(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048749
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】誘導加熱型化学反応装置
(51)【国際特許分類】
B01J 8/06 20060101AFI20230331BHJP
F27D 11/06 20060101ALI20230331BHJP
F27B 1/26 20060101ALI20230331BHJP
C07C 13/19 20060101ALI20230331BHJP
C07C 5/10 20060101ALI20230331BHJP
C07C 15/06 20060101ALI20230331BHJP
C07C 5/367 20060101ALI20230331BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20230331BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230331BHJP
【FI】
B01J8/06
F27D11/06 Z
F27B1/26
C07C13/19
C07C5/10
C07C15/06
C07C5/367
F27D19/00 A
C07B61/00 300
C07B61/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021158237
(22)【出願日】2021-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000242127
【氏名又は名称】北芝電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 吉幾
(72)【発明者】
【氏名】熱海 良輔
(72)【発明者】
【氏名】辻村 拓
【テーマコード(参考)】
4G070
4H006
4H039
4K045
4K056
4K063
【Fターム(参考)】
4G070AA01
4G070AB07
4G070BB02
4G070CA25
4G070CB02
4G070CB17
4G070CC02
4H006AA02
4H006AA04
4H006AC11
4H006AC12
4H006BA26
4H006BA55
4H006BD81
4H006BE20
4H039CA19
4H039CB10
4K045AA07
4K045BA10
4K045DA04
4K045GB05
4K056AA09
4K056BA01
4K056BB07
4K056CA11
4K056FA04
4K056FA13
4K063AA05
4K063AA19
4K063BA09
4K063CA01
4K063FA48
(57)【要約】
【課題】誘導加熱方式により化学反応装置部材および化学反応装置内充填物(充填物または触媒)の直接加熱を行い、外部加熱方式よりも迅速に加熱対象物を反応温度まで昇温を可能とするとともに、精密な反応温度管理が可能な化学反応装置を提供する。
【解決手段】誘導加熱可能な反応管と、前記反応管に外挿される誘導加熱式コイルと、前記誘導加熱式コイルに電力を供給する誘導加熱電源と、前記反応管に設置された温度計測部とを備え、前記温度計測部での計測温度が前記反応管内の加熱対象物の反応温度に応じた温度となるように前記誘導加熱電源を制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導加熱可能な反応管と、
前記反応管に外挿される誘導加熱式コイルと、
前記誘導加熱式コイルに電力を供給する誘導加熱電源と、
前記反応管に設置された温度計測部と
を備え、
前記温度計測部での計測温度が前記反応管内の加熱対象物の反応温度に応じた温度となるように前記誘導加熱電源を制御する
ことを特徴とする誘導加熱型化学反応装置。
【請求項2】
前記反応管内に誘導加熱可能な触媒を充填する
ことを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱型化学反応装置。
【請求項3】
トルエン水素化プロセス又はメチルシクロヘキサン脱水素プロセスを行う誘導加熱型化学反応装置であって、
前記反応管の前段に予熱部を有し、
前記加熱対象物を該予熱部にて予熱した後に前記反応管に導入し、
前記温度計測部での計測温度が予熱された前記加熱対象物の反応温度に応じた温度となるように前記誘導加熱電源を制御する
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の誘導加熱型化学反応装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱原理を用いて加熱対象物を迅速昇温するために、誘導加熱式コイルにより熱供給が可能な誘導加熱型化学反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱化学反応装置においては、熱媒油加熱、蒸気加熱、電気炉加熱等の外部加熱方式によって加熱対象物を加熱し、熱化学反応装置内部または壁面に取り付けられた温度センサ等を活用して加熱対象物を所定の温度に制御することが知られている。
【0003】
しかしながら、外部加熱方式は、化学反応装置部材および化学反応装置内充填物(充填物または固体触媒粒子)を常温から所定反応温度までの昇温に数十分~数時間を要し、また条件変更にも時間を要することが問題として挙げられる。
【0004】
特許文献1には、ヒーター装置(3)に、反応槽(1)の下方に配置した電磁誘導コイル(32)に電流を流して、導電体から成る反応槽(1)本体または反応槽(1)内の攪拌翼(11)を渦電流により発熱させる誘導加熱型を採用したことを特徴とする化学反応装置の加熱冷却機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された化学反応装置の加熱冷却機構においては、反応槽(1)の下方に配置した電磁誘導コイル(32)に電流を流して反応槽(1)を加熱している構成であり、電磁誘導コイルが反応槽(1)の外周を囲んで形成されていないので、誘導加熱が効率的に作用していない。
【0007】
また、反応槽(1)の加熱制御にあたって、温度センサ(2)による加熱部分の測定温度が誘導加熱のヒーター装置(3)に十分フィードバックされておらず、電流制御・温度管理された精密な誘導加熱は行われていない。
【0008】
以上の事情に鑑みて、本発明は、誘導加熱方式により化学反応装置部材および化学反応装置内充填物(充填物または触媒)の直接加熱を行い、外部加熱方式よりも迅速に加熱対象物を反応温度まで昇温を可能とするとともに、精密な反応温度管理が可能な化学反応装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の誘導加熱型化学反応装置は、
誘導加熱可能な反応管と、
前記反応管に外挿される誘導加熱式コイルと、
前記誘導加熱式コイルに電力を供給する誘導加熱電源と、
前記反応管に設置された温度計測部と
を備え、
前記温度計測部での計測温度が前記反応管内の加熱対象物の反応温度に応じた温度となるように前記誘導加熱電源を制御する
ことを特徴とする。
【0010】
このような構成とすることにより、化学反応装置の反応管内を通過する加熱対象物を迅速にその反応温度に応じた温度まで加熱することができ、反応管内の温度が加熱対象物の反応温度となるように精密に制御される。
【0011】
また、本発明の誘導加熱型化学反応装置は、
前記反応管内に誘導加熱可能な触媒を充填する
ことを特徴とする。
【0012】
加熱対象物の化学反応を促進するための触媒として誘導加熱可能な触媒を反応管内に充填することで、反応管のみならず触媒表面も誘導加熱式コイルにより加熱されるので、加熱対象物はより迅速に加熱されるとともに、加熱対象物はより精密に温度管理される。
【0013】
さらに、本発明の誘導加熱型化学反応装置は、
トルエン水素化プロセス又はメチルシクロヘキサン脱水素プロセスを行う誘導加熱型化学反応装置であって、
前記反応管の前段に予熱部を有し、
前記加熱対象物を該予熱部にて予熱した後に前記反応管に導入し、
前記温度計測部での計測温度が予熱された前記加熱対象物の反応温度に応じた温度となるように前記誘導加熱電源を制御する
ことを特徴とする。
【0014】
反応管の前段に予熱部を配して反応管に導入される加熱対象物を予熱しておくことにより、反応管に導入される際の加熱対象物の温度をその反応温度に近い状態とすることができるので、加熱対象物の反応を迅速に進めることができ、反応工程の時間短縮、効率向上を図ることができ、化学反応装置の小規模化が実現できる。
【0015】
ここで、トルエン水素化プロセスによって生成するメチルシクロヘキサンは有機ハイドライドの1つであって、次世代燃料である水素のキャリアであり、液体状態での安全な水素の搬送という技術課題解決への有効な手段を提供するものである。そして、メチルシクロヘキサン脱水素プロセスにおいて発生する水素は高純度な性状が期待できるので、その化学反応装置をそのまま水素供給装置とすることができる。
【0016】
本発明によれば、このようなプロセスを有する化学反応装置を大幅に小規模化できるので、水素燃料の有効な搬送、供給装置へと展開することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の誘導加熱型化学反応装置の一実施態様を示す概略図である。
【
図2】本発明の誘導加熱型化学反応装置の他の実施態様を示す説明図である。
【
図3】実施例1の誘導加熱型化学反応装置の昇温速度を示す図である。
【
図4】実施例1の誘導加熱型化学反応装置の昇温速度を示す図である。
【
図5】実施例2のトルエンからメチルシクロヘキサンへの転化率を示す図である。
【
図6】実施例2の誘導加熱電源の待機電力の変化を示す図である。
【
図7】実施例2の反応管外表面の縦方向の温度分布を示す図である。
【
図8】実施例3のメチルシクロヘキサンからトルエンへの転化率を示す図である。
【
図10】実施例3の反応管外表面の縦方向の温度分布を示す図である。
【
図11】実施例4の化学反応設備の系統図の一例を示す図である。
【
図12】誘導加熱における最適周波数を選定する説明図である。
【
図13】誘導加熱における最適周波数を選定する説明図である。
【
図14】誘導加熱における最適周波数を選定する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、各図面を参照して本発明の誘導加熱型化学反応装置の実施例について説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0019】
図1は本発明の誘導加熱型化学反応装置の一実施態様を示す概略図である。
【0020】
図1に示すように、本実施態様の誘導加熱型化学反応装置1は、円筒状の反応管11と、その反応管11に外挿され、スパイラル状に形成された誘導加熱式コイル13と、誘導加熱式コイル13に電力を供給する誘導加熱電源15と、反応管11の外表面に設置された温度計測部17とを備えている。
【0021】
反応管11の上部左側は図示しない加熱対象物供給手段に接続されており、この反応管11の上部左側から加熱対象物10が供給される。また、反応管11の下部右側は図示しない反応物回収手段に接続されており、この反応管11の下部右側から反応物12が回収される。反応管11は誘導加熱可能な材料からなっており、材質はステンレス、銅、アルミニウムなどの金属であることが好ましい。
【0022】
誘導加熱式コイル13は反応管11に近接して外挿されているので、誘導加熱式コイル13に通電することによって反応管11を誘導加熱することができる。誘導加熱式コイル13は導体からなり、材質は銅製であることが好ましい。
【0023】
誘導加熱電源15は誘導加熱式コイル13の上下端部と電気的に接続されており、誘導加熱式コイル13に電力を供給する。電源としては、例えば、10kW程度のAC電源が用いられる。AC周波数としては50Hz~1MHzの範囲が好ましい。
【0024】
温度計測部17は、通常は反応管11の縦方向の中央付近の管外表面に設置された熱電対であって、その計測温度の情報は温度制御装置19に送られる。温度制御装置19は誘導加熱電源15と接続されており、温度計測部17での計測温度が反応管11内の加熱対象物10の反応温度に応じた温度となるように誘導加熱電源15を制御する。
【0025】
本実施態様では、反応管11内のうち、誘導加熱式コイル13が外挿されている部分に対応する範囲に触媒21が充填されている。
【0026】
触媒21は、加熱された加熱対象物10の化学反応を促進させるためのもので、公知の種々の材料が使用可能であるが、本発明においては、誘導加熱式コイル13によって反応管11と共に誘導加熱できるものが好ましく、金属担持セラミックス触媒や金属担持炭素触媒などが好ましく用いられる。
【0027】
また、触媒21に代えて単なる固体充填物を充填しても良く、例えば、水素吸蔵合金を充填して、誘導加熱型化学反応装置1を水素供給設備として用いることなども可能である。
【0028】
本実施態様では、反応管11内の加熱対象物10あるいは触媒21を冷却するための複数の冷却管23を反応管11内に設けている。
【0029】
反応管11の上部の空間は、図示しない冷却媒体供給手段に接続されており、反応管11の上部の空間に供給された冷却媒体24は冷却管23を通過して反応管11の下部の空間に移動することで加熱対象物10あるいは触媒21を冷却する。反応管11の下部の空間は図示しない冷却媒体回収手段に接続されている。
【0030】
誘導加熱型化学反応装置1における加熱対象物10の加熱にあたっては、温度制御装置19を機能させて温度計測部17での計測温度が反応管11内の加熱対象物10の反応温度に応じた温度となるように誘導加熱電源15を制御させたのち、加熱対象物10を反応管11に供給して加熱対象物10の化学反応を進行させる。
【0031】
図2は本発明の誘導加熱型化学反応装置の他の実施態様を示す説明図である。
【0032】
図2に示すように、本実施態様の誘導加熱型化学反応装置2は、円筒状の反応管11と、その反応管11に外挿され、スパイラル状に形成された誘導加熱式コイル13と、誘導加熱式コイル13に電力を供給する誘導加熱電源15と、反応管11の外表面に設置された温度計測部17とを備えている。
【0033】
本実施態様では反応管11は、その前段に設けられた予熱部33に接続されており、予熱部33で予熱された加熱対象物10が反応管11に供給される。
【0034】
また、本実施態様では誘導加熱式コイル13は断熱性部材31に包埋された状態で反応管11に近接して外挿されている。そして、この誘導加熱式コイル13は中空構造を有しており、その中に冷却媒体が流れる構成となっている。なお、冷却媒体および冷却媒体供給・回収手段については図示していない。また、断熱性部材31としては、グラスウール、多孔質・繊維状セラミックス成型体、多孔質ポリマー材などの材料が断熱性能および強度の点で好ましい。
【0035】
誘導加熱電源15は誘導加熱式コイル13の上下端部と電気的に接続されており、誘導加熱式コイル13に電力を供給する。電源としては、例えば、10kW程度のAC電源が用いられる。AC周波数としては50Hz~1MHzの範囲が好ましい。
【0036】
温度計測部17は、通常は反応管11の縦方向の中央付近の管外表面に設置された熱電対であって、その計測温度の情報は温度制御装置19に送られる。温度制御装置19は誘導加熱電源15と接続されており、温度計測部17での計測温度が反応管11内の加熱対象物10の反応温度に応じた温度となるように誘導加熱電源15を制御する。
【0037】
本実施態様においても、反応管11内のうち、誘導加熱式コイル13が外挿されている部分に対応する範囲に触媒21が充填されている。反応管11の上下端部には充填された触媒21を保持するために、耐熱性を有する多孔質材が設けられている。この多孔質材としては、例えば石英ウールなどが用いられる。
【0038】
上述のように、反応管11の前段には予熱部33が設けられている。
【0039】
反応管11は予熱部33中央に設けた予熱管35につながっており、本実施態様では、予熱管35の周囲には電熱線型の加熱ユニットを備えている。また、予熱管35の外表面には予熱部温度計測部37を設けており、その計測温度に基づいて、図示しない予熱部温度制御装置によって加熱ユニットへの通電を制御することで、予熱管35の温度を制御している。
【0040】
予熱管35内を通過する加熱対象物10を効率よく加熱するために、ここでは、予熱管35内に充填物が充填されており、予熱管35の下端には耐熱性を有する多孔質材が設けられている。
【0041】
予熱部33の前段には加熱対象物供給系が設けられており、加熱対象物供給系は図示しない加熱対象物供給手段とマスフローコントローラ39とからなる。本実施態様では2系統の加熱対象物供給系を有しており、2つの加熱対象物10はマスフローコントローラ39によって所定の流量に管理され、予熱管35に導入される直前で混合される。
【0042】
反応管11の下部は気液分離装置41に接続されており、反応管11を出た反応物12は、必要に応じて気液分離装置41において液体反応物42と気体反応物44とに分離される。反応管11の下端には下部温度計測部45が設けられており、反応物12の温度を計測する。
【0043】
誘導加熱型化学反応装置2における加熱対象物10の加熱にあたっては、図示しない予熱部温度制御装置を機能させて予熱部温度計測部37での計測温度が加熱対象物10の反応温度に近い温度となるようにし、さらに、温度制御装置19を機能させて、温度計測部17での計測温度が反応管11内の加熱対象物10の反応温度に応じた温度となるように誘導加熱電源15を制御させたのち、加熱対象物10を加熱対象物供給系から予熱管35、さらに反応管11へと供給して加熱対象物10の化学反応を進行させる。
【0044】
(実施例1)
<誘導加熱型化学反応装置の昇温速度確認>
図2に示した誘導加熱型化学反応装置2を用いて誘導加熱型化学反応装置の昇温速度を確認した。
【0045】
ここでは触媒21として、ナノ白金担持活性炭複合材料(以下Pt/AC)および白金担持アルミナ触媒(以下Pt/Al2O3)を用いた。また、誘導加熱型化学反応装置2の反応管11の材質はステンレス、管の外径は12.7mm、管の厚さは0.5mmである。加熱対象物10は空気を用い、温度計測部17の目標温度は350℃とした。なお、予熱部33および冷却媒体は動作させていない。
【0046】
図3は、温度制御装置19を始動させた後の温度計測部17測定温度の時間変化を示している。
【0047】
図3に示すように、Pt/AC、Pt/Al2O3いずれの触媒を用いた場合も、加熱開始後約1分で反応管11の外表面温度は目標とした350℃に到達し、その後もその温度を安定に維持している。
【0048】
図4は、温度制御装置19を始動させた後の下部温度計測部45測定温度の時間変化を示している。
【0049】
図4に示すように、触媒21としてPt/ACを用いた場合は、反応管11の外表面温度よりも反応管11の下端の温度の方が50℃程度上回った。一方、触媒21としてPt/Al2O3を用いた場合は、反応管11の外表面温度よりも反応管11の下端の温度の方が50℃程度下回り、以後徐々に上昇傾向を示した。
【0050】
これは、触媒21としてPt/ACを用いた場合の方が、反応管11の誘導加熱に加えて、誘導加熱されたPt/ACによってより効果的に加熱対象物10が加熱されたことを示している。
【0051】
(実施例2)
<誘導加熱型化学反応装置による芳香族化合物水素化反応>
図2に示した誘導加熱型化学反応装置2を用いて誘導加熱型化学反応装置による芳香族化合物水素化反応を実施した。
【0052】
ここでは、触媒21としてPt/Al2O3を用いた。また、加熱対象物10はトルエンと水素であり、トルエンの水素化を目指すものである。
【0053】
2系統の加熱対象物供給系としてトルエンおよび水素の供給手段を準備し、それらはそれぞれマスフローコントローラ39に接続される。トルエンは気体状態でマスフローコントローラ39に導入される。加熱対象物10の流量比は、水素/トルエン=3、温度計測部17の目標温度は130℃とした。なお、予熱部33および冷却媒体は動作させていない。
【0054】
温度制御装置19を機能させて、温度計測部17での計測温度が130℃となるように誘導加熱電源15を制御させたのち、加熱対象物10を加熱対象物供給系から予熱管35、さらに反応管11へと供給した。そして、気液分離装置41において反応物12を液体反応物42と気体反応物44とに分離した後に、その組成と流量とを逐次測定した。
【0055】
また、本反応の実施においては、加熱対象物10の総量を変化させて、トルエン水素化反応の進行度合いを確認した。トルエンの水素化反応は式1に示すように、3分子の水素と1分子のトルエンから1分子のメチルシクロヘキサン(以下、MCH)を生成する反応である。
【0056】
[式1]
3H2 + Toluene → MCH
【0057】
図5は、加熱対象物10の供給量とトルエンからMCHへの転化率との関係を示した図である。
図5の横軸はトルエンの流量(L/hr)を触媒21の体積(L)で規格化したもので、LHSV(Liquid Hourly Space Velocity)と称する。LHSVが大きいほど反応管11に多くの加熱対象物10が供給される。
【0058】
図5に示すように、加熱対象物10の供給量を増加させるとトルエンからMCHへの転化率は100%近くから75%程度まで低下するが、好適な供給量であれば高い転化率が得られることが分かる。また、反応したトルエンのうちでMCHに転化した割合であるMCH選択率は99%以上であることから、触媒21が過加熱していることはないものと思われる。
【0059】
図6は、加熱対象物10の総量を変化させた際の誘導加熱電源15の待機電力の変化を示している。
【0060】
図6に示すように、本反応が進行している間の誘導加熱電源15の待機電力は、非反応状態での待機電力よりも十分小さいことから、式1に示した反応が発熱反応であることにより、誘導加熱型化学反応装置2は熱的に自立していると判断される。
【0061】
図7は、本反応が進行している間における反応管11管外表面の長手方向(縦方向)の温度分布を示している。
【0062】
ここでは、通常、反応管11の縦方向の中央付近の管外表面に設置される熱電対を反応管11の管外表面の長手方向(縦方向)に移動させて管外表面の温度分布を測定している
【0063】
図7の横軸は、触媒21を保持している耐熱性を有する2つの多孔質材の間の間隔を0から1で規格化したもので、Normalized bed heightと称する。0が上の多孔質材の位置、1が下の多孔質材の位置に相当する。
【0064】
図7に示すように、いずれの供給量の場合も、反応管11入口から少し入ったところで反応管11の温度は最高となり、反応管11出口において温度は最低となった。また、供給量を増加させると反応管11の温度のピークはより反応管11の中央に近づき、反応管11全体の平均温度は高くなった。これらの結果は、トルエンの水素化反応が発熱反応であることに起因していると考えられる。
【0065】
またここでは、反応管11の縦方向の中央付近の管外表面の設定温度は130℃であるが、実測した温度は150~170℃程度となっており、このこともトルエンの水素化反応が発熱反応であることに起因していると考えられる。
【0066】
(実施例3)
<誘導加熱型化学反応装置による芳香族化合物脱水素反応>
図2に示した誘導加熱型化学反応装置2を用いて誘導加熱型化学反応装置による芳香族化合物脱水素反応を実施した。
【0067】
ここでも、触媒21としてPt/Al2O3を用いた。また、加熱対象物10はMCHであり、MCHの脱水素を目指すものである。
【0068】
2系統の加熱対象物供給系のうちの1系統としてMCHの供給手段を準備し、マスフローコントローラ39に接続する。MCHは気体状態でマスフローコントローラ39に導入される。
【0069】
ここでは、温度計測部17の目標温度を275℃から350℃に変化させて反応を実施した。なお、予熱部33および冷却媒体は動作させていない。
【0070】
温度制御装置19を機能させて、温度計測部17での計測温度が上記の各目標温度となるように誘導加熱電源15を制御させて反応管11を急速加熱したのち、加熱対象物10を加熱対象物供給系から予熱管35、さらに反応管11へと供給した。そして、気液分離装置41において反応物12を液体反応物42と気体反応物44とに分離した後に、その組成と流量とを逐次測定した。
【0071】
また、本反応の実施においては、加熱対象物10であるMCHの供給量、および反応設定温度を変化させて、MCHの脱水素反応の進行度合いを確認した。MCHの脱水素反応は式1と逆の反応である。
【0072】
図8は、加熱対象物10の供給量、および反応設定温度とMCHからトルエンへの転化率との関係を示した図である。
図8の横軸は
図5などと同様にLHSVである。
【0073】
図8に示すように、300℃以上の設定温度では、加熱対象物10の供給量を増加させるとMCHからトルエンへの転化率は100%近くから80%程度まで低下するが、好適な供給量であれば高い転化率が得られることが分かる。また、275℃の設定温度では、低いLHSVでも100%に近い転化率は得られず、加熱対象物10の供給量を増加させるとMCHからトルエンへの転化率は50%を下回った。
【0074】
図9は、加熱対象物10の供給量、および反応設定温度と、反応したMCHのうちでトルエンに転化した割合であるトルエン選択率との関係を示した図である。
図9の横軸も
図5などと同様にLHSVである。
【0075】
図9に示すように、いずれの加熱対象物10の供給量、反応設定温度であっても99%以上の高いトルエン選択率が得られていることから、ここでも触媒21が過加熱していることはなく、脱水素反応が健全に進行したものと思われる。
【0076】
図10は
図7と同様に、本反応が進行している間における反応管11管外表面の長手方向(縦方向)の温度分布を示しており、Normalized bed heightも同様の表記である。
【0077】
図10に示すように、いずれの供給量の場合も、反応管11入り口付近で反応管11の温度は最低となり、反応管11出口の近傍において温度は最高となった。また、各設定温度において、反応管11の縦方向の中央付近の管外表面の実測温度はその設定温度と比較的近い値となった。これらの結果は、MCHからの脱水素反応が吸熱反応であることに起因していると考えられる。
【0078】
以上のように、本発明の誘導加熱型化学反応装置は芳香族化合物水素化反応や芳香族化合物脱水素反応に好適に用いられるが、アンモニアやギ酸が関与する反応や、アルコール水蒸気改質などの反応においても好ましく用いることができる。
【0079】
(実施例4)
<他の化学反応装置と組み合わせた構成>
図11は、本発明の誘導加熱型化学反応装置と従来の他の化学反応装置と組み合わせた化学反応設備の系統図の一例である。
【0080】
図11に示すように、この化学反応設備では、複数の加熱対象物10が混合器51に導入されて混合され、予熱器53で予熱されたのち、誘導加熱型化学反応装置の反応管11において誘導加熱電源15から電力が供給された誘導加熱式コイル13により更に加熱されて第1段階の反応が行われ、中間反応物54が生成する。
【0081】
そして、その中間反応物54は固定層反応器55に導入されて第1段階の反応が行われ、反応物12が生成する。固定層反応器55は、熱媒油加熱装置57によって加熱された熱媒油56が供給、循環されることで、所定の温度に保たれる。
【0082】
このように、例えば、熱供給がボトルネックになる吸熱反応を主体とした化学反応を誘導加熱型化学反応装置で行い、残りの反応を熱媒油や加熱蒸気、排熱などを用いた固定層反応器55において進行させることも可能であり、化学反応設備全体として、反応成績の向上や反応設備体積の減少、省スペース化などを図ることができるようになる。
【0083】
以下、誘導加熱における最適周波数の選定について説明する。
【0084】
電磁誘導に用いられるコイルは、当該コイルに供給される電流の周波数が低くなるほど、被加熱材に対する誘導電流の浸透深さが深くなり、当該コイルに供給される電流の周波数が高くなるほど、被加熱材に対する誘導電流の浸透深さが浅くなる特性を有している。
【0085】
なお、電流浸透深さとは、被加熱材の内部に浸透した電流の大きさが、被加熱材の表面電流の36.7%に減少するまでの深さであり、以下の数式(数1)により求められる。
【0086】
【数1】
ここで、
σ:電流浸透深さ[cm]
f:周波数[Hz]
ρ:被加熱材の固有抵抗[μΩ・cm]
μr:比透磁率
である。
【0087】
本発明の誘導加熱型化学反応装置において、導電性のない触媒21を用いる場合は、誘導加熱可能な部分は反応管11の管壁部分のみであるため、被加熱材は円筒形状と見なすことができる。その場合、反応管11の肉厚は薄肉であるため、所定の温度まで上げるために必要な熱量は比較的小さい。そのため電流浸透深さσ[cm]を最適化したとしても加熱効率への影響は少ない。
【0088】
一方、導電性のある触媒21を用いる場合は、反応管11に加えて触媒粒子自体を加熱可能である。反応管11が冷えている場合には、触媒粒子自体の熱が放熱してしまうため、化学反応を滞りなく進めるためには、触媒粒子と反応管11を全て均一に加熱することが好ましい。ここで、触媒21と反応管11とを同時に加熱できる加熱方式が誘導加熱方式であり、非常に有効な加熱方式である。
【0089】
触媒粒子が導電性材料である場合、反応管11内の導電性触媒粒子層は導電性のある円柱形状の被加熱材と見なすことができる。その模式図を渦電流損の発生イメージと共に
図12に示す。
【0090】
図12に示すように、反応管11および導電性のある触媒21に対して誘導加熱式コイル13により誘導加熱を行う場合は、白抜きの矢印で示した渦電流損63が発生する(左図)が、この様子は、円柱状被加熱材61に対して誘導加熱を行う場合に発生する渦電流損63と同様となる(右図)。
【0091】
この渦電流損63を小さくするという観点で、被加熱材の直径dwと電流浸透深さσとの比、すなわちdw/σが3~4程度になるように、周波数を選定すると加熱効率が最大となることが見出されている。その関係式(数2)を以下に示す。
【0092】
【数2】
ここで、
dw:被加熱材の直径 [cm]
σ:電流浸透深さ [cm]
である。
【0093】
また、電流浸透深さの特性より、一般的に全体を効率良く加熱したい場合には、小径材は周波数を高く、大径材の場合は周波数を低くするとベストポイントの周波数選定が可能となる。
【0094】
ここで、電流浸透深さσが小さいときには、
図13の斜線を付した部分Aに渦電流損63が発生するので、dw/σは数2に記した関係を満たす。
【0095】
一方、電流浸透深さσが大きいときには、
図14に示したように、渦電流損63が発生する部分Aの内側に、表裏それぞれが逆向きの渦電流損63が重なる部分Bができる。この重なり部では、渦電流損63が互いにキャンセルし誘導加熱に寄与する電流が小さくなる。したがって、誘導加熱効率を最大とするためには、dw/σは以下の式(数3)の条件を避ける必要がある。
【0096】
【0097】
以上説明したように、本発明の誘導加熱型化学反応装置は、化学反応装置の反応管内を通過する加熱対象物を迅速にその反応温度に応じた温度まで加熱することができ、反応管内の温度が加熱対象物の反応温度となるように精密に制御される。
【0098】
そして、加熱対象物の化学反応を促進するための触媒として誘導加熱可能な触媒を反応管内に充填することで、反応管のみならず触媒表面も誘導加熱式コイルにより加熱されるので、加熱対象物はより迅速に加熱されるとともに、加熱対象物はより精密に温度管理される。
【0099】
さらに、反応管の前段に予熱部を配して反応管に導入される加熱対象物を予熱しておくことにより、反応管に導入される際の加熱対象物の温度をその反応温度に近い状態とすることができるので、加熱対象物の反応を迅速に進めることができ、反応工程の時間短縮、効率向上を図ることができ、化学反応装置の小規模化が実現できる。
【0100】
また、本発明の誘導加熱型化学反応装置は、従来の間接加熱式化学反応装置と同等以上の性能を有し、化学反応装置を工場内に新設する際には、加熱蒸気供給装置や熱媒油加熱装置などの付帯設備を新設することがなく、電力供給のみを行えばよい。
【0101】
よって、本発明の誘導加熱型化学反応装置は、多品種少量生産を行うような化学反応装置や、迅速起動・迅速昇温が必要な化学反応装置として利用することができ、特に水素貯蔵媒体の水素化・脱水素反応により、水素燃料貯蔵・生成装置として利用することができる。
【0102】
さらに、本発明の誘導加熱型化学反応装置は、化学反応装置内部に導電性のある水素吸蔵合金を充填することで、迅速起動可能な水素供給設備としての利用も可能である。
1、2…誘導加熱型化学反応装置、10…加熱対象物、11…反応管、12…反応物、13…誘導加熱式コイル、15…誘導加熱電源、17…温度計測部、19…温度制御装置、21…触媒、23…冷却管、24…冷却媒体、31…断熱性部材、33…予熱部、35…予熱管、37…予熱部温度計測部、39…マスフローコントローラ、41…気液分離装置、42…液体反応物、44…気体反応物、45…下部温度計測部、51…混合器、53…予熱器、54…中間反応物、55…固定層反応器、56…熱媒油、57…熱媒油加熱装置、61…円柱状被加熱材、63…渦電流損