IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友大阪セメント株式会社の特許一覧

特開2023-51482光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置
<>
  • 特開-光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置 図1
  • 特開-光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置 図2
  • 特開-光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置 図3
  • 特開-光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置 図4
  • 特開-光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置 図5
  • 特開-光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置 図6
  • 特開-光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置 図7
  • 特開-光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置 図8
  • 特開-光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置 図9
  • 特開-光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置 図10
  • 特開-光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置 図11
  • 特開-光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置 図12
  • 特開-光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置 図13
  • 特開-光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051482
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
G02F1/035
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162200
(22)【出願日】2021-09-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度国立研究開発法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/高い環境性を有するキャリイアコンバータ技術の研究開発/5G時代に対応した大容量・低遅延・シームレスな光/ミリ波変換デバイスの開発と実証評価」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】本谷 将之
(72)【発明者】
【氏名】片岡 利夫
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA02
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102CA07
2K102DA04
2K102DB04
2K102DC04
2K102DD04
2K102DD05
2K102EA02
2K102EA12
(57)【要約】
【課題】
周波数特性のディップ現象を抑制し、しかも、製造コストの増加も抑えた光導波路素子を提供すること。
【解決手段】
電気光学効果を有する基板1と、該基板に形成された光導波路2と、該基板1上に配置され、該光導波路を伝搬する光波を変調するための制御電極を有する光導波路素子において、該制御電極は、信号電極Sと接地電極とを有し、該光導波路の変調を行う変調作用部分に沿って該信号電極Sと該接地電極が配置され、該接地電極の該基板に対向する底面の形状は、該接地電極を該信号電極Sに近い第1接地電極G1と該信号電極Sから遠い第2接地電極G2とに分離するスリットSLが、該変調作用部分に対応する範囲に形成されていることを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光導波路と、該基板上に配置され、該光導波路を伝搬する光波を変調するための制御電極を有する光導波路素子において、
該制御電極は、信号電極と接地電極とを有し、
該光導波路の変調を行う変調作用部分に沿って該信号電極と該接地電極が配置され、
該接地電極の該基板に対向する底面の形状は、該接地電極を該信号電極に近い第1接地電極と該信号電極から遠い第2接地電極とに分離するスリットが、該変調作用部分に対応する範囲に形成されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光導波路素子において、該変調作用部分が延在する方向に垂直な方向における該スリットの幅は40μm以上であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光導波路素子において、該変調作用部分が延在する方向に垂直な方向における該第1接地電極の底面部分の幅は100μm以下であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光導波路素子において、該変調作用部分が延在する方向に垂直な方向における該スリットの幅(WSL)と該変調作用部分が延在する方向に垂直な方向における該第1接地電極の底面部分の幅(WG1)との比(WSL/WG1)は、0.4以上であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の光導波路素子において、該第1接地電極の形状は、下側部分が上側部分よりも該信号電極に近接したL字形状の多段構造を備え、
該変調作用部分が延在する方向に垂直な方向における、該下側部分が該上側部分よりも該信号電極側に突出している幅は、該信号電極の幅の20~70%の範囲に設定されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光導波路素子において、該第1接地電極の形状は、下側部分が上側部分よりも該信号電極に近接したL字形状の多段構造を備え、
該下側部分の高さは2~10μmであり、
該下側部分と該上側部分の全体の高さは20~50μmであることを特徴とする光導波路素子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の光導波路素子において、該第1接地電極と該第2接地電極とは、該光導波路の該変調作用部分に対応する範囲以外で互いに電気的に接続されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の光導波路素子において、該基板は20μm以下の厚みであり、
該基板の裏面側には接着層を介して保持基板が配置されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の光導波路素子は、筐体内に収容され、該光導波路に光波を入力又は出力する光ファイバを備えることを特徴とする光変調デバイス。
【請求項10】
請求項9に記載の光変調デバイスにおいて、該光導波路素子の該信号電極に入力する変調信号を増幅する電子回路を該筐体の内部に有することを特徴とする光変調デバイス。
【請求項11】
請求項9は10に記載の光変調デバイスと、該光変調デバイスに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路とを有することを特徴とする光送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置に関し、特に、高周波特性のディップ現象を抑制した光導波路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光計測技術分野や光通信技術分野において、光変調器など、光導波路を形成した基板を用いた光導波路素子が多用されている。近年は、移動通信のトラフィック量の増大に対応するため、より高い周波数帯(例えば、30~300GHz)で光変調器を使用することが求められている。
【0003】
図1は、従来の光導波路素子の一例を示す断面図である。図1では、ニオブ酸リチウム(LN)などの電気光学効果を有する基板1に、Tiなどを熱拡散して光導波路2を形成している。基板1上には、光導波路に電界を印加するための制御電極が形成され、具体的には、信号電極Sとこれを挟むように接地電極Gが形成されている。
【0004】
接地電極の下部は信号電極側に突出した形状をしている。これは、光導波路の近傍で信号電極と接地電極との間隔を狭くすることで、光導波路に加える電界を強くするためである。一方、電極上部は、信号電極と接地電極との間隔を広くすることで、光導波路を伝搬する光波と信号電極を伝搬するマイクロ波との速度整合を図ると共に、制御電極のインピーダンスを増加し、例えば入力インピーダンスの50Ωに近づけるためである。
【0005】
また、図1では、基板1の厚みを薄くすることで、光導波路に掛かる電界効率を向上させている。薄板である基板1の機械的強度を補強するため、接着層3を介して、保持基板4が接合されている。
【0006】
図1のような光導波路素子の周波数特性を図2に示す。図2の横軸は光導波路素子に印加するマイクロ波の周波数であり、縦軸は、光導波路素子の透過特性(S21)の損失(挿入損失)を示す。図2の周波数特性を見ると、高周波帯で波形が大きく窪む(下がる)、所謂、ディップ現象が発生している。
【0007】
これは、図1のように、制御電極が形成する電界(電気力線EF)が、基板1だけでなく、保持基板4を含む全体に広がっており、信号電極に印加した高周波のマイクロ波が、基板内の共振モード(基板モード)と結合することが原因となっている。
【0008】
特許文献1では、このようなディップ(リップル)現象を抑制するため、保持基板(補強基板)に低誘電率部を局所的に形成することが開示されている。特許文献1に示す方法では、保持基板4の製造工程が複雑化する上、製造コストが増加するという問題を生ずる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2019-174588号公報
【特許文献2】特開平5-196902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、周波数特性のディップ現象を抑制し、しかも、製造コストの増加も抑えた光導波路素子を提供することである。また、その光導波路素子を利用した光変調デバイス及び光送信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置は、以下の技術的特徴を有する。
(1) 電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光導波路と、該基板上に配置され、該光導波路を伝搬する光波を変調するための制御電極を有する光導波路素子において、該制御電極は、信号電極と接地電極とを有し、該光導波路の変調を行う変調作用部分に沿って該信号電極と該接地電極が配置され、該接地電極の該基板に対向する底面の形状は、該接地電極を該信号電極に近い第1接地電極と該信号電極から遠い第2接地電極とに分離するスリットが、該変調作用部分に対応する範囲に形成されていることを特徴とする。
【0012】
(2) 上記(1)に記載の光導波路素子において、該変調作用部分が延在する方向に垂直な方向における該スリットの幅は40μm以上であることを特徴とする。
【0013】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の光導波路素子において、該変調作用部分が延在する方向に垂直な方向における該第1接地電極の底面部分の幅は100μm以下であることを特徴とする。
【0014】
(4) 上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の光導波路素子において、該変調作用部分が延在する方向に垂直な方向における該スリットの幅(WSL)と該変調作用部分が延在する方向に垂直な方向における該第1接地電極の底面部分の幅(WG1)との比(WSL/WG1)は、0.4以上であることを特徴とする。
【0015】
(5) 上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の光導波路素子において、該第1接地電極の形状は、下側部分が上側部分よりも該信号電極に近接したL字形状の多段構造を備え、該変調作用部分が延在する方向に垂直な方向における、該下側部分が該上側部分よりも該信号電極側に突出している幅は、該信号電極の幅の20~70%の範囲に設定されていることを特徴とする。
【0016】
(6) 上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の光導波路素子において、該第1接地電極の形状は、下側部分が上側部分よりも該信号電極に近接したL字形状の多段構造を備え、該下側部分の高さは2~10μmであり、該下側部分と該上側部分の全体の高さは20~50μmであることを特徴とする。
【0017】
(7) 上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の光導波路素子において、該第1接地電極と該第2接地電極とは、該光導波路の該変調作用部分に対応する範囲以外で互いに電気的に接続されていることを特徴とする。
【0018】
(8) 上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の光導波路素子において、該基板は20μm以下の厚みであり、該基板の裏面側には接着層を介して保持基板が配置されていることを特徴とする。
【0019】
(9) 上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の光導波路素子は、筐体内に収容され、該光導波路に光波を入力又は出力する光ファイバを備えることを特徴とする光変調デバイスである。
【0020】
(10) 上記(9)に記載の光変調デバイスにおいて、該光導波路素子の該信号電極に入力する変調信号を増幅する電子回路を該筐体の内部に有することを特徴とする。
【0021】
(11) 上記(9)又は(10)に記載の光変調デバイスと、該光変調デバイスに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路とを有することを特徴とする光送信装置である。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光導波路と、該基板上に配置され、該光導波路を伝搬する光波を変調するための制御電極を有する光導波路素子において、該制御電極は、信号電極と接地電極とを有し、該光導波路の変調を行う変調作用部分に沿って該信号電極と該接地電極が配置され、該接地電極の該基板に対向する底面の形状は、該接地電極を該信号電極に近い第1接地電極と該信号電極から遠い第2接地電極とに分離するスリットが、該変調作用部分に対応する範囲に形成されるため、基板モードとの結合が抑制され、周波数特性のディップ現象を抑制した光導波路素子が提供できる。しかも、制御電極の形状を変更するだけであるため、製造コストの増加も抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】従来の光導波路素子の構造を説明する断面図である。
図2図1の光導波路素子に係る周波数特性を示すグラフである。
図3】本発明の光導波路素子に係る実施例を説明する断面図である。
図4図3の光導波路素子に係る電気力線(電界分布)の様子を説明する図である。
図5】本発明の光導波路素子に係る周波数特性を示すグラフである。
図6】本発明の光導波路素子に係るシミュレーション・モデルを説明する図である。
図7図6の信号電極Sの近傍の拡大図である。
図8】周波数特性を評価する方法を説明するグラフであり、(a)は、好適な周波数特性とそれを近似曲線(フィッティングカーブ)、(b)は(a)の近似曲線と評価する対象の周波数特性、を各々示す。
図9】本発明の光導波路素子に使用するスリットの幅と近似曲線(フィッティングカーブ)からのずれ量との関係を説明するグラフである。
図10】本発明の光導波路素子に使用する第1接地電極の幅と近似曲線(フィッティングカーブ)からのずれ量との関係を説明するグラフである。
図11】本発明の光導波路素子における変調作用部分とスリットとの配置関係を説明する図である。
図12】本発明の光導波路素子に係る第1接地電極G1と第2接地電極G2との他の電気的接続の様子説明する図である。
図13】本発明の光導波路素子において、複数のマッハツェンダー型光導波路を設ける場合の応用例を説明する図である。
図14】本発明の光変調デバイス及び光送信装置を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の光導波路素子について、好適例を用いて詳細に説明する。
本発明の光導波路素子は、図3に示すように、電気光学効果を有する基板1と、該基板に形成された光導波路2と、該基板1上に配置され、該光導波路を伝搬する光波を変調するための制御電極を有する光導波路素子において、該制御電極は、信号電極Sと接地電極とを有し、該光導波路の変調を行う変調作用部分に沿って該信号電極Sと該接地電極が配置され、該接地電極の該基板に対向する底面の形状は、該接地電極を該信号電極Sに近い第1接地電極G1と該信号電極Sから遠い第2接地電極G2とに分離するスリットSLが、該変調作用部分に対応する範囲に形成されていることを特徴とする。
【0025】
本発明の光導波路素子に使用される基板1の材料としては、電気光学効果を有する強誘電体材料、具体的には、ニオブ酸リチウム(LN)やタンタル酸リチウム(LT)、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)などの基板や、これらの材料による気相成長膜などが利用可能である。また、半導体材料や有機材料など種々の材料も光導波路素子の基板として利用可能である。
【0026】
光導波路を形成した基板1の厚さは、光導波路に掛かる電界効率を向上させるために、20μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下又は2μm以下に設定される場合がある。このような場合には、基板1の機械的強度を補強するため、0.2~1mm厚の保持基板11を、例えば、20~80μm程度の厚みの接着層(接着剤)を介して貼り合わせることや、保持基板と基板との直接接合が行われる。保持基板としては、LNなどが利用可能である。
【0027】
基板1に光導波路を形成する方法としては、Tiなどの高屈折率材料を基板に熱拡散する方法やプロトン交換法によって高屈折率型の光導波路を形成したり、基板のエッチングや光導波路の両側に溝を形成して、基板の光導波路に対応する部分を凸状としたリブ型光導波路を形成する方法などがある。
【0028】
本発明の光導波路素子の特徴は、図3に示すように、信号電極Sに対向する接地電極を、スリットを用いて第1接地電極G1と第2接地電極G2とに分離したことである。スリットの形状としては、図3に示すように、スリットSLが、接地電極を貫通しているものがある。
【0029】
本発明のように、接地電極を第1接地電極と第2接地電極とに分離することで、図4に示すように、信号電極Sと接地電極とが形成する電界(電気力線EF)が、第1接地電極の方に集中し、保持基板4を含む基板全体(基板1、接着層3、保持基板4を含むもの)の共振モードである基板モードと変調信号の周波数とが結合することが抑制される。
【0030】
図5は、図3の第1接地電極G1の幅を48μm、スリット幅410μmとした場合の本発明の周波数特性のシミュレーション結果と図1の従来構造の周波数特性(シミュレーション結果)とを重ね合わせて表示したグラフである。図5のグラフを見ると、本発明の光導波路素子の方が、効果的にディップ現象が抑制できているのが容易に理解される。
【0031】
本発明の光導波路素子に適した制御電極の形状を探るため、図6及び図7に示すモデルを設定し、シミュレーションを行った。
図6は、信号電極Sを挟むように第1接地電極G1を設け、第1接地電極G1の信号電極Sと反対側に第2接地電極G2を設けた。第1接地電極G1と第2接地電極G2との間にあるスリットSLの幅をWSLとした。また、第1接地電極G1の幅とスリットSLの幅とを合計した幅(長さ)をWとした。
【0032】
図7は、信号電極S及び第1接地電極G1の形状を規定する各種のパラメータを説明する図である。
各パラメータの定義は以下のとおりである。
・WS:信号電極の幅
・WG1:第1接地電極の幅
・W1:第1接地電極の下側部分で信号電極側に突出した部分(G1t)の幅
・H1:第1接地電極の下側部分で信号電極側に突出した部分(G1t)の高さ
・H2:第1接地電極の高さ
・GP1:信号電極と第1接地電極の突出した部分(G1t)との間の距離(ギャップ)
・GP2:信号電極と第1接地電極の上側部分との間の距離(ギャップ)
・WSL:スリットの幅
・W:WG1+WSL
【0033】
(スリットの幅について)
スリットSLの幅について、最適値を調べるため、次のシミュレーションを行った。
各パラメータを以下のように設定し、スリット幅WSLを0~80μmの範囲で変化させた。
・WS:30μm
・WG1:48μm
・W1:18μm
・H1:4.5μm
・H2:40μm
・GP1:20μm
・GP2:38μm
また、基板1の厚みを9μm、接着層3の厚みを55μm、保持基板4の厚みを500μmに設定した。
【0034】
周波数特性を評価するため、図8に示すように、近似曲線(フィッティングカーブ)を用いて、ディップの大きさを計測した。具体的には、図8(a)は、WSL=80μmの周波数特性であり、このグラフから近似曲線を設定した。次に、図8(b)に示すように、スリット幅WSLを変化させた場合の周波数特性に対して、図8(a)で求めた近似曲線を当て嵌め、当該近似曲線から周波数特性の最大のずれ量(δmax)を計測した。このずれ量(δmax)が多きい程、周波数特性の改善効果が低いという評価となる。
【0035】
図9は、スリット幅WSLに対するずれ量を示すグラフであり、スリット幅WSLが大きくなるに従い、ずれ量は減少傾向にある。具体的には、スリット幅WSLが20μm以上になると、減少傾向が顕著になり、特に、スリット幅WSLが40μm以上の場合は、ずれ量の変化も殆ど無く、効果が安定していることが分かる。これは、スリット幅が狭くなると、第1接地電極と第2接地電極とを分離する効果が薄れるためと想定される。
以上のことから、スリット幅WSLは20μm以上、より好ましくは40μm以上に設定することが好ましい。
【0036】
(第1接地電極の幅について)
次に、第1接地電極の幅WG1について、最適値を調べるため、以下の条件でシミュレーションを行った。第1接地電極の幅WG1は48(30+18)μm~418(400+18)μmの範囲で変化させた。
・WS:30μm
・W1:18μm
・H1:4.5μm
・H2:40μm
・GP1:20μm
・GP2:38μm
・WSL:80μm
また、基板1の厚みを9μm、接着層3の厚みを55μm、保持基板4の厚みを500μmに設定した。
さらに、得られた周波数特性の評価については、上述した近似曲線(フィッティングカーブ)を用いた評価と同様に行った。
【0037】
図10は、第1接地電極の幅WG1に対するずれ量を示すグラフであり、第1接地電極の幅は、突出した部分G1tを除いた底面部分の幅(WG1-W1)の値を横軸に示している。
図10を見ると、底面部分の幅(WG1-W1)が150μm(WG1=168μm)の辺りからずれ量の減少傾向が始まり、特に、80μm(WG1=98μm)以下の場合は、ずれ量がより効果的に低く抑えられており、周波数特性の改善効果が期待される。これは、電気力線の広がりを押え、電界を局所的に形成するには、第1接地電極の幅もより狭く設定することが好ましいためと想定される。
以上のことから、第1接地電極の幅(第1接地電極の底面部分の幅)WG1は、170μm以下、より好ましくは100μm以下に設定することが好ましい。
【0038】
以上では、スリット幅(WSL)と第1接地電極の底面部分の幅(WG1)とを別々に検討したが、一般的に、スリット幅が第1接地電極の幅に対して大きくなるほど、第1接地電極に電界が集中し、スリット幅が第1接地電極の幅に対して小さくなるほど、第2接地電極にも電界が分布することとなる。このため、スリット幅(WSL)と第1接地電極の底面部分の幅(WG1)との間には、一定の相関関係があり、上記シミュレーション結果を参考に、両者の比(WSL/WG1)を計算すると、0.4以上でスリットの効果が発現しはじめ、0.8以上になるとその効果はより顕著になることが理解される。
【0039】
なお、特許文献2では、速度整合や低スイッチング電圧(低駆動電圧)、インピーダンス整合を目的として、アース電極(接地電極)の幅を熱電極(信号電極)の幅の3倍以下に設定することが開示されいる。しかしながら、特許文献2では、本発明の光導波路素子の課題であるディップ現象の抑制や、本発明の構成に必要な第2接地電極や第1接地電極と第2接地電極との間のスリットについても、全く言及されていない。
【0040】
また、LNなどの基板は、切断時にクラックが発生し易い。特に、薄板のLN基板を用いる場合には、この現象が顕著となる。クラック発生を防止するには、図1に示すように基板の表面全体に、また、基板の端まで電極を設置することが好ましい。本発明では、接地電極にスリットを設けることで、ディップ現象を抑制し、クラック発生の防止も実現している。
【0041】
(第1接地電極のその他の形状について)
図7に示すように、第1接地電極の形状は、下側部分が上側部分よりも該信号電極に近接したL字形状の多段構造を備え、該変調作用部分が延在する方向に垂直な方向における、該下側部分が該上側部分よりも該信号電極側に突出している部分G1tの幅W1は、該信号電極の幅WSの20~70%の範囲に設定されていることが好ましい。
【0042】
また、図7に示すように、第1接地電極の形状は、下側部分が上側部分よりも該信号電極に近接したL字形状の多段構造を備え、該下側部分の高さH1は2~10μmであり、該下部分と該上側部分の全体の高さは20~50μmであることが好ましい。
【0043】
図11に示すように、光導波路がマッハツェンダー型光導波路である場合には、信号電極と2本の分岐導波路が互いに平行になる部分が「変調作用部分(FP)」となる。接地電極のスリットは、変調作用部分の全域に渡って形成されていることが好ましい。接地電極のスリットが変調作用部分の全域に渡って形成されることにより、基板モードとの結合が抑制され、周波数特性のディップ現象を抑制した光導波路素子が提供できる。
【0044】
接地電極は、上述したように、スリットによって第1接地電極と第2接地電極に分離されるが、両者は電気的な接続を行い、同じ電位に保持されることが好ましい。このため、図11に示すように、第1接地電極と第2接地電極との電気的接続部分(図11の点線の枠A)を、光導波路の変調作用部分に対応する範囲FP以外に設けることも可能である。また、図12に示すように、第1接地電極G1と第2接地電極G2とを、ワイヤーボンディング(WB)で電気的に接続することも可能である。ワイヤーボンディング以外にも、第1接地電極G1と第2接地電極G2を、少なくとも一部において互いに電気的に接続する種々の構成が利用可能である。
【0045】
基板内に光導波路を複数並べて配置する場合や、マッハツェンダー型光導波路を複数並べて配置する場合には、図13に示すように、光導波路間(22と23の間)で接地電極(G31,32)が配置される場合がある。このような場合には、信号電極S1から見て接地電極G31が第1接地電極であり、接地電極G32が第2接地電極の役割を果たす。そしてスリットSL3が設けられている。他方、信号電極S2から見ると、接地電極G32が第1接地電極であり、接地電極G31が第2接地電極の役割を果たす。このため、スリットSLの幅は40μm以上が好ましく、各接地電極(G31,G32)の幅は、100μm以下が好ましい。なお、図13の他の符号については、G11とG12は第1接地電極であり、G21とG22は第2接地電極である。SL1とSL2はスリットである。光導波路は21~24であり、例えば、21と22は、一つのマッハツェンダー型光導波路の分岐導波路を示し、23と24は他のマッハツェンダー型光導波路の分岐導波路を示している。
【0046】
図14に示すように、本発明の光導波路素子OEは、基板に光導波路OWを伝搬する光波を変調する変調電極(制御電極。不図示)を設け、筐体CS内に収容される。さらに、光導波路OWに光波を入出力(入力光Lin、出力光Lout)する光ファイバFBを設けることで、光変調デバイスMDを構成することができる。光ファイバは、図14のように筐体CSの外側に配置するだけでなく、筐体の側壁を貫通する貫通孔を介して筐体内に導入して配置固定することも可能である。符号PCは偏波合成手段を示している。
【0047】
光変調デバイスMDに変調動作を行わせる変調信号Sを出力する電子回路(デジタル信号プロセッサーDSP)を、光変調デバイスMDに接続することにより、光送信装置OTAを構成することが可能である。光導波路素子に印加する変調信号Sinは増幅する必要があるため、ドライバ回路DRVが使用される。ドライバ回路DRVやデジタル信号プロセッサーDSPは、筐体CSの外部に配置することも可能であるが、筐体CS内に配置することも可能である。特に、ドライバ回路DRVを筐体内に配置することで、ドライバ回路からの変調信号の伝搬損失をより低減することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上説明したように、本発明によれば、周波数特性のディップ現象を抑制し、しかも、製造コストの増加も抑えた光導波路素子を提供することが可能となる。また、その光導波路素子を利用した光変調デバイス及び光送信装置を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0049】
1 基板
2 光導波路
3 接着層
4 保持基板
SL スリット
G1 第1接地電極
G2 第2接地電極
OE 光導波路素子
MD 光変調デバイス
OTA 光送信装置

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14