(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051518
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】研磨用組成物、その製造方法、研磨液の濃縮液、および研磨方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20230404BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20230404BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20230404BHJP
C08L 101/14 20060101ALI20230404BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20230404BHJP
C08L 25/04 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
C09G1/02
H01L21/304 622C
C08L101/14
C08L1/00
C08L25/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162269
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 雄彦
(72)【発明者】
【氏名】土屋 公亮
(72)【発明者】
【氏名】丹所 久典
【テーマコード(参考)】
4J002
5F057
【Fターム(参考)】
4J002AB01W
4J002BC03X
4J002BC04X
4J002BE02W
4J002CH02W
4J002CH02Y
4J002DA016
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4J002HA07
5F057AA06
5F057AA28
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5F057BB03
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5F057EA29
5F057EA33
(57)【要約】
【課題】本発明は、研磨用組成物による研磨後における、研磨対象物表面の欠陥を低減する手段を提供する。
【解決手段】本発明は、塩基性化合物、および水溶性高分子を含み、前記水溶性高分子は、(1)原料水溶性高分子と溶媒を含む原料溶液を得ることと、(2)前記原料溶液を疎水性の樹脂と接触させることと、を経ている、研磨用組成物に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性化合物、および水溶性高分子を含み、
前記水溶性高分子は、
(1)原料水溶性高分子と溶媒を含む原料溶液を得ることと、
(2)前記原料溶液を疎水性の樹脂と接触させることと、
を経ている、研磨用組成物。
【請求項2】
前記水溶性高分子は、前記(1)と、前記(2)との間、および前記(2)の後からなる群より選択される少なくとも一方で、前記原料溶液中の前記原料水溶性高分子を陽イオン交換すること、を経ている、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記(1)において、前記原料水溶性高分子を、前記原料溶液の総質量に対して、0.1質量%以上5質量%以下となるようにする、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記(2)において、前記原料溶液を前記疎水性の樹脂に接触させる方法は、
(a)前記原料溶液を疎水性の樹脂を含むカラムに通液すること、
および
(b)前記原料溶液と、前記疎水性の樹脂とを混合して混合液を得て、前記混合液を撹拌すること、
からなる群より選択される少なくとも一方を含む方法である、請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記(a)において、前記原料溶液の流量を、10ml/min以上20,000ml/min以下とする、請求項4に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記(a)において、前記カラムの単位断面積(1cm2)あたりの、前記原料溶液の流量は、1ml/(min・cm2)以上30ml/(min・cm2)以下の範囲内である、請求項5に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記疎水性の樹脂は、スチレンおよびスチレン誘導体からなる群より選択される、少なくとも1種の単量体に由来する構成単位を含む樹脂を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記疎水性の樹脂は、細孔を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
前記細孔の最頻度半径は、1nm以上100nm以下の範囲内である、請求項8に記載の研磨用組成物。
【請求項10】
前記水溶性高分子は、セルロース誘導体を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項11】
さらに砥粒を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の研磨用組成物からなる研磨液の濃縮液。
【請求項13】
(1)原料水溶性高分子と溶媒を含む原料溶液を得ることと、
(2)前記原料溶液を疎水性の樹脂と接触させることと、
を経て水溶性高分子を準備することと、
前記水溶性高分子と、塩基性化合物とを混合することを含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の研磨用組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、研磨対象物を研磨する、研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物、その製造方法、研磨液の濃縮液、および研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性高分子は、分散剤、増粘剤、乳化重合安定剤、保護コロイド、塗料、化粧品、保水剤、医薬製剤、研磨助剤などの種々の用途に利用されている。これらの中でも、半合成高分子化合物であるヒドロキシエチルセルロースは、特に、分散性、増粘性などの特性に優れる。ヒドロキシエチルセルロースは、特に、シリコンウェーハなどに代表される半導体基板など種々の基板のリンス工程や研磨工程において、基板表面の保護や濡れ性を向上させる研磨助剤として、砥粒および水に加えて利用されている。
【0003】
特許文献1には、砥粒と組み合わせて研磨速度を向上できる研磨助剤として有用な、乾燥疎水化ヒドロキシエチルセルロースの製造方法が開示されている。具体的には、特許文献1は、合成された未乾燥疎水化ヒドロキシエチルセルロースを乾燥させた後に粉砕して、乾燥疎水化ヒドロキシエチルセルロースを得ることを開示している。
【0004】
また、特許文献2には、研磨用組成物に用いられる水溶性セルロースについて、不純物を除去することで、より高品質な研磨対象物を得ることが開示されている。具体的には、特許文献2は、水溶性セルロース水溶液中からアルカリ金属元素を除去する方法として、H型イオン交換樹脂およびOH型イオン交換樹脂と接触させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-104781号公報
【特許文献2】特開平10-309660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、技術の発展とともに、半導体基板、半導体素子またはシリコンウェーハ等の研磨対象物に求められる表面状態は、より高い表面品質が望まれるようになってきている。
【0007】
そこで、本発明は、研磨用組成物による研磨後における、研磨対象物表面の欠陥を低減する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記課題は、以下の手段によって解決される:
塩基性化合物、および水溶性高分子を含み、
前記水溶性高分子は、
(1)原料水溶性高分子と溶媒を含む原料溶液を得ることと、
(2)前記原料溶液を疎水性の樹脂と接触させることと、
を経ている、研磨用組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、研磨用組成物による研磨後における、研磨対象物表面の欠陥を低減する手段が提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】原料水溶性高分子および溶媒を含む原料溶液を、疎水性の樹脂に接触させる方法の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下の範囲)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で測定する。
【0012】
本発明の一態様は、塩基性化合物、および水溶性高分子を含み、
前記水溶性高分子は、
(1)原料水溶性高分子と溶媒を含む原料溶液を得ることと、
(2)前記原料溶液を疎水性の樹脂と接触させることと、
を経ている、研磨用組成物に関する。
【0013】
本発明により、研磨用組成物による研磨後における、研磨対象物表面の欠陥が低減されるメカニズムについて、詳細は不明であるが、以下のように考えられる。
【0014】
水溶性高分子に含まれる疎水性の不純物は、陽イオン交換などの処理によって除去することは困難である。そして、水溶性高分子に含まれる疎水性の不純物は、研磨中のウェーハ表面に吸着すると、付着箇所の研磨を妨げ、欠陥である研磨面の凹凸の原因となる。そのため、水溶性高分子を使用する場合、疎水性の不純物に起因する欠陥の減少は難しいとされていた。
【0015】
本発明では、原料水溶性高分子および溶媒を含む原料溶液を、疎水性の樹脂と接触させることを特徴とする。この特徴により、疎水性の不純物は、疎水性の樹脂との間の疎水性相互作用によって、原料水溶性高分子から除去される。その結果、得られた水溶性高分子を含む研磨用組成物を使用することで、疎水性の不純物が研磨中のウェーハ表面に吸着して付着箇所の研磨を妨げることを低減し、研磨用組成物による研磨後における、研磨対象物表面の欠陥の低減が実現される。
【0016】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本願の技術的範囲に影響
を及ぼすものではない。
【0017】
なお、本明細書において、「水溶液」、「溶液」とは、水溶性高分子が完全に溶解している状態の液のみならず、水溶性高分子の少なくとも一部が溶解している状態の液をも包含するものである。この際、残りの水溶性高分子は、溶媒に分散している状態(未溶解)であってもよい。また、本明細書において、「溶解させる」とは、溶解させることまたは分散させることを表す。
【0018】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0019】
(水溶性高分子)
研磨用組成物には、(1)原料水溶性高分子と溶媒を含む原料溶液を得ることと、(2)前記原料溶液を疎水性の樹脂と接触させることと、を経ている、水溶性高分子が含まれる。
【0020】
(1)溶液準備工程
研磨用組成物に含まれる水溶性高分子は、(1)原料水溶性高分子と溶媒を含む原料溶液を得ること(溶液準備工程)を経ている。溶液の準備は、原料水溶性高分子を溶媒に溶解して原料溶液を得ることによりなされてもよいし、溶液状の原料水溶性高分子をそのまま使用することでもよい。研磨用組成物に含まれる水溶性高分子は、原料水溶性高分子および溶媒を含む原料溶液を得ることを経て準備される。
【0021】
・原料水溶性高分子
本発明の一実施形態に係る原料水溶性高分子の種類は、水溶性を有する高分子化合物であれば特に制限されない。
【0022】
なお、本明細書中、「水溶性」とは、水(25℃)に対する溶解度が1g/100ml以上であることを意味し、「高分子化合物」とは、重量平均分子量が1,000以上である化合物をいう。重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができ、測定方法の詳細は実施例に記載する。
【0023】
原料水溶性高分子としては、天然高分子化合物、半合成高分子化合物、合成高分子化合物のいずれを用いてもよい。天然高分子化合物としては、特に制限されないが、好ましくは、多糖類等が挙げられる。また、半合成高分子化合物としては、特に制限されないが、好ましくは、セルロース誘導体、デンプン誘導体等が挙げられる。そして、合成高分子化合物としては、特に制限されないが、好ましくは、オキシアルキレン単位を有する高分子、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子、窒素原子を有する高分子等が挙げられる。なかでも、原料水溶性高分子は、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子およびセルロース誘導体のうちの少なくとも一方を含むことが好ましく、セルロース誘導体を含むことがより好ましい。これらの高分子を含む研磨用組成物は、研磨工程後の表面品位を向上させやすい。以下に、これら具体例化合物を挙げる。
【0024】
多糖類としては、特に制限されないが、例えば、カラギーナン、キサンタンガムなどが挙げられる。多糖類の種類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
オキシアルキレン単位を有する高分子としては、特に制限されないが、ポリエチレンオキサイド(PEO)や、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)またはブチレンオキサイド(BO)とのブロック共重合体、EOとPOまたはBOとのランダム共重合体等が例示される。
【0026】
そのなかでも、EOとPOのブロック共重合体またはEOとPOのランダム共重合体が好ましい。EOとPOとのブロック共重合体は、PEOブロックとポリプロピレンオキサイド(PPO)ブロックとを含むジブロック体、トリブロック体等であり得る。上記トリブロック体の例には、PEO-PPO-PEO型トリブロック体およびPPO-PEO-PPO型トリブロック体が含まれる。なかでも、PEO-PPO-PEO型トリブロック体がより好ましい。EOとPOとのブロック共重合体またはランダム共重合体において、該共重合体を構成するEOとPOとのモル比[EO/PO]は、水への溶解性や洗浄性等の観点から、1より大きいことが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上であることがさらに好ましい。さらに好ましい一態様において、上記モル比[EO/PO]は、例えば5以上である。
【0027】
オキシアルキレン単位を有する高分子の種類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子としては、繰返し単位としてビニルアルコール単位(以下「VA単位」ともいう。)のみを含んでいてもよく、VA単位に加えてVA単位以外の繰返し単位(以下「非VA単位」ともいう。)を含んでいてもよい。ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子の種類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。ビニルアルコール単位とは、次の化学式:-CH2-CH(OH)-;により表される構造部分である。ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子は、VA単位と非VA単位とを含むランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体やグラフト共重合体であってもよい。ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子は、一種類の非VA単位のみを含んでもよく、二種類以上の非VA単位を含んでもよい。
【0029】
ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子は、変性されていないポリビニルアルコール(非変性PVA)であってもよく、変性ポリビニルアルコール(変性PVA)であってもよい。ここで非変性PVAとは、ポリ酢酸ビニルを加水分解(けん化)することにより生成し、酢酸ビニルがビニル重合した構造の繰返し単位(-CH2-CH(OCOCH3)-)およびVA単位以外の繰返し単位を実質的に含まないビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子をいう。上記非変性PVAのけん化度は、例えば60%以上であってよく、水溶性の観点から70%以上でもよく、80%以上でもよく、90%以上でもよい。いくつかの態様において、けん化度が95%以上または98%以上である非変性PVAを原料水溶性高分子として好ましく採用し得る。
【0030】
変性PVAに含まれ得る非VA単位としては、例えば後述するN-ビニル型のモノマーやN-(メタ)アクリロイル型のモノマーに由来する繰返し単位、エチレンに由来する繰返し単位、アルキルビニルエーテルに由来する繰返し単位、炭素原子数3以上のモノカルボン酸のビニルエステルに由来する繰返し単位、等が挙げられるが、これらに限定されない。上記N-ビニル型のモノマーの一好適例として、N-ビニルピロリドンが挙げられる。上記N-(メタ)アクリロイル型のモノマーの一好適例として、N-(メタ)アクリロイルモルホリンが挙げられる。上記アルキルビニルエーテルは、例えばプロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル等の、炭素原子数1以上10以下のアルキル基を有するビニルエーテルであり得る。上記炭素原子数3以上のモノカルボン酸のビニルエステルは、例えばプロパン酸ビニル、ブタン酸ビニル、ペンタン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル等の、炭素原子数3以上7以下のモノカルボン酸のビニルエステルであり得る。
【0031】
ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子は、VA単位と、オキシアルキレン基、カルボキシ基、(ジ)カルボン酸基、(ジ)カルボン酸エステル、フェニル基、ナフチル基、スルホ基、アミノ基、水酸基、アミド基、イミド基、ニトリル基、エーテル基、エステル基、およびこれらの塩から選ばれる少なくとも1つの構造を有する非VA単位とを含む変性PVAであってもよい。
【0032】
ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子は、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子に含まれるVA単位の一部がアルデヒド化合物またはケトン化合物でアセタール化された変性PVAであってもよい。ここに開示される技術における好ましい一態様において、アセタール化された変性PVAは、上述の非変性PVAとアルデヒド化合物とのアセタール化反応により得られる高分子である。
【0033】
本発明の一実施形態において、アセタール化された変性PVAを生成するのに用いられるアルデヒド化合物は特に限定されない。好ましい一態様において、上記アルデヒド化合物の炭素数は1~7であり、より好ましくは2~7である。
【0034】
上記アルデヒド化合物としては、例えば、ホルムアルデヒド;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、t-ブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド等の直鎖または分岐アルキルアルデヒド類;シクロヘキサンカルバルデヒド、ベンズアルデヒド等の脂環式または芳香族アルデヒド類;が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。また、ホルムアルデヒドを除き、1以上の水素原子がハロゲン等により置換されたものであってもよい。なかでも、水に対する溶解性が高くアセタール化反応が容易である点から、直鎖または分岐アルキルアルデヒド類であることが好ましく、その中でもアセトアルデヒド、n-プロピルアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、n-ペンチルアルデヒドであることがより好ましい。
【0035】
アルデヒド化合物としては、上記の他にも、2-エチルヘキシルアルデヒド、ノニルアルデヒド、デシルアルデヒド等の炭素数8以上のアルデヒド化合物を用いてもよい。
【0036】
また、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子として、第四級アンモニウム構造等のカチオン性基が導入されたカチオン変性ポリビニルアルコールを使用してもよい。上記カチオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、ジアリルジアルキルアンモニウム塩、N-(メタ)アクリロイルアミノアルキル-N,N,N-トリアルキルアンモニウム塩等のカチオン性基を有するモノマーに由来するカチオン性基が導入されたものが挙げられる。また、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子として、非VA単位が化学式:-CH2-CH(CR5(OR8)-CR6(OR9)-R7)-により表される構造部分を有するものであってもよい。ここでR5~R7はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、R8およびR9は、それぞれ独立して水素原子またはR10-CO-(式中、R10はアルキル基を示す。)を示す。このような変性PVAとしては、側鎖に1,2-ジオール構造を有する変性PVAが挙げられる。
【0037】
ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子を構成する全繰返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合は、例えば5%以上であってよく、10%以上でもよく、20%以上でもよく、30%以上でもよい。特に限定するものではないが、いくつかの態様において、上記VA単位のモル数の割合は、50%以上であってよく、65%以上でもよく、75%以上でもよく、80%以上でもよく、90%以上(例えば95%以上、または98%以上)でもよい。ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子を構成する繰返し単位の実質的に100%がVA単位であってもよい。ここで「実質的に100%」とは、少なくとも意図的にはビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子に非VA単位を含有させないことをいい、典型的には全繰返し単位のモル数に占める非VA単位のモル数の割合が2%未満(例えば1%未満)であり、0%である場合を包含する。他のいくつかの態様において、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子を構成する全繰返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合は、例えば95%以下であってよく、90%以下でもよく、80%以下でもよく、70%以下でもよい。
【0038】
ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子におけるVA単位の含有量(質量基準の含有量)は、例えば5質量%以上であってよく、10質量%以上でもよく、20質量%以上でもよく、30質量%以上でもよい。特に限定するものではないが、いくつかの態様において、上記VA単位の含有量は、50質量%以上(例えば50質量%超)であってよく、70質量%以上でもよく、80質量%以上(例えば90質量%以上、または95質量%以上、または98質量%以上)でもよい。ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子を構成する繰返し単位の実質的に100質量%がVA単位であってもよい。ここで「実質的に100質量%」とは、少なくとも意図的にはビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子を構成する繰返し単位として非VA単位を含有させないことをいい、典型的にはビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子における非VA単位の含有量が2質量%未満(例えば1質量%未満)であることをいう。他のいくつかの態様において、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子におけるVA単位の含有量は、例えば95質量%以下であってよく、90質量%以下でもよく、80質量%以下でもよく、70質量%以下でもよい。
【0039】
ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子は、VA単位の含有量の異なる複数のポリマー鎖を同一分子内に含んでいてもよい。ここでポリマー鎖とは、一分子のポリマーの一部を構成する部分(セグメント)を指す。例えば、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子は、VA単位の含有量が50質量%より高いポリマー鎖Xと、VA単位の含有量が50質量%より低い(すなわち、非VA単位の含有量が50質量%より多い)ポリマー鎖Yとを、同一分子内に含んでいてもよい。
【0040】
ポリマー鎖Xは、繰返し単位としてVA単位のみを含んでいてもよく、VA単位に加えて非VA単位を含んでいてもよい。ポリマー鎖XにおけるVA単位の含有量は、60質量%以上でもよく、70質量%以上でもよく、80質量%以上でもよく、90質量%以上でもよい。いくつかの態様において、ポリマー鎖XにおけるVA単位の含有量は、95質量%以上でもよく、98質量%以上でもよい。ポリマー鎖Xを構成する繰返し単位の実質的に100質量%がVA単位であってもよい。
【0041】
ポリマー鎖Yは、繰返し単位として非VA単位のみを含んでいてもよく、非VA単位に加えてVA単位を含んでいてもよい。ポリマー鎖Yにおける非VA単位の含有量は、60質量%以上でもよく、70質量%以上でもよく、80質量%以上でもよく、90質量%以上でもよい。いくつかの態様において、ポリマー鎖Yにおける非VA単位の含有量は、95質量%以上でもよく、98質量%以上でもよい。ポリマー鎖Yを構成する繰返し単位の実質的に100質量%が非VA単位であってもよい。
【0042】
ポリマー鎖Xとポリマー鎖Yとを同一分子中に含むビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子の例として、これらのポリマー鎖を含むブロック共重合体やグラフト共重合体が挙げられる。上記グラフト共重合体は、ポリマー鎖X(主鎖)にポリマー鎖Y(側鎖)がグラフトした構造のグラフト共重合体であってもよく、ポリマー鎖Y(主鎖)にポリマー鎖X(側鎖)がグラフトした構造のグラフト共重合体であってもよい。一態様において、ポリマー鎖Xにポリマー鎖Yがグラフトした構造のビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子を用いることができる。
【0043】
ポリマー鎖Yの例としては、N-ビニル型のモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖、N-(メタ)アクリロイル型のモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸等のジカルボン酸ビニルに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖、スチレン、ナフタレンビニル等の芳香族ビニルモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖、オキシアルキレン単位を主繰返し単位とするポリマー鎖等が挙げられる。なお、本明細書において主繰返し単位とは、特記しない場合、50質量%を超えて含まれる繰返し単位をいう。
【0044】
ポリマー鎖Yの一好適例として、N-ビニル型のモノマーを主繰返し単位とするポリマー鎖、すなわちN-ビニル系ポリマー鎖が挙げられる。N-ビニル系ポリマー鎖におけるN-ビニル型モノマーに由来する繰返し単位の含有量は、典型的には50質量%超であり、70質量%以上であってもよく、85質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよい。ポリマー鎖Yの実質的に全部がN-ビニル型モノマーに由来する繰返し単位であってもよい。
【0045】
この明細書において、N-ビニル型のモノマーの例には、窒素を含有する複素環(例えばラクタム環)を有するモノマーおよびN-ビニル鎖状アミドが含まれる。N-ビニルラクタム型モノマーの具体例としては、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルモルホリノン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン等が挙げられる。N-ビニル鎖状アミドの具体例としては、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオン酸アミド、N-ビニル酪酸アミド等が挙げられる。ポリマー鎖Yは、例えば、その繰返し単位の50質量%超(例えば70質量%以上、または85質量%以上、または95質量%以上)がN-ビニルピロリドン単位であるN-ビニル系ポリマー鎖であり得る。ポリマー鎖Yを構成する繰返し単位の実質的に全部がN-ビニルピロリドン単位であってもよい。
【0046】
ポリマー鎖Yの他の例として、N-(メタ)アクリロイル型のモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖、すなわち、N-(メタ)アクリロイル系ポリマー鎖が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル系ポリマー鎖におけるN-(メタ)アクリロイル型モノマーに由来する繰返し単位の含有量は、典型的には50質量%超であり、70質量%以上であってもよく、85質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよい。ポリマー鎖Yの実質的に全部がN-(メタ)アクリロイル型モノマーに由来する繰返し単位であってもよい。
【0047】
この明細書において、N-(メタ)アクリロイル型モノマーの例には、N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドおよびN-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドが含まれる。N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドの例としては、(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;等が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドの例としては、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン等が挙げられる。
【0048】
ポリマー鎖Yの他の例として、オキシアルキレン単位を主繰返し単位として含むポリマー鎖、すなわちオキシアルキレン系ポリマー鎖が挙げられる。オキシアルキレン系ポリマー鎖におけるオキシアルキレン単位の含有量は、典型的には50質量%超であり、70質量%以上であってもよく、85質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよい。ポリマー鎖Yに含まれる繰返し単位の実質的に全部がオキシアルキレン単位であってもよい。
【0049】
オキシアルキレン単位の例としては、オキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、オキシブチレン単位等が挙げられる。このようなオキシアルキレン単位は、それぞれ、対応するアルキレンオキサイドに由来する繰返し単位であり得る。オキシアルキレン系ポリマー鎖に含まれるオキシアルキレン単位は、一種類であってもよく、二種類以上であってもよい。例えば、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とを組合せで含むオキシアルキレン系ポリマー鎖であってもよい。二種類以上のオキシアルキレン単位を含むオキシアルキレン系ポリマー鎖において、それらのオキシアルキレン単位は、対応するアルキレンオキシドのランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体やグラフト共重合体であってもよい。
【0050】
ポリマー鎖Yのさらに他の例として、アルキルビニルエーテル(例えば、炭素原子数1以上10以下のアルキル基を有するビニルエーテル)に由来する繰返し単位を含むポリマー鎖、モノカルボン酸ビニルエステル(例えば、炭素原子数3以上のモノカルボン酸のビニルエステル)に由来する繰返し単位を含むポリマー鎖、VA単位の一部がアルデヒド(例えば、炭素原子数1以上7以下のアルキル基を有するアルキルアルデヒド)でアセタール化されたポリマー鎖、カチオン性基(例えば、第四級アンモニウム構造を有するカチオン性基)が導入されたポリマー鎖、等が挙げられる。
【0051】
ここに開示される原料水溶性高分子におけるビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子としては、非変性PVAを用いてもよく、変性PVAを用いてもよく、非変性PVAと変性PVAとを組み合わせて用いてもよい。非変性PVAと変性PVAとを組み合わせて用いる態様において、原料水溶性高分子に含まれるビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子全量に対する変性PVAの使用量は、例えば95質量%未満であってよく、90質量%以下でもよく、75質量%以下でもよく、50質量%以下でもよく、30質量%以下でもよく、10質量%以下でもよく、5質量%以下でもよく、1質量%以下でもよい。ここに開示される原料水溶性高分子は、例えば、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子として一種または二種以上の非変性PVAのみを用いる態様で好ましく実施され得る。
【0052】
ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子の種類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
セルロース誘導体とは、セルロースの持つ水酸基の一部が他の置換基に置換されたものをいう。セルロース誘導体の種類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。セルロース誘導体としては、特に制限されないが、例えば、ヒドロキシエチルセルロース(以下、単に「HEC」とも称する。)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体およびプルラン等が挙げられる。セルロース誘導体の種類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
でんぷん誘導体としては、特に制限されないが、例えば、カチオンでんぷん、リン酸でんぷん、カルボキシメチルでんぷん塩などが挙げられる。でんぷん誘導体の種類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
窒素原子を有する高分子としては、特に制限されないが、例えば、ポリN-アクリロイルモルホリン(PACMO)、ポリN-ビニルピロリドン(PVP)、ポリヒドロキシルエチルアクリルアミド(PHEAA)、ポリN-ビニルイミダゾール(PVI)、ポリN-ビニルカルバゾール、ポリN-ビニルカプロラクタム、ポリN-ビニルピペリジン等が挙げられる。なかでも、研磨対象物のヘイズを低減させるという観点から、ポリN-アクリロイルモルホリン(PACMO)を含むことが好ましい。窒素原子を有する高分子の種類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
これらの中でも、本発明の欠陥の低減効果がより顕著となる観点から、原料水溶性高分子としては、半合成高分子化合物または合成高分子化合物が好ましく、半合成高分子化合物がより好ましい。そして、セルロース誘導体がさらに好ましく、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)が特に好ましい。原料水溶性高分子としてヒドロキシエチルセルロースを用いる場合(本明細書において、「原料HEC」とも称する。)、市販品を用いてもよく、合成品を用いてもよい。合成方法としては、特に制限されないが、例えば、アルカリセルロースとエチレンオキシドとを溶媒中で混合し反応させる方法等、従来公知の方法が挙げられる。原料HECとしては、特に制限されないが、粉体を用いることが好ましい。
【0057】
原料水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、1,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、100,000以上であることがさらに好ましい。また、原料水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は、4,000,000以下であることが好ましく、3,000,000以下であることがより好ましく、2,000,000以下であることがさらに好ましく、1,500,000以下であることがよりさらに好ましく、1,000,000以下であることが特に好ましく、例えば500,000以下とすることができる。
【0058】
原料水溶性高分子は、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0059】
原料水溶性高分子は、市販品を用いても合成品を用いてもよい。
【0060】
原料溶液中の原料水溶性高分子の含有量(濃度)は、特に制限されないが、原料溶液の総質量に対して、0.00001質量%以上であることが好ましく、0.001質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましく、0.1質量%以上であることがよりさらに好ましく、0.25質量%以上であることが特に好ましい。また、原料溶液中の原料水溶性高分子の含有量(濃度)は、特に制限されないが、原料溶液の総質量に対して、25質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%であることがさらに好ましく、5質量%以下であることがよりさらに好ましく、2質量%以下であることが特に好ましい。すなわち、上記(1)において、原料水溶性高分子を、原料水溶性高分子および溶媒を含む原料溶液の総質量に対して、上記の含有量(濃度)の範囲とすることが好ましい。本発明の好ましい一実施形態としては、上記(1)において、原料水溶性高分子を、原料水溶性高分子および溶媒を含む原料溶液の総質量に対して、0.1質量%以上5質量%以下とすることが挙げられる。そして、後述する接触工程や、陽イオン交換工程に適用する原料溶液中の原料水溶性高分子の含有量(濃度)もまた、上記と同様である。
【0061】
・溶媒
原料溶液に含まれる溶媒は、原料水溶性高分子が溶解できるものであれば特に制限されないが、水を含むことが好ましい。溶媒中の水の含有量は、特に制限されないが、溶媒の総質量に対して50質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%(水のみ)であることがさらに好ましい。水としては、基板の汚染や他の成分の作用を阻害することを防止するという観点から、不純物をできる限り含有しないことが好ましい。このような水としては、例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(DIW)(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0062】
また、溶媒は、原料水溶性高分子の溶解性を向上させることができる場合、有機溶媒であってもよく、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。有機溶媒としては、特に制限されず公知の有機溶媒を用いることができる。水と有機溶媒との混合溶媒とする場合は、水と混和する有機溶媒であるアセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等が好ましく用いられる。有機溶媒を用いる場合、水と有機溶媒とを混合し、得られた混合溶媒中に各成分を添加して溶解させてもよいし、これらの有機溶媒を水と混合せずに用いて、原料水溶性高分子を溶解させた後に、水と混合してもよい。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0063】
・塩基性化合物
原料溶液は、塩基性化合物を含有していてもよい。塩基性化合物とは、水溶液に添加されることによって水溶液のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。
【0064】
塩基性化合物の種類は、特に制限されないが、窒素を含む有機または無機の塩基性化合物、アルカリ金属または第2族金属の水酸化物、各種の炭酸塩や炭酸水素塩、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミン等が挙げられる。塩基性化合物は、窒素を含む有機または無機の塩基性化合物、アルカリ金属または第2族金属の水酸化物、各種の炭酸塩や炭酸水素塩、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。第2族金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等が挙げられる。炭酸塩または炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。水酸化第四級アンモニウムまたはその塩の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類等が挙げられる。塩基性化合物は、ママコ防止剤の除去等の観点から、アンモニア、水酸化第四級アンモニウム、水酸化第四級アンモニウムの塩、炭酸塩、炭酸水素塩およびアルカリ金属の水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。これらの中でも、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、アンモニアおよび水酸化テトラメチルアンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。塩基性化合物は、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0065】
塩基性化合物は、市販品を用いても合成品を用いてもよい。
【0066】
原料溶液中の塩基性化合物の含有量(濃度)は、特に制限されないが、原料溶液のpHが、好ましくは8.0以上、より好ましくは8.5以上、さらに好ましくは9.0以上となる量である。また、原料溶液中の塩基性化合物の含有量(濃度)は、特に制限されないが、原料溶液のpHが、好ましくは13.0以下、より好ましくは12.5以下、さらに好ましくは12.0以下、さらにより好ましくは11.5以下、特に好ましくは11.0以下となる量である。すなわち、塩基性化合物を、原料水溶性高分子および溶媒を含む原料溶液の総質量に対して、上記のpH範囲となるよう含有させることが好ましい。溶液準備工程で得られる原料溶液のpHの好ましい範囲は、上記と同様である。そして、後述する接触工程や、陽イオン交換工程に適用する原料溶液のpHの好ましい範囲も、上記と同様である。
【0067】
pHは、株式会社堀場製作所製のLAQUA(登録商標)またはその相当品を用いて測定することができる。なお、測定方法の詳細な実施例に記載する。
【0068】
・他の成分
原料溶液は、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、特に制限されず、例えば、界面活性剤、キレート剤、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、防腐剤、防カビ剤、酸化剤、還元剤等の公知の研磨用組成物に用いられる成分が挙げられる。原料水溶性高分子としてヒドロキシエチルセルロースを用いる場合は、他の成分として、過溶解を防止するためのママコ防止剤や、有機溶媒等が挙げられる。ママコ防止剤としては、特に制限されないが、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、グリセリンアルデヒド等のモノアルデヒド;シュウ酸ジアルデヒド(エタンジアール)、マロン酸ジアルデヒド(プロパンジアール)、コハク酸ジアルデヒド(ブタンジアール)、グルタルアルデヒド、アジピンアルデヒド、オクタンジアルデヒド、フタルアルデヒド等のジアルデヒド;トリホルミルメタン、トリホルミルエタン等のトリアルデヒド;等の分子内にCHO基を有する化合物等が挙げられる。
【0069】
(2)接触処理
研磨用組成物に含まれる水溶性高分子は、(2)原料水溶性高分子および溶媒を含む溶液を疎水性の樹脂に接触させること(接触処理)を経ている。研磨用組成物に含まれる水溶性高分子は、原料溶液を疎水性の樹脂と接触させることを含む接触工程を経て準備される。
【0070】
・疎水性の樹脂
本明細書において、疎水性の樹脂とは、SP値が13以下の単量体Aを含む高分子からなる樹脂を表す。ここでSP値とは、溶解度パラメータ(Solubility Parameter)を意味する。本明細書において、疎水性の樹脂を構成する単量体のSP値とは、R.F.Fedors:Polym.Eng.Sci.,14[2],147-154(1974)に記載の方法で求めた値をいう。なお、SP値が13以下の単量体を含む高分子からなる樹脂であって、イオン交換基を有するイオン交換樹脂は本明細書における疎水性の樹脂には含まれない。イオン交換基とは、スルホン酸基(-SO3H)やカルボン酸基(-COOH)等のカチオン性の交換基、四級アンモニウム基や1~3級アミン等のアニオン性の交換基を指す。
【0071】
疎水性の樹脂を構成する単量体AのSP値は、13以下であれば特に制限されないが、12.5以下であってもよく、12以下であってもよく、11.5以下であってもよく、11以下であってもよい。また、疎水性の樹脂を構成する単量体AのSP値は、6以上であれば特に制限されない。
【0072】
疎水性の樹脂を構成する単量体Aとしては、SP値が13以下であれば特に制限されないが、例えば、SP値が10.55であるスチレン、スチレン誘導体、SP値が8.56であるエチレンやSP値が8.02であるプロピレン等のエチレン性不飽和単量体、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニル、塩化ビニル、ナイロン等のアミド結合を有する単量体、オキシメチレン、ポリアルコールと多価カルボン酸を脱水縮合させた単位等が挙げられる。
【0073】
疎水性の樹脂としては、特に制限されないが、少なくとも1種の単量体Aに由来する構成単位を含む(共)重合体であることが好ましい。なお、「単量体に由来する構成単位」とは、その単量体から直接構成される構成単位のみではなく、重合反応後に置換基を導入することによって、その単量体に由来するように見える構造となった構成単位も含まれる。また、本明細書において、(共)重合体とは、共重合体および単独重合体を含む総称を表すものとする。
【0074】
スチレン誘導体としては、特に制限されないが、例えば、スチレン分子中の水素原子が置換基によって置換された化合物等が挙げられる。これらの中でも、好ましい例としては、炭化水素基で置換されたスチレン、ハロゲン基で置換されたスチレン等が挙げられる。
【0075】
炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、好ましくは、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数2以上20以下のアルケニル基、炭素数2以上20以下のアルキニル基等が挙げられる。これらの中でも、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数2以上20以下のアルケニル基が好ましく、炭素数1以上10以下のアルキル基、炭素数2以上10以下のアルケニル基がより好ましく、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数2以上6以下のアルケニル基がさらに好ましく、エチル基、ビニル基が特に好ましい。
【0076】
ハロゲン基としては、フルオロ基(F-)、クロロ基(Cl-)、ブロモ基(Br-)、ヨード基(I-)等が挙げられる。これらの中でも、ブロモ基が好ましい。置換基の位置は、特に制限されないが、スチレン分子中のベンゼン環の水素原子が置換基によって置換された化合物が好ましい。置換基の数は、特に制限されないが、1以上3以下であることが好ましく、1以上2以下であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。
【0077】
これらのことから、疎水性の樹脂を構成する単量体Aの好ましい例としては、スチレン、アルキル基で置換されたスチレン、ハロゲン基で置換されたスチレン、ジビニルベンゼン、アルキル基で置換されたジビニルベンゼン、ハロゲン基で置換されたジビニルベンゼン等が挙げられる。また、疎水性の樹脂を構成する単量体Aの特に好ましい例としては、スチレン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、臭素付加スチレンが好ましく、スチレン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、オルトブロモスチレン、メタブロモスチレン、パラブロモスチレン等が挙げられる。疎水性の樹脂を構成する単量体Aは、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0078】
また疎水性の樹脂は、SP値が13を超える単量体B由来の構成単位をさらに含んでいてもよい。単量体B由来の構成単位としては特に制限されず、公知のものを用いることができる。かような単量体としては、例えば、ビニルアルコールやウレタン等の単量体等が挙げられる。単量体Bは、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0079】
疎水性の樹脂としては、スチレンおよびスチレン誘導体からなる群より選択される、少なくとも1種の単量体を含む複数の単量体の(共)重合体を含むことが好ましい。当該(共)重合体としては、スチレン、ジビニルベンゼン、エチルビニルベンゼンおよび臭素付加スチレン(好ましくは、オルトブロモスチレン、メタブロモスチレンおよびパラブロモスチレンからなる群より選択される少なくとも1種)からなる群より選択される少なくとも2種の単量体を含む複数の単量体の共重合体がより好ましく、スチレン、ジビニルベンゼン、エチルビニルベンゼンおよび臭素付加スチレン(好ましくは、オルトブロモスチレン、メタブロモスチレンおよびパラブロモスチレンからなる群より選択される少なくとも1種)からなる群より選択される少なくとも2種の単量体の共重合体がさらに好ましく、スチレンと、ジビニルベンゼンとの共重合体、ジビニルベンゼンと、エチルビニルベンゼンとの共重合体、臭素付加スチレン(好ましくは、オルトブロモスチレン、メタブロモスチレンおよびパラブロモスチレンからなる群より選択される少なくとも1種)と、ジビニルベンゼンとの共重合体等が特に好ましい。
【0080】
疎水性の樹脂としては、スチレンおよびスチレン誘導体からなる群より選択される、少なくとも1種の単量体に由来する構成単位を含む樹脂を含むことが好ましい。当該樹脂としては、スチレン、ジビニルベンゼン、エチルビニルベンゼンおよび臭素付加スチレン(好ましくは、オルトブロモスチレン、メタブロモスチレンおよびパラブロモスチレンからなる群より選択される少なくとも1種)からなる群より選択される少なくとも2種の単量体を含む複数の単量体由来の構成単位を含む樹脂がより好ましく、スチレン、ジビニルベンゼン、エチルビニルベンゼンおよび臭素付加スチレン(好ましくは、オルトブロモスチレン、メタブロモスチレンおよびパラブロモスチレンからなる群より選択される少なくとも1種)からなる群より選択される少なくとも2種の単量体由来の構成単位を含む樹脂がさらに好ましく、スチレンに由来する構成単位と、ジビニルベンゼンに由来する構成単位とを含む樹脂、ジビニルベンゼンに由来する構成単位と、エチルビニルベンゼンに由来する構成単位とを含む樹脂、臭素付加スチレン(好ましくは、オルトブロモスチレン、メタブロモスチレンおよびパラブロモスチレンからなる群より選択される少なくとも1種)に由来する構成単位と、ジビニルベンゼンに由来する構成単位とを含む樹脂が特に好ましい。
【0081】
疎水性の樹脂の末端は、特に制限されないが、例えば、水素原子であることが好ましい。
【0082】
なお、疎水性の樹脂が共重合体である場合、共重合体の種類は特に限定されず、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体のいずれであってもよい。
【0083】
研磨用組成物による研磨後における、研磨対象物表面の欠陥の低減効果の観点から、疎水性の樹脂は、細孔を有することが好ましい。疎水性の樹脂が細孔を有することは、ガス吸着法により確認することができる。
【0084】
疎水性の樹脂の細孔の最頻度半径は、特に制限されないが、1nm以上であることが好ましく、4nm以上であることがより好ましく、8nm以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、疎水性不純物を補足しやすくなる。また、疎水性の樹脂の細孔の最頻度半径は、特に制限されないが、100nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましく、15nm以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、疎水性不純物を補足しやすくなる。好ましい一実施形態において、疎水性の樹脂の細孔の最頻度半径は、1nm以上100nm以下である。疎水性の樹脂の細孔の最頻度半径は、ガス吸着法によって測定することができる。
【0085】
疎水性の樹脂は、粒子状であることが好ましい。粒子の形状は、特に制限されず、球状または非球形状のどちらであってもよい。
【0086】
疎水性の樹脂の粒子径の範囲は、特に制限されないが、100μm以上であることが好ましく、200μm以上であってもよく、300μm以上であってもよい。この範囲であると、疎水性不純物を補足しやすくなる。疎水性の樹脂の粒子径の範囲は、特に制限されないが、1000μm以下であることが好ましく、900μm以下であってもよく、800μm以下であってもよい。この範囲であると、疎水性不純物を補足しやすくなる。好ましい一実施形態において、疎水性の樹脂の粒子径は、100μm以上1000μm以下の範囲内である。
【0087】
疎水性の樹脂の粒子径は、特に制限されないが、粒子径250μm以上の粒子が90%以上(粒子径250μm以上の粒子の総質量が、全粒子の総質量の90%以上)であることが好ましい。この範囲であると、研磨対象物表面の欠陥の低減効果がより向上する。
【0088】
疎水性の樹脂の粒子径は、篩網による粒度測定によって求めることができる。
【0089】
疎水性の樹脂は、市販品を用いても合成品を用いてもよい。疎水性の樹脂は、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0090】
・接触方法
上記(2)接触処理において、原料水溶性高分子および溶媒を含む原料溶液を疎水性の樹脂に接触させる方法(接触方法)としては、特に制限されない。例えば、(a)原料溶液を疎水性の樹脂を含むカラムに通液することを含む方法等が挙げられる。また、例えば、(b)原料溶液と、疎水性の樹脂とを混合して混合液を得て、混合液を撹拌することを含む方法等が挙げられる。本発明の好ましい一実施形態において、接触工程において、接触方法としては、(a)原料溶液を疎水性の樹脂を含むカラムに通液すること、および(b)原料溶液と、疎水性の樹脂とを混合して混合液を得て、混合液を撹拌すること、からなる群より選択される少なくとも一方を含む方法である。これらの中でも、(a)原料溶液を疎水性の樹脂を含むカラムに通液することを含む方法が好ましい。
【0091】
上記(a)の方法において、原料溶液を疎水性の樹脂を含むカラムに通液する方法は、特に制限されない。例えば、樹脂が入ったカラムに、原料溶液を通液する方法が挙げられる。通液開始時において、樹脂が入ったカラムは、水(好ましくは、脱イオン水(DIW))で満たした状態であることが好ましい。通液は、特に制限されないが、電動ポンプを用いて行うことが好ましい。なお、上記(a)の方法について、その好ましい一例に係る手順の詳細は、実施例に記載する。
【0092】
図1は、原料水溶性高分子および溶媒を含む原料溶液を、疎水性の樹脂に接触させる方法の一例を示す説明図である。この方法では、原料水溶性高分子および溶媒を含む原料溶液を、疎水性の樹脂を含むカラムに通液する。ここで、
図1において、1はカラムを表し、2は疎水性の樹脂を表し、Dは原料水溶性高分子および溶媒を含む原料溶液の通液方向を表し、Aは、カラムの断面積を表す。ただし、
図1に示す接触方法は、あくまで一例であって、本発明の接触方法はこの方法に限定されるものではない。
【0093】
カラムの形状は、特に制限されないが、円筒状であることが好ましい。カラムの断面積は、特に制限されないが、1cm2以上10000cm2以下が好ましく、5cm2以上5000cm2以下がより好ましい。この範囲であると、研磨用組成物の欠陥低減効果が高く、生産性をより向上することができる。なお、カラムの断面積は、通液方向と直交する面内の断面積を表す。カラムの容積は、特に制限されないが、0.1リットル(l)以上が好ましく、0.5リットル以上がより好ましく、1リットル以上がさらに好ましい。また、カラムの容積は、特に制限されないが100リットル以下が好ましく、75リットル以下がより好ましく、50リットル以下がさらに好ましい。この範囲であると、研磨用組成物の欠陥低減効果が高く、生産性をより向上することができる。
【0094】
カラム中への疎水性の樹脂の添加量は、特に制限されないが、カラムの容積に対して、50容積%以上であることが好ましく、60容積%以上であることが好ましく、70容積%以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、研磨用組成物による研磨後における、研磨対象物表面の欠陥低減効果がより向上する。カラム中への疎水性の樹脂の添加量は、特に制限されないが、カラムの容積に対して、100容積%未満であることが好ましく、90容積%以下であることがより好ましく、80容積%以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、生産性がより向上する。
【0095】
原料溶液の流量としては、特に制限されないが、10ml/min以上が好ましく、100ml/min以上がより好ましく、250ml/min以上がさらに好ましい。この範囲であると、生産性がより向上する。原料溶液の流量は、特に制限されないが、100,000ml/min以下が好ましく、50,000ml/min以下がより好ましく、20,000ml/min以下がさらに好ましい。この範囲であると、研磨用組成物による研磨後における、研磨対象物表面の欠陥低減効果がより向上する。本発明の好ましい一実施形態としては、上記(a)において、原料水溶性高分子および溶媒を含む原料溶液の流量を、10ml/min以上20,000ml/min以下とすることが挙げられる。
【0096】
カラムの単位断面積(1cm2)あたりの原料溶液の流量としては、特に制限されないが、1ml/(min・cm2)以上が好ましく、2ml/(min・cm2)以上がより好ましく、3ml/(min・cm2)以上がさらに好ましい。この範囲であると、生産性がより向上する。カラムの単位断面積(1cm2)あたりの原料溶液の流量は、特に制限されないが、30ml/(min・cm2)以下が好ましく、20ml/(min・cm2)以下がより好ましく、10ml/(min・cm2)以下がさらに好ましい。この範囲であると、研磨用組成物による研磨後における、研磨対象物表面の欠陥低減効果がより向上する。本発明の好ましい一実施形態としては、上記(a)において、カラムの単位断面積(1cm2)あたりの、原料水溶性高分子および溶媒を含む原料溶液の流量を、1ml/(min・cm2)以上30ml/(min・cm2)以下の範囲内とすることが挙げられる。
【0097】
原料溶液の通液量としては、準備する水溶性高分子の量に応じて異なるため特に制限されないが、0.1リットル(l)以上が好ましく、1リットル以上がより好ましいまた、原料溶液の通液量としては、特に制限されないが、100,000リットル以下が好ましく、50,000リットル以下がより好ましい。
【0098】
処理温度は、特に制限されないが、好ましくは、10℃以上30℃以下であり、より好ましくは室温(20℃以上25℃以下)である。
【0099】
(3)陽イオン交換処理
研磨用組成物に含まれる水溶性高分子は、必要に応じて、(3)原料溶液中の原料水溶性高分子を、陽イオン交換すること(陽イオン交換処理)を経ていてもよい。すなわち、水溶性高分子は、原料水溶性高分子と、溶媒とを含む原料溶液を陽イオン交換することを含む陽イオン交換工程を経て準備されてもよい。
【0100】
陽イオン交換処理は、特に制限されないが、上記(1)と、上記(2)との間に実施されてもよいし、上記(2)の後に実施されてもよいし、これらの両方で実施されていてもよい。本発明の一実施形態として、研磨用組成物に含まれる水溶性高分子は、(1)原料水溶性高分子と溶媒を含む原料溶液を得ることと、(2)前記原料溶液を疎水性の樹脂に接触させることと、(3)上記(1)と、上記(2)との間、および上記(2)の後からなる群より選択される少なくとも一方で、前記原料溶液中の前記原料水溶性高分子を陽イオン交換することと、を経ていることが好ましい。陽イオン交換樹脂としては、特に制限されず、公知の樹脂を使用することができる。陽イオン交換樹脂は、市販品を用いても合成品を用いてもよい。イオン交換基は、特に制限されないが、酸性基であることが好ましく、スルホン酸基であることがより好ましい。市販品としては、特に制限されないが、陽イオン交換樹脂は、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0101】
陽イオン交換の方法としては、特に制限されず、公知の方法を使用することができる。これらの中でも、原料水溶性高分子および溶媒を含む原料溶液をカチオン交換樹脂に通液することを含む方法が好ましい。陽イオン交換処理は、例えば、使用する樹脂が異なること以外は、上記(a)の方法と同様の方法で行ってもよい。なお、カラムの形状、断面積、カラムの容積、原料溶液の流量、カラムの単位断面積(1cm2)あたりの原料溶液の流量、通液量、処理温度の範囲は、特に制限されないが、これらの好ましい範囲もまた、上記(a)の方法と同様である。また、カラム中へのカチオン交換樹脂の添加量の範囲は、特に制限されないが、これらの好ましい範囲もまた、上記(a)の方法における、カラム中への疎水性の樹脂の添加量と同様である。
【0102】
陽イオン交換処理の後に、原料溶液のpH調整を行ってもよい。pHの調整は、塩基性化合物を用いて行うことが好ましい。塩基性化合物の例としては、上記の原料溶液の説明と同様のものが挙げられ、好ましい塩基性化合物もまた、上記の原料溶液の説明と同様のものが挙げられる。陽イオン交換処理後の原料溶液のpHは、特に制限されないが、好ましくは8.0以上、より好ましくは8.5以上、さらに好ましくは9.0以上である。また、陽イオン交換処理後の原料溶液のpHは、特に制限されないが、好ましくは13.0以下、より好ましくは12.5以下、さらに好ましくは12.0以下、よりさらに好ましくは11.5以下、特に好ましくは11.0以下である。pHは、株式会社堀場製作所製のLAQUA(登録商標)またはその相当品を用いて測定することができる。
【0103】
(4)他の処理
研磨用組成物に含まれる水溶性高分子は、必要に応じて、上記(1)~(3)以外の処理をさらに経て、研磨用組成物に用いられる水溶性高分子が準備されてもよい。
【0104】
このようにして、上記(1)および上記(2)の処理を経て、研磨用組成物に用いられる水溶性高分子が準備される。また、上記(1)および上記(2)の処理に加えて、必要に応じて、上記(3)の処理をさらに経て、研磨用組成物に用いられる水溶性高分子が準備されることが好ましい。また、上記(1)および上記(2)の処理、または上記(1)~(3)の処理に加えて、必要に応じて、上記(1)~(3)以外の処理をさらに経て、研磨用組成物に用いられる水溶性高分子が準備されてもよい。
【0105】
原料水溶性高分子と、原料水溶性高分子の処理によって得られる、研磨用組成物に用いられる水溶性高分子とは、通常、同じ種類である。よって、研磨用組成物に用いられる水溶性高分子の種類の例は、上記の原料水溶性高分子の説明と同様である。
【0106】
なお、上記(1)および上記(2)の処理を経て、必要に応じてこれら以外の処理をさらに経て得られる水溶性高分子の好ましい重量平均分子量(Mw)の好ましい範囲は、上記の原料水溶性高分子の好ましい範囲と同様である。なお、得られる水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)の測定方法もまた、上記原料水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)の測定方法と同様である。
【0107】
研磨用組成物において、水溶性高分子は、1種単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0108】
研磨用組成物中の水溶性高分子の含有量(濃度)は、特に制限されないが、表面品質向上等の観点から、研磨用組成物の総質量に対して、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.0005質量%以上であることがより好ましく、例えば0.001質量%以上であることがさらに好ましく、0.002質量%以上であることがよりさらに好ましく、0.005質量%以上であることが特に好ましい。また、上記含有量(濃度)は、特に制限されないが、欠陥の低減など、研磨除去速度向上等の観点から、研磨用組成物の総質量に対して、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以下であることがさらに好ましく、0.05質量%以下であることがよりさらに好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。
【0109】
(砥粒)
研磨用組成物は、砥粒を含んでも良いし、砥粒を含まなくても良いが、砥粒を含むことが好ましい。
【0110】
研磨用組成物が砥粒を含む場合、砥粒の種類は特に制限されず、例えば、無機粒子、有機粒子、有機無機複合粒子等が挙げられる。これらの中でも、無機粒子が好ましい。本発明の好ましい一実施形態に係る研磨用組成物において、砥粒は、無機粒子を含む。無機粒子としては、特に制限されないが、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩等が挙げられる。これらの中でも、シリカ粒子がより好ましく、コロイダルシリカ粒子、フュームドシリカ粒子がさらに好ましく、コロイダルシリカ粒子が特に好ましい。砥粒の種類は、1種単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0111】
砥粒の平均一次粒子径は、特に制限されないが、研磨効率等の観点から、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、15nm以上であることがさらに好ましい。ヘイズの低減や欠陥の除去等の効果を得る観点から、上記平均一次粒子径は、15nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、例えば20nm超とすることができる。また、砥粒が基板表面に与える局所的なストレスを抑制する観点から、砥粒の平均一次粒子径は100nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましく、60nm以下であることがさらに好ましい。ここに開示される技術は、より高品位の表面が得られやすいこと等から、平均一次粒子径が50nm以下、典型的には40nm未満、より好ましくは35nm以下の砥粒を用いる態様でも好ましく実施されうる。
【0112】
なお、本明細書においてBET径とは、BET法により測定される比表面積(BET値)から、BET径(nm)=6000/(真密度(g/cm3)×BET値(m2/g))の式により算出される粒子径をいう。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0113】
砥粒の平均二次粒子径は、特に制限されないが、研磨効率等の観点から、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらにより好ましく、25nm以上であることが特に好ましい。ヘイズの低減や欠陥の除去等の効果を得る観点から、上記平均二次粒子径は、30nm以上が好ましく、40nm以上がより好ましい。また、砥粒が基板表面に与える局所的なストレスを抑制する観点から、砥粒の平均二次粒子径は300nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、150nm以下であることがさらに好ましく、125nm以下であることがさらにより好ましい。ここに開示される技術は、より高品位の表面が得られやすいこと等から、平均二次粒子径が100nm以下、例えば80nm未満(典型的には45nm以下)の砥粒を用いる態様でも好ましく実施されうる。砥粒の平均二次粒子径の減少によって、研磨用組成物の安定性は向上する。
【0114】
なお、砥粒の平均二次粒子径は、例えば、日機装株式会社製の型式「UPA-UT151」を用いた動的光散乱法により測定することができる。
【0115】
砥粒は、市販品を用いても合成品を用いてもよい。
【0116】
砥粒は、1種単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0117】
研磨用組成物中の砥粒の含有量(濃度)は、特に制限されないが、研磨除去速度向上等の観点から、研磨用組成物の総質量に対して、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.02質量%以上であることがさらに好ましく、0.03質量%以上であることがよりさらに好ましく、0.05質量%以上であることがよりさらに好ましく、0.1質量%以上であることが特に好ましい。また、研磨用組成物中の砥粒の含有量(濃度)は、特に制限されないが、欠陥の低減など、表面品位向上等の観点から、25質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがよりさらに好ましく、1質量%であることが特に好ましい。
【0118】
(塩基性化合物)
研磨用組成物には、塩基性化合物が含まれる。塩基性化合物とは、水に添加されることによって水のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。
【0119】
塩基性化合物の種類は、特に制限されないが、窒素を含む有機または無機の塩基性化合物、アルカリ金属または第2族金属の水酸化物、各種の炭酸塩や炭酸水素塩、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミン等が挙げられる。塩基性化合物は、窒素を含む有機または無機の塩基性化合物、アルカリ金属または第2族金属の水酸化物、各種の炭酸塩や炭酸水素塩、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。第2族金属の水酸化物としては、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等が挙げられる。炭酸塩または炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。水酸化第四級アンモニウムまたはその塩の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類等が挙げられる。塩基性化合物は、表面欠陥低減の観点から、アンモニア、水酸化第四級アンモニウム、水酸化第四級アンモニウムの塩、炭酸塩、炭酸水素塩およびアルカリ金属の水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。これらの中でも、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、アンモニアおよび水酸化テトラメチルアンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。塩基性化合物は、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0120】
塩基性化合物は、市販品を用いても合成品を用いてもよい。
【0121】
研磨用組成物中の塩基性化合物の含有量(濃度)は、特に制限されないが、研磨除去速度向上等の観点から、研磨用組成物の総質量に対して、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.0005質量%以上であることがより好ましく、0.001質量%以上であることがさらに好ましく、0.002質量%以上であることがよりさらに好ましく、0.005質量%以上であることが特に好ましい。また、研磨用組成物中の塩基性化合物の含有量(濃度)は、特に制限されないが、欠陥の低減など、表面品位向上等の観点から、研磨用組成物の総質量に対して、15質量%未満であることが好ましく、10質量%未満であることがより好ましく、5質量%未満であることがさらに好ましく、1.0質量%未満であることがよりさらに好ましく、0.5質量%未満であることが特に好ましい。
【0122】
(界面活性剤)
研磨用組成物は、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性のいずれのものも使用可能である。これらの中でも、アニオン性またはノニオン性の界面活性剤を好ましく採用し得る。低起泡性やpH調整の容易性の観点から、ノニオン性の界面活性剤がより好ましい。例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のオキシアルキレン重合体;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシアルキレン誘導体;複数種のオキシアルキレンの共重合体;等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。ポリオキシアルキレン誘導体は、例えば、ポリオキシアルキレン付加物である。複数種のオキシアルキレンの共重合体は、例えば、ジブロック型共重合体、トリブロック型共重合体、ランダム型共重合体、交互共重合体である。これらの中でも、ポリオキシアルキレン誘導体が好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテルがより好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、特に制限されないが、ポリオキシエチレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンペンチルエーテル、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、ポリオキシエチレンデシルエーテルがさらに好ましい。界面活性剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0123】
界面活性剤は、市販品を用いても合成品を用いてもよい。
【0124】
研磨用組成物中の界面活性剤の含有量(濃度)は、特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、0.00001質量%以上であることが好ましく、0.00005質量%以上であることがより好ましく、0.0001質量%以上であることがさらに好ましく、0.0002質量%以上であることがよりさらに好ましく、0.0005質量%以上であることが特に好ましい。また、研磨用組成物中の界面活性剤の含有量(濃度)は、研磨用組成物の総質量に対して、1.5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下であることがよりさらに好ましく、0.05質量%以下であることが特に好ましい。
【0125】
(分散媒)
研磨用組成物は、分散媒を含有してもよい。分散媒は、水を含むことが好ましい。分散媒中の水の含有量は、特に制限されないが、分散媒の総質量に対して50質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%(水のみ)であることがさらに好ましい。水は、欠陥の低減など、表面品位向上等の観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましい。例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(DIW)(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0126】
分散媒は、各成分の分散性または溶解性を向上させることができる場合、有機溶媒であってもよく、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。有機溶媒としては、特に制限されず公知の有機溶媒を用いることができる。水と有機溶媒との混合溶媒とする場合は、水と混和する有機溶媒であるアセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等が好ましく用いられる。有機溶媒は、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0127】
(他の成分)
研磨用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、特に制限されず、例えば、本明細書に開示の上記の処理がなされていない水溶性高分子、キレート剤、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、防腐剤、防カビ剤、酸化剤、還元剤等の公知の研磨用組成物に用いられる成分が挙げられる。
【0128】
(pH)
研磨用組成物のpHは、特に制限されないが、7.0超であることが好ましく、8.0以上であることがより好ましく、8.5以上であることがさらに好ましく、9.0以上であることがよりさらに好ましく、9.5以上であることが特に好ましく、10.0以上であることがさらに特に好ましい。研磨用組成物のpHが高くなると、研磨除去速度が向上する傾向にある。一方、砥粒の溶解を防いで機械的な研磨作用の低下を抑制する観点から、研磨用組成物のpHは、12.0以下であることが好ましく、11.5以下であることがより好ましく、11.0以下であることがさらに好ましく、10.8以下であることがよりさらに好ましく、10.5以下であることが特に好ましい。
【0129】
pHは、pHメーターを使用し、標準緩衝液を用いて3点校正した後で、ガラス電極を測定対象の組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。pHメーターとしては、例えば、株式会社堀場製作所製のLAQUA(登録商標)またはその相当品を用いることができる。標準緩衝液としては、フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃)を用いることができる。
【0130】
(用途)
研磨用組成物は、種々の材質および形状を有する研磨対象物の研磨に適用され得る。研磨対象物は、特に制限されないが、基板であることが好ましく、半導体基板であることがより好ましい。基板の材質は、例えば、シリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン、ステンレス鋼等の金属もしくは半金属、またはこれらの合金;石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ガラス状カーボン等のガラス状物質;アルミナ、シリカ、サファイア、窒化ケイ素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料;炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等の化合物半導体基板材料;ポリイミド樹脂等の樹脂材料;等であり得る。これらのうち複数の材質により構成された基板であってもよい。
【0131】
研磨用組成物は、シリコンからなる表面の研磨、典型的にはシリコンウェーハの研磨に特に好ましく使用され得る。シリコンウェーハの典型例はシリコン単結晶ウェーハであり、例えば、シリコン単結晶インゴットをスライスして得られたシリコン単結晶ウェーハである。研磨用組成物は、シリコンからなる表面を有する基板の研磨に好適に使用され得る。
【0132】
研磨用組成物は、例えばシリコンウェーハ等のポリシング工程に好ましく適用することができる。基板には、研磨用組成物によるポリシング工程の前に、ラッピングやエッチング等の、ポリシング工程より上流の工程において基板に適用され得る一般的な処理が施されていてもよい。
【0133】
研磨用組成物は、例えば、上流の工程によって表面粗さ0.01nm~100nmの表面状態に調製された研磨対象物(例えばシリコンウェーハ)のポリシングにおいて好ましく用いられ得る。研磨対象物の表面粗さRaは、例えば、Schmitt Measurement System Inc.社製のレーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」を用いて測定することができる。ファイナルポリシング(仕上げ研磨)、ファイナルポリシングの直前のポリシング(仕上げ研磨の直前の研磨)での使用が効果的であり、ファイナルポリシングにおける使用が特に好ましい。ここで、ファイナルポリシングとは、目的物の製造プロセスにおける最後のポリシング工程、すなわちその工程の後にはさらなるポリシングを行わない工程を指す。ここに開示される研磨用組成物は、ファイナルポリシングよりも上流のポリシング工程に用いられてもよい。ここで、ファイナルポリシングよりも上流のポリシング工程とは、粗研磨工程と最終研磨工程との間の予備研磨工程を指す。典型的には少なくとも1次ポリシング工程を含み、さらに2次、3次・・・等のポリシング工程を含み得る。
【0134】
研磨用組成物は、典型的には研磨液の形態で研磨対象物に供給されて、その研磨対象物の研磨に用いられる。研磨液は、例えば、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を希釈して調製されたものであり得る。上記希釈は、典型的には、水による希釈である。あるいは、研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物の概念には、研磨対象物に供給されて研磨対象物の研磨に用いられる研磨液(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨液として用いられる濃縮液、すなわち研磨液の原液との双方が包含される。研磨用組成物を含む研磨液の他の例として、研磨用組成物のpHを調整してなる研磨液が挙げられる。
【0135】
(濃縮液)
研磨用組成物は、研磨対象物に供給される前には濃縮された形態であってもよい。すなわち、これより、本発明の他の一態様は、上記の研磨用組成物からなる研磨液の濃縮液に関するとも言える。研磨用組成物は、研磨液の濃縮液の形態であり、研磨液の原液としても把握され得る。このように濃縮された形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は特に限定されず、例えば、体積換算で2倍~100倍程度とすることができ、通常は5倍~50倍程度(例えば10倍~40倍程度)が適当である。
【0136】
このような濃縮液は、所望のタイミングで希釈して研磨液(ワーキングスラリー)を調製し、研磨液を研磨対象物に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、例えば、上記濃縮液に水を加えて混合することにより行うことができる。
【0137】
上記濃縮液における砥粒の含有量(濃度)は、特に制限されないが、濃縮液の総質量に対して、例えば50質量%以下とすることができる。上記濃縮液の取扱い性、例えば砥粒の分散安定性や濾過性等の観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下である。また、砥粒の含有量(濃度)は、特に制限されないが、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、濃縮液の総質量に対して、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上である。
【0138】
(研磨用組成物の製造方法)
研磨用組成物の製造方法は、研磨用組成物に含まれる各成分を混合することを含むものであれば特に制限されない。すなわち、研磨用組成物の製造方法は、塩基性化合物と、本明細書に開示の処理がなされた水溶性高分子とを混合することを含むものであれば、特に制限されない。これより、本発明の他の一形態は、(1)原料水溶性高分子と溶媒を含む原料溶液を得ることと、(2)前記原料溶液を疎水性の樹脂に接触させること(接触処理)と、を経て水溶性高分子を準備することと、前記水溶性高分子溶液と、塩基性化合物とを混合することと、を含む、研磨用組成物の製造方法であるとも言える。また、必要に応じて、他の成分をさらに添加、混合してもよい。
【0139】
研磨用組成物の製造方法は、(1)原料水溶性高分子と溶媒を含む原料溶液を得ることと、(2)前記原料溶液を疎水性の樹脂に接触させること(接触処理)と、を経て水溶性高分子溶液を得た後、得られた水溶性高分子溶液と、塩基性化合物とを混合することを含む方法が挙げられる。研磨用組成物の製造方法のより好ましい一実施形態としては、(1)原料水溶性高分子と溶媒を含む原料溶液を得ることと、(2)前記原料溶液を疎水性の樹脂に接触させること(接触処理)と、を経て水溶性高分子溶液を得た後、得られた水溶性高分子溶液と、塩基性化合物と、砥粒とを混合することを含む方法が挙げられる。このように研磨用組成物を製造することで、砥粒の凝集を防ぐことができるため、研磨性能も向上する。
【0140】
塩基性化合物および/または必要に応じて添加されうる他の成分の添加順序は、特に制限されない。砥粒を含む研磨用組成物を製造する場合、塩基性化合物および/または必要に応じて添加されうる砥粒以外の他の成分の添加順序は、上記得られた水溶性高分子溶液と、砥粒との混合の前に添加してもよく、これらの混合の後に添加してもよい。また、塩基性化合物および/または必要に応じて添加されうる他の成分を添加した後に、必要に応じてろ過工程を行ってもよい。
【0141】
研磨用組成物は、一剤型であってもよく、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、砥粒を含む研磨用組成物を製造する場合、研磨用組成物の構成成分のうち少なくとも砥粒を含むパートAと、残りの成分の少なくとも一部を含むパートBとを混合し、これらを必要に応じて適切なタイミングで混合および希釈することにより研磨液が調製されるように構成されていてもよい。
【0142】
各成分の混合手段は、特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、研磨用組成物を構成する各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。混合温度は特に制限されないが、一般的には10~40℃が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
【0143】
研磨用組成物に含まれる水溶性高分子は、前述のように、(1)原料水溶性高分子と溶媒を含む原料溶液を得ることと、(2)前記原料溶液を疎水性の樹脂に接触させること(接触処理)と、を経て準備される。また、研磨用組成物に含まれる水溶性高分子は、前記原料溶液中の前記原料水溶性高分子を陽イオン交換すること(陽イオン交換処理)を経て準備されてもよい。陽イオン交換処理は、特に制限されないが、上記(1)と、上記(2)との間、および上記(2)の後からなる群より選択される少なくとも一方で実施されることが好ましい。
【0144】
すなわち、本発明の他の一態様は、(1)原料水溶性高分子を溶媒に溶解して原料溶液を得ることと、(2)前記原料溶液を疎水性の樹脂を接触させることと、を経て、水溶性高分子を準備することと、前記水溶性高分子と、塩基性化合物とを混合することを含む、研磨用組成物の製造方法に関するとも言える。当該製造方法は、上記の研磨用組成物の一例でもある。当該製造方法において、前記水溶性高分子と塩基性化合物に加えて、砥粒をさらに混合することを含むことが好ましい。
【0145】
また、研磨用組成物の製造方法の一実施形態としては、(1)原料水溶性高分子と溶媒を含む原料溶液を得ることと、(2)前記原料溶液を疎水性の樹脂に接触させることと、(3)上記(1)と、上記(2)との間、および上記(2)の後からなる群より選択される少なくとも一方で、前記原料溶液中の前記原料水溶性高分子を陽イオン交換することと、を経て、水溶性高分子を準備することと、前記水溶性高分子と、塩基性化合物とを混合することと、を含む方法が挙げられる。また、当該製造方法において、前記水溶性高分子と前記塩基性化合物に加えて、砥粒をさらに混合することを含むことが好ましい。
【0146】
なお、研磨用組成物の製造方法において、水溶性高分子の準備方法の詳細は、上記で説明した通りである。研磨用組成物の各成分、物性や特性の詳細もまた、上記で説明した通りである。そして、これらの好ましい実施形態もまた、上記で説明した通りである。
【0147】
(研磨方法)
前述のように、上記の研磨用組成物は、研磨対象物の研磨に用いられることが好ましい。すなわち、本発明のその他の一態様は、上記の研磨用組成物を用いて、研磨対象物を研磨する、研磨方法に関するとも言える。
【0148】
以下、研磨において用いられる研磨装置、および研磨条件について説明する。なお、前述のように、研磨用組成物の概念には、基板に供給されて該基板の研磨に用いられる研磨液(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨液として用いられる濃縮液、すなわち研磨液の原液との双方が包含される。研磨用組成物を含む研磨液の他の例として、研磨用組成物のpHを調整してなる研磨液が挙げられる。
【0149】
研磨装置としては、特に制限されないが、例えば、研磨対象物を有する基板等を保持する保持具(ホルダー)と回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を用いることができる。例えば、片面研磨装置や、両面研磨装置を使用することができる。市販の研磨装置は、特に制限されないが、片面研磨装置としては、例えば、株式会社岡本工作機械製作所製の枚葉研磨機、型式「PNX 332B」等が挙げられる。
【0150】
片面研磨装置を用いて研磨対象物を研磨する場合には、テンプレートと呼ばれる保持具を用いて研磨対象物を保持し、研磨パッド(研磨布)が貼付された研磨定盤を研磨対象物の片面に押しつけて研磨液を供給しながら研磨定盤を回転させることにより、研磨対象物の片面を研磨する。両面研磨装置を用いて研磨対象物を研磨する場合には、キャリアと呼ばれる保持具を用いて研磨対象物を保持し、研磨パッド(研磨布)が貼付された研磨定盤を研磨対象物の両側から研磨対象物の両面にそれぞれ押しつけて、研磨液を供給しながら両側の研磨定盤を回転させることにより、研磨対象物の両面を研磨する。
【0151】
研磨パッドとしては、一般的な不織布タイプ、ポリウレタンタイプ、スウェードタイプ等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されているものを使用することもできる。市販の研磨パッドは、特に制限されないが、不織布タイプとしては、例えば、フジボウ愛媛株式会社製 製品名「FP55」等、スウェードタイプとしては、例えば、フジボウ愛媛株式会社製 製品名「POLYPAS27NX」等が挙げられる。
【0152】
研磨条件については、各研磨段における研磨の目的によってその好ましい範囲が異なることとなる。よって、研磨条件は、特に制限されず、各研磨段における研磨の目的に応じて適切な条件が採用されうる。
【0153】
研磨は、プラテン(研磨定盤)を回転させることによって行うことが好ましく、研磨対象物と、プラテン(研磨定盤)とを相対的に移動(例えば回転移動)させて行うことがより好ましい。プラテン(研磨定盤)回転数およびヘッド(キャリア、テンプレート)回転数は、特に制限されないが、それぞれ独立して、好ましくは10rpm(0.17s-1)以上100rpm(1.67s-1)以下であり、より好ましくは20rpm(0.33s-1)以上60rpm(1s-1)以下であり、さらに好ましくは25rpm(0.42s-1)以上55rpm(0.92s-1)以下である。これらの範囲であると、研磨対象物表面の欠陥低減効果がより向上するとともに、生産効率がより向上する。また、プラテン(研磨定盤)回転数およびヘッド(キャリア、テンプレート)回転数は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0154】
研磨対象物は、通常、定盤により加圧されている。この際の圧力(研磨荷重)は、特に制限されないが、好ましくは5kPa以上30kPa以下であり、より好ましくは10kPa以上25kPa以下である。これらの範囲であると、研磨対象物表面の欠陥低減効果がより向上するとともに、生産効率がより向上する。
【0155】
研磨液の供給速度は、研磨定盤のサイズに応じて適宜選択することができるため特に制限されないが、研磨対象物全体が覆われる供給量であることが好ましい。経済性を考慮すると、研磨液の供給速度は、より好ましくは0.1リットル(l)/min以上5リットル/min以下であり、さらに好ましくは0.2リットル/min以上2リットル/min以下である。これらの範囲であると、研磨対象物表面の欠陥低減効果がより向上するとともに、生産効率がより向上する。
【0156】
研磨液を供給する方法も特に制限されず、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)を採用してもよい。
【0157】
研磨液の研磨装置における保持温度としても特に制限はないが、研磨速度の安定性、研磨対象物表面の欠陥低減効果の観点から、15℃以上40℃以下が好ましく、18℃以上25℃以下がより好ましい。
【0158】
また、研磨液は、研磨対象物の研磨に使用された後に回収し、必要に応じて研磨液に含まれうる各成分を添加して組成を調整した上で、研磨対象物の研磨に再使用してもよい。
【0159】
研磨時間は、特に制限されないが、1秒以上600秒以下が好ましく、2分以上8分以下がより好ましく、3分以上5分以下がさらに好ましい。これらの範囲であると、研磨対象物表面の欠陥低減効果がより向上するとともに、生産効率がより向上する。なお、複数回研磨を行う場合、研磨時間は各々の研磨の時間を表す。
【0160】
上記の態様に係る研磨用組成物は、ファイナルポリシング(仕上げ研磨)、およびファイナルポリシングの直前のポリシング(仕上げ研磨の直前の研磨)に用いられることが好ましい。また、上記の態様に係る研磨用組成物以外の研磨用組成物を用いて研磨を行った後に、ファイナルポリシング(仕上げ研磨)、およびファイナルポリシングの直前のポリシング(仕上げ研磨の直前の研磨)を行うことがより好ましい。上記の態様に係る研磨用組成物以外の研磨用組成物としては、特に制限されないが、例えば、コロイダルシリカおよび水酸化カリウムを含む研磨用組成物が挙げられる。
【0161】
また、前述のように、研磨対象物としては、半導体基板が好ましい。すなわち、本発明の他の一態様は、上記の研磨用組成物を用いて、研磨対象半導体基板を研磨することを含む、半導体基板の製造方法に関するとも言える。研磨対象半導体基板、半導体基板の材質および形状としては、上記の研磨用組成物の用途の説明と同様である。
【実施例0162】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0163】
<水溶性高分子の準備>
[ヒドロキシエチルセルロース1の準備]
(準備工程)
原料ヒドロキシエチルセルロース(原料HEC)として、重量平均分子量(Mw)が約30万のヒドロキシエチルセルロース1 1.66質量部を、4リットル(l)の容器内に準備した溶媒である脱イオン水(DIW)98.33質量部中に添加し、攪拌した。その後、29質量%のアンモニア水を添加し、25±5℃で3時間攪拌混合して、原料溶液を得た。なお、アンモニア水は、原料溶液のpHが10.0になるまで加えた。ここで、原料溶液中の原料HECの濃度は、原料溶液の総質量に対して、1.66質量%であった。
【0164】
原料溶液のpHは、pHメーターを使用し、標準緩衝液を用いて3点校正した後で、ガラス電極を測定対象の組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより測定した。pHメーターとしては、株式会社堀場製作所製のLAQUA(登録商標)を用いた。標準緩衝液としては、フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃)を用いた。
【0165】
原料HECの重量平均分子量は、以下のように評価した。原料HECの濃度が0.1質量%となるように脱イオン水(DIW)を用いて希釈し、GPC測定用サンプルを得た。このサンプルに含まれる原料HECの重量平均分子量(Mw)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法を用い、以下の測定条件によって測定した:
〔GPC測定条件〕
測定装置:東ソー株式会社製 HLC-8320 GPC
カラム:東ソー株式会社製 TSKgel GMPWXL
分子量マーカー:アジレント・テクノロジー社製 ポリエチレンオキシド-ポリエチレングリコール
溶離液:0.1M NaNO3
流速:1.0ml/min。
【0166】
(陽イオン交換工程)
準備工程で得られた溶液を、強酸性カチオン交換樹脂(交換基:スルホン酸基)が充填されたカラムに通すことで、陽イオン交換を行った。
【0167】
(接触工程)
陽イオン交換工程で得られた溶液を、下記手順に従い、疎水性の樹脂1(スチレン由来の構成単位と、ジビニルベンゼン由来の構成単位とを含有する樹脂)と接触させた。
【0168】
≪手順≫
手順1.カラムに疎水性の樹脂を入れる。
【0169】
手順2.上記手順1の後、カラム内を脱イオン水(DIW)で満たす。
【0170】
手順3.上記手順2の後、電動ポンプを用い、処理対象の溶液をカラムに通液させる。
【0171】
ここで、上記手順3の処理対象の溶液とは、陽イオン交換工程で得られた溶液である。なお、陽イオン交換工程で得られた溶液中の原料HECの濃度は、1.1質量%であった。陽イオン交換工程で得られた溶液中の原料HECの濃度と、準備工程で得られた溶液の原料HECと濃度が異なる理由は、陽イオン交換樹脂を通すことで、溶液中の原料HECの濃度が低下したからであると考えられる。原料HECの濃度は、乾燥質量より算出した。ここで、乾燥質量は、シャーレに陽イオン交換工程で得られた溶液を入れて重量(質量)を測定し、100℃エアバスに入れ水分を飛ばした後、再びシャーレ(粉体が入ったシャーレ)の重量(質量)を測定することで求められる。
【0172】
接触工程は、室温10℃以上30℃以下の範囲内で行った。
【0173】
また、上記手順1において、直径7.8cm、容積1リットル(l)の円筒状のカラムに、約700mlの疎水性の樹脂を入れた。
【0174】
そして、上記手順3において、処理対象の溶液の流量は300ml/minとし、カラムの単位断面積当たりの流量は、6.3ml/(min・cm2)であった。また、処理対象の溶液は、4リットル(l)を通液した。
【0175】
このようにして、ヒドロキシエチルセルロース1を含む溶液を得た。
【0176】
[ヒドロキシエチルセルロース2の準備]
上記ヒドロキシエチルセルロース1の準備において、接触工程で使用する疎水性の樹脂1を、疎水性の樹脂2(ジビニルベンゼン由来の構成単位と、エチルビニルベンゼン由来の構成単位とを含有する樹脂)に変更した以外は同様にして、ヒドロキシエチルセルロース2を含む溶液を得た。
【0177】
[ヒドロキシエチルセルロース3の準備]
上記ヒドロキシエチルセルロース1の準備において、接触工程で使用する疎水性の樹脂1を、疎水性の樹脂3(臭素付加スチレン由来の構成単位と、ジビニルベンゼン由来の構成単位とを含有する樹脂)に変更した以外は同様にして、ヒドロキシエチルセルロース3を含む溶液を得た。
【0178】
[ヒドロキシエチルセルロース4の準備]
上記ヒドロキシエチルセルロース1の準備において、接触工程で使用する疎水性の樹脂1を、疎水性の樹脂4(スチレン由来の構成単位と、ジビニルベンゼン由来の構成単位とを含有する樹脂)に変更した以外は同様にして、ヒドロキシエチルセルロース4を含む溶液を得た。
【0179】
[ヒドロキシエチルセルロース5の準備]
上記ヒドロキシエチルセルロース1の準備において、接触工程を実施しなかった以外は同様にして、ヒドロキシエチルセルロース5を含む溶液を得た。
【0180】
[各ヒドロキシエチルセルロースの準備に用いた疎水性の樹脂の物性]
各ヒドロキシエチルセルロースの準備に用いた疎水性の樹脂の物性を、下記表1に示す。
【0181】
疎水性の樹脂の粒子径および各粒子径の粒子の割合を、篩網による粒度測定によって確認した。疎水性の樹脂を、ガス吸着法により確認したところ、ヒドロキシエチルセルロース1~4の準備に用いた疎水性の樹脂は、細孔を有することが確認された。また、ガス吸着法により、細孔の最頻度半径を評価した。
【0182】
【0183】
<研磨用組成物の調製>
(実施例1~4、比較例1)
上記で準備した各ヒドロキシエチルセルロースを含む溶液、砥粒、塩基性化合物、界面活性剤および脱イオン水(DIW)を混合して、各研磨用組成物の濃縮液を調製した。砥粒としては平均一次粒子径35nmのコロイダルシリカを使用し、塩基性化合物としてはアンモニアを使用し、界面活性剤としてはポリオキシエチレンデシルエーテルを使用した。各研磨用組成物の濃縮液において、ヒドロキシエチルセルロースの濃度は研磨用組成物の総質量に対して0.18質量%、コロイダルシリカの濃度は研磨用組成物の総質量に対して2.5質量%、アンモニアの濃度は研磨用組成物の総質量に対して0.1質量%、ポリオキシエチレンデシルエーテルの濃度は研磨用組成物の総質量に対して0.01質量%であった。
【0184】
得られた各研磨用組成物の濃縮液を脱イオン水(DIW)で体積比20倍に希釈することにより、各研磨用組成物を得た。各研磨用組成物において、ヒドロキシエチルセルロースの濃度は研磨用組成物の総質量に対して0.009質量%、コロイダルシリカの濃度は研磨用組成物の総質量に対して0.125質量%、アンモニアの濃度は研磨用組成物の総質量に対して0.005質量%、ポリオキシエチレンデシルエーテルの濃度は研磨用組成物の総質量に対して0.0005質量%であった。
【0185】
[シリコンウェーハの研磨]
直径12インチのシリコンウェーハ(伝導型:P型、結晶方位:<100>、抵抗率:0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満)を用意し、下記予備研磨条件により予備研磨を行った。予備研磨に使用した研磨液は、砥粒、塩基性化合物および脱イオン水(DIW)を混合して調製した組成物の濃縮液を、脱イオン水(DIW)で体積比20倍に希釈することにより得た。砥粒としては平均一次粒子径42nmのコロイダルシリカを使用し、塩基性化合物としては水酸化カリウムを使用した。予備研磨に使用した研磨液において、コロイダルシリカの濃度は1質量%、水酸化カリウムの濃度は0.068質量%であった。
【0186】
〔予備研磨条件〕
研磨装置:株式会社岡本工作機械製作所製の枚葉研磨機、型式「PNX 332B」
研磨荷重:12kPa
定盤回転数:50rpm
ヘッド回転数:52rpm
研磨パッド:フジボウ愛媛株式会社製、製品名「FP55」
研磨時間:4分
研磨液の温度:20℃
研磨液の供給速度:2.0リットル/分(掛け流し使用)。
【0187】
上記で調製した研磨用組成物を研磨液として使用し、上記予備研磨を経て得られたシリコンウェーハを、下記研磨条件1で研磨し、続いて、下記研磨条件2で研磨した。
【0188】
〔研磨条件1〕
研磨装置:株式会社岡本工作機械製作所製の枚葉研磨機、型式「PNX 332B」
研磨荷重:16kPa
定盤回転数:50rpm
ヘッド回転数:52rpm
研磨パッド:フジボウ愛媛株式会社製、製品名「POLYPAS(登録商標)27NX」
研磨時間:4分
研磨液の温度:20℃
研磨液の供給速度:1.5リットル/分(掛け流し使用)。
【0189】
〔研磨条件2〕
研磨装置:株式会社岡本工作機械製作所製の枚葉研磨機、型式「PNX 332B」
研磨荷重:20kPa
定盤回転数:50rpm
ヘッド回転数:52rpm
研磨パッド:フジボウ愛媛株式会社製、製品名「POLYPAS(登録商標)27NX」
研磨時間:4分
研磨液の温度:20℃
研磨液の供給速度:1.5リットル/分(掛け流し使用)。
【0190】
なお、予備研磨、研磨条件1での研磨、および研磨条件2での研磨は、それぞれ異なる研磨定盤上で実施した。
【0191】
[LPD-N数測定]
上記の研磨で得られたシリコンウェーハの表面(研磨面)に存在する、欠陥を示すLPD-N(Light Point Defect Non-cleanable)の個数を、ケーエルエー・テンコール社製のウェーハ検査装置、商品名「SURFSCAN SP2」を使用して、同装置のDCOモードで計測した。
【0192】
実施例1~4、および比較例1の評価結果を下記表2に示す。なお、表2中のLPD-Nの数値は、それぞれ比較例1のLPD-Nの数値を100%とした場合の相対値で示してある。
【0193】
【0194】
上記表1および上記表2の結果より、(1)原料HECを水に溶解して原料溶液を得ることと、(2)原料溶液を疎水性の樹脂と接触させることと、を経ている、ヒドロキシエチルセルロースを用いて研磨をすることで、研磨対象物表面の欠陥が顕著に低減することが確認された。