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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046423
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】成膜方法及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/455 20060101AFI20230329BHJP
   C23C 16/16 20060101ALI20230329BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
C23C16/455
C23C16/16
H01L21/285 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021154983
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】板谷 剛司
(72)【発明者】
【氏名】津田 栄之輔
(72)【発明者】
【氏名】武田 聡
(72)【発明者】
【氏名】石坂 忠大
【テーマコード(参考)】
4K030
4M104
【Fターム(参考)】
4K030AA03
4K030AA12
4K030BA01
4K030CA04
4K030CA12
4K030DA02
4K030DA08
4K030EA03
4K030EA11
4K030FA01
4K030FA10
4K030GA12
4K030HA01
4K030KA41
4K030KA49
4K030LA15
4M104BB04
4M104DD43
4M104DD44
4M104DD45
4M104HH20
(57)【要約】
【課題】ルテニウム膜を基板の表面に成膜するにあたり、成膜後における基板の周囲の環境のルテニウムによる汚染を防止すること。
【解決手段】基板の表面に成膜ガスを供給してルテニウム膜を形成する成膜方法において、処理容器内に設けられるステージに処理ガスを供給して、当該処理ガスを吸着させる工程と、前記ステージに前記基板を載置して当該ステージ上の前記処理ガスを当該基板の裏面に吸着させて前記成膜ガスの吸着を阻害するための吸着阻害層を形成する工程と、
前記ステージに載置されると共に前記吸着阻害層が形成された前記基板の表面に前記成膜ガスを供給して、前記ルテニウム膜を成膜する成膜工程と、を行う。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に成膜ガスを供給してルテニウム膜を形成する成膜方法において、
処理容器内に設けられるステージに処理ガスを供給して、当該処理ガスを吸着させる工程と、
前記ステージに前記基板を載置して当該ステージ上の前記処理ガスを当該基板の裏面に吸着させて前記成膜ガスの吸着を阻害するための吸着阻害層を形成する工程と、
前記ステージに載置されると共に前記吸着阻害層が形成された前記基板の表面に前記成膜ガスを供給して、前記ルテニウム膜を成膜する成膜工程と、
を含む成膜方法。
【請求項2】
前記吸着阻害層を形成する工程及び前記成膜工程は、
押圧部材により、前記ステージに対して前記基板の裏面を相対的に押圧する工程を含む請求項1記載の成膜方法。
【請求項3】
前記成膜工程と共に、前記ステージに載置された前記基板の裏面に対して、当該ステージに設けられるガス供給口から前記処理ガスを供給する裏面処理工程が行われる請求項1または2記載の成膜方法。
【請求項4】
前記裏面処理工程において供給される処理ガスは、前記基板と前記ステージとの間で伝熱するための伝熱ガスまたは前記基板の裏面と前記ステージとの間において前記成膜ガスをパージするためのパージガスを兼ねる請求項3記載の成膜方法。
【請求項5】
前記成膜工程の後に前記吸着阻害層を除去する工程を含む請求項1ないし4のいずれか一つに記載の成膜方法。
【請求項6】
基板の表面に成膜ガスを供給してルテニウム膜を形成する成膜装置において、
前記基板を載置するためのステージを内部に備えた処理容器と、
前記ステージに載置された前記基板の裏面に処理ガスが吸着されて前記成膜ガスの吸着を阻害する吸着阻害層が形成されるように、当該ステージに当該処理ガスを供給して吸着させるための処理ガス供給部と、
前記ステージに載置された前記基板の表面に前記成膜ガスを供給して、前記ルテニウム膜を成膜するための成膜ガス供給部と、
を備える成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板処理方法及び基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置を製造するにあたり、基板である半導体ウエハ(以下、ウエハと記載する)に対して、CVDによりルテニウム膜を形成する場合が有る。特許文献1では絶縁膜により構成されたウエハの凹部にClガスを供給し、凹部の上部よりも下部に高密度で塩素を吸着させた後にCVDを行うことで、凹部内に良好にルテニウム膜が埋め込む技術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-14613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、ルテニウム膜を基板の表面に成膜するにあたり、成膜後における基板の周囲の環境のルテニウムによる汚染を防止することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の成膜方法は、基板の表面に成膜ガスを供給してルテニウム膜を形成する成膜方法において、
処理容器内に設けられるステージに処理ガスを供給して、当該処理ガスを吸着させる工程と、
前記ステージに前記基板を載置して当該ステージ上の前記処理ガスを当該基板の裏面に吸着させて前記成膜ガスの吸着を阻害するための吸着阻害層を形成する工程と、
前記ステージに載置されると共に前記吸着阻害層が形成された前記基板の表面に前記成膜ガスを供給して、前記ルテニウム膜を成膜する成膜工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、ルテニウム膜を基板の表面に成膜するにあたり、成膜後における基板の周囲の環境のルテニウムによる汚染を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の一実施形態に係る成膜装置の縦断側面図である。
図2】前記成膜装置の動作を示す説明図である。
図3】前記成膜装置の動作を示す説明図である。
図4】前記成膜装置の動作を示す説明図である。
図5】前記成膜装置の動作を示す説明図である。
図6】前記成膜装置の動作を示す説明図である。
図7】前記成膜装置を備える基板処理装置の平面図である。
図8】前記成膜装置に設けられる後処理モジュールの縦断側面図である。
図9】評価試験の結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の成膜方法の一実施形態を行うための成膜装置1について、縦断側面図である図1を参照して説明する。成膜装置1の構成の概略を述べると、この成膜装置1はCVD(Chemical Vapor Deposition)により、円形の基板であるウエハWの表面にRu(ルテニウム)膜を成膜する。なお、ここでいうウエハWの表面とは、基板の2つの主面のうちの一方の主面の意味であり、より具体的には半導体デバイスの形成面の意味である。以降も特に記載無い限り、ウエハWの表面については一方の主面の意味として用いる。そして成膜装置1はこの表面へのRu膜の成膜前に、ウエハWの裏面にClガスを吸着させて、吸着阻害層Lを形成するように構成されている。
【0009】
この吸着阻害層Lは、上記のCVDで用いるRuの前駆体を含む成膜ガスについて、当該ウエハWの裏面への吸着を阻害する。このウエハWの裏面における吸着阻害層Lの形成は、ウエハWを載置するステージ21上へClガスの供給と、それに続くウエハWのステージ21への載置による当該ClガスのウエハWの裏面への吸着と、によってなされる。なお、成膜装置1に搬送されるウエハWは例えばSi(シリコン)により構成されている。従ってウエハWの裏面の表層は、当該Siが自然酸化されることでSiOx(酸化シリコン)層として構成されている。
【0010】
以下、成膜装置1の構成について具体的に説明する。成膜装置1は処理容器11を備えている。この成膜装置1における処理容器11は第1の処理容器に相当し、当該処理容器11の側壁に設けられる搬送口がゲートバルブ12により開閉自在とされる。また、処理容器11には排気機構13が接続されており、当該排気機構13による排気によって処理容器11内が、所望の圧力の真空雰囲気に保たれる。
【0011】
処理容器11内には既述したステージ21が設けられている。ステージ21は円形であり、その上面には円形の凹部22が形成されている。当該凹部22の底面がウエハWの載置面23を形成し、当該載置面23上にウエハWが水平に載置される。ステージ21にはヒーター20が埋設されており、当該ヒーター20によって載置面23上のウエハWが所望の温度になるように加熱される。
【0012】
ステージ21の下面中央には支柱25の上端が接続されており、支柱25の下端は処理容器11の底部に設けられる開口部14を介して、処理容器11の外部に設けられる昇降機構26に接続されている。支柱25については処理容器11の外側に位置する部位に、フランジ27が形成されている。フランジ27と開口部14の開口縁とが、支柱25を囲むと共に伸縮自在な筒体であるベローズ28により接続されており、処理容器11内の気密性が担保されている。
【0013】
上記の昇降機構26により、ステージ21は処理容器11内における上方位置と下方位置との間で昇降自在である。上方位置は図1中に示す位置であり、当該上方位置に位置する状態で、既述したClガスの供給及びウエハWへのRu膜30の成膜が行われる。
【0014】
また、ステージ21を貫通するように、3本の垂直方向(鉛直方向)に伸びるピン15が設けられており、その下端はステージ21の下方に位置する。なお図示の便宜上、図1ではピン15を2本のみ表示している。ステージ21の下方には下方部材16が設けられている。各ピン15の上端について、ステージ21が上方位置に位置する際には当該ピン15の自重によってステージ21の載置面23に埋没し、ステージ21が下方位置に位置する際には下方部材16とピン15の下端との当接によってステージ21の凹部22の上方に位置する。そのようにピン15がステージ21に対して昇降することで、搬送機構(図1では表示していない)とステージ21との間で、ウエハWが受け渡し可能である。
【0015】
ステージ21の上方には環状部材31が設けられている。この環状部材31は上面視でステージ21の周縁に沿った円環板として形成されており、水平方向に広がる本体部32と、本体部32の内縁の全周から下方へ向けて伸び出す当接部33と、により構成されている。ステージ21が上方位置に位置する状態で、当接部33がウエハWの全周に亘って当該ウエハWの周端部を、載置面23へ向けて相対的に押圧する高さに環状部材31が配置されている。環状部材31は、そのような押圧状態を形成するための押圧部材に相当する。
【0016】
ところで、ステージ21には流路41が設けられている。この流路41の下流端は、ステージ21の凹部22の外側においてパージガス供給口42として開口しており、当該ステージ21と環状部材31の本体部32とがなす隙間にパージガスを吐出する。パージガス供給口42はステージ21の周に沿って形成されている。このパージガスは成膜処理中に、上記の隙間を介してウエハWの裏面に成膜ガスが供給されることを抑制するものであり、処理容器11内の排気により、当該隙間からステージ21の外側へ流れて除去される。流路41の上流側は支柱25を介して処理容器11の外部へ引き出されて、ガス供給部43に接続されている。このガス供給部43は流路41に上記のパージガスとして、例えばCO(一酸化炭素)ガスを供給する。
【0017】
また、ステージ21には流路44が設けられている。この流路44の下流端は載置面23に、伝熱ガス供給口45として開口している。この伝熱ガスは、ウエハWがステージ21の載置面23と同じ温度となるように、ウエハWとステージ21との間で伝熱するためのガスである。なお、伝熱ガスについても処理容器11内の排気により、ステージ21の外側へ流れて除去されるので、ウエハWの裏面側をパージして成膜ガスの供給を防ぐパージガスとしても機能する。流路44の上流側は支柱25を介して処理容器11の外部へ引き出されて、ガス供給部46に接続されている。このガス供給部46は流路44に上記の伝熱ガスとして、COガスを供給する。
【0018】
処理容器11の天井部には、ステージ21に対向するようにシャワーヘッド17が設けられている。このシャワーヘッド17にはガス供給部18が接続されている。このガス供給部18は、シャワーヘッド17にCOガス、Ru(CO)12ガス、Clガスを各々供給する。なお、このCOガスはRu(CO)12ガスのキャリアガスである。従って、当該ガス供給部18はシャワーヘッド17に対して、Ru(CO)12ガス及びCOガスからなる混合ガスと、Clガスとを切り替えて供給することができるように構成されている。シャワーヘッド17は、これらの各ガスをステージ21に向けてシャワー状に吐出するように構成されている。
【0019】
なお、成膜装置1ではこのように成膜ガスであるRu(CO)12ガスと、吸着阻害層Lを形成するための処理ガスであるClガスと、が共通のシャワーヘッド17から各々吐出されるために装置構成としては簡素であるので好ましいが、別々の部材から処理容器11内に吐出されてもよい。本例において、Clガスを供給する当該シャワーヘッド17及びステージ21の伝熱ガス供給口45は処理ガス供給部に相当し、シャワーヘッド17は成膜ガス供給部にも相当する。
【0020】
成膜装置1はコンピュータである制御部10を備えており、この制御部10は、プログラムを備えている。プログラムには、吸着阻害層Lの形成及びRu膜30の形成が行われるように命令(各ステップ)が組み込まれている。このプログラムは、記憶媒体、例えばコンパクトディスク、ハードディスク、DVD等に格納され、制御部10にインストールされる。制御部10は当該プログラムにより成膜装置1の各部に制御信号を出力し、各部の動作を制御する。具体的にはヒーター20によるウエハWの温度、昇降機構26によるステージ21の昇降、ガス供給部18、41、46からの各ガスの供給、排気機構13による処理容器11内の圧力、ゲートバルブ12の開閉などの各動作が制御され、ウエハWに対して後述の処理が行われる。
【0021】
続いて成膜装置1における処理手順を、図2図6を参照して説明する。先ず、処理容器11内にウエハWが搬入される前に、排気機構13によって当該処理容器11内が所定の圧力の真空雰囲気となるように排気されると共に、既述したヒーター20により例えばステージ21におけるウエハWの載置面23が、例えば130℃~250℃に加熱された状態となる(図2)。続いて、例えばステージ21が上方位置に位置する状態で、ガス供給部18からシャワーヘッド17にClガスが供給され、当該ステージ21に向けて吐出される。それにより、載置面23を含むステージ21の上面に当該Clガスの分子が吸着し、Cl層L1が形成される(図3、ステップS1)。
【0022】
その後、Clガスの供給が停止する。そして搬送機構によりウエハWが処理容器11内に搬送されてピン15上に受け渡されると、下方位置から上方位置へ向けて上昇するステージ21の載置面23に載置され、Cl層L1が当該ウエハWの裏面に転写される。つまり、ウエハWの裏面にCl層L1を構成するCl分子が吸着し、吸着阻害層Lが形成される(ステップS2)。そしてステージ21は上方位置に位置し、環状部材31によりウエハWの周端部が載置面23に押圧される。それによりウエハWの裏面は載置面23に密着し、上記の転写がウエハWの面内全体で、より確実に行われる(図4)。
【0023】
ガス供給部46により、ウエハWの裏面に伝熱ガスであるCOガスが供給され、ステージ21のヒーター20により、ウエハWが上記した載置面23と同じ温度である130℃~250℃になるように加熱される。また、このように伝熱ガスが供給される一方で、COガスであるパージガスが、ステージ21と環状部材31との間に供給される。
【0024】
以上のように伝熱ガス及びパージガスが供給された状態で、ガス供給部18からシャワーヘッド17にRu(CO)12ガス及びCOガスが供給される。そしてこれらのガスがウエハWの表面に吐出され、Ru膜30が形成される(ステップS3、図5)。この際にウエハWの裏面には上記の吸着阻害層Lが形成されており、当該吸着阻害層Lは、Ru(CO)12ガスのウエハWの裏面への吸着を阻害する。従って、当該裏面におけるRu膜30の形成が抑制される。また、環状部材31によりウエハWの周端部が載置面23に押圧されること、及び上記のパージガスが供給されることにより、Ru(CO)12ガスのウエハWへの下面への供給が抑制されることで、ウエハWの裏面へのRu膜30の成膜は、より確実に抑制される。
【0025】
然る後、シャワーヘッド17からのRu(CO)12ガス及びCOガスの供給が停止し、続いて、上記のパージガス及び伝熱ガスの供給も停止する。そして搬送機構62(後述する)により、ウエハWが処理容器11内から搬出される(図6)。なお、この搬出時において、ウエハWには吸着阻害層Lが形成されたままとされる。
【0026】
このようにウエハWの処理容器11からの搬出後は、上記のステップS1~S3が再度行われる。つまり、処理容器11内への後続のウエハWの搬入前におけるステージ21へのCl層L1の形成、ステージ21へのウエハWの載置による当該ウエハWの裏面への吸着阻害層Lの形成、伝熱ガス及びパージガスが供給された状態でのCVDによるウエハW表面へのRu膜30の成膜が順に行われる。従って、複数枚のウエハWを処理するにあたり、そのウエハWの数だけステップS1~S3からなる一連の処理が繰り返し行われる。なお、ステップS1はステージに処理ガスを吸着させる工程に相当し、ステップS2は吸着阻害層Lを形成する工程に相当し、ステップS3は成膜工程に相当する。
【0027】
以上に述べたように、成膜装置1にて行われる処理によれば、ウエハWの裏面におけるRu膜30の成膜が抑制される。従って、このウエハWの搬送先の環境における処理装置や搬送機構に対してRuが付着して汚染されることが防止される。従って、ウエハWから製造される半導体装置の歩留りの低下を防止することができる。なお、ステージ21からウエハWへ転写されるClガスの量によっては、既述したステップS1のClガスの供給によるステージ21上へのCl層L1の形成は、処理容器11内に搬入されるウエハW毎に行うことに限られない。例えば、複数のウエハWが処理容器11に搬入される度に、当該ステップS1が1回行われるようにしてもよい。
【0028】
続いて、上記の成膜装置1が成膜モジュール1Aとして組み込まれた基板処理装置5について、平面図である図7を参照して説明する。上記したように成膜装置1(成膜モジュール1A)から搬出されるウエハWには、吸着阻害層Lが形成されたままの状態となっている。基板処理装置5はRu膜30の成膜後に、この吸着阻害層Lの除去を行うことができるように構成されている。
【0029】
基板処理装置5は、その内部雰囲気が例えば大気により常圧雰囲気とされる横長の常圧搬送室51を備え、常圧搬送室51の手前には、ウエハWを格納するキャリアCを載置するための搬入出ポート52が左右に並んで複数、設置されている。常圧搬送室51の正面壁には、キャリアCの蓋と一緒に開閉されるドア53が取り付けられている。常圧搬送室51内には、多関節アームによって構成されたウエハWの搬送機構54が設けられている。さらに、常圧搬送室51の搬入出ポート52側から見て、左側壁にはウエハWの向きや偏心の調整を行うアライメント室55が設けられている。
【0030】
常圧搬送室51における搬入出ポート52の反対側には、例えばロードロックモジュール56A、56Bが左右に並ぶように配置されている。ロードロックモジュール56A、56Bと常圧搬送室51との間には、ゲートバルブ57が設けられている。ロードロックモジュール56A、56Bの常圧搬送室51側から見て奥側には、内部が真空雰囲気とされる真空搬送室61がゲートバルブ59を介して配置されている。ロードロックモジュール56A、56B内は、ゲートバルブ57、59が閉じられた状態で内部の圧力を常圧と真空圧との間で切替え可能に構成されており、真空搬送室61と常圧搬送室51との間でのウエハWの受け渡しを仲介する。
【0031】
真空搬送室61にはゲートバルブ12を介して、例えば2つの成膜モジュール1A及び2つの後処理モジュール7が接続されている。成膜モジュール1Aは、上記した成膜装置1と同様の構成である。また真空搬送室61には、多関節アームによって構成された搬送機構62が設けられている。この搬送機構62により、ロードロックモジュール56A、56Bと、成膜モジュール1Aと、後処理モジュール7との間で、ウエハWの受け渡しが行われる。
【0032】
図8の縦断側面図を参照して、後処理モジュール7について説明する。上記の吸着阻害層Lの除去は、この後処理モジュール7にて行われる。後処理モジュール7の構成を説明するにあたり、成膜装置1の構成要素と同様の構成要素については、成膜装置1で付した符号と同じ符号を付して、詳しい説明を省略する場合が有る。
【0033】
後処理モジュール7は成膜装置1と同様に処理容器11を備えており、処理容器11におけるウエハWの搬送口がゲートバルブ12により開閉される。処理容器11の側壁の一部は、後述のステージ75を囲む円環状のダクト72により構成され、その内周面に沿ってスリット状の排気口73が設けられている。ダクト72に接続される排気機構13によって、処理容器71内が所望の圧力の真空雰囲気に保たれる。
【0034】
ステージ75については、成膜装置1のステージ21と同様にヒーター20が埋設され、当該ステージ75に載置されたウエハWの温度が調整される。さらに、ステージ75には電極76が埋設されており、当該電極76には整合器77を介して高周波電源78が接続されている。この高周波電源78はウエハWに対してバイアスを印加することで、プラズマの活性種をステージ75に向けて引き込む役割を有する。なおステージ75については成膜装置1のステージ21と同様に昇降機構26に接続されている。また、ステージ75にも、ステージ21と同様にピン15が設けられており、ステージ21と同様に搬送機構62との間でウエハWの受け渡しが行われるが、当該ピン15の表示は省略している。
【0035】
処理容器71の天井部にはステージ75に対向するようにシャワーヘッド17が設けられており、当該シャワーヘッド17には、整合器81を介して高周波電源82が接続されている。このシャワーヘッド17と、上記のステージ75の電極76とは、プラズマを形成するための平行平板電極をなし、シャワーヘッド17とステージ75との間がプラズマ形成空間84である。シャワーヘッド17にはガス供給部83が接続され、プラズマ形成用ガスとして例えばH(水素)あるいはO(酸素)ガスが、当該シャワーヘッド17へ供給される。
【0036】
図7に戻って説明すると、基板処理装置5は制御部50を備えている。この制御部50は、上記の制御部10と同様にコンピュータにより構成されており、プログラムを含む。このプログラムは既述した記憶媒体に格納されており、後述する搬送経路でのウエハWの搬送と、成膜モジュール1A及び後処理モジュール7でのウエハWの処理と、が行われるように命令(各ステップ)が組み込まれている。制御部50は当該プログラムにより基板処理装置5の各部に制御信号を出力し、各部の動作を制御する。具体的には、制御部10により制御されるものとして例示した動作の他に、例えば搬送機構54、61によるウエハWの搬送、後処理モジュール7の動作などが制御される。後処理モジュール7の動作とは、具体的には例えば高周波電源78、82のオンオフ、ヒーター20による温度調整、排気機構13による排気、ガス供給部83からのガス供給などが挙げられる。
【0037】
基板処理装置5におけるウエハWの搬送経路及び処理について説明する。ウエハWを収容したキャリアCが搬入出ポート52上に載置される。そしてこのキャリアC内のウエハWが、搬送機構54によって取り出され、常圧搬送室51→アライメント室55→ロードロックモジュール56Aの順で搬送される。続いて、ウエハWは搬送機構62により、真空搬送室61から成膜モジュール1Aに搬送されて、図2図6で説明したステップS1~S3の処理が行われる。その後、搬送機構62によりウエハWは、後処理モジュール7に搬送される。
【0038】
後処理モジュール7においては、ウエハWがステージ75に載置されて所定の温度に加熱されると、シャワーヘッド17からプラズマ形成用ガスが供給されると共に、高周波電源78、82がオンとなり、ウエハW上にプラズマが形成される。このプラズマを構成する活性種の一部はウエハWの裏面に回り込むことで吸着阻害層Lに接し、当該吸着阻害層Lが除去される。その後、ウエハWは搬送機構62→ロードロックモジュール56B→搬送機構54の順で搬送され、キャリアCに戻される。
【0039】
上記のように基板処理装置5によればRu膜30の形成後において、ウエハWにCVDやALDなどの成膜処理やエッチング処理などの後処理を行う前に、吸着阻害層Lの除去が行われる構成となっている。従って、吸着阻害層Lを構成するClが、この後処理に与える影響を防止することができる。即ち、従って、ウエハWから製造される半導体装置の歩留りの低下をより確実に防止することができる。
【0040】
ところで、ステージ21の伝熱ガス供給口45から伝熱ガスとしてClガスを供給するようにしてもよい。それによって、ウエハWの裏面へのRu膜30の形成をより確実に抑制しつつ、ウエハWの表面にRu膜30を形成することができる。
【0041】
また、パージガス供給口42からパージガスとしてClガスを吐出するようにしてもよい。吐出されるClガスのうちの一部は、ウエハWの裏面の中心部寄りに向うので、当該裏面へのRu膜30の形成がより確実に抑制される。このようにウエハWへの成膜ガスの供給と共に、パージガス供給口42及び/または伝熱ガス供給口45から、吸着阻害層Lを形成した処理ガスを供給することができる。
【0042】
パージガス供給口42及び/または伝熱ガス供給口45からのClガスの供給を裏面処理工程とすると、裏面処理工程においては、ウエハWの裏面とステージ21との接触により、Clガスの流れが阻害され、ウエハWの裏面の面内全体にClガスが十分に行き渡らないおそれが有る。即ち、上記したステップS1、S2におけるCl層L1をウエハWの裏面に転写する手法によれば、吸着阻害層Lを確実性高くウエハWの裏面全体に形成できるため、好ましい。
【0043】
後に評価試験として示すように、ClガスをSiOx層に供給することによって、Ruを含む成膜ガスについて、当該SiOx層への吸着が抑制されることが確認されている。従って、ウエハWとしては酸化されることで当該SiOxを生じるSiにより構成されることが好ましいが、例えばSiCやGaAS等により構成されるウエハWを用いて既述した各処理を行ってもよい。なお、吸着阻害層LについてはClガスによって形成することに限られない。具体例を挙げると、既述した各実施形態においてClガスの代わりに、TMSDMA(C15NSi)ガスを供給して吸着阻害層Lを形成しても既述した効果が得られる。
【0044】
Ru膜30の成膜については、Ru(CO)12からなる成膜ガスを用いることには限られず、Ruを含む公知のガスを代わりに用いることができる。具体的には、例えば、(2,4-dimethylpentadienyl)(ethylcyclopentadienyl)ruthenium[(Ru(DMPD)(EtCp)]、bis(2,4-dimethylpentadienyl)Ruthenium[Ru(DMPD)2]などを含むガスを、Ru(CO)12の代わりに用いることができる。
【0045】
なお、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲及びその趣旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更、組み合わせがなされてもよい。
【0046】
〔評価試験〕
本技術に関連して行われた評価試験について説明する。評価試験1-1として、ウエハWの表面に実施形態で説明したようにRu(CO)12ガスを成膜ガスとして供給して、CVDによるRu膜の成膜を行った。ウエハW毎にこの成膜ガスの供給時間(成膜時間)は変更しており、50秒よりも若干長い時間~400秒よりも若干短い時間に設定した。そして、この成膜処理後にRu膜の膜厚を測定した。なお、成膜前の当該ウエハWの表面はSiOxにより構成されている。
【0047】
評価試験1-2として、Ru(CO)12ガスをウエハWの表面に供給する前に、当該ウエハWの表面にClガスを供給した。そのようにClガスを供給したことを除いて、評価試験1-1と同様に処理を行い、ウエハWの表面に成膜ガスを供給した。この評価試験1-2でもウエハW毎に成膜時間を変更して処理を行い、成膜処理後にRu膜の膜厚を測定した。成膜時間は100秒~350秒に設定した。
【0048】
図9のグラフは、以上に述べた評価試験の結果を示しており、グラフの横軸、縦軸は夫々成膜時間(単位:秒)、Ru膜の膜厚(単位:Å)である。グラフに示されるように、評価試験1-1では成膜時間の上昇に対して、Ru膜の膜厚の上昇が比較的大きい。しかし評価試験1-2では成膜時間の上昇に対するRu膜の膜厚の上昇は僅かであり、いずれの成膜時間であっても当該Ruの膜厚は10Å以下に抑えられ、評価試験1-1の各成膜時間における膜厚よりも小さい値となっていた。従って、この評価試験の結果からは、Clガスを供給することで、ウエハWへのRu膜の成膜が抑制されることが示された。即ち、上記した各実施形態で述べた本技術の効果が確認された。
【符号の説明】
【0049】
L 吸着阻害層
W ウエハ
11 処理容器
21 ステージ
30 Ru膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9