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特開2023-5058ポリアセタール樹脂製ギア及びポリアセタール樹脂製ギアの耐疲労特性改善方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005058
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】ポリアセタール樹脂製ギア及びポリアセタール樹脂製ギアの耐疲労特性改善方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 2/10 20060101AFI20230111BHJP
   C08G 2/24 20060101ALI20230111BHJP
   F16H 55/06 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C08G2/10
C08G2/24
F16H55/06
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021106748
(22)【出願日】2021-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】横田 智明
【テーマコード(参考)】
3J030
4J032
【Fターム(参考)】
3J030AC10
3J030BC01
3J030BC08
4J032AA05
4J032AA32
4J032AA34
4J032AA35
4J032AA39
4J032AB36
4J032AC02
4J032AC13
4J032AC18
4J032AC19
4J032AC32
4J032AD37
4J032AF04
(57)【要約】
【課題】耐疲労特性に優れるポリアセタール樹脂製ギアを提供する。
【解決手段】ポリアセタール樹脂又はポリアセタール樹脂を含む樹脂組成物からなるポリアセタール樹脂製ギアであって、ポリアセタール樹脂が、トリオキサン(A)と、環状アセタール化合物(B)と、1分子中にグリシジルオキシ基を1個有する脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)と、を共重合してなり、前記(A)~(C)成分全体において、前記環状アセタール化合物(B)が0.5~2.5mol%であり、前記脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)が0.02~0.7mol%であるポリアセタール樹脂製ギアである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂又はポリアセタール樹脂を含む樹脂組成物からなるポリアセタール樹脂製ギアであって、
前記ポリアセタール樹脂が、トリオキサン(A)と、環状アセタール化合物(B)と、1分子中にグリシジルオキシ基を1個有する脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)と、を共重合してなり、
前記(A)~(C)成分全体において、前記環状アセタール化合物(B)が0.5~2.5mol%であり、前記脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)が0.02~0.7mol%である、ポリアセタール樹脂製ギア。
【請求項2】
前記ポリアセタール樹脂又は前記樹脂組成物のメルトフローレートが0.5~3.0g/10分である、請求項1に記載のポリアセタール樹脂製ギア。
【請求項3】
前記脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)が下記一般式(1)で表さる化合物である、請求項1又は2に記載のポリアセタール樹脂製ギア。
【化1】

[Rは、炭素数3~10の炭化水素基を示す。]
【請求項4】
前記脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)が、ブチルグリシジルエーテル又は2-エチルヘキシルグリシジルエーテルである、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリアセタール樹脂製ギア。
【請求項5】
ポリアセタール樹脂又はポリアセタール樹脂を含む樹脂組成物からなるポリアセタール樹脂製ギアの耐疲労特性を改善する方法であって、
前記ポリアセタール樹脂として、トリオキサン(A)と、環状アセタール化合物(B)と、1分子中にグリシジルオキシ基を1個有する脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)と、を共重合してなり、前記(A)~(C)成分全体において、前記環状アセタール化合物(B)が0.5~2.5mol%であり、前記脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)が0.02~0.7mol%である、ポリアセタール樹脂を用いる、ポリアセタール樹脂製ギアの耐疲労特性改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール樹脂製ギア及びポリアセタール樹脂製ギアの耐疲労特性改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂とも称され、POM樹脂と略される。)は、バランスのとれた機械的性質を有し、耐摩擦・摩耗特性、耐薬品性、耐熱性、電気特性等に優れるため、自動車、電気・電子製品等の分野で広く利用されている。中でも、POM樹脂はギアの材料としても有用であり、POM樹脂製ギアは広く利用されている(特許文献1参照)。
【0003】
ギアに要求される性能の1つに、運用時において破壊が発生するまでの期間が長いという性能(以下、「耐疲労特性」と呼ぶ。)が挙げられる。一方、POM樹脂は、オキシメチレン単位(-CHO-)のみを単位構造に持つホモポリマーと、オキシメチレン単位に加えてオキシエチレン単位(-CHCHO-)などを単位構造に持つコポリマーとの2種に大別される。これら2種のPOM樹脂において、長時間にわたりギアを運転させることを考慮すれば、コポリマーの方が耐疲労特性に優れ、ギアの用途としては好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-70146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の通り、ポリアセタールコポリマーはギアの用途として好適である。そこで、ポリアセタールコポリマーの耐疲労特性をさらに向上させることができればギアの用途としての有用性が更に高まる。
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、耐疲労特性に優れるポリアセタール樹脂製ギア、及びポリアセタール樹脂製ギアの耐疲労特性改善方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のモノマー種を用いて重合して得られるポリアセタールコポリマーが耐疲労特性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)ポリアセタール樹脂又はポリアセタール樹脂を含む樹脂組成物からなるポリアセタール樹脂製ギアであって、
前記ポリアセタール樹脂が、トリオキサン(A)と、環状アセタール化合物(B)と、1分子中にグリシジルオキシ基を1個有する脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)と、を共重合してなり、
前記(A)~(C)成分全体において、前記環状アセタール化合物(B)0.5~2.5mol%であり、前記脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)が0.02~0.7mol%である、ポリアセタール樹脂製ギア。
【0009】
(2)前記ポリアセタール樹脂又は前記樹脂組成物のメルトフローレートが0.5~3.0g/10分である、前記(1)に記載のポリアセタール樹脂製ギア。
【0010】
(3)前記脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)が下記一般式(1)で表される化合物である、前記(1)又は(2)に記載のポリアセタール樹脂製ギア。
【0011】
【化1】

[Rは、炭素数3~10の炭化水素基を示す。]
【0012】
(4)前記脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)が、ブチルグリシジルエーテル又は2-エチルヘキシルグリシジルエーテルである、前記(1)~(3)のいずれかに記載のポリアセタール樹脂製ギア。
【0013】
(5)ポリアセタール樹脂又はポリアセタール樹脂を含む樹脂組成物からなるポリアセタール樹脂製ギアの耐疲労特性を改善する方法であって、
前記ポリアセタール樹脂として、トリオキサン(A)と、環状アセタール化合物(B)と、1分子中にグリシジルオキシ基を1個有する脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)と、を共重合してなり、前記(A)~(C)成分全体において、前記環状アセタール化合物(B)が0.5~2.5mol%であり、前記脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)が0.02~0.7mol%である、ポリアセタール樹脂を用いる、ポリアセタール樹脂製ギアの耐疲労特性改善方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐疲労特性に優れるポリアセタール樹脂製ギア、及びポリアセタール樹脂製ギアの耐疲労特性改善方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<ポリアセタール樹脂製ギア>
本実施形態のポリアセタール製ギアは、ポリアセタール樹脂又はポリアセタール樹脂を含む樹脂組成物からなるポリアセタール樹脂製ギアである。そして、ポリアセタール樹脂が、トリオキサン(A)と、環状アセタール化合物(B)と、1分子中にグリシジルオキシ基を1個有する脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)(以下、単に「脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)」とも呼ぶ。)と、を共重合してなる。また、(A)~(C)成分全体において、環状アセタール化合物(B)が0.5~2.5mol%であり、脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)が0.02~0.7mol%である。
なお、本明細書において、「ポリアセタール樹脂(POM樹脂)」は、ホモポリマーであるかコポリマーであるかの分類からはコポリマーであることから、ポリアセタール共重合体とも呼ぶ。
【0016】
本実施形態に係るPOM樹脂は、トリオキサン(A)由来の構成単位と、環状アセタール化合物(B)由来の構成単位と、脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)由来のアルコキシメチル基が置換基として結合したオキシエチレン基とで構成された構造であると考えられる。具体的な構造は不明であるものの、上記のように共重合して得られるポリアセタール共重合体は耐疲労特性に優れる。
【0017】
以下に、各成分について説明する。
【0018】
[トリオキサン(A)]
トリオキサン(A)とは、ホルムアルデヒドの環状三量体であり、一般的には酸性触媒の存在下でホルムアルデヒド水溶液を反応させることによって得られ、これを蒸留等の方法で精製して用いられる。重合に用いるトリオキサン(A) は、水、メタノールなどの不純物を極力低減させたものが好ましい。
【0019】
[環状アセタール化合物(B)]
環状アセタール化合物(B)は、トリオキサン(A)と共重合可能な環状アセタール化合物(B)であり、例えば、1,3-ジオキソラン、プロピレングリコールホルマール、ジエチレングリコールホルマール、トリエチレングリコールホルマール、1,4-ブタンジオールホルマール、1,5-ペンタンジオールホルマール、1,6-ヘキサンジオールホルマール等が挙げられ、中でも1,3-ジオキソランが好ましい。
【0020】
環状アセタール化合物(B)の共重合量は、トリオキサン(A)、環状アセタール化合物(B)および脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)からなる成分全体において、0.5~2.5mol%、好ましくは0.5~2.3mol%であり、より好ましくは1.5~2.2mol%である。環状アセタール化合物(B)の共重合割合が0.5mol%未満であると、酸性のグリス使用時の安定性が低下し、2.5mol%を超えると、耐疲労特性が不良となる。
【0021】
[脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)]
脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)とは、分子中にグリシジルオキシ基を1個有する脂肪族の有機化合物を総称したものである。この点で、上記環状アセタール化合物(B)とは区別される。このような脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)としては、グリシジルオキシ基を1個有する単官能グリシジルエーテル化合物が使用できる。
【0022】
単官能グリシジルエーテル化合物の具体例としては、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、2-メチルオクチルグリシジルエーテル等が挙げられる。好ましくは、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテルが挙げられる。
【0023】
脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)としては、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。下記一般式(1)中、Rで表される炭化水素基の炭素数が3~10であると、POM樹脂の基本特性を損なわずに、耐疲労特性の向上を図ることができる。
【0024】
【化2】

[Rは、炭素数3~10の炭化水素基を示す。]
【0025】
一般式(1)中、Rは炭素数3~10の炭化水素基を示すが、当該炭化水素基の炭素数は3~9が好ましい。また、Rで表される炭化水素基は、直鎖であっても、分岐鎖であってもよく、環を形成していてもよい。また、Rで表される炭化水素基は、不飽和結合を有していてもよい。当該炭化水素基の具体例としては、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等のアルキル基が挙げられる。
【0026】
脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)としては、より具体的には、ブチルグリシジルエーテル又は2-エチルヘキシルグリシジルエーテルであることが好ましい。
【0027】
脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)の共重合量は、(A)~(C)成分全体において、0.02~0.7mol%であり、好ましくは0.03~0.5mol%、特に好ましくは0.05~0.3mol%である。(C)成分の共重合量が0.02mol%未満では、耐疲労特性の改善効果が得られない。逆に0.7mol%を超えると流動性低下による成形性不良の問題等が生じ、更には得られる共重合体の結晶性の低下により、耐疲労特性及び剛性が低下する場合がある。
【0028】
また、本実施形態においては、耐疲労特性及び剛性の観点から脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)として、n-ブチルグリシジルエーテル及び2-エチルヘキシルグリシジルエーテルから選ばれる1種以上を用いるのが特に好ましい。
【0029】
脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)の分子量は、100~220が好ましい。脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)の分子量が220を超えると、その共重合によって得られるPOM樹脂の結晶性等を乱してその基本的性質を損ねたり、耐疲労特性、及び剛性に対しても好ましくない影響を生じたりするおそれがある。逆に、(C)成分の分子量が100未満であると、耐疲労特性及び剛性に対する効果が極めて小さいものとなる。
【0030】
本実施形態において、ポリアセタール共重合体は、基本的にはトリオキサン(A)、環状アセタール化合物(B)及び脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)を、必要に応じて適量の分子量調節剤を添加して、カチオン重合触媒を用いて塊状重合を行う等の方法で得られる。
【0031】
本実施形態において、より熱安定性に優れ、剛性、耐衝撃性等にも優れたポリアセタール共重合体とするためには、ポリアセタール共重合体の分子鎖中において環状アセタール化合物(B)及び脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)に由来する構成単位が均一に分散していることが好ましい。そのためには、重合によるポリアセタール共重合体の製造に際して、環状アセタール化合物(B)及び触媒を均一混合しておき、これを別途あらかじめ均一混合しておいた脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)及びトリオキサン(A)の均一混合液に添加して重合機に供給し重合させる方法が有効である。あらかじめ混合し均一溶液状態としておくことで環状アセタール化合物(B)及び脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)に由来する構成単位の分散状態が良好となり、機械特性が向上するだけでなく、熱安定性も優れたものとなる。
【0032】
前記の如き構成成分からなる本実施形態のポリアセタール共重合体を製造するにあたり、重合装置は特に限定されるものではなく、公知の装置が使用され、バッチ式、連続式等、いずれの方法も可能である。また、重合温度は65~135℃に保つことが好ましい。重合後の失活は、重合反応後、重合機より排出される反応生成物、あるいは、重合機中の反応生成物に塩基性化合物又はその水溶液等を加えて行う。
【0033】
本実施形態に使用するカチオン重合触媒としては、四塩化鉛、四塩化スズ、四塩化チタン、三塩化アルミニウム、塩化亜鉛、三塩化バナジウム、三塩化アンチモン、五フッ化リン、五フッ化アンチモン、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジエチルエーテラート、三フッ化ホウ素ジブチルエーテラート、三フッ化ホウ素ジオキサネート、三フッ化ホウ素アセチックアンハイドレート、三フッ化ホウ素トリエチルアミン錯化合物等の三フッ化ホウ素配位化合物、過塩素酸、アセチルパークロレート、t-ブチルパークロレート、ヒドロキシ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、p-トルエンスルホン酸等の無機及び有機酸、トエチルオキソニウムテトラフロロボレート、トリフェニルメチルヘキサフロロアンチモネート、アリルジアゾニウムヘキサフロロホスフェート、アリルジアゾニウムテトラフロロボレート等の複合塩化合物、ジエチル亜鉛、トリエチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド等のアルキル金属塩、ヘテロポリ酸、イソポリ酸等が挙げられる。その中でも特に三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジエチルエーテラート、三フッ化ホウ素ジブチルエーテラート、三フッ化ホウ素ジオキサネート、三フッ化ホウ素アセチックアンハイドレート、三フッ化ホウ素トリエチルアミン錯化合物等の三フッ化ホウ素配位化合物が好ましい。これらの触媒は有機溶剤等で予め希釈して用いることもできる。
【0034】
本実施形態に使用する分子量調節剤としては、線状ホルマール化合物が用いられる。線状ホルマール化合物としては、メチラール、エチラール、ジブトキシメタン、ビス(メトキシメチル)エーテル、ビス(エトキシメチル)エーテル、ビス(ブトキシメチル)エーテル等が例示される。その中でも、メチラール、エチラール、及びジブトキシメタンからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0035】
また、重合触媒を中和し失活するための塩基性化合物としては、アンモニア、又は、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、トリブタノールアミン等のアミン類、又は、アルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物塩類、その他公知の触媒失活剤が用いられる。また、重合反応後、生成物にこれらの水溶液を速やかに加え、失活させることが好ましい。かかる重合方法及び失活方法の後、必要に応じて更に、洗浄、未反応モノマーの分離回収、乾燥等を従来公知の方法にて行う。
【0036】
更に、不安定末端部の分解除去又は安定物質による不安定末端の封止等、必要に応じて公知の方法で安定化処理を行い、POM樹脂を得る。各種安定剤を配合し、更に、本実施形態のポリアセタール樹脂製ギアの効果を阻害しない限り、必要に応じて、ポリアセタール樹脂に対する一般的な添加剤を添加したPOM樹脂組成物としてもよい。
ここで用いられる安定剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、窒素含有化合物、アルカリ又はアルカリ土類金属の水酸化物、無機塩、カルボン酸塩等のいずれか1種または2種以上を挙げることができる。
一般的な添加剤とは、例えば染料、顔料等の着色剤、滑剤、核剤、離型剤、耐候安定剤、帯電防止剤、界面活性剤、又は、有機高分子材料、無機または有機の繊維状、粉体状、板状の充填剤等であり、これらを1種又は2種以上添加することができる。
【0037】
本実施形態において、POM樹脂又はPOM樹脂を含む樹脂組成物のメルトフローレートは0.5~3.0g/10分であることが好ましく、1.0~3.0g/10分であることがより好ましい。当該メルトフローレートが0.5~3.0g/10分であると、耐疲労特性に優れることとなる。
なお、メルトフローレートは、ISO 1133に準拠して温度:190℃、荷重:2.16kgの条件で測定される数値である。
【0038】
本実施形態においては、共重合を行う工程において、トリオキサン(A)、環状アセタール化合物(B)、及び脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)の合計質量(g)をa、分子量調節剤として使用する線状ホルマール化合物のモル数をb、(A)、(B)及び(C)成分に含まれる水分及びメタノールの合計モル数をそれぞれc、dとするとき、(b+c+d)/a=1.5~7μmol/gを満たすように設定することが好ましい。(b+c+d)/a=1.5~7μmol/gを満たすと、ISO 1133に従って温度:190℃、荷重:2.16kgの条件で測定されるメルトフローレート(MFR)を、0.5~3.0g/10分としたポリアセタール共重合体を得ることができる。
尚、前記(A)、(B)及び(C)に含まれる水分及びメタノールはそれぞれの不純物に由来するものである。
【0039】
本実施形態のポリアセタール樹脂製ギアを成形する方法としては特に限定はなく、当該技術分野で知られている各種方法を採用することができる。例えば、上述のポリアセタール樹脂と各種安定剤、添加剤を押出機に投入して溶融混練してPOM樹脂組成物のペレットとし、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【0040】
その他、本実施形態のポリアセタール樹脂製ギアは、上述のポリアセタール樹脂組成物を板状又は棒状に成形したあと、それらを切削加工などの一般的な成形加工により成形することができる。
【0041】
本実施形態のポリアセタール樹脂製ギアが適用できるギアの種類としては、特に限定はないが、例えば、平歯車、ラック、内歯車、はすば歯車、はすば内歯車、はすばラック、やまば歯車、すぐばかさ歯車、まがりばかさ歯車、ゼロールかさ歯車、ねじ歯車、円筒ウォームギヤ等が挙げられる。
【0042】
<ポリアセタール樹脂製ギアの耐疲労特性改善方法>
本実施形態のポリアセタール樹脂製ギアの耐疲労特性改善方法は、ポリアセタール樹脂又はポリアセタール樹脂を含む樹脂組成物からなるポリアセタール樹脂製ギアの耐疲労特性を改善する方法である。そして、ポリアセタール樹脂として、トリオキサン(A)と、環状アセタール化合物(B)と、1分子中にグリシジルオキシ基を1個有する脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)と、を共重合してなり、(A)~(C)成分全体において、環状アセタール化合物(B)が0.5~2.5mol%であり、脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)が0.02~0.7mol%である、ポリアセタール樹脂を用いる。
【0043】
上述の本実施形態のポリアセタール樹脂製ギアで説明した通り、特定のPOM樹脂又は当該POM樹脂を含む樹脂組成物により、ギアに対して優れた耐疲労特性を付与することができる。従って、ポリアセタール樹脂製ギアにおいて、当該特定のPOM樹脂又は当該POM樹脂を含む樹脂組成物を用いることで耐疲労特性を改善することができる。本実施形態のPOM樹脂製ギアの耐疲労特性改善方法において用いるPOM樹脂は、上述の本実施形態のポリアセタール樹脂製ギアにおいて説明した通りであり、POM樹脂の説明及び好ましい態様は本実施形態のPOM樹脂製ギアの耐疲労特性改善方法にそのまま妥当する。
【実施例0044】
以下に、実施例により本実施形態を更に具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
[実施例1~6、比較例1~5]
各実施例・比較例において、外側に熱(冷)媒を通すジャケットが付き、断面が2つの円が一部重なる形状を有するパドルと、パドル付き回転軸で構成される連続式混合反応機を用い、パドルを付した2本の回転軸をそれぞれ150rpmで回転させながら、トリオキサン(A)、環状アセタール化合物(B)として1,3-ジオキソラン、及び脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)として表1、2に示す化合物を、それぞれ表1、2に示す割合・量で加えた。更に、所定のメルトフローレートの共重合体を得るため分子量調節剤としてメチラールを連続的に所定量供給し、触媒の三フッ化ホウ素ガスをトリオキサンに対して三フッ化ホウ素換算で0.005質量%となるように混合した均一混合物を連続的に添加供給し塊状重合を行った。重合機から排出された反応生成物は速やかに破砕機に通しながら、トリエチルアミンを0.1質量%含有する80℃の水溶液に加え触媒を失活した。更に、分離、洗浄、乾燥後、粗ポリアセタール共重合体を得た。なお、分子量調節剤としてのメチラールの供給量は、トリオキサン(A)、環状アセタール化合物(B)、及び脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)の合計質量(g)をa、メチラールのモル数をb、(A)、(B)及び(C)成分に含まれる水分及びメタノールの合計モル数をそれぞれc、dとするとき、(b+c+d)/a=1.5~7μmol/gを満たすように設定した。
【0046】
次いで、得られた粗ポリアセタール共重合体100質量部に対して、トリエチルアミン5質量%水溶液を4質量部、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕を0.03質量部添加し、2軸押出機にて210℃で溶融混練し不安定部分を除去した。
【0047】
上記の方法で得たポリアセタール共重合体100質量部に、更に安定剤としてペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕を0.3質量部及びメラミン0.15質量部を添加し、2軸押出機にて210℃で溶融混練し、ペレット状のポリアセタール樹脂を得た。
【0048】
[疲労試験]
各実施例・比較例において、得られたペレット状のポリアセタール樹脂を用い、以下の成形条件にて標準平歯車の形状のギアを成形した。なお、成形したギアは、モジュール(m)=1.0、歯数:54、歯幅:10mmである。
(ギア成形条件)
成形機:住友重機械工業(株)製、SE100D
成形温度:200℃
金型温度:80℃
射出速度:20mm/s
次いで、各実施例・比較例において、成形したギアを用い、以下の評価条件にてグリス塗布条件でギアが破損するまでの回転数を測定した。測定結果を表1、2に示す。なお、ギアの回転中において、表1、2に示す負荷条件にて負荷をかけた。
(評価条件)
試験機:小型歯車疲労試験機(小野測器(株)製)
評価温度:室温
評価回転速度:300rpm
グリス:デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル(株)製、モリコートEM-30L
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
表1、2より、実施例1~6においてはいずれも、比較例1~4よりも破壊までの回転数が多く、耐疲労特性に優れていることが分かる。比較例1~4は、(B)成分由来の構成単位及び(C)成分由来の構成単位のいずれかが過多又は過小(若しくは含まない)であり、耐疲労特性に劣る。
【手続補正書】
【提出日】2022-11-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂又はポリアセタール樹脂を含む樹脂組成物からなるポリアセタール樹脂製ギアの、以下の疲労条件を満たす耐疲労特性を改善する方法であって、
前記ポリアセタール樹脂として、トリオキサン(A)と、環状アセタール化合物(B)と、1分子中にグリシジルオキシ基を1個有する脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)と、を共重合してなり、前記(A)~(C)成分全体において、前記環状アセタール化合物(B)が0.5~2.5mol%であり、前記脂肪族グリシジルエーテル化合物(C)が0.02~0.7mol%である、ポリアセタール樹脂を用いる、ポリアセタール樹脂製ギアの耐疲労特性改善方法。
[疲労条件]
前記ポリアセタール樹脂を用い、モジュール(m)=1.0、歯数:54、歯幅:10mmの標準平歯車の形状のギアを成形し、成形したギアを用いて以下の評価条件にてグリス塗布条件でギアが破損するまでの回転数が、負荷条件として、トルク13N・mをかけたときが67500~1510000回であり、トルク15N・mをかけたときが198000~610000回であり、トルク17N・mをかけたときが41000~58000回である。
(評価条件)
試験機:小型歯車疲労試験機(小野測器(株)製)
評価温度:室温
評価回転速度:300rpm
グリス:デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル(株)製、モリコートEM-30L