(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050720
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】制御方法及び制御システム
(51)【国際特許分類】
G05D 1/02 20200101AFI20230404BHJP
【FI】
G05D1/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021160975
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129654
【弁理士】
【氏名又は名称】大池 達也
(72)【発明者】
【氏名】安藤 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】長尾 知彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 道治
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301AA02
5H301AA09
5H301BB05
5H301CC03
5H301EE06
5H301GG07
5H301GG12
5H301GG17
5H301HH01
(57)【要約】
【課題】目標経路に対する追従性を高めた車両用の制御方法を提供すること。
【解決手段】目標の軌跡に沿って車両2を走行させるための制御方法は、磁気マーカ10に対する横方向の偏差を計測する処理と、車両方位を取得する処理と、磁気マーカ10に対する横方向の偏差及び車両方位に基づき、車両2の前後方向において磁気ユニットとは異なる位置に設定された制御点につき、目標の軌跡に対する横方向の偏差を演算する処理と、制御点の横方向の偏差をゼロに近づけるための舵角の制御目標である指示舵角を演算する処理と、指示舵角を制御目標として操舵輪の舵角を制御する処理と、を含んでいる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標の軌跡に沿って車両を走行させるための制御方法であって、
前記車両は、走路に配設された磁気マーカに対する横方向の偏差を計測する磁気ユニットと、車両の前後方向の向きである車両方位を取得する回路と、前記目標の軌跡に対する制御点の横方法の偏差をゼロに近づけるように車両の操舵輪の舵角を制御する回路と、を備えており、
前記磁気マーカに対する横方向の偏差を計測する処理と、
前記車両方位を取得する処理と、
前記磁気マーカに対する横方向の偏差及び前記車両方位に基づき、車両の前後方向において前記磁気ユニットとは異なる位置に設定された制御点につき、前記目標の軌跡に対する当該制御点の横方向の偏差を演算する処理と、
前記制御点の横方向の偏差をゼロに近づけるための前記舵角の制御目標である指示舵角を演算する処理と、
当該指示舵角を制御目標として前記操舵輪の舵角を制御する処理と、を含む制御方法。
【請求項2】
請求項1において、前記制御点の横方向の偏差を演算する処理は、前記磁気マーカに対する横方向の偏差、当該磁気マーカの位置、及び前記車両方位に基づいて車両位置を特定し、当該車両位置と前記車両方位とに基づいて前記制御点の横方向の偏差を演算する制御方法。
【請求項3】
請求項1において、前記走路には、既知の方向に沿って既知の間隔で隣り合わせて位置していると共に、前記走路の進行方向において下流側に位置する2つめの磁気マーカの位置が既知である2つの磁気マーカが配置されており、
前記2つの磁気マーカのうちの1つめの磁気マーカを検出した後、2つめの磁気マーカを検出するまでの間、前記指示舵角を維持する一方、
前記2つの磁気マーカのうちの2つめの磁気マーカを検出したとき、前記既知の方向に対する車両方位の偏差を特定することにより当該既知の方向に基づいて当該車両方位を特定すると共に、
当該2つめの磁気マーカに対する横方向の偏差、当該2つめの磁気マーカの位置及び前記車両方位に基づいて車両位置を特定し、当該車両位置及び当該車両方位に基づいて前記制御点の横方向の偏差を演算する制御方法。
【請求項4】
請求項1において、前記走路には、既知の方向に沿って既知の間隔で隣り合わせて位置していると共に、前記走路の進行方向において下流側に位置する2つめの磁気マーカの位置が既知である2つの磁気マーカが配置されており、
前記2つの磁気マーカのうちの1つめの磁気マーカを検出した後、2つめの磁気マーカを検出するまでの間、慣性航法により車両位置及び車両方位を推定すると共に、
当該車両位置と当該車両方位とに基づいて前記制御点の横方向の偏差を演算する一方、
前記2つの磁気マーカのうちの2つめの磁気マーカを検出したとき、前記既知の方向に対する車両方位の偏差を特定することにより当該既知の方向に基づいて当該車両方位を特定すると共に、
当該2つめの磁気マーカに対する横方向の偏差、当該2つめの磁気マーカの位置及び前記車両方位に基づいて車両位置を特定し、当該車両位置及び当該車両方位に基づいて前記制御点の横方向の偏差を演算する制御方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項において、前記制御点は、車両の速度に所定の時間を乗じた距離にオフセット距離を加えた距離の分だけ、前記車両の前後方向において前記磁気ユニットよりも前方に位置している制御方法。
【請求項6】
請求項5において、前記車両は、前記操舵輪である前輪と、固定輪である後輪と、を有すると共に、前記磁気ユニットが後輪よりも後ろ側に配置された車両であり、
前記目標の軌跡が直線の場合の直線走行時のオフセット距離は、前記磁気ユニットと前輪との前後方向の距離以上の距離である一方、
前記目標の軌跡が曲線の場合の曲線走行時のオフセット距離は、前記磁気ユニットと後輪との前後方向の距離の2倍以上の距離である制御方法。
【請求項7】
請求項6において、前記曲線走行時のオフセット距離の上限は、前記直線走行時のオフセット距離である制御方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項において、前記舵角の制御目標である指示舵角は、前記目標の軌跡の曲率を反映するフィードフォワード項と、前記制御点の横方向の偏差を反映するフィードバック項と、を含む制御式により演算される制御方法。
【請求項9】
目標の軌跡に沿って車両を走行させるための制御システムであって、
走路に配設された磁気マーカに対する横方向の偏差を計測する磁気ユニットと、
車両の前後方向の向きである車両方位を取得する回路と、
前記磁気マーカに対する横方向の偏差及び前記車両方位に基づき、車両の前後方向において前記磁気ユニットとは異なる位置に設定された制御点につき、前記目標の軌跡に対する当該制御点の横方向の偏差を演算する回路と、
前記制御点の横方法の偏差をゼロに近づけるように車両の操舵輪の舵角の制御目標である指示舵角を演算し、当該指示舵角を制御目標として前記操舵輪の舵角を制御する回路と、を含む制御システム。
【請求項10】
請求項9において、前記制御点の横方向の偏差を演算する回路は、前記磁気マーカに対する横方向の偏差、当該磁気マーカの位置及び前記車両方位に基づいて車両位置を特定し、当該車両位置と前記車両方位とに基づいて前記制御点の横方向の偏差を演算するように構成されている制御システム。
【請求項11】
請求項9において、前記走路には、既知の方向に沿って既知の間隔で隣り合わせて位置していると共に、前記走路の進行方向において下流側に位置する2つめの磁気マーカの位置が既知である2つの磁気マーカが配置されており、
前記2つの磁気マーカのうちの1つめの磁気マーカを検出した後、2つめの磁気マーカを検出するまでの間、前記舵角を制御する回路が指示舵角を維持し、
前記2つの磁気マーカのうちの2つめの磁気マーカを検出したとき、前記車両方位を取得する回路が、前記既知の方向に対する前記車両方位の偏差を特定することにより当該既知の方向に基づいて当該車両方位を特定すると共に、
前記制御点の横方向の偏差を演算する回路が、前記2つめの磁気マーカに対する横方向の偏差、当該2つめの磁気マーカの位置、及び前記車両方位に基づいて車両位置を特定し、当該車両位置及び当該車両方位に基づいて前記制御点の横方向の偏差を演算する制御システム。
【請求項12】
請求項9において、前記走路には、既知の方向に沿って既知の間隔で隣り合わせて位置していると共に、前記走路の進行方向において下流側に位置する2つめの磁気マーカの位置が既知である2つの磁気マーカが配置されており、
前記2つの磁気マーカのうちの1つめの磁気マーカを検出した後、2つめの磁気マーカを検出するまでの間、前記車両方位を取得する回路が、慣性航法により車両方位を推定すると共に、
前記制御点の横方向の偏差を演算する回路が、慣性航法により推定された車両位置及び前記車両方位に基づいて前記制御点の横方向の偏差を演算する一方、
前記2つの磁気マーカのうちの2つめの磁気マーカを検出したとき、前記車両方位を取得する回路が、前記既知の方向に対する前記車両方位の偏差を特定することにより当該既知の方向に基づいて当該車両方位を特定すると共に、
前記制御点の横方向の偏差を演算する回路が、前記2つめの磁気マーカに対する横方向の偏差、当該2つめの磁気マーカの位置、及び前記車両方位に基づいて車両位置を特定し、当該車両位置及び当該車両方位に基づいて前記制御点の横方向の偏差を演算する制御システム。
【請求項13】
請求項9~12のいずれか1項において、前記舵角を制御する回路は、前記目標の軌跡の曲率を反映するフィードフォワード項と、前記制御点の横方向の偏差を反映するフィードバック項と、を含む制御式により、前記舵角の制御目標である指示舵角を求めるように構成されている制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を走行させるための制御方法及び制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工場や物流倉庫などにおいて、自動搬送車が広く活用されている。自動搬送車を自動走行させるためのシステムとしては、床面に敷設された磁気テープを利用するシステムが知られている(例えば特許文献1参照。)。このシステムでは、磁気テープに対する車両の横方向の偏差が検出され、この偏差を抑えるように車両が操舵される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来のシステムでは、次のような問題がある。すなわち、磁気テープに追従する際に操舵の遅れが生じると車両が目標の軌跡から外れるおそれが生じ、このおそれを未然に回避するために車速を十分に抑える必要がある。
【0005】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、目標経路に対する追従性を高めた車両用の制御方法及び制御システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、目標の軌跡に沿って車両を走行させるための制御方法であって、
前記車両は、走路に配設された磁気マーカに対する横方向の偏差を計測する磁気ユニットと、車両の前後方向の向きである車両方位を取得する回路と、前記目標の軌跡に対する制御点の横方法の偏差をゼロに近づけるように車両の操舵輪の舵角を制御する回路と、を備えており、
前記磁気マーカに対する横方向の偏差を計測する処理と、
前記車両方位を取得する処理と、
前記磁気マーカに対する横方向の偏差及び前記車両方位に基づき、車両の前後方向において前記磁気ユニットとは異なる位置に設定された制御点につき、前記目標の軌跡に対する当該制御点の横方向の偏差を演算する処理と、
前記制御点の横方向の偏差をゼロに近づけるための前記舵角の制御目標である指示舵角を演算する処理と、
当該指示舵角を制御目標として前記操舵輪の舵角を制御する処理と、を含む制御方法にある。
【0007】
本発明の一態様は、目標の軌跡に沿って車両を走行させるための制御システムであって、
走路に配設された磁気マーカに対する横方向の偏差を計測する磁気ユニットと、
車両の前後方向の向きである車両方位を取得する回路と、
前記磁気マーカに対する横方向の偏差及び前記車両方位に基づき、車両の前後方向において前記磁気ユニットとは異なる位置に設定された制御点につき、前記目標の軌跡に対する当該制御点の横方向の偏差を演算する回路と、
前記制御点の横方法の偏差をゼロに近づけるように車両の操舵輪の舵角の制御目標である指示舵角を演算し、当該指示舵角を制御目標として前記操舵輪の舵角を制御する回路と、を含む制御システムにある。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る車両用の制御方法及び制御システムでは、磁気マーカに対する横方向の偏差を計測する磁気ユニットに対して、車両の前後方向における異なる位置に制御点が設定されている。そして、この制御方法及び制御システムでは、目標の軌跡に対する制御点の横方向の偏差をゼロに近づけるように操舵輪の舵角が制御される。制御点の横方向の偏差は、磁気マーカに対する横方向の偏差及び車両方位に基づいて演算される。
【0009】
車両方位及び磁気マーカに対する横方向の偏差に基づけば、車両の前後方向において磁気ユニットとは位置が異なる制御点について、目標の軌跡に対する横方向の偏差を精度高く特定できる。車両の前後方向における位置が磁気ユニットとは異なる制御点を設定すれば、車両の前後方向における磁気ユニットの位置に関わらず、車両の制御性を向上でき、目標の軌跡に対する車両の追従性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】2つの磁気マーカが配設された特別エリアの説明図。
【
図7】磁気マーカの真上を通過する磁気センサが出力する進行方向の磁気計測値の時間変化を例示するグラフ。
【
図8】磁気センサC1~C15による車幅方向の磁気計測値の分布を例示するグラフ。
【
図9】磁気マーカ10が検出された場合の動作の流れを示すフロー図。
【
図10】1つの磁気マーカを利用して特定される車両方位の説明図。
【
図11】2つの磁気マーカを利用して特定される車両方位の説明図。
【
図15】前方注視距離Lfと車速Vとの関係を示すグラフ。
【
図16】直線路において車両(先頭車両)に設定される制御点の説明図。
【
図17】曲線路において車両(先頭車両)に設定される制御点の説明図。
【
図18】特別エリアの磁気マーカが検出されたときの制御点の横偏差eyの特定方法の説明図。
【
図19】非特別エリアの磁気マーカが検出されたときの制御点の横偏差eyの特定方法の説明図。
【
図21】隣り合う磁気マーカ(N極)の中間を走行中の制御点CTの横偏差eyの特定方法の説明図。
【
図22】オフセット距離Loをゼロとした場合の実証実験の結果を示すグラフ。
【
図23】オフセット距離Loを設定した場合の実証実験の結果を示すグラフ。
【
図24】特別エリアを通過した際の車両の制御結果を示すグラフ。
【
図25】磁気マーカ10が検出された場合の動作の流れの別例を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態につき、以下の実施例を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
本例は、走路100に沿って車両2を走行させるための制御方法及び制御システム1に関する例である。この内容について、
図1~
図25を用いて説明する。
【0012】
車両2の走行環境は、例えば、工場や物流倉庫などの屋内環境や、工場などの敷地内の屋外環境など、である。車両2が走行する際の目標の軌跡としては、工場や物流倉庫などで設定された走路100(例えば
図1)をはみ出すことなく走行するための軌跡が設定される。
【0013】
走路100(
図1)は、例えば、幅約2mの一方通行のオーバル形状の周回走路である。走路100は、直線路100Sと、曲線路100Cと、を組み合わせて構成されている。本例の構成では、走路100のほぼ中央に沿うように磁気マーカ10が配列されている。磁気発生源としての磁気マーカ10は、車両2が目標の軌跡に沿って走行するための目印の一例をなしている。
【0014】
本例では、
図1のごとく、例えば2mなどの所定の間隔で、磁気マーカ10の配設箇所が設けられている。さらに、磁気マーカ10の配設箇所の中には、2つの磁気マーカ10が、より短い間隔(本例では0.5m。既知の間隔の一例。)で隣り合わせて配置された特別エリア10A(
図1及び
図3)が含まれている。なお、特別エリア10Aにおける磁気マーカ10の間隔は、規定の距離である必要があるが、磁気マーカ10の配設箇所の間隔については、一定の間隔であることは必須の要件ではない。
【0015】
特別エリア10Aの2つの磁気マーカ10のうちの下流側の磁気マーカ10が、特別エリア10Aに対して隣り合う上流側及び下流側の他の磁気マーカ10と前記所定の間隔で位置している。一方、上流側の磁気マーカ10は、特別エリア10Aに対して上流側に隣り合う他の磁気マーカ10との間隔が前記所定の間隔よりも狭くなっている。
【0016】
なお、特別エリア10Aでは、上流側の磁気マーカ10の上面が例えばS極となり、下流側の磁気マーカ10の上面が例えばN極となるように、2つの磁気マーカ10が配設されている。非特別エリアの磁気マーカ10は、上面が例えばN極となるように配設されている。このように磁気マーカ10を配設すれば、S極の磁気マーカ10の検出に応じて、特別エリア10Aに到達したことを車両2側で容易に検知できるようになる。
【0017】
特別エリア10Aは、2つの磁気マーカ10を利用し、車両2の絶対方位(車両方位)や絶対位置(車両位置)を特定するためのエリアである。特別エリア10Aにおける2つの磁気マーカ10は、絶対方位が既知の方向に沿って配置されている。特別エリア10Aは、例えば、曲線路100Cの手前及び直後に設けられている。曲線路100Cの手前に特別エリア10Aを設ければ、曲線路100Cへの進入の際、車両方位、車両位置の特定精度を確保でき、曲線路100Cを走行中の制御精度を高く確保できる。また、曲線路100Cの直後に特別エリア10Aを設ければ、車両方位の変動に起因して生じ得る角度的な誤差や位置的な誤差を、曲線路100Cを通過した後で直ちに補正できる。このような補正によれば、曲線路100Cを通過した後の直線路100Sの制御に、角度的あるいは位置的な誤差の影響が及ぶおそれを抑制できる。
【0018】
磁気マーカ10は、
図2のごとく、直径50mm、厚さ2mmのシート状をなす永久磁石である。磁気マーカ10は、走路100の表面をなす路面に貼り付け可能である。個片状の磁気マーカ10は、磁気テープと比べて床面等への貼付けが容易である。特に、直線状の磁気テープは、曲線状の貼付けが難しく皺などを生じ易い一方、個片状の磁気マーカ10であれば、曲線路への配設が容易である。さらに、磁気マーカ10は、貼り換えが容易であるので、ルート変更など走路100の形状変更への対応が容易である。
【0019】
磁気マーカ10をなす磁石は、磁性材料である酸化鉄の磁粉を基材である高分子材料中に分散させたフェライトラバーマグネットである。なお、本例のシート状の磁気マーカ10に代えて、柱状の磁気マーカを採用しても良い。柱状の磁気マーカの場合、路面に穿設された孔に収容すると良い。
【0020】
次に、本例の制御システム1を構成する車両2について説明する。車両2は、
図4のごとく、駆動輪を備える先頭車両21と、この先頭車両21に牽引される四輪の台車22と、により構成されている。先頭車両21は、長さ2m、幅1mであり、台車22は、長さ2m、幅1mである。なお、本例では、前輪軸211Aと後輪軸212Aとの軸間距離をLwとし、磁気センサアレイ3と後輪軸212Aとの距離をLmとする。
【0021】
先頭車両21は、操舵輪である左右一対の前輪211と、駆動輪である後輪212と、を有している。後輪212は、回転軸の軸方向が固定された固定輪である。先頭車両21の後部には、台車22を牽引するための牽引フック219が設けられている。また、先頭車両21の最後尾には、棒状の磁気センサアレイ3が取り付けられている。
【0022】
台車22は、先頭車両21あるいは先行する台車22に連結するための連結バー220を有すると共に、後続する台車22を連結するための連結フック229を備えている。台車22は、左右一対の従動輪221を前部に、左右一対の固定輪222を後部に備えている。先頭車両21には、複数台の台車22を連結可能である。
【0023】
先頭車両21のシステム構成について
図5を参照して説明する。先頭車両21は、磁気検出を行う装置の一例である磁気センサアレイ3、車両2の走行を制御する制御ユニット40、慣性航法を実現するためのIMU(Inertial Measurement Unit)42、後輪212を回転駆動するモータユニット44、操舵輪である前輪211を操舵する操舵ユニット46、などを含んで構成されている。
【0024】
磁気センサアレイ3(
図6)は、複数の磁気センサCnが一直線上に配列された棒状の磁気ユニットであり、先頭車両21の車幅方向に沿うように取り付けられる(
図4参照。)。特に、本例の構成では、後輪軸212A(
図4)よりも後ろ側に当たる先頭車両21の最後尾に磁気センサアレイ3が取り付けられている。走路100(
図1)の床面を基準とした磁気センサアレイ3の取り付け高さは、100mmとなっている。
【0025】
磁気センサアレイ3(
図6)は、一直線上に配列された15個の磁気センサCn(nは1~15の整数)と、図示しないCPU等を内蔵した検出処理回路32と、を備えている。棒状の磁気センサアレイ3では、その長手方向に沿って15個の磁気センサCnが5cm間隔で配列されている。車幅方向に沿うように磁気センサアレイ3が先頭車両21に取り付けられたとき、車両2(先頭車両21)の車幅方向(横方向)に沿って15個の磁気センサCnが一直線上に配列されることになる。本例の構成では、磁気センサC1が車両2(先頭車両21)の左側に位置し、磁気センサC15が車両2の右側に位置している。
【0026】
磁気センサCnは、アモルファスワイヤなどの感磁体のインピーダンスが外部磁界に応じて敏感に変化するという公知のMI効果(Magnet Impedance Effect)を利用して磁気を検出するセンサである。磁気センサCnは、直線状のアモルファスワイヤの長手方向に磁気的な感度を有している。
【0027】
各磁気センサCnでは、直線状のアモルファスワイヤなどの2本の感磁体(図示略)が、互いに直交する2軸方向に沿って配置されている。各磁気センサCnは、感磁体の軸方向に沿って作用する磁気成分の検出が可能である。磁気センサアレイ3では、各磁気センサCnが備える2本の感磁体の軸方向が、それぞれ、一致するように磁気センサCnが組み込まれている。磁気センサアレイ3は、各磁気センサCnが進行方向及び車幅方向の磁気成分を検出できるよう、先頭車両21に取り付けられる。なお、進行方向とは、車両2(先頭車両21)の前後方向に一致する方向である。
【0028】
磁気センサアレイ3が備える検出処理回路32(
図6)は、磁気マーカ10を検出するためのマーカ検出処理を実行する演算回路である。検出処理回路32は、図示は省略するが、各種の演算を実行するCPU(central processing unit)のほか、ROM(read only memory)やRAM(random access memory)などのメモリ素子等を利用して構成されている。
【0029】
検出処理回路32は、各磁気センサCnが出力するセンサ信号を3kHzの周波数で取得してマーカ検出処理を実行する。検出処理回路32は、マーカ検出処理の検出結果を制御ユニット40に入力する。詳しくは後述するが、このマーカ検出処理では、磁気マーカ10の検出に加えて、目印の一例をなす磁気マーカ10に対する相対位置の一例として、横方向(車幅方向)の偏差が計測されて特定される。
【0030】
IMU42(
図5)は、慣性航法により先頭車両21の相対位置や車両方位などを推定するユニットである。IMU42は、図示は省略するが、方位を計測する電子コンパスである2軸磁気センサ、加速度を計測する2軸加速度センサ、yaw軸回りの角速度を計測する2軸ジャイロセンサ等、を備えている。ここで、yaw軸は、鉛直方向の軸である。
【0031】
IMU42は、計測加速度の二重積分により変位量を演算すると共に、計測角速度の積分により先頭車両21の相対方位を演算する。IMU42は、この相対方位を基準方位(絶対方位)に加算することで、時々刻々の車両方位を推定する。なお、慣性航法の基準方位としては、例えば、所定の駐車位置に車両2が駐車されたときの絶対方位や、特別エリア10Aにて特定された車両2の絶対方位(車両方位)を利用できる。IMU42は、時々刻々の車両方位に沿って変位量を積算することにより、絶対位置が既知の車両位置に対する相対位置(変位位置)を推定する。
【0032】
なお、磁気マーカ10の検出に応じて車両位置(絶対位置)が特定される毎に、その車両位置によって慣性航法の基準位置が更新されると共に、相対位置がゼロリセットされる。特別エリア10Aであるか否かによらず、磁気マーカ10の検出に応じて車両位置を特定可能である。詳しくは後述するが、特別エリア10Aでは、より精度高く車両2の絶対位置(車両位置)を特定可能である。
【0033】
制御ユニット40は、先頭車両21の走行を制御するユニットである。制御ユニット40は、操舵ユニット46やモータユニット44を介して前輪211の舵角や後輪212の回転角速度を制御する。制御ユニット40は、各種の演算を実行するCPUのほか、ROMやRAMなどのメモリ素子等を含めて構成された電子回路(図示略)を備えている。ROMの記憶領域には、磁気センサアレイ3と後輪軸212Aとの間の前後方向の距離Lmや、前輪軸211Aと後輪軸212Aとの軸間距離Lw、等の車両スペック情報が格納されている。また、RAMの記憶領域には、特別エリア10Aにおいて、車両位置の補正である位置補正、及び車両方位の補正である角度補正、を実行するための制御フラグである補正フラグの記憶領域が設けられている。
【0034】
制御ユニット40には、磁気センサアレイ3、操舵ユニット46、モータユニット44、に加えて、地図データベース48、後輪212の回転に応じてパルスを出力する車輪速ユニット442が接続されている。制御ユニット40は、車輪速ユニット442が出力するパルスを利用して車速を特定する。
【0035】
地図データベース48は、走路100の形状を表すマップデータを記憶するデータベースである。マップデータが表す地図上では、走路100に配設されたN極の磁気マーカ10がひも付けられている。マップデータを参照すれば、N極の磁気マーカ10の位置を特定可能である。なお、N極の磁気マーカ10は、特別エリア10Aの上流側のS極の磁気マーカを除く磁気マーカである。また、特別エリア10Aの下流側のN極の磁気マーカ10に対しては、特別エリア10Aの2つの磁気マーカ10を結ぶ線分の絶対方位を表す方位データがひも付けられている。
【0036】
マップデータには、車両2が走行する際の目標の軌跡を割り付け可能である。目標の軌跡は、車両2を通過させる経路に応じて適宜、設定されマップデータに割り付けられる。マップデータを参照すれば、走路100の進行方向における各位置において、目標の軌跡を特定可能である。
【0037】
本例では、直線路100Sおよび曲線路100Cの両方について、車両2を通過させる経路として、磁気センサアレイ3の中央に位置する磁気センサC8が磁気マーカ10の真上を通過する経路が設定されている。本例では、磁気マーカ10を滑らかに結ぶ線が目標の軌跡として設定されている。なお、これに代えて、磁気マーカ10に対して、例えば、右側にずれて車両2を走行させたい場合には、磁気マーカ10を滑らかに結ぶ線に対して右側にずれている目標の軌跡を設定すれば良い。あるいは直線路100Sでは、磁気マーカ10の真上を通過させる一方、曲線路100Cでは、磁気マーカ10を滑らかに結ぶ線よりも大回りで車両2を走行させたい場合には、直線路100Sと曲線路100Cとで、磁気マーカ10を滑らかに結ぶ線に対する目標の軌跡の位置的な関係を異ならせると良い。すなわち、直線路100Sでは、磁気マーカ10を滑らかに結ぶ線に一致する目標の軌跡を設定する一方、曲線路100Cでは、磁気マーカ10を滑らかに結ぶ線よりもカーブの外側に膨らむように目標の軌跡を設定すると良い。このように、磁気マーカ10と目標の軌跡との関係は一義的なものではなく、車両2を走行させたい経路(通過させる経路)や、車両2の仕様や、車速などの車両2の走行状況、等に応じて適宜、変更すると良い。
【0038】
制御ユニット40は、操舵ユニット46やモータユニット44に対し、制御目標値を入力する。操舵ユニット46に対する制御目標値は、前輪211の舵角の制御目標である指示舵角である。モータユニット44に対する制御目標値は、後輪212の回転角速度の制御目標である指示回転角速度である。
【0039】
制御ユニット40は、以下の各回路としての機能を備えている。
(1)車両2の絶対位置(車両位置)を取得する回路:マーカ検出結果あるいはIMU42が推定する相対位置等を利用し、車両位置を演算により求めて取得する。
(2)車両2の絶対方位(車両方位)を取得する回路:特別エリア10Aの磁気マーカ10を利用して車両方位を特定するか、あるいはIMU42が推定する車両方位を読み出すことで、車両2の絶対方位を取得する。
(3)制御点を設定する回路:前方注視距離の分だけ、磁気センサアレイ3よりも前方の位置に制御点(前方注視点)を設定する。
(4)目標の軌跡を設定する回路:制御点が通過するべき目標の軌跡を演算により求めて設定する。なお、上記のごとく本例では、磁気マーカ10を滑らかに結ぶ線が、目標の軌跡として設定され、マップデータに割り付けられている。
(5)制御点の横方向の偏差を特定する回路:磁気マーカ10に対する横方向の偏差を、目標の軌跡に対する制御点の横方向の偏差に変換する。
(6)制御目標値を演算する回路:制御点の横方向の偏差(横偏差)に基づいて指示舵角などの制御目標値を演算する。
【0040】
以下、本例の制御システム1における(a)マーカ検出処理、(b)マーカ検出時の切替動作、(c)特別エリア10Aでの方位特定処理、(d)目標の軌跡の設定、(e)制御方法、(f)制御点の設定、(g)制御点の横方向の偏差の特定、(h)制御結果、について順番に説明する。ここで、制御点は、目標の軌跡に追従させようとする制御対象点であり、本例の構成では、磁気センサアレイ3よりも前方に設定される。
【0041】
(a)マーカ検出処理
マーカ検出処理は、装置の一例をなす磁気センサアレイ3が実行する処理である。上記の通り、磁気センサアレイ3は、3kHzの周波数でマーカ検出処理を実行する。磁気センサCnは、車両2(先頭車両21)の進行方向(前後方向)及び車幅方向の磁気成分を計測可能である。例えばこの磁気センサCnが、進行方向に移動して磁気マーカ10の真上を通過するとき、進行方向の磁気計測値は、
図7のごとく磁気マーカ10の前後で正負が反転すると共に、磁気マーカ10の真上の位置でゼロを交差するように時間的に変化する。車両2の走行中では、いずれかの磁気センサCnが検出する進行方向の磁気計測値について、その正負が反転するゼロクロスZc1が生じたとき、磁気センサアレイ3が磁気マーカ10の真上に位置すると判断できる。検出処理回路32は、このように磁気センサアレイ3が磁気マーカ10の真上に位置し進行方向の磁気計測値のゼロクロスZc1が生じたとき、磁気マーカ10を検出したと判断する。
【0042】
また例えば、磁気センサCnと同じ仕様の磁気センサについて、磁気マーカ10の真上を通過する車幅方向に沿う移動を想定する。この場合、車幅方向の磁気計測値は、磁気マーカ10を挟んだ両側で正負が反転すると共に、磁気マーカ10の真上の位置でゼロを交差するように変化する。したがって、15個の磁気センサCnを車幅方向に配列した磁気センサアレイ3では、磁気マーカ10を介してどちらの側にあるかによって磁気センサCnが検出する車幅方向の磁気計測値の正負が異なってくる(
図8)。
【0043】
各磁気センサCnの車幅方向の磁気計測値を例示する
図8の分布では、車幅方向の磁気計測値の正負が反転するゼロクロスZc2が、磁気マーカ10の真上に現れる。同図中のゼロクロスZc2の位置は、磁気マーカ10の車幅方向(横方向)の位置を表している。磁気マーカ10の車幅方向の位置は、例えば、ゼロクロスZc2を挟んで隣り合う2つの磁気センサCnの中間の位置として特定可能である。
【0044】
検出処理回路32は、磁気マーカ10に対する車両2(先頭車両21)の横方向(車幅方向)の偏差を計測する。本例では、磁気センサアレイ3の中央の磁気センサC8が、車両2(先頭車両21)の中心軸上にある。例えば
図8の場合、磁気マーカ10に対応するゼロクロスZc2の位置がC9とC10との中間辺りのC9.5に相当する位置となっている。上記のように磁気センサC9とC10の間隔は5cmであるから、磁気マーカ10に対する車両2(先頭車両21)の横方向の偏差(相対位置)は、磁気センサC8を基準として(9.5-8)×5cm=7.5cmとなる。同図の例は、走路100の中で車両2(先頭車両21)が左寄りとなった場合の例である。なお、横方向の偏差の正負は、磁気マーカ10に対して車両の対象点が左に寄った場合を負、右に寄った場合を正としている。
【0045】
(b)マーカ検出時の切替動作
本例の制御システム1では、検出された磁気マーカ10の種別に応じて、動作が切り替わる。磁気マーカ10の種別としては、特別エリア10Aの磁気マーカ10と非特別エリアの磁気マーカ10とがあり、さらに、特別エリア10Aの上流側の磁気マーカ10と下流側の磁気マーカ10とがある。上記のごとく、特別エリア10Aの上流側の磁気マーカ10のみ上面がS極となっており、他の磁気マーカ10は全て、上面がN極となっている。本例の構成では、N極の磁気マーカ10が、車両位置を特定するために利用される。
【0046】
検出された磁気マーカ10の種別に応じた切替動作の内容について、
図9のフロー図を参照しながら説明する。同図の処理フローは、N極であるかS極であるかを問わず磁気マーカ10の検出に続く処理の流れを示している。
【0047】
検出された磁気マーカ10が非特別エリアのN極の磁気マーカ10である横偏差補正マーカであるとき(S101:YES)、この磁気マーカ10に基づいて特定された車両位置による自己位置補正が実行される(S102)。なお、本例の構成では、検出された磁気マーカ10の上面の磁極性がN極であって、かつ、上記の補正フラグがOFFのとき、この磁気マーカ10が非特別エリアの磁気マーカ10と特定される。この車両位置は、慣性航法の新たな基準位置に設定され、これにより、IMU42が推定する相対位置がゼロリセットされる。そして、前方注視点である制御点の横方向の偏差(横偏差)が算出されて特定される(S103)。このステップS103では、検出された磁気マーカ10に基づいて特定された車両位置、及び慣性航法により推定された車両方位に基づき、横偏差が特定される。そして、この横偏差により操舵輪である前輪211の指示舵角が算出される(S104)。
【0048】
検出された磁気マーカ10が特別エリア10Aの上流側のS極の磁気マーカ10である位置・角度補正開始マーカであるとき(S101:NO→S112:YES)、この磁気マーカ10に対する車両2の横方向の偏差が記憶されて格納され(S113)、上記の補正フラグがONにセットされる(S114)。この補正フラグは、特別エリア10Aの下流側のN極の磁気マーカ10の検出に応じて、車両位置に関する位置補正、及び車両方位に関する角度補正、を実行するための制御フラグである。
【0049】
なお、補正フラグがONの間は、前方注視点である制御点の横偏差及び指示舵角の算出が行われない(S114→舵角指示)。これにより、特別エリア10Aの上流側のS極の磁気マーカ10を通過した後、下流側のN極の磁気マーカ10に到達するまでの間、S極の磁気マーカ10の検出直前の指示舵角がそのまま維持される。指示舵角を維持すれば、車両2の方位角である車両方位の変化を抑制できる。
【0050】
検出された磁気マーカ10が特別エリア10AのN極の磁気マーカ10である位置・角度補正終了マーカであって、かつ、補正フラグがONの場合(S101:NO→S112:NO→S122:YES)、車両位置に関する位置補正、及び車両方位に関する角度補正、が実行される(S123)。位置補正は、検出された磁気マーカ10に基づいて特定された車両位置による位置的な補正である。角度補正は、特別エリア10Aの2つの磁気マーカを利用して特定された車両方位による角度的な補正である。
【0051】
位置補正が実行されると、特定された車両位置が慣性航法の新たな基準位置に設定されると共に、IMU42が推定する相対位置がゼロリセットされる。角度補正が実行されると、特定された車両方位が慣性航法の新たな基準方位に設置されると共に、IMU42が推定する相対方位がゼロリセットされる。さらに、前方注視点である制御点の横方向の偏差が算出されて特定され(S124)、この横偏差により操舵輪である前輪211の指示舵角が算出される(S104)。
【0052】
なお、いずれかのN極の磁気マーカ10が検出された後、新たなN極の磁気マーカ10が検出されるまでの間は(S101:NO→S112:NO→S122:NO)、前方注視点である制御点の横偏差が算出される(S103)。このステップS103では、慣性航法により推定された車両位置及び車両方位に基づいて横偏差が算出される。そして、この横偏差に応じた指示舵角が算出される(S104)。
【0053】
(c)方位特定処理(特別エリア10A)
方位特定処理は、特別エリア10Aに配置された2つの磁気マーカ10を利用し、車両2の絶対方位(車両方位)を特定する処理である。方位特定処理は、制御ユニット40により実行される処理である。
【0054】
ここで、特別エリア10Aを利用して車両方位を特定する方法を概説する。
図10のように磁気マーカ10が1つのみの場合、上記のマーカ検出処理により磁気マーカ10に対する横方向の偏差emが特定されても、磁気マーカ10の真上に位置する磁気センサアレイ3の姿勢が不定である。なお、磁気マーカ10に対する横方向の偏差emは、磁気センサアレイ3の中央に位置する磁気センサC8の磁気マーカ10に対する偏差である。同図中の円は、磁気マーカ10に対する偏差emを半径とする円である。このように磁気マーカ10に対する横方向の偏差emが特定されただけでは、同図中の円の周方向における磁気センサアレイ3の姿勢が不定であり、車両方位の特定は不可能である。
【0055】
一方、特別エリア10Aでは、
図11のごとく、磁気マーカ10(N極)に対する横方向の偏差emに加えて、上流側に隣り合うS極の磁気マーカに対する横方向の偏差emsを特定可能である。このように2つの磁気マーカ10に対する横方向の偏差が特定された場合であれば、横方向の偏差emsを半径とする円、及び横方向の偏差emを半径とする円、の共通接線Comに対して直交する方向を、磁気センサアレイ3の長手方向として特定できる。これにより、2つの磁気マーカ10を通過する際の磁気センサアレイ3の姿勢を特定できる。同図中の共通接線Comは、車両2の移動軌跡となっており、共通接線Comの向きが車両方位となる。
【0056】
特別エリア10Aでは、2つの磁気マーカ10を結ぶ線分が既知の方向dirVに沿っていると共に、2つの磁気マーカ10が既知の間隔(本例では0.5m。)で隣り合っている。既知の方向dirVに対する上記の共通接線の方位的な偏差は、
図11において特定可能である。2つの磁気マーカ10を結ぶ線分の既知の方向dirVに対する車両方位(共通接線Comの向き)の偏差を特定できれば、この方位的な偏差の分、既知の方向dirVを表す絶対方位から角度的にずらすことで車両の絶対方位(車両方位)を特定できる。
【0057】
なお、詳しくは後述するが、特別エリア10Aの下流側の磁気マーカ10(N極)を検出した場合、上記のように特定される車両方位を利用することで、磁気マーカ10を基準とした車両の2次元的な位置(絶対位置)を精度高く特定することが可能である。
【0058】
(d)目標の軌跡の設定
目標の軌跡は、次の2つの条件が満たされるよう、車両2に設定された制御点の制御目標の軌跡である。第1の条件は、先頭車両21のみならず、先頭車両21に連結された全ての台車22が、走路100内を走行するという条件である。第2の条件は、磁気センサアレイ3が磁気マーカ10上を通過し、磁気マーカ10を検出できるという条件である。
【0059】
ここで、車両2の各点が通過する軌跡の違いについて、
図12及び
図13を参照して説明する。
図12は、先頭車両21と台車22とを含む車両2の各点の配置を説明する図である。
図13は、先頭車両21に台車22が連結された車両2について、
図12の各点が通過する軌跡を例示する図である。
【0060】
図12の各点は、先頭車両21の前輪軸211Aの中央の点ST1、後輪軸212Aの中央の点B1、先頭車両21と台車22との連結箇所に当たる点C1、及び台車22の従動輪222の軸である車輪軸222Aの中央の点B2、である。なお、
図12では、理解が容易となるよう、車輪軸211A、212A、222Aの中央に、それぞれ、仮想輪211R、212R、222Rを示してある。
【0061】
例えば、直角に左折する曲がり角を車両2が通過する際の各点の軌跡は、
図13に示すようになる。点B1及び点C1は、ほぼ同様の軌跡を通過する一方、点ST1は、大回りの軌跡を示し、点B2は、小回りの軌跡を示す。このように、直角の曲がり角を車両2が通過する際の軌跡は各点で異なってくる。
【0062】
一方、目標の軌跡については、制御点の位置に関わらず一定であって良く、本例では、磁気マーカ10を滑らかに結ぶ線に一致するように目標の軌跡を設定している。例えば、
図1で示したオーバル形状の周回走路である走路100を車両2が走行する際の目標の軌跡TLは、
図14中の実線で示すようになる。例えば前輪軸211Aの中央の点ST1が制御点である場合、直線路100Sでは、目標の軌跡TLに対して、同図中破線で示す点ST1の実際の軌跡がほぼ一致する。一方、曲線路100Cでの点ST1の軌跡(破線)は、目標の軌跡TLよりも外側を通過する大回りの軌跡となる。目標の軌跡TL(実線)に対する点ST1の軌跡(破線)の偏差に応じて、車両2の舵角が制御されることになる。
【0063】
本例の制御システム1は、目標の軌跡TLに対する制御点の横方向の偏差(横偏差)を抑制してゼロに近づけるように操舵輪(前輪211)の舵角が制御されるシステムである。本例では、目標の軌跡TLが、地図データベース48に格納されたマップデータに割り付けられている。制御ユニット40は、地図データベース48から読み出したマップデータを参照し、目標の軌跡TLを読み出す。そのときの車両位置や車両方位が分かれば、目標の軌跡TLに対する横方向の偏差や、目標の軌跡TLの方位(絶対方位)を特定可能となる。
【0064】
なお、制御ユニット40による演算により目標の軌跡TLを随時、決定して設定することも良い。例えば、車両2の速度や走路100の曲率に応じて、磁気マーカ10に対する磁気センサアレイ3の中央(磁気センサC8)の位置的な偏差を変更した方が良い場合がある。このような場合、制御ユニット40は、車両2の速度や走路100の曲率に応じて、随時、目標の軌跡TLを演算により決定すると良い。その際、演算により決定された目標の軌跡TLを随時、マップデータに割り付けると良い。さらに、内輪差など車両の仕様や、車速に応じて、複数種類の目標の軌跡TLを予め用意しておき、その複数種類の目標の軌跡TLを、マップデータに割り付けておくことも良い。制御ユニット40は、車両の仕様や車速に応じて、いずれかの目標の軌跡TLを選択的に読み出すことができる。
【0065】
(e)制御方法
本例の制御システム1による制御方法は、フィードフォワード制御とフィードバック制御とを組み合わせた2自由度制御による制御方法である。フィードフォワード制御は、目標の軌跡TLの曲率に応じて指示舵角δを算出する制御である。フィードバック制御は、目標の軌跡TLに対する制御点CTの横方向の偏差(横偏差)に基づいて指示舵角δを算出する制御である。指示舵角δは、次の制御式により求められる。
【0066】
(数1)
指示舵角δ=フィードバック項δfb+フィードフォワード項δff
=フィードバックゲインKy×横偏差ey+フィードフォワード項δff
【0067】
数式1において、フィードバックゲインKyは、直線路100S(
図1参照。)を走行中の直進安定性と、横方向の偏差の収束性と、を両立できるように決定される。フィードフォワード項δffは、曲線路100C(
図1参照。)での制御遅れを補償するために、曲率に応じた舵角を与えるための項である。フィードフォワード項δffには、横断勾配が生じたときに車両2の傾きをIMU42により検出し、重力の横方向成分とつり合う横力を発生させることにより横断勾配を補償する舵角を加算できる。
【0068】
(f)制御点の設定
本例の制御システム1では、車両2(先頭車両21)において、磁気センサアレイ3の位置ではなく、磁気センサアレイ3よりも前方の位置に制御点CTを設定することで、車両2の応答遅れを補償している。さらに、本例の構成では、制御点CTの設定位置の工夫により、直線路100Sでの安定性と、曲線路100Cでの追従性と、を両立させている。
【0069】
本例では、車両2(先頭車両21)の前後方向における磁気センサアレイ(装置の一例)3の位置を基準として、制御点CTに至るまでの距離である前方注視距離Lfを、次式のように定義している。
図15は、車速Vに対する前方注視距離Lfのグラフである。同図では、横軸に車速Vが規定され、縦軸に前方注視距離Lfが規定されている。
(数2)
前方注視距離Lf=車両速度V×前方注視時間tf+オフセット距離Lo
【0070】
前方注視距離Lfの演算式のうちの車両速度V×前方注視時間tfの項は、速度が高くなるほど制御点CTをより前方に設定することで、目標の軌跡TLに対する追従性を高めるための項である。前方注視時間tfは、何秒先の前方を注視して舵角を制御するか、という制御上の意味を有する。前方注視時間tfは、
図15のグラフで例示する直線の傾きとして現れている。
【0071】
オフセット距離Loは、車両2の速度が低いときにも、前方注視距離Lfを適切に確保するための項である。オフセット距離Loを規定することで、車両2が低速のときも、制御点CTをある程度、前方の位置に設定でき、追従性や応答性の確保が可能になっている。特に本例では、次に説明する通り、直線走行時と曲線走行時とでオフセット距離Loの設定を変更することで、直線走行時での車両2の直進安定性と、曲線走行時の目標の軌跡TLに対する追従性と、を両立している。オフセット距離Loは、
図15のグラフで例示する直線の切片として現れている。
【0072】
直線走行時のオフセット距離Loの設定方法について、
図16を参照して説明する。目標の軌跡TLが真っすぐである場合の直線走行時では、直進安定性を向上するため、前輪軸211Aよりも制御点CTが前方に位置するように、前輪軸211Aと磁気センサアレイ3との間の距離(Lw+Lm)以上のオフセット距離Loが設定される。なお、同図では、左右一対の後輪212を代表する仮想輪212Rを図示し、左右一対の前輪211を代表する仮想輪211Rを図示している。目標の軌跡TLに対する制御点CTの横方向の偏差は、寸法eyで示している。
【0073】
車両2が低速で走行する際の前輪211の横すべり角が十分に小さい状況では、前輪操舵の車両2は、前輪211が向いている方向に進行する。仮に制御点CTが前輪軸211Aよりも後方に位置する場合、前輪軸211Aの中心位置が目標の軌跡TLを越えた後で操舵が開始されることになり、目標の軌跡TLに対して前輪211が常に行き過ぎることになり、蛇行が生じる。前輪軸211Aの位置あるいは前輪軸211Aよりも前方の位置に、制御点CTが位置するように前方注視距離Lfを設定すれば、目標の軌跡TLに対して前輪211が行き過ぎる前に操舵を開始でき、目標の軌跡TLに対して車両2が行き過ぎないような制御が可能になる。
【0074】
次に、曲線走行時のオフセット距離Loの設定方法について、
図17を参照して説明する。この設定方法は、車両2が低速で走行しており、各輪に横すべり角が発生しないという前提に基づく方法である。各輪に横すべり角が発生しなければ、前輪211の舵角に応じて車両2の向き(車両方位)が一意に定まる。
【0075】
図17中の軌跡3Cは、磁気センサアレイ3の中央(磁気センサC8の位置)が通過する軌跡である半径Rmの円弧である。軌跡212Cは、仮想輪212Rが通過する軌跡である半径Roの円弧である。なお、同図中では、仮想輪211Rが通過する軌跡を半径Rfの円弧により表している。
【0076】
曲線走行時では、目標の軌跡TLへの追従性を重視してオフセット距離Loを定めている。まず、本例の構成では、磁気マーカ10を通る経路を、目標の軌跡TLとして定めている。これにより、磁気センサアレイ3の中央を通過させるべき目標の軌跡TLである軌跡3Cの半径Rmを決定できる。このとき、オフセット距離Loは、軌跡3Cをなす円弧の半径Rmに応じて変化する。
【0077】
前輪211に対応する仮想輪211Rが通過する軌跡の半径Rfは、次の数式3、数式4により求めることができる。
【数3】
【数4】
【0078】
車両2が十分に低速で走行しているときには、上記の数式1の制御式は、次の数式5のようになる。
【数5】
【0079】
数式5を展開すれば、制御点CTの横偏差eyに関する次式を導出できる。
【数6】
【0080】
制御点CTの横偏差eyを利用すれば、前方注視距離Lfを次式のように表すことができる。
【数7】
【0081】
オフセット距離Loは、直線走行時および曲線走行時において、以上のように決定できる。制御点CTは、車両2の前後方向において、オフセット距離Loを含む前方注視距離Lfの分だけ磁気センサアレイ3の前方にずらした位置に設定される。なお、本例の制御システム1では、曲線走行時のオフセット距離Loに範囲が設けられている。範囲の下限は、Lmの2倍の距離であり、上限は、直線走行時に設定されるオフセット距離である。オフセット距離Loの下限であるLmの2倍の距離は、上記の数式7において、ey=ゼロとしたときのオフセット距離Loである。
【0082】
(g)制御点の横方向の偏差の特定
制御ユニット40が制御点CTの横方向の偏差を特定する方法は、(e.1)N極の磁気マーカ10が検出された場合と、(e.2)隣り合うN極の磁気マーカ10の中間に車両2が位置する場合と、で相違している。
【0083】
(e.1)N極の磁気マーカが検出された場合
N極の磁気マーカ10が検出された場合、制御ユニット40は、特別エリア10Aの磁気マーカ10であるか非特別エリアの磁気マーカ10であるかに依らず、まず、マーカ検出処理により計測された横方向の偏差emを取得する。また、制御ユニット40は、IMU42が推定する相対位置を取得し、基準位置を基準として相対位置の分だけ車幅方向にずらした位置を、慣性航法により推定される車両位置として特定する。なお、IMU42が相対位置を推定する際の起点となる基準位置は、前回のN極の磁気マーカ10の検出時に特定された車両位置である。制御ユニット40は、地図データベース48から読み出したマップデータ上で、慣性航法により推定された車両位置に対して最も近くに位置するN極の磁気マーカ10(直近の磁気マーカ10)を特定する。なお、直近のN極の磁気マーカ10を特定するここまでの処理については、特別エリア10Aの磁気マーカ10であるか、非特別エリアの磁気マーカ10であるか、による違いがない。
【0084】
一方、直近の磁気マーカ10(N極)を特定した後の処理は、その磁気マーカ10が特別エリア10Aの下流側の磁気マーカ10である場合と、非特別エリアのN極の磁気マーカ10である場合と、で異なってくる。特別エリア10Aの磁気マーカ10である場合、上記の方位特定処理により特定された車両2の絶対方位(車両方位)を利用して制御点CTの2次元位置(絶対位置)が精度高く特定され、目標の軌跡TLに対する制御点CTの横方向の偏差(横偏差)が特定される。一方、非特別エリアの磁気マーカ10である場合には、制御点CTの2次元位置を特定することなく、IMU42が推定する車両方位を利用して制御点CTの横方向の偏差(横偏差)が特定される。
【0085】
検出されたN極の磁気マーカ10が特別エリア10Aのものである場合、制御ユニット40は、
図18のごとく、上記の方位特定処理で特定された車両方位Dir1を利用して車両位置(x1、y1)を特定する。制御ユニット40は、直近の磁気マーカ10の位置を基準として、車両方位Dir1に対して直交する方向Dir2に沿って偏差emの分だけずらした2次元位置を車両位置(x1、y1)として特定する。なお、新たに特定された車両位置は、IMU42が相対位置を推定する際の慣性航法の新たな基準位置となり、IMU42が積算する相対位置がゼロリセットされる。
【0086】
制御ユニット40は、上記の(c)方位特定処理で特定された車両方位Dir1について、マップデータ上で規定される水平方向Hに対するずれ角θvを特定する。制御ユニット40は、このずれ角θvを利用し、次式の通り、制御点CTの2次元位置(x2、y2)を特定する。
(数8)
x2=x1+Lf×cosθv
y2=y1+Lf×sinθv
【0087】
制御ユニット40は、地図データベース48から読み出したマップデータを参照し、車両位置(x1、y1)に対応する目標の軌跡TLを特定する。そして、制御ユニット40は、制御点CT(x2、y2)について、目標の軌跡TLに対する横方向の偏差eyを特定する(
図18参照。)。
【0088】
一方、検出されたN極の磁気マーカ10が非特別エリアのものである場合、
図19のごとく、IMU42が推定する車両方位Dir3を取得し、この車両方位Dir3を利用して車両位置(x1、y1)を特定する。制御ユニット40は、直近の磁気マーカ10の配設位置を基準として、磁気マーカ10に対する横方向の偏差emの分だけ、車両方位Dir3に直交する方向Dir4に沿ってずらした位置(x1、y1)を、車両位置として特定する。なお、新たに特定された車両位置(x1、y1)は、IMU42が相対位置を推定する際の慣性航法の新たな基準位置となり、IMU42が積算する相対位置がゼロリセットされる。
【0089】
ここで、
図19では、IMU42が推定する車両方位Dir3に基づく車両の姿勢を、車両2iとして図示している。車両2iの姿勢は、
図20のごとく、破線で示す車両2の真の姿勢とは異なるものである。車両2の姿勢は、検出された磁気マーカ10の配設位置を中心とした周方向において不定であり、角度的な誤差を有する。この角度的な誤差は、IMU42による車両方位Dir3の推定誤差である。
【0090】
制御ユニット40は、地図データベース48から読み出したマップデータを参照し、車両位置(x1、y1)に対応する目標の軌跡TLを特定する。制御ユニット40は、IMU42が推定する車両方位Dir3(絶対方位)について、目標の軌跡TLの方位からのずれ角θを特定する(
図19)。制御ユニット40は、このずれ角θを利用し、磁気センサアレイ3よりも前方注視距離Lfの分、前方に位置する制御点CTについて、目標の軌跡TLに対する横偏差eyを求める。制御点CTの横偏差eyは、
図19中のe1とe2との合算となり、ずれ角θを含む次式により求められる。
(数9)
ey=e1+e2
=Lf×sinθ+em×cosθ
【0091】
(e.2)隣り合う磁気マーカ(N極)の中間に車両が位置する場合
隣り合う磁気マーカ10の中間に車両2が位置する場合(
図21)、制御ユニット40は、IMU42が推定する相対位置の分だけ基準位置からずらした位置(x1、y1)を、車両位置として特定(推定)する。なお、この車両位置(x1、y1)は、磁気センサアレイ3の中央の位置である。基準位置は、直前のN極の磁気マーカ10の検出時に特定された車両位置である。制御ユニット40は、地図データベース48から読み出したマップデータを参照し、特定された車両位置(x1、y1)に対応する目標の軌跡TLを特定する。
【0092】
制御ユニット40は、
図21のごとく、上記のように特定(推定)された車両位置(x1、y1)について、目標の軌跡TLに対する横方向の偏差e3を特定する。また、制御ユニット40は、IMU42が推定する車両方位Dir3につき、目標の軌跡TLの方位(絶対方位)からのずれ角θを特定する。磁気センサアレイ3に対して前方注視距離Lfの分、前方に位置する制御点CTの目標の軌跡TLに対する横方向の偏差(横偏差)eyは、
図21中のe1とe3との合算となる。制御点CTにおける横偏差eyは、ずれ角θを含む次式により算出できる。
(数10)
ey=e1+e3
=Lf×sinθ+e3
【0093】
(h)制御結果
以上のような構成の本例の制御システム1による車両2の制御結果について、
図22~
図24を参照して説明する。
図22及び
図23は、磁気センサアレイ3から制御点CTまでの距離である前方注視距離Lfが、車両2の直進安定性に与える影響を調べた実証実験の結果を示している。この実証実験は、非特別エリアの磁気マーカ10が検出されたときの制御を検証するための実験である。
図24は、車両2が特別エリア10Aを通過したときの制御の結果を示している。なお、特別エリア10Aと非特別エリアとの制御の違いを確認するため、同図には、非特別エリアの制御結果も含まれている。以下、
図22及び
図23の実証実験の結果、
図24の制御結果、を順番に説明する。
【0094】
図22は、上記の数式2による前方注視距離Lfの算出式において、オフセット距離Loをゼロに設定したときの結果である。
図23は、上述の(f)制御点の設定の項目において説明したようにオフセット距離Loを設定したときの結果である。これらの図の座標軸は共通である。横軸は、時間あるいは距離を示し、縦軸は、車両2の横偏差eyを示している。車両2の横偏差eyは、磁気センサアレイ3の中央の目標の軌跡TLに対する横方向の偏差である。
【0095】
実証実験の対象の走路は直線路100S(
図1参照。)である。時点Mにて磁気マーカ10(非特別エリアの磁気マーカ10)を通過した際、マーカ検出処理により特定された磁気マーカ10に対する横方向の偏差em(
図19参照。)に基づき、目標の軌跡TLに対する制御点CTの横偏差eyが特定される。時点Mにおいて、制御点CTの横偏差ey=ey1が顕在化し、横偏差eyを抑制するための制御が開始されている。なお、車両2の速度は、時速7.0kmの一定速である。
【0096】
オフセット距離Loがゼロである
図22の場合、制御点CTの横偏差eyが振動するハンチング状態となっている。同図の場合、横偏差eyが収束せず、発振により次第に拡大する傾向が見受けられる。一方、オフセット距離Loが適切に設定された
図23の場合には、時点Mにおける制御点CTの横偏差ey=ey1が早期に収束している。同図の場合、負側の横偏差ey1が発生した後、横偏差eyが正側にオーバーシュートすることなく、そのままゼロ値に収束している。
【0097】
図23の場合、前輪軸211Aと磁気センサアレイ3との間の距離(Lm+Lw)以上のオフセット距離Loが設定され、磁気センサアレイ3から制御点CTまでの前方注視距離Lfが長く設定されている。
図23の場合には、このように前方注視距離Lfを設定することで、車両2の直進安定性が向上している。このように、制御点CTまでの前方注視距離Lfを長く設定することは、直進時の直進安定性の向上に効果的である。
【0098】
次に、
図24は、特別エリア10Aを車両2が通過した際の制御の結果を示しており、同図中には、車両2の制御の状況を示す4種類のグラフが含まれている。同図中の最上段は、制御対象の走路上の磁気マーカ10の配置を示している。制御対象の走路は、図中左側に当たる上流側から、特別エリア10Aが2カ所、間隔を空けて配置され、続いて、非特別エリアの磁気マーカ10が2つ間隔を空けて配置された走路である。なお、特別エリア10Aは、上流側のS極の磁気マーカ10と下流側のN極の磁気マーカ10とが0.5mの間隔で配置されたエリアである。この特別エリア10Aでは、2つの磁気マーカ10を結ぶ線分の絶対方位が既知である。車両2側では、この線分の方位を利用して車両方位を特定可能であり、この車両方位を利用して車両2の2次元的な位置を精度高く特定可能である。
【0099】
なお、以下の説明では、上流側から1カ所目の特別エリア10Aの上流側の磁気マーカ10の通過時点をA1、同下流側の磁気マーカ10の通過時点をA2、2カ所目の特別エリア10Aの上流側の磁気マーカ10の通過時点をB1、同下流側の磁気マーカ10の通過時点をB2、上流側の1カ所目の非特別エリアの磁気マーカ10の通過時点をC、2カ所目の非特別エリアの磁気マーカ10の通過時点をD、として説明する。
【0100】
図24の制御例では、磁気マーカ10の真上を通過する軌跡が目標の軌跡TLとして設定され、同図中では、目標の軌跡TLが実線により示されている(同図中の最上段)。この制御例では、車両2が、目標の軌跡TLに対して左寄りに走行する状態で、1カ所目の特別エリア10Aに進入している。
【0101】
図24の各グラフは、車両2の走行制御中の制御データの変化を示すグラフである。最上段のグラフは、目標の軌跡TLに対する車両2の横方向の偏差、すなわち磁気センサアレイ3の中央に位置する磁気センサC8の横方向の偏差(横偏差)の変化を示すグラフである。上記のごとく、このグラフ中の横偏差は、目標の軌跡TLに対して車両2が左寄りになった場合に負値をとる。
【0102】
上から2段目のグラフは、目標の軌跡TLに対する車両方位の偏差である方位偏差(ずれ角)の変化を示すグラフである。このグラフ中の方位偏差は、目標の軌跡TLの方位を基準として時計回りの側の偏差が正値となり、反時計回りの側の誤差が負値となる。
【0103】
上から3段目のグラフは、目標の軌跡TLに対する制御点の横方向の偏差(横偏差)の変化を示すグラフである。同グラフ中の横偏差の正負は、1段目のグラフと同様、目標の軌跡TLの方位を基準として、目標の軌跡TLに対して制御点が左側に位置するときに負値となり、目標の軌跡TLに対して制御点が右側に位置するときに正値となる。
【0104】
最下段のグラフは、車両2の走行中に、前輪211の舵角の制御目標である指示舵角の変化を示すグラフである。同グラフ中の指示舵角は、右操舵が正値となり、左操舵が負値となる。
【0105】
図24によれば、特別エリア10Aを通過する際、上流側の磁気マーカ10の通過時点である時点A1及びB1では、車両位置に関する位置補正が実行されないため、車両位置の横偏差および制御点の横偏差に大きな変化が生じていない。加えて、時点A1及び時点B1では、車両方位に関する角度補正も実行されないため、方位偏差にも大きな変化が生じてない。特別エリア10Aの上流側の磁気マーカ10の通過時点A1及びB1では、前輪211の制御目標である指示舵角がそのまま維持されている。本例の構成では、時点A1及びB1から時点A2あるいはB2までの期間において、車両2の進行方向を一定に保つことで、特別エリア10Aにおける車両方位の特定精度を高めている。
【0106】
その後、特別エリア10Aの下流側の磁気マーカ10の通過時点である時点A2及びB2では、車両位置に関する位置補正が実行され、これにより、車両位置の横偏差および制御点の横偏差に大きな変化が生じている。さらに、時点A2及びB2では、車両方位に関する角度補正が実行され、方位偏差にも大きな変化が生じている。そのため、特別エリア10Aの下流側の磁気マーカ10の通過時点B2では、前輪211の制御目標である指示舵角について大きな変化が生じている。
【0107】
一方、非特別エリアの磁気マーカ10の通過時点である時点C及びDでは、車両位置に関する位置補正が実行される一方、車両方位に関する角度補正は実行されない。そのため、時点C及びDでは、指示舵角の変化、すなわち制御の度合いが、時点B2と比べて抑えられている。
【0108】
以上の通り、本例の制御方法及び制御システム1では、磁気マーカ10を検出する磁気センサアレイ3よりも前方の位置に制御点を設定し、目標の軌跡に対する制御点の横偏差を抑制するように車両2を制御している。このような制御によれば、曲線路における追従性を損なうことなく、直線路における直進安定性を向上できる。
【0109】
本例の構成では、磁気センサアレイ3が計測する横方向の偏差ではなく、磁気センサアレイ3よりも前方の制御点における横偏差を制御対象とすることで、車両2の応答遅れ(制御遅れ)を補償することが可能になっている。特に本例では、磁気センサアレイ3と制御点との間の距離である前方注視距離Lfの設定により、直線路での走行安定性と、曲線路での追従性と、を高い次元で両立させている。
【0110】
前方注視距離Lfは、前出の数式2の通り、車速に比例する距離と、定数であるオフセット距離Loと、を合算した距離である。本例では、直線路と曲線路とで、オフセット距離の設定を切り替えている。直線路では、前輪軸211Aと磁気センサアレイ3との間の距離(Lm+Lw)以上のオフセット距離が設定される。一方、曲線路では、後輪軸212Aと磁気センサアレイ3との間の距離の2倍以上であって、直線路でのオフセット距離以下であるオフセット距離Loが設定される。
【0111】
また、本例では、磁気マーカ10を利用して車両方位を特定可能な特別エリア10Aを設定することで、走行中の角度補正を可能としている。この特別エリア10Aには、2つの磁気マーカ10が0.5mの間隔で配設されている。上流側の磁気マーカ10を通過した時点では、指示舵角がそのまま維持される。これにより、特別エリア10Aを通過中の車両方位を一定に近くでき、2つの磁気マーカ10に対する横偏差を利用した車両方位の特定を可能としている。車両方位に関する角度補正を実施すれば、IMU42が推定する車両方位のみによって車両2を制御する場合と比べて、制御精度を格段に向上できる。
【0112】
本例では、
図9のフロー図を参照して前述した通り、補正フラグがONの間、前方注視点である制御点の横偏差及び指示舵角の算出が行われず、S極の磁気マーカ10の検出直前の指示舵角がそのまま維持される(同図中のS114→舵角指示)。この構成に代えて、
図25のごとく、補正フラグがONの間、すなわち特別エリア10Aの上流側の磁気マーカ10(S極)を検出後、下流側の磁気マーカ10(N極)を検出するまでの間も、前方注視点である制御点の横偏差を算出し(S103)、その横偏差に応じた指示舵角を算出することも良い(S104)。この場合には、特別エリア10Aを通過中(補正フラグがONの間)における目標の軌跡に対する追従性を向上できる。なお、上記のステップS103における横偏差は、慣性航法により推定された車両方位及び車両位置に基づいて算出される。
【0113】
なお、本例は、磁気テープに代えて走路100の床面に貼付された磁気マーカ10を、車両2の走行制御に利用する例である。工場や施設などでよく利用される磁気テープは、敷設に職人的な技術を要する。特に、曲線に沿って敷設することは特に難しく、皺なく貼り付けることは困難である。一方、個片状の磁気マーカであれば、曲線への対応が容易である。特に内輪差が大きい本例の車両2では、曲線状の走路において磁気テープの敷設位置を定めることが難しく、何度も貼り替えたりといった試行錯誤を要していたという実情がある。磁気マーカ10であれば、貼り替えが容易であり、走路形状の変更等に容易に対応できる。
【0114】
以上、実施例のごとく本発明の具体例を詳細に説明したが、これらの具体例は、特許請求の範囲に包含される技術の一例を開示しているにすぎない。言うまでもなく、具体例の構成や数値等によって、特許請求の範囲が限定的に解釈されるべきではない。特許請求の範囲は、公知技術や当業者の知識等を利用して前記具体例を多様に変形、変更あるいは適宜組み合わせた技術を包含している。
【符号の説明】
【0115】
1 制御システム
10 磁気マーカ(目印)
10A 特別エリア
100 走路
100S 直線路
100C 曲線路
2 車両
21 先頭車両
211 前輪(操舵輪)
211A 前輪軸
212 後輪
212A 後輪軸
22 台車
3 磁気センサアレイ(磁気ユニット、装置)
40 制御ユニット(回路)
42 IMU
44 モータユニット
46 操舵ユニット
48 地図データベース
Cn 磁気センサ
CT 制御点
TL 目標の軌跡