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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050640
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】溶射材料
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/04 20060101AFI20230404BHJP
   C04B 35/22 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
C23C4/04
C04B35/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021160844
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岡本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】益田 敬也
(72)【発明者】
【氏名】竹内 淳登
(72)【発明者】
【氏名】伊部 博之
【テーマコード(参考)】
4K031
【Fターム(参考)】
4K031CB02
4K031CB03
4K031CB41
4K031DA01
4K031DA04
4K031DA06
(57)【要約】
【課題】本発明は、溶射皮膜を形成した際に、微粉化してスピッティング現象などの発生がなく、耐食性、耐剥離性などに優れた性能を有し、溶射皮膜形性に優れた珪酸カルシウム質溶射材料を提供する。
【解決手段】珪酸カルシウム質溶射材料において、X線回折法を用いて測定した結晶相の回折強度において2θ=30.75~31.35で検出されるβ-Ca2SiO4の単一ピーク回折強度と、2θ=20.25~20.85で検出されるγ-Ca2SiO4の単一ピーク回折強度とのピーク比率(β-Ca2SiO4/γ-Ca2SiO4)が1よりも大きい溶射用材料を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-Ca2SiO4結晶相を有する珪酸カルシウム質溶射材料であって、X線回折法を用いて測定した結晶相の回折強度において2θ=30.75~31.35で検出されるβ-Ca2SiO4の単一ピーク回折強度と、2θ=20.25~20.85で検出されるγ-Ca2SiO4の単一ピーク回折強度とのピーク比率(β-Ca2SiO4/γ-Ca2SiO4)が1よりも大きい溶射材料。
【請求項2】
レーザー回折法を用いて測定した粒度分布において体積換算での粒子径が15μm以下の割合が20%未満である請求項1の溶射材料。
【請求項3】
レーザー回折法を用いて測定した粒度分布において体積換算での粒子径10μm以下の割合が10%未満である請求項1又は2に記載の溶射材料。
【請求項4】
酸化物換算したCa成分とSi成分のモル比率(CaOモル量/SiO2モル量)が2.0よりも大きい組成物である請求項1~3のいずれか一項に記載の溶射材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、この発明は、金属、セラミック、サーメットなどの表面の溶射皮膜の形成に使用される溶射材料に関する。
【背景技術】
【0002】
溶射皮膜は、溶射材料を基材に溶射することで形成される。溶射皮膜は、溶射材料の特性に応じて種々の用途で使用されている。溶射皮膜の適用例として、自動車エンジン、航空機エンジン、半導体製造装置、鋼板の搬送用ロール、一般産業での耐摩耗用途など、耐摩耗、耐熱、耐腐食性が求められる様々なアプリケーションに広く適用されている。
【0003】
従来から新規な溶射材料の開発のため各種の研究がなされてきた。例えば、特許文献1では、γ-2CaO・SiO2粉末を噴霧造粒して製造される珪酸カルシウム質溶射材料が提案されている。この方法では、γ-2CaO・SiO2を焼結合成した材料を湿式粉砕したスラリーを造粒して溶射材料を作製しているが、材料に含まれる水和活性物によってスラリー粘度が不安定となり、スラリーが固化してしまうという問題があった。また、原料を造粒した後γ-2CaO・SiO2の焼結合成を行うと、焼結合成の冷却過程において550℃付近でβ相からγ相に転移する。β相からγ相への転移は急激な体積変化を伴い、組織崩壊を起こすことで、材料中に欠陥が生じるため、粒度分布が微粉化するために、溶射皮膜形成時にスピッティングを生じる要因となった。
【0004】
なお、スピッティングは、過溶融した溶射用粉末が溶射装置のノズル内壁に付着堆積してできる堆積物が溶射皮膜に混入する現象をいい、溶射用粉末が細かな粒子を多く含むほどスピッティングは起こりやすい。スピッティングが発生すると、溶射皮膜の組織構造が不均一となるため、溶射皮膜の品質が著しく低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平7-100847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、溶射皮膜を形成した際に、スピッティング現象の発生を抑制可能な溶射皮膜形成性に優れた珪酸カルシウム質溶射材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、珪酸カルシウム質溶射材料において、X線回折法を用いて測定した結晶相の回折強度において2θ=30.75~31.35で検出されるβ-Ca2SiO4の単一ピーク回折強度と、2θ=20.25~20.85で検出されるγ-Ca2SiO4の単一ピーク回折強度とのピーク比率(β-Ca2SiO4/γ-Ca2SiO4)が1よりも大きい溶射用材料を提供する。ピーク比率(β-Ca2SiO4/γ-Ca2SiO4)が1よりも大きいという技術思想は、γ-Ca2SiO4のピークが検出されず実質的にゼロのときにβ-Ca2SiO4のピークが検出される場合も包含する。
【0008】
珪酸カルシウム質材料は、CaO-SiO2系の組成を有すものであるが、本発明では2CaO-SiO2系組成の材料を使用する。2CaO-SiO2系珪酸カルシウム質材料は、いくつかの結晶相(α、α´、β及びγ)を有しているが、常温常圧ではγ相を安定な結晶相として有している。
【0009】
本発明は、CaOとSiO2の組成比をCaOリッチにさせることによって焼結後にβ相として安定化することができ、β相からγ相の転移が生じないためこれに伴う体積変化を生じることなく、微粉化に伴うスピッティングを防止できることを見出したものである。このとき、微粉化を防止できる程度に十分にβ相が形成しているためには、X線回折法を用いて測定した結晶相の回折強度において2θ=30.75~31.35で検出されるβ-Ca2SiO4の単一ピーク回折強度と2θ=20.25~20.85で検出されるγ-Ca2SiO4の単一ピーク回折強度のピーク比率(β-Ca2SiO4/γ-Ca2SiO4)が1よりも大きければよいことが分かった。上記ピーク比率は3よりも大きくてもよく、さらに、5よりも大きければより安定したβ相が形成され好ましい。
【0010】
本発明の珪酸カルシウム質溶射材料は、β相が安定して形成されているために、体積変化による粉化が防止でき、γ-Ca2SiO4粉に比較して粒子径が小さすぎることがない。具体的には、レーザー回折法を用いて測定した粒度分布において体積換算での粒子径が15μm以下の割合が20%未満であることが好ましい。また、レーザー回折法を用いて測定した粒度分布において体積換算での粒子径10μm以下の割合が10%未満であることが好ましい。
【0011】
レーザー回折法を用いて測定した粒度分布において体積換算での粒子径が15μm以下の割合が20%未満であると、溶射皮膜を形成した際にスピッティングの発生が防止でき、形成された溶射皮膜の表面粗さを低下させる傾向にある。
【0012】
レーザー回折法を用いて測定した粒度分布において体積換算での粒子径10μm以下の割合が10%未満であると、溶射皮膜を形成した際にスピッティングの発生が防止でき、形成された溶射皮膜の表面粗さを低下させる傾向にある。
【0013】
珪酸カルシウム質溶射材料において、X線回折法を用いて測定した結晶相の回折強度において2θ=30.75~31.35で検出されるβ-Ca2SiO4の単一ピーク回折強度と2θ=20.25~20.85で検出されるγ-Ca2SiO4の単一ピーク回折強度のピーク比率(β-Ca2SiO4/γ-Ca2SiO4)を高め、安定したβ相を得るためには、CaOとSiO2の組成比をCaOリッチにさせればよく、特に、酸化物に換算したCa成分とSi成分のmol比率(CaOmol量/SiO2mol量)が2.0よりも大きくすることが好ましい。
【0014】
本発明の溶射材料は、安息角を低くすることができる。安息角は、30~37度程度であることが好ましい。この範囲であれば、溶射膜の形成の際に、溶射材料の供給が滑らかにおこなわれ、供給速度を高くすることができ、また、ホッパー内での各種トラブルが防止できる。
【0015】
「安息角」は、粉末材料を一定の高さの漏斗から水平な基板の上に落下させることで生成した円すい状の堆積物の直径および高さから算出される底角を意味している。かかる安息角は、JIS R 9301-2-2:1999「アルミナ粉末物性測定方法-2:安息角」の規定に準じて測定することができる。
【0016】
[溶射用材料の製造方法]
本発明の溶射用材料は、必ずしもこれに制限されるものではないが、原料粉末を造粒した後、焼結して安定化した球形を形成することが好ましい。例えば、原料粉末を水、溶媒、必要に応じてバインダと混合、攪拌してスラリーを形成して造粒し、造粒粉を焼成して焼結した後、必要に応じて分級することにより溶射用材料を得ることができる。
【0017】
<原料の用意>
まず、溶射用材料の原料を用意する。原料としては、例えば、CaCO3、SiO2の粉体を用いることができる。これらの原料には、Al2O3、FeO2などが不純物として含まれることが多い。原料として用いる粉体の性状は特に制限されないが、均一な組成の混晶を形成するために、例えば、平均粒子径は0.1μm以上10μm程度の微細なものであることが好ましい。平均粒子径は、例えばレーザー回折法により測定した、体積基準の粒度分布に基づく累積頻度が50%となるときの粒子径(メディアン径)である。造粒、焼結後の組成において、SiO2に対するCaOのモル比が2以上となるように、CaCO3とSiO2のモル比を調整しておくことが好ましい。CaO及びSiO2のモル比は、蛍光X線分析(XRF)によるCa成分とSi成分をそれぞれCaOとSiO2に換算した際のモル比として算出される。
【0018】
<造粒>
次いで、用意した原料粉体を球状に造粒して造粒粉を作製する。この造粒工程を経ることで、後の焼成工程において角張った粒子が生成するのを防ぐことができ、流動性に優れた球形の溶射用材料を好適に得ることができる。造粒の手法としては特に制限されず、公知の各種の造粒法を採用することができる。例えば、転動造粒法、流動層造粒法、撹拌造粒法、圧縮造粒法、押出造粒法、破砕造粒法、スプレードライヤーを用いた噴霧造粒法等の手法の1つ以上を採用することができる。分散媒を介して原料粉体を簡便かつ高精度に均一混合できるとの観点から、スプレードライヤーを用いた噴霧造粒法を好ましく採用することができる。スプレードライヤーを用いた噴霧造粒法に用いる分散媒の種類は特に制限されず、水、低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数が5以下のアルコール)およびこれらの混合液等が挙げられる。また、分散媒には必要に応じてバインダを加えることができる。造粒の条件は使用する装置によるため一概には言えないが、例えば、大気中で400℃以下(例えば乾燥温度は120℃~300℃程度)の温度範囲で造粒することが好ましい。造粒粉における造粒粒子の大きさは、原料粉体の平均粒子径と次工程の焼成工程による収縮を加味して決定すればよい。
【0019】
<焼成>
その後、造粒した造粒粉を焼成する。焼成では、造粒した粒子に含まれる個々の原料粒子を焼結させる。かかる焼結時に原料成分が互いに拡散し、混晶を形成する。本発明の溶射材料においては、造粒粒子に含まれる原料粒子を十分に焼結ないしは溶融させて一体化させることが好ましい。すなわち、造粒の体がほぼ見られなくなる程度にまで一体化させることが好ましい。焼成および溶融一体化の条件は、例えば、大気雰囲気中、1300℃程度で焼成することが例示される。焼成時間は造粒粒子の形態にもよるため特に限定されないが、例えば、4時間程度を目安とすることができる。造粒粉の焼成には、一般的なバッチ式焼成炉や、連続式焼成炉等を特に限定されることなく利用することができる。焼成雰囲気は大気雰囲気や不活性雰囲気など特に限定することなく利用することができる。なお、必須の工程ではないが、必要に応じて、焼成後に焼成物の解砕、分級等の工程を含めてもよい。これにより、ここに開示される溶射用材料を得ることができる。
【0020】
焼結工程によって造粒粉が十分に焼結されて堅牢な粒子を得ることが重要である。また、原料としてカルシウム炭酸塩を使用する場合、焼結工程で十分に脱炭素させることにより、溶射中に炭酸ガスが発生して緻密な皮膜形成を阻害することがないようにすることが留意されるべきである。
【0021】
<溶射皮膜>
以上の溶射用材料を溶射することで、溶射皮膜を形成することができる。この溶射皮膜は、基材の表面に備えられていることで、溶射皮膜付部材等として提供される。以下、かかる溶射皮膜付部材と、溶射皮膜とについて説明する。この発明の溶射材料は、ガス式溶射方法あるいはプラズマ溶射方法で溶射することができる。
【0022】
この溶射皮膜は、基材の表面に備えられることで、例えば当該基材に対して耐食性や耐熱性などを付与することができる。溶射の対象である基材(被溶射材)については特に限定されない。例えば、かかる溶射材料の溶射に供したときに、所望の耐性を備え得る材料からなる基材であれば、その材質や形状等は特に制限されない。かかる基材を構成する材料としては、例えば、各種の金属または合金等が挙げられる。具体的には、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄鋼、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、金、銀、ビスマス、マンガン、亜鉛、亜鉛合金等が例示される。なかでも、汎用されている金属材料のうち比較的熱膨張係数の大きい、各種SUS材(いわゆるステンレス鋼であり得る。) 等に代表される鉄鋼、インコネル等に代表される耐熱合金、インバー, コバール等に代表される低膨張合金、ハステロイ等に代表される耐食合金、軽量構造材等として有用な1000シリーズ~7000シリーズアルミニウム合金等に代表されるアルミニウム合金等からなる基材が挙げられる。例えば、本発明の珪酸カルシウム質溶射材料は溶融金属との反応性が低く、かつステンレス系材料と近い熱膨張係数を有することから、例えば、溶融亜鉛めっき工程などで溶融金属との接触にさらされるステンレス系材料のコーティングに使用してもよい。
【0023】
溶射材料を溶射する溶射方法としては、公知の各種の溶射方法を採用することができる。例えば、好適には、プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法、フレーム溶射法、爆発溶射法等の溶射方法を採用することが例示される。
【0024】
プラズマ溶射法とは、溶射材料を軟化または溶融するための溶射熱源としてプラズマ炎を利用する溶射方法である。電極間にアークを発生させ、かかるアークにより作動ガスをプラズマ化すると、かかるプラズマ流はノズルから高温高速のプラズマジェットとなって噴出する。プラズマ溶射法は、このプラズマジェットに溶射材料を投入し、加熱、加速して基材に堆積させることで溶射皮膜を得るコーティング手法一般を包含する。なお、プラズマ溶射法は、大気中で行う大気プラズマ溶射(APS:atmospheric plasma spraying)や、大気圧よりも低い気圧で溶射を行う減圧プラズマ溶射(LPS:low pressure plasma spraying)、大気圧より高い加圧容器内でプラズマ溶射を行う加圧プラズマ溶射(high pressure plasma spraying)等の態様であり得る。かかるプラズマ溶射によると、例えば、一例として、溶射材料を5000℃ ~10000℃程度のプラズマジェットにより溶融および加速させることで、溶射材料を200m/s~600m/s程度の速度にて基材へ衝突させて堆積させることができる。
【実施例0025】
<実施例1>
実施例1として、表1に示される原料仕込み組成となるCaCO3、Si02粉末を原料として、これに水及びポリビニルアルコールを加え撹拌機で混合し、その後熱風温度250℃のスプレードライヤーで噴霧造粒して造粒粉を得た。得られた造粒粉を粒度分析したところ、表1に示されるメディアン径、粒度分布を有していた。メディアン径、及び粒度分布は、Malvern Panalytical社のレーザー回折式粒度分布測定装置Mastersizer 3000を用いて測定した。
【0026】
次に、この造粒粉を加熱炉で1300℃の温度で4時間程度焼成することにより焼結粉を得た。得られた焼結粉を75μmの篩にかけて分級し製品粉(溶射材料)を得た。この製品粉について、粒度分析をしたところ、表1に示されるメディアン径、粒度分布を有していた。メディアン径、及び粒度分布は、Malvern Panalytical社のレーザー回折式粒度分布測定装置Mastersizer 3000を用いて測定した。
【0027】
また、この製品粉の化学成分(CaO、SiO及びFe2O3+AL2O3のモル比率)、結晶相のX線回折強度(2θ=30.75~31.35で検出されるβ-Ca2SiO4の単一ピーク回折強度と2θ=20.25~20.85で検出されるγ-Ca2SiO4の単一ピーク回折強度)及び安息角を測定した結果を表1に示した。なお、製品粉の化学成分は株式会社島津製作所製の蛍光X線分析装置 LAB CENTER XRF-1800を用い、X線発生部の電圧は40kV、電流は95mAとした。また、実際にXRF測定したサンプルは製品粉にフラックス成分である四ホウ酸リチウムを製品粉の10mass%添加・混合したものを東京科学株式会社製のビード&フューズサンプラTK-4100型を用いて作製したガラスビードを用いた。X線回折装置としては、株式会社リガク製のUltimaIVを用い、X線源をCuKα線、加速電圧40kV、加速電流10mA、走査範囲2θ=10°~70°、スキャンスピード10°/min、サンプリング幅0.01°の条件で測定した。なお、このとき、発散スリットは1°、発散縦制限スリットは10mm、散乱スリットは8mm°、受光スリットは開放、オフセット角度は0°に調整した。また、安息角は、JIS R 9301-2-2:1999に準拠し、それぞれの粉末材料をA.B.D.粉体特性測定器(筒井理科器械株式会社製、ABD-72形)に供することで得た値である。
【0028】
【表1】
【0029】
<実施例2~4、比較例1及び2>
実施例2~4、比較例1及び2として、原料仕込み組成となるCaCO3、Si02粉末の割合のみそれぞれ表1に示される割合に変更して、実施例1と同様の方法により、造粒、焼結を行い、それぞれ、造粒粒及び製品粉について、粒度分析をしたところ、表1に示されるメディアン径、粒度分布を有していた。また、これらの製品粉の化学成分、結晶相の回折強度、安息角を実施例1と同様の方法により測定した結果を表1に示した。
【0030】
<比較例3>
比較例3として、比較例1及び2と同様のCaCO3、Si02粉末を原料として、加熱炉で1300℃の温度で4時間程度焼成することにより焼結し、その後粉砕して、水及びポリビニルアルコールを加え撹拌機で混合したが、スラリー化する際に高粘度・固化してしまい、造粒粉を得ることができなかった。
【0031】
<製品粉の特性>
得られた製品粉について造粒粉からの収縮率を測定した結果を表1に示した。収縮率は、メディアン径を基準にして、「(造粒粉のメディアン径-製品粉のメディアン径)/造粒粉のメディアン径×100」により計算した。表1に示されるように、実施例1~4では収縮率が25%以下と低く、比較例1及び2では45%を超えており収縮が大きかった。比較例1及び2については焼結合成の冷却過程において550℃付近でのβ相からγ相への転移に伴って、急激な体積変化を伴い、組織崩壊を起こすことで、粒度分布が微粉化するために、収縮率が大きくなったと考えられる。
【0032】
実施例1~4の製品粉の化学成分中CaO/SiO2のモル比が2以上であるのに対して、比較例1及び2ではCaO/SiO2のモル比が2未満であった。また、X線回折強度では、2θ=30.75~31.35で検出されるβ-Ca2SiO4の単一ピーク回折強度と、2θ=20.25~20.85で検出されるγ-Ca2SiO4の単一ピーク回折強度とのピーク比率(β-Ca2SiO4/γ-Ca2SiO4)が、実施例1~4では1より大きいのに対して、比較例1及び2ではβ-Ca2SiO4の単一ピークが検出されなかった。すなわち、比較例1及び2では、同ピーク強度比は0.0であり、β相が実質的に形成されていないことがわかった。
【0033】
また、得られた製品粉について、JIS R 9301-2-2:1999に準拠し、それぞれの製品粉をA.B.D.粉体特性測定器(筒井理科器械株式会社製、ABD-72形)に供することで安息角を測定した。その結果、実施例1~4では、安息角が33~36度の範囲におさまっているのに対し、比較例1及び2ではそれぞれ41.0度、37.9度であり、実施例より大きかった。
【0034】
<溶射皮膜の特性>
次に、実施例1~4、比較例1及び2の製品を使用して、SUS316Lを基材として、以下の方法でプラズマ溶射を行った。溶射された皮膜に対して、スピッティングの有無、及び表面粗さを測定した。スピッティングの有無は、皮膜表面を外観観察し、スピッティングが無いものを「無し」と判定し、一つでもスピッティングが確認されたものを「有り」とした。具体的にはスピッティングは直径0.3mm以上の大きさを有する皮膜表面の付着物を指す。表面粗さは、JIS B0601に規定の方法に準拠して測定した。株式会社ミツトヨ製の表面粗さ計「SV-3000S CNC」を用いて、基材表面(被溶射面)の任意の5点で表面粗さを測定し、測定した5点の表面粗さの平均値をその基材表面の表面粗さとした。また、表面粗さの結果として表1に算術平均粗さRaと最大高さ粗さRzの結果を示した。
【0035】
<プラズマ溶射の条件>
溶射機としてPRAXAIR社製SG-100プラズマを用いて、以下の条件によりプラズマ溶射を行った。
Ar分圧:50psi
He分圧:50psi
プラズマ出力:35kW
粉末流量:9g/min
基材:アルミナ#40でブラスト処理されたステンレス鋼SUS316L
溶射距離:120mm
皮膜厚さ:200~300μm
トラバース速度:400mm/sec
冷却方法:空冷
【0036】
表1にそれぞれ、スピッティングの発生の有無、溶射皮膜の表面粗さを測定した結果を示した。実施例1~4ではスピッティングを生じることなく溶射皮膜が形成されたのに対し、比較例1では溶射材料の供給ができずそもそも皮膜形成ができず、比較例2では溶射皮膜が形成できたがスピッティングが生じ、表面粗さが劣化した。実施例1~4は、スピッティング抑制可能であり、溶射材料の供給などにも問題がなく溶射皮膜形成性に優れていた。