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特開2023-49859温度測定装置及びその保護管の水抜き方法
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  • 特開-温度測定装置及びその保護管の水抜き方法 図1
  • 特開-温度測定装置及びその保護管の水抜き方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023049859
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】温度測定装置及びその保護管の水抜き方法
(51)【国際特許分類】
   G01K 1/08 20210101AFI20230403BHJP
   G01K 7/02 20210101ALI20230403BHJP
   G01L 7/00 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
G01K1/08 N
G01K7/02 Z
G01L7/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021159855
(22)【出願日】2021-09-29
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 真伍
(72)【発明者】
【氏名】小野 一馬
【テーマコード(参考)】
2F055
【Fターム(参考)】
2F055AA39
2F055BB20
2F055CC60
2F055DD20
2F055EE40
2F055FF49
2F055GG49
(57)【要約】
【課題】 保護管内への継手開口部からの水分の侵入を早期に検出すると共に、この侵入した水分を除去することが可能な温度測定装置を提供する。
【解決手段】 オートクレーブに代表される高圧容器内の液温を測定する例えばシース型熱電対からなる温度計11と、温度計11が挿嵌された有底略円筒体の保護管12と、保護管12内に連通する2個のノズルのうちの一方に第1バルブ14を介して接続された圧力検出器13と、もう一方のノズルに第2バルブ22及びチューブ21を介して接続された吸引器20とで構成される温度測定装置であって、チューブ21の先端部が保護管12の底部にまで達している。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧容器内の液温を測定する温度計と、前記温度計が挿嵌された有底略円筒体の保護管と、前記保護管内に連通する2個のノズルのうちの一方に第1バルブを介して接続された圧力検出器と、もう一方のノズルに第2バルブ及びチューブを介して接続された吸引器とで構成される温度測定装置であって、前記チューブの先端部が前記保護管の底部にまで達していることを特徴とする温度測定装置。
【請求項2】
前記第1バルブと前記圧力検出器とが分岐管を有する接続部を介して接続されており、前記分岐管の先端に調整バルブが設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の温度測定装置。
【請求項3】
前記温度計がシース型熱電対温度計であることを特徴とする、請求項1または2に記載の温度測定装置。
【請求項4】
温度計が挿嵌されている有底略円筒体からなる保護管を、その先端部が高圧容器内の処理液に浸漬するように該高圧容器に取り付け、前記保護管内に連通する2個のノズルのうちの一方に常時開の第1バルブを介して圧力検出器を接続して該保護管内の圧力を常時測定し、前記測定した圧力が閾値を超えたときに、もう一方のノズルに第2バルブ及びチューブを介して接続した吸引器を駆動させることで、前記保護管の端部の継手開口部から前記保護管内に侵入した水分を、前記保護管の底部にまで達している前記チューブの先端部から吸引除去することを特徴とする保護管の水抜き方法。
【請求項5】
前記圧力検出器は、分岐管を有する接続部を介して前記一方のノズルに接続されており、前記吸引器を駆動させる時は前記分岐管の先端部に設けた常時閉の調整バルブを開放することを特徴とする、請求項4に記載の保護管の水抜き方法。
【請求項6】
前記温度計がシース型熱電対温度計であることを特徴とする、請求項4又は5に記載の高圧容器内の温度測定方法。
【請求項7】
前記シース型熱電対温度計によって測定された温度が、一定の上限温度と一定の下限温度との間を一定の周期で規則的に上下する経時変化のパターンを示す場合のみ前記吸引器を駆動することを特徴とする、請求項6に記載の保護管の水抜き方法。
【請求項8】
前記高圧容器が、装入された原料スラリーを撹拌しながら温度140~270℃、圧力1.8~5.8MPaGの条件下で浸出処理するオートクレーブであることを特徴とする、請求項4~7のいずれか1項に記載の保護管の水抜き方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温高圧下で浸出処理を行なうオートクレーブに代表される高圧容器に取り付けられる温度測定装置及びその保護管の水抜き方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル酸化鉱石を原料とするニッケル製錬プロセスにおいては、高圧酸浸出法(HPAL法)による湿式製錬法が知られている。この製錬法は、粒度を揃えた原料鉱石に水を加えて調製した鉱石スラリーを硫酸と共に反応容器に装入し、更に高圧蒸気を吹き込んで温度200~270℃程度、圧力1.8~5.8MPaG程度の高温高圧下で酸浸出処理を施すものであり、低ニッケル品位の原料鉱石からニッケルやコバルト等の有価金属を効率よく回収することが可能になる。
【0003】
また、硫酸ニッケル結晶の製造プロセスでは、上記のニッケル製錬プロセスで生産されたニッケルやコバルトの回収物であるニッケルコバルト混合硫化物(MSとも称する)に水を加えて調製したスラリーを反応容器に装入し、更に高圧空気を吹き込んで温度140~200℃程度、圧力1~2MPaG程度の高温高圧下で酸化浸出処理を施すことで、硫酸ニッケル水溶液を生成することが行なわれている。
【0004】
更に、二硫化三ニッケル(Ni)とニッケル(Ni)との固溶物であるニッケルマットを原料とする硫酸ニッケル結晶の製造プロセスでは、粉砕したニッケルマットに水を加えて調製したスラリーを化学量論的に不足するわずかな量の硫黄と共に反応容器に装入し、更に高圧空気を吹き込んで上記のMSを原料とする場合と同程度の高温高圧下で酸化浸出処理を施すことで、硫酸ニッケル水溶液を生成することが行なわれている。
【0005】
上記のような高温高圧下で浸出処理を行なう反応容器には、円筒形状の容器を横向きにしてその内部を隔壁によって区分した撹拌機付きの高圧容器であるいわゆるオートクレーブが一般的に用いられている。このオートクレーブを用いた浸出処理では、内部の処理液の温度は、製品の品質面に影響を及ぼす重要な状態量であるのみならず、正常に反応が進行していることを確認するための重要なパラメータの1つでもあるため、長期間に亘って正確に温度測定できることが求められている。
【0006】
そのため、オートクレーブ等の高圧容器には、熱電対素線を金属シースで被覆したシース型熱電対温度計を更に金属製の保護管(サーモウェル)内に収容した構造の温度測定装置が用いられている。例えば特許文献1には、温度計保護管(以降、単に保護管とも称する)がその先端部を測定対象物に接触するようにして設置されており、この保護管内に差し込んだ金属シースに内蔵されている熱電対によって測定対象物の温度測定を行なう技術が開示されている。なお、一般的には、シース型熱電対温度計を保護管内に収容した構造の温度測定装置が用いられているが、その他、例えば、測温抵抗体を保護管内に収容した構造の温度測定装置が用いられることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-96911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記構造の温度測定装置では、定期点検や温度計の交換時に、該温度計が挿入される保護管端部のフランジ開口部から内部に水分が侵入することがあった。また、パッキンの経年劣化等により保護管端部のフランジシール面の隙間を伝ってフランジ開口部から保護管内に雨水が侵入することもあった。更に、一般的にネジ込み構造となっている上部フランジにおける温度計の貫通部から、シール材の劣化等により保護管内に雨水が侵入することもあった。本明細書においては、上記のような、保護管端部のフランジ開放時のフランジ開口部、保護管端部のフランジシール面の隙間、上部フランジにおける温度計の貫通部等を総称して、「保護管の端部の継手開口部」と呼ぶこととする。上記のように継手開口部から保護管内に水分が侵入した場合は、例えば操業を停止したときに、保護管内にエアーを直接吹き込んで水分を除去することが行なわれていたが、保護管が長くなるとその底部に溜まった水分を除去しきれないことがあった。
【0009】
その結果、底部に溜まった水分によって測定温度に誤指示が生じ、製品の品質にばらつきが生ずることがあった。すなわち、水分によって、例えば金属シースが腐食するので熱電対の抵抗値に変化が生じ、その結果、温度測定が不正確となる。そのため、オートクレーブ内において浸出処理の反応が不安定になり、特に反応不良になると、これが品質上の悪影響を及ぼしたり、撹拌機の翼部にいわゆるベコ付きと称するスケーリングを生じさせたりすることがあった。更に、保護管端部の継手開口部からの水分の侵入によって、例えば金属シースに錆びが生じ、金属シースが腐食して穴が開いたようなときにおいて、その内側からアルミナ粉、酸化マグネシウム粉等の絶縁体が漏れ出すことで金属シースが保護管の内側に癒着し、シース型熱電対温度計のみを交換する際に保護管から引き抜けないこともあった。
【0010】
本発明は上記の従来の温度測定装置が抱える問題点に鑑みてなされたものであり、該温度計保護管内への継手開口部からの水分の侵入を早期に検出すると共に、この侵入した水分を確実に除去することが可能な温度測定装置及びその保護管の水抜き方法を提供すること目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る温度測定装置は、高圧容器内の液温を測定する温度計と、前記温度計が挿嵌された有底略円筒体の保護管と、前記保護管内に連通する2個のノズルのうちの一方に第1バルブを介して接続された圧力検出器と、もう一方のノズルに第2バルブ及びチューブを介して接続された吸引器とで構成される温度測定装置であって、前記チューブの先端部が前記保護管の底部にまで達していることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る保護管の水抜き方法は、温度計が挿嵌されている有底略円筒体からなる保護管を、その先端部が高圧容器内の処理液に浸漬するように該高圧容器に取り付け、前記保護管内に連通する2個のノズルのうちの一方に常時開の第1バルブを介して圧力検出器を接続して該保護管内の圧力を常時測定し、前記測定した圧力が閾値を超えたときに、もう一方のノズルに第2バルブ及びチューブを介して接続した吸引器を駆動させることで、前記保護管の端部の継手開口部から前記保護管内に侵入した水分を、前記保護管の底部にまで達している前記チューブの先端部から吸引除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、温度測定装置の保護管に継手開口部から水分が侵入した場合に素早く検出できるうえ、該保護管から確実に水分を抜き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の温度測定装置が好適に設置されるオートクレーブの模式的な縦断面図である。
図2図1のオートクレーブをII-II方向から見た断面図である。
図3】本発明の温度測定装置の実施形態を示す正面図である。
図4図3の温度測定装置を構成する保護管の斜視図である。
図5図3の温度測定装置を構成する保護管の端部に位置する上部フランジの貫通部における温度計の取付方法の具体例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.オートクレーブ
以下、本発明の実施形態に係る温度測定装置について説明する。先ず、本発明の実施形態に係る温度測定装置が好適に設置されるオートクレーブについて図1を参照しながら説明する。この図1に示すオートクレーブは、両端部に半球状等の鏡板を有する略円筒状の圧力容器を横向きに据付けた横長の缶体1から構成され、その内部は長手方向に略等間隔に並べられた複数枚の隔壁(図1では4枚の隔壁が例示されている)2によって複数の反応室3A~3Eに仕切られている。これら複数の反応室3A~3Eの各々には、酸浸出反応や酸化浸出反応を行なうため撹拌機4が設けられており、また、隔壁2はオーバーフローできるように上部が切り欠かれている。
【0016】
かかる構成により、紙面左端に位置する最も上流側の反応室3Aに入口ノズル5を介して装入された原料スラリーは、紙面右端に位置する最も下流側の反応室3Eに向って隔壁2の上端部をオーバーフローしながら下流側に隣接する反応室に順次移送される。このようにして原料スラリーは各反応室において徐々に浸出処理が施された後、最終的に浸出スラリーとして最も下流側の反応室3Eから出口ノズル6を介して抜き出される。
【0017】
上記構造のオートクレーブに、浸出処理の温度管理を行なうため、図2にも示すように本発明の実施形態の温度測定装置10が設けられている。なお、図1には、簡略化のため、オートクレーブの最も上流側の反応室3Aに1基の温度測定装置10を設けた場合が例示されているが、一般的に、反応室3A~3Eの各々に最低でも1基の温度測定装置10が設置される。
【0018】
2.温度測定装置
次に、本発明の実施形態に係る温度測定装置10について詳細に説明する。この本発明の実施形態に係る温度測定装置10は、図3に示すように、高圧容器である上記オートクレーブ内の測温対象物の処理液の温度を測定するシース型熱電対温度計11と、この温度計11が挿嵌された有底略円筒体の保護管12と、保護管12の内部に連通する第1ノズル12cに第1バルブ14を介して接続された圧力検出器13と、保護管12の内部に連通する第2ノズル12dに第2バルブ22及びチューブ21を介して接続された吸引器20とから構成され、チューブ21の先端部は保護管12の底部にまで達している。なお、図3に示された実施形態においては、温度計がシース型熱電対温度計11の場合について示しているが、本発明の温度測定装置10は、シース型熱電対温度計11に限定されるものではなく、測温抵抗体等の棒状や長尺状の全ての電気式温度計への適用が可能である。
【0019】
なお、図4にも示すように、これら第1ノズル12c及び第2ノズル12dは、保護管12のうちオートクレーブの缶体1の外側に位置する部位、すなわちオートクレーブとの接合用大型フランジ12aと、温度計11との接合用小型フランジ12bとの間の部位に、いずれも保護管12の軸方向に対して垂直な方向に突出するように設けられている。
【0020】
上記のように、保護管12内に連通する第1ノズル12c側に圧力検出器13を接続することにより、保護管12内の圧力を常時測定することが可能になる。これにより、保護管12に保護管12の端部の継手開口部から水分が侵入したときに生じる保護管12内の圧力上昇を素早く検出することができる。また、保護管12内に連通する第2ノズル12d側に吸引器20を接続することにより、保護管12内に侵入した水分を除去することができる。
【0021】
具体的に説明すると、温度計11は、一般的に保護管12の端部にフランジ接続やネジ込み等により取り付けられており、これら継手部のシール性は、温度測定装置が設置される場所の外気温による温度変化や保護管12内の圧力変動の影響を受けやすく、シール部材の経年劣化も加わって封止機能が損なわれることがあった。例えば図5(a)に示すように、保護管12の端部に位置する小型フランジ12bにフランジ接続する上部フランジ12eに設けた貫通孔に温度計11の雄ネジ部をネジ込むことにより取り付けたり、図5(b)に示すように、該上部フランジ12eの貫通孔にニップル形継手12fを締め付けていくことで取り付けたりする。このため、図3に示すように、上記のフランジ接続部Aやネジ込み部Bから保護管12の内側に雨水等が侵入することがあった。更に、温度測定装置の定期点検や温度計11の交換時に小型フランジ12bのフランジ開口部Cから直接保護管12の内部に水分が侵入することもあった。
【0022】
このように、保護管12内に侵入した雨水等の水分は、オートクレーブ内の処理液やガスによって加熱されることで蒸発する。例えばオートクレーブ内の温度が200℃程度の場合、蒸気表によれば水の200℃の飽和蒸気圧は1.55MPaAであるので、侵入後に保護管12の内部が空気から水に完全に置換されたと仮定したら、保護管12内の圧力は最大で1.55MPaAまで上昇する。したがって、上記のように継手開口部から保護管12に水分の侵入が生じたときは、保護管12内の圧力が上昇するので、圧力検出器13で早期に検出することが可能になる。
【0023】
なお、オートクレーブの通常運転時に圧力検出器13で計測される圧力は、例えばオートクレーブ内の温度が200℃のとき、ボイルシャルルの法則によれば、大気圧の0.10MPaAから0.16MPaA程度まで上昇するだけであり、HPAL法で浸出処理する270℃程度の場合であっても高々0.2MPaA程度である。また、保護管12は一般的には高耐圧設計になっていないので、1.55MPaAに保たれることはない。よって、例えば0.3~0.5MPaG程度の閾値以上の圧力が圧力検出器13で検知されたときにDCS(分散制御システム)等を介して警報を発報するのが好ましい。
【0024】
なお、保護管12端部の継手開口部から保護管12内に水分が侵入したときは、温度計11による測定温度の経時変化を示す温度トレンドに、一定の上限温度と、この上限温度よりも5℃程度低い一定の下限温度との間を一定の周期で規則的に上下する特徴的なパターンが表われる。これは、細長形状の保護管12は、保護管12のうちオートクレーブの缶体1の外側に位置する部分のみが低温の外気に曝されるので、この状況があたかも蒸留塔のように作用して内部の水分が下部での蒸発と上部での凝縮とを繰り返すことによるものと考えられる。
【0025】
すなわち、保護管12端部の継手開口部から保護管12内に侵入した水分は、重力で保護管12内の先端部に向って落下し、蒸発する。この蒸発の際、周囲から気化熱を奪うので温度計11の測定温度が一時的に低下する。その後、この蒸発により生じた蒸気は保護管12内を上昇するので、温度計11の測定温度は元の温度に戻る。一方、比較的低温の保護管12上部に到達した蒸気は、ここで冷却されて凝縮する。そして、水分となって落下し、保護管12内の先端部で再び蒸発する。このように、継手開口部から保護管12内に侵入した水分は、下部での蒸発と上部での凝縮とからなるサイクルを繰り返すことになる。この蒸発と凝縮が時系列的に平準化して行なわれれば、温度計11の測定温度は真の値に対して若干低下した状態が継続されるが、水滴が滴下するのに合わせて間欠的に繰り返されるものと推定できる。なお、図3及び4に示すように、保護管12において処理液に浸漬する先端部はシース型熱電対温度計11の形状に合わせて縮径しているが、保護管12の形状はこれに限定されるものではなく、縮径しない構造でも構わない。
【0026】
本発明の実施形態の温度測定装置においては、上記のように継手開口部から保護管12内に水分が侵入したときは、吸引器20を駆動することで保護管12内から水分を抜き出すことができる。この吸引器20には、真空ポンプの一種であるエゼクターを用いることが好ましい。エゼクターは高速の流体を用いてベルヌーイの原理により気体を吸引するものであり、可動部がなくシンプルな構造であるため、コストを抑えることができるからである。
【0027】
具体的には、エゼクターは、駆動流体を高速で噴射させるノズル部と、該噴射された駆動流体により減圧雰囲気になって気体を吸い込む吸込部と、該吸い込んだ気体を噴射された駆動流体と共に吐出するディフューザー部とから構成され、この吸込部にチューブ21の一端部が接続されている。チューブ21の他端部側は、上記の第2ノズル12dを経て保護管12の内側に挿入されており、その先端部は保護管12の底部にまで達している。このチューブ21のうち、第2ノズル12dの外側に位置する部位に第2バルブ22が設けられている。また、チューブ21は、第2ノズル12dにフランジ結合しているブラインドフランジに気密に貫通することで第2ノズル12dに取り付けられている。
【0028】
かかる構成により、エゼクターのノズル部に圧縮空気や蒸気等の駆動流体を導入して吸引器20を駆動させることで、保護管12内の水分をほぼ全量吸い出すことができる。なお、チューブ21の材質は、高圧容器の温度に耐えるものであれば特に限定はなく、例えばテフロン製や金属製のチューブを用いることができ、金属製の場合は外径3mm程度の銅製チューブやステンレス製チューブを好適に用いることができる。
【0029】
上記の保護管12内の水分の吸い出しをスムーズに行なうため、第1ノズル12c側は大気開放されているのが好ましい。これは、例えば、第1バルブ14と圧力検出器13とをT字型継手のような分岐管を有する接続部15を介して接続し、この分岐管の先端に設けた常時閉の調整バルブ16を開放することで実現することができる。なお、必要に応じてこの調整バルブ16の先端に導入配管17を設けてもよい。
【0030】
継手開口部から保護管12内に水分が侵入したときは、前述したように保護管12内の圧力が高圧になると共に、上記した特徴的な温度パターンが温度トレンド上に表われるので、これら圧力と温度の両方の変化を確認した時点で調整バルブ16及び第2バルブ22を共に「閉」から「開」にすると共に、吸引器20を駆動させて保護管12内の水分を除去すればよい。このとき、常時開の第1バルブ14は当然のことながら開状態のままにしておく。この常時開の第1バルブ14は、例えば圧力検出器13を交換するときに閉状態にすることになる。
【0031】
なお、上記の特徴的な温度パターンが温度トレンド上に表われたときに自動的に警報が発報されるようにしてもよい。これは、例えばDCSに上記の温度トレンドを取り込んで温度の微分値を演算させ、その演算した微分値において所定の閾値を超える頻度が単位時間当たり所定の回数以上になった場合に警報を発報させることで実現できる。あるいは、オートクレーブの互いに隣接する反応室同士の測定温度の温度差が、所定の閾値以上になった場合に自動的に警報が発報されるようにしてもよい。
【0032】
なお、吸引器20による保護管12内の水分の吸い出しは、オートクレーブの運転を停止して缶体1がある程度冷却されてから行なうようにしてもよい。この場合は、保護管12内に侵入した水分のほぼ全てが凝縮しているので、より確実に水分を除去することができる。また、保護管12に腐食や摩耗等により穴が開いているときは、高圧の処理液が吹き出すおそれがあるので、圧力検出器13で測定した内部圧力が閾値を超えた時点で直ぐに調整バルブ16を開くのは好ましくない。すなわち、圧力検出器13で測定した内部圧力が所定の閾値を超えていても、温度計11で測定した温度トレンドにおいて上記の規則的に上下する特徴的なパターンが表われていない場合は、吸引器20を駆動させたり調整バルブ16を開けたりせずに、速やかに設備の緊急停止や立ち下げの作業を計画するのが好ましい。
【0033】
以上、説明したように、本発明の実施形態の温度測定装置を用いることで、保護管に保護管端部の継手開口部から水分が侵入した時にすぐに気付くことができるうえ、この侵入した水分を確実に除去できる。これにより、水分により生じた錆び等により金属シースが保護管に癒着する問題が生じなくなる。また、長期間に亘って安定的にオートクレーブで浸出処理を行なうことができるので、製品の品質にばらつきが生じにくくなる。よって、本発明の工業的価値は極めて高い。
【符号の説明】
【0034】
1 缶体
2 隔壁
3A~3E 反応室
4 撹拌機
5 入口ノズル
6 出口ノズル
10 温度測定装置
11 温度計
12 保護管
12a 大型フランジ
12b 小型フランジ
12c 第1ノズル
12d 第2ノズル
12e 上部フランジ
12f ニップル形継手
13 圧力検出器
14 第1バルブ
15 接続部
16 調整バルブ
17 導入配管
20 吸引器
21 チューブ
22 第2バルブ
A フランジ接続部
B ネジ込み部
C フランジ開口部
図1
図2
図3
図4
図5