IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社トップの特許一覧 ▶ 国立大学法人大阪大学の特許一覧

<>
  • 特開-内視鏡用鉗子栓 図1
  • 特開-内視鏡用鉗子栓 図2
  • 特開-内視鏡用鉗子栓 図3
  • 特開-内視鏡用鉗子栓 図4
  • 特開-内視鏡用鉗子栓 図5
  • 特開-内視鏡用鉗子栓 図6
  • 特開-内視鏡用鉗子栓 図7
  • 特開-内視鏡用鉗子栓 図8
  • 特開-内視鏡用鉗子栓 図9
  • 特開-内視鏡用鉗子栓 図10
  • 特開-内視鏡用鉗子栓 図11
  • 特開-内視鏡用鉗子栓 図12
  • 特開-内視鏡用鉗子栓 図13
  • 特開-内視鏡用鉗子栓 図14
  • 特開-内視鏡用鉗子栓 図15
  • 特開-内視鏡用鉗子栓 図16
  • 特開-内視鏡用鉗子栓 図17
  • 特開-内視鏡用鉗子栓 図18
  • 特開-内視鏡用鉗子栓 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046304
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】内視鏡用鉗子栓
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/018 20060101AFI20230327BHJP
【FI】
A61B1/018 512
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022149344
(22)【出願日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2021153275
(32)【優先日】2021-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390029676
【氏名又は名称】株式会社トップ
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 清一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 公平
(72)【発明者】
【氏名】坂尻 雄一朗
【テーマコード(参考)】
4C161
【Fターム(参考)】
4C161FF43
4C161HH23
4C161JJ11
(57)【要約】
【課題】従来の内視鏡用鉗子栓と比べて、挿抜性能を損なうことなく、エアロゾルの漏出を十分に抑制できる内視鏡用鉗子栓を提供する。
【解決手段】内視鏡用鉗子栓100は、鉗子口に取り付けられている状態において鉗子口と連なる第1チャネル1Aと、鉗子口に取り付けられている状態において第1チャネルを介して鉗子口と連なる第2チャネル2Aとが形成されている。内視鏡用鉗子栓100は、第2チャネル内に配置されている孔弁21と、第1チャネル内に配置されており、第2チャネル側から鉗子口側に向かうにつれて内径および外径が小さくなるように設けられている突出部11と、処置具が第1チャネルに挿通されていない状態において突出部11の鉗子口側の端部を塞いでおりかつ第1チャネルに挿通された処置具によって押し開かれるスリット12Cが形成されているスリット弁12とを備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処置具が挿抜される内視鏡の鉗子口に取り付けられる内視鏡用鉗子栓であって、
前記鉗子口に取り付けられている状態において前記鉗子口と連なる第1チャネルと、前記鉗子口に取り付けられている状態において前記第1チャネルを介して前記鉗子口と連なる第2チャネルとが形成されており、
前記第2チャネル内に配置されている孔弁と、
前記第1チャネル内に配置されており、前記第2チャネル側から前記鉗子口側に向かうにつれて内径および外径が小さくなるように設けられている突出部と、
前記処置具が前記第1チャネルに挿通されていない状態において前記突出部の前記鉗子口側の端部を塞いでおりかつ前記第1チャネルに挿通された前記処置具によって押し開かれるスリットが形成されているスリット弁と、
とを備える、内視鏡用鉗子栓。
【請求項2】
前記スリット弁の厚みは、前記孔弁の厚み以上である、請求項1に記載の内視鏡用鉗子栓。
【請求項3】
前記孔弁は、貫通孔が形成されている弁本体部と、前記貫通孔の孔軸に対する周方向に前記弁本体部を囲むように配置されており前記弁本体部を前記第2チャネル内に支持している支持部とを含み、
前記弁本体部の厚さは、前記支持部の厚さよりも厚い、請求項2に記載の内視鏡用鉗子栓。
【請求項4】
前記突出部の内周面及び外周面は、球面の一部を含む、請求項1に記載の内視鏡用鉗子栓。
【請求項5】
前記内周面の前記球面の曲率は、前記外周面の前記球面の曲率と等しい、請求項4に記載の内視鏡用鉗子栓。
【請求項6】
前記スリット弁の厚みは、前記スリットの幅と等しい、請求項1~5のいずれか1項に記載の内視鏡用鉗子栓。
【請求項7】
前記スリット弁の厚みは、1.5mmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の内視鏡用鉗子栓。
【請求項8】
前記第1チャネルの内周面と前記突出部との間を接続しており、前記突出部の周方向において互いに間隔を空けて配置されている複数のリブ部をさらに備え、
前記第1チャネルの延在方向において、前記複数のリブ部の各々の前記鉗子口側を向いている第1端面は、前記スリット弁の前記鉗子口側を向いている第2端面よりも前記第2チャネル側に形成されている、請求項1に記載の内視鏡用鉗子栓。
【請求項9】
前記複数のリブ部の各々は、前記突出部の中心軸に対して回転対称性を有しており、
前記第1端面の前記周方向の幅は、前記第1端面の前記突出部の径方向の幅よりも狭く、かつ前記周方向に隣り合う2つの前記リブ部の最小間隔よりも狭い、請求項8に記載の内視鏡用鉗子栓。
【請求項10】
前記スリットは、前記中心軸上に形成されており、
前記中心軸に沿った方向から視て、前記複数のリブ部の各々の前記周方向の中心を通る仮想線分が前記スリットの延在方向に対して成す角度が、45度である、請求項9に記載の内視鏡用鉗子栓。
【請求項11】
前記スリット弁の厚みは、前記スリットの幅未満である、請求項8~10のいずれか1項に記載の内視鏡用鉗子栓。
【請求項12】
前記スリット弁の厚みは、0.5mm以上1.0mm以下である、請求項8~10のいずれか1項に記載の内視鏡用鉗子栓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡の鉗子口に取り付けられる内視鏡用鉗子栓に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食道、胃、および大腸等の消化管の内腔に面する粘膜層またはその下層である粘膜下層に生じたがん等の病変を除去する手技として、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が知られている。ESDは、消化管の内腔に内視鏡および処置具を挿入し、病変を内視鏡で確認しながら、該病変を処置具によって切除および剥離等するというものである。
【0003】
ESD用の内視鏡には、処置具が挿通される挿通チャネルが設けられている。挿通チャネルの一端(鉗子口)は被検者の体外に配置され、挿通チャネルの他端は被検者の内腔に配置される。つまり、ESDでは、被検者の体内と手術室内の空間とが挿通チャネルを介して常に接続されている。そのため、ESDにおいて消化管の内腔を膨らませるために内腔の気圧が体外(手術室内)の気圧よりも高く設定された場合に、内腔内の気体がチャネルを通って体外に漏れる。この際、体内の生体物質がエアロゾルとして手術室内に拡散するおそれがある。エアロゾルが感染症状を引き起こすウイルス等を含んでいれば、術者が当該ウイルスに感染するリスクも在る。
【0004】
特開2002-136475号公報(特許文献1)には、鉗子口に取り付けられる第1栓部と、第1栓部に着脱される第2栓部とを備え、第1栓部に小孔が形成されており、第2栓部にスリットが形成されている内視鏡用鉗子栓が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-136475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、第1栓部に第2栓部が取り付けられている上記内視鏡用鉗子栓に処置具を挿入した場合に、鉗子栓から手術室内へのエアロゾルの漏出を十分に抑制できていないことを確認した。
【0007】
他方、内視鏡用鉗子栓には、処置具の抜き差しを妨げない性能(以下、挿抜性能とよぶ)が求められている。仮に、エアロゾルの漏出を抑制するために第1栓部及び第2栓部の各々の開口幅を狭くして各栓部と処置具との密着性の向上を図った場合、挿抜性能が低下する。
【0008】
本発明の主たる目的は、従来の内視鏡用鉗子栓と比べて、挿抜性能を損なうことなく、エアロゾルの漏出を十分に抑制できる内視鏡用鉗子栓を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る内視鏡用鉗子栓は、処置具が挿抜される内視鏡の鉗子口に取り付けられる内視鏡用鉗子栓である。内視鏡用鉗子栓は、鉗子口に取り付けられている状態において鉗子口と連なる第1チャネルと、鉗子口に取り付けられている状態において第1チャネルを介して鉗子口と連なる第2チャネルとが形成されている。内視鏡用鉗子栓は、第2チャネル内に配置されている孔弁と、第1チャネル内に配置されており、第2チャネル側から鉗子口側に向かうにつれて内径および外径が小さくなるように設けられている突出部と、処置具が第1チャネルに挿通されていない状態において突出部の鉗子口側の端部を塞いでおりかつ第1チャネルに挿通された処置具によって押し開かれるスリットが形成されているスリット弁とを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、内視鏡用鉗子栓と比べて、挿抜性能を損なうことなく、エアロゾルの漏出を十分に抑制できる内視鏡用鉗子栓を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施の形態に係る内視鏡用鉗子栓の正面図である。
図2図1に示される内視鏡用鉗子栓の平面図である。
図3図1に示される内視鏡用鉗子栓の底面図である。
図4図3中の矢印IV-IVから視た断面図である。
図5図3中の矢印V-Vから視た断面図である。
図6図1に示される内視鏡用鉗子栓の蓋部が本体部に嵌め合わされている状態を示す正面図である。
図7図6に示される内視鏡用鉗子栓の断面図である。
図8】本実施の形態に係る内視鏡用鉗子栓が内視鏡の鉗子口に取り付けられている状態を説明するための概略図である。
図9】試料2に対しエアロゾルの漏出を評価した実験において、処置具を試料2に挿入している状態でシュリーレン光学装置により撮影された像である。
図10】試料3に対しエアロゾルの漏出を評価した実験において、処置具を試料3に挿入している状態でシュリーレン光学装置により撮影された像である。
図11】試料2に対しエアロゾルの漏出を評価した実験において、シュリーレン光学装置を用いて撮影された像である。
図12】試料5に対しエアロゾルの漏出を評価した実験において、シュリーレン光学装置を用いて撮影された像である。
図13】本実施の形態に係る内視鏡用鉗子栓の第1変形例を示す断面図である。
図14】本実施の形態に係る内視鏡用鉗子栓の第2変形例を示す断面図である。
図15】本実施の形態に係る内視鏡用鉗子栓の第3変形例を示す正面図である。
図16】本実施の形態に係る内視鏡用鉗子栓の第4変形例を示す正面図である。
図17】本発明の他の実施の形態に係る内視鏡用鉗子栓を示す底面図である。
図18図17中の矢印XVIII-XVIIIから視た断面図である。
図19図17中の矢印XIX-XIXから視た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0013】
<内視鏡用鉗子栓の構成>
図1図3に示されるように、本実施の形態に係る内視鏡用鉗子栓100は、内視鏡の鉗子口に取り付けられる本体部1と、本体部1に対して着脱される蓋部2と、蓋部2を本体部1に接続している接続部3とを主に備える。
【0014】
<本体部の構成>
図1に示されるように、本体部1は、上面1Bおよび底面1Cを有している。底面1Cは、内視鏡の鉗子口が挿し込まれる面である。上面1Bは、底面1Cとは反対側を向いた面であり、蓋部2が本体部1に嵌め合わされている状態において蓋部2と接触する面である。
【0015】
図2図4に示されるように、本体部1には、処置具が挿通されるための第1チャネル1Aが形成されている。第1チャネル1Aは、本体部1の上面1Bと底面1Cとの間を貫くように設けられており、かつ本体部1が内視鏡の鉗子口に取り付けられている状態(図8参照、詳細は後述する)において鉗子口と連なるように設けられている。
【0016】
図2図4に示されるように、本体部1は、第1チャネル1A内に配置されている、円錐筒部11、スリット弁12、および複数のリブ部13とを含む。
【0017】
円錐筒部11は、上面1B側から底面1C側に向かうにつれて内径および外径が小さくなるように設けられている突出部である。円錐筒部11の中心軸C1(図4参照)に対する径方向の内側部分は、円錐筒部11の中心軸C1(図4参照)に対する径方向の外側部分に対して底面1C側に突出している。円錐筒部11は、平面視において視認される内周面11A(図2および図4参照)と、底面視において視認される外周面11B(図3および図4参照)とを有している。円錐筒部11の中心軸に直交する各断面において、内周面11Aおよび外周面11Bの各々の形状は円形状である。円錐筒部11の中心軸C1(図4参照)は、第1チャネル1Aの延在方向に沿っている。中心軸C1は、上面1B及び底面1Cの各々と直交する。なお、本明細書において、平面視とは、中心軸C1に沿った方向から上面1B側を視ることを意味し、底面視とは、中心軸C1に沿った方向から底面1C側を視ることを意味する。図4に示されるように、内周面11Aおよび外周面11Bの各々が中心軸C1に対して成す角度は、鋭角である。
【0018】
図4に示されるように、内周面11Aは、中心軸C1に沿った断面において、底面1C側に位置する直線部分と、上面1B側に位置する曲線部分とを有している。内周面11Aの曲線部分の曲率中心は、内周面11Aよりも外側に配置されている。上面1B側に位置する内周面11Aの外周縁は、環状面14の内周縁に接続されている。環状面14は、第1チャネル1A内に表出しており、かつ上面1B側を向いている。底面1C側に位置する内周面11Aの内周縁は、スリット弁12の上面1B側を向いている第1面12Aの外周縁に接続されている。
【0019】
外周面11Bは、中心軸C1に対する径方向(以下、単に径方向とよぶ)において、円錐筒部11よりも外側に位置しかつ内側を向いている第1チャネル1Aの内周面15と対向している。外周面11Bは、中心軸C1に沿った断面において、底面1C側に位置する直線部分と、上面1B側に位置する曲線部分とを有している。外周面11Bの曲線部分の曲率中心は、上面1B側に位置する外周面11Bの外周縁よりも底面1C側に配置されている。上面1B側に位置する外周面11Bの外周縁は、上面1B側に位置する内周面15の端部に接続されている。底面1C側に位置する外周面11Bの内周縁は、スリット弁12の底面1C側を向いている第2面12Bの外周縁に接続されている。
【0020】
図2図4に示されるように、スリット弁12には、スリット12Cが形成されている。スリット12Cは、処置具が第1チャネル1Aに挿通されていない状態において底面1C側に位置する円錐筒部11の端部を塞いでおり、かつ第1チャネル1Aに挿通された処置具によって押し開かれるように設けられている。
【0021】
図4に示されるように、スリット弁12は、上面1B側を向いている第1面12A(第2端面)と、第1面12Aとは反対側を向いている第2面12Bとを有している。スリット12Cは、第1面12Aと第2面12Bとの間を貫通している。
【0022】
図2および図4に示されるように、スリット12Cは、円錐筒部11の中心軸C1上に形成されている。図2に示されるように、スリット12Cは、平面視において中心軸C1に対して180度の回転対称性を有している。スリット12Cの延在方向は、例えば接続部3の延在方向に沿っている。
【0023】
図3に示されるように、スリット12Cの延在方向の幅W1は、スリット弁12の第1面12Aの幅W2よりも狭い。言い換えると、スリット12Cの延在方向の両端部は、第1面12Aの外周縁よりも内側に形成されている。図4に示されるスリット弁12の厚みT1(円錐筒部11の中心軸C1に沿った方向におけるスリット12Cの幅)は、図2に示されるスリット12Cの延在方向の幅W1未満である。スリット12Cの延在方向の幅W1は、処置具の外径に応じて任意に設定され得る。
【0024】
好ましくは、スリット弁12の厚みT1は、0.5mm以上1.0mm以下である。スリット弁12の厚みT1が0.5mm以上であれば、スリット弁12の厚みT1が0.5mm未満である場合と比べて、スリット弁12の耐久性が向上する。本発明者らは、スリット弁12の厚みT1が1.0mm以下であれば、スリット弁12の厚みT1が1.0mm超えである場合と比べて、挿抜性能が向上することを実験的に確認した(詳細は後述する)。
【0025】
図3および図4に示されるように、複数のリブ部13の各々は、円錐筒部11と第1チャネル1Aの内周面15との間を接続している。複数のリブ部13の各々は、底面視において、中心軸C1に対する周方向(以下、単に周方向とよぶ)において互いに間隔を空けて配置されている。複数のリブ部13の各々は、周方向におけるスリット弁12の一部分に対してスリット12Cを閉じる方向の力を付与するように設けられている。
【0026】
図3および図4に示されるように、複数のリブ部13の各々は、底面1C側を向いている端面13A(第1端面)を有している。端面13Aは、スリット弁12の第2面12B(第2端面)よりも上面1B側に形成されている。好ましくは、端面13Aとスリット弁12の第2面12Bとの間の距離は、スリット弁12の厚みT1以上である。端面13Aとスリット弁12の第2面12Bとの間の距離は、例えばスリット弁12の厚みT1と等しい。
【0027】
図3に示されるように、複数のリブ部13の各々は、円錐筒部11の中心軸C1に対して回転対称性を有している。複数のリブ部13の各々は、例えば中心軸C1に対して90度の回転対称性を有している。各リブ部13の端面13Aの中心軸C1に対する周方向の幅は、例えば中心軸C1に対する径方向において一定である。端面13Aの周方向の幅は、例えば端面13Aの径方向の幅よりも狭い。端面13Aの周方向の幅は、例えば周方向に隣り合う2つのリブ部13の最小間隔よりも狭い。
【0028】
図3に示されるように、平面視において、複数のリブ部13の各々の周方向の中心を通る仮想線分VRがスリット12Cの延在方向に対して成す角度θは、互いに等しい。好ましくは、角度θは45度である。
【0029】
円錐筒部11、スリット弁12、及び複数のリブ部13は、例えば一体物として構成されている。本体部1は、例えば単一部材として構成されている。本体部1を構成する材料は、例えばシリコーンまたはスチレン系熱可塑性エラストマーである。
【0030】
本体部1には、蓋部2の第2環状部24と嵌め合うように設けられている第1孔部16(図2および図4参照)と、内視鏡の鉗子口が挿し込まれる第2孔部17(図3および図4参照)とが形成されている。第1孔部16、円錐筒部11、スリット弁12、および第2孔部17は、上面1B側から底面1C側に向かって順に接続されている。第1チャネル1Aは、第1孔部16、円錐筒部11、スリット弁12、および第2孔部17によって構成されている。第1孔部16、円錐筒部11、及び第2孔部17は、同軸上に配置されている。
【0031】
第1孔部16は、例えば、第1開口部16Aと、第1孔部16の孔軸に対する内径が第1開口部16Aよりも長い第1拡管部16Bとを有している。第1開口部16Aは、上面1Bに開口している。第1拡管部16Bは、第1開口部16Aと円錐筒部11との間に配置されており、第1開口部16Aおよび円錐筒部11の各々と連なっている。環状面14は、第1拡管部16Bに面している。第1拡管部16Bの内周面は、環状面14を介して、円錐筒部11の内周面11Aに接続されている。
【0032】
第2孔部17は、例えば、第2開口部17Aと、第2孔部17の孔軸に対する内径が第2開口部17Aよりも長い第2拡管部17Bとを有している。第2開口部17Aは、底面1Cに開口している。第2拡管部17Bは、第2開口部17Aよりも上面1B側に配置されている。底面1C側に位置する内周面15の端部は、第2拡管部17Bに接続されている。円錐筒部11の頂部およびスリット弁12は、例えば第2拡管部17B内に配置されている。
【0033】
第2拡管部17Bの内径は、例えば第1開口部16Aの内径よりも短い。内周面15の内径は、例えば第2開口部17Aの内径よりも短い。
【0034】
<蓋部の構成>
図2図3、及び図5に示されるように、蓋部2には、処置具が挿通されるための第2チャネル2Aが形成されている。第2チャネル2Aは、蓋部2が本体部1に取り付けられている状態(図6,7参照)において第1チャネル1Aと連なるように設けられている。
【0035】
図2図3、及び図5に示されるように、蓋部2は、第2チャネル2A内に配置されている孔弁21を含む。孔弁21は、処置具が第2チャネル2Aに挿通されていない状態において開口しており、かつ第2チャネル2Aに挿通された処置具の外周面と密着するように設けられている。孔弁21には、貫通孔22が形成されている。貫通孔22の開口形状は、円形状である。
【0036】
貫通孔22の孔径W3(図2参照)は、処置具の外径に応じて任意に設定され得る。貫通孔22の孔径W3は、例えばスリット12Cの延在方向の幅W1と等しい。孔弁21の厚みT2は、貫通孔22の孔径W3未満である。孔弁21の厚みT2は、例えばスリット弁12の厚みT1よりも薄い。
【0037】
図5に示されるように、蓋部2は、第1環状部23と、第1環状部23に対して突出している第2環状部24とを含む。第1環状部23は、蓋部2が本体部1に取り付けられている状態において本体部1の上面1B上に配置される部分である。第2環状部24は、蓋部2が本体部1に取り付けられている状態において本体部1の第1孔部16に嵌め合わされる部分である。第1環状部23および第2環状部24の各々は、孔弁21と同軸上に配置されている。蓋部2は、例えば単一部材として構成されている。蓋部2を構成する材料は、例えば汎用シリコーンまたはスチレン系熱可塑性エラストマーである。
【0038】
図5に示されるように、孔弁21は、例えば第1環状部23に形成されている。孔弁21は、例えば第1環状部23において第2環状部24と接続されている部分の近傍に形成されている。例えば、第1環状部23において第2環状部24とは反対側に凹部23Aが形成されており、孔弁21は凹部23Aの底部に形成されている。
【0039】
第2環状部24は、根元部24Aと、第2環状部24の中心軸に対する外径が根元部24Aよりも長い拡径部24Bとを含む。根元部24Aは、第1環状部23と拡径部24Bとの間を接続している。
【0040】
図7に示されるように、蓋部2が本体部1に取り付けられている状態において、貫通孔22の孔軸C2は、円錐筒部11の中心軸C1と重なるように設けられている。根元部24Aは、本体部1の第1孔部16の第1開口部16Aと嵌め合うように設けられている。拡径部24Bは、第1孔部16の第1拡管部16Bと嵌め合うにように設けられている。拡径部24Bは、上面24Cと、内周面24Dとを有している。上面24Cは、環状面14と接触するように設けられている。内周面24Dは、中心軸C1および孔軸C2に対する径方向において、円錐筒部11の内周面11Aよりも外側に配置されるように設けられている。
【0041】
<内視鏡用鉗子栓の使用例>
図8に示されるように、内視鏡用鉗子栓100は、内視鏡200の鉗子口202に取り付けられて使用される。
【0042】
内視鏡200は、被検者の体外に配置されて術者によって操作される操作部と、被検者の体内に挿入される挿入部とを備える。図1では、内視鏡200の操作部と挿入部との境界が図示されていないが、紙面に向かって右側に位置する部分が操作部であり、紙面に向かって左側に位置する部分が挿入部である。
【0043】
内視鏡200には、処置具300が挿通されるための処置具チャネル211Aと、処置具チャネル211Aと連通しておりかつ体内から体液および空気を吸い出す吸引チャネル211Bと、内視鏡200の挿入部の先端部に取り付けられたレンズに洗浄するための液体(例えば水)を送る送水チャネル212Aと、送水チャネル212Aに連通しておりかつレンズ上の水を吹き飛ばすための気体(例えば空気)を送る送気チャネル212Bとが形成されている。
【0044】
処置具チャネル211Aは、挿入部の先端部において開口する開口部201と、操作部において開口する鉗子口202との間に延びている。吸引チャネル211Bは、開口部201と、操作部において開口する開口部206との間に延びている。つまり、処置具チャネル211Aおよび吸引チャネル211Bは、開口部201に連なる一部分を共有している。開口部206は、図示しない吸引装置に接続される。
【0045】
送水チャネル212Aは、挿入部の先端部において開口する開口部207Dと、操作部において開口する開口部208との間に延びている。開口部208は、送水装置400と送水管401を介して接続されている。送気チャネル212Bは、開口部207と、操作部において開口する開口部209との間に延びている。開口部209は、図示しない送気装置に接続されている。
【0046】
内視鏡200の上記操作部には、術者が把持する把持部203と、把持部203に対して突出している突出部204とが形成されている。鉗子口202は、突出部204に形成されている。突出部204には、フランジ205が形成されている。フランジ205は、鉗子口202の孔軸に対する径方向において突出部204の外周面よりも外側に突出している。
【0047】
処置具300は、消化管の内腔に対して、牽引、切除、洗浄、薬剤の注入・散布等の処置を施すように設けられた任意の処置具である。処置具300の一例は、内視鏡用のスネアである。処置具300は、例えばシース301と、ケーブル302と、スネア303と、ハンドル部304とを備える。処置具300のうち、シース301、ケーブル302、およびスネア303は、処置具チャネル211Aに挿通される。ハンドル部304は、処置具チャネル211Aの外部に配置される。
【0048】
内視鏡用鉗子栓100は、第2孔部17の第2開口部17Aが突出部204と、第2孔部17の第2拡管部17Bがフランジ205と、それぞれ嵌め合わされることにより、内視鏡200の鉗子口202に取り付けられる。
【0049】
図8に示される使用例では、内視鏡200の処置具チャネル211A、内視鏡用鉗子栓100の第1チャネル1A及び第2チャネル2Aが順に連なることにより、被検者の体内と手術室内の空間との間に処置具300を挿抜するためのチャネルが形成される。このチャネルにおいて、円錐筒部11、スリット弁12及び複数のリブ部13は、処置具チャネル211Aから第1チャネル1Aへのエアロゾルの漏出を抑制するように設けられている。さらに、上記チャネルにおいて、孔弁21は、第2チャネル2Aから手術室内へのエアロゾルの漏出を抑制するように設けられている。
【0050】
<内視鏡用鉗子栓の効果>
本発明者らは、孔弁が本体部に形成されており、かつスリット弁が蓋部に形成されている内視鏡用鉗子栓では、本体部に蓋部が取り付けられている状態において処置具を挿入したときに、内視鏡用鉗子栓から手術室内へのエアロゾルの漏出を十分に抑制できていないことを実験的に確認した。スリットに処置具が挿入されている状態では、スリットと処置具との間に隙間が形成され、この隙間がエアロゾルの流路となると考えられる。
【0051】
これに対し、内視鏡用鉗子栓100では、本体部1が、円錐筒部11、スリット弁12、および複数のリブ部13とを含み、かつ蓋部2が孔弁21を含む。
【0052】
本発明者らは、本体部1に蓋部2が取り付けられている内視鏡用鉗子栓100に処置具を挿入していない状態、当該内視鏡用鉗子栓100に処置具を挿入する動作時、及び当該内視鏡用鉗子栓100から処置具を抜去する動作時において、内視鏡用鉗子栓100から手術室内へのエアロゾルの漏出を十分に抑制できていることを実験的に確認した。内視鏡用鉗子栓100では、本体部1が、円錐筒部11、スリット弁12、および複数のリブ部13とを含むため、複数のリブ部13の各々が周方向におけるスリット弁12の一部分に対してスリット12Cを閉じる方向の力を付与することにより、スリット弁12から孔弁21側へのエアロゾルの漏出を効果的に抑制し得る。さらに、内視鏡用鉗子栓100では、エアロゾルがスリット弁12から漏れたとしても、孔弁21が処置具の外周面と密着し得るため、孔弁21から出術室内へのエアロゾルの漏出を抑制し得る。
【0053】
さらに、内視鏡用鉗子栓100では、第1チャネルの延在方向において、複数のリブ部13の各々の底面1C側を向いている端面13Aは、スリット弁12の底面1C側を向いている第1面12A(第2端面)よりも上面1B側に形成されている。これにより、端面13A及び第1面12Aを互いに同一面上に形成した場合と比べて、複数のリブ部13の各々がスリット弁12に対してスリット12Cが閉じる方向への力を付加できる。本発明者らは、内視鏡用鉗子栓100では、端面13A及び第1面12Aが互いに同一面上に形成された内視鏡用鉗子栓と比べて、エアロゾルの漏出を抑制できることを実験的に確認した。
【0054】
さらに、内視鏡用鉗子栓100では、中心軸に沿った方向から視て、複数のリブ部13の各々の周方向の中心を通る仮想線分がスリット12Cの延在方向に対して成す角度θが、45度である。これにより、上記角度が45度以外である場合と比べて、複数のリブ部13の各々がスリット弁12に対してスリット12Cが閉じる方向への力をより均等に付加できる。
【0055】
さらに、本発明者らは、複数のリブ部13が内視鏡用鉗子栓100の挿抜性能を損なわないことを実験的に確認した。
【0056】
さらに、内視鏡用鉗子栓100では、スリット弁12の厚みがスリット12Cの幅未満である。好ましくは、スリット弁12の厚みは、0.5mm以上1.0mm以下である。スリット弁12の厚みが0.5mm以上であれば、スリット弁12の厚みが0.5mm未満である場合と比べて、スリット弁12の耐久性が高く、さらにスリット弁12から処置具を抜去した後のスリット弁12の気密性が高い。スリット弁12の厚みが厚くなるほど、スリット弁12の耐久性および気密性は高まるが、スリット弁12に処置具を挿入する際の挿入抵抗が高まることにより挿抜性能が劣化する。本発明者らは、スリット弁12の厚みが1.0mm以下である内視鏡用鉗子栓100の挿抜性能が高いことを、内視鏡専門医による官能評価試験により実験的に確認した。詳細は後述する。
【0057】
<実施例1:エアロゾルの漏出評価試験>
本実施例1では、本実施の形態に係る内視鏡用鉗子栓100の試料1,2と、試料1,2とは2重弁構造が相違する比較例に係る内視鏡用鉗子栓の試料3~7とを準備し、各試料に対してエアロゾルの漏出評価試験を行った。
【0058】
試料1,2は、内視鏡用鉗子栓100であり、スリット弁12の厚みのみが互いに異なるものとした。試料1のスリット弁12の厚みは0.5mmとし、試料2のスリット弁12の厚みは1.0mmとした。試料1,2の各スリット弁の延在方向の幅は、1.5mmとした。試料1,2の内視鏡用鉗子栓の本体部1および蓋部2の各々を構成する材料は、スチレン系熱可塑性エラストマーとした。
【0059】
試料3は、上記特許文献1に記載されている内視鏡用鉗子栓とした。具体的には、試料3は、本体部(第1栓部)に孔弁が形成され、かつ蓋部(第2栓部)にスリット弁が形成されている内視鏡用鉗子栓とした。なお、試料3のスリット弁の周囲には、リブ部は形成されていない。
【0060】
試料4~7は、スリット12Cの延在方向の両端部が第1面12Aの外周縁よりも外側であって円錐筒部11の外周面11B上に形成されており、かつ複数のリブ部が形成されていない点でのみ、内視鏡用鉗子栓100とは異なるものとした。試料4~7の各々のスリット弁の厚みは、それぞれ0.5mm、1.0mm、1.5mm、および2.0mmとした。試料4~7の各々のスリット弁の両端部間の沿面距離は、1.5mmとした。試料4~7の内視鏡用鉗子栓の本体部および蓋部の各々を構成する材料は、スチレン系熱可塑性エラストマーとした。
【0061】
(エアロゾルの漏出評価方法)
エアロゾルの漏出評価試験を、以下の手順で行った。第1に、ブタの摘出胃を準備し、幽門側を紐で閉じ、噴門側にオーバーチューブを挿入した。第2に、オーバーチューブに活栓付きの弁を取り付けた。第3に、送気装置と活栓とをチューブで繋ぎ、胃内圧を8mmHgに設定した。第4に、内視鏡の先端をオーバーチューブに通し、胃内に挿入した。第5に、内視鏡の鉗子口に試料1~7の各鉗子栓を取り付けた。第6に、内視鏡専門医が試料1~7の各鉗子栓を介して処置具の挿抜作業を行い、処置具の挿入作業時(作業時間3秒)、処置具を挿入した状態の保持時(保持時間1秒)、及び処置具の抜去作業時(作業時間3秒)の各々での鉗子栓からエアロゾルの漏出を、シュリーレン光学装置を用いて評価した。
【0062】
(評価結果)
図9は、試料2に対するエアロゾルの漏出評価試験において、処置具を試料2に挿入している状態でシュリーレン光学装置により撮影された像である。図10は、試料3に対するエアロゾルの漏出評価試験において、処置具を試料2に挿入している状態でシュリーレン光学装置により撮影された像である。図11は、試料2に対するエアロゾルの漏出評価試験において、処置具を試料2から抜去した直後にシュリーレン光学装置にて撮影された像である。図12は、試料5に対するエアロゾルの漏出評価試験において、処置具を試料5から抜去した直後にシュリーレン光学装置により撮影された像である。
【0063】
さらに、表1に、試料1~7の評価結果を示す。
【0064】
【表1】
【0065】
本評価試験では、第1に、処置具が挿入されている状態での試料1~7からのエアロゾルの漏出が各試料の2重弁構造に大きく依存することが確認された。
【0066】
図10に示されるように、処置具が挿入されている試料3からは、多量のエアロゾルが漏出していた。試料3は、処置具によって押し開かれたスリット弁から漏出したエアロゾルが鉗子栓の外部に漏出することを抑制するための構造を備えていないためと考えられる。これに対し、図9に示されるように、処置具が挿入されている試料2からは、エアロゾルが漏出していなかった。同様に、処置具が挿入されている試料1及び試料4~7からは、エアロゾルが漏出していなかった。
【0067】
試料2,4~7の2重弁構造では、孔弁21が、処置具によって押し開かれたスリット弁から漏出したエアロゾルが鉗子栓の外部に漏出することを抑制するための構造体として作用していると考えられる。この結果から、内視鏡用鉗子栓100の2重弁構造によれば、上記特許文献1に記載の2重弁構造と比べて、処置具が挿入されている状態でのエアロゾルの漏出を大幅に抑制できることが実験的に確認された。
【0068】
本評価試験では、第2に、処置具の抜去作業時での試料1,2,4~7からのエアロゾルの漏出が各試料の円錐筒部及びスリット弁の構造に依存することが確認された。
【0069】
表1および図12に示されるように、試料4~7では、上記挿抜作業時にエアロゾルの漏出がわずかに確認された。この理由として、試料4~7では、スリットの両端部が円錐筒部の外周面上に形成されているため、スリット弁から処置具を抜去した後にスリットが完全に閉止されなかったこと、及び挿抜作業時にスリットの両端部から微小な裂けが生じたこと、が考えられる。
【0070】
これに対し、表1および図11に示されるように、試料1,2では上記挿抜作業時にエアロゾルの漏出が確認されなかった。試料1,2では、スリット12Cの延在方向の両端部は、第1面12Aの外周縁よりも内側に形成されているため、スリット弁から処置具を抜去した後にスリットが完全に閉止され、かつ挿抜作業時にスリットの両端部から微小な裂けが生じ難いと考えられる。さらに、試料1,2では、複数のリブ部13が円錐筒部11と第1チャネル1Aの内周面15との間を接続しているため、複数のリブ部13の各々が周方向におけるスリット弁12の一部分に対してスリット12Cを閉じる方向の力を付与し、結果としてスリット弁12から孔弁21側へのエアロゾルの漏出が効果的に抑制されていると考えられる。
【0071】
<実施例2:挿抜性能の評価試験>
さらに、上記試料1,2と、比較例に係る内視鏡用鉗子栓の試料3~7とについて、挿抜性能の評価試験を行った。
【0072】
(挿抜性能の評価試験)
挿抜性能の評価試験を、以下の手順で行った。第1に、内視鏡の鉗子口に試料1~7の各鉗子栓を取り付けた。第2に、内視鏡専門医が各鉗子栓を介して処置具の挿抜作業を行い、処置具の挿入作業時及び処置具の抜去作業時に、処置具を介して内視鏡医が感じる作業に対する抵抗感を5段階で評価した。評価者は、複数名の内視鏡専門医とした。各試料の評価値は、全評価者による評価値の平均値とした。
【0073】
処置具には、内視鏡用穿刺針(シース外径φ:2.6mm)を用いた。
表1に、試料1~7の評価結果を示す。なお、表1では、各試料の評価値の平均値を基準値として、評価値が基準値近傍にある試料を判定Bとし、評価値が基準値よりも高い試料を判定Aとし、評価値が基準値よりも低い試料を判定Cとした。
【0074】
(評価結果)
表1に示されるように、試料3,5の挿抜性能は判定B、試料6,7の挿抜性能は判定Cであったのに対し、試料1,2,4の挿抜性能は判定Aであった。
【0075】
また、試料4~7の評価結果から、スリット弁の厚みが厚くなるほど挿抜性能が低下することが確認された。特に、試料6,7の挿抜性能は、試料4,5の挿抜性能と比べて顕著に低かった。本発明者らは、これを確認するために、試料4~7に対し挿入抵抗の評価試験を行った。
【0076】
(挿入抵抗の評価試験)
試料4~7に対する挿入抵抗の評価試験を、以下の手順で行った。第1に、株式会社東洋精機製作所製ストログラフに、試料4~7のいずれかと、処置具のシースであって所定の長さに切断したものとを取り付けた。第2に、チューブを一定の速度で試料4~7に挿入した。第3に、ストログラフにて測定される抵抗値が一定になった後、この抵抗値を当該試料の挿入抵抗値として記録した。
【0077】
評価の結果、試料6の挿入抵抗値は、試料5の挿入抵抗値の2.6倍以上であった。この結果から、スリット弁12の厚みが1.5mmである点でのみ試料2と異なる内視鏡用鉗子栓の挿入抵抗値は試料2と比べて顕著に高くなること、さらにはこのような内視鏡用鉗子栓の挿抜性能は試料2と比べて顕著に低くまた試料4,5と比べても低くなることが、推測される。
【0078】
<変形例>
本実施の形態に係る内視鏡用鉗子栓100は、例えば以下のように変形され得る。
【0079】
内視鏡用鉗子栓100は、本体部1と、本体部1に着脱可能とされている蓋部2とを備えるが、これに限られるものではない。図13に示される内視鏡用鉗子栓101は、第1チャネル1A及び第2チャネル2Aが本体部1に形成されており、本体部1が、円錐筒部11、スリット弁12、複数のリブ部13、及び孔弁21を備えている点で、内視鏡用鉗子栓100と異なっている。内視鏡用鉗子栓101では、本体部1の底面1Cと上面1Dとの間に、円錐筒部11、スリット弁12、複数のリブ部13、および孔弁21が形成されている。内視鏡用鉗子栓101も、円錐筒部11、スリット弁12、複数のリブ部13、及び孔弁21を備えているため、内視鏡用鉗子栓100と同様の効果を奏することができる。
【0080】
円錐筒部11は、円錐筒部11の中心軸に直交する各断面での内周面および外周面の少なくともいずれかが楕円形状である略円錐筒形状を有していてもよい。スリット弁12の外形状は、楕円形状であってもよい。
【0081】
図14に示されるように、円錐筒部11の内周面11Aは、中心軸C1に沿った断面において、底面1C側から上面1B側に順に連なっている、第1直線部分11A1、第2直線部分11A2、および曲線部分11A3を有していてもよい。第2直線部分11A2が中心軸C1に対して成す角度は、例えば第1直線部分11A1が中心軸C1に対して成す角度よりも大きい。このようにすれば、内周面11Aは、注射筒として用いられる一般的なシリンジの外筒および筒先の各外周面とより良く密着し得る。一般的なシリンジでは、筒先の外周面が孔軸に対して成す角度は、外筒の先端部の外周面が孔軸に対して成す角度よりも小さいためである。
【0082】
図15に示されるように、各リブ部13の中心軸C1に対する周方向の幅は、例えば上記径方向において外側に向かうにつれて広くなっていてもよい。各リブ部13の周方向の最大幅は、例えばリブ部13の径方向の最大幅よりも狭く、かつ周方向に隣り合う2つのリブ部13間の最小間隔よりも狭くてもよい。
【0083】
図16に示されるように、スリット12C延在方向は、例えば接続部3の延在方向に直交していてもよい。スリット12C延在方向が接続部3の延在方向に対して成す角度は、特に制限されない。
【0084】
<他の実施の形態>
次に、本発明の他の実施の形態について説明する。図17図19に示される内視鏡用鉗子栓102は、内視鏡用鉗子栓100と基本的に同様の構成を備え、同様の効果を奏するが、本体部1が、円錐筒部11に代えて突出部18を含み、複数のリブ部13を含んでいない点で、内視鏡用鉗子栓100とは異なる。さらに内視鏡用鉗子栓102は、孔弁21が、貫通孔22が形成されている弁本体部21Aと、弁本体部21Aを第2チャネル内に支持している支持部21Bとを含み、弁本体部21Aの厚さが支持部21Bの厚さよりも厚い点で、内視鏡用鉗子栓100とは異なる。以下、内視鏡用鉗子栓102が内視鏡用鉗子栓100とは異なる点を主に説明する。
【0085】
図17に示されるように、スリット弁12は、突出部18の内周端に接続されている。スリット12Cは、突出部18の中心軸C1上に形成されている。スリット12Cの延在方向は、例えば接続部3の延在方向と直交している。好ましくは、スリット弁12の厚みT1は、1.0mm以上2.0mm以下である。より好ましくは、スリット弁12の厚みT1は、1.5mmである。スリット弁12の厚みT1は、例えばスリット12Cの延在方向の幅W1と等しい。
【0086】
図17に示されるように、底面視において、突出部18は、第1チャネル1Aの内周面15よりも内側に露出する外周面18B(下面)を有している。突出部18の外周面18Bの内周縁は、スリット弁12の第2面12Bの外周縁に接続されている。突出部18の外周面18Bの外周縁は、第1チャネル1Aの内周面15に接続されている。底面視において、突出部18は、例えば円環形状を有している。底面視において、突出部18の径方向の長さは、例えばスリット弁12のスリット12Cの長さよりも短い。異なる観点から言えば、底面視において、第1チャネル1Aの内周面15からスリット12Cまでの最短距離は、例えばスリット弁12のスリット12Cの長さよりも短い。
【0087】
内視鏡用鉗子栓102では、第1チャネル1Aの内周面15は第2開口部17Aの内周面よりもスリット12Cの近くに配されている。内視鏡用鉗子栓102では、第1チャネル1Aの内周面15からスリット12Cまでの上記最短距離は、第1チャネル1Aの内周面15から第2開口部17Aの内周面までの最短距離よりも短い。これに対し、内視鏡用鉗子栓100では、第1チャネル1Aの内周面15はスリット12Cよりも第2開口部17Aの内周面の近くに配されている。内視鏡用鉗子栓100では、第1チャネル1Aの内周面15からスリット12Cまでの上記最短距離は、第1チャネル1Aの内周面15から第2開口部17Aの内周面までの最短距離よりも長い。
【0088】
図17に示されるように、支持部21Bは、貫通孔22の孔軸C2に対する周方向に弁本体部21Aを囲むように配置されている。底面視において、弁本体部21Aは、例えば円形状を有している。底面視において、支持部21Bは、例えば円環形状を有している。
【0089】
図18に示されるように、突出部18は、平面視において視認される内周面18A(上面)をさらに有している。突出部18は、上面1B側から底面1C側に向かうにつれて、中心軸C1に対する径方向において互いに対向する内周面18A間の距離(内径)及び中心軸C1に対する径方向において互いに対向する外周面18B間の距離(外径)が小さくなるように設けられている。
【0090】
内周面18A及び外周面18Bの各々は、球面の一部を含む。内周面18A及び外周面18Bの各々は、突出部18の中心軸C1に沿った断面において、直線部分を有していない。内周面18A及び外周面18Bの各々は、中心軸C1に沿った断面において、曲線部分のみから構成されている。内周面18A及び外周面18Bの各々の曲率中心は、内周面18Aの外周縁よりも上面1B側の、中心軸C1上に配置されている。
【0091】
図18に示されるように、スリット弁12は、底面1C側に位置する突出部18の端部(頂部)に接続されている。底面1C側に位置する内周面11Aの内周縁は、スリット弁12の上面1B側を向いている第1面12Aの外周縁に接続されている。底面1C側に位置する外周面11Bの内周縁は、スリット弁12の底面1C側を向いている第2面12Bの外周縁に接続されている。
【0092】
図18に示されるように、スリット弁12の第1面12A及び第2面12Bの各々は、球面の一部を含む。第1面12A及び第2面12Bの各々の曲率中心は、内周面18Aの外周縁よりも上面1B側の、中心軸C1上に配置されている。
【0093】
図18に示されるように、スリット弁12の第1面12Aと突出部18の内周面18Aとは、例えば同一球面の一部を成している。スリット弁12の第1面12Aの曲率半径及び曲率中心は、例えばそれぞれ突出部18の内周面18Aの曲率半径及び曲率中心と一致する。スリット弁12の第2面12Bと突出部18の外周面18Bとは、例えば同一球面の一部を成している。スリット弁12の第2面12Bの曲率半径及び曲率中心は、例えばそれぞれ突出部18の外周面18Bの曲率半径及び曲率中心と一致する。異なる観点から言えば、スリット弁12及び突出部18は、一体として椀形状(ドーム形状)を有している。スリット弁12の厚みは、例えばスリット12Cの幅未満である。
【0094】
図18に示されるように、内周面18Aは、例えば外周面18Aと平行である。第1面12Aは、例えば第2面12Bと平行である。突出部18の厚さ及びスリット弁12の厚さは、例えば中心軸C1に対する径方向及び周方向において一定である。
【0095】
図19に示されるように、孔弁21は、凹部23Aに面している第3面21Cと、第3面21Cとは反対側を向いている第4面21Dとを有している。貫通孔22は、第3面21Cと第4面21Dとの間を貫通している。第4面21Dには、弁本体部21Aと支持部21Bとの厚みの違いに起因した段差が形成されている。第3面21Cには、弁本体部21Aと支持部21Bとの厚みの違いに起因した段差は形成されていない。なお、第3面21Cにも、弁本体部21Aと支持部21Bとの厚みの違いに起因した段差が形成されていてもよい。
【0096】
図19に示されるように、弁本体部21Aには、第3面21Cに対して凹んでいる窪み21Eが形成されている。窪み21Eの底面及び壁面も、凹部23Aに面している。貫通孔22は、窪み21Eの底面に開口している。図17に示されるように、底面視において、窪み21Eは、孔軸C2を中心とする円環形状を有している。
【0097】
本発明者らは、内視鏡用鉗子栓102についても、上記特許文献1に記載の2重弁構造を有する内視鏡用鉗子栓と比べて、処置具が挿入されている状態でのエアロゾルの漏出を大幅に抑制できることを実験的に確認した。さらに本発明者らは、内視鏡用鉗子栓102の挿抜性能が内視鏡用鉗子栓100の挿抜性能と同等あるいはそれ以上であることを実験的に確認した。
【0098】
内視鏡用鉗子栓102では、突出部18がスリット弁12に対してスリット12Cを閉じる方向の力を付与し得ることにより、複数のリブ部13に依らずに、スリット弁12から孔弁21側へのエアロゾルの漏出を効果的に抑制し得る。さらに、内視鏡用鉗子栓102では、貫通孔22が形成されている孔弁21の弁本体部21Aの厚みが支持部21Bの厚みよりも厚いため、貫通孔22の孔軸C2に沿った方向の長さが内視鏡用鉗子栓100のそれと比べて長くすることができる。その結果、内視鏡用鉗子栓102において処置具の外周面と接触し得る貫通孔22の内周面積が、内視鏡用鉗子栓100におけるそれと比べて大きくすることができるため、エアロゾルがスリット弁12から漏れたとしても、孔弁21から出術室内へのエアロゾルの漏出をより効果的に抑制し得る。
【0099】
また、内視鏡用鉗子栓102では、孔弁21の弁本体部21Aに形成された窪み21Eが処置具を貫通孔22に案内するガイドとして機能し得る。そのため、内視鏡専門医は、処置具を内視鏡用鉗子栓102の第2チャネルに容易に挿入できる。
【0100】
以上のように本発明の実施形態について説明を行ったが、上述の実施形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は、上述の実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むことが意図される。
【符号の説明】
【0101】
1 本体部、1A 第1チャネル、1B,24C,1D 上面、1C 底面、2 蓋部、2A 第2チャネル、3 接続部、11 円錐筒部、11A,15,24D 内周面、11B 外周面、12 スリット弁、12A 第1面、12B 第2面、12C スリット、13 リブ部、13A 端面、14 環状面、16 第1孔部、16A 第1開口部、16B 第1拡管部、17 第2孔部、17A 第2開口部、17B 第2拡管部、18 突出部、21 孔弁、21A 弁本体部、21B 支持部、21C 第3面、21D 第4面、21E 窪み、22 貫通孔、23 第1環状部、23A 凹部、24 第2環状部、24A 根元部、24B 拡径部、25 突出部、100 内視鏡用鉗子栓。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19