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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050185
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】乳化クリーム
(51)【国際特許分類】
   A23L 9/20 20160101AFI20230403BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20230403BHJP
   A23C 13/14 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
A23L9/20
A23D7/00 508
A23C13/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156047
(22)【出願日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2021159932
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022155457
(32)【優先日】2022-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】邵 聡
【テーマコード(参考)】
4B001
4B025
4B026
【Fターム(参考)】
4B001AC02
4B001AC03
4B001AC15
4B001AC40
4B001AC43
4B001BC01
4B025LB20
4B025LG12
4B025LG14
4B025LG24
4B025LG26
4B025LG27
4B025LG53
4B025LK01
4B025LK03
4B025LP10
4B026DC03
4B026DG01
4B026DG11
4B026DG20
4B026DH05
4B026DK01
4B026DK03
4B026DL03
4B026DL08
4B026DL10
4B026DP01
(57)【要約】
【課題】常温においても長期保存が可能な乳化クリームを製造することを課題とする。
【解決手段】原料として、植物油脂又は動物油脂、植物油脂粉末又は動物油脂粉末、粉乳、ショートニング、乳化剤(シュガーエステル)の複合的な構成としてこれを攪拌することによって生クリーム様の乳化クリームを調製する。
本発明により得られる乳化クリームは、常温においても長期保存が可能であり種々の食品等に利用することができる。また、本発明の乳化クリームは種々の所定の風味(味)を付与することが可能である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料成分として植物油脂又は動物油脂、植物油脂粉末又は動物油脂粉末、粉乳、ショートニング、乳化剤を含有し、当該原料成分を攪拌することによって調製する乳化クリームの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により得られる乳化クリーム。
【請求項3】
さらに、原料成分として風味付与素材、結晶物及び/又は澱粉若しくはデキストリンを含有する請求項1に記載の乳化クリームの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の製造方法により得られる乳化クリーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存性に優れた乳化クリームに関するものである。
【背景技術】
【0002】
乳化された状態のクリームについては、例えば、生クリームに代表されるように種々の食品で利用することができる。一方、通常の生クリームであると、水中油滴型(O/W型)であり、水分含量も高く、水分活性も高いため常温保存する場合、その保存性が問題となる場合も多い。
そこで、バタークリームのような油中水滴型(W/O型)のタイプが利用される場合も多い。例えば、特許文献1の乳化クリームは油中水滴型(W/O型)のタイプであって、油中水型乳化クリームの口どけと風味の発現を両立させることを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-204697号
【0004】
一方、当該特許文献1の技術においても油層と水層の質量比率で30~80:20~70であり(特許文献1の段落[0034])、常温での長期間の保存は困難となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者らは常温においても長期保存が可能な乳化クリームを製造することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らの鋭意研究の結果、種々の原料を試験した結果、原料として、植物油脂又は動物油脂、植物油脂粉末又は動物油脂粉末、粉乳、ショートニング、乳化剤(シュガーエステル)の複合的な構成としてこれを攪拌することによって調製したものが生クリーム様の乳化クリームとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本願第一の発明は、
“原料成分として植物油脂又は動物油脂、植物油脂粉末又は動物油脂粉末、粉乳、ショートニング、乳化剤を含有し、当該原料成分を攪拌することによって調製する乳化クリームの製造方法。”、である。
【0007】
次に、本願発明においては、請求項1に記載の製造方法より得られる乳化クリーム自体も意図している。
すなわち、本願第二の発明は、
“請求項1に記載の製造方法により得られる乳化クリーム。”、である。
【0008】
次に、本願発明においては、原料成分として風味付与素材、結晶物及び/又は澱粉若しくはデキストリンを含有していることが好ましい。
すなわち、本願第三の発明は、
“さらに、原料成分として風味付与素材、結晶物及び/又は澱粉若しくはデキストリンを含有する請求項1に記載の乳化クリームの製造方法。”、である。
【0009】
さらに、本願発明においては、請求項3に記載の製造方法より得られる乳化クリーム自体も意図している。
すなわち、本願第四の発明は、
“請求項3に記載の製造方法により得られる乳化クリーム。”、である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の乳化クリームは常温で長期保存が可能であり、良好な食感を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本願発明の内容を説明する。
本願第一の請求項は、“原料成分として植物油脂又は動物油脂、植物油脂粉末又は動物油脂粉末、粉乳、ショートニング、乳化剤を含有し、当該原料成分を攪拌することによって調製する乳化クリームの製造方法。”、である。
【0012】
─植物油脂又は動物油脂─
本発明にいう植物油脂とは、植物の種子や果実から採った油をいう。植物油脂については特に限定されないが、例えば、具体例として、米白絞油(米白油)、大豆油、菜種油(キャノーラ油)、パーム油、コーン油、ピーナッツ油、ひまわり油、オリーブ油、サフラワー油(紅花油)、ごま油等が挙げられる。また、これらのうち、特にパーム油やキャノーラ油が好ましい。
さらに、パーム油については、パーム核油やパームオレイン、パームステアリン等の分別油を使用することができる。また、これらの植物油脂は複数を混合したものであってもよいことは勿論である。
【0013】
本発明においては、その用途に応じて種々の植物油脂を利用することができる。但し、生クリーム状とする場合においては、白色系の油脂を利用することが好ましい。具体的には、米白絞油(米白油)や、なたね油、パーム油である。
本発明における原料中の植物油脂の含有量としては、原料100重量部あたり、概ね5~70重量%程度である。また、好ましくは30重量%~55重量%である。
【0014】
次に、本発明においては動物油脂も利用することができる。動物油脂についても特に種類は限定されないが、例えば、牛脂、豚脂(ラード)、鶏脂、魚油等が挙げられる。また、動物油脂を利用する態様については上記の植物油脂と同様である。さらに、植物油脂と動物油脂を混合した油脂を利用してもよいことは勿論である。
【0015】
─植物油脂粉末又は動物油脂粉末─
本発明における植物油脂粉末(植物性粉末油脂、植物粉末油脂)は、クリームにおける白色感を呈するととともにクリーム状の粘性を与える効果を有する。本発明における原料中の植物油脂粉末の好ましい含有量としては、原料100重量部あたり、5~50重量%程度である。また、好ましくは15~30重量部である。
【0016】
本発明における植物油脂粉末は、親油性タイプ(高融点油脂をスプレー冷却や破砕して粉末化したタイプ)と親水性タイプ(乳化液をスプレードライするタイプで油脂が糖質やタンパク質等に包みこまれているもの)のいずれも利用することが可能である。
また、親水性のタイプであると、糖質やタンパク質を含んでいる場合もあるが、このようなタイプであってもよいことは勿論である。
【0017】
次に、本発明においては動物油脂粉末(動物性粉末油脂、動物粉末油脂)も利用することができる。また、動物油脂粉末を利用する態様については上記の植物油脂粉末と同様である。さらに、植物油脂粉末と動物油脂粉末を混合した油脂粉末を利用してもよいことは勿論である。
【0018】
─粉乳─
本発明では粉乳を利用する。本発明にいう粉乳とは、生乳や牛乳等から水分を除去することによって粉末状にした素材をいう。本粉乳を利用することで生クリーム本来の風味を付与することができる。
本発明では、種々の粉乳(脱脂粉乳、全粉乳等)を利用することができるが、特に脱脂粉乳を利用することが好ましい。
【0019】
尚、粉乳については脱脂粉乳を、デキストリンや乳化剤と混合して溶解性等を高めた形態としたタイプを利用することも可能である。また、脱脂粉乳そのものを利用することも勿論可能である。
本発明における粉乳の好ましい含有量としては、原料100重量部あたり、1~20重量%程度である。また、好ましくは1~3重量%程度である。
【0020】
─ショートニング─
本発明においてはショートニングを利用する。本発明にいうショートニングとは、主に植物油脂を原料として、常温で半固形状の油脂をいう。植物油脂は一般に液状であるため、水素添加した硬化油脂を利用することが多い。
本発明におけるショートニングは、本発明の乳化クリームにおいて白色度を増加させることができ、よりクリームらしい流動性を付与することが可能となる。
本発明におけるショートニングの好ましい含有量としては、原料100重量部あたり、3~30重量%程度である。また、好ましくは5~20重量%程度である。
尚、ショートニングについては微量の乳化剤を含んでいる場合もあることは勿論である。
【0021】
─乳化剤─
本発明においては乳化剤を使用することが必要となる。ここで本発明における乳化剤とは、水分と油脂を混合し、分散させる効果を有する。乳化のタイプにおいては、W/O型とO/W型があるが、本発明においてはW/O型の形態となる。
乳化剤の好ましい含有量としては、原料100重量部あたり、0.3~10重量%程度である。また、好ましくは、原料100重量部あたり、1~5重量%程度である。
一般的には、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。本発明においては種々の乳化剤を利用することができるが、ショ糖脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステルが有効な乳化剤として挙げられる。
【0022】
また、本発明においては乳化剤のHLB(Hydrophilic Lipophilic Balance)(水と油の親和度を示す尺度、数値は0~20までの値をとり、0:親油性 ⇔ 20:親水性となる)
本発明においては、概ね7以下が好ましい。また、より好ましくは2~5程度である。
但し、上記の植物油脂粉末又は動物油脂粉末等に含まれる微量成分の乳化剤については、特に種類は限定されないことは勿論である。
【0023】
─その他の成分─
〇風味付与素材
本発明においては各種の風味付与のため風味付与素材を添加することができる。ここで、風味付与素材とは本発明の乳化クリームに特徴的な風味・味を付与するための成分をいう。当該風味付与素材は、種々の食品成分、エキス分又は調味料であってもよいし、これらと香料を含めたものも可能である。尚、当該風味付与素材については乾燥品等の低水分含量であることが好ましい。
また風味については、チーズ、カレー、トマト、畜肉系風味(ビール、チキン、ポーク等)、魚介(シーフード)、とんこつ、醤油、みそ等の様々な風味を付与することが可能である。
【0024】
本発明における風味付与剤については、エキス又は風味付与のための原料素材を加工・加熱を施したものを利用してもよい。また、これらの原料素材を組み合わせてもよい。さらに当該原料素材に澱粉、デキストリン等の糖類や塩類、酸化防止剤等の種々の食品添加物を加えたものを利用してもよい。
【0025】
〇澱粉又はデキストリン
本発明において、澱粉又はデキストリンを添加することも好ましい。澱粉又はデキストリンを添加することで固形分の含有量を増やすことができ、本発明の乳化クリームにおける油脂の分離状態を抑制することができる。尚、澱粉又はデキストリンは風味付与素材を使用する場合に利用すると好ましい。
【0026】
〇結晶物
本発明の乳化クリームにおいては、種々の結晶物を添加することも好ましい。当該結晶物については味、風味付与等のために利用される。
ここで、上記記載における結晶物とは、主に結晶状態の固体状の種々の塩類、アミノ酸又は糖類又はこれらの組合せをいう。例えば、グルタミン酸ナトリウム、マルトース、グルコース、ショ糖、グルコース等が挙げられる。また、当該結晶物を微粒子状としたものを利用することが好ましい。尚、結晶物は風味付与素材を使用する場合に利用すると好ましい。
【0027】
〇色素
本発明の風味付与剤に色味を付与するために種々の色素を利用することができる。カロチノイド、フラボノイド、ポルフィリン等の種々の色素を利用することができる。具体的には、赤系色素として紅麹色素やパプリカ色素が例として挙げられる。また、黄色系色素としては、カロチン色素やカラメル色素が例として挙げられる。さらに黒色系色素としては、カラメル色素が例として挙げられる。尚、天然物原料由来の色素の他、合成色素も利用可能である。
【0028】
〇香料
本発明においては、他に香料を添加することができる。香料を利用することで特定の風味を付与したり、生クリーム様の風味を増強することもできる。本発明については合成香料、天然香料のいずれも利用することができる。例えば、ジアセチル、アセトイン、アセトアルデヒド、メチルケトン等が例示として挙げられる。
さらに、付与したい風味に応じて様々な天然及び合成香料を使用することができる。
【0029】
〇糖類
本発明においては、種々の糖類を含有させることができる。例えば、単糖類としては例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース等、二糖類としては、ショ糖、果糖、乳糖等、多糖類としては、デキストリンや各種ガム類、増粘剤等が挙げられる。
また、グルコースや乳糖、デキストリンについては、植物油脂粉末又は動物油脂粉末の賦形剤として利用することもできる。すなわち、これらの糖類は、上述の植物油脂粉末又は動物油脂粉末等の一つの成分として含まれている場合があり、このような形態で含有されるものでもよいことは勿論である。
【0030】
〇アミノ酸・タンパク質
本発明においては、種々のアミノ酸を含有させることができる。また、各種タンパク質を含有させることができる。例えば、カゼインや蛋白分解物を利用することができる。
【0031】
〇エキス類
本発明においては、植物エキス、畜肉エキス等の種々のエキスを含有させることができる。
【0032】
〇無機塩類
本発明においては、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、各種リン酸塩等の各種無機塩類を含有させることができる
【0033】
〇食品添加物
本発明においては、甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、発色剤、酸味料、調味料、強化剤等の種々の食品添加物を含有させることができる。
【0034】
〇その他
その他各種の素材を添加することができる。その種類は特に限定されない。但し、脂溶性であることが好ましい。
【0035】
─攪拌工程─
本発明で使用する攪拌工程には種々の攪拌機を利用することができる。但し、当該攪拌機が食品原料を微粒子に細かく破砕・粉砕するタイプが好ましい。
具体的には、コミトロール(登録商標)、マスクロイダー(登録商標)、ホモミクサー、Vitamix (登録商標)等が挙げられる。その他として、コロイドミル、電動ミル、ミクロマイスター等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
攪拌の方法について、攪拌機の違いとして、Vitamix (登録商標)、ホモミクサー、コミトロール(登録商標)の3種類を用いて検討した結果としては、結論はいずれも油中の固形物の粒子がより細かくなり安定な乳化ペーストまで処理することができた。
【0036】
但し、Vitamix (登録商標)では攪拌自体は問題ないが、温まることにより風味が変わってしまう場合があった。次に、滑らかさに関して、ホモミクサーよりコミトロールの方がやや良好であった。
簡易に粒度分布の測定を実施した結果、ホモミクサーはコミトロールに比べるとやや大きな粒が残り、粒度にばらつきが多くみられる傾向があった。コミトロールは、粒度はかなり細かくなりばらつきもない傾向であった。
本発明において攪拌に利用できる機器のうち、Vitamix、ホモミクサー、コミトロールを選択した場合の名称と機器の特徴及び回転速度について以下の表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
─本願の乳化クリームの粘度・水分活性について─
本願発明で得られる乳化クリームについての粘度はB型粘度計を利用し、測定温度70度で、概ね500mPa・S~3500mPa・S程度である。また、好ましくは1000mPa・S~3000mPa・Sである。
次に、水分含量は0.7~2.0重量%程度である。好ましくは0.9~1.5重量%程度である。さらに好ましくは、1.0~1.3重量%程度である。
次に、水分活性については、0.35~0.50程度である。好ましくは0.4~0.45重量%程度である。さらに好ましくは、0.41~0.43重量%程度である。
【実施例0039】
以下の本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
<試験例1>(各構成の必須性)
植物油脂、植物油脂粉末、粉乳、ショートニング及び乳化剤を利用して攪拌し、乳化クリームを製造する場合において、各構成の必要性について調べた。
【0041】
[試験区1]
(1)乳化クリームの調製
使用する原料資材として、
・植物油脂36g
・植物油脂粉末(植物油脂と糖類及び乳タンパク等微量に含むタイプ)18g
・粉乳(脱脂粉乳及びデキストリンを含むもの)29g
・ショートニング(食用精製加工油脂及び微量の乳化剤を含むタイプ)14g
・乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル 品名:リョートシュガーエステルS-370)3g
、を混合して、最終的な成分組成として各成分(原料成分)の配合比率が、植物油脂(米白)36重量部、植物油脂粉末23重量部、脱脂粉乳3重量部、ショートニング14重量部、乳化剤3重量部、その他(デキストリン、乳糖、香料)21重量部となるように混合して、コミトロール(アーシェル社製)(細かい刃の隙間に食品原料が入り込み原料を細かくするような装置)によって12000回転・10分行うことによって、乳化クリームを調製した。上記の配合組成について表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
(2)官能評価
当該得られた乳化クリームについて、その乳化程度、生クリーム風味、白色度の各項目について官能評価した。官能評価は熟練の技術者5名で行い。以下の評価基準で行った。
・乳化効果:良好(乳化する)◎、良好〇、やや悪い△、悪い(乳化しない)×の4段階で評価した。
・生クリーム風味:良好(生クリーム風味が強い)◎、良好〇、やや悪い△、悪い(生クリーム風味が弱い)×の4段階で評価した。
・白色度:良好(白い)◎、良好〇、やや悪い△、悪い(黄色味がかっている)×の4段階で評価した。
評価結果を表1に示す。
【0044】
[試験区2]~[試験区5]
表1に記載の原料配合とした以外は、試験区1と同様に乳化クリームを製造した。また、官能評価も試験区1と同様に行った。
試験例1の結果として、試験区1~試験区5の比較により植物油脂(米白)、植物油脂粉末、粉乳、ショートニング、乳化剤(シュガーエステル)のいずれの構成の一つが抜けても本発明の目的とする乳化状態、クリーム感、白色度のいずれも備えた生乳化クリームとすることは困難であった。各構成が有機・一体的に本発明を構成していることを示す結果と考えられる。
【0045】
<試験例2>(乳化剤の検討)
使用する乳化剤を検討した。試験例1の試験区1の配合における乳化剤について、以下の各乳化剤に置き換えて乳化剤の種類を変えた場合の効果について調べた。
当該得られた乳化クリームについて、その流動性、乳化効果、白色度の各項目について評価した。評価は熟練の技術者5名で行い。以下の評価基準で行った。
・流動性:良好(流動する)◎、良好〇、やや悪い△、悪い(固まり気味)×の4段階で評価した。
・乳化効果:良好(乳化する)◎、良好〇、やや悪い△、悪い(乳化しない)×の4段階で評価した。
・白色度:良好(白い)◎、良好〇、やや悪い△、悪い(黄色味がかっている)×の4段階で評価した。評価結果を表3に示す。
【0046】
【表3】


【0047】
試験例2の結果として、HLBが概ね11以下の乳化剤を使用することが好ましいことが分かった。さらに概ね7以下の乳化剤を使用することがより好ましいことが分かった。また、シュガーエステル(ショ糖脂肪酸エステル)が好ましいことが分かった。
ここでショ糖脂肪酸エステルはショ糖と植物起源の脂肪酸をエステル結合させて得られる界面活性剤であり、ショ糖1分子中に全部8個の水酸基があり、結合させる脂肪酸の種類と数を変化させることにより、幅広い性質・機能を持たせている。その内、今回の検証で、最も優位に効いているのが、リョートーシュガーエステルS-370と考えられた。本乳化剤はHLB=3であり、ショ糖とステアリン酸メチルエステルを反応し製造されている。
【0048】
例えば、今回の乳化クリームをお湯に入れて湯戻しした後に喫食する即席カップ麺等の乾燥食品において添付調味料として使用する場合、(1)常温保存可能、(2)見た目は白い液体クリームであること、(3)カップ麺、カップスープの別添パックとして、お湯を入れたらお湯になじむこと。を満たすことが必要となる。製品化するにはシュガーエステルS-370は最も好ましいことが分かった。すなわち、油にうまく分散にも見られ、HLB3は水と油のちょうど間くらいの物性であり、自己乳化の機能が働いて、O/Wの乳化力が働いたと考えられる。
乳化剤で白くなる原因としては、乳化剤が粉末原料の分散性を向上させ、結果分散粒子が光を乱反射しているため、白く見えている可能性も考えられる。
【0049】
<試験例3>(乳化剤とショートニングの混合)
乳化剤とショートニングの含量比について試験するとともに、撹拌の方法について検討した。
試験例1の試験区1の配合において、ショートニング及び乳化剤の含有量を変更させた場合の乳化クリームについて、白さ、乳化効果、気泡の有無を比較した。評価は熟練の技術者5名で行い。以下の評価基準で行った。
・白さ(白色度):最良(白い)◎、良好〇、やや良◇、やや悪△、悪(黄色味がかっている)×の5段階で評価した。
・乳化効果:最良(乳化する)◎、良好〇、やや良◇、やや悪△、悪(乳化しない)×の5段階で評価した。
・気泡の有無:最良(気泡がない)◎、良好〇、やや良◇、やや悪△、悪(気泡が多い)×の5段階で評価した。
評価結果を表4に示す。
【0050】
【表4】
【0051】
結果として、乳化剤のみの添加だと乳化しないことが分かった。一方、ショートニングのみで量を多く配合しても乳化しなかったことが観察された。両方を添加することが必要であり、ショートニングについては5重量%以上、乳化剤については、1重量%以上の範囲となると好適であることが分かった。
また、乳化剤2重量%以上で、ショートニング7重量%以上又は13重量%以上がより好まし。さらに、最も好ましくは、乳化剤3重量%以上で、ショートニング7重量%以上又は13重量%以上であることがわかった。
【0052】
<試験例4>本発明の実施例における粘度・色調・成分分析値について
本発明の製造方法で得られる乳化クリームの粘度・色調・成分分析値について調べた。
原料配合としては、試験例1の試験区1の配合にするとともに、撹拌については、コミトロール(アーシェル社、1700タイプ)及びホモミクサー(プライミクス社、MARK IIタイプ)の2種類を利用した。
粘度については、B型粘度計(東機産業株式会社、VISCOMETER TVB-15タイプ)によって温度70℃で測定した。結果を表5に示す。また、色調については、色差計(日本電色工業株式会社、Spectrophotometer SE 6000タイプ)によって測定した。結果を表6に示す。
(1) 粘度
【0053】
【表5】
(2) 色調
【0054】
【表6】
【0055】
結果として、良好な白色度(白さ)を有する乳化クリームとできることが分かった。
さらに、本発明の製造方法で得られる乳化クリームの成分分析値(pH、水分、水分活性、AV(酸化)、POV(過酸化物価)、油脂含量)について調べた。
原料配合としては、試験例1の試験区1の配合にするとともに、撹拌については、コミトロール(アーシェル社、1700タイプ)により処理したものを使用した。結果を表7に示す。
(3) 成分規格値の分析値
【0056】
【表7】
【0057】
結果として、低い水分含量であることが判明した。また、水分活性としては、0.42で低い値とすることができることが分かった。
【0058】
[試験例5]保存テスト
本発明における製造方法により製造した乳化クリームが保存性を有するかどうかを確認した。原料配合としては、試験例1の試験区1の配合にするとともに、撹拌については、コミトロール(アーシェル社、1700タイプ)を利用した。
得られた乳化クリームをパック包材として、ON15//VMPET12//ON15//LLDPEのパックに収容し密封して、低温度帯として、0℃の冷蔵庫に8週間保存するともに、加速劣化試験として高温度帯:温度40℃、湿度75%で8週間保存した。尚、温度40℃、湿度75%の条件では、当該条件での一週間の保存が常温保存での1.5カ月に相当すると考えられる。
【0059】
評価は、褐変、乳化の壊れ、風味の変化の3点について行い、評価は熟練の技術者5名で行い。以下の評価基準で行った。
・褐変:良好(コントロールと変わらない)◎、良好〇、やや悪い△、悪い(コントロールより大幅に褐変している)×の4段階で評価した。
・乳化の壊れ:良好(コントロールと変わらない)◎、良好〇、やや悪い△、悪い(コントロールより大幅に乳化が壊れている)×の4段階で評価した。
・風味の変化:良好(風味変化無し)◎、良好〇、やや悪い△、悪い(風味変化有り)×の4段階で評価した。
40℃(湿度90%)の恒温機での評価結果を表8に、0℃冷蔵庫での評価結果を表9に示す。
<40℃恒温機(0W~8W)>
【0060】
【表8】
<0℃冷蔵庫(0W~8W)>
【0061】
【表9】
【0062】
結果として、本発明の製造方法で得られる乳化クリームは、良好な保存性を有することが分かった。


<試験例5>(風味付与素材によって風味を付与した場合)
本発明の乳化クリームについて特定の風味を付与したタイプを調製した。
[試験区6]
試験区1の配合の乳化クリームに対して、さらに風味付与素材として、チーズ系の風味付与素材(チーズ酵素分解物に賦形剤等を含むもの)、チーズ系フレーバ(液体油脂及び香料を含むもの)、結晶物としてグルタミン酸ナトリウム及びマルトース、さらに、デキストリンを含有したものを含有したもの(表10に記載)を試験区1と同様に調製したものを準備した。官能評価は試験区1の場合と同様にした。
【0063】
【表10】



表10に示すように試験区1の乳化クリームの配合に加えてさらに、風味付与素材加えることで風味(味)を幅広く応用することが確認できた。尚、風味付与素材を使用する場合は、結晶物やデキストリンを併用するとより好ましいことが分かった。