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  • 特開-多環芳香族化合物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049580
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】多環芳香族化合物
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/02 20060101AFI20230403BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20230403BHJP
   H10K 50/00 20230101ALI20230403BHJP
   H10K 50/16 20230101ALI20230403BHJP
   H10K 50/15 20230101ALI20230403BHJP
   H10K 59/00 20230101ALI20230403BHJP
   H01L 33/26 20100101ALI20230403BHJP
【FI】
C07F5/02 D CSP
C09K11/06 690
H05B33/14 B
H05B33/22 B
H05B33/22 D
H01L27/32
H01L33/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021159388
(22)【出願日】2021-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
(71)【出願人】
【識別番号】521180485
【氏名又は名称】エスケーマテリアルズジェイエヌシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】畠山 琢次
(72)【発明者】
【氏名】王 国防
(72)【発明者】
【氏名】川角 亮介
(72)【発明者】
【氏名】近藤 靖宏
【テーマコード(参考)】
3K107
4H048
5F241
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC04
3K107CC22
3K107DD53
3K107DD59
3K107DD68
3K107DD69
3K107DD71
3K107DD74
3K107DD78
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB92
4H048VA32
4H048VA77
4H048VB10
5F241AA03
5F241AA44
5F241CA45
(57)【要約】
【解決手段】下記式(1):
(A環、B環、C環は、置換もしくは無置換のアリール環または置換もしくは無置換のヘテロアリール環、Yは、>B-、>P-、>P(=O)-または>P(=S)-、Xは、>C(-RX1)-、>N-または>Si(-RX3)-、RX1、RX3は置換もしくは無置換のアリール等、Zは、>N-RZ2等、RZ2置換もしくは無置換のアリールまたは置換もしくは無置換のヘテロアリール等、Lは連結基を示す)で表される構造単位の1つまたは2つ以上からなる構造を有する多環芳香族化合物は有機電解発光素子等の有機デバイス用材料として有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造単位の1つまたは2つ以上からなる構造を有する多環芳香族化合物;
【化1】
式(1)中、
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、置換もしくは無置換のアリール環または置換もしくは無置換のヘテロアリール環であり、
Yは、>B-、>P-、>P(=O)-または>P(=S)-であり、
Xは、>C(-RX1)-、>N-または>Si(-RX3)-であり、
X1およびRX3は、それぞれ独立して、水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキルまたは置換もしくは無置換のシクロアルキルであり、
Zは、>C(-RZ12、>N-RZ2、>O、>Si(-RZ32または>Sであり、
Z1、RZ2およびRZ3は、それぞれ独立して、水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキルまたは置換もしくは無置換のシクロアルキルであるか、結合している元素とB環またはC環とともに環を形成しており、ただし、2つのRZ1は互いに結合していてもよく、および2つのRZ3は互いに結合していてもよく、
Lは、A環とYとを連結する最短の原子数が1~4の連結基であり、
Lは連結基または単結合により前記A環と結合していてもよく、
前記構造における少なくとも1つの水素は、重水素、シアノまたはハロゲンで置き換えられていてもよい。
【請求項2】
前記構造が式(1)で表される構造単位の1つからなる請求項1に記載の多環芳香族化合物。
【請求項3】
A環、B環およびC環が、いずれも置換または無置換のベンゼン環である請求項1または2に記載の多環芳香族化合物。
【請求項4】
Lが、>C(-RL12、>N-RL2、>O、>Si(-RL32、>S、>C=CRL1 2、>C=NRL2、>C=O、>C=S、-φ-、-φ-C(-RL12-、-φ-N(-RL2)-、-φ-O-、-φ-Si(-RL32-、-φ-S-、-φ-C(=CRL1 2)-、-φ-C(=NRL2)-、-φ-C(=O)-または-φ-C(=S)-であり、
L1、RL2およびRL3は、それぞれ独立して、水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキルまたは置換もしくは無置換のシクロアルキルであり、同一の元素に結合する2つのRL1またはRL3はそれぞれ互いに結合していてもよく、RL1の少なくとも1つ、RL2、およびRL3の少なくとも1つはそれぞれ連結基または単結合によりA環またはφの少なくとも1つと結合していてもよく、
φは、置換もしくは無置換のアリーレンまたは置換もしくは無置換のヘテロアリーレンであり、前記アリーレンおよび前記ヘテロアリーレンはいずれも隣接する2つの環構成原子に結合手を有する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の多環芳香族化合物。
【請求項5】
Lが>N-RL2である請求項4に記載の多環芳香族化合物。
【請求項6】
Lが1,2-フェニレンである請求項4に記載の多環芳香族化合物。
【請求項7】
Xが>N-であり、
Zが>N-RZ2、>O、または>Sである
請求項1~6のいずれか一項に記載の多環芳香族化合物。
【請求項8】
YがBである請求項1~7のいずれか一項に記載の多環芳香族化合物。
【請求項9】
下記式のいずれかで表される、請求項1に記載の多環芳香族化合物。
【化2】
【請求項10】
下記式で表される、請求項1に記載の多環芳香族化合物。
【化3】
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の多環芳香族化合物を含有する、有機デバイス用材料。
【請求項12】
陽極および陰極からなる一対の電極と該一対の電極間に配置される有機層とを有し、前記有機層が請求項1~10のいずれか一項に記載の多環芳香族化合物を含有する、有機電界発光素子。
【請求項13】
前記有機層が発光層である、請求項12に記載の有機電界発光素子。
【請求項14】
前記発光層が、ホスト材料としての前記多環芳香族化合物と、ドーパント材料とを含む、請求項13に記載の有機電界発光素子。
【請求項15】
前記有機層が電子輸送層である、請求項12に記載の有機電界発光素子。
【請求項16】
前記有機層が正孔輸送層である、請求項12に記載の有機電界発光素子。
【請求項17】
請求項12~16のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を備えた表示装置または照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多環芳香族化合物、これを用いた有機電界発光素子、有機電界効果トランジスタおよび有機薄膜太陽電池などの有機デバイス、並びに、表示装置および照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電界発光する発光素子を用いた表示装置は、省電力化や薄型化が可能なことから、種々研究され、さらに、有機材料から成る有機電界発光素子は、軽量化や大型化が容易なことから活発に検討されてきた。特に、光の三原色の1つである青色や緑色などの発光特性を有する有機材料の開発、および正孔、電子などの電荷輸送能(半導体や超電導体となる可能性を有する)を備えた有機材料の開発については、高分子化合物、低分子化合物を問わずこれまで活発に研究されてきた。
【0003】
有機EL素子は、陽極および陰極からなる一対の電極と、当該一対の電極間に配置され、有機化合物を含む一層または複数の層とからなる構造を有する。有機化合物を含む層には、発光層や、正孔、電子などの電荷を輸送または注入する電荷輸送/注入層などがあるが、これらの層に適当な種々の有機材料が開発されている。
【0004】
発光層用の発光材料としては、現在、蛍光材料、燐光材料、熱活性型遅延蛍光(TADF)材料の3種類が利用されている。例えば、蛍光材料ではアザボリン誘導体を改良した材料などが報告されており(特許文献1)、燐光材料では多座配位子を有する貴金属錯体などが開発されており(特許文献2)、熱活性型遅延蛍光(TADF)材料ではカルバゾニトリル化合物などが開発されている(非特許文献1)。
【0005】
いずれの材料を用いた素子も、効率の低下につながる発光層または周辺層からのエネルギーの漏れを防ぐため高い最低励起一重項エネルギーまたは最低励起三重項エネルギーを持つ材料が発光層の隣接層またはホストに用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2015/102118号
【特許文献2】特開2014-239225号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nature Vol.492 13 December 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述するように、有機EL素子に用いられる材料としては種々のものが開発されているが、有機EL素子用材料の選択肢を増やすために、従来のものとは異なる化合物からなる材料の開発が望まれている。また、特許文献1では、ホウ素を含む多環芳香族化合物とそれを用いた有機EL素子が報告されているが、更に素子特性を向上させるべく、発光効率および素子寿命を向上させることができる発光層用材料および周辺層用材料が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、新規な多環芳香族化合物の製造に成功し、さらに高い一重項エネルギーと三重項エネルギーを有する材料としてこの化合物が有効であることを見出した。そして、例えばこのような多環芳香族化合物をホスト材料または発光層に隣接する層の材料とし、それよりも小さな三重項エネルギーを有する化合物をドーパント材料とした発光層を一対の電極間に配置して有機EL素子を構成することにより、優れた有機EL素子が得られることを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明は、以下のような多環芳香族化合物、さらには以下のような多環芳香族化合物を含む有機デバイス用材料等を提供する。
【0010】
<1> 下記式(1)で表される構造単位の1つまたは2つ以上からなる構造を有する多環芳香族化合物;
【化1】
【0011】
式(1)中、
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、置換もしくは無置換のアリール環または置換もしくは無置換のヘテロアリール環であり、
Yは、>B-、>P-、>P(=O)-または>P(=S)-であり、
Xは、>C(-RX1)-、>N-または>Si(-RX3)-であり、
X1およびRX3は、それぞれ独立して、水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキルまたは置換もしくは無置換のシクロアルキルであり、
Zは、>C(-RZ12、>N-RZ2、>O、>Si(-RZ32または>Sであり、
Z1、RZ2およびRZ3は、それぞれ独立して、水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキルまたは置換もしくは無置換のシクロアルキルであるか、結合している元素とB環またはC環とともに環を形成しており、ただし、2つのRZ1は互いに結合していてもよく、および2つのRZ3は互いに結合していてもよく、
Lは、A環とYとを連結する最短の原子数が1~4の連結基であり、
Lは連結基または単結合により前記A環と結合していてもよく、
前記構造における少なくとも1つの水素は、重水素、シアノまたはハロゲンで置き換えられていてもよい。
【0012】
<2> 前記構造が式(1)で表される構造単位の1つからなる<1>に記載の多環芳香族化合物。
<3> A環、B環およびC環が、いずれも置換または無置換のベンゼン環である<1>または<2>に記載の多環芳香族化合物。
【0013】
<4> Lが、>C(-RL12、>N-RL2、>O、>Si(-RL32、>S、>C=CRL1 2、>C=NRL2、>C=O、>C=S、-φ-、-φ-C(-RL12-、-φ-N(-RL2)-、-φ-O-、-φ-Si(-RL32-、-φ-S-、-φ-C(=CRL1 2)-、-φ-C(=NRL2)-、-φ-C(=O)-または-φ-C(=S)-であり、
L1、RL2およびRL3は、それぞれ独立して、水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキルまたは置換もしくは無置換のシクロアルキルであり、同一の元素に結合する2つのRL1またはRL3はそれぞれ互いに結合していてもよく、RL1の少なくとも1つ、RL2、およびRL3の少なくとも1つはそれぞれ連結基または単結合によりA環またはφの少なくとも1つと結合していてもよく、
φは、置換もしくは無置換のアリーレンまたは置換もしくは無置換のヘテロアリーレンであり、前記アリーレンおよび前記ヘテロアリーレンはいずれも隣接する2つの環構成原子に結合手を有する、
<1>~<3>のいずれかに記載の多環芳香族化合物。
【0014】
<5> Lが>N-RL2である<4>に記載の多環芳香族化合物。
<6> Lが1,2-フェニレンである<4>に記載の多環芳香族化合物。
<7> Xが>N-であり、
Zが>N-RZ2、>O、または>Sである
<1>~<6>のいずれかに記載の多環芳香族化合物。
<8> YがBである<1>~<7>のいずれかに記載の多環芳香族化合物。
【0015】
<9> 下記式のいずれかで表される、<1>に記載の多環芳香族化合物。
【化2】
【0016】
<10> 下記式で表される、<1>に記載の多環芳香族化合物。
【化3】
【0017】
<11> <1>~<10>のいずれかに記載の多環芳香族化合物を含有する、有機デバイス用材料。
<12> 陽極および陰極からなる一対の電極と該一対の電極間に配置される有機層とを有し、前記有機層が<1>~<10>のいずれかに記載の多環芳香族化合物を含有する、有機電界発光素子。
<13> 前記有機層が発光層である、<12>に記載の有機電界発光素子。
<14> 前記発光層が、ホスト材料としての前記多環芳香族化合物と、ドーパント材料とを含む、<13>に記載の有機電界発光素子。
<15> 前記有機層が電子輸送層である、<12>に記載の有機電界発光素子。
<16> 前記有機層が正孔輸送層である、<12>に記載の有機電界発光素子。
<17> <12>~<16>のいずれかに記載の有機電界発光素子を備えた表示装置または照明装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明の好ましい態様によれば、新規な多環芳香族化合物を例えば発光層におけるホスト材料、ホスト材料の一成分または発光層へ隣接する層の成分として用いた有機EL素子を作製することで、量子効率や素子寿命が優れた有機EL素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係る有機EL素子を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、構造式の説明において「水素原子(H)」を「水素」ということがある。同様に「炭素原子(C)」を「炭素」ということがある。
本明細書において、「隣接する基」というときは、構造式中で隣接する2つの原子(共有結合で直接結合する2つの原子)にそれぞれ結合している2つの基を意味する。
【0021】
本明細書において「Me」はメチル、「Et」はエチル、「nBu」はn-ブチル(ノルマルブチル)、「tBu」はt-ブチル(ターシャリーブチル)、「iBu」はイソブチル、「secBu」はセカンダリーブチル、「nPr」はn-プロピル(ノルマルプロピル)、「iPr」はイソプロピル、「tAm」はt-アミル、「2EH」は2-エチルヘキシル、「tOct」はt-オクチル、「Ph」はフェニル、「Mes」はメシチル(2,4,6-トリメチルフェニル)、「Tf」はトリフルオロメタンスルホニル、「TMS」はトリメチルシリル、「D」は重水素を表す。
本明細書において、有機電界発光素子を有機EL素子ということがある。
【0022】
本明細書において化学構造や置換基を炭素数で表すことがあるが、化学構造に置換基が置換した場合や、置換基にさらに置換基が置換した場合などにおける炭素数は、化学構造や置換基それぞれの炭素数を意味し、化学構造と置換基の合計の炭素数や、置換基と置換基の合計の炭素数を意味するものではない。例えば、「炭素数Xの置換基Aで置換された炭素数Yの置換基B」とは、「炭素数Yの置換基B」に「炭素数Xの置換基A」が置換することを意味し、炭素数Yは置換基Aおよび置換基Bの合計の炭素数ではない。また例えば、「置換基Aで置換された炭素数Yの置換基B」とは、「炭素数Yの置換基B」に「(炭素数限定がない)置換基A」が置換することを意味し、炭素数Yは置換基Aおよび置換基Bの合計の炭素数ではない。
【0023】
本明細書において、置換基は、さらなる置換基で置換されていることがある。例えば、特定の置換基に関して、「置換もしくは無置換の」と説明がされることがある。これはその特定の置換基が少なくとも1つのさらなる置換基で置換されているか、または置換されていないことを意味する。同様の意味で「置換されていてもよい」ということもある。本明細書において、このときの上記特定の置換基を「第1の置換基」、上記のさらなる置換基を「第2の置換基」ということがある。
【0024】
1.本発明の多環芳香族化合物
本発明の多環芳香族化合物は式(1)で表される構造単位の1つまたは2つ以上からなる構造を有する多環芳香族化合物である。
【0025】
【化4】
【0026】
本発明者らは、芳香族環をホウ素、リン、酸素、窒素、硫黄などのヘテロ元素で連結した本発明の多環芳香族化合物が、大きなHOMO-LUMOギャップ(薄膜におけるバンドギャップEg)と高い三重項エネルギーを有することを見出した。これは、ヘテロ元素を含む6員環は芳香族性が低いため、共役系の拡張に伴うHOMO-LUMOギャップの減少が抑制されること、分子内の歪みを利用し共役系の拡張を抑制することで大きなHOMO-LUMOギャップを得られることが原因となっていると考えられる。
【0027】
また、本発明に係るヘテロ元素を含有する多環芳香族化合物は、高い三重項エネルギーを有する材料として、燐光有機EL素子や熱活性型遅延蛍光を利用した有機EL素子のホスト化合物、発光層に隣接する電子阻止層(電子ブロッキング層)や正孔阻止層(正孔ブロッキング層)、電子輸送層や正孔輸送層としても有用である。さらに、これらの多環芳香族化合物は、置換基の導入により、HOMOとLUMOのエネルギーを任意に動かすことができるため、イオン化ポテンシャルや電子親和力を周辺材料に応じて最適化することが可能である。
【0028】
<式(1)で表される構造単位の環構造>
式(1)において円内の「A」~「C」は円で示される環構造を示す符号である。
【0029】
A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、置換もしくは無置換のアリール環または置換もしくは無置換のヘテロアリール環である。A環~C環はいずれも、その構造中のアリール環またはヘテロアリール環の環上で互いに隣接する2つの炭素に結合手を有する2価の基を形成している。
【0030】
式(1)で表される構造単位のA環、B環およびC環における置換もしくは無置換のアリール環または置換もしくは無置換のヘテロアリール環において、「置換もしくは無置換の(置換または無置換の)」というときの置換基としては後述の置換基群Zより選択される少なくとも1つの置換基が好ましい。
【0031】
本発明の多環芳香族化合物は、分子内に、A環における2つの炭素、X、YおよびLから形成される第1の「含XY環構造」ならびにB環における2つの炭素、ZおよびC環における2つの炭素から形成される第2の「含XY環構造」を有する。第2の「含XY環構造」は7員環である。また、本発明の化合物は、縮合された第1の「含XY環構造」および第2の「含XY環構造」で形成される「縮合二環構造」を有する。
【0032】
【化5】
【0033】
ここで、「含XY環構造」とは、式(1)では、XおよびYを含んで形成される環構造であり、「第1の含XY環構造」は、A環においてそれぞれXおよびLに結合する互いにo位にある2つの炭素、X、YならびにLから形成され、「第2の含XY環構造」は、B環においてそれぞれXおよびZに結合する互いにo位にある2つの炭素、C環においてそれぞれYおよびZに結合する互いにo位にある2つの炭素、X、YならびにZから形成される。同様に式(2)においても、「含XY環構造」とは、XおよびYを含んで形成される環構造であり、「第1の含XY環構造」は、a環における互いにo位にある2つの炭素、X、YおよびLから形成され、「第2の含XY環構造」は、b環における互いにo位にある2つの炭素、c環における互いにo位にある2つの炭素、X、YおよびZから形成される。
【0034】
ここで、「縮合二環構造」とは、式(1)では、YおよびXを含んで構成される2つの飽和炭化水素環である「第1の含XY環構造」および「第2の含XY環構造」が縮合した構造を意味する。この「縮合二環構造」はさらにいずれかの環において、A環~C環と結合を共有する。すなわち、A環~C環は上記「縮合二環構造」と縮合している。このように本発明の多環芳香族化合物は、少なくとも5つの環が縮合した多環構造を有する。
【0035】
例えばA環~C環はそれぞれ独立して「縮合二環構造と結合を共有する6員環」、すなわち、縮合二環構造に縮合した6員(好ましくはベンゼン環c)、を有していることができる。また、「(A環である)アリール環またはヘテロアリール環がこの6員環を有する」とは、この6員環だけでA環が形成されるか、または、この6員環を含むようにこの6員環にさらに他の環などが縮合してA環が形成されることを意味する。言い換えれば、ここで言う「6員環を有する(A環である)アリール環またはヘテロアリール環」とは、A環の全部または一部を構成する6員環が、縮合二環構造に縮合していることを意味する。「B環」、「C環」についても同様の説明が当てはまり、また「5員環」についても同様の説明が当てはまる。
【0036】
式(1)のA環~C環がいずれも縮合二環構造に縮合したベンゼン環を有する構造は下記式(2)で示すことができ、式(2)で表される構造単位は式(1)で表される構造単位の好ましい一例である。
【0037】
【化6】
【0038】
式(1)におけるA環、B環およびC環は、それぞれ、式(2)におけるa環とその置換基Ra、b環とその置換基Rbおよびc環とその置換基Rcに対応する。上述のように、式(2)は、式(1)のA環~C環として、上記縮合二環構造と直接縮合する環として6員環を有する構造に対応する。6員環を「有する」というのは、後述するように、例えば6員環であるa環に対して、その4つの置換基Raのうちの隣接する基同士が結合して環を形成して、6員環であるa環にさらに他の環が縮合したものがA環に対応する場合があるからである。このような意味で、式(1)の各環を大文字のA~Cで表したのに対して、式(2)の各環を小文字のa~cで表した。
【0039】
式(2)におけるRa、RbおよびRcはそれぞれ独立して水素または置換基である。この置換基としては、後述の置換基群Zより選択される少なくとも1つの置換基があげられる。
【0040】
式(2)におけるa環、b環およびc環のそれぞれの置換基Ra、RbおよびRcのうちの隣接する基同士が結合して、それぞれa環、b環およびc環と共に、アリール環またはヘテロアリール環を形成していてもよく、形成された環は、後述の置換基群Zより選択される少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい。
【0041】
したがって、式(2)の多環芳香族化合物は、a環~c環における置換基の相互の結合形態によって、例えば、下記式(2-fr)に示すように、化合物を構成する環構造が変化する。下記式中のA'環およびB'環は、式(1)におけるそれぞれA環およびB環に対応する。なお、c環も同様に変化し得る。
【化7】
【0042】
上記式(2-fr)中のA'環は、式(2)で説明すれば、複数の置換基Raのうちの隣接する基同士が結合して、a環と共に形成したアリール環またはヘテロアリール環を示す(a環に他の環構造が縮合してできた縮合環ともいえる)。同様に、B'環は、複数の置換基Rbのうちの隣接する基同士が結合して、b環と共に形成したアリール環またはヘテロアリール環を示す(b環に他の環構造が縮合してできた縮合環ともいえる)。
【0043】
上記式(2-fr)は、a環またはb環であるベンゼン環に対して、例えば、ベンゼン環、インドール環、ピロール環、ベンゾフラン環、またはベンゾチオフェン環などが縮合して形成されたA'環またはB'環を有し、形成された縮合環A'または縮合環A'は、それぞれ、ナフタレン環、カルバゾール環、インドール環、ジベンゾフラン環、またはジベンゾチオフェン環などである。
【0044】
式(2-fr)のより具体的な例を以下に示す。
【化8】
【0045】
上記式(2-fr-ex)は、それぞれ式(2-fr)の具体例であり、式(2)および式(2)のa環における隣接する2つのRaが結合して、a環(ベンゼン環)と共に、アリール環(ナフタレン環)が形成され、b環における隣接する2つのRbが結合して、b環(ベンゼン環)と共に、ヘテロアリール環(ジベンゾフラン環)が形成された例である。形成された環はいずれも上述した縮合二環構造と結合を共有する6員環(ベンゼン環aまたはb)を有している。アリール環A’およびB’(式(1)のA環およびB環)への任意の置換基は、RaおよびRbの他にn個のRでも示しており、nの下限は0であり、nの上限は置換可能な最大数(4)である。なお、これらの説明は上述した具体例以外のあらゆる形態、例えばc環が変化した場合や他のアリール環やヘテロアリール環が形成された場合にも同様に適用できる。
【0046】
式(2)で表される構造単位におけるa環、b環、c環中の任意の「-C(-R)=」(ここでRは、Ra、RbまたはRcである)が「-N=」に置き換わった式で表される構造単位も、式(1)で表される構造単位の好ましい例としてあげられる。式(2)のa~c環(ベンゼン環)における「-C(-R)=」が「-N=」に置き換わった環の例としては、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、その他の含窒素ヘテロアリール環があげられる。式(2)のa環部分が含窒素ヘテロアリール環である例を以下に示す。
【0047】
【化9】
【0048】
また、a環、b環、c環(ベンゼン環)における「-C(-R)=」が「-N=」に置き換わった環に存在する隣接する基(隣接するRa、隣接するRbまたは隣接するRc)がが結合して上記環と共にヘテロアリール環(上記式中ではキノリン環)を形成した構造も好ましい。形成された環がさらに置換されていてもよい(下記ではn個のRで示す)。ことは、上述したとおりである。式(2)のa環部分が上記の環である例を以下に示す。
【0049】
【化10】
【0050】
その他、以下例があげられる。
【化11】
【0051】
式(2)のa環のその他の箇所が「-N=」に置き換わった場合や、b環またはc環が変化した場合についても同じである。
【0052】
式(2)で表される構造単位におけるa~c環中の任意の「-C(-R)=C(-R)-」(ここでRは、Ra、RbおよびRcである)が、「-N(-R)-」、「-O-」、「-S-」、「-C(-R)2-」、「-Si(-R)2-」、または「-Se-」に置き換わった式で表される構造単位も、式(1)で表される構造単位の好ましい例としてあげられる。式(2)のa~c環(ベンゼン環)における「-C(-R)=C(-R)-」が、「-N(-R)-」、「-O-」、「-S-」、「-C(-R)2-」、「-Si(-R)2-」、または「-Se-」に置き換わった環の例としては、ピロール環、フラン環、チオフェン環、その他の含窒素・酸素・硫黄ヘテロアリール環(5員環)やアリール環(5員環)があげられる。前記「-N(-R)-」のR、「-C(-R)2-」のR、および「-Si(-R)2-」のRは、水素、アリール、ヘテロアリール、アルキル、またはシクロアルキルであり、当該Rにおける少なくとも1つの水素は、アルキルまたはシクロアルキルで置換されていてもよい。
式(2)のa環部分が上記の環である例を以下に示す。
【0053】
【化12】
【0054】
また、a~c環(ベンゼン環)における「-C(-R)=C(-R)-」が、「-N(-R)-」、「-O-」、「-S-」、「-C(-R)2-」、「-Si(-R)2-」、または「-Se-」に置き換わった環に存在する隣接する基(隣接するRa、隣接するRbまたは隣接するRc)が結合して上記環と共にヘテロアリール環(インドール環、ベンゾフラン環、またはベンゾチオフェン環などの環)を形成した構造も好ましい。
式(2)のa環部分がこのような環である例を以下に示す。
【0055】
【化13】
【0056】
その他、以下の例があげられる。
【化14】
【0057】
式(2)のa環のその他の箇所が「-N(-R)-」、「-O-」、「-S-」、「-C(-R)2-」、「-Si(-R)2-」、または「-Se-」に置き換わった場合や、b環およびc環が変化した場合についても同じである。
【0058】
<Lの説明>
Lは、2価の連結基であり、2つの結合位置の間の最短の原子数が1~4である。すなわち、式(1)中で、LはA環とYとを連結する最短の原子数が1~4の連結基である。したがって、上記の第1の含XY環構造の環を構成する原子数は5~8である。上記のA環とYとを連結する最短の原子数は、好ましくは1~3であり、さらに好ましくは1または2である。
【0059】
Lは、好ましくは>C(-RL12、>N-RL2、>O、>Si(-RL32、>S、>C=CRL1 2、>C=NRL2、>C=O、>C=S、-φ-、-φ-C(-RL12-、-φ-N(-RL2)-、-φ-O-、-φ-Si(-RL32-、-φ-S-、-φ-C(=CRL1 2)-、-φ-C(=NRL2)-、-φ-C(=O)-および-φ-C(=S)-である。なお、上記はそれぞれいずれか一方の結合手でA環に結合し他方の結合手でYに結合するが、いずれの結合手でいずれに結合していてもよい。ここで、RL1、RL2、RL3は、それぞれ独立して、水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキルまたは置換もしくは無置換のシクロアルキルであり、同一の元素に結合する2つのRL1またはRL3はそれぞれ互いに結合していてもよく、RL1の少なくとも1つ、RL2、およびRL3の少なくとも1つはそれぞれ連結基または単結合によりA環またはφの少なくとも1つと結合していてもよい。φは、置換もしくは無置換のアリーレンまたは置換もしくは無置換のヘテロアリーレンであり、φは隣接する2つの環構成原子を結合位置とする。
【0060】
Lは、>N-RL2、>O、>S、-φ-、-φ-N(-RL2)-、-φ-O-または-φ-S-が好ましく、式(2)において、Lが>N-RL2、>O、>S、-φ-、-φ-N(-RL1)-、-φ-O-または-φ-S-である構造は、それぞれ、式(2-a)、式(2-x)、式(2-t)、式(2-f)、式(2-af)、式(2-xf)、式(2-tf)、式(2-fa)、式(2-fx)および式(2-ft)で表される。
【0061】
【化15】
【0062】
L中におけるφは、置換もしくは無置換のアリーレンまたは置換もしくは無置換のヘテロアリーレンである。φ中の上記アリーレンおよびヘテロアリーレンはいずれも隣接する2つの環構成原子に結合手を有する。
φの定義において「置換もしくは無置換」というときの置換基としては、後述の置換基群Zより選択される少なくとも1つの置換基が好ましい。
【0063】
φは、無置換のアリーレンまたは無置換のヘテロアリーレンであることが好ましく、無置換の1,2-フェニレンであることがより好ましい。φが無置換のアリーレンまたは無置換のヘテロアリーレンである式(2)で表される構造単位の例を以下に示す。
【0064】
【化16】
【0065】
<Yの説明>
Yは、それぞれ独立して、>B-、>P-、>P(=O)-、>P(=S)-、>Al-、>Ga-、>As-、>C(-R)-、>Si(-R)-、または>Ge(-R)-であり、前記>C(-R)-のR、>Si(-R)-のR、および>Ge(-R)-のRは、それぞれ独立して、置換されてもよいアリール、置換されてもよいヘテロアリール、置換されてもよいアルキル、または置換されてもよいシクロアルキルである。なお、Yは1つの原子に結合手を3つ有する部分構造を示し、例えば、>P(=O)-、>P(=S)-で示されるそれぞれ3つの結合手はP(リン原子)にある。Yとしては、>B-、>P-、>P(=O)-、または>P(=S)-が好ましく、>B-がより好ましい。
【0066】
<Xの説明>
式(1)におけるXは、それぞれ独立して、>N-、>C(-RX1)または>Si(-RX3)であり、RX1およびRX3は、それぞれ独立して、水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキル、または置換もしくは無置換のシクロアルキルである。RX1およびRX3の定義において「置換もしくは無置換」というときの置換基としては、後述の置換基群Zより選択される少なくとも1つの置換基があげられる。
【0067】
Xとしては、>N-または>C(-RX1)が好ましく、>N-がより好ましい。
【0068】
<Zの説明>
式(1)におけるZは、>C(-RZ12、>N-RZ2、>O、>Si(-RZ32または>Sである。ここで、RZ1、RZ2、RZ3は、それぞれ独立して、水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキルまたは置換もしくは無置換のシクロアルキルであるか、結合している元素とB環またはC環の環とともに環を形成している。ただし、2つのRZ1および2つのRZ3はそれぞれ互いに結合していてもよい。RZ1、RZ2、RZ3が、結合している元素(C,NまたはSi)とB環またはC環の環とともに環を形成している構造としては、上記の基のいずれか(特に置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール)であるRZ1、RZ2、RZ3結合基(連結基または単結合)によりB環またはC環と結合した構造があげられる。
【0069】
連結基としては、-CH2-CH2-、-CHR-CHR-、-CR2-CR2-、-CH=CH-、-CR=CR-、-C≡C-、-N(-R)-、-O-、-S-、-C(-R)2-、-Si(-R)2-、または-Se-があげられる。なお、前記-CHR-CHR-のR、-CR2-CR2-のR、-CR=CR-のR、-N(-R)-のR、-C(-R)2-のR、および-Si(-R)2-のRは、それぞれ独立して、水素、アリール、ヘテロアリール、アルキル、アルケニル、アルキニル、またはシクロアルキルであり、当該Rにおける少なくとも1つの水素は、アルキルまたはシクロアルキルで置換されていてもよい。また、隣接する2つのR同士が環を形成し、シクロアルキレン、アリーレン、およびヘテロアリーレンを形成していてもよい。
【0070】
結合基としては、単結合、連結基としての-CR=CR-、-N(-R)-、-O-、-S-、-C(-R)2-、-Si(-R)2-、および-Se-が好ましく、単結合、連結基としての-CR=CR-、-N(-R)-、-O-、-S-、および-C(-R)2-がより好ましく、単結合、連結基としての-CR=CR-、-N(-R)-、-O-、および-S-がさらに好ましく、単結合が最も好ましい。
【0071】
Z2およびRZ3がB環またはC環と結合する位置は、結合可能な位置であれば特に限定されないが、Z結合位置(1位)を基準としてオルト(2位)の位置に結合していることが好ましい。
【0072】
ベンゼン環であるB環またはC環に>N-RZ2のRZ2が結合した具体例を以下に示す。
【0073】
【化17】
【0074】
Zは>N-RZ2、>O、または>Sであることが好ましい。
【0075】
<環同士の結合>
式(1)において互いに単結合で直接結合している2つの環および共通の1つの原子に結合している2つの環は、それぞれ、さらに追加の単結合または連結基(これらをまとめて結合基ともいう)により結合していてもよい。具体的には、以下の構造があげられる。
・A環とB環とが結合基によりX以外でさらに結合している。(A環とB環とはX中の共通の原子に結合している。)
・LがA環に直接結合する-φ-を含むときにφとA環とが追加の結合基により結合している。
・LがYに直接結合する-φ-を含むときにφとC環とが追加の結合基により結合している。
・LがA環に直接結合する-N(-RL1)-を含むときにRL1(RL1は置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキルまたは置換もしくは無置換のシクロアルキル)とA環とが追加の結合基により結合している。
・Lが-φ-N(-RL1)-であるときのφとRL1(RL1は置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキルまたは置換もしくは無置換のシクロアルキル)とが追加の結合基により結合している。
【0076】
例えば、式(2)においてはXに結合する炭素原子に隣接する炭素原子に結合するRaおよびRbが互いに結合して単結合または連結基を形成していてもよい。また式(2)においてZに結合する炭素原子に隣接する炭素原子に結合するRbおよびRcが互いに結合して単結合または連結基を形成していてもよい。
【0077】
また、式(2-a)および式(2-af)においては、a環およびφ環が追加の結合基により結合していてもよい。式(2-af)、式(2-xf)および式(2-tf)においては、c環およびφ環が追加の結合基により結合していてもよい。式(2-fa)、式(2-fx)および式(2-ft)においてはRL1が置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキルまたは置換もしくは無置換のシクロアルキルであるとき、RL1およびφ環が追加の結合基により結合していてもよい。式(2-f)、式(2-fa)、式(2-fx)および式(2-ft)におけるa環およびφ環は追加の結合基により結合していてもよい。
【0078】
連結基としては、-CH2-CH2-、-CHR-CHR-、-CR2-CR2-、-CH=CH-、-CR=CR-、-C≡C-、-N(-R)-、-O-、-S-、-C(-R)2-、-Si(-R)2-、または-Se-があげられる。なお、前記-CHR-CHR-のR、-CR2-CR2-のR、-CR=CR-のR、-N(-R)-のR、-C(-R)2-のR、および-Si(-R)2-のRは、それぞれ独立して、水素、アリール、ヘテロアリール、アルキル、アルケニル、アルキニル、またはシクロアルキルであり、当該Rにおける少なくとも1つの水素は、アルキルまたはシクロアルキルで置換されていてもよい。また、隣接する2つのR同士が環を形成し、シクロアルキレン、アリーレン、およびヘテロアリーレンを形成していてもよい。
【0079】
結合基としては、単結合、連結基としての-CR=CR-、-N(-R)-、-O-、-S-、-C(-R)2-、-Si(-R)2-、および-Se-が好ましく、単結合、連結基としての-CR=CR-、-N(-R)-、-O-、-S-、および-C(-R)2-がより好ましく、単結合、連結基としての-CR=CR-、-N(-R)-、-O-、および-S-がさらに好ましく、単結合が最も好ましい。
【0080】
結合基により2つの環が結合する位置は、結合可能な位置であれば特に限定されないが、最も隣接する位置で結合することが好ましく、例えばNを介して結合する2つの環においては各環における「N」の結合位置(1位)を基準としてオルト(2位)の位置同士でさらに結合していることが好ましい(式(1)の構造式を参照)。
【0081】
<同一の原子に結合する2つの基が互いに結合する場合>
>C(-RZ12、>Si(-RZ32、-C(-R)2-、-Si(-R)2-などにおける同一の原子に結合する2つの基(2つのRZ1、2つのRZ3、その他の2つのR)はそれぞれ互いに結合して環を形成していてもよい。単結合または連結基(これらをまとめて結合基ともいう)により結合していればよく、連結基としては、-CH2-CH2-、-CHR-CHR-、-CR2-CR2-、-CH=CH-、-CR=CR-、-C≡C-、-N(-R)-、-O-、-S-、-C(-R)2-、-Si(-R)2-、または-Se-があげられ、例えば以下の構造があげられる。なお、前記-CHR-CHR-のR、-CR2-CR2-のR、-CR=CR-のR、-N(-R)-のR、-C(-R)2-のR、および-Si(-R)2-のRは、それぞれ独立して、水素、アルキルもしくはシクロアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルもしくはシクロアルキルで置換されていてもよいヘテロアリール、シクロアルキルで置換されていてもよいアルキル、アルキルもしくはシクロアルキルで置換されていてもよいアルケニル、アルキルもしくはシクロアルキルで置換されていてもよいアルキニル、またはアルキルもしくはシクロアルキルで置換されていてもよいシクロアルキルである。また、隣接する2つのR同士が環を形成し、シクロアルキレン、アリーレン、およびヘテロアリーレンを形成していてもよい。
【0082】
【化18】
【0083】
結合基としては、単結合、連結基としての-CR=CR-、-N(-R)-、-O-、-S-、-C(-R)2-、-Si(-R)2-、および-Se-が好ましく、単結合、連結基としての-CR=CR-、-N(-R)-、-O-、-S-、および-C(-R)2-がより好ましく、単結合、連結基としての-CR=CR-、-N(-R)-、-O-、および-S-がさらに好ましく、単結合が最も好ましい。
【0084】
結合基により2つのRが結合する位置は、結合可能な位置であれば特に限定されないが、最も隣接する位置で結合することが好ましく、例えば2つの基がフェニルである場合、フェニルにおける「C」や「Si」の結合位置(1位)を基準としてオルト(2位)の位置同士で結合することが好ましい(上記構造式を参照)。
【0085】
<環および置換基の具体的な説明>
本明細書において記載する環および置換基の詳細について以下で説明する。
【0086】
「アリール環」は、例えば炭素数6~30のアリール環であり、好ましくは、炭素数6~20のアリール環、炭素数6~16のアリール環、炭素数6~12のアリール環、または炭素数6~10のアリール環などである。
【0087】
具体的な「アリール環」は、例えば、単環系であるベンゼン環、縮合二環系であるナフタレン環、縮合三環系である、アセナフチレン環、フルオレン環、フェナレン環、もしくはフェナントレン環、アントラセン環、縮合四環系である、トリフェニレン環、ピレン環、もしくはナフタセン環、または、縮合五環系であるペリレン環もしくはペンタセン環などである。
【0088】
「ヘテロアリール環」は、例えば炭素数2~30のヘテロアリール環であり、好ましくは、炭素数2~25のヘテロアリール環、炭素数2~20のヘテロアリール環、炭素数2~15のヘテロアリール環、または炭素数2~10のヘテロアリール環などである。また、「ヘテロアリール環」は、例えば環構成原子として炭素以外に酸素、硫黄、および窒素から選ばれるヘテロ原子を1~5個含有する複素環などである。
【0089】
具体的な「ヘテロアリール環」は、例えば、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、トリアジン環、インドール環、イソインドール環、1H-インダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、1H-ベンゾトリアゾール環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キナゾリン環、キノキサリン環、フェナントロリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、プリン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環、フェノチアジン環、フェナジン環、フェナザシリン環、インドリジン環、フラン環、ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、ナフトベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、イソベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、ナフトベンゾチオフェン環、ベンゾホスホール環、ジベンゾホスホール環、ベンゾホスホールオキシド環、ジベンゾホスホールオキシド環、フラザン環、チアントレン環、インドロカルバゾール環、ベンゾインドロカルバゾール環、ジベンゾインドロカルバゾール環、イミダゾリン環、またはオキサゾリン環などである。
【0090】
本明細書において置換基群Zは、
アリール、ヘテロアリール、アルキルおよびシクロアルキルからなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよいアリール、
アリール、ヘテロアリール、アルキルおよびシクロアルキルからなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよいヘテロアリール、
アリール、ヘテロアリール、アルキルおよびシクロアルキルからなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよいジアリールアミノ(2つのアリールは互いに連結基を介して結合していてもよい)、
アリール、ヘテロアリール、アルキルおよびシクロアルキルからなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよいジヘテロアリールアミノ(2つのヘテロアリールは互いに連結基を介して結合していてもよい)、
アリール、ヘテロアリール、アルキルおよびシクロアルキルからなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよいアリールヘテロアリールアミノ(アリールとヘテロアリールとは互いに連結基を介して結合していてもよい)、
アリール、ヘテロアリール、アルキルおよびシクロアルキルからなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよいジアリールボリル(2つのアリールは単結合または連結基を介して結合していてもよい)、
アリール、ヘテロアリールおよびシクロアルキルからなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよいアルキル、
アリール、ヘテロアリール、アルキルおよびシクロアルキルからなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよいシクロアルキル、
アリール、ヘテロアリールおよびシクロアルキルからなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよいアルコキシ、
アリール、ヘテロアリール、アルキルおよびシクロアルキルからなる群より選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよいアリールオキシ、ならびに
置換シリルからなる。
置換基群Zの各基における第2置換基であるアリールは、さらにアリール、ヘテロアリール、アルキル、またはシクロアルキルで置換されていてもよい、同様に、第2置換基であるヘテロアリールはアリール、ヘテロアリール、アルキル、またはシクロアルキルで置換されていてもよい。
【0091】
本明細書において、「アリール」は、例えば炭素数6~30のアリールであり、好ましくは、炭素数6~20のアリール、炭素数6~16のアリール、炭素数6~12のアリール、または炭素数6~10のアリールなどである。
【0092】
具体的な「アリール」は、例えば、単環系であるフェニル、二環系であるビフェニリル(2-ビフェニリル、3-ビフェニリル、もしくは4-ビフェニリル)、縮合二環系であるナフチル(1-ナフチルもしくは2-ナフチル)、三環系であるテルフェニリル(m-テルフェニル-2'-イル、m-テルフェニル-4'-イル、m-テルフェニル-5'-イル、o-テルフェニル-3'-イル、o-テルフェニル-4'-イル、p-テルフェニル-2'-イル、m-テルフェニル-2-イル、m-テルフェニル-3-イル、m-テルフェニル-4-イル、o-テルフェニル-2-イル、o-テルフェニル-3-イル、o-テルフェニル-4-イル、p-テルフェニル-2-イル、p-テルフェニル-3-イル、もしくはp-テルフェニル-4-イル)、縮合三環系である、アセナフチレン-(1-、3-、4-、もしくは5-)イル、フルオレン-(1-、2-、3-、4-、もしくは9-)イル、フェナレン-(1-もしくは2-)イル、フェナントレン-(1-、2-、3-、4-、もしくは9-)イル、もしくはアントラセン-(1-、2-、もしくは9-)イル、四環系であるクアテルフェニリル(5'-フェニル-m-テルフェニル-2-イル、5'-フェニル-m-テルフェニル-3-イル、5'-フェニル-m-テルフェニル-4-イル、もしくはm-クアテルフェニル)、縮合四環系である、トリフェニレン-(1-もしくは2-)イル、ピレン-(1-、2-、もしくは4-)イル、もしくはナフタセン-(1-、2-、もしくは5-)イル、または、縮合五環系である、ペリレン-(1-、2-、もしくは3-)イル、もしくはペンタセン-(1-、2-、5-、もしくは6-)イルなどである。その他、スピロフルオレンの1価の基などがあげられる。
【0093】
なお、第2置換基としてのアリールには、当該アリールが、フェニルなどのアリール(具体例は上述した基)、メチルなどのアルキル(具体例は後述する基)、およびシクロヘキシルもしくはアダマンチルなどのシクロアルキル(具体例は後述する基)からなる群より選択される少なくとも1つの基で置換された構造も含まれる。
その一例としては、第2置換基としてのフルオレニルの9位が、フェニルなどのアリール、メチルなどのアルキル、またはシクロヘキシルもしくはアダマンチルなどのシクロアルキルで置換された基があげられる。
【0094】
「アリーレン」は、例えば炭素数6~30のアリーレンであり、好ましくは、炭素数6~20のアリーレン、炭素数6~16のアリーレン、炭素数6~12のアリーレン、または炭素数6~10のアリーレンなどである。
具体的な「アリーレン」は、例えば、上述した「アリール」(1価の基)から1つの水素を除いた2価の基があげられる。
【0095】
「ヘテロアリール」は、例えば炭素数2~30のヘテロアリールであり、好ましくは、炭素数2~25のヘテロアリール、炭素数2~20のヘテロアリール、炭素数2~15のヘテロアリール、または炭素数2~10のヘテロアリールなどである。「ヘテロアリール」は、環構成原子として炭素以外に酸素、硫黄、および窒素等から選ばれるヘテロ原子を、1個以上、好ましくは1~5個含有する。
【0096】
具体的な「ヘテロアリール」としては、例えば、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピラゾリル、ピリジル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピラジニル、トリアジニル、インドリル、イソインドリル、1H-インダゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、1H-ベンゾトリアゾリル、キノリニル、イソキノリニル、シンノリニル、キナゾリニル、キノキサリニル、フェナントロリニル、フタラジニル、ナフチリジニル、プリニル、プテリジニル、カルバゾリル、アクリジニル、フェノキサチイニル、フェノキサジニル、フェノチアジニル、フェナジニル、フェナザシリニル、インドリジニル、フラニル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、ジベンゾフラニル、ナフトベンゾフラニル、チエニル、ベンゾチエニル、イソベンゾチエニル、ジベンゾチエニル、ナフトベンゾチエニル、ベンゾホスホリル、ジベンゾホスホリル、ベンゾホスホールオキシド環の1価の基、ジベンゾホスホールオキシド環の1価の基、フラザニル、チアントレニル、インドロカルバゾリル、ベンゾインドロカルバゾリル、ジベンゾインドロカルバゾリル、イミダゾリニル、またはオキサゾリニルなどである。その他、スピロ[フルオレン-9、9’-キサンテン]の1価の基、スピロビ[シラフルオレン]の1価の基、ベンゾセレフェンの1価の基があげられる。
【0097】
なお、第2置換基としてのヘテロアリールには、当該ヘテロアリールが、フェニルなどのアリール(具体例は上述した基)、メチルなどのアルキル(具体例は後述する基)およびシクロヘキシルもしくはアダマンチルなどのシクロアルキル(具体例は後述する基)からなる群より選択される少なくとも1つの基で置換された構造も含まれる。
その一例としては、第2置換基としてのカルバゾリルの9位が、フェニルなどのアリール、メチルなどのアルキル、またはシクロヘキシルもしくはアダマンチルなどのシクロアルキルで置換された基があげられる。また、ピリジル、ピリミジニル、トリアジニル、カルバゾリルなどの含窒素ヘテロアリールがさらにフェニルまたはビフェニリルなどで置換された基も第2置換基としてのヘテロアリールに含まれる。
【0098】
「ヘテロアリーレン」は、例えば炭素数2~30のヘテロアリーレンであり、好ましくは、炭素数2~25のヘテロアリーレン、炭素数2~20のヘテロアリーレン、炭素数2~15のヘテロアリーレン、または炭素数2~10のヘテロアリーレンなどである。また、「ヘテロアリーレン」は、例えば環構成原子として炭素以外に酸素、硫黄、および窒素から選ばれるヘテロ原子を1~5個含有する複素環などの2価の基である。
具体的な「ヘテロアリーレン」は、例えば、上述した「ヘテロアリール」(1価の基)から1つの水素を除いた2価の基があげられる。
【0099】
「ジアリールアミノ」は、2つのアリールが置換したアミノであり、このアリールの詳細については上述した「アリール」の説明を引用できる。
「ジヘテロアリールアミノ」は、2つのヘテロアリールが置換したアミノであり、このヘテロアリールの詳細については上述した「ヘテロアリール」の説明を引用できる。
「アリールヘテロアリールアミノ」は、アリールおよびヘテロアリールが置換したアミノであり、このアリールおよびヘテロアリールの詳細については上述した「アリール」および「ヘテロアリール」の説明を引用できる。
【0100】
第1の置換基としてのジアリールアミノにおける2つのアリールは互いに連結基を介して結合していてもよく、第1の置換基としてのジヘテロアリールアミノにおける2つのヘテロアリールは互いに連結基を介して結合していてもよく、第1の置換基としてのアリールヘテロアリールアミノのアリールとヘテロアリールは互いに連結基を介して結合していてもよい。ここで、「連結基を介して結合」という記載は、下記に示すように例えばジフェニルアミノの2つのフェニルが連結基で結合を形成することを表す。またこの説明はアリールやヘテロアリールで形成された、ジヘテロアリールアミノおよびアリールヘテロアリールアミノについても適応される。
【0101】
【化19】
【0102】
連結基としては具体的には、>O、>N-RX、>C(-RX2、>Si(-RX2、>S、>CO、>CS、>SO、>SO2、および>Seがあげられる。RXはそれぞれ独立してアルキル、シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、これらはアルキル、シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールで置換されていてもよい。また>C(-RX2、>Si(-RX2、におけるRXは、単結合または連結基XYを介して結合して環を形成してもよい。XYとしては>O、>N-RY、>C(-RY2、>Si(-RY2、>S、>CO、>CS、>SO、>SO2、および>Seがあげられ、RYはそれぞれ独立してアルキル、シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールであり、これらはアルキル、シクロアルキル、アリールまたはヘテロアリールで置換されていてもよい。ただし、XYが>C(-RY2および>Si(-RY2の場合には、2つのRYは結合してさらに環を形成することはない。さらに連結基としては、アルケニレンもあげられる。該アルケニレンの任意の水素はそれぞれ独立してRXで置換されていてもよく、RXはそれぞれ独立してアルキル、シクロアルキル、置換シリル、アリールおよびヘテロアリールであり、これらはアルキル、シクロアルキル、置換シリル、アリールで置換されていてもよい。
【0103】
なお、本明細書で単に「ジアリールアミノ」、「ジヘテロアリールアミノ」または「アリールヘテロアリールアミノ」と記載されている場合は、特に断りがない限りは、それぞれ「ジアリールアミノの2つのアリールは互いに連結基を介して結合していてもよい」、「前記ジヘテロアリールアミノの2つのヘテロアリールは互いに連結基を介して結合していてもよい」および「前記アリールヘテロアリールアミノのアリールとヘテロアリールは互いに連結基を介して結合していてもよい」という説明が加わっているものであるとする。
【0104】
「ジアリールボリル」は、2つのアリールが置換したボリルであり、このアリールの詳細については上述した「アリール」の説明を引用できる。また、この2つのアリールは、単結合または連結基(例えば、-CH=CH-、-CR=CR-、-C≡C-、>N-R、>O、>S、>C(-R)2、>Si(-R)2、または>Se)を介して結合していてもよい。ここで、前記-CR=CR-のR、>N-RのR、>C(-R)2のR、および>Si(-R)のRは、アリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アルコキシ、またはアリールオキシであり、当該Rにおける少なくとも1つの水素は、さらにアリール、ヘテロアリール、アルキル、アルケニル、アルキニル、またはシクロアルキルで置換されていてもよい。また、隣接する2つのR同士が環を形成し、シクロアルキレン、アリーレン、およびヘテロアリーレンを形成していてもよい。ここで列挙した置換基の詳細については、上述した「アリール」、「アリーレン」、「ヘテロアリール」、「ヘテロアリーレン」、および「ジアリールアミノ」の説明、ならびに、後述する「アルキル」、「アルケニル」、「アルキニル」、「シクロアルキル」、「シクロアルキレン」、「アルコキシ」、および「アリールオキシ」の説明を引用できる。また、本明細書で単に「ジアリールボリル」と記載されている場合は、特に断りがない限りは、「ジアリールボリルの2つのアリールは互いに単結合または連結基を介して結合していてもよい」という説明が加わっているものであるとする。
【0105】
「アルキル」は、直鎖および分岐鎖のいずれでもよく、例えば炭素数1~24の直鎖アルキルまたは炭素数3~24の分岐鎖アルキルであり、好ましくは、炭素数1~18のアルキル(炭素数3~18の分岐鎖アルキル)、炭素数1~12のアルキル(炭素数3~12の分岐鎖アルキル)、炭素数1~6のアルキル(炭素数3~6の分岐鎖アルキル)、炭素数1~5のアルキル(炭素数3~5の分岐鎖アルキル)、炭素数1~4のアルキル(炭素数3~4の分岐鎖アルキル)などである。
【0106】
具体的な「アルキル」は、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、1-エチル-1-メチルプロピル、1,1-ジエチルプロピル、1,1,2-トリメチルプロピル、1,1,2,2-テトラメチルプロピル、1-エチル-1,2,2-トリメチルプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、2-エチルブチル、1,1-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、1,1-ジエチルブチル、1-エチル-1-メチルブチル、1-プロピル-1-メチルブチル、1,1,3-トリメチルブチル、1-エチル-1,3-ジメチルブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、t-ペンチル(t-アミル)、1-メチルペンチル、2-プロピルペンチル、1,1-ジメチルペンチル、1-エチル-1-メチルペンチル、1-プロピル-1-メチルペンチル、1-ブチル-1-メチルペンチル、1,1,4-トリメチルペンチル、n-ヘキシル、1-メチルヘキシル、2-エチルヘキシル、1,1-ジメチルヘキシル、1-エチル-1-メチルヘキシル、1,1,5-トリメチルヘキシル、3,5,5-トリメチルヘキシル、n-ヘプチル、1-メチルヘプチル、1-ヘキシルヘプチル、1,1-ジメチルヘプチル、2,2-ジメチルヘプチル、2,6-ジメチル-4-ヘプチル、n-オクチル、t-オクチル(1,1,3,3-テトラメチルブチル)、1,1-ジメチルオクチル、n-ノニル、n-デシル、1-メチルデシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、またはn-エイコシルなどである。
【0107】
「アルケニル」については、上述した「アルキル」の説明を参考にすることができ、「アルキル」の構造中のC-C単結合をC=C二重結合に置換した基であり、1つだけでなく2つ以上の単結合が二重結合に置換された基(アルカジエン-イルやアルカントリエン-イルとも呼ばれる)も含める。
【0108】
「アルキニル」については、上述した「アルキル」の説明を参考にすることができ、「アルキル」の構造中のC-C単結合をC≡C三重結合に置換した基であり、1つだけでなく2つ以上の単結合が三重結合に置換された基(アルカジイン-イルやアルカントリイン-イルとも呼ばれる)も含める。
【0109】
「シクロアルキル」は、例えば炭素数3~24のシクロアルキルであり、好ましくは、炭素数3~20のシクロアルキル、炭素数3~16のシクロアルキル、炭素数3~14のシクロアルキル、炭素数3~12のシクロアルキル、炭素数5~10のシクロアルキル、炭素数5~8のシクロアルキル、炭素数5~6のシクロアルキル、または炭素数5のシクロアルキルなどである。
【0110】
具体的な「シクロアルキル」は、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル、もしくはこれらの炭素数1~5や炭素数1~4のアルキル(特にメチル)置換体、ノルボルネニル、ビシクロ[1.1.0]ブチル、ビシクロ[1.1.1]ペンチル、ビシクロ[2.1.0]ペンチル、ビシクロ[2.1.1]ヘキシル、ビシクロ[3.1.0]ヘキシル、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル、ビシクロ[2.2.2]オクチル、アダマンチル、ジアマンチル、デカヒドロナフタレニル、またはデカヒドロアズレニルなどである。
【0111】
「シクロアルキレン」は、例えば炭素数3~24のシクロアルキレンであり、好ましくは、炭素数3~20のシクロアルキレン、炭素数3~16のシクロアルキレン、炭素数3~14のシクロアルキレン、炭素数3~12のシクロアルキレン、炭素数5~10のシクロアルキレン、炭素数5~8のシクロアルキレン、炭素数5~6のシクロアルキレン、または炭素数5のシクロアルキレンなどである。
具体的な「シクロアルキレン」は、例えば、上述した「シクロアルキル」(1価の基)から1つの水素を除いた2価の基があげられる。
【0112】
「アルコキシ」は、「Alk-O-(Alkはアルキル)」で表される基であり、このアルキルの詳細については上述した「アルキル」の説明を引用できる。
【0113】
「アリールオキシ」は、「Ar-O-(Arはアリール)」で表される基であり、このアリールの詳細については上述した「アリール」の説明を引用できる。
【0114】
「置換シリル」は、例えば、アリール、アルキル、およびシクロアルキルの少なくとも1つで置換されたシリルであり、好ましくは、トリアリールシリル、トリアルキルシリル、トリシクロアルキルシリル、ジアルキルシクロアルキルシリル、またはアルキルジシクロアルキルシリルである。
【0115】
「トリアリールシリル」は、3つのアリールで置換されたシリル基であり、このアリールの詳細については上述した「アリール」の説明を引用できる。
具体的な「トリアリールシリル」は、例えば、トリフェニルシリル、ジフェニルモノナフチルシリル、モノフェニルジナフチルシリル、またはトリナフチルシリルなどである。
【0116】
「トリアルキルシリル」は、3つのアルキルで置換されたシリル基であり、このアルキルの詳細については上述した「アルキル」の説明を引用できる。
具体的な「トリアルキルシリル」は、例えば、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリn-プロピルシリル、トリイソプロピルシリル、トリn-ブチルシリル、トリイソブチルシリル、トリs-ブチルシリル、トリt-ブチルシリル、エチルジメチルシリル、n-プロピルジメチルシリル、イソプロピルジメチルシリル、n-ブチルジメチルシリル、イソブチルジメチルシリル、s-ブチルジメチルシリル、t-ブチルジメチルシリル、メチルジエチルシリル、n-プロピルジエチルシリル、イソプロピルジエチルシリル、n-ブチルジエチルシリル、s-ブチルジエチルシリル、t-ブチルジエチルシリル、メチルジn-プロピルシリル、エチルジn-プロピルシリル、n-ブチルジn-プロピルシリル、s-ブチルジn-プロピルシリル、t-ブチルジn-プロピルシリル、メチルジイソプロピルシリル、エチルジイソプロピルシリル、n-ブチルジイソプロピルシリル、s-ブチルジイソプロピルシリル、またはt-ブチルジイソプロピルシリルなどである。
【0117】
「トリシクロアルキルシリル」は、3つのシクロアルキルで置換されたシリル基であり、このシクロアルキルの詳細については上述した「シクロアルキル」の説明を引用できる。
具体的な「トリシクロアルキルシリル」は、例えば、トリシクロペンチルシリルまたはトリシクロヘキシルシリルなどである。
【0118】
「ジアルキルシクロアルキルシリル」は、2つのアルキルおよび1つのシクロアルキルで置換されたシリル基であり、このアルキルおよびシクロアルキルの詳細については上述した「アルキル」および「シクロアルキル」の説明を引用できる。
【0119】
「アルキルジシクロアルキルシリル」は、1つのアルキルおよび2つのシクロアルキルで置換されたシリル基であり、このアルキルおよびシクロアルキルの詳細については上述した「アルキル」および「シクロアルキル」の説明を引用できる。
【0120】
式(1)で表される構造単位の1つまたは2つ以上からなる構造を有する多環芳香族化合物の用途に応じて上記構造単位が有する置換基を選択するとよい。好ましくは、メチル、t-ブチル、アダマンチル、フェニル、o-トリル、ナフチル、ビフェニリル、ターフェニル、ジフェニルアミノ、カルバゾリル、ジベンゾフラニル、ジベンゾチオフェニル、3,5-ジ-カルバゾリルフェニル、カルバゾリル置換フェニル、ピリジル、フェニル置換ピリジル、ビピリジル、ピペリジニル、フェニル置換ピペリジニル、ピラジニル、フェニル置換ピラジニル、トリアジニル、3,5-ジフェニル-トリアジニル、ビフェニル置換トリアジニル、カルバゾリル置換トリアジニル、シアノである。式(1)で表される構造単位の1つまたは2つ以上からなる構造を有する多環芳香族化合物を正孔輸送層または正孔輸送性ホストとして用いるときは、置換基はジフェニルアミノ、カルバゾリル、ジベンゾフラニル、ジベンゾチオフェニル、3,5-ジ-カルバゾリルフェニル、カルバゾリル置換フェニルがより好ましい。電子輸送層または電子輸送性ホストとして用いるときは、置換基はピリジル、フェニル置換ピリジル、ビピリジル、ピペリジニル、フェニル置換ピペリジニル、ピラジニル、フェニル置換ピラジニル、トリアジニル、3,5-ジフェニル-トリアジニル、ビフェニル置換トリアジニル、カルバゾリル置換トリアジニル、シアノが好ましい。ホスト材料として用いるときは、置換基はフェニル、ナフチル、ビフェニリル、ターフェニル、ジフェニルアミノ、カルバゾリル、ジベンゾフラニル、ジベンゾチオフェニル、3,5-ジ-カルバゾリルフェニル、カルバゾリル置換フェニル、ピリジル、フェニル置換ピリジル、ビピリジル、ピペリジニル、フェニル置換ピペリジニル、ピラジニル、フェニル置換ピラジニル、トリアジニル、3,5-ジフェニル-トリアジニル、ビフェニル置換トリアジニル、カルバゾリル置換トリアジニルが好ましい。
【0121】
LにおけるRL1、RL2およびRL3は、それぞれ独立して、水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキルまたは置換もしくは無置換のシクロアルキルである。また、ZにおけるRZ1、RZ2およびRZ3は、それぞれ独立して、水素、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリール、置換もしくは無置換のアルキルまたは置換もしくは無置換のシクロアルキルである。RL1、RL2、RL3、RZ1、RZ2、RZ3において、「置換もしくは無置換の」というときの置換基としては、アリール(アリール、ヘテロアリールで置換されていてもよい)、ヘテロアリール(アリール、ヘテロアリールで置換されていてもよい)、アルキル、シクロアルキル、または以下のいずれかの式で表される置換基などがあげられる。
【0122】
【化20】
【0123】
<構造単位の1つまたは2つ以上からなる構造>
本発明の多環芳香族化合物は式(1)で表される構造単位の1つまたは2つ以上からなる構造を有する多環芳香族化合物である。上記構造単位の1つからなる構造を有する多環芳香族化合物は、式(1)で表される構造単位として上記で説明した式で表される多環芳香族化合物である。式(1)で表される構造単位の2つ以上からなる構造を有する多環芳香族化合物としては、式(1)で表される構造単位として上記で説明した式で表される多環芳香族化合物の多量体に該当する化合物である。多量体は、2~6量体が好ましく、2~3量体がより好ましく、2量体が特に好ましい。多量体は、1つの化合物の中に上記単位構造を複数有する形態であればよく、上記構造単位に含まれる任意の環(A環、B環またはC環)を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態であってもよく、また、上記単位構造に含まれる任意の環(A環、B環またはC環)同士が縮合するようにして結合した形態であればよい。また、上記単位構造が単結合、炭素数1~3のアルキレン、フェニレン、ナフチレンなどの連結基で複数結合した形態であってもよい。これらのうち、環を共有するようにして結合した形態が好ましい。
【0124】
<重水素、シアノ、またはハロゲンによる置換の説明>
本発明の多環芳香族化合物における少なくとも1つの水素は、重水素、シアノ、またはハロゲンで置き換えられていてもよい。ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素であり、フッ素、塩素、または臭素が好ましく、フッ素または塩素がより好ましい。
【0125】
<本発明の多環芳香族化合物の具体例>
本発明の多環芳香族化合物具体例として、下記構造式のいずれかで表される化合物があげられる。
【化21】
【0126】
【化22】
【0127】
【化23】
【0128】
【化24】
【0129】
【化25】
【0130】
【化26】
【0131】
【化27】
【0132】
【化28】
【0133】
上記構造式中のベンゼン環は、それぞれ独立して、炭素数6~16のアリール、炭素数2~20のヘテロアリール、ジアリールアミノ(ただしアリールは炭素数6~10のアリール)、ジアリールボリル(ただしアリールは炭素数6~10のアリールであり、2つのアリールは単結合または連結基により結合していてもよい)、炭素数1~12のアルキル、または炭素数3~16のシクロアルキルで置換されていてもよく、当該置換基は、炭素数1~5のアルキルおよび炭素数5~10のシクロアルキルからなる群より選択される少なくとも1つの置換基で置換されていてもよく、
上記構造式で表される化合物における少なくとも1つの水素は、重水素、シアノ、またはハロゲンで置き換えられていてもよい。
【0134】
多環芳香族化合物のさらに具体的な例としては、以下の構造式で表される化合物があげられる。
【0135】
【化29】
【0136】
【化30】
【0137】
【化31】
【0138】
【化32】
【0139】
【化33】
【0140】
【化34】
【0141】
【化35】
【0142】
【化36】
【0143】
【化37】
【0144】
【化38】
【0145】
【化39】
【0146】
【化40】
【0147】
2.多環芳香族化合物の製造方法
本発明の多環芳香族化合物は、基本的には、まずA環、B環およびC環を結合基(X、Y、ZまたはLを含む基)で結合させることで中間体を製造し(第1反応)、その後に、環化反応で最終生成物を製造することができる(第2反応)。
【0148】
第1反応では、例えばエーテル化反応であれば、求核置換反応、ウルマン反応といった一般的反応が利用でき、アミノ化反応で有ればブッフバルト-ハートウィッグ反応といった一般的反応が利用できる。また、第2反応では、Cadogan環化反応、タンデムヘテロフリーデルクラフツ反応等が利用できる。
【0149】
第2反応は、下記スキーム(1)~(4)に示すような4ケースの環化反応がある。ただし、下記スキーム(1)~(4)において、環化反応に利用される、A環、B環、C環、L、X、YおよびZに結合した脱離基などの置換基は省略されている。
【0150】
【化41】
【0151】
【化42】
【0152】
以下、上記ケースに対して、A環、B環およびC環がベンゼン環である化合物(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)および化合物(j)を例として環化反応の製造方法を説明する。
【0153】
ケース1の例として、スキーム(5)、スキーム(6)およびスキーム(7)とに記述の方法がある。
【化43】
【0154】
スキーム(5)においては、PPh3またはP(OEt)3を用い、ニトロフェニルを有する中間体を還元的に環化し、Cadogan環化反応させることで、7員環を有する中間体を合成することができる。その後、銅触媒もしくはパラジウム触媒などを用い、得られた7員環を有する中間体がハロゲン化アリール化合物とクロスカップリング反応させ、目的物を得ることができる。
【0155】
【化44】
【0156】
スキーム(6)においては、銅触媒もしくはパラジウム触媒などを用い、分子内クロスカップリング反応させ、目的物を得ることができる。
【0157】
上記スキーム(5)、(6)においては、銅触媒を用いる場合には、銅粉、酸化銅またはハロゲン化銅などが用いられる。使用される塩基は炭酸セシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸三カリウム、水素化ナトリウムなどであり、反応促進剤はクラウンエーテル(例えば、18-クラウン-6-エーテル)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル(PEGDM)などがあげられる。そして、反応溶媒にはN,N-ジメチルホルムアミド、ニトロベンゼン、ジメチルスルホキシド、ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、キノリンなどが用いられる。反応温度は160~250℃であるが、基質の反応性が低い場合にはオートクレーブなどを用いてより高温の反応を行ってもよい。
【0158】
パラジウム触媒を用いる場合には、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウムクロロホルム錯体(0)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリトジクロロメタン錯体(1:1)などが用いられる。使用される塩基は炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、水素化ナトリウム、アルコキシカリウム(例えば、メトキシカリウム、エトキシカリウム、ノルマルプロポキシカリウム、イソプロポキシカリウム、n-ブトキシカリウムおよびtert-ブトキシカリウムなど)アルコキシナトリウム(例えば、メトキシナトリウム、エトキシナトリウム、ノルマルプロポキシナトリウム、イソプロポキシナトリウム、n-ブトキシナトリウムおよびtert-ブトキシナトリウムなど)があげられる。反応促進剤は2,2’-(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル、1,1’-(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、ジシクロヘキシルホスフィノビフェニル、ジ-tert-ブチルホスフィノビフェニル、トリ(tert-ブチル)ホスフィン、1-(N,N-ジメチルアミノメチル)-2-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)フェロセン、1-(N,N-ジブチルアミノメチル)-2-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)フェロセン、1-(メトキシメチル)-2-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)フェロセン、1,1’-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノ)フェロセン、2,2’-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル、2-メトキシ-2’-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)-1,1’-ビナフチルなどが使用される。そして、反応溶媒にはベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素溶媒が用いられる。溶媒は単独で用いてもよく、混合溶媒として用いてもよい。反応温度は通常50~200℃の範囲で実施されるが、より好ましくは80~140℃である。
【0159】
【化45】
【0160】
スキーム(7)においては、塩基を用い、無触媒もしくは銅触媒の存在下で、分子内のカップリング反応させることで、目的物を得られることができる。銅触媒を用いる場合には、銅粉、酸化銅またはハロゲン化銅などが用いられる。使用される塩基は炭酸セシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸三カリウム、水素化ナトリウムなどである。そして、反応溶媒にはN,N-ジメチルホルムアミド、ニトロベンゼン、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、キノリンなどが用いられる。反応温度は160~250℃であるが、基質の反応性が低い場合にはオートクレーブなどを用いてより高温の反応を行ってもよい。
【0161】
ケース2の例として、スキーム(8)、スキーム(9)、スキーム(10)およびスキーム(11)に記述の方法がある。
【化46】
【0162】
【化47】
【0163】
上記スキーム(8)およびスキーム(9)においては、触媒を用いる場合には、スルホン酸誘導体、ジアザビシクロ誘導体、スルホン酸基を持つ固体酸などが用いられる。
【0164】
スルホン酸誘導体としては、例えば、スルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸などがあげられる。
【0165】
ジアザビシクロ誘導体としては、例えば、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロノネン(DBN)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)などがあげられる。
【0166】
具体的なスルホン酸基を持つ固体酸としては、シグマアルドリッチジャパン合同会社製のポリスチレン系スルホン酸イオン交換樹脂、例えば、AMBERLYST 15(H)、AMBERLYST 16(H)、AMBERLYST 36(H)、AMBERLITE IR120(H)、AMBERJET 1200(H)、DOWEX 15W×2、DOWEX 15W×4、DOWEX 15W×8など、テイカ株式会社製のシリカゲル系スルホン酸固定酸触媒、例えば、テイカキュア-6、テイカキュア-10、テイカキュア-15などがあげられる。
【0167】
反応溶媒にはトルエン、キシレン、o-キシレン、p-キシレン、m-キシレン、1,2,3-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼンなどが用いられる。溶媒は単独で用いてもよく、混合溶媒として用いてもよい。反応温度は通常100~200℃の範囲で実施される。本反応が脱水反応であるため、Dean-Stark trapを取り付けた装置を使用するのは望ましい。
【0168】
【化48】
【0169】
【化49】
【0170】
上記スキーム(10)およびスキーム(11)においては、塩基としては、例えば、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチルトルイジン、2,6-ルチジンなどがあげられる。
【0171】
反応溶媒にはo-ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、キシレン、o-キシレン、p-キシレン、m-キシレン、1,2,3-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼンなどが用いられる。溶媒は単独で用いてもよく、混合溶媒として用いてもよい。反応温度は通常120~220℃の範囲で実施される。
【0172】
【化50】
【0173】
【化51】
【0174】
上記スキーム(12)およびスキーム(13)においては、塩基としては、例えば、ピリジン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチルトルイジン、2,6-ルチジンなどがあげられる。
【0175】
反応溶媒には、トルエン、キシレン、o-キシレン、p-キシレン、m-キシレン、1,2,3-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼンなどが用いられる。溶媒は単独で用いてもよく、混合溶媒として用いてもよい。反応温度は通常0~180℃の範囲で実施される。
【0176】
ケース3の例として、スキーム(14)およびスキーム(15)に記述の方法がある。
【0177】
【化52】
【0178】
【化53】
【0179】
上記スキーム(14)およびスキーム(15)においては、銅触媒を用いる場合には、銅粉、酸化銅またはハロゲン化銅などが用いられる。使用される塩基は炭酸セシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸三カリウム、水素化ナトリウムなどであり、反応促進剤はクラウンエーテル(例えば、18-クラウン-6-エーテル)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル(PEGDM)などがあげられる。そして、反応溶媒にはN,N-ジメチルホルムアミド、ニトロベンゼン、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、キノリンなどが用いられる。反応温度は160~250℃であるが、基質の反応性が低い場合にはオートクレーブなどを用いてより高温の反応を行ってもよい。
【0180】
パラジウム触媒を用いる場合には、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウムクロロホルム錯体(0)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリトジクロロメタン錯体(1:1)などが用いられる。使用される塩基は炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、水素化ナトリウム、アルコキシカリウム(例えば、メトキシカリウム、エトキシカリウム、ノルマルプロポキシカリウム、イソプロポキシカリウム、n-ブトキシカリウムおよびtert-ブトキシカリウムなど)アルコキシナトリウム(例えば、メトキシナトリウム、エトキシナトリウム、ノルマルプロポキシナトリウム、イソプロポキシナトリウム、n-ブトキシナトリウムおよびtert-ブトキシナトリウムなど)があげられる。反応促進剤は2,2’-(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル、1,1’-(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、ジシクロヘキシルホスフィノビフェニル、ジ-tert-ブチルホスフィノビフェニル、トリ(tert-ブチル)ホスフィン、1-(N,N-ジメチルアミノメチル)-2-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)フェロセン、1-(N,N-ジブチルアミノメチル)-2-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)フェロセン、1-(メトキシメチル)-2-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)フェロセン、1,1’-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノ)フェロセン、2,2’-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル、2-メトキシ-2’-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)-1,1’-ビナフチルなどが使用される。そして、反応溶媒にはベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素溶媒が用いられる。溶媒は単独で用いてもよく、混合溶媒として用いてもよい。反応温度は通常50~200℃の範囲で実施されるが、より好ましくは80~140℃である。
【0181】
ケース4の例として、スキーム(16)およびスキーム(17)に記述の方法がある。
【0182】
【化54】
【0183】
スキーム(16)では、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウムまたはt-ブチルリチウムなどの脱プロトン化剤により脱プロトンした後、三塩化ホウ素もしくは三臭化ホウ素などを加え、リチウム-ホウ素の金属交換を行った後、AlCl3などのルイス酸と2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(TMP)などのブレンステッド塩基を加えることで、Friedel-Crafts型反応させ、目的物を得ることができる。
【0184】
【化55】
【0185】
スキーム(17)では、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウムまたはt-ブチルリチウムなどの脱プロトン化剤により脱プロトンした後、リン導入剤、硫黄の順に添加し、最後にAlCl3などのルイス酸およびN,N-ジイソプロピルエチルアミンなどのブレンステッド塩基を加えることで、Friedel-Crafts型反応させ、リンスルフィドである化合物を得ることができる。また、得られたリンスルフィド化合物をm-クロロ過安息香酸(m-CPBA)で処理することでリンオキサイドである化合物を得ることができる。更に、このリンオキサイド化合物をトリエチルホスフィン(PEt3)で処理することで環状ホスフィンである化合物を得ることができる。
【0186】
スキーム(16)およびスキーム(17)においては、脱プロトン化剤としては、n-BuLiの他に、MeLi、s-BuLi、t-BuLi、PhLiなどのアルキルリチウム、MeMgBr、EtMgBr、n-BuMgBrなどのグリニャール試薬、またはNaH、KHなどのアルカリ金属水素化物などが用いられる。
【0187】
ルイス酸としては、AlCl3、AlBr3、BF3・OEt2、BCl3、BBr3、GaCl3、GaBr3、InCl3、InBr3、In(OTf)3、SnCl4、SnBr4、AgOTf、Sc(OTf)3、ZnCl2、ZnBr2、Zn(OTf)2、MgCl2、MgBr2、Mg(OTf)2などが用いられる。
【0188】
ブレンステッド塩基としては、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン、2,4,6-コリジン、2,6-ルチジン、トリエチルアミン、トリイソブチルアミンなどが用いられる。
【0189】
溶媒としては、無水ジエチルエーテル、無水THF、無水ジブチルエーテルなどの無水エーテル系溶媒か、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素系溶媒か、クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼンなどの芳香族ハロゲン化物系溶媒が用いられる。
【0190】
スキーム(17)において、リン導入剤としては、PF3、PCl3、PBr3、PI3などのハロゲン化物、P(OMe)3、P(OEt)3、P(O-nPr)3、P(O-iPr)3、P(O-nBu)3、P(O-iBu)3、P(O-secBu)3、P(O-t-Bu)3などのアルコキシ誘導体、P(OPh)3、P(O-ナフチル)3などのアリールオキシ誘導体、P(OAc)3、P(O-トリフルオロアセチル)3、P(O-プロピオニル)3、P(O-ブチリル)3、P(O-ベンゾイル)3などのアシルオキシ誘導体、PCl(NMe22、PCl(NEt22、PCl(NPr22、PCl(NBu22、PBr(NMe22、PBr(NEt22、PBr(NPr22、PBr(NBu22などのハロアミノ誘導体があげられる。
【0191】
上述のスキーム(5)~(17)が本発明の多環芳香族化合物の代表化合物の製造方法であり、その他の化合物も、この類似方法で合成することができる。また、本発明の多環芳香族化合物には、少なくとも一部の水素が重水素、シアノ、またはハロゲンで置換されている化合物も含まれるが、このような化合物などは所望の位置が重水素化、シアノ化、フッ素化または塩素化などのハロゲン化された原料を用いることで、上記と同様に製造することができる。
【0192】
3.有機デバイス
本発明に係る多環芳香族化合物は、有機デバイス用材料として用いることができる。有機デバイスとしては、例えば、有機電界発光素子、有機電界効果トランジスタまたは有機薄膜太陽電池などがあげられる。
【0193】
3-1.有機電界発光素子
以下に、本実施形態に係る有機EL素子について図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る有機EL素子を示す概略断面図である。
【0194】
<有機電界発光素子の構造>
図1に示された有機EL素子100は、基板101と、基板101上に設けられた陽極102と、陽極102の上に設けられた正孔注入層103と、正孔注入層103の上に設けられた正孔輸送層104と、正孔輸送層104の上に設けられた発光層105と、発光層105の上に設けられた電子輸送層106と、電子輸送層106の上に設けられた電子注入層107と、電子注入層107の上に設けられた陰極108とを有する。
【0195】
なお、有機EL素子100は、作製順序を逆にして、例えば、基板101と、基板101上に設けられた陰極108と、陰極108の上に設けられた電子注入層107と、電子注入層107の上に設けられた電子輸送層106と、電子輸送層106の上に設けられた発光層105と、発光層105の上に設けられた正孔輸送層104と、正孔輸送層104の上に設けられた正孔注入層103と、正孔注入層103の上に設けられた陽極102とを有する構成としてもよい。
【0196】
上記各層すべてがなくてはならないわけではなく、最小構成単位を陽極102と発光層105と陰極108とからなる構成として、正孔注入層103、正孔輸送層104、電子輸送層106、電子注入層107は任意に設けられる層である。また、上記各層は、それぞれ単一層からなってもよいし、複数層からなってもよい。
【0197】
有機EL素子を構成する層の態様としては、上述する「基板/陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極」の構成態様の他に、「基板/陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極」、「基板/陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極」、「基板/陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極」、「基板/陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極」、「基板/陽極/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極」、「基板/陽極/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極」、「基板/陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極」、「基板/陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極」、「基板/陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/陰極」、「基板/陽極/発光層/電子輸送層/陰極」、「基板/陽極/発光層/電子注入層/陰極」の構成態様であってもよい。
【0198】
有機EL素子はさらに電子阻止層(電子ブロッキング層)および正孔阻止層(正孔ブロッキング層)から選択されるいずれかまたは双方を有していてもよい。電子阻止層は発光層より浅いLUMOおよび発光層または正孔輸送層と近いHOMOとを有し、発光層と正孔輸送層の間に配置される。電子が発光層内に留まり正孔輸送層へ漏れ出ないために、正孔輸送層の劣化による短寿命化と再結合効率低下による効率の低下を防ぐことができる。正孔阻止層は発光層より深いHOMOおよび発光層または正孔輸送層と近いLUMOとを有し、発光層と電子輸送層の間に配置される。正孔が発光層内に留まり電子輸送層へ漏れ出ないために、電子輸送層の劣化による短寿命化と再結合効率低下による効率の低下を防ぐことができる。正孔注入・輸送層が電子阻止層を兼ねていてもよい。電子注入・輸送層が正孔阻止層を兼ねていてもよい。
【0199】
有機EL素子はさらに高T1層を有していてもよい。高T1層は、発光層に用いられるホスト化合物、アシスティングドーパント化合物またはエミッティングドーパント化合物より高いT1を有し、発光層と正孔輸送層の間および/または発光層と電子阻止層の間に配置される。T1エネルギーの値は素子の発光機構により異なるが、ホストに用いられる化合物より高いT1を有する。発光層の周囲に高T1層を有することで、三重項エネルギーを閉じ込め、通常蛍光分子では発光につながらない三重項エネルギーを一重項エネルギーへと変換し、高い効率を得ることができる。正孔注入・輸送層または電子阻止層が高T1層を兼ねていてもよい。電子注入・輸送層または正孔阻止層が高T1層を兼ねていてもよい。
【0200】
本発明の多環芳香族化合物は、有機電界発光素子用材料として用いることが好ましい。一般に、ドナー構造を有する化合物は発光層における正孔輸送性ホスト材料および正孔輸送層に使用することができ、アクセプター構造を有する化合物は電子輸送層性ホスト材料および電子輸送層に使用することができ、ドナー構造およびアクセプター構造を共に有する化合物は正孔輸送層、発光層におけるホストおよび電子輸送層のいずれにも使用することができる。ドナー構造およびアクセプター構造は、例えば、Advanced Functional Materials 2020, 2008332などを参考にすることができる。より具体的には、ドナー構造は、トリアリールアミン構造およびカルバゾール構造があげられ、アクセプター構造は、トリアジン構造、ピリミジン構造およびピリジン構造があげられる。本発明に係る多環芳香族化合物は有している部分構造に応じて、発光層におけるホスト材料、正孔輸送層材料、電子輸送層材料等として用いることができる。
【0201】
<有機電界発光素子における基板>
基板101は、有機EL素子100の支持体であり、通常、石英、ガラス、金属、プラスチックなどが用いられる。基板101は、目的に応じて板状、フィルム状、またはシート状に形成され、例えば、ガラス板、金属板、金属箔、プラスチックフィルム、プラスチックシートなどが用いられる。なかでも、ガラス板、および、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンなどの透明な合成樹脂製の板が好ましい。ガラス基板であれば、ソーダライムガラスや無アルカリガラスなどが用いられ、また、厚みも機械的強度を保つのに十分な厚みがあればよい。また、基板101には、ガスバリア性を高めるために、少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜などのガスバリア膜を設けてもよく、特にガスバリア性が低い合成樹脂製の板、フィルムまたはシートを基板101として用いる場合にはガスバリア膜を設けるのが好ましい。
【0202】
<有機電界発光素子における陽極>
陽極102は、発光層105へ正孔を注入する役割を果たす。なお、陽極102と発光層105との間に正孔注入層103および正孔輸送層104の少なくとも1つの層が設けられている場合には、これらを介して発光層105へ正孔を注入することになる。
【0203】
陽極102を形成する材料としては、無機化合物および有機化合物があげられる。無機化合物としては、例えば、金属(アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、クロムなど)、金属酸化物(インジウムの酸化物、スズの酸化物、インジウム-スズ酸化物(ITO)、インジウム-亜鉛酸化物(IZO)など)、ハロゲン化金属(ヨウ化銅など)、硫化銅、カーボンブラック、ITOガラスやネサガラスなどがあげられる。有機化合物としては、例えば、ポリ(3-メチルチオフェン)などのポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性ポリマーなどがあげられる。その他、有機EL素子の陽極として用いられている物質の中から適宜選択して用いることができる。
【0204】
<有機電界発光素子における正孔注入層、正孔輸送層>
正孔注入層103は、陽極102から移動してくる正孔を、効率よく発光層105内または正孔輸送層104内に注入する役割を果たす。正孔輸送層104は、陽極102から注入された正孔または陽極102から正孔注入層103を介して注入された正孔を、効率よく発光層105に輸送する役割を果たす。正孔注入層103および正孔輸送層104は、それぞれ、正孔注入・輸送材料の一種または二種以上を積層または混合により形成される。また、正孔注入・輸送材料に塩化鉄(III)のような無機塩を添加して層を形成してもよい。
【0205】
正孔注入・輸送性物質としては電界を与えられた電極間において正極からの正孔を効率よく注入・輸送することが必要で、正孔注入効率が高く、注入された正孔を効率よく輸送することが望ましい。そのためにはイオン化ポテンシャルが小さく、しかも正孔移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時および使用時に発生しにくい物質であることが好ましい。正孔輸送層用の材料として、本発明の多環芳香族化合物を用いることも好ましい。
【0206】
正孔注入層103および正孔輸送層104を形成する材料としては、光導電材料において、正孔の電荷輸送材料として従来から慣用されている化合物、p型半導体、有機EL素子の正孔注入層および正孔輸送層に使用されている公知の化合物の中から任意の化合物を選択して用いることができる。それらの具体例は、カルバゾール誘導体(N-フェニルカルバゾール、ポリビニルカルバゾールなど)、ビス(N-アリールカルバゾール)またはビス(N-アルキルカルバゾール)などのビスカルバゾール誘導体、トリアリールアミン誘導体(芳香族第3級アミノを主鎖または側鎖に持つポリマー、1,1-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N'-ジフェニル-N,N'-ジ(3-メチルフェニル)-4,4'-ジアミノビフェニル、N,N'-ジフェニル-N,N'-ジナフチル-4,4'-ジアミノビフェニル、N,N'-ジフェニル-N,N'-ジ(3-メチルフェニル)-4,4'-ジフェニル-1,1'-ジアミン、N,N'-ジナフチル-N,N'-ジフェニル-4,4'-ジフェニル-1,1'-ジアミン、N4,N4'-ジフェニル-N4,N4'-ビス(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)-[1,1'-ビフェニル]-4,4'-ジアミン、N4,N4,N4',N4'-テトラ[1,1'-ビフェニル]-4-イル)-[1,1'-ビフェニル]-4,4'-ジアミン、4,4',4"-トリス(3-メチルフェニル(フェニル)アミノ)トリフェニルアミンなどのトリフェニルアミン誘導体、スターバーストアミン誘導体など)、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体(無金属、銅フタロシアニンなど)、ピラゾリン誘導体、ヒドラゾン系化合物、ベンゾフラン誘導体やチオフェン誘導体、オキサジアゾール誘導体、キノキサリン誘導体(例えば、1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリルなど)、ポルフィリン誘導体などの複素環化合物、ポリシランなどである。ポリマー系では前記単量体を側鎖に有するポリカーボネートやスチレン誘導体、ポリビニルカルバゾールおよびポリシランなどが好ましいが、発光素子の作製に必要な薄膜を形成し、陽極から正孔が注入できて、さらに正孔を輸送できる化合物であれば特に限定されない。
【0207】
また、有機半導体の導電性は、そのドーピングにより、強い影響を受けることも知られている。このような有機半導体マトリックス物質は、電子供与性の良好な化合物、または、電子受容性の良好な化合物から構成されている。電子供与物質のドーピングのために、テトラシアノキノンジメタン(TCNQ)または2,3,5,6-テトラフルオロテトラシアノ-1,4-ベンゾキノンジメタン(F4TCNQ)などの強い電子受容体が知られている(例えば、文献「M.Pfeiffer,A.Beyer,T.Fritz,K.Leo,Appl.Phys.Lett.,73(22),3202-3204(1998)」および文献「J.Blochwitz,M.Pfeiffer,T.Fritz,K.Leo,Appl.Phys.Lett.,73(6),729-731(1998)」を参照)。これらは、電子供与型ベース物質(正孔輸送物質)における電子移動プロセスによって、いわゆる正孔を生成する。正孔の数および移動度によって、ベース物質の伝導性が、かなり大きく変化する。正孔輸送特性を有するマトリックス物質としては、例えばベンジジン誘導体(TPDなど)またはスターバーストアミン誘導体(TDATAなど)、または、特定の金属フタロシアニン(特に、亜鉛フタロシアニン(ZnPc)など)が知られている(特開2005-167175号公報)。
【0208】
上述した正孔注入層用材料および正孔輸送層用材料は、これらに反応性置換基が置換した反応性化合物をモノマーとして高分子化させた高分子化合物、もしくはその高分子架橋体、または、主鎖型高分子と前記反応性化合物とを反応させたペンダント型高分子化合物、もしくはそのペンダント型高分子架橋体としても、正孔層用材料に用いることができる。
【0209】
<有機電界発光素子における発光層>
発光層105は、電界を与えられた電極間において、陽極102から注入された正孔と、陰極108から注入された電子とを再結合させることにより発光する層である。発光層105を形成する材料としては、正孔と電子との再結合によって励起されて発光する化合物(発光性化合物)であればよく、安定な薄膜形状を形成することができ、かつ、固体状態で強い発光(蛍光)効率を示す化合物であることが好ましい。本発明の多環芳香族化合物は発光層用の材料として用いることも好ましい。
【0210】
発光層は単一層でも複数層からなってもどちらでもよく、それぞれ発光層用材料(ホスト材料、ドーパント材料)により形成される。ホスト材料とドーパント材料は、それぞれ一種類であっても、複数の組み合わせであっても、いずれでもよい。ドーパント材料はホスト材料の全体に含まれていても、部分的に含まれていても、いずれであってもよい。ドーピング方法としては、ホスト材料との共蒸着法によって形成することができるが、ホスト材料と予め混合してから同時に蒸着したり、有機溶媒と共にホスト材料と予め混合してから湿式成膜法により製膜したりしてもよい。
【0211】
ホスト材料の使用量はホスト材料の種類によって異なり、そのホスト材料の特性に合わせて決めればよい。ホスト材料の使用量の目安は、好ましくは発光層用材料全質量に対し50~99.999質量%であり、より好ましくは80~99.95質量%であり、さらに好ましくは90~99.9質量%である。
【0212】
ドーパント材料の使用量はドーパント材料の種類によって異なり、そのドーパント材料の特性に合わせて決めればよい。ドーパント材料の使用量の目安は、好ましくは発光層用材料全質量に対し0.001~50質量%であり、より好ましくは0.05~20質量%であり、さらに好ましくは0.1~10質量%である。上記の範囲であれば、例えば、濃度消光現象を防止できるという点で好ましい。また、耐久性の観点から、ドーパント材料の水素原子は一部または全部が重水素化されていることも好ましい。
【0213】
ドーパント材料としては、エミッティングドーパントとアシスティングドーパント材料とを用いてもよい。アシスティングドーパント材料としては熱活性型遅延蛍光材料を用いることが好ましい。アシスティングドーパント材料を用いた有機電界発光素子においては、エミッティングドーパント材料の使用量は低濃度である方が濃度消光現象を防止できるという点で好ましい。アシスティングドーパント材料の使用量が高濃度である方が熱活性型遅延蛍光機構の効率の点からは好ましい。さらには、熱活性型遅延蛍光アシスティングドーパント材料を用いた有機電界発光素子においては、アシスティングドーパント材料の熱活性型遅延蛍光機構の効率の点からは、アシスティングドーパント材料の使用量に比べてエミッティングドーパント材料の使用量が低濃度である方が好ましい。
【0214】
アシスティングドーパント材料が使用される場合における、ホスト材料、アシスティングドーパント材料およびエミッティングドーパント材料の使用量の目安は、それぞれ、発光層用材料全質量に対し40~99質量%、59~1質量%および20~0.001質量%であり、好ましくは、それぞれ、60~95質量、39~5質量%および10~0.01質量%であり、より好ましくは、70~90質量、29~10質量%および5~0.05質量%である。
【0215】
<ホスト材料>
ホスト材料としては、以前から発光体として知られていたアントラセンやピレンなどの縮合環誘導体、ビススチリルアントラセン誘導体やジスチリルベンゼン誘導体などのビススチリル誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、フルオレン誘導体、ベンゾフルオレン誘導体、N-フェニルカルバゾール誘導体、カルバゾニトリル誘導体などがあげられる。
【0216】
ホスト材料の三重項エネルギーは、発光層内でのTADFの発生を阻害せず促進させる観点から、発光層内において最も高い三重項エネルギーを有するドーパントまたはアシスティングドーパントの三重項エネルギーに比べて高い方が好ましく、具体的には、ホスト材料の三重項エネルギーは、0.01eV以上が好ましく、0.03eV以上がより好ましく、0.1eV以上がさらに好ましい。また、ホスト材料にTADF活性な化合物を用いてもよい。
【0217】
ホスト材料は、一種類であっても、複数の組み合わせであってもよい。複数の組み合わせである場合、正孔輸送性ホスト材料と電子輸送性ホスト材料との組み合わせであることが好ましい。
【0218】
本発明の多環芳香族化合物はホスト材料として好ましく用いることができる。本発明の多環芳香族化合物は単独で用いても、正孔輸送性ホスト材料として用いても、電子輸送性ホスト材料として用いてもよい。
【0219】
[正孔輸送性ホスト材料(HH)]
好ましい正孔輸送性ホスト材料(HH)の例としては、本発明の多環芳香族化合物のほか、式(HH-1)で表される化合物および式(HH-1)で表される部分構造を有する化合物をあげることができる。
【0220】
【化56】
【0221】
式(HH-1)において、
Qは、>O、>S、または、>N-Aであり、
式(HH-1)における2つのフェニルそれぞれにおけるQの結合する炭素原子の隣の1つの炭素原子は、互いに、Lで結合していてもよく、
Lは、単結合、>O、>Sまたは>C(-A)2であり、
Aは、水素原子、アリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、アルキル、シクロアルキル、アルコキシまたはアリールオキシであり、>C(-A)2における2つのAは互いに結合して、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキルを形成してよい。
【0222】
正孔輸送性ホスト材料が式(HH-1)で表される構造を部分構造として含むとき、この部分構造1を1つ含むものであってもよいが2つ以上含むことも好ましい。2つ以上含む場合、その2つ以上の部分構造は互いに同じであっても異なっていてもよい。2つ以上の部分構造は互いに単結合で結合していてもよく、部分構造に含まれる任意の環を共有するようにして結合していてもよく、部分構造に含まれる任意の環同士が縮合するようにして結合していてもよい。部分構造はさらに、アリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、またはアリールオキシから選択される置換基を有していてもよい。
【0223】
正孔輸送性ホスト材料は、トリアリールアミン構造、カルバゾール環、ジベンゾフラン環、およびジベンゾチオフェン環、およびフェノキサジンもしくはフェノチアジンを含む縮合多環からなる群より選択される1つ以上の部分構造を含む化合物であることが好ましい。正孔輸送性ホスト材料はこのような部分構造1を1つ含むものであってもよいが2つ以上含むことも好ましい。2つ以上含む場合、その2つ以上の部分構造は互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0224】
正孔輸送性ホスト材料の具体例としては、以下の化合物をあげることができる。
【化57】
【0225】
【化58】
【0226】
【化59】
【0227】
【化60】
【0228】
【化61】
【0229】
【化62】
【0230】
【化63】
【0231】
【化64】
【0232】
【化65】
【0233】
上記のうち、HH-1-1、HH-1-2、HH-1-4~HH-1-12、HH-1-17、HH-1-18、HH-1-20~HH-1-24、HH-1-82、HH-1-84~HH-1-89、HH-1-91、HH-1-92およびHH-1-106~HH-1-108が好ましい。
【0234】
[電子輸送性ホスト材料(EH)]
電子輸送性ホスト材料(EH)の例としては、本発明の多環芳香族化合物のほか、式(EH-1)で表される化合物、および式(EH-1)で表される部分構造を有する化合物をあげることができる。
【化66】
【0235】
式(EH-1)において、
Jは、それぞれ独立して、=C(-A)-または=N-であり、少なくとも3つのJは=C(-A)-であり、
Zは、-O-、-S-、-C(=O)-、-P(=O)(-A)-、-P(=S)(-A)-、-N(-A)-、-B(-A)-または-S(=O)2-であり、
Zの結合する炭素原子の隣のJとZの結合するAとは、互いに、Lで結合していてもよく、
Lは、単結合、>O、>Sまたは>C(-A)2であり、
Aは、水素、アリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、アルキル、シクロアルキル、トリアリールシリル、アルコキシまたはアリールオキシであり、>C(-A)2における2つのAは互いに結合して、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキルを形成してよく、
すべてのJが、=C(-A)-であるとき、AまたはZのいずれかひとつがヘテロ原子を有する。
【0236】
式(EH-1)におけるAで示される、アリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、アルキル、シクロアルキル、トリアリールシリル、アルコキシまたはアリールオキシについては式(HH-1)におけるAの説明を参照することができる。式(EH-1)における2つのAが互いに結合して、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキルを形成するときのアリール、ヘテロアリール、シクロアルキルについても式(HH-1)における説明を参照することができる。
【0237】
電子輸送性ホスト材料が式(EH-1)で表される構造を部分構造として含むとき、この部分構造を1つ含むものであってもよいが2つ以上含むことも好ましい。2つ以上含む場合、その2つ以上の部分構造は互いに同じであっても異なっていてもよい。2つ以上の部分構造は互いに単結合で結合していてもよく、部分構造に含まれる任意の環を共有するようにして結合していてもよく、部分構造に含まれる任意の環同士が縮合するようにして結合していてもよい。部分構造はさらに、アリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、またはアリールオキシから選択される置換基を有していてもよい。
【0238】
電子輸送性ホスト材料の具体例としては、以下の化合物をあげることができる。
【化67】
【0239】
【化68】
【0240】
【化69】
【0241】
【化70】
【0242】
【化71】
【0243】
【化72】
【0244】
【化73】
【0245】
【化74】
【0246】
電子輸送性ホスト材料(式(EH-1)で表される部分構造を有する化合物)の別の好ましい例として、下記式(EH-1b)で表される多環芳香族化合物、または下記式(EH-1b)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体をあげることができる。
【化75】
【0247】
式(EH-1b)において、
1、R2、R3、R4およびR5(以降、「R1等」ともいう)は、それぞれ独立して、水素または置換基群Zより選択される置換基である。
式(EH-1b)において、X1およびX2は、それぞれ独立して、>N-R(アミン性窒素)、>O、>C(-R)2、>Sまたは>Seであり、X1およびX2が共に>C(-R)2になることはなく、
前記>N-Rおよび>C(-R)2におけるRは、それぞれ独立して、水素または置換基群Zより選択される置換基であり、さらに、アリール、ヘテロアリール、アルキルまたはシクロアルキル(以上、第2置換基)で置換されていてもよく、前記>N-Rおよび>C(-R)2のRはそれぞれ独立して連結基または単結合により前記a環、b環およびc環の少なくとも1つの環と結合していてもよい。
1、Y2、Y3、Y4、Y5およびY6(以降、「Y1等」ともいう)は、それぞれ独立して、=C(-R)-または=N-(ピリジン性窒素)であり、少なくとも1つは=N-(ピリジン性窒素)であり、
前記=C(-R)-におけるRは、それぞれ独立して、水素または置換基群Zより選択される置換基である。
前記R1、R2、R3、R4およびR5、ならびに、前記Y1~Y6としての=C(-R)-のRのうちの隣接する基同士が結合してa環、b環およびc環の少なくとも1つの環と共にアリール環またはヘテロアリール環を形成していてもよく、形成された環は置換基群Zより選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい。
式(EH-1b)で表される化合物および構造における少なくとも1つの水素は、シアノ、ハロゲンまたは重水素で置き換えられていてもよい。
【0248】
式(EH-1b)において、R1、R2、R3、R4およびR5はいずれも水素であるか、または、R3およびR4がいずれも水素であり、かつR1、R2およびR5からなる群より選択されるいずれか1つ以上が水素以外の置換基であり、その他が水素であることが好ましい。置換基としては、アルキル、アルキルもしくはヘテロアリールで置換されていてもよいアリール、アルキルもしくはアリールで置換されていてもよいヘテロアリール、またはアルキルもしくはアリールで置換されていてもよいジアリールアミノが好ましい。このとき、アルキルとしては、炭素数1~6のアルキル(メチル、t-ブチルなど)が好ましく、アリールとしてはフェニルまたはビフェニルが好ましく、ヘテロアリールとしては、トリアジニル、カルバゾリル(2-カルバゾリル、3-カルバゾリル、9-カルバゾリルなど)、ピリミジニル、ピリジニル、ジベンゾフラニルまたはジベンゾチエニルが好ましい。具体例としては、フェニル、ビフェニル、ジフェニルトリアジニル、カルバゾリルトリアジニル、モノフェニルピリミジニル、ジフェニルピリミジニル、カルバゾリルトリアジニル、ピリジニル、ジベンゾフラニルおよびジベンゾチエニルがあげられる。
【0249】
1等は、それぞれ独立して、=C(-R)-または=N-であり、少なくとも1つは=N-である。Y1~Y6のいずれが=N-であってもよい。好ましくは、Y1およびY6が=N-(a環がピリミジン環)、Y1またはY6が=N-(a環がピリジン環)、Y2およびY5が=N-(b環およびc環がピリジン環)、Y3およびY4が=N-(b環およびc環がピリジン環)、Y2~Y5が=N-(b環およびc環がピリミジン環)、Y1、Y3、Y4およびY6が=N-(a環がピリミジン環、b環およびc環がピリジン環)、Y1、Y2、Y5およびY6が=N-(a環がピリミジン環、b環およびc環がピリジン環)、Y1~Y6が=N-(a環、b環およびc環がピリミジン環)、Y2またはY5が=N-(b環またはc環がピリジン環)である。
【0250】
また、以上の=N-の配置関係に加えて、X1およびX2が>Oであることが好ましく、下記式のいずれかで表される部分構造を含む多環芳香族化合物が好ましい。
【化76】
【0251】
特に、式(EH-1b-N1)で表される部分構造を含む多環芳香族化合物は、Nがない構造と比べ、高いES1、高いET1、小さいΔES1T1を有する。
式(EH-1b)で表される多環芳香族化合物の具体例を以下に示す。
【0252】
【化77】
【0253】
【化78】
【0254】
【化79】
【0255】
【化80】
【0256】
【化81】
【0257】
【化82】
【0258】
上記のうち、EH-1-1~EH-1-4、EH-1-10、EH-1-21~EH-1-25、EH-1-32、EH-1-33、EH-1-51~EH-1-59、EH-1-61、EH-1-66、EH-1-68、EH-1-71、EH-1-72、EH-1-90、EH-1-100、EH-1-101、EH-1-104,EH-1-115、EH-1-117、EH-1-120、EH-1-122、EH-1-123、EH-1-127~EH-1-130が好ましい。
【0259】
[正孔輸送性ホスト材料および電子輸送性ホスト材料の組み合わせ]
正孔輸送性ホスト材料および電子輸送性ホスト材料の組み合わせは、正孔輸送性ホスト材料、電子輸送性ホスト材料およびドーパント材料のHOMO、LUMOおよび励起三重項エネルギーによって選択される。
HOMOおよびLUMOに関しては、正孔輸送性ホスト材料のHOMO(HH)が電子輸送性ホスト材料のHOMO(EH)より浅く、電子輸送性ホスト材料のLUMO(EH)が正孔輸送性ホスト材料のLUMO(HH)より深い組み合わせを選び、より具体的には、HOMO(HH)がHOMO(EH)より0.10eV以上浅く、LUMO(HH)がHOMO(EH)より0.10eV以上深い組み合わせが好ましく、HOMO(HH)がHOMO(EH)より0.20eV以上浅く、LUMO(HH)がHOMO(EH)より0.20eV以上深い組み合わせがより好ましく、HOMO(HH)がHOMO(EH)より0.25eV以上浅く、LUMO(HH)がHOMO(EH)より0.25eV以上深い組み合わせがさらに好ましい。
【0260】
正孔輸送性ホスト材料および電子輸送性ホスト材料はエキサイプレックス(exciplex)と呼ばれる会合体を形成する組み合わせであってもよい。エキサイプレックスは、比較的深いLUMO準位をもつ材料と、浅いHOMO準位をもつ材料間との間で形成しやすいことが一般に知られている。正孔輸送性ホスト材料および電子輸送性ホスト材料の相互作用、具体的にはエキサイプレックスを形成しているか否かは、正孔輸送性ホスト材料および電子輸送性ホスト材料のみからなる単層膜を発光層の形成条件と同様にして形成して発光スペクトル(蛍光、りん光スペクトル)を測定し、得られた発光スペクトルを、正孔輸送性ホスト材料および電子輸送性ホスト材料それぞれが単独で示す発光スペクトルとを比較することで判断できる。正孔輸送性ホスト材料および電子輸送性ホスト材料を含む混合膜のスペクトルが、正孔輸送性ホスト材料の膜のスペクトル、および電子輸送性ホスト材料の膜のスペクトルのいずれとも異なる発光波長を示すことにより判断することができる。具体的には、スペクトルのピーク波長が10nm以上異なっていることを指標にすればよい。
【0261】
エキサイプレックスを形成しない正孔輸送性ホスト材料および電子輸送性ホスト材料の組み合わせの具体例としては以下の組み合わせをあげることができる。前記のHOMO、LUMOおよび励起三重項エネルギーの物性値を満たすために、正孔輸送性ホスト材料においては、カルバゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、トリアリールアミン、インデロカルバゾールおよびベンゾオキサジノフェノキサジンを部分構造として有する化合物が好ましく、カルバゾール、ジベンゾフランおよびジベンゾチオフェンを部分構造として有する化合物がより好ましく、カルバゾールを部分構造として有する化合物がさらに好ましい。同様に、電子輸送性ホスト材料においては、ピリジン、トリアジン、ホスフィンオキシド、ベンゾフロピリジンおよびジベンゾオキサシリンを部分構造として有する化合物が好ましく、トリアジン、ホスフィンオキシド、ベンゾフロピリジンおよびジベンゾオキサシリンを部分構造として有する化合物がより好ましく、トリアジンを有する化合物がさらに好ましい。
【0262】
より具体的には、正孔輸送性ホスト材料は、HH-1-1、HH-1-2、HH-1-4~HH-1-12、HH-1-17、HH-1-18、HH-1-20~HH-1-24、HH-1-82、HH-1-84~HH-1-89、HH-1-91、HH-1-92およびHH-1-106~HH-1-108からなる群より選択されることが好ましく、電子輸送性ホスト材料は、EH-1-1~EH-1-4、EH-1-10、EH-1-21~EH-1-25、EH-1-32、EH-1-33、EH-1-51~EH-1-59、EH-1-61、EH-1-71、EH-1-72、EH-1-90、EH-1-100、EH-1-101、EH-1-104、EH-1-117、EH-1-120、EH-1-122、EH-1-123、およびEH-1-127~EH-1-130からなる群より選択されることが好ましい。組み合わせとして好ましい例としては、化合物HH-1-1および化合物EH-1-22、化合物HH-1-1および化合物EH-1-23、化合物HH-1-1および化合物EH-1-24、化合物HH-1-2および化合物EH-1-22、化合物HH-1-2および化合物EH-1-23、化合物HH-1-2および化合物EH-1-24、または化合物HH-1-1および化合物EH-1-128があげられる。
【0263】
エキサイプレックスを形成する正孔輸送性ホスト材料および電子輸送性ホスト材料の組み合わせの具体例としては以下の組み合わせをあげることができる。前記、HOMO、LUMOおよび励起三重項エネルギーの物性値を満たすために、正孔輸送性ホスト材料においては、カルバゾール、トリアリールアミン、インデロカルバゾールおよびベンゾオキサジノフェノキサジンを部分構造として有する化合物が好ましく、トリアリールアミン、インデロカルバゾールおよびベンゾオキサジノフェノキサジンを部分構造として有する化合物がより好ましく、トリアリールアミンを部分構造として有する化合物がさらに好ましい。同様に、電子輸送性ホスト材料においては、ピリジン、トリアジン、ホスフィンオキシドおよびベンゾフロピリジンを部分構造として有する化合物が好ましく、トリアジン、ホスフィンオキシド、ベンゾフロピリジンおよびジベンゾオキサシリンを部分構造として有する化合物がより好ましく、ホスフィンオキシドおよびトリアジンを有する化合物がさらに好ましい。
【0264】
より具体的には、正孔輸送性ホスト材料は、HH-1-1、HH-1-2、HH-1-11、HH-1-12、HH-1-17、HH-1-18、HH-1-23およびHH-1-24からなる群より選択されることが好ましく、電子輸送性ホスト材料は、EH-1-1~EH-1-4、EH-1-21~EH-1-25、EH-1-51~EH-1-57、EH-1-59、EH-1-66、EH-1-68、EH-1-90、EH-1-100、EH-1-101、EH-1-104、EH-1-117、EH-1-120、EH-1-122、EH-1-123、およびEH-1-127~EH-1-130からなる群より選択されることが好ましい。組み合わせとして好ましい例としては、化合物HH-1-1および化合物EH-1-21、化合物HH-1-2および化合物EH-1-21、化合物HH-1-12および化合物EH-1-117、化合物HH-1-1および化合物EH-1-130、化合物HH-1-33および化合物EH-1-117、化合物HH-1-48および化合物EH-1-117または化合物HH-1-49および化合物EH-1-117があげられる。
【0265】
その他、具体的な正孔輸送性ホスト材料と電子輸送性ホスト材料との組み合わせについては、Organic Electronics 66(2019)227-24、Advanced.Functional Materals 25(2015)361-366.、Advanced Materials 26(2014)4730-4734.、ACS Applied Materials and Interfaces 8(2016)32984-32991.、ACS Applied Materals and Interfaces 2016,8,9806-9810、ACS Applied Materials and Interfaces 2016,8,32984-32991、Journal of Materials Chemisty C,2018,6,8784-8792、Angewante Chemie International Edition.2018,57,12380-12384、Advanced Functional Materials,24,2014,3970,Advanced Materials,26,2014,5684,および、Synthetic Metals,201,2015,49などの記載を参照することができる。
【0266】
<ドーパント材料>
ドーパント材料としては、既知の化合物を用いることができ、所望の発光色に応じて様々な材料の中から選択することができる。具体的には、例えば、フェナンスレン、アントラセン、ピレン、テトラセン、ペンタセン、ペリレン、ナフトピレン、ジベンゾピレン、ルブレンおよびクリセンなどの縮合環誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、スチルベン誘導体、チオフェン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ビススチリルアントラセン誘導体やジスチリルベンゼン誘導体などのビススチリル誘導体(特開平1-245087号公報)、ビススチリルアリーレン誘導体(特開平2-247278号公報)、ジアザインダセン誘導体、フラン誘導体、ベンゾフラン誘導体、フェニルイソベンゾフラン、ジメシチルイソベンゾフラン、ジ(2-メチルフェニル)イソベンゾフラン、ジ(2-トリフルオロメチルフェニル)イソベンゾフラン、フェニルイソベンゾフランなどのイソベンゾフラン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、7-ジアルキルアミノクマリン誘導体、7-ピペリジノクマリン誘導体、7-ヒドロキシクマリン誘導体、7-メトキシクマリン誘導体、7-アセトキシクマリン誘導体、3-ベンゾチアゾリルクマリン誘導体、3-ベンゾイミダゾリルクマリン誘導体、3-ベンゾオキサゾリルクマリン誘導体などのクマリン誘導体、ジシアノメチレンピラン誘導体、ジシアノメチレンチオピラン誘導体、ポリメチン誘導体、シアニン誘導体、オキソベンゾアントラセン誘導体、キサンテン誘導体、ローダミン誘導体、フルオレセイン誘導体、ピリリウム誘導体、カルボスチリル誘導体、アクリジン誘導体、オキサジン誘導体、フェニレンオキサイド誘導体、キナクリドン誘導体、キナゾリン誘導体、ピロロピリジン誘導体、フロピリジン誘導体、1,2,5-チアジアゾロピレン誘導体、ピロメテン誘導体、ペリノン誘導体、ピロロピロール誘導体、スクアリリウム誘導体、ビオラントロン誘導体、フェナジン誘導体、アクリドン誘導体、デアザフラビン誘導体、フルオレン誘導体およびベンゾフルオレン誘導体などがあげられる。
【0267】
発光層においては、本発明の多環芳香族化合物を、ホスト材料として用いるとともに、ドーパント材料として、りん光材料またはTADF材料(熱活性型遅延蛍光体)を用いることが好ましい。
【0268】
[りん光材料]
りん光材料は金属原子による分子内スピン-軌道相互作用(重原子効果)を利用し、三重項からの発光を得る。このようなりん光材料としては、例えば、発光性金属錯体を用いることができる。発光性金属錯体としては、例えば下記式(B-1)および下記式(B-2)で表される化合物があげられる。
【0269】
【化83】
【0270】
式(B-1)において、Mは、Ir、Pt、Au、Eu、Ru、Re、AgおよびCuからなる群から選択される少なくとも1種であり、nは1~3の整数であり、「X-Y」はそれぞれ独立して二座の配位子である。
式(B-2)において、Mは、Pt、ReおよびCuからなる群から選択される少なくとも1種であり、「W-X-Y-Z」は四座の配位子である。
式(B-1)において、効率と寿命の観点から、MはIrが好ましく、nは3が好ましい。
式(B-2)において、効率と寿命の観点からMはPtが好ましい。
式(B-1)における配位子(X-Y)は、以下からなる群から選択された少なくとも1つの配位子を有する。式(B-2)における配位子(W-X-Y-Z)配位子は、以下からなる群から選択される少なくとも1つの配位子を一部として有する。
【0271】
【化84】
【0272】
式中、
---において中心金属Mと結合し、
Yは、それぞれ独立して、BRe、NRe、PRe、O、S、Se、C=O、S=O、SO2、CRef、SiRef、またはGeRefであり
環における芳香族炭素C-Hは、それぞれ独立して、Nに置換されてもよく、
eおよびRfは、任意に縮合または結合して環を形成してもよく、
a、Rb、Rc、およびRdは、それぞれ独立して、無置換または1~置換可能な最大数まで置換してもよく、
a、Rb、Rc、Rd、Re、およびRfが、それぞれ独立して、水素、重水素、ハロゲン化物、アルキル、シクロアルキル、ヘテロアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、シリル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルケニル、アリール、ヘテロアリール、ニトリル、イソニトリル、スルファニル、または、これらの組み合わせであり、
ただし、Ra、Rb、Rc、およびRdにおける任意の2つの隣接する置換基が縮合または結合して環を形成するか、または多座リガンドを形成してもよい。
【0273】
式(B-1)で表される化合物としては、例えば、Ir(ppy)3、Ir(ppy)2(acac)、Ir(mppy)3、Ir(PPy)2(m-bppy)、BtpIr(acac)、Ir(btp)2(acac)、Ir(2-phq)3、Hex-Ir(phq)3、Ir(fbi)2(acac)、fac-Tris(2-(3-p-xylyl)phenyl)pyridine iridium(III)、Eu(dbm)3(Phen)、Ir(piq)3、Ir(piq)2(acac)、Ir(Fliq)2(acac)、Ir(Flq)2(acac)、Ru(dtb-bpy)3・2(PF6)、Ir(2-phq)3、Ir(BT)2(acac)、Ir(DMP)3、Ir(Mphq)3IR(phq)2tpy、fac-Ir(ppy)2Pc、Ir(dp)PQ2、Ir(Dpm)(Piq)2、Hex-Ir(piq)2(acac)、Hex-Ir(piq)3、Ir(dmpq)3、Ir(dmpq)2(acac)、FPQIrpicなどがあげられる。
【0274】
式(B-1)で表される化合物としては、他には、例えば下記式があげられる。
【化85】
【0275】
【化86】
【0276】
【化87】
【0277】
また、特開2006-089398号公報、特開2006-080419号公報、特開2005-298483号公報、特開2005-097263号公報、および特開2004-111379号公報、米国特許出願公開第2019/0051845号明細書などに記載されたイリジウム錯体、または、Advanced Materials, 26: 7116-7121、NPG Asia Materials 13, 53 (2021)、Applied Physics Letters, 117, 253301 (2020)、Light-Emitting Diode - An Outlook On the Empirical Features and Its Recent Technological Advancements, Chapter 5に記載された白金錯体を用いてもよい。
【0278】
[TADF材料(熱活性型遅延蛍光体)]
ドーパント材料としては、国際公開第2015/102118号、国際公開第2018/212169号、国際公開第2020/162600号等に記載のホウ素を含む多環芳香族化合物を用いることも好ましい。ホウ素原子を有する多環芳香族化合物は蛍光体であっても、TADF材料(熱活性型遅延蛍光体)であってもよい。ホウ素原子を有する多環芳香族化合物は青色発光化合物であることが好ましい。
【0279】
励起一重項状態と励起三重項状態のエネルギー差を小さくすることで、通常は遷移確率が低い励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差を高効率で生じさせることで、一重項からの発光(熱活性型遅延蛍光、TADF)が発現する。通常の蛍光発光では電流励起により生じた75%の三重項励起子は熱失活経路を通るため蛍光として取り出すことはできない。一方、TADFでは全ての励起子を蛍光発光に利用することができ、高効率な有機EL素子が実現できる。
【0280】
ホウ素を含む多環芳香族化合物の好ましい例として、下記式(12)、(13)または(14)で表される化合物をあげることができる。
【化88】
【0281】
A環、B環、C環およびD環は、それぞれ独立して、置換もしくは無置換のアリール環または置換もしくは無置換のヘテロアリール環であり、
YはB(ホウ素)であり、
1、X2、X3およびX4は、それぞれ独立して、>O、>N-R、>Sまたは>Seであり、前記>N-RのRは、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリールまたは置換もしくは無置換のアルキルであり、また、前記>N-RのRは連結基または単結合により前記A環、B環、C環および/またはD環と結合していてもよく、
1およびR2は、それぞれ独立して、水素、炭素数1~6のアルキル、炭素数6~12のアリール、炭素数2~15のヘテロアリールまたはジアリールアミノ(ただしアリールは炭素数6~12のアリール)であり、
1およびZ2は、それぞれ独立して、置換基群Zより選択される置換基であり、Z1は連結基または単結合で前記A環と結合してもよく、Z2は連結基または単結合で前記C環と結合してもよく、そして、
式(12)で表される化合物における少なくとも1つの水素はシアノ、ハロゲンまたは重水素で置き換えられていてもよい。
【0282】
式(12)のA環、B環、C環およびD環における、アリール環またはヘテロアリール環が置換されているときの置換基およびZ1、Z2としては、置換基群Zより選択される置換基があげられる。
【0283】
式(12)におけるX1、X2、X3およびX4は、それぞれ独立して、>O、>N-R、>Sまたは>Seであり、前記>N-RのRは、それぞれ独立して、炭素数6~12のアリール、炭素数2~15のヘテロアリール、炭素数3~12のシクロアルキルまたは炭素数1~6のアルキルである。ここでのアリール、ヘテロアリール、シクロアルキルまたはアルキルとしては、上記の各置換基の説明を引用できる。
式(12)で表される化合物においては、高いTADF性の観点から、Z1およびZ2が置換基を有してもよいジフェニルアミノまたは置換基を有してもよいN-カルバゾリルであることが好ましく、置換基を有してもよいジフェニルアミノであることがより好ましい。置換基を有してもよいジフェニルアミノとしては、無置換のジフェニルアミノまたは少なくとも一つの炭素数1~4のアルキルを有するジフェニルアミノであることが好ましく、無置換のジフェニルアミノまたはNに対してm位またはo位に少なくとも一つメチルを有するジフェニルアミノがより好ましい。合成の容易さおよび発光波長の観点から、A環、B環、C環およびD環におけるアリール環またはヘテロアリール環はZ1およびZ2以外は置換を有していないか、炭素数1~6のアルキルのみをその他の置換基として有していることが好ましく、Z1およびZ2以外は置換を有していないことがより好ましい。
式(12)で表される化合物の例を以下に示す。
【0284】
【化89】
【0285】
【化90】
【0286】
【化91】
【0287】
【化92】
【0288】
式(13)および式(14)中、
11環、A21環、A31環、B11環、B21環、C11環、およびC31環は、それぞれ独立して、置換もしくは無置換のアリール環または置換もしくは無置換のヘテロアリール環であり、
11、Y21、Y31はB(ホウ素)であり、
11、X12、X21、X22、X31、およびX32は、それぞれ独立して、>O、>N-R、>Sまたは>Seであり、前記>N-RのRは、置換もしくは無置換のアリール、置換もしくは無置換のヘテロアリールまたは置換もしくは無置換のアルキルであり、また、前記>N-RのRは連結基または単結合によりA11環、A21環、A31環、B11環、B21環、C11環、および/またはC31環と結合していてもよく、
式(13)および(14)で表される化合物における少なくとも1つの水素はシアノ、ハロゲンまたは重水素で置き換えられていてもよい。
【0289】
式(13)および式(14)のA11環、A21環、A31環、B11環、B21環、C11環、およびC31における、アリール環またはヘテロアリール環が置換されているときの置換基およびZ1、Z2としては、置換基群Zより選択される置換基があげられる。
【0290】
式(13)および式(14)におけるX11、X12、X21、X22、X31、およびX32は、それぞれ独立して、>O、>N-R、>Sまたは>Seであり、前記>N-RのRは、それぞれ独立して、炭素数6~12のアリール、炭素数2~15のヘテロアリール、炭素数3~12のシクロアルキルまたは炭素数1~6のアルキルである。
【0291】
式(13)または式(14)で表される化合物の例を以下に示す。
【化93】
【0292】
【化94】
【0293】
<有機電界発光素子における電子注入層、電子輸送層>
電子注入層107は、陰極108から移動してくる電子を、効率よく発光層105内または電子輸送層106内に注入する役割を果たす。電子輸送層106は、陰極108から注入された電子または陰極108から電子注入層107を介して注入された電子を、効率よく発光層105に輸送する役割を果たす。電子輸送層106および電子注入層107は、それぞれ、電子輸送・注入材料の一種または二種以上を積層、混合するか、電子輸送・注入材料と高分子結着剤の混合物により形成される。
【0294】
電子注入・輸送層とは、陰極から電子が注入され、さらに電子を輸送することをつかさどる層であり、電子注入効率が高く、注入された電子を効率よく輸送することが望ましい。そのためには電子親和力が大きく、しかも電子移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時および使用時に発生しにくい物質であることが好ましい。しかしながら、正孔と電子の輸送バランスを考えた場合に、陽極からの正孔が再結合せずに陰極側へ流れるのを効率よく阻止できる役割を主に果たす場合には、電子輸送能力がそれ程高くなくても、発光効率を向上させる効果は電子輸送能力が高い材料と同等に有する。したがって、本実施形態における電子注入・輸送層は、正孔の移動を効率よく阻止できる層の機能も含まれてもよい。
【0295】
電子輸送層106または電子注入層107を形成する材料(電子輸送材料)としては、光導電材料において電子伝達化合物として従来から慣用されている化合物、有機EL素子の電子注入層および電子輸送層に使用されている公知の化合物の中から任意に選択して用いることができる。本発明の多環芳香族化合物を電子輸送層用の材料として用いることも好ましい。
【0296】
電子輸送層または電子注入層に用いられる材料としては、炭素、水素、酸素、硫黄、ケイ素およびリンの中から選ばれる一種以上の原子で構成される芳香族環または複素芳香族環からなる化合物、ピロール誘導体およびその縮合環誘導体および電子受容性窒素を有する金属錯体の中から選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。具体的には、ナフタレン、アントラセンなどの縮合環系芳香族環誘導体、4,4'-ビス(ジフェニルエテニル)ビフェニルに代表されるスチリル系芳香族環誘導体、ペリノン誘導体、クマリン誘導体、ナフタルイミド誘導体、アントラキノンやジフェノキノンなどのキノン誘導体、リンオキサイド誘導体、アリールニトリル誘導体およびインドール誘導体などがあげられる。電子受容性窒素を有する金属錯体としては、例えば、ヒドロキシフェニルオキサゾール錯体などのヒドロキシアゾール錯体、アゾメチン錯体、トロポロン金属錯体、フラボノール金属錯体およびベンゾキノリン金属錯体などがあげられる。これらの材料は単独でも用いられるが、異なる材料と混合して使用しても構わない。
【0297】
また、他の電子伝達化合物の具体例として、ピリジン誘導体、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントロリン誘導体、ペリノン誘導体、クマリン誘導体、ナフタルイミド誘導体、アントラキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ペリレン誘導体、オキサジアゾール誘導体(1,3-ビス[(4-t-ブチルフェニル)1,3,4-オキサジアゾリル]フェニレンなど)、チオフェン誘導体、トリアゾール誘導体(N-ナフチル-2,5-ジフェニル-1,3,4-トリアゾールなど)、チアジアゾール誘導体、オキシン誘導体の金属錯体、キノリノール系金属錯体、キノキサリン誘導体、キノキサリン誘導体のポリマー、ベンザゾール類化合物、ガリウム錯体、ピラゾール誘導体、パーフルオロ化フェニレン誘導体、トリアジン誘導体、ピラジン誘導体、ベンゾキノリン誘導体(2,2'-ビス(ベンゾ[h]キノリン-2-イル)-9,9'-スピロビフルオレンなど)、イミダゾピリジン誘導体、ボラン誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体(トリス(N-フェニルベンゾイミダゾール-2-イル)ベンゼンなど)、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、キノリン誘導体、テルピリジンなどのオリゴピリジン誘導体、ビピリジン誘導体、テルピリジン誘導体(1,3-ビス(4'-(2,2':6'2"-テルピリジニル))ベンゼンなど)、ナフチリジン誘導体(ビス(1-ナフチル)-4-(1,8-ナフチリジン-2-イル)フェニルホスフィンオキサイドなど)、アルダジン誘導体、カルバゾール誘導体、インドール誘導体、リンオキサイド誘導体、ビススチリル誘導体などがあげられる。
【0298】
また、電子受容性窒素を有する金属錯体を用いることもでき、例えば、キノリノール系金属錯体やヒドロキシフェニルオキサゾール錯体などのヒドロキシアゾール錯体、アゾメチン錯体、トロポロン金属錯体、フラボノール金属錯体およびベンゾキノリン金属錯体などがあげられる。
【0299】
上述した材料は単独でも用いられるが、異なる材料と混合して使用しても構わない。
【0300】
上述した材料の中でも、ボラン誘導体、ピリジン誘導体、フルオランテン誘導体、BO系誘導体、アントラセン誘導体、ベンゾフルオレン誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、ピリミジン誘導体、アリールニトリル誘導体、トリアジン誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、およびキノリノール系金属錯体が好ましい。
【0301】
電子輸送層または電子注入層には、さらに、電子輸送層または電子注入層を形成する材料を還元できる物質を含んでいてもよい。この還元性物質は、一定の還元性を有する物質であれば、様々な物質が用いられ、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、希土類金属の酸化物、希土類金属のハロゲン化物、アルカリ金属の有機錯体、アルカリ土類金属の有機錯体および希土類金属の有機錯体からなる群から選択される少なくとも1つを好適に使用することができる。
【0302】
好ましい還元性物質としては、Na(仕事関数2.36eV)、K(同2.28eV)、Rb(同2.16eV)またはCs(同1.95eV)などのアルカリ金属や、Ca(同2.9eV)、Sr(同2.0~2.5eV)またはBa(同2.52eV)などのアルカリ土類金属があげられ、仕事関数が2.9eV以下の物質が特に好ましい。これらのうち、より好ましい還元性物質は、K、RbまたはCsのアルカリ金属であり、さらに好ましくはRbまたはCsであり、最も好ましいのはCsである。これらのアルカリ金属は、特に還元能力が高く、電子輸送層または電子注入層を形成する材料への比較的少量の添加により、有機EL素子における発光輝度の向上や長寿命化が図られる。また、仕事関数が2.9eV以下の還元性物質として、これら2種以上のアルカリ金属の組み合わせも好ましく、特に、Csを含んだ組み合わせ、例えば、CsとNa、CsとK、CsとRb、またはCsとNaとKとの組み合わせが好ましい。Csを含むことにより、還元能力を効率的に発揮することができ、電子輸送層または電子注入層を形成する材料への添加により、有機EL素子における発光輝度の向上や長寿命化が図られる。
【0303】
<有機電界発光素子における陰極>
陰極108は、電子注入層107および電子輸送層106を介して、発光層105に電子を注入する役割を果たす。
【0304】
陰極108を形成する材料としては、電子を有機層に効率よく注入できる物質であれば特に限定されないが、陽極102を形成する材料と同様の材料を用いることができる。なかでも、スズ、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金、鉄、亜鉛、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムおよびマグネシウムなどの金属またはそれらの合金(マグネシウム-銀合金、マグネシウム-インジウム合金、フッ化リチウム/アルミニウムなどのアルミニウム-リチウム合金など)などが好ましい。電子注入効率をあげて素子特性を向上させるためには、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、マグネシウムまたはこれら低仕事関数金属を含む合金が有効である。しかしながら、これらの低仕事関数金属は一般に大気中で不安定であることが多い。この点を改善するために、例えば、有機層に微量のリチウム、セシウムやマグネシウムをドーピングして、安定性の高い電極を使用する方法が知られている。その他のドーパントとしては、フッ化リチウム、フッ化セシウム、酸化リチウムおよび酸化セシウムのような無機塩も使用することができる。ただし、これらに限定されない。
【0305】
さらに、電極保護のために白金、金、銀、銅、鉄、スズ、アルミニウムおよびインジウムなどの金属、またはこれら金属を用いた合金、そしてシリカ、チタニアおよび窒化ケイ素などの無機物、ポリビニルアルコール、塩化ビニル、炭化水素系高分子化合物などを積層することが、好ましい例としてあげられる。これらの電極の作製法も、抵抗加熱、電子ビーム蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングおよびコーティングなど、導通を取ることができれば特に制限されない。
【0306】
<有機電界発光素子の作製方法>
有機EL素子を構成する各層は、各層を構成すべき材料を蒸着法、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、分子積層法、印刷法、スピンコート法またはキャスト法、コーティング法などの方法で薄膜とすることにより、形成することができる。このようにして形成された各層の膜厚については特に限定はなく、材料の性質に応じて適宜設定することができるが、通常2nm~5000nmの範囲である。膜厚は通常、水晶発振式膜厚測定装置などで測定できる。蒸着法を用いて薄膜化する場合、その蒸着条件は、材料の種類、膜の目的とする結晶構造および会合構造などにより異なる。蒸着条件は一般的に、ボート加熱温度+50~+400℃、真空度10-6~10-3Pa、蒸着速度0.01~50nm/秒、基板温度-150~+300℃、膜厚2nm~5μmの範囲で適宜設定することが好ましい。
【0307】
このようにして得られた有機EL素子に直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を-の極性として印加すればよく、電圧2~40V程度を印加すると、透明または半透明の電極側(陽極または陰極、および両方)より発光が観測できる。また、この有機EL素子は、パルス電流や交流電流を印加した場合にも発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0308】
次に、有機EL素子を作製する方法の一例として、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/ホスト材料とドーパント材料からなる発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極からなる有機EL素子の作製法について説明する。
【0309】
<蒸着法>
適当な基板上に、陽極材料の薄膜を蒸着法などにより形成させて陽極を作製した後、この陽極上に正孔注入層および正孔輸送層の薄膜を形成させる。この上にホスト材料とドーパント材料を共蒸着し薄膜を形成させて発光層とし、この発光層の上に電子輸送層、電子注入層を形成させ、さらに陰極用物質からなる薄膜を蒸着法などにより形成させて陰極とすることにより、目的の有機EL素子が得られる。なお、上述の有機EL素子の作製においては、作製順序を逆にして、陰極、電子注入層、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。
【0310】
<湿式成膜法>
湿式成膜法は、有機EL素子の各有機層を形成し得る低分子化合物を液状の有機層形成用組成物として準備し、これを用いることによって実施される。この低分子化合物を溶解する適当な有機溶媒がない場合には、当該低分子化合物に反応性置換基を置換させた反応性化合物として溶解性機能を有する他のモノマーや主鎖型高分子と共に高分子化させた高分子化合物などから有機層形成用組成物を準備してもよい。
【0311】
湿式成膜法は、一般的には、基板に有機層形成用組成物を塗布する塗布工程および塗布された有機層形成用組成物から溶媒を取り除く乾燥工程を経ることで塗膜を形成する。上記高分子化合物が架橋性置換基を有する場合(これを架橋性高分子化合物ともいう)には、この乾燥工程によりさらに架橋して高分子架橋体が形成される。塗布工程の違いにより、スピンコーターを用いる方法をスピンコート法、スリットコーターを用いる方法をスリットコート法、版を用いる方法をグラビア、オフセット、リバースオフセット、フレキソ印刷法、インクジェットプリンタを用いる方法をインクジェット法、霧状に吹付ける方法をスプレー法と呼ぶ。乾燥工程には、風乾、加熱、減圧乾燥などの方法がある。乾燥工程は1回のみ行なってもよく、異なる方法や条件を用いて複数回行なってもよい。また、例えば、減圧下での焼成のように、異なる方法を併用してもよい。
【0312】
湿式成膜法とは溶液を用いた成膜法であり、例えば、一部の印刷法(インクジェット法)、スピンコート法またはキャスト法、コーティング法などである。湿式成膜法は真空蒸着法と異なり高価な真空蒸着装置を用いる必要が無く、大気圧下で成膜することができる。加えて、湿式成膜法は大面積化や連続生産が可能であり、製造コストの低減につながる。
【0313】
一方で、真空蒸着法と比較した場合には、湿式成膜法は積層化が難しい場合がある。湿式成膜法を用いて積層膜を作製する場合、上層の組成物による下層の溶解を防ぐ必要があり、溶解性を制御した組成物、下層の架橋および直交溶媒(Orthogonal solvent、互いに溶解し合わない溶媒)などが駆使される。しかしながら、それらの技術を用いても、全ての膜の塗布に湿式成膜法を用いるのは難しい場合がある。
【0314】
そこで、一般的には、幾つかの層だけを湿式成膜法を用い、残りを真空蒸着法で有機EL素子を作製するという方法が採用される。
【0315】
例えば、湿式成膜法を一部適用し有機EL素子を作製する手順を以下に示す。
(手順1)陽極の真空蒸着法による成膜
(手順2)正孔注入層用材料を含む正孔注入層形成用組成物の湿式成膜法による成膜
(手順3)正孔輸送層用材料を含む正孔輸送層形成用組成物の湿式成膜法による成膜
(手順4)ホスト材料とドーパント材料を含む発光層形成用組成物の湿式成膜法による成膜
(手順5)電子輸送層の真空蒸着法による成膜
(手順6)電子注入層の真空蒸着法による成膜
(手順7)陰極の真空蒸着法による成膜
この手順を経ることで、陽極/正孔注入層/正孔輸送層/ホスト材料とドーパント材料からなる発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極からなる有機EL素子が得られる。
もちろん、電子輸送層および電子注入層についても、それぞれ電子輸送層用材料および電子注入層用材料を含む層形成用組成物を用いて湿式成膜法により成膜してもよい。その際、下層の発光層の溶解を防ぐ手段、または上記手順とは逆に陰極側から成膜する手段を用いることが好ましい。
【0316】
<その他の成膜法>
有機層形成用組成物の成膜化には、レーザー加熱描画法(LITI)を用いることができる。LITIとは基材に付着させた化合物をレーザーで加熱蒸着する方法で、基材へ塗布される材料に有機層形成用組成物を用いることができる。
【0317】
<任意の工程>
成膜の各工程の前後に、適切な処理工程、洗浄工程および乾燥工程を適宜入れてもよい。処理工程としては、例えば、露光処理、プラズマ表面処理、超音波処理、オゾン処理、適切な溶媒を用いた洗浄処理および加熱処理等があげられる。さらには、バンクを作製する一連の工程もあげられる。
【0318】
バンクの作製にはフォトリソグラフィ技術を用いることができる。フォトリソグラフィの利用可能なバンク材としては、ポジ型レジスト材料およびネガ型レジスト材料を用いることができる。また、インクジェット法、グラビアオフセット印刷、リバースオフセット印刷、スクリーン印刷などのパターン可能な印刷法も用いることができる。その際には永久レジスト材料を用いることもできる。
【0319】
<湿式成膜法に使用される有機層形成用組成物>
有機層形成用組成物は、有機EL素子の各有機層を形成し得る低分子化合物、または当該低分子化合物を高分子化させた高分子化合物を有機溶媒に溶解させて得られる。例えば、発光層形成用組成物は、第1成分として少なくとも1種のドーパント材料である多環芳香族化合物(またはその高分子化合物)と、第2成分として少なくとも1種のホスト材料と、第3成分として少なくとも1種の有機溶媒とを含有する。第1成分は、該組成物から得られる発光層のドーパント成分として機能し、第2成分は発光層のホスト成分として機能する。第3成分は、組成物中の第1成分と第2成分を溶解する溶媒として機能し、塗布時には第3成分自身の制御された蒸発速度により平滑で均一な表面形状を与える。
【0320】
<有機溶媒>
有機層形成用組成物は少なくとも一種の有機溶媒を含む。成膜時に有機溶媒の蒸発速度を制御することで、成膜性および塗膜の欠陥の有無、表面粗さ、平滑性を制御および改善することができる。また、インクジェット法を用いた成膜時は、インクジェットヘッドのピンホールでのメニスカス安定性を制御し、吐出性を制御・改善することができる。加えて、膜の乾燥速度および誘導体分子の配向を制御することで、該有機層形成用組成物より得られる有機層を有する有機EL素子の電気特性、発光特性、効率、および寿命を改善することができる。
【0321】
有機溶媒は、成膜後に、真空、減圧、加熱などの乾燥工程により塗膜より取り除かれる。加熱を行う場合、塗布成膜性改善の観点からは、溶質の少なくとも1種のガラス転移温度(Tg)+30℃以下で行うことが好ましい。また、残留溶媒の削減の観点からは、溶質の少なくとも1種のガラス転移点(Tg)-30℃以上で加熱することが好ましい。加熱温度が有機溶媒の沸点より低くても膜が薄いために、有機溶媒は十分に取り除かれる。また、異なる温度で複数回乾燥を行ってもよく、複数の乾燥方法を併用してもよい。
【0322】
(2)有機溶媒の具体例
有機層形成用組成物に用いられる有機溶媒としては、アルキルベンゼン系溶媒、フェニルエーテル系溶媒、アルキルエーテル系溶媒、環状ケトン系溶媒、脂肪族ケトン系溶媒、単環性ケトン系溶媒、ジエステル骨格を有する溶媒および含フッ素系溶媒などがあげられるが、それだけに限定されない。また、溶媒は単一で用いてもよく、混合してもよい。
【0323】
<任意成分>
有機層形成用組成物は、その性質を損なわない範囲で、任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、バインダーおよび界面活性剤等があげられる。
【0324】
<有機層形成用組成物の組成および物性>
有機層形成用組成物における各成分の含有量は、有機層形成用組成物中の各成分の良好な溶解性、保存安定性および成膜性、ならびに、該有機層形成用組成物から得られる塗膜の良質な膜質、また、インクジェット法を用いた場合の良好な吐出性、該組成物を用いて作製された有機層を有する有機EL素子の、良好な電気特性、発光特性、効率、寿命の観点を考慮して決定される。
【0325】
有機層形成用組成物は、上述した成分を、公知の方法で攪拌、混合、加熱、冷却、溶解、分散等を適宜選択して行うことによって製造できる。また、調製後に、ろ過、脱ガス(デガスとも言う)、イオン交換処理および不活性ガス置換・封入処理等を適宜選択して行ってもよい。
【0326】
<有機電界発光素子の応用例>
また、本発明は、有機EL素子を備えた表示装置または有機EL素子を備えた照明装置などにも応用することができる。
有機EL素子を備えた表示装置または照明装置は、本実施形態にかかる有機EL素子と公知の駆動装置とを接続するなど公知の方法によって製造することができ、直流駆動、パルス駆動、交流駆動など公知の駆動方法を適宜用いて駆動することができる。
【0327】
表示装置としては、例えば、カラーフラットパネルディスプレイなどのパネルディスプレイ、フレキシブルカラー有機電界発光(EL)ディスプレイなどのフレキシブルディスプレイなどがあげられる(例えば、特開平10-335066号公報、特開2003-321546号公報、特開2004-281086号公報など参照)。また、ディスプレイの表示方式としては、例えば、マトリクスおよびセグメント方式などがあげられる。なお、マトリクス表示とセグメント表示は同じパネルの中に共存していてもよい。
【0328】
マトリクスでは、表示のための画素が格子状やモザイク状など二次元的に配置されており、画素の集合で文字や画像を表示する。画素の形状やサイズは用途によって決まる。例えば、パソコン、モニター、テレビの画像および文字表示には、通常一辺が300μm以下の四角形の画素が用いられ、また、表示パネルのような大型ディスプレイの場合は、一辺がmmオーダーの画素を用いることになる。モノクロ表示の場合は、同じ色の画素を配列すればよいが、カラー表示の場合には、赤、緑、青の画素を並べて表示させる。この場合、典型的にはデルタタイプとストライプタイプがある。そして、このマトリクスの駆動方法としては、線順次駆動方法やアクティブマトリックスのどちらでもよい。線順次駆動の方が構造が簡単であるという利点があるが、動作特性を考慮した場合、アクティブマトリックスの方が優れる場合があるので、これも用途によって使い分けることが必要である。
【0329】
セグメント方式(タイプ)では、予め決められた情報を表示するようにパターンを形成し、決められた領域を発光させることになる。例えば、デジタル時計や温度計における時刻や温度表示、オーディオ機器や電磁調理器などの動作状態表示および自動車のパネル表示などがあげられる。
【0330】
照明装置としては、例えば、室内照明などの照明装置、液晶表示装置のバックライトなどがあげられる(例えば、特開2003-257621号公報、特開2003-277741号公報、特開2004-119211号公報など参照)。バックライトは、主に自発光しない表示装置の視認性を向上させる目的に使用され、液晶表示装置、時計、オーディオ装置、自動車パネル、表示板および標識などに使用される。特に、液晶表示装置、中でも薄型化が課題となっているパソコン用途のバックライトとしては、従来方式が蛍光灯や導光板からなっているため薄型化が困難であることを考えると、本実施形態に係る発光素子を用いたバックライトは薄型で軽量が特徴になる。
【0331】
3-2.その他の有機デバイス
本発明に係る多環芳香族化合物は、上述した有機電界発光素子の他に、有機電界効果トランジスタまたは有機薄膜太陽電池などの作製に用いることができる。
【実施例0332】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明していくが、本発明はこれらに限定されない。まず、多環芳香族化合物の合成例について、以下に説明する。
【0333】
化合物(10-1)の合成
【化95】
【0334】
窒素雰囲気下、1,2-ジブロモベンゼン65g、アニリン77g、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)(Pd(dba)2)4.8g、トリ-t-ブチルホスホニウムテトラフルオロほう酸塩(tBu3P-HBF4)4.8g、ナトリウムt-ブトキシド(NaOtBu)79.4gおよびトルエン650mlをフラスコに入れて、撹拌しながら2時間還流した。反応終了後に反応液を室温まで冷却し、水およびトルエンを加え分液した。その後、有機層をシリカゲルショートパスカラム(溶媒:トルエン)で精製した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:トルエン/ヘプタン=1/1)で精製し、中間体化合物N1,N2-ジフェニルベンゼン-1,2-ジアミン63.7gを得た。
【0335】
【化96】
【0336】
窒素雰囲気下、N1,N2-ジフェニルベンゼン-1,2-ジアミン56g、(2-ニトロフェニルボロン酸43.1g、メタンスルホン酸4.1gおよびトルエン1680mlをDean-Starkトラップ付きのフラスコに入れて、撹拌しながら9時間還流した。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、反応液をシリカゲルショートパスカラム(溶媒:トルエン)で精製した後、得られた粗生成物をソルミックス溶剤で洗浄し、中間体化合物2-(2-ニトロフェニル)-1,3-ジフェニル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[d][1,3,2]ジアザボロル48.6gを得た。
【0337】
【化97】
【0338】
窒素雰囲気下、2-(2-ニトロフェニル)-1,3-ジフェニル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[d][1,3,2]ジアザボロル36gとトリフェニルホスフィン84.5gおよび1,2,4-トリクロロベンゼン1800mlをフラスコに入れて攪拌し、8時間還流した。反応終了後、溶媒を減圧蒸留で除去し、次いで、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:トルエン/ヘプタン=1/1)で精製を行い、更に、メタノール溶媒で洗浄して、中間体化合物16-フェニル-10H,16H-ジベンゾ[c,f]ベンゾ[4,5][1,3,2]ジアザボロル[1,2-a][1,5,2]ジアザボレピン3.5gを得た。
【0339】
【化98】
【0340】
窒素雰囲気下、16-フェニル-10H,16H-ジベンゾ[c,f]ベンゾ[4,5][1,3,2]ジアザボロル[1,2-a][1,5,2]ジアザボレピン1.4g、銅0.5g、炭酸カリウム2.0gおよびヨードベンゼン35mlをフラスコに入れて、撹拌しながら6時間還流した。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、反応液をシリカゲルショートパスカラム(溶媒:トルエン)で精製した。次いで、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:トルエン/ヘプタン=1/4)で行った後、メタノールで数回再沈殿を行い、さらに、昇華精製をして、目的化合物(10-1)(0.7g)を得た。
【0341】
【化99】
【0342】
MSスペクトルおよびNMR測定により式(10-1)の化合物の構造を確認した。
1H-NMR(CDCl3):δ=7.97(dd,1H)、7.70(d,1H)、7.65(dd,1H)、7.55(d,1H)、7.49~7.42(m,4H)、7.38~7.24(m,4H)、7.15(dd,1H)、7.10~7.01(m,6H)、6.63(t,1H)、6.55(d,2H)
【0343】
また、式(10-1)の化合物のガラス転移温度(Tg)は93.7℃であった。
[測定機器:Diamond DSC(PERKIN-ELMER社製);測定条件:冷却速度200℃/Min.、昇温速度10℃/Min.]
【0344】
化合物(10-49)の合成
【化100】
【0345】
窒素雰囲気下、16-フェニル-10H,16H-ジベンゾ[c,f]ベンゾ[4,5][1,3,2]ジアザボロル[1,2-a][1,5,2]ジアザボレピン1.7g、55%の水素化ナトリウム(NaH)1.24gおよびジメチルホルムアミド(DMF)77mlをフラスコに入れて、室温で1時間撹拌した。その後、2-クロロ-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン3.8gを加え、更に室温で64時間撹拌した。反応終了後、氷水浴で冷却しながら、徐々に水を添加し、酢酸エチルで抽出した。次いで、有機層の溶媒を減圧留去し得られた粗生成物をNH2シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:トルエン/ヘプタン=1/2(容量比))で精製した後、ソルミックス溶剤で数回再沈殿を行い、さらに、昇華精製をして、目的化合物(10-49)(1.4g)を得た。
【0346】
【化101】
【0347】
MSスペクトルおよびNMR測定により式(10-49)の化合物の構造を確認した。
1H-NMR(CDCl3):δ=8.35(d,2H)、8.32(d,2H)、7.97(dd,1H)、7.76~7.74(m,2H)、7.63(d,1H)、7.53~7.33(m,14H)、7.20~7.16(m,2H)、7.07~7.00(m,3H)
【0348】
化合物(20-1)の合成
【化102】
【0349】
窒素雰囲気下、2-ブロモ-N,N-ジフェニルアニリン33.5g、2-アミノビフェニル19.2g、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)(Pd(dba)2)1.8g、トリ-t-ブチルホスホニウムテトラフルオロほう酸塩(tBu3P-HBF4)1.8g、ナトリウムt-ブトキシド(NaOtBu)19.9gおよびトルエン302mlをフラスコに入れて、撹拌しながら4時間還流した。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、水およびトルエンを加え分液した。その後、有機層をシリカゲルショートパスカラム(溶媒:トルエン)で精製した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:トルエン/ヘプタン=1/2)で精製し、中間体化合物N1-([1,1'-ビフェニル]-2-イル)-N2,N2-ジフェニルベンゼン-1,2-ジアミン(39.9g)を得た。
【0350】
【化103】
【0351】
窒素雰囲気下、N1-([1,1'-ビフェニル]-2-イル)-N2,N2-ジフェニルベンゼン-1,2-ジアミン16.8gおよびトルエン420mlの入ったフラスコを-70℃まで冷却し、n-ブチルリチウムの2.6Mヘキサン溶液16mlを滴下した。滴下終了後、-70℃で1時間、0℃で1時間撹拌した。その後、再び-70℃まで冷却し、三臭化ホウ素10.2gをヘプタンに溶解させたものを滴下した。次いで、反応液を室温まで昇温し、室温で終夜攪拌した。その後、一旦溶媒を減圧留去した。ここに1,2-ジクロロベンゼン504ml、N,N-ジイソプロピルエチルアミン11.1g、三塩化アルミニウム32.6gを加え、160℃で6時間撹拌した。反応液を室温まで冷却し、酢酸ナトリウム氷水溶液に加えた。トルエンを加えて分液した。有機層をシリカゲルショートパスカラム(溶媒:トルエン)、次いで、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:トルエン/ヘプタン=1/3(容量比))で精製した。得られた粗生成物をトルエンで溶かして、ソルミックスで数回再沈殿し、更に酢酸エチルから数回再結晶を行った。最後に昇華精製を行い、目的化合物(20-1)(0.5g)を得た。
【0352】
【化104】
【0353】
MSスペクトルおよびNMR測定により式(20-1)の化合物の構造を確認した。
1H-NMR(CDCl3):δ=8.64(d,1H)、8.58(d,1H)、8.30(d,1H)、7.70(d,2H)、7.63~7.60(m,4H)、7.55~7.48(m,6H)、7.41~7.37(m,2H)、7.27~7.18(m,3H)、7.06(d,1H)
【0354】
化合物(20-17)の合成
【化105】
【0355】
化合物(20-1)の合成において、N1-([1,1'-ビフェニル]-2-イル)-N2,N2-ジフェニルベンゼン-1,2-ジアミン16.8gを化合物(Int-20-17)20.8gに変更した以外同様の手順で目的化合物(20-17)(0.2g)を得た。
【0356】
【化106】
【0357】
LC-MSによりm/z=575.2284に目的物である化合物(20-17)を確認した。
【0358】
化合物(10-33)の合成
【化107】
【0359】
化合物(10-1)の合成において、ヨードベンゼン35mlを化合物(Int-I-mCP)168gに変更した以外同様の手順で目的化合物(10-33)(2.5g)を得た。
【0360】
【化108】
【0361】
LC-MSによりm/z=765.3060に目的物である化合物(10-33)を確認した。
【0362】
化合物(20-79)の合成
【化109】
【0363】
化合物(20-1)の合成において、N1-([1,1'-ビフェニル]-2-イル)-N2,N2-ジフェニルベンゼン-1,2-ジアミン16.8gを化合物(Int-20-79)21.0gに変更した以外同様の手順で目的化合物(20-79)(0.4g)を得た。
【0364】
【化110】
【0365】
LC-MSによりm/z=740.2866に目的物である化合物(20-79)を確認した。
【0366】
化合物(10-82)の合成
【化111】
【0367】
化合物(10-1)の合成において、ヨードベンゼン35mlを化合物(Int-I-DBF-Trz)190gに変更した以外同様の手順で目的化合物(10-82)(5.1g)を得た。
【0368】
【化112】
【0369】
LC-MSによりm/z=756.2810に目的物である化合物(10-82)を確認した。
【0370】
原料の化合物を適宜変更することにより、上述した合成例に準じた方法で、本発明の他の多環芳香族化合物を合成することができる。
【0371】
次に、本発明の化合物の基礎物性の評価と本発明の化合物を用いた有機EL素子の作製と評価について記載する。ただし、本発明の化合物の適用は以下に示した例に限定されず、各層の膜厚や構成材料は本発明の化合物の基礎物性によって適宜変更することができる。
【0372】
<蒸着型有機EL素子の評価>
実施例および比較例に係る有機EL素子を作製し、輝度1000cd/m2における、外部量子効率、およびLT50(初期輝度1000cd/m2における電流密度で連続駆動させたときの500cd/m2になるまでの時間)を測定した。
【0373】
<比較例RS-1>
スパッタリングにより200nmの厚さに製膜したITOを50nmまで研磨した、26mm×28mm×0.7mmのガラス基板((株)オプトサイエンス製)を透明支持基板とした。この透明支持基板を市販の蒸着装置(昭和真空(株)製)の基板ホルダーに固定し、HAT-CN、HTL-1、TcTa、new-DABNA、ETL-1およびET7をそれぞれ入れたモリブデン製蒸着用ボート、LiFおよびアルミニウムをそれぞれ入れたタングステン製蒸着用ボートを装着した。
【0374】
透明支持基板のITO膜の上に順次、下記各層を形成した。真空槽を5×10-4Paまで減圧し、まず、HAT-CNを加熱して膜厚5nmになるように蒸着して正孔注入層を形成した。次に、HTL-1を加熱して膜厚90nmになるように蒸着して正孔輸送層1を形成し、さらにTcTaを加熱して膜厚10nmになるように蒸着して正孔輸送層2を形成した。次に、ETL-1とnew-DABNAを同時に加熱して膜厚20nmになるように蒸着して発光層を形成した。ETL-1とnew-DABNAの質量比がおよそ99対1になるように蒸着速度を調節した。次に、ETL-1を加熱して膜厚20nmになるように蒸着して電子輸送層1を形成し、さらにET7を加熱して膜厚10nmになるように蒸着して二層からなる電子輸送層2を形成した。各層の蒸着速度は0.01~1nm/秒であった。その後、LiFを加熱して膜厚1nmになるように0.01~0.1nm/秒の蒸着速度で蒸着し、次いで、アルミニウムを加熱して膜厚100nmになるように蒸着して陰極を形成し、有機EL素子を得た。このとき、アルミニウムの蒸着速度は1~10nm/秒になるように調節した。
【0375】
<実施例および比較例>
比較例の正孔輸送層2、発光層、電子輸送層1を表1に記載の各材料および濃度へ変更して各素子を作製した。なお、表1において、「ホスト1」は正孔輸送性ホスト材料に該当し、「ホスト2」は電子輸送性ホスト材料に該当する。また、各素子の評価結果を表1に示す。
【0376】
実施例S-1および実施例S-2に示す通り、本発明の化合物を単一のホストとして利用した有機電界発光素子は比較例RS-1に対して高効率と長寿命が得られた。同様に、実施例D-1~D-5に示す通り、本発明の化合物を2つのホストのいずれかとして利用した有機電界発光素子は比較例RD-1に対して高効率と長寿命が得られた。また、本発明の化合物は深いHOMOまたは浅いLUMO、高いT1エネルギーおよび電荷輸送性を有しているために発光層に隣接する正孔輸送層または電子輸送層として利用することもできる。具体的には、実施例HD-1~HD-3、実施例DE-1、実施例E-1および実施例E-2、および実施例H-1および実施例H-2に示す通り、発光層に隣接する正孔輸送層または電荷輸送層に使用した有機電界発光素子は高効率と長寿命が得られた。さらには、実施例HD-1および実施例DE-1に示す通り、発光層および発光層に隣接する正孔輸送層または電子輸送層いずれか2層に使用した有機電界発光素子は最も高効率と長寿命が得られた。加えて、実施例HD-1~実施例HD-3に示す通り、本発明の化合物は高いT1エネルギーを有しているために、高いT1を有する青色TADFドーパントや青色燐光ドーパントのホストとしても使用することができる。
【0377】
【表1】
【0378】
表1における化学構造を以下に示す。
【0379】
【化113】
【0380】
<比較例RDT-1>
スパッタリングにより200nmの厚さに製膜したITOを50nmまで研磨した、26mm×28mm×0.7mmのガラス基板((株)オプトサイエンス製)を透明支持基板とする。この透明支持基板を市販の蒸着装置(昭和真空(株)製)の基板ホルダーに固定し、HAT-CN、HTL-1、TcTa、ETL-1、およびET7をそれぞれ入れたモリブデン製蒸着用ボート、LiFおよびアルミニウムをそれぞれ入れたタングステン製蒸着用ボートを装着する。
【0381】
透明支持基板のITO膜の上に順次、下記各層を形成した。真空槽を5×10-4Paまで減圧し、まず、HAT-CNを加熱して膜厚5nmになるように蒸着して正孔注入層を形成する。次に、HTL-1を加熱して膜厚90nmになるように蒸着して正孔輸送層1を形成し、さらにTcTaを加熱して膜厚10nmになるように蒸着して正孔輸送層2を形成する。次に、ETL-1とnew-DABNAを同時に加熱して膜厚20nmになるように蒸着して発光層を形成する。ETL-1とnew-DABNAの質量比がおよそ99対1になるように蒸着速度を調節する。次に、ETL-1を加熱して膜厚20nmになるように蒸着して電子輸送層1を形成し、さらにET7を加熱して膜厚10nmになるように蒸着して電子輸送層2を形成する。各層の蒸着速度は0.01~1nm/秒とする。その後、LiFを加熱して膜厚1nmになるように0.01~0.1nm/秒の蒸着速度で蒸着し、次いで、アルミニウムを加熱して膜厚100nmになるように蒸着して陰極を形成し、有機EL素子を得ることができる。このとき、アルミニウムの蒸着速度は1~10nm/秒になるように調節する。
【0382】
比較例RDT-1の正孔輸送層2、発光層、電子輸送層1を表2に記載の各材料、濃度へ変更して実施例DT-1~4の各素子を作製する。
【0383】
【表2】
【0384】
表2に記載の化合物の化学構造を以下に示す。
【0385】
【化114】
【0386】
以上、本発明に係る化合物の一部について、有機EL素子用材料としての評価を行い、優れた材料であることを示したが、評価を行っていない他の化合物も同じ基本骨格を有し、全体としても類似の構造を有する化合物であり、当業者においては同様に優れた有機EL素子用材料であることを理解できる。
【符号の説明】
【0387】
100 有機電界発光素子
101 基板
102 陽極
103 正孔注入層
104 正孔輸送層
105 発光層
106 電子輸送層
107 電子注入層
108 陰極
図1