IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鉄住金化学株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050699
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物及び硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20230404BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20230404BHJP
   C08K 5/315 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
C08L63/00 Z
C08L75/04
C08K5/315
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021160942
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】浅野 匡
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BA002
4J002BL012
4J002CD051
4J002CF00
4J002CG00
4J002CH022
4J002CK022
4J002EC038
4J002EC048
4J002EN028
4J002ER006
4J002ET017
4J002EU117
4J002EU197
4J002FD146
4J002FD157
4J002GF00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、繊維基材(炭素繊維、ガラス繊維など)への含浸性に優れ、且つ、耐熱性と機械的特性(特に破壊靭性)及び、樹脂組成物の設計自由度などに優れた性能を有する繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【解決手段】エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂及び硬化剤を配合してなるエポキシ樹脂組成物であって、ポリウレタン樹脂は、ポリオール化合物、ポリイソシアネート化合物及びモノオール又はモノアミン化合物で構成され、その末端イソシアネート基の10~100%がモノオール又はモノアミン化合物で封止され、モノオール又はモノアミン化合物として、そのハンセン溶解度パラメーター(HSP)が、ポリウレタン樹脂を含まないエポキシ樹脂組成物を硬化させた硬化物のHSPに対して、7以上20以下のHSP距離を有するものから選択することを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂及び硬化剤を配合してなるエポキシ樹脂組成物であって、ポリウレタン樹脂は、ポリオール化合物、ポリイソシアネート化合物及びモノオール又はモノアミン化合物で構成され、その末端イソシアネート基の10~100%がモノオール又はモノアミン化合物で封止され、モノオール又はモノアミン化合物として、そのハンセン溶解度パラメーター(HSP)が、ポリウレタン樹脂を含まないエポキシ樹脂組成物を硬化させた硬化物のHSPに対して、7以上20以下のHSP距離を有するものから選択することを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
25℃における粘度が20,000mPa・s以下である請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
破壊靭性値K1Cが1.5MPa・m0.5以上である請求項1に記載のエポキシ樹脂硬化物。
【請求項4】
硬化剤がジシアンジアミドである請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させてなるエポキシ樹脂硬化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は加工性に優れ、且つ高耐熱性、高絶縁信頼性、高剛性、高接着性、高耐蝕性等の多様な硬化物特性を有するため、電気絶縁材料(注型、含浸、積層板、封止材)、CFRPのような複合材料のマトリックスレジン、構造用接着剤、重防蝕塗料等各種の用途で汎用されている。
【0003】
しかしながら、エポキシ樹脂は硬くて脆い性質のため、靱性や耐衝撃性などの性能に劣るという欠点があり、これらの特性が要求される複合材料のマトリックスレジン用途や構造用接着剤用途では、解決のために様々な提案がなされてきた。
【0004】
例えば、エポキシ樹脂及び硬化剤と、ポリエーテルスルホン樹脂などの熱可塑性樹脂を含有したエポキシ樹脂組成物などが知られている(特許文献1~3参照)。
しかし、いずれも靭性を充分に向上させるために、多量の熱可塑性樹脂を含有させる必要があるため、樹脂組成物の粘度が実用可能な範囲を超えて上昇してしまい、繊維基体への含浸性が著しく低下してしまうという問題があった。
【0005】
また、水酸基を有するビスフェノールA型またはF型エポキシ樹脂中で、ポリイソシアネート化合物と数平均分子量が1500~5000のポリオール化合物及び、数平均分子量が200以下の低分子量ポリオール化合物を反応させた、ポリウレタン変性エポキシ樹脂が知られている(特許文献4参照)。
しかし、水酸基当量が2000~4000g/eqのエポキシ樹脂を原料とするため、樹脂中のポリウレタン濃度が50wt%以下と低い。そのため樹脂組成物とする際に、要求される破壊靭性を満たすには大量のポリウレタン変性エポキシ樹脂を添加する必要があり、樹脂組成物の設計自由度が制限され、各種用途の要求特性に適用できないという難点があった。
【0006】
また、エポキシ樹脂の靭性向上手段として、末端が水酸基またはイソシアネート基であるポリウレタン樹脂を、エポキシ樹脂組成物に添加する方法も報告されている(特許文献5参照)。
しかし、イソシアネート基同士で重合してしまうため、貯蔵安定性が悪いという難点があった。また、末端が水酸基のポリウレタン樹脂は、水酸基の極性が高いため、エポキシ樹脂組成物とした際に高粘度化してしまう難点があった。
【0007】
本発明は、先行特許文献1~5とは異なる手法によって、繊維基材(炭素繊維、ガラス繊維など)への含浸性、耐熱性、機械的特性(特に破壊靭性)、樹脂組成物の設計自由度などの性能を、全て満足させ得るエポキシ樹脂組成物を提案するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-105151号公報
【特許文献2】特開2007-284545号公報
【特許文献3】特開2008-144110号公報
【特許文献4】特開2014-077074号公報
【特許文献5】特許第6593636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、繊維基材(炭素繊維、ガラス繊維など)への含浸性に優れ、且つ、耐熱性と機械的特性(特に破壊靭性)及び、樹脂組成物の設計自由度などに優れた性能を有する繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂及び硬化剤を配合して得られるエポキシ樹脂組成物であって、ポリウレタン樹脂は、ポリオール化合物、ポリイソシアネート化合物及びモノオール又はモノアミン化合物で構成され、その末端イソシアネート基の10~100%がモノオール又はモノアミン化合物で封止され、モノオール又はモノアミン化合物として、そのハンセン溶解度パラメーター(HSP)が、ポリウレタン樹脂を含まないエポキシ樹脂組成物を硬化させた硬化物のHSPに対して、7以上20以下のHSP距離を有するものから選択することを特徴とするエポキシ樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、炭素繊維などの繊維への含浸性、破壊靱性、耐熱性、樹脂組成物の設計自由度などに優れた性能を発現できるため、複合材料用マトリクス樹脂に適した樹脂組成物及び硬化物となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、硬化剤を配合して得られるエポキシ樹脂組成物及び硬化物である。
【0013】
本発明で使用するポリウレタン樹脂は、ポリオール化合物、ポリイソシアネート化合物及び、本発明のポリウレタン樹脂を含まないエポキシ樹脂硬化物のハンセン溶解度パラメーター(HSP)に対して、HSP距離が7以上20以下であるモノオール、またはモノアミン化合物を必須成分として使用する。
以下、各成分について説明する。
【0014】
ポリオール化合物としては、数平均分子量200以上の中高分子量ポリオール化合物及び数平均分子量200未満の低分子量ポリオール化合物が挙げられる。
【0015】
中高分子量ポリオール化合物としては、下記式(1)~(3)のいずれかで示される化合物及び、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールが好ましく、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【化1】
ここで、RはH又はメチル基であり、b1,b2,b3は独立に1~50の数で、cは0もしくは1の数である。
【化2】
ここで、q1,q2,q3,q4は独立に1~20の数である。
【化3】
ここで、r,s,tは独立に1~20の数であり、nは1~50の数である。
【0016】
中高分子量ポリオール化合物は、数平均分子量(Mn)200以上で、上記式(1)~(3)のいずれかの分子構造を有する、またはポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールが好ましい。例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールにエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドを開環重付加させた、ポリエチレングリコール類やポリプロピレングリコール類が例示できるが、式(1)において、cが0、Rがメチル基である式(4)で表されるポリプロピレングリコールが、入手の容易さ、経済性、特性のバランスの良さの点から好ましい。また、ポリオール化合物のOH基の数は2以上であれば良いが、2であることが好ましい。
【化4】
ここで、b1,b2は独立に1~50の数である。
【0017】
ポリプロピレングリコールとしては、数平均分子量(Mn)が1500~5000、好ましくは2000~4000のポリプロピレングリコールが、ポリウレタン樹脂を添加したエポキシ樹脂組成物を、増粘もしくは半固形化させず、エポキシ樹脂組成物の良好なタック性、接着面への追従性、注型性および炭素繊維やガラス繊維への良好な含浸性を担保する観点から好ましい。
【0018】
低分子量ポリオール化合物は、数平均分子量が200未満のポリオール化合物である。これは、鎖長延長剤として使用される。好ましくは式(5)で示され、1級水酸基を2個有するジオール化合物である。式(5)において、Rは式(5a)で表されるアルキレン基であり、gは1~10の数である。
【化5】
【0019】
低分子量ポリオール化合物は、ヒドロキシル基を二つ以上持つ化合物であり、脂肪族ジオール、脂肪族トリオール、芳香族ジオール、芳香族トリオールなど特に限定されない。具体的には、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリンなどが挙げられる。中でも、1,4-ブタンジオールが入手の容易さ、経済性と特性のバランスの良さの点から好ましい。
【0020】
ポリイソシアネート化合物は、式(6)で示され、Rは式(6a)~(6f)から選ばれる2価の基であるものが好ましい。これらの中でエポキシ樹脂との相溶性に優れるものが好ましい。
具体的には、例えばトルエンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水素化キシリレンジイソシアネート(HXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ナフタレンジイソシアネート等を挙げることができるが、低分子量で増粘性がなく、経済性、安全性などの観点からTDIが好ましい。ポリイソシアネート化合物のNCO基の数は2以上であればよいが、2であることが好ましい。
【化6】
【0021】
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、所定のモノオール化合物又はモノアミン化合物で末端イソシアネート基が封止されたポリウレタン樹脂を配合することが必須である。モノオール化合物又はモノアミン化合物の選択は、そのハンセン溶解度パラメーター(HSP)と、ポリウレタン樹脂を含まないエポキシ樹脂硬化物のハンセン溶解度パラメーター(HSP)とを対比し、両者のHSP距離(HSPD)によって行う。ここで、ハンセン溶解度パラメーター(HSP)は、物質の溶解性を分散項δD、極性項δP、水素結合項δHの3つのパラメータで表現するものである。分散項δD、極性項δP、および水素結合項δHは物質固有の物性値であり、「HansenSolubility Parameters:AUser’s Handbook,HSPiP3rd Edition ver.3.0.20」等の文献に示されている。なお、HSPは上記文献に記載の値を使用できるが、記載がない場合は、Y-MB法と呼ばれる原子団寄与法を用いた推算方法により算出することができる。
モノオール化合物又はモノアミン化合物の分散項δD、極性項δP、水素結合項δHと、ポリウレタン樹脂を含まないエポキシ樹脂硬化物の分散項δD、極性項δP、水素結合項δHとを対比し、両者のベクトル距離をHSP距離(HSPD)という。
【0022】
モノオール化合物は、そのハンセン溶解度パラメーター(HSP)とポリウレタン樹脂を含まないエポキシ樹脂硬化物のハンセン溶解度パラメーター(HSP)とのHSP距離(HSPD)が、7.0以上20.0以下であれば構造は特に限定されない。好ましくはHSP距離(HSPD)が10.0以上15.0以下である。中でも、一級アルコールであると、ウレタンプレポリマーへの反応性、硬化物物性の観点から好ましい。
【0023】
モノアミン化合物は、そのハンセン溶解度パラメーター(HSP)とポリウレタン樹脂を含まないエポキシ樹脂硬化物のハンセン溶解度パラメーター(HSP)とのHSP距離(HSPD)が7.0以上20.0以下であれば、構造は特に限定されない。具体的には、ジメチルアミン、トリエチルアミン、ジプロピルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、アニリン、フェネチルアミン、ピリジン、モルホリン、ピロールなどが挙げられる。好ましくはHSP距離が10.0以上15.0以下である。中でも、二級アミンであると、ウレタンプレポリマーへの反応性、硬化物物性の観点から好ましい。
【0024】
本発明におけるポリウレタン樹脂は、両末端がNCO基であるウレタンプレポリマーを反応の一段階目で製造した後、モノオール化合物またはモノアミン化合物を反応させることで得られたポリウレタン樹脂が好ましいが、ポリイソシアネート化合物のNCO基の当量と、ポリオール化合物及びモノオール化合物またはモノアミン化合物の当量比を計算し、末端イソシアネート基の少なくとも一部がモノオール化合物またはモノアミン化合物にて封止されたポリウレタン樹脂となるのであれば製造方法に限定はない。
【0025】
本発明においては、モノオール化合物又はモノアミン化合物によって、ポリウレタン樹脂の末端イソシアネート基の好ましくは50~100%が封止されている。より好ましくは90~100%である。
【0026】
ポリイソシアネート化合物のNCO基の当量と、中高分子量ポリオール化合物及び低分子量ポリオール化合物のOH基の合計当量の比を、NCO/OH当量比と表記する。
【0027】
本発明におけるポリウレタン樹脂は、ポリイソシアネート化合物と中高分子量ポリオール化合物及び低分子量ポリオール化合物を、NCO/OH当量比1.1~3.0の範囲、好ましくは1.2~1.5の範囲で反応させた後、理論残存NCO基量と同等量のモノオール化合物またはモノアミン化合物を反応させることで、末端が100%封止された良好なポリウレタン樹脂を得ることができる。このモノオール化合物またはモノアミン化合物の使用する当量を変更することで10%~100%まで任意に封止する比率を変更できるが、相溶性の観点から100%封止することが好ましい。
【0028】
前記[NCO]/[OH]当量比がかかる範囲であれば、エポキシ樹脂組成物とした際
の大幅な粘度上昇を抑制することができ、且つ良好な破壊靭性を示すエポキシ樹脂硬化物が得られる。
【0029】
エポキシ樹脂組成物におけるポリウレタン樹脂の配合量は、ポリウレタン樹脂の構成成分の内、モノオールまたはモノアミン化合物を除いた成分が、樹脂組成物100質量部に対し2~15質量部となるようにし、好ましくは7~10質量部とすることが望ましい。
【0030】
ポリウレタン樹脂の配合量が上記範囲であれば、硬化前の樹脂組成物粘度を低く保ったまま、エポキシ樹脂硬化物の物性を極力損なわずに破壊靭性を向上できる。
【0031】
エポキシ樹脂としては、30℃で液状のエポキシ樹脂であれば特に制限はないが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂が入手の容易さ、経済性と特性のバランスの良さの点から好ましい。
【0032】
硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド系硬化剤、アミン系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、ポリアミド系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール樹脂系硬化剤、ポリメルカプタン系硬化剤などが挙げられるが、これらの中でも可使時間が長く、貯蔵安定性に優れることからジシアンジアミド系硬化剤が好ましい。これらは単独使用でも2種以上を併用しても良い。
【0033】
エポキシ樹脂組成物中の硬化剤の配合量としては、樹脂組成物100質量部に対して3~30質量部の範囲であり、より好ましくは3~10の範囲である。硬化剤の配合量がかかる範囲であれば、エポキシ樹脂の架橋密度が高くなりすぎず、ポリウレタン樹脂による破壊靭性の向上が良好に行われる。
【0034】
本発明では、反応や製品性能などに悪影響を及ぼさない範囲であれば、任意の段階で公知の添加剤を添加することができる。
【0035】
前記添加剤としては、例えば硬化促進剤、充填剤(炭酸塩、珪酸、珪酸塩、水酸化物、硫酸塩、硼酸塩、チタン酸塩、金属酸化物、炭素物、有機物等)、酸化防止剤、脱泡剤、紫外線吸収剤、砥粒、顔料、増粘剤、界面活性剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、耐熱安定剤、ブレンド用樹脂など公知慣用のものを、本発明の目的を阻害しない範囲で、製造工程の何れの段階においても用いることができる。尚、前記添加剤はほんの一例であって、特にその種類を限定するものではない。
【0036】
本発明において、ジシアンジアミド系硬化剤を用いてエポキシ樹脂組成物を製造する場合、硬化促進剤を配合することが望ましい。硬化促進剤の例としては、2,4-ビス(3,3-ジメチルウレイド)トルエン等の尿素化合物や、2,4-ジアミノ-6-[2'-メチルイミダゾリル-(1')]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加塩(2MA-OK)等の結晶性イミダゾール化合物を用いることができる。
【0037】
前記硬化促進剤の配合量は、促進剤自身を含むエポキシ樹脂組成物100質量部に対して、2~30質量部の範囲であり、より好ましくは2~10の範囲である。
【0038】
エポキシ樹脂硬化物は、例えば、以下のような〔工程1〕~〔工程3〕を含む一連の工程を経て得ることができる。
【0039】
なお、各工程の設定条件(温度、時間、圧力、不活性ガスや添加剤の使用の有無やその種類、供給量など)は、特に限定しない。
【0040】
〔工程1〕エポキシ樹脂組成物の調製
ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤を、各々所定量300mlの専用ディスポカップに仕込み、自転・公転ラボ用真空プラネタリーミキサーを用いて、5分間真空脱泡しつつ攪拌混合することで、液状の樹脂組成物が得られる。
【0041】
〔工程2〕注型・硬化工程
次いで、前記エポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、予熱しておいた金型中に注入する。その後熱風オーブンに入れ、120℃で50分の後、150℃で50分の加熱硬化を行うことで、エポキシ樹脂硬化物が得られる。
【0042】
〔工程3〕後加工工程
金型より抜き出した硬化物は、必要に応じて、溝入れ加工、切削加工、切断加工、研摩
加工などの適当な加工方法を施し、用途に応じた形状に整えることで、樹脂硬化物試験片が得られる。
【0043】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、硬化反応前はエポキシ樹脂とポリウレタン樹脂が相溶して液状を保っているが、硬化反応後はエポキシ樹脂が海構造、ポリウレタン樹脂が直径1000nm以下の島構造を形成することで、硬化物は海島相分離構造になるという特徴がある。
【0044】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、硬化反応後に硬化物が海島相分離構造を形成できるため、繊維強化樹脂成型品において、エポキシ樹脂の優れた耐熱性や機械強度を維持したまま、破壊靱性を飛躍的に向上させることができる。
【0045】
本発明の繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物は、25度で20,000mPa・s以下の低粘度であるため、繊維基材(炭素繊維、ガラス繊維など)への優れた含浸性を発現でき、且つ、硬化物は破壊靭性や耐熱性などに優れた性能を発現できる。
【0046】
本発明は、エポキシ樹脂の靭性付与剤であるポリウレタン樹脂の、末端構造の変更により硬化物物性の最適化を行うことができる。
末端原料であるモノオールまたはモノアミン化合物のHSPと、エポキシ樹脂硬化物のHSP距離を適度に近くすることで、ポリウレタン樹脂の相溶性が最適化されるため、破壊靭性を向上できる。
ただし、HSP距離が近すぎると、ポリウレタン樹脂のエポキシ樹脂硬化物への相溶性が高くなりすぎてしまい、硬化物の耐熱性低下を招くため、HSP距離は7以上20以下、好ましくは10以上15以下が望ましい。
【実施例0047】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。本発明はこの具体例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。
物性の評価方法は次の通りである。
【0048】
〔IRによる残存NCO基の有無判定〕
得られたポリウレタン樹脂0.05gを、パーキンエルマー社製FT-IR装置Spectrum-OneのATRクリスタルに塗布し、IR測定を実施した。得られたIRチャートにおいて、NCO基の特性吸収帯である2270cm-1の伸縮振動吸収スペクトルが消失した場合に、残存NCO基なしと判定した。
【0049】
〔エポキシ当量〕
JIS K 7236 に従って定量した。
【0050】
〔ガラス転移温度(Tg)〕
昇温速度10℃/分の条件下、示差走査熱量計(DSC)を用いてベースラインと変曲点での接線の交点よりガラス転移温度(Tg)を導出した。
【0051】
〔引張試験〕
金型注型によってJIS K 7161の形状に成形した硬化物を試験片とし、万能試験機を用いて、室温23℃下で引張試験を行い、引張強度、引張伸度、引張弾性率をおのおの測定した。
【0052】
〔破壊靭性(KIC)〕
金型注型によってJIS K 6911の形状に成形した硬化物を試験片とし、万能試験機を用いて、室温23℃下、クロスヘッドスピード0.5mm/分の条件で試験を行った。尚、試験前における試験片へのノッチ(刻み目)の作成は、剃刀の刃を試験片にあて、ハンマーで剃刀の刃に衝撃を与えることで行った。
【0053】
〔粘度〕
各硬化前樹脂組成物の25℃における粘度をE型粘度計で測定した。
【0054】
〔HSP計算〕
実施例又は比較例で使用したモノオールのHSP、モノアミンのHSP、及びポリウレタン樹脂を含まないエポキシ樹脂組成物硬化物のHSPについて、各々、Y-MB法と呼ばれる原子団寄与法を用いて算定した。
ここで、ポリウレタン樹脂を含まないエポキシ樹脂組成物硬化物とは、ポリウレタン樹脂を含まないこと以外、実施例又は比較例と同じ組成のエポキシ樹脂及び硬化剤を配合してなるエポキシ樹脂組成物を調整し、同じ条件で硬化させた硬化物をいう。なお、実施例では基本組成が共通し、配合量は微差であることから、ポリウレタン樹脂を含まないエポキシ樹脂組成物硬化物のHSPは共通の値とした。
【0055】
実施例、比較例で使用する材料の略号を以下に示す。
P-3000:数平均分子量3000のポリプロピレングリコール((株)ADEKA製アデカポリエーテルP-3000)
TDI:トリレンジイソシアネート(三井化学(株)製コスモネートT-80)
BD:1,4-ブタンジオール(関東化学(株)製試薬)
スズ触媒:ジ-n-ブチルすずジラウラート(キシダ化学(株)製試薬)
BPF-Ep:液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル(株)製エポトートYDF-170)
BPA-Ep:液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル(株)製エポトートYDF-128)
DICY:ジシアンジアミド(EVONIK製DICYANEX1400F)
TDU:2,4-ビス(3,3-ジメチルウレイド)トルエン(A&C Catalysts製Technicure TDU-200M)
PUE:ポリウレタン変性エポキシ樹脂
【0056】
〔合成例1:ポリウレタン樹脂PU1の合成〕
高分子量ポリオール化合物としてP-3000、低分子量ポリオール化合物としてBDを、窒素導入管、滴下漏斗、攪拌機、温度調節機を備えた500ml四つ口セパラブルフラスコに、表1記載の重量で各々仕込み、60℃で15分攪拌混合した。
その後、スズ触媒を全原料に対して100ppm仕込み、ポリイソシアネート化合物としてTDIを、表1記載の重量で滴下漏斗に仕込んだ後、30分かけてTDIをフラスコ内に滴下した。
TDI投入開始から2時間後、反応温度を120℃へ上昇させ、15分保持した後、再び反応温度を60℃へ戻した。
その後、モノオール化合物としてベンジルアルコールを表1記載の重量で仕込み、30分ごとに反応液のIR測定を行い、反応液中のイソシアネート基の吸収スペクトルが消失するまで撹拌を続けることで、目的のポリウレタン樹脂(PU1)を得た。
【0057】
〔合成例2~6:ポリウレタン樹脂PU2~6の合成〕
原料仕込み組成を表1に記載の通りとした以外は、合成例1と同じ手順で反応を行い、目的のポリウレタン樹脂(PU2~6)を得た。
【0058】
〔合成例7:末端OHポリウレタン樹脂PU7の合成〕
高分子量ポリオール化合物としてP-3000、低分子量ポリオール化合物としてBDを、窒素導入管、滴下漏斗、攪拌機、温度調節機を備えた500ml四つ口セパラブルフラスコに、表1記載の重量で各々仕込み、60℃で15分攪拌混合した。
その後、スズ触媒を全原料に対して100ppm仕込み、ポリイソシアネート化合物としてTDIを、表1記載の重量で滴下漏斗に仕込んだ後、30分かけてTDIをフラスコ内に滴下した。
TDI投入開始から2時間後、反応温度を120℃へ上昇させた後、30分ごとに反応液のIR測定を行い、反応液中のイソシアネート基の吸収スペクトルが消失するまで撹拌を続けることで、目的のポリウレタン樹脂(PU7)を得た。
【0059】
〔合成例8:ポリウレタン変性エポキシ樹脂の合成〕
窒素導入管、攪拌機、温度調節機を備えた500ml四つ口セパラブルフラスコに、P-3000を33.6g、BPA-Epを201.6g仕込み、120℃で15分間攪拌混合した。
次に、TDI 12.2gを同セパラブルフラスコに仕込み、120℃で2h反応させた。
最後に、鎖長延長剤として3.03gのBDを同セパラブルフラスコに仕込み、120℃で2h反応させた後、30分ごとに反応液のIR測定を行い、反応液中のイソシアネート基の吸収スペクトルが消失するまで撹拌を続けることで、ポリウレタン変性エポキシ樹脂(PUE)を得た。
PUEのエポキシ当量は、231.8g/eq(理論値231.7g/eq)であった
【0060】
次に、上述した合成例1~4で得られたPU1~4を使用したエポキシ樹脂組成物、及び、エポキシ樹脂硬化物の実施例を示す。
【0061】
〔実施例1〕
ポリウレタン樹脂として、合成例1で得たPU1、エポキシ樹脂としてBPA-Ep及びBPF-Ep、硬化剤としてDICY、硬化促進剤としてTDUを、各々表2記載の配合組成で300mlの専用ディスポカップに仕込み、自転・公転ラボ用真空プラネタリーミキサーを用いて、5分間真空脱泡しつつ攪拌混合し、液状の樹脂組成物を得た。ここで、エポキシ基とジシアンジアミドのモル比は1:0.38とし、硬化物中のポリウレタン濃度(PU樹脂に使用した高分子量ポリオール化合物、ポリイソシアネート化合物、低分子量ポリオール化合物の合計をポリウレタンと定義する)が7.7wt%となる、ポリウレタン樹脂含有エポキシ樹脂組成物を100g調製した。
次に、この液状樹脂組成物をJISK7161の形状を有する金型に注型した。樹脂を注型した金型を熱風オーブン中に入れ、120℃で45分、さらに150℃で45分の加熱硬化を行い、エポキシ樹脂硬化物試験片を調製した。この試験片を使用した試験結果及び、硬化前の樹脂組成物の粘度分析結果を、表2に示す。
【0062】
〔実施例2~4〕
ポリウレタン樹脂、BPA-Ep、BPF-Ep、DICY、TDUを表2に記載の配合組成とした以外は、実施例1と同じ手順で、硬化物中のポリウレタン濃度7.7wt%のポリウレタン樹脂含有エポキシ樹脂組成物を調製した。
実施例1と同様の手順で液状樹脂組成物を金型注型して熱硬化させ、特性評価用の試験片を調製した。得られた組成物の物性及び試験結果を表2に示す。
【0063】
以下、合成例5~7で得たPU5~7、または合成例8で得たPUEを使用したエポキシ樹脂組成物及び、エポキシ樹脂のみで構成した組成物に関して、比較例を示す。
【0064】
〔比較例1〕
ポリウレタン樹脂を組成物原料として用いず、BPA-Ep、BPF-Ep、DICY、TDUを表3に記載の配合組成とした以外は、実施例1と同じ手順でエポキシ樹脂組成物を調製した。
実施例1と同様の手順で液状樹脂組成物を金型注型して熱硬化させ、特性評価用の試験片を調製した。得られた組成物の物性及び試験結果を表3に示す。
【0065】
〔比較例2〕
ポリウレタン樹脂の代わりに、合成例8で合成したポリウレタン変性エポキシ樹脂(PUE)を組成物原料として用い、PUE、BPA-Ep、BPF-Ep、DICY、TDUを表3に記載の配合組成とした以外は、実施例1と同じ手順で、硬化物中のポリウレタン濃度7.7wt%のポリウレタン変性エポキシ樹脂含有エポキシ樹脂組成物を調製した。
実施例1と同様の手順で液状樹脂組成物を金型注型して熱硬化させ、特性評価用の試験片を調製した。得られた組成物の物性及び試験結果を表3に示す。
【0066】
〔比較例3~5〕
ポリウレタン樹脂、BPA-Ep、BPF-Ep、DICY、TDUを表3に記載の配合組成とした以外は、実施例1と同じ手順で、硬化物中のポリウレタン濃度7.7wt%のポリウレタン樹脂含有エポキシ樹脂組成物を調製した。
実施例1と同様の手順で液状樹脂組成物を金型注型して熱硬化させ、特性評価用の試験片を調製した。得られた組成物の物性及び試験結果を表3に示す。

【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
実施例1~4のポリウレタン樹脂含有樹脂組成物は、比較例2のポリウレタン変性エポキシ樹脂含有樹脂組成物と比較して、同等または高い破壊靭性を有しながら、組成物粘度が低く、組成物中の構成比率を約5分の1に低減できており、破壊靭性、繊維への含侵性、樹脂組成物の設計自由度に優れていることが認められた。耐熱性については比較例2に多少劣るものの、おおよそ120℃のTgを有しており、高い耐熱性が認められた。
また、実施例1~4と比較例3の比較により、エポキシ樹脂硬化物とのHSP距離が遠すぎるメタノールの場合、破壊靭性は低下しており、ポリウレタン樹脂の末端構造の変更が破壊靭性の向上に有効であると認められた。
更に、実施例1~4と比較例4の比較により、エポキシ樹脂硬化物とのHSP距離が近すぎる3-フェノキシベンジルアルコールの場合、破壊靭性は低下しており、この結果からもポリウレタン樹脂の末端構造の変更が、破壊靭性の向上に有効であると認められた。
そして、実施例1~4と比較例5の比較により、ポリウレタン樹脂の末端を封止していないポリウレタン樹脂の場合、まずまずの硬化物物性を示すものの、樹脂組成物の粘度が増加してしまうのに対し、実施例1~4では硬化物物性と低粘度の両立が出来ることが認められた。