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▶ 日清製粉株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048375
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】麺皮用小麦粉
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20230331BHJP
   A23L 35/00 20160101ALI20230331BHJP
【FI】
A23L7/109 D
A23L35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021157648
(22)【出願日】2021-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】町田 多恵
(72)【発明者】
【氏名】小田 健司
(72)【発明者】
【氏名】津田 恭征
(72)【発明者】
【氏名】木本 匡昭
(72)【発明者】
【氏名】向後 佑佳子
【テーマコード(参考)】
4B036
4B046
【Fターム(参考)】
4B036LF11
4B036LH22
4B036LP01
4B036LP14
4B046LA09
4B046LC01
4B046LE11
4B046LG29
4B046LP01
4B046LP10
4B046LP15
4B046LP38
4B046LP41
4B046LP80
(57)【要約】
【課題】良好な食感を有する麺皮を製造することができる麺皮用小麦粉の提供。
【解決手段】下記の性質:普通小麦由来であり、粗蛋白含量が12.0~15.0質量%、平均粒径が80~150μm、灰分が0.25~0.55質量%、を有する麺皮用小麦粉。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の性質を有する、麺皮用小麦粉:
普通小麦由来であり、粗蛋白含量が12.0~15.0質量%、
平均粒径が80~150μm、
灰分が0.25~0.55質量%。
【請求項2】
マルトース価が110~200mg/10gである、請求項1記載の麺皮用小麦粉。
【請求項3】
粒径が148μm以上の画分を7体積%以上含有し、かつ粒径が95.96μm以上の画分を30体積%以上含有する、請求項1又は2記載の麺皮用小麦粉。
【請求項4】
平均粒径が100~150μmである、請求項1~3のいずれか1項記載の麺皮用小麦粉。
【請求項5】
硬質小麦由来の小麦粉である、請求項1~4のいずれか1項記載の麺皮用小麦粉。
【請求項6】
前記麺皮が蒸し調理、茹で調理、又は焼き調理用の麺皮である、請求項1~5のいずれか1項記載の麺皮用小麦粉。
【請求項7】
前記麺皮が餃子、ワンタン、焼売又は小籠包の皮である、請求項1~6のいずれか1項記載の麺皮用小麦粉。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載の麺皮用小麦粉を50~100質量%含む原料粉を含有する麺皮。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項記載の麺皮用小麦粉を50~100質量%含む原料粉を用いることを特徴とする、麺皮の製造方法。
【請求項10】
請求項8記載の麺皮を蒸し調理、茹で調理、又は焼き調理することを含む、麺皮食品の製造方法。
【請求項11】
前記麺皮食品が餃子、ワンタン、焼売又は小籠包である、請求項10記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麺皮用小麦粉に関する。
【背景技術】
【0002】
餃子、焼売、小籠包などの麺皮食品は、具材を包む麺皮の食感が良いものが好まれる。近年では、これらの麺皮食品は、常温、冷蔵又は冷凍で保存された後、電子レンジで再加熱して食されることが少なくない。しかし、電子レンジで再加熱された麺皮は食感が低下する。
【0003】
特許文献1には、原料を軟質小麦とし、粒径が45~150μmの大きさの粒が80質量%以上で、かつ45~100μmの大きさの粒が60質量%以上である小麦粉が、製麺適性に優れ、パン類や中華麺類の原料として使用できることが記載されている。特許文献2には、小麦を製粉したときのふすまを含む再粉砕画分に由来する、100~210ミクロンの粒度を有し、かつ灰分0.4~3.0%である小麦粉が記載され、またこれを含有する小麦粉が、栄養価が高く、風味に優れ、かつ二次加工適性も優れており、パン類、麺類、菓子類の原料として使用できることが記載されている。特許文献3には、穀粉原料としてマルトース価が170mg/10g以下の小麦粉を用いることを特徴とする、春巻きの皮の製造方法が記載されている。特許文献4には、デュラム小麦由来の小麦粉であって、目開き125μmの篩を通過し且つ目開き53μmの篩を通過しない粒子が75~100質量%を占め、及び灰分が0.45~0.85%である小麦粉を用いることで、変色が少なく食感の良好な中華麺又は皮類が製造できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-328789号公報
【特許文献2】特開2004-147549号公報
【特許文献3】特開2000-333631号公報
【特許文献4】特開2006-101728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、良好な食感を有し、電子レンジで再加熱されたときにも食感が低下しにくい麺皮を製造することができる麺皮用小麦粉を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の性質を有する、麺皮用小麦粉:
普通小麦由来であり、粗蛋白含量が12.0~15.0質量%、
平均粒径が80~150μm、
灰分が0.25~0.55質量%、
を提供する。
また本発明は、前記麺皮用小麦粉を50~100質量%含む原料粉を含有する麺皮を提供する。
また本発明は、前記麺皮用小麦粉を50~100質量%含む原料粉を用いることを特徴とする、麺皮の製造方法を提供する。
また本発明は、前記麺皮を蒸し調理、茹で調理、又は焼き調理することを含む、麺皮食品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の麺皮用小麦粉から製造された麺皮は、歯応えと歯切れが良く、かつ電子レンジで再加熱されたときにもガミーな食感になりにくいため良好な食感を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、麺皮用小麦粉を提供する。本発明の麺皮用小麦粉(以下、単に「本発明の小麦粉」ともいう)は、粗蛋白含量が、12.0~15.0質量%であればよく、好ましくは12.5~14.5質量%、より好ましくは12.5~14.0質量%である。本明細書における小麦粉の粗蛋白含量は、ケルダール法に従って測定した値をいう。
【0009】
本発明の小麦粉が由来する原料小麦は、普通小麦(6倍体小麦)であり、好ましくは硬質小麦である。デュラム小麦は本発明の小麦粉の原料小麦に含まれない。硬質小麦の例としては、No.1カナダウエスタンレッドスプリング(1CW)、ダークノーザンスプリング(DNS)、プライムハード(PH)、ハードレッドウィンター(HRW)、春よ恋、ゆめちから、などが挙げられる。これらの小麦は、いずれか1種又は2種以上を組み合わせて本発明の小麦粉の原料小麦として用いることができる。
【0010】
本発明の小麦粉は、平均粒径が、80~150μmであればよく、好ましくは85~150μm、より好ましくは100~150μm、さらに好ましくは110~145μmである。好ましくは、本発明の小麦粉は、粒径が148μm以上の画分を7体積%以上、より好ましくは10体積%以上、さらに好ましくは20体積%以上含有するか、又は粒径が95.96μm以上の画分を30体積%以上、より好ましくは35体積%以上、さらに好ましくは45体積%以上、さらに好ましくは55体積%以上明朝含有する。
より好ましくは、本発明の小麦粉は、粒径が148μm以上の画分を7体積%以上含有し、粒径が95.96μm以上の画分を30体積%以上含有し、かつ平均粒径が80~150μmの範囲である。
さらに好ましくは、本発明の小麦粉は、粒径が148μm以上の画分を7体積%以上含有し、粒径が95.96μm以上の画分を35体積%以上含有し、かつ平均粒径が85~150μmの範囲である。
さらに好ましくは、本発明の小麦粉は、粒径が148μm以上の画分を10体積%以上含有し、粒径が95.96μm以上の画分を45体積%以上含有し、かつ平均粒径が100~150μmの範囲である。
さらに好ましくは、本発明の小麦粉は、粒径が148μm以上の画分を20体積%以上含有し、かつ粒径が95.96μm以上の画分を55体積%以上含有し、かつ平均粒径が110~145μmの範囲である。
【0011】
本明細書において、小麦粉の平均粒径、及び小麦粉の粒度分布(又は小麦粉中における所定の粒径を有する画分の割合)は、マイクロトラック法を用いて乾式で測定された値をいう。測定には、市販の機器(例えば、日機装株式会社製「マイクロトラック粒径分布測定装置9200FRA」)を用いることができる。マイクロトラック法では、サンプルから所定の粒径の粉が検出される頻度(「検出頻度割合」)に基づいて、該サンプルの粒度分布を測定する(上記の日機装株式会社製の装置9200FRAに添付された資料「マイクロトラック粒度分析計測定結果の見方」参照)。
【0012】
本発明の小麦粉は、従来の通常の麺皮用小麦粉と比べて低いマルトース価を有する。本発明の小麦粉のマルトース価は、好ましくは110~200mg/10g、より好ましくは115~170mg/10gである。小麦粉のマルトース価とは、小麦粉中のアミラーゼによって小麦粉の澱粉がどれだけ分解されるかを表す指標である。小麦中に存在するアミラーゼは、小麦粉中の生澱粉をほとんど分解しないが、損傷澱粉を分解する。したがって、マルトース価が高い小麦粉は、損傷澱粉の含有割合が高く、マルトース価が低い小麦粉は、損傷澱粉の含有割合が低い。本明細書において、小麦粉のマルトース価は、AACC(American Association of Cereal Chemists)の公定法(22-15)により測定された値をいう。
【0013】
本発明の小麦粉は、前述した原料小麦の穀粒を調質後、粉砕、篩い分け、純化、さらに複数の滑面ロールによる粉砕工程(それぞれブレーキング工程、グレーディング工程、ピュリフィケーション工程、及びリダクション工程という)、及び篩い分けを経て、前述した所定の粒度の画分を採取することで製造することができる。このとき、上記粉砕(リダクション)工程でのロールの種類や回転速比などを調整することで、マルトース価の低い小麦粉を製造することができる。本発明の小麦粉は、ふすま粉や全粒粉を実質的に含まない。
【0014】
本発明の小麦粉は、灰分が、好ましくは0.25~0.55質量%、より好ましくは0.35~0.5質量%である。本明細書における小麦粉の灰分は、直接灰化法(ISS Standard Methods No.104/1)に従って測定した値をいう。
【0015】
本発明の小麦粉は、麺皮の原料粉として使用される。すなわち、本発明の小麦粉を含有する原料粉を用いて麺皮が製造される。製造した麺皮に含有される原料粉のうち、好ましくは50~100質量%、より好ましくは70~100質量%、さらに好ましくは80~100質量%が本発明の小麦粉である。
【0016】
本発明で製造される麺皮の原料粉は、本発明の小麦粉以外の他の穀粉を含んでいてもよい。当該他の穀粉の例としては、本発明の小麦粉以外の小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、コーンフラワー、そば粉、米粉、ふすまなどが挙げられ、これらのいずれか1種又は2種以上を使用することができる。本発明の小麦粉以外の小麦粉としては、本発明の小麦粉とは粗蛋白含量又は粒径が異なる普通小麦由来の小麦粉、デュラム粉、全粒粉などが挙げられ、これらのいずれか1種又は2種以上を使用することができる。該原料粉中における該他の穀粉の含有量は、好ましくは0~50質量%、より好ましくは0~30質量%、さらに好ましくは0~15質量%である。
【0017】
本発明で製造される麺皮の原料粉は、前述した本発明の小麦粉及び他の穀粉以外の他の材料を含有することができる。当該他の材料としては、例えば、澱粉類、食塩、蛋白質、膨張剤、増粘剤、糖類、調味料、ミネラル類、色素、香料、アルコール、保存剤、酵素、などが挙げられ、これらのいずれか1種又は2種以上を使用することができる。該原料粉中における該他の材料の含有量は、好ましくは10質量%以下である。
【0018】
前述した麺皮の原料粉を水分とともに混合することで、麺皮の生地を調製することができる。生地の調製に使用する水分としては、水、塩水などが挙げられる。使用する水分の量は、製造する麺皮の種類に応じて適宜調整すればよいが、原料粉100質量部に対して25~70質量部が好ましい。次いで、調製した生地から麺皮を製造する。例えば、調製した生地をまとめ、次いで分割及び圧延するか、又は圧延及び成形することで生麺皮を製造することができる。なお、本発明で生地から麺皮を製造する場合、多層麺線を製造する場合のように生地を積層して多層麺帯を製造することはない。麺皮の生地の調製、及び生地からの生麺皮の製造の手順は、常法に従えばよく、例えば、市販の麺皮製造機を用いることができる。
【0019】
製造された生麺皮は、麺皮食品の製造に用いることができる。本明細書において「麺皮食品」とは、具材を麺皮で包むことで製造される食品であり、例えば、餃子、ワンタン、小龍包(包子)、春巻、シュウマイ、ラビオリなどが挙げられる。このうち、餃子、ワンタン、焼売、小籠包が好ましい例として挙げられる。したがって、本発明で製造される麺皮は、麺皮食品の皮として使用され得る。好ましくは、本発明で製造される麺皮は、蒸し調理、茹で調理、又は焼き調理用の麺皮であり、より好ましくは餃子、ワンタン、焼売又は小籠包の皮である。
【0020】
製造された生麺皮を、必要に応じて具材を包んだ後、加熱調理、好ましくは蒸し調理、茹で調理、又は焼き調理することで、調理済み麺皮食品が製造される。あるいは、製造された生麺皮を冷蔵又は冷凍保存してもよい。あるいは、製造された生麺皮で具材を包んで未調理の麺皮食品を製造し、これを冷蔵又は冷凍保存してもよい。
【0021】
本発明の麺皮用小麦粉を含む麺皮から製造された調理済み麺皮食品は、皮の歯応えと歯切れがよい良好な食感を有するだけでなく、電子レンジで再加熱された場合にも皮がガミーな食感になりにくく良好な食感を維持することができる。
【実施例0022】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0023】
(1.小麦粉の製造)
硬質小麦である1CW及びPHをそれぞれ調質後、製粉した。ブレーキング工程、グレーディング工程、ピュリフィケーション工程、及びリダクション工程を調整することにより、表1記載の性質を有する小麦粉No.1~8を製造した。対照として、1CWから従来市販の強力小麦粉(一等粉)と同様の製法で製造した小麦粉(小麦粉No.9)を用いた。
【0024】
試験例1
(餃子の製造)
表1記載の小麦粉100質量部、食塩1質量部、及び水(水温10~15℃)35質量部を混合し、室温下に横型ミキサーを用いて高速で10分間混捏して餃子用皮の生地を調製した。得られた生地を圧延及び切断して、厚さ約0.9mm、直径約90mmの餃子用皮を製造した。製造した餃子用皮の上に、餃子用皮1枚につき約15gの餃子具材を載せ、常法に従って具材を皮で包み込んで生餃子を製造した。
【0025】
(食感の評価)
熱したフライパンに油をひき、上記で製造した生餃子を並べ、餃子1個あたり20gの水を入れて蓋をし、蒸し焼きにした。7~8分程焼き、ふたを開けて水を飛ばし、油を回し入れて焼き目を付けて焼き餃子を製造した。製造した焼き餃子の皮の食感(歯応え及び歯切れ感)を、10名の訓練されたパネラーにより、下記評価基準に従って官能評価した。評価結果の平均値を表1に示す。
〔評価基準〕
(歯応え)
5点:対照よりも歯応えのある食感である
4点:対照よりもやや歯応えのある食感である
3点:対照と同等の歯応えの食感である
2点:対照よりもやや歯応えのない食感である
1点:対照よりも歯応えのない食感である
(歯切れ感)
5点:対照より優れる
4点:対照よりやや優れる
3点:対照と同等である
2点:対照よりやや劣る
1点:対照より劣る
【0026】
(電子レンジ再加熱後の食感の評価)
上記で製造した生餃子を蒸し器で3分間蒸した後、フライパンに油をひいて蒸し餃子を並べ加熱して焼き目を付けた。調理した餃子を6個ずつ容器に入れて5℃で24時間保管した後、電子レンジで1600W25秒再加熱した。40℃に冷ました餃子の皮の食感(ガミー感)を、10名の訓練されたパネラーにより、下記評価基準に従って官能評価した。評価結果の平均値を表1に示す。
〔評価基準〕
(ガミー感)
5点:対照よりもガミー感が弱い
4点:対照よりもガミー感がやや弱い
3点:対照と同等のガミー感である
2点:対照よりもガミー感がやや強い
1点:対照よりもガミー感が強い
【0027】
【表1】