(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004699
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】ABO血液型不適合腎移植を行う被験動物における抗体関連型拒絶反応の可能性を試験する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20230110BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230110BHJP
【FI】
G01N33/53 K ZNA
G01N33/53 N
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021106564
(22)【出願日】2021-06-28
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(72)【発明者】
【氏名】田▲崎▼ 正行
(72)【発明者】
【氏名】舘野 浩章
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】梶 裕之
(72)【発明者】
【氏名】成松 久
(57)【要約】
【課題】従来法よりも正確なABO血液型不適合腎移植を行う被験動物における抗体関連型拒絶反応の可能性を試験する方法を提供する。
【解決手段】ABO血液型不適合腎移植を行う被験動物における抗体関連型拒絶反応の可能性を試験する方法は、被験動物由来の体液試料を、ABO血液型抗原のうちいずれか一つの抗原が付加したCD31からなる3種類の糖タンパク質と接触させる接触工程と、体液試料に含まれる、糖タンパク質のうちA抗原が付加したCD31及びB抗原が付加したCD31それぞれに結合した抗A抗体及び抗B抗体を検出する検出工程と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ABO血液型不適合腎移植を行う被験動物における抗体関連型拒絶反応の可能性を試験する方法であって、
前記被験動物由来の体液試料を、ABO血液型抗原のうちいずれか一つの抗原が付加したCD31タンパク質からなる3種類の糖タンパク質と接触させる接触工程と、
前記体液試料に含まれる、前記糖タンパク質のうちA抗原が付加したCD31タンパク質及びB抗原が付加したCD31タンパク質それぞれに結合した抗A抗体及び抗B抗体を検出する検出工程と、
を含み、
前記検出工程において、前記抗A抗体又は前記抗B抗体の、前記A抗原が付加したCD31タンパク質又は前記B抗原が付加したCD31タンパク質に対する結合量が所定の基準値超である場合には、抗体関連型拒絶反応が起こる可能性が高く、前記結合量が所定の基準値以下である場合には、抗体関連型拒絶反応が起こる可能性が低いという基準と比較することにより、前記被験動物における抗体関連型拒絶反応の可能性を試験する、方法。
【請求項2】
前記体液試料が血液、血清、又は血漿である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ABO血液型不適合腎移植を行う被験動物における抗体関連型拒絶反応の可能性を試験する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1989年にABO血液型不適合腎移植が本邦で初めて成功して以来、その成績向上のために様々な工夫が重ねられている。現在では、ABO血液型不適合腎移植は高い成功率と長期移植腎生着が可能となり、生体腎移植の25%を占めており、慢性腎不全の治療に多大な貢献をしている。しかしながら、少数ながら、未だに制御不能の抗体関連型拒絶反応により、移植後早期に移植腎を摘出せざるを得ない症例が存在し、この問題を解決することが急務である。
【0003】
ABO血液型不適合腎移植においてドナー血液型抗原に対する抗体価測定は、抗体関連型拒絶反応を予測する唯一の手段である。従来より、赤血球を用いた抗体価測定が行われている。
【0004】
一方で、発明者らは、これまでに赤血球と腎血管内皮細胞上の血液型抗原は構造上異なることを、質量分析計を駆使した基礎研究で報告している(例えば、非特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Tasaki M et al., “Identification and characterization of major proteins carrying ABO blood group antigens in the human kidney.”, Transplantation, Vol. 87, Issue 8, pp. 1125-1133, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来法である赤血球を用いて測定した抗体価と臨床の経過には相関性がない症例も存在する。すなわち、抗体価が高いにも関わらず経過良好の症例がある一方で、抗体価上昇が軽微であっても激しい抗体関連型拒絶反応のために移植腎を摘出しなければならない症例が存在する。そのため、ABO血液型不適合腎移植においてドナー血液型抗原に対する被験動物由来の体液試料中の抗体価をより正しく測定し、抗体関連型拒絶反応の可能性を予測できる方法が求められている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、従来法よりも正確なABO血液型不適合腎移植を行う被験動物における抗体関連型拒絶反応の可能性を試験する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1) ABO血液型不適合腎移植を行う被験動物における抗体関連型拒絶反応の可能性を試験する方法であって、
前記被験動物由来の体液試料を、ABO血液型抗原のうちいずれか一つの抗原が付加したCD31タンパク質からなる3種類の糖タンパク質と接触させる接触工程と、
前記体液試料に含まれる、前記糖タンパク質のうちA抗原が付加したCD31タンパク質及びB抗原が付加したCD31タンパク質それぞれに結合した抗A抗体及び抗B抗体を検出する検出工程と、
を含み、
前記検出工程において、前記抗A抗体又は前記抗B抗体の、前記A抗原が付加したCD31タンパク質又は前記B抗原が付加したCD31タンパク質に対する結合量が所定の基準値超である場合には、抗体関連型拒絶反応が起こる可能性が高く、前記結合量が所定の基準値以下である場合には、抗体関連型拒絶反応が起こる可能性が低いという基準と比較することにより、前記被験動物における抗体関連型拒絶反応の可能性を試験する、方法。
(2) 前記体液試料が血液、血清、又は血漿である、(1)に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
上記態様の方法によれば、従来法よりも正確に、ABO血液型不適合腎移植を行う被験動物における抗体関連型拒絶反応の可能性を試験することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】実施例におけるABO血液型糖鎖抗原を付加した組換えCD31の調製のプロトコルを示す図である。
【
図1B】実施例におけるCD31-ABOマイクロアレイにおける抗A抗体及び抗B抗体レベルの分析法を示す図である。
【
図2】実施例1におけるCD31-ABOマイクロアレイで測定された初期の抗A抗体及び抗B抗体レベルに基づいた抗体関連型拒絶反応(ABMR)の予測のための受信者動作特性(ROC)曲線分析の結果を示すグラフである。aは、抗A抗体のグラフであり、bは、抗B抗体のグラフである。
【
図3】実施例1におけるボランティア及び血液透析患者におけるイソヘマグルチニン法及びCD31-ABOマイクロアレイ法間の抗A IgG抗体及び抗B IgG抗体の比較を示すグラフである。aは、ボランティアにおける抗A IgG抗体のグラフであり、bは、血液透析患者における抗A IgG抗体のグラフであり、cは、ボランティアにおける抗B IgG抗体のグラフであり、dは、血液透析患者における抗B IgG抗体のグラフである。x軸は、log2スケールのイソヘマグルチニン力価であり、力価0は、グラフ上で1として表示される。y軸は、CD31-ABOマイクロアレイの抗体レベルである。
【
図4】実施例1におけるボランティア及び血液透析患者におけるイソヘマグルチニン法及びCD31-ABOマイクロアレイ法間の抗A IgM抗体及び抗B IgM抗体の比較を示すグラフである。aは、ボランティアにおける抗A IgM抗体のグラフであり、bは、血液透析患者における抗A IgM抗体のグラフであり、cは、ボランティアにおける抗B IgM抗体のグラフであり、dは、血液透析患者における抗B IgM抗体のグラフである。x軸は、log2スケールのイソヘマグルチニン力価であり、力価0は、グラフ上で1として表示される。y軸はCD31-ABOマイクロアレイの抗体レベルである。
【
図5】実施例1におけるA型不適合腎移植患者におけるイソヘマグルチニン法及びCD31-ABOマイクロアレイ法間の抗A IgG抗体及び抗A IgM抗体の比較を示すグラフである。全てのサンプルは、ABO血液型不適合腎移植の脱感作療法前に採取された。aは、抗A IgG抗体のグラフであり、bは、抗A IgM抗体のグラフである。丸は、CD31-ABOマイクロアレイでIgG抗体レベル及びIgM抗体レベルの両方が30,000を超える患者の結果である。四角は、CD31-ABOマイクロアレイでIgG抗体レベル又はIgM抗体レベルが30,000を超える患者の結果である。△は、CD31-ABOマイクロアレイでIgG抗体レベル及びIgM抗体レベルの両方が30,000未満の患者の結果である。x軸は、log2スケールのイソヘマグルチニン力価であり、力価0は、グラフ上で1として表示される。y軸はCD31-ABOマイクロアレイの抗体レベルである。
【
図6】実施例1におけるB型不適合腎移植患者におけるイソヘマグルチニン法及びCD31-ABOマイクロアレイ法間の抗B IgG抗体及び抗B IgM抗体の比較を示すグラフである。全てのサンプルは、ABO血液型不適合腎移植の脱感作療法前に採取された。aは、抗B IgG抗体のグラフであり、bは、抗B IgM抗体のグラフである。丸は、CD31-ABOマイクロアレイでIgG抗体レベル及びIgM抗体レベルの両方が30,000を超える患者の結果である。四角は、CD31-ABOマイクロアレイでIgG抗体レベル又はIgM抗体レベルが30,000を超える患者の結果である。△は、CD31-ABOマイクロアレイでIgG抗体レベル及びIgM抗体レベルの両方が30,000未満の患者の結果である。x軸は、log2スケールのイソヘマグルチニン力価であり、力価0は、グラフ上で1として表示される。y軸はCD31-ABOマイクロアレイの抗体レベルである。
【
図7】実施例1におけるA型不適合腎移植患者におけるイソヘマグルチニン法及びCD31-ABOマイクロアレイ法間の抗A IgG抗体及び抗A IgM抗体の比較を示すグラフである。全てのサンプルは、ABO血液型不適合腎移植後に採取された。aは、抗A IgG抗体のグラフであり、bは、抗A IgM抗体のグラフである。丸は、CD31-ABOマイクロアレイでIgG抗体レベル及びIgM抗体レベルの両方が30,000を超える患者の結果である。四角は、CD31-ABOマイクロアレイでIgG抗体レベル又はIgM抗体レベルが30,000を超える患者の結果である。△は、CD31-ABOマイクロアレイでIgG抗体レベル及びIgM抗体レベルの両方が30,000未満の患者の結果である。x軸は、log2スケールのイソヘマグルチニン力価であり、力価0は、グラフ上で1として表示される。y軸はCD31-ABOマイクロアレイの抗体レベルである。
【
図8】実施例1におけるB型不適合腎移植患者におけるイソヘマグルチニン法及びCD31-ABOマイクロアレイ法間の抗B IgG抗体及び抗B IgM抗体の比較を示すグラフである。全てのサンプルは、ABO血液型不適合腎移植後に採取された。aは、抗B IgG抗体のグラフであり、bは、抗B IgM抗体のグラフである。丸は、CD31-ABOマイクロアレイでIgG抗体レベル及びIgM抗体レベルの両方が30,000を超える患者の結果である。四角は、CD31-ABOマイクロアレイでIgG抗体レベル又はIgM抗体レベルが30,000を超える患者の結果である。△は、CD31-ABOマイクロアレイでIgG抗体レベル及びIgM抗体レベルの両方が30,000未満の患者の結果である。x軸は、log2スケールのイソヘマグルチニン力価であり、力価0は、グラフ上で1として表示される。y軸はCD31-ABOマイクロアレイの抗体レベルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<ABO血液型不適合腎移植を行う被験動物における抗体関連型拒絶反応の可能性を試験する方法>
本実施形態のABO血液型不適合腎移植を行う被験動物における抗体関連型拒絶反応の可能性を試験する方法(以下、単に「本実施形態の方法」と称する)は、以下の工程を含む。
前記被験動物由来の体液試料を、ABO血液型抗原のうちいずれか一つの抗原が付加したCD31タンパク質からなる3種類の糖タンパク質と接触させる接触工程;
前記体液試料に含まれる、前記糖タンパク質のうちA抗原が付加したCD31タンパク質及びB抗原が付加したCD31タンパク質それぞれに結合した抗A抗体及び抗B抗体を検出する検出工程。
【0012】
前記検出工程において、前記抗A抗体又は前記抗B抗体の、前記A抗原が付加したCD31タンパク質又は前記B抗原が付加したCD31タンパク質に対する結合量が所定の基準値超である場合には、抗体関連型拒絶反応が起こる可能性が高く、前記結合量が所定の基準値以下である場合には、抗体関連型拒絶反応が起こる可能性が低いという基準と比較することにより、前記被験動物における抗体関連型拒絶反応の可能性を試験する。
【0013】
発明者らは、これまでに、腎血管内皮細胞上では、PECAM1(CD31)がABO血液型抗原を保有する主たるタンパク質であり、赤血球におけるBand3等とは異なることを明らかにしていた。当該構造上の特徴に着目し、CD31にABO血液型抗原を付加した糖タンパク質を用いた新しい抗体価測定方法を開発することで、血球ではなく腎血管内皮細胞に特有な血液型抗原に対する免疫応答を解析することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本実施形態の方法によれば、ABO血液型不適合腎移植の前に、ABO血液型不適合腎移植後の抗体関連型反応の発症を正確に予測することができ、より安全にABO血液型不適合腎移植を行うことができる。すなわち、本実施形態の方法を行うタイミングとしては、被験動物がABO血液型不適合腎移植を行う前であることが好ましい。
【0015】
次いで、本実施形態の方法を構成する各工程について以下に詳細を説明する。
【0016】
<接触工程>
接触工程では、被験動物由来の体液試料を、ABO血液型抗原のうちいずれか一つの抗原が付加したCD31タンパク質からなる3種類の糖タンパク質と接触させる。
【0017】
被験動物由来の体液試料としては、被検体の生体から採取されたものであれば特別な限定はないが、例えば、血液、血清、血漿、尿、バフィーコート、唾液、精液、胸部滲出液、脳脊髄液、涙液、痰、粘液、リンパ液、腹水、胸水、羊水、膀胱洗浄液、気管支肺胞洗浄液、毛髪、便、生体から直接採取された細胞又は組織等が挙げられ、これらに限定されない。中でも、血液、血清、又は血漿が好ましい。
【0018】
なお、本明細書において、「被験動物」としては、検査に供される動物、すなわち被験試料を提供する動物を指す。被験動物は、腎臓関連疾患を有する患者又は健常者のいずれであってもよい。中でも、腎臓関連疾患の疑いのある者、腎臓関連疾患の罹患経験のある者、又は腎臓関連疾患患者が好ましく、腎臓関連疾患患者がより好ましい。腎臓関連疾患患者としては、特に限定されないが、末期腎不全のため腎臓移植を必要とする患者が好ましい。
【0019】
また、被験動物としては、ABO血液型の分布や存在様式は動物により異なる可能性が高いことから、ヒトが好ましい。
【0020】
上記3種類の糖タンパク質とは、すなわち、A型抗原が付加したCD31タンパク質、B型抗原が付加したCD31タンパク質、及びH(O)型抗原が付加したCD31タンパク質である。
【0021】
上述した各抗原が付加したCD31タンパク質は、例えば、後述する実施例に示す方法を用いて調製することができる。具体的には、HEK293細胞等の腎臓由来の細胞に、α-1,2-フコシルトランスフェラーゼ(FUT1)のみ、α-1,2-フコシルトランスフェラーゼ(FUT1)及びα-1,3-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(GT-A)、又はα-1,2-フコシルトランスフェラーゼ(FUT1)及びα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ(GT-B)をそれぞれ過剰発現させて各糖鎖を発現する細胞を調製する。次に、PECAM1(CD31)の糖鎖結合領域を含む発現ベクターを、調製した各糖鎖を発現する細胞にトランスフェクションすることで、各抗原が付加したCD31タンパク質が当該細胞から培養培地中に産生される。産生された各抗原が付加したCD31タンパク質は、それぞれ公知のタンパク質の精製方法を用いて精製することで単離することができる。
【0022】
各抗原が付加したCD31タンパク質は、それぞれ固相担体に固定されていることが好ましい。
【0023】
固相担体の材質としては、例えば、ポリスチレン類、ポリエチレン類、ポリプロピレン類、ポリエステル類、ポリ(メタ)アクリロニトリル類、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、フッ素樹脂、架橋デキストラン、ポリサッカライド等の高分子化合物;ガラス;金属;磁性体;磁性体を含む樹脂組成物;これらの組み合わせ等が挙げられる。
【0024】
また、固相担体の形状は特に限定されるものではなく、例えば、トレイ状、球状、粒子状、繊維状、棒状、盤状、容器状、セル、マイクロプレート、マイクロ流体デバイス、試験管等が挙げられる。
中でも、本実施形態の方法においては、後述する検出工程において、一度に各抗原が付加したCD31タンパク質に対する抗A抗体又は抗B抗体の有無を検出できることから、マイクロプレートが好ましい。
【0025】
各抗原が付加したCD31タンパク質を固相担体に結合する方法としては、物理的吸着法や、共有結合法、イオン結合法といった化学的に結合する方法等が用いられる。物理的吸着法としては、固相担体に各抗原が付加したCD31タンパク質を直接固定する方法、アルブミン等の他のタンパク質に化学的に結合させてから吸着させて固定する方法等が挙げられる。化学的に結合させる方法としては、固相担体表面に導入した、各抗原が付加したCD31タンパク質と反応可能な官能基を利用して、固相担体上に直接結合する方法、固相担体と各抗原が付加したCD31タンパク質との間にスペーサー分子(エポキシ系シランカップリング剤等)を化学結合で導入してから結合する方法、アルブミン等の他のタンパク質に各抗原が付加したCD31タンパク質を結合させた後、そのタンパク質を固相担体に化学結合する方法等が挙げられる。
【0026】
また、固相担体がマイクロプレートである場合に、各抗原が付加したCD31タンパク質が固定化されたマイクロプレートの作製方法としては、例えば、国際公開第2009/057755号(参考文献1)に記載の方法等が挙げられる。
【0027】
接触工程は、上記各成分の他に、必要に応じて、塩類や、アルブミン等のタンパク質、界面活性剤等を用いて行ってもよい。
【0028】
接触工程における温度は、通常2℃以上42℃以下の範囲内であり、接触時間は、通常5分間以上24時間以下である。
【0029】
接触工程において、系中のpHは特に限定されないが、好ましくはpH5以上10以下の範囲、より好ましくはpH6以上8以下の範囲である。目的のpHを維持するために、通常、緩衝液が用いられ、例えば、リン酸緩衝液、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液、HEPES緩衝液、MES緩衝液等が挙げられる。
【0030】
<検出工程>
検出工程では、上記体液試料に含まれる、糖タンパク質のうちA抗原が付加したCD31タンパク質及びB抗原が付加したCD31タンパク質それぞれに結合した抗A抗体及び抗B抗体を検出する。
【0031】
検出工程における検出方法としては、免疫測定法により行えばよく、例えば、酵素免疫測定法(EIA)、ELISA、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、放射線免疫測定法(RIA)、発光免疫測定法、イムノブロット法、ウェスタンブロット法等が挙げられる。中でも、簡便に感度よく抗体を検出できる点から、CLEIA法又はELISA法が好ましい。ELISA法としては、間接法、競合法、サンドイッチ法等が挙げられる。
【0032】
例えば、CLEIA法又はELISA法を使用する場合の本実施形態の方法の一例を示す。まず、各抗原が付加したCD31タンパク質を固相担体に結合して固定させた後、被験動物由来の体液試料を接触させて、各糖タンパク質と該糖タンパク質に結合した抗体からなる複合体を形成させる。そこに、標識物質を結合させた2次抗体を添加して、さらなる複合体を形成させる。そして、形成された複合体中の標識量を検出することにより、体液試料に含まれる抗A抗体及び抗B抗体の存在量を、標識物質から発生するシグナルを検出することで間接的に測定することができる。
【0033】
標識物質としては、例えば、アルカリホスファターゼ(ALP)、蛍光物質、メリト酸等の電荷分子等が挙げられる。
蛍光物質としては、例えば、公知の量子ドット、インドシアニングリーン(ICG)、Cy3、Cy5、Cy5.5、Cy7、Cy7.5、AlexaFluoro、ローダミン、GFP、FITC(Fluorescein)、TAMRA等が挙げられる。
標識物質がALPである場合には、ALP発光基質を添加することで、結合している抗A抗体及び抗B抗体を検出することができる。ALP発光基質としては、例えば、p-ニトロフェニルリン酸(PNP)、4-メチルウンベリフェリルリン酸(4MUP)、3-(2'-spiroadamantane)4-methoxy-4-(3’’-phosphoryloxy)phenyl-1,2-dioxetane(AMPPD)、Disodium 3-(4-methoxyspiro{1,2-dioxetane-3,2’-(5’-chloro)tricyclo[3.3.1.13,7]decan}-4-yl)phenyl phosphate(CSPD)、2-クロロ-5-(4-メトキシスピロ{1,2-ジオキセタン-3,2’-(5’-クロロ)-トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}-4-イル)-1-フェニルホスフェート・二ナトリウム(CDP-Star)等が挙げられる。
【0034】
検出工程において、抗A抗体又は抗B抗体の、A抗原が付加したCD31タンパク質又はB抗原が付加したCD31タンパク質に対する結合量が所定の基準値超である場合には、抗体関連型拒絶反応が起こる可能性が高く、前記結合量が所定の基準値以下である場合には、抗体関連型拒絶反応が起こる可能性が低いという基準と比較することにより、前記被験動物における抗体関連型拒絶反応の可能性を評価する。
【0035】
具体的には、体液試料中の抗A抗体又は抗B抗体の、A抗原が付加したCD31タンパク質又はB抗原が付加したCD31タンパク質に対する結合量が所定の基準値超である場合には、当該体液試料が採取された被験動物は、抗体関連型拒絶反応が起こる可能性が高いと評価する。一方、体液試料中の抗A抗体及び抗B抗体それぞれの、A抗原が付加したCD31タンパク質及びB抗原が付加したCD31タンパク質に対する結合量がいずれも所定の基準値以下である場合には、当該体液試料が採取された被験動物は、抗体関連型拒絶反応が起こる可能性が低いと評価する。
【0036】
より具体的には、例えば、腎臓ドナーの血液型がA型であり、レシピエントの血液型がB型又はO型であり、レシピエントにおけるABO血液型不適合腎移植後の抗体関連型反応の可能性を評価する場合に、レシピエント由来の体液試料中の抗A抗体のA抗原が付加したCD31タンパク質に対する結合量が所定の基準値超である場合には、レシピエントは、抗体関連型拒絶反応が起こる可能性が高いと評価する。一方、レシピエント由来の体液試料中の抗A抗体のA抗原が付加したCD31タンパク質に対する結合量が所定の基準値以下である場合には、レシピエントは、抗体関連型拒絶反応が起こる可能性が低いと評価する。
【0037】
また、例えば、腎臓ドナーの血液型がB型であり、レシピエントの血液型がA型又はO型であり、レシピエントにおけるABO血液型不適合腎移植後の抗体関連型反応の可能性を評価する場合に、レシピエント由来の体液試料中の抗B抗体のB抗原が付加したCD31タンパク質に対する結合量が所定の基準値超である場合には、レシピエントは、抗体関連型拒絶反応が起こる可能性が高いと評価する。一方、レシピエント由来の体液試料中の抗B抗体のB抗原が付加したCD31タンパク質に対する結合量が所定の基準値以下である場合には、レシピエントは、抗体関連型拒絶反応が起こる可能性が低いと評価する。
【0038】
また、例えば、腎臓ドナーの血液型がAB型であり、レシピエントの血液型がA型、B型又はO型であり、レシピエントにおけるABO血液型不適合腎移植後の抗体関連型反応の可能性を評価する場合に、レシピエント由来の体液試料中の抗A抗体のA抗原が付加したCD31タンパク質に対する結合量及びレシピエント由来の体液試料中の抗B抗体のB抗原が付加したCD31タンパク質に対する結合量のうち少なくともいずれか一方の結合量が所定の基準値超である場合には、レシピエントは、抗体関連型拒絶反応が起こる可能性が高いと評価する。一方、レシピエント由来の体液試料中の抗A抗体のA抗原が付加したCD31タンパク質に対する結合量及びレシピエント由来の体液試料中の抗B抗体のB抗原が付加したCD31タンパク質に対する結合量がいずれも所定の基準値以下である場合には、レシピエントは、抗体関連型拒絶反応が起こる可能性が低いと評価する。
【0039】
或いは、レシピエント由来の体液試料中の抗A抗体のA抗原が付加したCD31タンパク質に対する結合量及びレシピエント由来の体液試料中の抗B抗体のB抗原が付加したCD31タンパク質に対する結合量が所定の基準値超であるか、或いは、所定の基準値以下であるかを、予め、例えば、ドナー選定の際等に評価しておくことで、当該レシピエントに適した血液型のドナー由来の腎臓を選択して移植することができる。
【0040】
上記基準値は、抗体関連型拒絶反応を発症する群と、抗体関連型拒絶反応を発症しない群を識別するための基準値である。
【0041】
上記基準値は、例えば、ABO血液型不適合腎移植後に抗体関連型反応を発症した患者群とABO血液型不適合腎移植後に抗体関連型反応を発症しなかった患者群の体液試料中の抗A抗体及び抗B抗体の存在量を測定し、両群を区別することができる閾値として実験的に求めることができる。本実施形態の方法における体液試料中の抗A抗体及び抗B抗体の存在量の基準値の決定方法としては特に限定されず、例えば、一般的な統計学的手法を用いて決定することができる。
【0042】
基準値の決定方法として具体的には、例えば、ABO血液型不適合腎移植後に抗体関連型反応を発症した患者について、予めABO血液型不適合腎移植前(例えば、入院時等)に採取しておいた体液試料中の抗A抗体及び抗B抗体の存在量を測定する。複数の患者について測定した後に、その平均値又は中央値等からこれらの体液試料中の抗A抗体及び抗B抗体の存在量を算出し、これが含まれる数値を基準値とすることができる。
【0043】
また、複数のABO血液型不適合腎移植後に抗体関連型反応を発症した患者と複数のABO血液型不適合腎移植後に抗体関連型反応を発症しなかった患者に対して、それぞれ予めABO血液型不適合腎移植前(例えば、入院時等)に採取しておいた体液試料中の抗A抗体及び抗B抗体の存在量を測定し、平均値又は中央値等から複数のABO血液型不適合腎移植後に抗体関連型反応を発症した患者群及びABO血液型不適合腎移植後に抗体関連型反応を発症しなかった患者群の体液試料中の抗A抗体及び抗B抗体の存在量とそれらのばらつきをそれぞれ算出した後、ばらつきも考慮して両数値が区別されるような閾値を求めて、これを基準値とすることができる。
【0044】
また、抗A抗体及び抗B抗体を検出したい被験動物由来の血液試料の他に、コントロール試料を設置してもよい。コントロール試料としては、抗A抗体及び抗B抗体を含まない陰性コントロール試料や抗A抗体及び抗B抗体を含む陽性コントロール試料等が挙げられる。この場合、抗A抗体及び抗B抗体を含まない陰性コントロール試料で得られた結果や、抗A抗体及び抗B抗体を含む陽性コントロール試料で得られた結果と比較することにより、被験動物由来の体液試料中の抗A抗体及び抗B抗体の存在量をより正確に検出することが可能である。
また、抗A抗体及び抗B抗体それぞれの存在量を段階的に変化させた一連のコントロール試料を調製し、各コントロール試料に対する検出結果を数値として得て、標準曲線を作成し、被験動物由来の体液試料の数値から標準曲線に基づいて、被験動物由来の体液試料中の抗A抗体及び抗B抗体の存在量を定量的に検出することも可能である。
【0045】
好ましい態様として具体的には、例えば、被験動物がヒトであり、抗A抗体及び抗B抗体それぞれの、A抗原が付加したCD31タンパク質及びB抗原が付加したCD31タンパク質に対する結合量の検出を、標準物質を使用し、且つ、蛍光標識(好ましくは、Cy3標識)された抗ヒトIgG又はIgM抗体を2次抗体として用いて、蛍光強度を測定することで行う場合に、標準物質の蛍光強度で除することで標準化された蛍光強度で表される抗A抗体及び抗B抗体の結合量が所定の基準値超である場合には、抗体関連型拒絶反応が起こる可能性が高いと評価する。一方、前記結合量が所定の基準値以下である場合には、抗体関連型拒絶反応が起こる可能性が低いと評価する。
【0046】
<その他の工程>
本実施形態の方法は、上記接触工程及び上記検出工程に加えて、その他の工程を更に含むことができる。
【0047】
例えば、上記接触工程の後であって、上記検出工程の前に、洗浄工程を備えてもよい。
洗浄工程では、上記接触工程で各糖タンパク質と該糖タンパク質に結合した抗体からなる複合体を洗浄する。これによって、未反応の成分等の夾雑物が除去される。接触工程における複合体を含む系をそのまま洗浄してもよい。
【0048】
上記洗浄工程は、通常、糖タンパク質が結合している固相担体の形状により異なる方法がある。固相担体が粒子状である場合には、例えば洗浄液中に固相担体を分散させて洗浄する方法、又は集磁したまま浸漬により洗浄する方法が挙げられる。一方、固相担体がマイクロプレートのような形態である場合には、その表面に洗浄液を接触させて洗浄する方法が挙げられる。
【0049】
洗浄液としては、界面活性剤と上記接触工程で挙げた緩衝液を含む洗浄液が好ましい。洗浄液のpHは、好ましくはpH5以上10以下の範囲、より好ましくはpH6以上8以下の範囲である。具体的には、25mM Tris-HCl、140mM NaCl、2.7mM KCl、1mM CaCl2、1mM MnCl2、及び1v/v%のTriton X-100を含むトリス緩衝生理食塩水(pH 7.5)等が挙げられる。
【0050】
また、上記検出工程において、各糖タンパク質と該糖タンパク質に結合した抗体からなる複合体と、2次抗体とを接触させた後、洗浄液を添加して、前記2次抗体が結合した前記複合体を洗浄することもできる。これにより、未反応の物質や試料中の夾雑物を除去することができ、前記複合体を前記2次抗体でより高感度で検出することができる。
【実施例0051】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
[材料及び測定方法]
(サンプル及びデータの収集)
合計252の血漿サンプルを収集した。ボランティア(n=120)は、日本赤十字血液センターに寄付された血液サンプルである。本試験の承認は、日本赤十字社の審査委員会(承認番号28J0001)から得た。サンプルは個人識別子なしで寄付された。利用可能な唯一の人口統計学的要因はこれらサンプルのABO血液型であった。その他の血漿サンプルは、新潟大学医歯学病院、名古屋第二赤十字病院、及び北海道大学病院において血液透析を受けている患者(n=80)及びABO血液型不適合腎移植(以下、「ABOi KTx」と称する場合がある)を受けた患者(n=52)から収集した。全ての移植は、生体ドナーからの腎臓移植であった。臨床及び検査情報は、電子データベース及び患者の医療記録から抽出した。移植患者は2つのグループに分けられた;急性抗体関連型拒絶反応(ABMR)のない患者(ABMR(-))、及び、ABO血液型不適合腎移植後に抗A抗体又は抗B抗体による急性ABMRのある患者(ABMR(+))。急性ABMRのない患者では、ABO血液型不適合腎移植後に抗A抗体又は抗B抗体による急性ABMRを決して経験することはなかった。本試験は、病院の組織倫理委員会(承認番号2018-0311)の承認を受けて、ヘルシンキ宣言のガイドラインに沿って実施した。インフォームドコンセントは、本試験に含まれる全ての参加者から個別に得た。
【0053】
[抗ABO抗体のイソヘマグルチニン力価]
抗A抗体及び抗B抗体の滴定を従来の試験管法を使用して実施した。
具体的には、移植患者の血漿を生理食塩水で段階希釈し、RBC懸濁液の3v/v%(50μL)を試験管内で移植患者の血漿(100μL)と混合した。ボルテックスミキサーを使用して攪拌した後、室温で15分静置し凝集反応を目視で確認することでIgM抗体価を決定した。IgG抗体の力価を測定するために、7.4v/v%リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈した等容量の0.01Mのジチオスレイトール(DTT、和光純薬工業製)を37℃で30分間以上60分間以下、移植患者の血漿と反応させて、IgM抗体を不活性化した。生理食塩水で3回洗浄した後、RBC懸濁液を、DTT処理した移植患者の血漿とともにインキュベートした。生理食塩水で再度3回洗浄した後、抗ヒトIgG抗体(Bio-Rad Anti-human IgG、Bio-Rad Laboratories製、USAボランティア用;Ortho Anti-human IgG、Ortho Diagnostics製、日本の移植患者用)は、IgG抗体価を決定するために添加された。それぞれの抗体価を決定する直前に、混合物を、Himac遠心分離機MC-450を使用して900×g以上1,000×g以下で15秒間遠心分離した。
【0054】
[ABO血液型不適合腎移植における免疫抑制]
免疫抑制療法は、各施設のプロトコルに従って実施した。血漿交換又は二重濾過血漿交換は、抗体価を低下させるためにABO血液型不適合腎移植の前に実施した。2003年以前は、ABO血液型不適合腎移植の日に脾臓摘出術が行われ、2004年以降は、脾臓摘出術の代わりにリツキシマブを使用した。カルシニューリン阻害剤、メチルプレドニゾロン、ミコフェノール酸モフェチル、及びバシリキシマブは、いくつかの症例を除いて、導入療法のために投与した。
【0055】
[ABMR診断]
拒絶反応が臨床的に疑われた場合には、Episode biopsyを行った。2つ又は3つのコア生検サンプルは、超音波誘導下でバネ式の16ゲージ生検ガンを使用して採取した。拒絶反応の診断には、Banff分類を使用し、各施設の病理医が行った。抗A抗体又は抗B抗体によるABMRは、抗ドナーヒト白血球抗原(HLA)抗体が検出されなかった場合に、病理学的所見を使用して診断した。
【0056】
[ABO血液型糖鎖抗原を付加した組換えCD31の調製]
図1Aに、ABO血液型糖鎖抗原を付加した組換えCD31の調製のプロトコルを示す。
ABO血液型糖鎖抗原を付加した組換えCD31タンパク質(rCD31)は、糖鎖改変ヒト胎児腎臓細胞(HEK293細胞)を用いて産生した。H型糖鎖発現細胞は、HEK293細胞におけるα-1,2-フコシルトランスフェラーゼ(FUT1)遺伝子の過剰発現によって確立した。得られた細胞をHEK293Hと名付けた。
A型糖鎖及びB型糖鎖発現細胞は、α-1,3-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(GT-A)及びα-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ(GT-B)をそれぞれHEK293H細胞に過剰発現させることで確立した。得られた細胞をHEK293A及びHEK293Bと名付けた。
【0057】
CD31の細胞外ドメインをコードするcDNAは、以下に示すプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅した。鋳型としてヒト臍帯静脈内皮細胞に由来するcDNAを用いた。
フォワードプライマー:5'-aagcttcaggATGCAGCCGAGGTGGGCCCA-3'(配列番号1、HindIIIサイトを含む)
リバースプライマー:5'-gcggccgcTTCTTCCATGGGGCAAGAATGA-3'(配列番号2、NotIサイトを含む)
【0058】
約1.8kbのDNA断片を増幅し、pCRII-bluntベクター(Life Technologies製)にサブクローニングした。Genetic Analyzer 3130×l(Applied Biosystems製)を使用して正しい配列を確認した後、HindIII及びNotIで切り出したフラグメント、DYKDDDDK(配列番号3)及び終止コドンをエンコードする配列を導入することでpcDNA3.1N(+)(Life Technologies製)から改変したpcDNA3.1N-F発現ベクターに挿入した。得られたプラスミド(pcDNA3.1N-CD31-F)を、Lipofectamine LTX(Life Technologies製)を使用して、手順書のとおりに、培養培地中でHEK293H細胞、HEK293A細胞、及びHEK293B細胞にトランスフェクトし、C末端にFLAGタグが付いたrCD31を作製した。37℃で48時間以上72時間以下培養した後、各培地を回収し、抗FLAG M2アガロースアフィニティーゲル(Sigma-Aldrich製)を使用してrCD31を精製した。簡単に説明すると、300mLの培地を500μLの抗FLAGM2アガロースアフィニティーゲル懸濁液と混合し、4℃で数時間ゆっくりと攪拌した。遠心分離後、ゲルを0.01v/v%Tween-20を含むPBSで2回以上5回以下洗浄し、FLAGペプチド(Sigma-Aldrich製)を使用してrCD31をアフィニティーゲルから溶出した。精製されたrCD31のタンパク質濃度は、NanoDrop LITE分光光度計(Thermo Scientific製)を使用して決定し、それぞれH-CD31、A-CD31、及びB-CD31と名付けた。
【0059】
[ヒト腎臓からのCD31タンパク質の調製]
新潟大学医歯学病院で腎がんによる腎摘出を受けた患者から、インフォームドコンセントを得て腎組織を採取した。タンパク質は、異なるABO血液型の患者の正常な腎皮質から抽出し、CD31タンパク質を精製した。簡単に説明すると、タンパク質抽出物を抗CD31抗体(Santa Cruz Biotechnology製)に事前に結合したDynabeadsプロテインG(VERITAS製)と共にインキュベートした。ダイナビーズを溶解液で十分に洗浄し、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)サンプルバッファーで溶出した。ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)サンプルバッファーを含む溶出液をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)で分離した。分子量約130kDaのCD31タンパク質を含むSDS-PAGEゲル片を質量分析(MS)用に切り出した。
【0060】
[CD31糖ペプチドのMS分析]
N-グリコシル化Asn部位の同定、及び、rCD31及びヒト腎臓からのCD31タンパク質両方の糖鎖組成及び構造の部位特異的分析は、それぞれIGOT及びGlyco-RIDGEを使用した実施した。簡単に説明すると、CD31タンパク質をS-カルバモイルメチル化し、リシルエンドペプチダーゼとトリプシンで連続消化した。親水性相互作用クロマトグラフィーを使用して消化物を分離し、糖ペプチドを収集した。糖ペプチドのアリコートをH2
18O中のペプチド-N-グリカナーゼで加水分解してN-グリカンを除去し、グリコシル化されたAsn残基を18Oで標識して、N-グリコシル化されたAsn残基を同定した(IGOT法)。糖ペプチドの別のアリコートを0.1v/v%トリフルオロ酢酸中で加熱して、シアル酸を除去した。脱グリコシル化又は脱シアル化された糖ペプチドは、ナノフロー液体クロマトグラフィーと結合したTribrid質量分析計を使用して分析した。脱グリコシル化ペプチドは、Mascot検索エンジンを使用して識別し、CD31グリコシル化ペプチドのリストを生成した。脱アシル化糖ペプチドは、Glyco-RIDGE法を使用して、糖鎖の組成と構造を分析した。
【0061】
[ABO血液型糖鎖抗原が付加したCD31のマイクロアレイ(CD31-ABOマイクロアレイ)の作製及び使用]
CD31-ABOマイクロアレイは以下のとおり作製した。まず、ABO血液型糖鎖抗原が付加したrCD31(H-CD31、A-CD31、及びB-CD31)をスポッティング溶液(Matsunami Glass製)に0.1mg/mLの濃度となるように溶解し、エポキシシランでコーティングされたスライドグラス(Schott製)に、非接触マイクロアレイプリンティングロボット(Microsys4000、Genomic Solutions)を使用して3回スポッティングした。スライドグラスを25℃で一晩インキュベートして固定化し、プロービングバッファー(25mM Tris-HCl、140mM NaCl、2.7mM KCl、1mM CaCl2、1mM MnCl2、及び1v/v%のTriton X-100を含むトリス緩衝生理食塩水(pH 7.5)で洗浄し、ブロッキング試薬N102(NOF Co.製)と共に20℃で1時間インキュベートした。最後に、スライドガラスを0.02w/v%のNaN3を含むTBSで洗浄し、使用するまで4℃で保存した。
【0062】
ヒト血漿(80μL/ウェル)をプロービングバッファーで100倍に希釈し、CD31-ABOマイクロアレイとともに20℃で一晩インキュベートした。100μL/ウェルのプロービングバッファーで2回洗浄した後、1μg/mLのCy3結合ヤギ抗ヒトFc抗体(Jackson ImmunoResearch製、109-165-098)又はCy3結合ヤギ抗ヒトIgM抗体(Jackson ImmunoResearch製、109-165-043)を添加し、20℃で1時間インキュベートした。蛍光画像は、エバネッセントフィールド活性化蛍光スキャナーBio-REX Scan200(Rexxam製)を使用して取得した。各スポットの蛍光シグナルは、Array Pro Analyzerバージョン4.5(Media Cybernetics製)を使用して定量化し、バックグラウンド値を差し引いた。バックグラウンド値は、固定化されたサンプルのない領域から取得した(
図1B参照)。抗A抗体及び抗B抗体レベル(相対強度)は、各サンプルのA-CD31又はB-CD31との反応からH-CD31の反応を差し引いて計算した。
【0063】
[統計分析]
連続変数は平均±標準偏差として表し、カテゴリ変数はNとパーセンテージとして表した。マンホイットニーのU検定又はスチューデントのt検定を使用して、連続変数の2つのグループを比較し、カイ2乗検定を使用してカテゴリデータを比較した。CD31-ABOマイクロアレイの診断可能性は、ABO血液型不適合腎移植後の急性ABMRを予測するための感度と特異性を評価するために、プロットされた受信者動作特性(ROC)曲線を計算することによって決定した。感度、特異度、正の予測値(PPV)、及び負の予測値(NPV)を使用して、ABO血液型不適合腎移植後のABMRの診断ツールとしての精度を調査した。
【0064】
[実施例1]
1.患者の特徴
男性の比率、年齢、及び末期腎疾患の原因は、血液透析又はABO血液型不適合腎移植を受けている患者間で有意差はなかった。しかしながら、血液透析の期間は、血液透析を受けている患者よりもABO血液型不適合腎移植を受けている患者の方が短かった。以下の表1に、ABO血液型不適合腎移植後のABMRの存在によって分割された2つのグループの患者特性を示す。なお、表1において、各略称は以下を意味する。
【0065】
HLA:human leukocyte antigen
WIT:worm ischemic time
TIT:total ischemic time
FK:tacrolimus
CyA:cyclosporine A
MMF:mycophenolate mofetil
AZ:azathioprine
CPA:cyclophosphamide
POD:post-operative days
N/A:not applicable
【0066】
また、表1において、*は各移植患者のHLA不一致の平均数を示している。
**は、腎移植の前に抗体除去を受けた患者の数を示している。
***は、イソへマグルチニン法により測定された抗体価を示している。
【0067】
【0068】
ABO血液型不適合腎移植前の抗体除去療法を除いて、2群間で有意差はなかった。脱感作療法前及びABO血液型不適合腎移植当日のイソヘマグルチニン法を使用して測定されたドナー血液型に対する抗体価は、2群間で有意差はなかった。術後ABMRの診断日中央値は5日であった(範囲:0~19日)。
【0069】
2.MSによるrCD31及びヒト腎臓CD31のABO糖鎖分析
Glyco-RIDGE法を使用して、HEK193H細胞、HEK293A細胞、及びHEK293B細胞の培地から精製されたrCD31タンパク質に由来する2つのコア糖ペプチド(Asn-453を含むVLENSTK(配列番号4)、及びAsn-551を含むEGKPFYQMTSNATQAFWTK(配列番号5))のMSスペクトルのシグナルを比較し、予測される糖鎖組成を割り当てた。H型、A型、及びB型の糖鎖に対応する糖鎖組成を持つ糖ペプチドの特徴的なピークがMSスペクトルで観察された。
血液型抗原O型、A型、及びB型の患者のヒト腎組織から調製されたCD31タンパク質も同様に分析された。2つのコアペプチド(Asn-453を含むVLENSTK(配列番号4))の1つに由来するいくつかのターゲット糖ペプチドは、血液型抗原O型、A型、及びB型を持つrCD31及びヒト腎組織由来CD31タンパク質で一般的に見られ、当該ターゲット糖ペプチドから得られたMS/MSスペクトルを比較し、広範囲で分析した。糖ペプチドの全てのMS/MSスペクトルは、Asnに結合したN-アセチルグルコサミンでのフコシル化を示した。さらに、血液型H型、A型、及びB型に対応する糖鎖組成を示す糖鎖由来のシグナルの存在が示唆された。
以上のことから、血液型抗原タイプO型、A型、及びB型を有するrCD31又はヒト腎組織由来CD31タンパク質から生成された全ての糖ペプチドのMS分析は、対応する血液型糖鎖構造の存在を強く示唆した。
【0070】
3.CD31-ABOマイクロアレイの抗体レベル
CD31-ABOマイクロアレイを使用して測定された抗体レベルの結果を表2及び表3に示す。
【0071】
【0072】
【0073】
CD31-ABOマイクロアレイは、抗A抗体及び抗B抗体を特異的に検出した。抗A抗体及び抗B抗体レベルは、ボランティアと血液透析集団の間で有意差はなかった。抗A IgG抗体及び抗B IgG抗体レベルは、それぞれB型及びA型集団よりもO型集団で有意に高かった(p<0.01)。しかしながら、抗A IgM抗体及び抗B IgM抗体レベルは、O型とB型、及びO型とA型の集団間でそれぞれ有意差はなかった。
【0074】
4.抗A抗体及び抗B抗体を用いたABO血液型不適合腎移植後のABMRの予測
図2に、CD31-ABOマイクロアレイで測定された初期の抗A抗体及び抗B抗体レベルに基づいた抗体関連型拒絶反応(ABMR)の予測のための受信者動作特性(ROC)曲線分析結果を示す。
図2に示すように、ROC曲線下の領域(AUC)から、抗B IgG抗体を除いて、脱感作療法前の抗体レベルをCD31-ABOマイクロアレイで測定することで、ABO血液型不適合腎移植後に発生する急性ABMRを有意に予測できることが示唆された。
表4は、ABO血液型不適合腎移植後のABMRをCD31-ABOマイクロアレイの結果で予測する感度、特異度、正の予測値(PPV)、負の予測値(NPV)の比較を示したものである。
【0075】
【0076】
表4に示すように、CD31-ABOマイクロアレイ法がイソヘマグルチニン法よりもABMRを有意に予測できることが示唆された。具体的には、CD31-ABOマイクロアレイ法では、ドナー血液型に対して脱感作療法前のIgG抗体レベル又はIgM抗体レベルが30,000以上である場合には、抗A抗体及び抗B抗体の両方で、高い感度、特異性、PPV、及びNPVであった。より具体的には、抗A IgG抗体レベル又は抗A IgM抗体レベルが30,000以上である場合には、A型不適合腎移植後のABMRの予測について感度83.3%、特異度94.1%、PPV90.9%、NPV88.9%であった。抗B IgG抗体レベル又は抗B IgM抗体レベルが30,000以上である場合には、B型不適合腎移植後のABMRの予測について感度60.0%、特異度100%、PPV100%、NPV81.8%であった。
【0077】
5.イソヘマグルチニン法での力価及びCD31-ABOマイクロアレイ法での抗体レベルの比較
全ての血漿サンプル中の抗A抗体及び抗B抗体は、RBCを使用したイソヘマグルチニン法及びCD31-ABOマイクロアレイ法の両方で測定した。結果を
図3(抗IgG抗体の結果)及び
図4(抗IgM抗体の結果)に示す。
【0078】
図3及び
図4に示すように、イソヘマグルチニン法での抗体価とCD31-ABOマイクロアレイ法での抗体レベルは、ボランティア群と血液透析群とで大まかに相関していた。しかしながら、CD31-ABOマイクロアレイ法での抗体レベルは、イソヘマグルチニン法での抗体価が同じサンプル間でも異なった。
【0079】
次に、CD31-ABOマイクロアレイ法での抗体レベルが、従来のイソヘマグルチニン法での抗体価よりもABO型不適合腎移植後の急性ABMRをより正確に予測できる否かを調べるために、脱感作療法前に採取されたサンプルの初期抗A抗体及び抗B抗体を比較した。結果を
図5(抗A抗体)及び
図6(抗B抗体)に示す。
【0080】
図5及び上記表1に示すように、A型不適合腎移植の患者では、脱感作療法前に採取されたサンプルのイソヘマグルチニン法を用いた抗A IgG抗体価は、ABMR(-)群よりもABMR(+)群の方が高い傾向があったが(中央値:128対32、p=0.180)、有意差はみられなかった。これに対して、CD31-ABOマイクロアレイ法での抗A IgG抗体レベルは、ABMR(-)群よりもABMR(+)群の方が有意に高かった(中央値:54721対10211、p<0.001)。
図5のaに示すように、ABMRの患者12人中10人(83.3%)は、脱感作療法前に採取されたサンプルのCD31-ABOマイクロアレイ法での抗A IgG抗体レベルが30,000を超えていた。対照的に、ABMRのない17人の患者中1人(5.9%)のみ30,000を超える抗A IgG抗体レベルを有していた。
【0081】
また、上記表1に示すように、ABMR(-)群及びABMR(+)群間で脱感作療法前に採取されたサンプルのイソヘマグルチニン法を用いた抗A IgM抗体価に有意差はなかった(中央値:32対16、p=0.324)。これに対して、CD31-ABOマイクロアレイ法での抗A IgM抗体レベルは、ABMR(-)群よりもABMR(+)群の方が有意に高かった(中央値:14277.5対58887、p=0.03)。
図5のbに示すように、ABMR(-)群では、抗A IgM抗体レベルが30,000を超える患者はいなかった。対照的に、ABMRの患者12人中4人は、脱感作療法前に採取されたサンプルのCD31-ABOマイクロアレイ法での抗A IgM抗体レベルが30,000を超えていた。ABMRの患者12人中8人は、脱感作療法前に採取されたサンプルのCD31-ABOマイクロアレイ法での抗A IgM抗体レベルが30,000未満であった。しかしながら、これら8人のうち6人のサンプル全てで、CD31-ABOマイクロアレイ法での抗A IgG抗体レベルが30,000を超えていた(
図5のbのグラフ内の四角のサンプル、参照)。おそらく、抗A IgM抗体レベルが30,000未満であった8人のうち6人は、抗A IgG抗体によるABMRを誘発したものと推察された。
以上のことから、ABMR患者12人中10人(83.3%)は、CD31-ABOマイクロアレイ法での結果で示されたように、A型不適合腎移植患者で初期抗A IgG抗体レベル又は抗A IgM抗体レベルが30,000を超えることが明らかとなった。
【0082】
図6及び上記表1に示すように、ABMR(-)群及びABMR(+)群間で脱感作療法前に採取されたサンプルのイソヘマグルチニン法を用いた抗B IgG抗体価及び抗B IgM抗体価に有意差はなかった。これに対して、CD31-ABOマイクロアレイ法での抗B IgG抗体レベルは、有意差はみられなかったが、ABMR(-)群よりもABMR(+)群の方が高かった(中央値:16378対1970、p=0.208)。CD31-ABOマイクロアレイ法での抗B IgM抗体レベルは、ABMR(-)群よりもABMR(+)群の方が有意に高かった(中央値:14480対3480、p=0.047)。
図6に示すように、ABMR(-)群では、抗B IgG抗体レベル及び抗B IgM抗体レベルが30,000を超える患者はいなかった。対照的に、ABMRの患者5人中3人(60.0%)は、脱感作療法前に採取されたサンプルのCD31-ABOマイクロアレイ法での初期抗B IgG抗体レベル及び抗B IgM抗体レベルが30,000を超えていた。
【0083】
また、ABO血液型不適合腎移植後に得られたサンプルについても同様に調べた。結果を
図7(抗A抗体)及び
図8(抗B抗体)に示す。なお、血漿サンプルの採取のタイミングはそれぞれの場合で異なっていた。ABMRのなかった患者では、血漿サンプルをABO血液型不適合腎移植から1か月以内に採取したものを使用した。ABMR患者では、ABMRが臨床的に疑われた際に、治療前に採取した血漿サンプルを使用した。
【0084】
図7に示すように、5例のA型不適合腎移植後の患者で、抗A IgG抗体レベル又は抗A IgM抗体がCD31-ABOマイクロアレイ法で30,000を超えていた。
図8に示すように、1例のB型不適合腎移植後の患者で、抗B IgG抗体レベルがCD31-ABOマイクロアレイ法で30,000を超えていた。
しかしながら、イソヘマグルチニン法及びCD31-ABOマイクロアレイ法の両方で測定した抗A抗体レベル及び抗B抗体レベルにおいて、ABMR(-)群及びABMR(+)群間で有意差はみられなかった。
【0085】
[考察]
本試験では、腎血管内皮細胞で発現するABO式血液型抗原に反応する抗A抗体/抗B抗体を評価する方法を開発した。ABO糖鎖を付加したrCD31タンパク質を用いて、CD31-ABOマイクロアレイを作製した。CD31-ABOマイクロアレイに使用されたrCD31及びヒト腎組織由来のCD31をMS分析で比較することで、CD31-ABOマイクロアレイに使用されたABH糖鎖が、ヒト腎血管内皮細胞上のABO血液型抗原の模倣であることが確認された。
【0086】
また、抗A抗体価/抗B抗体価は、イソヘマグルチニン法及びCD31-ABOマイクロアレイ法間で大まかに相関していた。しかしながら、イソヘマグルチニン法を用いて同じ抗体価を示した患者間で、CD31-ABOマイクロアレイ法の抗A抗体レベル/抗B抗体レベルに大きなばらつきがあった。脱感作療法の内容は、ABMRのある患者とない患者の2つの群間で有意差はなかった。さらに、ABO血液型不適合腎移植当日のイソヘマグルチニン法による抗体価に有意差はなかった(上記表1参照)。2つの群間でイソヘマグルチニン法による抗体価に有意差はなかったのにも関わらず、A型不適合腎移植後の急性ABMR患者では、CD31-ABOマイクロアレイ法での抗A IgG抗体レベル及び抗A IgM抗体レベルの両方が有意に高かった。CD31-ABOマイクロアレイ法における抗体レベルのカットオフ値が30,000超である場合に、A型不適合腎移植における急性ABMR発生予測の感度、特異度、PPV、NPVは最も高かった。B型不適合腎移植においては、B型不適合腎移植において、抗体レベルのカットオフ値が30,000超である場合に、急性ABMRを予測する感度はA型不適合腎移植ほど高くなかった。しかしながら、B型不適合腎移植患者において、CD31-ABOマイクロアレイ法を用いた抗B抗体レベルが30,000を超えない場合は、ABMRは起きていなかった(ABMR予測の特異度は100%であった)。
【0087】
また、CD31-ABOマイクロアレイ法で測定した抗体レベルは、急性ABMRが臨床的に疑われた際に採取されたサンプルでは低かった。これは、ABO血液型不適合腎移植後に、抗A抗体/抗B抗体が移植した腎臓の血管内皮細胞上のABO抗原に反応し、吸着された可能性が推察される。抗A抗体/抗B抗体の吸着は、腎血管内皮細胞に特異的であるため、イソヘマグルチニン法よりもCD31-ABOマイクロアレイ法で測定された血漿中の抗体レベルに大きな影響を与える可能性がある。従って、CD31-ABOマイクロアレイ法は、ABO血液型不適合腎移植後に使用するのには適さない可能性がある。
【0088】
ABO血液型不適合腎移植におけるABMRの予測についてCD31-ABOマイクロアレイ法の有用性を評価するためには、より多くのサンプルを使用してさらに評価を行う必要がある(特に、本試験におけるB型不適合腎移植の患者から得られたサンプル数が少なかった)。また、ABO血液型不適合腎移植当日の血漿サンプルは保存されておらず、本試験では検討することができなかった。ABO血液型不適合腎移植の前に脱感作療法によって減少させるべき抗体レベルを知ることは、ABMRの発症を抑える観点からも重要であるため、腎移植当日の抗体のレベルをCD31-ABOマイクロアレイ法で解析することが今後の課題である。
【0089】
以上の結果から、腎血管内皮細胞上のABO式血液型抗原を模倣したCD31-ABOマイクロアレイを用いることで、ABO血液型不適合腎移植の前に、ABO血液型不適合腎移植後の急性ABMRのリスクを正確に把握できることが明らかとなった。
本実施形態の方法によれば、ABO血液型不適合腎移植の前に、ABO血液型不適合腎移植後の抗体関連型反応の発症を正確に予測することができ、より安全にABO血液型不適合腎移植を行うことができる。