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特開2023-46303光拡散素子及びその製造方法並びに偏光フィルター
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046303
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】光拡散素子及びその製造方法並びに偏光フィルター
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20230327BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149197
(22)【出願日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2021154779
(32)【優先日】2021-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2022年第69回応用物理学会春季学術講演会の講演予稿集及びそのウェブサイトの掲載(https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2022s/top)
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】垣内田 洋
【テーマコード(参考)】
2H042
2H149
【Fターム(参考)】
2H042BA01
2H042BA13
2H042BA15
2H042BA20
2H149AA02
2H149AB26
2H149BA03
2H149BB28
2H149FA08W
2H149FA14W
2H149FA26W
2H149FA58W
2H149FC06
2H149FD25
(57)【要約】
【課題】光拡散性に優れ、光透過率を偏光方向によって制御することができる光拡散素子及びその製造方法並びに偏光フィルターを提供する。
【解決手段】本発明の光拡散素子1は、ウレタン結合を有するアクリル樹脂を含むマトリックス2の中に、ネマチック相の状態にある液晶分子4の集合体3が特定方向に細長い異方形状を有して分散されてなり、液晶分子4が配向した構造を有する。液晶分子4の配向秩序度(FT-IR測定)は好ましくは0.01以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン結合を有するアクリル樹脂を含むマトリックスの中に、ネマチック相の状態にある液晶分子の集合体が特定方向に細長い異方形状を有して分散されてなり、液晶分子が配向していることを特徴とする光拡散素子。
【請求項2】
室温及び無電場の条件下、FT-IRにより測定される前記液晶分子の配向秩序度が0.01以上である請求項1に記載の光拡散素子。
【請求項3】
前記液晶分子集合体が、該液晶分子集合体の異方方向を平行に維持した状態で前記マトリックスの中に含まれ、前記液晶分子が、前記液晶分子集合体の長手方向に対して垂直方向に配向している請求項1に記載の光拡散素子。
【請求項4】
前記液晶分子集合体のアスペクト比が2以上である請求項1に記載の光拡散素子。
【請求項5】
前記液晶分子集合体の短手方向の長さが3μm以下である請求項1に記載の光拡散素子。
【請求項6】
入射光の特定の直線偏光成分を、その偏光方向と入射光線を含む面内方向に光散乱し、その面に垂直方向の入射光の直線偏光成分を、直進透過する請求項1に記載の光拡散素子。
【請求項7】
温度調整又は電場印加によって前記液晶分子の配向分布を可逆的に変えることができ、光散乱の強度、偏光選択性あるいは散乱角度の範囲を変調できる請求項1に記載の光拡散素子。
【請求項8】
特定の直線偏光された波長532nmのレーザー光が入射された場合に、その直線偏光と入射面を含む面内に直線状に透過光が光散乱し、その状態からレーザー光の直線偏光方向を90度回転すると透過光がそのまま直進する、室温且つ無電場の状態にある、請求項1に記載の光拡散素子。
【請求項9】
前記マトリックスが前記液晶分子を含み、
前記液晶分子集合体における前記液晶分子の含有割合を100%に規格化すると、前記マトリックスにおける前記液晶分子の含有割合が80.9%以下である、請求項1に記載の光拡散素子。
【請求項10】
前記液晶分子集合体が前記アクリル樹脂を含み、
前記マトリックスにおける前記アクリル樹脂の含有割合を100%に規格化すると、前記液晶分子集合体における前記アクリル樹脂の含有割合が87.8%以下である、請求項1に記載の光拡散素子。
【請求項11】
ネマチック相を形成可能な液晶分子と、ウレタンアクリレートを含む単量体と、重合開始剤とを含有する原料組成物に、レーザー光を照射し、前記原料組成物に含まれる前記単量体を重合するレーザー光照射工程を備え、
前記原料組成物に含まれる前記液晶分子及び前記単量体の含有割合は、これらの合計を100モル%とした場合に、それぞれ、40~70モル%及び30~60モル%であり、且つ、前記ウレタンアクリレートの含有割合は、前記単量体の全量を100モル%とした場合に、30~70モル%であり、
前記レーザー光照射工程において、前記原料組成物におけるレーザー光照射面で不均一な光強度分布を形成させながら、前記レーザー光を前記原料組成物に照射することを特徴とする、光拡散素子の製造方法。
【請求項12】
前記不均一な光強度分布が、異方形状のスペックルパターンである請求項11に記載の光拡散素子の製造方法。
【請求項13】
前記異方形状のスペックルパターンが、レーザー光源と、前記原料組成物との間の光路に異方性拡散板を載置した状態で、前記原料組成物を照射することにより得られる請求項12に記載の光拡散素子の製造方法。
【請求項14】
前記レーザー光の照射面内の平均露光強度が3.2~300mW/cmである請求項11に記載の光拡散素子の製造方法。
【請求項15】
請求項1に記載の光拡散素子を備えることを特徴とする偏光フィルター。
【請求項16】
更に、前記光拡散素子を挟持する透明部材を備える請求項15に記載の偏光フィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過率を偏光方向によって制御することができる光拡散素子及びそれを備える偏光フィルター並びに光拡散素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光伝播の制御は、現在の産業上の基盤技術であり、多くの分野で使われている。特に、光の透過率や偏光を制御する部材は広く普及し、単体部品として使われたり、様々な光学機器に組み込まれたりしている。光透過率は、反射、吸収、散乱あるいはそれらの組み合わせで変化し、それらを生じる構造や構成は数知れない。なかでも、光散乱は、例えば、光の遮蔽、照明範囲の拡大、照明光の均一化等の目的で使われ、液晶表示装置、スマートウィンドウ、オフィス機器等に応用される。パーソナルコンピューター、ワープロ機器、液晶テレビ、カーナビゲーション等の液晶を使用する液晶表示装置は、液晶自体が発光しないため、液晶を裏面側から照射する光源、即ち、バックライトが必要である。バックライトには、通常、光拡散素子、光反射素子、プリズム素子等が設けられる。
これらの光学素子のうち、光拡散素子として、例えば、基材中に基材と異なる屈折率を有する球状粒子を分散させた複合体を用い、この複合体にレーザー光を垂直入射させると、透過光の像が円形を描く。このような、光が円形に拡散されている現象は、「等方性光拡散」といわれることがある。等方性光拡散を示す光拡散素子をバックライトに設けた表示装置は、光が等方向に拡散するため、所望の領域以外に光が拡散してしまうため、光の利用効率が低下し、所定の光量を得るために光源が発光に必要とする電気エネルギーが大きくなってしまう。そこで、光を必要とする特定方向に偏って効率よく拡散させる、即ち、「異方性光拡散」に好適な光拡散素子の探索が盛んとなっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、透光性のマトリックスと、複屈折性を有する多数の微粒子とを含む光学材料から構成された領域を持つ散乱偏光部材であって、微粒子は、微粒子の複屈折性に関して特定方向に配向した状態で分散しており、微粒子とマトリックスとの界面において、偏光成分に応じた屈折率の整合性と不整合性が併存している散乱偏光部材が開示され、複屈折性の棒状微粒子を高分子中に分散し、昇温して高分子を軟化させた状態で一方向に延伸することで、特定方向に強く光散乱を発現する異方構造が形成されることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、光学的に等方なアスペクト比2以上100以下のドメインが、光学的に等方な支持媒体中に分散配列してなる異方性散乱素子であって、該支持媒体及び該ドメインが互いに相分離を生ずる異なったセルロースエステルからなり、さらに該ドメインがアスペクト比1以上10未満の粒子を含むことを特徴とする異方性散乱素子が開示されている。
【0005】
特許文献3には、光散乱の強度に異方性を有する異方性光散乱素子であって、入射する直線偏光光線の偏光方向によって光散乱強度に異方性を有する異方性光散乱層と、法線方向から入射する光線に対する位相差が1/10波長未満であり、且つ、法線から傾斜した方向から入射する光線に対して位相差を発現する複屈折層とを含むことを特徴とする異方性光散乱素子が開示されている。
【0006】
特許文献4には、光源から射出される光の光路を制御して、光源と逆側に位置する観察者側に射出する光偏向素子であって、透明樹脂からなる基板と、基板の光源側の面に複数配列される少なくとも2種類の、異なる射出分布をもつ複数の第1の光偏向用単位レンズ、複数の第2の光偏向用単位レンズを有し、基板の光源側の面の法線方向に対して略平行に入射する光を拡散させるとともに、斜めに入射する光の前記法線方向に対する入射角度θ1が特定の式を満たす場合の斜め入射光が、第1の光偏向用単位レンズにより全反射をする光偏向素子が開示されている。この光変更素子は、光散乱特性が異なる2つの光拡散構造の層を光透過性の基材を挟んだアセンブリ構造を内部に有していることで光散乱強度の均一性が高められている。
【0007】
また、非特許文献1には、正の誘電率異方性を有するネマチック液晶と紫外線硬化性単量体の混合物をセル内に入れ、レンズ拡散板を通して紫外線を放射し、拡散分布を一方向に制御して混合物に紫外線を照射して得られた高分子分散型液晶(PDLC)が開示され、電圧により一方向性の光拡散及び透明状態が制御可能となったことが記載されている。
【0008】
更に、特許文献5には、異方性高分子中に液晶材料が相分離して液晶滴として分散してなり、液晶材料の相は、ネマチック-等方相転移による光学異方-等方性変化を有し、異方性高分子の相は、該異方性高分子の相とネマチック状態にある液晶材料の相との屈折率差が独立した偏光成分ごとに合致する屈折率を有した固相系の構造であって、ネマチック-等方相転移点温度を超える温度では光散乱状態、ネマチック-等方相転移点温度未満の温度では光透過状態に可逆的に変化可能であることを特徴とする液晶と高分子の配向相分離構造が開示され、このような配向相分離構造は、一対の基板の間に、液晶性の光重合性単量体と液晶材料との混合液を注入し、次いで、光照射によって液晶性の光重合性単量体を重合させて液晶材料を相分離して液晶滴として分散させることにより製造可能であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002-258039号公報
【特許文献2】特開2009-53583号公報
【特許文献3】特開2004-70345号公報
【特許文献4】特開2010-262038号公報
【特許文献5】特開2013-152445号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Y. Horii, et al., IEEE Trans. Elec. E 101C (2018) 857, "Polymer Distribution Control of Polymer-Dispersed Liquid Crystals by Uni-Directionally Diffused UV Irradiation Process"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
普及型の偏光フィルムの多くは、特定の偏光光を吸収することで偏光選択性を持たせており、この光吸収で熱が生じ、レーザー光や太陽光等、光強度の大きい光が吸収されると発熱する等の不具合をまねく場合がある。また、一旦、吸収された光をそのまま取り出すことは難しく、偏光方向によって、光線を異なる進行方向に分離する、いわゆる偏光分離素子として利用するには不具合がある。一方、方解石等複屈折性の結晶を加工して作製した光学異方性プリズムは、偏光方向による分離度が良く、偏光分離素子として高性能であるが、結晶材料が高価で、薄型化やフィルム化ができないため取扱いが容易ではなく使用目的や使用条件が限られる。これに対し、光拡散を利用した偏光フィルターは、光吸収がなく原材料も安価にしやすい。また、偏光方向により、光は直進と散乱状態に切り換わり、どちらの状態でも光を取り出せるため、偏光分離素子として使うことができる。このことから、前述の問題を解決する有力な候補として開発がなされてきた。しかし、先行技術で記したように、光拡散の偏光性を持たせるためには、延伸過程が必要であったり複数部材を組み合わせるアセンブリ工程が必要だったり等、製造工程の煩雑さがあった。
本発明の課題は、入射した光を特定の方向に線状に拡散することができ光拡散性に優れ、光透過率を偏光方向によって制御することができる光拡散素子及び偏光フィルターを提供することである。また、本発明の他の課題は、光拡散素子を効率よく製造する製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下に示される。
[1]ウレタン結合を有するアクリル樹脂を含むマトリックスの中に、ネマチック相の状態にある液晶分子の集合体が特定方向に細長い異方形状を有して分散されてなり、液晶分子が配向していることを特徴とする光拡散素子。
[2]室温及び無電場の条件下、FT-IRにより測定される上記液晶分子の配向秩序度が0.01以上である上記[1]に記載の光拡散素子。
[3]上記液晶分子集合体が、該液晶分子集合体の異方方向を平行に維持した状態で上記マトリックスの中に含まれ、上記液晶分子が、上記液晶分子集合体の長手方向に対して垂直方向に配向している上記[1]又は[2]に記載の光拡散素子。
[4]上記液晶分子集合体のアスペクト比が2以上である上記[1]乃至[3]に記載の光拡散素子。
[5]上記液晶分子集合体の短手方向の長さが3μm以下である上記[1]乃至[4]に記載の光拡散素子。
[6]入射光の特定の直線偏光成分を、その偏光方向と入射光線を含む面内方向に光散乱し、その面に垂直方向の入射光の直線偏光成分を、直進透過する上記[1]乃至[5]のいずれか一項に記載の光拡散素子。
[7]温度調整又は電場印加によって上記液晶分子の配向分布を可逆的に変えることができ、光散乱の強度、偏光選択性あるいは散乱角度の範囲を変調できる上記[1]乃至[6]のいずれか一項に記載の光拡散素子。
[8]特定の直線偏光された波長532nmのレーザー光が入射された場合に、その直線偏光と入射面を含む面内に直線状に透過光が光散乱し、その状態からレーザー光の直線偏光方向を90度回転すると透過光がそのまま直進する、室温且つ無電場の状態にある、上記[1]乃至[7]のいずれか一項に記載の光拡散素子。
[9]上記マトリックスが前記液晶分子を含み、上記液晶分子集合体における上記液晶分子の含有割合を100%に規格化すると、上記マトリックスにおける上記液晶分子の含有割合が80.9%以下である、上記[1]乃至[8]のいずれか一項に記載の光拡散素子。
[10]上記液晶分子集合体が上記アクリル樹脂を含み、上記マトリックスにおける上記アクリル樹脂の含有割合を100%に規格化すると、上記液晶分子集合体における上記アクリル樹脂の含有割合が87.8%以下である、上記[1]乃至[8]のいずれか一項に記載の光拡散素子。
[11]ネマチック相を形成可能な液晶分子と、ウレタンアクリレートを含む単量体と、重合開始剤とを含有する原料組成物に、レーザー光を照射し、上記原料組成物に含まれる上記単量体を重合するレーザー光照射工程を備え、
上記原料組成物に含まれる上記液晶分子及び上記単量体の含有割合は、これらの合計を100モル%とした場合に、それぞれ、40~70モル%及び30~60モル%であり、且つ、上記ウレタンアクリレートの含有割合は、上記単量体の全量を100モル%とした場合に、30~70モル%であり、
上記レーザー光照射工程において、上記原料組成物におけるレーザー光照射面で不均一な光強度分布を形成させながら、上記レーザー光を上記原料組成物に照射することを特徴とする、光拡散素子の製造方法。
[12]上記不均一な光強度分布が、異方形状のスペックルパターンである上記[11]に記載の光拡散素子の製造方法。
[13]上記異方形状のスペックルパターンが、レーザー光源と、上記原料組成物との間の光路に異方性拡散板を載置した状態で、上記原料組成物を照射することにより得られる上記[12]に記載の光拡散素子の製造方法。
[14]上記レーザー光の照射面内の平均露光強度が3.2~300mW/cmである上記[11]乃至[13]のいずれか一項に記載の光拡散素子の製造方法。
[15]上記[1]乃至[9]のいずれか一項に記載の光拡散素子を備えることを特徴とする偏光フィルター。
[16]更に、上記光拡散素子を挟持する透明部材を備える上記[15]に記載の偏光フィルター。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光拡散素子によれば、光拡散性に優れ、光透過率を偏光方向によって容易に制御することができる。特に、透過光が直線状に拡がって散乱するため、例えば、線状光源等を使う端末バックライト、光スキャナー等において光拡散を特定方向に生じさせたい場合に好適である。また、液晶分子が、熱や電場に応答して配向が変化する場合には、散乱強度や偏光特性を変調することができ、より高機能の光学素子へ応用することができる。
また、本発明の光拡散素子の製造方法は、所定の原料組成物に、光強度分布を異方的に不均一化したレーザー光を照射するのみとすることができるので、高生産性である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の光拡散素子の構造を示す概略図である。
図2】本発明の光拡散素子の製造方法の一例を示す概略図である。
図3】原料組成物におけるレーザー光照射面で不均一な光強度分布を形成させたときの光強度分布の一例を示すグラフである。
図4】実施例1において原料組成物(R1)にレーザー光を照射して不均一な光強度分布が形成されたことを示すグラフである。
図5】実施例1で得られた光拡散素子(E1)、実施例2で得られた光拡散素子(E2)及び比較例1で得られた光拡散素子(F1)の各表面を偏光顕微鏡により撮影して得られた画像である。図中の「×」印は、クロスニコル条件下の撮影時の2枚の直線偏向方向である。
図6図5で示した実施例1で得られた光拡散素子(E1)の画像において相分離領域を明瞭にするために行った画像解析により得られた画像である。
図7図6の画像を用いて統計解析された液晶分子からなるドメインのサイズをプロットしたグラフである。
図8】実施例1で得られた光拡散素子(E1)の透明基板を取り外して露出した構造をメタノールにより処理して液晶分子を除去した後、走査型電子顕微鏡により撮影して得られた画像である。
図9】光拡散素子に光を照射した際の直進透過率を測定する方法を示す概略図である。
図10】実施例1で得られた光拡散素子(E1)、実施例2で得られた光拡散素子(E2)及び比較例1で得られた光拡散素子(F1)の各直進透過率の偏光角依存性を表すグラフである。
図11】光拡散素子に光を照射した後、透過して散乱した光の散乱率を測定する方法を示す概略図である。
図12】実施例1で得られた光拡散素子(E1)の光散乱強度と、偏光方向との関係(偏光方向依存性)を表すグラフである。
図13】実施例1で得られた光拡散素子(E1)の表面を、偏光顕微鏡により図5と異なる条件で撮影して得られた画像であり、「A」は、室温、無電場、+45°/-45°、クロスニコル配置での条件で、「B」は、0°/90°、クロスニコル配置に偏光子を置き変えた状態で、「C」は、ネマチック相-等方相の転移点より高い50℃に昇温した状態で、「D」は、電場印加(150V、500Hz)した状態で、それぞれ、撮影して得られた画像である。
図14】実施例1で得られた光拡散素子(E1)を50℃としたときの光の直進透過率の偏光角依存性を表すグラフである。
図15】実施例1で得られた光拡散素子(E1)を50℃として散乱角を15°としたときの光散乱強度と、偏光方向との関係(偏光方向依存性)を表すグラフである。
図16】実施例1で得られた光拡散素子(E1)を50℃として散乱角を30°としたときの光散乱強度と、偏光方向との関係(偏光方向依存性)を表すグラフである。
図17】実施例1で得られた光拡散素子(E1)に電場を印加したときの光の直進透過率の偏光角依存性を表すグラフである。
図18】実施例1で得られた光拡散素子(E1)に電場を印加して散乱角を15°としたときの光散乱強度と、偏光方向との関係(偏光方向依存性)を表すグラフである。
図19】実施例1で得られた光拡散素子(E1)に電場を印加して散乱角を30°としたときの光散乱強度と、偏光方向との関係(偏光方向依存性)を表すグラフである。
図20図5で示した比較例1で得られた光拡散素子(F1)の画像において相分離領域を明瞭にするために行った画像解析により得られた画像である。
図21図20の画像を用いて統計解析された液晶分子からなるドメインのサイズをプロットしたグラフである。
図22】互いに異なる複数種の原料組成物を用いて光拡散素子を製造した場合に、単量体及び液晶分子の合計に対する液晶分子の使用量の割合と、単量体の全量に対するウレタンアクリレート「AH-600」(商品名)の使用量の割合と、光拡散素子に含まれる液晶分子の配向秩序度との関係を示すグラフである。
図23】互いに異なる複数種の原料組成物を用いて光拡散素子を製造した場合に、単量体及び液晶分子の合計に対する液晶分子の使用量の割合と、単量体の全量に対するウレタンアクリレート「AH-600」(商品名)の使用量の割合と、光拡散素子における光散乱の偏光度との関係を示すグラフである。
図24】実施例1で得られた光拡散素子(E1)を用いた場合と用いない場合で偏光選択性を有する光拡散の様子を確認する画像である。
図25】光拡散素子製造用の原料である液晶分子(5CB)及びウレタン系アクリルプレポリマー(AH-600)のラマンスペクトルである。
図26】(A)は、実施例3で得られた光拡散素子(E3)における液晶分子(5CB)の空間的分布を示すマッピング画像であり、液晶分子に係るラマン散乱波長(1600cm-1)のピーク面積をモノクロ濃淡で表現したものであり、(B)は、光拡散素子(E3)におけるアクリル系樹脂の空間的分布を示すマッピング画像であり、アクリル系樹脂に係るラマン散乱波長(1000cm-1)のピーク面積をモノクロ濃淡で表現したものである。
図27図26に示された、液晶分子集合体部分(位置P)及びアクリル樹脂マトリックス部分(位置P)において、それぞれ、測定されたラマンスペクトルである。
図28】(A)は、実施例3で得られた光拡散素子(E4)における液晶分子(5CB)の空間的分布を示すマッピング画像であり、液晶分子に係るラマン散乱波長(1600cm-1)のピーク面積をモノクロ濃淡で表現したものであり、(B)は、光拡散素子(E4)におけるアクリル系樹脂の空間的分布を示すマッピング画像であり、アクリル系樹脂に係るラマン散乱波長(1000cm-1)のピーク面積をモノクロ濃淡で表現したものである。
図29図28に示された、液晶分子集合体部分(位置P)及びアクリル樹脂マトリックス部分(位置P)において、それぞれ、測定されたラマンスペクトルである。
図30】(A)は、実施例4で得られた光拡散素子(E5)における液晶分子(5CB)の空間的分布を示すマッピング画像であり、液晶分子に係るラマン散乱波長(1600cm-1)のピーク面積をモノクロ濃淡で表現したものであり、(B)は、光拡散素子(E5)におけるアクリル系樹脂の空間的分布を示すマッピング画像であり、アクリル系樹脂に係るラマン散乱波長(1000cm-1)のピーク面積をモノクロ濃淡で表現したものである。
図31図30に示された、液晶分子集合体部分(位置P)及びアクリル樹脂マトリックス部分(位置P)において、それぞれ、測定されたラマンスペクトルである。
図32】実施例5~11における光拡散素子製造時の露光強度と、得られた光拡散素子に波長550nmの光を照射した際の直進透過率(T及びT)並びに偏光比(T/T)との関係を示すグラフである。
図33】実施例5で得られた光拡散素子(E6)の表面を偏光顕微鏡により撮影して得られた画像である。
図34】実施例6で得られた光拡散素子(E7)の表面を偏光顕微鏡により撮影して得られた画像である。
図35】実施例7で得られた光拡散素子(E8)の表面を偏光顕微鏡により撮影して得られた画像である。
図36】実施例8で得られた光拡散素子(E9)の表面を偏光顕微鏡により撮影して得られた画像である。
図37】実施例9で得られた光拡散素子(E10)の表面を偏光顕微鏡により撮影して得られた画像である。
図38】実施例10で得られた光拡散素子(E11)の表面を偏光顕微鏡により撮影して得られた画像である。
図39】実施例11で得られた光拡散素子(E12)の表面を偏光顕微鏡により撮影して得られた画像である。
図40】実施例5~11で得られた各光拡散素子の配向秩序度Sと、直進透過率の偏光比(T/T)との関係(×印)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の光拡散素子は、ウレタン結合を有するアクリル樹脂(以下、単に「アクリル系樹脂」という)を含むマトリックス(以下、「アクリル樹脂マトリックス」という)の中に、ネマチック相の状態にある液晶分子の集合体が特定方向に細長い異方形状を有して分散されてなり、液晶分子が配向していることを特徴とする。本明細書において、「アクリル樹脂」は、アクリロイル基及びメタクリロイル基の一方又は両方を有する単量体に由来する樹脂である。以下、アクリロイル基及びメタクリロイル基を「(メタ)アクリロイル基」という。また、このアクリル系樹脂の形成に用いる単量体は、光重合性である。
【0016】
本発明の光拡散素子に含まれるアクリル系樹脂は、ウレタン結合を1つ以上有するものであれば、特に限定されず、単独重合体及び共重合体のいずれでもよい。また、上記アクリル系樹脂は、ウレタン結合を有する単量体(以下、「ウレタン結合含有単量体」ともいう)に由来する構造単位を含むことが好ましい。
【0017】
上記ウレタン結合含有単量体は、好ましくは、ポリイソシアネートと、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートとを反応させて得られた化合物、又は、ポリイソシアネートと、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートと、ポリオールを反応させて得られた化合物であり、以下、これらの単量体を、「ウレタンアクリレート」という。
【0018】
上記ポリイソシアネートとしては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート及びリジンジイソシアネート等の鎖状脂肪族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、2,4-又は2,6-メチルシクロヘキサンジイソシアネート(水添TDI)、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキシレン-1,2-ジカルボキシレート、2,5-又は2,6-ノルボルナンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート;1,3-又は1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-又は2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’-又は2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、m-又はp-イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5-ナフチレンジイソシアネート及びm-又はp-イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート、m-又はp-キシリレンジイソシアネート(XDI)、α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等の芳香族ポリイソシアネートが挙げられる。
【0019】
上記ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、1,2,3-プロパントリオール-1,3-ジ(メタ)アクリレート、3-アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0020】
上記ポリオールとしては、鎖状脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール及び芳香族ポリオール並びにこれらのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。アルキレンオキサイド付加物は、エチレンオキサイド、1,2-又は1,3-プロピレンオキサイド、1,2-、1,3-、1,4-又は2,3-ブチレンオキサイド等から選ばれた少なくとも1種を用いた付加物とすることができる。
【0021】
上記鎖状脂肪族ポリオールとしては、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-ドデカンジオール等の直鎖状脂肪族ジオール;1,2-、1,3-又は2,3-ブタンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール等の分岐状脂肪族ジオール;ペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、ソルビタン、ジグリセリン、ジペンタエリスリトール等の鎖状脂肪族3~8価アルコール等が挙げられる。
【0022】
上記脂環式ポリオールとしては、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロペンタンジオール、1,4-シクロヘプタンジオール、1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、1,3,5-シクロヘキサントリオール等が挙げられる。
【0023】
上記芳香族ポリオールとしては、レゾルシノール、ハイドロキノン、ナフタレンジオール、ビスフェノール(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等)等が挙げられる。
【0024】
上記ウレタン結合含有単量体(ウレタンアクリレート)に含まれるウレタン結合及び(メタ)アクリロイル基の数は、特に限定されない。従って、上記ウレタン結合含有単量体(ウレタンアクリレート)は、単官能性単量体及び多官能性単量体のいずれでもよい。本発明においては、光拡散素子の構造安定性に優れることから、架橋構造を与える多官能性単量体であることが好ましい。
また、上記アクリル系樹脂に含まれる、ウレタンアクリレートに由来する構造単位の含有割合は、本発明の光拡散素子における光学異方性発現の観点から、上記アクリル系樹脂を構成する単量体の全量を100モル%とした場合に、好ましくは33~60モル%、より好ましくは42~50モル%である。
【0025】
上記アクリル系樹脂は、上記のように、共重合体であってもよい。共重合体の場合、単官能性単量体、多官能性単量体等に由来する構造単位を含むことができ、このようなアクリル系樹脂を含む光拡散素子は、光拡散性に優れ、即ち、入射した光を特定の方向に直線状に拡げて拡散することができ、更に、光透過率を偏光方向によって容易に制御することができる。
【0026】
上記単官能性単量体としては、上記例示したヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートや、トリシクロアルカンモノアルコールのモノ(メタ)アクリレート、トリシクロアルカンジアルコールのモノ(メタ)アクリレート、ジアルキルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、ヒドロキシアルキルアクリルアミド、メチロールアクリルアミド、アルコキシアルキルアクリルアミド、ジアルキルアミノエチルアクリルアミド、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニル-2-ピロリドン、酢酸ビニル、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-ビニルホルムアミド、(メタ)アクリロニトリル、ビニルピリジン等が挙げられる。尚、N-ビニル-2-ピロリドン及び酢酸ビニルは、単官能であるものの架橋剤として作用する。上記単官能性単量体としては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及びN-ビニル-2-ピロリドンが好ましい。
【0027】
上記多官能性単量体としては、トリシクロアルカンジアルコールのジ(メタ)アクリレート(トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等)、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド付加物トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのうち、トリシクロアルカンジアルコールのジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0028】
上記アクリル系樹脂は、アクリル樹脂マトリックスの光透過性の観点から、好ましくは、ウレタンアクリレートに由来する構造単位と、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに由来する構造単位と、N-ビニル-2-ピロリドン等の架橋剤の作用を有する単量体に由来する構造単位と、トリシクロアルカンジアルコールのジ(メタ)アクリレートに由来する構造単位とからなる共重合体であり、通常、架橋構造を有する。
【0029】
本発明の光拡散素子を構成するアクリル樹脂マトリックスに含まれるアクリル系樹脂は、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。
【0030】
本発明の光拡散素子に含まれる液晶分子は、好ましくは10℃~60℃、より好ましくは10℃~30℃において、ネマチック相の状態である化合物であり、例えば、ビフェニル系化合物、ターフェニル系化合物、フェニルシクロヘキシル系化合物、ビフェニルシクロヘキシル系化合物、フェニルビシクロヘキシル系化合物、安息香酸フェニル系化合物、シクロヘキシル安息香酸フェニル系化合物、フェニル安息香酸フェニル系化合物、ビシクロヘキシルカルボン酸フェニル系化合物、アゾメチン系化合物、アゾ系化合物、アゾオキシ系化合物、スチルベン系化合物、ビシクロヘキシル系化合物、フェニルピリミジン系化合物、ビフェニルピリミジン系化合物、ピリミジン系化合物、ビフェニルエチン系化合物等が挙げられる。これらのうち、ビフェニル系化合物が好ましく、シアノビフェニル系化合物が特に好ましい。尚、光拡散素子に含まれる液晶分子は、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。
【0031】
上記シアノビフェニル系化合物は、好ましくは、下記一般式(1)で表される、キラル中心を有さない化合物である。
-Ph-Ph-CN (1)
(式中、Rはアルキル基又はアルコキシ基であり、Phはフェニレン基である。)
【0032】
上記一般式(1)において、Rがアルキル基又はアルコキシ基である場合のアルキル部分の炭素原子数は、好ましくは4~9、より好ましくは5~7である。
【0033】
本発明においては、ネマチック相となる温度範囲の観点から、上記一般式(1)において、Rがアルキル基である化合物(4-シアノ-4’-アルキルビフェニル)が好ましく、4-シアノ-4’-ペンチルビフェニル、4-シアノ-4’-ヘキシルビフェニル及び4-シアノ-4’-ヘプチルビフェニルが特に好ましい。
【0034】
本発明の光拡散素子に含まれるアクリル系樹脂及び液晶分子の含有割合は、特に限定されないが、液晶分子の含有割合は、アクリル系樹脂及び液晶分子の含有量の合計を100モル%とした場合に、好ましくは43~65モル%であり、これは、アクリル系樹脂となる単量体に含まれるウレタンアクリレートの含有割合によって制限される。
【0035】
図1は、本発明の光拡散素子、即ち、アクリル樹脂マトリックス2の中に、ネマチック相の状態にある液晶分子4の集合体3が分散している光拡散素子1の構造を示す概略図である。本発明の光拡散素子1は、光を、図1の構造を有する光拡散素子1に対して紙面において垂直に入射させて用いる。
【0036】
光拡散素子1に含まれる液晶分子集合体3は、例えば、棒状の異方形状を有し、全ての液晶分子集合体3が、長さ方向に平行に、特定方向(一方向を意味する)に延びるように含まれている。図1は、液晶分子集合体3が上下方向に含まれるとした。即ち、液晶分子集合体3は、その異方方向を平行に維持した状態にある。そして、液晶分子4の一部、より好ましくは大部分が、特定の一方向(図1では横方向)に配向している。図1では、液晶分子集合体3の長さ方向と、液晶分子4の配向する方向とが、ほぼ直交しているが、この態様に限定されない。
液晶分子4が配向していることは、ネマチック相と等方相の相転移温度より低い温度、及び無電場の条件下、FT-IRを用いて、光拡散素子の試料の手前あるいは後方に赤外波長偏光子を挿入し、測定される赤外線吸収スペクトルに基づいて計算される配向秩序度により確認することができる。また、液晶種によるが、紫外波長域あるいは可視波長域の吸収測定やX線散乱測定により求められる配向秩序度により確認することもできる。本発明の光拡散素子における配向秩序度は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.04以上、更に好ましくは0.08以上である。尚、配向秩序度0は、等方的であること、即ち、液晶分子は特定方向に配向していないことを意味する。
【0037】
上記液晶分子集合体3のサイズは、特に限定されないが、偏光顕微鏡等による平面画像を用いて測定された長手方向の長さと短手方向の長さとの比であるアスペクト比は、好ましくは2以上、より好ましくは5以上である。また、上記液晶分子集合体3の短手方向の長さは、好ましくは3μm以下、より好ましくは1μm以下、更に好ましくは散乱させる光波長の長さ以下である。
【0038】
本発明の光拡散素子は、アクリル樹脂マトリックスの中に、ネマチック相の状態にある液晶分子の集合体が特定方向に細長い異方形状を有して分散されている、液晶分子及びアクリル系樹脂の相分離を利用する高分子ネットワーク液晶(PNLC)からなるものであるが、特に好ましくは、図1に示すように、アクリル樹脂マトリックス2の中には液晶分子4が分散しており、液晶分子集合体3の中にはアクリル系樹脂4が含まれる構造を有する。この場合、本発明の光拡散素子は、液晶分子からなる液晶相とアクリル系樹脂からなる高分子相とが完全に分離した構造を必ずしも有するものではない。ここで、「アクリル樹脂マトリックス2の中に液晶分子4が分散しており、液晶分子集合体3の中にアクリル系樹脂4が含まれる構造を有する」とは、本発明の光拡散素子が、液晶分子の濃度が相対的に高い液晶リッチ相と、アクリル系樹脂の濃度が相対的に高い高分子リッチ相とを備える一方、液晶分子及びアクリル系樹脂が空間的に不均一に分布していることを意味する。
【0039】
このような、液晶分子が不均一に分布した構造を有することは、例えば、顕微ラマン分光法により解明される。
初めに、得られたラマンスペクトルにおいて、互いに異なる波数であって、液晶分子及びアクリル系樹脂において特定官能基に由来するラマン散乱帯の互いに干渉し合わないピークの波数を決定し、その後、顕微鏡画像から認識される液晶分子集合体の部分、及び、液晶分子集合体ではない部分(アクリル樹脂マトリックスの部分)に対して、ラマン分光装置の光源から光を照射し、上記で決定した各ラマンシフト波数(以下、単に「波数」という)におけるピークの面積を算出する。液晶分子における特定官能基としては、ビフェニル基が挙げられ、このインプレーン振動モードが発生する特徴的なピークの波数は1600cm-1である。また、アクリル系樹脂における特定官能基としては、フェニル基の呼吸振動モードが挙げられ、これによって生じるピークの波数は1000cm-1である。本発明の光拡散素子では、これらのピーク面積を利用して、液晶分子集合体における液晶分子の含有割合を100%とすると、アクリル樹脂マトリックスにおける液晶分子の含有割合を、好ましくは80.9%以下、より好ましくは42%以下とすることができる。また、アクリル樹脂マトリックスにおけるアクリル系樹脂の含有割合を100%とすると、液晶分子集合体におけるアクリル系樹脂の含有割合を、好ましくは87.8%以下、より好ましくは43%以下とすることができる。
【0040】
本発明の光拡散素子の形状及びサイズは、特に限定されず、用途に応じて、適宜、設定される。例えば、液晶表示装置等のディスプレイのバックライト、複写機、スキャナー装置等に利用する偏光フィルターの構成部材とする場合には、厚さが10~50μm程度のフィルムであることが好ましい。フィルムの場合、異方形状の液晶分子集合体がその面方向に延びたフィルム(光拡散素子)の表面に対して光を照射し、各種用途に供される。
【0041】
本発明の光拡散素子は、通常、液晶がネマチック相を示す温度範囲において、偏光方向により、透明と不透明(白濁化)とを、又は、透明と半透明とを、あるいは、半透明と不透明とを切り換えることができる。
【0042】
本発明の光拡散素子によると、室温及び無電場の条件において、特定の偏光角をもつ入射光(例えば、波長400~800nmの光)を選択的に光散乱させ、その散乱光は、特定方向に直線的に拡がる。即ち、入射光のうち、特定の偏光角に直線的に偏光した成分がその偏光方向と入射光を含む平面内に直線的に拡がって光散乱し、その一方で、入射光のうち、この平面に対し垂直方向に直線偏光した成分が直進透過する。従って、本発明の光拡散素子は、入射光の偏光角を90°回転させると、線状に拡がる光散乱状態と直進透過状態との間で切り換えることができる。
【0043】
本発明の光散乱素子は、内部に含まれる液晶分子の外部刺激応答性を利用し、温度調整又は電場印加によって、光散乱特性を変調する、即ち、液晶分子の配向分布を可逆的に変えることができる。従って、本発明の光拡散素子を、より高機能なアクティブ光伝播制御素子として応用することができる。この場合の適用温度は、液晶分子のネマチック相-等方相の相転移温度をT(℃)とした場合に、好ましくは20℃~(T-1)℃である。また、電場を印加する場合には、電圧を150V、周波数を500Hzとすることが好ましい。例えば、室温では、光散乱に偏向選択性があるが、ネマチック相-等方相の相転移温度より高くすることで、液晶分子が等方相に相転移し、その結果、光散乱は偏光無依存となる。一方、ガラス基板にITO等の透明基板を塗布した素子構造とすると、無電場では光散乱の偏光選択性が得られ、所定の電圧及び周波数で交流電場を印加すると、光散乱を偏光無依存にすることができる。
【0044】
本発明の光拡散素子の製造方法は、ネマチック相を形成可能な液晶分子と、ウレタンアクリレートを含む単量体と、重合開始剤とを含有する原料組成物に、レーザー光を照射し、原料組成物に含まれる単量体を重合するレーザー光照射工程を備える。使用するレーザーは、好ましくは、可視光領域である波長532nmの光を発振するレーザー(以下、「グリーンレーザー」という)であるが、重合開始剤を変えることで、異なる波長で発振するレーザー、例えば、波長488nmで発振するブルーレーザー、あるいは、波長408nmで発振するバイオレットレーザー、あるいは、波長375nmで発振する紫外レーザー等を使うことができる。
本発明の光拡散素子の製造方法は、レーザー光照射工程の後、必要に応じて、完全に重合しきれず高分子にならない可能性のあるアクリレート単量体を重合させるため、照射面内において均一な光強度で追加露光する工程を備えることができる。
【0045】
上記レーザー光照射工程で用いる原料組成物は、液晶分子、単量体及び重合開始剤を含有し、必要に応じて、グリーンレーザーによる単量体の重合を効率よく進めるため、更に、増感色素を含有することができる。重合開始剤及び増感色素が共存するところへ、グリーンレーザーを用いてレーザー光を照射すると、重合開始剤が増感色素の光励起エネルギーを受け取り、活性ラジカルを効率よく発生させることが可能な場合がある。
【0046】
上記原料組成物に含まれる液晶分子としては、上記液晶分子を好ましく用いることができる。
上記単量体は、ウレタンアクリレートを含み、更に、他の単量体(単官能性単量体、多官能性単量体等)を含むことができる。尚、ウレタンアクリレートは、上記本発明の光拡散素子に含まれるアクリル系樹脂を構成する構造単位を与えるウレタンアクリレートを用いることが好ましく、多官能性であることが特に好ましい。上記単量体は、ウレタンアクリレートと、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと、N-ビニル-2-ピロリドン等の架橋剤の作用を有する単量体と、トリシクロアルカンジアルコールのジ(メタ)アクリレートとからなることが好ましい。
【0047】
上記原料組成物に含まれる液晶分子及び単量体の含有割合は、これらの合計を100モル%とした場合に、それぞれ、40~70モル%及び30~60モル%であり、好ましくは43~65モル%及び35~57モル%であり、この範囲は、ウレタンアクリレート単量体の含有割合に依存する。また、上記原料組成物におけるウレタンアクリレートの含有割合は、単量体の全量を100モル%とした場合に、30~70モル%であり、好ましくは33~60モル%である。
【0048】
上記原料組成物に含まれる重合開始剤は、好ましくは、光重合開始剤である。光重合開始剤は、特に限定されないが、N-フェニルグリシン、N-メチル-N-フェニルグリシン、N-エチル-N-フェニルグリシン等のN-アリール-α-アミノ酸が好ましい。尚、このN-アリール-α-アミノ酸は、ジブロモフルオレセイン、ローダミン6G等のキサンテン化合物等の増感色素と組み合わせた2分子型光重合開始剤として用いることができる。
【0049】
上記原料組成物における重合開始剤の含有割合は、上記単量体の全量に対して、好ましくは0.1~0.8モル%、より好ましくは0.3~0.5モル%である。
【0050】
上記原料組成物は、通常、液状組成物であり、単量体の構成によるが、混合した単量体の室温(25℃)における粘度は、通常、6.5~175mPa・sである。
【0051】
上記レーザー光照射工程では、原料組成物におけるレーザー光照射面で不均一な光強度分布を形成させながら原料組成物にレーザー光が照射される。即ち、原料組成物の全面に、均一なエネルギーでレーザー光を照射するのではなく、面内の場所によりエネルギーが異なるようにレーザー光を照射する。本発明においては、原料組成物に、異方形状のスペックルパターンを形成させながら、レーザー光を原料組成物に照射することが好ましい。
【0052】
異方形状のスペックルパターンを形成する方法としては、入射したレーザー光がランダムな光パターンを形成しつつ出射される異方性拡散板を用いることが好ましい。出射したレーザー光の拡散角度は、特に限定されない。異方性拡散板としては、樹脂拡散板、液晶分散シート、ホログラム拡散板等を用いることができる。尚、これらの異方性拡散板における光拡散構造は、特に限定されない。
上記異方性拡散板を用いる場合、異方性拡散板は、レーザー光源と、原料組成物との間の光路に配置され、レーザー光源から異方性拡散板に向けてレーザー光を発振させ、異方性拡散板から不均一な光強度分布を有するレーザー光が原料組成物に照射される(図2参照)。
【0053】
尚、「原料組成物のレーザー光照射面で形成された不均一な光強度分布」は、通常、正規分布であり、図3に例示される。図3は、光散乱強度の平均値を、例えば、50%として光散乱強度の分布を示すグラフであるが、これに限定されない。本発明においては、光散乱強度の平均値50%から22%以上低い光散乱強度、及び、上記平均値から22%以上高い光散乱強度の各割合(図中、K1及びK2の面積割合)が、分布曲線から算出される合計面積に対して好ましくは5%以上、より好ましくは8%以上含まれる曲線で構成される光強度分布を形成することが好ましい。
【0054】
レーザー光が照射される原料組成物は、上記のように、液状であるため、レーザー被照射物とするために、所定量を支持体の上に載置した状態、支持体と、レーザー光を透過する部材との間に載置した状態、又は、レーザー光を透過する容器に収容した状態等とすることができる。所定形状のキャビティを有する容器を用いる場合には、レーザー光照射後に、容器から取り出した光拡散素子をそのまま最終製品として利用することができる。
尚、レーザー光を透過する材料としては、用いるレーザー光の発振波長によるが、石英ガラス、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス等の無機ガラス;アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等の透明樹脂等が挙げられる。図2は、原料組成物を2枚のガラス板で形成した隙間に注入したものとしている。例えば、厚さが10~50μmの薄肉体からなる光拡散素子を製造する場合には、このような複合体を準備し、レーザー光照射に供することが好ましい。
【0055】
上記原料組成物へのレーザー照射条件は、特に限定されないが、レーザー光の照射面内の平均露光強度の下限は、好ましくは1mW/cm、より好ましくは3.2mW/cm、更に好ましくは10mW/cm、特に好ましくは100mW/cmであり、上限は、好ましくは300mW/cmである。レーザー光照射時間は、原料組成物の量等により、適宜、選択されるが、単量体を十分に重合させるために、好ましくは5分間以上である。照射面積が大きい場合は、スキャンしながらレーザー光照射を行ってもよい。また、レーザー光照射時の原料組成物の温度は、液晶分子をネマチック相の状態とすることができる10℃~30℃が好ましい。
【0056】
上記レーザー光照射工程において、不均一露光を行うため、照射光強度に応じて、重合の速さが空間的に異なり、スペックルパターン形状に応じた速度分布をもって、光重合誘起相分離(PPIPS)の現象が生じる。そして、単量体の重合が完結した結果、形成されたアクリル系樹脂と液晶分子とが、メゾスケール(例えば、波長400~800nmの光が効率的に散乱される光波長スケール)のサイズで相分離し、この過程で液晶分子が自己組織化的に特定方向に配向し、偏光選択性を有する光散乱構造が形成される。
【0057】
本発明の光拡散素子の製造方法は、上記のように、レーザー光照射工程の後、必要に応じて、追加の露光工程を備えることができる。
【0058】
本発明の偏光フィルムは、上記本発明の光拡散素子を備える。本発明の偏光フィルムは、上記光拡散素子からなるフィルム(単体フィルム)、上記光拡散素子からなるフィルムと、自然光又は偏光を直線変更に変換する偏光子とを備える積層フィルム、又は、上記光拡散素子が透明部材により挟持された複合体フィルムとすることができる。
【0059】
本発明の偏光フィルムが上記光拡散素子からなるフィルム(単体フィルム)である場合、その厚さは、好ましくは5~100μm、より好ましくは10~50μmである。
【0060】
本発明の偏光フィルムが上記積層フィルムである場合、偏光子は、ポリビニルアルコール系重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体等に二色性物質を吸着させた後、一軸延伸させてなるフィルム等とすることができる。
【0061】
本発明の偏光フィルムが上記複合体フィルムである場合、透明部材は、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース樹脂、ポリオレフィン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリノルボルネン樹脂等からなるものとすることができる。
【0062】
本発明の偏光フィルムは、液晶表示装置等のディスプレイのバックライト、複写機、スキャナー装置等の構成部材として利用することができる。
【実施例0063】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
1.光拡散素子の製造原料
1-1.液晶分子
東京化成工業社製4-シアノ-4’-ペンチルビフェニル(一般に「5CB」とも記述される)を用いた。
1-2.単量体(ウレタン系アクリルプレポリマー)
共栄社化学社製フェニルグリシジルエーテルアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー「AH-600」(商品名)を用いた。
1-3.他の単量体
シグマアルドリッチ社製トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールジアクリラートを用いた。
1-4.他の単量体
東京化成工業社製2-ヒドロキシエチルメタクリレートを用いた。
1-5.他の単量体(架橋剤)
東京化成工業社製1-ビニル-2-ピロリドンを用いた。
1-6.重合開始剤
東京化成工業社製N-フェニルグリシン及び東京化成工業社製ジブロモフルオレセインを用いた。
【0065】
2.光拡散素子の製造及び評価(1)
上記の原料を用いて原料組成物を調製し、次いで、この原料組成物を収容した試料セルを作製し、図2に示す要領で、試料セル内の原料組成物に不均一な光強度分布を形成させつつレーザー光を照射し、光拡散素子を製造した。
【0066】
実施例1
44モル%のウレタン系アクリルプレポリマーと、23モル%のトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールジアクリラートと、27モル%の2-ヒドロキシエチルメタクリレートと、6モル%の1-ビニル-2-ピロリドンとを混合して、単量体混合物を得た。次いで、この単量体混合物45モル%と、液晶分子(4-シアノ-4’-ペンチルビフェニル)55モル%と、これらの合計100モル%に対して、更に、N-フェニルグリシン及びジブロモフルオレセインを、それぞれ、0.3モル%ずつ用いて、混合し、原料組成物(以下、「原料組成物(R1)」という)を得た。
【0067】
その後、原料組成物(R1)を、表面処理等が施されていない2枚の透明ガラス板で形成させた隙間(30μm)に注入し、試料セル(サイズ:約25mm×約20mm)を作製した。そして、波長532nmのグリーンレーザーを備えるレーザー光源と、異方性拡散板とを用いて、試料セル中の原料組成物(R1)にレーザー光を不均一照射し、光拡散素子(以下、「光拡散素子(E1)」という)を得た。尚、照射面内の平均レーザー光強度を光パワーメータで測定したところ、約100mW/cmであった。具体的には、図2に示すように、オプティカルソルーションズ社製異方性拡散板「LSD60x1PC10-12」(商品名)を、レーザー光源と、試料セルとの間(光路中)であり、且つ、試料セルから5mm手前の位置に配置し、レーザー光源から発振されたレーザー光をこの異方性拡散板に入射させた後、広角に屈折させるとともにレーザー光の強度に分布を持たせて、異方形状のスペックルパターン(図2の中の画像参照)を形成させつつ試料セル中の原料組成物(R1)に照射し、単量体混合物を重合させ、光拡散素子(E1)を得た。光拡散させる構造の厚さは30μmである。図4は、上記方法によるレーザー光照射面で不均一な光強度分布が形成されたことを示すグラフ(図2の画像から統計解析により作製したもの)であり、光散乱強度の平均値50%を中心に分布する分布曲線において、低い光散乱強度の割合が全体に対して10%である光散乱強度の上限は35%であり、高い光散乱強度の割合が全体に対して10%である光散乱強度の下限は68%であった。
【0068】
実施例2
44モル%のウレタン系アクリルプレポリマーと、23モル%のトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールジアクリラートと、27モル%の2-ヒドロキシエチルメタクリレートと、6モル%の1-ビニル-2-ピロリドンとを混合して、単量体混合物を得た。次いで、この単量体混合物52モル%と、液晶分子(4-シアノ-4’-ペンチルビフェニル)48モル%と、これらの合計100モル%に対して、更に、N-フェニルグリシン及びジブロモフルオレセインを、それぞれ、0.3モル%ずつ用いて、混合し、原料組成物(以下、「原料組成物(R2)」という)を得た。
次いで、この原料組成物(R2)を原料組成物(R1)に代えて用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、光拡散素子(以下、「光拡散素子(E2)」という)を得た。
【0069】
比較例1
29モル%のウレタン系アクリルプレポリマーと、23モル%のトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールジアクリラートと、42モル%の2-ヒドロキシエチルメタクリレートと、6モル%の1-ビニル-2-ピロリドンとを混合して、単量体混合物を得た。次いで、この単量体混合物54モル%と、液晶分子(4-シアノ-4’-ペンチルビフェニル)46モル%と、これらの合計100モル%に対して、更に、N-フェニルグリシン及びジブロモフルオレセインを、それぞれ、0.3モル%ずつ用いて、混合し、原料組成物(以下、「原料組成物(S1)」という)を得た。
次いで、この原料組成物(S1)を原料組成物(R1)に代えて用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、光拡散素子(以下、「光拡散素子(F1)」という)を得た。
【0070】
実施例1で得られた光拡散素子(E1)を、2枚の偏光子を±45°偏光角としたクロスニコル条件下、28℃で、偏光顕微鏡法で観察したところ、筋状の相分離領域を確認することができた(図5参照)。図5には、実施例2で得られた光拡散素子(E2)及び比較例1で得られた光拡散素子(F1)の偏光顕微鏡画像を併載しているが、クロスニコル条件下で観察された画像における色調は、光学異方性の強さ(複屈折性)の指標であり、原料組成物における液晶分子の含有割合(モル比)が高いほど、光学異方性が高まることを示唆している。
この図5における実施例1の画像に対し、色調コントラストの高い領域をハイライトし(図6参照)、画像解析した後、液晶分子の集合体からなるドメインの形状分布を統計解析した(図7参照)。図7は、上記ドメインの長軸方向及び短軸方向の長さの関係を表すグラフであり、プロットの各データを直線フィッティングして得られた傾きの逆数を、相分離領域の異方性の指標値として扱った。図7の場合、5.49であり、等方的である指標値1に対して高いため、異方性が大きいことが明らかである。尚、図6において高濃度の黒色部分は、樹脂マトリックスであり、白色部分は、特定方向(ここでは、横方向)に配向秩序が高い状態にある液晶分子の集合体であり、灰色部分は、樹脂及び液晶分子が重なった部分、あるいは、配向秩序度が低い液晶分子が存在する領域である。液晶分子の集合体の短手方向の長さは、実施例1において、1~5μm、実施例2において2~8μmであった。また、液晶分子の集合体のアスペクト比は、実施例1において、5.49、実施例2において2.10であった。
【0071】
また、20℃及び無電場の条件下、光拡散素子(E1)のFT-IR測定を、パーキンエルマー社製赤外分光光度計「Frontier」(型式名)により行い、液晶分子の配向秩序度を測定したところ、0.095であった。具体的には、赤外用の偏光板を光拡散素子の手前に置き、液晶分子の分子中のシアノ基の振動モードに起因して2225cm-1近傍に生じる吸収ピークを異なる偏光角度で測定し、それぞれの偏光角度でのピーク面積の値を用いて、配向秩序度を求めた。尚、測定時の波数域は、380~8000cm-1とした。
実施例2で得られた光拡散素子(E2)及び比較例1で得られた光拡散素子(F1)の場合、液晶分子の配向秩序度は、それぞれ、0.016及び0であり、原料組成物における液晶分子の含有割合(モル比)が高いほど、得られた光拡散素子における液晶分子の配向秩序度は高く、上記の偏光顕微鏡画像における色調の傾向に一致していた。
【0072】
更に、得られた光拡散素子(E1)の透明基板を一部除去し、露出した構造をメタノールに60分程度の間浸漬し、表面層の液晶分子を除去し、残った高分子の表面構造を走査型電子顕微鏡で観察した(図8参照)。低倍率で観察した右下の画像(i)では、光拡散素子の上面で奥から手前方向に向かって筋状の模様が観察される。これは、異方形状相分離の長手方向に一致する。他の3つの画像(ii)、(iii)及び(iv)は、右下の画像(i)における異なる位置で高解像観察した拡大画像である。画像(i)によると、光拡散素子の上面には無数の空洞が、筋状に沿って分布し、断面表面を拡大した画像(iv)によると、空孔をともなって分布した高分子の網目構造が観察されていることから、高分子網目の隙間を液晶分子が分布し、筋状に沿った空孔により構造的に液晶分子が特定の一方向に配向しやすくなったと推察される。
【0073】
次に、図9に示す要領で、光拡散素子(E1)に波長550nmの光を照射して、直進透過率の偏光角依存性を調べた。即ち、光源と光検出器とを結ぶ光路中に光拡散素子を載置し、光の直進透過率を測定した(図10参照)。
図10には、実施例2で得られた光拡散素子(E2)及び比較例1で得られた光拡散素子(F1)に対して測定したときの直進透過率のグラフを併載しているが、原料組成物における液晶分子の含有割合(モル比)が変化させると、直進透過率の度合いが変化すること、及び、偏光角に依存しない場合があることが分かった。
更に、図11に示す要領で、光拡散素子(E1)に波長550nmの光を照射して、光散乱強度の偏光方向依存性を調べた。即ち、図11における光検出器の配置を変更して、直進透過方向(図11におけるz軸方向)から15°、30°又は45°の角度θだけずらした位置とし、光の散乱比率を測定した(図12参照)。図10で示したグラフ(直進透過率)と比べると、偏光角が90°ずれた偏光依存性を有することが分かった。
【0074】
光拡散素子(E1)の表面を、図5と異なる条件で偏光顕微鏡により撮影した画像を図13に示す。この図13において、画像Aは、2枚の偏光子を、それぞれ、+45°及び-45°の偏光角として光拡散素子を挟んだ配置、即ち、45°クロスニコル条件下、28℃で撮影して得られた画像である。画像Bは、上記2枚の偏光子を45°回転させ、0°及び90°の偏光角、即ち、0°クロスニコル条件下で撮影して得られた画像である。画像Cは、画像Aの状態から、ネマチック相-等方相の転移点(35℃)より高い50℃とした状態で撮影して得られた画像である。画像Dは、画像Aの状態から、電場印加(150V、500Hz)した状態で撮影して得られた画像である。尚、図13における十字マークは、クロスニコル配置の二枚の偏光子の偏光角度を示す。
図13の画像Bは、画像Aに比べて色調が抑えられていることから、光拡散素子の光学異方性は、液晶分子の配向によって発現しており、液晶分子は縦長の異方相分離形状に対し、短手方向(図13の水平方向)に多く一軸配向していることが分かった。また、画像C及びDにおいても画像Aに比べて色調が可逆的に変化していることから、光学異方性を生じているのは液晶分子の配向であることが分かった。光拡散素子の製造に用いた透明ガラス板の原料組成物接触面は、表面処理等が施されていないため、異方形状をもって相分離する過程で、自己組織化的に液晶分子が特定方向に配向づけられたと考えられる。
【0075】
次に、図9に示す要領で、50℃とした光拡散素子(E1)を、光源と光検出器との間に載置し、波長550nmの光を照射して、直進透過率を測定した(図14参照)。図14より、直進透過率は、温度の変化によって、偏光依存と無依存との間で可逆的に変化することが分かった。
また、図11に示す要領で、光検出器を、直進透過方向(図11におけるz軸方向)から15°又は30°の角度θだけずらした配置とし、50℃とした光拡散素子(E1)に波長550nmの光を照射して、散乱比率を測定した(図15及び図16参照)。図15及び図16より、散乱比率は、温度の変化によって、偏光依存と無依存との間で可逆的に変化することが分かった。
【0076】
更に、図9に示す要領で、電場(150V、500Hz)を印加した光拡散素子(E1)を、光源と光検出器との間に載置し、波長550nmの光を照射して、直進透過率を測定した(図17参照)。図17より、電場を印加すると、無電場の場合に比べて、直進透過率が改良されたことが分かった。
また、図11に示す要領で、光検出器を、直進透過方向(図11におけるz軸方向)から15°又は30°の角度θだけずらした配置とし、電場(150V、500Hz)を印加した光拡散素子(E1)に波長550nmの光を照射して、光の散乱比率を測定した(図18及び図19参照)。図18及び図19より、電場を印加すると、散乱比率が低下することが分かった。
【0077】
次に、この図5における比較例1の画像に対し、色調コントラストの高い領域をハイライトし(図20参照)、画像解析した後、液晶分子の集合体からなるドメインの形状分布を統計解析した(図21参照)。図21は、上記ドメインの長軸方向及び短軸方向の長さの関係を表すグラフであり、プロットの各データを直線フィッティングして得られた傾きの逆数を、相分離領域の異方性の指標値としたところ、1.61であり、等方的である指標値1に近く、異方性が小さいことが明らかである。
【0078】
図22及び図23は、互いに異なる構成とした複数の原料組成物を用いて光拡散素子を製造した場合に、単量体及び液晶分子(ここでは、ネマチック液晶4-シアノ-4’-ペンチルビフェニル(東京化成工業社製)で、「5CB」と略して記載)の合計に対する液晶分子の使用量の割合と、単量体の全量に対するウレタンアクリレート「AH-600」(商品名)の使用量の割合と、光拡散素子に含まれる液晶分子の配向秩序度、又は、光拡散素子における光散乱の偏光度との関係を示すグラフである。これらの図22及び図23から、ウレタンアクリレートの含有割合が、単量体の全量を100モル%とした場合に、30~70モル%であり、液晶分子及び単量体の含有割合が、これらの合計を100モル%とした場合に、それぞれ、40~70モル%及び30~60モル%であると、液晶分子の配向秩序度が0.01以上であり、光拡散性に優れた光拡散素子が得られることが分かった。
【0079】
また、実施例1で得られた光拡散素子(E1)を用いた場合と用いない場合で偏光選択性を有する光拡散の様子を確認した(図24参照)。この図24において、上段の(a)は、光拡散素子を用いない場合の壁掛け時計の撮影画像、(b)は、偏光板を用いて光の偏光を液晶分子の集合体からなるドメイン形状の縦軸方向に平行方向(図中の矢印に示すように縦方向)とし、光拡散素子を通して壁掛け時計を撮影したときの画像、(c)は、光の偏光を(b)の方向と垂直方向(図中の矢印に示すように横方向)とし、光拡散素子を通して壁掛け時計を撮影したときの画像である。直線偏光の方向によって、当該光拡散素子を通して撮影された壁掛け時計は見えたり見えなくなったりすることが分かった。また、下段は、光拡散素子の表面に垂直にレーザー光を入射し透過した光を、光拡散素子の後方に設置したスクリーンへ投影した画像である。下段の画像(a)は、光拡散素子を置かずにそのままレーザー光を投影した比較用で、レーザー光が点光源のまま投影されている。下段画像(b)は上段画像(b)と同様条件で偏光板と光拡散素子を置き、透過したレーザー光のスクリーンへの投影で、画像(a)と同様にほぼ点光源のままであり、光は拡散されていないことが分かった。下段画像(c)は上段画像(c)と同様の条件で偏光板と光拡散素子を置き、透過したレーザー光のスクリーンへの投影で、画像横方向に直線状に強く光散乱し、縦方向には散乱は抑えられている。図24より、本発明の光拡散素子は偏光選択性を有することが分かった。
【0080】
3.光拡散素子の製造及び評価(2)
実施例3
液晶とモノマーのモル組成比を58:42とし、且つ、ウレタン系アクリルプレポリマー(AH-600)の全モノマーに対する組成比を60モル%とし、実施例1及び2と同様に、1-ビニル-2-ピロリドン、N-フェニルグリシン及びジブロモフルオレセインを配合した原料組成物を試料セルに収容し、試料セル中のこの原料組成物に異方形状のスペックルパターンを形成させつつレーザー光照射を行い、直進透過率の偏光比(T/T)が2.7の光拡散素子(以下、「光拡散素子(E3)」という)を得た。そして、この光拡散素子(E3)の内部における液晶分子(5CB)とウレタン系アクリルプレポリマー(AH-600)の重合体の濃度分布を、顕微ラマン分光により調べた。測定装置は、レニショー社製コンフォーカルラマンマイクロスコープ「inVia Qontor」である。
まず、液晶分子(5CB)及びウレタン系アクリルプレポリマー(AH-600)のそれぞれについて、ラマンスペクトルを得た(図25参照)。この図25から、液晶分子(5CB)は1600cm-1に、ウレタン系アクリルプレポリマー(AH-600)は1000cm-1に、それぞれ、固有のラマン散乱ピークを有することが分かった。
次に、光拡散素子(E3)に対してラマン測定を行い、各ピーク面積から、相分離構造中における液晶分子及びアクリル系樹脂の濃度の空間的分布を調べた。具体的には、グリーンレーザーを用いて、ビーム径を1μmとしたレーザー光を光拡散素子(E3)に照射してラマン測定を行った。このとき、光拡散素子(E3)における液晶分子集合体及びアクリル樹脂マトリックスをそれぞれ主とする領域のラマンスペクトルを得るために、1μmずつの移動と測定とを繰り返し、20μm×20μmの領域で測定を行った。
【0081】
図26の(A)は、この光拡散素子(E3)における液晶分子の空間的分布を示すマッピング画像であり、ラマンスペクトルの測定領域において、1600cm-1のピーク面積をモノクロ濃淡で表現したものである。このマッピング画像において、「P」で示される、白色濃度が高い部分は液晶分子集合体であり、1600cm-1のラマン散乱強度が大きく、液晶分子が高い濃度で存在することを意味し、一方、「P」で示される、黒色濃度が高い部分はアクリル樹脂マトリックスであり、1600cm-1のラマン散乱強度が小さく、液晶分子が存在したとしても少量であり、アクリル系樹脂が高い濃度で存在することを意味する。同様に、図26の(B)は、光拡散素子(E3)におけるアクリル系樹脂の空間的分布を示すマッピング画像であり、測定領域の各所におけるラマンスペクトルの1000cm-1のピーク面積をモノクロ濃淡で表現したものである。このマッピング画像において、「P」で示される、白色濃度が高い部分(アクリル樹脂マトリックス)は、1000cm-1のラマン散乱強度が大きく、アクリル系樹脂が高い濃度で存在することを意味し、一方、「P」で示される、黒色濃度が高い部分(液晶分子集合体)は、1000cm-1のラマン散乱強度が小さく、アクリル系樹脂が存在したとしても少量であり、液晶分子が高い濃度で存在することを意味する。
【0082】
図26の「P」(液晶分子集合体)におけるラマンスペクトルは、図27の上段に示され、1600cm-1のピーク面積は、挿入図に拡大して示すように、Gaussian+Lorentzian型によるピークフィッティングから、452183であった。同様に、「P」(アクリル樹脂マトリックス)におけるラマンスペクトルは、図27の下段に示され、1600cm-1のピーク面積は186959であった。液晶分子集合体における液晶分子の含有割合を100%とすると、アクリル樹脂マトリックスにおける液晶分子の含有割合は、186959/452183=0.414、即ち、41.4%と算出された。これより、液晶分子は、58.6%の変化で不均一に分布していることが分かった。
また、図27の下段に示される、1000cm-1のピーク面積は5144であり、図27の上段に示される1000cm-1のピーク面積は2167であった。アクリル樹脂マトリックスにおけるアクリル系樹脂の含有割合を100%とすると、液晶分子集合体におけるアクリル系樹脂の含有割合は、2167/5144=0.421、即ち、42.1%と算出された。これより、アクリル系樹脂は、57.9%の変化で不均一に分布していることが分かった。
【0083】
ここで、図26の(A)及び(B)は、紙面で縦長の濃淡分布が明瞭であることから、異方性相分離していることが明らかである。上記のように、1600cm-1のピーク面積及び1000cm-1のピーク面積の分布は、互いに反対で、液晶分子及びアクリル系樹脂のうち一方の濃度が高いと他方では低い濃度で分布していた。これを更に分かりやすく見るため、より粗いスペックルパターン露光で光拡散素子(以下、「光拡散素子(E4)」という)を製造し、同様の操作を行った。
【0084】
図28の(A)は、上記光拡散素子(E3)と同様にして得られた光拡散素子(E4)における液晶分子の空間的分布を示すマッピング画像であり、ラマンスペクトルの測定領域において、1600cm-1のピーク面積をモノクロ濃淡で表現したものである。また、図28の(B)は、光拡散素子(E4)におけるアクリル系樹脂の空間的分布を示すマッピング画像であり、ラマンスペクトルの測定領域において、1000cm-1のピーク面積をモノクロ濃淡で表現したものである。
図28の(A)及び(B)から、光拡散素子(E4)において、幅数μmの縦長の相分離領域が形成されており、1600cm-1及び1000cm-1帯で互いに反対の濃淡分布が見られた。
【0085】
図28の(A)において、「P」で示される、白色濃度が高い部分は液晶分子集合体であり、「P」で示される、黒色濃度が高い部分はアクリル樹脂マトリックスである。
図28の「P」(液晶分子集合体)におけるラマンスペクトルは、図29の上段に示され、1600cm-1のピーク面積は、挿入図に拡大して示すように、Gaussian+Lorentzian型によるピークフィッティングから、619715であった。同様に、「P」(アクリル樹脂マトリックス)におけるラマンスペクトルは、図29の下段に示され、1600cm-1のピーク面積は188408であった。液晶分子集合体における液晶分子の含有割合を100%とすると、アクリル樹脂マトリックスにおける液晶分子の含有割合は、188408/619715=0.304、即ち、30.4%と算出された。これより、液晶分子は、69.6%の変化で不均一に分布していることが分かった。
また、図29の下段に示される、1000cm-1のピーク面積は9224であり、図29の上段に示される1000cm-1のピーク面積は836であった。アクリル樹脂マトリックスにおけるアクリル系樹脂の含有割合を100%とすると、液晶分子集合体におけるアクリル系樹脂の含有割合は、836/9224=0.091、即ち、9.1%と算出された。これより、アクリル系樹脂は、90.9%の変化で不均一に分布していることが分かった。
【0086】
4.光拡散素子の製造及び評価(3)
実施例4
液晶とモノマーのモル組成比を48:52とし、且つ、ウレタン系アクリルプレポリマー(AH-600)の全モノマーに対する組成比を55モル%とし、実施例1及び2と同様に、1-ビニル-2-ピロリドン、N-フェニルグリシン及びジブロモフルオレセインを配合した原料組成物を試料セルに収容し、試料セル中のこの原料組成物に異方形状のスペックルパターンを形成させつつレーザー光照射を行い、直進透過率の偏光比(T/T)が1.2の光拡散素子(以下、「光拡散素子(E5)」という)を得た。そして、この光拡散素子(E5)の内部における液晶分子(5CB)とウレタン系アクリルプレポリマー(AH-600)の重合体の濃度分布を、光拡散素子(E3)と同様にして、顕微ラマン分光により調べた。具体的には、グリーンレーザーを用いて、ビーム径を1μmとしたレーザー光を光拡散素子(E5)に照射してラマン測定を行った。このとき、光拡散素子(E5)における液晶分子集合体及びアクリル樹脂マトリックスをそれぞれ主とする領域のラマンスペクトルを得るために、1μmずつの移動と測定とを繰り返し、10μm×10μmの領域で測定を行った。
【0087】
図30の(A)は、光拡散素子(E5)における液晶分子の空間的分布を示すマッピング画像であり、ラマンスペクトルの測定領域において、1600cm-1のピーク面積をモノクロ濃淡で表現したものである。また、図30の(B)は、光拡散素子(E5)におけるアクリル系樹脂の空間的分布を示すマッピング画像であり、ラマンスペクトルの測定領域において、1000cm-1のピーク面積をモノクロ濃淡で表現したものである。
図30の(A)及び(B)から、光拡散素子(E5)において、幅数μmの縦長の相分離領域が形成されていることが分かった。
【0088】
図30の(A)において、「P」で示される、白色濃度が高い部分は液晶分子集合体であり、「P」で示される、黒色濃度が高い部分はアクリル樹脂マトリックスである。
図30の「P」(液晶分子集合体)におけるラマンスペクトルは、図31の上段に示され、1600cm-1のピーク面積は、挿入図に拡大して示すように、Gaussian+Lorentzian型によるピークフィッティングから、1528930であった。同様に、「P」(アクリル樹脂マトリックス)におけるラマンスペクトルは、図31の下段に示され、1600cm-1のピーク面積は1238409であった。液晶分子集合体における液晶分子の含有割合を100%とすると、アクリル樹脂マトリックスにおける液晶分子の含有割合は、1238409/1528930=0.809、即ち、80.9%と算出された。これより、液晶分子は、19.1%の変化で不均一に分布していることが分かった。
また、図31の下段に示される、1000cm-1のピーク面積は23616であり、図31の上段に示される1000cm-1のピーク面積は20774であった。アクリル樹脂マトリックスにおけるアクリル系樹脂の含有割合を100%とすると、液晶分子集合体におけるアクリル系樹脂の含有割合は、20774/23616=0.878、即ち、87.8%と算出された。これより、アクリル系樹脂は、12.2%の変化で不均一に分布していることが分かった。
【0089】
5.光拡散素子の製造及び評価(4)
実施例5~11
液晶とモノマーのモル組成比が54~59:46~41であり、ウレタン系アクリルプレポリマー(AH-600)の全モノマーに対する組成比が52~62モル%とし、実施例1及び2と同様に、1-ビニル-2-ピロリドン、N-フェニルグリシン及びジブロモフルオレセインを配合した原料組成物を試料セルに収容し、試料セル中の原料組成物に、異方形状のスペックルパターンを形成させつつ、また、露光強度を3.2mW/cm、10.1mW/cm、30.0mW/cm、100mW/cm、200mW/cm、300mW/cm及び400mW/cmとしてレーザー光照射を5分間行って、7種の光拡散素子(以下、「光拡散素子(E6)~(E12)」という)を製造した。
【0090】
図32は、偏光別の透過率の露光強度依存性を示すグラフであり、具体的には、これらの光拡散素子製造時の露光強度と、得られた光拡散素子に波長550nmの光を照射した際の直進透過率(T及びT)並びに偏光比(T/T)との関係を示すグラフである。尚、T及びTは、図9に示すように、それぞれ、異方スペックルパターン形状の短手方向(図9(b)のx軸方向)及び長手方向(図9(a)のy軸方向)に平行な直線偏光入射光で測定した透過率である。
この図32によると、T及びTは、いずれも、露光強度が高くなるほど、低下する傾向にある一方で、偏光比(T/T)は徐々に高くなることが分かった。
【0091】
図33図39は、それぞれ、光拡散素子(E6)~(E12)について、20℃~25℃で偏光顕微鏡法により観察して得られた偏光顕微鏡画像である。具体的には、光拡散素子を反時計回りに45°回転させ、図中の十字線(線長10μm)方向に2枚の偏光子で挟んだクロスニコル像である。各図における右側は、左側の画像の濃淡コントラストを強調させた加工像である。
図33図39における相分離に伴う濃淡模様を比べると、露光強度が高くなるほど特定方向に微細化し、異方性が高まることが分かった。
【0092】
図40は、光拡散素子(E6)~(E12)の配向秩序度Sと、得られた光拡散素子に波長550nmの光を照射した際の直進透過率(T及びT)から算出された偏光比(T/T)との関係を示すグラフである。この図40から、配向秩序度Sが大きくなるとともに、偏光比(T/T)が高くなる傾向があることが分かった。
【0093】
以上より、図33図40から、液晶分子と、ウレタンアクリレートを含む単量体とを、これらの合計を100モル%とした場合に、それぞれ、40~70モル%及び30~60モル%とし、且つ、ウレタンアクリレートの含有割合を、単量体の全量を100モル%とした場合に、30~70モル%とした原料組成物に対して、露光強度を高めると、相分離形状の微細化及び異方性を改良することができ、液晶分子の配向秩序性の増大を促進することができ、得られる光拡散素子の透過率の偏光比(T/T)を高められることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の光拡散素子及び偏光フィルターは、単体の光学部品としてだけでなく、液晶表示装置等のディスプレイのバックライト、複写機、スキャナー装置等に利用することができる。更に、電場や温度に応じて変調される機能を活用し、より高度な光学変調部材等として用いることができる。
【符号の説明】
【0095】
1:光拡散素子
2:アクリル系樹脂マトリックス
3:液晶分子集合体
4:液晶分子
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