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特開2023-47845基板表面に形成された凹部に対してルテニウムを埋め込む方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047845
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】基板表面に形成された凹部に対してルテニウムを埋め込む方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/16 20060101AFI20230330BHJP
【FI】
C23C16/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156990
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 雅人
(72)【発明者】
【氏名】石坂 忠大
【テーマコード(参考)】
4K030
【Fターム(参考)】
4K030AA16
4K030BA01
4K030BA18
4K030BA29
4K030BA40
4K030CA04
4K030CA11
4K030CA12
4K030DA03
4K030DA04
4K030FA01
4K030HA01
4K030JA05
4K030JA09
4K030JA10
4K030LA15
(57)【要約】
【課題】チタンを含む層との境界領域における酸素の取り込みを抑えつつ、基板に形成された凹部に対してルテニウムの埋め込みを行う技術を提供する。
【解決手段】基板表面の凹部に対してルテニウムを埋め込む方法は、処理容器内設けられた載置台に対し前記基板を配置する工程と、前記処理容器内を0.5~50Paの範囲内の圧力に調節すると共に、前記基板を160~180℃の範囲内の温度に加熱する工程と、次いで、20~300sccmの範囲内の流量のキャリアガスであるCOガスとRu(CO)12を前記処理容器内に供給することにより前記凹部内にルテニウムを埋め込む工程と、この工程と並行して、前記載置台に配置された基板の周囲領域から、前記処理容器内へ向けてパージガスとして、50~100sccm範囲内の流量のCOガスを供給する工程と、を含む。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に形成された凹部に対してルテニウムを埋め込む方法であって、
処理容器内設けられた載置台に対し、前記凹部の底面にチタンを含む層の表面が露出した前記基板を配置する工程と、
前記処理容器内を真空排気し、0.5~50Paの範囲内の圧力に調節すると共に、前記載置台上に配置された前記基板を160~200℃の範囲内の温度に加熱する工程と、
次いで、20~300sccmの範囲内の流量のキャリアガスであるCOガスと共に、単位時間当たりの供給量が200~1800mg/分の範囲内のRu(CO)12を前記処理容器内に供給することにより、前記チタンを含む層の上面側の前記凹部内にルテニウムを埋め込む工程と、
前記ルテニウムを埋め込む工程の実施期間中、前記載置台に配置された基板の周囲領域から、前記処理容器内へ向けて、前記基板の裏面側への前記Ru(CO)12の回り込みを抑えるためのパージガスとして、50~100sccm範囲内の流量のCOガスを供給する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記ルテニウムを埋め込む工程を、前記チタンを含む層との境界領域における前記ルテニウムの埋め込みを行う第1工程と、次いで、残りの前記凹部内への前記ルテニウムの埋め込みを行う第2工程とに分け、前記第2工程では前記Ru(CO)12と共にキャリアガスとして供給されるCOガスに加え、反応調節ガスとして0sccmより大きく、800sccm以下の範囲内の流量のCOガスを前記処理容器内へ供給する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ルテニウムを埋め込む工程では、前記ルテニウムと前記チタンを含む層との境界領域における酸素原子の含有割合を2原子%以下とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記処理容器には、ターボ分子ポンプが接続され、当該ターボ分子ポンプを用いた真空排気により、前記処理容器内の圧力の調節が行われる、請求項1ないし3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記基板がシリコンであるとき、前記基板を配置する工程を実施する前に、第1の処理容器にて、前記凹部内に露出した前記シリコンの表面に形成された自然酸化膜を除去する工程と、
前記第1の処理容器から、前記第2の処理容器へと前記基板を搬送し、前記自然酸化膜が除去された前記シリコンの上面側に前記チタンを含む層を形成する工程と、
前記基板を配置する工程を実施するために、前記第2の処理容器から、前記処理容器である第3の処理容器へと前記基板を搬送する工程と、を含み、
前記第1~第3の処理容器間の前記基板の搬送が、ターボ分子ポンプによる真空排気が行われている共通の真空搬送室を介して実施される、請求項1ないし4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記チタンを含む層を形成する工程と、前記第3の処理容器へと前記基板を搬送する工程との間に、前記第2の処理容器内に窒素を含むガスである窒化ガスを供給して、前記チタンを含む層の表面を窒化する工程を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
基板表面に形成された凹部に対してルテニウムを埋め込む装置であって、
前記凹部の底面に、チタンを含む層の表面が露出した前記基板を収容する処理容器と、
前記処理容器内に設けられ、その上面に前記基板が配置されると共に、当該基板を加熱するための加熱部を備えた載置台と、
前記基板の周囲領域から、前記処理容器内へ向けて、パージガスであるCOガスを供給するためのパージガス供給部と、
前記処理容器に対し、キャリアガスであるCOガスと共にRu(CO)12を供給するための原料ガス供給部と、
前記処理容器内を真空排気して、圧力調節を行うための圧力調節部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、前記載置台上に前記基板を配置するステップと、前記圧力調節部により、処理容器内を真空排気し、0.5~50Paの範囲内の圧力に調節すると共に、前記載置台上に配置された前記基板を前記加熱部により160~180℃の範囲内の温度に加熱するステップと、次いで、前記原料ガス供給部より、20~300sccmの範囲内の流量の前記キャリアガスと共に、単位時間当たりの供給量が200~1800mg/分の範囲内のRu(CO)12を前記処理容器内に供給することにより、前記チタンを含む層の上面側の前記凹部内にルテニウムを埋め込むステップと、前記ルテニウムを埋め込むステップの実施期間中、前記基板の裏面側への前記Ru(CO)12の回り込みを抑えるため、前記パージガス供給部から50~100sccm範囲内の流量の前記パージガスを供給するステップと、を実行するための制御信号を出力するように構成された、装置。
【請求項8】
前記処理容器内に反応調節ガスとしてCOガスを供給する反応調節ガス供給部を備え、
前記ルテニウムを埋め込むステップを、前記チタンを含む層との境界領域における前記ルテニウムの埋め込みを行う第1ステップと、次いで、残りの前記凹部内への前記ルテニウムの埋め込みを行う第2ステップとに分けたとき、前記制御部は、前記第2ステップでは前記Ru(CO)12と共にキャリアガスとして供給されるCOガスに加え、反応調節ガスとして0sccmより大きく、800sccm以下の範囲内の流量のCOガスを前記処理容器内へ供給する、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記ルテニウムを埋め込むステップでは、前記ルテニウムと前記チタンを含む層との境界領域における酸素原子の含有量を2原子%以下とする、請求項7または8に記載の装置。
【請求項10】
前記圧力調節部は、前記処理容器に接続されたターボ分子ポンプを備え、当該ターボ分子ポンプを用いた真空排気により、前記処理容器内の圧力の調節を行う、請求項7ないし9のいずれか一つに記載の装置。
【請求項11】
前記基板がシリコンであるとき、前記凹部内に露出した前記シリコンの表面に形成された自然酸化膜を除去する処理が行われる第1の処理容器と、前記自然酸化膜が除去された前記シリコンの上面側に前記チタンを含む層を形成する処理が行われる第2の処理容器と、前記ルテニウムムの埋め込みが行われる前記処理容器である第3の処理容器とが、ターボ分子ポンプによる真空排気が行われている共通の真空搬送室に接続され、
前記制御部は、前記基板を配置するステップを実施する前に、前記第1の処理容器にて、前記自然酸化膜を除去する処理を実施するステップと、前記第1の処理容器から、前記第2の処理容器へと前記基板を搬送し、前記自然酸化膜が除去された前記シリコンの上面側に前記チタンを含む層を形成する処理を実行するステップと、前記基板を配置するステップを実施するために、前記第2の処理容器から、前記第3の処理容器へと前記基板を搬送するステップと、を実行するための制御信号を出力するように構成された、請求項7ないし10のいずれか一つに記載の装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記前記チタンを含む層を形成する処理を実行するステップと、前記第3の処理容器へと前記基板を搬送するステップとの間に、前記第2の処理容器内に窒素を含むガスである窒化ガスを供給して、前記チタンを含む層の表面を窒化するステップを実行するための制御信号を出力するように構成された、請求項11に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板表面に形成された凹部に対してルテニウムを埋め込む方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程においては、半導体装置の製造用の基板である半導体ウエハに金属膜を成膜する処理が行われており、金属膜としてルテニウム膜が成膜される場合がある。特許文献1及び特許文献2には、ウエハに形成された凹部に対してルテニウム膜を形成する処理について示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-353162号公報
【特許文献2】特開2019-62142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、下層側に形成されたチタンを含む層との境界領域における酸素の取り込みを抑えつつ、基板の表面に形成された凹部に対してルテニウムの埋め込みを行う技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、基板表面に形成された凹部に対してルテニウムを埋め込む方法であって、
処理容器内設けられた載置台に対し、前記凹部の底面にチタンを含む層の表面が露出した前記基板を配置する工程と、
前記処理容器内を真空排気し、0.5~50Paの範囲内の圧力に調節すると共に、前記載置台上に配置された前記基板を160~200℃の範囲内の温度に加熱する工程と、
次いで、20~300sccmの範囲内の流量のキャリアガスであるCOガスと共に、単位時間当たりの供給量が200~1800mg/分の範囲内のRu(CO)12を前記処理容器内に供給することにより、前記チタンを含む層の上面側の前記凹部内にルテニウムを埋め込む工程と、
前記ルテニウムを埋め込む工程の実施期間中、前記載置台に配置された基板の周囲領域から、前記処理容器内へ向けて、前記基板の裏面側への前記Ru(CO)12の回り込みを抑えるためのパージガスとして、50~100sccm範囲内の流量のCOガスを供給する工程と、を含む、方法である。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、下層側に形成されたチタンを含む層との境界領域における酸素の取り込みを抑えつつ、基板の表面に形成された凹部に対してルテニウムの埋め込みを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】ウエハに形成される膜の積層構造を示す模式図である。
図2】ウエハに対して実施される処理の流れを示す説明図である。
図3】ウエハに対して処理を実施するための成膜装置の平面図である。
図4】ウエハに対してTiSiN層を形成するモジュールの縦断側面図である。
図5】ウエハに対してルテニウム層の形成を行うモジュールの縦断側面図である。
図6】ルテニウム膜形成モジュールに設けられている、ウエハの載置台の拡大縦断面図である。
図7】ルテニウムの成膜条件を変化させた場合における、積層構造中の酸素原子の分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
半導体デバイスの製造プロセスでは、エッチングにより絶縁膜に凹部を形成した後、当該凹部に、配線用の金属を埋め込む工程がある。半導体デバイスの微細化に伴い、埋め込み用の金属として低抵抗材料であるルテニウムが注目されている。本開示は、基板である半導体ウエハ(以下、「ウエハ」と記載する)の表面に形成された凹部にルテニウムを埋め込む処理に関するものである。
【0009】
<積層構造>
初めに、図1を参照しながら本開示のルテニウム層(ルテニウム膜)74の形成に係る課題について説明する。図1は、基板であるウエハWに形成される膜の積層構造を模式的に示している。
図1に例示するように、本例のルテニウム層74が形成されるウエハWは、シリコンウエハ71の本体の上面に窒化チタンの層が形成されている。この窒化チタン層は、シリコンウエハ71とのコンタクトを取るために形成され、シリコンウエハ71側からのシリコン原子の拡散により、TiSiN層(チタンを含む層)72となっている。
【0010】
下地膜であるシリコン酸化膜(SiO膜)にはトレンチやビアホールなどの凹部が設けられ、TiSiN層72は、この凹部内に形成されて、その表面が露出している。ルテニウム層74は、このTiSiN層72の上面側に形成され、凹部内に埋め込まれる。なお、図1においては、下地膜や、当該下地膜に形成される凹部の記載は省略し、凹部内に形成される膜の積層構造のみを示してある。
【0011】
例えばルテニウム層74の原料として、比抵抗の小さなルテニウム層74を形成することが可能なRu(CO)12が用いられる場合がある。一方で、Ru(CO)12は酸素原子を含んでいるため。下層側に露出しているTiSiN層72と反応し、TiSiN層72とルテニウム層74との境界領域に酸化物層73が形成されてしまう場合がある。酸化物層73の形成は、ルテニウム層74のコンタクト抵抗を上昇させる要因となってしまう。
以下に、このような酸化物層73の形成を抑えつつルテニウム層74を形成して、凹部内にルテニウムを埋め込む技術を示す。
【0012】
<積層構造を形成するための処理>
図2は、図1に示す積層構造を形成する処理の流れを示している。例えばウエハWは、SiO膜に対して凹部が形成され、当該凹部の底面にシリコンウエハ71が露出した状態で搬送されてくる。このシリコンウエハ71の表面には、自然酸化膜が形成されている場合があるので、例えばフッ化水素(HF)ガスとアンモニア(NH)ガスとを用いたエッチング処理により、自然酸化膜を除去する(処理P1)。さらに、この後、ウエハWを加熱することによって、エッチング処理の際に副生した反応生成物を昇華させて除去する処理を行ってもよい。
【0013】
こうして自然酸化膜が除去されたウエハWの表面に、チタン膜が形成される(処理P2)。例えばTiClガスを用いてチタン膜を成膜する場合、TiClガスはチタンをエッチングする作用も有している。一方で、凹部を形成するSiO膜においては、シリコン原子が酸素原子と既に結合しており、チタンとの結合力が弱い。これらのことから、成膜条件によっては、凹部を構成するSiO膜の表面には、チタン膜が殆ど形成されることなく、凹部の底面に露出しているシリコンウエハ71上のみにチタン膜を形成することができる。
【0014】
凹部内に形成されたチタン膜には、窒化処理が行われる(処理P3)。窒化処理としては、窒素(N)ガスのプラズマ、アンモニア(NH)ガスと水素(H)ガスとの混合ガスのプラズマを用いたプラズマ処理を順次実施する場合を例示することができる。後述する成膜装置1においては、チタン膜の成膜(処理P2)と、その窒化処理(処理P3)とを共通の処理モジュール(TiSiN膜形成モジュール102)にて実施する。図2において、処理P2、P3を囲む破線は、このことを示している。
窒化処理が行われたチタン膜に対しては、時間の経過に伴い、下層側のシリコンウエハ71からシリコン原子が拡散し、TiSiN層72が形成される。
【0015】
こうして形成されたTiSiN層72の上面側にルテニウム層74を形成することにより、凹部へのルテニウムの埋め込みが行われる(処理P4)。ルテニウム層74の形成は、ルテニウム原料ガスとして既述のRu(CO)12を用いて行われる。このとき、本開示の成膜法では、成膜条件を調節することにより、酸化物層73の形成を抑えている。
【0016】
<コンタクト抵抗の上昇を抑える手法>
以上に説明した自然膜の除去からルテニウムの埋め込みに至る各処理(処理P1~P4)において、発明者らはルテニウム層74のコンタクト抵抗の上昇を抑制する手法について検討した。
その結果、(1)ルテニウム原料ガスを供給してから、ルテニウム層74の形成が開始されるまでのインキュベーションタイムを短縮し、且つ、その後のルテニウム層74の成膜速度が大きくなるように成膜を行う、(2)処理P1、処理P2、P3及び処理P3を異なるモジュールにて実施する場合には、これらのモジュール間でウエハWが搬送される雰囲気中の酸素濃度を低減する措置を取ることが好適であることが分かった。後述する実験結果に示すように、これらの措置を取ることにより、酸化物層73に対応する領域に取り込まれる酸素の量を低減することができる。
以下、図3図6を参照しながら、これらの措置を講じた条件下でウエハWの処理を実行する成膜装置1の構成について説明する。
【0017】
<成膜装置>
図3に示す成膜装置1は、既述の処理P1~P4を実施する処理モジュール101、102、103を備えたマルチチャンバーシステムとして構成されている。図3に示す成膜装置1は、例えばアルゴン(Ar)ガスにより常圧雰囲気とされる常圧搬送室22を備えている。常圧搬送室22の手前には、例えばウエハWを収容したキャリアCとの間でウエハWの受け渡しを行うためのロードポート21が設置されている。常圧搬送室22の正面壁には、キャリアCとの間でウエハWの搬入出を行う際に開かれる開閉ドア27が設けられている。また常圧搬送室22内には、ウエハWを搬送するための搬送アーム25が設けられている。さらに常圧搬送室22のロードポート21側から見て左側壁には、ウエハWの向きや偏心の調整を行うアライメント室26が設けられている。
【0018】
常圧搬送室22におけるロードポート21の反対側の壁面には、ロードロック室23が接続されている。ロードロック室23は、ウエハWを収容した状態で内部の雰囲気を常圧雰囲気と真空雰囲気との間で切り替える機能を備える。常圧搬送室22側から見て、ロードロック室23は、左右に並ぶように例えば2個、配置されている。常圧搬送室22から見て、これらロードロック室23の奥手側には、真空搬送室24が配置されている。各ロードロック室23に対しては、ゲートバルブ29を介して常圧搬送室22及び真空搬送室24が接続されている。
【0019】
真空搬送室24には、自然除去膜の除去(処理P1)を実施するための酸化膜除去モジュール101と、チタン膜の成膜(処理P2)及びその窒化処理(処理P3)を実施するためのTiSiN膜形成モジュール102と、ルテニウム層74の成膜(処理P4)を行うためのRu膜形成モジュール103とが接続されている。真空搬送室24には、搬送アーム28が設けられており、この搬送アーム28により、各ロードロック室23、各モジュール101、102、103間でのウエハWの受け渡しが行われる。
【0020】
また図3に模式的に示すように、真空搬送室24には排気ライン111が接続され、当該排気ライン111の下流側には、APC(Auto Pressure Controller)を介してターボ分子ポンプ(Turbo Molecular Pump、TPM)113が接続されている。また、真空搬送室24に対しては、不図示のパージガス供給部から、パージガスとしてNガスが供給されている。
【0021】
従来、用いられているドライポンプは、到達圧力が2.66×10-2Pa(2.0×10-4Torr)程度である一方、TMP113は到達圧力が、2.66×10-4Pa(2.0×10-6Torr)程度にもなる。従来、ドライポンプを用いた真空排気により、真空搬送室24内は、例えば53~160Pa(0.4~1.2Torr)の範囲内の107Pa(0.8Torr)に調節されていた。このとき、到達圧力がより低いTMP113を採用することにより、排気量の大きな大型のドライポンプを用いなくても、より大きな排気能力を得ることができる。この結果、設定圧力に変更がない場合、パージガスの供給流量を増やし、真空搬送室24内に残存する酸素濃度を低減することができる。
【0022】
<TiSiN膜形成モジュール>
次に、真空搬送室24に接続されている酸化膜除去モジュール101、TiSiN膜形成モジュール102の構成について説明する。これらのモジュール101、102は、使用するガスが相違する点を除いてほぼ同様に構成されているので、以下、TiSiN膜形成モジュール102の構成について説明する。
図2は、本例のTiSiN膜形成モジュール102の縦断側面図である。このTiSiN膜形成モジュール102は、ウエハWの表面にTiClガス、Hガス及びArガスを連続的に供給し、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法によりチタン膜を成膜する装置として構成されている。さらにTiSiN膜形成モジュール102は、チタン膜に窒化ガスであるNHガス、Nガスなどを供給し、プラズマ処理によりチタン膜を窒化する装置としての機能も備える。
【0023】
TiSiN膜形成モジュール102は、接地されたステンレス製の略円筒状の処理容器310を備えている。処理容器310の底面の中央部には下方に向けて突出する例えば円筒状の排気室311が形成され、排気室311の側面には、排気ライン312が接続されている。
前記排気ライン312には、例えばバタフライバルブからなる圧力調整バルブを含む真空排気部313が接続され、予め設定された圧力まで処理容器310内を減圧できるように構成されている。この処理容器310内の空間にてウエハWの処理が行われる。
【0024】
処理容器310の側面には、真空搬送室24との間でウエハWの搬入出を行うための搬入出口314が形成されている。この搬入出口314はゲートバルブ315により開閉自在に構成されている。さらに処理容器310を構成する壁部内には、処理容器310内の温度を調節するためのヒータ316が埋設されている。
【0025】
また処理容器310内にはウエハWを略水平に保持するための載置台32が設けられている。載置台32は、排気室311の底部から伸びる支持部321によって支持されている。載置台32には加熱部であるヒータ320が埋設され、ウエハWを設定温度に加熱することができる。本例では、ウエハWの加熱温度は600~650℃の範囲内の温度に設定されている。
【0026】
また載置台32には、整合器322を介して、イオンの引き込み用の高周波電力を供給する高周波電源323が接続されている。載置台32には、載置台32上のウエハWを保持して昇降させるための図示しない昇降ピンが設けられている。昇降ピンの昇降により載置台32と外部の図示しない搬送機構との間でウエハWの受け渡しを行うことができる。
【0027】
また処理容器310の天井面には、ウエハWに向けて基板処理ガスを供給するための扁平な円盤状のガスシャワーヘッド33が設けられている。ガスシャワーヘッド33は、絶縁部材317を介して処理容器310に取り付けられている。
ガスシャワーヘッド33の内部には、ガスを拡散させるための拡散室331が形成されている。またガスシャワーヘッド33の底面には、ウエハWに向けてガスを吐出する多数の吐出孔332が分散して設けられている。さらにガスシャワーヘッド33の上面側にはヒータ336が埋設されている。
【0028】
上述のガスシャワーヘッド33には、整合器333を介して、プラズマ形成用の高周波電力を供給する高周波電源334が接続されている。即ち、本開示のTiSiN膜形成モジュール102は、上部電極をなすガスシャワーヘッド33と、下部電極をなす載置台32とにより平行平板型のプラズマ処理装置を構成している。これらガスシャワーヘッド33と載置台32との間の空間にウエハWを載置する。そして、チタン膜の成膜時には、TiClガスやHガスなどを供給し、窒化処理の場合には、NHガスとHガス、またはNガスなどを供給して高周波電力を印加することにより、これらのガスが電離してプラズマが形成される。
【0029】
またガスシャワーヘッド33の拡散室331には、ガス供給路40の下流側端部が接続されている。このガス供給路40の上流側には、チタン原料ガスであるTiClガスの供給用流路であるTiClガス供給管41、プラズマ発生用に添加されるArガスの供給用流路であるArガス供給管42、及び、反応ガスであるHガスの供給用流路であるHガス供給管43が合流している。
【0030】
TiClガス供給管41の上流側端部には、TiClガス供給源410が接続され、上流側から順に流量調節部M41、バルブV41が介設されている。またArガス供給管42の上流側端部には、Arガス供給源420が接続され、上流側から順に流量調節部M42、バルブV42が介設されている。さらにHガス供給管43の上流側端部には、Hガス供給源430が接続され、上流側から順に流量調節部M43、バルブV43が介設されている。
これらTiClガス、Hガス及びArガスの混合ガスは、ガス供給路40を介してガスシャワーヘッド33の拡散室331に流れ込み、吐出孔332を通って処理容器310内に供給される。
【0031】
さらに既述のガス供給路40の上流側には、NHガスの供給用流路であるNHガス供給管44、Nガスの供給用流路であるNガス供給管45が合流している。NHガス、Nガスはいずれも窒化ガスである。NHガス供給管44の上流側端部には、NHガス供給源440が接続され、上流側から順に流量調節部M44、バルブV44が介設されている。またNガス供給管45の上流側端部には、Nガス供給源450が接続され、上流側から順に流量調節部M45、バルブV45が介設されている。
NHガスは、反応ガスであるHガス及びプラズマ形成用のArガスとの混合ガスとして、ガス供給路40を介してガスシャワーヘッド33の拡散室331に流れ込み、吐出孔332を通って処理容器310内に供給される。また、NガスはArガスとの混合ガスとして、同様に処理容器310内に供給される。
【0032】
以上、図4を用いて説明した構成は、ガスの供給を行う機構が、エッチング処理用のHFガス、NHガス、及びプラズマ形成用のArガスの供給を行う構成となっている点を除いて酸化膜除去モジュール101においても同様である。
酸化膜除去モジュール101、TiSiN膜形成モジュール102を構成する処理容器310は、各々、本実施の形態の第1の処理容器、及び第2の処理容器に相当している。
【0033】
<Ru膜形成モジュール>
次に、図5図6を参照しながら、Ru膜形成モジュール103の構成例について説明する。図5は、Ru膜形成モジュール103の全体構成を示す縦断側面図であり、図6はRu膜形成モジュール103に設けられている載置台52に係る拡大縦断側面図である。本例のRu膜形成モジュール103は、ウエハWの表面にRu(CO)12ガス及びCOガスを連続的に供給し、熱CVD法によりRu膜を成膜し、凹部への埋め込みを行う装置として構成されている。
【0034】
処理容器510は、上面が開口する略円筒状の容器である。蓋部531は、処理容器510の開口を気密に塞ぐように配置されると共に、後述のガスシャワーヘッド53を上面側から支持する。
処理容器510の下部側の側面には、排気ライン512が接続されている。排気ライン512には、例えばバタフライバルブからなる圧力調整バルブを含む真空排気部513が接続され、予め設定された圧力まで処理容器510内を減圧できるように構成されている。特に、本例の真空排気部513には、TMPが設けられており、ドライポンプを設ける場合と比較して、処理容器510内をより低圧の状態に維持することができる。
【0035】
本例において、処理容器510内の圧力は、0.5~50Pa(3.8~380mTorr)の範囲内の0.53Pa(4mTorr)に設定されている。後述の実験に示すように、処理容器510内の圧力を低下させると、ルテニウム層74の成膜速度が大きくなり、酸化物層73に相当する領域に取り込まれる酸素の量を低減できることを確認している。上述の圧力範囲は、このような観点を考慮して設定されている。
【0036】
処理容器510の側面には、真空搬送室24との間でウエハWの搬入出を行うための搬入出口514が形成されている。この搬入出口514はゲートバルブ515により開閉自在に構成されている。
【0037】
また処理容器510内にはウエハWを略水平に保持するための載置台52が設けられている。載置台52は、円板状に構成された上部側部材52bと、円環状に構成された下部側部材52aとを上下に重ねた構造となっている。
【0038】
上部側部材52bは、例えば、窒化アルミニウムや石英により構成され、その上面にウエハWが載置される。図6に示すように上部側部材52bの内部には、ウエハWを加熱するためのヒータ520が埋設されている。ヒータ520は、例えば、シート状の抵抗発熱体より構成され、不図示の電源部から電力が供給されることにより発熱し、上部側部材52b上に載置されたウエハWを加熱する。
【0039】
本例において、ヒータ520は、上部側部材52b上のウエハWを、160~200℃の範囲内の180℃に加熱する。後述の実験に示すように、ウエハWの加熱温度を上昇させると、ルテニウム層74の成膜速度が大きくなり、酸化物層73に相当する領域に取り込まれる酸素の量を低減できることを確認している。一方で、ウエハWの加熱温度が高くなりすぎると、成膜されたルテニウム層74にボイドが形成され、ルテニウム層74自体の抵抗値を上昇させるおそれがある。上述の加熱温度範囲は、これらの影響を考慮して設定されている。
【0040】
また、上部側部材52bの下面中央には、下方に向けて伸びる支持部521が接続されている。支持部521は、処理容器510の底部を貫通し、処理容器510の下方側に配置された昇降板524に対してその下端部が接続されている。昇降板524は、昇降機構522の昇降軸によって下面側から支持されている。
【0041】
上述の上部側部材52bの下面側には、下部側部材52aが配置される。下部側部材52aは、温調流体が流れる不図示の流路を備えた温調部材としての機能を有する。また円環状に形成された下部側部材52aの下面中央には、開口の周囲から下方に向けて伸びる、筒状の管体部521aが接続されている。上部側部材52bを支える既述の支持部521は、下部側部材52a及管体部521aの内側に挿入されている。支持部521の外周面と、下部側部材52a及び管体部521aの内周面との間には、数mm程度の隙間が形成されている。
【0042】
管体部521aは、処理容器510の底部を貫通し、その下端部は既述の昇降板524に支持されている。処理容器510と昇降板524との間は、管体部521aの周囲を覆うように配置されたベローズ523が設けられ、処理容器510内を気密に保っている。
【0043】
上述の構成において、昇降板524を昇降させると、ウエハWの載置面を有する上部側部材52bは、処理位置(図5参照)と、その下方側に設定されたウエハWの受け渡し位置と、の間を昇降する。ウエハWは、載置台52に設けられた受け渡しピンを用いて搬送アーム28との間での受け渡しが行われるが、受け渡しピンの記載は省略してある。
【0044】
ここで図6に示すように下部側部材52aの上面と上部側部材52bの下面との間には、管体部521aの内部空間から、下部側部材52aの縁部まで連通し、環状に広がる隙間状の流路526bが形成されている。この流路526bは、下部側部材52aの上面側に形成された複数の突起部52cにより、上部側部材52bを下面側から支えることによって形成されている。
【0045】
また下部側部材52aの上面側の周縁部には、下部側部材52aの外縁に沿って形成された環状突起部52dが設けられている。流路526bを構成する隙間は、下部側部材52aの外周縁の近傍位置にて、この環状突起部52dによって塞がれている。
さらに図6に示すように、上部側部材52bには、ウエハWの載置面の外端位置にて、上部側部材52bを上下に貫通する流路526cが形成されている。流路526cは、上部側部材52bの周方向に沿って複数箇所に形成されている。
【0046】
図5図6に示すように、処理容器510内において、処理位置まで上昇した上部側部材52bの上面側には、環状部材525が配置されている。環状部材525は、ウエハWの処理位置まで移動した上部側部材52bに載置されているウエハWの上面外周部と接触する位置に配置されている。環状部材525は、その自重によって、ウエハWを上部側部材52bの載置面に押し付ける役割を果たす。
【0047】
図6に示すように、環状部材525はL字を横転させた断面形状を有し、下方側へ向けて屈曲する内周部の下端面にてウエハWを押さえる。また環状部材525は、この内周部より外方側へ延びる平坦な下面を備えた本体部を有する。環状部材525の本体部は、上部側部材52bの外周領域の上面、及び当該外周領域を周方向に沿って覆うように設けられたエッジリング527の上面に対して隙間を開けて対向するように配置される。この隙間は、流路526dを構成している。
【0048】
ここで上部側部材52bを処理位置の下方側の受け渡し位置まで移動させると、環状部材525は、不図示の支持部に受け渡された状態となり、真空搬送室24側の搬送アーム28との間でのウエハWの受け渡しを阻害しない構成となっている。
【0049】
図5に示すように、支持部521と管体部521aとの間の隙間部526aには、配管528aを介してパージガス供給部528が接続されている。パージガス供給部528は、載置台52(上部側部材52b)に配置されたウエハWの裏面側へのRu(CO)12の回り込みを抑えるためのパージガスを供給する役割を果たす。パージガス供給部528は、パージガスとしてCOガスを供給する。
【0050】
図6中に破線の矢印で示すように、支持部521と管体部521aとの間の隙間部526aに供給されたパージガスは、下部側部材52aと上部側部材52bとの間の流路526b、上部側部材52bの周縁部に形成された流路526c、上部側部材52bの周縁部及びエッジリング527と環状部材525との間に形成された流路526dを通って処理容器510内へと流れ込む。
パージガス供給部528は、50~100sccm範囲内の例えば100sccmのパージガスを載置台52へと供給する。
【0051】
載置台52(下部側部材52a)に配置されたウエハWと対向する位置には、ガスシャワーヘッド53が設けられている。既述のように、本例のガスシャワーヘッド53は、処理容器510の上面の開口を塞ぐ蓋部531によって支持されている。ガスシャワーヘッド53が、ガスを拡散させるための拡散室と、ウエハWに向けてガスを吐出するための多数の吐出孔とを備えている点は、図4に示すガスシャワーヘッド33と同様である。そこで図5においては、ガスシャワーヘッド53の縦断面形状の記載は省略してある。
【0052】
ガスシャワーヘッド53には、ガス供給路60の下流側端部が接続されている。このガス供給路60の上流側には、ルテニウム原料ガスの供給用流路であるルテニウム原料ガス供給管61が合流している。ルテニウム原料ガス供給管61には、下流側から順にバルブV61、流量計613が設けられ、その上流側端部は原料容器611に接続されている。原料容器611は、不図示のヒータにより加熱されるように構成され、その内部にルテニウム原料612として固体のRu(CO)12を収容している。
原料容器611には、キャリアガス供給管63の一端が原料容器611内に挿入されるように設けられている。キャリアガス供給管63の他端は、流量調節部M63を介してキャリアガスであるCOガスのガス供給源630に接続されている。
【0053】
上述の構成において、原料容器611における反応調節ガス供給管62の加熱温度とガス供給源630からのCOガスの供給流量とを調節することにより、ガスシャワーヘッド53を介して処理容器510に供給されるキャリアガス(COガス)及びRu(CO)12の供給流量を調節する。
【0054】
本例では、COガスの流量が20~300sccmの範囲内の30sccmに調節され、Ru(CO)12の単位時間当たりの供給量が200~1800mg/分の範囲内の300mg/分に調節される。
COガスは、Ru(CO)12の分解を抑制し、ルテニウム層74の成膜速度を低化させる作用がある。この観点で、後述の実験に示すように、キャリアガスとして用いられるCOガスの流量を低下させると、ルテニウム層74の成膜速度が大きくなり、酸化物層73に相当する領域に取り込まれる酸素の量を低減できることを確認している。上述のキャリアガスの流量範囲は、このような観点を考慮して設定されている。
【0055】
また、既述のガス供給路60には、反応調節用ガスであるCOガスの供給用流路であるCOガス供給管62を合流させる構成としてもよい。この場合、COガス供給管62の上流側端部には、COガス供給源620が接続され、上流側から順に流量調節部M62、バルブV62が介設されている。
なお既述のように、ルテニウム層74の成膜速度を大きくして、酸化物層73に相当する領域に取り込まれる酸素の量を低減するためには、COガスの供給流量は少ないことが好ましい。この観点で、次に示すウエハWの処理例では、COガス供給管62からの反応調節用ガスであるCOガスの供給は行わない場合について説明する。
【0056】
上述の構成を備えた成膜装置1は、図2に示すように制御部100を備えている。制御部100は、プログラムを記憶した記憶部、メモリ、CPUを含むコンピュータにより構成される。プログラムは、制御部100から制御部100の各部に向けて制御信号を出力し、ウエハWの搬送や各モジュール101、102、103におけるウエハWの処理を実行するための命令(ステップ)が組まれている。プログラムは、コンピュータの記憶部、例えばフレキシブルディスク、コンパクトディスク、ハードディスク、MO(光磁気ディスク)、不揮発性メモリなどに格納され、この記憶部から読み出されて制御部100にインストールされる。
【0057】
<ウエハの処理>
上述の構成を備える成膜装置1にてウエハWを処理する動作について説明する。
初めに、複数枚のウエハWを収容したキャリアCが、成膜装置1のロードポート21に搬送される。各ウエハWの上面には凹部が形成された状態となっている。ウエハWは、搬送アーム25によってキャリアCから取り出され、常圧搬送室22を介してアライメント室26に搬入され、アライメントが行われた後、ロードロック室23を介して、真空搬送室24に搬入される。
【0058】
続いてウエハWは、搬送アーム28により酸化膜除去モジュール101に搬送される。酸化膜除去モジュール101においては、載置台32にウエハWを配置した後、処理容器310内の圧力調節、ウエハWの温度調節を行う。しかる後、HFガス、NHガス及びArガスを供給すると共に、高周波電源334から高周波電力を印加して、これらのガスをプラズマ化する。プラズマ化したガスにより、凹内に露出するシリコンウエハ71の表面に形成されている自然酸化膜が除去される(自然酸化膜を除去する工程。処理P1)。
【0059】
自然酸化膜の除去が終わったら、搬送アーム28により、酸化膜除去モジュール101の処理容器(第1の処理容器)310から、TiSiN膜形成モジュール102の処理容器(第2の処理容器)310へとウエハWを搬送する。次いで、載置台32にウエハWを配置した後、処理容器310内の圧力調節、ウエハWの温度調節を行う。しかる後、TiClガス、Hガス及びArガスを供給すると共に、高周波電源334から高周波電力を印加して、これらのガスをプラズマ化する。プラズマ化したガスにより、凹内の底部にチタン膜が形成される(チタンを含む層を形成する工程。処理P2)。
【0060】
予め設定された時間、チタン膜の形成を行ったら、TiClガスなどの供給および各高周波電源334、323からの電力の印加を停止する。
次いで、処理容器310に供給するガスをNガスとArガスガスとの混合ガス、NHガスとArガスとの混合ガスに順次、切り替え、同様のプラズマ処理を実施する。これにより、チタン膜の窒化が行われる(チタンを含む層の表面を窒化する工程。処理P3)。また、シリコンウエハ71側から窒化されたチタン膜へシリコン原子が拡散することにより、TiSiN層72が形成される。
【0061】
チタン膜の形成及び窒化処理が終わったら、搬送アーム28により、TiSiN膜形成モジュール102の処理容器(第2の処理容器)310から、Ru膜形成モジュール103の処理容器(第3の処理容器)510へとウエハWを搬送する(第3の処理容器へと前記基板を搬送する工程)。
【0062】
これらモジュール101、102、103間でのウエハWの搬送は、TMP113による真空排気が行われている共通の真空搬送室24を介して実施される。これにより、自然酸化膜の除去や、TiSiN層72の形成が行われた後のウエハWを、真空搬送室24内に残存する酸素濃度が低い環境下にて搬送することが可能となる。この結果、シリコンウエハ71やTiSiN層72への酸素原子の取り込みを抑制し、ルテニウム層74形成後のコンタクト抵抗の増加を抑えることができる。
【0063】
ウエハWをRu膜形成モジュール103の処理容器510に搬入して載置台52に受け渡した後、搬送アーム28を処理容器510内から退避させると共に、受け渡し位置から処理位置へと載置台52を上昇させる(基板を配置する工程)。この動作により、不図示の支持部に支持されていた環状部材525が載置台52に受け渡され、その自重によってウエハWを上部側部材52bの載置面に押し付けた状態となる。
【0064】
次いで、載置台32内の圧力調節、ウエハW裏面へのRu(CO)12の回り込み防止用のパージガスの供給、ウエハWの温度調節を行う(基板を加熱する工程、パージガスを供給する工程)。しかる後、所定の温度に加熱されている原料容器611に対し、ガス供給源630からへキャリアガスを供給する。この動作により、ルテニウム原料612から昇華したRu(CO)12のガスがピックアップされ、キャリアガスと共にガスシャワーヘッド53から処理容器510へと供給される。
このとき、本例においてはガスシャワーヘッド53に対して原料容器611と並列に接続されているガス供給源620からは、反応調節用ガスであるCOガスの供給は行わない。
【0065】
上述の動作により、処理容器510内では、加熱されたウエハW上でRu(CO)12が分解し、ウエハWの表面にルテニウムが堆積していく。このルテニウムの堆積によりルテニウム層74が形成され、凹部へのルテニウムの埋め込みも行われる(ルテニウムを埋め込む工程。処理P4)。
【0066】
このとき、ウエハWが160~200℃の範囲内の180℃に加熱されていることにより、後述の実験結果に比較例として示す加熱温度(155℃)と比較して成膜速度が大きくなる。
また、本例では、ガス供給源630から供給されるキャリアガスの供給流量を20~300sccmの範囲内(好適には200sccm未満)の30sccmに調節し、ガス供給源620側からの反応調節用のCOガスの供給は行わない。なお、回り込み防止用のパージガスの流量は、50~100sccm範囲内の100sccmである。この場合にも、キャリアガスを後述の実験結果に比較例として示すCOガスの供給量(キャリアガス/反応調節用ガス/パージガス=100sccm/100sccm/100sccm)と比較して、成膜速度が大きくなる。
【0067】
また、この処理は、真空排気部513に設けられているTMPを用いた真空排気により、処理容器510内の圧力を0.5~50Pa(3.8~380mTorr)の範囲内の0.53Pa(4mTorr)に設定して実施されている。ドライポンプと比較して、同程度の大きさで排気能力の高いTMPを用いることにより、処理容器510に供給されているCOガスや、Ru(CO)12の分解により生成するCOを効率的に排気することができる。
【0068】
また、後述の実験結果に比較例として示す処理容器510内の圧力(2.21Pa(16.6mTorr))と比べ、処理容器510内の圧力を低下させることにより、Ru(CO)12分子とCO分子との衝突頻度を低減できる。これらの分子の衝突頻度の低減により、CO分子によるRu(CO)12の分解抑制作用が低下し、ルテニウムの成膜速度の向上に寄与する。
このように、処理容器510からの排気流量、処理容器510内の設定圧力の各条件を調節することによってもルテニウム層74の成膜速度を大きくすることができる。
【0069】
以上に説明した各条件のうち、少なくとも処理容器510内の圧力、ウエハWの加熱温度、キャリアガスであるCOガス、及びパージガスであるCOガスの供給流量を既述の範囲内の値に調節する。これらの変数の調節により、ルテニウム層74とTiSiN層72との境界領域(図1の酸化物層73に相当する)における酸素原子の含有割合を2原子%以下とすることができる。この要件を満たすことが可能な各変数の設定値は、例えば事前の成膜実験の結果を参照して特定することができる。
【0070】
こうして予め設定した時間、ルテニウム層74の成膜を実施したら、ルテニウム原料ガスの供給、及びウエハWの加熱を停止する。次いで、処理位置から受け渡し位置へと載置台52を降下させ、搬入時とは反対の動作により処理容器510からウエハWを搬出する。そして、真空搬送室24、ロードロック室23、常圧搬送室22を通ってウエハWを搬送し、元のキャリアCへ処理済みのウエハWを収容する。
【0071】
本実施の形態に係る成膜装置1によれば、インキュベーションタイムの短縮、及び、成膜速度が大きくなる条件を選択してルテニウム層74の成膜を行っている。これにより、下層側に形成されたTiSiN層72との境界領域における酸素の取り込みを抑制し、酸化物層73の形成を抑えつつ、ウエハWの表面に形成された凹部に対してルテニウムの埋め込みを行うことができる。
【0072】
<バリエーション>
ここで、ルテニウムの埋め込みを行うにあたっては、1つの成膜条件にてルテニウム層74の成膜を行うことは必須の要件ではない。例えば、前述のルテニウムを埋め込む工程を、TiSiN層72との境界領域におけるルテニウムの埋め込みを行う第1工程と、次いで、残りの前記凹部内への前記ルテニウムの埋め込みを行う第2工程とに分けてもよい。第1工程では、最終的に成膜されるルテニウム層74の膜厚の5~50%程度の成膜を行い、第2工程にて残りのルテニウム層74を成膜する場合を例示できる。
【0073】
例えば第2工程では、Ru(CO)12と共にキャリアガスとして処理容器510へ供給されるCOガスに加え、反応調節ガスとして0sccmより大きく、800sccm以下の範囲内の流量のCOガスを処理容器510へ供給してもよい。反応調節ガスは、図5に示すガス供給源620から供給される。
既述のようにCOガスは、Ru(CO)12の分解を抑制する作用がある。このため、COガスの供給流量を増やせば、ルテニウム層74の成膜速度が低下し、TiSiN層72との境界領域にて酸素原子が取り込まれやすい状態となってしまう。一方で、成膜速度を低下させた条件下で得られたルテニウム層74は表面が平滑化するという効果がある。
【0074】
そこで、TiSiN層72との境界領域にルテニウム層74の成膜を行う期間中は、反応調節ガスを供給していない条件下で成膜を行い、酸素原子の取り込みを抑制する(第1工程)。次いで、ルテニウム層74によってTiSiN層72が覆われ、酸素原子が取り込まれにくい段階となったら、ガス供給源620からの反応調節ガスの供給を行い、ルテニウム層74の表面を平滑化する効果を得る(第2工程)。
【0075】
なお、第2工程にて変化させる成膜条件は、反応調節ガスの供給開始に限定されない。例えば、基板を加熱する温度を130℃以上、160℃未満の範囲の155℃まで低下させてもよい。この例では、ボイドの形成が少ない良質なルテニウム層74を得られるという効果がある。ウエハWの温度調節は、設定温度の変更によるヒータ520への供給電力の調節と、下部側部材52a内に形成された不図示の流路を流れる温調流体(例えば冷媒)の流量調節とを組み合わせて実施することができる。
【0076】
真空搬送室24の構成や、真空搬送室24に接続するモジュール101、102、103の数は、図3に示す例には限定されない。例えば真空搬送室24に対し、これらのモジュール101、102、103を2組以上接続してもよい。
一方で、ルテニウムの埋め込みは、図3に示したマルチチャンバ型の成膜装置1を用いて実施することは必須の要件ではない。例えば単体のRu膜形成モジュール103からなる成膜装置を用いてもよい。この場合には、凹部内の自然酸化膜の除去やチタン膜の形成、その後の窒化処理は、他の装置にて実施され、その後、処理対象のウエハWがRu膜形成モジュール103である成膜装置に搬送される。
【0077】
この他、真空搬送室24内やRu膜形成モジュール103の処理容器510内を予め設定した圧力に調節する能力を有していれば、これらの空間の真空排気にTMPを用いることは必須の要件ではない。ドライポンプを用いて真空排気を行ってもよい。
【0078】
今回開示された実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【0079】
(実験)
成膜条件を変化させてルテニウム層74の成膜を行った。
A.実験条件
シリコンウエハ71からの自然酸化膜の除去、チタン膜の形成及び窒化処理によるTiSiN層72が形成されたウエハWに対し、図5図6を用いて説明したRu膜形成モジュール103を用い、ルテニウム層74の成膜を行った。得られた膜72~73の積層構造の深さ方向に沿った酸素原子の含有割合の分布を測定した。酸素原子の含有割合は、X線光電子分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy、XPS)法により測定した。
(比較例1)ウエハWの加熱温度を155℃、処理容器510の設定圧力を2.21Pa(16.6mTorr)、キャリアガス/反応調節ガス/パージガスであるCOガスの流量を各々100sccm/100sccm/100sccmとして、10nmのルテニウム層74を成膜し、酸素原子の含有割合の分布を測定した。Ru(CO)12の単位時間当たりの供給量は1400mg/分である。
(参考例1)処理容器510の設定圧力を0.53Pa(4mTorr)、キャリアガス/反応調節ガス/パージガスであるCOガスの流量を30sccm/0sccm/100sccmとした点を除いて、比較例1同様の条件でルテニウム層74の成膜を行った。
(参考例2)ウエハWの加熱温度を195℃とした点を除いて、比較例1同様の条件でルテニウム層74の成膜を行った。
【0080】
B.実験結果
参考例1、2及び比較例1の結果を図7に示す。図7の横軸は、ウエハWの表面からの深さ、縦軸は各深さ位置における酸素原子の含有割合を百分率表記してある。インキュベーション時間を除くルテニウム層74の成膜速度は、比較例1は1.5nm/分、参考例1は6.9nm/分、参考例2は8.1nm/分であった。
【0081】
図7に示す結果によると、成膜速度が最も小さい比較例1では、深さ12~14nm付近の境界領域(図1の酸化物層73が形成される領域に相当)において、酸素の含有割合の最大値が3.5原子%程度となっている。これはRu(CO)12に含まれる酸素原子がTiSiN層72との反応により取り込まれた結果であると考えられる。
【0082】
一方、処理容器510の設定圧力を低下させると共に、キャリアガスの流量を低減し、反応調節ガスの供給を停止した参考例1では、境界領域における酸素の含有割合の最大値が2.0原子%程度まで低減されている。また、ウエハWの加熱温度を高くした参考例2においても、同値が2.7原子%まで低減された。
【0083】
従って、処理容器510の設定圧力、キャリアガスの流量、反応調節ガスの供給停止、ウエハWの加熱温度の各変数の調整により、酸素の低減効果が得られることを確認できた。そこで、これらの変数について、既述の実施形態にて説明した範囲内の値に調節することにより、前記境界領域における酸素原子の含有量を2原子%以下とすることは可能であると言える。
【符号の説明】
【0084】
W ウエハ
1 成膜装置
103 Ru膜形成モジュール
510 処理容器
52 載置台
528 パージガス供給部
528a 配管
612 ルテニウム原料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7