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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050259
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】表面処理フィラーの評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/00 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
G01N33/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021160283
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】吉田 悟
(72)【発明者】
【氏名】正田 勲
(57)【要約】
【課題】 簡便かつ高精度な表面処理フィラーの評価方法を提供すること。
【解決手段】 走査型プローブ顕微鏡で表面処理フィラーの粒子の表面電位を測定することにより、表面処理フィラーの充填性を評価することが可能である。さらには、該表面処理フィラーに対応する未処理フィラーや、該表面処理フィラーに対応する表面処理剤の表面電位も測定することで、評価精度を向上させることが出来る。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面処理フィラーの樹脂への充填性を評価する方法であって、走査型プローブ顕微鏡で前記表面処理フィラーの粒子の表面電位を測定する工程を含むことを特徴とする、表面処理フィラーの評価方法。
【請求項2】
さらに、走査型プローブ顕微鏡で、前記表面処理フィラーに対応する未処理フィラーの粒子の表面電位を測定する工程を含む、請求項1記載の表面処理フィラーの評価方法。
【請求項3】
さらに、走査型プローブ顕微鏡で、前記表面処理フィラーに対応する表面処理剤の表面電位を測定する工程を含む、請求項1または2記載の表面処理フィラーの評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理フィラーの新規な評価方法に関するものである。詳しくは、粒子の表面電位を走査型プローブ顕微鏡により測定することにより、表面処理フィラーの樹脂への充填性を評価する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無機フィラーと樹脂とを複合化した樹脂複合材料は、幅広い分野で使用されている。その際、無機フィラーと樹脂とのなじみを向上させることを目的として、表面処理を行った無機フィラー(表面処理フィラー)を使用することが一般的である。表面処理を行うことにより、無機フィラーの樹脂への充填性が向上し、無機フィラーを樹脂中に均一に分散させた樹脂複合材料を製造することが容易となる。
【0003】
無機フィラーの表面処理は、表面処理がされていない無機フィラー(未処理フィラー)と表面処理剤とを反応させることで、粒子の表面に表面処理剤由来の被覆物が形成されることで得られる。
【0004】
ここで、表面処理操作を行った場合でも、適切な表面処理がなされない場合、例えば、被覆物の分布が不均一で、表面処理フィラーの粒子表面に十分な表面処理がされていない部位が存在する場合には、表面処理フィラーの樹脂への充填性が十分向上しない場合がある。そのため、表面処理フィラーの製造においては、得られる表面処理フィラーの表面処理が適切に行われているかどうかを確認すること、特には被覆物の均一性に考慮した評価を行うことが、表面処理条件の検討や品質管理などの場面で重要になる。
【0005】
表面処理フィラーの表面処理状態を評価することが方法としては、例えば、特許文献1~3の方法が提案されている。
【0006】
特許文献1では、表面処理フィラーを加熱して有機物である表面処理剤由来の被覆物を燃焼させ、その際の熱的変化を測定することで表面処理フィラーの表面処理状態を評価する方法が開示されている。
【0007】
特許文献2では、表面処理フィラー(水酸化マグネシウム)の懸濁液に酸を滴下した際のpHの変化を観測することにより、表面処理状態を評価する方法が開示されている。この方法では、表面処理が均一で粒子の露出表面が少ないほどpHの低下速度が速くなるため、被覆状態を正確に評価できるとされている。
【0008】
特許文献3では、シランカップリング剤(表面処理剤)による表面処理が施された表面処理フィラーをアルコール中に浸漬することで、シランカップリング剤中のアルコキシ基を有するアルコール生成させ、これをガスクロマトグラフ分析により定量することで、粒子とシランカップリング剤との反応過程・反応率を定量的に精度良く評価することができるとされている。
【0009】
しかしながら特許文献1~3のような従来の評価方法では、単一の表面処理粒子における被覆物の分布を評価することは困難であり、被覆物の均一性の評価には不十分であった。そのため、これまでは表面処理フィラーの充填性を高い精度で知るためには、実際に樹脂に充填するしかなく、樹脂を変更した場合には再度評価を行うことが必要になるなど、評価に手間がかかっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001-85806号公報
【特許文献2】特開2003-83950号公報
【特許文献3】特開2004-108932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記のように、従来の表面処理フィラーの評価方法では、粒子表面における被覆物の均一性を考慮した充填性の評価を十分に行うことが困難であり、簡便かつ高精度で表面処理フィラーの充填性を評価することは困難であった。そこで本発明では、簡便かつ高精度な表面処理フィラーの評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った結果、走査型プローブ顕微鏡で表面処理フィラーにおける表面処理粒子の表面電位を測定することにより、被覆物の分布を評価することが可能であり、これにより表面処理フィラーの充填性評価を簡便かつ高精度に行うことが可能であることを見出した。
【0013】
即ち本発明は、走査型プローブ顕微鏡で表面処理フィラー中の表面処理粒子の表面電位を測定する工程を含むことを特徴とする、表面処理フィラーの評価方法である。また、前記表面処理フィラーに対応する未処理フィラー中の未処理粒子の表面電位を測定する工程、および/または、前記表面処理フィラーに対応する表面処理剤の表面電位を測定する工程をさらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の評価方法によれば、簡便に表面処理フィラーの充填性を評価することが可能となる。これにより、例えば、従来よりも効率的な品質管理が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、表面処理剤によって表面処理をされた無機フィラーを「表面処理フィラー」、前記表面処理フィラーが表面処理される前の無機フィラー、もしくはこれと製造条件が同等の無機フィラーを「表面処理フィラーに対応する未処理フィラー」(単に「未処理フィラー」と称することもある)と称する。また、表面処理フィラー中の粒子を「表面処理粒子」、未処理フィラー中の粒子を「未処理粒子」と称する。表面処理粒子表面に存在する表面処理剤由来の有機物を「被覆物」、該被覆物を形成するための原料を「表面処理フィラーに対応する表面処理剤」(単に「表面処理剤」と称することもある)と称する。
【0016】
本発明の評価方法によって評価する表面処理フィラーは特に限定されず、例えば、表面処理された、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素などに対して本発明の評価方法を適用することが可能である。表面処理フィラーの粒径は特に限定されないが、粒径が小さいと評価が難しくなり、粒径が大きいと評価に時間を要することから、粒径は0.5μm~100μmであることが好ましく、1.0μm~10μmであることがより好ましい。
【0017】
また、表面処理剤も特に限定されず、公知のものが利用可能であり、例えば、シランカップリング剤などを挙げることが出来る。前記表面処理剤は、表面処理剤の表面電位と、未処理無機フィラーの表面電位の差が、100mV以上であるものが好ましく、120mV以上であるものがより好ましい。後述するように、表面処理剤と未処理無機フィラーとの表面電位の差が大きいほど、表面処理フィラーの評価を高精度に行うことが容易となる。
【0018】
走査型プローブ顕微鏡は、探針を測定対象の表面をなぞるように動かしながら走査させ、探針と測定対象の相互作用を検出することによって、測定対象の表面状態を評価する装置である。走査型プローブ顕微鏡による表面電位の測定は、測定試料に直流電圧を印加して帯電させた後、探針に交流電圧を印加し試料表面を走査しながら試料と探針の間に働く静電気力を検出することで、測定対象の各位置における表面電位を測定するものである。 表面処理粒子においては被覆物が存在する部分と被覆物が存在しない部分では通常は表面電位が異なるため、このような走査型プローブ顕微鏡により粒子の表面電位を測定することで、粒子表面における被覆物が存在する部分と存在しない部分を区別することが可能となる。これにより、粒子表面における被覆物の状態を評価することが可能となる。表面処理フィラーの表面電位は、表面処理フィラー中の表面処理粒子を適宜ピックアップして測定することで評価する。ピックアップする表面処理粒子の数は特に限定されないが、多くの粒子を測定した方が評価精度を高めることができることから、フィラー500gあたり5個以上であることが好ましく、10個以上であることがより好ましい。
【0019】
本発明の評価方法で使用する走査型プローブ顕微鏡は、粒子の表面電位を測定することが可能であれば特に限定されない。
【0020】
本発明の評価方法で使用する探針の種類は、粒子の表面電位を測定することが出来れば特に限定されないが、高い分解能を得るために、探針先端の曲率半径が5~100nmであることが好ましい。また、先端に導電性のコーティングが施された探針を使用することが好ましく、導電性のコーティングとしては、例えば、Auコーティング、Ptコーティング、PtIrコーティング、PtSiコーティング、ダイヤモンドコーティングなどが挙げられる。
【0021】
本発明の評価方法において、測定試料を走査型プローブ顕微鏡に設置する方法は上記測定を行うことが出来れば特に限定されないが、例えば、揮発性溶媒に粒子を分散させて分散液を調整した後、導電性基板上に前記分散液を滴下し、揮発性溶媒を揮発させることで作製した測定用基板を、導電性ペーストを使用して走査型プローブ顕微鏡の試料台に固定することで行うことが出来る。前記揮発性溶媒は、測定対象となる粒子を分散させることが可能であり、且つ前記粒子と反応することがなければ特に限定されず、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン、ジエチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル、ヘキサン、2-メチルペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン、オクタン、2,2,4-トリメチルペンタン、石油エーテルなどのアルカン、ギ酸エチル、ギ酸ブチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレンなどを使用することが出来る。前記導電性基板としては、例えば、高配向性熱分解グラファイト(HOPG)基板、導電コートされたマイカ基板などを使用することが出来る。前記導電性ペーストは、樹脂に導電性粒子を分散させたものを使用することが可能であり、例えば、エポキシ樹脂に銀粒子、金粒子、白金粒子などを分散させたものが挙げられる。
【0022】
本発明の評価方法では、測定試料となる粒子に直流電圧を印加して帯電させた後、探針に交流電圧を印加させながら試料表面を走査し、試料と探針の間に働く静電気力を検出する。そのためには、先ず、測定対象となる粒子の表面を探針で走査することによって、粒子の凹凸像(高さ像)を得る必要がある。凹凸像を得る方法は特に限定されないが、例えば、探針を振動させ試料表面を走査するタッピングモード等の方法で行うことが出来る。
【0023】
タッピングモードは、先端に探針を取り付けたカンチレバーを共振周波数で加振させながら粒子表面を走査する方法である。タッピングモードで測定することで、凹凸像の他、粒子表面の位相像も得ることが可能である。位相像により、被覆物の分布を推定することも可能と考えられ、表面電位測定と組み合わせることで、表面処理フィラーに関する多くの情報を得ることが期待されるため、凹凸像を得る方法として好ましい方法の一つとして挙げることが出来る。
【0024】
次いで、測定対象となる粒子に直流電圧を印加することで帯電させる。直流電圧の印加条件は特に限定されず、良好な観察像が得られる条件で行えば良く、例えば、印加電圧を100~1000mVとすれば良い。
【0025】
その後、探針に交流電圧を印加させながら、測定対象となる粒子の凹凸像のデータを基に走査位置を決定し、表面電位像が得られるように試料台と探針が電気的に接続された状態で探針を走査し、試料と探針の間に働く静電気力を検出することで、粒子の表面電位を測定することが可能である。走査位置は、探針と粒子が接触せず、且つ試料と探針の間に電気的な接続が得られる位置で行うことが出来れば特に限定されないが、探針と粒子の距離が短いほど感度が向上する一方で探針位置の調整が難しくなるため、本発明の場合は探針の位置が粒子の表面から5nm~300nmに制御することが好ましく、50nm~200nmに制御することがより好ましい。
【0026】
本発明の評価方法では、前記方法により粒子の表面全体にわたって探針を走査させて各位置での表面電位を測定することにより、粒子の表面における表面電位の分布を測定することが出来る。この表面電位の分布から、被覆物の分布を評価することができる。
【0027】
本発明の評価方法で粒子の表面処理状態を評価できる理由は明らかではないが、本発明者らは以下のように推測している。すなわち、未処理粒子における表面電位と、表面処理剤の表面電位は通常異なるため、表面処理粒子において表面処理剤の被覆物が存在する部位の表面電位は未処理粒子と異なることになる。そのため、表面電位により粒子表面における被覆物の状態を評価することが可能になると推定される。
【0028】
表面電位による表面処理フィラーの充填性の評価は、例えば、表面電位の頻度を示したヒストグラムから行うことが出来る。具体的には、例えばヒストグラムにおける表面電位の最頻値などにより評価することが可能である。
【0029】
表面電位の最頻値で評価する場合、未処理フィラーと表面処理剤の種類が同一であれば、充填性と表面電位の最頻値に相関があると言えるので、これより評価することが出来る。例えば、充填性が判明している表面処理フィラーの表面電位をあらかじめ測定して、高い充填性が得られる表面電位の最頻値を把握しておけば、新たに製造した表面処理フィラーについて表面電位を測定し、その最頻値を求めることで、該フィラーの充填性を簡便に予測することが可能である。
【0030】
表面処理フィラーに対応する未処理フィラーの表面電位の測定も行った場合には、更に詳しく情報を得ることが可能であるため、好ましい形態である。例えば、未処理フィラーと表面処理剤が同一の表面処理フィラー同士で比較した場合、表面処理フィラーの表面電位の最頻値と、未処理フィラーの表面電位の最頻値の差が大きいほど、表面処理が十分に行われて被覆物の分布が均一に近く、充填性が良好であると評価できる。
【0031】
表面未処理フィラーの表面電位の測定は、前記の粒子の表面電位の測定方法に従って測定すれば良い。
また、表面処理剤の表面電位を測定も行った場合には、表面処理剤の表面電位の最頻値と、表面処理フィラーの表面電位の最頻値とを比較することで充填性を評価することも可能である。例えば、未処理フィラーと表面処理剤が同一の表面処理フィラー同士で比較した場合、表面処理フィラーの表面電位の最頻値と、表面処理剤の表面電位の最頻値の差が近いほど、表面処理が十分に行われて被覆物の分布が均一に近く、充填性が良好であると評価できる。
【0032】
表面処理剤の表面電位の測定は、走査型プローブ顕微鏡に表面処理剤測定試料を設置して、粒子と同様に測定すれば良い。前記表面処理剤測定試料は、例えば、揮発性溶媒に表面処理剤を溶解させて調整した溶液を導電性基板上に滴下し、揮発性溶媒を揮発させることで作製することが出来る。前記揮発性溶媒は表面処理剤の表面電位を測定することが出来れば特に限定されず、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン、ジエチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル、ヘキサン、2-メチルペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン、オクタン、2,2,4-トリメチルペンタン、石油エーテルなどのアルカン、ギ酸エチル、ギ酸ブチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレンなどを使用することが出来る。前記導電性基板としては、粒子を測定する際に使用するものと同等の導電性基板を使用すれば良い。
【0033】
本発明の評価方法により、実際に樹脂に充填することなく表面処理フィラーの充填性を評価することが可能となる。そのため、本発明の評価方法を使用することで、製造された表面処理フィラーの評価を簡便に行うことが可能となり、検査の簡便化に寄与する。
【実施例0034】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。評価に使用した試料は以下のとおりである。
【0035】
窒化アルミニウム粉末
・A1:窒化アルミニウム粉末(表面処理されていない窒化アルミニウム粉末、平均粒子径1μm、株式会社トクヤマ製)
・B1~3:下記の表面処理方法に従ってアルキル系シランカップリング剤S1でA1を処理したもの。なお、B1~3は、表面処理に使用したシランカップリング剤の量がそれぞれ異なる。
・C1~3:下記の処理方法に従ってメタクリル系シランカップリング剤S2でA1を処理したもの。なお、C1~3は、表面処理に使用したシランカップリング剤の量がそれぞれ異なる。
・D1~3:下記の処理方法に従ってエポキシ系シランカップリング剤S3でA1を処理したもの。なお、D1~3は、表面処理に使用したシランカップリング剤の量がそれぞれ異なる。
・E1~3:下記の処理方法に従ってフェニル系シランカップリング剤S4でA1を処理したもの。なお、E1~3は、表面処理に使用したシランカップリング剤の量がそれぞれ異なる。
【0036】
<窒化アルミニウム粉末の表面処理方法>
窒化アルミニウム粉末A1を500g、シランカップリング剤を所定量、イソプロピルアルコール600gをガラス製ナスフラスコに入れ、フッ素樹脂製攪拌羽根で30分攪拌した。ロータリーエバポレータにてイソプロピルアルコールを減圧除去した後、100℃で減圧乾燥し、表面処理窒化アルミニウム粉末を得た。得られた表面処理窒化アルミニウム粉末は500g程度であった。
【0037】
<フィラーの表面電位測定>
フィラーを0.005gと、エタノールを10gとを、50mLスクリュー管瓶に入れ、超音波バスで15分間超音波を照射し、試料分散液を作製した。作製した試料分散液をスポイトで採取し、10mm角のHOPG基板に1滴滴下した後、80℃で乾燥させてエタノールを除去して測定用基板を得た。得られた測定用基板を、走査型プローブ顕微鏡(Bruker社製:Dimension Icon)の試料台に、導電性ペースト(エポキシ樹脂に銀粒子を分散させたもの)を使用して固定した。次いで、粒径1μm~10μmの粒子を選択し、タッピングモードにより粒子の凹凸像を得た。次いで、印加電圧500mV,探針と粒子の距離を100nmに設定し、前記粒子の表面電位を測定した。なお、探針は、先端曲率半径が25nmで、Pt-Irコーティングされた物を用いた。同様の操作を20個の粒子について行い、測定した全粒子の結果から、横軸を表面電位、縦軸を頻度とするヒストグラムを得て、表面電位の最頻値を求めた。
【0038】
<表面処理剤の表面電位測定>
シランカップリング剤をスポイトで採取し、10mm角のHOPG基板に1滴滴下した後、100℃で加熱して測定用基板を得た。得られた測定用基板を、走査型プローブ顕微鏡(Bruker社製:Dimension Icon)の試料台に導電性ペーストで固定した。次いで、凹凸像が得られるように、振動させた探針の振幅、ゲインを調整した。次いで、印加電圧500mV,探針と粒子の距離を100nmに設定し、前記粒子の表面電位を測定した。なお、探針は、先端曲率半径が25nmで、Pt-Irコーティングされた物を用いた。測定した測定結果から、横軸を表面電位、縦軸を頻度とするヒストグラムを得て表面電位の最頻値を求めた。
【0039】
<フィラーの充填性評価>
2液付加反応型のシリコーン樹脂とフィラーとを、あわとり練郎(株式会社シンキー製)を用いて混練しフィラーの最大充填量を確認することで、フィラーの充填性を評価した。評価結果は、フィラーの最大充填量が多い順に順位を付けて示した。
【0040】
<実施例1>
上記フィラー及び表面処理剤の表面電位の測定に従って、フィラーA1、B1~B3、表面処理剤S1の表面電位を求めた。また、B1~B3の充填性評価を行った。結果は表1に示すとおり、表面処理フィラーの表面電位の最頻値が、未処理フィラー(A1)の表面電位の最頻値から離れ、シランカップリング剤(S1)の表面電位の最頻値に近づくほど、高い充填性であることが示された。
【0041】
【表1】
【0042】
<実施例2>
上記フィラー及び表面処理剤の表面電位の測定に従って、フィラーA1、C1~C3、表面処理剤S2の表面電位を求めた。また、C1~C3の充填性評価を行った。結果は表1に示すとおり、表面処理フィラーの表面電位の最頻値が、未処理フィラー(A1)の表面電位の最頻値から離れ、シランカップリング剤(S2)の表面電位の最頻値に近づくほど、高い充填性であることが示された。
【0043】
【表2】
【0044】
<実施例3>
上記フィラー及び表面処理剤の表面電位の測定に従って、フィラーA1、D1~D3、表面処理剤S3の表面電位を求めた。また、D1~D3の充填性評価を行った。結果は表1に示すとおり、表面処理フィラーの表面電位の最頻値が、未処理フィラー(A1)の表面電位の最頻値から離れ、シランカップリング剤(S3)の表面電位の最頻値に近づくほど、高い充填性であることが示された。
【0045】
【表3】
【0046】
<実施例4>
上記フィラー及び表面処理剤の表面電位の測定に従って、フィラーA1、E1~E3、表面処理剤S4の表面電位を求めた。また、E1~E3の充填性評価を行った。結果は表1に示すとおり、表面処理フィラーの表面電位の最頻値が、未処理フィラー(A1)の表面電位の最頻値から離れ、シランカップリング剤(S4)の表面電位の最頻値に近づくほど、高い充填性であることが示された。
【0047】
【表4】
【0048】
以上より、表面処理フィラーの表面電位と、表面処理フィラーの樹脂への充填性には相関があり、走査型プローブ顕微鏡で前記表面処理フィラーの表面電位を測定することによって、フィラーの充填性を評価できることが示された。