(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046093
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池パック、リチウムイオン電池パックの制御方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20230327BHJP
H02J 7/02 20160101ALI20230327BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H02J7/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021154797
(22)【出願日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 健士
(72)【発明者】
【氏名】本蔵 耕平
(72)【発明者】
【氏名】川治 純
(72)【発明者】
【氏名】平澤 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】石丸 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小西 宏明
【テーマコード(参考)】
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503BA03
5G503BB01
5G503CA08
5G503HA01
5H030AA10
5H030AS08
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】複数の電池の間での容量の均一化により、リチウムイオン電池パックの長寿命化を図る。
【解決手段】このリチウムイオン電池パックは、直列接続される複数の電池と、複数の電池の各々の容量を回復させる回復回路と、回復回路を制御する制御回路とを備える。制御回路は、複数の電池の容量回復動作を行った場合における複数の電池の各々について予測される容量の回復の度合に関する回復予測値を、複数の電池の各々について判定するステップと、複数の回復予測値のうち最も小さい回復予測値に従い、複数の電池について共通の目標容量値を設定するステップと、目標容量値に従い、容量回復動作を実行するステップとを実行可能に構成される。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列接続される複数の電池と、
前記複数の電池の各々の容量を回復させる回復回路と、
前記回復回路を制御する制御回路と
を備え、
前記制御回路は、
前記複数の電池の容量回復動作を行った場合における前記複数の電池の各々について予測される容量の回復の度合に関する回復予測値を、前記複数の電池の各々について判定するステップと、
複数の前記回復予測値のうち最も小さい回復予測値に従い、前記複数の電池について共通の目標容量値を設定するステップと、
前記目標容量値に従い、容量回復動作を実行するステップと
を実行可能に構成された、リチウムイオン電池パック。
【請求項2】
前記制御回路は、
前記目標容量値が、前記複数の電池のうちのいずれか1つの電池の現在の容量よりも小さい場合、前記複数の電池のいずれか1つの電池について、前記容量を意図的に低下させる劣化動作を実行するステップを実行可能に構成された、請求項1に記載のリチウムイオン電池パック。
【請求項3】
前記制御回路は、
前記目標容量値が、前記複数の電池のうちのいずれか1つの電池の現在の容量よりも小さい場合、前記容量回復動作を中断する判定を行う、請求項1に記載のリチウムイオン電池パック。
【請求項4】
前記制御回路は、前記電池の第三極端子から放電される電荷量を演算し、その演算結果から、前記第三極端子におけるリチウムの量が所定値以下になったと判断されるときに、前記容量回復動作を中止する判定を行う、請求項3に記載のリチウムイオン電池パック。
【請求項5】
前記制御回路は、外部のサーバと通信網を介して接続され、
前記制御回路は、前記サーバで演算された回復予測値に従い、前記サーバから前記目標容量値を受領するように構成された、請求項1に記載のリチウムイオン電池パック。
【請求項6】
直列接続される複数の電池を備えたリチウムイオン電池パックの制御方法であって、
前記複数の電池の容量回復動作を行った場合における前記複数の電池の各々について予測される容量の回復の度合に関する回復予測値を、前記複数の電池の各々について判定するステップと、
複数の前記回復予測値のうち最も小さい回復予測値に従い、前記複数の電池について共通の目標容量値を設定するステップと、
前記目標容量値に従い、容量回復動作を実行するステップと
を含む、リチウムイオン電池パックの制御方法。
【請求項7】
前記目標容量値が、前記複数の電池のうちのいずれか1つの電池の現在の容量よりも小さい場合、前記複数の電池のいずれか1つの電池について、前記容量を意図的に低下させる劣化動作を実行するステップを更に含む、請求項6に記載のリチウムイオン電池パックの制御方法。
【請求項8】
前記目標容量値が、前記複数の電池のうちのいずれか1つの電池の現在の容量よりも小さい場合、前記容量回復動作を中断する判定を行う、請求項6に記載のリチウムイオン電池パックの制御方法。
【請求項9】
前記電池の第三極端子から放電される電荷量を演算し、その演算結果から、前記第三極端子におけるリチウムの量が所定値以下になったと判断されるときに、前記容量回復動作を中止する判定を行う、請求項8に記載のリチウムイオン電池パックの制御方法。
【請求項10】
直列接続される複数の電池と、
前記複数の電池の各々の容量を回復させる回復回路と、
前記回復回路を制御する制御回路と
を備え、
前記制御回路は、容量回復動作を開始させ、複数の電池のうち一つの電池の回復が上限に達したとき、該電池の容量回復動作を停止させ、残りの電池の容量で該電池の容量以下のものについては、残りの電池を該電池の容量になるまで容量回復動作を続けさせる、リチウムイオン電池パック。
【請求項11】
請求項10において、容量回復動作を停止した電池の容量を超える電池については容量回復をさせない、リチウムイオン電池パック。
【請求項12】
直列接続される複数の電池と、
前記複数の電池の各々の容量を回復させる回復回路と、
前記回復回路を制御する制御回路と
を備え、
始めに電池の容量の一番小さい電池の回復を開始させ、該電池の容量が2番目に容量の小さい電池の容量に到達した場合には、該電池のみならず2番目に容量の小さい電池の容量の回復動作を開始させ、該電池と2番目に容量の小さい電池の容量が3番目に容量の小さい電池の容量に到達したときには、該電池、2番目に容量の小さい電池のみならず、3番目に容量の小さい電池の容量の回復動作を開始させる動作を全ての電池の回復動作を開始させるまで繰り返し、回復中、いずれかの電池が容量回復の上限に達した場合、回復動作を終了させる、リチウムイオン電池パック。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか1項において、容量回復動作は一回で遂行するか、または複数回に分ける、リチウムイオン電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池パック、及びリチウムイオン電池パックの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池を直列接続して構成されるリチウムイオン電池パックが、電気自動車の電源等として知られている。リチウムイオン電池パック内に搭載される複数の電池(セル)の各々は、内部に含まれる回復回路により、その容量を回復することが可能に構成されている。特許文献1は、リチウムイオン電池の容量回復のための方法を開示している。
【0003】
しかしながら、リチウムイオン電池パック内の各電池の製造ばらつきや、繰り返し使用することによる各セルの劣化の進行度合の違い等から、各電池の容量(Ah)にバラつきが生じることがある。すなわち、各セルの放電が進み、容量回復動作を行って各セルを最大容量まで容量を回復させたとしても、複数のセルの間では容量がばらつくことが生じ得る。リチウムイオン電池パック全体としては、最も容量(Ah)の低いセルのサイクル劣化に伴う劣化が進み、結果として電池パックとしての寿命が短くなることもあり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、複数の電池の間での容量の均一化により、リチウムイオン電池パックの長寿命化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係るリチウムイオン電池パックは、直列接続される複数の電池と、前記複数の電池の各々の容量を回復させる回復回路と、前記回復回路を制御する制御回路とを備える。前記制御回路は、前記複数の電池の容量回復動作を行った場合における前記複数の電池の各々について予測される容量の回復の度合に関する回復予測値を、前記複数の電池の各々について判定するステップと、複数の前記回復予測値のうち最も小さい回復予測値に従い、前記複数の電池について共通の目標容量値を設定するステップと、前記目標容量値に従い、容量回復動作を実行するステップとを実行可能に構成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、複数の電池の間での容量の均一化により、リチウムイオン電池パックの長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施の形態に係るリチウムイオン電池パックのシステムの全体の構成を説明する概略図である。
【
図2A】第1の実施の形態のリチウムイオン電池パック101における容量回復動作の手順を説明するフローチャートである。
【
図2B】目標容量値SOHQ_tgの決定の方法について説明する説明図である。
【
図3】回復回路103の具体的な構成例を説明する概略図である。
【
図4】電池102の現在の容量SOHQ(j)、目標容量値SOHQ_tg、更には目標容量値SOHQ_tgを得るための通電電荷量Q(j)を計算する方法を説明する概略図である。
【
図5】第2の実施の形態のリチウムイオン電池パック101における容量回復動作、及びセル劣化動作の手順を説明するフローチャートである。
【
図6】第2の実施の形態の動作を説明する概略図である。
【
図7】第2の実施の形態の、セル劣化動作を実行可能な回復回路103の構成の一例を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った実施形態と実装例を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではない。
【0010】
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0011】
[第1の実施の形態]
図1を参照して、第1の実施の形態に係るリチウムイオン電池パックのシステムの全体の構成を説明する。
図1において、リチウムイオン電池パック101は、複数の回復機能付き電池102(電池1、電池2、…)を直列接続させた構成を有している。リチウムイオン電池パック101は、電池102の他、複数の回復回路103、バッテリ管理ユニット(BMU:Battery Management Unit)104、及び電流計107から構成される。回復機能付き電池102は、リチウムイオン電池であり、正極端子108と、負極端子110と、第三極端子109(容量回復端子)を備えている。後述するように、正極端子108又は負極端子110と第三極端子109との間に電流を流すことにより、リチウムを移動させ、電池の容量を回復させたり、逆に劣化させたりすることが可能である。隣接する2つの電池102の正極端子108と負極端子110とが接続端子を介して接続されることにより、複数の電池102が直列接続される。電流計107は、これら直列接続された複数の電池102の電流経路に接続され、その測定結果をBMU104に送信する。
【0012】
BMU104(制御回路)は、通信回線106を介して上位のECU(Electric Control Unit)105と通信する。またBMU104は、電流計107で計測した電流、各セルの電圧に従い、上位のECU105から回復指令を受領することにより、回復回路103のスイッチを切り替えて回復機能付き電池102の容量を回復させる。各電池102の容量回復動作については後述する。詳しくは後述するが、BMU104は、複数の電池102のうち、最も容量の回復予測値が低い電池に合わせて目標回復値を設定し、各電池102の容量回復動作を制御する。
【0013】
次に、
図2Aのフローチャートを参照して、第1の実施の形態のリチウムイオン電池パック101における容量回復動作の手順を説明する。この手順は、BMU104の図示しない記憶部内に格納されたコンピュータプログラムに従って実行される。
【0014】
初めに、ステップS21にて、上位のECU105からの回復指令を待つ。回復指令が受領されたら、ステップS22に移行する。ステップS22では、BMU104が、電池102(電池1、2、・・・、j、…)の各々の現在の容量SOHQ(j)(Ah)を計算する。電池jの現状容量SOHQ(j)は、各電池102において監視された充放電電流の積分値と、ある時点での各セルの充電率(SOC:state of charge)との関係により計算されてもよいし、その他の方法によって計算されてもよい。
【0015】
次にステップS23にて、回復回路103による容量回復動作により、最大でどの程度まで各電池102の容量が回復すると予測されるのかを示す回復予測値SOHQ_R(j)を計算する。
【0016】
次に、ステップS24にて、リチウムイオン電池パック101の全体としての目標容量値SOHQ_tgを決定する。目標容量値SOHQ_tgは、リチウムイオン電池パック1に含まれる複数の電池102に対し共通に設定される容量回復の目標値である。換言すれば、回復予測値SOHQ_R(j)は複数の電池102の間でバラつきがあるところ、目標容量値SOHQ_tgは、複数の電池102に対し1つの値に設定される。すなわち、目標容量値SOHQ_tgは、複数の電池102毎に個別に設定されるのではなく、一のリチウムイオン電池パック101について同一の値に設定される。目標容量値SOHQ_tgは、この第1の実施の形態では、複数の電池102の回復予測値SOHQ_R(j)の最小値を上限として設定され得る。このような目標容量値SOHQ_tgが設定されることにより、複数の電池102の容量を均一にすることが可能になる。
【0017】
目標容量値SOHQ_tgは、回復予測値SOHQ_R(j)の最小値SOHQ_R(j)minに一致させてもよいし、現在容量SOHQ(j)の最大値SOHQ(j)maxに一致させてもよい。目標容量値SOHQ_tgは、SOHQ(j)max≦SOHQ_tg≦SOHQ_R(j)minの範囲で決定することができる(
図2B参照)。
【0018】
ステップS24で目標容量値SOHQ_tgが決定されると、最後に、ステップS25にて、各電池102の容量が目標容量値SOHQ_tgに達するまで容量回復動作を行う旨の指令(容量回復指令)がBMU104から出力され、容量回復動作を実行される。
【0019】
次に回復指令に従って動作する回復回路103の具体的な構成例を、
図3を参照して説明する。
図3の回復回路103は、回復機能付き電池102の正極端子108と第三極端子109の間に、放電用スイッチ135と抵抗136とを直列に接続して構成され得る。そして放電用スイッチ135は、BMU104からの回復指令に応答してOFFからONに切り替わる。BMU104は、正極端子108、第三極端子109、及び負極端子110の電圧を計測するとともに、電池102に流れる電流を電流計107で計測し、回復動作を監視する。
【0020】
BMU104は、正極端子108の電圧V
t1、第三極端子109の電圧V
t2を検出し、Q(j)=∫{((V
t1-V
t2)/(R+r
0))}dtが所定値を超えるか否かを判定し、所定値を超えるまで放電用スイッチ135をONのまま維持する。ここで、Q(j)は、電池102(j)において、正極端子108から第三極端子109に向けて流れる電荷量であり、Rは抵抗136の抵抗値を示し、r
0は放電用スイッチ135の抵抗値を示す。ただし、この判定において、V
t1>V
t2の条件が維持されているものとする。
図3の放電用スイッチ135をONにする動作は、
図2AのステップS25において回復指令が出た後において実行される。
【0021】
次に、
図4を参照して、各電池102の現在の容量SOHQ(j)を計算する方法と、目標容量値SOHQ_tgを計算する方法の一例を説明する。ここでは、BMU104が保持する各電池102の開放電圧OCVと放電量qとの関係を示す実測データから、現在の容量SOHQ(j)、目標容量値SOHQ_tgを計算する方法を説明する。
【0022】
図4のグラフは、横軸が満充電状態からの電池102の放電電荷量q[Ah]を表し、縦軸は各種の電圧[V]を示している。また、グラフ中のプロットデータ41は、過去における電池102の開放電圧OCVの実測データを示している。ここでの実測データとしてのプロットデータ41は、直近の回復動作から現在までの開放電圧OCVの実測データである。リチウムイオン電池パック101が新品の場合には、工場出荷の段階では、標準データが実測データに代えて格納されている。
【0023】
また、グラフ42は、電池102の正極端子108の電位を表す曲線であり、グラフ43は、電池102の負極端子110の電位を表す曲線である。更に、グラフ44は、グラフ42と43を減算して得られる、電池102の正極端子108と負極端子110の間の開放電圧OCVと放電電荷量qとの関係を示すOCV関数曲線である。ここでの開放電圧OCVは、電流が停止してから10分以上経過した場合における開放電圧を意味し、放電電荷量qは、そのときの放電電荷の大きさを示している。
【0024】
BMU104は、グラフ42と43の標準曲線データ(正極電位関数、負極電位関数)を予め保持している。BMU104は、これらの標準曲線を、拡大、縮小、又は平行移動して、グラフ44がプロットデータ41と一致するようにする。そして、グラフ44とプロットデータ41とが略一致した際の拡大、縮小、平行移動のパラメータに従い、現在の容量SOHQ(j)、目標容量値SOHQ_tg、更には目標容量値SOHQ_tgを得るための通電電荷量Q(j)を計算する。
【0025】
この計算方法を、数式に従って具体的に説明する。
図4のOCV関数曲線OCV(q)は、単位質量当たりの放電量x[Ah/g]における、正極端子108の電位を表す正極電位関数P(x)、単位質量当たりの放電量x[Ah/g]における、負極端子110の電位を表す負極電位関数N(x)により、以下の[数1]により表される。
【0026】
[数1]
OCV(q)=P(Sp+q/Mp)-N(Sn+q/Mn)
【0027】
ただし、Spは、充電率SOC=100%時における正極の放電位置[Ah/g]を示し、Snは、充電率SOC=100%時における負極の放電位置[Ah/g]を示し、Mpは正極質量を示し、Mnは負極質量を示している。
【0028】
このようにして求めたOCV関数曲線OCV(q)は[数1]で表されるものとして、Sp、Sn、Mp、Mnが求められる。BMU104は、このパラメータSp、Sn、Mp、Mnを調整して、グラフ44すなわちOCV関数曲線がプロットデータ41と一致するようにする。Mpを調整することは、グラフ42を拡大縮小させることに相当する。また、Spの値を調整することはグラフ42を平行移動させることに相当する。Mnの値を調整することは、グラフ43を拡大縮小させることに相当する。Snの値を調整することは、グラフ43を平行移動させることに相当する。非線形最小二乗法により、Sp、Sn、Mp、Mnを求めることもできる。
【0029】
また、BMU104は、充電率SOC=0%の時の開放電圧OCV(0)、充電率SOC=100%の時の開放電圧OCV(100)の値を保持している。この場合、下記[数2]が成立する。
【0030】
[数2]
OCV(100)=P(Sp)-N(Sn)
OCV(0)=P(Sp+q_max/Mp)-N(Sn+q_max/Mn)
【0031】
Sp、Sn、Mp、Mnが[数1]から求められているので、[数2]の第2式により、現状の電池102の容量q_maxを求めることができる。この容量q_maxが前述のSOHQ(j)に対応する。
図4では、OCV(0)が2.75Vとするとq=120Ah(
図4の45)の点がq_maxとなる。
【0032】
次に、正極端子108と第三極端子109との間で放電して、正極端子108のグラフ42がQ×ηだけずれるものとすると(ηは効率を示し、回復動作する際の充電率SOCの関数として予めBMU104に記憶される)、次の[数3]が成立する。
【0033】
[数3]
OCV(100)=P(Sp-(q100-Qη)/Mp)-N(Sn-q100)/Mn)
OCV(0)=P(Sp-(q0-Qη)/Mp)-N((Sn-q0)/Mn)
q0:SOC0%時の放電量
q100:SOC100%時の放電量
【0034】
SOC100%時の正極端子108、負極端子110の放電開始点(OCV(100)となるqの値)、及び終了点(OCV(0)となるqの値)が回復動作によりずれるため、q0、q100のパラメータを追加した。[数3]でQηが与えられるとすると、q100とq0を求めることができる。
【0035】
容量回復動作完了後の容量はq
100-q
0となる。このため、Qを0から少しずつ値を変えてq
100とq
0を求め、q
100-q
0の最大値を求めてもよい。または、
図4の正極端子108の電位のグラフ42の右端のq(
図4では140Ah)と負極端子110の電位のグラフ43の右端のq(
図4では125Ah)の差である、15Ahとしてもよい。この値が上述の回復予測値SOHQ_R(j)となる。またq100-q0の最大を与えるQまたは正極電位の右端と負極電位の右端の差をもって、前述のQ(j)とすることができる。なお、Q(j)は電池102の各々について定められBMU104に予め保持された値QM以下の値とされる。SOHQ(j)と目標容量値SOHQ_tgからQ(j)が求められる。電荷qを正極端子108から第三極端子109に向けて放電させると、正極端子108の電位>第三極端子109の電位であるため、リチウムは第三極端子109から正極端子108に向けて移動するので、
図4の負極端子110の電位のグラフ43は図中で右方向に移動する。
【0036】
なお、上記の方法は、「本蔵耕平: リチウムイオン電池の劣化予測に向けた放電曲線解析の数理モデル構築、九州大学博士論文2014」に開示の方法により置き換えられてもよい。即ちOCV関数曲線の微分値のピークと、負極端子110の電位のグラフ43の微分のピークを合わせるように幾何学的に正極と負極をマッチングする方法である。
【0037】
以上説明したように、この第1の実施の形態のリチウムイオン電池パック101によれば、複数の電池102の容量回復動作を行った場合における複数の電池102の各々について予測された回復予測値SOHQ_R(j)を、複数の電池102の各々について判定し、その複数の回復予測値のうち最も小さい回復予測値に従い、複数の電池102について共通の目標容量値SOHQ_tgを設定する。これにより、容量回復動作が実行されて、各電池102の容量が揃うこととなり、サイクル劣化に対しての各電池の劣化が同等になり、電池パックの寿命を延ばすことができる。
【0038】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態に係るリチウムイオン電池パック101を、
図5等を参照して説明する。第2の実施の形態のリチウムイオン電池パック101の全体構成は、第1の実施の形態(
図1)と略同一で良いので、以下では重複する説明は省略する。ただし、この第2の実施の形態は、回復回路103が、複数の電池102のうちの一部を意図的に劣化させるセル劣化動作を実行するための構成を有しており、この点において第1の実施の形態と異なっている。
【0039】
次に、
図5のフローチャートを参照して、第2の実施の形態のリチウムイオン電池パック101における容量回復動作、及びセル劣化動作の手順を説明する。ステップS21~S24の動作は第1の実施の形態と同様である。ステップS24で目標容量値SOHQ_tgが決定された後、ステップS26では、決定された目標容量値SOHQ_tgが、複数の電池102の現在の容量SOHQ(j)の最大値SOHQ(j)max以上であり、且つ回復予測値SOHQ_R(j)の最小値SOHQ_R(j)min以下であるか否かが判定される。Yesであれば、第1の実施の形態と同様にステップS25に移行して、容量回復動作が実行される。Noであれば、ステップS27に移行して、一部の電池を意図的に劣化させるセル劣化動作が、BMU104からの命令の下、回復回路103により実行される。
【0040】
なお、ステップS25では、セル劣化動作に代えて、セルの容量回復が不可能であるために、容量回復動作を中断する旨の通知及び処理(中断処理)がなされてもよい。この回復不可能との判断がなされる場合は2通りある。一つは第三極端子109のリチウムは十分にあるが、現状では正極端子108から第三極端子109への放電による容量回復ができない場合である。もう一つは、第三極端子109に存在するリチウムが枯渇し、回復させることができない場合である。この両者のいずれであるかをBMU104において判断して上位ECU105へフラグを送信する。
【0041】
前者の場合には、
図4で説明した放電曲線解析により判定する。そして今回は回復できない(回復時期ではない)、しかし回復能力は失われていない旨のフラグを生成する。後者の場合には、予め工場出荷時に第三極端子109に存在するリチウムの量QMをBMU104に記憶させ、毎回の容量回復動作で第三極端子109から放電した電荷量Qを演算する。電荷量Qから、リチウムの量QMが所定値以下になったときに回復不能と判定させ、回復不能フラグを上げる。
【0042】
図6に示すように、第1の実施の形態と同じ要領で決定された目標容量値SOHQ_tgが、複数の電池102のうちの1つ(電池1)の現在の容量SOHQ(1)を下回っている場合、容量回復動作を行ったとしても、複数の電池102の間に大きな容量差が生じることとなる。このような状況でリチウムイオン電池パック101の使用を繰り返すことは、電池の寿命を短くしてしまう。そこで、第2の実施の形態では、一定の条件が成立する場合において、電池の一部に対し意図的に劣化動作を実行する。これにより、複数の電池102の容量が揃い、リチウムイオン電池パック101の寿命を長くすることができる。
【0043】
図7を参照して、第2の実施の形態の、セル劣化動作を実行可能な回復回路103の構成の一例を説明する。この回復回路103は、第1の実施の形態の回復回路103の構成に加え、回復機能付き電池102の負極端子110と第三極端子109の間に、放電用スイッチ137と抵抗138とを直列に接続して構成され得る。そして放電用スイッチ137は、BMU104からの劣化動作指令に応答してOFFからONに切り替わる。
【0044】
放電用スイッチ137がONに切り替わると、第三極端子109から負極端子110に向けて放電電流が流れ、これにより、
図4の負極端子110の電位のグラフ43が左に平行移動し、電池102のAh容量が減少する。正極端子108から負極端子110に電荷量Q(j)だけ放電させれば、目標容量値SOHQ_tgが得られるとした場合、Q(j)=(∫{V
t2-V
t3/(R+r
1)}dtとなるように、放電用スイッチ137をONにすることにより、劣化動作を行うことができる(V
t3は負極端子110の電圧、Rは抵抗138の抵抗値、r
1は放電用スイッチ137の抵抗値)。なお、第三極端子109から負極端子110へと放電させる場合、第三極端子109にLiが貯蔵されることになるため、前述したQMは増えることになる。このためQMにQ(j)を加算して、BMU104の保持データを更新する。
【0045】
以上説明したように、この第2の実施の形態のリチウムイオン電池パック101によれば、第1の実施の形態と同様の動作を行うことに加え、容量の大きい電池102について劣化動作を実行することができる。劣化動作により各電池102の容量を揃えることで、サイクル劣化に対しての各電池の劣化が同等になり、電池パックの寿命を延ばすことができる。
【0046】
[実施例1]
以下に本発明の第1の実施例を示す。この第1の実施例は、1のリチウムイオン電池パックの中に、4つのリチウムイオン電池1~4が直列接続されている。このとき、電池1~4の現在の容量SOHQ(1)~(4)が、SOHQ(1)=100Ah、SOHQ(2)=105Ah、SOHQ(3)=95Ah、SOHQ(4)=100Ahであるとする。また、電池1~4の回復予測値SOHQ_Rが、SOHQ_R(1)=110Ah、SOHQ_R(2)=115Ah、SOHQ_R(3)=105Ah、SOHQ_R(4)=110Ahだったとする。このとき、現在の容量SOHQ(j)の最大値は105であり、回復予測値SOHQ_R(j)の最小値も105であり、したがって、目標容量値SOHQ_tg=105Ahとされる。従って、電池1は5Ahだけ容量を回復し、電池2は回復せず、電池3は10Ahだけ容量を回復し、電池4は5Ahだけ回復する。
【0047】
今、低い充電率で各電池の回復効率ηは1とする。そして、各電池でQを少しずつずらして式3を解き、q_maxが105AhになるようなQを求める。そして、ステップ25の操作により、各電池を回復させる。ここでは各電池のQMは50Ahであり、十分に回復できるLi量があるものとした。
【0048】
[実施例2]
以下に本発明の第2の実施例を示す。この第2の実施例は、第1の実施例と同様、1のリチウムイオン電池パックの中に、4つのリチウムイオン電池1~4が直列接続されている。電池1~4のそれぞれの現在の容量SOHQ(j)が、SOHQ(1)=100Ah、SOHQ(2)=105Ah、SOHQ(3)=95Ah、SOHQ(4)=100Ahとする。そして電池1~4のそれぞれの回復予測値SOHQ_R(j)が、SOHQ_R(1)=110Ah、SOHQ_R(2)=115Ah、SOHQ_R(3)=110Ah、SOHQ_R(4)=110Ahだとする。このとき、SOHQ(j)の最大値は105であり、SOHQ_R(j)の最小値は110であるので、目標容量値SOHQ_tgは105Ah~110Ahとされる。ここで、容量回復動作を二回に分け、まず最初のSOHQ_tgを105Ahにし、次のSOHQ_tgを110Ahとしても良い。このようにすることによって、まず1回目の容量回復動作で電池1~4の容量を揃え、次いで2回目の容量回復動作で更に容量の増加を図っても良い。この選択は、別途サーバと上位ECUを繋いで、上位サーバーから電池のユーザーまたはオーナーが指定できるようにしてもよい。
【0049】
[実施例3]
以下に本発明の第3の実施例を示す。この第3の実施例は、第1の実施例と同様、1のリチウムイオン電池パックの中に、4つのリチウムイオン電池1~4が直列接続されている。電池1~4のそれぞれの現在の容量SOHQ(j)が、SOHQ(1)=100Ah、SOHQ(2)=105Ah、SOHQ(3)=95Ah、SOHQ(4)=100Ahとする。そして電池1~4のそれぞれの回復予測値SOHQ_R(j)が、SOHQ_R(1)=110、SOHQ_R(2)=115、SOHQ_R(3)=100、SOHQ_R(4)=110だったとする。このときSOHQ(j)の最大値SOHQ(j)maxは105である一方、回復予測値SOHQ_R(j)の最小値SOHQ_R(j)minは100であるので、SOHQ(j)max≦SOHQ_tg≦SOHQ_R(j)minを満たす目標容量値SOHQ_tgを設定することはできない。従って、セル劣化動作を実行して、各電池1~4の容量を揃えることが行われる。例えば、SOHQ_tg=105Ahとし電池2を5Ah劣化させる。セルを劣化させる回復回路がなければ、SOHQ_tg=100Ahとして、電池3のみ回復させてもよいし、上位ECUに回復不能を通知するようにしてもよい。
【0050】
[実施例4]
以下に本発明の第4の実施例を示す。この第4の実施例は、第1の実施例と同様、1のリチウムイオン電池パックの中に、4つのリチウムイオン電池1~4が直列接続されているものとする。
【0051】
はじめに、各セルの回復動作を開始させ、あるセルのSOHQが回復の上限SOHQ_Uに達した場合でかつ、残りのセルのSOHQがSOHQ_U以下となったとする。この場合、残りのセルは引き続き回復をさせ、SOHQ_Uに到達したセルは回復動作を停止させても良い。
【0052】
また、既にあるセルが回復の上限SOHQ_Uに達した場合、SOHQ_Uを超えているセルは回復動作を停止させ、SOHQ_U以下のセルは回復動作を継続させても良い。
【0053】
または、電池パックの回復開始時に、セルの容量の一番小さいセルの回復を開始させ、該セルが2番目に容量の小さいセルに到達した場合には、該セルのみならず2番目に容量の小さいセルの容量の回復動作を開始させる。そして該セルと2番目に容量の小さいセルが3番目に容量の小さいセルに到達したときには、該セル、2番目に容量の小さいセルのみならず、3番目に容量の小さいセルの容量の回復動作を開始させる。この動作を全てのセルの回復動作を開始させるまで繰り返す。なお、回復中、いずれかのセルが容量回復の上限に達した場合、全てのセルの回復動作を終了させる。
【0054】
上記の3つの容量回復動作は一回で遂行しても良いし、複数回に分けても良い。これらの動作により、予め各セルの回復予測値を計算しなくとも良い。
【0055】
[その他]
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上述した実施形態は本発明を理解しやすく説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、上記実施形態の構成に他の構成を追加してもよく、構成の一部について他の構成に置換をすることも可能である。また、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【0056】
例えば、上記の実施の形態では、リチウムイオン電池パック101内において回復予測値SOHQ_Rや目標容量値SOHQ_tgを計算していたが、
図8に示すように、リチウムイオン電池パックをネットワークNW(通信網)を介してサーバ300と接続し、サーバ300において各種計算や判定を行うようにしてもよい。
【0057】
図8において、リチウムイオン電池パック101は電気自動車EVに搭載され、電気自動車EVは、上位ECU105、及び通信装置121によりサーバ300と通信可能に構成される。サーバ300は、ハードウエア構成として、例えばCPU301、ROM302、RAM303、通信制御部304、及びハードディスクドライブ305等を備える。ROM302及びハードディスクドライブ305は、リチウムイオン電池パック101の監視及び制御のためのコンピュータプログラムを格納している。
【0058】
コンピュータプログラムは、リチウムイオン電池パック101に各種指令を発する指令部311、各種演算を行う演算部312、及び電池102の劣化判定を行う劣化判定部313を備える。演算部312は、前述の実施の形態でBMU104が行っていた各種演算を行う。また、劣化判定部313は、BMU104で行われていた電池の劣化判定を行う。
【0059】
なお、
図8において、サーバ300から容量回復指令を行った場合に、電気自動車EVのドライバーが指示ボタンを押して、その指示ボタンの押下を最終指示として容量回復動作を開始してもよい。或いは、サーバ300からの容量回復指令を行われた場合に、その指令が代理店のコンピュータ等に送信され、代理店のメンテナンス技術者が容量回復動作を開始するようにしてもよい。また、回復不能の判断がされる場合には、第1の実施の形態と同様に、回復不能との判定が行われた旨の情報をサーバから送信してもよい。
【符号の説明】
【0060】
101…リチウムイオン電池パック、102…電池、103…回復回路、104…バッテリ管理ユニット(BMU:Battery Management Unit)、105…上位ECU、106…通信回線、107…電流計、108…正極端子、109…第三極端子、110…負極端子、121…通信装置、135,137…放電用スイッチ、136,138…抵抗、300…サーバ、EV…電気自動車、301…CPU、302…ROM、303…RAM、304…通信制御部、305…ハードディスクドライブ、311…指令部、312…演算部、313…劣化判定部。