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特開2023-46125α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法
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  • 特開-α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046125
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/03 20060101AFI20230327BHJP
   C07C 69/63 20060101ALI20230327BHJP
   B01J 27/053 20060101ALI20230327BHJP
   B01J 31/02 20060101ALI20230327BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230327BHJP
【FI】
C07C67/03
C07C69/63
B01J27/053 Z
B01J31/02 103Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021154842
(22)【出願日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100213997
【弁理士】
【氏名又は名称】金澤 佑太
(72)【発明者】
【氏名】杉本 達也
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BA42A
4G169BB10A
4G169BB10B
4G169BC38A
4G169BC39B
4G169BE22A
4G169BE22B
4G169BE34A
4G169BE34B
4G169CB25
4G169CB68
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC48
4H006BA66
4H006BA71
4H006BB12
4H006BD20
4H006BE03
4H006BM10
4H006BM71
4H006BM72
4H006DA15
4H006KA03
4H006KC12
4H006KF10
4H039CA66
4H039CD40
4H039CD90
(57)【要約】      (修正有)
【課題】α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルを、簡便な操作で収率良く、且つ、工業的に有利に製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、下記式(1):

[式(1)中、X及びYは、それぞれ独立して、ハロゲン原子を表し、Rfは、炭素数3以上6以下のフルオロアルキル基を表す。]で表されるα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法であって、下記式(2):

で表されるエステルと、RfOHで表されるフルオロアルコールと、を酸触媒及び含フッ素溶媒の存在下で反応させる工程を含む、エステルの製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
[式(1)中、X及びYは、それぞれ独立して、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子からなる群から選択されるハロゲン原子を表し、Rfは、炭素数3以上6以下のフルオロアルキル基を表す。]
で表されるα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法であって、
下記式(2):
【化2】
[式(2)中、X及びYは、式(1)中のX及びYと同じであり、Rは、メチル基又はエチル基を表す。]
で表されるα,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステルと、
下記式(3):
RfOH (3)
[式(3)中、Rfは、式(1)のRfと同じである。]
で表されるフルオロアルコールと、
を酸触媒及び含フッ素溶媒の存在下で反応させる工程を含む、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法。
【請求項2】
前記酸触媒が、硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸及び希土類金属トリフラートからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法。
【請求項3】
前記反応を還流下で行い、
前記還流中は、還流液をゼオライトに接触させて下記式(4):
ROH (4)
[式(4)中、Rは、式(2)のRと同じである。]
で表されるアルキルアルコールを除去する、請求項1又は2に記載のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法
【請求項4】
前記ゼオライトが、4A型合成ゼオライト及び5A型合成ゼオライトからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項3に記載のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法。
【請求項5】
前記式(2)で表されるα,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステルが、α,β-ジクロロプロピオン酸メチル及びα,β-ジブロモプロピオン酸メチルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、請求項1~4のいずれかに記載のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法。
【請求項6】
前記式(1)で表されるα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルが、α,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル、α,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチル又はα,β-ジブロモプロピオン酸-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルからなる群から選択される、請求項1~5のいずれかに記載のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α-ハロゲノアクリル酸フルオロアルキルエステルは、重合体の原料モノマー等として有用な化合物である。
例えば、α-ハロゲノアクリル酸フルオロアルキルエステルの1つであるα-クロロアクリル酸フルオロアルキルエステルは、半導体製造等の分野において主鎖切断型のポジ型レジストとして使用される共重合体の原料モノマーとして使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなα-ハロゲノアクリル酸フルオロアルキルエステルは、例えば、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルを、有機アミン又は無機アルカリと接触させて脱ハロゲン化をすることによって製造できる(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)。そのため、α,β-ジハロゲノロプロピオン酸フルオロアルキルエステルは、α-ハロゲノアクリル酸フルオロアルキルエステルの製造において重要な前駆体化合物である。
【0004】
ここで、特許文献2には、2,2,2,3,3-ペンタフルオロプロパノールとアクリル酸とからアクリル酸-2,2,2,3,3-ペンタフルオロプロピルを合成し、塩素ガスを用いてこのアクリル酸-2,2,2,3,3-ペンタフルオロプロピルを塩素化して、α,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,2,3,3-ペンタフルオロプロピルを製造する方法が開示されている。
また、特許文献3には、塩素ガスを用いて2-(パーフルオロブチル)エチルアクリレートを塩素化して、α,β-ジクロロプロピオン酸-(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロへキシル)を製造する方法も開示されている。
更に、特許文献4には、2,2,3,3-テトラフルオロプロパノールと、α,β-ジクロロプロピオン酸とを濃硫酸存在下で脱水縮合させることにより、α,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-067811号公報
【特許文献2】特開昭57-118535号公報
【特許文献3】国際公開第2006/54549号
【特許文献4】特開昭63-201145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2及び特許文献3の方法では、原料であるアクリル酸フルオロアルキルエステルの二重結合部分の電子密度が、強い電子吸引性を有するフルオロアルキル基によって低下しており、その結果、通常のアクリル酸アルキルエステルと比較して求電子的な塩素化反応が進行し難く、反応が完結するまでに多大な時間を要し、工業的に不利であるという問題がある。
【0007】
また、特許文献4の方法では、原料であるα,β-ジクロロプロピオン酸が強い吸湿性を有し、水分を吸ってベト付き等が生じるため、操作の観点からは扱い難いという問題がある。加えて、この強い吸湿性により、エステル化反応自体が進行しない恐れがあるという問題もある。
【0008】
本発明はかかる実情の下でなされたものであり、本発明の目的は、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルを、簡便な操作で収率良く、且つ、工業的に有利に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、所定のα,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステルと、所定のフルオロアルコールとを、酸触媒及び含フッ素溶媒の存在下で反応させる工程を含む方法であれば、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルを、簡便な操作で収率良く、且つ、工業的に有利に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明は、下記式(1):
【化1】
[式(1)中、X及びYは、それぞれ独立して、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子からなる群から選択されるハロゲン原子を表し、Rfは、炭素数3以上6以下のフルオロアルキル基を表す。]で表されるα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法であって、下記式(2):
【化2】
[式(2)中、X及びYは、式(1)中のX及びYと同じであり、Rは、メチル基又はエチル基を表す。]で表されるα,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステルと、下記式(3):
RfOH (3)
[式(3)中、Rfは、式(1)のRfと同じである。]で表されるフルオロアルコールと、を酸触媒及び含フッ素溶媒の存在下で反応させる工程を含む、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法である。このようなα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法であれば、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルを、簡便な操作で収率良く、且つ、工業的に有利に製造できる。
【0011】
本発明のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法において、前記酸触媒は、硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸及び希土類金属トリフラートからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
酸触媒が、硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸及び希土類金属トリフラートからなる群から選択される少なくとも1種であれば、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルをより収率良く製造できる。
【0012】
本発明のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法は、前記反応を還流下で行い、前記還流中は、還流液をゼオライトに接触させて下記式(4):
ROH (4)
[式(4)中、Rは、式(2)のRと同じである。]で表されるアルキルアルコールを除去することが好ましい。このようなα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法であれば、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルを、より簡便な操作でより収率良く、且つ、工業的により有利に製造できる。
【0013】
本発明のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法において、前記ゼオライトは、4A型合成ゼオライト及び5A型合成ゼオライトからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
ゼオライトが、4A型合成ゼオライト及び5A型合成ゼオライトからなる群から選択される少なくとも1種であれば、これらの化合物は入手が容易であるため、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルを工業的に更に有利に製造できる。また、ゼオライトが、4A型合成ゼオライト及び5A型合成ゼオライトからなる群から選択される少なくとも1種であれば、式(4)で表されるアルキルアルコールを効果的に吸着し、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルを更に収率良く製造できる。
【0014】
本発明のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法において、前記式(2)で表されるα,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステルは、α,β-ジクロロプロピオン酸メチル及びα,β-ジブロモプロピオン酸メチルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
式(2)で表されるα,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステルが、α,β-ジクロロプロピオン酸メチル及びα,β-ジブロモプロピオン酸メチルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物であれば、これらの化合物は合成が比較的容易であるため、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルを工業的により有利に製造できる。
【0015】
本発明のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法において、前記式(1)で表されるα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルは、α,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル、α,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチル又はα,β-ジブロモプロピオン酸-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルからなる群から選択されることが好ましい。
式(1)で表されるα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルが、α,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル、α,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチル又はα,β-ジブロモプロピオン酸-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルからなる群から選択されれば、重合体の製造に利用されるモノマーを得るための原料としてより有利に用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルを、簡便な操作で収率良く、且つ、工業的に有利に製造する方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】還流器の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
ここで、本発明のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法を用いて製造されるα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルは、例えば、重合体の製造に利用されるモノマーを得るための原料として有利に用いることができる。具体的には、主鎖切断型のポジ型レジストとして好適に使用し得る、電子線等の電離放射線や紫外線等の短波長の光の照射により主鎖が切断されて低分子量化する重合体の製造の利用されるα-ハロゲノアクリル酸フルオロアルキルエステルを得るための原料等として有利に用いることができる。
【0019】
(α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法)
本発明のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法は、後述する式(2)で表されるα,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステルと、後述する式(3)で表されるフルオロアルコールと、を酸触媒及び含フッ素溶媒の存在下で反応させる工程を含む。
【0020】
<α,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステル>
本発明のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法で使用するα,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステルは、下記式(2)で表される化合物である。
【化3】
【0021】
なお、式(2)中、X及びYは、以下で説明する式(1)中のX及びYと同じである。即ち、式(2)中、X及びYは、それぞれ独立して、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子からなる群から選択されるハロゲン原子を表す。また、式(2)中、Rは、メチル基又はエチル基を表す。式(2)で表されるα,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステルは、比較的安定な化合物であり、取り扱いが容易であるため、これを原料として用いることにより、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルを、簡便な操作で、且つ、工業的に有利に製造できる。
式(2)で表されるα,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステルとしては、例えば、α,β-ジクロロプロピオン酸メチル、α,β-ジブロモプロピオン酸メチル、α,β-ジフルオロプロピオン酸メチル、α-フルオロ-β-クロロプロピオン酸メチル、α-ブロモ-β-クロロプロピオン酸メチル、α-クロロ-β-ヨードプロピオン酸メチル等のα,β-ジハロゲノプロピオン酸メチル;α,β-ジクロロプロピオン酸エチル、α,β-ジブロモプロピオン酸エチル、α,β-ジフルオロプロピオン酸エチル、α-フルオロ-β-クロロプロピオン酸エチル、α-ブロモ-β-クロロプロピオン酸エチル、α-クロロ-β-ヨードプロピオン酸エチル等のα,β-ジハロゲノプロピオン酸エチルが挙げられる。これらの中でも、合成が比較的容易であり、その結果、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルを工業的により有利に製造できることから、α,β-ジクロロプロピオン酸メチル、α,β-ジブロモロプロピオン酸メチル、α,β-ジクロロプロピオン酸エチル及びα,β-ジブロモプロピオン酸エチルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を使用することが好ましく、α,β-ジクロロプロピオン酸メチル及びα,β-ジクロロプロピオン酸メチルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を使用することがより好ましい。
【0022】
α,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステルは、従来公知の方法に従って合成できる。例えば、Macromolecuels,Vol.19,1035(1986)及び特開平1-172356号公報には、アクリル酸メチルと塩素ガスからα,β-ジクロロプロピオン酸メチルを合成した例が開示されている。また、Polymer Chemistry,Vol.9,2082(2018)には、アクリル酸メチルと臭化銅(I)から、α,β-ジブロモプロピオン酸メチルを合成した例が開示されている。
更に、他の合成例として、特開2014-214147号公報には、アミノ酸の1種であるセリンを原料にし、ピリジン-フッ化水素塩と亜硝酸ナトリウムから、α-フルオロ-β-ヒドロキシプロピオン酸を得て、更にこれと塩化チオニルを反応させて得られる溶液をメタノールと混合することにより、α-フルオロ-β-クロロプロピオン酸メチルが得られることが開示されている。また、同様な方法により、特開2012-530756号公報には、α-フルオロ-β-ヒドロキシプロピオン酸エチルからα-フルオロ-β-クロロプロピオン酸エチルを合成できることが開示されている。
【0023】
<フルオロアルコール>
本発明のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法で使用するフルオロアルコールは、以下の式(3)で表される化合物である。
RfOH (3)
【0024】
なお、式(3)中、Rfは、以下で説明する式(1)のRfと同じである。即ち、式(3)中、Rfは、炭素数3以上6以下のフルオロアルキル基を表す。Rfは、入手が容易であることから、炭素数3以上5以下のフルオロアルキル基であることが好ましい。
式(3)で表されるフルオロアルコールとしては、反応条件等の観点から、沸点が80℃以上のものを好適に使用できる。このようなフルオロアルコールとしては、具体的には、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパノール(沸点:80℃)、2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール(沸点:109℃)、3,3,3-トリフルオロプロパノール(沸点:100℃)等の炭素数3のフルオロアルコール;2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブタノール(沸点:96℃)、2,2,3,4,4,4-ヘキサフルオロブタノール(沸点:114℃)、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブタノール(沸点:110℃)、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブタン-2-オール(沸点:83℃)等の炭素数4のフルオロアルコール、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンタノール(沸点:140℃)、4,4,5,5,5-ペンタフルオロペンタノール(沸点:135℃)、1,1,1,2,2-ペンタフルオロペンタン-3-オール(沸点:97℃)等の炭素数5のフルオロアルコール;2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,6-ウンデカフルロヘキサノール(沸点:130℃)等の炭素数6のフルオロアルコール等を挙げることができる。これらの中でも、入手が容易であることから、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパノール、2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブタノール、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンタノールが好ましく、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパノール、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブタノールがより好ましい。
【0025】
式(3)で表されるフルオロアルコールの使用量は、α,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステル1mol当たり、通常1mol以上、好ましくは1.5mol以上、通常5mol以下、好ましくは3mol以下である。
式(3)で表されるフルオロアルコールの使用量が上記下限以上であれば、エステル交換反応が進行し易くなり、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルをより収率良く製造できる。一方、式(3)で表されるフルオロアルコールの使用量が上記上限以下であれば、経済的に有利となり、且つ、反応終了後の精製操作を簡潔にすることができる。
【0026】
<含フッ素溶媒>
本発明のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法では、含フッ素溶媒を使用する。本発明のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法は含フッ素溶媒を使用することにより、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルを、簡潔な操作で収率良く、且つ、工業的に有利に製造できる。具体的には、反応においてポリマーが大量に生成し、目的物であるα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルが回収できなくなること、及び収率が低下することを抑制できる。その理由は以下の通りであると推察される。
【0027】
まず、原料であるα,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステル、及び目的生成物であるα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルは、加熱等により、β位のハロゲン原子が容易に脱離する。本発明のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法で用いられる含フッ素溶媒は、式(2)で表されるα,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステル及び式(3)で表されるフルオロアルコールを良好に溶解するため、反応時において加温したときに、局所的に高温になる部分の発生を抑制できる。その結果、α,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステル及び/又はα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルが脱ハロゲン化を起こすこと、及びこれらが重合することを抑制できる。
以上の理由より、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルを、簡潔な操作で収率良く、且つ、工業的に有利に製造できると考えられる。
【0028】
含フッ素溶媒としては、原料である、α,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステル及びフルオロアルコールを良好に溶解できるものであれば特に限定されない。含フッ素溶媒は、原料であるα,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステルの溶解量が、20℃における含フッ素溶媒100g当たり、10g以上の溶媒であることが好ましく、20g以上の溶媒であることがより好ましい。また、含フッ素溶媒は、フルオロアルコールの溶解量が、20℃における含フッ素溶媒100g当たり、20g以上の溶媒であることが好ましく、45g以上の溶媒であることがより好ましい。このような含フッ素溶媒であれば、反応時において加温したときに、局所的に高温になる部分が発生することを効果的に抑制できる。
【0029】
本発明のエステル交換反応を還流下で行う場合には、含フッ素溶媒は、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルをより収率良く製造できることから、後述する式(4)で表されるアルキルアルコールと共沸混合物を形成する溶媒、或いは、アルキルアルコールを反応系外へ導きやすい溶媒(例えば、アルキルアルコールよりも沸点が高い溶媒等)であることが好ましい。このような含フッ素溶媒としては、例えば、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン(沸点:82℃)、ノナフルオロブチルエチルエーテル(沸点:76℃)、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロ-2-トリフルオロメチル-3-メトキシペンタン(沸点:98℃)、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン(沸点:114℃)等が挙げられる。これらの中でも、後述する式(4)で表されるアルキルアルコールと共沸混合物を形成する、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン(沸点82℃)、ノナフルオロブチルエチルエーテル(沸点76℃)が好ましい。
【0030】
含フッ素溶媒の使用量は、α,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステル及びフルオロアルコールの合計質量に対して、通常0.5倍以上、好ましくは1倍以上、通常3倍以下、好ましくは2倍以下の量である。
含フッ素溶媒の使用量が上記下限以上であれば、局所的に高温になる部分が発生することを抑制し、α,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステル及びα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの脱ハロゲン化を抑制できる。一方、含フッ素溶媒の使用量が上記上限以下であれば、原料の濃度が高くなり、エステル交換反応の反応速度を速めることができる。
【0031】
<酸触媒>
本発明のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法では、酸触媒を使用する。酸触媒としては、例えば、硫酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のプロトン酸;トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム(III)、トリフルオロメタンスルホン酸イッテルビウム(III)、トリフルオロメタンスルホン酸ネオジウ(III)等の希土類金属トリフラート、トリフルオロメタンスルホン酸ハフニウム(IV)等のルイス酸;等が挙げられる。これらの中でも、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルをより収率良く製造できることから、硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸及び希土類金属トリフラートからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。希土類金属トリフラートの中では、トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム(III)、トリフルオロメタンスルホン酸イッテルビウム(III)が好ましく、トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム(III)がより好ましい。
【0032】
酸触媒の使用量は、酸触媒の活性度により適宜調整可能であるが、原料であるα,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステル1mol当たり、通常0.00001mol以上、好ましくは0.0001mol以上、通常0.5mol以下、好ましくは0.3mol以下である。
酸触媒の使用量が上記下限以上であれば、エステル交換反応が円滑に進行し、目的生成物であるα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルをより収率良く製造できる。一方、酸触媒の使用量が上記上限以下であれば、後処理時の分離操作が容易になり、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルをより簡潔な操作で製造できる。また、酸触媒の使用量が上記上限以下であれば、原料のα,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステル及び目的生成物のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルが脱ハロゲン化を抑制し、この結果、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルをより収率良く製造できる。
【0033】
<反応条件>
エステル交換反応を行う際の加熱温度は、エステル交換反応が起こる温度であれば、特に限定されないが、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、通常150℃以下、好ましくは140℃以下である。
加熱温度が上記下限以上であれば、エステル交換反応を効果的に進行させることができる。一方、加熱温度が上記上限以下であれば、反応速度が過剰に速まることを抑制できる。また、本発明のエステル交換反応を還流下で行う場合、加熱温度が上記上限以下であれば、還流状態が激しくなり過ぎることを抑制できる。
【0034】
エステル交換反応の反応時間は、加熱温度等により適宜決定できるが、通常10時間以上、好ましくは20時間以上、通常5日以下、好ましくは3日以下である。
反応時間が上記下限以上であれば、原料が残存することを抑制できる。一方、反応時間が上記上限以下であれば、α,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステル及び/又はα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルが脱ハロゲン化を起こすこと、及びこれらが重合することを抑制できる。
【0035】
エステル交換反応は、還流下で行うことが好ましい。エステル交換反応が還流下で行われれば、反応温度が良好な温度に保たれるため、エステル交換反応が効果的に進行し、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルを、より簡便な操作でより収率良く、且つ、工業的により有利に製造できる。
一実施形態において、還流は、反応器と、反応器上部に位置するコンデンサー(冷却管)とを備える還流器を用いて行うことができる。反応器とコンデンサーとは、連結管により接続されてもよい。連結管は、特に限定されず、1つのみの経路を有するものでも、2つ以上の経路を有するものでもよい。
【0036】
エステル交換反応が還流下で行われる場合、還流中は、還流液から以下の式(4)で表されるアルキルアルコールを除去することが好ましい。
ROH (4)
【0037】
なお、式(4)中、Rは、式(2)のRと同じである。即ち、式(4)中、Rは、メチル基又はエチル基を表す。還流液から式(4)で表されるアルキルアルコールが除去されれば、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルを更に収率良く製造できる。その理由は以下の通りであると推察される。
【0038】
酸触媒を使用した本発明のエステル交換反応では、反応が進行すると、目的生成物のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルと、副生成物の式(4)で表されるアルキルアルコールとが生成する。ここで、エステル交換反応は、平衡反応であるため、アルキルアルコールの生成量が増加するにつれて、反応速度は低下する。還流液からアルキルアルコールを除去すると、平衡状態が崩れ、目的生成物のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルが生成する方向に反応が進行し易くなる。
以上の理由により、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルを更に収率良く製造できると考えられる。
【0039】
式(4)で表されるアルキルアルコールの除去方法は、特に限定されないが、例えば、ゼオライト等の吸着材にアルキルアルコールを吸着させる(細孔内に取り込まれる)方法、冷媒の温度が異なる2つ以上のコンデンサーを直列に用いて各成分の沸点差を利用して除去する方法等が挙げられる。
アルキルアルコールの除去方法では、還流操作が容易となり、且つ、吸着物質の選択的に優れることから、ゼオライトを用いることが好ましい。即ち、本発明のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法では、還流液をゼオライトに接触させてアルキルアルコールを除去することが特に好ましい。
【0040】
ゼオライトは、結晶性アルミノケイ酸塩の総称であり、天然物又は合成物がある。本発明のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製法方法において使用され得るゼオライトは、式(4)で表されるアルキルアルコールを吸着できるものであれば特に限定されないが、例えば、4A型、5A型、13X型等のゼオライトが挙げられる。ゼオライトは、入手が容易であり、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルを工業的に更に有利に製造できること、及び、アルキルアルコールを効果的に吸着し、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルを更に収率良く製造できることから、4A型合成ゼオライト及び5A型合成ゼオライトからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。4A型合成ゼオライト及び5A型合成ゼオライトとしては、具体的には、モレキュラーシーブス4A及びモレキュラーシーブス5A等がある。
なお、ゼオライトは、使用前に、焼成する等の活性化処理が施されていてもよい。
【0041】
ゼオライトの形状は、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルをより簡便な操作で製造できることから、ビーズ状又はペレット状であることが好ましい。
【0042】
ゼオライトの使用量は、式(4)で表されるアルキルアルコールを十分に吸着できる量であれば特に限定されないが、原料であるα,β-ジハロゲノプロピオン酸アルキルエステルから生成するアルキルアルコールの理論最大量に対して、質量基準で、好ましくは50倍以上、より好ましくは80倍以上、好ましくは200倍以下、より好ましくは150倍以下である。
ゼオライトの使用量が上記下限以上であれば、効果的にアルキルアルコールを吸着し、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルをより収率良く製造できる。一方、ゼオライトの使用量が上記上限以下であれば、ゼオライトの使用量が過剰になることを抑制し、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルを工業的により有利に製造できる。
【0043】
ゼオライトは、エステル交換反応に悪影響を及ぼさないものであれば、含フッ素溶媒中に存在していてもよいが、反応終了後に分離する必要がなく、その結果、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルをより簡便な操作で製造できることから、ゼオライトは連結管内に充填して用いることが好ましい。即ち、連結管は、ゼオライトが充填された充填管であることが好ましい。
充填管は、1つのみの経路を有するものでも、2つ以上の経路を有するものでもよいが、2つ以上の経路を有するものが好ましい。充填管が2つ以上の経路を有する場合、少なくとも還流液が通過する経路にゼオライトが充填されていることが好ましい。このような充填管の形状であれば、アルキルアルコールを効果的に吸着し、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルをより収率良く製造できる。
【0044】
以下、図1に示すような、反応器11と、反応器11上部に位置するコンデンサー13とを備え、反応器11とコンデンサー13とが充填管12により連結され、充填管12が2つの経路を有する、還流器10を例示して、還流操作の一例を説明する。
反応器11内の原料と生成物とを含む混合液14を加熱すると、混合液14に含まれるアルキルアルコール、フルオロアルコール及び含フッ素溶媒等の低沸点成分が気化して蒸気になる。蒸気は、充填管12の側管(図1では左側の経路)を通過し、上部にあるコンデンサー13で冷却されて還流液15となる。ここで、コンデンサー13では、矢印の方向に冷媒が循環している。還流液15は、ゼオライト16が充填されている充填管12の本体部分(図1では右側の経路)を通過し、還流液15に含まれるアルキルアルコールは、ゼオライト16に吸着され、残りの還流液15は反応器11内に戻される。これが連続的に繰り返されて還流が行われる。なお、還流器10は、図1に示すように、コンデンサー13の上部に、吸排気管17が連結されていてもよい。
【0045】
本発明のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法において、エステル交換反応の終了後は、例えば、酸触媒をアルカリ洗浄や濾過等により除去する工程、含フッ素溶媒や未反応物を留去して濃縮する工程、濃縮後の溶液を蒸留精製する工程等の任意の工程を行ってもよい。
【0046】
<α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステル>
本発明のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法により得られるα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルは、以下の式(1)で表される化合物である。
【化4】
【0047】
なお、式(1)中、X及びYは、それぞれ独立して、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子からなる群から選択されるハロゲン原子を表し、Rfは、炭素数3以上6以下のフルオロアルキル基を表す。
式(1)で表されるα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルは、重合体の製造に利用されるモノマーを得るための原料としてより有利に用いることができることから、α,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル、α,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチル又はα,β-ジブロモプロピオン酸-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルからなる群から選択されることが好ましい。
【実施例0048】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によってその範囲を限定されるものではない。なお、特に断りがない限り、「%」は「質量%」を表す。
【0049】
実施例及び比較例にて行ったガスクロマトグラフィー分析(GC分析)の分析条件は、以下の通りである。
【0050】
装置:Agilent-7890(アジレント社製)
カラム:Inert Cap-1(ジーエルサイエンス社製、長さ60m、内径0.25mm、膜厚1.5μm)
カラム温度:60℃で10分間保持、次いで、昇温速度20℃/分で260℃まで昇温し、その後、260℃で10分間保持
インジェクション温度:250℃
検出器温度:250℃
キャリヤーガス:窒素
スプリット比:100/1
検出器:FID
【0051】
[実施例1]
側管付き滴下ロート及び攪拌子を取り付け、更に側管付き滴下ロートの上部にジムロート型コンデンサー取り付けた容量100mlの丸底スフラスコに、α,β-ジクロロプロピオン酸メチル15.7g(0.1mol、アルファエイサー製)、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパノール30g(0.2mol)、溶媒としてのヘプタフルオロシクロペンタン60g、及び酸触媒としての濃硫酸2.94g(0.03mol)を投入した。側管付き滴下ロートの本体部分には、ペレット状モレキュラーシーブス5A(直径:1/16インチ)30gが充填されている。コンデンサーには0℃の冷媒を循環させた。丸底フラスコを、130℃に加熱したオイルバスに浸漬し、還流を30時間継続した。その間、本体部分を通過する還流液(凝縮液)をモレキュラーシーブスに接触させた。30時間経過後、加温を停止し、室温まで冷却させた。内容物を、水30ml、飽和重曹水30ml、飽和食塩水30mlで順次洗浄し、有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させた。有機相をエバポレーターで濃縮し、26.49gの液体を回収した。この液体を、標準物質としてα、β-ジクロロプロピオン酸2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、19.25gのα,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルが含まれていた(収率:70.0%)。
【0052】
[実施例2]
実施例1において、酸触媒の濃硫酸2.94g(0.03mol)をトリフルオロメタンスルホン酸1.5g(0.01mol)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして各種操作を行い、25.37gの液体を回収した。この液体を、標準物質としてα、β-ジクロロプロピオン酸2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、18.92gのα,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルが含まれていた(収率:68.8%)。
【0053】
[実施例3]
実施例1において、溶媒のヘプタフルオロシクロペンタン60gをノナフルロブチルエチルエーテル60gに変更し、オイルバスの温度を125℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして各種操作を行い、24.08gの液体を回収した。この液体を、標準物質としてα、β-ジクロロプロピオン酸2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、18.53gのα,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルが含まれていた(収率:67.4%)。
【0054】
[実施例4]
実施例1において、ペレット状モレキュラーシーブス5A(直径:1/16インチ)30gをペレット状モレキュラーシーブス4A(直径:1/16インチ)30gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして各種操作を行い、25.37gの液体を回収した。この液体を、標準物質としてα、β-ジクロロプロピオン酸2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、18.81gのα,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルが含まれていた(収率:68.6%)。
【0055】
[実施例5]
実施例1において、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパノール30g(0.2mol)を22.5g(0.15mol)に減量し、酸触媒の濃硫酸2.94g(0.03mol)をトリフルオロメタンスルホン酸1.5g(0.01mol)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして各種操作を行い、23.30gの液体を回収した。この液体をガスクロマトグラフィーで分析したところ、17.0gのα,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルが含まれていた(収率:61.9%)。
【0056】
[実施例6]
実施例1において、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパノール30g(0.2mol)を2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブタノール40g(0.2mol)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして各種操作を行い、28.66gの液体を回収した。この液体を、標準物質としてα,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチルを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、22.13gのα,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチルが含まれていた(収率:68.1%)。
【0057】
[実施例7]
実施例6において、溶媒のヘプタフルオロシクロペンタン60gをノナフルオロブチルエチルエーテル60gに変更し、オイルバスの温度を125℃に変更し、還流時間を35時間に変更したこと以外は、実施例6と同様にして各種操作を行い、31.09gの液体を回収した。この液体を、標準物質としてα,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチルを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、24.41gのα,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチルが含まれていた(収率:75.1%)。
【0058】
[実施例8]
実施例7において、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブタノール40g(0.2mol)を30g(0.15mol)に減量したこと以外は、実施例7と同様にして各種操作を行い、28.09gの液体を回収した。この液体を、標準物質としてα,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチルを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、20.80gのα,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチルが含まれていた(収率:64.0%)。
【0059】
[実施例9]
実施例1において、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパノール30g(0.2mol)を2,2,3,3-テトラフルオロペンタノール26g(0.2mol)に変更し、オイルバスの温度を125℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして各種操作を行い、29.16gの液体を回収した。この液体を、標準物質としてα,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、19.92gのα,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルが含まれていた(収率:78.8%)。
【0060】
[実施例10]
側管付き滴下ロート及び攪拌子を取り付け、更に側管付き滴下ロートの上部にジムロート型コンデンサー取り付けた容量100mlの丸底スフラスコに、α,β-ジクロロプロピオン酸メチル15.7g(0.1mol、アルファエイサー製)、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブタノール40g(0.2mol)、溶媒としてのノナフルオロブチルエチルエーテル60g、及び酸触媒としてのトリス(トリフルオロメタンスルホン酸)スカンジウム(III)1.47g(0.003mol)を投入した。側管付き滴下ロートの本体部分には、ペレット状モレキュラーシーブス5A(直径:1/16インチ)30gが充填されている。コンデンサーには0℃の冷媒を循環させた。丸底フラスコを125℃に加熱したオイルバスに浸漬し、還流を30時間継続した。その間、本体部分を通過する還流液(凝縮液)をモレキュラーシーブスに接触させた。30時間経過後、加温を停止し、室温まで冷却させた。内容物を濾過して固形物を濾別し、濾液を、水30ml、飽和重曹水30ml、飽和食塩水30mlで順次洗浄し、有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させた。有機相をエバポレーターで濃縮し、29.16gの液体を回収した。この液体を、標準物質としてα,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチルを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、18.91gのα,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチルが含まれていた(収率:58.1%)。
【0061】
[実施例11]
実施例10において、α,β-ジクロロプロピオン酸メチル15.7g(0.1mol、アルファエイサー製)をα、β-ジブロモプロピオン酸メチル24.6g(0.1mol、東京化成工業製)に変更し、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブタノール40g(0.2mol)を2,2,3,3、3-ペンタフルオロプロパノール30g(0.2mol)に変更したこと以外は、実施例10と同様にして各種操作を行い、27.95gの液体を回収した。この液体を、標準物質としてα,β-ジブロモプロピオン酸-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、21.37gのα,β-ジブロモプロピオン酸-2,2,3,3,3-ペンタフルオロピロピルが含まれていた(収率:58.7%)。
【0062】
[比較例1]
側管付き滴下ロート及び攪拌子を取り付け、更に側管付き滴下ロートの上部にジムロート型コンデンサー取り付けた容量100mlの丸底スフラスコに、α,β-ジクロロプロピオン酸メチル15.7g(0.1mol、アルファエイサー製)、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパノール30g(0.2mol)、及び酸触媒としての濃硫酸2.94g(0.03mol)を投入した。側管付き滴下ロートの本体部分には、ペレット状モレキュラーシーブス5A(直径:1/16インチ)30gが充填されている。コンデンサーには0℃の冷媒を循環させた。丸底フラスコを120℃に加熱したオイルバスに浸漬し、還流を10時間継続した。その間、滴下ロートの側管、及びコンデンサー部で凝縮する液は、モレキュラーシーブスに接触させた。10時間経過後、加温を停止し、室温まで冷却させた。内容物を、水30mlで洗浄したところ、大量のポリマーが析出し、目的物であるα,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルは回収できなかった。本反応においては、溶媒が存在しないため、加温したときに、局所的に高温になる部分が発生し、その結果、原料であるα,β-ジクロロプロピオン酸メチル、又は目的生成物であるα,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルが脱ハロゲン化を起こし、α-クロロアクリル酸メチル及び/又はα-クロロアクリル酸-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルが生成し、これらが熱により重合したものと推測される。
【0063】
[比較例2]
実施例1において、溶媒のヘプタフルオロシクロペンタン60gをトルエン40gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして各種操作を行ったところ、24.03gのゲル状物が回収された。このゲル状物を、標準物質としてα,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルを用いてガスクロマトグラフィーで分析したところ、5.30gのα,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルが含まれていた(収率:19.3%)。本反応においては、トルエンが、α,β-ジクロロプロピオン酸メチル及び2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパノールを良好に溶解できなかったため、加温したときに、局所的に高温になる部分が発生し、その結果、原料であるα,β-ジクロロプロピオン酸メチル、又は目的生成物であるα,β-ジクロロプロピオン酸-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルが脱ハロゲン化を起こし、α-クロロアクリル酸メチル及び/又はα-クロロアクリル酸-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルが生成し、これらが熱により重合したものと推測される。
【0064】
上記実施例及び比較例の結果から明らかなように、本発明のα,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルの製造方法は、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルを、簡便な操作で収率良く、且つ、工業的に有利に製造する方法であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、α,β-ジハロゲノプロピオン酸フルオロアルキルエステルを、簡便な操作で収率良く、且つ、工業的に有利に良く製造する方法を提供できる。
【符号の説明】
【0066】
10 還流器
11 反応器
12 充填管
13 コンデンサー
14 混合液
15 還流液
16 ゼオライト
17 吸排気管
図1