(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046873
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】保護膜の形成方法、半導体チップの製造方法及び塗布液の調製方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20230329BHJP
【FI】
H01L21/78 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021155706
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】大久保 明日香
【テーマコード(参考)】
5F063
【Fターム(参考)】
5F063AA41
5F063BA45
5F063CB02
5F063CB06
5F063CB22
5F063CB27
5F063DD26
5F063DD37
5F063DD42
5F063DD46
5F063DF04
5F063DF06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】半導体ウエハーの表面に保護膜を形成する保護膜形成剤の製造後に時間が経過しても、形成される保護膜の異物を抑制できる保護膜の形成方法、半導体チップの製造方法及び塗布液の調製方法を提供する。
【解決手段】半導体ウエハー2のダイシングにおいて、半導体ウエハー2の表面20aに保護膜24を形成する保護膜の形成方法であって、水溶性樹脂と吸光剤と溶媒を含み、溶媒が水を含み、固形分濃度が20質量%以上である、保護膜形成剤を準備する保護膜形成剤準備工程と、保護膜形成剤を希釈して塗布液を調製する塗布液調製工程と、塗布液を半導体ウエハー上に塗布して保護膜を形成する保護膜形成工程と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウエハーのダイシングにおいて、半導体ウエハーの表面に保護膜を形成する保護膜の形成方法であって、
水溶性樹脂(A)と吸光剤(B)と溶媒(S)とを含み、前記溶媒(S)が水を含み、固形分濃度が20質量%以上である、保護膜形成剤を準備する保護膜形成剤準備工程と、
前記保護膜形成剤を希釈して塗布液を調製する塗布液調製工程と、
前記塗布液を半導体ウエハー上に塗布して保護膜を形成する保護膜形成工程と、
を有する、保護膜の形成方法。
【請求項2】
前記塗布液調製工程では、前記溶媒(S)により前記保護膜形成剤を希釈する、請求項1に記載の保護膜の形成方法。
【請求項3】
前記溶媒(S)が有機溶媒を含む、請求項1又は2に記載の保護膜の形成方法。
【請求項4】
前記保護膜形成剤準備工程の後であって、前記塗布液調製工程の前に、前記保護膜形成剤を保管又は移送する保管・移送工程を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の保護膜の形成方法。
【請求項5】
半導体ウエハーを加工する、半導体チップの製造方法であって、
請求項1~4のいずれか1項に記載の保護膜の形成方法により、前記半導体ウエハー上に保護膜を形成する保護膜形成工程と
前記半導体ウエハー上における前記保護膜を含む1以上の層の所定の位置にレーザー光を照射し、前記半導体ウエハーの表面が露出し、且つ半導体チップの形状に応じたパターンの加工溝を形成する加工溝形成工程と、
前記半導体ウエハーにおける前記加工溝の位置を切断する切断工程と、
を有する、半導体チップの製造方法。
【請求項6】
半導体ウエハーのダイシングにおいて、半導体ウエハーの表面に保護膜を形成するために用いられる塗布液の調製方法であって、
水溶性樹脂(A)と吸光剤(B)と溶媒(S)とを含み、前記溶媒(S)が水を含み、固形分濃度が20質量%以上である、保護膜形成剤を、希釈する希釈工程を有する、塗布液の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハーのダイシングにおいて、半導体ウエハーの表面に保護膜を形成する保護膜の形成方法と、当該保護膜の形成方法を用いる半導体チップの製造方法と、前述の保護膜の形成方法に用いることができる塗布液の調製方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造工程において形成されるウエハーは、シリコン等の半導体基板の表面に絶縁膜と機能膜が積層された積層体を、ストリートと呼ばれる格子状の分割予定ラインによって区画したものであり、ストリートで区画されている各領域が、IC、LSI等の半導体チップとなっている。
【0003】
このストリートに沿ってウエハーを切断することによって複数の半導体チップが得られる。また、光デバイスウエハーでは、窒化ガリウム系化合物半導体等が積層された積層体がストリートによって複数の領域に区画される。このストリートに沿っての切断により、光デバイスウエハーは、発光ダイオード、レーザーダイオード等の光デバイスに分割される。これらの光デバイスは、電気機器に広く利用されている。
【0004】
このようなウエハーのストリートに沿った切断は、過去は、ダイサーと称されている切削装置によって行われていた。しかし、この方法では、積層構造を有するウエハーが高脆性材料であるため、ウエハーを切削ブレード(切れ刃)によって半導体チップ等に裁断分割する際に、傷や欠け等が発生したり、チップ表面に形成されている回路素子として必要な絶縁膜が剥離したりする問題があった。
【0005】
このような不具合を解消するために、半導体基板の表面に、水溶性材料の層を含むマスクを形成し、次いで、マスクに対してレーザーを照射し、マスクの一部を分解除去することにより、マスクの一部において半導体基板の表面を露出させた後、プラズマエッチングによりマスクの一部から露出した半導体基板を切断して、半導体基板を半導体チップ(IC)に分割する方法が提案されている(特許文献1を参照。)。
【0006】
水溶性材料の層を含むマスク(保護膜)は、例えば、水溶性の樹脂を含む保護膜形成剤を半導体基板上に塗布することで形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
保護膜形成剤を半導体基板の表面に塗布してマスクとしての保護膜を形成する際に、保護膜形成剤の製造直後ではなく、保護膜形成剤の製造後に保管や輸送された後に、保護膜形成剤を半導体基板に塗布する場合がある。
このように保護膜形成剤の製造後に時間が経過した後に、保護膜形成剤を半導体基板に塗布すると、保護膜形成剤の製造直後に半導体基板に塗布した場合と比べて、形成される保護膜に生じる異物が増加するという問題がある。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、半導体ウエハーのダイシングにおいて、半導体ウエハーの表面に保護膜を形成する保護膜の形成方法であって、保護膜形成剤の製造後に時間が経過しても、形成される保護膜の異物の増加を抑制できる保護膜の形成方法と、当該保護膜の形成方法を用いる半導体チップの製造方法と、前述の保護膜の形成方法に用いることができる塗布液の調製方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、特定の保護膜形成剤を準備し、当該保護膜形成剤を希釈して塗布液を調製し、当該塗布液を半導体ウエハー上に塗布して保護膜を形成することによって上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
本発明の第1の態様は、半導体ウエハーのダイシングにおいて、半導体ウエハーの表面に保護膜を形成する保護膜の形成方法であって、
水溶性樹脂(A)と吸光剤(B)と溶媒(S)とを含み、前記溶媒(S)が水を含み、固形分濃度が20質量%以上である、保護膜形成剤を準備する保護膜形成剤準備工程と、
前記保護膜形成剤を希釈して塗布液を調製する塗布液調製工程と、
前記塗布液を半導体ウエハー上に塗布して保護膜を形成する保護膜形成工程と、
を有する、保護膜の形成方法である。
【0012】
本発明の第2の態様は、半導体ウエハーを加工する、半導体チップの製造方法であって、
第1の態様にかかる保護膜の形成方法により、前記半導体ウエハー上に保護膜を形成する保護膜形成工程と
前記半導体ウエハー上における前記保護膜を含む1以上の層の所定の位置にレーザー光を照射し、前記半導体ウエハーの表面が露出し、且つ半導体チップの形状に応じたパターンの加工溝を形成する加工溝形成工程と、
前記半導体ウエハーにおける前記加工溝の位置を切断する切断工程と、
を有する、半導体チップの製造方法である。
【0013】
本発明の第3の態様は、半導体ウエハーのダイシングにおいて、半導体ウエハーの表面に保護膜を形成するために用いられる塗布液の調製方法であって、
水溶性樹脂(A)と吸光剤(B)と溶媒(S)とを含み、前記溶媒(S)が水を含み、固形分濃度が20質量%以上である、保護膜形成剤を、希釈する希釈工程を有する、塗布液の調製方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、半導体ウエハーのダイシングにおいて、半導体ウエハーの表面に保護膜を形成する保護膜の形成方法であって、保護膜形成剤の製造後に時間が経過しても、形成される保護膜の異物の増加を抑制できる保護膜の形成方法と、当該保護膜の形成方法を用いる半導体チップの製造方法と、前述の保護膜の形成方法に用いることができる塗布液の調製方法とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の保護膜の形成方法を用いる半導体チップの製造方法によって加工される半導体ウエハーを示す斜視図。
【
図2】
図1に示される半導体ウエハーの断面拡大図。
【
図3】保護膜が形成された半導体ウエハーの要部拡大断面図。
【
図4】保護膜が形成された半導体ウエハーが環状のフレームに保護テープを介して支持された状態を示す斜視図。
【
図5】レーザー光線射工程を実施するレーザー加工装置の要部斜視図。
【
図6】保護膜と、レーザー光照射によって形成された加工溝とを備える半導体ウエハーの断面拡大図。
【
図7】
図6に示される半導体ウエハーに対するプラズマ照射を示す説明図。
【
図8】プラズマ照射により、半導体ウエハーが半導体チップに分割された状態を示す断面拡大図。
【
図9】半導体チップ上の保護膜が除去された状態を示す断面拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
≪保護膜の形成方法及び塗布液の調製方法≫
保護膜の形成方法は、半導体ウエハーのダイシングにおいて、半導体ウエハーの表面に保護膜を形成する保護膜の形成方法である。
具体的には、保護膜の形成方法は、半導体ウエハー上に保護膜を形成する保護膜形成工程と、
半導体ウエハー上における保護膜を含む1以上の層の所定の位置にレーザー光を照射し、半導体ウエハーの表面が露出し、且つ半導体チップの形状に応じたパターンの加工溝を形成する加工溝形成工程と、
半導体ウエハーにおける加工溝の位置を切断する切断工程と、
を含む半導体チップの製造方法における、保護膜形成工程に好適に用いられる。
【0017】
保護膜の形成方法は、水溶性樹脂(A)と吸光剤(B)と溶媒(S)とを含み、溶媒(S)が水を含み、固形分濃度が20質量%以上である、保護膜形成剤を準備する保護膜形成剤準備工程と、保護膜形成剤を希釈して塗布液を調製する塗布液調製工程と、塗布液を半導体ウエハー上に塗布して保護膜を形成する保護膜形成工程とを有する。
【0018】
<保護膜形成剤準備工程>
保護膜形成剤準備工程では、保護膜形成剤を準備する。
保護膜形成剤準備工程で準備する保護膜形成剤は、水溶性樹脂(A)と、吸光剤(B)と、溶媒(S)とを含み、溶媒(S)が水を含む。また、保護膜形成剤の固形分濃度は、20質量%以上である。
以下、保護膜形成剤が含む必須又は任意の成分、及び固形分濃度について、説明する。
【0019】
<水溶性樹脂(A)>
水溶性樹脂(A)は、保護膜形成剤を用いて形成される保護膜の基材である。水溶性樹脂(A)の種類は、水等の溶媒に溶解させて塗布・乾燥して膜を形成し得る樹脂であれば特に制限されない。
水溶性とは、25℃の水100gに対して、溶質(水溶性樹脂)が0.5g以上溶解することをいう。
【0020】
レーザー光を照射された際の分解性と、成膜性との両立の観点から、水溶性樹脂(A)の重量平均分子量は、15,000以上300,000以下が好ましく、20,000以上200,000以下がより好ましい。
【0021】
水溶性樹脂(A)の種類の具体例としては、ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエチレンオキサイド、ポリグリセリン、及び水溶性ナイロン等を挙げることができる。
ビニル系樹脂としては、ビニル基を有する単量体の単独重合体、又は共重合体であって、水溶性の樹脂であれば特に限定されない。ビニル系樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール(酢酸ビニル共重合体も含む)、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ(N-アルキルアクリルアミド)、ポリアリルアミン、ポリ(N-アルキルアリルアミン)、部分アミド化ポリアリルアミン、ポリ(ジアリルアミン)、アリルアミン・ジアリルアミン共重合体、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコールポリアクリル酸ブロック共重合体、及びポリビニルアルコールポリアクリル酸エステルブロック共重合体が挙げられる。
セルロース系樹脂としては、水溶性のセルロース誘導体であれば特に限定されない。セルロース系樹脂としては、メチルセルロース、エチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
なお、水溶性樹脂(A)は、酸性基を持たないことが好ましい。
これらは、1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0022】
上記の水溶性樹脂(A)の具体例の中では、保護膜の熱ダレによる加工溝の形状悪化等が生じにくいことから、ビニル系樹脂、及びセルロース系樹脂が好ましく、ポリビニルピロリドン、及びヒドロキシプロピルセルロースがより好ましい。
【0023】
半導体ウエハー表面に形成される保護膜は、通常、保護膜と加工溝とを備える半導体ウエハーを半導体チップに加工する方法に応じた、加工溝の形成後の適切な時点において、半導体ウエハー又は半導体チップの表面から除去される。このため、保護膜の水洗性の点から、半導体ウエハー表面との親和性の低い水溶性樹脂が好ましい。半導体ウエハー表面との親和性の低い水溶性樹脂としては、極性基としてエーテル結合、水酸基、アミド結合のみを有する樹脂、例えばポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、及びヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。
【0024】
保護膜に対してレーザー光を照射して加工溝を形成する際の開口不良や、保護膜の熱ダレによる加工溝の形状悪化等が生じにくいことから、保護膜形成剤における、水溶性樹脂(A)の質量と、吸光剤(B)の質量との総量に対する、水溶性樹脂(A)の質量の比率は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、85質量%以上98質量%以下がより好ましい。
【0025】
<吸光剤(B)>
吸光剤(B)としては、一般的に保護膜形成剤に使用されている吸光剤を使用することができる。
吸光剤(B)として、水溶性染料、水溶性色素や、水溶性紫外線吸収剤等の水溶性吸光剤を使用することが好ましい。水溶性吸光剤は、保護膜中に均一に存在させる上で有利である。水溶性吸光剤としては、カルボキシ基やスルホ基を有する有機酸類;有機酸類のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、及び第4級アンモニウム塩;ヒドロキシ基を有する化合物を挙げることができる。
水溶性の吸光剤を用いる場合、保護膜形成剤の保存安定性が高く、保護膜形成剤の保存中に、保護膜形成剤の相分離や吸光剤の沈降等の不都合を生じることが抑制されるため、保護膜形成剤の良好な塗布性を長期間維持しやすい点でも有利である。
【0026】
なお、顔料等の水不溶性の吸光剤を用いることもできる。水不溶性の吸光剤を用いる場合、保護膜形成剤の使用に致命的な支障が生じるわけではないが、保護膜のレーザー吸収能にばらつきが生じたり、保存安定性や塗布性に優れる保護膜形成剤を得にくかったり、均一な厚みの保護膜を形成しにくかったりする場合がある。
【0027】
吸光剤(B)としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、桂皮酸系化合物、アントラキノン系化合物、ナフタレン系化合物や、ビフェニル系化合物を挙げることができる。
ベンゾフェノン系化合物としては、下記式(B1)で表される化合物が挙げられる。下記式(B1)で表される化合物は、保護膜にレーザー光のエネルギーを効率よく吸収させ、保護膜の熱分解を促進させることができるため、好ましい。
【化1】
(式(B1)中、R
1及びR
3は、それぞれ独立に、水酸基、又はカルボキシ基であり、R
2及びR
4は、それぞれ独立に、水酸基、カルボキシ基、又は-NR
5R
6で表される基であり、R
5及びR
6は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素原子数1以上4以下のアルキル基であり、m及びnは、それぞれ独立に0以上2以下の整数である。)
【0028】
上記の式(B1)で表される化合物は、吸光係数が高く、保護膜形成剤にアルカリとともに添加した場合でも高い吸光係数を示す。このため、上記の式(B1)で表される化合物を吸光剤(B)として含む保護膜形成剤を用いて保護膜を形成すると、ダイシング用のマスク形成の際に保護膜の部分的なレーザーによる分解を、良好に行うことができる。
【0029】
上記式(B1)において、R2及びR4は、-NR5R6で表される基である場合がある。R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素原子数1以上4以下のアルキル基である。R5及びR6としてのアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。R5及びR6としてのアルキル基の具体例は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、及びtert-ブチル基である。
【0030】
-NR5R6で表される基としては、アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、及びジエチルアミノ基が好ましく、アミノ基、ジメチルアミノ基、及びジエチルアミノ基がより好ましい。
【0031】
式(B1)で表される化合物は、塩基の存在下での吸光係数の高さから、下記式(B1-1)で表される化合物が好ましい。
【化2】
(式(B1-1中)、R
1~R
4、m、及びnは、式(B1)中のこれらと同様である。)
【0032】
塩基の存在下での吸光係数の高さから、上記式(B1)及び式(B1-1)において、R1及びR3の少なくとも一方が水酸基であるのが好ましい。
【0033】
式(B1-1)で表される化合物は、下記式(B1-1a)~式(B1-1e)のいずれかで表される化合物であるのが好ましい。
【化3】
(式(B1-1a)~式(B1-1e)中、R
1~R
4は、式(B1)中のこれらと同様である。)
【0034】
式(B1-1a)~式(B1-1e)で表される化合物の中では、式(B1-1a)で表される化合物が好ましい。
式(B1-1a)~式(B1-1e)で表される化合物において、R2が、-NR5R6で表される前述の基であって、R5及びR6が、それぞれ独立に炭素原子数1以上4以下のアルキル基であるのが好ましい。
【0035】
式(B1)で表される化合物の好適な具体例として、以下の化合物が挙げられる。
これらの化合物は、入手の容易性や、塩基の存在下でも高い吸光係数を示すことから、好ましい。
【化4】
【0036】
吸光剤(B)が式(B1)で表される化合物を含む場合、吸光剤(B)の質量に対する、式(B1)で表される化合物の質量の割合は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。吸光剤(B)の質量に対する、式(B1)で表される化合物の質量の割合は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0037】
ベンゾフェノン系化合物としては、4,4’-ジカルボキシベンゾフェノン、ベンゾフェノン-4-カルボン酸、及びテトラヒドロキシベンゾフェノンも挙げることができる。これらはいずれも水溶性紫外線吸収剤である。
【0038】
桂皮酸系化合物としては、下記式(B2)で表される化合物が挙げられる。下記式(B2)で表される化合物は、保護膜にレーザー光のエネルギーを効率よく吸収させ、保護膜の熱分解を促進させることができるため、好ましい。
【化5】
(式(B2)中、R
11は、水酸基、アルコキシ基、又は-NR
12R
13で表される基であり、R
12及びR
13は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素原子数1以上4以下のアルキル基であり、pは、0以上3以下の整数であり、pが2以上である場合、複数のR
11は、同一でも異なっていてもよい。)
【0039】
上記式(B2)において、R11としてのアルコキシ基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。R11としてのアルコキシ基は、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基であることが好ましい。R11としてのアルコキシ基の具体例は、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、及びn-ブトキシ基である。
【0040】
上記式(B2)において、R11は、-NR12R13で表される基である場合がある。R12及びR13は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素原子数1以上4以下のアルキル基である。R12及びR13としてのアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。R12及びR13としてのアルキル基の具体例は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、及びtert-ブチル基である。
【0041】
式(B2)で表される化合物は、下記式(B2-1)で表される化合物であることが好ましい。
【化6】
(式(B2-1)中、R
11は、式(B2)中のR
11と同様である。)
【0042】
桂皮酸系化合物の具体例としては、4-アミノ桂皮酸、3-アミノ桂皮酸、2-アミノ桂皮酸、シナピン酸(3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシ桂皮酸)、フェルラ酸、カフェイン酸を挙げることができる。
これらの中でも、4-アミノ桂皮酸、3-アミノ桂皮酸、2-アミノ桂皮酸、及びフェルラ酸が好ましく、4-アミノ桂皮酸、及びフェルラ酸がより好ましい。
【0043】
吸光剤(B)が式(B2)で表される化合物を含む場合、吸光剤(B)の質量に対する、式(B2)で表される化合物の質量の割合は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。吸光剤(B)の質量に対する、式(B2)で表される化合物の質量の割合は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0044】
アントラキノン系化合物の具体例としては2-カルボキシアントラキノン、2,6-アントラキノンジスルホン酸、及び2,7-アントラキノンジスルホン酸等を挙げることができる。
【0045】
ナフタレン系化合物の具体例としては、1,2-ナフタリンジカルボン酸、1,8-ナフタリンジカルボン酸、2,3-ナフタリンジカルボン酸、2,6-ナフタリンジカルボン酸、及び2,7-ナフタリンジカルボン酸等を挙げることができる。
【0046】
ビフェニル系化合物の具体例としては、ビフェニル-4-スルホン酸等を挙げることができる。
【0047】
吸光剤(B)としては、クルクミンや、EAB-F(4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン)等の水溶性アミン類も挙げることができる。
【0048】
水溶性染料の具体例としては、アゾ染料(モノアゾ及びポリアゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、スチルベンアゾ染料、チアゾールアゾ染料)、アントラキノン染料(アントラキノン誘導体、アントロン誘導体)、インジゴイド染料(インジゴイド誘導体、チオインジゴイド誘導体)、フタロシアニン染料、カルボニウム染料(ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、アクリジン染料)、キノンイミン染料(アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料)、メチン染料(シアニン染料、アゾメチン染料)、キノリン染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン及びナフトキノン染料、ナフタルイミド染料、ペリノン染料、及びその他の染料等の中より、水溶性の染料が選択される。
【0049】
水溶性の色素としては、例えば食用赤色2号、食用赤色40号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号、食用黄色NY、食用黄色4号タートラジン、食用黄色5号、食用黄色5号サンセットエローFCF、食用オレンジ色AM、食用朱色No.1、食用朱色No.4、食用朱色No.101、食用青色1号、食用青色2号、食用緑色3号、食用メロン色B、及び食用タマゴ色No.3等の食品添加用色素が、環境負荷が低い点等から好適である。
【0050】
保護膜形成剤中の吸光剤(B)の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。保護膜形成剤中の吸光剤(B)の含有量は、0.05質量%以上10質量%以下が好ましい。
保護膜に対してレーザー光を照射して加工溝を形成する際の開口不良や、保護膜の熱ダレによる加工溝の形状悪化等が生じにくいことから、保護膜形成剤における、水溶性樹脂(A)の質量と、吸光剤(B)の質量との総量に対する、吸光剤(B)の質量の比率は、0.5質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上18質量%以下がより好ましく、2質量%以上15質量%以下がさらに好ましい。
【0051】
吸光剤(B)の含有量は、保護膜形成剤を用いて形成される保護膜の吸光度が所望の値になるように設定できる。保護膜形成剤を用いて形成される保護膜の吸光度は特に限定されないが、例えば、保護膜形成剤を用いて形成される保護膜の波長355nmでの膜厚1μmあたりの吸光度が、0.3以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましく、1.0以上であることがさらに好ましい。
【0052】
<その他の添加剤>
保護膜形成剤は、水溶性樹脂(A)及び吸光剤(B)以外にも、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、他の配合剤を含んでいてもよい。他の配合剤としては、例えば、防腐剤、塩基性化合物及び界面活性剤等を用いることができる。
【0053】
防腐剤としては、安息香酸、ブチルパラベン、エチルパラベン、メチルパラベン、プロピルパラベン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、塩化セチルピリジニウム、クロロブタノール、フェノール、フェニルエチルアルコール、2-フェノキシエタノール、硝酸フェニル第二水銀、チメロサール、メタクレゾール、ラウリルジメチルアミンオキサイド又はそれらの組み合わせを使用することができる。
【0054】
保護膜形成剤の防腐の点だけでなく、半導体ウエハー洗浄後の廃液の処理の負荷低減の点からも、防腐剤を使用することが好ましい。半導体ウエハーの洗浄のために大量の洗浄水が使用されるのが一般的である。しかし、前述の保護膜形成剤を用いるプロセスでは、保護膜形成剤に含まれる水溶性樹脂(A)に起因する、廃液中での雑菌の繁殖が懸念される。そのため、前述の保護膜形成剤を用いるプロセスに由来する廃液は、保護膜形成剤を使用しないプロセスに由来する廃液とは別に処理されることが望ましい。しかし、保護膜形成剤に防腐剤を含有させる場合、水溶性樹脂(A)に起因する雑菌の繁殖が抑制されるので、保護膜形成剤を使用するプロセスに由来する廃液と、保護膜形成剤を使用しないプロセスに由来する廃液とを、同様に処理し得る。このため、廃水処理工程の負荷を減らすことができる。
【0055】
保護膜形成剤が防腐剤を含む場合、防腐剤の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。保護膜形成剤中の防腐剤の含有量は、水溶性樹脂(A)100質量部に対して、0.01質量部以上5質量部以下が好ましく、0.05質量部以上2質量部以下がより好ましい。
【0056】
塩基性化合物としては、無機化合物、及び有機化合物のいずれも使用でき、例えば、アルキルアミン、アルカノールアミン、イミダゾール化合物、アンモニアやアルカリ金属の水酸化物が挙げられる。
塩基性化合物の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、アンモニア;エチルアミン、n-プロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、1,2-メチルイミダゾール、N-メチルイミダゾール、4-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、ピロール、ピペリジン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセン、及び1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]-5-ノナンが挙げられる。
【0057】
塩基性化合物の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。塩基性化合物の使用量は、吸光剤(B)1モルに対して、1モル以上が好ましく、1モル以上20モル以下がより好ましい。塩基性化合物の使用量の下限は、吸光剤(B)1モルに対して、1.5モル以上であってよく、2モル以上であってよく、3モル以上であってもよい。塩基性化合物の使用量の上限は、吸光剤(B)1モルに対して、15モル以下であってよく、10モル以下であってよく、5モル以下であってもよい。
【0058】
界面活性剤は、例えば、保護膜形成剤製造時の消泡性、保護膜形成剤の安定性、及び保護膜形成剤から調製された塗布液の塗布性等を高めるために使用される。特に保護膜形成剤製造時の消泡性の点で界面活性剤を使用することが好ましい。
【0059】
また、保護膜は保護膜形成剤から調製された塗布液を、例えばスピンコートすることにより形成される。しかし、保護膜を形成する際に気泡に起因する凹凸が発生する場合がある。このような凹凸の発生を抑制するために、界面活性剤等の消泡剤を使用することが好ましい。
【0060】
界面活性剤としては、水溶性の界面活性剤が好ましく使用できる。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、及び両性界面活性剤のいずれも使用することができる。界面活性剤は、シリコーン系であってもよい。洗浄性の点からノニオン系界面活性剤が好ましい。
【0061】
<溶媒(S)>
保護膜形成剤は、水溶性樹脂(A)や吸光剤(B)を溶解又は分散させるために、溶媒(S)を含む。すなわち、保護膜形成剤は、水溶性樹脂(A)及び吸光剤(B)の溶液又は分散液である。
溶媒(S)は水を含む。
溶媒(S)は、水とともに、有機溶剤を含んでいてもよい。使用時の引火等の危険が少ないことや、コストの点等で、溶媒(S)としては、水、及び有機溶剤の水溶液が好ましく、水がより好ましい。
【0062】
引火性の観点からは、溶媒(S)中の有機溶剤の含有量は、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0063】
溶媒(S)は、保護膜形成剤が1気圧下において引火点を持たないように選択されるのが好ましい。具体的には、保護膜形成剤における水の含有量を調整することにより、保護膜形成剤の引火点や、引火点の有無が調整される。
引火点をもたない保護膜形成剤は安全であり、例えば、非防爆環境下に置くことができる。具体的には、保護膜形成剤の保管、輸送、使用等の取扱いを非防爆環境下に行うことができる。例えば、保護膜形成剤の半導体工場への導入のみならず、保護膜の形成を非防爆環境下に行うことができる。従って、通常高価な防爆設備等の防爆環境が不要である点で、引火点をもたない保護膜形成剤は、産業上非常に有利である。
【0064】
引火点は、1気圧下において、液温80℃以下ではタグ密閉式で測定し、液温80℃超ではクリーブランド開放式で測定することにより得られる。
本明細書においては、クリーブランド開放式で測定しても、引火点が測定できなかった場合を、引火点なしとする。
【0065】
保護膜形成剤が含み得る有機溶剤の例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、アルキレングリコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート等が挙げられる。
アルキレングリコールとしては、エチレングリコール、及びプロピレングリコール等が挙げられる。アルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、及びプロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートとしては、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、及びプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等が挙げられる。
保護膜形成剤は、2種以上の有機溶剤を組み合わせて含んでいてもよい。
【0066】
保護膜形成剤の固形分濃度は、20質量%以上であることを必須とする。詳しくは後述するが、本発明においては、固形分濃度が20質量%以上の保護膜形成剤を用い、これを希釈して得た塗布液を塗布して、保護膜を形成する。
保護膜形成剤の固形分濃度の上限は、特に限定されないが、60質量%以下が好ましく、50質量以下がより好ましい。
なお、本明細書において、固形分とは、溶媒(S)以外の成分である。
【0067】
<塗布液調製工程>
塗布液調製工程では、上述の保護膜形成剤を希釈して塗布液を調製する。
すなわち、半導体ウエハーのダイシングにおいて、半導体ウエハーの表面に保護膜を形成するために用いられる塗布液の調製方法であって、水溶性樹脂(A)と吸光剤(B)と溶媒(S)とを含み、溶媒(S)が水を含み、固形分濃度が20質量%以上である、保護膜形成剤を、希釈する希釈工程を有する、塗布液の調製方法により、塗布液を調製する。
【0068】
塗布液の固形分濃度は、保護膜形成剤の固形分濃度よりも低ければよいが、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。塗布液の固形分濃度は、特に限定されないが、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。
【0069】
保護膜形成剤の希釈に用いる溶媒は特に限定されず、保護膜形成剤が含む溶媒(S)で希釈しても、保護膜形成剤が含まない溶媒で希釈しても、保護膜形成剤が含む溶媒(S)と保護膜形成剤が含まない溶媒との混合溶媒で希釈してもよいが、保護膜形成剤が含む溶媒(S)と同一の溶媒で希釈することが好ましい。
保護膜形成剤が含まない溶媒としては、保護膜形成剤が含む溶媒(S)以外の上述した溶媒(S)が挙げられる。
【0070】
<保護膜形成工程>
保護膜形成工程では、塗布液を半導体ウエハー上に塗布して保護膜を形成する。
保護膜形成工程で塗布する塗布液は、上述のとおり、当該塗布液よりも濃度が高い保護膜形成剤を、希釈したものである。
半導体ウエハーとしては、例えば、シリコン基板等が挙げられる。
加工後の水洗による保護膜の除去が容易であることや、後述する半導体チップの製造方法における切断工程においてプラズマ照射を行う場合のプラズマ照射に対する保護膜の十分な耐久性の点で、保護膜の膜厚は、典型的には、1μm以上100μm以下が好ましい。
後述する半導体チップの製造方法における加工溝形成工程及び/又は切断工程においてレーザーを照射する場合、保護膜の膜厚は、0.1μm以上10μm以下が好ましい。
切断工程において、ブレードによる切断を行う場合、保護膜の膜厚は特に制限されない。ブレードによる切断を行う場合、加工後の水洗による保護膜の除去が容易であることから、保護膜の厚さは、例えば、0.1μm以上100μm以下が好ましい。
【0071】
ここで、保護膜形成剤を半導体ウエハー上に塗布して保護膜を形成する際に、保護膜形成剤の製造後にある程度の時間が経過した後に、保護膜形成剤を半導体ウエハー上に塗布する場合がある。具体的には、例えば、保護膜形成剤が製造された後に、長時間かけて移送されたり長期間保管されたりした保護膜形成剤を用いて、保護膜が形成される場合がある。
このように保護膜形成剤の製造後にある程度の時間が経過した後に、保護膜形成剤を半導体ウエハーに塗布すると、保護膜形成剤の製造直後に半導体ウエハー上に塗布した場合と比べて、形成される保護膜に生じる異物が増加する場合がある。
保護膜における異物は、保護膜形成剤の製造後に、時間の経過とともに保護膜形成剤中に生じる異物に由来すると考えられる。
【0072】
一般的に、溶液における経時的な異物の発生は、溶質の凝集や、溶質間の反応によって生じることが多い。
しかし、本発明者の検討によれば、意外にも、水溶性樹脂(A)と、吸光剤(B)と、水を含む溶媒(S)とを含む保護膜形成剤については、固形分濃度が20質量%以上であるような高濃度である場合に、経時的な異物の発生が生じにくいことが明らかとなった。
具体的には、本発明においては、水溶性樹脂(A)と、吸光剤(B)と、水を含む溶媒(S)とを含み、固形分濃度が20質量%以上である保護膜形成剤を準備し、これを希釈した塗布液を調製し、当該塗布液を半導体ウエハー上に塗布して保護膜を形成している。これにより、後述する実施例に示されるように、保護膜形成剤の製造後に時間が経過しても、形成される保護膜の異物の増加を抑制できる。
このため、保護膜形成剤の製造後、保護膜形成剤が移送されたり保管されたりした後に保護膜を形成しても、異物の少ない保護膜を形成することができる。
【0073】
保護膜の異物の増加を抑制できる理由は不明であるが、以下のように推測される。
後述する比較例に示されるように、水溶性樹脂(A)と、吸光剤(B)と、水を含む溶媒(S)とを含み、固形分濃度が低い保護膜形成剤(例えば、固形分濃度が10質量%以下の保護膜形成剤)を用いた場合、保護膜形成製剤の製造後に時間が経過した後、この保護膜形成剤を半導体ウエハー上に塗布すると、形成される保護膜の異物が顕著に増加する。
一方、上述の水溶性樹脂(A)と、吸光剤(B)と、水を含む溶媒(S)とを含み、固形分濃度が20質量%以上である保護膜形成剤を用い、保護膜形成製剤の製造後に時間が経過した後、希釈した塗布液を調製し、当該塗布液を半導体ウエハー上に塗布すると、形成される保護膜の異物の増加は抑制される。
このように固形分濃度が低い保護膜形成剤を用いた場合のほうが異物の増加が大きいため、保護膜の異物は、水溶性樹脂(A)や吸光剤(B)の凝集や化学反応に由来するものではなく、その他の要因、例えば、バクテリア等の菌に由来する可能性があると考えられる。
【0074】
塗布液の調製後、塗布液を半導体ウエハー上へ塗布するまでの時間は、短い方が好ましい。塗布液の調製後、1日以内に塗布することが好ましく、1時間以内に塗布することがより好ましく、調製直後(例えば10分以内)に塗布することがさらに好ましい。塗布液の調製後、塗布液を半導体ウエハー上へ塗布するまでの時間が長い場合は、形成される保護膜の異物が増加しやすい。
【0075】
<保管・移送工程>
本発明の保護膜の形成方法は、保護膜形成剤の製造後に時間が経過しても、形成される保護膜の異物の増加を抑制できるため、保護膜形成剤準備工程の後であって、塗布液調製工程の前に、保護膜形成剤を保管又は移送する保管・移送工程を有していてもよい。移送としては、持ち運びや、船舶、航空機、鉄道車両、トラック等の自動車等の輸送機による輸送が挙げられる。
保管や移送の時間は、特に限定されず、1カ月以上や3ヶ月以上でもよい。
保管や移送の温度は、特に限定されないが、-10℃以上40℃以下が好ましい。
【0076】
≪半導体チップの製造方法≫
半導体チップの製造方法は、半導体ウエハーを加工して半導体チップを製造することを含む方法である。
より具体的には、半導体チップの製造方法は、
前述の保護膜の形成方法により、半導体ウエハー上に保護膜を形成する保護膜形成工程と、
半導体ウエハー上における保護膜を含む1以上の層の所定の位置にレーザー光を照射し、半導体ウエハーの表面が露出し、且つ半導体チップの形状に応じたパターンの加工溝を形成する加工溝形成工程と、
半導体ウエハーにおける加工溝の位置を切断する切断工程と、
を含む方法である。
【0077】
<保護膜形成工程>
保護膜形成工程は、上述のとおりである。
また、保護膜が形成される半導体ウエハーの加工面の形状は、半導体ウエハーに対して所望する加工を施すことができる限りにおいて特に限定されない。典型的には、半導体ウエハーの加工面は、多数の凹凸を有している。そして、ストリートに相当する領域に凹部が形成されている。
半導体ウエハーの加工面では、半導体チップに相当する複数の領域が、ストリートによって区画される。
【0078】
以下に、図面を参照しつつ、格子状のストリートで区画された複数の半導体チップを備える半導体ウエハーに対して、前述の保護膜の形成方法を用いてダイシング加工を行う半導体チップの製造方法について、半導体チップの製造方法の好ましい一態様として説明する。
【0079】
図1には、加工対象の半導体ウエハーの斜視図が示される。
図2には、
図1に示される半導体ウエハーの要部拡大断面図が示される。
図1及び
図2に示される半導体ウエハー2では、シリコン等の半導体基板20の表面20a上に、絶縁膜と回路とを形成する機能膜が積層された積層体21が設けられている。積層体21においては、複数のIC、LSI等の半導体チップ22がマトリックス状に形成されている。
ここで、半導体チップ22の、形状、及びサイズは特に限定されず、半導体チップ22の設計に応じて、適宜設定され得る。
【0080】
各半導体チップ22は、格子状に形成されたストリート23によって区画されている。なお、図示される実施形態においては、積層体21として使用される絶縁膜は、SiO2膜、又はSiOF、BSG(SiOB)等の無機物系の膜や、ポリイミド系、パリレン系等のポリマー膜である有機物系の膜からなる低誘電率絶縁体被膜(Low-k膜)からなる。
【0081】
上記の積層体21の表面が、加工面である表面2aに該当する。上記の表面2a上に、前述した保護膜の形成方法を用いて、保護膜が形成される。
【0082】
保護膜形成工程では、例えば、スピンコーターによって、半導体ウエハー2の表面2aに、保護膜形成剤を希釈して調製された塗布液を塗布することにより、保護膜24が形成される。なお、塗布液の塗布方法は、所望する膜厚の保護膜を形成できる限り特に限定されない。表面2aを被覆する液状の塗布液を、必要に応じて乾燥させてもよい。
これによって、
図3に示されるように半導体ウエハー2上の表面2aに、保護膜24が形成される。
【0083】
このようにして半導体ウエハー2の表面2aに保護膜24が形成された後、半導体ウエハー2の裏面に、
図4に示されるように、環状のフレーム5に装着された保護テープ6が貼着される。
【0084】
<加工溝形成工程>
加工溝形成工程では、半導体ウエハー2上における保護膜24を含む1以上の層の所定の位置にレーザー光を照射し、半導体基板20の表面20aが露出し、且つ半導体チップ22の形状に応じたパターンの加工溝が形成される。
【0085】
具体的には、レーザー加工装置7を用いて、半導体ウエハー2上の表面2a(ストリート23)に、保護膜24を通してレーザー光が照射される。このレーザー光の照射は、
図5に示されるようにレーザー光線照射手段72を用いて実施される。
レーザーは強度の点から波長100nm以上400nm以下である紫外線レーザーが好ましい。また、波長266nm、355nm等のYVO4レーザー、及びYAGレーザーが好ましい。
【0086】
加工溝形成工程における上記レーザー光照射は、例えば以下の加工条件で行われる。なお、集光スポット径は加工溝25の幅を勘案して、適宜選択される。
レーザー光の光源 :YVO4レーザー又はYAGレーザー
波長 :355nm
繰り返し周波数:50kHz以上100kHz以下
出力 :0.3W以上4.0W以下
加工送り速度 :1mm/秒以上800mm/秒以下
【0087】
上述した加工溝形成工程を実施することにより、
図6に示されるように、半導体ウエハー2におけるストリート23を備える積層体21において、ストリート23に沿って加工溝25が形成される。保護膜24は、前述の保護膜の形成方法を用いて形成されているため、保護膜形成剤の製造後時間が経過していても、異物の少ない保護膜である。このため、異物によるレーザー光の阻害が抑制され、保護膜24に対して上記のようにレーザー光を照射することにより、所望する形状の溝を、保護膜24中に容易に形成できる。
【0088】
上述したように所定のストリート23に沿ってレーザー光の照射を実行したら、チャックテーブル71に保持されている半導体ウエハー2を矢印Yで示す方向にストリートの間隔だけ割り出し移動し、再びレーザー光の照射を遂行する。
【0089】
このようにして所定方向に延在する全てのストリート23についてレーザー光の照射と割り出し移動とを遂行した後、チャックテーブル71に保持されている半導体ウエハー2を90度回動させて、上記所定方向に対して直角に延びる各ストリート23に沿って、上記と同様にレーザー光の照射と割り出し移動とを実行する。このようにして、半導体ウエハー2上の積層体21に形成されている全てのストリート23に沿って、加工溝25を形成することができる。
【0090】
<切断工程>
切断工程では、ストリート23の位置に対応する位置に加工溝25を備える半導体ウエハー2を切断する。好ましい方法としては、保護膜24と加工溝25とを備える半導体ウエハー2にレーザー又はプラズマを照射することにより半導体ウエハー2を切断する方法や、保護膜24を備える半導体ウエハー2、又は保護膜24が剥離された半導体ウエハー2をブレードにより切断する方法が挙げられる。レーザーを照射する場合、半導体ウエハー2を切断すべく、加工溝25に対してレーザーが照射される。プラズマを照射する場合、加工溝25の表面にプラズマが暴露されるように、半導体ウエハー2の保護膜を備える面の一部又は全面にプラズマが照射される。ブレードにより切断を行う場合、切断箇所に純水を供給しながら、加工溝25の位置に沿って、ブレードにより半導体ウエハー2が切断される。
以下、好ましい切断方法であるプラズマ照射による切断方法について説明する。
【0091】
図7に示されるように、保護膜24と、加工溝25とを備える半導体ウエハー2にプラズマを照射される。そうすることにより、
図8に示されるように半導体ウエハー2における加工溝25の位置が切断される。
具体的には、保護膜24で被覆された半導体ウエハー2において、上記のとおり、加工溝25を形成した後、保護膜24と、加工溝25から露出する半導体基板20の表面20aとに対して、プラズマ照射を行うことにより、半導体ウエハー2が、半導体チップ22の形状に従って切断され、半導体ウエハー2が半導体チップ22に分割される。
【0092】
プラズマ照射条件については、加工溝25の位置における半導体ウエハー2の切断を良好に行うことができれば特に限定されない。プラズマ照射条件は、半導体ウエハー2の材質やプラズマ種等を勘案して、半導体基板に対するプラズマエッチングの一般的な条件の範囲内で適宜設定される。
プラズマ照射においてプラズマを生成させるために用いられるガスとしては、半導体ウエハー2の材質に応じて適宜選択される。典型的には、プラズマの生成にはSF6ガスが使用される。
また、所謂BOSCHプロセスに従い、C4F6又はC4F8ガス等の供給による側壁保護と、プラズマ照射による半導体ウエハー2のエッチングとを交互に行うことにより、半導体ウエハー2の切断を行ってもよい。BOSCHプロセスによれば、高アスペクト比でのエッチングが可能であり、半導体ウエハー2が厚い場合でも、半導体ウエハー2の切断が容易である。
【0093】
次に、
図9に示されるように、半導体チップ22の表面を被覆する保護膜24が除去される。上述したように保護膜24は、水溶性樹脂(A)を含む保護膜形成剤を用いて形成されているので、水(或いは温水)によって保護膜24を洗い流すことができる。
【0094】
以上、半導体ウエハーを加工することによる半導体チップの製造方法を実施形態に基づいて説明した。
本発明にかかる保護膜の形成方法と、当該保護膜の形成方法を用いる半導体チップの製造方法と、前述の保護膜の形成方法に用いることができる塗布液の製造方法とは、半導体ウエハー表面に保護膜を形成し、半導体ウエハーの保護膜を備える面においてストリートに相当する位置に加工溝を形成することを含む方法であれば、種々の半導体チップの製造方法に対して適用することができる。
【実施例0095】
以下、実施例、及び比較例により、本発明を具体的に説明する。本発明は、以下の実施例になんら限定されない。
【0096】
(実施例1~11、及び比較例1~2)
実施例1~11、及び比較例1~2では、水溶性樹脂(A)として、ポリビニルピロリドン(A-1)、ヒドロキシプロピルセルロース(A-2)、を用いた。
また、吸光剤(B)として、下記式で表されるB-1(フェルラ酸)を用いた。
【化7】
また、防腐剤として、メチルパラベン(C-1)を用いた。
また、溶媒(S)として、水(S1)90質量部と、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)(S2)10質量部との混合溶媒を用いた。
【0097】
<保護膜形成剤の製造>
それぞれ表1に記載の種類及び量の、水溶性樹脂(A)、吸光剤(B)及び防腐剤と、表1に記載の固形分濃度になる量の溶媒(S)とを、容器に投入し、8時間撹拌して、各実施例及び比較例の保護膜形成剤を得た。
【0098】
<保護膜(塗布膜)の形成>
実施例1~10において、保護膜形成剤を製造直後(10分以内)に溶媒(S)で希釈して、固形分濃度が10質量%の塗布液を調製し、塗布液の調製直後(10分以内)に、塗布液をシリコン基板上にスピンコート法(スピンコート条件:1000rpm、60秒)で塗布することにより、膜厚1μmの保護膜1を形成した。
また、実施例1~10において、保護膜形成剤を、40℃で3ヶ月間保管した後、溶媒(S)で希釈して、固形分濃度が10質量%の塗布液を調製し、塗布液の調製直後(10分以内)に、塗布液をシリコン基板上にスピンコート法(スピンコート条件:1000rpm、60秒)で塗布することにより、膜厚1μmの保護膜2を形成した。
また、実施例11においては、各塗布液の固形分濃度を20質量%にし、スピンコート条件を2000rpm、60秒にしたことの他は、実施例1~10と同様にして、膜厚3μmの保護膜1及び保護膜2を形成した。
また、各比較例においては、溶媒(S)で希釈する操作を行わないことの他は、実施例1~10と同様にして、それぞれ膜厚1μmの保護膜1及び保護膜2を形成した。
【0099】
<保護膜の異物の評価>
形成された保護膜1及び保護膜2について、NSX-220(ルドルフ社製)により観察し、異物数をカウントし、下記式により、異物の増加率(%)を求めた。異物の増加率が、5%未満の場合を○、5%以上の場合は×と判定した。結果を表1に示す。
異物の増加率(%)=[{(保護膜2の異物数)/(保護膜1の異物数)}-1]×100
【0100】
【0101】
表1から、水溶性樹脂(A)と、吸光剤(B)と、水を含む溶媒(S)とを含み、固形分濃度が20質量%以上である保護膜形成剤を、希釈した塗布液を、半導体ウエハー(シリコン基板)に塗布した実施例1~11は、形成される保護膜の異物の増加率が低かった。このため、実施例1~11は、保護膜形成剤の製造後に時間が経過しても、形成される保護膜に生じる異物を抑制できることが分かる。
他方、表1から、希釈する操作を行わない比較例1~2は、異物の増加率が実施例と比べて高かった。