(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048602
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】ベーカリー用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 9/007 20060101AFI20230331BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20230331BHJP
A21D 2/16 20060101ALI20230331BHJP
A21D 2/26 20060101ALI20230331BHJP
A21D 2/18 20060101ALI20230331BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
A23D9/007
A23L29/269
A21D2/16
A21D2/26
A21D2/18
A23D9/00 502
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021158019
(22)【出願日】2021-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】室田 健来
(72)【発明者】
【氏名】伊沢 紘介
(72)【発明者】
【氏名】城戸 裕喜
(72)【発明者】
【氏名】小中 隆太
(72)【発明者】
【氏名】福釜 佳行
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
4B041
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG02
4B026DH01
4B026DH02
4B026DL03
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4B032DP08
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4B041LK18
4B041LK44
4B041LP01
4B041LP25
(57)【要約】
【課題】ベーカリー製品の製造時の作業性が良好で、くちどけが良くもちもちとした食感を有するベーカリー製品を得ることができ、その食感を維持することが可能なベーカリー用油脂組成物を提供すること。
【解決手段】キサンタンガムを1.5~55質量%と、糖分解酵素とを含有し、水分含有量が5質量%以下であるベーカリー用油脂組成物である。上記ベーカリー用油脂組成物は、澱粉類の含有量が2質量%以下であることが好ましく、糖分解酵素の含有量が0.01~0.7質量%であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キサンタンガムを1.5~55質量%と、糖分解酵素とを含有し、水分含有量が5質量%以下であるベーカリー用油脂組成物。
【請求項2】
澱粉類の含有量が2質量%以下である、請求項1に記載のベーカリー用油脂組成物。
【請求項3】
糖分解酵素の含有量が0.01~0.7質量%である、請求項1または請求項2に記載のベーカリー用油脂組成物。
【請求項4】
糖分解酵素がアミラーゼ類である、請求項1~3のいずれか一項に記載のベーカリー用油脂組成物。
【請求項5】
キサンタンガムの含有量が糖分解酵素1質量部に対して10~300質量部である、請求項1~4のいずれか一項に記載のベーカリー用油脂組成物。
【請求項6】
1号ローターを用いて、B型粘度計により、1%塩化カリウム水溶液を溶媒とする1%溶液として測定したときの、25℃における粘度が500~3000mPa・sであるキサンタンガムを含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のベーカリー用油脂組成物。
【請求項7】
生食のベーカリー製品用である、請求項1~6のいずれか一項に記載のベーカリー用油脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のベーカリー用油脂組成物と粉類とを含有し、粉類100質量部に対してキサンタンガムを0.1~2質量部、糖分解酵素を0.001~0.025質量部および油脂を0.5~30質量部含有するベーカリー生地。
【請求項9】
請求項8に記載のベーカリー生地を加熱処理して得られるベーカリー製品。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載のベーカリー用油脂組成物の製造方法であって、油脂混合物を冷却可塑化したのち、キサンタンガムおよび糖分解酵素を添加して混錬する、ベーカリー用油脂組成物の製造方法。
【請求項11】
キサンタンガムを1.5~55質量%と、糖分解酵素とを含有し、水分含有量が5質量%以下であるベーカリー用油脂組成物を、原材料の一つとして用いる、ベーカリー製品の食感改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー用の油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ホールセールベーカリーの台頭により、工場等で生産されたベーカリー製品を店頭で販売するケースが増加している。日本の消費者に人気なベーカリー製品としては、もちもちとした食感のベーカリー製品が挙げられ、ホールセールベーカリーにおいても、もちもちとした食感のベーカリー製品を得るための検討が行われている。
【0003】
しかし、ホールセールベーカリーにおいて製造されるベーカリー製品は、製造されてから喫食されるまでに時間を要する。そのため、製造されてからの保管条件や、経過した時間によっては、製造後の食感から、食感の変化や低下が生じてしまう。そこで、製造後のベーカリー製品のもちもちとした食感が、喫食時まで維持・保存されたベーカリー製品が求められている。
【0004】
一般に、もちもちとした食感のベーカリー製品を製造するためには、製法面からのアプローチと、原料面からのアプローチがある。
製法面からのアプローチとしては、主に、多加水製法や、低温長時間熟成製法、湯種法の3つが挙げられる。しかし、多加水製法は、通常のベーカリー生地よりも加水量が多いため、生地がべたついて製造時の作業性が悪く、またベーカリー生地の機械耐性も悪かった。低温長時間熟成製法は、通常の製法よりも発酵工程の時間が長いため、生産効率が悪かった。湯種法は、生地がべたつきやすく作業性も悪かった。さらに、ベーカリー生地の製造時に、ベーカリー生地を寝かせる必要があり、生産効率も悪かった。従って、多くの工程が機械化されており、作業効率や生産効率が求められるホールセールベーカリーでは、これらの製法を採用することが困難であった。
【0005】
原料面からのアプローチとしては、穀粉、澱粉類、油脂の3つが挙げられる。
穀粉からのアプローチとしては、α化した穀粉を用いる手法がある。例えば、α化穀粉と水とを混合してペースト状生地を調製すること、非α化穀粉を含む材料と水とを混捏して生地を調製し、次いで該生地と該ペースト状生地とを混合してパン類生地を得ること、該パン生地を発酵させること、および発酵させたパン類生地を加熱することを含む、方法(特許文献1)が報告されている。
【0006】
澱粉類からのアプローチとしては、特定の処理を行った澱粉類を用いる手法がある。例えば、エーテル化澱粉および/またはアセチル化澱粉、ならびに、α化澱粉からなるベーカリー製品用組成物であって、エーテル化澱粉および/またはアセチル化澱粉と、α化澱粉の質量比が特定範囲である、ベーカリー製品用組成物(特許文献2)が報告されている。
【0007】
油脂からのアプローチとしては、特定のトリグリセリド組成を有する油脂組成物を用いる手法がある。例えば、全トリグリセリド含有量を100質量%として、1位~3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するXXX型トリグリセリドを65~99質量%と、前記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの一つを炭素数yの脂肪酸残基Yに置換した1種以上のX2Y型トリグリセリドを35~1質量%とを含有する油脂組成物であって、前記炭素数xは8~20から選択される整数であり、前記炭素数yは、それぞれ独立して、x+2~x+12から選択される整数でありかつy≦22である、パン類用粉末油脂組成物(特許文献3)が報告されている。
【0008】
しかし、特許文献1のようなα化穀粉を用いる手法や、特許文献2のような特定の処理を行った澱粉類を用いる手法では、α化穀粉や特定の処理を行った澱粉類に起因した、ねちゃついた好ましくない食感がベーカリー製品に付与されてしまうことに加えて、くちどけの悪さが生じてしまうという課題があった。また、ベーカリー生地の製造時の作業性も改良の余地があった。特許文献3の油脂組成物においても、確かに柔らかく弾力のあるパン類が得られるが、ベーカリー製品の製造時の作業性を向上させる効果については述べられておらず、また、得られるもちもちとした食感についても、まだまだ改良の余地があった。
【0009】
そして、特許文献1~3の手法において、製造後のベーカリー製品のもちもちとした食感を、喫食時まで維持する効果については、改良の余地があった。
従って、製造直後だけでなく、一定期間保管された後においても、良好なくちどけと、もちもちとした食感を有するベーカリー製品を製造する手法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2017-112989号公報
【特許文献2】特開2015-195770号公報
【特許文献3】特開2016-163568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、次の3点である。
1)ベーカリー製品の製造に用いた際の作業性が良好であるベーカリー用油脂組成物を得ること。
2)もちもちとした食感を有してくちどけが良好なベーカリー製品を製造することのできる、ベーカリー用油脂組成物を得ること。
3)製造後時間が経過しても、もちもちとした食感を維持できるベーカリー製品を製造することが可能なベーカリー用油脂組成物を得ること。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、特定量のキサンタンガムと、糖分解酵素を含有し、水分含有量が特定数値範囲以下であるベーカリー用油脂組成物により、上記課題を解決できることを知見した。
【0013】
本発明は、上記知見に基づいたもので、下記の構成を有するものである。
(1)キサンタンガムを1.5~55質量%と、糖分解酵素とを含有し、水分含有量が5質量%以下であるベーカリー用油脂組成物。
(2)澱粉類の含有量が2質量%以下である、(1)に記載のベーカリー用油脂組成物。
(3)糖分解酵素の含有量が0.01~0.7質量%である、(1)または(2)に記載のベーカリー用油脂組成物。
(4)糖分解酵素がアミラーゼ類である、(1)~(3)のいずれか一項に記載のベーカリー用油脂組成物。
(5)キサンタンガムの含有量が糖分解酵素1質量部に対して10~300質量部である、(1)~(4)のいずれか一項に記載のベーカリー用油脂組成物。
(6)1号ローターを用いて、B型粘度計により、1%塩化カリウム水溶液を溶媒とする1%キサンタンガム溶液を測定したときの、25℃における粘度が500~3000mPa・sであるキサンタンガムを含有する、(1)~(5)のいずれか一項に記載のベーカリー用油脂組成物。
(7)生食のベーカリー製品用である、(1)~(6)のいずれか一項に記載のベーカリー用油脂組成物。
(8)(1)~(7)のいずれか一項に記載のベーカリー用油脂組成物と粉類とを含有し、粉類100質量部に対してキサンタンガムを0.1~2質量部、糖分解酵素を0.001~0.025質量部および油脂を0.5~30質量部含有するベーカリー生地。
(9)(8)に記載のベーカリー生地を加熱処理して得られるベーカリー製品。
(10)(1)~(7)のいずれか一項に記載のベーカリー用油脂組成物の製造方法であって、油脂混合物を冷却可塑化したのち、キサンタンガムおよび糖分解酵素を添加して混錬する、ベーカリー用油脂組成物の製造方法。
(11)キサンタンガムを1.5~55質量%と、糖分解酵素とを含有し、水分含有量が5質量%以下であるベーカリー用油脂組成物を、原材料の一つとして用いる、ベーカリー製品の食感改良方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により得られる効果は、次の3点である。
1)ベーカリー製品の製造に用いた際の作業性が良好であるベーカリー用油脂組成物を提供することができる。
2)もちもちとした食感を有してくちどけが良好なベーカリー製品を製造することのできる、ベーカリー用油脂組成物を提供することができる。
3)製造後時間が経過しても、もちもちとした食感を維持できるベーカリー製品を製造することが可能なベーカリー用油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のベーカリー用油脂組成物について説明する。
まず、本発明のベーカリー用油脂組成物に含有されるキサンタンガムについて述べる。
キサンタンガムとは、微生物であるXanthomonas campestrisが生産する多糖類であり、D-グルコースからなる主鎖骨格に、D-マンノース、D-グルクロン酸、D-マンノースがこの順で結合した側鎖を有する多糖類である。
【0016】
本発明のベーカリー用油脂組成物のキサンタンガムの含有量は、ベーカリー用油脂組成物中1.5~55質量%である。
キサンタンガムの含有量がベーカリー用油脂組成物中1.5質量%未満であると、本発明のベーカリー用油脂組成物をベーカリー製品の製造に用いた際にべたつきやすく、作業性が悪化する。また、本発明のベーカリー用油脂組成物を用いても、もちもちとした食感のベーカリー食品が製造できず、もちもちとした食感を維持する効果も得られない。
キサンタンガムの含有量がベーカリー用油脂組成物中55質量%を超えると、本発明のベーカリー用油脂組成物を用いて製造したベーカリー製品のくちどけが悪くなってしまう。また、キサンタンガムをベーカリー用油脂組成物中に均一に分散させることができなくなる。
【0017】
本発明のベーカリー用油脂組成物のキサンタンガムの含有量は、もちもちとした食感を有してくちどけが良好なベーカリー製品を得る観点や、ベーカリー製品のもちもちとした食感を維持する効果がより好ましく得られるという観点から、2~55質量%であることが好ましく、3~55質量%であることがより好ましく、3~52質量%であることがさらに好ましい。
【0018】
本発明のベーカリー用油脂組成物のキサンタンガムの含有量は、本発明のベーカリー用油脂組成物の使用方法や目的に応じて、上記数値範囲内で任意に設定することができる。
【0019】
例えば、食パンや菓子パン等の一般的なベーカリー製品の製造に、特に好適に用いられる本発明のベーカリー用油脂組成物(以下、低濃度タイプの本発明のベーカリー用油脂組成物と呼ぶ。)においては、キサンタンガムの含有量はベーカリー用油脂組成物中1.5~30質量%であることが好ましく、2~25質量%であることが好ましく、3~20質量%であることがさらに好ましい。
【0020】
また、ベーカリー生地の配合上、本発明のベーカリー用油脂組成物の含有量が制限されるような場合(例えば、リーンな配合のベーカリー製品を製造する場合や、油脂や他のベーカリー用油脂組成物を併用する場合など)に、特に好適に用いられる本発明のベーカリー用油脂組成物(以下、高濃度タイプの本発明のベーカリー用油脂組成物と呼ぶ。)においては、キサンタンガムの含有量はベーカリー用油脂組成物中30質量%より大きく55質量%以下であることが好ましく、35~55質量%であることがより好ましく、40~52質量%であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明のベーカリー用油脂組成物に用いるキサンタンガムは、1号ローターを用いて、B型粘度計により、1%塩化カリウム水溶液を溶媒とする1%溶液として測定したときの25℃における粘度が500~3000mPa・sであることが好ましく、700~2500mPa・sであることがより好ましく、1000~2000mPa・sであることが最も好ましい。
【0022】
本発明のベーカリー用油脂組成物に用いるキサンタンガムの粘度が上記数値範囲内であると、本発明のベーカリー用油脂組成物を用いて製造したベーカリー製品の食感が、よりもちもちとしたものとなり、くちどけもより良好なものとなるため好ましい。
上記キサンタンガムの粘度は、例えば、リオン株式会社製「ビスコテスタ VT-06」と付属の1号ローターを用いて、測定することができる。
【0023】
次に、本発明のベーカリー用油脂組成物に含有される糖分解酵素について述べる。
本発明のベーカリー用油脂組成物は、糖分解酵素を含有する。
本発明のベーカリー用油脂組成物は、糖分解酵素を含有することで、本発明のベーカリー用油脂組成物を用いた際に、もちもちとした食感を有してくちどけが良好なベーカリー製品を製造することができる。また、本発明のベーカリー用油脂組成物を用いて製造したベーカリー製品のもちもちとした食感を維持することができる。
【0024】
本発明における糖分解酵素としては、例えば、α-アミラーゼ、マルトース生成α-アミラーゼ、マルトオリゴ糖生成α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、イソアミラーゼ等のアミラーゼ類、マルターゼ、イソマルターゼ、スクラーゼ、ラクターゼ、トレハラーゼ、プルラナーゼ、ヘミセルラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ等が挙げられる。これらの糖分解酵素は、1種を単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0025】
これら糖分解酵素の中でも、本発明のベーカリー用油脂組成物においては、アミラーゼ類から選ばれる1種以上を用いることが好ましく、中でもマルトース生成α-アミラーゼ、マルトオリゴ糖生成α-アミラーゼおよびβ-アミラーゼからなる群より選ばれる1種以上であることがより好ましい。
【0026】
本発明に用いられる糖分解酵素の由来は特に限定されず、例えば、動物や植物や、カビや細菌のような微生物を由来とする糖分解酵素を用いることができる。
【0027】
本発明に用いられる糖分解酵素の至適温度は、ベーカリー生地に対して作用できる温度範囲内であればよく、20~95℃であることが好ましく、30~85℃であることがより好ましい。
【0028】
本発明に用いられる糖分解酵素の至適pHは、ベーカリー生地に対して作用できるpHの範囲内であればよく、4.0~9.0であることが好ましく、5.0~8.0であることがより好ましい。
【0029】
本発明のベーカリー用油脂組成物に含有される糖分解酵素として、好ましく用いられるアミラーゼ類について、さらに詳述する。
アミラーゼ類とは、澱粉の構成成分であるアミロースやアミロペクチンを、ブドウ糖やアミロース、オリゴ糖に分解する酵素である。本発明においては、アミラーゼ類を用いることで、適度な弾力が得られ、よりもちもちとした食感のベーカリー製品が得られる。また、得られたもちもちとした食感を維持することができる。
【0030】
本発明においては、上記アミラーゼ類の中でも、マルトース生成α-アミラーゼ、マルトオリゴ糖生成α-アミラーゼおよびβ-アミラーゼからなる群より選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0031】
マルトース生成α-アミラーゼは、アミラーゼ類の中でも、澱粉の構成成分であるアミロースやアミロペクチンのα-1,4グルコシド結合を非還元末端から切断して、主にマルトースを生成する酵素である。
本発明のベーカリー用油脂組成物に用いることができるマルトース生成α-アミラーゼを含む製剤が各種市販されており、例えば、コクラーゼ(三菱化学フーズ社製)、Novamyl 10000BG、Novamyl L、マルトゲナーゼ(以上、ノボザイムズジャパン社製)、グリンドアミル MAX-LIFE100(ダニスコジャパン社製)等が挙げられる。
【0032】
マルトース生成α-アミラーゼの至適温度は、40~95℃であることが好ましい。
【0033】
マルトオリゴ糖生成α-アミラーゼは、アミラーゼ類の中でも、澱粉の構成成分であるアミロースやアミロペクチンのα-1,4グルコシド結合を非還元末端から切断して、主にマルトオリゴ糖を生成する酵素である。
【0034】
マルトオリゴ糖とは、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース等を指す。
【0035】
上記マルトオリゴ糖生成α-アミラーゼは、α-1,4グルコシド結合を切断してマルトオリゴ糖を生成する酵素であれば特に制限されず、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明のベーカリー用油脂組成物においては、マルトオリゴ糖生成α-アミラーゼは、マルトテトラオースを主に生成する、マルトテトラオース生成α-アミラーゼであることさらに好ましい。
【0036】
本発明のベーカリー用油脂組成物に用いることのできるマルトテトラオース生成α-アミラーゼを含む製剤が各種市販されており、例えば、POWERFresh 3050、POWERFresh 3150、POWERFresh 4150(以上、ダニスコジャパン社製)、デナベイクExtra(ナガセケムテックス社製)等が挙げられる。
【0037】
マルトオリゴ糖生成α-アミラーゼの至適温度は、30~90℃であることが好ましい。
【0038】
β-アミラーゼは、アミラーゼ類の中でも、澱粉の構成成分であるアミロースやアミロペクチンのα-1,4グルコシド結合を、非還元末端から二糖単位で切断して、主にマルトースを生成する酵素である。一方で、アミロペクチン中のα-1,6グルコシド結合の手前で反応が停止するという特徴も有する酵素である。
【0039】
本発明のベーカリー用油脂組成物に用いることのできるβ-アミラーゼを含む製剤が各種市販されており、例えば、オプチマルトBBA(ジェネンコア協和社製)、β-アミラーゼ#1500、β-アミラーゼL、β-アミラーゼ#1500S(以上、ナガセケムテックス社製)、ハイマルトシンG、ハイマルトシンGL(以上、エイチビィアイ社製)、ユニアーゼL(ヤクルト薬品工業社製)、GODO-GBA(合同清酒社製)等が挙げられる。
【0040】
β-アミラーゼの至適温度は、30~65℃であることが好ましい。
【0041】
本発明のベーカリー用油脂組成物は、含有する糖分解酵素の種類や酵素活性によっても異なるが、糖分解酵素を0.01~0.7質量%含有することが好ましく、0.05~0.65質量%含有することがより好ましく、0.08~0.63質量%含有することがさらに好ましい。なお、本発明のベーカリー用油脂組成物が、複数の糖分解酵素を含有する場合は、その合算値を本発明のベーカリー用油脂組成物の糖分解酵素の含有量とする。
【0042】
本発明のベーカリー用油脂組成物において、糖分解酵素の含有量が上記数値範囲を満たしていると、本発明のベーカリー用油脂組成物を用いてベーカリー製品を製造する際にべたつきにくく、作業性が良好となりやすい。さらに、製造したベーカリー製品がよりもちもちとした食感でくちどけがよく、そのもちもちとした食感を維持する効果も良好となる。
【0043】
また、本発明のベーカリー用油脂組成物の糖分解酵素の含有量は、キサンタンガムの含有量と同様に、本発明のベーカリー用油脂組成物の使用方法や目的に応じて、任意に設定することができる。
【0044】
例えば、低濃度タイプの本発明のベーカリー用油脂組成物においては、糖分解酵素の含有量がベーカリー用油脂組成物中0.01~0.3質量%であることが好ましく、0.05~0.3質量%であることがより好ましく、0.08~0.2質量%であることがさらに好ましい。
【0045】
また、高濃度タイプの本発明のベーカリー用油脂組成物においては、糖分解酵素の含有量がベーカリー用油脂組成物中0.3質量%より大きく0.7質量%以下であることが好ましく、0.35~0.65質量%であることが好ましく、0.4~0.63質量%であることがさらに好ましい。
【0046】
本発明のベーカリー用油脂組成物は、上記キサンタンガムと糖分解酵素の相乗効果により、本発明のベーカリー用油脂組成物を用いて製造したベーカリー製品がもちもちとした食感でくちどけも良好となり、また、もちもちとした食感を維持することができるという効果が得られるため、キサンタンガムと糖分解酵素を併用することが必要である。
【0047】
本発明のベーカリー用油脂組成物においては、上記糖分解酵素1質量部に対して、上記キサンタンガムの含有量が10~300質量部であることが好ましく、30~270質量部であることがより好ましく、40~200質量部であることがさらに好ましく、50~150質量部であることが最も好ましい。
キサンタンガムの含有量と糖分解酵素の含有量の質量比が、上記数値範囲内であると、本発明の効果をさらに好ましく得ることができる。
【0048】
本発明のベーカリー用油脂組成物が含有する糖分解酵素の酵素活性は、含有する糖分解酵素の種類によっても異なるが、ベーカリー用油脂組成物100g中100~7000単位であることが好ましく、500~6500単位であることがより好ましく、800~6300単位であることがさらに好ましい。糖分解酵素の酵素活性がベーカリー用油脂組成物100g中100単位よりも少ない場合、もちもちとした食感を維持する効果が十分に得られないおそれがある。ベーカリー用油脂組成物100g中7000単位を超えると、過度に柔らかい食感となり、もちもちとした食感が得られないおそれがある。糖分解酵素の酵素活性が上記数値範囲を満たしていると、本発明のベーカリー用油脂組成物を用いてベーカリー製品を製造する際の作業性がより良好となりやすい。さらに、製造したベーカリー製品がよりもちもちとした食感でくちどけがよく、そのもちもちとした食感を維持する効果も良好となる。
なお、本発明のベーカリー用油脂組成物が、複数の糖分解酵素を含有する場合は、各酵素の酵素活性値を合算した値を、本発明のベーカリー用油脂組成物が含有する糖分解酵素の酵素活性とする。
【0049】
また、本発明のベーカリー用油脂組成物が含有する糖分解酵素の酵素活性は、本発明のベーカリー用油脂組成物の使用方法や目的に応じて、任意に設定することができる。
【0050】
例えば、低濃度タイプの本発明のベーカリー用油脂組成物においては、糖分解酵素の酵素活性は、ベーカリー用油脂組成物100g中100~3000単位であることが好ましく、500~2500単位であることがより好ましく、800~2000単位であることがさらに好ましい。
【0051】
また、高濃度タイプの本発明のベーカリー用油脂組成物においては、ベーカリー用油脂組成物100g中3000単位より大きく7000単位以下であることが好ましく、3500~6500単位であることがより好ましく、4000~6300単位であることがさらに好ましい。
【0052】
上記糖分解酵素の酵素活性の測定は、測定する糖分解酵素の種類に応じて、一般的に行われる酵素活性の測定方法を用いることができる。
以下に、本発明のベーカリー用油脂組成物に含有される糖分解酵素として、特に好ましく用いられるマルトース生成α-アミラーゼ、マルトテトラオース生成α-アミラーゼおよびβ-アミラーゼの酵素活性の測定方法の一様態を示す。
【0053】
マルトース生成α-アミラーゼの酵素活性は、例えば次のように測定することができる。
至適温度および至適pHの条件下において、マルトトリオースを基質に、酵素を作用させ、1分間に1マイクロモルのマルトースを生成する酵素量を1単位とする。マルトースの測定は、「還元糖の定量法第2版」(福井作蔵著、学会出版センター)を参照して行うことができる。
【0054】
マルトテトラオース生成α-アミラーゼの酵素活性は、例えば次のように測定することができる。
あらかじめ乾燥させた可溶性デンプン(酵素試験用)を5.000g正確に量り、300mLの水に懸濁し、デンプンが沈殿しないように時々振り混ぜながら加熱する。5分間沸騰させた後十分冷却する。これにpH7.0の200mmol/Lリン酸緩衝液50mL及び水を加えて正確に500mLとしたものを、酵素活性を測定する際の基質溶液とする。
40±0.5℃に加温した基質溶液5mLに試料溶液0.2mLを正確に加えて混和し、40±0.5℃で正確に20分間作用させる。
次に反応液1mLをはかり、あらかじめ用意したソモギー銅試液2mLに直ちに加えて反応を停止させた後、試験管にガラス玉をのせ、沸騰水浴中で10分間加熱する。
この液を冷却した後、ネルソン試液2mLを加えて、よく混和し、30分間放置した後、水5mLを正確に加え、波長520nmにおける吸光度ATを測定する。
別途、40±0.5℃に加温した基質溶液5mLに試料溶液0.2mLを正確に加えて混和し、直ちに1mLをはかり、あらかじめ用意したソモギー銅試液2mLに加えて反応を停止して、吸光度AT測定時と同様に操作し、吸光度A0を測定する。
また、ブドウ糖標準溶液及び水それぞれについて、1mLを正確にはかり、あらかじめ用意したソモギー銅試液2mLに加え、以下同様に操作し吸光度AS及びABを測定する。測定結果を次式に代入することにより酵素活性を求めることができる。
(酵素活性)={(AT-A0)×300×5.2×n}/{(AS-AB)×180.16×0.2×20}
ただし、各代数、及び数値は以下を意味する。
AT:反応液の吸光度
A0:反応停止液の吸光度
AS:ブドウ糖標準溶液の吸光度
AB:水の吸光度
300:ブドウ糖標準溶液の濃度(μg/mL)
180.16:ブドウ糖の分子量
5.2:反応液の総液量(mL)
0.2:試料溶液の量(mL)
20:反応時間(分)
n:試料溶液の希釈倍数
【0055】
β-アミラーゼの酵素活性は、例えば次のように測定することができる。
至適温度および至適pHの条件下において、可溶性澱粉溶液を基質に、酵素を作用させ、1分間に1マイクロモルのマルトースを生成する酵素量を1単位とする。マルトースの測定は、「還元糖の定量法第2版」(福井作蔵著、学会出版センター)を参照して行うことができる。
【0056】
次に、本発明のベーカリー用油脂組成物に含有される油脂について述べる。
本発明のベーカリー用油脂組成物は、食用の油脂であれば特に制限なく用いることができる。例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、ハイエルシン菜種油、米油、ごま油、べに花油、落花生油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、オリーブ油、キャノーラ油、カポック油、月見草油、牛脂、乳脂、豚脂、シア脂、サル脂、コクム脂、イリッペ脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂及び動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される1または2以上の処理を施した加工油脂等が挙げられる。これらの油脂は単独でも用いることができ、または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0057】
本発明のベーカリー用油脂組成物は、10℃における固体脂含量(以下、SFCと記載する。)が、33~70%であることが好ましく、35~65%であることがさらに好ましく、40~60%であることがさらに好ましい。
また、20℃におけるSFCが、15~50%であることが好ましく、18~45%であることがより好ましく、20~40%であることがさらに好ましい。
【0058】
本発明のベーカリー用油脂組成物の10℃および20℃におけるSFCが上記数値範囲内であると、後述する本発明のベーカリー用油脂組成物の好ましい製造方法の一態様である、冷却可塑化した油脂組成物にキサンタンガムや糖分解酵素を混合する際、油脂組成物が適度な硬さを持つことで、均一に分散させやすくなるため好ましい。これにより、もちもちとした食感を有しくちどけが良好なベーカリー製品を製造できるという効果や、もちもちとした食感を維持できるという効果を、ムラなく得ることができるため好ましい。
【0059】
上記本発明のベーカリー用油脂組成物のSFCとは、本発明のベーカリー用油脂組成物に用いられる油脂と油脂以外の原材料に含有されている油脂を合わせた、油相のSFCを指す。
【0060】
本発明における上記SFCの測定は、油脂の熱膨張による比容の変化を利用して求める手法や、核磁気共鳴(NMR)を利用して求める手法など、任意の手法を用いてよい。例えば、アステック株式会社製の固形脂含量測定装置「SFC-2000R」を用いて、日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.2.9(2013)に記載の手法で測定することができる。
【0061】
本発明のベーカリー用油脂組成物における油脂の含有量は、キサンタンガムや糖分解酵素をベーカリー用油脂組成物中に均一に分散させやすくなるという観点から、45~98.5質量%であることが好ましく、45~95質量%であることが好ましく、47~92.5質量%であることが最も好ましい。上記油脂の含有量は、油脂と油脂以外の原材料に含有される油脂も含む値である。
【0062】
本発明のベーカリー用油脂組成物における油脂の含有量は、キサンタンガムの含有量と同様に、本発明のベーカリー用油脂組成物の使用方法や目的に応じて、任意に設定することができる。
【0063】
例えば、低濃度タイプの本発明のベーカリー用油脂組成物においては、油脂の含有量はベーカリー用油脂組成物中60~98.5質量%であることが好ましく、75~95質量%であることがより好ましく、80~92.5質量%であることがさらに好ましい。
【0064】
また、高濃度タイプの本発明のベーカリー用油脂組成物においては、油脂の含有量はベーカリー用油脂組成物中45~65質量%であることが好ましく、45~60質量%であることがより好ましく、47~55質量%であることがさらに好ましい。
【0065】
次に、本発明のベーカリー用油脂組成物の水分含有量について述べる。
本発明のベーカリー用油脂組成物は、水分含有量が5質量%以下であることを特徴の一つとする。
上記水分含有量は、キサンタンガムの水分、水道水や蒸留水、ミネラルウォーター等の水、後述するその他原材料に含まれる水分を合わせた値である。
【0066】
本発明のベーカリー用油脂組成物において、水分を5質量%超えて含有した場合、キサンタンガムがダマとなったり、増粘したりするため、ベーカリー用油脂組成物中にキサンタンガムや糖分解酵素を均一に分散できなくなる。加えて、ベーカリー用油脂組成物の、ベーカリー生地への分散性も損なわれるため、ベーカリー製品の製造時の作業性が悪くなる。さらに、もちもちとした食感を有し、くちどけが良好なベーカリー製品が得られなくなり、もちもちとした食感の維持効果も得られなくなってしまう。
【0067】
本発明のベーカリー用油脂組成物の水分含有量は、キサンタンガムの含有量と同様に、本発明のベーカリー用油脂組成物の使用方法や目的に応じて、上記水分含有量の範囲を満たした上で、任意に設定できる。
【0068】
例えば、低濃度タイプの本発明のベーカリー用油脂組成物においては、水分含有量が5質量%以下であり、3質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが最も好ましい。なお、水分含有量の下限は0質量%である。
【0069】
また、高濃度タイプの本発明のベーカリー用油脂組成物においては、水分含有量は5質量%以下であり、4.8質量%以下であることが好ましく、4.6質量%以下であることがより好ましく、4.4質量%以下であることが最も好ましい。なお、水分含有量の下限は0質量%である。
【0070】
上記水分含有量の測定方法は特に制限されず、種々の方法を用いることができる。例えば、カールフィッシャー法等の一般的な水分含有量の測定方法を用いることができる。
【0071】
次に、本発明のベーカリー用油脂組成物の澱粉類について述べる。
本発明のベーカリー用油脂組成物は、キサンタンガムや糖分解酵素の作用を阻害せず、本発明の効果を好ましく得られるようにするという観点や、ベーカリー製品がねちゃついた食感となったり、くちどけが悪くなったりすることを抑制できるという観点から、澱粉類の含有量が2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.3質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下であることが最も好ましい。なお、澱粉類の好ましい含有量の下限は0質量%である。
【0072】
上記本発明のベーカリー用油脂組成物における澱粉類の含有量は、澱粉類に加えて、後述するその他原材料に含まれる澱粉類も合わせた量である。
【0073】
上記澱粉類としては、例えば、とうもろこし、キャッサバ、タピオカ、サゴヤシ、小麦、米、甘藷、馬鈴薯、緑豆等の植物から得られる澱粉や、これら澱粉に1以上の、老化処理、漂白処理、湿熱処理等の物理的処理、エステル化処理、エーテル化処理、アセチル化処理、架橋処理、乳化剤処理等の化学的処理、酵素的な処理を施した加工澱粉が挙げられる。なお、澱粉類の由来は特に制限がない。
【0074】
上記澱粉類の含有量の測定方法は特に制限されず、種々の方法を用いてもよい。例えば、ヨウ素を用いた比色法や、澱粉をグルコースまで酵素分解し、そのグルコースを定量して澱粉量を算出する方法等を用いることができる。
【0075】
本発明のベーカリー用油脂組成物によって、もちもちとした食感を有し、くちどけが良好なベーカリー製品が得られ、また、時間が経過してもその食感を維持できるという効果が得られる機序について、発明者らは以下のように推察している。
【0076】
キサンタンガムは、ベーカリー生地に含まれる澱粉類と比較して吸水が速い。そのため、本発明のベーカリー用油脂組成物を用いてベーカリー生地を製造すると、キサンタンガムが素早く水分を吸収するため、生地がべたつきにくく、作業性を向上させることができる。
そして、キサンタンガムは吸水が速い一方で、吸収した水を保持する力が弱い。そのため、ベーカリー生地の加熱処理時に、キサンタンガムは吸収した水分を徐放し、代わりにベーカリー生地に使用されている穀粉類の澱粉がその水分を吸収し、効率的にα化することができると考えられる。ベーカリー製品のもちもちとした食感は、穀粉類の澱粉に水を十分に吸水させてα化させることが重要であるため、上記作用により、本発明のベーカリー用油脂組成物は、もちもちとした食感を有したベーカリー製品を製造できるのだと考えている。本発明は穀粉類自体の澱粉のα化を促進させているため、従来のような、加工澱粉の添加によりもちもちとした食感を実現しているベーカリー製品と比較して、ねちゃつきが少なくくちどけがよくなっているのだと考えられる。
【0077】
また、本発明のベーカリー用油脂組成物は、キサンタンガムと糖分解酵素を共に含有することが必須である。キサンタンガムと糖分解酵素を共に含有することで、両者が共に穀粉類の澱粉へ作用し、α化された澱粉が再結晶化して老化することを抑制し、よりもちもちとした食感やくちどけの良さを向上させながら、そのもちもちとした食感を維持することができると考えられる。特に本発明においては、キサンタンガムの作用と糖分解酵素の作用の相乗効果によって優れた効果が得られているため、含有しているキサンタンガムと糖分解酵素の割合が一定比率の範囲であるとき、特に好ましい効果が得られているのだと考えられる。
【0078】
キサンタンガムと糖分解酵素を、油脂組成物に添加するのではなく、直接ベーカリー生地に添加した場合は、本発明の効果が得られない。上記の通り、キサンタンガムは吸水が速いため、直接ベーカリー生地にキサンタンガムを添加すると、吸水した場所でダマになってしまい、ベーカリー生地中に均一に分散されない。結果として、ベーカリー生地全体の穀粉類の澱粉を効率的にα化させることができず、本発明の効果が得られないのだと考えている。従って、キサンタンガムと糖分解酵素を水分含有量が特定数値範囲である油脂組成物に含有させる形態とすることで、ベーカリー生地への分散性が良好となるため、もちもちとした食感を有しくちどけが良好なベーカリー製品が得られ、もちもちとした食感を維持する効果が得られるのだと考えている。
【0079】
本発明のベーカリー用油脂組成物は、上記キサンタンガム、糖分解酵素、油脂のほかに、食用として用いることのできるその他原材料を含有することができる。
その他原材料としては、例えば、糖類、糖アルコール、高甘味度甘味料、乳化剤、キサンタンガムを除く増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味料、酢酸や乳酸等の酸味料、糖分解酵素以外の酵素、pH調整剤、β-カロテンやカラメル等の着色料、着香料、食品保存料、日持ち向上剤、トコフェロール等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物性蛋白及び各種卵加工品や動物性蛋白、乳や乳製品、調味料、果物類や野菜類およびこれらの果汁や果実、果肉、香辛料、コーヒー、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、種実類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0080】
上記糖類としては、例えば、上白糖、三温糖、ショ糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、グラニュー糖、黒糖、麦芽糖、てんさい糖、粉糖、液糖、異性化糖、転化糖、酵素糖化水あめ、異性化水あめ、ショ糖結合水あめ、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、キシロース、トレハロース、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖等の単糖、二糖、オリゴ糖等が挙げられる。
【0081】
上記糖アルコールとしては、例えば、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、ラクチトール、還元麦芽糖水あめ、還元乳糖、還元水あめ等が挙げられる。
【0082】
上記高甘味度甘味料としては、例えば、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ステビア、ネオテーム、甘草、グリチルリチン、グリチルリチン酸塩、ジヒドロカルコン、ソーマチン、モネリン等が挙げられる。
【0083】
上記乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、サポニン類等が挙げられる。
本発明のベーカリー用油脂組成物においては、本発明のベーカリー用油脂組成物を用いて製造したベーカリー製品のくちどけが悪くなることを抑制するという観点から、上記乳化剤を含有しないことが好ましい。
【0084】
上記増粘安定剤としては、キサンタンガムを除く増粘安定剤が挙げられ、例えば、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、デキストリン等の多糖類などが挙げられる。
【0085】
上記糖分解酵素以外の酵素としては、例えば、プロテアーゼ、リパーゼ、ホスフォリパーゼ、カタラーゼ、リポキシゲナーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、スルフィドリルオキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ等が挙げられる。
【0086】
上記乳や乳製品としては、例えば、牛乳、ヤギや羊等の動物から得られる動物乳、豆乳等の植物から得られる植物乳、脱脂乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、発酵乳、生クリーム、コンパウンドクリーム、バター、チーズ、ヨーグルト、練乳、加糖練乳、濃縮乳、乳清ミネラル、ホエー(乳清)、ホエーパウダー等が挙げられる。
【0087】
本発明のベーカリー用油脂組成物におけるその他原材料の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。なお、その他原材料の含有量の下限は0質量%である。
【0088】
本発明のベーカリー用油脂組成物の形態は特に制限されず、水相が存在しない油脂組成物の形態であってもよく、油中水型の乳化物の形態であってもよい。
【0089】
本発明のベーカリー用油脂組成物においては、ベーカリー用油脂組成物中にキサンタンガムや糖分解酵素を均一に分散させやすく、また、本発明のベーカリー用油脂組成物をベーカリー生地に分散させやすくなり、本発明の効果がより良好に得られるという観点から、水相が存在しない油脂組成物の形態であることが好ましい。
なお、上記ベーカリー用油脂組成物中の水相は、従前知られた方法によって観察することができ、例えば、スライドガラスに微量のベーカリー用油脂組成物を採取し、ベーカリー用油脂組成物が融解しない温度で光学顕微鏡を用いて観察する方法が挙げられる。
本発明においては、光学顕微鏡を用いて、拡大倍率200倍で観察したときに、水相が見られないものを、水相が存在しないベーカリー用油脂組成物とする。
【0090】
また、本発明のベーカリー用油脂組成物は、ベーカリー生地の製造の際に、ベーカリー生地の原材料と混合しやすいという点で、可塑性を有することが好ましい。
【0091】
本発明のベーカリー用油脂組成物は、パン類や菓子類等のベーカリー製品の製造に好ましく用いることができる。
【0092】
本発明のベーカリー用油脂組成物は、ベーカリー製品の製造に単独で用いることができ、他の油脂や油脂組成物と併用して用いることもできる。
【0093】
本発明のベーカリー用油脂組成物を単独で用いる場合は、特に、低濃度タイプの本発明のベーカリー用油脂組成物を用いることが好ましく、他の油脂や油脂組成物と併用する場合は、特に、高濃度タイプの本発明のベーカリー用油脂組成物を用いることが好ましい。
【0094】
高濃度タイプの本発明のベーカリー用油脂組成物と、他の油脂や油脂組成物とを併用する場合、その質量比は、高濃度タイプの本発明のベーカリー用油脂組成物1質量部に対して、他の油脂や油脂組成物を0.1~30質量部用いることが好ましく、0.3~10質量部用いることがより好ましい。他の油脂や油脂組成物は、食用であれば特に制限されず、1種または2種以上を用いることができる。
【0095】
続いて、本発明のベーカリー用油脂組成物の製造方法について述べる。
本発明のベーカリー用油脂組成物の製造方法は特に制限されず、最終的にキサンタンガムを1.5~55質量、および糖分解酵素とを含有し、油脂組成物の水分含有量が5質量%以下となるようにすれば、公知の方法で製造することができる。
【0096】
以下、本発明のベーカリー用油脂組成物の好ましい形態である、水相を含まない可塑性油脂組成物の形態をとる場合について述べる。
【0097】
本発明のベーカリー用油脂組成物の製造にあたり、キサンタンガムと糖分解酵素は別個に添加してもよく、事前に混合したものを添加してもよい。また、これらを別個に添加する場合、添加の順序や、製造工程中の添加の時点は特に問わず、任意に添加することができる。
【0098】
例えば、(1)加熱融解した油脂にキサンタンガムと糖分解酵素を添加した後に冷却可塑化してベーカリー用油脂組成物を製造してもよく、(2)キサンタンガムと糖分解酵素以外の原料をすべて混合し冷却可塑化した後で、キサンタンガムと糖分解酵素を添加して混錬してもよい。
【0099】
本発明のベーカリー用油脂組成物の製造方法においては、含有させる糖分解酵素の失活を抑制する観点や、作業効率の観点から、上記(2)のように、油脂混合物を冷却可塑化したのち、キサンタンガムおよび糖分解酵素を添加して混錬することが好ましい。
【0100】
以下に、本発明のベーカリー用油脂組成物の好ましい形態である、水相を含まない可塑性油脂組成物の形態をとる場合の、好ましい製造方法の一態様をさらに詳細に示す。
【0101】
まず、油脂を加熱融解させて混合し、必要に応じてその他原料を投入して溶解させ、油脂混合物を得る。必要に応じて、得られた油脂混合物を殺菌処理してもよい。なお、殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換器や掻き取り式熱交換器を用いた連続式でも構わない。
【0102】
次に、上記油脂混合物を冷却可塑化する。本発明における冷却は、急冷でも徐冷却でもよいが、好ましくは急冷である。本発明における徐冷却とは、-0.5℃/分未満の冷却速度での冷却を指し、急冷とは、-0.5℃/分以上の冷却速度での冷却を指す。なお、本発明の急冷は、-5℃/分以上の冷却温度で行うことがさらに好ましい。
【0103】
上記冷却は、従前知られた装置や方法を用いて行ってもよい。例えば、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター、ケムテーターなどの密閉型連続式掻き取りチューブラー冷却機(Aユニット)、プレート型熱交換機等や、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組合せ等により行うことができる。
【0104】
また、上記可塑化も、従前知られた装置や方法を用いて行ってもよい。例えば、ピンマシンなどの捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブ等で捏和することにより行うことができる。
【0105】
次に、上記冷却可塑化して得られた水相を含まない可塑性油脂組成物に、キサンタンガムおよび糖分解酵素を添加し、混錬することで、可塑性を有し水相が存在しない本発明のベーカリー用油脂組成物を得ることができる。
【0106】
上記キサンタンガムおよび糖分解酵素を、可塑性油脂組成物に添加し、混錬する方法は、従前知られた装置や方法を用いてよい。例えば、可塑性油脂組成物にキサンタンガムおよび糖分解酵素を添加し、ピンマシンなどの捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブ等で混錬して含有させる方法や、ミキサーや泡だて器を用いて、手動で混錬して含有させる手法等が挙げられる。
【0107】
上記のようにして得られた、可塑性を有し水相が存在しない本発明のベーカリー用油脂組成物は、段ボールやケース、一斗缶等の容器に流し込んでもよく、任意の形状に成型してもよい。成形する場合は、例えば、シート状やブロック状、円柱状、粒状等にすることができる。また、それぞれの形状における好ましいサイズは、シート状の場合は縦50~1000mm、横50~1000mm、厚さ1~50mmである。ブロック状の場合は縦50~1000mm、横50~1000mm、高さ50~500mmである。円柱状の場合は直径1~25mm、長さ5~100mmである。粒状の場合は直径1~25mmである。勿論、上述の形状に成形した本発明のベーカリー用油脂組成物を容器に詰めてもよい。
【0108】
次に、本発明のベーカリー生地について述べる。
本発明のベーカリー生地は、少なくとも本発明のベーカリー用油脂組成物と粉類とを含有し、粉類100質量部に対してキサンタンガム0.1~2質量部と、糖分解酵素0.001~0.025質量部と、油脂0.5~30質量部とを含有するベーカリー生地である。
なお、本発明における粉類とは、穀粉類および澱粉類の総称である。
【0109】
本発明のベーカリー生地の種類は、任意のパン類の生地、菓子類の生地であってよい。例えば、食パン生地、菓子パン生地、バラエティーブレッド生地、バターロール生地、ソフトロール生地、ハードロール生地、スイートロール生地、デニッシュ生地、ペストリー生地、フランスパン生地、パイ生地、シュー生地、ドーナツ生地、バターケーキ生地、スポンジケーキ生地、ハードビスケット生地、ワッフル生地、スコーン生地等が挙げられる。中でも、本発明の効果を感じやすいという観点から、食パン生地、菓子パン生地、バラエティーブレッド生地、バターロール生地、ソフトロール生地、ハードロール生地、スイートロール生地、フランスパン生地、ドーナツ生地であることが好ましい。
【0110】
本発明のベーカリー生地は、低濃度タイプの本発明のベーカリー用油脂組成物を含有していてもよく、高濃度タイプの本発明のベーカリー用油脂組成物を含有していてもよい。本発明のベーカリー用油脂組成物の詳細は、上述の通りである。
【0111】
本発明のベーカリー用油脂組成物の含有量は、後述する本発明のベーカリー生地におけるキサンタンガムの含有量、糖分解酵素の含有量、油脂の含有量がそれぞれ下記数値範囲となるように設定することができる。含有量の上限は、好ましくは粉類100質量部に対して30質量部以下であり、より好ましくは20質量部以下であり、さらに好ましくは15質量部以下である。また、含有量の下限は、好ましくは粉類100質量部に対して0.5質量部以上であり、より好ましくは0.7質量部以上であり、さらに好ましくは1質量部以上である。
【0112】
上記本発明のベーカリー用油脂組成物を単独でベーカリー生地に含有させる場合は、低濃度タイプの本発明のベーカリー用油脂組成物を用いることが好ましい。
上記本発明のベーカリー用油脂組成物と、他の油脂や油脂組成物を併用して、ベーカリー生地に含有させる場合は、高濃度タイプの本発明のベーカリー用油脂組成物を用いることが好ましい。
なお、高濃度タイプの本発明のベーカリー用油脂組成物と、他の油脂や油脂組成物を併用する場合の好ましい比率については、上述した通りである。
【0113】
本発明のベーカリー生地に含有されるキサンタンガムについては、上述した本発明のベーカリー用油脂組成物に含有されるキサンタンガムと同様のものを好ましく用いることができ、詳細は上述の通りである。
【0114】
本発明のベーカリー生地におけるキサンタンガムの含有量は、粉類100質量部に対して0.1~2質量部であり、好ましくは0.2~1.8質量部であり、さらに好ましくは0.3~1.5質量部である。
【0115】
本発明のベーカリー生地に含有される糖分解酵素については、上述した本発明のベーカリー用油脂組成物に含有される糖分解酵素と同様のものを好ましく用いることができ、詳細は上述の通りである。
【0116】
本発明のベーカリー生地における糖分解酵素の含有量は、粉類100質量部に対して0.001~0.025質量部であり、好ましくは0.003~0.020質量部であり、さらに好ましくは0.005~0.018質量部である。
【0117】
本発明のベーカリー生地に含有される油脂については、食用のものであれば、油脂や油脂組成物を特に制限なく用いることができる。
【0118】
本発明のベーカリー生地における油脂の含有量は、製造するベーカリー生地の種類によっても異なるが、粉類100質量部に対して0.5~30質量部である。好ましい油脂の含有量は、例えばパン類の場合、好ましくは粉類100質量部に対して20質量部以下であり、より好ましくは15質量部以下である。また、好ましくは0.7質量部以上であり、より好ましくは1質量部以上である。
上記油脂の含有量は、油脂と、油脂以外のベーカリー生地の原材料に含まれる油脂も合わせた量である。
【0119】
本発明のベーカリー生地は、穀粉類および/または澱粉類を含有する。
上記穀粉類としては、例えば、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉等の小麦粉、小麦胚芽、全粒粉、小麦ふすま、デュラム粉、大麦粉、米粉、ライ麦粉、ライ麦全粒粉、大豆粉、ハトムギ粉等が挙げられる。これらの中から1種を単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0120】
本発明のベーカリー生地においては、この中でも、小麦粉を、穀粉類中50質量%以上用いることが好ましく、80質量%以上用いることがより好ましく、100質量%用いることがさらに好ましい。
【0121】
上記澱粉類としては、例えば、とうもろこし、キャッサバ、タピオカ、サゴヤシ、小麦、米、甘藷、馬鈴薯、緑豆等の植物から得られる澱粉や、これら澱粉に1以上の、老化処理、漂白処理、湿熱処理等の物理的処理、エステル化処理、エーテル化処理、アセチル化処理、架橋処理、乳化剤処理等の化学的処理、酵素的な処理を施した加工澱粉が挙げられる。これらの中から1種を単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。なお、澱粉類の由来は特に制限がない。
【0122】
本発明のベーカリー生地は、必要に応じて、一般的なベーカリー製品の原材料として用いることのできる、その他の原材料を配合することができる。
上記その他の原材料としては、例えば、水、油脂、イースト、糖類、糖アルコール、高甘味度甘味料、増粘安定剤、着色料、酸化防止剤、デキストリン、乳や乳製品、澱粉類、チーズ類、蒸留酒、醸造酒、各種リキュール、乳化剤、膨張剤、無機塩類、食塩、ベーキングパウダー、イーストフード、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、ハーブ、豆類、卵類、蛋白質、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、香辛料、香料、各種食品素材や食品添加物等を挙げることができる。
【0123】
上記その他の原材料は、本発明の効果を損なわない範囲で任意の量を使用することができるが、水については、もちもちとした食感でくちどけが良好なベーカリー製品がより得やすくなるという観点や、ベーカリー生地製造時にべたつきがなく、作業性が良好となるという観点から、例えばパン類の場合は、粉類100質量部に対して30~120質量部用いることが好ましく、50~100質量部用いることがより好ましく、60~90質量部用いることがさらに好ましい。
なお、上記の水の量は、キサンタンガムや本発明のベーカリー用油脂組成物、その他の原材料に含まれる水分も含んだ量である。また、例えば、中種法で本発明のベーカリー生地を製造する場合など、複数の生地に分けて水を添加する場合は、その合計値を水の量とする。
【0124】
本発明のベーカリー生地は、少なくとも本発明のベーカリー用油脂組成物を含有し、キサンタンガムの含有量、糖分解酵素の含有量、油脂の含有量が上記数値範囲内であることで、ベーカリー生地を製造時の作業性が良好で、本発明のベーカリー生地を加熱処理して得られるベーカリー製品がもちもちとした食感で、くちどけが良好なものとなる。加えて、ベーカリー生地への加水量が多い場合は、ベーカリー生地を製造時の作業性がさらに良好となりもちもちとした食感を得る効果も顕著に得ることができる。加水量が多いベーカリー生地については、ベーカリー生地の種類によってその加水量は異なるが、例えば食パン生地の場合、水を粉類100質量部に対して70~100質量部含有する食パン生地であると、上記効果を顕著に得ることができるため好ましい。
【0125】
上記本発明のベーカリー生地の製造方法は特に制限されず、従前知られたベーカリー生地の製造方法を用いることができる。例えば、中種法、直捏法、液種法、中麺法、湯種法等の一般的なパン類の生地の製造方法や、シュガーバッター法、フラワーバッター法、オールインミックス法、溶かしバター法、別立て法、後粉法、後油法、湯捏法等の一般的な菓子類の生地の製造方法を、適宜選択して製造することができる。
【0126】
本発明のベーカリー生地においては、よりもちもちとした食感でくちどけが良好なベーカリー製品を簡便に得られるという観点から、中種法により製造することが好ましい。本発明のベーカリー生地を中種法により製造する場合は、本発明のベーカリー用油脂組成物を中種生地および/または本捏生地に練り込み、好ましくは本捏生地に練り込み、含有させることが好ましい。
【0127】
上記本発明のベーカリー生地に、本発明のベーカリー用油脂組成物を含有させる方法は特に限定されず、例えば、ベーカリー生地に本発明のベーカリー用油脂組成物を練り込んでもよく、折り込んでもよい。好ましくは、ベーカリー生地に本発明のベーカリー用油脂組成物を練り込んで含有させることが好ましい。
【0128】
本発明のベーカリー生地は、製造後に冷蔵保管あるいは冷凍保管してもよい。
上記冷蔵保管とは、-5℃以上10℃以下で保管することを指し、0~10℃で保管することが好ましく、0~5℃で保管することがより好ましい。上記冷凍保管とは、-30℃以上-5℃より低い温度で保管することを指し、-30~-10℃で保管することがより好ましい。
【0129】
上記冷蔵保管あるいは冷凍保管した本発明のベーカリー生地は、そのまま加熱処理してもよく、室温に戻してから、必要に応じて成形等を行い加熱処理してもよい。
【0130】
次に、本発明のベーカリー製品について述べる。
本発明のベーカリー製品は、本発明のベーカリー生地を加熱処理することにより得られる。
【0131】
上記ベーカリー生地を加熱処理する方法としては特に制限がなく、例えば、上記本発明のベーカリー生地を焼成したり、フライしたり、蒸したり、電子レンジで処理したりすることが挙げられる。
本発明のベーカリー製品は、本発明のベーカリー生地を加熱処理したものであれば特に制限されない。
【0132】
本発明の効果である、もちもちとした食感でくちどけが良好で、その食感が維持されたベーカリー製品が得られやすいという観点から、本発明のベーカリー製品は、食パン、菓子パン、バラエティーブレッド、バターロール、ソフトロール、ハードロール、スイートロール、フランスパン、ドーナツであることが好ましい。
【0133】
本発明のベーカリー製品に用いられる原材料は、上述した本発明のベーカリー生地に用いられる原材料の通りである。
【0134】
上記のようにして得られた本発明のベーカリー製品は、衛生面を確保できる期間内であれば、製造してから喫食するまでの間保管してもよい。本発明のベーカリー製品は、製造してから喫食するまでの間保管したとしても、そのもちもちとした好ましい食感を維持することができる。
【0135】
保管する際の温度としては、衛生面を確保できる範囲内であれば特に制限がないが、常温あるいは冷凍で保管することが好ましい。冷蔵で保管した場合、ベーカリー製品中の澱粉類が老化しやすい温度であるため、本発明のもちもちとした食感を維持できるという効果が、好ましく得られない恐れがある。そのため、本発明においては冷蔵で保管しないことが好ましい。
本発明における常温とは、10℃より高く30℃以下の温度を指し、冷蔵とは、-5℃以上10℃以下の温度を指し、冷凍とは、-30℃より高く-5℃よりも低い温度を指す。
【0136】
通常のベーカリー製品は、製造後時間が経過するとベーカリー製品中の澱粉類が老化し、食感が失われてしまう。しかし、本発明のベーカリー用油脂組成物は、ベーカリー製品の製造後から時間が経過しても、もちもちとした食感を維持できるため、ベーカリー製品を喫食時に再加熱せずとも、製造時のようなもちもちとした食感を味わうことができる。そのため、本発明のベーカリー製品は、生食のベーカリー製品であることが好ましい。
【0137】
本発明における生食とは、ベーカリー生地を加熱処理して得られたベーカリー製品を、例えばトーストしたり、電子レンジで加熱したり等、再び加熱処理することなく喫食することを指す。具体的には、製造後保管せずに再び加熱処理することなくベーカリー製品を喫食したり、常温保管あるいは冷蔵保管あるいは冷凍保管していたベーカリー製品を再び加熱処理することなく喫食したり、冷凍保管していたベーカリー製品を自然解凍して喫食したりすることが挙げられる。加熱処理については上述の通りである。
【0138】
なお、冷蔵保管していたベーカリー製品の場合、食感が硬くなり、本発明のもちもちとした食感を維持するという効果が好ましく得られない恐れがあるため、上記生食のベーカリー製品は、冷蔵保管したベーカリー製品でないことが好ましい。
【0139】
本発明における常温保管とは、10℃より高く30℃以下の温度で保管することを指し、冷蔵保管とは、-5℃以上10℃以下の温度で保管することを指し、冷凍保管とは-30℃以上-5℃より低い温度で保管することを指す。
【0140】
最後に、本発明のベーカリー製品の食感改良方法について述べる。
本発明のベーカリー製品の食感改良方法は、キサンタンガムを1.5~55質量%と、糖分解酵素とを含有し、水分含有量が5質量%以下であるベーカリー用油脂組成物を、原材料の一つとして用いるものである。
【0141】
本発明のベーカリー製品の食感改良方法を用いることで、もちもちとした食感を有し、くちどけが良好なベーカリー製品を得ることができ、また、製造してから時間が経過しても、もちもちとした食感を維持できるベーカリー製品を得ることができる。
【0142】
キサンタンガムを1.5~55質量%と、糖分解酵素とを含有し、水分含有量が5質量%以下であるベーカリー用油脂組成物としては、本発明のベーカリー用油脂組成物を用いることが好ましい。
【0143】
上記本発明のベーカリー製品の食感改良方法における本発明のベーカリー用油脂組成物およびベーカリー製品については、上述の通りである。
【実施例0144】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0145】
〔エステル交換油脂Aの製造〕
パームオレイン(パーム油を分別することにより得られる低融点画分、ヨウ素価57)100質量%に対して、ナトリウムメトキシドを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により精製してエステル交換油脂Aを得た。
【0146】
〔エステル交換油脂Bの製造〕
パームスーパーオレイン(パーム油の低融点画分をさらに分別することにより得られる低融点画分、ヨウ素価65)100質量%に対して、ナトリウムメトキシドを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により精製してエステル交換油脂Bを得た。
【0147】
キサンタンガム:「エコーガム」(DSP五協フード&ケミカル株式会社製)、粘度:1500mPa・s、水分含有量:製品中8質量%
ヒドロキシプロピルメチルセルロース:「ヒートゾル 緩 MH」(ユニテックフーズ株式会社製)
マルトース生成α-アミラーゼ:「Novamyl 10000BG」(ノボザイムズジャパン株式会社製)、酵素活性:10000単位/g
α-アミラーゼ:「Fungamy l2500SG」(ノボザイムズジャパン株式会社製)、酵素活性:5300単位/g
【0148】
〔実施例1〕
パーム油50質量部と、パームステアリン5質量部と、エステル交換油脂A45質量部とを加熱して融解させ、撹拌により混合し油脂混合物を得た。
得られた油脂混合物98.08質量部を-5℃/分の冷却温度で10℃まで急冷可塑化し、可塑性油脂組成物を得た。続いて、得られた可塑性油脂組成物に、キサンタンガム1.8質量部と、マルトース生成α-アミラーゼ0.12質量部とを添加し、混合して、水相が存在せず可塑性を有する、低濃度タイプのベーカリー用油脂組成物1を得た。
ベーカリー用油脂組成物1の10℃におけるSFCは47.7%、20℃におけるSFCは23.1%であった。また、ベーカリー用油脂組成物1の水分含有量は0.14質量%であり、澱粉類の含有量は0質量%であった。
【0149】
〔実施例2〕
実施例1における油脂混合物98.08質量部を96.68質量部とし、キサンタンガム1.8質量部を3.2質量部とした以外は同様の配合、製法で、水相が存在せず可塑性を有する、低濃度タイプのベーカリー用油脂組成物2を得た。
ベーカリー用油脂組成物2の10℃におけるSFCは47.7%、20℃におけるSFCは23.1%であった。また、ベーカリー用油脂組成物2の水分含有量は0.26質量%であり、澱粉類の含有量は0質量%であった。
【0150】
〔実施例3〕
実施例1における油脂混合物98.08質量部を89.88質量部とし、キサンタンガム1.8質量部を10質量部とした以外は同様の配合、製法で、水相が存在せず可塑性を有する、汎用タイプのベーカリー用油脂組成物3を得た。
ベーカリー用油脂組成物3の10℃におけるSFCは47.7%、20℃におけるSFCは23.1%であった。また、ベーカリー用油脂組成物3の水分含有量は0.8質量%であり、澱粉類の含有量は0質量%であった。
【0151】
〔実施例4〕
実施例1における油脂混合物98.08質量部を64.40質量部とし、キサンタンガム1.8質量部を35質量部とし、マルトース生成α-アミラーゼ0.12質量部を0.6質量部とした以外は同様の配合、製法で、水相が存在せず可塑性を有する、高濃度タイプのベーカリー用油脂組成物4を得た。
ベーカリー用油脂組成物4の10℃におけるSFCは47.7%、20℃におけるSFCは23.1%であった。また、ベーカリー用油脂組成物4の水分含有量は2.8質量%であり、澱粉類の含有量は0質量%であった。
【0152】
〔実施例5〕
実施例1における油脂混合物98.08質量部を49.40質量部とし、キサンタンガム1.8質量部を50質量部とし、マルトース生成α-アミラーゼ0.12質量部を0.6質量部とした以外は同様の配合、製法で、水相が存在せず可塑性を有する、高濃度タイプのベーカリー用油脂組成物5を得た。
ベーカリー用油脂組成物5の10℃におけるSFCは47.7%、20℃におけるSFCは23.1%であった。また、ベーカリー用油脂組成物5の水分含有量は4.0質量%であり、澱粉類の含有量は0質量%であった。
【0153】
〔実施例6〕
実施例1における油脂混合物98.08質量部を89.96質量部とし、キサンタンガム1.8質量部を10質量部とし、マルトース生成α-アミラーゼ0.12質量部を0.04質量部とした以外は同様の配合、製法で、水相が存在せず可塑性を有する、低濃度タイプのベーカリー用油脂組成物6を得た。
ベーカリー用油脂組成物6の10℃におけるSFCは47.7%、20℃におけるSFCは23.1%であった。また、ベーカリー用油脂組成物6の水分含有量は0.8質量%であり、澱粉類の含有量は0質量%であった。
【0154】
〔実施例7〕
実施例1における油脂混合物98.08質量部を49.35質量部とし、キサンタンガム1.8質量部を50質量部とし、マルトース生成αーアミラーゼ0.12質量部を0.65質量部とした以外は同様の配合、製法で、水相が存在せず可塑性を有する、高濃度タイプのベーカリー用油脂組成物7を得た。
ベーカリー用油脂組成物7の10℃におけるSFCは47.7%、20℃におけるSFCは23.1%であった。また、ベーカリー用油脂組成物7の水分含有量は4.0質量%であり、澱粉類の含有量は0質量%であった。
【0155】
〔実施例8〕
実施例1における油脂混合物の配合を、パーム油20質量部と、エステル交換油脂A15質量部と、エステル交換油脂B65質量部とした以外は同様の配合、製法で、水相が存在せず可塑性を有する、低濃度タイプのベーカリー用油脂組成物8を得た。
ベーカリー用油脂組成物8の10℃におけるSFCは36.1%、20℃におけるSFCは16.2%であった。また、ベーカリー用油脂組成物8の水分含有量は0.8質量%であり、澱粉類の含有量は0質量%であった。
【0156】
〔実施例9〕
実施例1における油脂混合物の配合を、パーム油70質量部と、パームステアリン15質量部と、エステル交換油脂A15質量部とした以外は同様の配合、製法で、水相が存在せず可塑性を有する、低濃度タイプのベーカリー用油脂組成物9を得た。
ベーカリー用油脂組成物8の10℃におけるSFCは51.9%、20℃におけるSFCは25.9%であった。また、ベーカリー用油脂組成物9の水分含有量は0.8質量%であり、澱粉類の含有量は0質量%であった。
【0157】
〔実施例10〕
実施例1における油脂混合物98.08質量部を89.88質量部とし、キサンタンガム1.8質量部を10質量部とし、マルトース生成α-アミラーゼをα-アミラーゼとした以外は同様の配合、製法で、水相が存在せず可塑性を有する、低濃度タイプのベーカリー用油脂組成物10を得た。
ベーカリー用油脂組成物10の10℃におけるSFCは47.7%、20℃におけるSFCは23.1%であった。また、ベーカリー用油脂組成物10の水分含有量は0.8質量%であり、澱粉類の含有量は0質量%であった。
【0158】
〔比較例1〕
パーム油50質量部と、パームステアリン5質量部と、エステル交換油脂A45質量部とを加熱して融解させ、撹拌により混合し油脂混合物を得た。
得られた油脂混合物79.87質量部に、乳化剤0.01質量部と、水10質量部とを加え、撹拌により混合し、乳化させ、油中水型の乳化物を得た。この乳化物を-5℃/分の冷却温度で10℃まで急冷可塑化し、可塑性油脂組成物を得た。続いて、得られた可塑性油脂組成物に、キサンタンガム10質量部と、マルトース生成α-アミラーゼ0.12質量部とを添加し、混合して、水相を有し可塑性を有する、低濃度タイプのベーカリー用油脂組成物Aを得た。
ベーカリー用油脂組成物Aの10℃におけるSFCは47.7%、20℃におけるSFCは23.1%であった。また、ベーカリー用油脂組成物Aの水分含有量は10.8質量%であり、澱粉類の含有量は0質量%であった。
【0159】
〔比較例2〕
実施例1における油脂混合物98.08質量部を84.88質量部とし、キサンタンガム1.8質量部を10質量部とし、得られた可塑性油脂組成物にさらに加工澱粉5質量部を添加して混合した以外は同様の配合、製法で、水相が存在せず可塑性を有する、低濃度タイプのベーカリー用油脂組成物Bを得た。
ベーカリー用油脂組成物Bの10℃におけるSFCは47.7%、20℃におけるSFCは23.1%であった。また、ベーカリー用油脂組成物Bの水分含有量は0.8質量%であり、澱粉類の含有量は5質量%であった。
【0160】
〔比較例3〕
実施例1における油脂混合物98.08質量部を85.58質量部とし、キサンタンガム1.8質量部をヒドロキシメチルセルロース14.3質量部とした以外は同様の配合、製法で、水相が存在せず可塑性を有する、低濃度タイプのベーカリー用油脂組成物Cを得た。
ベーカリー用油脂組成物Cの10℃におけるSFCは47.7%、20℃におけるSFCは23.1%であった。また、ベーカリー用油脂組成物Cの水分含有量は0質量%であり、澱粉類の含有量は0質量%であった。
【0161】
〔比較例4〕
実施例1における油脂混合物98.08質量部を99.08質量部とし、キサンタンガム1.8質量部を0.8質量部とした以外は同様の配合、製法で、水相が存在せず可塑性を有する、低濃度タイプのベーカリー用油脂組成物Dを得た。
ベーカリー用油脂組成物Dの10℃におけるSFCは47.7%、20℃におけるSFCは23.1%であった。また、ベーカリー用油脂組成物Dの水分含有量は0.1質量%であり、澱粉類の含有量は0質量%であった。
【0162】
〔比較例5〕
実施例1における油脂混合物98.08質量部を34.40質量部とし、キサンタンガム1.8質量部を65質量部とし、マルトース生成α-アミラーゼ0.12質量部を0.6質量部とした以外は同様の配合、製法で、水相が存在せず可塑性を有する、高濃度タイプのベーカリー用油脂組成物Eを得た。
ベーカリー用油脂組成物Eの10℃におけるSFCは47.7%、20℃におけるSFCは23.1%であった。また、ベーカリー用油脂組成物Eの水分含有量は5.2質量%であり、澱粉類の含有量は0質量%であった。
【0163】
〔比較例6〕
実施例1における油脂混合物98.08質量部を90.00質量部とし、キサンタンガム1.8質量部を10質量部とし、マルトース生成α-アミラーゼを含有させない以外は同様の配合、製法で、水相が存在せず可塑性を有する、低濃度タイプのベーカリー用油脂組成物Fを得た。
ベーカリー用油脂組成物Fの10℃におけるSFCは47.7%、20℃におけるSFCは23.1%であった。また、ベーカリー用油脂組成物Fの水分含有量は0.8質量%であり、澱粉類の含有量は0質量%であった。
【0164】
〔比較例7〕
実施例1における油脂混合物98.08質量部を89.995質量部とし、キサンタンガム1.8質量部を10質量部とし、マルトース生成α-アミラーゼ0.12質量部を0.005質量部とした以外は同様の配合、製法で、水相が存在せず可塑性を有する、低濃度タイプのベーカリー用油脂組成物Gを得た。
ベーカリー用油脂組成物Gの10℃におけるSFCは47.7%、20℃におけるSFCは23.1%であった。また、ベーカリー用油脂組成物Gの水分含有量は0.8質量%であり、澱粉類の含有量は0質量%であった。
【0165】
〔比較例8〕
実施例1における油脂混合物98.08質量部を49.10質量部とし、キサンタンガム1.8質量部を50質量部とし、マルトース生成α-アミラーゼ0.12質量部を0.9質量部とした以外は同様の配合、製法で、水相が存在せず可塑性を有する、高濃度タイプのベーカリー用油脂組成物Hを得た。
ベーカリー用油脂組成物Hの10℃におけるSFCは47.7%、20℃におけるSFCは23.1%であった。また、ベーカリー用油脂組成物Hの水分含有量は4.0質量%であり、澱粉類の含有量は0質量%であった。
【0166】
〔比較例9〕
実施例1における油脂混合物の配合を、パーム油5質量部と、エステル交換油脂B95質量部とした以外は同様の配合、製法で、水相が存在せず可塑性を有する、低濃度タイプのベーカリー用油脂組成物Iを得た。
ベーカリー用油脂組成物Iの10℃におけるSFCは31.2%、20℃におけるSFCは14.0%であった。また、ベーカリー用油脂組成物Iの水分含有量は0.8質量%であり、澱粉類の含有量は0質量%であった。
【0167】
【0168】
<ベーカリー用油脂組成物の評価>
上記のベーカリー用油脂組成物1~10およびベーカリー用油脂組成物A~Iの様子を目視で確認し、触って付着具合を確認した。評価は下記の評価基準に沿って行った。結果を表2に示す。
〔評価基準〕
○:ベーカリー用油脂組成物が継粉とならずまとまっており、べたつきもなく、良好であった。
△:ベーカリー用油脂組成物がやや継粉となっている部分が見られた。または、ベーカリー用油脂組成物がややべたついた。
×:ベーカリー用油脂組成物が継粉となってまとまらない、または、ベーカリー用油脂組成物が非常にべたつき、不良であった。
【0169】
【0170】
ベーカリー用油脂組成物1~10は、継粉とならずにまとまっており、べたつきもなく良好であった。油脂組成物の10℃および20℃におけるSFCが、実施例3のベーカリー用油脂組成物3よりも低い、実施例8のベーカリー用油脂組成物8は、油脂組成物がやや柔らかかったが、べたつきはなく良好であった。
一方、水分が10.8質量%であり水相が存在する比較例1のベーカリー用油脂組成物Aは、キサンタンガムが水を吸収してしまったため、少し継粉となっている部分が見られた。澱粉類を含有する比較例2のベーカリー用油脂組成物Bは、澱粉類に糖分解酵素が作用してしまったため、ややべたついてしまった。
また、キサンタンガムの含有量が65質量%である比較例5のベーカリー用油脂組成物Eは、キサンタンガムの含有量が多すぎて継粉となってしまい、1つの油脂組成物としてまとまらず不良であった。実施例8のベーカリー用油脂組成物8よりも、さらに10℃および20℃におけるSFCが低い比較例9のベーカリー用油脂組成物Iは、油脂組成物が柔らかすぎて、ややべたついたものになってしまった。
【0171】
<製パン試験1>
上記のベーカリー用油脂組成物1~10およびベーカリー用油脂組成物A~D、F~Iを用いて、表3に示す配合、および下記の製法で、食パン1-1~10-1および食パンA-1~D-1、F-1~I-1を製造した。ベーカリー用油脂組成物Eについては、上述の通り性状が不良であるため試験を行うことができなかった。なお、低濃度タイプである、ベーカリー用油脂組成物1~3、6、8~10、および、ベーカリー用油脂組成物A~D、F、G、Iはそれぞれを単独で使用し、高濃度タイプである、ベーカリー用油脂組成物4、5、7、および、ベーカリー用油脂組成物Hはショートニングと併用して使用した。
【0172】
【0173】
中種生地の原材料をミキサーボールに投入し、フックを使用して、低速で2分間、中速で2分間混合して中種生地を得た。捏ね上げ温度は24℃であった。次に、得られた中種生地を、28℃、相対湿度85%の恒温室で4時間発酵した。
発酵させた中種生地をミキサーボールに投入し、ここにベーカリー用油脂組成物およびショートニング以外の本捏生地の原材料を加え、フックを使用して、低速で3分間、中速で3分間ミキシングした。ここで、ベーカリー用油脂組成物およびショートニングを投入し、さらに低速で3分間、中速で4分間ミキシングし、食パン生地を得た。捏ね上げ温度は27℃であった。
続いて、フロアタイムを20分間とり、220gに分割して丸めを行った。次に、ベンチタイムを20分間とったあとに、モルダー成形し、3斤型に6本の生地をU字型にして詰め、38℃、相対湿度80%で45分間ホイロをとった。その後、200℃に設定したオーブンで40分間焼成し、食パンを得た。
【0174】
上記製パン時の作業性を、下記の評価基準に沿って評価した。結果を表4に示す。
◎:生地が全くべとつかず、非常に良好な作業性であった。
○:生地がややべとつくが問題のない範囲であり、良好な作業性であった。
△:生地がべとつき、やや作業性が悪かった。
×:生地が非常にべとつき、非常に作業性が悪かった。
【0175】
製造した食パンの食感およびくちどけの評価を次のようにして行った。結果を表4に示す。
製パンに用いた原材料のうち、ベーカリー用油脂組成物を使用せず、ショートニングを単独で使用してコントロールとなる食パンを製造した。5名の専門のパネラーによって、製造後、1日間室温(20℃)で保管した各食パンを試食し、コントロールの食パンと比較して、食パン1-1~10-1および食パンA-1~D-1、F-1~I-1の食感とくちどけがどうであるか、下記の評価基準に沿って採点した。また、製造後、3日間室温で保管した食パン1-1~10-1および食パンA-1~D-1、F-1~I-1の食感がどうであるか、同様に下記の評価基準に沿って採点した。
採点を集計し、その点数が25~23点である場合は◎+、22~20点である場合は◎、19~17点である場合は○、16~13点である場合は△、12点以下である場合は×として表中に示した。なお、5名の専門のパネラーは、採点の前に各点数に対応する官能の程度のすり合わせを行っており、パネラー間で評価基準に差が生じないようにしている。
【0176】
●1日間保管後の食パンの食感
5点:コントロールと比較して、非常にもちもちとした食感であった。
4点:コントロールと比較して、ややもちもちとした食感であった。
3点:コントロールと同等の食感であった。
2点:コントロールよりも食感がやや劣り、もちもちとした食感は感じられなかった。
1点:コントロールよりも非常に食感が劣り、全くもちもちとした食感は感じられなかった。
●1日間保管後の食パンのくちどけ
5点:コントロールと比較して、非常にくちどけがよかった。
4点:コントロールと比較して、くちどけがよかった。
3点:コントロールと同等のくちどけであった。
2点:コントロールよりもねちゃついて、くちどけがやや劣っていた。
1点:コントロールよりも非常にねちゃついて、くちどけが非常に劣っていた。
●3日間保管後の食パンの食感
5点:コントロールと比較して、非常にもちもちとした食感であった。
4点:コントロールと比較して、ややもちもちとした食感であった。
3点:コントロールと同等の食感であった。
2点:コントロールよりも食感がやや劣り、もちもちとした食感は感じられなかった。
1点:コントロールよりも非常に食感が劣り、全くもちもちとした食感は感じられなかった。
【0177】
【0178】
製パン試験の結果、糖分解酵素の含有量が多い実施例7のベーカリー用油脂組成物7と、10℃および20℃におけるSFCが低い実施例8のベーカリー用油脂組成物8を用いた場合は、やや生地がべとついたが問題ない範囲であり、本発明のベーカリー用油脂組成物1~10を用いた場合の製パン時の作業性は良好であった。
しかし、糖分解酵素の含有量が実施例7よりもさらに多い比較例8、10℃および20℃におけるSFCが実施例8よりもさらに低い比較例9のベーカリー用油脂組成物HおよびIを用いた場合は、生地がべとつき作業性が悪かった。また、水分が10.8質量%であり水相が存在する比較例1と、澱粉類を含有する比較例2のベーカリー用油脂組成物AおよびBを用いた場合も、生地がべたついて作業性が悪かった。
【0179】
製造後1日間保管後の食パンの食感およびくちどけの評価の結果、本発明のベーカリー用油脂組成物を用いて製造した食パン1-1~10-1は、もちもちとした食感を有し、くちどけが良好であった。中でも、食パン1-1~5-1の結果から、本発明の効果が得られるキサンタンガム含有量の好ましい数値範囲が存在することが示唆された。他方、キサンタンガムの含有量が少ないベーカリー用油脂組成物Dを用いた食パンD-1では、十分なもちもちとした食感が得られず、キサンタンガムではなくヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有したベーカリー用油脂組成物Cを用いた食パンC-1では、ある程度のもちもちとした食感は得られるが、ねちゃついた食感でありくちどけが非常に悪かった。
また、食パン6-1、7-1、および食パンF-1~H-1から、糖分解酵素の含有量にも、本発明の効果が得られる好ましい範囲が存在することが示唆された。糖分解酵素が0.9質量部であるベーカリー用油脂組成物Hを用いて製造した食パンH-1は、くちどけは良好だが、もちもちとした食感が得られなかった。
やや柔らかかった本発明のベーカリー用油脂組成物8と比較して、SFCが高かった本発明のベーカリー用油脂組成物3および9を用いて製造した食パン3-1および9-1は、もちもちとした食感を有し、くちどけもより良好であった。他方、本発明のベーカリー用油脂組成物8よりもSFCの低い、ベーカリー用油脂組成物Iを用いて製造した食パンI-1は、もちもちとした食感やくちどけが劣っていた。
糖分解酵素として、マルトース生成α-アミラーゼの代わりに、α-アミラーゼを含有したベーカリー用油脂組成物10を用いて製造した食パン10-1は、コントロールと比較してもちもちとしたくちどけの良い食パンは得られたが、ややねちゃつきが感じられ、他の本発明のベーカリー用油脂組成物を用いて製造した食パンより、やや得られる効果が小さかった。
【0180】
室温で3日間保管した場合においても、本発明のベーカリー用油脂組成物を用いて製造した食パン1-1~10-1はもちもちとした食感を有しており、食感の維持効果が得られていた。
食パン1-1~5-1から、食感の維持効果においても、キサンタンガムの含有量の好ましい数値範囲が存在することが示唆された。また、食パン6-1、7-1および食パンF-1~H-1から、糖分解酵素の含有量が過少である、または過多である場合、食感の維持効果が良好に得られないことがわかった。
そして、澱粉類を含有するベーカリー用油脂組成物B、キサンタンガムの代わりにヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有するベーカリー用油脂組成物Cを用いた食パンB-1およびC-1は、製造後のもちもちとした食感が失われており、本発明のベーカリー用油脂組成物を用いて製造した食パン1-1~10-1のような食感の維持効果が得られなかった。
【0181】
また、室温で3日間保管後の食パンの食感評価において評価が◎+であった食パン3-1、5-1、7-1については、製造後、3日間冷蔵の温度である5℃で保管した場合についても試食し、食感を評価した。
その結果、3日間5℃で保管した食パン3-1、5-1、7-1はもちもちとした食感が弱いうえ、くちどけもやや悪く、3日間室温で保管した食パン3-1、5-1、7-1と比較して、本発明の効果が十分には現れていなかった。
【0182】
<製パン試験2>
上記のベーカリー用油脂組成物1~10およびベーカリー用油脂組成物A~D、F~Iを用いて、上記の製パン試験1よりも加水量を増加させた下記の配合で、食パン1-2~10-2および食パンA-2~D-2、F-2~I-2を製造した。食パンの製法は、上記の製パン試験1と同様である。ベーカリー用油脂組成物Eについては、上述の通り性状が不良であるため試験を行うことができなかった。なお、低濃度タイプである、本発明のベーカリー用油脂組成物1~3、6、8~10、および、ベーカリー用油脂組成物A~D、F、G、Iはそれぞれを単独で使用し、高濃度タイプである、本発明のベーカリー用油脂組成物4、5、7、および、ベーカリー用油脂組成物Hはショートニングと併用して使用した。
【0183】
【0184】
上記製パン時の作業性を、下記の評価基準に沿って評価した。結果を表6に示す。
◎:生地が全くべとつかず、非常に良好な作業性であった。
○:生地がややべとつくが問題のない範囲であり、良好な作業性であった。
△:生地がべとつき、やや作業性が悪かった。
×:生地が非常にべとつき、非常に作業性が悪かった。
【0185】
製造した食パンの食感およびくちどけの評価を次のようにして行った。結果を表6に示す。
製パンに用いた原材料のうち、ベーカリー用油脂組成物を使用せず、ショートニングを単独で使用してコントロールとなる食パンを製造した。5名の専門のパネラーによって、製造後、1日間室温(20℃)で保管した各食パンを試食し、コントロールの食パンと比較して、食パン1-2~10-2および食パンA-2~D-2、F-2~I-2の食感とくちどけがどうであるか、下記の評価基準に沿って採点した。また、製造後、3日間室温で保管した食パン1-2~10-2および食パンA-2~D-2、F-2~I-2の食感がどうであるか、同様に下記の評価基準に沿って採点した。
採点を集計し、その点数が25~23点である場合は◎+、22~20点である場合は◎、19~17点である場合は○、16~13点である場合は△、12点以下である場合は×として表中に示した。なお、5名の専門のパネラーは、採点の前に各点数に対応する官能の程度のすり合わせを行っており、パネラー間で評価基準に差が生じないようにしている。
【0186】
●1日間保管後の食パンの食感
5点:コントロールと比較して、非常にもちもちとした食感であった。
4点:コントロールと比較して、ややもちもちとした食感であった。
3点:コントロールと同等の食感であった。
2点:コントロールよりも食感がやや劣り、もちもちとした食感は感じられなかった。
1点:コントロールよりも非常に食感が劣り、全くもちもちとした食感は感じられなかった。
●1日間保管後の食パンのくちどけ
5点:コントロールと比較して、非常にくちどけがよかった。
4点:コントロールと比較して、くちどけがよかった。
3点:コントロールと同等のくちどけであった。
2点:コントロールよりもねちゃついて、くちどけがやや劣っていた。
1点:コントロールよりも非常にねちゃついて、くちどけが非常に劣っていた。
●3日間保管後の食パンの食感
5点:コントロールと比較して、非常にもちもちとした食感であった。
4点:コントロールと比較して、ややもちもちとした食感であった。
3点:コントロールと同等の食感であった。
2点:コントロールよりも食感がやや劣り、もちもちとした食感は感じられなかった。
1点:コントロールよりも非常に食感が劣り、全くもちもちとした食感は感じられなかった。
【0187】
【0188】
加水量を増加させた食パンの製パン試験の結果、本発明のベーカリー用油脂組成物を用いて製パンした場合は、加水量を増加しても、ベーカリー生地がべたつくことなく、作業性が良好であった。ベーカリー用油脂組成物中のキサンタンガムの含有量が少ない実施例1と4のベーカリー用油脂組成物を用いた場合は、加水量が増加したためややべとつきがあったが、問題のない程度であった。
他方、比較例1~4、8、9のベーカリー用油脂組成物を用いた場合は、加水量を増加させたために非常に生地がべたついており、作業性が悪かった。よって、本発明のベーカリー用油脂組成物は、加水量を増加させて製パンしたとしても、ベーカリー生地製造時の作業性を良好なものとできることが分かった。
【0189】
製造後1日間保管後の加水量を増加させた食パンの食感およびくちどけの結果、本発明のベーカリー用油脂組成物を用いた食パン1-2~10-2は、もちもちとした食感と、くちどけの良さを有しており、加水量を増加させていない食パンと比較して、本発明の効果がより良好に得られていた。他方、比較例のベーカリー用油脂組成物A~D、F~Iを用いた食パンA-2~D-2、F-2~I-2は、もちもちとした食感が得られる食パンもあったが、ねちゃついた食感となっており、くちどけが悪かった。
【0190】
製造後3日間保管後の加水量を増加させた食パンの食感についても、本発明のベーカリー用油脂組成物を用いた食パン1-2~10-2は、もちもちとした食感を維持することができていた。他方、比較例のベーカリー用油脂組成物A~D、F~Iを用いた食パンA-2~D-2、F-2~I-2は、食感が硬くなっており、もちもちとした食感を有しておらず、食感の維持効果が得られていなかった。
【0191】
以上より、本発明のベーカリー用油脂組成物は、加水量を増加させたベーカリー製品の製造に用いることで、本発明の効果がより顕著に得られることが分かった。