒の除去がより促進され、多孔質樹脂中における溶媒の残存を抑制できるので好ましい。
【0043】
<<樹脂構造体の製造装置>>
本実施形態の樹脂構造体の製造装置は、重合性化合物及び溶媒を含む液体組成物を付与する付与手段と、付与された液体組成物に対して第一の活性エネルギー線を照射する第一の照射手段と、第一の活性エネルギー線を照射された液体組成物に対して第二の活性エネルギー線を照射する第二の照射手段と、を含む。また、本実施形態の樹脂構造体の製造装置は、必要に応じて、第二の照射手段による照射後に、樹脂構造体から溶媒を除去する除去手段などを有してもよい。
【0044】
樹脂構造体の製造装置の詳細について図1を参照しつつ説明する。図1は、樹脂構造体の製造装置の一例を示す模式図である。
樹脂構造体の製造装置の一例である多孔質樹脂製造装置100は、上記の液体組成物を用いて多孔質樹脂を製造する装置である。多孔質樹脂製造装置100は、基材の一例である印刷基材4上に、液体組成物を付与して液体組成物層を形成する工程を実行する印刷工程部10と、液体組成物層の重合開始剤を活性化させて重合性化合物の重合により多孔質樹脂6を得る工程を実行する重合工程部20及び重合工程部21と、多孔質樹脂6を加熱して溶媒を除去する工程を実行する加熱工程部30を備える。多孔質樹脂製造装置100は、印刷基材4を搬送する搬送部5を備え、搬送部5は、印刷工程部10、重合工程部20、重合工程部21、加熱工程部30の順に印刷基材4をあらかじめ設定された速度で搬送する。
【0045】
<印刷工程部>
印刷工程部10は、印刷基材4上に液体組成物を付与する付与工程を実現する付与手段の一例である印刷装置1aと、液体組成物を収容している収容容器1bと、収容容器1bに貯留された液体組成物を印刷装置1aに供給する供給チューブ1cを備える。
【0046】
収容容器1bは液体組成物7を収容しており、印刷工程部10は、印刷装置1aから液体組成物7を吐出して、印刷基材4上に液体組成物7を付与して液体組成物層を薄膜状に形成する。なお、収容容器1bは、多孔質樹脂製造装置100と一体化した構成であってもよいが、多孔質樹脂製造装置100から取り外し可能な構成であってもよい。また、多孔質樹脂製造装置100と一体化した収容容器や多孔質樹脂製造装置100から取り外し可能な収容容器に添加するために用いられる容器であってもよい。
【0047】
印刷装置1aは、液体組成物7を付与できるものであれば、特に制限はなく、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェット印刷法等の各種印刷方法に応じた任意の印刷装置を用いることができる。
【0048】
収容容器1bや供給チューブ1cは、液体組成物7を安定して貯蔵および供給できるものであれば任意に選択可能である。収容容器1bや供給チューブ1cを構成する材料は、紫外光および可視光の比較的短波長領域において遮光性を有することが好ましい。これにより、液体組成物7が外光により重合開始されることが防止される。
【0049】
<重合工程部>
重合工程部20は、図1に示すように、液体組成物に対して熱、光などの活性エネルギー線を照射することにより重合性化合物を重合させる第一の照射手段の一例である光照射装置2aと、重合不活性気体を循環させる重合不活性気体循環装置2bを有する。光照射装置2aは、印刷工程部10により形成された液体組成物に重合不活性気体存在下において光を照射し多孔質前駆体を形成させる。
【0050】
重合工程部21は、図1に示すように、重合工程部20において第一の活性エネルギー線を照射された液体組成物に対して熱、光などの活性エネルギー線を照射することにより重合性化合物を重合させる第二の照射手段の一例である光照射装置2cと、重合不活性気体を循環させる重合不活性気体循環装置2dを有する。光照射装置2cは、重合工程部20において第一の活性エネルギー線を照射された液体組成物に重合不活性気体存在下において光を照射し多孔質樹脂6を形成させる。
【0051】
光照射装置2a及び2cは、液体組成物層に含まれる光重合開始剤の吸収波長に応じて適宜選択され、液体組成物層中の化合物の重合を開始および進行させられるものならば特に限定はなく、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、熱陰極管、冷陰極管、LED等の紫外線光源が挙げられる。ただし、短波長の光ほど一般に深部に到達しやすい傾向を持つため、形成する多孔質膜の厚みに応じて光源を選択することが好ましい。
【0052】
次に、重合不活性気体循環装置2b及び2dは、大気中に含まれる重合活性な酸素濃度を低下させ、液体組成物層の表面近傍の重合性化合物の重合反応を阻害されることなく進行させる役割を担う。そのため、用いられる重合不活性気体は上記機能を満たすものならば特に制限はなく、例えば窒素や二酸化炭素やアルゴンなどが挙げられる。
【0053】
また、重合不活性気体の流量としては阻害低減効果が効果的に得られる事を考慮して、O濃度が20%未満(大気よりも酸素濃度が低い環境)であることが好ましく、0%以上15%以下であることがより好ましく、0%以上5%以下であることが更に好ましい。また、重合不活性気体循環装置2b及び2dは安定した重合進行条件を実現させる為に、温度を調節できる温調手段が設けられていることが好ましい。
【0054】
<加熱工程部>
加熱工程部30は、図1に示すように、除去手段の一例である加熱装置3aを有し、重合工程部20及び重合工程部21により形成した多孔質樹脂6に残存する溶媒を、加熱装置3aにより加熱して乾燥させて除去する。加熱工程部30は、溶媒除去工程を減圧下で実施しても良い。
なお、加熱工程部30は、多孔質樹脂6に残存する光重合開始剤を、加熱装置3aにより加熱して乾燥させて除去してもよい。
【0055】
加熱装置3aは、上記機能を満たすものならば特に制限はなく、例えばIRヒーターや温風ヒーターなどが挙げられる。
また、加熱温度や加熱時間に関しては、多孔質樹脂6に含まれる溶媒の沸点や形成膜厚に応じて適宜選択可能である。
【0056】
<印刷基材>
印刷基材4の材料としては透明、不透明を問わずあらゆる材料を用いることができる。すなわち、透明基材として、ガラス基材や各種プラスチックフィルム等の樹脂フィルム基材やまたその複合基板などが、また不透明な基材としてはシリコン基材、ステンレス等の金属基材、又はこれらを積層したものなど、種々の基材を用いることができる。
なお、印刷基材4は、普通紙、光沢紙、特殊紙、布などの記録媒体であってもよい。また、記録媒体としては、低浸透性基材(低吸収性基材)であってもよい。低浸透性基材とは、水透過性、吸収性、又は吸着性が低い表面を有する基材を意味し、内部に多数の空洞があっても外部に開口していない材質も含まれる。低浸透性基材としては、商業印刷に用いられるコート紙や、古紙パルプを中層、裏層に配合して表面にコーティングを施した板紙のような記録媒体等が挙げられる。
なお、印刷基材4は、蓄電素子用又は発電素子用の絶縁層として用いられる多孔質樹脂シートであってもよい。
【0057】
また、形状に関しても曲面であっても凹凸形状を有するものであっても、印刷工程部10、重合工程部20、重合工程部21に適用可能な基材ならば使用することができる。
【0058】
<<樹脂構造体>>
液体組成物によって形成される樹脂を骨格とする多孔質構造を有する樹脂構造体(多孔質樹脂)の膜厚は、特に限定はされないが、重合時の硬化均一性を考慮して0.01μm以上500μm以下であることが好ましく、0.01μm以上100μm以下であることがより好ましく、1μm以上50μm以下であることが更に好ましく、10μm以上20μm以下であることが特に好ましい。膜厚が0.01μm以上であることで、得られる多孔質樹脂の表面積が大きくなり、多孔質樹脂による機能を十分に得ることができる。また、膜厚が500μm以下であることで、膜厚方向において重合時に用いる光や熱のムラが抑制され、膜厚方向において均一な多孔質樹脂を得ることができる。膜厚方向において均一な多孔質樹脂を作製することで多孔質樹脂の構造ムラを抑制し、液体や気体の透過性低下を抑制することができる。なお、多孔質樹脂の膜厚に関しては、多孔質樹脂が使用される用途に応じて適宜調整される。例えば、多孔質樹脂を蓄電素子用絶縁層として用いる場合は、10μm以上20μm以下であることが好ましい。
形成される多孔質樹脂は、特に限定されないが、液体や気体の良好な浸透性を確保する観点から、樹脂の硬化物の三次元分岐網目構造を骨格として有し、多孔質樹脂中の複数の孔が連続して連結している共連続構造(モノリス構造とも称する)を有することが好ましい。すなわち、多孔質樹脂は多数の孔を有しており、一つの孔がその周囲の他の孔と連結した連通性を有して三次元的に広がっていることが好ましい。孔同士が連通することで、液体や気体の浸み込みが十分に起き、物質分離や反応場といった機能を効率的に発現することができる。
なお、共連続構造を有することで得られる物性の一つとして透気度が挙げられる。多孔質樹脂の透気度は、例えば、JIS P8117に準拠して測定され、500秒/100mL以下である場合が好ましく、300秒/100mL以下である場合がより好ましい。このとき、透気度は、例えば、ガーレー式デンソメーター(東洋精機製作所製)等を用いて測定される。
形成される多孔質樹脂が有する孔の断面形状は、略円形状、略楕円形状、略多角形状等の様々な形状及び様々な大きさであって構わない。ここで、孔の大きさとは、断面形状における最も長い部分の長さを指すものとする。孔の大きさは、走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した断面写真から求めることができる。多孔質樹脂の有する孔の大きさに関しては、特に限定はされないが、液体や気体の浸透性の観点から0.01μm以上10μm以下であることが好ましい。また、多孔質樹脂の空隙率としては、30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。多孔質樹脂の有する孔の大きさ及び空隙率をこれらの範囲にする方法としては、特に限定されないが、例えば、液体組成物中における重合性化合物の含有量を上記の範囲に調整する方法、液体組成物中におけるポロジェンの含有量を上記の範囲に調整する方法、及び活性エネルギー線の照射条件を調整する方法等が挙げられる。
【0059】
<<樹脂構造体の用途>>
<蓄電素子用途又は発電素子用途>
上記の液体組成物を用いて形成される樹脂を骨格とする多孔質構造を有する樹脂構造体(多孔質樹脂)は、例えば、蓄電素子用又は発電素子用の絶縁層として用いることができる。これら用途として用いる場合には、例えば、電極基体上に予め形成された活物質層上へ液体組成物を付与することで絶縁層(セパレーター)を形成することが好ましい。
蓄電素子用又は発電素子用の絶縁層としては、例えば、所定の大きさの空孔や空隙率を有するフィルム状の多孔質絶縁層等を用いることが知られている。一方で、上記の液体組成物を用いた場合、重合性化合物の含有量、ポロジェンの含有量、活性エネルギー線の照射条件等を適宜調整することで空孔や空隙率を適宜変更することができ、蓄電素子及び発電素子の性能面における設計自由度を向上させることができる。また、上記の液体組成物は、多様な付与方法に展開可能であるため、例えば、インクジェット方式で付与することができ、蓄電素子及び発電素子の形状面における設計自由度を向上させることができる。
なお、絶縁層は、正極と負極を隔離し、かつ正極と負極との間のイオン伝導性を確保する部材である。また、本開示において絶縁層と表す場合、層状の形状に限られない。
なお、上記の液体組成物は、蓄電素子用又は発電素子用の絶縁層(第一の絶縁層)上に付与されることで、追加的に、多孔質樹脂層からなる絶縁層(第二の絶縁層)を形成することができる。第一の絶縁層上に第二の絶縁層を形成することで、絶縁層全体としての耐熱性、耐衝撃性、耐高温収縮性といった諸機能を追加又は向上させることができる。
【0060】
電極基体は導電性を有する基体であれば、特に制限はなく、一般に蓄電デバイスである2次電池、キャパシター、なかでもリチウムイオン2次電池に好適に用いることができる、アルミ箔、銅箔、ステンレス箔、チタニウム箔および、それらをエッチングして微細な穴を開けたエッチド箔や、リチウムイオンキャパシターに用いられる穴あき電極基体などが用いられる。また、燃料電池のような発電デバイスで用いられるカーボンペーパー繊維状の電極を不織または織状で平面にしたものや上記穴あき電極基体のうち微細な穴を有するものも使用できる。更に、太陽光デバイスの場合、上記電極に加えてガラスやプラスチックスなどの平面基体上に、インジウム・チタン系の酸化物や亜鉛酸化物のような、透明な半導体薄膜を形成したものや、導電性電極膜を薄く蒸着したものを用いることができる。
【0061】
活物質層は、粉体状の活性物質や触媒組成物を液体中に分散し、かかる液を電極基体上に塗布、固定、乾燥することによって形成されており、通常はスプレー、ディスペンサー、ダイコーターや引き上げ塗工を用いた印刷が用いられ、塗布後に乾燥して形成される。
【0062】
正極活物質は、アルカリ金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出できる材料であれば特に限定されない。典型的には、アルカリ金属含有遷移金属化合物を正極用活物質として使用できる。例えばリチウム含有遷移金属化合物として、コバルト、マンガン、ニッケル、クロム、鉄及びバナジウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素とリチウムとを含む複合酸化物が挙げられる。例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどのリチウム含有遷移金属酸化物、LiFePOなどのオリビン型リチウム塩、二硫化チタン、二硫化モリブデンなどのカルコゲン化合物、二酸化マンガンなどが挙げられる。リチウム含有遷移金属酸化物は、リチウムと遷移金属とを含む金属酸化物または該金属酸化物中の遷移金属の一部が異種元素によって置換された金属酸化物である。異種元素としては、例えばNa、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bなどが挙げられ、なかでもMn、Al、Co、NiおよびMgが好ましい。異種元素は1種でもよくまたは2種以上でもよい。これらの正極活物質は単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。ニッケル水素電池における上記活物質としては水酸化ニッケルなどが挙げられる。
【0063】
負極活物質は、アルカリ金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出できる材料であれば特に限定されない。典型的には、黒鉛型結晶構造を有するグラファイトを含む炭素材料を負極活物質として使用できる。そのような炭素材料として、天然黒鉛、球状又は繊維状の人造黒鉛、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)等が挙げられる。炭素材料以外の材料としては、チタン酸リチウムが挙げられる。また、リチウムイオン電池のエネルギー密度を高める観点から、シリコン、錫、シリコン合金、錫合金、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化錫等の高容量材料も負極活物質として好適に使用できる。
【0064】
ニッケル水素電池における上記活物質としては水素吸蔵合金としては、AB2系あるいはA2B系の水素吸蔵合金が例示される。
【0065】
正極または負極の結着剤には、例えばPVDF、PTFE、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースなどが使用可能である。また、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエンより選択された2種以上の材料の共重合体を用いてもよい。またこれらのうちから選択された2種以上を混合して用いてもよい。また電極に含ませる導電剤には、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウムなどの金属粉末類、酸化亜鉛やチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、フェニレン誘導体、グラフェン誘導体などの有機導電性材料などが用いられる。
【0066】
燃料電池での活物質は一般に、カソード電極やアノード電極の触媒として、白金、ルテニウムあるいは白金合金などの金属微粒子をカーボンなどの触媒担体に担持させたものが用いられる。触媒担体の表面に触媒粒子を担持させるには、例えば触媒担体を水中に懸濁させ、触媒粒子の前駆体(塩化白金酸、ジニトロジアミノ白金、塩化第二白金、塩化第一白金、ビスアセチルアセトナート白金、ジクロロジアンミン白金、ジクロロテトラミン白金、硫酸第二白金塩化ルテニウム酸、塩化イリジウム酸、塩化ロジウム酸、塩化第二鉄、塩化コバルト、塩化クロム、塩化金、硝酸銀、硝酸ロジウム、塩化パラジウム、硝酸ニッケル、硫酸鉄、塩化銅などの合金成分を含むもの)を添加し、懸濁液中に溶解させ、アルカリを加えて金属の水酸化物を生成させると共に、触媒担体表面に担持させた触媒担体を得る。かかる触媒担体を電極上に塗布し、水素雰囲気下などで還元させることで、表面に触媒粒子(活物質)が塗布された電極を得る。
【0067】
太陽電池等の場合、活物質は、酸化タングステン粉末や酸化チタン粉末のほかSnO、ZnO、ZrO、Nb、CeO、SiO、Alといった酸化物半導体層があげられ、半導体層には、色素が担持させられており、例えば、ルテニウム・トリス型の遷移金属錯体、ルテニウム-ビス型の遷移金属錯体、オスミウム-トリス型の遷移金属錯体、オスミウム-ビス型の遷移金属錯体、ルテニウム-シス-ジアクア-ビピリジル錯体、フタロシアニン及びポルフィリン、有機-無機のペロブスカイト結晶などの化合物を挙げることができる。
【0068】
<白色インク用途>
上記の液体組成物は、多孔質樹脂を形成させてからポロジェンを除去することで白色化するので、例えば、記録媒体上に付与する白色インクとして用いられることが好ましい。なお、本開示において白色インクとは、白色の画像を形成することができるインクであれば特に制限はなく、インク時に白色以外のもの(例えば、透明であるものや白色以外の色のもの)も含まれる。
【0069】
白色インクとしては、酸化チタン等の無機顔料を色材として含有することで白色を呈するものが一般に知られている。しかし、このような白色インクは、色材の比重が大きいために沈降物が生じやすく、保存安定性及び吐出安定性に劣る課題がある。その点、上記の液体組成物により構成される白色インクは、液体組成物以外の成分として顔料や染料等の白色の色材を含有しなくても白色を呈することができるため、保存安定性及び吐出安定性を向上させることができる。なお、本実施形態の白色インクは、白色の色材を含有してもよいが、実質的に白色の色材を含有しないことが好ましい。実質的に白色の色材を含有しない場合とは、白色の色材の含有量が、白色インクの質量に対して0.1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることが更に好ましく、検出限界以下であることがより更に好ましく、含有されていないことが特に好ましい。このように、白色インクが実質的に白色の色材を含有しないことで、白色インクにより形成される白色画像を軽量化することができ、例えば、航空機塗装用白色インク、自動車塗装用白色インク等として好適に用いることができる。
【0070】
また、白色インクとしては、複数種類の重合性化合物を含有し、硬化の際にこれらの重合体が相分離することにより白濁するものも知られている。しかし、このような白色インクは、重合体同士の相分離により白色を呈し、空気層により白色を呈するわけではないので白色度に劣る課題がある。この点、本実施形態の液体組成物を白色インクとして用いた場合、空気層としての空孔を有する多孔質樹脂により白色を呈するため、高い白色度を発揮することができる。なお、白色とは社会通念上「白」と呼称される色であり、白色度は、例えば、X-Rite939等の分光測色濃度計により明度(L)を測定することにより評価することができ、例えば、100%duty以上又は記録媒体の表面が十分に被覆される量で付与された場合に、明度(L)および色度(a、b)が、70≦L≦100、-4.5≦a≦2、-6≦b≦2.5の範囲を示すことが好ましい。
【0071】
また、本実施形態の白色インクは、記録媒体上に付与されると多孔質樹脂で構成される層を形成するため、その後付与される別のインク(色材を含有するインク等)の定着性を向上させる下地層(プライマー層)を作製するプライマーインクとして用いられてもよい。
一般に、記録媒体として、コート紙、ガラス基材、樹脂フィルム基材、金属基材等の低浸透性基材又は非浸透性基材を用いる場合、当該基材に対するインクの定着性が低下する課題がある。この点、本実施形態の白色インク(プライマーインク)を用いた場合、白色インク(プライマーインク)の低浸透性基材又は非浸透性基材に対する定着性が高いため、下地層上に後から付与される別のインクの定着性を向上させることができる。また、後から付与される別のインク(色材を含有するインク等)が、低浸透性基材又は非浸透性基材に用いるのが困難な浸透性のインク(水性インク等)であったとしても、多孔質樹脂中にインク成分を浸透拡散させつつ色材を多孔質樹脂表面に定着させることができる。
また、白色インク(プライマーインク)は白色の受容層を形成するため、記録媒体の色や透明性を隠蔽し、後から付与される別のインク(色材を含有するインク等)の画像濃度を向上させることもできる。
【0072】
<立体造形用途>
上記の液体組成物は、高さ方向の層厚を有する多孔質樹脂層を形成できるので、当該多孔質樹脂層を複数層積層することで立体造形物を造形することができる。一般に、立体造形においては、硬化収縮に起因する立体造形物のゆがみが課題としてある。この点、本実施形態の液体組成物を含む立体造形用組成物は、重合誘起相分離に伴って網目構造を有する多孔質体を形成するため、当該網目構造により重合時の内部応力が緩和され、硬化収縮による造形物のゆがみが抑制される。
【0073】
次に、立体造形物を造形する造形装置及び造形方法について図2を用いて説明する。図2は、マテリアルジェット方式の造形装置の一例を示す概略図である。図2の造形装置は、液体組成物をインクジェット方式等で吐出する吐出手段(付与手段の一例)と、吐出された液体組成物に活性エネルギー線を照射して硬化させる硬化手段(第一の照射手段及び第二の照射手段の一例)と、を有し、当該吐出手段による吐出及び当該硬化手段による硬化を順次繰り返すことにより立体造形物を造形する装置である。また、図2の造形装置で実現される造形方法は、液体組成物をインクジェット方式で吐出する吐出工程(吐出工程の一例)と、吐出された液体組成物に活性エネルギー線を照射して硬化させる硬化工程(第一の照射工程及び第二の照射工程の一例)と、を有し、当該吐出工程及び当該硬化工程を順次繰り返すことにより立体造形物を造形する方法である。
この造形装置及び造形方法について具体的に説明する。図2の造形装置39は、インクジェットヘッドを配列したヘッドユニット(AB方向に可動)を用いて、造形物用吐出ヘッドユニット30から第一の立体造形用組成物を、支持体用吐出ヘッドユニット31、32から第一の立体造形用組成物とは組成が異なる第二の立体造形用組成物を吐出し、隣接した紫外線照射手段33、34でこれら各立体造形用組成物を硬化しながら積層するものである。より具体的には、例えば、造形物支持基板37上に、第二の立体造形用組成物を支持体用吐出ヘッドユニット31、32から吐出し、活性エネルギー線を照射して固化させて溜部を有する第一の支持体層を形成した後、当該溜部に第一の立体造形用組成物を造形物用吐出ヘッドユニット30から吐出し、活性エネルギー線を照射して固化させて第一の造形物層を形成する工程を、積層回数に合わせて、上下方向に可動なステージ38を下げながら複数回繰り返すことで、支持体層と造形物層を積層して立体造形物35を製作する。その後、必要に応じて支持体積層部36は除去される。なお、図2では、造形物用吐出ヘッドユニット30は1つしか設けていないが、2つ以上設けることもできる。
【0074】
<担持体用途>
上記の液体組成物を機能性物質と混合して多孔質樹脂を形成させた場合、多孔質樹脂の表面に機能性物質が担持された担持体を作製することができる。ここで、多孔質樹脂の表面とは、多孔質樹脂の外部表面だけでなく外部と連通する内部表面も含む意味である。このように、外部と連通する空隙に機能性物質を担持させることができるので、機能性物質を担持可能な表面積が増加する。
【0075】
本実施形態の担持体形成用組成物を用いた場合、重合性化合物の含有量、ポロジェンの含有量、活性エネルギー線の照射条件等を適宜調整することで空孔や空隙率を変更することができ、担持体の性能面における設計自由度を向上させることができる。また、本実施形態の担持体形成用組成物は、多様な付与方法に展開可能であるため、例えば、インクジェット方式で付与することができ、担持体の形状面における設計自由度を向上させることができる。具体的には、平面だけでなく曲面に対しても担持体を均一に形成することができ、対象の形状に合わせて担持体を切削等して形状調整する手間も省略することができる。また、インクジェット方式で吐出することで液滴を形成し、飛翔中の液滴または基材上に付着した独立した液滴に対して活性エネルギー線を照射することで、粒子の形状を有する担持体を形成することもできる。
【0076】
機能性物質は、直接的又は間接的に所定の機能を発揮する物質であって、多孔質樹脂に担持される面積の増加に伴って当該機能も増加又は向上する物質であることが好ましく、担持される機能性物質が外部表面及び/又は外部と連通する内部表面に位置することで当該機能が発揮される物質であること(言い換えると、外部と連通しない内部表面に位置した場合に当該機能の発揮が抑制される物質)がより好ましい。また、機能性物質は、液体組成物に溶解する物質でも分散する物質でもよいが、分散する物質であることが好ましい。機能性物質の一例としては、特に制限されないが、光触媒、生理活性物質などが挙げられる。
【0077】
光触媒は、特定の波長域にある光(光触媒の価電子帯と導電帯の間のバンドギャップ以上のエネルギーを有する励起光)を照射されることにより光触媒活性を示す物質である。光触媒は、当該光触媒活性を示すことにより、抗菌作用、消臭・脱臭作用、揮発性有機化合物(VOC)等の有害物質分解作用等の種々の作用を発揮することができる。
【0078】
光触媒としては、例えば、アナターゼ型又はルチル型の酸化チタン(IV)(TiO)、酸化タングステン(III)(W)、酸化タングステン(IV)(WO)、酸化タングステン(VI)(WO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化鉄(III)(Fe)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化ビスマス(III)(Bi)、バナジン酸ビスマス(BiVO)、酸化スズ(II)(SnO)、酸化スズ(IV)(SnO)、酸化スズ(VI)(SnO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化セリウム(II)(CeO)、酸化セリウム(IV)(CeO)、チタン酸バリウム(BaTiO)、酸化インジウム(III)(In)、酸化銅(I)(CuO)、酸化銅(II)(CuO)、タンタル酸カリウム(KTaO)、ニオブ酸カリウム(KNbO)などの金属酸化物;硫化カドミウム(CdS)、硫化亜鉛(ZnS)、硫化インジウム(InS)などの金属硫化物;セレン酸カドミウム(CdSeO)、セレン化亜鉛(ZnSe)などの金属セレン化物;窒化ガリウム(GaN)などの金属窒化物などが挙げられるが、酸化チタン(IV)(TiO)、酸化スズ(IV)(SnO)、酸化タングステン(III)(W)、酸化タングステン(IV)(WO)、及び酸化タングステン(VI)(WO)から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、アナターゼ型の酸化チタン(IV)(TiO)を含むことがより好ましい。
【0079】
生理活性物質は、生体に生理的効果を発揮させるために用いられる有効成分であり、例えば、医薬化合物、食品化合物、化粧料化合物などを含む低分子化合物の他、抗体、酵素等のタンパク質及びDNA、RNA等の核酸などの生体高分子を含む高分子化合物などが挙げられる。また、「生理的効果」とは、生理活性物質が目的部位で生理活性を発揮することにより生じる効果であり、例えば、生体、組織、細胞、タンパク質、DNA、RNA等に量的及び/又は質的な変化、影響をもたらすことである。また、「生理活性」とは、生理活性物質が目的部位(例えば、標的組織等)に作用して変化、影響を与えることである。目的部位としては、例えば、細胞表面又は細胞内に存在する受容体等であることが好ましい。この場合は、生理活性物質が特定の受容体に結合する生理活性によって細胞にシグナルが伝わり、結果として生理的効果が発揮される。生理活性物質は、生体内の酵素により成熟型に変換された上で特定の受容体に結合し、生理的効果が発揮される物質であってもよい。この場合、本願では、成熟型に変換される前の物質も生理活性物質に含まれるものとする。なお、生理活性物質は、生物(ヒト又はヒト以外の生物)が作り出す物質であってもよいし、人工的に合成された物質であってもよい。このような生理活性物質を含有する液体組成物を用いて粒子状の担持体を形成した場合、所望の生理的効果を発揮するために、生理活性物質を目的部位に送達する粒子、すなわちドラッグデリバリーシステム(DDS)に用いられる粒子や、長期的に薬剤を放出し続ける徐放性粒子として用いることができる。また、生理活性物質を含有する液体組成物を用いてシート状の担持体を形成した場合、長期的に薬剤を放出し続ける徐放性シートとして用いることができる。
【0080】
<表面改質用途>
上記の液体組成物により形成される多孔質樹脂の外部表面は、多孔質に由来する微細な凹凸が形成されており、これにより濡れ性を制御することができる。具体的には、多孔質樹脂を構成する樹脂が親水性である場合、多孔質樹脂の外部表面に、当該樹脂により形成される平面状表面における親水性より高い親水性を機能付与することができる。また、多孔質樹脂を構成する樹脂が撥水性である場合、多孔質樹脂の外部表面に、当該樹脂により形成される平面状表面における撥水性より高い撥水性を機能付与することができる。従って、対象物表面に対し、本実施形態の液体組成物を含む表面改質液を付与することで表面改質層を形成させ、対象物表面の濡れ性を容易に改変することができる。
【0081】
また、本実施形態の液体組成物を用いた場合、重合性化合物の含有量、ポロジェンの含有量、活性エネルギー線の照射条件等を適宜調整することで多孔質の外部表面における凹凸(空孔や空隙率に由来する凹凸)を変更することができ、表面改質層の性能面における設計自由度を向上させることができる。また、本実施形態の液体組成物は、多様な付与方法に展開可能であるため、例えば、インクジェット方式で付与することができ、表面改質層の形状面における設計自由度を向上させることができる。具体的には、平面だけでなく曲面に対しても表面改質層を均一に形成することができる。
【0082】
<分離層用途又は反応層用途>
上記の液体組成物により形成される多孔質樹脂が液体や気体などの流体を透過可能である場合、当該多孔質樹脂を流体の流路として用いることができる。多孔質樹脂を流体の流路として用いることができる場合、多孔質樹脂は、流体から所定の物質を分離する分離層としての用途や流体に微小な反応場を提供する反応層(マイクロリアクター)としての用途等に用いることができる。言い換えると、本実施形態の液体組成物は、分離層形成用組成物又は反応層形成用組成物に含まれることが好ましい。これら用途に用いられる多孔質樹脂は、多孔質樹脂内部において流体を均一かつ効率的に透過可能であることが好ましい。この点、本実施形態の液体組成物により形成される多孔質樹脂は、多孔質が相分離により形成されることから、空隙同士が連続して接続されており、流体を均一かつ効率的に透過可能な構造を有している。
なお、多孔質樹脂が液体や気体などの流体を透過可能である場合とは、特に限定されないが、例えば、JIS P8117に準拠して測定される透気度が500秒/100mL以下である場合が好ましく、300秒/100mL以下である場合がより好ましい。このとき、透気度は、例えば、ガーレー式デンソメーター(東洋精機製作所製)等を用いて測定される。
なお、分離とは、流体である混合物に含まれる所定の物質を除去または濃縮できることをいう。また、除去は、流体である混合物から所定の物質が完全に取り除かれる場合に限られず、一部量が取り除かれる場合であってもよい。
なお、反応場とは、流体に含まれる所定の物質が通過することで所定の化学反応が進行する場所をいう。
【0083】
分離層用途に用いる場合、上記の液体組成物は、流体に含まれる所定の物質と相互作用可能な官能基を有する重合性化合物を含有することが好ましい。当該液体組成物を用いて多孔質樹脂を形成すると、多孔質樹脂の表面(内部表面及び外部表面)に所定の物質と相互作用可能な官能基が配され、効果的に所定の物質の分離を行うことができる。流体に含まれる所定の物質と相互作用可能な官能基を有する重合性化合物は、液体組成物に含まれる重合性化合物の一部であってもよく、全部であってもよい。なお、本願において所定の物質と相互作用可能な官能基とは、当該官能基自体が所定の物質と相互作用可能である場合に加え、追加的にグラフト重合がなされることにより所定の物質と相互作用可能となる場合も含む。
【0084】
反応層用途に用いる場合、上記の液体組成物は、流体に反応場を提供する官能基を有する重合性化合物を含有することが好ましい。当該液体組成物を用いて多孔質樹脂を形成すると、多孔質樹脂の表面(内部表面及び外部表面)に流体に反応場を提供する官能基が配され、効果的に反応場を提供することができる。流体に反応場を提供する官能基を有する重合性化合物は、液体組成物に含まれる重合性化合物の一部であってもよく、全部であってもよい。なお、本願において流体に反応場を提供する官能基とは、当該官能基自体が反応場を提供可能である場合に加え、追加的にグラフト重合がなされることにより反応場を提供可能となる場合も含む。
【0085】
上記分離層及び反応層は、例えば、ガラス管等の流体流入部及び流体流出部を形成可能な容器に液体組成物を充填して硬化させることで形成する。また、液体組成物をインクジェット方式などで基材に対して印刷することにより、多孔質樹脂で形成される所望の形状の流路を有する分離層及び反応層を作製(描画)することもできる。分離層及び反応層の流路が印刷可能であることにより、目的に応じて流路を適宜変更可能な分離層及び反応層を提供することができる。
【0086】
また、本実施形態の分離層形成用組成物及び反応層形成用組成物を用いた場合、重合性化合物の含有量、ポロジェンの含有量、活性エネルギー線の照射条件等を適宜調整することで多孔質樹脂の空孔や空隙率を変更することができ、分離層及び反応層の性能面における設計自由度を向上させることができる。
【実施例0087】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0088】
<液体組成物の調整>
以下に示す割合で材料を混合し液体組成物を調製した。
・トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(ダイセル・オルネクス株式会社):29.0質量%
・テトラデカン(関東化学工業株式会社製):70.0質量%
・Irgacure184(BASF製):1.0質量%
【0089】
調整した液体組成物において、撹拌しながら波長550nmにおける光の透過率を上記の方法で測定したところ30%以上であった。また、調整した液体組成物を用いて作製したヘイズ測定用素子におけるヘイズ値の上昇率を上記の方法で測定したところ1.0%以上であった。
また、調整した液体組成物の25℃における粘度を上記の方法で測定したところ1.0mPa・s以上30.0mPa・s以下であった。
【0090】
<樹脂構造体の製造>
(実施例1)
-付与工程-
まず、調整した液体組成物を、図1に示す樹脂構造体の製造装置に充填し、印刷工程部10において、搬送される印刷基材4上に印刷装置1aから液体組成物を付与して、後述する除去工程後に形成される多孔質樹脂の厚みが20μmとなるように液体組成物の連続膜を形成した。印刷装置1aとしては、インクジェットヘッド(GEN5ヘッド、リコープリンティングシステムズ株式会社製)を用いた。また、印刷基材4としては、厚み8μmのITOがスパッタされたガラス基材と、下記の方法で製造された活物質層が積層された電極基体と、を用いた。
なお、インクジェットヘッドからの液体組成物の吐出は安定しており、不吐出ノズルや吐出曲がり等は観察されなかった。
【0091】
--活物質層が積層された電極基体の製造--
活物質であるグラファイト粒子(平均粒径10μm)97.0質量部と、増粘剤であるセルロース1.0質量部と、バインダーであるアクリル樹脂2.0質量部と、を水中で均一に分散させて活物質分散体を得た。この分散体を電極基体である厚み8μmの銅箔に塗布し、得られた塗膜を120℃で10分乾燥後、プレスし、厚み60μmの活物質層が積層された電極基体を得た。
【0092】
-第一の照射工程-
次に、重合不活性気体循環装置2bにより窒素が充填されることで酸素濃度が0%になっている重合工程部20の内部に、付与工程後の印刷基材4を搬送し、光照射装置2aから30mW/cmの照射強度で3秒UV照射を行った。光照射装置2aはUV-LEDであり、ピーク波長は365nmであった。
なお、調整した液体組成物を用いて上記の方法で構造決定時間を算出したところ1.2秒であり、実施例1においては、第一の活性エネルギー線を照射する時間(3秒)は構造決定時間(1.2秒)以上であった。
【0093】
-第二の照射工程-
次に、重合不活性気体循環装置2dにより窒素が充填されることで酸素濃度が0%になっている重合工程部21の内部に、第一の照射工程後の印刷基材4を搬送し、光照射装置2cから400mW/cmの照射強度で3秒UV照射を行った。光照射装置2cはUV-LEDであり、ピーク波長は365nmであった。
【0094】
-除去工程-
更に、加熱装置3aにより120℃に加熱された加熱工程部30の内部に、第二の照射工程後の印刷基材4を搬送し、残存する溶媒等を大気中において除去し、共連続構造を有する白色の多孔質樹脂を製造した。
【0095】
(実施例2)
実施例1において、第一の照射工程におけるUV照射時間を5秒に変更し、第二の照射工程におけるUV照射時間を1秒に変更した以外は実施例1と同様にして多孔質樹脂を製造した。
【0096】
(実施例3)
実施例1において、第一の照射工程におけるUV照射時間を1秒に変更し、第二の照射工程におけるUV照射時間を5秒に変更した以外は実施例1と同様にして多孔質樹脂を製造した。
【0097】
(比較例1)
実施例1において、第一の照射工程におけるUV照射時間を6秒に変更し、第二の照射工程を行わなかった以外は実施例1と同様にして多孔質樹脂を製造した。
【0098】
(比較例2)
実施例1において、第一の照射工程を行わず、第二の照射工程におけるUV照射時間を6秒に変更した以外は実施例1と同様にして多孔質樹脂を製造した。
【0099】
次に、製造した多孔質樹脂における空隙率の評価及び重合率の評価を下記方法により行った。評価結果を表1に示す。
【0100】
[空隙率]
活物質層が積層された電極基体上に形成された多孔質樹脂に不飽和脂肪酸(市販のバター)を充填し、オスミウム染色を施した後で、FIBで内部の断面構造を切り出し、SEMを用いて多孔質樹脂中の空隙率を測定した。多孔質樹脂の空隙率の測定結果を次の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
a+:空隙率が50%以上である
a:空隙率が30%以上50%未満である
b:空隙率が30%未満である
【0101】
[重合率]
ITOがスパッタされたガラス基材上に形成された多孔質樹脂における重合度を赤外分光法により測定した。重合率は、=CH面外変角振動に対応する820~800cm-1のピーク値を読み取り、未照射時の数値と比較することで算出した。多孔質樹脂の重合率の測定結果を次の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
a:重合率が90%以上である
b:重合率が90%未満である
【0102】
【表1】
【0103】
比較例1の結果より、第二の照射工程が実行されない場合、重合率の高い多孔質樹脂を製造することが困難であることが分かる。
比較例2の結果より、第一の照射工程が実行されない場合、空隙率の高い多孔質樹脂を製造することが困難であることが分かる。
【符号の説明】
【0104】
1a:印刷装置
1b:収容容器
1c:供給チューブ
2a:光照射装置
2b:重合不活性気体循環装置
2c:光照射装置
2d:重合不活性気体循環装置
3a:加熱装置
4:印刷基材
5:搬送部
6:多孔質樹脂
7:液体組成物
10:印刷工程部
20:重合工程部
21:重合工程部
30:加熱工程部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0105】
【特許文献1】特許第4426157号
図1
図2