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特開2023-4908有機ケイ素化合物を含有する水溶液組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004908
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】有機ケイ素化合物を含有する水溶液組成物
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/18 20060101AFI20230110BHJP
   C08G 77/26 20060101ALI20230110BHJP
   A61K 31/695 20060101ALN20230110BHJP
   A61P 31/04 20060101ALN20230110BHJP
   A61P 31/12 20060101ALN20230110BHJP
【FI】
C07F7/18 Y
C07F7/18 L
C08G77/26
A61K31/695
A61P31/04
A61P31/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094102
(22)【出願日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2021105408
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣神 宗直
【テーマコード(参考)】
4C086
4H049
4J246
【Fターム(参考)】
4C086DA45
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZB33
4C086ZB35
4H049VN01
4H049VP01
4H049VP10
4H049VQ36
4H049VQ79
4H049VR21
4H049VR43
4H049VU01
4H049VU08
4H049VW01
4H049VW02
4J246AA03
4J246AA19
4J246BA120
4J246BA12X
4J246BB020
4J246BB022
4J246BB02X
4J246CB02
4J246FA071
4J246FA131
4J246FA321
4J246FA461
4J246FB081
4J246FE02
4J246FE03
4J246FE26
4J246GB05
4J246GC10
4J246GD08
4J246HA23
4J246HA24
(57)【要約】
【課題】保存安定性の高い、4級アンモニウム塩官能基含有有機ケイ素化合物を含む水溶液組成物を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される有機ケイ素化合物の加水分解物、加水分解縮合物またはそれらの両方を含有する水溶液組成物。
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基であり、R3は、炭素数12~24のアルキル基であり、R4およびR5は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基であり、Xは、ハロゲン原子であり、mは、4~20の整数であり、nは、1~3の整数である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される有機ケイ素化合物の加水分解物、加水分解縮合物またはそれらの両方を含有する水溶液組成物。
【化1】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基であり、R3は、炭素数12~24のアルキル基であり、R4およびR5は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基であり、Xは、ハロゲン原子であり、mは、4~20の整数であり、nは、1~3の整数である。)
【請求項2】
アルコールの含有量が、水溶液組成物全体に対して0.3質量%以下である請求項1記載の水溶液組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の水溶液組成物で処理された物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の有機ケイ素化合物の加水分解物等を含有する水溶液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抗ウイルス志向が高まっており、持続性のある抗ウイルス剤が求められている。例えば、オクタデシルジメチル(3-トリアルコキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドを主成分とする組成物が、固定化可能な抗ウイルス剤として知られている(特許文献1,2)。
【0003】
オクタデシルジメチル(3-トリアルコキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドを加水分解させ、生成したアルコールを除去した水溶液組成物が市販され、使用されているが、高濃度品を得ようとすると、ゲル化してしまうという欠点がある。また、低濃度であっても、経時で析出物が発生してしまうという問題点があり、安定性の高い4級アンモニウム塩官能基含有有機ケイ素化合物の水溶液組成物が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-98976号公報
【特許文献2】国際公開第2015/141516号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、保存安定性の高い、4級アンモニウム塩官能基含有有機ケイ素化合物を含む水溶液組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定の有機ケイ素化合物の加水分解物等を含む水溶液組成物が、保存安定性に優れることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
1. 下記式(1)で表される有機ケイ素化合物の加水分解物、加水分解縮合物またはそれらの両方を含有する水溶液組成物、
【化1】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基または炭素数6~10のアリール基であり、R3は、炭素数12~24のアルキル基であり、R4およびR5は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基であり、Xは、ハロゲン原子であり、mは、4~20の整数であり、nは、1~3の整数である。)
2. アルコールの含有量が、水溶液組成物全体に対して0.3質量%以下である1記載の水溶液組成物、
3. 1または2記載の水溶液組成物で処理された物品
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水溶液組成物は、保存安定性に優れ、ゲル化および析出物の発生を抑制することができる。また、本発明の水溶液組成物を用いて繊維等の物品を処理することにより、物品に抗ウイルス性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の水溶液組成物は、下記式(1)で表される有機ケイ素化合物の加水分解物および/または加水分解縮合物を含有する。
【0010】
【化2】
【0011】
1の炭素数1~10、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル基等が挙げられる。
炭素数6~10、好ましくは炭素数6~8のアリール基の具体例としては、フェニル基、トリル基などが挙げられる。
これらの中でも、R1は、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0012】
2の炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基としては、それぞれR1と同じものが挙げられ、それらの中でもメチル基がより好ましい。
【0013】
3の炭素数12~24、好ましくは炭素数12~20、より好ましくは12~18のアルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、n-ドデシル、2-メチルウンデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-ノナデシル、n-エイコシル、n-ヘンエイコシル、n-ドコシル、n-トリコシル、n-テトラコシル、シクロドデシル基等が挙げられる。これらの中でも、R3は、炭素数14~18のものが好ましく、原料の入手性や使用時の環境負荷の観点から、n-オクタデシル基がより好ましい。
【0014】
4およびR5の炭素数1~6のアルキル基としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-へキシル、シクロヘキシル基等を例示することができる。これらの中でも、R4およびR5は、いずれも炭素数1~3のアルキル基が好ましく、原料の入手性や使用時の環境負荷の観点から、メチル基がより好ましい。
【0015】
mは、4~20の整数を表すが、6~12の整数が好ましく、特に8が好ましい。4未満では、保存安定性が十分ではなく、20を超えると、単位質量当たりの4級アンモニウム塩含有量が低下することにより、抗ウイルス性が低下する。
Xのハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0016】
本発明の水溶液組成物に使用可能な有機ケイ素化合物の具体例としては、オクタデシルジメチル(4-トリメトキシシリルブチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(4-トリエトキシシリルブチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(6-トリメトキシシリルヘキシル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(6-トリエトキシシリルヘキシル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-トリメトキシシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-トリエトキシシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-ジメトキシメチルシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-ジエトキシメチルシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(10-トリメトキシシリルデシル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(10-トリエトキシシリルデシル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(11-トリメトキシシリルウンデシル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(11-トリエトキシシリルウンデシル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(12-トリメトキシシリルドデシル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(12-トリエトキシシリルドデシル)アンモニウムクロライド、ドデシルジメチル(8-トリエトキシシリルオクチル)アンモニウムクロライド、ドデシルジメチル(8-ジメトキシメチルシリルオクチル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジメチル(8-トリエトキシシリルオクチル) アンモニウムクロライド、テトラデシルジメチル(8-ジメトキシメチルシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジエチル(8-トリエトキシシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジエチル(8-ジメトキシメチルシリルオクチル)アンモニウムクロライド等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、オクタデシルジメチル(4-トリメトキシシリルブチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(6-トリエトキシシリルヘキシル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-トリメトキシシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-トリエトキシシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-ジメトキシメチルシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-ジエトキシメチルシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(11-トリメトキシシリルウンデシル)アンモニウムクロライドが好ましく、オクタデシルジメチル(8-トリメトキシシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-トリエトキシシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-ジメトキシメチルシリルオクチル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル(8-ジエトキシメチルシリルオクチル)アンモニウムクロライドがより好ましい。
【0017】
上記式(1)で表される有機ケイ素化合物は、下記式(A)で表される有機ケイ素化合物と、下記式(B)で表される3級アミンとを、大気雰囲気下または窒素等の不活性ガス雰囲気下で反応させることにより得られる。
【0018】
【化3】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、X、mおよびnは、上記と同じである。)
【0019】
上記式(A)で表される化合物としては、例えば、4-クロロブチルトリメトキシシラン、4-クロロブチルトリエトキシシラン、4-ブロモブチルトリメトキシシラン、4-ブロモブチルトリエトキシシラン、6-クロロヘキシルトリメトキシシラン、6-クロロヘキシルトリエトキシシラン、6-ブロモヘキシルトリメトキシシラン、6-ブロモヘキシルトリエトキシシラン、8-クロロオクチルトリメトキシシラン、8-クロロオクチルトリエトキシシラン、8-クロロオクチルジメトキシメチルシラン、8-クロロオクチルジエトキシメチルシラン、8-ブロモオクチルトリメトキシシラン、8-ブロモオクチルトリエトキシシラン、8-ブロモオクチルジメトキシメチルシラン、8-ブロモオクチルジエトキシメチルシラン、10-クロロデシルトリメトキシシラン、10-クロロデシルトリエトキシシラン、10-ブロモデシルトリメトキシシラン、10-ブロモデシルトリエトキシシラン、11-クロロウンデシルトリメトキシシラン、11-クロロウンデシルトリエトキシシラン、11-ブロモウンデシルトリメトキシシラン、11-ブロモウンデシルトリエトキシシラン、12-クロロドデシルトリメトキシシラン、12-クロロドデシルトリエトキシシラン、12-ブロモドデシルトリメトキシシラン、12-ブロモドデシルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの中でも、4-クロロブチルトリメトキシシラン、4-クロロブチルトリエトキシシラン、6-クロロヘキシルトリメトキシシラン、6-クロロヘキシルトリエトキシシラン、8-クロロオクチルトリメトキシシラン、8-クロロオクチルトリエトキシシラン、8-クロロオクチルジメトキシメチルシラン、8-クロロオクチルジエトキシメチルシラン、11-クロロウンデシルトリメトキシシラン、11-クロロウンデシルトリエトキシシランが好ましく、8-クロロオクチルトリメトキシシラン、8-クロロオクチルトリエトキシシラン、8-クロロオクチルジメトキシメチルシラン、8-クロロオクチルジエトキシメチルシランがより好ましい。
【0020】
上記式(B)で表される3級アミンとしては、ドデシルジメチルアミン、ドデシルジエチルアミン、トリデシルジメチルアミン、トリデシルジエチルアミン、テトラデシルジメチルアミン、テトラデシルジエチルアミン、ペンタデシルジメチルアミン、ペンタデシルジエチルアミン、ヘキサデシルジメチルアミン、ヘキサデシルジエチルアミン、ヘプタデシルジメチルアミン、ヘプタデシルジエチルアミン、オクタデシルジメチルアミン、オクタデシルジエチルアミン、ノナデシルジメチルアミン、ノナデシルジエチルアミン、エイコシルジメチルアミン、エイコシルジエチルアミン、ヘンエイコシルジメチルアミン、ヘンエイコシルジエチルアミン、ドコシルジメチルアミン、ドコシルジエチルアミン、トリコシルジメチルアミン、トリコシルジエチルアミン、テトラコシルジメチルアミン、テトラコシルジエチルアミン等が挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの中でも、オクタデシルジメチルアミン、オクタデシルジエチルアミンが好ましく、オクタデシルジメチルアミンがより好ましい。
【0021】
上記反応は、無溶媒で行うこともできるが、反応を阻害しない範囲で、必要に応じて、メタノール、エタノール等のアルコール溶媒中で行うことができる。
反応温度としては、80~150℃が好ましく、100~130℃がより好ましい。反応時間は、1~30時間が好ましく、5~25時間がより好ましい。
反応の際の上記式(A)で表される有機ケイ素化合物と、上記式(B)で表される3級アミンとの使用比率は、3級アミン(B)1モルに対して有機ケイ素化合物(A)が0.7~1.3モルが好ましい。
【0022】
本発明の水溶液組成物は、上記式(1)で表される有機ケイ素化合物を大気雰囲気下または窒素等の不活性ガス雰囲気下で水に希釈し、上記式(1)においてSi-OR1(R1は、上記と同じである。)で表される基の一部または全部をシラノール基(Si-OH基)へと加水分解させることにより得られる。また、水を添加する際は、加水分解反応中に継続的に行ってもよいし、反応を始める前に加えてもよい。なお、上記反応により得られた式(1)で表される有機ケイ素化合物のアルコール溶液は、そのまま加水分解反応に用いることができる。
【0023】
加水分解反応の温度としては、50~110℃が好ましく、60~105℃がより好ましい。反応時間は、1~30時間が好ましく、5~25時間がより好ましい。
【0024】
上記加水分解反応によって副生するアルコール成分(R1OH(R1は、上記と同じである。))および加水分解反応に際して必要に応じて水と共に加えられたアルコール成分は、蒸留等の分離方法によって除去することが好ましい。なお、蒸留は、上記加水分解反応と同時に行うことが好ましい。
【0025】
本発明の水溶液組成物に含まれる上記式(1)で表される有機ケイ素化合物の加水分解物の量は、特に限定されないが、保存安定性や生産性の観点から、水溶液組成物全体に対して0.1~50質量%が好ましく、0.5~20質量%がより好ましく、0.5質量%を超え15質量%以下がさらに好ましく、1~10質量%が特に好ましい。
また、本発明の水溶液組成物は、上記式(1)で表される有機ケイ素化合物の加水分解により生じるシラノール基同士の分子間縮合による縮合物を含むものであってもよいし、加水分解物および加水分解縮合物の両方を含んでいてもよい。この場合、加水分解縮合物の含有量、加水分解物および加水分解縮合物の合計含有量は、上記と同じである。
【0026】
本発明の水溶液組成物に含まれるアルコールの量は、安全性の観点から、水溶液組成物全体に対して0.3質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましい。なお、水溶液組成物中のアルコールの量は、ガスクロマトグラフ(GC)分析にて確認することができる。
【0027】
本発明の水溶液組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、クエン酸等の有機酸、界面活性剤等の添加剤などを含んでいてもよく、水溶液の保存安定性の観点から、クエン酸等の有機酸を含んでいることが好ましい。
【0028】
本発明の水溶液組成物は、各種材料、物品等に適用することで、これらに抗菌性、抗ウイルス性を付与することができる。上記材料、物品の具体例としては、例えば、綿、絹、ウール等の天然繊維、レーヨン等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維、ビニロン、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリアラミド繊維等の合成繊維、これらの繊維の複合繊維(ポリエステル/綿等)等の各種繊維材料;鉄、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、銅等の各種金属材料;アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等の各種合成樹脂材料;ガラス、チタン、セラミック、セメント、モルタル等の各種無機材料;これらの材料を用いた各種物品などが挙げられる。
【実施例0029】
以下、合成例、比較合成例、実施例および比較例を示して本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
<有機ケイ素化合物の合成>
[合成例1-1]
窒素置換した300mL加圧反応容器に、4-クロロブチルトリメトキシシラン42.4g、オクタデシルジメチルアミン(リポミンDM18D、ライオン(株)製、以下同じ。)59.6g、メタノール102gを入れ、120℃で20時間反応させた。反応後、濾過することにより、オクタデシルジメチル(4-トリメトキシシリルブチル)アンモニウムクロライドのメタノール溶液200g(固形分濃度50質量%)を得た。
【0031】
[合成例1-2]
窒素置換した300mL加圧反応容器に、6-クロロヘキシルトリメトキシシラン48.0g、オクタデシルジメチルアミン59.6g、メタノール108gを入れ、120℃で20時間反応させた。反応後、濾過することにより、オクタデシルジメチル(6-トリメトキシシリルヘキシル)アンモニウムクロライドのメタノール溶液206g(固形分濃度50質量%)を得た。
【0032】
[合成例1-3]
窒素置換した300mL加圧反応容器に、8-クロロオクチルトリメトキシシラン53.8g、オクタデシルジメチルアミン59.6g、メタノール113gを入れ、120℃で20時間反応させた。反応後、濾過することにより、オクタデシルジメチル(8-トリメトキシシリルオクチル)アンモニウムクロライドのメタノール溶液220g(固形分濃度50質量%)を得た。
【0033】
[合成例1-4]
窒素置換した300mL加圧反応容器に、8-クロロオクチルトリエトキシシラン62.2g、オクタデシルジメチルアミン59.6g、エタノール122gを入れ、120℃で20時間反応させた。反応後、濾過することにより、オクタデシルジメチル(8-トリエトキシシリルオクチル)アンモニウムクロライドのエタノール溶液235g(固形分濃度50質量%)を得た。
【0034】
[合成例1-5]
窒素置換した300mL加圧反応容器に、11-クロロウンデシルトリメトキシシラン62.2g、オクタデシルジメチルアミン59.6g、メタノール122gを入れ、120℃で20時間反応させた。反応後、濾過することにより、オクタデシルジメチル(11-トリメトキシシリルウンデシル)アンモニウムクロライドのメタノール溶液235g(固形分濃度50質量%)を得た。
【0035】
[比較合成例1-1]
窒素置換した300mL加圧反応容器に、3-クロロプロピルトリメトキシシラン39.7g、オクタデシルジメチルアミン59.6g、メタノール99.3gを入れ、120℃で20時間反応させた。反応後、濾過することにより、オクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドのメタノール溶液190g(固形分濃度50質量%)を得た。
【0036】
<水溶液組成物の製造>
[実施例1-1]
窒素置換した500mL加圧反応容器に、合成例1-1で得たオクタデシルジメチル(4-トリメトキシシリルブチル)アンモニウムクロライドのメタノール溶液(固形分濃度50質量%)10g、イオン交換水200g、クエン酸0.4gを加え、内温が100℃になるまで水-メタノール混合溶媒を留去し、その後、濃度が3質量%になるようにイオン交換水を加え、水溶液組成物Aを得た。
得られた水溶液組成物の外観は透明であり、GC分析においてメタノールは検出されなかった。
【0037】
[実施例1-2]
窒素置換した500mL加圧反応容器に、合成例1-2で得たオクタデシルジメチル(6-トリメトキシシリルヘキシル)アンモニウムクロライドのメタノール溶液(固形分濃度50質量%)10g、イオン交換水200g、クエン酸0.4gを加え、内温が100℃になるまで水-メタノール混合溶媒を留去し、その後、濃度が3質量%になるようにイオン交換水を加え、水溶液組成物Bを得た。
得られた水溶液組成物の外観は透明であり、GC分析においてメタノールは検出されなかった。
【0038】
[実施例1-3]
窒素置換した500mL加圧反応容器に、合成例1-3で得たオクタデシルジメチル(8-トリメトキシシリルオクチル)アンモニウムクロライドのメタノール溶液(固形分濃度50質量%)10g、イオン交換水200g、クエン酸0.4gを加え、内温が100℃になるまで水-メタノール混合溶媒を留去し、その後、濃度が3質量%になるようにイオン交換水を加え、水溶液組成物Cを得た。
得られた水溶液組成物の外観は透明であり、GC分析においてメタノールは検出されなかった。
【0039】
[実施例1-4]
窒素置換した500mL加圧反応容器に、合成例1-4で得たオクタデシルジメチル(8-トリエトキシシリルオクチル)アンモニウムクロライドのエタノール溶液(固形分濃度50質量%)10g、イオン交換水200g、クエン酸0.4gを加え、内温が100℃になるまで水-エタノール混合溶媒を留去し、その後、濃度が3質量%になるようにイオン交換水を加え、水溶液組成物Dを得た。
得られた水溶液組成物の外観は透明であり、GC分析においてエタノールは検出されなかった。
【0040】
[実施例1-5]
窒素置換した500mL加圧反応容器に、合成例1-4で得たオクタデシルジメチル(8-トリエトキシシリルオクチル)アンモニウムクロライドのエタノール溶液(固形分濃度50質量%)10g、イオン交換水150g、クエン酸0.4gを加え、内温が100℃になるまで水-エタノール混合溶媒を留去し、その後、濃度が5質量%になるようにイオン交換水を加え、水溶液組成物Eを得た。
得られた水溶液組成物の外観は透明であり、GC分析においてエタノールは検出されなかった。
【0041】
[実施例1-6]
窒素置換した500mL加圧反応容器に、合成例1-4で得たオクタデシルジメチル(8-トリエトキシシリルオクチル)アンモニウムクロライドのエタノール溶液(固形分濃度50質量%)10g、イオン交換水400g、クエン酸0.4gを加え、内温が100℃になるまで水-エタノール混合溶媒を留去し、その後、濃度が1質量%になるようにイオン交換水を加え、水溶液組成物Fを得た。
得られた水溶液組成物の外観は透明であり、GC分析においてエタノールは検出されなかった。
【0042】
[実施例1-7]
窒素置換した500mL加圧反応容器に、合成例1-5で得たオクタデシルジメチル(11-トリメトキシシリルウンデシル)アンモニウムクロライドのメタノール溶液(固形分濃度50質量%)10g、イオン交換水200g、クエン酸0.4gを加え、内温が100℃になるまで水-メタノール混合溶媒を留去し、その後、濃度が3質量%になるようにイオン交換水を加え、水溶液組成物Gを得た。
得られた水溶液組成物の外観は透明であり、GC分析においてメタノールは検出されなかった。
【0043】
[比較例1-1]
窒素置換した500mL加圧反応容器に、比較合成例1-1で得たオクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドのメタノール溶液(固形分濃度50質量%)10g、イオン交換水150g、クエン酸0.4gを加え、内温が100℃になるまで水-メタノール混合溶媒を留去し、その後、濃度が5質量%になるようにイオン交換水を加え、水溶液組成物Hを得た。
得られた水溶液組成物の外観は透明であり、GC分析においてメタノールは検出されなかった。
【0044】
[比較例1-2]
窒素置換した500mL加圧反応容器に、比較合成例1-1で得たオクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドのメタノール溶液(固形分濃度50質量%)10g、イオン交換水200g、クエン酸0.4gを加え、内温が100℃になるまで水-メタノール混合溶媒を留去し、その後、濃度が3質量%になるようにイオン交換水を加え、水溶液組成物Iを得た。
得られた水溶液組成物の外観は透明であり、GC分析においてメタノールは検出されなかった。
【0045】
[比較例1-3]
窒素置換した500mL加圧反応容器に、比較合成例1-1で得たオクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドのメタノール溶液(固形分濃度50質量%)10g、イオン交換水400g、クエン酸0.4gを加え、内温が100℃になるまで水-メタノール混合溶媒を留去し、その後、濃度が1質量%になるようにイオン交換水を加え、水溶液組成物Jを得た。
得られた水溶液組成物の外観は透明であり、GC分析においてメタノールは検出されなかった。
【0046】
<保存安定性の評価>
実施例1-1~1-7、比較例1-1~1-3で得た水溶液組成物A~Jを50℃、密閉条件で所定の期間(1週間、1か月、3か月)保管後の外観を目視で観察し、安定性を評価した。析出物が観察されず、透明溶液であった場合を〇、析出物が観察された場合を×とした。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
<処理物品の製造>
[実施例2-1~2-7、比較例2-1~2-3]
実施例1-1~1-7、比較例1-1~1-3で得られた水溶液組成物A~Jをさらにイオン交換水で濃度0.5質量%に希釈し、それぞれにT/C繊維(ポリエステル/コットンの複合繊維)5gを30秒間浸漬させ、繊維を取り出して80℃で10分間乾燥させることにより、処理されたT/C繊維を作製した。
【0049】
<抗ウイルス性の評価>
得られた繊維について、下記方法により抗ウイルス性を評価した。評価は、下記の方法により算出したウイルス減少率により行った。結果を表2に示す。
[繊維]:抗ウイルス剤組成物で処理されたT/C繊維を家庭用洗濯機(型番NA-VX86002、パナソニック(株)製、標準コース、洗剤:JAFET標準洗剤)で5回および10回洗濯した後の繊維
[使用ウイルス]:インフルエンザウイルスH1N1 IOWA株
[培養細胞]:MDCK細胞
[ウイルス液調整方法]:インフルエンザウイルスをMDCK細胞に接種した。37℃で1時間吸着後、接種ウイルス液を除去し、滅菌PBSで2回洗浄した。MEM培地を加え、37℃、5%CO2存在下で5日間培養した。培養上清を回収し、3000rpmで30分間遠心後、遠心上清を分注し、-70℃以下で保存したものをウイルス液とした。
[ウイルス力価測定]:上記繊維にウイルス液を0.4mL添加し、滅菌バイアルに入れて密閉した。室温(25℃)下で2時間静置し、感作時間とした。感作時間経過後、バイアル中に細胞維持培地20mLを添加し、よく混合してウイルスを洗い出した。洗い出し液についてさらに細胞維持培地で10倍段階希釈を行い、各希釈液をマイクロプレートの培養細胞に接種し、37℃、5日間培養した。培養後の各培養液を回収し、赤血球凝集反応によりウイルスの増殖の有無を確認し、ウイルス力価(TCID50)を測定した。
[ウイルス減少率(%)]:100×[(未処理の繊維におけるウイルス力価-上記繊維におけるウイルス力価)/(未処理の繊維におけるウイルス力価)]
【0050】
【表2】
【0051】
表1および表2に示されるように、実施例1-1~1-7の水溶液組成物は、比較例1-1~1-3の水溶液組成物より保存安定性に優れ、また、処理した繊維の抗ウイルス性の洗濯耐久性も優れる結果であった。