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特開2023-48465エポキシ樹脂組成物、強化繊維含有ポキシ樹脂組成物、プリプレグ、これらを用いた繊維強化プラスチック、及び熱可塑性プラスチック。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048465
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、強化繊維含有ポキシ樹脂組成物、プリプレグ、これらを用いた繊維強化プラスチック、及び熱可塑性プラスチック。
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/14 20060101AFI20230331BHJP
   C08G 65/40 20060101ALI20230331BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20230331BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20230331BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
C08G59/14
C08G65/40
C08L63/00 Z
C08K7/06
C08J5/24 CFC
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021157793
(22)【出願日】2021-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】山田 亮
(72)【発明者】
【氏名】中西 哲也
(72)【発明者】
【氏名】長谷 修一郎
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 圭太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋
【テーマコード(参考)】
4F072
4J002
4J005
4J036
【Fターム(参考)】
4F072AA07
4F072AB10
4F072AB28
4F072AB29
4F072AD28
4F072AE02
4F072AE07
4F072AF06
4F072AF22
4F072AF24
4F072AG03
4F072AG17
4F072AH04
4F072AH43
4J002CD201
4J002CH081
4J002DA016
4J002FA046
4J002FD016
4J005AA23
4J005AA24
4J005BA00
4J005BB02
4J036AA01
4J036AC01
4J036AC05
4J036AD01
4J036AD07
4J036AD08
4J036AD11
4J036AD15
4J036AD21
4J036CA08
4J036CA30
4J036CC02
4J036JA11
(57)【要約】
【課題】難燃性、耐熱性、外観性を並立する現場重合型の熱可塑性エポキシ樹脂が得られるエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】2官能エポキシ樹脂、リン含有の2官能アセチル化合物及び重合触媒を必須成分として含み、重合反応によって熱可塑性プラスチックとなるエポキシ樹脂組成物であって、2官能アセチル化合物1モルに対して、2官能エポキシ樹脂は0.95~1.05モルであり、2官能アセチル化合物がエポキシ樹脂中に均一に溶解していて、エポキシ樹脂組成物中のリン含有率が1重量%以上5重量%以下であり、得られる熱可塑性プラスチック重合物の重量平均分子量が30000以上200000以下であり、2mm厚さでのヘイズ値が30%未満であり、ガラス転移温度が100℃以上であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2官能エポキシ樹脂、リン含有の2官能アセチル化合物及び重合触媒を必須成分として含み、重合反応によって熱可塑性プラスチックとなるエポキシ樹脂組成物であって、
2官能アセチル化合物1モルに対して、2官能エポキシ樹脂は0.95~1.05モルであり、2官能アセチル化合物がエポキシ樹脂中に均一に溶解していて、エポキシ樹脂組成物中のリン含有率が1重量%以上5重量%以下であり、エポキシ樹脂組成物を重合することにより得られる熱可塑性プラスチック重合物の重量平均分子量が30000以上200000以下であり、2mm厚さでの重合物のヘイズ値が30%未満であり、ガラス転移温度が100℃以上であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
更に2官能フェノール化合物を含み、2官能アセチル化合物と2官能フェノール化合物のモル比は1/99~99/1であり、2官能アセチル化合物と2官能フェノール化合物の総和1モルに対して、2官能エポキシ樹脂は0.95~1.05モルであり、2官能アセチル化合物及び2官能フェノール化合物がエポキシ樹脂中に均一に溶解している請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
有機溶剤を含まないか、又は有機溶剤を含み、有機溶剤の含有量がエポキシ樹脂組成物の0.05重量%以上10重量%以下である請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
2官能アセチル化合物が下記式(1)で表されるリン化合物である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【化1】
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物と強化繊維を含むことを特徴とする強化繊維含有エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
強化繊維がPAN系またはピッチ系の炭素繊維である請求項5に記載の強化繊維含有エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
強化繊維の含有量が50~80重量%である請求項5または6に強化繊維含有エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の強化繊維含有エポキシ樹脂組成物からなるプリプレグ。
【請求項9】
請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の強化繊維含有エポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化プラスチック。
【請求項10】
請求項8に記載のプリプレグを用いた繊維強化プラスチック。
【請求項11】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物から得られる熱可塑性プラスチックであって、重量平均分子量が30000以上200000以下であり、2mm厚さでのヘイズ値が30%未満であり、ガラス転移温度が100℃以上であることを特徴とする熱可塑性プラスチック。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物、強化繊維含有エポキシ樹脂組成物、及びこれらを用いた繊維強化プラスチックや熱可塑性プラスチックに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック(FRP)は軽量、高強度などの優れた物性を示し、多くの分野で利用されている。その中でも、炭素繊維を強化繊維として用いたもの(CFRP)は、特に機械的強度に優れることで知られている。
【0003】
FRPの母材樹脂として、価格、物性のバランスに優れるため、エポキシ樹脂が主に使用されており、その中でも、特許文献1は、エポキシ化合物とフェノール性水酸基含有化合物とを予め強化繊維と混合し、重合触媒及び反応遅延剤を使用して重付加反応により重合させ、繊維強化熱可塑性樹脂を成形する方法を提案している。特許文献2は、2官能エポキシ化合物と、フェノール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基、メルカプト基、イソシアネート基及びシアネートエステル基からなる群より選ばれる官能基を有する2官能化合物とを重付加反応させることも提案している。こうしたエポキシ樹脂は、現場重合型熱可塑性エポキシ樹脂とも言われ、これを使用したFRPは量産性、成型性、リサイクル性に優れると期待されている。現場重合型熱可塑性エポキシ樹脂は、重合前の低粘度状態で繊維へ含浸させるため含浸性が良く、強化繊維の割合を高めることができる。
【0004】
FRPの難燃化の手法として、臭素などのハロゲン化合物の添加が挙げられるが、環境規制の観点から好ましくない。環境適応型の難燃剤として、リン系化合物が挙げられるが、リン酸エステルに代表される添加型難燃剤の使用は重合反応を阻害し、耐熱性を低下させるため現場重合型熱可塑性エポキシ樹脂の難燃化手法として好適ではない。その他の難燃化手法としてとして赤燐の添加があげられるが、成型物が赤く着色し不透明になり、繊維模様を遮蔽することで外観性を悪化させるため好ましくない。
【0005】
エポキシ樹脂の耐熱性向上の手法としては、架橋密度の増加、剛直な分子構造の骨格の適用が挙げられる。架橋密度の増加は、熱可塑性樹脂であることを特徴とする現場重合型熱可塑性エポキシ樹脂には不適である。剛直な骨格への変更は、樹脂粘度の増加や反応成分の相溶性の悪化をもたらす。これにより、樹脂の繊維への含浸工程が困難になり、繊維内での反応性も低下する。
【0006】
特許文献3~5では、エポキシ樹脂中に存在する2級水酸基をアシル化することが提案されているが、現場重合型熱可塑性エポキシ樹脂については何ら検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-321897号公報
【特許文献2】国際公開第2004/060981号
【特許文献3】特開平8-333437号公報
【特許文献4】特開平10-168287号公報
【特許文献5】特開2016-89165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
難燃性、耐熱性、外観性などに優れた現場重合型熱可塑性エポキシ樹脂が求められている。本発明者らの検討によると、熱可塑性エポキシ樹脂の難燃化の手法として、赤燐を添加すると成型物が着色し不透明になり、最終製品の外観性に悪影響を与える。リン酸エステルなど樹脂に相溶する添加型難燃剤を用いる場合、樹脂の反応性や耐熱性が悪化する。
【0009】
反応型難燃剤としてリン含有フェノール化合物を用いる場合、フェノール化合物の融点が高く溶解性が悪いため、溶剤を用いずにエポキシ樹脂中に均一に溶解させる事が困難である。反応成分がエポキシ樹脂中に均一に溶解せず析出した状態だと、現場重合型エポキシ樹脂の重合反応を繊維中で十分に進めることができない。溶剤を用いれば、剛直骨格のフェノール化合物をエポキシ樹脂中に溶解させる事も可能となるが、溶剤成分が重合反応を阻害し、また成型物中に残存することで物性低下を招くため、好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
熱可塑性エポキシ樹脂の外観性を損なわずに耐熱性、難燃性を付与することを目的とし、本発明者らが鋭意検討した結果、アセチル化することによりフェノール化合物の融点が低下することを見出し、2官能のリン含有アセチル化合物を用いる事で、溶媒を用いることなくエポキシ樹脂中に剛直な骨格で難燃性を有する化合物を均一に溶解させることが可能であり、繊維中でも十分に重合反応を進められることを見出した。
【0011】
すなわち本発明は、2官能エポキシ樹脂、リン含有の2官能アセチル化合物及び重合触媒を必須成分として含み、重合反応によって熱可塑性プラスチックとなるエポキシ樹脂組成物であって、2官能アセチル化合物1モルに対して、2官能エポキシ樹脂は0.95~1.05モルであり、2官能アセチル化合物がエポキシ樹脂中に均一に溶解していて、エポキシ樹脂組成物中のリン含有率が1重量%以上5重量%以下であり、エポキシ樹脂組成物を重合することにより得られる熱可塑性プラスチック重合物の重量平均分子量が30000以上200000以下であり、2mm厚さでの重合物のヘイズ値が30%未満であり、ガラス転移温度が100℃以上であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物である。
【0012】
上記エポキシ樹脂組成物は更に2官能フェノール化合物を含み、2官能アセチル化合物と2官能フェノール化合物のモル比は1/99~99/1であり、2官能アセチル化合物と2官能フェノール化合物の総和1モルに対して、2官能エポキシ樹脂は0.95~1.05モルであり、2官能アセチル化合物及び2官能フェノール化合物がエポキシ樹脂中に均一に溶解していることが好ましい。
【0013】
上記エポキシ樹脂組成物は、有機溶剤を含まないか、又は有機溶剤を含む場合、有機溶剤の含有量がエポキシ樹脂組成物の0.05重量%以上10重量%以下であることが好ましい。
【0014】
上記2官能アセチル化合物は下記式(1)で表されるリン化合物であることが好ましい。
【化1】
【0015】
また本発明は、上記エポキシ樹脂組成物と強化繊維を混合させることで得られる強化繊維含有エポキシ樹脂組成物、又はプリプレグである。そして上記強化繊維はPAN系又はピッチ系の炭素繊維が好ましく、エポキシ樹脂組成物又はプリプレグ中に50重量%以上80重量%以下の割合で含むことが好ましい。
【0016】
また本発明は、上記強化繊維含有エポキシ樹脂組成物又は上記プリプレグを用いた繊維強化プラスチックである。
【0017】
また本発明は、上記エポキシ樹脂組成物から得られる熱可塑性プラスチックであって、重量平均分子量が30000以上200000以下であり、2mm厚さでのヘイズ値が30%未満であり、ガラス転移温度が100℃以上である熱可塑性プラスチックである。
【発明の効果】
【0018】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、難燃性、耐熱性、外観性に優れた熱可塑性の繊維強化プラスチック(FRP)を提供することができ、難燃性を有しながら透明である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、リン含有の2官能アセチル化合物とエポキシ樹脂及び重合触媒を必須成分として含み、加熱により重合し、熱可塑性プラスチックとなる組成物である。
【0020】
本発明のエポキシ樹脂組成物に使用する2官能アセチル化合物は、その少なくとも1つがリン含有化合物であることが必須である。2官能アセチル化合物は、リン含有の2官能アセチル化合物が、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上であり、更に好ましくは80重量%以上である。
リン含有の2官能アセチル化合物は、リン含有2官能フェノール化合物を原料とし、無水酢酸と反応させることで容易に得ることができる。
リン含有2官能フェノール化合物としては、例えば、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド(例えば、HCA-HQ(三光株式会社製)など)、10-(2,7-ジヒドロキシナフチル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド(DOPO-NQ)、10-(1,4-ジヒドロキシ-2-ナフチル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、ジフェニルホスフィニルヒドロキノン、ジフェニルホスフィニル-1,4-ナフタレンジオール、1,4-シクロオクチレンホスフィニル-1,4-フェニルジオール、1,5-シクロオクチレンホスフィニル-1,4-フェニルジオールなどが挙げられる。
リン含有の2官能アセチル化合物は、リン含有フェノール化合物をアセチル化したものを用いてもよいし、それ以外の方法で合成されたものを用いてもよい。
これらのリン含有の2官能アセチル化合物を使用することで、均一で透明なエポキシ樹脂組成物とすることができ、難燃性があり、透明な重合物を得ることができる。リン含有の2官能アセチル化合物としては、上記式(1)で表される化合物が好ましい。
【0021】
本発明のエポキシ樹脂組成物に使用するエポキシ樹脂は、2官能エポキシ樹脂であれば使用でき、その純度は95%以上であることが好ましく、純度が高ければ、位置異性体やオリゴマーが含まれてもよい。
2官能エポキシ樹脂としては、例えば、下記式(2)で表されるエポキシ樹脂(a)や、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールアセトフェノン型エポキシ樹脂、ジフェニルスルフィド型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、などのビスフェノール型エポキシ樹脂や、ビフェノール型エポキシ樹脂、ジフェニルジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アルキレングリコール型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゼン型エポキシ樹脂などが挙げられるが、これらに限らない。
特に、下記式(2)で表されるエポキシ樹脂(a)は、全エポキシ樹脂中の50重量%以上が好ましく、より好ましくは66重量%以上であり、更に好ましくは75重量%以上であり、特に好ましくは80重量%以上である。エポキシ樹脂(a)のエポキシ当量は、150~350g/eqが好ましい。
【0022】
【化2】
【0023】
式(2)において、Aは上記式(2a)で表される2価の基である。nは繰り返し数でその平均値は0~5であり、好ましくは0~1である。
【0024】
式(2a)において、Xは単結合、炭素数1~13の炭化水素基、-O-、-CO-、-COO-、-S-、-SO-のいずれかである。
炭素数1~13の炭化水素基としては、炭素数1~9のアルキレン基又は炭素数6~13のアリーレン基が好ましく、例えば、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-CHPh-、-C(CH)Ph-、1,1-シクロプロピレン基、1,1-シクロブチレン基、1,1-シクロペンチレン基、1,1-シクロヘキシレン基、4-メチル-1,1-シクロヘキシレン基、3,3,5-トリメチル-1,1-シクロヘキシレン基、1,1-シクロオクチレン基、1,1-シクロノニレン基、1,2-エチレン基、1,2-シクロプロピレン基、1,2-シクロブチレン基、1,2-シクロペンチレン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,2-フェニレン基、1,3-プロピレン基、1,3-シクロブチレン基、1,3-シクロペンチレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,3-フェニレン基、1,4-ブチレン基、1,4-シクロヘキシレン基、1,4-フェニレン基、1,1-フルオレン基、1,2-キシリレン基、1,4-キシリレン基、テトラヒドロジシクロペンタジエニレン基、テトラヒドロトリシクロペンタジエニレン基などが挙げられる。なお、Phはフェニル基を表す。
これらの内、単結合、-O-、-CO-、-COO-、-S-、-SO-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-CHPh-、-C(CH)Ph-、1,1-シクロヘキシレン基、4-メチル-1,1-シクロヘキシレン基、3,3,5-トリメチル-1,1-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基、1,4-フェニレン基、1,1-フルオレン基が好ましく、単結合、-O-、-CO-、-COO-、-S-、-SO-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CH)Ph-、1,1-シクロヘキシレン基、3,3,5-トリメチル-1,1-シクロヘキシレン基、1,1-フルオレン基がより好ましい。なお、Phはフェニル基を表す。アルキレン基はアルキリデン基を含む意味である。
【0025】
は独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~10のアリール基のいずれかである。
炭素数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。
炭素数6~10のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、キシリル基、n-プロピルフェニル基、イソプロピルフェニル基、メシチル基、ナフチル基などが挙げられる。
これらの内、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、又はナフチル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、フェニル基、又はトリル基がより好ましい。
【0026】
は独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~10のアリール基のいずれかであり、水素原子以外の基が好ましい。アルキル基、アリール基の例としては、前記Yで例示した基と同様である。好ましいYはYと同様である。
は独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~10のアリール基のいずれかである。アルキル基、アリール基の例としては、Yで例示した基と同様である。好ましいYは水素原子又はYと同様である。
【0027】
エポキシ樹脂(a)としては、例えば、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂(例えば、YSLV-80XY(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)など)、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂(例えば、YX-4000(三菱ケミカル株式会社製)など)、ビスクレゾールフルオレン型エポキシ樹脂(例えば、OGSOL CG-500(大阪ガスケミカル株式会社製)など)などが挙げられる。
【0028】
本発明のエポキシ樹脂組成物に使用するエポキシ樹脂は、2官能成分が主であることが望ましい。特に、式(2)で表されるエポキシ樹脂(a)が主成分であることが望ましい。
エポキシ樹脂中に1官能の不純物が含まれている場合には重合後の分子量が上がらなくなるため得られた熱可塑性樹脂製品の機械物性が悪くなる恐れがある。そのため、1官能の不純物は2官能エポキシ樹脂に対して2重量%以下であることが好ましい。
3官能以上の不純物が含まれている場合には、その不純物を起点に架橋構造を形成しやすくなるため、重合物の分散が大きくなるほか、ゲル化して熱可塑性を損なう恐れがある。そのため、3官能以上の不純物については2官能エポキシ樹脂に対して1重量%以下であることが好ましい。
2官能アセチル化合物と反応する活性基を持たず、また、単体では重合反応を阻害しない不純物成分についても、量が多くなると重合後の分子量が小さくなる恐れがある。そのため、2官能エポキシ樹脂に対して2重量%以下であることが好ましい。
2官能エポキシ樹脂の不純物成分は、全量として、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下である。
【0029】
本発明のエポキシ樹脂組成物に使用する2官能アセチル化合物は、1分子中に2つのアセチル基を有する化合物であり、その純度は95重量%以上であることが好ましい。2官能アセチル化合物としての純度が高ければ、位置異性体については含まれていてもよい。
1官能の不純物が含まれている場合には重合後の分子量が上がらなくなるために製造された熱可塑性樹脂の機械物性が悪くなる恐れがある。そのため、1官能の不純物は、2官能フェノール化合物に対して2重量%以下であることが好ましい。
3官能以上の不純物が含まれている場合には、その不純物を起点に架橋構造を形成しやすくなるため、重合物の分散が大きくなるほか、ゲル化して熱可塑性を損なう恐れがある。そのため、3官能以上の不純物は、2官能アセチル化合物に対して1重量%以下であることが好ましい。
【0030】
なお、エポキシ樹脂、アセチル基のいずれとも反応する活性基を持たず、また、単体では重合反応を阻害しない不純物成分、例えば自己重合した不純物や原料由来の不純物についても、量が多くなると重合後の分子量が小さくなる恐れがある。そのため、2官能エポキシ樹脂及び2官能アセチル化合物に対して2重量%以下であることが好ましい。
【0031】
本発明のエポキシ樹脂組成物に使用する2官能アセチル化合物は、リン含有の2官能アセチル化合物を必須成分とするが、本発明の効果を阻害しない限り、リンを含有しない2官能アセチル化合物を2官能アセチル化合物全体の50重量%未満の範囲で併用してもよい。
併用できる2官能アセチル化合物は、ビスフェノール化合物又はビフェノール化合物などの2官能フェノール化合物を原料とし、無水酢酸と反応させることで容易に得ることができる。ビスフェノール化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF(以上、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)、ビスフェノールフルオレン(大阪ガスケミカル株式会社製)、Bis-E、Bis-Z、BisOC-FL、BisP-AP、BisP-CDE、BisP-HTG、BisP-MIBK、BisP-3MZ、S-BOC(以上、本州化学工業株式会社製)、ビスフェノールSなどが挙げられる。ビフェノール化合物としては、例えば、ビフェノール、ジメチルビフェノール、テトラメチルビフェノールなどが挙げられる。この他の2官能フェノール化合物としては、例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノン、レゾルシン、メチルレゾルシン、カテコール、メチルカテコールなどのベンゼンジオール類や、ナフタレンジオールなどのナフタレンジオール類などが挙げられる。2官能アセチル化合物は、上記のフェノール化合物をアセチル化したものを用いてもよいし、それ以外の方法で合成されたものを用いてもよい。
【0032】
併用できる2官能アセチル化合物としては、例えば、下記式(3)で示される化合物が挙げられる。
【化3】
ここで、X、Y、Y及びYは上記式(2)のX、Y、Y及びYと同義である。
【0033】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、粘度や溶解性、反応性、重合物の物性を調整するために、2官能アセチル化合物の一部を2官能フェノール化合物に置き換えてもよい。複数の成分を相溶させることにより、結晶化による再析出を抑制し、溶解性を改善する効果が期待される。
2官能フェノール化合物としては、ビスフェノール化合物又はビフェニル化合物が好ましい。ビスフェノール化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF(以上、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)、ビスフェノールフルオレン(大阪ガスケミカル株式会社製)、Bis-E、Bis-Z、BisOC-FL、BisP-AP、BisP-CDE、BisP-HTG、BisP-MIBK、BisP-3MZ、S-BOC(以上、本州化学工業株式会社製)、ビスフェノールSなどが挙げられる。ビフェノール化合物としては、例えば、ビフェノール、ジメチルビフェノール、テトラメチルビフェノールなどが挙げられる。この他の2官能フェノール化合物としては、例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノン、レゾルシン、メチルレゾルシン、カテコール、メチルカテコールなどのベンゼンジオール類や、ナフタレンジオールなどのナフタレンジオール類などが挙げられる。また難燃性を付与する目的で、リン含有フェノール化合物を用いてもよい。
【0034】
本発明のエポキシ樹脂組成物に含まれる2官能フェノール化合物の割合は、エポキシ樹脂組成物に対して0~40重量%が好ましく、より好ましくは5~20重量%である。40重量%超だと、2官能アセチル化合物の割合が少なくなり、難燃性が向上しない恐れがある。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂の割合は、2官能アセチル化合物(2官能フェノール化合物を含有する場合、2官能アセチル化合物及び2官能フェノール化合物)の合計1モルに対して、0.95~1.05モルであり、好ましくは1.00~1.05モル、より好ましくは1.02~1.03モルである。
本発明の熱可塑性エポキシ樹脂では、エポキシ樹脂とアセチル化合物又はフェノール化合物が逐次的に反応し、直鎖構造をとることで熱可塑性を発現する。エポキシ樹脂が過剰であるとエポキシ基末端となり、アセチル化合物が過剰であるとアセチル基末端となり反応が終了する。
エポキシ樹脂の割合が1.01モル未満の場合、重合物がアセチル基末端となって反応が終了するため、高分子量化しにくい恐れがある。
エポキシ樹脂の割合が1.05モル超の場合、過剰なエポキシ基が副反応をおこすことにより、重合物がゲル化し熱可塑性が損なわれる恐れがある。
【0036】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、アセチル化合物(及びフェノール化合物)がエポキシ樹脂中に結晶状態で存在すると、ミクロで見た時にモル比が設計から外れる。この状態で反応を開始すると、重合が十分に進行しないことがある。重合を十分に進行させるためには、アセチル化合物(及びフェノール化合物)とエポキシ樹脂が相互に均一に相溶しているエポキシ樹脂組成物が好ましい。
また、強化繊維などを配合する前のエポキシ樹脂組成物は完全に溶解又は均一な液状となっていることが望ましいが、例えば、気泡を含まない状態でガラス製シャーレに厚さ2mmになるように溶融混合物を入れて厚み方向のヘイズ値を測定した場合において、その厚み方向のヘイズ値が30%未満であれば、重合反応に影響しない水準まで溶解又は均一な液状となったものと判断する。ヘイズ値についてより好ましくは20%未満、更に好ましくは10%未満である。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、重合触媒を必須成分として含有する。重合触媒として、具体的には、4-ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどのアミン系化合物、4-メチルイミダゾール、1B2MZ、1B2PZ、TBZ(四国化成工業株式会社製)などのイミダゾール化合物、トリフェニルホスフィン、トリス(パラトルイル)ホスフィン、トリス(オルソトルイル)ホスフィン、トリス(パラメトキシフェニル)ホスフィンなどのリン系化合物、塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウムなどの第四級アンモニウム塩類、18-クラウン-6(18-C-6)/AcOK錯体、18-C-6/KF錯体などのクラウンエーテル錯体、金属塩化物などが挙げられる。好ましくは、4-ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどのアミン系化合物である。
【0038】
重合触媒の配合量は、エポキシ樹脂と2官能アセチル化合物(及び2官能フェノール化合物)からなる樹脂組成物の総量に対して、0.01重量%以上5重量%以下であることが望ましい。0.01重量%未満である場合は、現場重合において時間がかかってしまうために生産性が低下する恐れがあるほか、目標の分子量に到達するまでに何らかの理由で失活する恐れがある。5重量%を超える場合は、重合反応が速やかに進行する一方で貯蔵安定性を損なってプロセス適合性に問題が発生する恐れがあり、反応に関与するが骨格には取り込まれない成分であるため、重合後の物性を損なう恐れがあるほか、単純に高価であるため、経済的にも不利益である。より好ましくは0.05~1.0重量%である。
【0039】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、有機溶剤を含有しないことが望ましいが、必要に応じて、重合触媒の溶媒として又は粘度調整のために、有機溶剤を含有してもよい。有機溶剤としては、エポキシ樹脂とアセチル化合物(及びフェノール化合物)との反応を阻害しないものであれば特に限定されるものではないが、入手のし易さから、炭化水素系、ケトン系、エーテル系が好ましい。具体的には、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。ただし、反応中に有機溶剤が多量に存在すると重合反応を阻害したり、重合物中に有機溶剤が残存すると機械物性や耐熱性を悪化させる。このため、有機溶剤を配合する場合、その割合は、エポキシ樹脂組成物中の10重量%以下であり、5重量%以下が好ましく、2重量%以下が特に望ましい。
【0040】
本発明のエポキシ樹脂組成物の重合の進行状況は、重合物の重量平均分子量の推移で判断することがよい。1時間未満の加熱だと重量平均分子量は増加傾向にあり、十分に重合が進行していない可能性がある。1時間以上の加熱では、エポキシ当量は1時間時点の値からほぼ増加せず十分に重合が進行していると判断できる。これにより、エポキシ樹脂組成物から熱可塑性プラスチック重合物を得るための重合条件は、例えば180℃で1時間の加熱条件であることが好ましい。ここで、重合物の物性値は、この条件で重合したものの測定値である。
【0041】
本発明のエポキシ樹脂組成物を重合することで得られる重合物の重量平均分子量(Mw)は30000以上200000以下である。重合物の重量平均分子量が範囲下限未満の場合、十分に重合が進行していない化合物を多く含むこととなり、機械的強度が悪化する恐れがある。一方、重合物の重量平均分子量が範囲上限超の場合、架橋反応が進行しており、熱可塑性が損なわれている恐れがある。好ましくMwは、35,000以上100,000以下、より好ましくは40,000以上80,000以下である。重合物のエポキシ当量は10000g/eq.以上であることが望ましい。エポキシ当量が10000g/eq.未満であると、十分に重合が進行していないおそれがある。エポキシ当量は好ましくは20,000g/eq.以上、より好ましくは25,000g/eq.以上である。
重合物のガラス転移温度は100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、125℃以上が更に好ましい。2mm厚さでの重合物のヘイズ値が30%未満であり、20%未満が好ましく、10%未満がより好ましい。
【0042】
本発明のエポキシ樹脂組成物は添加剤を含むことができる。添加剤としては、例えば、ヒュームドシリカなどの充填剤、水酸化アルミニウムや赤燐などの難燃剤、コアシェルゴムなどの改質剤、キシレン樹脂などの粘度調整剤などが挙げられる。重合反応を安定させる観点から、添加剤は樹脂相とは異なるものが配合されることが望ましいが、反応に影響しない範囲において、可塑剤、相溶型の難燃剤が含まれていてもよい。
【0043】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、重合させることにより、熱可塑性エポキシ樹脂とすることができる。この熱可塑性エポキシ樹脂は繊維強化プラスチックの樹脂成分として優れる。
本発明の強化繊維含有エポキシ樹脂組成物は、上記エポキシ樹脂組成物と強化繊維を混合又は含侵することにより得られる。また、プリプレグは下記のようにして得ることができる。
【0044】
本発明のエポキシ樹脂組成物を、離型処理された紙又はプラスチックフィルムに塗工し、必要に応じて離型処理されたカバーフィルムを付与することで、エポキシ樹脂組成物フィルムを得ることができる。離型紙や離形プラスチックフィルム、カバーフィルムに関しては公知のものを用いることができ、特に限定されるものではない。エポキシ樹脂組成物フィルムの厚さはプリプレグの設計厚さと樹脂比率によって定められるが、通常の厚さは1μm以上300μm以下である。1μm未満の場合、強化繊維をきれいに解繊しなければ繊維の目開きが目立ってしまう問題があり、300μmを超える場合は強化繊維に均一に含浸しにくくなる。好ましくは5μm以上150μm以下であり、より好ましくは10μm以上100μm以下である。
【0045】
本発明で使用する強化繊維は、炭素繊維、アラミド繊維、セルロース繊維などのプラスチックを強化するためのものであり、特に限定されるものではない。また、繊維の形態についても繊維を引きそろえたUDシート、織物、トウ、チョップドファイバー、不織布、抄紙などが挙げられ、特に限定されるものではない。ただし、含浸性の観点から、それぞれの繊維束の厚みは1mm以下、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.2mm以下である。
【0046】
本発明の強化繊維含有エポキシ樹脂組成物、又はプリプレグは、上記エポキシ樹脂組成物及び/又はエポキシ樹脂組成物フィルムと強化繊維から得られる。
強化繊維とエポキシ樹脂組成物の比率は重量比で、好ましくは5:5~8:2である。強化繊維の比率が、強化繊維が少なすぎると繊維強化材料に求められる強度を十分に満足できない恐れがあり、強化繊維が多すぎるとボイドなどの欠陥が生じる恐れがある。
【実施例0047】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。特に断りがない限り「部」は重量部を表し、「%」は重量%を表す。
【0048】
実施例において用いた原料、触媒、溶媒、強化繊維は以下のとおりである。
【0049】
[エポキシ樹脂]
A1:テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、YX-4000、エポキシ当量186)
A2:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、YD―8125、エポキシ当量173)
【0050】
[アセチル化合物]
B1:合成例1で得られたジアセチル化合物(10-(2,5-ジアセトキシフェニル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、式(1)で表されるリン化合物、アセチル基当量204)
B2:2,2-ビス(4-アセトフェニル)プロパン(東京化成工業株式会社製、アセチル基当量156)
【化4】
【0051】
[フェノール化合物]
C1:ビスフェノールA(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、水酸基当量114)
C2:10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド(三光株式会社製、HCA-HQ、水酸基当量162)
【化5】
【0052】
[リン化合物]
D1:赤燐(燐化学工業株式会社製、ノーバレッド120)
D2:クレジルジ2,6-キシレニルホスフェート(大八化学工業株式会社製、PX―110)
D3:芳香族縮合リン酸エステル(大八化学工業株式会社製、PX―200)
【0053】
[重合触媒]
E1:4-ジメチルアミノピリジン(東京化成工業株式会社製、DMAP)
【化6】
E2:トリス(p-メトキシフェニル)ホスフィン(北興化学工業株式会社製、TPAP)
【0054】
[炭素繊維]
G1:PAN系炭素繊維3Kクロスシート(FORMOSA TAFFETA社製、EC3C、クロス材、繊維目付200g/m
G2:PAN系炭素繊維(東レ株式会社製、トレカT700SC-12000、UD材)
G3:ピッチ系炭素繊維(日本グラファイトファイブ株式会社製、グラノックXN-80-A2S、UD材)
【0055】
実施例における評価方法は以下のとおりである。
【0056】
相溶性:
アセチル化合物及びフェノール化合物がエポキシ樹脂中に均一に溶融しているかどうかはヘイズ値により判断した。具体的には、前駆体混合物を無色透明のガラス製シャーレに厚み2mmになるように入れ、村上色彩技術研究所製のヘイズ標準板を参考に、ヘイズ値を「5%未満(<5)」「5%以上10%未満(<10)」「10%以上20%未満(<20)」「20%以上30%未満(<30)」「30%以上(30<)」の5段階で評価した。ヘイズ値が30%未満であれば、アセチル化合物及びフェノール化合物がエポキシ樹脂中に均一に溶解していると判断できる。
【0057】
重合物の透明性:
重合物の着色、不透明性が最終製品の意匠外観性に悪影響を及ぼすか否かはヘイズ値により判断した。具体的には、厚み2mmの重合物となるようにエポキシ樹脂組成物の重合を行い、得られた重合物を村上色彩技術研究所製のヘイズ標準板を参考に、ヘイズ値を「5%未満(<5)」「5%以上10%未満(<10)」「10%以上20%未満(<20)」「20%以上30%未満(<30)」「30%以上(30<)」の5段階で評価した。ヘイズ値が30%未満であれば、樹脂(重合物)が十分に透明であり、外観性に悪影響を及ばさないと判断できる。
【0058】
分子量:
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)をGPC測定により求めた。具体的には、本体HLC8320GPC(東ソー株式会社製)にカラム(TSKgel SuperH-H、SuperH2000、SuperHM-H、SuperHM-H、以上東ソー株式会社製)を直列に備えたものを使用し、カラム温度は40℃にした。また、溶離液はテトラヒドロフラン(THF)を使用し、0.3mL/分の流速とし、検出器は示差屈折率検出器を使用した。測定試料は固形分で0.1gを10mLのTHFに溶解し、0.45μmのマイクロフィルターでろ過したものを20μL使用した。標準ポリスチレン(東ソー株式会社製、PStQuick A、PStQuick B、PStQuick C)より求めた検量線より換算して、Mw、Mnを求めた。なお、データ処理は東ソー株式会社製GPC8020 モデルIIバージョン6.00を使用した。
【0059】
リン含有率:
試料に硫酸、塩酸、過塩素酸を加え、加熱して湿式灰化し、全てのリン原子をオルトリン酸とした。硫酸酸性溶液中でメタバナジン酸塩及びモリブデン酸塩を反応させ、生じたリンバナドモリブデン酸錯体の420nmにおける吸光度を測定し、予め作成した検量線により求めたリン含有率(P/樹脂)を%で表した。
【0060】
ガラス転移温度(Tg):
JIS K7121に準じて、示差走査熱量測定装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、EXSTAR6000 DSC6200)にて10℃/分の昇温条件で測定を行った時のDSC・Tmg(ガラス状態とゴム状態の接線に対して変異曲線の中間温度)の温度で表した。
【0061】
重合物の溶剤溶解性:
100mLのバイアル瓶に試料を約1g精秤し、50mLのテトラヒドロフランを加え、室温で超音波拡散を1時間行った後、23時間以上室温で静置して溶解した。重合物が溶剤に溶解し、固形物が観察されない場合は溶剤溶解性を〇と評価した。一部溶け残りが生じ、ゲル状態(重合物が膨潤した状態)として観察される場合は△とした。重合物が溶剤に溶解しない場合は×とした。
【0062】
燃焼試験(難燃性):
UL94V規格に準拠し、試験片クランプに垂直に取付け、20mm炎による10秒間接炎を2回行い、その燃焼挙動により、V-0,V-1,V-2,燃焼(NG)の評価を行った。
【0063】
合成例1
撹拌装置、温度計、窒素ガス導入装置、冷却管、及び滴下装置を備えたガラス製反応容器に、室温下で、2官能フェノール化合物C2を162部、無水酢酸を105部、ピリジンを79部仕込み、窒素ガスを流し撹拌しながら60℃まで昇温し、2時間反応を行った。その後、150℃、1.3kPa(10torr)の条件で2時間減圧乾燥を行い、上記式(1)で表されるジアセチル化合物B1を203部得た。
【0064】
実施例1
A1を93.0部、B1を100.0部それぞれはかりとり、ヘンシェルミキサーを用いて粉砕混合後、金属缶内に封入した。続いて170℃に予熱した熱風循環式オーブン内に金属缶を30分静置して樹脂を溶解後、室温まで冷却させ、エポキシ樹脂組成物の前駆体混合物を得た。得られた前駆体混合物のヘイズ値は5%以上10%未満(<10)であり、均一に溶解していると判断した。リン含有率は3.9%であった。
【0065】
80℃に予熱した前駆体混合物100部をディスポカップにはかりとり、重合触媒E1を0.1部加え、自転・公転式ミキサー(株式会社シンキ-、あわとり練太郎、ARV-310)を用い、真空条件下(真空度4kPa)で回転速度2000rpm、2分間混合した。混合後は速やかに抜き出して、直ちに40℃以下に冷却して、エポキシ樹脂組成物(H1)を得た。
【0066】
得られたエポキシ樹脂組成物(H1)を80℃程度に加温撹拌して、あらかじめクリアランスを2mmにセットした鉄製クロムメッキ金型容器に流し込み、熱風循環式オーブン内で180℃、60分間熱重合を行い、重合物を得た。得られた重合物のMwは44000であり、Mnは9500であり、Tgは135℃であり、溶剤溶解性は〇であった。ヘイズ値は5%以上10%未満(<10)であり、透明と判断した。
【0067】
実施例2~6、比較例1~6
表1の処方の配合量(部)で配合し、実施例1と同様の操作で、前駆体混合物、エポキシ樹脂組成物(H2~H6、H7~H12)及び重合物を得た。実施例1と同様の測定を行い、その評価結果を表1に示した。なお、表中の「モル比」は、アセチル化合物及びフェノール化合物の官能基に対するエポキシ樹脂のエポキシ基の当量比を表す。
実施例1~6で得られた重合物は、200℃、5分の加熱を行うことで再溶融し、容易に曲げ加工が可能であったことから、熱可塑性エポキシ樹脂であることが確認できた。
比較例1、2及び6は、前駆体混合物のヘイズ値は30%以上(30<)と悪く、相溶性は不良と判断した。また重合反応後は、比較例1では色味が不均一で白濁したな重合物が、比較例2では褐色かつ不透明な重合物が得られた。比較例6の重合物はTHF溶液にほぼ溶解せず、溶剤溶解性は×だったため、分子量の測定については省略した。
【0068】
【表1】
【0069】
実施例7
70℃に予熱したホットプレートの上に離型処理された離型紙を、離型面が上になるように固定し、エポキシ樹脂組成物(H1)を離型紙上に乗せてから、70℃に予熱したバーコーターを用いて樹脂の面積重量が133g/mになるように塗工した。塗工後直ちにホットプレート上から取り外し空冷して、エポキシ樹脂組成物シートを得た。
続いて、得られたエポキシ樹脂組成物シート上に、炭素繊維(G1)を貼り合わせ、90℃に予熱したホットプレスを用いて面圧が0.5MPaになるように圧力を加え、1分後に取り出して空冷して、Rc=40%のプリプレグを得た。
更に、得られたプリプレグを4枚積層した後、離型フィルムで挟み込み、真空プレスによりCFRP成型板を得た。なお、真空プレスの条件は180℃、0.1MPa、240分である。得られたCFRP成型板からスライサーを用いて、長さ125mm、幅13mmの試験片を作製し、燃焼試験に供し難燃性を評価したところ、V-0であった。
【0070】
実施例8~14、参考例1、比較例7
表2に記載の条件で実施例7と同様の操作で、CFRP成型板を作製し難燃性を評価した。参考例1では、エポキシ樹脂組成物シートを2枚用いる事で、樹脂の面積重量が266g/mとなるようにした。実施例10~12で使用したUD材(G2、G3)は一方向に繊維が引き揃えられた形態であり、プリプレグは樹脂シート上に所定の目付量になるように繊維を等間隔に引き揃えることで作製した。また、プリプレグを0°のものを4層積層することでCFRP成型板を作製し、長さ方向が繊維方向と一致するように切断して、燃焼試験用の試験片を得た。
【0071】
【表2】