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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046257
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】履帯式走行体
(51)【国際特許分類】
   B62D 11/20 20060101AFI20230327BHJP
   B62D 55/06 20060101ALI20230327BHJP
   B62D 55/12 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
B62D11/20
B62D55/06
B62D55/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022126316
(22)【出願日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2021153407
(32)【優先日】2021-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】志村 浩
(72)【発明者】
【氏名】北原 拓
(72)【発明者】
【氏名】岡本 寛
(72)【発明者】
【氏名】小泉 英知
【テーマコード(参考)】
3D052
【Fターム(参考)】
3D052AA04
3D052AA17
3D052BB11
3D052EE01
3D052FF03
3D052HH03
3D052JJ19
(57)【要約】
【課題】大型化せずかつブレーキ機能の搭載が容易な履帯式走行体を提供する。
【解決手段】本発明は、履帯式走行体であって、履帯を掛けまわした車輪と、ディスクと、前記車輪と前記ディスクとを接続し、前記車輪と前記ディスクとを一緒に回転させるディスク連結部と、前記ディスクをブレーキパッドで挟み込むブレーキキャリパーと、前記ブレーキパッドを開閉させるモータと、前記モータを制御して前記ブレーキパッドの開閉の度合いを制御するモータ制御部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
履帯式走行体であって、
履帯を掛けまわした車輪と、
ディスクと、
前記車輪と前記ディスクとを接続し、前記車輪と前記ディスクとを一緒に回転させるディスク連結部と、
前記ディスクをブレーキパッドで挟み込むブレーキキャリパーと、
前記ブレーキパッドを開閉させるモータと、
前記モータを制御して前記ブレーキパッドの開閉の度合いを制御するモータ制御部と、
を備える履帯式走行体。
【請求項2】
前記ブレーキキャリパーを保持するブレーキ保持部をさらに備え、
前記車輪は、前記履帯式走行体の本体に対して揺動可能に設けられ、
前記ブレーキ保持部は、前記車輪の軸に固定されている、請求項1に記載の履帯式走行体。
【請求項3】
前記モータから前記ブレーキパッドに対して動力を伝えて、前記ブレーキパッドの開閉の度合いを制御するウォームギアをさらに備える請求項1または2に記載の履帯式走行体。
【請求項4】
前記モータ制御部は、前記ブレーキキャリパーによるブレーキの強度と、前記モータの回転位置と、を対応付ける位置テーブルを記憶し、前記位置テーブルを更新する、請求項1に記載の履帯式走行体。
【請求項5】
前記ブレーキパッドの開放を指示する開放スイッチをさらに備え、
前記モータ制御部は、前記開放スイッチから前記ブレーキパッドの開放が指示された場合、前記ブレーキパッドを開放する、請求項1に記載の履帯式走行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、履帯式走行体に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪に掛け回した履帯によって走行する履帯式走行体が知られている。
【0003】
特許文献1にはブレーキ機構として、油圧モータへの圧油の一部を駐車ブレーキの解除側のシリンダ室に供給し、走行中は、駐車ブレーキの制動を解除し、停止に伴い駐車ブレーキが制動される技術が開示されている。また、特許文献2には、特許文献1にはブレーキ機構として、駐車ブレーキのペダルの踏み込み量に基づいて駐車ブレーキの作動とスピンターンの牽制を制御する技術が開示されている。また特許文献3には小型の履帯式走行体の発明が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で開示された技術は、大型の履帯型移動体への油圧制御の大規模なブレーキ機能であり、特許文献2に開示された技術は、走行制御と連携した動作するブレーキ制御であってブレーキ機能の搭載工程が複雑となる。また特許文献3にはブレーキ機構についての開示が無い。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、大型化せずかつブレーキ機能の搭載が容易な履帯式走行体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、履帯式走行体であって、履帯を掛けまわした車輪と、円盤状のディスクと、前記車輪と前記ディスクとを接続し、前記車輪と前記ディスクとを一緒に回転させるディスク連結部と、前記ディスクをブレーキパッドで挟み込むブレーキキャリパーと、前記ブレーキパッドを開閉させるモータと、前記モータを制御して前記ブレーキパッドの開閉の度合いを制御するモータ制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、大型化せずかつブレーキ機能の搭載が容易である、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施の形態にかかる走行装置の構成の一例を示す図である。
図2図2は、本実施の形態にかかる走行装置の走行状態の一例を示す図である。
図3図3は、本実施の形態にかかる履帯式走行体の構成の一例を示す図である。
図4図4は、本実施の形態にかかる履帯式走行体の構成の一例を示す図である。
図5図5は、本実施の形態にかかる履帯式走行体のテンショナの構成の一例を説明するための図である。
図6図6は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備えるテンショナの詳細構成の一例を示す斜視図である。
図7図7は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備えるテンショナの状態について説明するための図である。
図8図8は、本実施の形態にかかる履行式走行体に備えられた側板の構成の一例を示す図である。
図9図9は、本実施の形態にかかる履行式走行体に備えられた側板の構成の一例を示す図である。
図10図10は、本実施の形態にかかる履行式走行体に備えられた側板の構成の一例を示す図である。
図11図11は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備える駆動輪の構成の一例を示す図である。
図12図12は、本実施の形態にかかる履行式走行体に備える転輪の構成の一例を示す図である。
図13図13は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備える転輪における軸部の内部構造の一例を示す図である。
図14図14は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備える補助機構の構成の一例を示す図である。
図15図15は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備えるリンクの内部構造の一例を示す図である。
図16図16は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備えるアイドラの構成の一例を示す図である。
図17図17は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備える補助機構の詳細構成の一例を説明するための図である。
図18図18は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備える補助機構の詳細構成の一例を説明するための図である。
図19図19は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備える補助機構における押上量と押下量の関係の一例を示す図である。
図20図20は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備える補助機構における押上量と押下量の関係の一例を示す図である。
図21図21は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備える補助機構における押上量と押下量の関係の一例を示す図である。
図22図22は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備える補助機構における押上量と押下量の関係の一例を示す図である。
図23図23は、本実施の形態にかかる履帯式走行体の側面図である。
図24図24は、本実施の形態にかかる走行装置が有するディスクブレーキの構成の一例を示す図である。
図25図25は、本実施の形態にかかる走行装置のディスクブレーキが有するギアボックス内の基本的な構造の一例を示す図である。
図26図26は、本実施の形態にかかる走行装置のディスクブレーキの取付方法の他の例を説明するための図である。
図27図27は、本実施の形態にかかる走行装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図28図28は、本実施の形態にかかる走行装置の自立走行の制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図29図29は、本実施の形態にかかる走行装置が有するブレーキ制御部のハードウェア構成の一例を示す図である。
図30図30は、本実施の形態にかかる走行装置が有するブレーキ制御部が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図31図31は、本実施の形態にかかる走行装置のブレーキ制御部によるモータの制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図32図32は、本実施の形態にかかる走行装置における位置テーブルの更新処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図33図33は、本実施の形態にかかる走行装置における位置テーブルの更新処理の一例を説明するための図である。
図34図34は、本実施の形態にかかる走行装置におけるブレーキ開放SWの押下に応じたブレーキパッドの開放処理の一例を説明するための図である。
図35図35は、本実施の形態に係る走行装置におけるブレーキ開放SWの押下に応じたブレーキパッドの開放処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照して、履帯式走行体の実施の形態を詳細に説明する。
【0010】
まず、図1を用いて、本実施の形態にかかる走行装置1の構成の一例について説明する。図1は、本実施の形態にかかる走行装置の構成の一例を示す図である。
【0011】
図1(A)は、本実施の形態にかかる走行装置の外観斜視図である。走行装置1は、履帯式走行体10a,10bおよび本体50を有する。
【0012】
履帯式走行体10a,10bは、走行装置1の移動手段となるユニットである。また、履帯式走行体10a,10bは、金属またはゴム製のベルトを用いた履帯(クローラ)式の走行体である。履帯式の走行体は、自動車のようなタイヤで走行する走行体と比較して接地面積が広く、例えば、足場の悪い環境においても、安定した走行を行うことができる。また、タイヤで走行する走行体は、回転動作を行う際に旋回スペースを必要とするのに対して、履帯式の走行体を備えた走行装置は、いわゆる超信地旋回を行うことができるため、限られたスペースでも回転動作をスムーズに行うことができる。履帯式走行体10a,10bの詳細な構成については後述する。
【0013】
本体50は、履帯式走行体10a,10bを走行可能な状態で支持する支持体であるとともに、走行装置1を駆動させるための制御を行う制御装置である。また、本体50は、履帯式走行体10a,10bを駆動させるための電力を供給する、後述のバッテリ1515(図15参照)を搭載する。
【0014】
図1(B)は、本実施の形態にかかる走行装置の前面図(P矢視図)である。走行装置1の本体50は、非常停止ボタン31、状態表示ランプ33、および蓋部35を備える。非常停止ボタン31は、走行装置1の周辺にいる人が、走行中の走行装置1を停止させる際に押下する操作手段である。
【0015】
状態表示ランプ33は、走行装置1の状態を通知するための通知手段である。状態表示ランプ33は、例えば、バッテリ残量の低下等の走行装置1の状態が変化した場合、周囲の人に、走行装置1の状態変化を知らせるために点灯する。また、状態表示ランプ33は、例えば、走行装置1の走行を妨げる障害物の存在等が検知された場合等、異常発生のおそれがある場合に点灯する。なお、図1Bは、走行装置1に状態表示ランプ33が2つ備えられている例を示すが、状態表示ランプ33の数は、1つであってもよく、3つ以上であってもよい。また、通知手段は、状態表示ランプ33のみならず、スピーカから発せられる警告音等によって走行装置1の状態を通知する構成であってもよい。
【0016】
蓋部35は、本体50の上面に設けられ、本体50の内部を封止する。また、蓋部35は、本体50の内部の通気を行うための通気口を有する通気部35aを有する。
【0017】
また、2つの履帯式走行体10a,10bは、本体50を挟んで、後述の履帯11a、11bが略平行になるように、すなわち、走行装置1が走行可能な状態で設置される。なお、履帯式走行体の数は、2つに限定されるものではなく、3つ以上であってもよい。例えば、走行装置1は、3つの履帯式走行体を平行に三列に整列させる等、走行装置1が走行可能な状態で設置されてもよい。また、例えば、走行装置1は、4つの履帯式走行体を自動車のタイヤのように前後左右に配列させてもよい。
【0018】
図1(C)は、本実施の形態にかかる走行装置の側面図(Q矢視図)である。履帯式走行体10aは、後述する駆動輪13(図4参照)と2つの転輪15a,15b(図4参照)によって形成された三角形の形状を有する。三角形の形状の履帯式走行体10aは、例えば、走行体の前後のサイズに制約がある場合、前後の限られたサイズの中で接地面積を大きくすることができるので、走行時の安定性を向上させることができる。一方で、下側(転輪側)よりも上側(駆動輪側)の方が長い、いわゆる戦車タイプのクローラは、前後のサイズの制約がある場合には全体的に接地面積が小さくなって不安定になる。このように、履帯式走行体10aは、比較的に小型の走行装置1の走行性を高める場合に有効である。
【0019】
次に、図2を用いて、走行装置1が走行している様子を概略的に説明する。図2は、本実施の形態にかかる走行装置の走行状態の一例を示す図である。走行装置1は、図1に示されているような履帯式走行体10a,10bを備えることにより、図2に示されているような不整地Jにおいても安定して走行することができる。
【0020】
履帯式の走行体は、不整地Jの走行路面の凹凸によって、履帯の一部が接地できずに浮いたりする。そのため、従来から独立型のサスペンション等を設け、走行路面に倣うように各車輪のそれぞれを独立して可動させるような走行体が存在する。しかしながら、このような従来の方法は、比較的大型のサイズの走行体に対するものであり、小型の走行体に対しては設置サイズや部品コストの面で採用することが困難であった。
【0021】
そこで、走行装置1は、後述する補助機構8(図4参照)を設けた履帯式走行体10a,10bを用い、各車輪が走行路面に倣うように独立して可動させることができることで、接地性および走行安定性を向上させることができる。
【0022】
次に、図3および図4を用いて、履帯式走行体10a,10bの全体構成について説明する。図3および図4は、本実施の形態にかかる履帯式走行体の構成の一例を示す図である。図3および図4は、図1(C)と同様の方向から見た、履帯式走行体10の側面図である。本実施の形態では、走行装置1は、図1に示されているように、2つの履帯式走行体10a,10bを備えるが、以下の説明では、これらの構成は同一であるため、履帯式走行体10の構成として説明する。
【0023】
図3に示されているように、履帯式走行体10は、履帯11、駆動輪13、転輪15a,15b、補助機構8、側板20a、およびテンショナ25を備える。このうち、補助機構8は、アイドラ18a,18b、およびリンク19を含む。また、図4は、図3に示されている履帯式走行体10から側板20aを取り外した状態を示す図である。図4に示されている履帯式走行体10は、さらに、インホイールモータ14、モータ軸141、側板20b、側板支持体27a,27b,27c,27d、転輪軸161a,161b、並びに補助機構8に含まれるアイドラ軸181a,181bおよびリンク軸191を備える。
【0024】
履帯11は、クローラとも呼ばれて、金属またはゴムによって形成されている。履帯11は、駆動輪13と転輪15a,15bに掛け回される。履帯11は、駆動輪13の回転方向に従って移動しながら、転輪15a,15bを従動させることによって、履帯式走行体10を回転させる。また、履帯11は、表面に複数の突起部111a,111bを有する。履帯11の外側の突起部111aは、例えば、路面上の石等の小さな障害物を安定して乗り越えて走行するために設けられている。また、内側の突起部111bは、例えば、駆動輪13または転輪15a,15bからの脱輪を防止するために設けられている。
【0025】
駆動輪13は、履帯11に対して、履帯式走行体10を回転させるための駆動力を伝達する。履帯式走行体10は、インホイールモータ14が駆動輪13に伝達した駆動力(回転力)を、履帯11を介して、転輪15a,15bに伝達する。
【0026】
インホイールモータ14は、駆動輪13の内部に内蔵されており、駆動輪13に回転力を伝達する。インホイールモータ14は、駆動軸となるモータ軸141を中心にして回転駆動する。インホイールモータ14の回転軸(モータ軸141)は、駆動輪13の回転軸(駆動軸)となり、インホイールモータ14の回転力によって駆動輪13が回転する。そして、インホイールモータ14の回転力は、駆動力として履帯11に伝達される。具体的には、インホイールモータ14は、駆動輪13に対して、走行装置1を前進させる正方向の回転、または走行装置1を後退させる負方向の回転を与える。
【0027】
また、インホイールモータ14は、駆動輪13に内蔵されることで構造を簡略化することができ、例えば、駆動チェーンまたはギア等の部品を用いないことで、それらの部品に起因する故障等のリスクを低減することができる。さらに、インホイールモータ14は、駆動輪13に内蔵させることで、履帯式走行体10の外周付近で駆動力を出すことができるため、トルクを大きくすることができる。
【0028】
転輪15a,15bは、履帯式走行体10に回転自在に取り付けられている。転輪15a,15bは、履帯11を介して駆動輪13から伝達された駆動力(回転力)によって、転輪軸161a,161bを回転軸として回転する。
【0029】
ここで、駆動輪13と転輪15aと転輪15bは、側面視において、三角形を形成する。履帯11は、駆動輪13と転輪15aと転輪15bとに掛け回されて、転輪15aと転輪15bの間の範囲が接地する。すなわち、インホイールモータ14が内蔵された駆動輪13は、路面に接地しない。これにより、履帯式走行体10は、例えば、水溜まりを走行した場合であってもインホイールモータ14が浸水することはないため、インホイールモータ14に対して特別な防水機構を設ける必要がない。
【0030】
また、図4に示されているように、駆動輪13と転輪15a,15bの径は異なる。走行体は、要求されるサイズの制限や走行性等の要因を踏まえてレイアウト設計する必要がある。一般的に、モータは径が小さいほど単位幅辺りのトルクが下がる傾向にある。そのため、インホイールモータを内蔵した駆動輪は、要求されるトルク性能に対応できるようなモータ径以上の径を有する必要がある。したがって、履帯式走行体10は、走行装置1または履帯式走行体10のサイズ制限を満たすとともに、要求される走行性能を満たすようなレイアウトとして、上方に設置された駆動輪13の径を、転輪15a,15bの径よりも大きくなるように設計する。なお、走行体は、サイズが制限される中で転輪の径も大きくすると、接地面積が小さくなり走行安定性が損なわれる。そのため、履帯式走行体10は、駆動輪13の径を踏まえて比較的小さい径の転輪15a,15bを採用する利点もある。
【0031】
補助機構8は、履帯11に従動して回転する補助輪(アイドラ18a,18b)を、揺動軸(リンク軸191)回りに揺動可能(アイドラ18a,18b)に設けている。補助機構8は、例えば、揺動機構、天秤型補助機構、天秤型揺動機構、天秤型揺動輪または天秤型揺動転輪とも称される。また、補助機構8は、側面視において、駆動輪13と転輪15a,15bによって形成される三角形形状の底辺に設けられている。
【0032】
補助機構8は、アイドラ18a,18b、およびリンク19を含む。アイドラ18a,18bは、2つの転輪15a,15bの間に設けられ、履帯11に従動して回転する補助輪である。アイドラ18a,18bは、アイドラ軸181a,181bを回転軸としてそれぞれ回転する。また、リンク19は、アイドラ18aおよびアイドラ18bを支持する支持体である。
【0033】
側板20a,20bは、履帯式走行体10において、駆動輪13、転輪15a,15b、および補助機構8を支持する。履帯式走行体10は、2つの側板20a,20bを用いて、駆動輪13、転輪15a,15bおよび補助機構8を支持する両持ち構造になっている。2つの側板20a,20bは、複数の側板支持体27a,27b,27c,27dによって懸架される。側板20a,20bは、モータ軸141を用いて、駆動輪13を支持する。また、側板20a,20bは、転輪軸161a,161bを用いて、転輪15a,15bをそれぞれ支持する。さらに、側板20a,20bは、アイドラ18a,18bを支持するリンク19のリンク軸191を介して、補助機構8を支持する。
【0034】
テンショナ25は、バネ等の弾性部材で形成されており、インホイールモータ14および駆動輪13の回転軸であるモータ軸141に接続される。テンショナ25は、駆動輪13が履帯11の内側に押し当たるように設置されて、履帯11にテンションを与える。履帯式走行体10は、テンショナ25によって履帯11のたるみが調整されることによって、履帯11による正常な駆動力の伝達を維持する。
【0035】
ここで、図3および図4に示されているように、履帯式走行体10は、駆動輪13を中心に、走行方向の前後に略対称の構造を有する。より詳細には、履帯式走行体10は、インホイールモータ14のモータ軸141を中心にして、2つの転輪15a,15bを跨ぐ水平方向(Y方向)に略対称である。すなわち、履帯式走行体10は、インホイールモータのモータ軸141の垂線において略対称の構造である。
【0036】
例えば、狭いスペースで走行する走行装置は、前進後進や超信地旋回を頻繁に行う必要がある。この場合、走行装置は、履帯の形状、または駆動輪、転輪もしくはテンショナ等の配置が前後に非対称だと、前進後進で駆動特性が変わったり、超信地旋回時に中心回転できなかったりする場合がある。そこで、履帯式走行体10は、レイアウト(構造)を前後に略対称にすることによって、走行装置1の走行時の安定性の向上や制御の簡略化を図ることができる。また、履帯式走行体10は、走行装置1の左右を意識せずに取り付けることができるため、部品点数の削減等を図ることができる。
【0037】
次に、図5および図6を用いて、本実施の形態にかかる履帯式走行体10に備えられたテンショナ25の詳細な構成について説明する。図5は、本実施の形態にかかる履帯式走行体のテンショナの構成の一例を説明するための図である。図5(A)は、履帯式走行体10に取り付けられたテンショナの構成の一例を示す側面図である。テンショナ25は、インホイールモータ14のモータ軸141に接続される。テンショナ25は、駆動輪13を履帯11に押し当てることにより、履帯11に対してテンションを与える。図5(A)は、側板20に取り付けられたテンショナ25が外装部259によって覆われている状態を示す。テンショナ25は、駆動輪13に内蔵されたインホイールモータ14のモータ軸141に接続されている。
【0038】
図5(B)は、AA´断面におけるテンショナの断面図(Q矢視図)である。また、図6は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備えるテンショナの詳細構成の一例を示す斜視図である。テンショナ25は、固定部251、軸部253a,253b、弾性体255a,255bおよびブロック257を備える。
【0039】
固定部251は、駆動輪13およびインホイールモータ14の回転軸であるモータ軸141を固定するための部材である。テンショナ25は、固定部251を用いてブロック257とモータ軸141を固定することで、モータ軸141の回転を防止する。
【0040】
軸部253a,253bは、それぞれ弾性体255a,255bの弾性変形のガイドとなる部材である。弾性体255a,255bは、軸部253a,253bに沿ってそれぞれ設けられたバネ等の弾性部材である。弾性体255a,255bは、軸部253a,253bをガイドにして、上下方向に弾性変形する。
【0041】
ブロック257は、モータ軸141を貫通させて、テンショナ25をモータ軸141に接続させる役割を担う。また、ブロック257は、軸部253a,253bを貫通させて、軸部253a,253bに沿って、軸方向に摺動する。これにより、テンショナ25は、弾性体255a,255bの変形と連動して、モータ軸141を中心とした上下方向に駆動輪13を動作させることができる。これにより、履帯式走行体10は、弾性体255a,255bの変形によってモータ軸141を押し上げることで、駆動輪13自体をテンショナとして履帯11に押し当てることで、履帯11に対してテンションを与える。
【0042】
図7は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備えるテンショナの状態について説明するための図である。図7に示されているように、弾性体255a,255bは、駆動輪13に上方から圧力が掛かることによって変形して伸縮する。図7の左図(図5(B)と同様)に示すテンショナ25は、弾性体255a,255bが伸びた状態であり、履帯11に対してテンションを与えている状態である。一方で、図7の右図は、上方から加えられた圧力によって弾性体255a,255bが収縮したテンショナ25の状態を示す。例えば、走行中に路面の障害物等に履帯11が押し付けられた場合、履帯式走行体10は、弾性体255a,255bが収縮して履帯11に与えられるテンションを低減させることにより、履帯11へのダメージを低減させることができる。
【0043】
ここで、インホールモータを内蔵した駆動輪を上方に配置した三角形形状の履帯式の走行体において、モータのトルクを上げるためには、インホイールモータのモータ径を大きくする必要がある。モータ径を大きくすると、一般的に重量が大きいモータの重量がさらに増大するため、上方に駆動輪を配置した走行体の重心は高くなり、走行安定性が低下する。また、従来の三角形形状の履帯式の走行体は、車輪の脱輪を防止するために別途テンショナを設けているが、テンショナを設けるスペースを確保するために駆動輪の位置を高くしなければならない。
【0044】
そこで、履帯式走行体10は、テンショナ25を駆動輪13の回転軸(モータ軸141)に接続することで、駆動輪13自体をテンショナとして機能させる。これにより、履帯式走行体10は、テンショナの設置スペースを無くすことにより、駆動輪13を低い位置にレイアウトすることができるので、走行安定性を向上させることができる。
【0045】
次に、図8~10を用いて、履帯式走行体10に備えられた側板20a,20bの詳細な構成について説明する。図8~10は、本実施の形態にかかる履行式走行体に備えられた側板の構成の一例を示す図である。このうち、図8(A)は、履帯式走行体10から履帯11を取り外した状態の外観斜視図である。図8(B)は、履帯式走行体10から履帯11を取り外した状態の側面図(P矢視図)である。駆動輪13、転輪15a,15b、並びにアイドラ18aおよびアイドラ18bを接続したリンク19は、複数の側板支持体27a,27b,27c,27d(27c,27dは図4等に示す)によって懸架された2つの側板20a,20bで両持ち固定されている。なお、側板支持体の数は、これに限られない。
【0046】
このように、履帯式走行体10は、駆動輪13および転輪15a,15bのそれぞれ車軸(モータ軸141、転輪軸161a,161b)を、2つの側板20a,20bによる両持ち構造で支持する。駆動輪13に内蔵されたインホイールモータ14は、大型でかつ重量があるとともに、モータ軸141にテンショナ25が接続されるため、駆動輪と転輪を片持ちで支持する構造では、別途大型のアーム(支持体)を備える必要がある。そこで、履帯式走行体10は、駆動輪13および転輪15a,15bを、側板20a,20bによる両持ち構造にすることにより、コンパクトな構造で安定してテンションを履帯11に与えることができる。また、履帯式走行体10は、アイドラ18a,18bを含む全ての車輪を、側板20a,20bで両持ちにすることにより、レイアウト(構造)を単純、堅牢にすることができる。さらに、履帯式走行体10は、各車輪の車輪軸を、側板20a,20bによって両持ちで支持することで、高い剛性を得ることができる。
【0047】
また、図9および図10を用いて、履帯式走行体10に備えられた側板20a,20bの特徴について説明する。なお、図9に示されている側板20a,20bは、それぞれ同じ構造であるため、図9および図10は、側板20aの特徴として説明する。図9に示されているように、側板20aは、履帯11の接地面側(底面側)の領域が切り欠かれた切欠部201a,203aを有する。履帯式走行体10は、上述にように2つの側板20a,20bによる両持ち構造であるため、車輪と側板の間に木の枝や石などの異物が巻き込まれる可能性が高くなり、車輪がロックされるおそれがある。そこで、履帯式走行体10は、側板20aに切欠部201a,203aを設け、アイドラ18a,18bが側板20aによって覆われないようにすることで、側板20aとアイドラ18a,18bの間の異物の入り込みを防止することができる。なお、切欠部201a,203aの形状および数は、これに限られず、例えば、転輪15a,15bの一部が側板20aによって覆われないように切り欠きを設ける構成であってもよい。
【0048】
また、図10に示されているように、側板20aは、各車輪と側板20aとの間に入り込んだ異物がスムーズに排出されるように、複数の側板穴205aを有する。これにより、履帯式走行体10は、各車輪と側板20aの間に入り込んだ異物による不具合を防止することができる。なお、側板穴205aの数または形状は、図10に示されている例に限られない。
【0049】
続いて、図11~13を用いて、履帯式走行体10が備える駆動輪13および転輪15の詳細な構成について説明する。まず、図11を用いて、履帯式走行体10に備えられている駆動輪13の詳細な構成について説明する。図11は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備える駆動輪の構成の一例を示す図である。図11(A)は、駆動輪13の外観斜視図であり、図11(B)は、駆動輪13の進行方向に対する前面図(P矢視図)である。
【0050】
駆動輪13は、インホイールモータ14の回転を履帯11に伝達するための機能を担うスプロケット131によって構成される。また、駆動輪13は、内部に固定されたインホイールモータ14を備える。駆動輪13としてのスプロケット131は、モータ軸141を回転軸(駆動軸)としてインホイールモータ14の回転に伴って回転する。また、スプロケット131は、車輪132と車輪134を、連結部材136を介して接続するように形成されている。連結部材136は、車輪132と車輪134の間の外周周辺に、等間隔で設けられている。履帯11の内側に設けられた突起部111bは、スプロケット131の隣接する連結部材136の間に入り込みながら回転する。そのため、履帯式走行体10は、履帯11と駆動輪13の間で、より確実な駆動伝達効果を生み出すことができる。
【0051】
さらに、駆動輪13は、モータ軸141と本体50を接続するための本体ケーブル143を備えられている。駆動輪13は、本体ケーブル143を介して、本体50に備えられたバッテリ1515(図15参照)からの電源供給を受け付ける。
【0052】
図11(C)は、駆動輪の進行方向に対する側面図(Q矢視図)である。履帯式の走行体は、泥、土砂またはごみ等の異物が履帯との間に入り込むと、駆動輪の回転がロックされたり、履帯が脱輪したりするおそれがある。そのため、駆動輪13の車輪132は、異物の入り込みを防止するため、複数の車輪穴133を有している。これにより、駆動輪13は、履帯11との間またはスプロケット131に入り込んだ異物がスムーズに排出される構造となる。なお、車輪穴133の数または形状は、図11(C)に示されている例に限られない。また、車輪134は、車輪132と同様の構成を有する。
【0053】
次に、図12および図13を用いて、転輪15a,15bの構成について説明する。なお、転輪15a,15bの構成は同一であるため、図12および図13では、転輪15aの構成として説明する。図12は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備える転輪の構成の一例を示す図である。図12(A)は、転輪の外観斜視図であり、図12(B)は、転輪の進行方向に対する前面図(P矢視図)である。
【0054】
転輪15aは、車輪152aと車輪154aを、軸部151aを介して接続するように形成されている。また、転輪15aは、車輪152aと車輪154aの間の外周周辺に、連結部材156aを等間隔に設置している。連結部材156aは、車輪152aと車輪154aの間の外周周辺に、等間隔で設けられている。履帯11の内側に設けられた突起部111bは、隣接する連結部材156aの間に入り込みながら回転する。そのため、履帯式走行体10は、履帯11と転輪15aの履帯11に対する脱輪を防止することができる。
【0055】
図12(C)は、転輪の進行方向に対する側面図(Q矢視図)である。転輪15aの車輪152aは、上記駆動輪13の場合と同様に、異物の入り込みを防止するため、複数の車輪穴153aを有している。これにより、転輪15aは、履帯11との間に入り込んだ異物がスムーズに排出される構造となる。なお、車輪穴153aの数または形状は、図12(C)に示されている例に限られない。また、車輪154aは、車輪152aと同様の構成を有する。
【0056】
次に、図13を用いて、転輪15aの進行方向(P方向)に対する軸部151aの断面構造について説明する。図13は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備える転輪における軸部の内部構造の一例を示す図である。転輪15aは、図12に示されている構成に加えて、軸部151aとして、転輪の回転軸となる転輪軸161a、ベアリング163a、セットカラー165a1,165a2、およびオイルシール167a1,167a2を有する。
【0057】
転輪15aは、軸部151aにおいて、転輪軸161aの中央部に、1つのベアリング163aを有している。これにより、履帯式走行体10は、ベアリング163aを1つだけ配置させる構成にすることで、部品点数を減らすとともに、コストダウンを図ることができる。
【0058】
また、転輪15aは、軸部151aにおいて、転輪軸161aの中央部に配置されたベアリング163aを挟むように、ベアリング163aの押さえとなる2つのセットカラー165a1,165a2を有している。これにより、履帯式走行体10は、車輪152a,154aの転輪軸161aに対するオフセットを容易にすることができる。
【0059】
さらに、転輪15aは、車輪152a,154aの内側に、それぞれオイルシール167a1,167a2を有している。これにより、履帯式走行体10は、軸部151aにおけるベアリング163aを、外部から侵入する水または埃等の異物から保護することができる。
【0060】
続いて、図14~16を用いて、履帯式走行体10に備えられた補助機構8の構成について説明する。図14は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備える補助機構の構成の一例を示す図である。図14に示されているように、補助機構8は、リンク19、およびリンク19によって接続された2つのアイドラ18a,18bを有する。リンク19は、複数のアイドラ18を支持する支持体である。アイドラ18a,18bは、2つのリンク板192a,192bの間がリンク軸191によって懸架された両持ち構造によって接続される。また、図3等に示されているように、補助機構8は、リンク19の2つのリンク板192a,192bおよびリンク軸191を用いて側板20a,20bに支持されている。アイドラ18a,18bは、補助輪の一例である。また、リンク19は、接続部の一例である。さらに、リンク軸191は、揺動軸の一例である。また、リンク板192a,192bは、揺動部の一例である。
【0061】
次に、図15を用いて、補助機構8の進行方向(P方向)に対するリンク19の断面構造について説明する。図15は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備えるリンクの内部構造の一例を示す図である。リンク19は、図14に示されている構成に加えて、セットカラー193a,193b、およびプッシュ部材195a,195bを有する。
【0062】
リンク19は、リンク板192a,192bの内側に、リンク板192a,192bの押さえとなるセットカラー193a,193bをそれぞれ有している。これにより、履帯式走行体10は、リンク板192a,192bをセットカラー193a,193bでそれぞれ固定することで、リンク軸191に対するオフセットを容易にすることができる。
【0063】
さらに、リンク19は、リンク軸191とリンク板192a,192bの接合部に、それぞれプッシュナット等のプッシュ部材195a,195bを有している。これにより、履帯式走行体10は、リンク板192a,192bをリンク軸191に対してスムーズに揺動回転させることができる。
【0064】
図16は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備えるアイドラの構成の一例を示す図である。なお、図14に示されているアイドラ18a,18bの構成は同じであるため、図16では、代表してアイドラ18aの構成を説明する。図16(A)は、アイドラの外観斜視図である。図16(B)は、アイドラの進行方向に対する前面図(P矢視図)である。図16(A)および図16(B)に示されているように、アイドラ18aは、車輪182aと車輪184aを、アイドラ軸181aを介して接続するように形成されている。
【0065】
図16(C)は、アイドラの進行方向に対する側面図(Q矢視図)である。図16(C)に示されているように、アイドラ18aの車輪182aは、上記転輪15aの場合と同様に、異物の入り込みを防止するため、複数の車輪穴183aを有している。これにより、アイドラ18aは、履帯11との間に入り込んだ異物がスムーズに排出される構造となる。なお、車輪穴183aの数または形状は、図16(C)に示されている例に限られない。また、車輪184aは、車輪182aと同様の構成を有する。
【0066】
また、アイドラ18aは、図13で示されている転輪15aと同様の断面構造を有する。アイドラ18aは、例えば、図16に示されている構成に加えて、アイドラ軸181aとして、アイドラ18aの回転軸となる車輪軸171a(図17参照)、ベアリング、セットカラー、およびオイルシールを有する。車輪軸171a(図17参照)、ベアリング、セットカラー、およびオイルシールは、図13に示されている転輪15aにおける転輪軸161a、ベアリング163a、セットカラー165a1,165a2、およびオイルシール167a1,167a2の構成とそれぞれ同様であるため、説明を省略する。
【0067】
ここで、アイドラ18、駆動輪13および転輪15a,15bにそれぞれ設けられた車輪穴の径は、例えば、様々な異物の排出をスムーズに行われるために、φ15以上であることが好ましい。側板20a,20bに設けられた側板穴205a,205bについても同様である。
【0068】
ここで、履帯式走行体10は、インホイールモータ14を内蔵した駆動輪13の回転によって履帯11を従動させる。そして、転輪15a,15bは、履帯11の回転力が伝達されることでそれぞれ回転する。また、転輪15a,15bは、履帯11の内側に設けられた突起部111bがガイドとなり、履帯11の移動に伴って回転する。その際に、転輪15aおよび転輪15bの幅が広い場合、履帯11が転輪15aまたは転輪15bから脱輪するおそれがある。そこで、履帯式走行体10は、転輪15aおよび転輪15bの間に、履帯11に接触する補助機構8を備えることで、履帯11の脱輪を防止することができる。また、履帯式走行体10は、接地面に転輪15a,15bの他にアイドラ18a,18bを設けることで、荷重分散を行うことができるので、故障等の発生のリスクを低減することができる。
【0069】
また、履帯式走行体10は、接地面積を大きくすると、路面抵抗を大きくすることができるので、走行安定性を高めることができる。一方で、履帯式走行体10は、接地面積を小さくすると、路面抵抗が小さくなる一方で走行時の旋回性が向上させることができるため、特に、走行装置1による超信地旋回の動作を行いやすくなる。このような特徴を活かすため、履帯式走行体10は、使用用途または使用環境に応じて、補助機構8の高さを調整することによって、アイドラ18a,18bの履帯11との接触位置の高さを上下に調整することができる。
【0070】
具体的には、履帯式走行体10は、例えば、走行装置1の停止時に、静的に固定されたリンク19の高さが作業者によって変更されることで、アイドラ18a,18bの高さを上げたり下げたり調節する。また、履帯式走行体10は、例えば、姿勢制御用モータドライバからの制御信号に応じて、リンク19の高さを動的に変更可能な構成であってもよい。この場合、走行装置1は、姿勢制御用モータドライバから送信された制御信号に基づいて姿勢制御用モータの駆動させることにより、2つの履帯式走行体10a,10bのリンク19の高さをそれぞれ調整する。走行装置1は、例えば、路面の状態や走行速度等に応じて、リンク19の高さ調整の制御を行う。
【0071】
続いて、図17~22を用いて、補助機構8の詳細な構成について説明する。図17および図18は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備える補助機構の詳細構成の一例を説明するための図である。図19は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備える補助機構における押上量と押下量の関係の一例を示す図である。図20は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備える補助機構における押上量と押下量の関係の一例を示す図である。図21は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備える補助機構における押上量と押下量の関係の一例を示す図である。図22は、本実施の形態にかかる履帯式走行体が備える補助機構における押上量と押下量の関係の一例を示す図である。
【0072】
図17は、補助機構8の進行方向に対する側面図(Q矢視図)である。補助機構8は、2つのアイドラ18a,18bを、リンク板192aを介して、リンク19に接続させている。また、補助機構8は、リンク19に含まれるリンク軸191を中心にアイドラ18a,18bを揺動可能に接続している。さらに、補助機構8は、リンク軸191を中心に前後方向に対して対称となる形状を有する。
【0073】
ここで、履帯式走行体10は、限られたスペースの中で、各部材を設置する必要がある。そのため、補助機構8の配置可能範囲および揺動可能な範囲は、他の部材との位置関係によって制限される。具体的には、補助機構8の上部には駆動輪13が配置されるため、補助機構8の配置可能範囲は、履帯式走行体10のサイズにおける駆動輪13の設置位置および大きさによって制約される。また、補助機構8の前後には転輪15a,15bが配置されるため、補助機構8の揺動可能範囲は、履帯式走行体10のサイズにおける転輪15a,15bの設置位置および大きさによって制約される。
【0074】
したがって、履帯式走行体10は、例えば、不整地走行時における接地性を向上させるために補助機構8に限られたスペースの範囲に設ける場合、図17に示されているようなリンク長、車輪間距離およびリンク角を最適に設計する必要がある。図18は、図17に示されている側面図を概略的に示した図である。図18に示されているように、リンク長Lは、リンク軸191(軸中心O)とアイドラ18a,18bのそれぞれの車輪軸171a,171b(軸中心w0,w1)とを結ぶ線分(辺)の長さである。また、車輪間距離Wは、車輪軸171a(軸中心w0)と車輪軸171b(軸中心w1)とを結ぶ線分(辺)の長さである。さらに、リンク角θは、リンク長Lとなる2つの線分(辺)の成す角度である。ここで、アイドラ18aの車輪軸171a(軸中心w0)とリンク軸191(軸中心O)を結ぶ線分(辺)は、第1の辺の一例である。また、アイドラ18bの車輪軸171b(軸中心w1)とリンク軸191(軸中心O)を結ぶ線分(辺)は、第2の辺の一例である。
【0075】
履帯式の走行体は、例えば、不整地等の走行路面の凹凸によって、履帯の一部が接地されずに浮く場合がある。そこで、履帯式走行体10は、走行路面に倣うように、アイドラ18a,18bがそれぞれ独立して動くことが好ましい。そこで、履帯式走行体10は、補助機構8による揺動動作を利用して、一方のアイドラ18(アイドラ18a)が押し上げられた場合に、他方のアイドラ(例えば、アイドラ18b)が押し下げられる構成を有する。
【0076】
ここで、図18に示されているように、補助機構8の上下方向をy軸とし、補助機構8が水平状態の際の車輪軸171a,171b(軸中心w0,w1)の位置を、y=0とする。また、アイドラ18aが垂直方向に押し上げられる押上量をyとし、アイドラ18bが垂直方向に押し下げられる押下量をyとする。
【0077】
補助機構8は、それぞれのアイドラが独立に動くようにし、アイドラ18aが押し上げられても、他方のアイドラ18bの押下量を極力小さくすることで、履帯式走行体10を安定して走行させることができる。すなわち、補助機構8は、一方のアイドラ18aの垂直方向への押上量yが他方のアイドラ18bの垂直方向への押下量yより大きい構成を有する。このような構成にすることで、履帯式走行体10は、限られたサイズの中で接地性を向上させる補助機構8を設置することができる。
【0078】
次に、補助機構8の最適な設計形状について説明する。補助機構8のリンク長Lおよびリンク角θは、図17に示されているような配置可能範囲、揺動可能範囲、車輪間距離W、およびアイドラ18a,18bの車輪径によって決定する。そこで、まず、図19および図20を用いて、リンク長Lおよびリンク角θのいずれか一方の値を固定し、他方の値を変化された場合における押上量yおよび押下量yの関係について説明する。
【0079】
図19は、リンク長Lを80mmで固定(L=80)し、リンク角θを90°,120°,150°,180°のそれぞれに設定した場合の押上量yと押下量yの関係を示す。図19に示されているように、押上量yに対する押下量yの影響は、リンク角θが小さくなるほど少なくなっている。
【0080】
図20は、リンク角θを120°で固定し(θ=120°)、リンク長Lを60mm,80mm,100mm,120mmのそれぞれに設定した場合の押上量yと押下量yの関係を示す。図20に示されているように、押上量yに対する押下量yの影響は、リンク長Lが短くなるほど少なくなっている。したがって、補助機構8において、押上量yに対する押下量yの影響は、リンク角θおよびリンク長Lが小さくなるほど少なくすることができる。
【0081】
次に、図21を用いて、車輪間距離Wの値を固定し、リンク長Lおよびリンク角θの値を変化された場合における押上量yおよび押下量yの関係について説明する。リンク長L、車輪間距離Wおよびリンク角θは、いずれか2つの値が決まれば、残りの1つの値は一意に決定する。すなわち、車輪間距離Wが一定であれば、リンク長Lとリンク角θの値は、一方が定まれば他方も定まる関係となる。
【0082】
図21(A)は、車輪間距離Wを100mmで固定し(W=100)、リンク角θを90°,120°,150°,180°のそれぞれに設定した場合の押上量yと押下量yの関係を示す。図21(A)の場合、θ=90°,120°,150°,180°に設定した場合のリンク長Lは、それぞれ70.7mm,57.7mm,51.8mm,50mmとなる。一方で、図21(B)は、車輪間距離Wを120mmで固定し(W=120)、リンク角θを90°,120°,150°,180°のそれぞれに設定した場合の押上量yと押下量yの関係を示す。図21(B)の場合、θ=90°,120°,150°,180°に設定した場合のリンク長Lは、それぞれ84.9mm,69.3mm,62.1mm,60mmとなる。
【0083】
図21(A)および(B)に示されているように、押上量yに対する押下量yの影響は、リンク長Lを短くした場合と比較してリンク角θを小さくした場合の方が少なくなっている。したがって、補助機構8は、履帯式走行体10のサイズの制約に応じて、リンク角θを小さくするように設計を行うことで、一方のアイドラ18の押し上げ(突出)に対する他方のアイドラの押し下げ(沈み込み)の影響を少なくすることができる。
【0084】
ここで、一方のアイドラ18aの押上量yが車輪間距離Wの長さの1/2である場合に、他方のアイドラ18bの押下量yが車輪間距離Wの長さの1/4以下となる場合を、履帯式走行体10の接地性を向上させるための押上量yと押下量yの好適な関係の一例とする。すなわち、押下量yが押上量yの半分以下となる場合、履帯式走行体10は、補助機構8を用いた接地性をより向上させることができる。
【0085】
図18に示されている定義を用いて、y≦y/2の条件を満たすリンク角θとリンク長Lの境界値を算出した場合、境界値は、リンク長Lには依存せず、リンク角θ≦105°となる。また、θ<90°の場合、一方のアイドラ18aがW/2押し上げられると、他方のアイドラ18bは、リンク軸191を超えている場合がある。したがって、補助機構8は、リンク角θを90°より大きく、105°以下の角度の範囲(90°<θ≦105°)で設置することで、履帯式走行体10の接地性をより向上させることができる。
【0086】
次に、図22を用いて、y≦W/4を満たす補助機構8の配置の一例を示す。図22は、車輪間距離Wを100mm(W=100)、リンク長Lを65mm(L=65)、リンク角θを100°(θ=100°)に設定した場合の押上量yと押下量yの関係を示す。図22に示されているように、補助機構8は、このような車輪間距離W、リンク角θおよびリンク長Lに設定することで、押下量yをW/4以下にすることができる。
【0087】
なお、上記において、押上量に対する押下量の影響の観点で説明したが、一方のアイドラ18aが押し下げられた際の押下量yに対する他方のアイドラ18bの押上量yの影響の観点においても、同様の説明が成り立つ。
【0088】
上述の履帯式走行体は、例えば、人の肩幅サイズ程度の大きさであり、人間が1人で容易に押して移動できる程度の移動体を実現可能である。このような小型の履帯式走行体を、安全性が担保されている場所で走行させる場合にはブレーキ機能が不要な場合も多い。しかしながら、傾斜地での走行および停止が求められたり、高速での走行が伴ったりする場合には、安全のためのブレーキ機能が必要となることもある。以下ブレーキ機能について述べる。
【0089】
次に、図23および図24を用いて、本実施の形態にかかる走行装置1が有するディスクブレーキ51の構成の一例について説明する。図23は、履帯式走行体10の側面図(Q矢視図)である。図24は、本実施の形態にかかる走行装置が有するディスクブレーキの構成の一例を示す図である。図24(A)は、ディスクブレーキ51の側面図(Q矢視図)である。図24(B)は、ディスクブレーキ51の前面図(P矢視図)である。図24(A)においては、側板20aは省略している。
【0090】
本実施の形態では、走行装置1は、履帯式走行体10の制動を行うディスクブレーキ51を有する。ディスクブレーキ51は、図24に示すように、ディスク511、ディスク連結部512、ブレーキキャリパー513、ブレーキ保持部514、ギアボックス515、およびモータ516を有する。
【0091】
ディスク511は、円盤状のディスクの一例であり、後述するディスク連結部512によって駆動輪13(車輪の一例)に接続(連結)される。ディスク連結部512は、駆動輪13とディスク511とを接続し、駆動輪13とディスク511とを一緒に回転させるディスク連結部の一例である。本実施の形態では、ディスク連結部512は、駆動輪13およびディスク511に固定されている。
【0092】
ブレーキキャリパー513は、ディスク511を2つのブレーキパッド513a,513bによって挟み込むブレーキキャリパーの一例である。これにより、ブレーキキャリパー513は、ディスク511の回転を制動して、当該ディスク511の回転を停止させることができる。
【0093】
ブレーキ保持部514は、ブレーキキャリパー513を保持(支持)するブレーキ保持部の一例である。本実施の形態では、ブレーキ保持部514は、履帯式走行体10の側板20a,20b(本体の一例)に揺動可能に設けられる駆動輪13の軸であるモータ軸141に固定されている。
【0094】
ディスクブレーキ51を駆動輪13が揺動する場合、ブレーキキャリパー513を側板20aに固定したとしても、ディスク511の適切な位置をブレーキパッド513a,513bにより挟み込むことができない場合がある。そこで、本実施の形態では、ブレーキ保持部514によって、ブレーキキャリパー513をモータ軸141に固定することで、ディスク511とブレーキキャリパー513とが揺動関係になくなる。その結果、ディスク511の適切な位置をブレーキパッド513a,513bにより挟み込むことができる。具体的には、ブレーキ保持部514は、モータ軸141に対して、当該モータ軸141のアキシャル方向およびラジアル方向の位置が固定されている。また、本実施の形態では、ブレーキ保持部514は、ブレーキキャリパー513に加えて、ギアボックス515およびモータ516を保持(支持)する。
【0095】
モータ516は、ブレーキパッド513a,513bを開閉させるモータの一例である。具体的には、モータ516は、ブレーキキャリパー513に駆動力を伝達して、ブレーキパッド513a,513bを開閉させる。ギアボックス515は、モータ516からの駆動力を、ブレーキキャリパー513に伝達する。本実施の形態では、ギアボックス515は、制御線517を用いて、モータ516からの駆動力をブレーキキャリパー513に伝達する。
【0096】
ここで、制御線517は、ブレーキパッド513a,513bの間隔を制御するワイヤである。モータ516は、ギアボックス515を介して、制御線517を矢印方向に引っ張ったり、制御線517を緩めたりすることで、ブレーキパッド513a,513bの間隔を制御する。
【0097】
次に、図25を用いて、本実施の形態にかかる走行装置1のディスクブレーキ51が有するギアボックス515内の基本的な構造の一例について説明する。図25は、本実施の形態にかかる走行装置のディスクブレーキが有するギアボックス内の基本的な構造の一例を示す図である。
【0098】
本実施の形態では、ギアボックス515は、図25に示すように、モータ516からブレーキパッド513a,513bに動力を伝えて、ブレーキパッド513a,513bの開閉の度合いを制御するウォームギアであっても良い。モータ516からの動力を通常のギアでブレーキキャリパー513に伝達した場合、モータ516を無励磁状態(モータ516の発熱を抑えて省エネルギーに貢献するため、モータ516の電源をオフする状態に遷移すると、ディスクブレーキ51はフリー状態となり走行装置1の制動が行えない。そこで、本実施の形態では、モータ516の動力をブレーキキャリパー513に伝達する部分にウォームギアを設けることにより、モータ516が無励磁状態においても、走行装置1の制動を持続することができる。
【0099】
具体的には、ギアボックス515は、図25に示すように、ウォーム515a、ウォームホイール515b、およびプーリ515cを有する。ウォーム515aは、モータ516のモータ軸に接続される。ウォームホイール515bは、ウォーム515aと接触して回転する。
【0100】
プーリ515cは、ウォームホイール515bと接続され、ウォームホイール515bと連動して回転して、モータ516からの駆動力を制御線517に伝える。これにより、プーリ515cは、制御線517を引っ張ったり、制御線517を緩めたりする。
【0101】
本実施の形態では、ギアボックス515が有するウォームギアのセルフロック機構によって、モータ516を無励磁状態(電源オフ)にしても、制御線517のテンションを維持することができる。したがって、走行装置1を傾斜地等に駐車する際に、モータ516の電源をオフにしても、ブレーキが効いた状態を保持することができる。
【0102】
また、ウォームギアのみではディスクブレーキ51の安全性に問題が生じる可能性がある場合、ディスク511の穴を等間隔にあけておき、その穴の回転を、ソレノイドを使ってロックすることで、履帯式走行体10の制動を行うことも可能である。その際、ソレノイドは、走行装置1の通電時(走行時)にロッドが引っ込んでロックを解除し、走行装置1の非通電時(駐車時)にロッドが飛び出してロックする。本実施の形態では、モータ516は、モータ制御部の一例である後述するCPU1701(図27参照)と電気的に結線されている。
【0103】
本実施の形態では、制御線517によってモータ516から駆動力をブレーキキャリパー513に伝達して、履帯式走行体10の制動を行っているが、これに限定するものではなく、油圧方式によって、モータ516からの駆動力をブレーキキャリパー513に伝達することも可能である。モータ516からの駆動力をブレーキキャリパー513に伝達する手段として制御線517を用いた場合、ブレーキキャリパー513とモータ516との物理的な距離を一定に保たなければならないため、ブレーキ保持部514にモータ516を取り付けている。しかしながら、油圧方式によって、モータ516からの駆動力をブレーキキャリパー513に伝達する場合には、その制約はなく、履帯式走行体10の側板20a(本体の一例)にモータ516を取り付けることも可能である。
【0104】
次に、図26を用いて、本実施の形態にかかる走行装置1のディスクブレーキ51の取付方法の他の例について説明する。図26は、本実施の形態にかかる走行装置のディスクブレーキの取付方法の他の例を説明するための図である。
【0105】
ブレーキ保持部514は、図24図25においては、履帯式走行体10の側板20a,20bに揺動可能に設けられる駆動輪13の軸であるモータ軸141に固定されている。しかし、例えば、図26に示すように、ディスクブレーキ51を揺動しない車輪(転輪15a,15b)に取り付ける場合には、ブレーキ保持部514は、側板20aに固定されていても良い。
【0106】
そしてこの場合ディスク511は、ディスク連結部512によって転輪15a(車輪の一例)に接続(連結)される。つまりディスク連結部512は、転輪15aとディスク511とを接続し、転輪15aとディスク511とを一緒に回転させるディスク連結部の一例である。本実施の形態では、ディスク連結部512は、転輪15aおよびディスク511に固定されている。
【0107】
ブレーキキャリパー513、ギアボックス515、モータ516は、ブレーキ保持部514を介して側板20aに固定することができる。
【0108】
次に、図27を用いて、本実施の形態にかかる走行装置1のハードウェア構成の一例について説明する。図27は、本実施の形態にかかる走行装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0109】
本実施の形態にかかる走行装置1は、図27に示すように、CPU(Central Processing Unit)1501、メモリ1502、モータドライバ1503、走行用モータ1504、ブレーキ用モータ1505、ブレーキ制御部1506、電源SW1507、起動SW1508、非常停止SW1509、IMU(Inertial Measurement Unit)1510、カメラ1511、Lidar(Light Detection and Ranging)1512、GPS(Global Positioning System)1513、ブレーキドライバ1514、およびバッテリ1515を有する。
【0110】
CPU1501は、走行装置1全体の制御を行う。メモリ1502は、CPU1501により走行プログラム等を実行するための一時記憶領域である。モータドライバ1503は、走行用モータ1504のドライバである。ブレーキドライバ1514は、ブレーキ用モータ1505等のドライバである。走行用モータ1504は、インホイールモータ14等、履帯式走行体10を駆動させるモータである。ブレーキ用モータ1505は、モータ516等、ブレーキパッド513a,513bを開閉するモータである。
【0111】
ブレーキ制御部1506は、CPU1501からのコマンドを受けてディスクブレーキ51を制御する。具体的には、ブレーキ制御部1506は、CPU1501からコマンドを受信し、当該コマンドに従って、モータ516を制御してブレーキパッド513a,513bの開閉の度合いを制御する。これにより、小型の履帯式走行体10の特徴をそのままにブレーキ機能を付加することができる。また、履帯式走行体10に対するブレーキ機能の搭載が容易であり、したがって例えば後付けすることも容易となる。
【0112】
電源SW1507は、走行装置1の電源をオンまたはオフするスイッチである。起動SW1508は、履帯式走行体10をスタートさせるスイッチである。非常停止SW1509は、履帯式走行体10を非常停止させるスイッチである。
【0113】
IMU1510は、3軸の加速度センサ、および回転角速度センサにより、走行装置1の姿勢を推定する。カメラ1511は、全天球カメラ、ステレオカメラ、赤外線カメラ等を有する。Lidar1512は、レーザ光を物体に照射し、物体に当たって跳ね返ってくるまでの時間を計測し、その計測結果に基づいて、物体までの距離および物体が存在する方向を測定する。GPS1513は、衛星からの電波を受信して、その受信結果に基づいて、地球上における走行装置1の位置を測定する。
【0114】
次に、図28を用いて、本実施の形態にかかる走行装置1の自立走行の制御処理の流れの一例について説明する。図28は、本実施の形態にかかる走行装置の自立走行の制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0115】
走行装置1の電源がオンされると、CPU1501は、起動SW1508をポーリングして、起動SW1508が押下されたか否かを判断する(ステップS1601)。起動SW1508が押下された場合(ステップS1601:Yes)、CPU1501は、走行装置1の自立走行の制御処理を実行する(ステップS1602)。
【0116】
次に、図29を用いて、本実施の形態にかかる走行装置1が有するブレーキ制御部1506のハードウェア構成の一例について説明する。図29は、本実施の形態にかかる走行装置が有するブレーキ制御部のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0117】
本実施の形態では、ブレーキ制御部1506は、図29に示すように、CPU1701、メモリ1702、およびブレーキ開放SW1703を有する。CPU1701は、ディスクブレーキ51を制御する。具体的には、CPU1701は、CPU1501等の外部装置からのコマンドを受信し、当該コマンドに従って、モータ516を制御してブレーキパッド513a,513bの開閉の度合いを制御するモータ制御部の一例として機能する。メモリ1702は、ディスクブレーキ51のブレーキ動作に関わるプログラム等をCPU1701が実行する際に用いる一時記憶領域である。また、メモリ1702は、後述する位置テーブル等の各種情報を記憶する。
【0118】
ブレーキ開放SW1703は、ディスクブレーキ51の開放を指示する開放スイッチの一例である。CPU170は、ブレーキ開放SW1703からブレーキパッド513a,513bの開放が指示された場合、ブレーキパッド513a,513bを開放する。現場等で履帯式走行体10にトラブルが発生した場合、走行装置1の電源を落としたままで、履帯式走行体10の保守作業を行うために、走行装置1を適切な場所に移動させる必要がある。その際、ディスクブレーキ51がかかった状態であると、走行装置1を移動させることが困難な場合がある。
【0119】
そこで、本実施の形態では、ブレーキ開放SW1703を操作してディスクブレーキ51を開放する手段(メカ的なブレーキ機構、または電気的なブレーキ機構)を設けることにより、ディスクブレーキ51を解除した状態で履帯式走行体10を手動で移動させることができる。また、ブレーキ開放SW1703が操作された場合、ディスクブレーキ51の開放のみを行うブレーキ機構とすることで、ユーザの操作の誤りを軽減して、走行装置1の安全性を高めることができる。
【0120】
図30は、本実施の形態にかかる走行装置が有するブレーキ制御部が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。次に、図30を用いて、本実施の形態に係る走行装置1のブレーキ制御部1506が実行する処理の流れの一例について説明する。
【0121】
走行装置1の起動SW1508が押下されると、CPU1701は、ブレーキ制御部1506の初期化処理を実行する(ステップS1801)。次いで、CPU1701は、CPU1501からコマンドを取得する(ステップS1802)。次いで、CPU1701は、取得したコマンドに従って、モータ516を制御してブレーキパッド513a,513bの開閉の度合いの制御処理を実行する(ステップS1803)。その後、CPU1701は、コマンドの実行が終了したか否かを判断する(ステップS1804)。コマンドの実行が終了していない場合(ステップS1804:No)、CPU1701は、ステップS1802に戻り、CPU1501からコマンドを取得する。一方、コマンドの実行が終了した場合(ステップS1804:Yes)、CPU1701は、制御処理を終了する。
【0122】
図31は、本実施の形態にかかる走行装置のブレーキ制御部によるモータの制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。次に、図31を用いて、本実施の形態にかかる走行装置1のブレーキ制御部1506が実行するモータ516の制御処理の流れの一例について説明する。
【0123】
まず、CPU1701は、位置テーブルから、CPU1501から取得したコマンドにより指示されるディスクブレーキ51の強度に対応するモータ516の回転位置を取得する(ステップS1901)。
【0124】
ここで、位置テーブルは、下記の表1に示すように、ディスクブレーキ51のブレーキの強度(または、ブレーキパッド513a,513bの開閉の度合いであっても良い)と、モータ516の回転位置と、を対応付けるテーブルである。本実施の形態では、メモリ1702が、位置テーブルを記憶する。例えば、CPU1501から取得したコマンドが示すディスクブレーキ51の強度が「中」である場合、CPU1701は、位置テーブルから、ディスクブレーキ51の強度「中」と対応付けられるモータ516の回転位置「950」を取得する。
【表1】
【0125】
次いで、CPU1701は、取得したモータ516の回転位置に従って、モータ516を回転させて、ブレーキパッド513a,513bの開閉の度合いを制御する(ステップS1902)。
【0126】
ところで、履帯式走行体10にディスクブレーキ51を取り付けたり、制御線517を張り直したりすると、位置テーブルにおけるディスクブレーキ51の強度とモータ516の回転位置との関係を変化する場合がある。また、制御線517の摩耗および伸び等によっても、位置テーブルにおけるディスクブレーキ51の強度とモータ516の回転位置との関係は変化する。
【0127】
そこで、本実施の形態では、CPU1701は、ディスクブレーキ51の強度と、モータ516の回転位置と、を対応付ける位置テーブルを更新する。モータ516の回転位置は、制御線517を引っ張るプーリ516cの回転位置と同等である。よって、モータ516の回転位置は、制御線517の引っ張り長に換算することができる。
【0128】
したがって、CPU1701は、ディスクブレーキ51の所定強度に対応するモータ516の回転位置を原点として、制御線517の引っ張りをどの程度緩めたらディスクブレーキ51の強度が「中」、「弱」または「開放」になるか、モータ516の回転位置の差分として予め求めておく。ここで、所定強度は、予め設定された強度であり、制御線517を所定のトルクで引っ張った状態の強度である。本実施の形態では、ディスクブレーキ51の信頼性を向上させるために、通常のトルクよりも大きいトルクで制御線517を引っ張るディスクブレーキ51の強度である「強」を所定強度に設定している。
【0129】
そして、CPU1701は、下記の表2に示す位置換算テーブルを用いて、所定強度の一例である「強」におけるモータ516の回転位置を基準として、ディスクブレーキ51の各強度とモータ516の回転位置とを対応付けた位置テーブルに更新する。ここで、位置換算テーブルは、表2に示すように、ディスクブレーキ51の強度と、各強度におけるモータ516の回転位置の差分と、を対応付けるテーブルである。
【表2】
【0130】
すなわち、ディスクブレーキ51の履帯式走行体10への取付時およびその後も、制御線517の伸びおよびブレーキパッド513a,513bの減り等によって、ディスクブレーキ51の効き具合を調整する必要があるが、手間がかかる。そこで、本実施の形態では、CPU701が、ディスクブレーキ51の強度(ブレーキパッド513a,513bの開閉の度合い)と、モータ516の回転位置と、を対応付ける位置テーブルを更新可能とする。これにより、位置テーブルのキャリブレーションを自動かつ任意のタイミングで容易に実施可能となるので、ディスクブレーキ51の効き具合を常に良好な状態に保つことができる。
【0131】
次に、図32および図33を用いて、本実施の形態にかかる走行装置1における位置テーブルの更新処理の流れの一例について説明する。図32は、本実施の形態にかかる走行装置における位置テーブルの更新処理の流れの一例を示すフローチャートである。図33は、本実施の形態にかかる走行装置における位置テーブルの更新処理の一例を説明するための図である。
【0132】
まず、CPU1701は、モータ516を駆動させて、ブレーキパッド513a,513bが閉まる方向へ所定トルクで制御線517を引っ張る(ステップS2001)。次いで、CPU1701は、モータ516が回転中であるか否かを判断する(ステップS2002)。
【0133】
モータ516が回転中である場合(ステップS2002:Yes)、CPU1701は、ステップS2001に戻り、モータ516の駆動を続ける。ここで、モータ516が回転中とは、ディスクブレーキ51の強度が上昇していることである。一方、モータ516が停止中である場合(ステップS2002:No)、CPU1701は、図33に示すように、位置変換テーブルを用いて、その時のモータ516の強度におけるモータ516の回転位置を基準として、ディスクブレーキ51の各強度におけるモータ516の回転位置を求める。ここで、モータ516が停止中とは、ディスクブレーキ51の強度が「強」に達して維持されている状態である。すなわち、モータ516が停止中とは、ディスクブレーキ51の強度が「強」に達し、ブレーキパッド513a,513bが閉まる方向に、制御線517が、これ以上、引っ張られていない状態である。
【0134】
そして、CPU1701は、図33に示すように、ディスクブレーキ51の各強度と、当該強度におけるモータ516の回転位置とを対応付ける位置テーブルを作成する(ステップS2003)。これにより、ディスクブレーキ51を履帯式走行体10に取り付ける際に制御線517の張り具合を気にすることなく、履帯式走行体10にディスクブレーキ51を取り付けることができる。また、走行装置1の運用時において容易に制御線517の張りを調整することができる。
【0135】
次に、図34および図35を用いて、本実施の形態にかかる走行装置1におけるブレーキ開放SW1703の押下に応じたブレーキパッド513a,513bの開放処理の流れの一例について説明する。図34は、本実施の形態にかかる走行装置におけるブレーキ開放SWの押下に応じたブレーキパッドの開放処理の一例を説明するための図である。図35は、本実施の形態に係る走行装置におけるブレーキ開放SWの押下に応じたブレーキパッドの開放処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0136】
本実施の形態では、ブレーキ開放SW1703が押下されると、CPU1701は、ブレーキ制御部1506(例えば、マイコン)への電源の供給を制御するリレー2201、およびモータ516への電源の供給を制御するリレー2202をオンする(ステップS2301)。これにより、バッテリ1515からブレーキ制御部1506およびモータドライバ1503への電源の供給を維持する。その後、CPU1701は、ブレーキドライバ1514を介してモータ516を制御して、ディスクブレーキ51を開放する(ステップS2302)。
【0137】
ディスクブレーキ51が解放されると、CPU1701は、リレー2201およびリレー2202をオフする(ステップS2303)。本実施の形態では、電気的なブレーキ開放機構によって、ディスクブレーキ51を開放しているが、メカ的なブレーキ開放機構によって、ディスクブレーキ51を開放することも可能である。例えば、ブレーキキャリパー513に対する制御線517の接続(固定)を解く機構、ディスク511と駆動輪13との接続(固定)を解く機構によって、ディスクブレーキ51を開放することも可能である。
【0138】
このように、本実施の形態にかかる走行装置1によれば、小型の履帯式走行体10の特徴をそのままにブレーキ機能を付加することができる。また、履帯式走行体10に対するブレーキ機能の搭載が容易となる。
【0139】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1>
履帯式走行体であって、
履帯を掛けまわした車輪と、
ディスクと、
前記車輪と前記ディスクとを接続し、前記車輪と前記ディスクとを一緒に回転させるディスク連結部と、
前記ディスクをブレーキパッドで挟み込むブレーキキャリパーと、
前記ブレーキパッドを開閉させるモータと、
前記モータを制御して前記ブレーキパッドの開閉の度合いを制御するモータ制御部と、
を備える履帯式走行体。
<2>
前記ブレーキキャリパーを保持するブレーキ保持部をさらに備え、
前記車輪は、前記履帯式走行体の本体に対して揺動可能に設けられ、
前記ブレーキ保持部は、前記車輪の軸に固定されている、<1>に記載の履帯式走行体。
<3>
前記モータから前記ブレーキパッドに対して動力を伝えて、前記ブレーキパッドの開閉の度合いを制御するウォームギアをさらに備える請求項<1>または<2>に記載の履帯式走行体。
<4>
前記モータ制御部は、前記ブレーキキャリパーによるブレーキの強度と、前記モータの回転位置と、を対応付ける位置テーブルを記憶し、前記位置テーブルを更新する、<1>から<3>のいずれか一つに記載の履帯式走行体。
<5>
前記ブレーキパッドの開放を指示する開放スイッチをさらに備え、
前記モータ制御部は、前記開放スイッチから前記ブレーキパッドの開放が指示された場合、前記ブレーキパッドを開放する、<1>から<4>のいずれか一つに記載の履帯式走行体。
【符号の説明】
【0140】
10a,10b 履帯式走行体
11a,11b 履帯
13 駆動輪
15a,15b 転輪
20a,20b 側板
51 ディスクブレーキ
511 ディスク
512 ディスク連結部
513 ブレーキキャリパー
513a,513b ブレーキパッド
514 ブレーキ保持部
515 ギアボックス
515a ウォーム
515b ウォームホイール
515c プーリ
516 モータ
517 制御線
1501,1701 CPU
1502,1702 メモリ
1503 モータドライバ
1504 走行用モータ
1505 ブレーキ用モータ
1506 ブレーキ制御部
1514 ブレーキドライバ
1703 ブレーキ開放SW
【先行技術文献】
【特許文献】
【0141】
【特許文献1】特開平10-059232号公報
【特許文献2】特開平11-278295号公報
【特許文献3】特開2017-218105号公報
図1
図2
図3
図4
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図8
図9
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図11
図12
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図15
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図33
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