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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051228
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】赤外分光分析の試料台
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/01 20060101AFI20230404BHJP
   G01N 21/41 20060101ALI20230404BHJP
   G01N 21/552 20140101ALI20230404BHJP
   G01N 21/35 20140101ALI20230404BHJP
【FI】
G01N21/01 B
G01N21/41 102
G01N21/552
G01N21/35
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161781
(22)【出願日】2021-09-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年9月20日に第15回分子科学討論会の口頭講演にて発表(オンライン発表)。
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井口 佳哉
(72)【発明者】
【氏名】平田 早紀子
(72)【発明者】
【氏名】明地 省吾
(72)【発明者】
【氏名】日下 良二
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 雅之
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059AA03
2G059DD13
2G059EE02
2G059EE12
2G059JJ13
(57)【要約】
【課題】少量の試料を密閉空間で薄く均一に広げることが可能な赤外分光分析の試料台を提供する。
【解決手段】試料Xを配置可能な試料配置面11を有する光学素子10と、試料配置面の面方向と交差する方向に貫通する試料導入孔31を有する試料保持部材30と、試料配置面に向かって突出し、試料導入孔に嵌合可能な突出部42を有する蓋部材40と、を備え、光学素子10、試料保持部材30および蓋部材40は、この順に重ねられ、試料導入孔、試料配置面および突出部の先端面42aにより密閉空間が形成され、先端面42aが、密閉空間に封入された試料Xを、試料配置面11に向かって押圧可能に構成される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外分光分析に用いられる試料台であって、
試料を配置可能な試料配置面を有する受け部材と、
前記試料配置面の面方向と交差する方向に貫通する試料導入孔を有する試料保持部材と、
前記試料配置面に向かって突出し、前記試料導入孔に嵌合可能な突出部を有する蓋部材と、を備え、
前記受け部材、前記試料保持部材および前記蓋部材はこの順に重ねられ、
前記試料導入孔、前記試料配置面および前記突出部の先端面により密閉空間が形成され、該先端面が、該密閉空間に封入された試料を該試料配置面に向かって押圧可能に構成されることを特徴とする赤外分光分析の試料台。
【請求項2】
前記試料導入孔は円形状であり、前記突出部は円柱状であることを特徴とする請求項1に記載の赤外分光分析の試料台。
【請求項3】
液体試料の赤外分光分析に用いられる試料台であって、
前記試料保持部材は、前記受け部材と対向する面において、前記試料導入孔の外周に溝部を有し、
前記溝部に、シール部材が設置されることを特徴とする請求項1または2に記載の赤外分光分析の試料台。
【請求項4】
全反射吸収測定法に用いられる試料台であって、
前記受け部材を支持する枠部材を備え、
前記受け部材は、全反射用の光学素子であり、前記試料配置面を全反射面とし、該試料配置面が上面となるように前記枠部材の上部に設置されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の赤外分光分析の試料台。
【請求項5】
前記試料配置面は、金属膜が蒸着されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の赤外分光分析の試料台。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、赤外分光分析に用いられる試料台に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外分光分析は、物質に赤外光を照射し、透過または反射した光を測定することで、試料の構造解析や定量を行う分析手法である。従来、赤外分光分析において、可能な限り少量の試料を用いて高感度な測定を行う試みがなされている。
【0003】
例えば、特許文献1では、微小試料をサンプリングした治具でそのまま赤外分光測定を行ない得るように、帯電する金属部と絶縁部とからなる治具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】2001-255263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来の赤外分光測定は、試料が配置される面が開放されている。そのため、例えば、試料が放射性物質である場合、試料が発した放射線により、測定者が外部被曝の影響を受けるおそれがあった。また、試料を少量にすると、試料配置面に薄く均一に広げることが難しく、所望の測定感度を得ることが困難であった。
【0006】
そこで本開示では、少量の試料を密閉空間で薄く均一に広げることが可能な赤外分光分析の試料台を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、ここに開示する第1の発明は、赤外分光分析に用いられる試料台であって、試料を配置可能な試料配置面を有する受け部材と、前記試料配置面の面方向と交差する方向に貫通する試料導入孔を有する試料保持部材と、前記試料配置面に向かって突出し、前記試料導入孔に嵌合可能な突出部を有する蓋部材と、を備え、前記受け部材、前記試料保持部材および前記蓋部材はこの順に重ねられ、前記試料導入孔、前記試料配置面および前記突出部の先端面により密閉空間が形成され、該先端面が、該密閉空間に封入された試料を該試料配置面に向かって押圧可能に構成されることを特徴とする。
【0008】
本構成によれば、試料導入孔、試料配置面および突出部の先端面により密閉空間が形成され、その密閉空間に試料を封入することができる。そのため、例えば、試料が放射性物質である場合は、試料が発する放射線が試料台から漏れるのを防ぎ、安全に測定を行うことが可能となる。また、試料導入孔内において、突出部の先端面が試料を試料配置面へ押圧することにより、少量の試料を均一に広げることが可能となる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記試料導入孔は円形状であり、前記突出部は円柱状であることを特徴とする。
【0010】
本構成によれば、試料台の工作精度を高めることが容易となり、密閉空間の密閉性を高めることが可能となる。
【0011】
第3の発明は、第1または第2の発明において、液体試料の赤外分光分析に用いられる試料台であって、前記試料保持部材は、前記受け部材と対向する面において、前記試料導入孔の外周に溝部を有し、前記溝部に、シール部材が設置されることを特徴とする。
【0012】
本構成によれば、試料保持部材の受け部材と対向する面において試料導入孔の外周をシール部材でシールすることにより、液体試料が試料台から漏れるのを防ぐことが可能となる。
【0013】
第4の発明は、第1から第3のいずれか1つの発明において、全反射吸収測定法に用いられる試料台であって、前記受け部材を支持する枠部材を備え、前記受け部材は、全反射用の光学素子であり、前記試料配置面を全反射面とし、該試料配置面が上面となるように前記枠部材の上部に設置されることを特徴とする。
【0014】
本構成によれば、試料配置面が全反射面となるため、蓋部材の材質が制限されない。また、試料配置面が上面になるように受け部材が設置されるため、試料の取り換えが容易となり、測定効率を高めることが可能となる。
【0015】
第5の発明は、第1から第4のいずれか1つの発明において、前記試料配置面は、金属膜が蒸着されていることを特徴とする。
【0016】
本構成によれば、試料配置面は、金属膜が蒸着されることによって、赤外吸収強度が増強され、測定感度をより高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
以上述べたように、本開示によると、少量の試料を密閉空間で薄く均一に広げることが可能な赤外分光分析の試料台を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本開示の試料台を用いた赤外分光分析装置の一例を示す概略図である。
図2】本開示の試料台を示す断面図である。
図3】枠部材の平面図である。
図4】枠部材の底面図である。
図5図4のV-V線端面図である。
図6】枠部材の側面図である。
図7】試料保持部材の平面図である。
図8】試料保持部材の底面図である。
図9図8のIX-IX線端面図である。
図10】蓋部材の底面図である。
図11】本開示の試料台を用いて測定したアメリシウム試料のSEIRAスペクトルである。
図12】本開示の試料台を用いた赤外分光分析装置の他の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0020】
本開示の赤外分光分析の試料台は、物質に赤外光を照射し、透過または反射した光を測定することで、試料の構造解析や定量を行う様々な種類の赤外分光分析装置に適用可能である。以下では、全反射吸収測定法に金属薄膜を組み合わせた表面増強赤外吸収分光法に適用した実施形態について説明する。
【0021】
[赤外分光分析装置の構成]
図1に示すように、本実施形態の試料台1を用いた赤外分光分析装置100は、IR光源60から放射される赤外光をミラー61a、61bに反射させて所定の入射角で、試料Xを載せた全反射用の光学素子10に入射させ、光学素子10から出射する反射光をミラー61c、61dに反射させて検出器62へ導入する。
【0022】
[全反射吸収測定法]
全反射吸収測定法では、屈折率の大きな物質、すなわち本開示の試料台1における全反射用の光学素子10から、屈折率の小さな物質、すなわち試料Xへ赤外光が入射するとき、臨界角より大きな入射角で赤外光が入射すると、赤外光は全反射される。微視的に見ると、赤外光は界面で反射するのではなく、ある深さだけ試料X側に潜り込んでから全反射される。このとき、試料側に吸収がない波数領域では反射率は1になるが、吸収のある波数領域では反射率は減衰して1よりも小さくなる。このような反射光を検出器に導入して吸収スペクトルを解析することによって、化学種の検出や同定が可能となる。
【0023】
[表面増強赤外吸収分光法]
全反射吸収測定法において、光学素子10と試料Xとの間に金属膜を形成させて行う測定方法は、表面増強赤外吸収分光法(SEIRA分光法)と呼ばれている。表面増強赤外吸収分光法では、金属膜を構成する金属微粒子が、可視光領域から赤外光領域近くに、局所プラズモンの励起による特殊な吸収を示す。プラズモンが励起された金属微粒子の周りには、強い表面電場が生じる。
【0024】
赤外光電場によって励起された金属微粒子の分極により、金属微粒子の周りには、電場が形成される。励起された電場は、金属膜の表面近傍において、金属微粒子のナノ構造の表面に対して垂直に生じることから、電場と平行、つまり金属膜の表面に対して垂直方向に振動双極子モーメントを持つ振動が選択的に観測される。
【0025】
表面電場によって誘起された分子の振動双極子モーメントは、金属微粒子の分極に摂動を与える。この摂動は、分子の振動周波数において生じるので、金属微粒子の吸収に分子の振動が重複して観測される。吸着分子による振動によって生じる金属の吸収の変化は、金属がない場合のものよりもずっと大きいことから、表面増強赤外吸収分光法では分子の振動を金属微粒子の吸収を介して観測し、金属微粒子を赤外吸収の増幅器として作用させることができる。
【0026】
[試料台の構成]
表面増強赤外吸収分光法に用いられる試料台1において、特許請求の範囲に記載の「受け部材」には、全反射用の光学素子10が適用される。試料台1は、図1に示すように、赤外分光分析装置100の、IR光源60と検出器62の間の上部に設置される。
【0027】
試料台1は、図2にも示すように、試料Xを配置可能な試料配置面11を有する光学素子10と、光学素子10を支持する枠部材20と、試料配置面11の面方向と交差する方向に貫通する試料導入孔31を有する試料保持部材30と、試料配置面11に向かって突出し、試料導入孔31に嵌合可能な突出部42を有する蓋部材40と、を備える。枠部材20、光学素子10、試料保持部材30、および蓋部材40は、下方からこの順に重ねられる。
【0028】
光学素子10は、試料配置面11を全反射面とし、試料配置面11が上面となるように枠部材20の上部に設置される。光学素子10の形状は限定されず、赤外分光分析に一般的に用いられるものを用いることができる。例えば、図1および図2に示すような三角プリズムが好ましいが、台形状や半球状のものを用いてもよい。光学素子10の材質としては、例えばシリコンや、ゲルマニウム等を使用することができる。
【0029】
試料配置面11には、金属膜70が蒸着されていることが好ましい。金属膜70を光学素子10と試料Xとの間に形成し、表面増強赤外吸収分光法により測定を行うことにより、測定感度を増強させることが可能となる。金属膜70の材質は、例えば、金、銀、銅、白金等である。金属膜70は、例えば、真空蒸着や無電解メッキ等の公知の方法によって作成することができる。
【0030】
枠部材20は、図3から図6に示す長矩形板状の部材である。枠部材20の材質は限定されないが、例えば、ステンレス、アルミナ、ジュラルミン等によって構成することができる。
【0031】
枠部材20の略中央部には、枠部材20の厚さ方向に貫通する矩形状の設置孔21が形成されている。設置孔21には、設置孔21の内側に向かって突出する係止片22,22が、対向する2辺に形成されている。2つの係止片22,22は、下方に向って互いに近づくように傾斜している。
【0032】
設置孔21内には、光学素子10が設置される。設置孔21は、光学素子10と略同じ大きさに形成されているが、上方から設置孔21内へ嵌め込まれた光学素子を、係止片22,22によって係止し、設置孔21内に保持することができる。光学素子10は、設置孔21よりも下方へ露出しており、赤外光を設置孔21の下方から入射させ、下方へ反射させることが可能となる。
【0033】
また、枠部材20には、設置孔21の外周4カ所にネジ孔23が設けられており、ネジ孔23において、後述する試料保持部材30とともにネジ止めされる。枠部材20の底面には、長手方向に延び下方へ突出する凸条24,24が、設置孔21を挟んで対向するように形成されている。この凸条24,24は、試料台1を赤外分光分析装置100の所定の位置に配置する際に位置決めの役割を担う。
【0034】
試料保持部材30は、図7から図9に示すような長矩形板状の部材である。試料保持部材30の材質は限定されないが、耐薬品性の高い樹脂が好ましく、例えば、テフロン(登録商標)によって構成することができる。
【0035】
試料保持部材30の略中央部には、試料配置面11の面方向と交差する方向、すなわち試料保持部材30の厚さ方向に貫通する円形状の試料導入孔31が形成されている。試料保持部材30と枠部材20とが重ねられたとき、試料導入孔31は、設置孔21の上部において、光学素子10の略中央部に位置する。試料導入孔31の大きさは、光学素子10の上面よりも小さい。
【0036】
試料保持部材30の上面には、枠部材20のネジ孔23に対向する位置に、4カ所のネジ孔32が設けられている。試料保持部材30の底面、すなわち、光学素子10と対向する面には、試料導入孔31の外周に、リング状の溝部33が形成されている。
【0037】
溝部33には、シール部材50が設置される。シール部材50は、例えばOリング等の弾性部材である。光学素子10が設置された試料保持部材30の上に、試料保持部材30が取り付けられたとき、溝部33内に設置されたシール部材50は、光学素子10の上面に当接する。例えば、試料Xが粉状である場合、必ずしもシール部材50を用いる必要はないが、試料Xが液体である場合には、漏洩を防ぐため、シール部材50を用いることが好ましい。
【0038】
蓋部材40は、図2および図10に示すように、矩形板状の基部41と、基部41底面の略中央部から下方へ、試料配置面11に向かって突出するように形成された円柱状の突出部42を有する。突出部42は、試料導入孔31に嵌合可能である。試料導入孔31に突出部42が隙間なく嵌合されるよう、突出部42外径と試料導入孔31の内径は、略同じであることが好ましい。
【0039】
蓋部材40の材質は限定されないが、耐薬品性の高い樹脂が好ましく、例えば、テフロン(登録商標)によって構成することができる。試料保持部材30と蓋部材40は同じ材質から成形されたものを用いることが好ましい。同じ材質であれば、温度変化による収縮性に差異が生じにくく、試料導入孔31と突出部42との間の密閉性をより確実に保つことが可能となる。
【0040】
突出部42の長さは、少なくとも試料導入孔31と同じ長さであり、突出部42の先端部には、平坦な先端面42aが形成されている。先端面42aは、光学素子10の試料配置面11と略平行である。下方から、枠部材20、光学素子10、試料保持部材30および蓋部材40の順に組み立てたとき、試料導入孔31、試料配置面11および先端面42aにより密閉空間が形成され、密閉空間に封入された試料Xを、先端面42aが、試料配置面11へ向かって押圧可能である。
【0041】
<実施例>
次に、本実施形態の試料台1を用い、試料Xとして放射性物質であるアメリシウム錯体を表面増強赤外吸収分光法により測定した測定手順と測定結果を示す。
【0042】
[試料の準備]
試料Xに使用したアメリシウム試料は、DGA(ジグリコールアミド)配位子を有するアメリシウム-DGA錯体である。このアメリシウム試料(Commissariat A L'Energie Atomique社製、CodeNo.Am-243-S)は、濃度不明の硝酸水溶液に溶けている状態であった。アメリシウム試料を、濃度調整した硝酸水溶液とするため、蒸発乾固を行った。アメリシウム試料をPFAバイヤルに加え、ホットプレート上で150℃,20分加熱し、固体化させた。その固体化させたアメリシウム試料を1Mの硝酸水溶液で再溶解させ、試料Xとした。
【0043】
[測定方法]
光学素子10として三角形のシリコンプリズムを用意し、試料配置面11を抵抗加熱法による真空蒸着により金蒸着させ、金属膜70を4nm形成した。また、枠部材20はステンレス製、試料保持部材30はテフロン(登録商標)製であり、試料導入孔31の径はφ10mmである。試料Xが先端面42aによって薄く均一に広げられていることを目視で確認できるように、蓋部材40は透明なガラス製のものを用いた。
【0044】
枠部材20、光学素子10、試料保持部材30の順に重ね、ネジ孔23,32にネジ80を挿入して枠部材20と試料保持部材30とを固定した。このように準備した試料台1を、赤外分光分析装置100の所定の位置に配置した。なお、赤外分光分析装置100には、日本分光社製のFT/IR-4200へ、反射アクセサリとしてPIKE Technologies社製VeeMAX IIIを設置したものを用い、VeeMAX III上に本実施形態の試料台1を載置して測定を行った。
【0045】
まず、配位子吸着を確認するための測定を行った。DMSO(100μL)を試料導入孔31へ滴下し、バックグラウンド測定を行った。次に、DMSOを吸い取り、配位子溶液(100μL)を試料導入孔31へ滴下し、滴下直後と滴下後1時間経過後の測定を行った。配位子のスペクトルから、配位子が吸着されていることを確認した。
【0046】
光学素子10上の配位子溶液をアスピレータで吸い取り、イオン交換水で洗浄した。その後、試料保持部材30を取り外し、完全に乾燥させた。
【0047】
次に、試料保持部材30を枠部材20へ固定し、硝酸(5μL)を試料導入孔31へ滴下し、突出部42を試料導入孔31へ嵌合させて蓋部材40を取り付け、バックグラウンド測定を行った。蓋部材40を取り外し、硝酸を吸い取った。
【0048】
枠部材20、光学素子10、試料保持部材30の順に重ね、枠部材20と試料保持部材30とをネジ80により固定した。このように準備した枠部材20、光学素子10および試料保持部材30と、蓋部材40をドラフトへ入れて試料Xの滴下を行った。5μLの試料Xを試料導入孔31へ滴下し、突出部42を試料導入孔31へ嵌合させて蓋部材40を取り付けた。
【0049】
蓋部材40を取り付けると、試料Xは、試料導入孔31、試料配置面11および先端面42aにより形成された密閉空間に封入された状態となった。また、先端面42aによって試料配置面11へ押圧されることで、試料Xが薄く均一に広げられていることを目視により確認した。このように試料Xを配置した試料台1を、赤外分光分析装置100の所定の位置に設置して測定を行った。
【0050】
本実施形態の試料台1を用いて測定したアメリシウム-DGA錯体のSEIRAスペクトルを図11に示す。このスペクトルは、アメリシウム-DGA錯体を滴下した直後のスペクトルから水蒸気ピークを自動減算したスペクトルである。使用した試料Xが少量であるにも関わらず、高感度で測定できていることが確認できた。
【0051】
また、アメリシウム試料Xを測定した試料台1において、試料台1からの外部被曝量は0.5μSvであった。外部被曝量の測定は、放射線測定器(Victoreen社製,290-SI)を用い、測定器の検出部を試料台1へ近付けることにより行った。蓋部材40を用いない従来の試料台(試料導入孔の径はφ14mm)を用いた場合、試料Xは300μL必要であり、外部被曝量は30μSvであったことから、試料台1は従来の試料台と比して、試料の使用量および外部被曝量を大幅に低減させることができた。
【0052】
このように、本実施形態の試料台1では、試料導入孔31、試料配置面11および先端面42aにより密閉空間が形成され、密閉空間に封入された試料Xを、先端面42aが、試料配置面11に向かって押圧可能に構成したことにより、試料Xの使用量を少量にすることが可能である。さらに、本実施形態の試料台1は、試料Xが放射性物質である場合に特に有用である。試料Xを密閉空間に封入することができるため、試料台1から放射線が漏れることを防止し、安全に測定を行うことが可能となる。
【0053】
[他の実施形態]
本開示の試料台は、透過法の赤外分光分析にも適用可能である。試料台1’を透過法の赤外分光分析装置200へ適用した例を図12に示す。試料台1’は、赤外分光分析装置200のIR光源260と検出器262の間に設置される。試料台1’は、受け部材210、試料保持部材230および蓋部材240から構成され、この順に横並びに重ねられている。
【0054】
受け部材210、試料保持部材230および蓋部材240は、IR光源260から放射される赤外光を透過させ、検出器262へ導入可能に、赤外透過材から形成される。試料保持部材230および蓋部材240の構成は上記実施形態と同じであるが、受け部材210は、例えば、板状の赤外透過材である。
【0055】
試料保持部材230に形成された試料導入孔231、受け部材210の試料配置面211および蓋部材240の先端面242aにより密閉空間が形成される。先端面242aは、密閉空間に封入された試料Xを、試料配置面211へ向かって押圧可能である。
【0056】
このような実施形態の試料台1’も、上記実施形態と同様の効果を得ることが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 試料台
10 受け部材(光学素子)
11 試料配置面
20 枠部材
30 試料保持部材
31 試料導入孔
40 蓋部材
41 基部
42 突出部
42a 先端面
50 シール部材
60 IR光源
61a~d ミラー
62 検出器
70 金属膜
100 赤外分光分析装置
200 赤外分光分析装置
210 受け部材
211 試料配置面
230 試料保持部材
231 試料導入孔
240 蓋部材
242a 先端面
X 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12