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  • 特開-改変光受容クロライドチャネル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047858
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】改変光受容クロライドチャネル
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20230330BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230330BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230330BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230330BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20230330BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20230330BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230330BHJP
   C07K 14/405 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
C12N15/31
C12N5/10 ZNA
A61P27/02
A61K48/00
A61K35/12
A61K38/16
C12N15/62 Z
C07K14/405
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021157009
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(71)【出願人】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】冨田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】菅野 江里子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅之
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA27
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA07
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084CA53
4C084MA17
4C084MA58
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA331
4C084ZA332
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087CA12
4C087MA17
4C087MA58
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA33
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045CA45
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】光反応特性に優れる改変光受容クロライドチャネルを提供する。
【解決手段】本開示は、GtACR1のアミノ酸配列において少なくとも3番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域がGtACR2の対応する領域で置換されたアミノ酸配列を含む改変光受容クロライドチャネルなどを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グィラルディア・セータ アニオンチャネルロドプシン-1(GtACR1)のアミノ酸配列において少なくとも3番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域がグィラルディア・セータ アニオンチャネルロドプシン-2(GtACR2)の対応する領域で置換されたアミノ酸配列を含む、改変光受容クロライドチャネル。
【請求項2】
GtACR1のアミノ酸配列において2番目の膜貫通ドメインと3番目の膜貫通ドメインの間の細胞外ドメインおよび/または6番目の膜貫通ドメインと7番目の膜貫通ドメインの間の細胞外ドメインがGtACR2の対応するドメインでさらに置換されたアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の改変光受容クロライドチャネル。
【請求項3】
GtACR1のアミノ酸配列において3番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域および6番目の膜貫通ドメインと7番目の膜貫通ドメインの間の細胞外ドメインがGtACR2の対応する領域で置換されたアミノ酸配列を含む、請求項1または2に記載の改変光受容クロライドチャネル。
【請求項4】
GtACR1のアミノ酸配列において少なくとも2番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域がGtACR2の対応するドメインで置換されたアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の改変光受容クロライドチャネル。
【請求項5】
GtACR1のアミノ酸配列において1番目の膜貫通ドメインと2番目の膜貫通ドメインの間の細胞内ドメインおよび/または6番目の膜貫通ドメインと7番目の膜貫通ドメインの間の細胞外ドメインがGtACR2の対応するドメインでさらに置換されたアミノ酸配列を含む、請求項4に記載の改変光受容クロライドチャネル。
【請求項6】
GtACR1のアミノ酸配列において2番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域および6番目の膜貫通ドメインと7番目の膜貫通ドメインの間の細胞外ドメインがGtACR2の対応する領域で置換されたアミノ酸配列を含む、請求項5に記載の改変光受容クロライドチャネル。
【請求項7】
GtACR1が配列番号1のアミノ酸配列からなる、請求項1~6のいずれかに記載の改変光受容クロライドチャネル。
【請求項8】
GtACR2が配列番号2のアミノ酸配列からなる、請求項1~7のいずれかに記載の改変光受容クロライドチャネル。
【請求項9】
下記(a-1)~(c-1)から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含む、請求項1~8のいずれかに記載の改変光受容クロライドチャネル:
(a-1)配列番号6のアミノ酸配列、
(b-1)配列番号6のアミノ酸配列において1個または複数個のアミノ酸が改変されたアミノ酸配列、および
(c-1)配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列。
【請求項10】
下記(a-2)~(c-2)から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含む、請求項1~8のいずれかに記載の改変光受容クロライドチャネル:
(a-2)配列番号7のアミノ酸配列、
(b-2)配列番号7のアミノ酸配列において1個または複数個のアミノ酸が改変されたアミノ酸配列、および
(c-2)配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の改変光受容クロライドチャネルをコードするポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項1~10のいずれかに記載の改変光受容クロライドチャネルを発現する細胞。
【請求項13】
細胞が、網膜を構成する細胞である、請求項12に記載の細胞。
【請求項14】
網膜外層の障害を患う被検体を治療するための、請求項1~10のいずれかに記載の改変光受容クロライドチャネル、請求項11に記載のポリヌクレオチド、または請求項12または13に記載の細胞を含む医薬組成物。
【請求項15】
網膜外層の障害が、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症、または網膜はく離である、請求項14に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、改変光受容クロライドチャネルに関する。
【背景技術】
【0002】
視細胞は、網膜外層に存在する光受容細胞であり、受容した光を電気信号に変換して網膜神経細胞へと伝達する。視細胞が何らかに理由により変性または消失すると光情報伝達が阻害され、視力の低下や失明に至る。視細胞の光受容には光受容タンパク質が関与しており、光受容タンパク質の遺伝子導入により視機能の回復を図る研究が進められている。例えば、緑藻の一種であるグィラルディア・セータ(Guillardia theta)の光受容クロライドチャネルであるグィラルディア・セータ アニオンチャネルロドプシン-1(Guillardia theta anion channel rhodopsin 1,本明細書中GtACR1とも記載する)(非特許文献1)が注目されており、GtACR1のArg83およびAsn239をGluに置換した改変光受容クロライドチャネルも報告されている(非特許文献2)。このように、光遺伝学(オプトジェネティクス)による視機能回復のため、優れた光反応特性を有する改変光受容クロライドチャネルが望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Govorunova,E.G.et al.,Natural light-gated anion channels:a family of microbial rhodopsins for advanced optogenetics.,Science,349,647-650(2015)
【非特許文献2】Hideaki E.Kato et al.,Structural mechanisms of selectivity and gating in anion channelrhodopsins.,Nature,561,349-354(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、光反応特性に優れる改変光受容クロライドチャネルを提供することを目的とする。本開示はまた、かかる改変光受容クロライドチャネルをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、およびかかる改変光受容クロライドチャネルを発現する細胞を提供することを目的とする。本開示はまた、網膜外層の障害を患う被検体を治療するための医薬組成物および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様において、本開示は、GtACR1のアミノ酸配列において少なくとも3番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域がGtACR2の対応する領域で置換されたアミノ酸配列を含む改変光受容クロライドチャネルに関する。
【0006】
一態様において、本開示は、前記改変光受容クロライドチャネルをコードするポリヌクレオチドに関する。
【0007】
一態様において、本開示は、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターに関する。
【0008】
一態様において、本開示は、前記改変光受容クロライドチャネルを発現する細胞に関する。
【0009】
一態様において、本開示は、網膜外層の障害を患う被検体を治療するための、前記改変光受容クロライドチャネル、前記ポリヌクレオチド、前記発現ベクター、または前記細胞を含む医薬組成物に関する。
【0010】
一態様において、本開示は、網膜外層の障害を患う被検体を治療する方法であって、前記改変光受容クロライドチャネル、前記ポリヌクレオチド、前記発現ベクター、または前記細胞を前記被検体に投与することを含む方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示により、光反応特性に優れる改変光受容クロライドチャネル、かかる改変光受容クロライドチャネルをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、およびかかる改変光受容クロライドチャネルを発現する細胞が提供される。また、本開示により、前記改変光受容クロライドチャネル、ポリヌクレオチド、発現ベクター、または細胞を含む網膜外層の障害を患う被検体を治療するための医薬組成物、および前記改変光受容クロライドチャネル、ポリヌクレオチド、発現ベクター、または細胞を網膜外層の障害の患う被検体に投与することを含む網膜外層の障害の治療方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、野生型(GtACR1およびGtACR2)および改変型(601、602、603、605、606)の光受容クロライドチャネルの構造を示す。黒ボックスおよび実線の領域はGtACR1に由来し、白ボックスおよび破線の領域はGtACR2に由来する。
図2図2は、組換え体605の発現のためのベクターマップを示す。
図3図3は、GtACR1およびGtACR2、並びに組換え体605および606の光誘発電流を示す。
図4図4は、GtACR2、並びに組換え体605および606のτon(開速度:光照射を始めてからチャネルが開くまでの時間)を示す。
図5図5は、GtACR2、並びに組換え体605および606のτoff(閉速度:光照射を止めてからチャネルが閉じるまでの時間)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
特に具体的な定めのない限り、本明細書で使用される用語は、有機化学、医学、薬学、分子生物学、微生物学等の分野における当業者に一般に理解されるとおりの意味を有する。以下にいくつかの本明細書で使用される用語についての定義を記載するが、これらの定義は、本明細書において、一般的な理解に優先する。
【0014】
本明細書において、アミノ酸残基は、通常のように、以下の略号で表される。

AlaまたはA:アラニン
ArgまたはR:アルギニン
AsnまたはN:アスパラギン
AspまたはD:アスパラギン酸
CysまたはC:システイン
GlnまたはQ:グルタミン
GluまたはE:グルタミン酸
GlyまたはG:グリシン
HisまたはH:ヒスチジン
IleまたはI:イソロイシン
LeuまたはL:ロイシン
LysまたはK:リジン
MetまたはM:メチオニン
PheまたはF:フェニルアラニン
ProまたはP:プロリン
SerまたはS:セリン
ThrまたはT:スレオニン
TrpまたはW:トリプトファン
TyrまたはY:チロシン
ValまたはV:バリン

本明細書において、あるアミノ酸配列におけるアミノ酸残基は、そのアミノ残基を表す略号と位置を表す数字とで(例えば、92番目のトリプトファン残基を「Trp92」として)示されることがある。
【0015】
本開示は、改変光受容クロライドチャネルに関する。光受容クロライドチャネルとは、光に反応して開閉するクロライドチャネルを意味する。本開示において、改変光受容クロライドチャネルとは、天然に存在する光受容クロライドチャネルとは異なるアミノ酸配列からなる光受容クロライドチャネルを意味する。本開示の改変光受容クロライドチャネルは、グィラルディア・セータ(Guillardia theta)の光受容クロライドチャネルであるグィラルディア・セータ アニオンチャネルロドプシン-1(Guillardia theta anion channel rhodopsin 1,本明細書中GtACR1とも記載する)およびグィラルディア・セータ アニオンチャネルロドプシン-2(Guillardia theta anion channel rhodopsin 2,本明細書中GtACR2とも記載する)それぞれのアミノ酸配列の一部を含む。GtACR1およびGtACR2の代表的アミノ酸配列を配列番号1および2にそれぞれ示す。
【0016】
GtACR1およびGtACR2は、7回膜貫通タンパク質であり、7つの膜貫通ドメインを有する。本明細書において、タンパク質のあるドメインについて「n番目」というとき、N末端側から数えてn番目のドメインを意味する。具体的には、「n番目の膜貫通ドメイン」とは、N末端側から数えてn番目の膜貫通ドメインを意味する。GtACR1およびGtACR2において、そのN末端から1番目の膜貫通ドメインまで、2番目の膜貫通ドメインと3番目の膜貫通ドメインの間、4番目の膜貫通ドメインと5番目の膜貫通ドメインの間、6番目の膜貫通ドメインと7番目の膜貫通ドメインの間の領域は、細胞外ドメインであり、1番目の膜貫通ドメインと2番目の膜貫通ドメインの間、3番目の膜貫通ドメインと4番目の膜貫通ドメインの間、5番目の膜貫通ドメインと6番目の膜貫通ドメインの間、および7番目の膜貫通ドメインからC末端までの領域は、細胞内ドメインである。
【0017】
本開示の改変光受容クロライドチャネルは、GtACR1のアミノ酸配列において少なくとも3番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域がGtACR2の対応する領域で置換されたアミノ酸配列を含む。改変光受容クロライドチャネルは、GtACR1のアミノ酸配列において3番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域がGtACR2の対応する領域で置換されていることに加え、GtACR1のアミノ酸配列における他のドメインまたは領域が改変されていてもよい。例えば、改変光受容クロライドチャネルは、GtACR1のアミノ酸配列において3番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域に加え、2番目の膜貫通ドメインと3番目の膜貫通ドメインの間の細胞外ドメイン、および/または、6番目の膜貫通ドメインと7番目の膜貫通ドメインの間の細胞外ドメインが、GtACR2の対応する領域でさらに置換されたアミノ酸配列を含んでもよい。例えば、改変光受容クロライドチャネルは、GtACR1のアミノ酸配列において3番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域に加え、6番目の膜貫通ドメインと7番目の膜貫通ドメインの間の細胞外ドメインが、GtACR2の対応する領域で置換されたアミノ酸配列を含みうる。
【0018】
一実施形態において、改変光受容クロライドチャネルは、GtACR1のアミノ酸配列において少なくとも2番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域がGtACR2の対応するドメインで置換されたアミノ酸配列を含む。改変光受容クロライドチャネルは、GtACR1のアミノ酸配列において2番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域に加え、1番目の膜貫通ドメインと2番目の膜貫通ドメインの間の細胞内ドメイン、および/または、6番目の膜貫通ドメインと7番目の膜貫通ドメインの間の細胞外ドメインが、GtACR2の対応するドメインでさらに置換されたアミノ酸配列を含んでもよい。例えば、改変光受容クロライドチャネルは、GtACR1のアミノ酸配列において2番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域に加え、6番目の膜貫通ドメインと7番目の膜貫通ドメインの間の細胞外ドメインが、GtACR2の対応するドメインでさらに置換されたアミノ酸配列を含みうる。
【0019】
配列番号1および2における7つの膜貫通ドメイン(TM1~7)を以下に示す。配列番号1において、3番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域はTrp92~Phe213であり、2番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域はGlu60~Phe213である。配列番号2において、3番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域はTrp88~Ile209であり、2番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域はGlu56~Ile209である。

【0020】
一実施形態において、改変光受容クロライドチャネルは、GtACR1のアミノ酸配列において3番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域、および、6番目の膜貫通ドメインと7番目の膜貫通ドメインの間の細胞外ドメインが、GtACR2の対応する領域で置換されたアミノ酸配列を含む。かかる改変光受容クロライドチャネルの代表的アミノ酸配列を配列番号6に示す。以下において、GtACR2に由来する配列を太字で示す。

【0021】
一実施形態において、改変光受容クロライドチャネルは、GtACR1のアミノ酸配列において2番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域、および、6番目の膜貫通ドメインと7番目の膜貫通ドメインの間の細胞外ドメインが、GtACR2の対応する領域で置換されたアミノ酸配列を含む。かかる改変光受容クロライドチャネルの代表的アミノ酸配列を配列番号7に示す。以下において、GtACR2に由来する配列を太字で示す。

【0022】
改変光受容クロライドチャネルは、クラミドモナス・レインハルトチイ(Chlamydomonas reinhardtii)の光受容タンパク質であるクラミドモナス・レインハルトチイ チャネルロドプシン-1(Chlamydomonas reinhardtii channel rhodopsin 1)(本明細書中ChR1とも記載する)のN末端領域の全体または一部のアミノ酸配列をN末端に含んでもよい。ChR1のN末端領域は、細胞膜上、特に哺乳類細胞膜上での局在発現に関与することが知られている。本明細書において「ChR1のN末端領域」とは、ChR1のN末端から1番目の膜貫通ドメインまでの領域を意味する。ChR1のN末端領域は、改変光受容クロライドチャネルにおいて、GtACR1のアミノ酸配列のN末端に付加されてもよく、GtACR1のN末端から1番目の膜貫通ドメインまでの領域の全体または一部と置換されてもよい。一実施形態において、ChR1のN末端領域は、GtACR1のアミノ酸配列のN末端に付加されている。
【0023】
一実施形態において、改変光受容クロライドチャネルは、下記(a-1)~(c-1)から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含む、または前記アミノ酸配列からなる。
(a-1)配列番号6のアミノ酸配列、
(b-1)配列番号6のアミノ酸配列において1個または複数個のアミノ酸が改変されたアミノ酸配列、および
(c-1)配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列。
一実施形態において、改変光受容クロライドチャネルは、配列番号6のアミノ酸配列を含む、または前記アミノ酸配列からなる。
【0024】
一実施形態において、改変光受容クロライドチャネルは、下記(a-2)~(c-2)から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含む、または前記アミノ酸配列からなる。
(a-2)配列番号7のアミノ酸配列、
(b-2)配列番号7のアミノ酸配列において1個または複数個のアミノ酸が改変されたアミノ酸配列、および
(c-2)配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列。
一実施形態において、改変光受容クロライドチャネルは、配列番号7のアミノ酸配列を含む、または前記アミノ酸配列からなる。
【0025】
アミノ酸の改変には、欠失、置換、付加、および挿入が含まれる。アミノ酸配列が複数個のアミノ酸の改変を含む場合、各アミノ酸の改変は欠失、置換、付加、および挿入から独立に選択される。アミノ酸の改変は、1~30個、1~20個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1個または2個でありうる。
【0026】
本明細書において、アミノ酸配列または塩基配列についての「配列同一性」とは、比較対象の配列と、その配列の全領域にわたって最適な状態に(一致が最大となる状態に)アラインメントされた配列の、2つの配列間で一致するアミノ酸残基または塩基の割合を意味する。2つの配列の最適なアラインメントにおいて、付加または欠失(例えばギャップ等)が存在してもよい。配列同一性は、公共のデータベース(例えば、DDBJ(http://www.ddbj.nig.ac.jp))で提供されるFASTA、BLAST、CLUSTAL W等のプログラムを用いて算出することができる。あるいは、市販の配列解析ソフトウェア(例えば、Vector NTI(登録商標)ソフトウェア、GENETYX(登録商標)ver.12)を用いて求めることもできる。配列同一性は、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%でありうる。
【0027】
改変光受容クロライドチャネルのアミノ酸長は、例えば、260、270、280、または290アミノ酸以上、400、390、380、370、360、350、340、330、320、310、または300アミノ酸以下でありうる。
【0028】
一実施形態において、改変光受容クロライドチャネルは、配列番号6または7のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等の生物学的活性を有する。生物学的活性には、光誘発電流、波長感受域、τon、およびτoffが含まれる。改変光受容クロライドチャネルが参照ポリペプチドと「同等の生物学的活性を有する」という場合、少なくとも1つの生物学的活性が参照ポリペプチドと同等であることを意味する。生物学的活性は、実施例に記載のように測定することができる。一実施形態において、改変光受容クロライドチャネルは、参照ポリペプチドの光誘発電流、τon、またはτoffの、70%、80%、または90%以上、130%、120%、または110%以下の光誘発電流、τon、またはτoffを有する。一実施形態において、改変光受容クロライドチャネルは、400nm~560nmの波長感受域を有する。
【0029】
本開示の改変光受容クロライドチャネルは、遺伝子工学的手法により製造することができる。例えば、改変光受容クロライドチャネルは、改変光受容クロライドチャネルをコードするポリヌクレオチド(以下、本開示のポリヌクレオチドともいう)を用いて、調製することができる。配列番号6および7のアミノ酸配列をコードする塩基配列の例をそれぞれ配列番号13および14に示す。

配列番号13:
ATGAGCAGCATCACCTGTGATCCCGCCATCTACGGCGAGTGGTCCCGCGAGAATCAGTTCTGCGTGGAAAAGAGCCTGATCACCCTGGACGGCATCAAATACGTGCAGCTGGTCATGGCCGTGGTGTCCGCTTGCCAGGTGTTCTTCATGGTCACACGGGCCCCTAAGGTGCCCTGGGAAGCTATCTACCTGCCTACCACCGAGATGATCACCTACAGCCTGGCCTTCACCGGCAACGGCTATATCAGAGTGGCCAACGGCAAGTACCTGCCTTGGAGCCGAATGGCCTCCTGGCTGTGCACCTGTCCAATCATGCTGGGACAGATTTCTAACATGGCTCTGGTGAAGTACAAAAGTATCCCACTGAACCCTATCGCTCAGGCCGCCAGCATCATCAGAGTCGTGATGGGCATCACCGCCACCATCTCTCCAGCCGAGTATATGAAGTGGCTGTTCTTCTTCTTCGGCGCCACCTGTCTGGTGTTCGAGTACAGCGTGGTGTTCACCATCTTCCAAGTGGGCCTGTACGGCTTCGAGAGCGTGGGAACACCTCTGGCTCAGAAAGTGGTCGTGCGGATCAAGATGCTGCGGCTGATCTTCTTTATCGCCTGGACCATGTTTCCCATCGTGTGGCTGATTAGCCCCACCGGCGTGTGTGTGATCCACGAGAATACCAGCAGCGTGCTGTACCTGCTGGGAGATGCCCTGTGCAAGAATACCTACGGCATCCTGCTGTGGGCCACCACATGGGGACTGCTGAATGGCAAGTGGGACAGAGACTACGTGAAGGGCAGAAACGTGGACGGCACCCTGATGCCTGAGTACGAGCAGGATCTGGAAAAGGGCAACACCGAGAGATACGAGGATGCCAGAGCTGGCGAAACG

配列番号14:
ATGAGCAGCATCACCTGTGATCCCGCCATCTACGGCGAGTGGTCCCGCGAGAATCAGTTCTGCGTGGAAAAGAGCCTGATCACCCTGGACGGCATCAAATACGTGCAGCTGGTCATGGCCGTGGTGTCCGCTTGCCAGGTGTTCTTCATGGTCACACGGGCCCCTAAGGTGCCCTGGGAGTCCGTGTACCTGCCCTTTGTCGAATCTATCACTTATGCACTGGCCAGTACTGGCAACGGAACCCTGCAGATGAGGGACGGCAGATTCTTTCCTTGGAGCCGAATGGCCTCCTGGCTGTGCACCTGTCCAATCATGCTGGGACAGATTTCTAACATGGCTCTGGTGAAGTACAAAAGTATCCCACTGAACCCTATCGCTCAGGCCGCCAGCATCATCAGAGTCGTGATGGGCATCACCGCCACCATCTCTCCAGCCGAGTATATGAAGTGGCTGTTCTTCTTCTTCGGCGCCACCTGTCTGGTGTTCGAGTACAGCGTGGTGTTCACCATCTTCCAAGTGGGCCTGTACGGCTTCGAGAGCGTGGGAACACCTCTGGCTCAGAAAGTGGTCGTGCGGATCAAGATGCTGCGGCTGATCTTCTTTATCGCCTGGACCATGTTTCCCATCGTGTGGCTGATTAGCCCCACCGGCGTGTGTGTGATCCACGAGAATACCAGCAGCGTGCTGTACCTGCTGGGAGATGCCCTGTGCAAGAATACCTACGGCATCCTGCTGTGGGCCACCACATGGGGACTGCTGAATGGCAAGTGGGACAGAGACTACGTGAAGGGCAGAAACGTGGACGGCACCCTGATGCCTGAGTACGAGCAGGATCTGGAAAAGGGCAACACCGAGAGATACGAGGATGCCAGAGCTGGCGAAACG
【0030】
一実施形態において、改変光受容クロライドチャネルをコードするポリヌクレオチドは、下記(d-1)~(f-1)から選択される:
(d-1)配列番号6のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む、または前記塩基配列からなる、ポリヌクレオチド、
(e-1)配列番号6のアミノ酸配列において1個または複数個のアミノ酸が改変されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む、または前記塩基配列からなる、ポリヌクレオチド、および
(f-1)配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む、または前記塩基配列からなる、ポリヌクレオチド。
一実施形態において、改変光受容クロライドチャネルをコードするポリヌクレオチドは、配列番号6のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む、または前記塩基配列からなる。
【0031】
一実施形態において、改変光受容クロライドチャネルをコードするポリヌクレオチドは、下記(d-2)~(f-2)から選択される:
(d-2)配列番号7のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む、または前記塩基配列からなる、ポリヌクレオチド、
(e-2)配列番号7のアミノ酸配列において1個または複数個のアミノ酸が改変されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む、または前記塩基配列からなる、ポリヌクレオチド、および
(f-2)配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む、または前記塩基配列からなる、ポリヌクレオチド。
一実施形態において、改変光受容クロライドチャネルをコードするポリヌクレオチドは、配列番号7のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む、または前記塩基配列からなる。
【0032】
一実施形態において、改変光受容クロライドチャネルをコードするポリヌクレオチドは、下記(g-1)~(i-1)から選択される:
(g-1)配列番号13の塩基配列を含む、または前記塩基配列からなる、ポリヌクレオチド、
(h-1)配列番号13の塩基配列を含む、または前記塩基配列からなるポリヌクレオチドの相補鎖に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
(i-1)配列番号13の塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有する塩基配列を含む、または前記塩基配列からなる、ポリヌクレオチド。
一実施形態において、改変光受容クロライドチャネルをコードするポリヌクレオチドは、配列番号13の塩基配列を含む、または前記塩基配列からなる。
【0033】
一実施形態において、改変光受容クロライドチャネルをコードするポリヌクレオチドは、下記(g-2)~(i-2)から選択される:
(g-2)配列番号14の塩基配列を含む、または前記塩基配列からなる、ポリヌクレオチド、
(h-2)配列番号14の塩基配列を含む、または前記塩基配列からなるポリヌクレオチドの相補鎖に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
(i-2)配列番号14の塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有する塩基配列を含む、または前記塩基配列からなる、ポリヌクレオチド。
一実施形態において、改変光受容クロライドチャネルをコードするポリヌクレオチドは、配列番号14の塩基配列を含む、または前記塩基配列からなる。
【0034】
本明細書において、ストリンジェントな条件でのハイブリダイゼーションとは、例えば、30~50℃、3~4×SSC(150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム、pH7.2)、0.1~0.5%SDS中で1~24時間のハイブリダイゼーション、好ましくは40~45℃、3.4×SSC、0.3%SDS中で1~24時間のハイブリダイゼーション、そしてその後の洗浄を含む。洗浄条件としては、例えば、2×SSCと0.1%SDSとを含む溶液、および1×SSC溶液および/または0.2×SSC溶液による室温での連続した洗浄などの条件が挙げられる。上記条件の組み合わせは例示であり、当業者であればハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記の要素や他の要素(例えば、ハイブリダーゼーションプローブの濃度、長さおよびGC含量、ハイブリダイゼーションの反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することができる。
【0035】
改変光受容クロライドチャネルをコードするポリヌクレオチドの塩基長は、例えば、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、または880塩基以上、1200、1100、1000、990、980、970、960、950、940、930、920、910、900、または890塩基以下でありうる。
【0036】
本開示の改変光受容クロライドチャネルは、例えば、以下のように製造することができる。まず、改変光受容クロライドチャネルをコードするポリヌクレオチドを調製する。前記ポリヌクレオチドは、当業者に公知の手法によって調製することができる。例えば、改変光受容クロライドチャネルをコードするポリヌクレオチドは、GtACR1およびGtACR2をそれぞれコードするポリヌクレオチドの配列情報に基づいて化学合成することで調製することができる。あるいは、改変光受容クロライドチャネルをコードするポリヌクレオチドは、GtACR1およびGtACR2をそれぞれコードするポリヌクレオチドの配列情報に基づき、各ポリヌクレオチドの所望領域を増幅するPCRプライマーを用いて当該領域を増幅し、例えばGibson Assemblyシステム(New England Biolabs社)等を用いて連結することによって調製することもできる。次に、プロモーターと機能的に連結された前記ポリヌクレオチドを、宿主内で複製維持が可能であり、コードされるポリペプチドを安定に発現させることができ、このポリヌクレオチドを安定に保持できる発現ベクターに組み込み、得られた組換え発現ベクターを用いて宿主を形質転換し、宿主において改変光受容クロライドチャネルを生産させることができる。組換え技術については、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,1984 81:5662や、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(1989)Second edition,Cold Spring Harbor Laboratory Pressなどを参照することができる。
【0037】
発現ベクターとしては、大腸菌(Escherichia coli)由来のプラスミド(例えばpET28、pGEX4T、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、および他のプラスミドDNA)、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5、および他のプラスミドDNA)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YEp24、YCp50、および他のプラスミドDNA)、λファージ(例えばλgt11およびλZAP)、哺乳動物用プラスミド(例えばpCMVおよびpSV40)、ウイルスベクター(例えばアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクターなどの動物ウイルスベクター、バキュロウイルスベクターなどの昆虫ウイルスベクター)、植物用ベクター(例えばバイナリベクターpBI系)、コスミドベクターなどを用いることができる。
【0038】
本明細書において、プロモーターと機能的に連結されたポリヌクレオチドとは、そのポリヌクレオチドの転写を開始することができるようにプロモーターと結合しているポリヌクレオチドをいう。プロモーターは特に制限されず、宿主に応じて適するプロモーターを選択すればよく、公知の構成的プロモーターや誘導性プロモーターを用いることができるが、構成的プロモーターを用いることが好ましい。プロモーターの例としては、CMVプロモーター、SV40プロモーター、CAGプロモーター、シナプシンプロモーター、ロドプシンプロモーター、CaMVプロモーター、解糖系酵素プロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、tacプロモーター、GAPDHプロモーター、GAL1プロモーター、PH05プロモーター、PGKプロモーター、thy1プロモーター、GRKプロモーター、RPEJプロモーターなどが挙げられる。改変光受容クロライドチャネルを特定の細胞で特異的に発現させることを目的として、プロモーターの上流にその細胞で特異的に発現しているポリペプチド遺伝子の転写調節領域(例えば視細胞で特異的に発現しているIRBP(Interphotoreceptor retinoid binding protein)の転写調節領域(Marjorie Nicoud et al.,The Journal of Gene Medicine,Volume 9,Issue12,1013-1107,December 2007))を結合してもよい。
【0039】
改変光受容クロライドチャネルをコードするポリヌクレオチドの発現ベクターへの挿入は、例えば、前記ポリヌクレオチドにフランキングする制限酵素部位を作製または連結し、適当なベクターDNAの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入することにより行うことができる。発現ベクターは、プロモーターおよび本開示のポリヌクレオチドに加え、必要に応じてエンハンサーまたは他のシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー(アンピシリン耐性マーカー、テトラサイクリン耐性マーカーなどの薬剤耐性遺伝子マーカー、LEU1、TRP1、URA3などの栄養要求性相補遺伝子マーカー、APH、DHFR、TKなどの優性選択マーカーなど)、リボソーム結合部位(RBS)などを含んでもよい。
【0040】
宿主の形質転換は、プロトプラスト法、スフェロプラスト法、コンピテントセル法、ウイルス法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、ジーンボンバートメント法、アグロバクテリウム法、エレクトロポレーションなどを用いて行うことができる。得られた形質転換体は、炭素源、窒素源、金属塩、ビタミンなどを含む培地を用いて適当な条件で培養する。形質転換体の培養は、例えば、好気的条件下、25~37℃で3~6時間行う。培養期間中、pHは中性付近に保持する。pHの調整は、無機または有機酸、アルカリ溶液などを用いて行う。培養中は、必要に応じて、組換え発現ベクターに挿入した選択マーカーに応じて、アンピシリンやテトラサイクリンなどの抗生物質を培地に添加してもよい。
【0041】
形質転換に使用する宿主は、改変光受容クロライドチャネルを発現できるものであれば特に制限されず、例えば、細菌(大腸菌や枯草菌)、酵母(Saccharomyces cerevisiaeなど)、動物細胞(COS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、3T3細胞、BHK細胞、HEK293細胞など)、昆虫細胞などを用いることができる。
【0042】
改変光受容クロライドチャネルは、形質転換体の培養により得られた培養物(培養上清、培養細胞、培養菌体、細胞や菌体のホモジェネートなど)から一般的な方法によって分取や精製を行い、限外濾過濃縮、凍結乾燥、噴霧乾燥、結晶化などの方法を適宜用いることによって、その活性を保持する形態で得ることができる。あるいは、改変光受容クロライドチャネルは、単離や精製を行うことなく、改変光受容クロライドチャネルを発現する細胞の形態で提供されてもよい。この場合、形質転換に使用する宿主細胞は、その後の用途に適した宿主細胞、例えば網膜を構成する細胞、具体的には神経細胞(視細胞、双極細胞、神経節細胞など)または網膜色素上皮細胞でありうるが、その他の細胞であってもよい。一実施形態において、宿主細胞は、ヒトの網膜を構成する細胞である。
【0043】
本開示は、上記のとおり、本開示の改変光受容クロライドチャネルをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、本開示の改変光受容クロライドチャネルを発現する細胞を提供する。
【0044】
本開示の改変光受容クロライドチャネルは、GtACR1よりも波長感受域が狭く、GtACR2と比較すると波長感受域は同等であるがτonおよびτoffが短いという、優れた光反応特性を有する。波長感受域が狭いことは、神経細胞の興奮と抑制を制御するための波長の選択を容易にする点において有効であり、τonおよびτoffのいずれもが短いことは、神経細胞を高い時間分解能で制御することを可能にする点において有効である。よって、本開示の改変光受容クロライドチャネル、これをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および本開示の改変光受容クロライドチャネルを発現する細胞は、視細胞の変性または消失による視機能不全または視機能障害の発症の抑制、および発症した視機能不全または視機能障害の改善などに寄与することができ、網膜外層の障害を患う被検体の治療に有用である。また、本開示の改変光受容クロライドチャネル、これをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および本開示の改変光受容クロライドチャネルを発現する細胞は、脳や中枢・末梢神経系の障害、脊髄損傷、自己免疫疾患など、光反応が関係する各種の障害に対しても有用である。
【0045】
本明細書において、「網膜外層の障害」とは、網膜外層に存在する視細胞の変性または消失により視機能不全または視機能障害を生じている疾患または状態をいう。網膜外層の障害を患う被検体において、視細胞以外の網膜の細胞は正常であるかその機能の一部を保持していてよい。網膜外層の障害としては、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症、および網膜はく離が挙げられる。被検体としては、例えば、ヒトまたは他の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、サル、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ)が挙げられる。網膜外層の障害を患う被検体には、網膜外層の障害に起因して失明している被検体や、失明のリスクを有する被検体が含まれる。網膜外層の障害を患う被検体の「治療」とは、前記被検体の視機能を回復することを意味する。
【0046】
医薬用途に用いる発現ベクターとしては、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどのウイルスベクター、(自立複製可能な)プラスミド、トランスポゾンなどが挙げられる。改変光受容クロライドチャネルの発現ベクター作製用プラスミドは、例えばTomita H et al.,Invest Ophthalmol Vis Sci.2007 Aug;48(8):3821-6や、Sugano E et al.,Invest Ophthalmol Vis Sci.2005 Sep;46(9):3341-8に記載される方法に従って調製することができる。
【0047】
本開示の改変光受容クロライドチャネル、これをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、または本開示の改変光受容クロライドチャネルを発現する細胞が有効成分として被検体に投与される。その有効量は、所与の症状や用法について治療効果を与え得る量であり、動物を用いた試験、臨床試験の実施により当業者によって適宜決定されるが、投与対象とする被検体の年齢、体重、性別、疾患の状態や重篤度、投与方法などが考慮される。例えばウイルスベクターの場合、ウイルス量は、1012~1013capsids/ml(例えば、約1013capsids/ml)でありうる。
【0048】
医薬としての製剤化に際し、有効成分は、1以上の薬学的に許容される担体と共に製剤化されてよい。薬学的に許容される担体としては、各種緩衝液、例えば生理食塩水、リン酸塩、酢酸塩などの緩衝液が挙げられる。前記有効成分を含む医薬組成物は、例えば局所投与用の注射剤、点眼剤、洗眼剤などに製剤化することができる。注射用製剤は、保存剤を添加して、例えばアンプルや複数回投与容器中の単位投与剤形として提供することができる。医薬組成物は、好適なビヒクル、例えば発熱物質不含の滅菌水などで使用前に再構成される凍結乾燥剤としてもよい。医薬組成物は、好ましくは被検体の患部に投与される。例えば、医薬組成物は、網膜への直接的な注射、または硝子体への直接的な接触によって投与されうる。
【0049】
本開示の改変光受容クロライドチャネル、これをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、または本開示の改変光受容クロライドチャネルを発現する細胞は、その他の治療成分、例えば、網膜色素変性症、加齢性黄斑変性症、網膜はく離などの治療薬として公知の薬剤と併用されてもよい。
【0050】
一態様において、本開示は、網膜外層の障害を患う被検体を治療するための医薬の製造における、本開示の改変光受容クロライドチャネル、これをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、または本開示の改変光受容クロライドチャネルを発現する細胞の使用を提供する。
一態様において、本開示は、網膜外層の障害を患う被検体を治療する方法であって、本開示の改変光受容クロライドチャネル、これをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、または本開示の改変光受容クロライドチャネルを発現する細胞を前記被検体に投与することを含む方法を提供する。
一態様において、本開示は、網膜外層の障害を患う被検体を治療するため、本開示の改変光受容クロライドチャネル、これをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、または本開示の改変光受容クロライドチャネルを発現する細胞の使用を提供する。
【0051】
本開示の例示的な実施形態を以下に記載する。

[1]
グィラルディア・セータ アニオンチャネルロドプシン-1(GtACR1)のアミノ酸配列において少なくとも3番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域がグィラルディア・セータ アニオンチャネルロドプシン-2(GtACR2)の対応する領域で置換されたアミノ酸配列を含む、改変光受容クロライドチャネル。
[2]
GtACR1のアミノ酸配列において2番目の膜貫通ドメインと3番目の膜貫通ドメインの間の細胞外ドメインおよび/または6番目の膜貫通ドメインと7番目の膜貫通ドメインの間の細胞外ドメインがGtACR2の対応するドメインでさらに置換されたアミノ酸配列を含む、前記1に記載の改変光受容クロライドチャネル。
[3]
GtACR1のアミノ酸配列において3番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域および6番目の膜貫通ドメインと7番目の膜貫通ドメインの間の細胞外ドメインがGtACR2の対応する領域で置換されたアミノ酸配列を含む、前記1または2に記載の改変光受容クロライドチャネル。
[4]
GtACR1のアミノ酸配列において少なくとも2番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域がGtACR2の対応するドメインで置換されたアミノ酸配列を含む、前記1に記載の改変光受容クロライドチャネル。
[5]
GtACR1のアミノ酸配列において1番目の膜貫通ドメインと2番目の膜貫通ドメインの間の細胞内ドメインおよび/または6番目の膜貫通ドメインと7番目の膜貫通ドメインの間の細胞外ドメインがGtACR2の対応するドメインでさらに置換されたアミノ酸配列を含む、前記4に記載の改変光受容クロライドチャネル。
[6]
GtACR1のアミノ酸配列において2番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインまでの領域および6番目の膜貫通ドメインと7番目の膜貫通ドメインの間の細胞外ドメインがGtACR2の対応する領域で置換されたアミノ酸配列を含む、前記5に記載の改変光受容クロライドチャネル。
[7]
GtACR1が配列番号1のアミノ酸配列からなる、前記1~6のいずれかに記載の改変光受容クロライドチャネル。
[8]
GtACR2が配列番号2のアミノ酸配列からなる、前記1~7のいずれかに記載の改変光受容クロライドチャネル。
[9]
下記(a-1)~(c-1)から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含む、前記1~8のいずれかに記載の改変光受容クロライドチャネル:
(a-1)配列番号6のアミノ酸配列、
(b-1)配列番号6のアミノ酸配列において1個または複数個のアミノ酸が改変されたアミノ酸配列、および
(c-1)配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列。
[10]
下記(a-2)~(c-2)から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含む、前記1~8のいずれかに記載の改変光受容クロライドチャネル:
(a-2)配列番号7のアミノ酸配列、
(b-2)配列番号7のアミノ酸配列において1個または複数個のアミノ酸が改変されたアミノ酸配列、および
(c-2)配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列。
【0052】
[11]
前記1~10のいずれかに記載の改変光受容クロライドチャネルをコードするポリヌクレオチド。
[12]
下記(d-1)~(f-1)から選択されるいずれかのポリヌクレオチドである、前記11に記載のポリヌクレオチド:
(d-1)配列番号6のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(e-1)配列番号6のアミノ酸配列において1個または複数個のアミノ酸が改変されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、および
(f-1)配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
[13]
下記(d-2)~(f-2)から選択されるいずれかのポリヌクレオチドである、前記11に記載のポリヌクレオチド:
(d-2)配列番号7のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(e-2)配列番号7のアミノ酸配列において1個または複数個のアミノ酸が改変されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、および
(f-2)配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド。
[14]
下記(g-1)~(i-1)から選択されるいずれかのポリヌクレオチドである、前記11に記載のポリヌクレオチド:
(g-1)配列番号13の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(h-1)配列番号13の塩基配列を含むポリヌクレオチドの相補鎖に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
(i-1)配列番号13の塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド。
[15]
下記(g-2)~(i-2)から選択されるいずれかのポリヌクレオチドである、前記11に記載のポリヌクレオチド:
(g-2)配列番号14の塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(h-2)配列番号14の塩基配列を含むポリヌクレオチドの相補鎖に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、および
(i-2)配列番号14の塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0053】
[16]
前記11~15のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【0054】
[17]
前記1~10のいずれかに記載の改変光受容クロライドチャネルを発現する細胞。
[18]
細胞が、網膜を構成する細胞である、前記17に記載の細胞。
【0055】
[19]
網膜外層の障害を患う被検体を治療するための、前記1~10のいずれかに記載の改変光受容クロライドチャネル、前記11~15のいずれかに記載のポリヌクレオチド、前記16に記載の発現ベクター、または前記17または18に記載の細胞を含む医薬組成物。
[20]
前記1~10のいずれかに記載の改変光受容クロライドチャネルを含む、前記19に記載の医薬組成物。
[21]
前記17または18に記載の細胞を含む、前記19に記載の医薬組成物。
[22]
網膜外層の障害が、網膜色素変性症、加齢黄斑変性症、または網膜はく離である、前記19~21のいずれかに記載の医薬組成物。
【0056】
[23]
網膜外層の障害を患う被検体を治療する方法であって、前記1~10のいずれかに記載の改変光受容クロライドチャネル、前記11~15のいずれかに記載のポリヌクレオチド、前記16に記載の発現ベクター、または前記17または18に記載の細胞を前記被検体に投与することを含む、方法。
[24]
網膜外層の障害を患う被検体を治療するための医薬の製造における、前記1~10のいずれかに記載の改変光受容クロライドチャネル、前記11~15のいずれかに記載のポリヌクレオチド、前記16に記載の発現ベクター、または前記17または18に記載の細胞の使用。
[25]
網膜外層の障害を患う被検体を治療するため、前記1~10のいずれかに記載の改変光受容クロライドチャネル、前記11~15のいずれかに記載のポリヌクレオチド、前記16に記載の発現ベクター、または前記17または18に記載の細胞の使用。
【実施例0057】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0058】
実施例1:改変光受容クロライドチャネルの作製
GtACR1とGtACR2の膜貫通ドメインと細胞内ドメインの望ましい組み合わせを検討する目的で、複数の組換え体を検討した。その中から、パッチクランプ法で評価すべき5種類の組換え体(601、602、603、605、606)を設定した。各組換え体の膜貫通ドメインと細胞内ドメインの組み合わせを図1に示す。これら5種類の組換え体とGtACR1およびGtACR2(図1参照)の7種について、codon adaptation index(C.A.I)が高くなるようにヒトコドンに最適化したポリヌクレオチドを化学合成し、アデノ随伴ウイルスベクター作製用プラスミドのマルチクローニングサイトに挿入した。組換え体605または606を発現する細胞株の作製の詳細を以下に示す。他の組換え体、GtACR1およびGtACR2もこれらと同様に作製した。GtACR1、GtACR2、組換え体601、602、603、605、および606のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1~7に示し、これらをコードするポリヌクレオチドの塩基配列をそれぞれ配列番号8~14に示す。
【0059】
実施例1-1:組換え体605(配列番号6)発現細胞株の作製
GtACR1のN末端から2番目の膜貫通ドメインと3番目の膜貫通ドメインの間の細胞外ドメインまでのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、GtACR2の3番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインと7番目の膜貫通ドメインの間の細胞外ドメインまでのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、GtACR1の7番目の膜貫通ドメインからC末端までのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが連結されたポリヌクレオチド(配列番号13)の5’末端と3’末端に制限酵素配列を付加したポリヌクレオチドを化学合成し、アデノ随伴ウイルスベクター作製用プラスミドのマルチクローニングサイトに挿入した。本プラスミドのベクターマップを図2に示す。本プラスミドではマルチクローニングサイトの3’領域に蛍光タンパク質遺伝子(venus)が配置されていることから、venusを指標にして組換え体605を発現する細胞を特定した。なお、細胞は、Human embryonic Kidney(HEK)293細胞を用い、10%FBSを含むDMEM培地で、5%CO2、37℃で培養した。
【0060】
実施例1-2:組換え体606(配列番号7)発現細胞株の作製
GtACR1のN末端から1番目の膜貫通ドメインと2番目の膜貫通ドメインの間の細胞内ドメインまでのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、GtACR2の2番目の膜貫通ドメインから6番目の膜貫通ドメインと7番目の膜貫通ドメインの間の細胞外ドメインまでのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、GtACR1の7番目の膜貫通ドメインからC末端までのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが連結されたポリヌクレオチド(配列番号14)の5’末端と3’末端に制限酵素配列を付加したポリヌクレオチドを化学合成し、アデノ随伴ウイルスベクター作製用プラスミドのマルチクローニングサイトに挿入した。組換え配列以外の作製手順は実施例1-1に記載の方法と同様である。
【0061】
試験例1:パッチクランプ法による光誘発電流並びにτonおよびτoffの測定
(測定方法)
顕微鏡下でvenusの発現を確認した後、パッチクランプシステム(EPC-10、HEKA)を用いて、光誘発電流とτon(開速度:光照射を始めてからチャネルが開くまでの時間)およびτoff(閉速度:光照射を止めてからチャネルが閉じるまでの時間)を測定した。細胞外液は、138mM NaCl、3mM KCl、10mM HEPES、4mM NaOH、1mM CaCl、2mM MgClからなり、1N HClでpH7.4に調整したものを用いた。電極内液は、130mM CsCl、1.1mM EGTA、2mM MgCl、0.1mM CaCl、10mM NaCl、10mM HEPES、2mM NaATPからなり、1N CsOHでpH7.2に調整したものを用いた。光照射(光源:LED)は1秒間、光強度は1μW/mm、刺激間隔は60秒、固定電位は0mVに設定した。波長は405、455、505、560、617、656nmのそれぞれとした。
【0062】
(測定結果)
光誘発電流の測定結果を図3に、τonおよびτoffの測定結果を図4および図5に示す(n=8)。組換え体の特徴を明らかにする目的で、組換え体を発現する細胞の測定結果とGtACR1またはGtACR2を発現する細胞の測定結果とをあわせて示す。
【0063】
組換え体601、602、または603を発現させた細胞では、光誘発イオン電流が認められなかった。図3に示すように、組換え体605または606を発現させた細胞では光誘発イオン電流が確認され、特に組換え体605においては高い光応答反応が認められた。組換え体605および606の波長感受域とGtACR1の波長感受域とを比較すると、短波長側は同等であったが、長波長側はGtACR1よりも組換え体605および606の方が短かった。組換え体605および606の波長感受域とGtACR2の波長感受域とを比較すると、ほぼ同等の波長感受域であった。組換え体605はGtACR2と比較してすべての波長感受域において高い光誘発イオン電流が認められた。組換え体606は高い光反応性が認められた。
【0064】
図4および図5に示すように,組換え体605および606のτonおよびτoffは、GtACR2のそれらと比較して、波長域全体として短かった。
【0065】
以上の結果より、組換え体605および606、特に605は、優れた光反応特性を有する改変光受容クロライドチャネルであり、様々な状況においてオプトジェネティクスとして利用できる可能性を有する新規な光受容クロライドチャネルであることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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