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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051381
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】溶射用粉末および溶射皮膜の作製方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/10 20160101AFI20230404BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20230404BHJP
   C04B 35/505 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
C23C4/10
C04B41/87 J
C04B35/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162003
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】関 康平
(72)【発明者】
【氏名】岡本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】益田 敬也
(72)【発明者】
【氏名】伊部 博之
【テーマコード(参考)】
4K031
【Fターム(参考)】
4K031CB02
4K031CB03
4K031CB16
4K031CB41
4K031CB42
4K031CB44
4K031CB45
4K031CB46
4K031DA01
4K031DA04
(57)【要約】
【課題】溶射に適切な流動性が維持され、かつ、溶射に際して、より微細化されたセラミック粒子を供給できる技術を提供する。
【解決手段】ここで開示される溶射用粉末は、セラミック粒子により構成されている。この溶射用粉末は、該溶射用粉末を下記条件:
プラズマ作動ガス:
アルゴン(Ar)ガス:50psi;および、
ヘリウム(He)ガス:50psi
プラズマ出力:36kW
溶射用粉末の供給速度:20g/min
溶射距離:400mm
で水中に大気圧プラズマ溶射した後と該溶射前とを比較したときに、該溶射用粉末のレーザ回折散乱法に基づく平均粒子径(D50)の値が少なくとも25%小さくなることを特徴とする。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶射用粉末であって、
セラミック粒子により構成されており、
該溶射用粉末を下記条件:
プラズマ作動ガス:
アルゴン(Ar)ガス:50psi;および、
ヘリウム(He)ガス:50psi
プラズマ出力:36kW
溶射用粉末の供給速度:20g/min
溶射距離:400mm
で水中に大気圧プラズマ溶射した後と該溶射前とを比較したときに、該溶射用粉末のレーザ回折散乱法に基づく平均粒子径(D50)の値が少なくとも25%小さくなることを特徴とする、溶射用粉末。
【請求項2】
安息角が40度以下である、請求項1に記載の溶射用粉末。
【請求項3】
酸化物セラミック粒子により構成される、請求項1または2に記載の溶射用粉末。
【請求項4】
前記セラミック粒子は、該セラミックからなる一次粒子の造粒焼結粒子であり、
前記セラミック粒子の表面のSEM観察に基づく該表面の総面積に対する開気孔の存在面積の割合の平均値が20%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
【請求項5】
前記セラミック粒子は、該セラミックからなる一次粒子の造粒焼結粒子であり、
前記セラミック粒子の表面をSEM観察したときに、該表面に存在する開気孔の最大径Dmaxと最小径Dminとの比(Dmax/Dmin)が1~1.8である、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
【請求項6】
前記一次粒子のレーザ回折散乱法に基づく平均粒子径(D50)は、0.5μm以上5μm以下である、請求項4または5に記載の溶射用粉末。
【請求項7】
嵩比重が1.0以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の溶射用粉末。
【請求項8】
基材の表面に、請求項1~7のいずれか一項に記載の溶射用粉末を溶射して溶射皮膜を作製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射用粉末に関する。また、本発明は、該溶射用粉末を用いて溶射皮膜を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の表面を各種の材料で被覆することにより新たな機能を付与する技術は、従来から様々な分野において利用されている。この表面被覆技術の一例として、基材の表面にセラミックからなるセラミック粒子を、溶融させた状態で吹き付けることによって、該セラミックからなる溶射皮膜を形成する溶射法が知られている。
【0003】
例えば、半導体デバイス等の製造分野においては、フッ素,塩素,臭素等のハロゲン系ガスのプラズマを用いたドライエッチングにより、半導体基板の表面に微細加工を施すことがある。ドライエッチング後は、半導体基板を取り出したチャンバーの内部を、酸素ガスプラズマを用いてクリーニングしている。このチャンバー内では、反応性の高い酸素ガスプラズマやハロゲンガスプラズマに晒される部材が腐食され得る。このため、半導体デバイス製造装置では、酸素ガスやハロゲンガス等のプラズマに晒される部材に、プラズマによる腐食防止を目的として、セラミックの溶射皮膜を設けている。
【0004】
特許文献1~3に開示される溶射法では、溶射用の粉末材料(溶射用粉末)が、乾燥状態で溶射装置に供給されている。溶射装置への溶射用粉末の供給を安定して行うため、流動性が向上された溶射用粉末の開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6811188号公報
【特許文献2】特許第4630799号公報
【特許文献3】特許第6262716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、溶射皮膜の耐久性を向上させる観点から、表面がより滑らかであり、緻密性が高い溶射皮膜を形成することが望まれている。溶射皮膜の滑らかさや緻密性を向上させる手段としては、例えば、溶射用粉末を構成するセラミック粒子のサイズをより小さくすることが挙げられる。しかしながら、単にセラミック粒子のサイズを小さくするだけでは、溶射用粉末の流動性が低下する虞がある。そのため、セラミック粒子の設計には、なお改善の余地がある。
【0007】
このような状況に鑑み、本発明は、溶射に適切な流動性が維持され、かつ、溶射に際して、より微細化されたセラミック粒子を被溶射物(基材)に供給できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、造粒焼結粒子を溶射したときに、溶射時の熱エネルギーによって造粒焼結粒子を構成する一次粒子が溶融して間隙に入り込むことによって、粒子サイズが小さくなることに着目した。また、本発明者は、造粒焼結粒子を用いて形成された溶射皮膜では、溶射された造粒焼結粒子の一部が未溶融の状態のまま基材に到達して溶射皮膜中に残り得ることを確認した。そして、本発明者の鋭意検討の結果、造粒焼結粒子の間隙を意図的に増やすことによって、溶射された造粒焼結粒子を完全に溶融できることがわかった。さらに、本発明者は、粒子サイズを従来よりも小さくした状態で基材に供給して溶射皮膜を作製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
ここで開示される溶射用粉末は、セラミック粒子により構成されている。この溶射用粉末は、該溶射用粉末を下記条件:
プラズマ作動ガス:
アルゴン(Ar)ガス:50psi;および、
ヘリウム(He)ガス:50psi
プラズマ出力:36kW
溶射用粉末の供給速度:20g/min
溶射距離:400mm
で水中に大気圧プラズマ溶射した後と該溶射前とを比較したときに、該溶射用粉末のレーザ回折散乱法に基づく平均粒子径(D50)の値が少なくとも25%小さくなることを特徴とする。
【0010】
かかる構成の溶射用粉末は、溶射時の熱エネルギーによって、溶射前よりも平均粒子径(D50)が少なくとも25%小さくなるように構成されている。このため、溶射時に、より微細化された溶射用粉末を基材に供給することができる。また、溶射用粉末の粒子サイズを、溶射に適した流動性を実現できるように設定することができる。
【0011】
好ましい一態様では、ここで開示される溶射用粉末の安息角は、40度以下である。かかる構成の溶射用粉末の安息角は、溶射に適した流動性を実現するように設定されている。
【0012】
また、ここで開示される溶射用粉末の好ましい他の一態様は、酸化物セラミック粒子により構成される。かかる構成の溶射用粉末を用いることで、酸化物セラミック製の溶射皮膜を作製することができる。
【0013】
また、ここで開示される溶射用粉末の好ましい他の一態様では、上記セラミック粒子は、該セラミックからなる一次粒子の造粒焼結粒子である。好ましくは、上記セラミック粒子の表面のSEM観察に基づく該表面の総面積に対する開気孔の存在面積の割合の平均値が20%以上である。かかる構成の溶射用粉末では、開気孔の存在面積の割合が上記範囲にあることで、溶射用粉末が熱収縮する度合いが高められている。これによって、溶射時に、より微細化された溶射用粉末を基材に供給することができる。
【0014】
また、ここで開示される溶射用粉末の好ましい他の一態様では、上記セラミック粒子は、該セラミックからなる一次粒子の造粒焼結粒子であるとともに、該セラミック粒子の表面をSEM観察したときに、該表面に存在する開気孔の最大径Dmaxと最小径Dminとの比(Dmax/Dmin)が1~1.8である。セラミック粒子の表面のSEM観察で観察される開気孔の形状が上記のように規定された溶射用粉末は、熱収縮する度合いが高められている。これによって、溶射時に、より微細化された溶射用粉末を基材に供給することができる。
【0015】
また、ここで開示される溶射用粉末の好ましい他の一態様では、上記一次粒子のレーザ回折散乱法に基づく平均粒子径(D50)は、0.5μm以上5μm以下である。かかる構成によると、未溶融部分を含んだ溶射用粉末の溶射皮膜への混入、および、溶射皮膜中への欠陥発生を抑制することができ、延いては、より緻密な溶射皮膜を作製することができる。
【0016】
また、ここで開示される溶射用粉末の好ましい他の一態様では、嵩比重が1.0以下である。かかる構成によると、溶射による溶射用粉末の微細化効果がより高められている。
【0017】
また、ここで開示される技術によると、溶射皮膜を作製する方法が開示されている。即ち、被溶射物(基材)の表面に、ここで開示される何れかの溶射用粉末を溶射して溶射皮膜を作製する方法が提供される。かかる溶射皮膜作製方法では、溶射時に、より微細化された溶射用粉末が基材に供給されるため、例えば該溶射皮膜の気孔率が4%以下であり、表面粗さ(算術平均粗さ)Raが3.5μm以下であるような緻密で表面が平坦な溶射皮膜を好適に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施形態における溶射用粉末を用いた溶射皮膜の作製例を説明する模式図である。
図2】従来の溶射用粉末を用いた溶射皮膜の作製例を説明する模式図である。
図3】サンプル1の溶射粉末の表面SEM観察画像である。
図4】サンプル1の溶射粉末の断面SEM観察画像である。
図5】サンプル2の溶射粉末の表面SEM観察画像である。
図6】サンプル2の溶射粉末の断面SEM観察画像である。
図7】サンプル3の溶射粉末の表面SEM観察画像である。
図8】サンプル3の溶射粉末の断面SEM観察画像である。
図9】サンプル1の飛行粒子のSEM観察画像である。
図10】サンプル2の飛行粒子のSEM観察画像である。
図11】サンプル3の飛行粒子のSEM観察画像である。
図12】サンプル1の溶射皮膜の断面SEM観察画像である。
図13】サンプル2の溶射皮膜の断面SEM観察画像である。
図14】サンプル3の溶射皮膜の断面SEM観察画像である。
図15】サンプル1~3の溶射皮膜の表面粗さRa(μm)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、明細書において数値範囲を示す「X~Y」との表記は、特筆しない限り「X以上Y以下」を意味するとともに、かかる数値範囲には「Xを上回り、Yを下回る」範囲が包含されることも理解される。
【0020】
<定義>
本明細書において、「溶射用粉末」とは、溶射に用いられる粉末状の材料をいう。ここで開示される溶射用粉末は、セラミック粒子により実質的に構成された溶射用粉末材料であり、目的とするセラミック粒子以外の不可避的不純物(例えば微量の微小な非セラミック粒状物)を含み得る。
本明細書において、「一次粒子」とは、上記溶射用粉末を構成している形態的な構成要素のうち、外観から粒状物として識別できる最小単位を意味する。ここで開示される溶射用粉末を構成するセラミック粒子が二次粒子(例えば造粒粒子)を含む場合は、該二次粒子を構成する粒子が一次粒子と呼称され得る。
ここで「二次粒子」とは、一次粒子が三次元的に結合され、一体となって一つの粒のように振る舞う粒子状物(粒子の形態をなしたもの)をいう。造粒された粒子や造粒後に焼結された造粒焼結粒子は、ここでいう「二次粒子」の一例である。なお、ここでいう「結合」は、直接的または間接的に、2つ以上の一次粒子が結びつくことを指し、例えば、化学反応による一次粒子同士の結合、単純吸着によって一次粒子同士が引き合う結合、一次粒子表面の凹凸に接着材等を入り込ませるアンカー効果を利用した結合、静電気により引き合う効果を利用した一次粒子同士の結合、一次粒子の表面が溶融して一体化した結合等が含まれる。
また、本明細書において、「原料粒子」という場合は、ここで開示される溶射用粉末を作製するために用いられる原料段階の粉末を構成する粒子をいう。
【0021】
<溶射用粉末の平均粒子径の測定方法>
本明細書において、溶射用粉末および二次粒子を構成する一次粒子に関する「平均粒子径(D50)」とは、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置により測定された体積基準の粒度分布における積算値50%での平均粒子径(50%体積平均粒子径)をいう。本明細書において、「平均粒子径(D50)」は、「Dv50」とも呼称されることがある。
【0022】
<安息角の測定方法>
本明細書において、「安息角」は、溶射用粉末を一定の高さの漏斗から水平な基板の上に落下させることで生成した円すい状の堆積物の直径および高さから算出される底角を意味している。安息角は、JIS R9301-2-2:1999「アルミナ粉末物性測定方法-2:安息角」の規定に準じて測定することができる。
【0023】
<嵩比重の測定方法>
本明細書において、溶射用粉末に関する「嵩比重」は、直径2.5mmのオリフィスから自然に流れ出す溶射用粉末により、所定の容量の容器を自然充填の状態で満たしたときの、当該溶射用粉末の質量から算出される密度(比重)を意味している。嵩比重は、JIS Z2504:2012「金属粉-見掛密度測定方法」の規定に準じて測定することができる。
【0024】
<顆粒強度(圧縮強度)の測定方法>
本明細書において、溶射用粉末に関する「顆粒強度」は、電磁力負荷方式の圧縮試験機を用いて測定される。具体的には、加圧圧子と加圧板の間に測定試料を固定し電磁力により一定の増加割合で負荷力を与えていく。圧縮は定負荷速度圧縮方式で行い、その際の測定試料の変形量を測定していく。測定した試料の変形特性結果は専用のプログラムで処理し強度値を計算する。
【0025】
<溶射用粉末の構成>
ここで開示される溶射用粉末は、溶射法により溶射皮膜を作製するのに用いられる溶射用粉末である。上述のとおり、この溶射用粉末は、セラミック粒子により構成されている。セラミック粒子が溶射用粉末に占める割合は、好ましくは95質量%以上であり、より好ましくは99質量%以上であり、さらに好ましくは99.9質量%以上であり、例えば99.99質量%以上とすることができる。セラミックの種類は、作製する溶射皮膜の組成によって適宜選択されればよい。セラミックとしては、例えば、酸化物からなる酸化物セラミックや、炭化物、ホウ化物、窒化物、アパタイト等の非酸化物セラミックが挙げられる。
【0026】
酸化物セラミックとしては、特に限定されることなく各種の金属の酸化物とすることができる。かかる酸化物セラミックを構成する金属元素若しくは非金属元素としては、例えば、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等の半金属元素;マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、鉛(Pb)等の典型元素;スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、チタニウム(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)等の遷移金属元素;ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Er)、ルテチウム(Lu)等のランタノイド元素;から選択される1種または2種以上が挙げられる。なかでも、Mg、Y、Ti、Zr、Cr、Mn、Fe、Zn、Al、Erから選択される1種または2種以上の元素であることが好ましい。
【0027】
酸化物セラミックとしては、例えば、アルミナ、ジルコニア、イットリア、クロミア、チタニア、コバルタイト、マグネシア、シリカ、カルシア、セリア、フェライト、スピネル、ジルコン、酸化ニッケル、酸化銀、酸化銅、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化ストロンチウム、酸化スカンジウム、酸化サマリウム、酸化ビスマス、酸化ランタン、酸化ルテチウム、酸化ハフニウム、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タングステン、マンガン酸化物、酸化タンタル、酸化テルピウム、酸化ユーロピウム、酸化ネオジウム、酸化スズ、酸化アンチモン、アンチモン含有酸化スズ、酸化インジウム、スズ含有酸化インジウム、酸化ジルコニウムアルミネート、酸化ジルコニウムシリケート、酸化ハフニウムアルミネート、酸化ハフニウムシリケート、酸化チタンシリケート、酸化ランタンシリケート、酸化ランタンアルミネート、酸化イットリウムシリケート、酸化チタンシリケート、酸化タンタルシリケート等が挙げられる。
【0028】
非酸化物セラミックとしては、例えば、炭化タングステン、炭化クロム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化モリブデン、炭化タンタル、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素等の炭化物セラミック;ホウ化モリブデン、ホウ化クロム、ホウ化ハフニウム、ホウ化ジルコニウム、ホウ化タンタル、ホウ化チタン等のホウ化物セラミック;窒化チタン、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の窒化物セラミック;フオルステライト、ステアタイト、コーディエライト、ムライト、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、Mn-Znフェライト、Ni-Znフェライト、サイアロン等の複合化物;ハイドロキシアパタイト、リン酸カルシウム等のリン酸化合物;等が挙げられる。
【0029】
以上のセラミックは、任意の元素がドープ又は置換されていてもよい。また、これらのセラミックは、いずれか1種が単独で含まれていてもよいし、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。例えば、2種以上のセラミックが含まれる場合には、その一部または全部が複合化物を形成していてもよい。このような複合化されたセラミックの例としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア、部分安定化ジルコニア、ガドリニウムドープセリア、ランタンドープチタン酸ジルコン酸鉛や、上記のサイアロン、上記複合酸化物等が挙げられる。
【0030】
ここで開示される溶射用粉末は、該溶射用粉末を下記条件:
プラズマ作動ガス:
アルゴン(Ar)ガス:50psi;および、
ヘリウム(He)ガス:50psi
プラズマ出力:36kW
溶射用粉末の供給速度:20g/min
溶射距離:400mm
で水中に大気圧プラズマ溶射した後と該溶射前とを比較したときに、該溶射用粉末の平均粒子径(D50)の値が少なくとも25%小さくなることを特徴とする。溶射用粉末が溶射により熱収縮する度合いは、例えば、上記条件の大気圧プラズマ溶射によって溶射用粉末の平均粒子径(D50)の減少率(%)(以下、「D50減少率(%)」ともいう。)によって評価され得る。なお、プラズマ出力の値は、一定の誤差を含み得る。プラズマ出力の値は典型的には算術平均値である。
【0031】
上記大気圧プラズマ溶射前の溶射用粉末の平均粒子径(D50)をDとし、該溶射後の水から回収された溶射用粉末の平均粒子径(D50)をDとすると、溶射用粉末のD50減少率(%)は、下記式(1):
50減少率(%)=(D-D)/D×100 (1)
を用いて算出することができる。溶射用粉末のD50減少率(%)は、上記のとおり25%以上であるが、好ましくは30%以上であり、より好ましくは35%以上である。D50減少率(%)が大きいほど、より緻密で滑らかな溶射皮膜を作製することができる。
【0032】
あるいは、上記大気圧プラズマ溶射(APS)前後の溶射用粉末のD10またはD90を比較して、溶射用粉末の熱収縮の度合いを評価してもよい。例えば、D10減少率(%)またはD90減少率(%)をかかる評価の指標としてもよい。なお、D10とは、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置により測定された体積基準の粒度分布における小さい粒度の方からの積算値10%での粒子径をいう。D90とは、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置により測定された体積基準の粒度分布における小さい粒度の方からの積算値90%での粒子径をいう。
【0033】
溶射用粉末のD10減少率(%)は、下記式(2):
(上記APS前のD10-上記APS後のD10)/上記APS前のD10×100 (2)
を用いて算出することができる。溶射用粉末のD10減少率(%)は、好ましくは15%以上であり、より好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは25%以上である。D10減少率(%)が大きいほど、より緻密で滑らかな溶射皮膜を作製することができる。
【0034】
溶射用粉末のD90減少率(%)は、下記式(3):
(上記APS前のD90-上記APS後のD90)/上記APS前のD90×100 (3)
を用いて算出することができる。溶射用粉末のD90減少率(%)は、好ましくは35%以上であり、より好ましくは40%以上であり、さらに好ましくは45%以上である。D90減少率(%)が大きいほど、溶射用粉末全体をより微細化することができ、延いてはより緻密で滑らかな溶射皮膜を作製することができる。
【0035】
ここで開示される溶射用粉末の安息角は、40度以下であり得る。安息角は、従来から粉体の流動性を示すために広く採用されてきた指標の一つである。溶射用粉末の安息角は、供給装置内、供給装置から溶射装置への搬送時等における溶射用粉末の流動性を反映する指標になり得る。そのため、安息角を小さく規定するほど、流動性が高い溶射用粉末を実現することができ、延いては、より生産性よく均質な溶射皮膜を作製することができる。溶射用粉末の安息角は、好ましくは39度以下であり、より好ましくは38度以下であり、さらに好ましくは37度以下である。安息角の下限に特に制限はないが、安息角が小さすぎると溶射用粉末が飛散し易くなったり、溶射用粉末の供給量の制御が困難になったりする場合がある。かかる観点から、溶射用粉末の安息角は、20度以上であるとよい。なお、ここでいう安息角は、上記APS前の安息角である。
【0036】
ここで開示される溶射用粉末の嵩比重は、3.0g/cm以下であり得る。嵩比重は、この溶射用粉末については、溶射時の熱収縮のしやすさを示すための指標の一つになり得る。そのため、嵩比重を小さく規定するほど、熱収縮しやすい溶射用粉末を実現することができ、延いては、より緻密な溶射皮膜を作製することができる。溶射用粉末の嵩比重は、例えば2.0g/cm以下であり、好ましくは1.5g/cm以下であり、より好ましくは1.2g/cm以下であり、さらに好ましくは1.0g/cm以下である。なお、嵩比重が小さすぎると、溶射皮膜の生産性が低下する場合がある。かかる観点から、溶射用粉末の嵩比重は、0.5g/cm以上であるとよい。なお、ここでいう嵩比重は、上記APS前の嵩比重である。
【0037】
ここで開示される溶射用粉末の顆粒強度(圧縮強度)は、0.7kgf/mm以上であり得る。顆粒強度は、好ましくは0.9kgf/mm以上であり、より好ましくは1.0kgf/mm以上である。顆粒強度(圧縮強度)をかかる範囲に設定することで、溶射装置への供給時や溶射時に溶射用粉末が飛散したり、崩壊したりするのを抑制することができ、延いては、より生産性よく均質な溶射皮膜を作製することができる。その一方で、顆粒強度が強すぎると、溶射用粉末を十分に溶融させるのが困難となる場合がある。かかる観点から、溶射用粉末の顆粒強度は、500kgf/mm以下が適当であり、好ましくは400kgf/mm以下であり、より好ましくは200kgf/mm以下である。なお、ここでいう顆粒強度は、上記APS前の顆粒強度である。
【0038】
ここで開示される溶射用粉末の平均粒子径(D50)は、10μm以上であり得る。平均粒子径(D50)は、好ましくは14μm以上であり、より好ましくは18μm以上であり、さらに好ましくは22μm以上である。平均粒子径(D50)をかかる範囲に設定することで、溶射用粉末の流動性を該粉末の供給に適したものとすることができ、延いては、より生産性よく均質な溶射皮膜を作製することができる。一方、平均粒子径(D50)は、例えば55μm以下とするとよく、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは40μm以下であり、さらに好ましくは35μm以下である。平均粒子径(D50)をかかる範囲に設定することで、溶射時に、溶射用粉末を十分に溶融することができる。一例において、平均粒子径(D50)を20μm~30μmとすることが特に好ましい。溶射用粉末に好ましい流動性を実現しつつ、緻密で表面が滑らかな溶射皮膜を作製することができる。なお、ここでいう平均粒子径(D50)は、上記APS前の平均粒子径(D50)である。
【0039】
また、ここで開示される溶射用粉末の粒度分布は、溶射皮膜作製のための溶射に使用される装置の種類や条件に応じて適宜設定され得る。例えば、溶射用粉末のD90は、60μm以下(例えば50μm以下)に設定されるとよい。溶射用粉末のD10は、20μm以下に設定されるとよい。なお、ここでいうD90およびD10は、上記APS前のD90およびD10である。
【0040】
ここで開示される溶射用粉末を構成するセラミック粒子が二次粒子である場合、該二次粒子を構成するセラミック一次粒子の平均粒子径D50は、10μm以下であり得る。平均粒子径D50は、好ましくは9μm以下であり、より好ましくは7μmであり、さらに好ましくは5μm以下である。平均粒子径D50をかかる範囲に設定することで、溶射用粉末の溶射に際して熱源による加熱が一次粒子の中心まで届き易くなるため、加熱不十分による未溶融部分を含んだ溶射用粉末の溶射皮膜中への混入を抑制でき、延いては、より緻密な溶射皮膜を作製することができる。一方、平均粒子径D50は、0.1μm以上とするとよく、好ましくは0.3μm以上であり、より好ましくは0.5μm以上である。平均粒子径D50をかかる範囲に設定することで、過熱が原因と考えられる欠陥の溶射皮膜中への発生を抑制することができ、より緻密な溶射皮膜を作製することができる。
【0041】
上述のような熱収縮の観点から、ここで開示される溶射用粉末は、造粒焼結粉であることが好ましい。この溶射用粉末は、例えば、セラミック粒子の原料粒子(一次粒子)を混合して造粒し、さらに焼結して形成された、各一次粒子が間隙をもって三次元的に結合されてなる二次粒子としての造粒焼結粒子により構成される溶射用粉末である。換言すれば、該溶射用粉末を構成するセラミック粒子が、セラミックからなる一次粒子の造粒焼結粒子であり得る。以下、かかる造粒焼結粒子を好適に製造する造粒焼結法の一例を説明するが、該方法に限定することを意図したものではない。
【0042】
<溶射用粉末の製造方法>
造粒焼結法は、原料粒子(一次粒子)を二次粒子の形態に造粒した後、焼結して、原料粒子同士を強固に結合(焼結)させる手法である。この造粒焼結法において、造粒は、例えば、乾式造粒あるいは湿式造粒等の造粒方法を利用して実施することができる。造粒方法としては、例えば、転動造粒法、流動層造粒法、撹枠造粒法、破砕造粒法、溶融造粒法、噴霧造粒法、マイクロエマルション造粒法等が挙げられる。なかでも好適な造粒方法として、噴霧造粒法が挙げられる。
【0043】
噴霧造粒法によると、例えば、以下の手順で溶射用粉末を製造することができる。まず、所望の組成を有する原料粒子を用意し、必要に応じてその表面を保護剤等により安定化させる。そしてかかる安定化された原料粒子を、必要に応じて、有機材料等からなるスペーサー粒子、および、任意成分としてのバインダ、種々の添加剤(例えば分散剤)等とともに適切な溶媒に分散させて噴霧液を用意する。原料粒子の溶媒への分散には、例えば、ホモジナイザー、翼式撹拌機等の混合機、分散機等を用いて実施することができる。そしてこの噴霧液を、超音波噴霧機等を利用して噴霧し液滴を形成する。かかる液滴を、例えば、気流に載せて噴霧乾燥装置(スプレードライヤー)を通過させることにより、造粒粒子を形成することができる。得られた造粒粒子を、所定の焼成炉に導入して、焼成することによって、原料粒子が焼結される。このようにして、一次粒子が間隙をもって結合された二次粒子の形態の造粒焼結粒子で構成された溶射用粉末を得ることができる。なお、ここで一次粒子は、原料粒子とほぼ同等の寸法および形状を有していてもよいし、原料粒子が焼成により成長・結合されていてもよい。
【0044】
このように製造される造粒焼結粒子(溶射用粉末)に所定の熱収縮性を付与するため、上記噴霧液の調製において、スペーサー粒子を使用することが好ましい。そうすると、上記の製造工程において、液滴が乾燥された状態では、原料粒子と、スペーサー粒子と、バインダと、が均一な混合状態にある。原料粒子およびスペーサー粒子は、バインダにより結着されて混合粒子を構成する。この混合粒子が焼成されることで、スペーサー粒子およびバインダおよびが消失する(燃えぬける)とともに、原料粒子が焼結される。このようにして、一次粒子が間隙をもって結合された形態の二次粒子が形成される。なお、焼結に際し、原料粒子はその組成や大きさによっては一部が液相となって他の粒子との結合に寄与し得る。そのため、出発材料の原料粒子よりも一次粒子の平均粒子径は大きくなる場合がある。また、乾燥から焼成までの間に、原料粒子以外の成分の消失および焼成による原料粒子の焼き締まりなどから、液滴のサイズよりも得られる二次粒子の平均粒子径の方が大幅に小さくなる。これら、二次粒子および一次粒子の平均粒子径や、一次粒子間に形成される間隙の大きさおよび割合は、所望の二次粒子の形態に応じて適宜設計することができる。
【0045】
造粒粒子の焼結によってスペーサー粒子が上記混合粒子から消失すると、混合粒子においてスペーサー粒子が存在していた部分に気孔が生じる。このため、スペーサー粒子を使用することで、造粒焼結粒子の多孔度を大きくすることができる。造粒焼結粒子の多孔性を高めることで、溶射による該造粒焼結粒子(即ち、溶射用粉末)の熱収縮の度合いを大きくすることができる。造粒焼結粒子の多孔度は、スペーサー粒子の添加量、粒子サイズ、形状等によって適宜調整することができる。例えば、原料粒子とスペーサー粒子との混合比(原料粒子の体積:スペーサー粒子の体積)は、80:20~10:90であることが好ましい。スペーサー粒子の混合比(体積比)が大きくなるほど、造粒焼結粒子の多孔度を高めることができ、延いては、より緻密で滑らかな溶射皮膜を作製することができる。かかる観点から、原料粒子の体積とスペーサー粒子の体積との合計を100体積%としたときに、スペーサー粒子の体積割合は、より好ましくは30体積%以上であり、さらに好ましくは40体積%以上である。一方、溶射粉末の物理的安定性や取り扱い性を向上させ、より生産性よく均質な溶射皮膜を作製するために、かかるスペーサー粒子の体積割合は、80質量%以下が適切であり、70体積%以下であることが好ましい。
【0046】
スペーサー粒子の粒子サイズは、例えば0.1μm~10μmであり、1μm~5μmであることが好ましい。スペーサー粒子は、この種の造粒焼結粒子を作製されるために使用される、いわゆる造孔材(例えば、アクリル樹脂製粒子、エポキシ樹脂製粒子、ポリイミド樹脂製粒子、ポリオレフィン製粒子等の樹脂製粒子)を特に制限なく使用することができる。また、スペーサー粒子の形状は、特に制限はされないが、例えば、球状および略球状、板状、繊維状等である。
【0047】
また、上記の製造工程において、調整される噴霧液の原料粒子の濃度は、10質量%~50質量%であることが好ましい。また、バインダの添加量は、原料粒子の質量に対して0.05質量%~10質量%(例えば、1質量%~5質量%)の割合で調整されることが好ましい。添加されるバインダとしては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)等が挙げられる。
【0048】
また、上記の製造工程において、焼成は、大気中、真空中もしくは不活性ガス雰囲気中で行われ得る。上記スペーサー粒子やバインダの除去のため、焼成は、酸素が存在する雰囲気で行われることが好ましい。焼成温度は、例えば、600℃以上1600℃以下に設定するとよい。なお、焼成後、必要に応じて、製造された二次粒子を、解砕および/または分級してもよい。
【0049】
上述のように製造される造粒焼結粒子により構成される溶射用粉末の表面をSEM観察すると、造粒焼結粒子は、セラミックのマトリックス部分(図3の白色部分)と、開気孔(図3の黒色部分)とを有することがわかる。かかる開気孔は相互に独立した独立開気孔であり、上記の製造工程において形成された、原料粒子とスペーサー粒子との混合粒子からスペーサー粒子が焼成で焼失したことにより形成されたものである。後述の実施例に記載のとおり、市販の画像解析ソフトを用いることによって、造粒焼結粒子におけるマトリックス部分と独立開気孔の部分とを分離することができる。
【0050】
上記独立開気孔は、ほぼ円形状であり得る。「ほぼ円形状」とは、独立開気孔の最大径Dmaxと最小径Dminとの比(Dmax/Dmin)が1~1.8であることをいう。比(Dmax/Dmin)は、溶射用粉末の表面をSEMで観察し、取得した表面SEM画像を画像解析することで求めることができる。例えば、表面SEM画像から5個以上(例えば10個以上)のセラミック粒子を無作為に抽出し、各粒子の中心から、当該粒子の粒子径/2を直径とする仮想円の内側に占める独立開気孔について、上記比(Dmax/Dmin)を算出する。また、算出に当たり、二値化に際して1μm未満の微小領域は除くことが望ましい。これらにより、より実態に近い算術平均値を得ることができる。ここで算出された値の算術平均値を、独立開気孔の形状の評価に用いる。
【0051】
上記独立開気孔のそれぞれは、ほぼ同じ径を有し得る。「ほぼ同じ径」とは、例えば、上記比(Dmax/Dmin)の測定に供されたDmaxおよびDminが、独立開気孔の平均径に対してともに20%以内(好ましくは10%以内)であることをいう。なお、独立開気孔の径は、上記の製造工程において使用されたスペーサー粒子のサイズに対して-20%~+20%の長さであり得る。
【0052】
上記独立開気孔は、1つの造粒焼結粒子につき平均20個以上存在し得る。造粒焼結粒子の表面に存在する独立開気孔の個数が増えるほど、溶射用粉末の熱収縮度合いが大きくなり、延いては、より緻密で滑らかな溶射皮膜を作製することができる。1つの造粒焼結粒子につき、独立開気孔の個数は、平均で30個以上存在することが好ましく、40個以上存在することがより好ましく、50個以上存在することがさらに好ましい。一方、溶射用粉末の流動性や顆粒強度を考慮すると、独立開気孔の個数は、1つの造粒焼結粒子につき、平均で、200個以下(例えば、150個以下、または100個以下)であるとよい。なお、表面SEM画像から無作為に抽出された5個以上(例えば10個以上)のセラミック粒子について独立開気孔の個数をカウントし、その算術平均値を取得するとよい。
【0053】
あるいは、上記製造方法で製造された溶射用粉末では、造粒焼結粒子の表面の気孔率が平均値で20%以上であり得る。かかる気孔率は、造粒焼結粒子の表面SEM画像を複数(例えば5~10画像)観察した場合において、各画像において解析の対象となった任意の数(例えば画像あたり1~5個)の粒子の面積(投影面積)に対する開気孔(独立開気孔)の総面積の割合を計測し、その平均値をいう。なお、表面SEM画像では、粒子のほぼ半面のみが観察されるが、当該半面の面積および気孔面積をそれぞれ2倍することにより、便宜上粒子の表面全体の面積および気孔面積とすることができる。
気孔率は、造粒焼結粒子の多孔度を評価する一指標であり、好ましくは25%以上であり、より好ましくは30%以上である。気孔率が大きいほど、溶射用粉末の熱収縮度合いを高めることができ、延いては、より緻密で滑らかな溶射皮膜を作製することができる。一方、溶射粉末の物理的安定性や取り扱い性を考慮すると、気孔率は、例えば70%以下であり、好ましくは60%以下であり、より好ましくは50%以下である。なお、気孔率の具体的な測定方法は、下記実施例に記載のとおりである。
【0054】
以下、ここで開示される溶射用粉末の熱収縮度合いが従来よりも高められているメカニズムについて、図1,2を参照しつつ説明する。ただし、ここで開示される溶射用粉末の効果が実現されるメカニズムを以下のものに限定する意図はない。図1に示されるように、ここで開示される溶射用粉末を構成するセラミック粒子11を溶射すると、セラミック粒子11は、溶射時の熱エネルギーによって溶融した飛行粒子12となる。飛行粒子12が基材Sに到達すると、溶射皮膜L1が形成される。セラミック粒子11が溶融すると、溶融したセラミックが間隙P1(開気孔および閉気孔)に入り込む。換言すれば、間隙の容積が減少する。このため、溶射中の飛行粒子12は、溶射前よりも収縮する。このように、溶射によって収縮した飛行粒子12が溶射皮膜L1を形成するため、溶射皮膜L1の緻密性が高められるとともに、該溶射皮膜表面の滑らかさがより高められ得る。
【0055】
ここで開示される溶射用粉末と、従来の一例における溶射用粉末とを比較すると、図2に示される従来のセラミック粒子21にも間隙P2がある。しかし、セラミック粒子21における間隙の容積は、セラミック粒子11における間隙の容積よりも小さい。そのため、セラミック粒子21が飛行粒子22となった時の熱収縮の度合いは、セラミック粒子11の熱収縮の度合いよりも小さいといえる。また、セラミック粒子11と比較すると、セラミック粒子21の粒子内部の充実度が高く、溶射によって粒子表面は溶融していても、粒子の内部が未溶融の状態のまま基材Sに到達することがある(未溶融粒子23)。これらのことから、セラミック粒子11を溶射して作製した溶射皮膜L1の緻密性や表面の滑らかさは、セラミック粒子21を溶射して作製した溶射皮膜L2の緻密性や滑らかさよりも高まると考えられる。
【0056】
ここで開示される溶射用粉末は、各種の溶射法により溶射することで、各種の基材に溶射皮膜を作製することができる。ここで開示される溶射用粉末は、大気プラズマ溶射(APS:atmospheric plasma spraying)、減圧プラズマ溶射(LPS:low pressure plasma spraying)、加圧プラズマ溶射(high pressure plasma spraying)等のプラズマ溶射法によって溶射皮膜を作製するのに、特に好ましく使用され得る。なお、この溶射用粉末は、その他、酸素支燃型高速フレーム(High Velocity Oxygen Flame:HVOF)溶射法、ウォームスプレー溶射法および空気支燃型(High Velocity Air flame:HVAF)高速フレーム溶射法等の高速フレーム溶射にも好適に使用され得る。なお、溶射用粉末は、粉末の状態で溶射装置に供給してもよく、適切な分散媒に分散させたスラリーの状態で溶射装置に供給してもよい。
【0057】
溶射皮膜を作製するために使用される基材の種類は、特に制限されない。基材としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄鋼、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、金、銀、ビスマス、マンガン、亜鉛、亜鉛合金等が挙げられる。なかでも、汎用されている金属材料のうち、耐食性構造用鋼として使用されている、各種SUS材(いわゆるステンレス鋼であり得る。)等に代表される鉄鋼、軽量構造材等として有用な1000シリーズ~7000シリーズアルミニウム合金等に代表されるアルミニウム合金、ハステロイ,インコネル,ステライト,インバー等に代表されるNi基、Co基、Fe基の耐食性合金等からなる基材は、好適例である。
【実施例0058】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0059】
<製造例>
[サンプルの製造]
(サンプル1)
原料粉末として、平均粒子径D50が0.9μmの酸化イットリウム粉末(一次粒子)と、平均粒子径D50が3.0μmの酸化イットリウム粉末(一次粒子)と、を混合し、混合粉末を用意した。スペーサー粒子として、粒子サイズ(粒子径)が約3μmのアクリル樹脂製のスペーサー粒子(以下、「アクリル粒子」ともいう。)(MX-300、綜研化学株式会社製)を用意した。上記混合粉末を70体積%、アクリル粒子を30体積%となるように配合して、2重量%のバインダを含む水溶液に分散させて噴霧液を調製した。噴霧液中において、酸化イットリウム粒子の含有量は90.7重量%であり、アクリル粒子の含有量は9.3重量%であった。この噴霧液を、噴霧造粒機を用いて気流中に噴霧し、乾燥させることで、造粒粒子を作製した。得られた造粒粒子に、1600℃の焼成処理を行って一次粒子を焼結し、さらに解砕および分級することにより、造粒焼結粒子(二次粒子)により構成された溶射用粉末を製造した。かかる溶射用粉末を本製造例に係るサンプル1とした。サンプル1の平均粒子径D50は、27μmであった。
【0060】
(サンプル2)
上記混合粉末を40体積%、およびアクリル粒子を60体積%、の配合とした。噴霧液中において、酸化イットリウム粒子の含有量は73.5重量%であり、アクリル粒子の含有量は26.5重量%であった。それ以外はサンプル1と同様の材料およびプロセスを用いて、サンプル2の溶射用粉末を製造した。サンプル2の平均粒子径D50は、27μmであった。
【0061】
(サンプル3)
原料粉末として、平均粒子径D50が2.4μmの酸化イットリウム粉末(一次粒子)を使用した。また、アクリル粒子を使用しなかった。それ以外はサンプル1と同様の材料およびプロセスを用いて、サンプル3の溶射用粉末を製造した。サンプル3の平均粒子径D50は、27μmであった。
【0062】
(サンプル4)
サンプル4として、酸化イットリウムの溶融粉砕粉を用意した。まず、目的とする酸化イットリウム(Y)が得られるように原料となる粉末を配合し、かかる原料粉末を加熱して溶融させた後、冷却して固化物(インゴッド)を用意した。この固化物を機械的手段により粉砕し、必要に応じて分級を行うことで、サンプル4の溶融粉砕粉を得た。サンプル4の平均粒子径D50は、29μmであった。
【0063】
[粒度分布の測定]
サンプル1~4の溶射用粉末について、レーザ回折/散乱式粒度測定器(Malvern Panalytical製,Mastersizer 3000)を用いて、体積基準の粒度分布を測定した。表1中の該当欄にDv10,Dv50,およびDv90の値を示す。
【0064】
[安息角]
サンプル1~4の溶射用粉末について、安息角をJIS R9301-2-2:1999に準じて測定した。安息角は、それぞれの溶射用粉末をA.B.D.粉体特性測定器(筒井理科器械株式会社製、ABD-72形)に供することで得た値である。表1中の該当欄に測定された安息角の値を示す。
【0065】
[嵩比重の測定]
サンプル1~4の溶射用粉末について、嵩比重(g/cm)をJIS Z2504:2012に準じて測定した。嵩比重(g/cm)は、それぞれの溶射用粉末を金属粉用のJISカサ比重測定器(筒井理化学器械株式会社製)に供することで得られた値である。表1中の該当欄に測定された嵩比重(g/cm)の値を示す。
【0066】
[SEM観察]
サンプル1~4の溶射用粉末について、卓上SEM(Phenom-World製、Phenom ProX)を用いて、平面視像および断面視像を取得した。観察倍率は、5000倍であった。参考のため、図3~8に、サンプル1~3の表面SEM観察画像と、断面SEM観察画像とを示す。図3~8中のスケールバーは、10μmを示している。
【0067】
[粒子表面の気孔率]
サンプル1~4の溶射用粉末について、粒子表面の総面積に対する開気孔の存在面積の割合(粒子表面の気孔率(%))を測定した。上記[SEM観察]で得られた各サンプルの表面SEM観察画像について、画像解析ソフト(株式会社日本ローパー製、Image-Pro Plus)を用いて、表面SEM観察画像の粒子部分のみを指定して二値化した。具体的には、コントラストの閾値を決めて、白色部分をマトリックス(酸化イットリウム)部分に、黒色部分を開気孔に、それぞれ設定した。そして、画像解析の対象となった面積(投影面積)を100%としたときの開気孔の存在面積の割合を算出した。かかる測定を無作為に抽出した10個のセラミック粒子について行った。そして、得られた算術平均値を、各溶射材料における粒子表面の気孔率(%)とした。表1中の該当欄に測定された粒子表面の気孔率(%)の値を示す。
【0068】
【表1】
【0069】
本製造例の結果を示す図3~8および表1に示されるように、酸化イットリウム粒子と、所定量のスペーサー粒子(アクリル粒子)とを含む噴霧液を用いて造粒および焼結することによって得られた溶射用粉末(サンプル1,2)では、焼成によるスペーサー粒子の消失に起因する開気孔および閉気孔が観察された。また、サンプル1,2の溶射用粉末では、粒子表面の気孔率がいずれも20%以上あり、スペーサー粒子の量に依存して該気孔率が増加した。一方で、造粒焼結粒子で構成されたサンプル1~3の溶射用粉末の粒度分布は、スペーサー粒子の使用の有無に関わらず、いずれも同様の粒度分布であった。また、サンプル1~4の溶射用粉末の安息角はいずれも40度以下であり、溶射に適する流動性を有することが確認された。また、スペーサー粒子を使用して造粒焼結粒子を作製することによって、溶射用粉末の嵩比重が小さくなることが確認された。
【0070】
<飛行粒子の作製>
上記製造例で製造されたサンプル1~4の溶射用粉末を下記溶射条件にて水中に大気圧プラズマ溶射(APS)することで、各サンプルの飛行粒子を作製した。
[溶射条件]
溶射機:SG-100(Praxair社製)
粉末供給器:Model1264(Praxair社製)
プラズマ作動ガス:
アルゴン(Ar)ガス(50psi(0.34MPa));および、
ヘリウム(He)ガス(50psi(0.34MPa))
プラズマ出力:36kW
プラズマ発生電圧:40V
プラズマ発生電流:900A
溶射用粉末の供給速度:20g/min
溶射距離:400mm
【0071】
飛行粒子の作製では、まず、上記溶射機に、大気圧にて、プラズマ作動ガスとしてArガス(一次ガス)およびHeガス(二次ガス)を供給し、陰極と陽極との間に電圧を印加することでプラズマを発生させた。溶射時のプラズマ発生条件は、上述のとおりである。なお、プラズマ発生電流は900Aで設定し、それに伴いプラズマ発生電圧は38-42Vの範囲で変動するため、プラズマ出力は34-38kWで変動し得る。このプラズマ中に、上記粉末供給機を用いて、各サンプルの溶射用粉末を供給し、冷水中に撃ち込んだ。水面に対するプラズマ照射角度は、90度であった。なお、飛行粒子の作製に関する上記「溶射距離」とは、溶射ガンの先端から水面までの距離をいう。
【0072】
上記とおり大気圧プラズマ溶射により、溶射用粉末が撃ち込まれた後の水を回収した。回収した水に含まれる溶射用粉末(セラミック粒子)を乾燥させて、各サンプルの飛行粒子とした。参考のため、図9~11に、各サンプルのSEM観察画像(観察倍率1000倍)を示す。図9~11のスケールバーは、80μmを示している。
【0073】
[粒子径の減少率の測定]
上記製造例における溶射用粉末の粒度分布の測定と同様にして、各例の飛行粒子の体積基準の粒度分布を測定した。かかる飛行粒子のDv10,Dv50,およびDv90と、上記APS前の溶射用粉末のDv10,Dv50,およびDv90とにより、各サンプルの溶射用粉末についてAPSによる各粒子径の減少率(%)を算出した。具体的には、上記式(1)~(3)に基づいて、APS前後におけるDv10,Dv50,およびDv90の減少率(%)を算出し、Dv10%減少率(%)、Dv50%減少率(%)、およびDv90%減少率(%)とした。表2中の該当欄に、APS後のDv10,Dv50,およびDv90、および、各粒子径の減少率(%)の値を示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表2に示されているように、いずれのサンプルでも、APS前後でセラミック粒子のDv10,Dv50,およびDv90が小さくなることが確認された(サンプル4のDv10を除く)。スペーサー粒子を使用して製造した造粒焼結粒子で構成された溶射用粉末(サンプル1,2)と、スペーサー粒子不使用例の溶射用粉末(サンプル3,4)とを比較すると、サンプル1,2における粒子径の減少率(%)は、サンプル3,4よりも大きいことが確認された。
【0076】
<溶射皮膜の作製>
上記製造例で製造されたサンプル1~4の溶射用粉末を用いて、APSにより、溶射皮膜を作成した。本例では、基材として、アルミニウム合金(Al6061)からなる板材(70mm×50mm×2.3mm)の表面に褐色アルミナ研削材(A#40)を用いたブラスト処理を施すことにより粗面化加工したものを用いた。本例で使用した装置、プラズマ発生条件、および溶射用粉末の供給速度は、上記「飛行粒子の作製」における条件と同様である。本例では、上記溶射機において発生させたプラズマ中に、各サンプルの溶射用粉末を供給し、溶射ガンを400mm/秒の速度で移動させながら、基材に対するプラズマ照射角度を90度として、サンプル1~4の溶射皮膜を作製した。なお、溶射距離は、90mm~130mmに設定した。溶射皮膜の作製に関する上記「溶射距離」とは、溶射ガンの先端から基材までの距離をいう。参考のため、図12~14に、サンプル1~3の溶射皮膜の断面SEM観察画像(観察倍率1000倍)を示す。図12~14中のスケールバーは、80μmを示している。
【0077】
[成膜レート]
サンプル1~4の溶射用粉末を用いて上記溶射皮膜の作製における成膜レート(μm/pass)を算出した。かかる成膜レート(μm/pass)は、溶射装置(溶射ガン)が、該溶射装置の運行方向に沿って行う1回の溶射操作(1pass)に作製する溶射皮膜の厚み(μm)である。各サンプルの代表的な成膜レート(μm/pass)を表3の該当欄に示す。なお、表3の「溶射距離」の欄に記載の値は、成膜レート、下記緻密性、および下記表面粗さの測定値を取得したときの溶射距離である。
【0078】
[緻密性]
上記のとおり形成されたサンプル1~4の溶射皮膜の緻密性を、該溶射皮膜の気孔率(%)を測定することで評価した。気孔率は、基材に略垂直な断面SEM観察像を画像解析することで求めた。まず、溶射皮膜を基材ごと基材表面に対して垂直に切断し、厚み方向の任意の断面を切り出した。かかる断面における溶射皮膜の断面SEM観察像について、画像解析ソフト(株式会社日本ローパー製、Image-Pro Plus)を用いて解析することで、気孔部と固相部とを分離する2値化を行い、全断面積に占める気孔部の面積の割合として規定される気孔率(%)を算出した。各サンプルの代表的な気孔率(%)を表3の該当欄に示す。
【0079】
[表面粗さの測定]
サンプル1~4の溶射皮膜について、表面粗さ(算術平均粗さ)RaをJIS B0601:2013に準じて測定した。表面粗さRaは、表面粗さ測定機「SV-3000S CNC」(株式会社ミツトヨ製)にて、それぞれの溶射皮膜上の任意の5点における表面粗さを測定し、これらの算術平均値を表面粗さRaとして得た値である。各サンプルの代表的な表面粗さRa(μm)を表3の該当欄に示す。また、参考のため、図15に、サンプル1~3の溶射用粉末を溶射距離90mmまたは100mmで溶射して作製した溶射皮膜における表面粗さRa(μm)を示す。図15のグラフにおける縦軸「Ra/μm」は、表面粗さRa(μm)を示している。図15のグラフにおける横軸「溶射距離/mm」は、溶射距離(mm)を示している。図15のグラフ中、溶射距離毎に分けられた各区画において、左のバーはサンプル1であり、中央のバーはサンプル2であり、右のバーはサンプル3である。
【0080】
【表3】
【0081】
表3に示されるように、溶射用粉末の作製方法に関わらず、各サンプルの溶射用粉末を用いたときの成膜レートは同様であった。また、スペーサー粒子を使用して作製した溶射用粉末(サンプル1,2)を用いて作製した溶射皮膜と、スペーサー粒子不使用例の溶射用粉末(サンプル3,4)を用いて作製した溶射皮膜とを比較すると、サンプル1,2の溶射皮膜の表面粗さRa(μm)は、サンプル3,4の溶射皮膜よりも小さいことが確認された。また、サンプル2の溶射皮膜の気孔率(%)がその他のサンプルの溶射皮膜よりも小さかったことから、スペーサー粒子の使用は、表面がより平坦で、かつ、より緻密な溶射皮膜の作製に寄与できることがわかった。
【0082】
以上の結果から明らかなように、溶射用粉末であって、セラミック粒子を含み、該溶射用粉末を所定条件で水中に大気圧プラズマ溶射した後と該溶射前とを比較したときに、該溶射用粉末の平均粒子径(D50)の値が少なくとも25%小さくなることを特徴とする溶射用粉末(サンプル1,2)を用いると、基材に対してより微細化された粒子を供給して溶射皮膜を作製できることがわかった。かかる溶射用粉末を使用することで、表面がより滑らかな溶射用皮膜を作製することができる。また、かかる溶射用粉末は、より緻密な溶射皮膜を作製するのに好適といえる。
【符号の説明】
【0083】
11,21 セラミック粒子
12,22 飛行粒子
23 未溶融粒子
L1,L2 溶射皮膜
S 基材
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