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特開2023-46124不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046124
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/14 20060101AFI20230327BHJP
   C07C 69/653 20060101ALI20230327BHJP
   C07B 61/00 20060101ALI20230327BHJP
   B01J 31/02 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
C07C67/14
C07C69/653
C07B61/00 300
B01J31/02 102Z
B01J31/02 103Z
B01J31/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021154841
(22)【出願日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100213997
【弁理士】
【氏名又は名称】金澤 佑太
(72)【発明者】
【氏名】杉本 達也
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BA49
4G169BD01A
4G169BD01B
4G169BD02A
4G169BD02B
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BD06A
4G169BD06B
4G169BD07B
4G169BD08A
4G169BD08B
4G169BD11A
4G169BD12B
4G169BD13B
4G169BE17A
4G169BE17B
4G169BE22A
4G169BE22B
4G169BE28B
4G169BE33A
4G169BE33B
4G169CB25
4G169CB75
4G169DA02
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC48
4H006BA65
4H006BB11
4H006BB15
4H006BM10
4H006BM71
4H006BM72
4H006BM73
4H006KA14
4H006KC14
4H006KF10
4H039CA66
4H039CD20
4H039CD90
(57)【要約】      (修正有)
【課題】不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルを、簡便な操作で収率良く、且つ、経済性の面で工業的に有利に製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、下記式(1):

[式(1)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子又はメチル基を表す。]で表されるエステルの製造方法であって、ヘキサフルオロイソプロパノールと、下記式(2):

で表される不飽和カルボン酸ハライドとを、非水混和性有機溶媒及び水を含む混合溶媒下で接触させる工程を含む、エステルの製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
[式(1)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子又はメチル基を表す。]
で表される不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法であって、
1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノールと、
下記式(2):
【化2】
[式(2)中、Xは、式(1)中のXと同じあり、Yは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子からなる群から選択されるハロゲン原子を表す。]
で表される不飽和カルボン酸ハライドとを、非水混和性有機溶媒及び水を含む混合溶媒下で接触させる工程を含み、
前記混合溶媒が、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ金属リン酸塩及びアルカリ金属リン酸水素塩からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属塩と、相間移動触媒とを含む、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法。
【請求項2】
前記相間移動触媒が、アルキルアンモニウムハライド塩及びアルキルアンモニウム硫酸塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩である、請求項1に記載の不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法。
【請求項3】
前記式(2)で表される不飽和カルボン酸ハライドが、アクリル酸クロリド、α-クロロアクリル酸クロリド及びα-ブロモアクリル酸クロリドからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、請求項1又は2に記載の不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法。
【請求項4】
前記式(1)中のXが、水素原子、塩素原子又はメチル基である、請求項1~3のいずれかに記載の不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルは、重合体の原料モノマー等として有用な化合物である。
例えば、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの1つであるα-クロロアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルは、半導体製造等の分野において主鎖切断型のポジ型レジストとして使用される共重合体の原料モノマーとして使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルを製造する方法として、例えば、特許文献2には、加温条件下において、メタクリル酸クロリドと、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール(以下、単に「ヘキサフルオロイソプロパノール」と称することがある。)とをピリジン中で反応させる方法、及び、アクリル酸と、脱水縮合剤としてのトリフルオロ酢酸無水物とを反応させてアクリル酸無水物を生成し、このアクリル酸無水物と、ヘキサフルオロイソプロパノールとを更に反応させる方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルを製造する方法として、脱水縮合剤としての無水リン酸の存在下で、ヘキサフルオロイソプロパノールと、メタクリル酸とを反応させる方法が開示されている。
【0005】
更に、特許文献4には、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルを製造する方法として、ヘキサフルオロイソプロパノールと、アクリル酸無水物又はメタクリル酸無水物とを塩基の存在下で反応させる際に、水を溶媒として共存させることを特徴とする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-067811号公報
【特許文献2】米国特許第3177185号明細書
【特許文献3】特開平2-295948号公報
【特許文献4】特開2008-150339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの原料であるヘキサフルオロイソプロパノールは、強力な電子吸引基であるトリフルオロメチル基を2つ含有し、且つ、酸性度の高い2級アルコールであるため、反応性が低く、不飽和カルボン酸のエステル化反応が起こりにくい。そのため、特許文献2に開示されたメタクリル酸クロリドと、ヘキサフルオロイソプロパノールとをピリジン中で反応させる方法では、加温条件下であっても、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの収率は極めて低い。また、アクリル酸と、脱水縮合剤としてのトリフルオロ酢酸無水物とを反応させてアクリル酸無水物を生成し、このアクリル酸無水物と、ヘキサフルオロイソプロパノールとを更に反応させる方法においても、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの収率は低い。
【0008】
特許文献3の方法では、比較的高収率で不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルが得られるものの、脱水縮合剤である無水リン酸は水分を吸収し易いため、非常に扱いにくいという問題がある。また、反応後の無水リン酸が水と反応してリン酸を形成し、これにより反応混合物が粘稠になるため、この反応混合物を反応器から取り出すことが困難になるという問題もある。更に、原料としてアクリル酸を使用すると、得られるエステルの収率が低く、オリゴマーが形成されるため、特許文献2の方法では、メタクリル酸を原料として使用する必要がある、即ち、生成物としてメタクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルしか得られないという問題もある。
【0009】
特許文献4の方法では、水を溶媒として用いているため、反応後の生成物の分離及び精製が容易であり、また、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルが高収率で得られるものの、原料であるアクリル酸無水物及びメタクリル酸無水物は高純度で大量に得ることが困難であり、これに起因して、アクリル酸無水物及びメタクリル酸無水物は非常に高価になる傾向がある。そのため、工業的には経済性の点でこれらの原料を使用することは不利であるという問題がある。
【0010】
本発明はかかる実情の下でなされたものであり、本発明の目的は、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルを、簡便な操作で収率良く、且つ、経済性の面で工業的に有利に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、ヘキサフルオロイソプロパノールと、不飽和カルボン酸ハライドとを、所定の混合溶媒下で接触させれば、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルを、簡便な操作で収率良く、且つ、経済性の面で工業的に有利に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明は、下記式(1):
【化1】
[式(1)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子又はメチル基を表す。]で表される不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法であって、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノールと、下記式(2):
【化2】
[式(2)中、Xは、式(1)中のXと同じあり、Yは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子からなる群から選択されるハロゲン原子を表す。]で表される不飽和カルボン酸ハライドとを、非水混和性有機溶媒及び水を含む混合溶媒下で接触させる工程を含み、前記混合溶媒が、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ金属リン酸塩及びアルカリ金属リン酸水素塩からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属塩と、相間移動触媒とを含む、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法である。このような不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法であれば、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルを、簡便な操作で収率良く、且つ、経済性の面で工業的に有利に製造できる。
【0013】
本発明の不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法において、前記相間移動触媒は、アルキルアンモニウムハライド塩及びアルキルアンモニウム硫酸塩からなる群から選択される少なくとも1種の塩であることが好ましい。
相間移動触媒が上記列挙された群から選択される少なくとも1種の塩であれば、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルを、より簡便な操作でより収率良く、且つ、より経済性の面で工業的に有利に製造できる。
【0014】
本発明の不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法において、前記式(2)で表される不飽和カルボン酸ハライドは、アクリル酸クロリド、α-クロロアクリル酸クロリド及びα-ブロモアクリル酸クロリドからなる群から選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
式(2)で表される不飽和カルボン酸ハライドが上記列挙された群から選択される少なくとも1種の化合物であれば、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルを、経済性の面で工業的により有利に製造できる。
【0015】
本発明の不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法において、前記式(1)中のXは、水素原子、塩素原子又はメチル基であることが好ましい。
式(1)中のXが水素原子、塩素原子又はメチル基である、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルは、良好な安定性を有するため、重合体の製造に利用されるモノマーとしてより有利に用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルを、簡便な操作で収率良く、且つ、経済性の面で工業的に有利に製造する方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
ここで、本発明の不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法を用いて製造される不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルは、特に限定されることなく、例えば、重合体の製造に利用されるモノマーとして有利に用いることができる。具体的には、主鎖切断型のポジ型レジストとして好適に使用し得る、電子線等の電離放射線や紫外線等の短波長の光の照射により主鎖が切断されて低分子量化する重合体の製造等に有利に用いることができる。
【0018】
(不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法)
本発明の不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法は、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール((CFCHOH)と、後述する式(2)で表される不飽和カルボン酸ハライドとを、非水混和性有機溶媒及び水を含む混合溶媒下で接触させる工程を含む。また、該混合溶媒は、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ金属リン酸塩及びアルカリ金属リン酸水素塩からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属塩と、相間移動触媒とを含む。
本発明の不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法であれば、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルを、簡便な操作で収率良く、且つ、経済性の面で工業的に有利に製造できる。不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルを、簡便な操作で収率良く製造できる理由は、必ずしも定かではないが、以下の通りと推察される。
【0019】
まず、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの原料であるヘキサフルオロイソプロパノールはフッ素原子を6個有しているにも関わらず、水に任意の割合で混合するという性質を有していることから、溶媒として水を好適に利用できる。また、ヘキサフルオロイソプロパノールは、電子吸引性が非常に大きなトリフルオロメチル基を2つ含んでいることから、アルコールの中では酸性度が大きいという性質も有している。
本発明においては、非水混和性有機溶媒及び水を含む混合溶媒に使用することにより、水中では、ヘキサルオロイソプロパノールと、塩基として作用するアルカリ金属塩とから、弱酸-アルカリ反応によってヘキサフルオロイソプロポキシド塩(水中で溶解しているため、イオン解離した状態で存在し得る。)が形成される。この形成されたヘキサフルオロイソプロポキシド塩と、不飽和カルボン酸ハライドとが接触することにより、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルが生成するものと考えられる。そして、生成した不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルは非水混和性有機溶媒中に存在し、副生したアルカリ金属ハライドは水中に存在することとなるため、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルを容易に分離され得る。また、混合溶媒に含まれる相間移動触媒により、ヘキサフルオロイソプロポキシド塩と、不飽和カルボン酸ハライドとの接触が容易になり、その結果、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの生成を促進できる。
以上の理由により、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルを、簡便な操作で収率良く製造できると考えられる。
【0020】
<不飽和カルボン酸ハライド>
本発明の不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法で使用する不飽和カルボン酸ハライドは、下記式(2)で表される化合物である。
【化3】
【0021】
なお、式(2)中、Xは、以下で説明する式(1)中のXと同じである。即ち、式(2)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子又はメチル基を表す。式(2)で表される不飽和カルボン酸ハライドは、比較的安価で入手ができるため、これを原料として用いることにより、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルを、経済性の面で工業的に有利に製造できる。
式(2)で表される不飽和カルボン酸ハライドとしては、例えば、アクリル酸クロリド;メタクリル酸クロリド、α-フルオロアクリル酸クロリド、α-クロロアクリル酸クロリド、α-ブロモアクリル酸クロリド、α-ヨードアクリル酸クロリド等のα-置換アクリル酸クロリド;アクリル酸ブロミド;メタクリル酸ブロミド、α-クロロアクリル酸ブロミド、α-ブロモアクリル酸ブロミド等のα-置換アクリル酸ブロミドが挙げられる。これらの中でも、より安価で入手が容易であり、経済性の面で工業的により有利であることから、アクリル酸クロリド、メタクリル酸クロリド、α-フルオロアクリル酸クロリド、α-クロロアクリル酸クロリド及びα-ブロモアクリル酸クロリドからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を使用することが好ましく、アクリル酸クロリド、α-クロロアクリル酸クロリド及びα-ブロモアクリル酸クロリドからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を使用することがより好ましい。
【0022】
アクリル酸クロリド及びメタクリル酸クロリド等は工業的に製造されているので、市販品をそのまま使用できる。α位がハロゲン原子で置換されたα-置換不飽和カルボン酸ハライドは、以下の文献に記載の方法に従って合成できる。
α-フルオロアクリル酸クロリドは、例えば、特表2004-505939号公報に記載の方法に従って合成できる。具体的には、2,2-ジクロロプロピオン酸をフッ化水素と反応させて得られる2-クロロ-2-フルオロプロピオン酸を水酸化ナトリウムで処理して2-フルオロアクリル酸を形成し、得られた2-フルオロアクリル酸を塩化チオニルと混合して加熱還流することにより、目的物である2-フルオロアクリル酸クロリド(α-フッ素原子ルオロアクリル酸クロリド)を得ることができる。
α-クロロアクリル酸クロリドは、例えば、特開2002-173467号公報に記載の方法に従って合成できる。具体的には、α-クロロアクリル酸を、塩化チオニル、或いは、塩化オキサリルと反応させることにより、α-クロロアクリル酸クロリドを得ることができる。
α-ブロモアクリル酸クロリドは、例えば、特開2005-126340号公報に記載の方法に従って合成できる。具体的には、2,3-ジブロモプロピオニルクロリドをトリエチルアミンと反応させて、脱臭化水素化させることにより、2-ブロモアクリル酸クロリド(α-ブロモアクリル酸クロリド)を得ることができる。
【0023】
式(1)で表される不飽和カルボン酸ハライドの使用量は、原料となるヘキサフルオロイソプロパノール1mol当たり、好ましくは1.1mol以上、より好ましくは1.5以上、好ましくは3mol以下、より好ましくは2.5mol以下である。
式(1)で表される不飽和カルボン酸ハライドの使用量が上記下限以上であれば、目的とする不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの収率を向上できる。一方、式(1)で表される不飽和カルボン酸ハライドの使用量が上記上限以下であれば、アクリル酸類のオリゴマー等の生成を抑制できる等、望ましくない副反応の併発を抑制できる。
【0024】
<アルカリ金属塩>
本発明の不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法で使用するアルカリ金属塩は、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ金属リン酸塩及びアルカリ金属リン酸水素塩からなる群から選択される少なくとも1種の金属塩である。
アルカリ金属炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等が挙げられる。
アルカリ金属炭酸水素塩としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム等が挙げられる。
アルカリ金属リン酸塩としては、例えば、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等が挙げられる。
アルカリ金属リン酸水素塩としては、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム等が挙げられる。
アルカリ金属塩は、水中でヘキサフルオロイソプロキシド塩が効率良く形成され得ることから、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩であることが好ましく、経済性の観点から、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属塩であることがより好ましく、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルをより収率良く製造できることから、炭酸カリウムであることが更に好ましい。
【0025】
アルカリ金属塩の使用量は、原料となるヘキサフルオロイソプロパノール1molに対して、好ましくは1mol以上、より好ましくは1.2mol以上、好ましくは3mol以下、より好ましくは2mol以下である。
アルカリ金属塩の使用量が上記下限以上であれば、水中でヘキサフルオロイソプロキシド塩を効率良く形成し、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの収率を向上できる。一方、アルカリ金属塩の使用量が上記上限以下であれば、水への溶解が不十分になることや反応中にアルカリ金属塩が析出することを抑制し、後処理を容易にすることができる。
【0026】
<混合溶媒>
本発明の不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法で使用する混合溶媒は、非水混和性有機溶媒及び水を含む。また、混合溶媒は、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ金属リン酸塩及びアルカリ金属リン酸水素塩からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属塩と、相間移動触媒とを含む。
【0027】
混合溶媒に含まれる水の量は、アルカリ金属塩を溶解できる量であれば特に限定されないが、原料となるヘキサフルオロイソプロパノールに対して、質量基準で、好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍以上、好ましくは50倍以下、より好ましくは10倍以下の量である。
水の量が上記下限以上であれば、アルカリ金属塩の濃度が高くなりすぎることを抑制し、反応が急激に進行して望ましくない副反応が併発することを抑制できる。一方、水の量が上記上限以下であれば、排水の量が少なくなり、反応後の後処理を容易にすることができる。
【0028】
混合溶媒に含まれる非水混和性有機溶媒は、本質的に水と混じり合わない溶媒である。非水混和性有機溶媒としては、目的物である不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルよりも沸点の高い溶媒を用いることが好ましい。このような非水混和性有機溶媒であれば、生成した不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルと、非水混和性有機溶媒とを蒸留等により容易に分離できる。
非水混和性有機溶媒としては、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの種類に応じて適宜選定可能であるが、例えば、シクロペンチルメチルエーテル、4-メチルテトラヒドロピラン、ジブチルエーテル等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゾトリフルオリド、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらの中でも、トルエン、キシレン、ベンゾトリフルオリド、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等の安価な溶媒を好適に使用できる。また、理由は定かではないが、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルをより収率良く製造できることから、非水混和性有機溶媒としては、トルエン又はキシレンを好適に使用できる。
【0029】
混合溶媒に含まれる非水混和性有機溶媒の量は、水の量に対して、体積基準で、好ましくは0.5倍以上、より好ましくは1倍以上、好ましくは5倍以下、より好ましくは2倍以下の量である。
非水混和性有機溶媒の使用量が上記下限以上であれば、目的物である不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの抽出量が上がり、収率を向上できる。一方、非水混和性有機溶媒の使用量が上記上限以下であれば、使用量が過度になることを抑制し、経済的に有利に不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルを製造できる。
なお、本明細書において、「混合溶媒に含まれる非水混和性有機溶媒の量」とは、ヘキサフルオロイソプロパノールと、不飽和カルボン酸ハライドとを接触(反応)させる際の混合溶媒に含まれる非水混和性有機溶媒の量を意味する。
【0030】
<相間移動触媒>
本発明の不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法で使用する相間移動触媒としては、2相系の混合溶媒の反応で一般に用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、第4級アンモニウムハライド類、第4級ホスホニウムハライド類、等の第4級塩類;クラウンエーテル類、ポリオキシアルキレングリコール類等のポリエーテル類;アミノアルコール類等が挙げられる。これらの中でも、反応終了後において、水相側に存在し、分離が容易であることから、第4級塩類が特に好ましい。第4級塩類は、窒素原子及びリン原子等のヘテロ原子に4個の炭素含有置換基が結合して生じるカチオン(陽性イオン)と、対アニオン(陰性イオン)からなる。
【0031】
ヘテロ原子としては、元素周期表の5B族の原子であれば特に限定されないが、窒素原子及びリン原子が好ましく、水中で形成されるヘキサフルオロイソプロポキシドイオンとの相性が良く、生成物の収率を向上できることから、窒素原子が特に好ましい。また、原料の不飽和カルボン酸ハライドとして不飽和カルボン酸クロリドを用いる場合には、塩素原子との相性も良いことから、ヘテロ原子としては窒素原子が特に好ましい。
該ヘテロ原子の4つの炭素含有置換基の炭素数は、特に限定されないが、通常1以上30以下、好ましくは1以上20以下である。かかる炭素含有置換基としては、ヘテロ原子に直接結合した炭素を含んでいれば特に制限はないが、例えば、アルキル基、アール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。これらの炭素含有置換基には、アルコキシ基、ハロゲン原子、アルキルチオ基等の反応に影響を及ぼさない置換基;その炭素含有置換基構造内にカルボニル基、スルホニル基、スルフィニル基等の反応に影響しない2価の置換基等が含まれていてもよい。また、該炭素含有置換基がお互いに結合して環状をなしてもよい。該炭素含有置換基は、好ましくは、アルキル基、アリール基及びアラルキル基である。
【0032】
炭素含有置換基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、ラウリル基、ヘキサデシル基等のアルキル基;フェニル基、2-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-エチルフェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、2-メチルベンジル基、4-メチルベンジル基、2-メトキシベンジル基、4-メトキシベンジル基等のアラルキル基等が挙げられる。なお、炭素含有置換基がお互いに結合して環状をなしている第4級塩類としては、炭素含有置換基が環状で窒素原子と結合した場合のピリジニウムやピコリニウム等が挙げられる。これらの炭素含有置換基は反応に影響を及ぼさない置換基を有していてもよい。
【0033】
第4級塩類は、ヘテロ原子に、好ましくは炭素数2以上、より好ましくは炭素数3以上、好ましくは炭素数7以下、より好ましくは炭素数5以下の炭素含有置換基が3個以上結合したものであることが好ましい。
炭素数が上記範囲内の炭素含有置換基が3個以上結合した第4級塩類であれば、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの収率を向上できる。その理由は定かではないが、水中で形成されるヘキサフルオロイソプロポキシドイオンとの相互作用や、生じるカチオンの非水混和性有機溶媒への溶解性等によるものであると推察される。
【0034】
対アニオン(陰性イオン)としては、例えば、ハライド、ヒドロキシド、硫酸水素イオン等が挙げられるが、好ましくはハライド又は硫酸水素イオンであり、より好ましくはハライドである。ハライドは、特に限定されないが、具体的に、フルオリド、ブロミド、クロリド、アイオヂドが挙げられ、好ましくはブロミド及びクロリドである。
【0035】
第4級塩類の具体例としては、第4級アンモニウムハライド類、第4級ホスホニウムハライド類、第4級アンモニウムヒドロキシド類、第4級ホスホニウムヒドロキシド類、第4級アンモニウム硫酸水素塩類、第4級ホスホニウム硫酸水素塩類等が挙げられる。これらの中でも、第4級アンモニウムハライド類、第4級アンモニウム硫酸水素塩類又は第4級ホスホニウムハライド類が好ましく、水中で形成されるヘキサフルオロイソプロポキシドイオンとの相性が良く、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの収率を向上できることから、第4級アンモニウムハライド類又は第4級アンモニウム硫酸水素塩類がより好ましく、第4級アンモニウムハライド類が更に好ましい。
【0036】
具体的な第4級アンモニウムハライド類としては、例えば、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
第4級アンモニウム硫酸水素塩類としては、テトラメチルアンモニウム硫酸水素塩、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩等が挙げられる。
第4級ホスホニウムハライド類としては、テトラブチルホスホニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド等が挙げられる。
上記列挙したものの中でも、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、トリメチルベンジルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩が好ましく、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩がより好ましい。
【0037】
クラウンエーテル類としては、例えば、15-クラウン-5、18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6、ジベンゾ-24-クラウン-8、ジシクロヘキシル-18-クラウン-6等のクラウンエーテル類が挙げられる。
ポリオキシアルキレングリコール類としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
アミノアルコール類としては、例えば、トリス[2-(2-メトキシエトキシ)エチル]アミン、クリプテート等が挙げられる。
【0038】
なお、上記した相間移動触媒は、それぞれ単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
相間移動触媒の使用量は、反応条件により適宜選択可能であるが、原料となるヘキサフルオロイソプロパノール1mol当たり、通常0.001mol以上、好ましくは0.01mol以上、より好ましくは0.03mol、通常1mol以下、好ましくは0.1mol以下、より好ましくは0.07mol以下である。
【0040】
<添加剤>
本発明の不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法では、その目的に反しない範囲において、添加剤を使用してもよい。添加剤としては、重合禁止剤等が挙げられる。
【0041】
本発明の不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法では、反応中の予期せしない副反応(重合)を防止するために、必要に応じて、反応系に重合禁止剤を添加してもよい。重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、p-メトキシフェノール、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、tert-ブチル-カテコール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、ペンタエリスリトール、テトラキス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメイト)、2-sec-ブチル-4,6-ジニトロフェノール等のフェノール系化合物;N,N'-ジイソプロピルパラフェニレンジアミン、N,N'-ジ-2-ナフチルパラフェニレンジアミン、N-フェニレン-N'-(1,3-ジメチルブチル)パラフェニレンジアミン、N,N'-ビス(1,4-ジメチルフェニル)-パラフェニレンジアミン、N-(1,4-ジメチルフェニル)-N'-フェニル-パラフェニレンジアミン等のアミン系化合物;4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、ビス(1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)セバケイト等のN-オキシル系化合物;銅、塩化銅(II)、塩化鉄(III)等の金属化合物等が挙げられる。
【0042】
重合禁止剤の使用量は、適宜決定できるが、原料となるヘキサフルオロイソプロパノールに対して、10ppm以上であることが好ましく、良好な効果を発揮できることから、50ppm以上であることがより好ましい。
【0043】
<反応条件>
本発明の不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法において、ヘキサフルオロイソプロパノールと、不飽和カルボン酸ハライドとの接触は、上記混合溶媒下で行われれば特に限定されないが、例えば、アルカリ金属塩を含む水溶液に、ヘキサフルオロイソプロパノールを添加し、次いで、非水混和性有機溶媒及び相間移動触媒を添加して、そこに不飽和カルボン酸ハライドを更に滴下することにより行うことができる。
【0044】
ヘキサフルオロイソプロパノールと、不飽和カルボン酸ハライドとを接触させる温度(反応温度)は、アルカリ金属塩の水溶液が固化せず、反応が過剰に進行しない温度であり、0℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、40℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましい。
反応温度が上記下限以上であれば、反応速度を効率的に進め、反応完結までの時間を短縮できる。一方、反応温度が上記上限以下であれば、原料や生成物等のポリマー化を抑制できる。
【0045】
反応時間は、反応温度等により適宜決定できるが、0.5時間以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましく、20時間以下であることが好ましく、10時間以下であることがより好ましい。
反応時間が上記下限以上であれば、反応を完結させ、収率を向上できる。一方、反応時間が上記上限以下であれば、原料や生成物等のポリマー化を抑制できる。
【0046】
なお、反応終了後は、例えば、非水混和性有機溶媒相と水相とを相分離させるために、生成物を含む混合溶媒を静置する工程、非水混和性有機溶媒相と水相と相分離する工程、相分離した混合溶媒から水相を除去する工程、残った非水混和性有機溶媒相を、希塩酸等の希酸、飽和重曹水及び飽和食塩水で洗浄する工程、洗浄後の非水混和性有機溶媒相を硫酸マグネシウム等の乾燥剤で乾燥(脱水)する工程、乾燥後の非水混和性有機溶媒相を蒸留する工程等の任意の工程を行ってもよい。
なお、反応の進行状況は、ガスクロマトグラフィー等で追跡できる。反応の終了は、原料ヘキサフルオロイソプロパノールの消失により確認できる。
【0047】
<不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステル>
本発明の不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法により得られる不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルは、以下の式(1)で表される化合物である。
【化4】
【0048】
なお、式(1)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子又はメチル基を表す。
即ち、式(1)で表される不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルとしては、例えば、アクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステル、メタクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステル、α-フルオロアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステル、α-クロロアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステル、α-ブロモアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステル、α-ヨードアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルが挙げられる。
式(1)中のXは、良好な安定性を有し、重合体の製造に利用されるモノマーとしてより有利に用いることができることから、水素原子、塩素原子又はメチル基であることが好ましい。即ち、式(1)で表される不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルは、アクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステル、α-クロロアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステル又はメタクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステであることが好ましい。
【実施例0049】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によってその範囲を限定されるものではない。なお、特に断りがない限り、「%」は「質量%」を表す。
【0050】
実施例及び比較例にて行ったガスクロマトグラフィー分析(GC分析)の分析条件は、以下の通りである。
【0051】
<分析条件>
装置:Agilent-7890(アジレント社製)
カラム:Inert Cap-1(ジーエルサイエンス社製、長さ60m、内径0.25mm、膜厚1.5μm)
カラム温度:60℃で10分間保持、次いで、昇温速度20℃/分で260℃まで昇温し、その後、260℃で10分間保持
インジェクション温度:250℃
検出器温度:250℃
キャリヤーガス:窒素
スプリット比:100/1
検出器:FID
【0052】
[合成例1]α-クロロアクリル酸クロリドの合成
冷却管及び滴下ロートを取り付けた容量1Lの3口フラスコに、2-クロロアクリル酸53.3g(0.5mol)、p-メトキシフェノール2g及び塩化メチレン300mlを入れ溶解させた。フラスコ(反応器)をウォーターバスに浸し、室温で内容物を攪拌し、そこへ、N,N-ジメチルホルムアミドを10滴添加した。塩化オキサリル82.5g(0.65mol)を塩化メチレン100mlに溶解した溶液を、滴下ロートから反応器内に2時間かけて滴下した。その間、反応に伴って発生するガスは、冷却管の登頂部から、水500mlを入れたガス洗瓶中に導いた。塩化オキサリルの滴下終了後、内容物をそのまま1.5時間攪拌し、その後、ウォーターバスで35℃に加温した。加温開始から約40分後、ガスの発生が停止して系内が陰圧になったところで加温を停止した。ロータリーエバポレーターを使用して35℃に加温しながら、反応器内の内容物から、大部分の塩化メチレン及び未反応の塩化オキサリルを留去した。得られた残留液に、p-メトキシフェノール1gを添加し、10kPaの減圧下で蒸留を行い、沸点47~49℃の留分を捕集して、36gのα-クロロアクリル酸クロリドを得た(収率:57%)。
【0053】
[合成例2]α-ブロモアクリル酸クロリドの製造
冷却管及び滴下ロートを取り付けた容量300mlの3口フラスコに、2,3-ジブロモプロピオン酸クロリド25g(0.1mol)及び塩化メチレン120mlを入れた。フラスコ(反応器)を氷水浴に浸し、内容物を攪拌させながら、滴下ロートより、トリエチルアミン15.2g(0.15mol)を25分間かけて滴下した。滴下終了から30分後、反応器を氷水浴から引き上げ、室温にて1時間攪拌した。反応により生成した塩を減圧濾過にて除去した。ロータリーエバポレーターを使用して35℃に加温しながら、得られた濾液から、大部分の塩化メチレンを留去した。得られた残留液を用いて、2kPaの減圧下で蒸留を行い、沸点39~40℃の留分を捕集して、12.5gのα-ブロモアクリル酸クロリドを得た(収率74%)。
【0054】
[実施例1]
滴下ロート及び攪拌子を取り付けた容量200mlの丸底スフラスコに、炭酸カリウム10.36g(0.075mol)及び水30mlを入れ、これを攪拌して炭酸カリウムを溶解させた。丸底フラスコを氷水浴に浸し、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール8.4g(0.05mol)を添加した。10分程攪拌した後、トルエン30ml、及び相間移動触媒としてのテトラブチルアンモニウムブロミド0.8g(0.0025mol)を添加し、強攪拌した。次いで、滴下ロートからアクリル酸クロリド6.8g(0.075mol)を約20分かけて滴下した。内容物をそのまま30分攪拌した後、20℃で更に6時間攪拌を継続した。内容物を分液ロートに移し、水相を分離後、残った非水混和性有機溶媒相を、塩酸(濃度:5質量%)、飽和重曹水、飽和食塩水をそれぞれ20ml用いて洗浄し、これを硫酸マグネシウムで乾燥させた。少量のトルエンで洗浄しながら硫酸マグネシウムを除去し、生成物を含む29.52gのトルエン溶液を得た。この溶液を、標準物質としてアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、8.19gのアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルが含まれていた(収率:73.7%)。
【0055】
[実施例2]
実施例1において、非水混和性有機溶媒のトルエンを全てシクロペンチルメチルエーテルに変更したこと以外は、実施例1と同様にして各種操作を行い、生成物を含む26.67gのシクロペンチルメチル溶液を得た。この溶液を、標準物質としてアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、7.12gのアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルが含まれていた(収率:64.1%)。
【0056】
[実施例3]
実施例1において、相間移動触媒のテトラブチルアンモニウムブロミド0.8g(0.0025mol)を、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド0.57g(0.0025mol)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして各種操作を行い、生成物を含む28.46gのトルエン溶液を得た。この溶液を、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、7.92gのアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルが含まれていた(収率:71.3%)。
【0057】
[実施例4]
実施例1において、相間移動触媒のテトラブチルアンモニウムブロミド0.8g(0.0025mol)を、テトラメチルアンモニウム硫酸水素塩0.43g(0.0025mol)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして各種操作を行い、生成物を含む24.81gのトルエン溶液を得た。この溶液を、標準物質としてアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、7.87gのアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルが含まれていた(収率:70.9%)。
【0058】
[実施例5]
実施例1において、相間移動触媒のテトラブチルアンモニウムブロミド0.8g(0.0025mol)を、トリオクリルメチルアンモニウムクロリド1.01g(0.0025mol)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして各種操作を行い、生成物を含む25.85gのトルエン溶液を得た。この溶液を、標準物質としてアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、6.73gのアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルが含まれていた(収率:60.6%)。
【0059】
[実施例6]
実施例1において、相間移動触媒のテトラブチルアンモニウムブロミド0.8g(0.0025mol)を、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩0.85g(0.0025)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして各種操作を行い、生成物を含む27.37gのトルエン溶液を得た。この溶液を、標準物質としてアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、8.38gのアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルが含まれていた(収率:75.5%)。
【0060】
[実施例7]
実施例1において、相間移動触媒のテトラブチルアンモニウムブロミド0.8g(0.0025mol)を、テトラブチルホスホニウムブロミド0.85g(0.0025mol)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして各種操作を行い、生成物を含む25.96gのトルエン溶液を得た。この溶液を、標準物質としてアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、6.64gのアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルが含まれていた(収率:59.8%)。
【0061】
[実施例8]
実施例6において、炭酸カリウム10.36g(0.075mol)を炭酸ナトリウム5.83g(0.075mol)に変更したこと以外は、実施例6と同様にして各種操作を行い、生成物を含む29.75gのトルエン溶液を得た。この溶液を、標準物質としてアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、7.49gのアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルが含まれていた(収率:67.5%)。
【0062】
[実施例9]
実施例6において、炭酸カリウム10.36g(0.075mol)を炭酸水素カリウム7.51g(0.075mol)に変更したこと以外は、実施例6と同様にして各種操作を行い、生成物を含む29.24gのトルエン溶液を得た。この溶液を、標準物質としてアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、6.92gのアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルが含まれていた(収率:62.3%)。
【0063】
[実施例10]
実施例6において、炭酸カリウム10.36g(0.075mol)をリン酸水素二カリウム13.06g(0.075mol)に変更したこと以外は、実施例6と同様にして各種操作を行い、生成物を含む24.34gのトルエン溶液を得た。この溶液を、標準物質としてアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、7.18gのアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルが含まれていた(収率:64.6%)。
【0064】
[実施例11]
実施例6において、炭酸カリウム10.36g(0.075mol)をリン酸水素二ナトリウム10.65g(0.075mol)に変更したこと以外は、実施例6と同様にして各種操作を行い、生成物を含む25.86gのトルエン溶液を得た。この溶液を、標準物質としてアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、7.02gのアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルが含まれていた(収率:63.2%)。
【0065】
[実施例12]
実施例6において、炭酸カリウム10.36g(0.075mol)をリン酸三カリウム10.61g(0.05mol)に変更したこと以外は、実施例6と同様にして各種操作を行い、生成物を含む30.05gのトルエン溶液を得た。この溶液を、ガスクロマトグラフィーで分析したところ、7.48gのアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルが含まれていた(収率:67.3%)。
【0066】
[実施例13]
実施例6において、アクリル酸クロリド6.8g(0.075mol)をメタクリル酸クロリド7.8g(0.075mol)に変更し、非水混和性有機溶媒のトルエンを全てp-キシレンに変更したこと以外は、実施例6と同様にして各種操作を行い、生成物を含む30.70gのp-キシレン溶液を得た。この溶液を、標準物質としてアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、メタクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルが9.826g含まれていた(収率:83.2%)。
【0067】
[実施例14]
実施例13において、メタクリル酸クロリド7.8g(0.075mol)を、合成例1で得られた2-クロロアクリル酸クロリド9.38g(0.075mol)に変更したこと以外は、実施例13と同様にして各種操作を行い、生成物を含む29.44gのp-キシレン溶液を得た。この溶液を、標準物質としてα-クロロアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、8.78gのα-クロロアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルが含まれていた(収率:68.5%)。
【0068】
[実施例15]
実施例13において、メタクリル酸クロリド7.8g(0.075mol)を、合成例2で得られた2-ブロモアクリル酸クロリド12.76g(0.075mol)に変更したこと以外は、実施例13と同様にして各種操作を行い、生成物を含む30.29gのp-キシレン溶液を得た。この溶液を、標準物質としてα-ブロモアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、9.54gのα-ブロモアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルが含まれていた(収率:63.2%)。
【0069】
[比較例1]
滴下ロート及び攪拌子を取り付けた容量100mlの丸底スフラスコに、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール8.4g(0.05mol)、アクリル酸クロリド6.8g(0.075mol),及び乾燥したシクロペンチルメチルエーテル70mlを入れ攪拌した。反応器を氷水で冷却し、ピリジン6.0g(0.075mol)を滴下ロートで約15分間かけて添加し、そのまま約1時間攪拌した。その後、反応器を25℃に昇温し、更に、7時間攪拌を継続した。内容物を分液ロートに移し、水40ml、5質量%の塩酸30ml、飽和重曹水30ml、飽和食塩水30mlで順次洗浄し、有機相を硫酸マグネシウムで乾燥した。少量のシクロペンチルメチルエーテルで洗浄しながら硫酸マグネシウムを除去し、生成物を含む55.01gのシクロペンチルメチルエーテル溶液を得た。この溶液を、標準物質としてアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、0.89gのアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルが含まれていた(収率:8.0%)。
【0070】
[比較例2]
実施例1において、相間移動触媒のテトラブチルアンモニウムブロミドを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして各種操作を行い、生成物を含む27.29gのトルエン溶液を得た。この溶液を、標準物質としてアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、5.38gのアクリル酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルが含まれていた(収率:34.7%)。
【0071】
上記実施例及び比較例の結果から明らかなように、本発明の不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルの製造方法は、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルを、簡便な操作で収率良く、且つ、経済性の面で工業的に有利に製造する方法であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、不飽和カルボン酸ヘキサフルオロイソプロピルエステルを、簡便な操作で収率良く、且つ、経済性の面で工業的に有利に製造する方法を提供できる。