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  • 特開-合金の処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050113
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】合金の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20230403BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20230403BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20230403BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20230403BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20230403BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/06
C22B3/44 101B
C22B3/22
C22B7/00 C
H01M10/54
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138375
(22)【出願日】2022-08-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2021159496
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021159725
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021181784
(32)【優先日】2021-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021181931
(32)【優先日】2021-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 宏
(72)【発明者】
【氏名】庄司 浩史
(72)【発明者】
【氏名】松岡 いつみ
(72)【発明者】
【氏名】松木 匠
(72)【発明者】
【氏名】三條 翔太
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
(72)【発明者】
【氏名】平郡 伸一
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA19
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA07
4K001DB03
4K001DB04
4K001DB05
4K001DB06
4K001DB24
4K001HA02
5H031EE01
5H031EE04
5H031HH03
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】、廃リチウムイオン電池等のニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金から、効率的に、ニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得る方法を提供する。
【解決手段】本発明は、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金から、ニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得る合金の処理方法であって、合金に対して、硫化剤が共存する状態で酸溶液を添加して浸出処理を施し、浸出液と浸出残渣とを得る浸出工程S1と、得られた浸出液に、還元剤と、硫化剤とを添加し、少なくともその浸出液に含まれる銅を硫化する脱銅処理を施し、脱銅後液と脱銅残渣とを得るセメンテーション工程S2と、を含み、セメンテーション工程S2での脱銅処理を経て得られた脱銅残渣を、浸出工程S1に繰り返し、合金と共に浸出処理に供することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金から、ニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得る合金の処理方法であって、
前記合金に対して、硫化剤が共存する状態で酸溶液を添加して浸出処理を施し、浸出液と浸出残渣とを得る浸出工程と、
前記浸出工程で得られた浸出液に、還元剤と、硫化剤とを添加し、少なくとも該浸出液に含まれる銅を硫化する脱銅処理を施し、脱銅後液と脱銅残渣とを得るセメンテーション工程と、を含み、
前記セメンテーション工程での脱銅処理を経て得られた前記脱銅残渣を、前記浸出工程に繰り返し、前記合金と共に浸出処理に供する、
合金の処理方法。
【請求項2】
前記セメンテーション工程での脱銅処理を経て得られた前記脱銅残渣を分離回収した後、該脱銅残渣をスラリー化してから1.5時間以内に、該脱銅残渣を前記浸出工程に繰り返し、前記合金と共に浸出処理に供する、
請求項1に記載の合金の処理方法。
【請求項3】
前記セメンテーション工程での脱銅処理を経て得られた前記脱銅残渣をスラリーとし、該脱銅残渣のスラリーのpHを3.0以下に維持しながら、該脱銅残渣を前記浸出工程に繰り返し、前記合金と共に浸出処理に供する、
請求項1に記載の合金の処理方法
【請求項4】
前記セメンテーション工程では、前記硫化剤の添加量を、前記浸出液に含まれる銅に対して1.0当量未満となる量とする、
請求項1乃至3のいずれかに記載の合金の処理方法。
【請求項5】
前記セメンテーション工程では、前記還元剤として、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含有する合金を用いる、
請求項1に記載の合金の処理方法。
【請求項6】
前記浸出工程に繰り返し供される前記脱銅残渣には、前記合金が残存している、
請求項5に記載の合金の処理方法。
【請求項7】
前記セメンテーション工程では、前記硫化剤の添加量を、前記浸出液及び前記還元剤として用いる前記合金に含まれる銅に対して1.0当量未満となる量とする、
請求項5に記載の合金の処理方法。
【請求項8】
前記セメンテーション工程では、前記還元剤として添加する前記合金の量を、前記浸出液に含まれる銅を硫化して硫化銅として沈殿させるのに要する当量の1.0倍以上2.0倍以下の範囲の量とする、
請求項5に記載の合金の処理方法。
【請求項9】
前記合金は、リチウムイオン電池の廃電池を熔解して得られた合金を含む、
請求項1に記載の合金の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金からニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得る合金の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリット自動車等の車両、及び携帯電話やスマートフォン、パソコン等の電子機器には、軽量で大出力であるという特徴を有するリチウムイオン電池(以下「LIB」とも称する)が搭載されている。
【0003】
LIBは、アルミニウムや鉄等の金属製あるいは塩化ビニル等のプラスチック製の外装缶の内部に、銅箔を負極集電体に用いて表面に黒鉛等の負極活物質を固着させた負極材と、アルミニウム箔からなる正極集電体にニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質を固着させた正極材を、ポリプロピレンの多孔質樹脂フィルム等からなるセパレータと共に装入し、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質を含んだ有機溶媒を電解液として含浸させた構造を有する。
【0004】
LIBは、上記のような車両や電子機器等の中に組み込まれて使用されると、やがて自動車や電子機器等の劣化、あるいはLIB自身の寿命等によって使用できなくなり、廃リチウムイオン電池(廃LIB)となる。なお、「廃LIB」には、製造工程内で不良品として発生したものも含まれる。
【0005】
これらの廃LIBには、ニッケルやコバルト、銅などの有価成分が含まれており、資源の有効活用のためにも、それら有価成分を回収して再利用することが望まれる。
【0006】
一般に、金属で作製された装置や部材、材料から有価成分を効率よく回収しようとする場合、炉等に投入して高温で熔解し、有価物を含むメタルとそれ以外のスラグとに分離する乾式製錬の原理を利用した乾式処理が従来から広く行われている。例えば、特許文献1には、乾式処理を用いて有価金属の回収を行う方法が開示されている。特許文献1に開示の方法を廃LIBからの有価金属の回収に適用することで、ニッケル、コバルトを含む銅合金を得ることができる。
【0007】
このような乾式処理(以下、「乾式法」とも称する)は、炉を用いて高温に加熱するためにエネルギーを要するという短所があるが、様々な不純物を一括して分離できる利点がある。しかも、乾式処理で得られるスラグは、化学的に安定な性状であり、環境に影響する懸念が少なく、処分しやすい利点もある。
【0008】
しかしながら、乾式処理で廃LIBを処理した場合、一部の有価成分、特にコバルトのほとんどがスラグに分配され、コバルトの回収ロスとなることが避けられないという問題があった。また、乾式処理で得られたメタルは、有価成分が共存した合金であり、再利用するためには、この合金から成分ごとに分離し、不純物を除去する精製が必要となる。
【0009】
乾式処理で一般的に用いられてきた元素分離の方法として、高温の熔解状態から徐冷することで、例えば、銅と鉛とを分離したり、鉛と亜鉛とを分離するといった方法が知られている。ところが、廃LIBのように銅とニッケルが主な成分である場合、銅とニッケルは全組成範囲で均一熔融する性質を持つため、徐冷しても銅とニッケルが層状に混合固化するのみで分離はできない。
【0010】
さらに、一酸化炭素(CO)ガスを用いてニッケルを不均化反応させ銅やコバルトから揮発させて分離する精製方法もあるが、有毒性のCOガスを用いるため、安全性の確保が難しいといった問題もある。
【0011】
また、工業的に行われてきた銅とニッケルを分離する方法として、混合マット(硫化物)を粗分離する方法がある。この方法では、製錬工程で銅とニッケルを含むマットを生成させ、これを上述の場合と同様に徐冷することで、銅を多く含む硫化物とニッケルを多く含む硫化物とに分離するものである。ところが、この分離方法でも、銅とニッケルの分離は粗分離程度に留まり、純度の高いニッケルや銅を得るためには、別途、電解精製等の処理が必要となる。
【0012】
その他にも、塩化物を経て蒸気圧差を利用する方法も検討されてきた。しかしながら、有毒な塩素を大量に取り扱うプロセスとなるため、装置の腐食対策や安全対策等を大掛かりに要し、工業的に適した方法とは言い難い。
【0013】
このように、乾式処理での各元素の分離精製は、粗分離レベルに留まるか、あるいは高コストになるという欠点を有している。
【0014】
一方で、酸処理や中和処理、溶媒抽出処理等を用いる湿式製錬の方法を用いた湿式処理(以下、「湿式法」とも称する)は、消費するエネルギーが少なく、混在する有価成分を個々に分離して高純度な品位で回収できる利点がある。
【0015】
しかしながら、湿式処理を用いて廃LIBを処理する場合、廃LIBに含有される電解液成分の六フッ化リン酸アニオン等は、高温、高濃度の硫酸でも完全に分解させることができない難処理物であり、有価成分を浸出した酸溶液に混入することになる。六フッ化リン酸アニオンは、水溶性の炭酸エステルであることから、有価物を回収した後の水溶液からリンやフッ素を回収することも困難となり、公共海域等への放出を抑制するために種々の対策を講じることが必要になる等、環境面の制約が大きい。
【0016】
さらに、酸だけで廃LIBから有価成分を効率的に浸出して精製に供することができる溶液を得ることは容易でない。特に、廃LIB本体は、酸等では浸出され難く、完全に有価成分を浸出させることは容易でない。また、酸化力の強い酸を用いる等して強引に浸出すると、有価成分と共に工業的には回収対象でないアルミニウムや鉄、マンガン等の不純物成分までもが浸出されてしまい、不純物を中和等で処理するための中和剤のコストが増加し、発生する排水量や澱物量が増加する問題が生じる。またさらに、廃LIBには電荷が残留していることがあり、そのまま処理しようとすると、発熱や爆発等を引き起こす恐れがあるため、残留電荷を放電するための処理等の手間がかかる。
【0017】
このように湿式処理だけを用いて廃LIBを処理することも、必ずしも有利な方法とは言えなかった。
【0018】
そこで、上述した乾式処理や湿式処理の単独処理では困難な廃LIBを、乾式処理と湿式処理を組み合わせた方法、つまり廃LIBを焙焼する等の乾式処理によって不純物をできるだけ除去して均一な廃LIB処理物とし、得られた処理物を湿式処理によって有価成分とそれ以外の成分とに分離しようとする試みが行われてきた。
【0019】
このような乾式処理と湿式処理を組み合わせた方法では、電解液のフッ素やリンは乾式処理で揮発して除去され、廃LIBの構造部品であるプラスチックやセパレータ等の有機物による部材も熱で分解される。また、乾式処理を経て廃LIB処理物は、均一な性状で得られるため、湿式処理の際にも均一な原料として取り扱いしやすい。
【0020】
しかしながら、単なる乾式処理と湿式処理との組み合わせだけでは、廃LIBに含まれるコバルトがスラグに分配されるという回収ロスの問題は依然として残る。
【0021】
例えば、乾式処理での処理条件を調整することで、コバルトをスラグでなくメタルに効率的に分配させ、スラグへの分配を減じるように還元熔融する方法も考えられる。ところが、そのような方法で得られたメタルは、銅をベースとしてニッケル及びコバルトを含有する難溶性の耐蝕合金となってしまう。この耐蝕合金から、湿式処理によって有価成分を分離して回収しようとしても、酸溶解が難しく効果的に回収できなくなる。
【0022】
耐蝕合金を浸出するために、例えば塩素ガスを用いた場合、得られた溶解液(浸出液)には、高濃度の銅と比較的低濃度のニッケルやコバルトが含有するようになる。その中で、ニッケルとコバルトは溶媒抽出等の公知の方法を用いて容易に分離できるものの、特に銅を、ニッケルやコバルトと容易にかつ低コストに分離することは困難となる。
【0023】
以上のように、有価成分である銅、ニッケル、コバルトの他に様々な成分を含有する廃LIB等に由来する合金から、効率的に、銅とニッケル及び又はコバルトとを分離することは難しかった。
【0024】
なお、上述した問題は、廃LIB以外の廃電池からニッケル及び/又はコバルトと銅とを分離する場合においても同様に存在し、さらに、廃電池以外に由来する合金からニッケル及び/又はコバルトと銅とを分離する場合においても、同様に存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】特開2012-172169号公報
【特許文献2】特開昭63-259033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、廃リチウムイオン電池等のニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金から、効率的に、ニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、合金を酸で浸出する浸出工程と、得られた浸出液に対して脱銅処理を施すセメンテーション工程とを含む処理方法において、脱銅処理を経て得られた脱銅残渣を浸出工程に繰り返し、処理原料の合金と共に浸出処理を施すようにすることで、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0028】
(1)本発明の第1の発明は、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金から、ニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得る合金の処理方法であって、前記合金に対して、硫化剤が共存する状態で酸溶液を添加して浸出処理を施し、浸出液と浸出残渣とを得る浸出工程と、前記浸出工程で得られた浸出液に、還元剤と、硫化剤とを添加し、少なくとも該浸出液に含まれる銅を硫化する脱銅処理を施し、脱銅後液と脱銅残渣とを得るセメンテーション工程と、を含み、前記セメンテーション工程での脱銅処理を経て得られた前記脱銅残渣を、前記浸出工程に繰り返し、前記合金と共に浸出処理に供する、合金の処理方法である。
【0029】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記セメンテーション工程での脱銅処理を経て得られた前記脱銅残渣を分離回収した後、該脱銅残渣をスラリー化してから1.5時間以内に、該脱銅残渣を前記浸出工程に繰り返し、前記合金と共に浸出処理に供する、合金の処理方法である。
【0030】
(3)本発明の第3の発明は、第1の発明において、前記セメンテーション工程での脱銅処理を経て得られた前記脱銅残渣をスラリーとし、該脱銅残渣のスラリーのpHを3以下に維持しながら、該脱銅残渣を前記浸出工程に繰り返し、前記合金と共に浸出処理に供する、合金の処理方法である。
【0031】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記セメンテーション工程では、前記硫化剤の添加量を、前記浸出液に含まれる銅に対して1当量未満となる量とする、合金の処理方法である。
【0032】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至4のいずれかの発明において、前記セメンテーション工程では、前記還元剤として、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含有する合金を用いる、合金の処理方法である。
【0033】
(6)本発明の第6の発明は、第5の発明において、前記浸出工程に繰り返し供される前記脱銅残渣には、前記合金が残存している、合金の処理方法である。
【0034】
(7)本発明の第7の発明は、第5の発明において、前記セメンテーション工程では、前記硫化剤の添加量を、前記浸出液及び前記還元剤として用いる前記合金に含まれる銅に対して1当量未満となる量とする、合金の処理方法である。
【0035】
(8)本発明の第8の発明は、第5の発明において、前記セメンテーション工程では、前記還元剤として添加する前記合金の量を、前記浸出液に含まれる銅を硫化して硫化銅として沈殿させるのに要する当量の1.0倍以上2.0倍以下の範囲の量とする、合金の処理方法である。
【0036】
(9)本発明の第9の発明は、第1乃至第8のいずれかの発明において、前記合金は、リチウムイオン電池の廃電池を熔解して得られた合金を含む、合金の処理方法である。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、廃リチウムイオン電池等のニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金から、効率的に、ニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】合金の処理方法の流れの一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0040】
本実施の形態に係る合金の処理方法は、ニッケル及び/又はコバルトと、銅と、を含む合金から、ニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得る方法である。
【0041】
処理対象である、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金としては、例えば、自動車や電子機器等の劣化による廃棄物、リチウムイオン電池の寿命に伴い発生したリチウムイオン電池のスクラップ、又は電池製造工程内の不良品等の廃電池等を用いることができる。また、そのような廃電池等を乾式処理に付して加熱熔融(熔解)することによって還元して得られる合金を用いることができる。
【0042】
以下では、リチウムイオン電池の廃電池(以下、「廃リチウムイオン電池」ともいう)を熔解して得られる合金(ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金)を処理対象とする場合を例として合金の処理方法をより詳細に説明する。
【0043】
図1は、本実施の形態に係る合金の処理方法の流れの一例を示す工程図である。この方法は、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金(以下、単に「合金」ともいう)に対して硫化剤が共存する状態で酸溶液を添加して浸出処理を施し、浸出液と浸出残渣とを得る浸出工程S1と、得られた浸出液に、還元剤と、硫化剤とを添加し、少なくともその浸出液に含まれる銅を硫化する脱銅処理を施し、脱銅後液と脱銅残渣とを得るセメンテーション工程S2と、を含む。
【0044】
そして、本実施の形態に係る方法では、セメンテーション工程S2での脱銅処理を経て得られた脱銅残渣の少なくとも一部又は全部を、浸出工程S1に繰り返して、その脱銅残渣を合金と共に浸出処理に供することを特徴としている。
【0045】
また、好ましくは、セメンテーション工程S2での脱銅処理を経て得られた脱銅残渣を分離回収した後、その脱銅残渣をスラリー化してから所定の時間内に、その脱銅残渣を浸出工程に繰り返す。
【0046】
また、好ましくは、セメンテーション工程S2での脱銅処理を経て得られた脱銅残渣をスラリーとし、その脱銅残渣のスラリーのpHを特定の範囲に維持しながら、その脱銅残渣を浸出工程に繰り返す。
【0047】
また、好ましくは、セメンテーション工程S2では、硫化剤の添加量を、浸出液に含まれる銅に対して1当量未満となる量とする。
【0048】
[浸出工程]
(浸出処理について)
浸出工程S1では、被浸出処理物に対して、酸による浸出処理を施して浸出液を得る。このとき、合金を酸に接触させる前、あるいは合金に酸を接触させるのと同時に、硫化剤を添加して、その硫化剤が共存する条件下で浸出処理を施す。このような浸出処理により、ニッケル及び/又はコバルトを溶解した浸出液と、主として硫化銅を含む浸出残渣とを得る。
【0049】
ここで、浸出処理に供される「被浸出処理物」とは、処理原料であるニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金である。また、それと共に、詳しくは後述するように、セメンテーション工程S2での脱銅処理を経て得られる脱銅残渣が含まれる。なお、初回の処理では、その被浸出処理物は、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金となる。
【0050】
具体的に、浸出処理では、被浸出処理物に対して硫化剤が共存する状態で酸溶液を添加して接触させることで、下記反応式[1]、[2]で示す反応が生じる。なお、下記反応式では、酸として硫酸を用い、硫化剤として単体硫黄を用いた場合の例を示す。
Cu-Ni+S ⇒ CuS+NiO ・・・[1]
NiO+HSO+1/2O ⇒ NiSO+HO ・・・[2]
【0051】
浸出処理では、上記の反応式に示されるように、ニッケル及び/又はコバルトの硫酸溶液(浸出液)と、主に硫化銅からなる浸出残渣とが生成する。本実施の形態に係る方法では、このように、硫化剤が共存した状態で合金に対して酸による浸出処理を施すことにより、合金から浸出された銅を硫化銅として析出させて、浸出残渣として分離することができる。生成した浸出残渣については、系外に払い出し、例えば銅製錬の原料として利用することができる。
【0052】
一方で、上述したように、合金に対して酸による浸出処理を施すことで、ニッケル及び/又はコバルトを浸出させ、そのニッケル及び/又はコバルトを含む浸出液を得ることができる。
【0053】
また、本実施の形態に係る方法では、後述するセメンテーション工程S2での脱銅処理を経て得られた脱銅残渣を浸出工程S1に繰り返し、被浸出処理物として、合金と共にその脱銅残渣に対しても酸による浸出処理を施すようにしている。後述するように、セメンテーション工程S2での脱銅処理を経て繰り返される脱銅残渣には、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金がごく一部残存している。
【0054】
したがって、その脱銅残渣の少なくとも一部又は全部を、浸出工程S1での浸出処理に供することで、その脱銅残渣に残存したニッケル及び/又はコバルトの回収ロスを抑制することができ、ニッケル及び/コバルトをより高い濃度で含有する溶液を効率的に得ることができる。
【0055】
また、好ましくは、脱銅残渣を浸出工程S1に繰り返し供給する際に、その脱銅残渣をスラリー化してから特定の時間以内に、具体的には1.5時間以内に、浸出工程S1に繰り返して浸出処理に供するようにする。
【0056】
上述したように、脱銅残渣には、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金がごく一部残存しており、脱銅残渣をスラリー化して浸出工程S1に繰り返し供することで、残存する合金からニッケル及び/又はコバルトを有効に浸出することができる。ただし、このとき、脱銅残渣を浸出処理に付すまでの時間が長すぎると、ニッケルやコバルトの浸出率が低下し、浸出残渣に含有されてしまいロスとなることが、本発明者らの研究により見出された。すなわち、脱銅残渣を浸出工程S1に繰り返し浸出処理に供する際において、脱銅残渣を含むスラリーを放置する時間と浸出率との関係が見出された。このことは、脱銅残渣を液(スラリー)中で放置すると、合金中のニッケル及び/又はコバルトと、セメンテーション工程S2での脱銅処理で添加した硫化剤(例えば単体硫黄)とが反応して硫化物(NiS,CoS)の形態となり、例えばpHを1程度とする浸出条件下では浸出が効果的に進行しないためであると考えられる。
【0057】
このことから、好ましくは、脱銅残渣を液中で放置する時間を特定の時間以内に制御する、言い換えると、脱銅残渣を液中で長時間に亘って放置せずに速やかに浸出工程S1に繰り返して浸出処理に供するようにする。具体的には、上脱銅残渣をスラリー化してから1.5時間以内に浸出工程S1に繰り返して浸出処理に供する。これにより、ニッケルやコバルトの硫化物の生成を効果的に抑制することができ、浸出工程S1でのニッケル及び/又はコバルトの浸出効率の低下を防止することができる。
【0058】
また、好ましくは、脱銅残渣を浸出工程S1に繰り返し供給する際に、その脱銅残渣のスラリーのpHを特定の範囲に、具体的にはpH3.0以下に調整し維持しながら、浸出工程に繰り返して浸出処理に供するようにする。
【0059】
脱銅残渣を浸出工程S1に繰り返す際には、ハンドリング性等の観点からも、その脱銅残渣をスラリー化することが好ましい。ところが、脱銅残渣をスラリー化してからの保管時間が長いと、スラリーのpHが上昇するとともに、その脱銅残渣に含まれる未反応の硫化剤と反応して、難溶性の硫化物(NiS,CoS)が生成しやすくなることが、本発明者らの研究により見出された。上述したように、これら硫化物は、pHが1.0~1.6での浸出条件では溶解されず、その結果、生成する浸出残渣にニッケルやコバルトが分配されてロスとなる。
【0060】
このことから、好ましくは、脱銅残渣のスラリーを調製した後、そのスラリーのpHを3.0以下に調整し維持しながら、浸出工程に繰り返して浸出処理に供するようにする。これにより、ニッケルやコバルトの硫化物の生成を効果的に抑制することができ、浸出工程S1でのニッケル及び/又はコバルトの浸出効率の低下を防止することができる。
【0061】
(合金について)
処理対象である合金として、その形状は特に限定されない。廃リチウムイオン電池を熔解して得られる合金を板状に鋳造した合金、線状に引き抜き適宜切断して棒材とした合金、粉状の合金(以下、粉状の合金を「合金粉」とも称する)等が挙げられ、その形状は特に限定はされない。
【0062】
中でも、処理対象の合金としては、粉状の合金粉であることにより、効果的にかつ効率的に浸出処理を施すことができる。
【0063】
合金粉を用いる場合、その粒径が概ね300μm以下であることが好ましい。このような粒径の合金粉を処理対象とすることで、より効果的に浸出処理を施すことができる。一方、合金粉の粒径が小さすぎると、その調製にコストがかかる上に、発塵又は発火の原因にもなる。そのため、合金粉の粒径は、概ね10μm以上であることが好ましい。
【0064】
浸出処理においては、処理対象である合金に対して予め薄い酸で予備洗浄を行うことが好ましい。これにより、合金の表面に活性処理を施すことができ、浸出反応を促進させることができる。
【0065】
(酸について)
浸出処理に用いる酸(酸溶液)としては、硫酸、塩酸、硝酸等の酸を用いることができる。その中でも、合金としてリチウムイオン電池(LIB)の廃電池(廃LIB)を熔解して得られたものを用い、その廃LIBをリサイクルして再びLIB原料に供する理想的な循環方法である所謂「バッテリー トゥ バッテリー」を実現するプロセスとする場合には、酸として硫酸を含むものを用いることが好ましい。酸として硫酸を用いることで、LIBの正極材に利用し易い硫酸塩の形態で浸出液を得ることができる。
【0066】
なお、酸としては、1種を単独で用いてもよく、あるいは複数種を混合して用いてもよい。また、硫酸中に塩化物を含有させてこれを酸として用いてもよい。
【0067】
酸の添加量は、特に限定されないが、処理対象である合金及び脱銅残渣に含まれるニッケル及び/又はコバルトの合計量に対して、1当量以上であることが好ましく、1.2当量以上であることがより好ましい。酸の添加量を増やすことで反応速度を大きくすることができ、より効率的な処理を施すことができる。なお、酸の添加量の上限値としては、11当量以下とすることが好ましい。
【0068】
また、浸出処理においては、合金と酸とをシックナーのような混合部を複数段連結させた装置に供給して、その合金と酸とを向流で段階的に接触させるようにしてもよい。例えば、合金をその装置の最上段の混合部に供給し、酸を装置の最下段の混合部に供給し、それらを向流で段階的に接触させる。
【0069】
(硫化剤について)
酸と共に添加して合金に共存させる硫化剤としては、水硫化ナトリウムや単体硫黄等の一般に知られたものを用いることができる。例えば、固体の硫化剤である場合、反応が進み易いように適度に粉砕することが好ましい。なお、浸出工程S1での浸出処理に用いる硫化剤と、後述するセメンテーション工程S2での脱銅処理に用いる硫化剤とは、同じものであってもよく、異なるものであってもよい。
【0070】
硫化剤の量に関して、その1当量は、上記の反応式[1]に従って定義することができる。そしてそのとき、硫化剤の量としては、1当量以上2当量以下であることが好ましい。硫化剤の量が1当量未満では、銅の除去が不完全となる可能性がある。一方で、2当量を超える量を添加しても未反応の硫化剤が残ることでニッケルやコバルトのような溶液として分離すべき成分までも硫化物となり未回収となる懸念がある。
【0071】
(処理条件について)
浸出処理では、得られる浸出液のpHや酸化還元電位(ORP)を測定し、測定したpHやORPを監視して制御することが好ましい。
【0072】
浸出処理によってニッケルやコバルトのメタルが酸に溶解するのに伴い、酸が消耗されるに従ってpHが上昇していく。そのため、pH条件として、有価金属の浸出反応が促進される範囲に適切に制御しながら処理を行うことが好ましい。
【0073】
具体的に、pH条件については、特に限定されないが、得られる浸出液のpHが0.8以上1.6以下の範囲となるように制御することが好ましく、1.0以上1.6以下の範囲となるように制御することがより好ましい。これらのような範囲で浸出処理を施すことで、浸出が促進されるとともに、析出した硫化銅が過剰に酸化されて再溶解する事態をより効果的に抑制することができる。
【0074】
pHの制御は、酸の添加量を調整することで行うことができる。反応終点までの酸の添加量の目安としては、合金に含まれるニッケル及び/又はコバルトの合計量に対して1.2当量程度であることが好ましい。
【0075】
また、酸化還元電位(ORP)については、特に限定されないが、銀/塩化銀電極を参照電極とする値で240mV以上280mV以下の範囲に制御しながら浸出処理を施すことが好ましい。
【0076】
ORPを制御する具体的な手段としては、例えば、酸化剤を添加する方法が挙げられる。酸化剤としては、酸素、エアー、過酸化水素、オゾンガス等の従来公知のものを使用することができる。例えば、酸化剤として気体状(ガス状)のものを用いる場合、溶液内にバブリングし、その供給量(送気量)を調整することで、浸出処理で得られる浸出液のORPを制御することができる。具体的には、浸出液のORPが上昇し過ぎた場合には、酸化剤の供給量を減らし又は停止することにより、ORPを低下させることができる。逆に、浸出液のORPが下限付近に低下した場合には、酸化剤の供給量を増やすことにより、ORPを上昇させることができる。
【0077】
このように、ORPを、例えば上述した範囲に制御して浸出処理を施すことで、ニッケル及び/又はコバルトの浸出が促進されるとともに、析出した硫化銅が過剰に酸化されて再溶解することを抑制でき、銅と、ニッケル及び/又はコバルトとをより効果的に分離することができる。
【0078】
なお、ORPは、pHや温度により変動するため、浸出処理に際しては、ORP、pH、及び液温を同時測定しながら、それぞれの適正範囲を同時に維持できるように制御することが好ましい。
【0079】
また、浸出処理においては、反応温度や処理時間、合金を含むスラリーの濃度等の条件について、予備試験を行って適切な範囲を定めることが好ましい。また、浸出処理では、均一な反応が進行するように、エアー等で浸出液をバブリングしてもよい。さらに、浸出処理では、2価の銅イオンを添加してもよく、これにより2価の銅イオンが触媒となって浸出反応を促進させることができる。
【0080】
[セメンテーション工程]
セメンテーション工程(「脱銅工程」又は「還元工程」とも称する)S2では、浸出工程S1での処理で得られた浸出液に対して、還元剤と、硫化剤とを添加し、少なくともその浸出液に含まれる銅を硫化する(下記反応式[3])脱銅処理(セメンテーション処理)を施し、ニッケル及び/又はコバルトを含む脱銅後液(セメンテーション後液)と、硫化銅を含む脱銅残渣(セメンテーション残渣)とを得る。
CuSO+Ni-Cu+2S ⇒ NiSO+2CuS ・・・[3]
【0081】
浸出工程S1における浸出処理では、ニッケル及び/又はコバルトと共に、合金及び脱銅残渣に含まれる銅が酸により浸出し溶液中に溶解して、硫化剤と反応せずにその一部が溶液中に残存することがある。そこで、セメンテーション工程S2では、浸出液に含有する微量の銅を硫化(還元)することで、銅を硫化銅の形態の沈澱物とした脱銅残渣を生成させ、ニッケル及び/又はコバルトを含む脱銅後液(還元液)を固液分離する。
【0082】
特に、例えば浸出処理において浸出液のORPを280mV以上に制御しながら浸出処理を行ったような場合では、ニッケル及び/又はコバルトの浸出率は高くなるものの、同時に銅も浸出されるため、浸出液中に銅が含まれ易くなる。同様に、浸出液のpHを1.6以下に制御しながら浸出処理した場合でも、ニッケル及び/又はコバルトの浸出率は高くなるものの、同時に銅も浸出され、銅が浸出液中に含まれ易くなる。このような点で、浸出工程S1を経て得られた浸出液に対して脱銅処理を施すことで、ニッケル及び/又はコバルトの浸出率を高く維持した状態で、銅を選択的に分離することができる。
【0083】
還元剤としては、特に限定されず、固体又は液体の還元剤を用いることができる。例えば、固体の還元剤としては、銅よりも卑な金属を用いることができる。その中でも、ニッケル及び/又はコバルトを含む合金を用い、浸出液とその還元剤である合金とを接触させて銅を還元することが好ましい。
【0084】
また、還元剤としてニッケル及び/又はコバルトを含む合金を用いる場合、浸出処理の処理対象と同様に、リチウムイオン電池の廃電池(廃リチウムイオン電池)を熔解して得られた合金を用いることができる。そもそも、この合金の処理方法は、ニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得るものであることから、その回収対象であるニッケル及び/又はコバルトを含んだ合金(例えば廃リチウムイオン電池を熔解して得られる合金)を還元剤として用いることで、還元に寄与した部分の合金を浸出させる効果も生じる。
【0085】
すなわち、セメンテーション工程S2での脱銅処理の対象である浸出液は、浸出工程S1にて硫酸等の酸により浸出処理を施して得られた酸溶液である。したがって、還元剤として、ニッケル及び/又はコバルトを含んだ合金を用いることで、その合金は、浸出液に含まれる銅を固定化するための還元剤として作用する一方で、酸溶液であるその浸出液によって浸出され、合金を構成するニッケル及び/又はコバルトを脱銅後液(還元液)中に溶解させることができる。
【0086】
このように、合金を還元剤として利用することで、還元剤を別途用意する必要がなく工業的にも有利である。また、ニッケル及び/又はコバルトの溶解量を増やすこともでき、ニッケル及び/又はコバルトがより高濃度に含まれる溶液を得ることができる。なお、合金の形状は、特に限定されず、例えば粉状物を用いることができる。
【0087】
還元剤として添加する合金の量(添加量)は、特に限定されないが、浸出液に含まれる銅を硫化して硫化銅として沈殿させるのに要する当量の1.0倍以上2.0倍以下の範囲の量とすることが好ましい。また、合金の添加量は、当量の1.5倍以上2.0倍以下の範囲の量とすることがより好ましい。なお、ここでの「当量」は、上記の反応式[3]で示す反応に従って定義できる。還元剤の添加量が当量の1.0倍未満では、銅を完全には除去できない可能性がある。一方で、当量の2.0倍を超えて添加しても、未反応のまま脱銅残渣として残ってしまい、後述するように脱銅残渣を浸出工程S1に繰り返したときの負荷が増加し、その結果、浸出液の銅濃度が上昇する悪循環となる可能性がある。
【0088】
硫化剤としては、浸出処理で用いたものと同様に、水硫化ナトリウムや単体硫黄等の一般に知られたものを用いることができる。硫化物は、固体であっても、液体であっても、あるいは気体(ガス状)であってもよい。
【0089】
ここで、添加する硫化剤の量(添加量)は、脱銅処理の対象である浸出液に含まれる銅に対して1.0当量未満となる量とすることが好ましい。また、還元剤として、ニッケル及び/又はコバルトを含んだ合金を用いる場合には、添加する硫化剤の量(添加量)を、浸出液及び還元剤として用いるその合金に含まれる銅の合計に対して1.0当量未満となる量とすることが好ましい。
【0090】
硫化剤の量に関して、その当量は、浸出処理にて添加する硫化剤の量と同様に、上記の反応式[1]に従って定義することができる。
【0091】
脱銅処理において添加する硫化剤の量が過剰であると、浸出液や合金中の銅の除去に用いられずに余った未反応の硫化剤が、ニッケルやコバルトのような溶液として分離すべき成分までをも硫化物とする反応を生じさせ、ニッケルやコバルトの回収ロスとなる懸念がある。また、セメンテーション工程S2での脱銅処理を経て得られた脱銅残渣を、浸出工程S1に繰り返して浸出処理に供するとき、未反応の硫化剤によって生成した硫化ニッケルや硫化コバルトは難溶性の化合物であるためそれらを酸で浸出するにはpHを概ね1以下にする必要があるが、そのときには、酸が過剰となって合金や脱銅残渣に含まれる銅の浸出までも促進されてしまうという問題がある。
【0092】
そのため、脱銅処理にて添加する硫化剤の量としては、浸出液、あるいは浸出液及び還元剤として用いる合金に含まれる銅に対して、1.0当量未満となる量とすることが好ましい。このように、硫化剤の添加量を1.0当量未満となるように制御し、主として、還元剤、特にニッケル及び/又はコバルトを含む合金によって、浸出液に含まれる銅を置換反応させるようにする。これにより、難溶性の硫化ニッケルや硫化コバルトの生成を抑制しながら脱銅処理を行うことができる。
【0093】
なお、上述したように、還元剤としての合金の添加量は、好ましくは、浸出液に含まれる銅を硫化して硫化銅として沈殿させるのに要する当量の1.0倍以上2.0倍以下の範囲の量であり、より好ましくは、1.5倍以上2.0倍以下の範囲の量とする。
【0094】
このような方法によれば、硫化剤によってニッケルやコバルトが硫化され回収ロスとなることを防ぎ、また、ニッケルやコバルトと銅との分離を促進させることができ、より効率的に、ニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を得ることができる。
【0095】
硫化剤の添加量の下限値としては、特に限定されないが、浸出液、あるいは浸出液及び還元剤として用いる合金に含まれる銅に対して、0.5当量以上となる量とすることが好ましく、0.7当量以上となる量とすることがより好ましい。
【0096】
脱銅処理においては、酸化還元電位(ORP)やpHを監視し、適宜、還元剤の添加量を制御して処理することが好ましい。例えば、脱銅処理により得られる脱銅後液のpHが、浸出液と同じく1.6以下を維持するように処理することが好ましい。また、脱銅処理において、銅が除去された終点の目安については、ORPを測定することで管理できる。例えば、ORPが、銀/塩化銀電極を参照電極とする値で0mV以下となる点を終点の目安とすることができる。
【0097】
また、脱銅処理においては、液温が50℃以上となるように制御して処理することが好ましい。
【0098】
ここで、上述したような脱銅処理を施すことによって、ニッケル及び/又はコバルトを含む脱銅後液と、硫化銅を含む脱銅残渣とを含むスラリーを得ることができ、それを固液分離することによって、銅を分離した脱銅後液、すなわちニッケル及び/又はコバルトを含む溶液を回収することができる。回収した脱銅後液については、例えば脱鉄工程(酸化中和工程)等に供することによって、鉄等の不純物を除去して精製することができる。
【0099】
一方で、固液分離することで得られた脱銅残渣には、ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金がごく一部残存している。脱銅残渣に残存する合金は、例えば、セメンテーション工程S2での脱銅処理で還元剤として添加した合金(ニッケル及び/又はコバルトと銅とを含む合金)に由来する。あるいは、浸出処理に供した処理原料であって浸出処理において未反応の合金に由来する。
【0100】
そこで、本実施の形態に係る方法では、上述したように、セメンテーション工程S2での脱銅処理を経て得られた脱銅残渣の少なくとも一部又は全部を、浸出工程S1に繰り返すようにしており、新規の処理原料である合金と共に浸出処理に供することを特徴としている。
【0101】
このような方法によれば、脱銅残渣に残存した合金に含まれるニッケル及び/又はコバルトの回収ロスを効果的に防ぐことができ、より効率的に、ニッケル及び/又はコバルトを高い濃度で含む溶液を得ることができる。
【0102】
さて、脱銅処理を経て得られた脱銅残渣を浸出工程S1に繰り返し供する際には、脱銅後液から分離回収した脱銅残渣をスラリー化することが好ましい。セメンテーション工程S2での脱銅処理を経て得られた脱銅後液と脱銅残渣とを分離する際には、多少の水分及び酸成分が脱銅残渣に付着することは避けられない。また、脱銅残渣を浸出工程S1に繰り返し供するときには、工業的なハンドリング面からも、脱銅残渣をスラリー化することが効率的である。したがって、多少の差はあるものの、脱銅残渣については、スラリーの形態として浸出工程S1に供給することが好ましい。
【0103】
このとき、浸出工程S1での処理に付すまでの保管(放置)時間が長くなると、スラリー中の脱銅残渣から未反応のメタルが酸と接触することで溶出し、その結果、スラリーのpHが次第に上昇してくる。
【0104】
一方で、上述したように、浸出工程S1ではpHを1.0~1.6となる範囲で浸出することが、ニッケルやコバルトを効果的に浸出し、銅をできるだけ浸出させないようにする観点から好ましい。
【0105】
硫化ニッケル(NiS)や硫化コバルト(CoS)は、概ねpHが3を超えると生成しやすくなることが、本発明者らにより研究で見出されている。つまり、脱銅残渣をスラリー化して保管する時間が長いと、pHが上昇するとともに、脱銅残渣に含まれる未反応の硫化剤と反応して、難溶性の硫化ニッケルや硫化コバルトが生成しやすくなる。これらの硫化物は、pHが1.0~1.6での浸出条件では溶解されず、その結果、生成する浸出残渣にニッケルやコバルトが分配されてロスとなる。
【0106】
そこで、好ましくは、分離回収した脱銅残渣を浸出工程に繰り返し供する際、脱銅残渣をスラリー化してから特定の時間以内に、浸出工程S1に繰り返して浸出処理に供することが好ましい。具体的には、脱銅残渣をスラリー化してから1.5時間以内に、浸出工程S1に繰り返すことが好ましい。
【0107】
このように、脱銅残渣を特定の時間以内に速やかに浸出工程S1に繰り返して浸出処理に供することで、その脱銅残渣においてニッケルやコバルトの硫化物の生成を抑制することができる。これにより、浸出工程S1でのニッケル及び/又はコバルトの浸出効率の低下、及びその結果としてのニッケルやコバルトの回収率の低下を効果的に防ぐことができ、より一層に効率的に、ニッケル及び/又はコバルトを高い濃度で含む溶液を得ることができる。
【0108】
また、好ましくは、脱銅残渣を浸出工程S1に繰り返すまでの間、その脱銅残渣のスラリーのpHを3.0以下に維持するようにすることが好ましい。すなわち、脱銅処理で得られた脱銅残渣をスラリーとした後、そのスラリーのpHを3.0以下に維持しながら、浸出工程S1に繰り返して、合金と共に浸出処理に供することが好ましい。
【0109】
このように、脱銅残渣をスラリーとした後にそのスラリーのpHを3.0以下に維持しながら、浸出工程S1に繰り返して浸出処理に供することで、脱銅処理において未反応となって残存した硫化剤によって、その脱銅残渣のスラリー中で、ニッケルやコバルトが硫化物となることを抑制することができ、浸出工程S1にて浸出されずに回収ロスとなることを効果的に防ぐことができる。
【0110】
さらに、より好ましくは、上述したように、セメンテーション工程S2での脱銅処理での硫化剤の添加量を反応当量未満、すなわち、浸出液に含まれる銅、及び還元剤として合金を用いる場合にはその合金に含まれる銅の合計に対して1.0当量未満となる量に抑えることで、脱銅残渣における未反応の硫化剤の残存を抑制でき、ニッケルやコバルトの硫化物化をより効果的に防ぐことができる。
【実施例0111】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0112】
[実施例1]
(浸出工程)
廃リチウムイオン電池(廃LIB)を酸化雰囲気下で加熱する酸化焙焼を行い、その後、得られた酸化焙焼物に還元剤を添加して加熱熔融して還元する乾式処理を行った。還元熔融して得られた熔融状態の合金を凝固させ、粒径300μm以下の粉状の合金粉を得た。得られた合金粉を処理対象の合金(ニッケル及びコバルトと銅とを含む合金)として用いた。下記表1に、ICP分析装置を用いて分析した合金粉の組成を示す。
【0113】
【表1】
【0114】
上記表1に組成を示す合金粉を、スラリー濃度300g/Lのスラリーとし、合金粉に含まれる銅に対して1.25当量となる量の硫黄を添加して共存させ、硫酸溶液を添加して浸出処理を行った。なお、液温は60℃とした。浸出処理後、得られたスラリーを濾過により固液分離し、濾液(浸出液)をICP分析装置により分析して各元素成分の濃度を測定した。
【0115】
元素分析の結果、浸出率については、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)ともに99%であった。なお、銅については、その大部分を浸出残渣に分配することができたが、下記表2に示すように、浸出液中に濃度5g/Lの割合で含まれていた。このことから、合金を直接浸出しただけでは、銅の分離が不十分であることがわかる。
【0116】
【表2】
【0117】
(セメンテーション工程)
次に、上記表2に組成を示す浸出液に、上記表1に示した合金粉(粒径1μm~300μm)を還元剤として用い、スラリー濃度が300g/Lとなるように添加した。また、硫化剤としての硫黄を、合金粉に含まれる銅と浸出液中の銅の合計に対して1当量となる量を添加し、これにより、浸出液に対して脱銅処理(還元処理)を施した。
【0118】
液温を60℃とし、酸化還元電位(ORP,参照電極:Ag/AgCl)の値を0mV以下まで下げて処理を行った。脱銅処理後、得られたスラリーを濾過により固液分離し、脱銅後液(還元液)をICP分析装置により分析して、各元素成分の濃度を測定した。
【0119】
元素分析の結果、下記表3に示すように、脱銅されたニッケル及びコバルトを主とする硫酸溶液が得られた。
【0120】
【表3】
【0121】
(セメンテーション残渣の浸出)
セメンテーション工程で得られた脱銅残渣に水を加え、スラリー濃度が300g/Lとなるように脱銅残渣のスラリーを調製した。また、硫酸を用いてpHが1となるように調整した。そして、その脱銅残渣のスラリーを、液温60℃で上記の浸出工程に繰り返し、合金と共に浸出処理に付した。
【0122】
その結果、下記表4に示すように、脱銅残渣に残存した合金であって、浸出工程に繰り返し供給した合金に含有されたニッケルの80%(浸出率80%)、コバルトの87%(浸出率87%)を浸出することができ、回収ロスを有効に低減することができた。
【0123】
【表4】
【0124】
[実施例2]
(浸出工程)
実施例1と同様に、上記表1に組成を示す合金粉を用いて浸出処理を行った。すなわち、合金粉をスラリー濃度300g/Lのスラリーとし、その合金粉に含まれる銅に対して1.25当量となる量の硫黄を添加して共存させ、硫酸溶液を添加して浸出処理を行った。なお、液温は60℃とした。浸出処理後、得られたスラリーを濾過により固液分離し、濾液(浸出液)をICP分析装置により分析して各元素成分の濃度を測定した。
【0125】
元素分析の結果、浸出率については、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)ともに99%であった。なお、銅については、その大部分を浸出残渣に分配することができたが、下記表5に示すように、浸出液中に濃度3g/Lの割合で含まれていた。このことから、合金を直接浸出しただけでは、銅の分離が不十分であることがわかる。
【0126】
【表5】
【0127】
(セメンテーション工程)
次に、上記表5に組成を示す浸出液に、上記表1に示した合金粉(粒径1μm~300μm)を還元剤として用い、スラリー濃度が300g/Lとなるように添加した。また、硫化剤としての硫黄を、合金粉に含まれる銅と浸出液中の銅の合計に対して1当量となる量を添加し、これにより、浸出液に対して脱銅処理(還元処理)を施した。
【0128】
液温を60℃とし、酸化還元電位(ORP,参照電極:Ag/AgCl)の値を0mV以下まで下げて処理を行った。脱銅処理後、得られたスラリーを濾過により固液分離し、脱銅後液(還元液)をICP分析装置により分析して、各元素成分の濃度を測定した。
【0129】
元素分析の結果、下記表6に示すように、脱銅されたニッケル及びコバルトを主とする硫酸溶液が得られた。
【0130】
【表6】
【0131】
(セメンテーション残渣の浸出)
セメンテーション工程で得られた脱銅残渣に水を加え、スラリー濃度が300g/Lとなるように脱銅残渣のスラリーを調製し、そのまま1.5時間放置した。その後、硫酸を用いてpHが1となるように調整し、調整したスラリーを液温60℃で上記の浸出工程に繰り返し、合金と共に浸出処理に付した。すなわち、分離回収した脱銅残渣を、スラリー化してから1.5時間で浸出工程に繰り返して浸出処理に供した。
【0132】
その結果、下記表7に示すように、脱銅残渣に残存した合金であって、浸出工程に繰り返し供給した合金に含有されたニッケルの91%(浸出率91%)、コバルトの91%(浸出率91%)を浸出することができ、回収ロスを有効に低減することができた。
【0133】
[参考例1]
実施例2と同様な方法で合金を処理した。ただし、セメンテーション工程から得られた脱銅残渣を浸出工程に繰り返すに際して、その脱銅残渣に水を加えてスラリー化してから、そのまま168時間を放置し、その後、硫酸を添加してpHを1に調整し、調整した溶液を液温60℃で上記の浸出工程に繰り返し、合金と共に浸出処理に付した。すなわち、分離回収した脱銅残渣を、スラリー化してから168時間で浸出工程に繰り返して浸出処理に供した。
【0134】
その結果、ニッケル浸出率は80%、コバルト浸出率は87%にとどまり、実施例2よりも劣る結果となった。
【0135】
下記表7に、実施例2及び参考例1の浸出率の結果をまとめて示す。このように、セメンテーション工程から得られた脱銅残渣を浸出工程に繰り返して浸出処理に供するに際して、脱銅残渣を放置する時間を特定の時間以内に制御して速やかに浸出処理に供することで、ニッケルやコバルトの浸出率を向上できることがわかった。
【0136】
【表7】
【0137】
[実施例3]
(浸出工程)
実施例1と同様に、上記表1に組成を示す合金粉を用いて浸出処理を行った。すなわち、合金粉をスラリー濃度300g/Lのスラリーとし、その合金粉に含まれる銅に対して1.25当量となる量の硫黄を添加して共存させ、硫酸溶液を添加して浸出処理を行った。なお、液温は60℃とした。浸出処理後、得られたスラリーを濾過により固液分離し、濾液(浸出液)をICP分析装置により分析して各元素成分の濃度を測定した。
【0138】
元素分析の結果、浸出率については、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)ともに99%であった。なお、銅については、その大部分を浸出残渣に分配することができたが、下記表8に示すように、浸出液中に濃度3g/Lの割合で含まれていた。このことから、合金を直接浸出しただけでは、銅の分離が不十分であることがわかる。
【0139】
【表8】
【0140】
(セメンテーション工程)
次に、上記表8に組成を示す浸出液に、上記表1に示した合金粉(粒径1μm~300μm)を還元剤として用い、スラリー濃度が300g/Lとなるように添加した。また、硫化剤としての硫黄を、合金粉に含まれる銅と浸出液中の銅の合計に対して1当量となる量を添加し、これにより、浸出液に対して脱銅処理(還元処理)を施した。
【0141】
液温を60℃とし、酸化還元電位(ORP,参照電極:Ag/AgCl)の値を0mV以下まで下げて処理を行った。脱銅処理後、得られたスラリーを濾過により固液分離し、脱銅後液(還元液)をICP分析装置により分析して、各元素成分の濃度を測定した。
【0142】
元素分析の結果、下記表9に示すように、脱銅されたニッケル及びコバルトを主とする硫酸溶液が得られた。
【0143】
【表9】
【0144】
(セメンテーション残渣の浸出)
セメンテーション工程で得られた脱銅残渣に水を加え、スラリー濃度が300g/Lとなるように脱銅残渣のスラリーを調製した。また、硫酸を用いてpHが3以下となるように調整し、維持した。なお、放置時間を1.5時間とした。そして、その脱銅残渣のスラリーをpH3以下に維持した状態のまま、液温60℃で上記の浸出工程に繰り返し、上述した処理条件と同条件で合金と共に浸出処理に付した。
【0145】
その結果、下記表10に示すように、脱銅残渣に残存した合金であって、浸出工程に繰り返し供給した合金に含有されたニッケルの96%(浸出率96%)、コバルトの96%(浸出率96)を浸出することができ、回収ロスを有効に低減することができた。
【0146】
【表10】
【0147】
[参考例2]
実施例3と同様な方法で合金を処理した。また、セメンテーション工程では、硫化剤としての硫黄を、還元剤として添加した合金粉に含まれる銅と浸出液中の銅の合計に対して1当量となる量を添加し、これにより、浸出液に対して脱銅処理(還元処理)を施した。
【0148】
続いて、セメンテーション工程での脱銅処理で得られた脱銅残渣に水を加え、スラリー濃度が300g/Lとなるように脱銅残渣のスラリーを調製した。そして、その脱銅残渣のスラリーを、液温60℃で上記の浸出工程に繰り返した。ただし、脱銅残渣のスラリーを浸出工程に繰り返すに際して、pHの調整、維持を行わず、放置時間を3時間とした。
【0149】
その結果、脱銅残渣に残存した合金であって、浸出工程に繰り返し供給した合金に含有されたニッケルの80%(浸出率80%)、コバルトの87%(浸出率87%)を浸出することができたが、実施例3に比べてその浸出率は低下した。このことは、参考例2では、脱銅残渣のスラリーを浸出工程に繰り返すに際して、pHの調整、維持を行わなかったため、時間経過に伴ってスラリーのpHが徐々の上昇し、脱銅残渣に含まれる未反応の硫化剤と反応して、ニッケルやコバルトの硫化物が生成したことによると考えられる。
【0150】
[実施例4]
(浸出工程)
実施例1と同様に、上記表1に組成を示す合金粉を用いて浸出処理を行った。すなわち、合金粉をスラリー濃度300g/Lのスラリーとし、その合金粉に含まれる銅に対して1.25当量となる量の硫黄を添加して共存させ、硫酸溶液を添加して浸出処理を行った。なお、液温は60℃とした。浸出処理後、得られたスラリーを濾過により固液分離し、濾液(浸出液)をICP分析装置により分析して各元素成分の濃度を測定した。
【0151】
元素分析の結果、浸出率については、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)ともに99%であった。なお、銅については、その大部分を浸出残渣に分配することができたが、下記表11に示すように、浸出液中に濃度3g/Lの割合で含まれていた。このことから、合金を直接浸出しただけでは、銅の分離が不十分であることがわかる。
【0152】
【表11】
【0153】
(セメンテーション工程)
次に、上記表11に組成を示す浸出液に、上記表1に示した合金粉(粒径1μm~300μm)を還元剤として用い、スラリー濃度が300g/Lとなるように添加した。また、硫化剤としての硫黄を、合金粉に含まれる銅と浸出液中の銅に対して0.75当量となる量を添加し、これにより、浸出液に対して脱銅処理(還元処理)を施した。
【0154】
液温を60℃とし、酸化還元電位(ORP,参照電極:Ag/AgCl)の値を0mV以下まで下げて処理を行った。脱銅処理後、得られたスラリーを濾過により固液分離し、脱銅後液(還元液)をICP分析装置により分析して、各元素成分の濃度を測定した。
【0155】
元素分析の結果、下記表12に示すように、脱銅されたニッケル及びコバルトを主とする硫酸溶液が得られた。
【0156】
【表12】
【0157】
(セメンテーション残渣の浸出)
セメンテーション工程で得られた脱銅残渣に水を加え、スラリー濃度が300g/Lとなるように脱銅残渣のスラリーを調製した。また、硫酸を用いてpHが1となるように調整した。そして、その脱銅残渣のスラリーを、液温60℃で上記の浸出工程に繰り返し、合金と共に浸出処理に付した。
【0158】
その結果、下記表13に示すように、供給した合金に含有されたニッケルの98%(浸出率98%)、コバルトの98%(浸出率98%)を浸出することができ、回収ロスを有効に低減することができた。
【0159】
【表13】
【0160】
[参考例3]
実施例4と同様な方法で合金を処理した。ただし、セメンテーション工程では、硫化剤としての硫黄を、合金粉に含まれる銅と浸出液中の銅に対して1当量となる量を添加し、これにより、浸出液に対して脱銅処理(還元処理)を施した。
【0161】
続いて、セメンテーション工程での脱銅処理で得られた脱銅残渣に水を加え、スラリー濃度が300g/Lとなるように脱銅残渣のスラリーを調製した。また、硫酸を用いてpHが1となるように調整した。そして、その脱銅残渣のスラリーを、液温60℃で上記の浸出工程に繰り返し、合金と共に浸出処理に付した。
【0162】
その結果、供給した合金に含有されたニッケルの80%(浸出率80%)、コバルトの87%(浸出率87%)を浸出することができたが、実施例4に比べてその浸出率は低下した。このことは、参考例3では、脱銅処理における硫黄(硫化剤)の添加量が過剰であったために、未反応の硫黄によりニッケルやコバルトの硫化物が生成したことによると考えられる。

図1