(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046491
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】高強度鋼繊維補強モルタルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20230329BHJP
【FI】
C04B28/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021155109
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】水野 剣一
(72)【発明者】
【氏名】正木 徹
(72)【発明者】
【氏名】谷口 修
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弘義
(72)【発明者】
【氏名】古城 誠
(72)【発明者】
【氏名】茶林 敬司
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA15
4G112PA19
4G112PA28
4G112PA29
4G112PB11
4G112PC12
(57)【要約】
【課題】凝結時間および/または凝結始発時間の調整が可能で、材料分離が少なく、混練可能で、かつ、適切な流動性を有する高強度繊維補強モルタルおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】この高強度鋼繊維補強モルタルは、セメントと、高炉スラグ微粉末と、無水石膏と、シリカフュームと、水と、砂と、ワラストナイトと、高性能減水剤と、消泡剤と、鋼繊維と、を含み、高性能減水剤がセメントと高炉スラグ微粉末と無水石膏とシリカフュームとの重量和に対し0.7~1.2重量%含有し、シリカフュームが30~150kg/m
3含有し、ワラストナイトが30~120kg/m
3含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、高炉スラグ微粉末と、無水石膏と、シリカフュームと、水と、砂と、ワラストナイトと、高性能減水剤と、消泡剤と、鋼繊維と、を含む高強度鋼繊維補強モルタルであって、
前記高性能減水剤が前記セメントと前記高炉スラグ微粉末と前記無水石膏と前記シリカフュームとの重量和に対し0.7~1.2重量%含有し、
前記シリカフュームが30~150kg/m3含有し、
前記ワラストナイトが30~120kg/m3含有する、高強度鋼繊維補強モルタル。
【請求項2】
前記高性能減水剤が前記重量和に対し0.75~1.05重量%含有し、
前記シリカフュームが58~115kg/m3含有し、
前記ワラストナイトが44~102kg/m3含有する、請求項1に記載の高強度鋼繊維補強モルタル。
【請求項3】
材齢28日圧縮強度が少なくとも100N/mm2である請求項1または2に記載の高強度鋼繊維補強モルタル。
【請求項4】
セメントと、高炉スラグ微粉末と、無水石膏と、シリカフュームと、水と、砂と、ワラストナイトと、高性能減水剤と、消泡剤と、鋼繊維と、を混合して高強度鋼繊維補強モルタルを製造する方法であって、
前記高性能減水剤の含有量を前記セメントと前記高炉スラグ微粉末と前記無水石膏と前記シリカフュームとの重量和に対し0.7~1.2重量%の範囲内、前記シリカフュームの含有量を30~150kg/m3の範囲内、および、前記ワラストナイトの含有量を30~120kg/m3の範囲内でそれぞれ調整して混練する、高強度鋼繊維補強モルタルの製造方法。
【請求項5】
前記高性能減水剤の含有量を前記重量和に対し0.75~1.05重量%の範囲内、前記シリカフュームの含有量を58~115kg/m3の範囲内、および、前記ワラストナイトの含有量を44~102kg/m3の範囲内でそれぞれ調整して混練する、請求項4に記載の高強度鋼繊維補強モルタルの製造方法。
【請求項6】
前記高性能減水剤、前記シリカフューム、および、前記シリカフュームの各含有量を調整して混練することで、凝結時間、凝結始発時間およびフロー値の少なくともいずれか1つを調整する、請求項4または5に記載の高強度鋼繊維補強モルタルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼繊維で補強した高強度鋼繊維補強モルタルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高強度モルタルにおいて強度補強のために、ワラストナイトやシリカフュームを添加すること(特許文献1)、また、鋼繊維を添加すること(特許文献2)が知られている。また、高性能減水剤や減水剤をモルタルに多量に添加することによって凝結時間が遅延することも知られている。
【0003】
特許文献1は、セメントと、ポゾラン質微粉末と、細骨材と、減水剤と、水と、収縮低減剤とからなる高強度モルタルであって、上記ポゾラン質微粉末がシリカフューム又はシリカダストであり、上記収縮低減剤が特定の化合物を主成分とする高強度モルタルを開示する。特許文献2は、セメント、カルシウムアルミネート、セッコウ、凝結調整剤、及び引張強度が1,000N/mm2以上の鋼繊維を含有してなる超速硬セメント組成物を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-181004号公報
【特許文献2】特開2007-320834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高強度モルタルにおいて、凝結時間の調整のため高性能減水剤や減水剤の添加量を変えることが公知であるが、さらにワラストナイトを添加した場合、高性能減水剤とワラストナイトの各添加量の適切な範囲が不明であり、かかる添加剤により凝結時間がどのように調整可能であるか明らかでない。
【0006】
また、100~120Nクラスの高強度繊維補強モルタルは、粉体状の添加材料により粘性が少ないため材料分離が生じやすく、また、各材料の配合割合によっては混練が不可能なことがある。また、適切な流動性(フロー値)が必要であるため、混練可能で、材料分離が少なく、かつ、適切な流動性(フロー値)が得られるように各添加材料を適切な範囲で添加することが要求されている。
【0007】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、凝結時間および/または凝結始発時間の調整が可能で、材料分離が少なく、混練可能で、かつ、適切な流動性を有する高強度繊維補強モルタルおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための高強度鋼繊維補強モルタルは、セメントと、高炉スラグ微粉末と、無水石膏と、シリカフュームと、水と、砂と、ワラストナイトと、高性能減水剤と、消泡剤と、鋼繊維と、を含む高強度鋼繊維補強モルタルであって、前記高性能減水剤が前記セメントと前記高炉スラグ微粉末と前記無水石膏と前記シリカフュームとの重量和に対し0.7~1.2重量%含有し、前記シリカフュームが30~150kg/m3含有し、前記ワラストナイトが30~120kg/m3含有する。
【0009】
この高強度鋼繊維補強モルタルによれば、セメントと、高炉スラグ微粉末と、無水石膏と、シリカフュームと、水と、砂と、ワラストナイトと、高性能減水剤と、消泡剤と、鋼繊維と、を含む高強度鋼繊維補強モルタルにおいて、高性能減水剤がセメントと高炉スラグ微粉末と無水石膏とシリカフュームとの重量和に対し0.7~1.2重量%含有し、シリカフュームが30~150kg/m3含有し、ワラストナイトが30~120kg/m3含有することで、凝結時間および/または凝結始発時間の調整が可能で、適切なフロー値とすることができ、また、材料分離がないかまたはあったとしても少なく、混練可能である。すなわち、高性能減水剤(SP)とシリカフューム(SF)が上記各上限値以下であり、ワラストナイト(WA)が上記下限値以上であると、材料分離が大きくならずフロー値380mm未満を実現できる。また、高性能減水剤(SP)とシリカフューム(SF)が上記各下限値以上であり、かつ、ワラストナイト(WA)が上記上限値以下であると、材料分離がないかまたはあったとしても少なく、混練可能である。
【0010】
上記高強度鋼繊維補強モルタルにおいて、前記高性能減水剤が前記重量和に対し0.75~1.05重量%含有し、前記シリカフュームが58~115kg/m3含有し、前記ワラストナイトが44~102kg/m3含有することが好ましい。
【0011】
上記高強度鋼繊維補強モルタルにおいて、材齢28日圧縮強度が少なくとも100N/mm2である。
【0012】
上記目的を達成するための高強度鋼繊維補強モルタルの製造方法は、セメントと、高炉スラグ微粉末と、無水石膏と、シリカフュームと、水と、砂と、ワラストナイトと、高性能減水剤と、消泡剤と、鋼繊維と、を混合して高強度鋼繊維補強モルタルを製造する方法であって、前記高性能減水剤の含有量を前記セメントと前記高炉スラグ微粉末と前記無水石膏と前記シリカフュームとの重量和に対し0.7~1.2重量%の範囲内、前記シリカフュームの含有量を30~150kg/m3の範囲内、および、前記ワラストナイトの含有量を30~120kg/m3の範囲内でそれぞれ調整して混練する。
【0013】
この高強度鋼繊維補強モルタルの製造方法によれば、セメントと、高炉スラグ微粉末と、無水石膏と、シリカフュームと、水と、砂と、ワラストナイトと、高性能減水剤と、消泡剤と、鋼繊維と、を混合し、高性能減水剤の含有量をセメントと高炉スラグ微粉末と無水石膏とシリカフュームとの重量和に対し0.7~1.2重量%の範囲内、シリカフュームの含有量を30~150kg/m3の範囲内、および、ワラストナイトの含有量を30~120kg/m3の範囲内でそれぞれ調整することで、凝結時間および/または凝結始発時間の調整が可能で、適切なフロー値とすることができ、また、材料分離がないかまたはあったとしても少なく、混練可能である。
【0014】
上記高強度鋼繊維補強モルタルの製造方法において、前記高性能減水剤の含有量を前記重量和に対し0.75~1.05重量%の範囲内、前記シリカフュームの含有量を58~115kg/m3の範囲内、および、前記ワラストナイトの含有量を44~102kg/m3の範囲内でそれぞれ調整して混練することが好ましい。
【0015】
上記高強度鋼繊維補強モルタルの製造方法において、前記高性能減水剤、前記シリカフューム、および、前記シリカフュームの各含有量を調整し混練することで、凝結時間、凝結始発時間およびフロー値の少なくともいずれか1つを調整することができる。具体的には、凝結時間の遅延調整、凝結始発時間の遅延調整が可能であり、フロー値を材料分離が大きくない380mm未満に調整できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、凝結時間および/または凝結始発時間の調整が可能で、材料分離が少なく、混練可能で、かつ、適切な流動性を有する高強度繊維補強モルタルおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】表3の試験結果の各フロー値を示す棒グラフである。
【
図2】表3の試験結果の凝結の始発・終結時間を、ワラストナイト(WA)の配合割合変更ケース(a)、シリカフューム(SF)の配合割合変更ケース(b)、高性能減水剤(SP)の配合割合変更ケース(c)毎に示す図である。
【
図3】実施例の試験結果のフロー値と凝結の始発時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本実施形態による高強度鋼繊維補強モルタルは、セメント(C)と、高炉スラグ微粉末(BF)と、無水石膏(AG)と、シリカフューム(SF)と、水(W)と、砂(S)と、ワラストナイト(WA)と、高性能減水剤(SP)と、消泡剤と、鋼繊維と、からなる。高性能減水剤(SP)がセメント(C)と高炉スラグ微粉末(BF)と無水石膏(AG)とシリカフューム(SF)との重量和(B)に対し(SP/B=)0.7~1.2重量%含有し、シリカフューム(SF)が30~150kg/m3含有し、ワラストナイト(WA)が30~120kg/m3含有する。かかる高強度鋼繊維補強モルタルは、少なくとも100N/mm2の圧縮強度(材齢28日)を実現できる。
【0019】
セメントの種類は、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、エコセメントなどを使用することができる。高炉スラグ微粉末は、高炉で銑鉄を製造する際に生成する副生物であり、アルカリ刺激剤存在下で反応する潜在水硬性を有する。高炉スラグの粉末度は特に限定されないが、モルタルの強度や流動性の観点からブレーン比表面積は3,000~10,000cm2/gのものが望ましい。水は、セメントの水和およびモルタルの流動性や強度発現性に影響しないものを適宜選択して使用することができる。例えば、水道水、下水度処理水、生コン上澄み液などが挙げられる。砂の種類は特に限定されることなく、例えば、珪砂、川砂、海砂、浜砂、山砂、砕砂などを使用することができる。
【0020】
シリカフューム(SF)は、二酸化珪素の超微粒子からなり、ボールベアリング効果によるフロー値増加、ポゾラン反応による緻密化、超微粒粉のフィラー効果で隙間充填することで強度増加を目的に添加される。特に粒子が球状であることから水結合材比の小さい配合においては、フレッシュ性状の改善が期待できる。当該高強度モルタルにおいてシリカフュームの配合量は、30~150kg/m3が好ましい。30kg/m3より少ないと練り混ぜが困難になり、150kg/m3を超えると練り混ぜ後の材料分離が大きくなる。より好ましくは58~115kg/m3である。
【0021】
ワラストナイト(WA)は、ミクロレベルの鉱物繊維であり、針状の粒子による粘性増加と引張強度増加を目的に添加される。ワラストナイトの配合量は、30~120kg/m3が好ましい。30kg/m3未満では材料分離が大きくなり、120kg/m3を超えると流動性が低下し、練り混ぜが困難となる。より好ましくは44~102kg/m3である。
【0022】
無水石膏(AG)は、高炉スラグ微粉末(BF)のアルカリ刺激材として添加される。無水石膏の粉末度は特に限定されないが、強度発現や流動性の観点からブレーン比表面積で3,000~9,000cm2/gである。
【0023】
なお、高性能減水剤(SP)は、所要のスランプを得るのに必要な単位水量を大幅に減少させるか,又は単位水量を変えることなくスランプを大幅に増加させる化学混和剤である(JIS A 6204:2011)。高性能減水剤の種類は特に限定されず、例えばポリカルボン酸系、ナフタレンスルホン酸系、メラミンスルホン酸系、リグニンスルホン酸系などが挙げられ、これらのうちから1種以上を使用することができる。
【0024】
高性能減水剤(SP)の配合量はセメントと高炉スラグ微粉末と無水石膏とシリカフュームとの重量和に対し0.7~1.2重量%が好ましい。0.7質量%より少ないと、減水効果が不足して練り混ぜが困難になり、1.2質量%を超えると、練り混ぜ後の材料分離が大きくなる。より好ましくは0.75~1.05重量%である。
【0025】
消泡剤は、練り混ぜ後のモルタルの空気量を調整するために使用される。本実施形態における高強度モルタルにおいて種類は特に限定されず、例えば鉱油系、油脂系、脂肪酸系、脂肪酸エステル系、オキシアルキレン系、アルコール系、アミド系、リン酸エステル系、金属石鹸系、シリコーン系などを挙げることができ、これらのうちから1種以上を使用することができる。
【0026】
鋼繊維は、靭性および曲げ強度を向上させる目的で添加される。鋼繊維の径は0.01mm~1.00mmが好ましい。0.01mmより小さいと鋼繊維そのものの強度が弱く、1.00mmを超えるとモルタル単位容積あたりの本数が減り、所望の物性が得られない。また、長さは6mm~20mmが好ましい。6mmより小さいと曲げ強度の向上効果が十分ではなく、20mmを超えると混練の際にファイバーボールが生じやすくなる。
【0027】
モルタルの混錬方法は、特に限定されない。混練に用いるミキサーは、一般的に用いられるミキサーが問題なく使用できる。例えば、二軸練りミキサー、パン型ミキサー、オムニミキサー、傾胴ミキサー、揺動型ミキサーなどが挙げられる。各材料の投入方法は特に限定されることなく、各材料を混練時に個別に投入してもよく、またはいくつかの粉末の材料を予め混合(プレミックス)してミキサーに投入してもよい。例えば、水、高性能減水剤、鋼繊維以外の材料を予め混合し、ミキサーに投入した後、水、高性能減水剤、鋼繊維を個別に投入してもよい。
【0028】
本実施形態による高強度鋼繊維補強モルタルの配合例(標準配合)を以下に示す。
セメント(C):300kg/m3、高炉スラグ微粉末(BF):700kg/m3、無水石膏(AG):58kg/m3、シリカフューム(SF):92kg/m3、水(W):230kg/m3、マリーナサンド(S):844kg/m3、ワラストナイト(WA):87kg/m3、高性能減水剤(SP):10.4kg/m3、消泡剤:1.2kg/m3、鋼繊維:157kg/m3(ただし、高性能減水剤(SP)は水(W)の重量に含まれる。)
高性能減水剤(SP)は、セメント(C)と高炉スラグ微粉末(BF)と無水石膏(AG)とシリカフューム(SF)との重量和(B)に対し(SP/B=)0.90重量%含有する。なお、高性能減水剤(SP)を含んだ水(W)の水結合材比は、重量和(B)に対し、15~25%が望ましいが、本配合例では約20%の配合である。
【0029】
本実施形態による高強度鋼繊維補強モルタルによれば、高性能減水剤(SP)をセメント(C)と高炉スラグ微粉末(BF)と無水石膏(AG)とシリカフューム(SF)との重量和(B)に対し(SP/B=)0.7~1.2重量%の範囲内で、シリカフューム(SF)を30~150kg/m3の範囲内で、ワラストナイト(WA)を30~120kg/m3の範囲内でそれぞれ調整することで、材料分離が大きくならずフロー値が調整可能で380mm未満に調整でき、また、凝結時間の調整、すなわち、凝結時間の遅延調整、および/または凝結始発時間の遅延調整が可能である。
【0030】
また、高性能減水剤(SP)とシリカフューム(SF)が上記各上限値以下であり、ワラストナイト(WA)が上記下限値以上であると、材料分離が大きくならずフロー値380mm未満を実現できる。また、高性能減水剤(SP)とシリカフューム(SF)が上記各下限値以上であり、かつ、ワラストナイト(WA)が上記上限値以下であると、材料分離がないかまたはあったとしても少なく、練り混ぜ可能である。
【実施例0031】
以下、本発明を実施例・比較例により具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。以下の表1に実施例1~7および比較例1~6の高強度鋼繊維補強モルタルの配合を示す。表2に表1の各配合の高強度鋼繊維補強モルタルについて行った試験項目を示す。表3に表1の各配合の高強度鋼繊維補強モルタルについての試験結果を示す。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
表1の実施例2を標準配合とし、三材料(ワラストナイト(WA)、高性能減水剤(SP)、シリカフューム(SF))の配合割合を変えて凝結時間、流動性(フロー値)および圧縮強度を確認した。すなわち、表2のように、フレッシュ性状とモルタルフローと凝結時間の関連性、および、強度特性について確認した。練り混ぜ数量は3L(リットル)で、室温20℃環境で実施した。なお、凝結試験は鋼繊維があると、測定できないため、鋼繊維を添加していない配合で実施した。また、表1の配合名は、三材料(ワラストナイト(WA)、高性能減水剤(SP)、シリカフューム(SF))の配合割合を示すものである。
【0036】
表3の試験結果の混錬不可とは、10分間練り混ぜても粉体の状態のままであったものである。また、材料分離は、目視で鋼繊維が沈降していると確認されたものである。
【0037】
図1は、表3の各フロー値を棒グラフで示したものである。表3,
図1のように、ワラストナイト(WA)無添加の比較例1では、フロー値が380mmと大きくなり、鋼繊維の沈降(材料分離)大と確認されたが、ワラストナイト(WA)少量(下限値)添加の実施例1では、フロー値が大きくなったが380mm未満で、鋼繊維の沈降(材料分離)小と確認された。また、比較例2のように、ワラストナイト(WA)の添加量を多くすると混錬が不可となる傾向が見られた。
【0038】
また、高性能減水剤(SP)の添加量を変化させた場合、実施例1~7のように、SP/B=0.7~1.2重量%添加すると正常に混錬ができた。また、シリカフューム(SF)の添加量を変化させた場合、添加量を多くすると鋼繊維の沈降(材料分離)が見られ、比較例6では材料分離大と確認されたが、実施例7では材料分離小と確認された。また、少量のシリカフューム(SF)の添加では実施例6のように混錬時間を延長させる必要があった。
【0039】
図2は、表3の試験結果の凝結の始発・終結時間を、ワラストナイト(WA)の配合割合変更ケース(a)、シリカフューム(SF)の配合割合変更ケース(b)、高性能減水剤(SP)の配合割合変更ケース(c)毎に示すグラフである。
図2(a)のように、ワラストナイト(WA)の添加量が少量(実施例1)または添加しない(比較例1)場合、凝結時間が遅延する傾向が見られた。
図2(b)のように、シリカフューム(SF)は添加量が多くなるほど凝結始発時間が遅延するものの、始発から終結までの時間である凝結時間は短縮される傾向であった。
図2(c)のように、高性能減水剤(SP)の添加量が大きくなると始発・終結時間が遅延し、凝結時間も長くなり、添加量に大きく影響を受けている傾向が見られた。なお、高炉スラグ微粉末(BF)の添加量を多くした場合、始発時間は早まるが終結時間が長くなる結果になった。
【0040】
図3にフロー値と凝結の始発時間との関係を示す。ワラストナイト(WA)および高性能減水剤(SP)の添加量を変更した場合、フロー値と凝結の始発時間との間に相関性が見られるが、シリカフューム(SF)の添加量を変更した場合にはワラストナイト(WA)や高性能減水剤(SP)の場合と比べると相関性が低かった
【0041】
圧縮強度については、表3の試験結果のように、材齢7日圧縮強度および材齢28日圧縮強度ともにワラストナイト(WA)、高性能減水剤(SP)、および、シリカフューム(SF)の各添加量による顕著な違いが見られず、材齢28日圧縮強度は、少なくとも115N/mm2であった。
【0042】
以上のように、実施例2の配合による高強度繊維補強モルタルにおいて、ワラストナイト(WA)、高性能減水剤(SP)、および、シリカフューム(SF)の各添加量を変えることで凝結時間とフロー値をそれぞれ変化させることができる。すなわち、高性能AE減水剤(SP)は0.7重量%(B×0.7%)~1.2重量%(B×1.2%)の範囲内で、シリカフューム(SF)は30~150kg/m3の範囲内で、ワラストナイト(WA)は30~120kg/m3の範囲内で、それぞれ添加量を調整することで、所定の強度を発揮する高強度繊維補強モルタルを最適な凝結時間および/または凝結始発時間とフロー値で製造することが可能となる。
【0043】
また、本実施形態による高強度鋼繊維補強モルタルは、凝結時間および/または凝結始発時間の調整が可能で、適切な流動性を有することから高速道路等で設置する床版間や桟橋のプレキャストの間詰材に用いることや桟橋や既設道路橋路面の補修・補強工事などの施工に用いることが望ましい。
【0044】
以上のように本発明を実施するための形態および実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。