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特開2023-47119超伝導バルク体、および超伝導バルク体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047119
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】超伝導バルク体、および超伝導バルク体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/00 20060101AFI20230329BHJP
   H01B 12/02 20060101ALI20230329BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230329BHJP
【FI】
H01F6/00
H01B12/02 ZAA
H01B13/00 565Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156060
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】石田 茂之
(72)【発明者】
【氏名】荻野 拓
(72)【発明者】
【氏名】スガリ パバンクマーナイク
(72)【発明者】
【氏名】土屋 佳則
(72)【発明者】
【氏名】伊豫 彰
(72)【発明者】
【氏名】永崎 洋
(72)【発明者】
【氏名】吉田 良行
(72)【発明者】
【氏名】川島 健司
(72)【発明者】
【氏名】神谷 良久
【テーマコード(参考)】
5G321
【Fターム(参考)】
5G321AA98
5G321CA04
5G321CA15
5G321DB45
(57)【要約】
【課題】鉄系化合物の超伝導バルク体において、従来よりも臨界電流密度を向上させること。
【解決手段】超伝導バルク体(B)は、鉄系超伝導体の多結晶であり、ロットゲーリング法によるc軸の配向度が0.2以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系超伝導体の多結晶である超伝導バルク体であって、ロットゲーリング法によるc軸の配向度が0.2以上である、超伝導バルク体。
【請求項2】
前記配向度は、0.4以上である、請求項1に記載の超伝導バルク体。
【請求項3】
ディスク状の形状を有し、且つ、
主面の法線方向と、前記c軸の配向方向とが対応している、請求項1または2に記載の超伝導バルク体。
【請求項4】
厚みは、1mm以上である、請求項3に記載の超伝導バルク体。
【請求項5】
錫、ガリウムおよびインジウムから選ばれる少なくとも1つの元素を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の超伝導バルク体。
【請求項6】
前記鉄系超伝導体は、化学式AeAFeAsで表される化合物であり、式中、
Aeは、Ca、Sr、およびBaから選ばれる少なくとも1つの元素であり、
Aは、K、Rb、およびCsから選ばれる少なくとも1つの元素である、請求項1~5のいずれか1項に記載の超伝導バルク体。
【請求項7】
鉄系超伝導体の多結晶である超伝導バルク体の製造方法であって、
仮焼結体であるペレットを、主面の法線方向に沿って、且つ、当該ペレットの厚みに対する当該ペレットの主面サイズの比が大きくなるように、一軸加圧しながら焼結することにより前記超伝導バルク体を得る本焼結工程を含む、製造方法。
【請求項8】
前記本焼結工程において、前記ペレットは、キャビティ内において一軸加圧されながら焼結され、且つ、前記キャビティのキャビティサイズは、前記主面サイズよりも大きい、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記本焼結工程において、放電プラズマ焼結法またはホットプレス法を用いて前記ペレットを一軸加圧しながら焼結する、請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ペレットは、錫、ガリウムおよびインジウムから選ばれる少なくとも1つの元素を含む、請求項7~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記ペレットは、化学式AeAFeAsで表される化合物を含み、式中、
Aeは、Ca、Sr、およびBaから選ばれる少なくとも1つの元素であり、
Aは、K、Rb、およびCsから選ばれる少なくとも1つの元素である、請求項7~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導バルク体、および超伝導バルク体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導性を示す鉄系化合物の多結晶である超伝導バルク体が知られている。たとえば、特許文献1には、超伝導性を示す鉄系化合物の一例であるBa0.60.4FeAsの超伝導バルク体について記載されている。以下において、Ba0.60.4FeAsのようにBaの一部をKで置換した鉄系化合物のことをKドープBa122と称する。
【0003】
このような超伝導バルク体は、磁場中冷却を実施することにより磁束を捕捉するため、磁石として機能する。このような超伝導バルク体を用いた磁石は、例えば、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance, NMR)法を用いた磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging, MRI)装置などにおける磁場発生源として応用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2018-512737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、Ba、K、FeおよびAsのモル比が0.6:0.42:2:2になるように出発原料を調製し、熱間等方圧加圧(HIP)法を用いてKドープBa122の一時的な焼結体を得る。次に、この焼結体をミリング加工によりパウダー化したうえで、冷間等方圧加圧(CIP)法を用いて、パウダー状のKドープBa122をペレット化する。次に、KドープBa122のペレットを、銀箔でラッピングしたうえで鋼管に挿入し、CIPを実施する。このCIPによりサンプルを含む鋼管の直径は、約10%縮径される。次に、HIPにより、KドープBa122の最終的な焼結体を得る。以下においては、KドープBa122の最終的な焼結体を得る工程を本焼結工程と呼び、その製造方法により得られた最終的な焼結体のことを超伝導バルク体と呼ぶ。
【0006】
このように、本焼結工程においてHIPを採用した場合、製造された超伝導バルク体が示す臨界電流密度は、超伝導性を示す鉄系化合物の単結晶が示す臨界電流密度より明らかに低い。このことから、本焼結工程においてHIPを採用した製造方法により製造された超伝導バルク体は、超伝導性を示す鉄系化合物としてのポテンシャルを十分に発揮していないと言える。換言すれば、従来の鉄系化合物の超伝導バルク体には、臨界電流密度を高める余地がある。
【0007】
なお、本焼結工程において採用されるHIP以外の焼結方法としては、放電プラズマ焼結(Spark Plasma Sintering, SPS)法およびホットプレス法が挙げられる。ただし、本焼結工程においてSPSまたはホットプレス法を採用した場合であっても、本焼結工程においてHIPを採用した場合と同様に、得られた超伝導バルク体が示す臨界電流密度は、超伝導性を示す鉄系化合物の単結晶が示す臨界電流密度より明らかに低い。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、鉄系化合物の超伝導バルク体において、従来よりも臨界電流密度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る超伝導バルク体は、鉄系超伝導体の多結晶であり、ロットゲーリング法によるc軸の配向度が0.2以上である。
【0010】
このような構成によれば、超伝導バルク体において、複数の結晶粒が高い配向度にて整列しているため、結晶方位のランダム性に由来する、臨界電流密度の抑制が減じられる。そのため、超伝導バルク体は、鉄系超伝導体の単結晶が有するポテンシャルを良好に発揮し、従来よりも向上した臨界電流密度を示すことができる。
【0011】
本発明の第2の態様に係る超伝導バルク体は、上述した第1の態様において、前記配向度は、0.4以上である。
【0012】
このような構成によれば、超伝導バルク体は、鉄系超伝導体の単結晶が有するポテンシャルをより良好に発揮し、従来よりも、より向上した臨界電流密度を示すことができる。
【0013】
本発明の第3の態様に係る超伝導バルク体は、上述した第1または2の態様において、ディスク状の形状を有し、且つ、主面の法線方向と、前記c軸の配向方向とが対応している。
【0014】
このような構成によれば、法線方向に沿って超伝導バルク体が磁化するように超伝導バルク体が磁束を捕捉した場合の臨界電流密度をより向上させることができる。
【0015】
本発明の第4の態様に係る超伝導バルク体は、上述した第3の態様において、厚みは、1mm以上である。
【0016】
このような構成によれば、例えば超伝導バルク磁石などの超伝導体として実用するために好ましい機械的強度を有する超伝導バルク体を実現することができる。
【0017】
本発明の第5の態様に係る超伝導バルク体は、上述した第1~3の態様のいずれかにおいて、錫、ガリウムおよびインジウムから選ばれる少なくとも1つの元素を含む。
【0018】
このような構成によれば、粒界における結晶粒同士の電気的な結合を低融点金属が強めるため、超伝導バルク体の臨界電流密度がより向上する。
【0019】
本発明の第6の態様に係る超伝導バルク体は、上述した第1~5の態様において、前記鉄系超伝導体が、化学式AeAFeAsで表される化合物であり、式中、Aeは、Ca、Sr、およびBaから選ばれる少なくとも1つの元素であり、Aは、K、Rb、およびCsから選ばれる少なくとも1つの元素である。
【0020】
このような構成によれば、鉄系超伝導体からなる単結晶は高い臨界電流密度を示し、したがって多結晶である超伝導バルク体もまた高い臨界電流密度を示す。
【0021】
本発明の第7の態様に係る製造方法は、鉄系超伝導体の多結晶である超伝導バルク体の製造方法であって、仮焼結体であるペレットを、主面の法線方向に沿って、且つ、当該ペレットの厚みに対する当該ペレットの主面サイズの比が大きくなるように、一軸加圧しながら焼結することにより前記超伝導バルク体を得る本焼結工程を含む。
【0022】
このような構成によれば、ペレットが含む複数の結晶粒の配向組織の形成が促進される。そのため、鉄系超伝導体の単結晶が有するポテンシャルを良好に発揮し、従来よりも向上した臨界電流密度を示す超伝導バルク体を製造することができる。
【0023】
本発明の第8の態様に係る製造方法は、上述した第7の態様において、前記本焼結工程において、前記ペレットは、キャビティ内において一軸加圧されながら焼結され、且つ、前記キャビティのキャビティサイズは、前記主面サイズよりも大きい。
【0024】
このような構成によれば、一軸加圧により、主面の接線方向に沿って延伸するようにペレットが変形するため、ペレット内部における結晶粒の整列がより促進される。したがって、得られる超伝導バルク体における結晶粒の配向度がより向上する。
【0025】
本発明の第9の態様に係る製造方法は、上述した第7または8の態様において、放電プラズマ焼結法またはホットプレス法を用いて前記ペレットを一軸加圧しながら焼結する。
【0026】
このような構成によれば、小規模製造および大規模製造のいずれにも適しており、設備コストも低い本焼結工程を実現することができる。
【0027】
本発明の第10の態様に係る製造方法は、上述した第7~9の態様のいずれかにおいて、前記ペレットは、錫、ガリウムおよびインジウムから選ばれる少なくとも1つの元素を含む。
【0028】
このような構成によれば、低融点金属が滑剤として作用して結晶粒の整列が促進すると共に、得られる超伝導バルク体においては、粒界における結晶粒同士の電気的な結合を強めるため、超伝導バルク体の臨界電流密度がより向上する。
【0029】
本発明の第11の態様に係る製造方法は、上述した第7~10の態様のいずれかにおいて、前記ペレットは、化学式AeAFeAsで表される化合物を含み、式中、Aeは、Ca、Sr、およびBaから選ばれる少なくとも1つの元素であり、Aは、K、Rb、およびCsから選ばれる少なくとも1つの元素である。
【0030】
このような構成によれば、製造プロセスが簡便になり、安価に超伝導バルク体を製造することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の一態様によれば、鉄系化合物の超伝導バルク体において、従来よりも臨界電流密度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】(a)は、本発明の第1の実施形態に係る超伝導バルク体を示す斜視図である。(b)は、(a)に示した超伝導バルク体を模式的に示す断面図である。
図2図1に示す超伝導バルク体が含む結晶粒を構成する化合物の結晶構造を示す斜視図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る製造方法の流れを示すフローチャートである。
図4】(a)は、図3に示した製造方法に含まれる予備焼結工程後のペレットを示す断面図である。(b)は、図3に示した製造方法に含まれる本焼結工程前のペレットを示す断面図である。(c)は、上述した本焼結工程後の超伝導バルク体を示す断面図である。(d)は、上述した予備焼結工程により得られたペレットを模式的に示す断面図である。(e)は、上述した本焼結工程により得られた超伝導バルク体を模式的に示す断面図である。
図5】本発明の第1~第2の実施例の超伝導バルク体、第1の参考例の小片、第1の比較例のペレット、および第2の比較例の粉末のX線回折(XRD)パターンを示すグラフである。
図6】上段は、図5に示した第1の比較例のペレットの断面におけるSEMイメージおよびEBSDマップである。下段は、図5に示した第2の実施例のバルク体の断面におけるSEMイメージおよびEBSDマップである。
図7】上段は、図5に示した第1の比較例のペレットの断面におけるSEMイメージおよびEDXマップである。下段は、図5に示した第2の実施例のバルク体の断面におけるSEMイメージおよびEDXマップである。
図8図5に示した第2の実施例の超伝導バルク体および第1の比較例のペレットが示す臨界電流密度の印加磁場依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係る超伝導バルク体Bについて、図1および図2を参照して説明する。図1の(a)は、本発明の第1の実施形態に係る超伝導バルク体Bを示す斜視図であり、図1の(b)は、図1の(a)に示した超伝導バルク体Bを模式的に示す断面図である。図2は、図1に示す超伝導バルク体Bが含む結晶粒1を構成する化合物10の結晶構造を示す斜視図である。
【0034】
<化合物の概要>
図1の(b)に示すように、超伝導バルク体Bは、複数の結晶粒1を含む多結晶である。結晶粒1それぞれは、化合物10の単結晶からなる。化合物10は、臨界温度Tc未満の温度領域において超伝導性を示す鉄系超伝導体である。したがって、化合物10の多結晶である超伝導バルク体Bは、化合物10と同様に、臨界温度Tc未満の温度領域において超伝導性を示す。
【0035】
(化合物の化学式)
化合物10は、化学式AeAFeAsで表される化合物である。式中、Aeは、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1つの元素であり、Aは、K、RbおよびCsから選ばれる少なくとも1つの元素である。本実施形態では、AeとしてCaを選択し、AとしてKを選択している。化学式AeAFeAsで表される化合物からなる単結晶は、高い臨界電流密度Jcを示すため、当該化合物は化合物10として好ましい。
【0036】
(化合物の結晶構造)
図2を参照して、化合物10が構成し得る結晶構造を説明する。化学式AeAFeAsで表される化合物である化合物10は、図2に示すように、AeFeAs層16とAFeAs層17とがc軸に沿って交互に積層した結晶構造を構成し得る。AeFeAs層16は、Aeサイト11、Feサイト13、およびAsサイト14によって構成されている。また、AFeAs層17は、Aサイト12、Feサイト13、およびAsサイト15によって構成されている。図2に示す結晶構造は、単純正方晶P4/mmmの空間群を有しており、CaRbFeAs構造を有する。化合物10の結晶構造は、異方性を有している。
【0037】
このような結晶構造が成長して生じる結晶粒1は典型的には、c軸に沿って積層した層状構造がab平面に沿って延在している、板状の形状を有する。換言すれば、結晶粒1は、異方性を有しており、その板状の形状の主面の法線方向は、結晶構造のc軸に一致し、主面の接線方向は、結晶構造のab平面に一致する。
【0038】
(化合物の別の構成)
なお、化合物10は、上述の化学式AeAFeAsで表される化合物に限定されず、Fe元素を含み、且つ、臨界温度Tc未満の温度領域において超伝導性を示す化合物であればよい。Fe元素を含む超伝導化合物は、結晶構造に異方性を有する。このような構成を有する化合物10からなる単結晶もまた高い臨界電流密度を示すため、化合物10は超伝導バルク体の材料として好適である。Fe元素を含む超伝導化合物の例としては、化学式AeAFeAsで表される化合物を構成する元素のうち一部が他の元素により置換されて得られる化合物が挙げられる。これらの化合物について、以下に説明する。
【0039】
化合物10の一例として、化学式Ae1-xFeAsで表される化合物が挙げられる。式中、Aeは、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1つの元素である。また、式中、Aは、K、RbおよびCsから選ばれる少なくとも1つの元素である。また、式中、xは、0<x<1の範囲内の数である。このような構成を有する化合物10の結晶構造は、体心正方晶I4/mmmの空間群を有しており、ThCrSi構造を有する。
【0040】
化合物10の別の一例として、化学式Ae(Fe1-yTmAsで表される化合物が挙げられる。式中、Aeは、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1つの元素である。また、式中、Tmは、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、IrおよびPtから選ばれる少なくとも1つの元素である。また、式中、yは、0<y<1の範囲内の数である。このような構成を有する化合物10の結晶構造は、体心正方晶I4/mmmの空間群を有しており、ThCrSi構造を有する。
【0041】
化合物10の別の一例として、化学式AeFe(As1-zで表される化合物が挙げられる。式中、Aeは、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1つの元素である。また、式中、zは、0<z<1の範囲内の数である。このような構成を有する化合物10の結晶構造は、体心正方晶I4/mmmの空間群を有しており、ThCrSi構造を有する。
【0042】
化合物10の別の一例として、化学式LnFeAs(O,F)で表される化合物が挙げられる。式中、Lnは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、GdおよびDyから選ばれる少なくとも1つの元素である。このような構成を有する化合物10の結晶構造は、正方晶P4/nmmの空間群を有しており、ZrCuSiAs構造を有する。
【0043】
化合物10の別の一例として、化学式Fe(Se,Te)で表される化合物が挙げられる。このような構成を有する化合物10は、正方晶P4/nmmの空間群を有しており、PbO構造を有する。
【0044】
<超伝導バルク体の概要>
図1を参照して、化合物10である鉄系超伝導体の多結晶である超伝導バルク体Bについて、説明する。
【0045】
図1の(a)に示すように、超伝導バルク体Bは、厚みtbおよび直径dbのディスク状の形状を有する。また、超伝導バルク体Bは、互いに平行に背向する2つの主面B1およびB2を有している。図1の(a)において、ディスク状の形状が延在する平面に沿って互いに直交するx軸およびy軸と、x軸およびy軸に直交するz軸と、主面B1およびB2の法線方向NBと、が図示されている。
【0046】
超伝導バルク体Bの厚みtbは、例えば超伝導バルク磁石などの超伝導体として実用するために好ましい機械的強度を実現する観点から、好ましくは1mm以上であり、より厚いことが好ましい。超伝導バルク体Bの厚みtbの上限は、機械的強度の観点からは限定されない。
【0047】
限定するものではないが、超伝導バルク磁石として利用される場合、超伝導バルク体Bは、法線方向NB、すなわち厚み方向に沿って超伝導バルク体Bが磁化するように、磁束を捕捉する。
【0048】
なお、超伝導バルク体Bの形状は、図2に示すようなディスク状の形状に限定されない。超伝導バルク体Bの形状の他の例には、互いに平行に背向する2つの主面を有し、厚み方向から平面視した場合にリング状、正方形、長方形もしくはその他の多角形、またはその他の任意の形状を有する、板状の形状が含まれる。また、厚みtbと直径dbとの大小関係は、用途に応じて適宜に設定することができる。例えば、超伝導バルク体Bを磁場中冷却することにより磁石として用いる場合、tb>dbであることが好ましい。
【0049】
(超伝導バルク体における結晶粒の配向度)
図1の(b)に示すように、超伝導バルク体Bにおいて、複数の結晶粒1が高い配向度にて整列しており、これにより配向組織が形成されている。配向組織が形成されていることにより、超伝導バルク体Bは、従来よりも向上した臨界電流密度Jcを示す。
【0050】
配向度の程度は、超伝導バルク体Bの、ロットゲーリング(Lotgering’s)法によるc軸の配向度を尺度として用いて、表すことができる。超伝導バルク体Bの、ロットゲーリング法によるc軸の配向度は、0.2以上である。また、超伝導バルク体Bの、ロットゲーリング法によるc軸の配向度は、臨界電流密度Jcをより向上させる観点から、好ましくは0.4以上である。
【0051】
なお、ロットゲーリング法によるc軸の配向度は、下記式を用いて算出される。
【0052】
F=(ρ-ρ)/(1-ρ
ρ=ΣI(00l)/ΣI(hkl)
ρ=ΣI(00l)/ΣI(hkl)
式中、Fはロットゲーリング法によるc軸の配向度を示す。ΣI(00l)およびΣI(00l)はそれぞれ、超伝導バルク体B、および超伝導バルク体Bと同一の化学組成を有する、配向組織が形成されていない試料、例えば粉末試料、のX線回折(XRD)パターンにおける(00l)方向に対応するピークの強度の和を示す。ΣI(hkl)およびΣI(hkl)はそれぞれ、超伝導バルク体B、および超伝導バルク体Bと同一の組成を有する、配向組織が形成されていない試料、例えば粉末試料、のX線回折(XRD)パターンにおけるすべてのピークの強度の和を示す。
【0053】
図1の(b)に示すように、超伝導バルク体Bにおいて、結晶粒1の板状の形状が延在する方向(結晶粒1のab面方向)と、超伝導バルク体Bのディスク状の形状が延在する方向(主面B1,B2の面内方向)とが対応するように、複数の結晶粒1が整列している。換言すれば、各結晶粒1において、超伝導バルク体Bの主面B1およびB2の法線方向NBと、結晶粒1を構成する結晶構造のc軸方向とが対応している。
【0054】
本実施形態では、法線方向NBと、各結晶粒1のc軸方向とにおける一致の度合いを、ロットゲーリング法によるc軸の配向度を用いて表している。超伝導バルク体Bにおけるc軸の配向度が高ければ高いほど、超伝導バルク体Bの臨界電流密度Jcを向上させることができる。
【0055】
(超伝導バルク体のその他の構成)
超伝導バルク体Bは、複数の結晶粒1に加えて、低融点金属である錫、ガリウムおよびインジウムから選ばれる少なくとも1つの元素を含んでもよい。限定するものではないが、超伝導バルク体Bは、結晶粒1同士の界面、すなわち粒界の少なくとも一部に、上述の低融点金属を含むことが好ましい。このような構成によれば、粒界における結晶粒1同士の電気的な結合を低融点金属が強めるため、超伝導バルク体Bの臨界電流密度Jcがより向上する。
【0056】
さらに、超伝導バルク体Bにはエポキシ樹脂に代表される樹脂が含浸されていてもよい。また、超伝導バルク体Bの表面は、樹脂によりコーティングされていてもよい。コーティングに用いられる樹脂は、カーボン繊維などを含む強化樹脂であってもよいし、単体の樹脂であってもよい。これらの構成によれば、超伝導バルク体Bの機械的強度を高めることができる。
【0057】
超伝導バルク体Bにおいて、粒界の一部に酸化物が島状に分布している。一般に、結晶粒1それぞれを囲むように、粒界において連続的に分布する酸化物は、製造過程における酸素による汚染に由来して生じたものであり、超伝導バルク体の臨界電流密度Jcを低下させる要因となり得る。しかしながら、超伝導バルク体Bにおいて、酸化物は、粒界において不連続な島状に分布しているため、少なくとも一部の粒界では、酸化物を介さずに結晶粒1同士が接合している。さらに、結晶粒1同士の接合は、結晶構造のab平面同士によって形成されている。したがって、この接合は、超伝導バルク体B内部に発生する超伝導電流を阻害しない。そのため、超伝導バルク体Bは、酸化物を含んでいる場合であっても、高い臨界電流密度Jcを示すことができる。
【0058】
<超伝導バルク体の効果>
上述したように、超伝導バルク体Bは、鉄系超伝導体の多結晶であり、ロットゲーリング法によるc軸の配向度が0.2以上である。
【0059】
このような構成によれば、超伝導バルク体Bにおいて、複数の結晶粒1が高い配向度にて整列しているため、結晶方位のランダム性に由来する、臨界電流密度の抑制が減じられる。そのため、超伝導バルク体Bは、鉄系超伝導体の単結晶が有するポテンシャルを良好に発揮し、従来よりも向上した臨界電流密度Jcを示すことができる。
【0060】
また、c軸の配向度は、0.4以上であることが好ましい。
【0061】
このような構成によれば、超伝導バルク体Bは、鉄系超伝導体の単結晶が有するポテンシャルをより良好に発揮し、従来よりも、より向上した臨界電流密度Jcを示すことができる。
【0062】
超伝導バルク体Bは、ディスク状の形状を有し、且つ、主面B1およびB2の法線方向NBと、c軸の配向方向とが対応していることが好ましい。
【0063】
このような構成によれば、法線方向NBに沿って超伝導バルク体Bが磁化するように超伝導バルク体Bが磁束を捕捉した場合の臨界電流密度Jcをより向上させることができる。
【0064】
超伝導バルク体Bの厚みtbは、1mm以上であることが好ましい。
【0065】
このような構成によれば、例えば超伝導バルク磁石などの超伝導体として実用するために好ましい機械的強度を有する超伝導バルク体Bを実現することができる。
【0066】
超伝導バルク体Bは、錫、ガリウムおよびインジウムから選ばれる少なくとも1つの元素を含むことが好ましい。
【0067】
このような構成によれば、粒界における結晶粒1同士の電気的な結合を低融点金属が強めるため、超伝導バルク体Bの臨界電流密度Jcがより向上する。
【0068】
鉄系超伝導体である化合物10は、化学式AeAFeAsで表される化合物であり、式中、Aeは、Ca、Sr、およびBaから選ばれる少なくとも1つの元素であり、Aは、K、Rb、およびCsから選ばれる少なくとも1つの元素であることが好ましい。
【0069】
このような構成によれば、化合物10からなる単結晶は高い臨界電流密度Jcを示し、したがって多結晶である超伝導バルク体もまた高い臨界電流密度Jcを示す。
【0070】
〔第2の実施形態〕
<超伝導バルク体の製造方法>
本発明の第2の実施形態に係る製造方法M10について、図3および図4を参照して説明する。なお、説明の便宜上、第1の実施形態にて説明した部材と同じ機能および構成を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。図3は、製造方法M10の流れを示すフローチャートである。図4の(a)は、製造方法M10に含まれる予備焼結工程S13を実施した後のペレットPを示す断面図である。図4の(b)は、製造方法M10に含まれる本焼結工程S14を実施する前のペレットPを示す断面図である。図4の(c)は、本焼結工程S14を実施した後の超伝導バルク体Bを示す断面図である。図4の(d)は、予備焼結工程S13により得られたペレットPを模式的に示す断面図である。図4の(e)は、本焼結工程S14により得られた超伝導バルク体Bを模式的に示す断面図である。
【0071】
製造方法M10は、超伝導バルク体Bの製造方法である。図3に示すように、製造方法M10は、混合工程S11と、焼成工程S12と、予備焼結工程S13と、本焼結工程S14と、を含んでいる。
【0072】
(混合工程)
混合工程S11は、出発原料として、化合物10を構成する各元素、または化合物10を構成する元素をそれぞれ含む化合物を混合する工程である。混合工程S11を実施することによって、出発原料の混合物が得られる。
【0073】
出発原料は、化学式AeAFeAsで表される化合物である化合物10を構成する各元素、または化合物10を構成する元素をそれぞれ含む化合物であればよい。式中、Aeは、Ca、Sr、およびBaから選ばれる少なくとも1つの元素であり、Aは、K、Rb、およびCsから選ばれる少なくとも1つの元素である。なお、本実施形態では、AeとしてCaを選択し、AとしてKを選択している。AeとしてCaを選択し、AとしてKを選択することにより、出発原料として市販品を安価に入手することができる。
【0074】
出発原料はそれぞれ、粉体であることが好ましい。出発原料それぞれが粉体であることによって、混合工程S11において均一に混合することが容易になる。出発原料は、予め粉体の形態にて調製されたものであってもよいし、また、混合工程S11において粉砕されることによって粉体の形態となってもよい。
【0075】
混合工程S11は、出発原料を混合する工程であれば特に制限はないが、不活性ガス雰囲気中で実施されることが好ましい。不活性ガス雰囲気中で混合工程S11を実施することにより、出発原料が混合工程S11において、主に酸素による汚染に由来する、出発原料の劣化を減じることができる。不活性ガスの例には、窒素ガスおよびアルゴンガスが含まれる。不活性ガス雰囲気の環境は、限定するものではないが、グローブボックス内に不活性ガスを充満させることによって実現できる。
【0076】
混合工程S11において用いる器具は、出発原料を混合可能な器具であれば特に限定されるものではない。例えば、当該器具として乳鉢を用いることができる。
【0077】
(焼成工程)
焼成工程S12は、出発原料の混合物を焼成する工程であり、混合物を密閉した容器を加熱することによって実施される。焼成工程S12を実施することによって、化合物10からなる複数の結晶粒1を含む多結晶粉末が得られる。
【0078】
焼成工程S12において、加熱温度および加熱時間は、化合物10の種類に応じて適宜に設定することができる。本実施形態のように化合物10が化学式CaKFeAsで表される化合物である場合、加熱温度は、800℃以上であることが好ましく、1000℃以下であることが好ましい。また、加熱時間は、1時間以上であることが好ましい。加熱時間を1時間以上とすることによって、混合物の焼成を十分に進めることができる。また、加熱時間は、10時間以下であることが好ましい。これは、加熱時間を10時間より長くした場合でも、得られる焼成物に大きな差が生じないためである。本実施形態では、加熱温度として930℃を採用し、加熱時間として5時間を採用している。
【0079】
焼成工程S12を実施するために用いられる容器は、焼成可能な容器であればよい。用いられる容器は、1000℃以上の温度において、混合物に含まれる元素、および、酸素と反応しにくい材料によって構成されていることが好ましい。好ましい材料としては、ステンレスが挙げられる。
【0080】
焼成工程S12を実施するために用いられる加熱方法は、適宜選択することができる。本実施形態では、この加熱方法として電気炉を採用している。
【0081】
(予備焼結工程)
予備焼結工程S13は、多結晶粉末を焼結する工程であり、多結晶粉末を密閉した容器を加熱加圧することによって実施される。予備焼結工程S13を実施することによって、複数の結晶粒1Pを含む仮焼結体であるペレットPが得られる。
【0082】
図4の(a)を参照して、予備焼結工程S13の概要を説明する。図4の(a)において、内形が円形であるシリンダーS1と、シリンダーS1の両端にある2つの開口部それぞれから挿入されたピストンP11およびP12と、シリンダーS1ならびにピストンP11およびP12によって形成されるキャビティC1と、が図示されている。キャビティC1には、多結晶粉末を密閉した容器が配置されている。この容器に対して、シリンダーS1を介して熱が加えられるともに、ピストンP11およびP12を介して成形圧Prが加えられることにより、容器内部の多結晶粉末が焼結され、ペレットPが得られる。
【0083】
図4の(d)を参照して、予備焼結工程S13により得られたペレットPの概要を説明する。ペレットPは、厚みtpおよび直径dpの円柱状の形状を有し、互いに平行に背向する2つの主面P1およびP2を有している。図4の(d)において、主面P1およびP2の法線方向である法線方向NPが図示されている。図4の(d)に示すように、ペレットPは、複数の結晶粒1Pを含む。ペレットPにおいて、複数の結晶粒1Pは高いランダム性にて配置されており、したがって配向組織が形成されていない。
【0084】
予備焼結工程S13において、加熱温度および加熱時間は、化合物10の種類に応じて適宜に設定することができる。限定するものではないが、例えば化合物10が化学式CaKFeAsで表される化合物である場合、加熱温度は、600℃を上回っていることが好ましく、700℃近傍であることがより好ましい。また、加熱時間は、3分以上であることが好ましい。加熱時間を3分以上とすることで、予備焼結により高い密度を有するペレットPを得ることができる。また、加熱時間は、1時間以下であることが好ましい。これは、加熱時間を1時間より長くした場合でも、得られるペレットPの密度に大きな差が生じないためである。本実施形態では、加熱温度として700℃を採用し、加熱時間として10分を採用している。
【0085】
予備焼結工程S13において、容器に加えられる成形圧は、化合物10の種類に応じて適宜に設定することができる。例えば化合物10が化学式CaKFeAsで表される化合物である場合、成形圧は、10MPa以上であることが好ましく、200MPa以下であることが好ましい。本実施形態では、成形圧として、50MPaを採用している。
【0086】
予備焼結工程S13を実施するために用いられる容器は、加熱加圧な容器であればよい。用いられる容器は、1000℃以上の温度において、混合物に含まれる元素、ならび、酸素および不活性ガスと反応しにくい材料によって構成されていることが好ましい。用いられる容器の好ましい例には、黒鉛容器が含まれる。また、予備焼結工程S13を実施するために用いられる容器は、焼成工程S12を実施するために用いられる容器と同一の容器であってもよいし、異なる容器であってもよい。
【0087】
予備焼結工程S13を実施するために用いられる加熱加圧方法は、従来公知の方法であって良い。加熱加圧方法の例には、放電プラズマ焼結(Spark Plasma Sintering, SPS)法およびホットプレス法が含まれる。
【0088】
また、理由は後述するが、予備焼結工程S13において、加熱加圧の前に、多結晶粉末に対して、低融点金属である錫、ガリウムおよびインジウムから選ばれる少なくとも1つの元素を添加してもよい。
【0089】
(本焼結工程)
本焼結工程S14は、仮焼結体であるペレットPを、主面P1およびP2の法線方向NPに沿って、且つ、ペレットPの厚みtpに対するペレットPの主面サイズの比が大きくなるように、一軸加圧しながら焼結することにより超伝導バルク体Bを得る工程である。限定するものではないが、本焼結工程S14は、ペレットPを密閉した容器を、一軸加圧を用いて加熱加圧することによって実施される。
【0090】
本明細書中で使用される場合、「主面サイズ」とは当該主面の大きさを代表する長さを意味し、具体的には(i)主面が円形またはリング形である場合には当該円形の直径またはリング形の外径を意味し、(ii)主面が正方形である場合には当該正方形の一辺の長さを意味し、ならびに、(iii)主面が円形、リング形および正方形以外の形状である場合には当該主面の面積の平方根を意味する。第2の実施形態において、超伝導バルク体B、およびその前駆体であるペレットPにおいて、主面B1、B2、P1およびP2はいずれも円形であるため、超伝導バルク体Bの主面サイズは直径dbであり、ペレットPの主面サイズは直径dpである。
【0091】
図4の(b)および(c)を参照して、本焼結工程S14の概要について説明する。図4の(b)において、内形が円形であるシリンダーS2と、シリンダーS2の両端にある2つの開口部それぞれから挿入されたピストンP21およびP22と、シリンダーS2ならびにピストンP21およびP22によって形成されるキャビティC2と、が図示されている。キャビティC2には、主面P1およびP2の法線方向NPが、ピストンP21およびP22がピストン運動する方向、すなわちz軸方向に沿うように、ペレットPが配置されている。ペレットPは、キャビティC2内においてピストンP21およびP22を介して成形圧Prが加えられて一軸加圧されながら、焼結される。これにより、仮焼結体であるペレットPから超伝導バルク体Bが得られる。
【0092】
図4の(c)に示すように、法線方向NP、すなわちz軸に沿う一軸加圧により、ピストンP21およびP22を介して成形圧PrがペレットPに対して加えられると、厚みtpに対する主面サイズdpの比が大きくなるようにペレットPが変形する。結果として、図4の(e)に示す、厚みtbおよび直径dbのディスク状の形状を有する超伝導バルク体Bが得られる。ここで、ペレットPおよび超伝導バルク体Bの厚みに対する主面サイズについて、下記式(i)に示す関係がある。
dp/tp<tb/db 式(i)
【0093】
ペレットPの変形により、ペレットP内部において、結晶粒1Pの配向組織の形成が促進される。具体的には、図4の(d)および(e)に示すように、加圧方向であるz軸に対して、結晶粒1Pが有する板状の形状の主面の法線方向が近づくように、複数の結晶粒1Pが平行移動および回転移動し、整列していく。この整列により、主面B1およびB2の法線方向NBと、結晶粒1の主面の法線方向、すなわち結晶粒1を構成する結晶構造のc軸方向とが対応している超伝導バルク体Bが得られる。このようにして得られた超伝導バルク体Bは、従来よりも向上した臨界電流密度Jcを示すことができる。
【0094】
なお、上述の整列は、複数の結晶粒1Pを含むペレットPを、変形を伴って一軸加圧することにより生じる、独特な現象であると推察される。具体的には、結晶粒1Pを含まないペレットPを、変形を伴って一軸加圧することにより焼結しても、結晶粒の生成が変形によって阻害されるため、結晶粒1Pを十分な量含むペレットPが得られないと推察される。また、結晶粒1Pを含むペレットPを一軸加圧する場合であっても、変形を伴わない場合には、結晶粒1Pの整列が促進されず、十分な配向組織が形成されないと推察される。
【0095】
本焼結工程S14において、ペレットPは、低融点金属である錫、ガリウムおよびインジウムから選ばれる少なくとも1つの元素を含むことが好ましい。このような構成によれば、低融点金属が滑剤として作用して上述の結晶粒1Pの整列が促進すると共に、得られる超伝導バルク体Bにおいては、粒界における結晶粒1同士の電気的な結合を強めるため、超伝導バルク体Bの臨界電流密度Jcがより向上する。
【0096】
本焼結工程S14において、キャビティC2のキャビティサイズは、ペレットPの主面サイズdpよりも大きい。このような構成によれば、一軸加圧により、主面P1およびP2の接線方向に沿って延伸するようにペレットPが変形するため、ペレットP内部における結晶粒1Pの整列がより促進される。したがって、得られる超伝導バルク体Bにおける配向度がより向上する。なお、本明細書中で使用される場合、「キャビティサイズ」とは当該キャビティの大きさを代表する長さを意味し、具体的には(i)キャビティをz軸方向に沿って平面視した場合の形状(以下、「キャビティの平面視形状」と称する)が円形である場合には当該円形の直径を意味し、(ii)キャビティの平面視形状が正方形である場合には当該正方形の一辺の長さを意味し、ならびに、(iii)キャビティの平面視形状が円形および正方形以外の形状である場合にはキャビティの平面形状の面積の平方根を意味する。
【0097】
また、本焼結工程S14において、一軸加圧により、一部の結晶粒1Pおよび粒界に存在する一部の酸化物が粉砕される。次いで、ペレットPの変形に伴い、当該粉砕によって生じた細片が移動する。したがって、粒界に存在する酸化物は、本焼結工程S14の前には結晶粒1Pそれぞれを囲むように連続的に存在するが、本焼結工程S14の後には破砕および移動により不連続な島状に分布して存在する。そのため、本焼結工程S14の前後で、酸化物を介さずに結晶粒1P同士が接合している領域が増加するため、得られる超伝導バルク体Bは高い臨界電流密度Jcを示すことができる。
【0098】
本焼結工程S14を実施するために用いられる容器は、加熱加圧な容器であればよく、例えば、予備焼結工程S13を実施するために用いられる容器と同一の容器であってもよい。容器は、内包するペレットPが一軸加圧に供されるときに流出しない程度に密閉されていればよい。そのため、容器は、銀ラップおよびステンレス管などを用いた金属被覆ならびに当該被覆の端部溶接などの、等方加圧を用いる場合に必要とされる煩雑な処理に供されていなくともよい。したがって、本焼結工程S14は、簡便に実施することができる。
【0099】
本焼結工程S14において、加熱温度および加熱時間は、化合物10の種類に応じて適宜に設定することができる。限定するものではないが、例えば化合物10が化学式CaKFeAsで表される化合物である場合、加熱温度は、600℃を上回っていることが好ましく、700℃近傍であることがより好ましい。また、加熱時間は、3分以上であることが好ましい。加熱時間を3分以上とすることで、ペレットPの変形を十分に進めることができる。また、上記加熱時間は、1時間以下であることが好ましい。加熱時間を1時間以下とすることによって、十分な機械的強度の超伝導バルク体Bを余分な時間をかけずに製造することができる。
【0100】
本焼結工程S14において、成形圧は、化合物10の種類に応じて適宜に設定することができる。例えば化合物10が化学式CaKFeAsで表される化合物である場合、成形圧は、10MPa以上であることが好ましく、200MPa以下であることが好ましい。本実施形態では、成形圧として、50MPaを採用している。また、本焼結工程S14において、加圧時間は、上述した加熱時間とは独立して定めることがでる。本実施形態では、加圧時間を加熱時間と等しくしている。すなわち、本実施形態の本焼結工程S14では、加熱と加圧とを同時に行っている。
【0101】
本焼結工程S14において、ペレットPを一軸加圧しながら焼結するために用いられる方法は、従来公知の方法であってよい。換言すれば、本焼結工程S14は、製造者が有する一軸加圧を実施可能な既存の製造設備を利用することによって実施することができる。そのため、本焼結工程S14は、小規模製造および大規模製造のいずれにも適しており、設備コストも低い。ペレットPを一軸加圧しながら焼結するために用いられる方法の例には、放電プラズマ焼結(Spark Plasma Sintering, SPS)法、ホットプレス法および押し出し成形法が含まれる。
【0102】
なお、各工程S11~S14が実施される雰囲気は、高純度の不活性ガスであることが好ましい。本焼結工程S14を高純度の不活性ガス中で実施することにより、得られる超伝導バルク体Bの臨界電流密度Jcをより高めることができる。不活性ガスのガス種は、ガスの不活性度とコストとに鑑み適宜定めることができる。また、不活性ガスの純度は、高ければ高いほど好ましい。不純物ガスに含まれるOおよびHOは、いずれも1ppm未満であることが好ましい。ただし、不活性ガスの純度は、費用対効果を考慮して、適宜定めることができる。
【0103】
<超伝導バルク体の製造方法の効果>
上述したように、製造方法M10は、鉄系超伝導体の多結晶である超伝導バルク体Bの製造方法であり、仮焼結体であるペレットPを、主面P1およびP2の法線方向NPに沿って、且つ、ペレットPの厚みtpに対するペレットPの主面サイズの比が大きくなるように、一軸加圧しながら焼結することにより超伝導バルク体Bを得る本焼結工程S14を含む。
【0104】
このような構成によれば、ペレットPが含む複数の結晶粒1Pの配向組織の形成が促進される。そのため、鉄系超伝導体の単結晶が有するポテンシャルを良好に発揮し、従来よりも向上した臨界電流密度を示す超伝導バルク体Bを製造することができる。
【0105】
本焼結工程S14において、ペレットPは、キャビティC2内において一軸加圧されながら焼結され、且つ、キャビティC2のキャビティサイズは、主面サイズよりも大きいことが好ましい。
【0106】
このような構成によれば、一軸加圧により、主面P1およびP2の接線方向に沿って延伸するようにペレットPが変形するため、ペレットP内部における結晶粒1Pの整列がより促進される。したがって、得られる超伝導バルク体Bにおける配向度がより向上する。
【0107】
本焼結工程S14においては、放電プラズマ焼結法またはホットプレス法を用いてペレットPを一軸加圧しながら焼結することが好ましい。
【0108】
このような構成によれば、小規模製造および大規模製造のいずれにも適しており、設備コストも低い本焼結工程S14を実現することができる。
【0109】
ペレットPは、錫、ガリウムおよびインジウムから選ばれる少なくとも1つの元素を含むことが好ましい。
【0110】
このような構成によれば、低融点金属が滑剤として作用して上述の結晶粒1Pの整列が促進すると共に、得られる超伝導バルク体Bにおいては、粒界における結晶粒1同士の電気的な結合を強めるため、超伝導バルク体Bの臨界電流密度Jcがより向上する。
【0111】
ペレットPは、化学式AeAFeAsで表される化合物を含み、式中、Aeは、Ca、Sr、およびBaから選ばれる少なくとも1つの元素であり、Aは、K、Rb、およびCsから選ばれる少なくとも1つの元素であることが好ましい。
【0112】
このような構成によれば、製造プロセスが簡便になり、安価に超伝導バルク体Bを製造することができる。
【0113】
<変形例>
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0114】
例えば、第2の実施形態に係る製造方法M10は、上述の混合工程S11の前に、出発原料である化合物それぞれを秤量する秤量工程をさらに含んでもよい。
【実施例0115】
本発明の第1~第2の実施例と、本発明の第1の参考例と、本発明の第1および第2の比較例とについて、図5図8を参照して説明する。図5は、本発明の第1~第2の実施例の超伝導バルク体、第1の参考例の小片、第1の比較例のペレット、および第2の比較例の粉末のX線回折(XRD)パターンを示すグラフである。図6の上段は、図5に示した第1の比較例のペレットの断面におけるSEMイメージおよびEBSDマップである。図6の下段は、図5に示した第2の実施例のバルク体の断面におけるSEMイメージおよびEBSDマップである。図7の上段は、図5に示した第1の比較例のペレットの断面におけるSEMイメージおよびEDXマップである。図7の下段は、図5に示した第2の実施例のバルク体の断面におけるSEMイメージおよびEDXマップである。図8は、図5に示した第2の実施例の超伝導バルク体および第1の比較例のペレットが示す臨界電流密度の印加磁場依存性を示すグラフである。
【0116】
<超伝導バルク体の製造>
〔第1の実施例〕
(混合工程)
出発原料として、市販のCa元素(純度>99.5mol%)、K元素(純度>99.5mol%)、Fe元素(純度>99.9mol%)、およびAs元素(純度>99.9999mol%)の粉体を準備した。ヒ化化合物の前駆体CaAs、KAsおよびFeAsを得るために、それぞれの前駆体に含まれる元素を出発原料から選択して、混合した。得られたヒ化化合物の前駆体CaAs、KAsおよびFeAsを、CaAs:KAs:FeAs=1:1.05:2のモル比にて混合し、粉体混合物を得た。
【0117】
(焼成工程)
次いで、得られた粉体混合物をステンレス容器に封入した。なお、出発原料の混合および粉体混合物の封入は、不活性ガス雰囲気のグローブボックス(O<1ppm、HO<1ppm)中で行った。次いで、電気炉を用いて、粉体混合物を密閉したステンレス容器を焼成し、多結晶粉末を得た。焼成の加熱温度および加熱時間は、それぞれ930℃および5時間であった。
【0118】
(予備焼結工程)
内径10mmの黒鉛容器に多結晶粉末を充填した。次いで、SPS法を用いて黒鉛容器を加熱加圧することによって、多結晶粉末を焼結し、φ10mmのペレットを得た。加熱加圧において、加熱温度、加熱時間および成形圧はそれぞれ、700℃、10分および50MPaであった。
【0119】
(本焼結工程)
内径20mmの黒鉛容器に、得られたφ10mmのペレットを入れた。したがって、黒鉛容器のキャビティサイズは、ペレットの主面サイズよりも大きかった。次いで、SPS法を用いた一軸加圧により黒鉛容器を加熱加圧することによって、ペレットを変形および焼結し、第1の実施例の超伝導バルク体を得た。加熱温度、加熱時間および成形圧はそれぞれ、700℃、10分および3MPaであった。なお、一軸加圧前のペレットは厚み5.1mmであり、一軸加圧後の第1の実施例の超伝導バルク体は、厚み2.2mmであった。
【0120】
〔第2の実施例〕
本焼結工程における成形圧、および一軸加工後の超伝導バルク体の厚みを表1に示すように変更したことを除いて、第1の実施例と同一の方法を用いて、第2の実施例の超伝導バルク体それぞれを得た。なお、第1~2の実施例の間で一軸加圧前のペレットの厚みについて存在する差は、製造装置の動作誤差に由来するものである。
【0121】
第1~2の実施例の本焼結工程における成形圧、ならびに一軸加工前のペレットおよび一軸加工後の超伝導バルク体の厚みを、表1に示す。
【0122】
〔第1の参考例〕
本焼結工程における成形圧、および一軸加工後の超伝導バルク体の厚みを表1に示すように変更したことを除いて、第1の実施例と同一の方法を用いて、第1の参考例の超伝導バルク体の製造を試みた。しかしながら、第1の参考例において、本焼結工程中にペレットが粉砕してしまったため、超伝導バルク体の代わりに第1の参考例の小片を得た。
【0123】
〔第1の比較例〕
本焼結工程を実施しないことを除いて、第1の実施例と同一の方法を用いて、第1の比較例のペレットとして、予備焼結工程によるφ10mmのペレットを得た。すなわち、焼結工程としては、成形圧50MPaを用いた予備焼結工程のみを実施した。
【0124】
〔第2の比較例〕
予備焼結工程および本焼結工程を実施しないことを除いて、第1の実施例と同一の方法を用いて、第2の比較例の粉末として、焼成工程による多結晶粉末を得た。
【0125】
(c軸の配向度の評価)
c軸の配向度を評価するために、第1~第2の実施例の超伝導バルク体、第1の参考例の小片、第1の比較例のペレット、および第2の比較例の粉末のXRD測定を行った。得られたXRDパターンを図5に示す。図5に示されるXRDパターンにおいて、星形は化学式CaKFeAsで表される化合物に由来するピークを表し、逆三角形は化学式CaFeAsで表される化合物に由来するピークを表し、円形は化学式FeAsで表される化合物に由来するピークを表す。
【0126】
また、第1~第2の実施例の超伝導バルク体、第1の参考例の小片、および第1の比較例のペレットについて、ロットゲーリング法によるc軸の配向度を算出した。算出結果を、表1に示す。
【0127】
さらに、配向組織の形成を評価するために、第2の実施例の超伝導バルク体、および第1の比較例のペレットの断面における走査型電子顕微鏡(SEM)イメージ、および対応する断面の後方散乱電子回折(EBSD)マップを撮影した。撮影結果を図6に示す。図6において、右上に示すグレースケールは、EBSDマップに示す結晶粒の結晶方位と対応している。
【0128】
(酸化物分布の評価)
粒界に存在する酸化物の分布を評価するために、第2の実施例の超伝導バルク体、および第1の比較例のペレットの断面における走査型電子顕微鏡(SEM)イメージ、および対応する断面のエネルギー分散X線(EDX)マップを撮影した。撮影結果を図7に示す。図7の右列に示すEDXマップにおいて、酸化物が分布する領域は淡色を付して表される。
【0129】
(臨界電流密度の評価)
第2の実施例の超伝導バルク体、および第1の比較例のペレットの、臨界電流密度Jcの印加磁場依存性を温度4.2K(絶対温度)にて測定した。測定結果を図8に示す。また、第1~2の実施例の超伝導バルク体、および第1の比較例のペレットの、温度4.2K、印加磁場5Tにおける臨界電流密度Jcを表1に示す。
【0130】
【表1】
【0131】
<考察>
図5に示すように、本焼結工程に実施して得られた第1~2の実施例の超伝導バルク体それぞれは、化学式CaKFeAsで表される化合物が構成する結晶構造の(002)方向に対応するピークを2θ=14度付近に示した。また、これらのピークの強度は、本焼結工程を実施せずに得られた第1の比較例のペレット、および第2の比較例の粉末の対応するピークの強度よりも大きかった。具体的には、表1に示すように、第1~2の実施例の超伝導バルク体それぞれは、0.4以上の高いc軸の配向度を示した。このことは、本焼結工程を実施することにより、ペレットに含まれる結晶粒が高い配向度にて整列し、配向組織が形成されたことを示す。
【0132】
図6に示すように、第1の比較例と比較して、第2の実施例の超伝導バルク体において、当該結晶粒のc軸が加圧方向に配向する結晶粒がより多かった。このことは、本焼結工程を実施することにより、結晶粒は、高い配向度にて整列すると共に、超伝導バルク体の主面の法線方向と、c軸の配向方向とが対応するように整列したことを示す。
【0133】
図7に示すように、第1の比較例のペレットにおいて、酸化物は粒界において連続的に分布していた。対して、第2の実施例の超伝導バルク体は、酸化物は島状に分布していた。また、第2の実施例の超伝導バルク体が含む結晶粒は、第1の比較例のペレットが含む結晶粒と比較して、より細かく粉砕されており、より小さい粒径を有していた。このことは、本焼結工程を実施することにより、一部の結晶粒および一部の酸化物が粉砕および移動し、酸化物が局在化して、酸化物を介さない結晶粒同士の接合が促進されたことを示す。
【0134】
図8に示すように、第2の実施例の超伝導バルク体は、4.2K、0.5T~5Tの条件下で、第1の比較例のペレットよりも向上した臨界電流密度Jcを示した。表1に示すように、第1の実施例の超伝導バルク体もまた、向上した臨界電流密度Jcを示した。このことは、鉄系超伝導体の多結晶である超伝導バルク体であって、ロットゲーリング法によるc軸の配向度が0.2以上である、超伝導バルク体が、従来よりも向上した臨界電流密度Jcを示すことを示す。
【0135】
表1に示すように、第1~2の実施例において、本焼結工程における加工率が高いほど、c軸の配向度が高くなる傾向があった。また、第1~2の実施例の超伝導バルク体の評価結果は、c軸の配向度が高いほど、臨界電流密度Jcが高くなることを示唆していた。また図示は省略するが、第1~2の実施例の超伝導バルク体は、実用のために好ましい機械的強度を有していた。
【符号の説明】
【0136】
B 超伝導バルク体
B1,B2 主面
NB 法線方向
1 結晶粒
P ペレット
P1,P2 主面
C1,C2 キャビティ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8