(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051219
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】炭化ケイ素粉末、及び成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/956 20170101AFI20230404BHJP
C04B 35/569 20060101ALI20230404BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20230404BHJP
B28B 3/02 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
C01B32/956
C04B35/569
C04B38/00 303Z
B28B3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161768
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】増田 祐司
(72)【発明者】
【氏名】牛田 尚幹
(72)【発明者】
【氏名】諌山 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 未那
【テーマコード(参考)】
4G019
4G054
4G146
【Fターム(参考)】
4G019FA11
4G054AA05
4G054AB15
4G054BA02
4G146MA14
4G146MA19
4G146MB02
4G146MB07
4G146MB18A
4G146MB20A
4G146MB24
4G146MB26
4G146PA06
4G146PA10
4G146PA15
(57)【要約】
【課題】成形体強度を向上させることが可能な炭化ケイ素粉末、及び成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】炭化ケイ素粉末は、比表面積が0.26m
2/g以上である炭化ケイ素顆粒を含み、タップ嵩密度が1.3g/mL以下であり、ハウスナー比が1.3以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が0.26m2/g以上である炭化ケイ素顆粒を含み、
タップ嵩密度が1.3g/mL以下であり、ハウスナー比が1.3以下である、炭化ケイ素粉末。
【請求項2】
前記炭化ケイ素顆粒の平均粒子径(D50)は、30μm以上60μm以下である、請求項1に記載の炭化ケイ素粉末。
【請求項3】
前記炭化ケイ素顆粒の造粒に用いられる一次粒子の平均粒子径(D50)を一次粒子径とし、前記炭化ケイ素顆粒の平均粒子径(D50)を二次粒子径とすると、
前記一次粒子径に対する前記二次粒子径の比は30以下である、請求項1又は2に記載の炭化ケイ素粉末。
【請求項4】
前記炭化ケイ素顆粒の造粒に用いられる一次粒子は、結晶系がα型の炭化ケイ素粒子である、請求項1から3のいずれか1項に記載の炭化ケイ素粉末。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の炭化ケイ素粉末に圧力を加えて成形体を成形する、成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素粉末、及びそれを用いた成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)は、熱膨張係数が小さく、高い機械的特性(硬度・剛性)を有するため、例えば金属基複合材(MMC)の強化材や触媒担体、各種フィルタなど多様な用途に用いられている(例えば、特許文献1~3参照)。
上記の用途において、SiC粉末を用いて多孔質の成形体を製造する場合がある。例えばMMCの製造方法の一つに金属浸透法がある。金属浸透法は、予め強化材となるセラミックス(例えば、SiC)を成形して、プリフォームと呼ばれる多孔質の成形体を製造し、製造したプリフォームにアルミニウム(Al)又はシリコン(Si)等の金属溶湯を浸透させる手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-124124号公報
【特許文献2】特開2000-288714号公報
【特許文献3】特開2013- 95637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
炭化ケイ素を用いて製造される多孔質の成形体について、機械的強度の向上が求められる場合がある。
本発明は、成形体の機械的強度(以下、成形体強度ともいう)を向上させることが可能な炭化ケイ素粉末、及び成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る炭化ケイ素粉末は、比表面積が0.26m2/g以上である炭化ケイ素顆粒を含み、タップ嵩密度が1.3g/mL以下であり、ハウスナー比が1.3以下である。
本発明の一態様に係る成形体の製造方法は、上記の炭化ケイ素粉末に圧力を加えて成形体を成形する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、成形体強度を向上させることが可能な炭化ケイ素粉末、及び成形体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施例1、2及び比較例1、2のSiC顆粒の表面を撮影したSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態について詳細に説明する。なお、以下の実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、以下の実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
本実施形態の炭化ケイ素粉末(以下、SiC粉末)は、比表面積が0.26m2/g以上である炭化ケイ素顆粒(以下、SiC顆粒)を含む。SiC顆粒の比表面積は、例えばBET法で測定することができる。本実施形態のSiC粉末は、比表面積が0.26m2/g以上であるSiC顆粒の集合体であり、タップ嵩密度が1.3g/mL以下であり、ハウスナー比が1.3以下である。SiC顆粒は、比表面積が大きく、かつ、空隙(気孔)の多い多孔な球状粒子である。
【0009】
本実施形態のSiC顆粒は、SiCの一次粒子から造粒される二次粒子である。一次粒子は、例えば、結晶系がα型の炭化ケイ素粒子である。SiC顆粒は、SiCの一次粒子を含有する粉末を造粒し焼結することにより製造することができる。SiCの一次粒子を含有する粉末は、SiCの一次粒子のみで構成されていてもよいし、SiCの一次粒子と添加剤等の他の成分の粒子とで構成されていてもよい。添加剤としては、例えば、焼結助剤や、造粒のためのバインダーが挙げられる。
【0010】
本実施形態のSiC粉末において、SiC顆粒は比表面積が大きく、かつ、空隙の多い多孔な球状粒子であるため、SiC顆粒同士の接点が多く、成形性や成形体強度に優れている。例えば、本実施形態のSiC粉末は、圧力を加えて成形体を成形することができる。SiC顆粒同士の接点が多いため、SiC粉末にバインダーを添加しなくても、成形体強度が高く、型崩れしにくい成形体を成形することが可能である。
また、本実施形態のSiC粉末にバインダーを添加して、成形体を成形してもよい。これにより、成形体強度をさらに高めることが可能である。また、SiC粉末にバインダー以外の他の添加剤等を加えて、成形体を成形してもよい。
【0011】
本実施形態のSiC粉末は、金属基複合材(MMC)の強化材や触媒担体、各種フィルタなど多様な用途に用いることができる。例えば、MMCの製造方法の一つである金属浸透法では、プリフォームと呼ばれる多孔質の成形体が用いられるが、このプリフォームを本実施形態のSiC粉末を用いて製造してもよい。これにより、成形体強度の高いプリフォームを製造することができる。
【0012】
以下に、本実施形態のSiC粉末及び成形体について、さらに詳細に説明する。
(一次粒子径)
SiCの一次粒子(原料粒子)の平均粒子径(D50)は、特に限定されるものではないが、5μm以上であることが好ましく、6μm以上であることがより好ましい。また、一次粒子の平均粒子径は、12μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。一次粒子の平均粒子径(D50)とは、一次粒子を集めた粉末の体積基準の積算粒子径分布において、小粒径側からの積算頻度が50%となる粒子径を意味する。以下、一次粒子の平均粒子径(D50)を、単に「一次粒子径(D50)」ともいう。
一次粒子径(D50)が5μm未満であると、焼結体である二次粒子(SiC顆粒)が緻密になりすぎる可能性がある。一方、一次粒子径(D50)が12μmよりも大きいと、造粒が困難となり焼結体である二次粒子が得られにくくなる可能性がある。一次粒子径(D50)は、例えばレーザー回折・散乱法によって測定することができる。
【0013】
(二次粒子径)
SiCの二次粒子(SiC顆粒)の平均粒子径(D50)は、特に限定されるものではないが、30μm以上であることが好ましく、34μm以上であることがより好ましい。また、二次粒子の平均粒子径(D50)は、60μm以下であることが好ましく、45μm以下であることがより好ましい。二次粒子の平均粒子径(D50)とは、二次粒子を集めた粉末の体積基準の積算粒子径分布において、小粒径側からの積算頻度が50%となる粒子径を意味する。以下、二次粒子の平均粒子径(D50)を、単に「二次粒子径(D50)」ともいう。
【0014】
二次粒子径(D50)が30μm未満であると、二次粒子同士の付着力が強くなり、凝集によりSiC粉末の流動性が低くなり、例えば成形体の成形時にSiC粉末のハンドリング性が低下する可能性がある。また、MMCの金属浸透法で用いられるプリフォームを形成する場合は、プリフォーム内に形成される隙間が局所的に小さくなり、アルミニウム(Al)等の金属溶湯が浸透しにくくなる可能性がある。
一方、二次粒子径(D50)が60μmよりも大きいと、二次粒子同士の接点が不足する可能性があり、例えば、MMCの金属浸透法で用いられるプリフォームを作製することが困難となる可能性がある。
【0015】
(粒子径の比)
SiCの一次粒子径(D50)に対する二次粒子径(D50)の比(すなわち、二次粒子径/一次粒子径)は、30以下であり、より好ましくは10以下である。一次粒子径(D50)に対する二次粒子径(D50)の比を30以下とすることで、二次粒子(SiC顆粒)内に大きな空隙を形成することが容易となる。これにより、例えば、金属溶湯が浸透しやすいプリフォームを形成することが容易となる。
【0016】
(比表面積)
SiC顆粒の比表面積は、例えばBET法による測定値で、0.26m2/g以上である。SiC顆粒の比表面積が0.26m2/g未満であると、SiC顆粒同士の接点不足で、機械的強度の高いプリフォームを作製することが困難となる可能性がある。SiC顆粒の比表面積が0.26m2/g以上であれば、SiC顆粒同士の接点を増やすことができ、機械的強度の高いプリフォームを作製することが容易となる。
【0017】
(タップ嵩密度、ハウスナー比)
SiC粉末のタップ嵩密度は、1.3g/mL以下であり、好ましくは1.1g/mL以下である。タップ嵩密度が低い値であれば、SiC顆粒内に空隙が形成されていることが示唆される。例えば、SiC粉体のタップ嵩密度が1.3g/mL以下であり、SiC顆粒の二次粒子径(D50)が30μm以上60μm以下であれば、タップ後のSiC粉末においてSiC顆粒同士の間に存在する隙間と同等の大きさの空隙が、SiC顆粒内に形成されていることが示唆される。
また、SiC粉末のハウスナー比は、1.3以下であり、好ましくは1.25である。ハウスナー比とは、軽装嵩密度に対するタップ嵩密度の比(すなわち、タップ嵩密度/軽装嵩密度)のことである。ハウスナー比が低い値であれば、SiC粉末は高流動性となり、ハンドリング性に優位となる。
【0018】
軽装嵩密度とは、一定容積の容器に粉体を自然落下させて満杯まで充填し、その容器容積を粉体体積としたときの密度である。軽装嵩密度は、JIS-R-1628の規格に基づいて測定することができる。測定用容器として、金属容器を用いて、粉末を自然落下させ、容器に満杯になるまで粉末を投入し、容器上端からはみ出た分の粉末を板ですり落とした後、粉末質量を測定し、質量を容器体積で除して軽装嵩密度を算出する。
【0019】
タップ嵩密度は、粉体を容器に充填した後、機械的にタップして、粒子同士の間の空隙を潰して密充填した際の嵩密度である。タップ嵩密度は、粉体試料を測定用容器に投入した後、機械的にタップを行い、粉体容積に変化がほとんど認められなくなるまでタップを行った後の粉体質量及び粉体容積を測定し、粉体質量を粉体容積で除して算出される。機械的タッピングは、容器を持ち上げ、自重下で所定の距離を落下させることにより行われる。タッピング中に生じる塊の分離をできるだけ最小限にするために、タッピング中に容器を回転させることができるようにするとよい。
【0020】
(SiC粉末の製造方法)
SiC粉末の製造方法は、特に限定されないが、SiCの一次粒子を含有する粉末を造粒し焼結することによりSiCの二次粒子(SiC顆粒)を製造する工程を含むことができる。造粒の手法としては特に制限されず、公知の造粒法を採用することができる。例えば、転動造粒法、流動層造粒法、攪拌造粒法、圧縮造粒法、押出造粒法、破砕造粒法、スプレードライ法などの手法の1つ以上を採用することができる。好ましくはスプレードライ法である。また、SiC顆粒の製造工程では、SiCの一次粒子の他にバインダーや焼結助剤などが混合されてもよい。
【0021】
造粒粒子の焼結には、一般的なバッチ式焼成炉や、連続式焼成炉等を特に限定されることなく利用することができる。また、温度や時間などの焼結条件については、例えば一次粒子と共に用いられるバインダーや焼結助剤に応じて適宜設定できる。バインダーを用いる場合には、バインダーを除去可能な温度に一定時間保持した後、より高温、例えば1600℃以上の温度で焼結することが好ましい。バインダーを除去可能な温度は、例えば500℃以上である。また、バインダーを用いない場合には、例えば1000℃以下の温度での脱脂が不要となり、焼結後に所望の顆粒強度になるように焼結温度を適宜設定できる。
SiC粉末の製造方法には、さらに、造粒焼結したSiC二次粒子を解砕する工程や、分級する工程を含んでいてもよい。これらには公知の方法を用いることができる。
【0022】
(バインダー)
本実施形態では、SiCの一次粒子から二次粒子(SiC顆粒)を造粒する際に、バインダーを用いてよい。また、SiC顆粒の集合体であるSiC粉末から成形体を成形する際も、バインダーを用いてよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、イソブチレン-無水マレイン酸共重合体、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド等が挙げられる。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラニン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0023】
(焼結助剤)
本実施形態では、SiC二次粒子(SiC顆粒)の製造工程において、焼結助剤を用いてもよい。焼結助剤としては、アルミニウム化合物、希土類化合物、ホウ素化合物、炭素系化合物、およびこれらの組み合わせを用いることができる。具体的には、酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム水和物、酸化イットリウム、ホウ素、炭化ホウ素、炭素粉末などを用いることができる。
【0024】
(成形体)
本発明のSiC粉末に、バインダー等の添加剤を必要に応じて添加し、型に充填し圧力を加えて、成形体を成形することができる。また、成形した成形体に、乾燥、焼成等の処理を必要に応じて行ってもよい。これにより、機械的強度が高く、多孔質で大きな気孔径を有する成形体を得ることができる。
【0025】
本発明のSiC粉末を用いて製造される成形体は、上記のプリフォームに限定されず、例えば、触媒担体又はフィルタ(DPF)等であってもよい。触媒担体、フィルタ(DPF)のいずれも、成形性と保形性に優れ、多孔質で大きな気孔径を有することが望まれるため、本発明のSiC粉末を用いて製造することにより、特性の向上が可能である。
具体的には、工業用触媒としては、錠剤、丸粒、モノリス(例えば、ハニカム形状)など所望の形状に成形して使用されるため、成形工程における成形性・保形性に優れることが重要となる。本発明の成形体は、後述の実施例と比較例との対比から、成形性・保形性に優位であることを確認しているため、成形性・保形性に優れた工業用触媒を提供することができる。
【0026】
また、触媒活性を向上させるためには、活性成分(例えば、貴金属)の高分散・反応場の増大が有用であるが、活性成分の高分散状態での保持や利用率向上には、比表面積の高い触媒担体が適する。本発明の成形体は、一定の比表面積を有しており、多孔質で大きな気孔径を有する多孔質材であることから、触媒担体としての優れた機能を期待できる。
さらに、DPFでは気孔を一定以上大きくし、ガス透過性向上ならびに圧力損失を低下させて、排気ガスの浄化効率を向上させることが望まれる。
DPF以外の各触媒においても、処理速度向上には気孔を大きくし、流体又はガスの透過性を向上させることが有用となる。
本発明の成形体は、大きな気孔径を有することから、圧力損失など阻害因子を低減でき、処理速度の向上を期待できる。
【0027】
(樹脂組成物)
本発明のSiC顆粒は、樹脂に配合されて、樹脂組成物の成形体を構成してもよい。樹脂組成物の原料となる樹脂の種類は特に限定されるものではなく、プラスチック、硬化性樹脂、ゴム等が挙げられるが、具体例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリウレア、ポリカーボネート等があげられる。これらの樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【実施例0028】
次に実施例及び比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
炭化ケイ素の一次粒子と焼結助剤とを混合して、原料である粉末(以下、原料粉末ともいう)を得た。原料粉末に含まれる炭化ケイ素の一次粒子は、平均粒子径(D50)が8.8μmである、α型の炭化ケイ素(以下、α-SiC)粒子である。
焼結助剤としては、硝酸アルミニウム9水和物(Al(NO3)3・9H2O)の粉末を用いた。焼結助剤の使用量は、α-SiCの一次粒子の使用量の30質量%(アルミニウムとしては2.16質量%)とした。
【0029】
次に、α-SiCの一次粒子と焼結助剤とバインダーとを水等の溶媒に分散させてスラリーを得た。バインダーとして、イソブチレン-無水マレイン酸共重合体を用いた。スラリーにおけるバインダーの使用量は、2質量%とした。このスラリーを大川原化工機株式会社製のディスク方式のスプレードライヤL-8i型に供給して造粒を行い、α-SiCの一次粒子と焼結助剤とバインダーとの混合粉末の造粒物を得た。
【0030】
次に、α-SiCの一次粒子と焼結助剤とバインダーとの混合粉末の造粒物を、富士電波工業株式会社製の抵抗加熱式焼結炉FVS-Rを用いて焼結し、焼結体を製造した。この焼結工程では、まず、雰囲気窒素、焼成温度800℃、焼成時間0.5時間の条件でバインダーを除去するための予備焼成を行い、その後、雰囲気アルゴン、焼結温度1900℃、焼結時間4時間の条件で焼結を行った。
得られた焼結体は、一部が結着している場合があるので、結着している場合には、高速回転粉砕機(ピンミル)を用いて解砕を行う。解砕した焼結体は、振動式篩機を用いて、粒度調整を行った。このようにして、平均粒子径(D50)が30μm以上60μm以下である、二次粒子(SiC顆粒)を得た。
【0031】
(実施例2)
バインダーを用いずに、炭化ケイ素の一次粒子と焼結助剤とを水等の溶媒に分散させてスラリーを得た点と、焼結工程とを除いて、実施例1と同様の方法で、実施例2のSiC顆粒を製造した。実施例2の焼結工程では、雰囲気アルゴン、焼結温度800℃、焼結時間4時間の条件で焼結を行った。
【0032】
(比較例1)
原料粉末に含まれるα-SiCの一次粒子径(D50)を0.25μmにした点と、バインダーを用いずに、α-SiCの一次粒子と焼結助剤とを水等の溶媒に分散させてスラリーを得た点と、焼結工程とを除いて、実施例1と同様の方法で、比較例1のSiC顆粒を製造した。比較例1の焼結工程では、雰囲気アルゴン、焼結温度1800℃、焼結時間4時間の条件で焼結を行った。
【0033】
(比較例2)
比較例1と同様の方法で、比較例2のSiC顆粒を製造した。比較例1と比較例2の違いは、二次粒子(SiC顆粒)の比表面積である。二次粒子の比表面積が0.2m2/g未満であるものを比較例1とし、二次粒子は比表面積が0.2m2/g以上であるものを比較例2とした。
(比較例3、4)
顆粒ではなく、破砕状のα-SiC粒子を用意して、比較例3、4とした。比較例3は大粒の破砕状粒子であり、比較例4は微粒の破砕状粒子である。
【0034】
(粒子径)
実施例1、2及び比較例1、2の二次粒子径(D10)、(D50)、(D90)と、比較例3~6の破砕状粒子の粒子径(D10)、(D50)、(D90)とを、株式会社堀場製作所製のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置LA-300を用いて測定した。測定結果を表1に示す。
なお、二次粒子径(D10)とは、二次粒子を集めた粉末の体積基準の積算粒子径分布において、小粒径側からの積算頻度が10%となる粒子径を意味する。二次粒子径(D90)とは、二次粒子を集めた粉末の体積基準の積算粒子径分布において、小粒径側からの積算頻度が90%となる粒子径を意味する。また、破砕状粒子の粒子径(D10)、(D50)、(D90)は、二次粒子径(D10)、(D50)、(D90)と同様の方法で測定された粒子径を意味する。
【0035】
(比表面積)
実施例1、2及び比較例1のSiC顆粒の比表面積を、株式会社マウンテック製の全自動BET比表面積測定装置Macsorb(登録商標)を用いて測定した。結果を表1に示す。
(軽装嵩密度、タップ嵩密度、ハウスナー比)
実施例1、2及び比較例1~6で得られたSiC粉末について、JIS-R-1628の規格に基づく30mLの金属容器を使用して、軽装嵩密度、タップ嵩密度をそれぞれ測定した。また、これらの測定値から、ハウスナー比(=タップ嵩密度/軽装嵩密度)を算出した。結果を表1に示す。
【0036】
【0037】
(SEM画像)
実施例1、2及び比較例1、2で得られた二次粒子(SiC顆粒)について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて表面を観察しSEM画像を撮影した。撮影したSEM画像を
図1にまとめて示す。
図1に示すSEM画像からわかるように、実施例1、2のSiC顆粒は多孔な球状であるのに対して、比較例1、2のSiC顆粒は緻密な球状であることが確認された。
(バインダー無しの場合の成形体強度)
実施例1、2及び比較例1~4で得られたSiC粉末に、バインダー無しで、φ10mmの金型を用いた15MPaの一軸成形により、直径10mm、厚さ4~8mmの成形体の作製を試みた。この結果を表2に示す。
【0038】
【0039】
なお、表2及び後述の表3において、〇印は成形体を作製できたことを意味し、×印は成形後に容易に形状崩壊したことを意味する。また、-印は、測定値なしを意味する。
次に、成形体中央に透明なアクリル板を載せ、アクリル板上に金属重量物を30.9g→285.3g→389.6g→506.0g→1180.9gの順で載せて、成形体の崩壊に至るまでの重量を評価した。なお、表2及び後述の表3において、成形体の耐荷重量(g)とは、成形体が成形当初の高さを部分的にでも維持できた重量のことを意味する。成形体の崩壊重量(g)とは、成形体が崩壊したとき(すなわち、成形当初の高さが全て崩れたとき)の重量のことを意味する。したがって、耐荷重量よりも崩壊重量の方が大きい値となる。表2に示すように、実施例1の成形体は、30.9gの金属重量物を載せた際に崩壊したが、実施例2の成形体は、389.6gの金属重量物を載せた際に崩壊した。
【0040】
実施例1は、30.9gの金属重量物を載せると高さが維持できず、実施例2は、389.6gの金属重量物を載せると高さが維持できなかったが、実施例1、2とも、成形体の作製は可能であり、金属重量物を載せていない状態で成形体は形状を保持できていた。比較例1~4は、金属重量物を載せていない状態で容易に形状崩壊した。この結果から、バインダー無しの場合、実施例1、2は、比較例1~4よりも成形体強度が優れていることが確認された。
【0041】
(バインダー有りの場合の成形体強度)
実施例1、2及び比較例1~4で得られたSiC粉末に、バインダーを10質量%の濃度で添加し、φ10mmの金型を用いた10MPaの一軸成形により、直径10mm、厚さ4~8mmの成形体の作製を試みた。結果を表3に示す。表3に示すように、バインダーを添加した場合は、実施例1、2だけでなく、比較例1~4においても、成形体を作製することができた。
【0042】
【0043】
次に、成形体中央に透明なアクリル板を載せ、アクリル板上に金属重量物を30.9g→285.3g→389.6g→506.0g→1180.9gの順で載せて、成形体の崩壊に至るまでの重量を評価した。表3に示すように、実施例1、2の成形体は1180.9gの金属重量物を載せても成形当初の高さを維持することができた。つまり、実施例1、2の耐荷重量及び崩壊重量は、1180.9gよりも大きい値であった。
これに対して、比較例1~4の耐荷重量及び崩壊重量は、実施例1、2よりも低い値であった。この結果から、バインダー有りの場合においても、実施例1、2は、比較例1~4よりも成形体強度が優れていることが確認された。