IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鉄住金化学株式会社の特許一覧

特開2023-51575分散組成物、その製造方法、フッ素系樹脂フィルムの製造方法、及び、金属張積層板の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051575
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】分散組成物、その製造方法、フッ素系樹脂フィルムの製造方法、及び、金属張積層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20230404BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20230404BHJP
   B32B 15/082 20060101ALI20230404BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230404BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20230404BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20230404BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20230404BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230404BHJP
   C09D 201/04 20060101ALI20230404BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230404BHJP
【FI】
C08L27/12
H05K1/03 630H
H05K1/03 610R
H05K1/03 610H
B32B15/082 B
B05D7/24 301E
B05D7/24 302L
B05D3/02 Z
B05D3/12 Z
B05D7/24 303B
B05D7/24 303A
B05D3/00 D
C08K3/013
C09D201/04
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162373
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 智典
(72)【発明者】
【氏名】西山 哲平
(72)【発明者】
【氏名】浅田 晃嗣
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4D075BB05Z
4D075BB16X
4D075BB21Z
4D075BB33Z
4D075BB38Z
4D075BB66Z
4D075CA03
4D075CA23
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA04
4D075DB06
4D075DC19
4D075DC21
4D075EA10
4D075EA31
4D075EB16
4D075EB51
4D075EB56
4D075EC01
4D075EC03
4D075EC07
4D075EC13
4D075EC30
4D075EC31
4D075EC51
4D075EC54
4F100AA00A
4F100AA20A
4F100AB00B
4F100AH02A
4F100AH03A
4F100AH06A
4F100AK17A
4F100AL05A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA23A
4F100DE01A
4F100EH46A
4F100EJ42A
4F100EJ64A
4F100GB43
4F100JA06A
4F100YY00A
4J002BD131
4J002BD141
4J002BD151
4J002CH012
4J002DD036
4J002DE076
4J002DE096
4J002DE136
4J002DE146
4J002DE186
4J002DF016
4J002DJ016
4J002DJ046
4J002DK006
4J002DL006
4J002FB096
4J002FD016
4J002FD312
4J002GQ00
4J002HA08
4J038CD101
4J038CD111
4J038CD121
4J038CD131
4J038HA446
4J038JC35
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA09
4J038MA02
4J038MA09
4J038MA14
4J038MA15
4J038PA09
4J038PA19
4J038PB09
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】 粉粒状フッ素系樹脂と無機フィラーとが均一に分散された分散組成物を提供する。
【解決手段】 粉粒状フッ素系樹脂と、無機フィラーと、分散剤と、極性溶剤と、を混合する工程と、混合物の全重量に対して粉粒状フッ素系樹脂及び無機フィラーの合計割合が75重量%以上となる状態で固練りすることによって、粉粒状フッ素系樹脂と、無機フィラーの合計割合が75重量%以上であり、固体状の第1の分散組成物を得る。この第1の分散組成物を極性溶剤で希釈することによって、全成分の合計重量に対する粉粒状フッ素系樹脂と無機フィラーとの合計割合が60~75重量%の範囲内であり、E型粘度計を用い、25℃で測定した粘度が1000cP~50000cPの範囲内である第2の分散組成物を得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(A)~(C);
(A)粉粒状フッ素系樹脂、
(B)無機フィラー、
(C)分散剤、
を含有し、E型粘度計を用い、25℃で測定した粘度が1000cP以上である分散組成物。
(ただし、粘度測定において設定する回転数は、設定された回転数で得られた粘度が設定した回転数のトルクの10%~90%範囲内の粘度範囲であるようにし、固体状となり粘度測定ができないものも含むものとする。)
【請求項2】
全重量に対して、成分(A)及び成分(B)の合計割合が75重量%以上であり、固体状である請求項1に記載の分散組成物。
【請求項3】
下記の組成;
成分(A)と成分(B)の合計割合…全重量の75~99重量%の範囲内、
成分(A)と成分(B)の体積比率(A:B)…15:85~95:5の範囲内、
成分(C)の割合…全重量の1~15重量%の範囲内、
成分(D)としての極性溶剤の割合…全重量の0~24重量%、
を有する請求項2に記載の分散組成物。
【請求項4】
下記の組成;
成分(A)と成分(B)の合計割合…全重量の60~75重量%、
成分(A)と成分(B)の体積比率(A:B)…15:85~95:5の範囲内、
成分(C)の割合…全重量の0.8~13.2重量%の範囲内、
成分(D)としての極性溶剤の割合…全重量の11.8~39.2重量%、
を有するとともに、E型粘度計を用い、25℃で測定した粘度が1000cP~50000cPの範囲内である請求項1に記載の分散組成物。
(ただし、粘度測定において設定する回転数は、設定された回転数で得られた粘度が設定した回転数のトルクの10%~90%範囲内の粘度範囲であるようにするものとする。)
【請求項5】
成分(B)の無機フィラーのモース硬度が2以上である請求項1から4のいずれか1項に記載の分散組成物。
【請求項6】
粉粒状フッ素系樹脂と無機フィラーを含む複数の材料を混練する分散組成物の製造方法であって、
前記粉粒状フッ素系樹脂と、前記無機フィラーと、分散剤と、極性溶剤と、を混合する工程と、
混合物の全重量に対して前記粉粒状フッ素系樹脂及び前記無機フィラーの合計割合が75重量%以上となる状態で固練りすることによって固体状の第1の分散組成物を得る工程と、
を含むことを特徴とする分散組成物の製造方法。
【請求項7】
さらに、前記第1の分散組成物を極性溶剤で希釈することによって、全成分の合計重量に対する前記粉粒状フッ素系樹脂と前記無機フィラーとの合計割合が60~75重量%の範囲内であり、E型粘度計を用い、25℃で測定した粘度が1000cP~50000cPの範囲内である第2の分散組成物を得る工程、
を含む請求項6に記載の分散組成物の製造方法。
(ただし、粘度測定において設定する回転数は、設定された回転数で得られた粘度が設定した回転数のトルクの10%~90%範囲内の粘度範囲であるようにするものとする。)
【請求項8】
請求項7に記載の方法によって得られた前記第2の分散組成物を基材に塗布して塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を熱処理することによりフッ素系樹脂層を形成する工程と、
を含むフッ素系樹脂フィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法によって得られた前記第2の分散組成物を金属箔に塗布して塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を熱処理することにより、フッ素系樹脂層と金属層とが積層された金属張積層板を得る工程と、
を含む金属張積層板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散組成物、その製造方法、フッ素系樹脂フィルムの製造方法、及び、金属張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化、省スペース化の進展に伴い、薄く軽量で、可撓性を有し、屈曲を繰り返しても優れた耐久性を持つフレキシブルプリント配線板(FPC;Flexible Printed Circuits)の需要が増大している。FPCは、限られたスペースでも立体的かつ高密度の実装が可能であるため、例えば、HDD、DVD、スマートフォン等の電子機器の可動部分の配線や、ケーブル、コネクター等の部品にその用途が拡大しつつある。
【0003】
FPCは、材料となる銅張積層板(CCL)などの金属張積層板の金属層をエッチングして配線加工することによって製造される。現在は、金属張積層板として、金属箔と接する絶縁樹脂層に耐熱性の高いポリイミドを用いたものが汎用されている。
【0004】
ところで、近年の通信機器の高速化に伴い、5G通信、更には6G通信の開発が進んでおり、回路基板材料についても、高速通信規格に対応可能なミリ波レーダー用基板、アンテナ基板などに向けて材料の検討が行われている。そのような材料の中で、フッ素系樹脂は、誘電正接が低いことから注目を浴びている。しかし、フッ素系樹脂は熱膨張係数が大きいため、低誘電正接という特性を活かしながら回路基板用の絶縁材料としての要求特性である低熱膨張化を図るため、無機フィラーを併用する検討が行われている。例えば、フッ素系樹脂フィルムを作製するために、フッ素系樹脂のパウダーと無機フィラーを水もしくは有機溶剤に分散した分散液を用いる方法が提案されている(特許文献1,2)。しかしながら、フッ素系樹脂のパウダーと無機フィラーを含む分散液は粘度が低いため、厚膜塗工が困難であり、塗工時に厚みムラが発生し易くなることや、長期間保管後には再分散が必要になるなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2019/131809号
【特許文献2】国際公開WO2021/132055号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、凝集粒子が少なく、粉粒状フッ素系樹脂と無機フィラーとが均一に分散された分散組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、粉粒状フッ素系樹脂と無機フィラーと分散剤を、少量の極性溶剤を用いて高固形分濃度で固練りすることによって、凝集粒子が少なく、固形分の分散状態が均一な分散組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の分散組成物は、下記の成分(A)~(C);
(A)粉粒状フッ素系樹脂、
(B)無機フィラー、
(C)分散剤、
を含有し、E型粘度計を用い、25℃で測定した粘度が1000cP以上である。
ただし、粘度測定において設定する回転数は、設定された回転数で得られた粘度が設定した回転数のトルクの10%~90%範囲内の粘度範囲であるようにし、固体状となり粘度測定ができないものも含むものとする(以下、同様である)。
【0009】
本発明の分散組成物は、全重量に対して、成分(A)及び成分(B)の合計割合が75重量%以上であってもよく、固体状であってもよい。この場合、本発明の分散組成物は、下記の組成;
成分(A)と成分(B)の合計割合…全重量の75~99重量%の範囲内、
成分(A)と成分(B)の体積比率(A:B)…15:85~95:5の範囲内、
成分(C)の割合…全重量の1~15重量%の範囲内、
成分(D)としての極性溶剤の割合…0~24重量%、
を有するものであってよい。
【0010】
また、本発明の分散組成物は、下記の組成;
成分(A)と成分(B)の合計…全重量の60~75重量%、
成分(A)と成分(B)の体積比率(A:B)…15:85~95:5の範囲内、
成分(C)の割合…全重量の0.8~13.2重量%の範囲内、
成分(D)としての極性溶剤の割合…全重量の11.8~39.2重量%、
を有するとともに、E型粘度計を用い、25℃で測定した粘度が1000cP~50000cPの範囲内であってもよい。
【0011】
本発明の分散組成物は、成分(B)の無機フィラーのモース硬度が2以上であってもよい。
【0012】
本発明の分散組成物の製造方法は、粉粒状フッ素系樹脂と無機フィラーを含む複数の材料を混練する分散組成物の製造方法であって、
前記粉粒状フッ素系樹脂と、前記無機フィラーと、分散剤と、極性溶剤と、を混合する工程と、
混合物の全重量に対して前記粉粒状フッ素系樹脂及び前記無機フィラーの合計割合が75重量%以上となる状態で固練りすることによって固体状の第1の分散組成物を得る工程と、
を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の分散組成物の製造方法は、さらに、前記第1の分散組成物を極性溶剤で希釈することによって、全成分の合計重量に対する前記粉粒状フッ素系樹脂と前記無機フィラーとの合計割合が60~75重量%の範囲内であり、E型粘度計を用い、25℃で測定した粘度が1000cP~50000cPの範囲内である第2の分散組成物を得る工程、
を含んでいてもよい。
【0014】
本発明のフッ素系樹脂フィルムの製造方法は、上記方法によって得られた前記第2の分散組成物を基材に塗布して塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を熱処理することによりフッ素系樹脂層を形成する工程と、
を含んでいる。
【0015】
本発明の金属張積層板の製造方法は、上記方法によって得られた前記第2の分散組成物を金属箔に塗布して塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜を熱処理することにより、フッ素系樹脂層と金属層とが積層された金属張積層板を得る工程と、
を含んでいる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の分散組成物は、凝集粒子が少なく、粉粒状フッ素系樹脂と無機フィラーとが均一な状態で分散している。しかも、溶剤の含有比率が少ない固体状態では、長期間にわたる分散安定性を有し、また、所定比率で溶剤を含む液状態では、厚膜塗工のための適度な粘度に調節が可能で塗工性や分散安定性に優れている。そのため、本発明の分散組成物を塗工して得られる樹脂フィルムや、これを絶縁樹脂層として備えた金属張積層板は、絶縁層の厚膜化が可能であるとともに、フッ素系樹脂による優れた誘電特性と、無機フィラーの添加による低熱膨張性との両立が図られている。したがって、本発明の分散組成物を使用して得られる樹脂フィルムや金属張積層板は、高速通信規格に対応可能な回路基板材料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、適宜図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。本発明の実施の形態に係る分散組成物は、下記の成分(A)~(C);
(A)粉粒状フッ素系樹脂、
(B)無機フィラー、
(C)分散剤、
を含有し、粘度が1000cP以上である。ここで、粘度が1000cP以上であるものには、固体状も含まれる。この分散組成物は、固体状の第1の分散組成物と、これを溶剤で希釈した液状の第2の分散組成物の二通りの形態をとり得る。
【0018】
成分(A):
成分(A)は粉粒状フッ素系樹脂である。ここで、「粉粒状」とは、例えば、平均粒子径(D50)が0.05~100μmの範囲内、好ましくは0.5~50μmの範囲内、より好ましくは0.5~10μmの範囲内の粒子の集合体を意味する。なお、粉粒状フッ素系樹脂の平均粒子径(D50)は、例えばレーザー回折・散乱法によって粉粒の粒度分布を測定し、その粉粒の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径測定することで求めることが可能である。
【0019】
フッ素系樹脂は、フッ素原子を含むポリマーであり、その種類は特に限定されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン―パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(EFEP)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。これらは、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、フッ素系樹脂の一部に官能基を有するパーフルオロオレフィンに基づくモノマー単位を含んでいてもよい。官能基としては、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基及びイソシアネート基が好ましい。
これらのフッ素系樹脂の中でも、低い誘電正接を示すものとして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン―パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)がより好ましい。
【0020】
成分(B):
成分(B)は、無機フィラーであり、その種類は特に限定されないが、樹脂フィルムの熱膨張係数を低下させる観点から、例えば、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化ベリリウム、酸化ニオブ、酸化チタン、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、ケイフッ化カリウム、タルク、ガラス、チタン酸バリウム等が好ましい。これらは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、熱膨張係数が低いものとして、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、ガラス等がより好ましい。
【0021】
成分(B)の平均粒子径(D50)は、特に限定されないが、回路基板で使用される場合の絶縁樹脂層の厚みとの比率を考慮するとともに、絶縁樹脂層の穴あけ加工性を担保するの観点から、例えば、0.05~50μmの範囲内、好ましくは0.1~20μmの範囲内がよい。また、比表面積は、特に限定されないが、誘電正接悪化抑制の観点から0.1~20m/gの範囲内、好ましくは0.1~10m/gの範囲内がよい。
なお、無機フィラーの平均粒子径は、例えばレーザー回折・散乱法によって粉粒の粒度分布を測定し、その粉粒の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径測定することで求めることが可能であり、比表面積についてはBET法によって測定することが可能である。
【0022】
成分(B)の形状は、特に限定されないが、厚み方向と面方向の熱膨張係数の差を低減する観点から、例えば、球状、破砕球状等が好ましい。また、成分(B)は中空状であってもよい。
【0023】
成分(B)の硬さは、特に限定されないが、固練り時のせん断による凝集物を解砕する観点から、モース硬度が2以上であることが好ましく、2~9の範囲内がより好ましい。モース硬度が2未満であると固練り時のせん断力で材料が変形し、凝集物の解砕が困難となることがある。
【0024】
成分(B)は、特に限定されないが、カップリング剤等により表面処理することが好ましい。表面処理に用いるカップリング剤としては、例えば3-アミノプロピルエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルエトキシシランまたはヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。
【0025】
成分(C):
成分(C)の分散剤は、成分(A)及び成分(B)に対する分散作用を有するものであれば種類は特に限定されないが、フッ素樹脂を分散する観点から、例えば、フッ素系界面活性剤が好ましい。フッ素系界面活性剤としては、例えば、分子内に二重結合を有するパーフルオロアルケニル構造のノニオン系のフッ素系界面活性剤がより好ましい。
【0026】
本実施の形態の分散組成物は、凝集粒子が少なく、粉粒状フッ素系樹脂と無機フィラーとが均一な状態で安定的に分散している。また、以下に説明するように、溶剤の含有比率が少ない固体状の第1の分散組成物の状態では長期間にわたる分散安定性を有し、所定比率で溶剤を含む液状の第2の分散組成物の状態では厚膜の塗工性や分散安定性に優れている。
【0027】
<第1の分散組成物>
第1の分散組成物は、固体状であり、全重量に対して、成分(A)及び成分(B)の合計割合が75重量%以上である。ここで、「固体状」とは、粘性変形がほとんどないために、E型粘度計による測定ができない状態を意味する。成分(A)と成分(B)の合計割合は、第1の分散組成物が「固体状」での混練、すなわち固練りによって製造されるものであることから、全重量の75~99重量%の範囲内が好ましく、75~90重量%の範囲内がより好ましい。成分(A)と成分(B)の合計割合が75重量%未満であると固練りによって製造することが困難となり、99重量%を超えると粉体状となる。
【0028】
また、第1の分散組成物は、固練りにより分散によって製造されるものであることから、成分(A)と成分(B)の体積比率(A:B)が、15:85~95:5の範囲内が好ましく、20:80~80:20の範囲内がより好ましい。成分(B)に対する成分(A)の体積比率が15未満であると、樹脂が脆化しフィルム化が困難となり、95を超えると混練時の粘性が上昇し、固練りによる分散によって製造することが困難となる。
【0029】
また、第1の分散組成物は、固形分の分散性を良好にするため、全重量に対して成分(C)の含有割合が1~15重量%の範囲内が好ましく、1~10重量%の範囲内がより好ましい。成分(C)の含有割合が1重量%未満であると、固形分を十分に分散させることができず、15重量%を超えると誘電正接が悪化する恐れがある。
【0030】
また、第1の分散組成物は、固練りによって製造することや固体状での長期保管の観点から、全重量に対して、成分(D)としての極性溶剤の含有割合が、0~24重量%が好ましく、9~24重量%の範囲内がより好ましい。ここで、第1の分散組成物において、成分(D)は任意成分であり、含有しなくてもよい。成分(D)の含有割合が24重量%を超えると流動性が高くなりすぎるため、固練りによる製造ができなくなり分散状態が悪化することや長期間の保存において固形分の沈降や凝集が生じ、経時的分散安定性が低下しやすくなる。
【0031】
成分(D)の極性溶剤の種類は特に限定されないが、固練り時及び分散組成物に溶剤としての作用を発現させる観点から、25℃で液状であることが好ましい。前記観点より、例えば、水、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、γ-ブチロラクトン等が好ましい。これらの中でも、固練り時の発熱による溶剤蒸発量を抑制する観点から、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の高沸点溶媒がより好ましい。
【0032】
<第2の分散組成物>
第2の分散組成物は、極性溶剤を含む分散液であり、厚膜での塗工可能な粘度とする観点から、全重量に対して成分(A)と成分(B)の合計割合が60~75重量%の範囲内が好ましく、60~70重量%の範囲内がより好ましい。成分(A)と成分(B)の合計割合が60重量%未満であると、固形分濃度が低すぎて厚膜の場合の塗膜形成性が低下することがあり、75重量%を超えると固形分濃度が高すぎてキャストによる塗膜形成が困難となることがある。
【0033】
また、第2の分散組成物は、成分(A)と成分(B)の体積比率(A:B)が、15:85~95:5の範囲内が好ましく、20:80~80:20の範囲内がより好ましい。体積比率(A:B)を上記範囲内とする理由は、第1の分散組成物と同様である。
【0034】
また、第2の分散組成物は、分散性担保と誘電正接の悪化を抑制する観点から、全重量に対して成分(C)の含有割合が0.8~13.2重量%の範囲内が好ましく、1~10重量%の範囲内がより好ましい。成分(C)の含有割合が0.8重量%未満であると分散不良が生じやすく、13.2重量%を超えると分散組成物より得られる樹脂フィルムの誘電正接が悪化する原因となる。
【0035】
また、第2の分散組成物は、厚膜での塗工可能な粘度で分散組成物を作製する観点から、全重量に対して、成分(D)としての極性溶剤の含有割合が11.8~39.2重量%の範囲内が好ましく、20~39重量%の範囲内がより好ましい。ここで、第2の分散組成物において、成分(D)は必須成分である。成分(D)が11.8重量%未満であると粘性が高すぎてキャストによる塗膜形成が困難となり、39.2重量%を超えると流動性が高くなりすぎるため、厚膜での塗膜形成が困難となるほか、固形分の沈降や凝集が生じやすくなる。
【0036】
第2の分散組成物における極性溶剤としては、第1の分散組成物で例示したものを使用できる。ただし、第1の分散組成物と第2の分散組成物で極性溶剤の種類が異なっていてもよい。
【0037】
また、第2の分散組成物は、厚膜形成を可能とする観点から、E型粘度計を用い、温度25℃で測定される粘度が1000cP~50000cPの範囲内が好ましく、1000~30000cPの範囲内がより好ましい。なお、粘度測定において設定する回転数は、設定された回転数で得られた粘度が設定した回転数のトルクの10%~90%範囲内の粘度範囲であるようにする。粘度が1000cP未満では、第2の分散組成物を任意の基材上にキャストするときに、流動性が高くなりすぎるため、厚膜での塗膜形成が困難となる。特に、高周波伝送用途向けに30~150μmの範囲内の比較的厚い塗膜の形成が不可能となる。また、粘度が1000cP未満では、固形分の沈降や凝集が生じることがある。一方、第2の分散組成物の粘度が50000cPを超える場合は、粘性が高すぎてキャストによる塗膜形成が困難となる。
【0038】
上記第1の分散組成物及び第2の分散組成物は、任意成分として、例えば、有機フィラー、硬化剤、可塑剤、エラストマー、カップリング剤、顔料、難燃剤等を含有することができる。
【0039】
<第1の分散組成物の製造方法>
第1の分散組成物は、以下に例示する工程を実施し、粉粒状フッ素系樹脂と無機フィラーを含む複数の材料を混練することによって製造することができる。
【0040】
(混合工程)
本工程では、成分(A)の粉粒状フッ素系樹脂、成分(B)の無機フィラー、成分(C)の分散剤及び成分(D)の極性溶剤を混合する。
ここで、成分(D)の極性溶剤は、粉粒状フッ素系樹脂と無機フィラーの表面を湿潤させて混練時の凝集を防ぐために用いられ、全重量に対して24重量%以下とすることが好ましい。極性溶剤の量が多すぎると、次の固練り工程で十分な剪断力を加えることができなくなる。
したがって、本工程は、混合物が、全重量に対して、成分(A)を10~80重量%の範囲内、成分(B)を3.5~73.5重量%の範囲内、成分(C)を1~15重量%の範囲内、成分(D)を1.5~24重量%の範囲内で含有する組成で実施することが好ましい。
【0041】
なお、各成分の配合順序は特に制限されないが、例えば、成分(A)、成分(B)、成分(D)、成分(C)の順に添加、混合することが好ましい。
【0042】
(固練り工程)
本工程では、混合工程で得られた混合物の全重量に対して、成分(A)及び成分(B)の合計割合が75重量%以上となる状態で固練りすることによって、固体状の第1の分散組成物を得る。ここで、「固練り」とは、ほとんど流動性がない塊状固体の状態の混合物に対して、大きな剪断力を加えて混練することを意味する。固練りによって、混合物中の固形分である粉粒状フッ素系樹脂及び無機フィラーの粒子の凝集が解消され、これらがほぼ一次粒子の状態で均一に分散される。この目的のため、固練りは、粉粒状フッ素系樹脂及び無機フィラーの合計割合が全重量に対して75重量%以上、好ましくは75~99重量%の範囲内、より好ましくは75~83.5重量%の範囲内で実施することがよい。粉粒状フッ素系樹脂及び無機フィラーの合計割合が75重量%未満であると、固形分に十分な剪断力が加わらず、凝集粒子が残存した状態となって、均一で安定な分散状態が得られない。
【0043】
固練りは、例えば遊星式混練機を用い、温度40℃以下、30分以上の条件で実施することが好ましい。
【0044】
<第2の分散組成物の製造方法>
第2の分散組成物は、第1の分散組成物に成分(D)の極性溶剤を加え希釈することによって製造することができる。
すなわち、第1の分散組成物を成分(D)で希釈して、全重量に対する成分(A)と成分(B)の合計が60~75重量%の範囲内、好ましくは60~70重量%の範囲内であり、粘度が1000cP~50000cPの範囲内、好ましくは1000~30000cPの範囲内となるように調整する工程を実施することにより、第2の分散組成物を得ることができる。
【0045】
第2の分散組成物は、第1の分散組成物を経て得られるため、固形分である粉粒状フッ素系樹脂及び無機フィラーの粒子がほぼ一次粒子の状態で均一に分散している。そのため、各成分を極性溶剤中で低固形分濃度の状態で混合・分散させて得られるものとは異なり、固形分の沈降や凝集が生じ難い。
【0046】
<樹脂フィルム及び金属張積層板の製造方法>
第2の分散組成物を使用して樹脂フィルムを製造する方法については特に限定されないが、以下の方法を例示できる。
【0047】
(塗布膜形成工程)
本工程では、第2の分散組成物を任意の基材に塗布して塗布膜を形成する。
すなわち、任意の基材の上に、熱処理工程後に所望の厚みとなるように、第2の分散組成物を塗布し、乾燥させることによって、基材上に塗布膜を形成する。使用する基材としては、特に限定されないが、耐熱性を有する素材として、例えば銅箔などの金属箔、接着層付き銅箔やポリイミドフィルムを用いることが好ましい。第2の分散組成物を基材上に塗布する方法としては特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。
【0048】
(熱処理工程)
本工程では、塗布膜形成工程で得た塗布膜を熱処理することによりフッ素系樹脂層を形成する。
すなわち、塗布膜を基材とともに熱処理し、粉粒状フッ素系樹脂を溶融させた後、冷却して固化させることによってフィルム化し、基材上にフッ素系樹脂層を形成する。粉粒状フッ素系樹脂を溶融させるための熱処理温度としては、フッ素系樹脂の融点以上であればよく、上限は樹脂種に応じて適宜定めることができるが、例えば融点より10℃~80℃の範囲内で高い温度とすることが好ましい。
【0049】
複数のフッ素系樹脂層を形成する場合は、第2の分散組成物を塗布、乾燥する毎に熱処理してもよいし、第2の分散組成物を塗布、乾燥する工程を複数回繰り返した後、一括して熱処理してもよい。
【0050】
必要に応じて基材を剥離することによって、フッ素系樹脂の樹脂フィルムを得ることができる。
また、本製法では、基材として金属箔を用いることによって、フッ素系樹脂層と金属層とを備えた金属張積層板を製造できる。例えば、基材として金属箔を用いる場合、そのまま金属層の片面にフッ素系樹脂層を有する片面金属張積層板となる。また、基材として金属箔を用いるとともに、樹脂フィルムの基材とは反対側の面に別の金属層を形成することや片面金属張積層板同士を貼り合わせることによって、両面金属張積層板とすることも可能である。
【0051】
<樹脂フィルム>
以上のようにして得られる樹脂フィルムは、フッ素系樹脂層を含むものである。
樹脂フィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、回路基板の樹脂層として用いる場合は、高周波信号伝送への適用を考慮して、好ましくは30~150μmの範囲内、より好ましくは75~150μmの範囲内がよい。
【0052】
樹脂フィルムは、温度24~26℃、湿度45~55%の条件のもと72時間調湿後に、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)もしくはスプリットシリンダ共振器により測定される60GHz以下における誘電正接(Df)が好ましくは0.003以下、より好ましくは0.0025以下であり、更に好ましくは0.0020以下である。また、同条件で測定される比誘電率(Dk)が好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下、更に好ましくは3.0以下であることがよい。誘電正接(Df)及び比誘電率(Dk)が上記数値を超えると、回路基板に適用した際に、誘電損失の増大に繋がり、周波数がGHz帯域(例えば1~80GHz)の高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0053】
また、樹脂フィルムの熱膨張係数(CTE)は、寸法安定性を確保するため、10~30ppm/Kの範囲内が好ましく、15~25ppm/Kの範囲内であることがより好ましい。
【0054】
なお、本実施の形態の樹脂フィルムは、フッ素系樹脂層以外の任意の樹脂層を含むことができる。
【0055】
<金属張積層板>
以上のようにして得られる金属張積層板は、フッ素系樹脂層と、フッ素系樹脂層の片面または両面に積層された金属層とを備えている。つまり、本実施の形態の金属張積層板は、片面金属張積層板でもよいし、両面金属張積層板でもよい。
【0056】
金属層の材質としては、特に制限はないが、例えば、銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。この中でも、特に銅又は銅合金が好ましい。
【0057】
金属層の厚みは特に限定されるものではないが、例えば銅箔等の金属箔を用いる場合、好ましくは35μm以下であり、より好ましくは5~25μmの範囲内がよい。生産安定性及びハンドリング性の観点から金属箔の厚みの下限値は5μmとすることが好ましい。なお、銅箔を用いる場合は、圧延銅箔でも電解銅箔でもよく、例えば5μm以下の薄銅箔とキャリア箔の間に離形層を形成したピーラブル銅箔でもよい。また、銅箔としては、市販されている銅箔を用いることができる。金属層の表面粗度は、特に限定されるものではないが、フッ素系樹脂層との密着性を担保と導体損失を両立させる観点から、十点平均粗さ(Rzjis)を0.3~2.0の範囲内とすることが好ましい。
【0058】
また、金属箔は、例えば、防錆処理や、接着力の向上を目的として、例えばサイディング、アルミニウムアルコラート、アルミニウムキレート、シランカップリング剤等による表面処理を施してもよい。
【0059】
金属張積層板におけるフッ素系樹脂層の構成及び厚みは、上記樹脂フィルムと同様である。なお、本実施の形態の金属張積層板は、フッ素系樹脂層以外の任意の樹脂層を含むことができる。
【0060】
本実施の形態の金属張積層板は、回路基板材料として好ましく用いられる。すなわち、金属張積層板の片側または両側の金属層をエッチングなどにより配線回路加工することによって、片面FPC又は両面FPCなどの回路基板を製造することができる。
【実施例0061】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0062】
[粘度の測定]
E型粘度計(ブルックフィールド社製、商品名;DV-II+Pro)を用いて、25℃における粘度を測定した。なお、測定された粘度は、トルクが10%~90%の範囲で測定可能な粘度になるよう回転数を設定し、測定を開始してから2分経過後、粘度が安定した時の値を読み取った。
【0063】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
3mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、サーモメカニカルアナライザー(日立ハイテクテクノロジー社(旧セイコーインスツルメンツ社製)、商品名;TMA/SS6100)を用い、5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から260℃まで昇温させ、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、250℃から100℃までの平均熱膨張係数(熱膨張係数)を求めた。
【0064】
[比誘電率及び誘電正接の測定]
ベクトルネットワークアナライザ(Agilent社製、商品名;E8363C)及びスプリットポスト誘電体共振器(SPDR共振器)を用いて、周波数10GHzにおけるフィルムの比誘電率(Dk)および誘電正接(Df)を測定した。
また、上記と同様にスプリットシリンダ共振器(SCR共振器)を用いて60GHzにおけるフィルムの誘電率(Dk)および誘電正接(Df)を測定した。
なお、調湿時のDk、Dfは、測定に使用したフィルムを温度;24~26℃、湿度;45~55%の条件下で、72時間放置した後に測定したものである。
【0065】
[銅箔の表面粗度の測定]
銅箔の表面粗度は、AFM(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名;Dimension Icon型SPM)、プローブ(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名;TESPA(NCHV)、先端曲率半径10nm、ばね定数42N/m)を用いて、タッピングモードで、銅箔表面の80μm×80μmの範囲で測定し、十点平均粗さ(Rzjis)を求めた。
【0066】
実施例及び比較例に用いた化合物以下を示す。
フッ素樹脂系パウダー(1):Fluon+(Fluonは登録商標) EA-2000 PW 10:AGC製フッ素樹脂系パウダー、平均粒子径2~3μm
シリカフィラー(1):SPH507-05:日鉄ケミカル&マテリアル製非晶質シリカフィラー、平均粒子径(D50)0.7μm、比表面積9.0m/g
シリカフィラー(2):SPH60-05:日鉄ケミカル&マテリアル製非晶質シリカフィラー、平均粒子径(D50)1.7μm、比表面積9.2m/g
分散剤(1):フタージェント710FL:ネオス製ノニオン系フッ素含有分散剤(成分50重量%、酢酸エチル50重量%)
【0067】
<実施例1>
プライミクス株式会社(旧社名:特殊機化工業株式会社)のT.K.HIVIS MIX(型式2P-03)の容器内に、粉粒状のフッ素系樹脂としてフッ素樹脂系パウダー(1)を58.7g、無機フィラーとしてヘキサメチルジシラザンでの表面処理をしたシリカフィラー(1)を141.3g、分散剤として分散剤(1)を20g及びDMAcを21.1g加え、30rpmで5分間撹拌をした。
【0068】
次に、フッ素樹脂系パウダー(1)とヘキサメチルジシラザンでの表面処理をしたシリカフィラー(1)の全量に対する割合を微調整するため、DMAcを混練物に少量加え30rpmで5分間撹拌し混錬物の状態確認を行う作業を混練物が塊状になるまで繰り返し実施した。なお本検討では、フッ素樹脂系パウダー(1)とヘキサメチルジシラザンでの表面処理をしたシリカフィラー(1)の合計割合が全量に対して79重量%となった際に塊状となり、混錬物の塊内部にも粉状部分は観察されなかった。前記塊状になった状態から30rpmでの固練りを開始し、15分間隔で停止し、撹拌翼及び容器側壁の混練物のかき取りを実施した。この作業を計4回、合計60分間の固練りを行い、分散組成物1-1を得た。
分散組成物1-1は、流動性がなく粘度の測定ができないため、「固体」と判断した。
【0069】
その後、分散組成物1-1について、フッ素樹脂系パウダー(1)とヘキサメチルジシラザンでの表面処理をしたシリカフィラー(1)の合計割合が全量に対して70重量%となるようにDMAcで段階的な希釈及び撹拌を行い、50rpmで測定時の粘度1750cP、100rpmで測定時の粘度1420cPの分散組成物1-2を得た。
【0070】
分散組成物1-2について、銅箔(電解銅箔、厚さ;12μm、樹脂層側の表面粗度Rz;0.6μm)の上に、熱処理後の厚みが50μmとなるように塗工後、熱風オーブンを用いて120℃で3分、280℃で3分、340℃で6分の熱処理を行い、片面金属張積層板1を得た。得られた片面金属張積層板1に凝集物等は見られなかった。
【0071】
次に片面金属張積層板1の樹脂面同士を重ね合わせ、320℃で5分間、2MPaの圧力をかけてプレスを実施し、両面金属張積層板1を得た。得られた両面金属張積層板1について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、フッ素樹脂フィルム1を調製した。
フッ素樹脂フィルム1のCTEは22.8ppm/Kであり、調湿時の10GHzのDk=2.52、Df=0.0020、調湿時の60GHzのDk=2.61、Df=0.0023であった。
【0072】
<実施例2>
プライミクス株式会社(旧社名:特殊機化工業株式会社)のT.K.HIVIS MIX(型式2P-03)の容器内に、粉粒状のフッ素系樹脂としてフッ素樹脂系パウダー(1)を58.7g、無機フィラーとしてヘキサメチルジシラザンでの表面処理をしたシリカフィラー(2)を141.3g、分散剤として分散剤(1)を20g及びDMAcを21.1g加え、30rpmで5分間撹拌をした。
【0073】
次に、フッ素樹脂系パウダー(1)とヘキサメチルジシラザンでの表面処理をしたシリカフィラー(2)の全量に対する割合を微調整するため、DMAcを混練物に少量加え30rpmで5分間撹拌し混錬物の状態確認を行う作業を混練物が塊状になるまで繰り返し実施した。なお本検討では、フッ素樹脂系パウダー(1)とヘキサメチルジシラザンでの表面処理をしたシリカフィラー(2)の合計割合が全量に対して80.9重量%となった際に塊状となり、混錬物の塊内部にも粉状部分は観察されなかった。前記塊状になった状態から30rpmでの固練りを開始し、15分間隔で停止し、撹拌翼及び容器側壁の混練物のかき取りを実施した。この作業を計4回、合計60分間の固練りを行い、分散組成物2-1を得た。
分散組成物2-1は、流動性がなく粘度の測定ができないため、「固体」と判断した。
【0074】
その後、分散組成物2-1について、フッ素樹脂系パウダー(1)とヘキサメチルジシラザンでの表面処理をしたシリカフィラー(2)の合計割合が全量に対して70重量%となるようにDMAcで段階的な希釈及び撹拌を行い、50rpmで測定時の粘度1980cP、100rpmで測定時の粘度1450cPの分散組成物2-2を得た。
【0075】
分散組成物2-2について、銅箔(電解銅箔、厚さ;12μm、樹脂層側の表面粗度Rz;0.6μm)の上に、熱処理後の厚みが50μmとなるように塗工後、熱風オーブンを用いて120℃で3分、280℃で3分、340℃で6分の熱処理を行い、片面金属張積層板2-1を得た。得られた片面金属張積層板2-1に凝集物等は見られなかった。
【0076】
次に片面金属張積層板2-1の樹脂面同士を重ね合わせ、320℃で5分間、2MPaの圧力をかけてプレスを実施し、両面金属張積層板2-1を得た。得られた両面金属張積層板2-1について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、フッ素樹脂フィルム2-1を調製した。
フッ素樹脂フィルム2-1のCTEは23.2ppm/Kであり、調湿時の10GHzのDk=2.67、Df=0.0024、調湿時の60GHzのDk=2.78、Df=0.0025であった。
【0077】
<実施例3>
プライミクス株式会社(旧社名:特殊機化工業株式会社)のT.K.HIVIS MIX(型式2P-03)の容器内に、粉粒状のフッ素系樹脂としてフッ素樹脂系パウダー(1)を78.5g 、無機フィラーとしてヘキサメチルジシラザンでの表面処理をしたシリカフィラー(2)を121.5g、分散剤として分散剤(1)を20g及びDMAcを21.1g加え、30rpmで5分間撹拌をした。
【0078】
次に、フッ素樹脂系パウダー(1)とヘキサメチルジシラザンでの表面処理をしたシリカフィラー(2)の全量に対する割合を微調整するため、DMAcを混練物に少量加え30rpmで5分間撹拌し混錬物の状態確認を行う作業を混練物が塊状になるまで繰り返し実施した。なお本検討では、フッ素樹脂系パウダー(1)とヘキサメチルジシラザンでの表面処理をしたシリカフィラー(2)の合計割合が全量に対して78.7重量%となった際に塊状となり、混錬物の塊内部にも粉状部分は観察されなかった。前記塊状になった状態から30rpmでの固練りを開始し、15分間隔で停止し、撹拌翼及び容器側壁の混練物のかき取りを実施した。この作業を計4回、合計60分間の固練りを行い、分散組成物3-1を得た。
分散組成物3-1は、流動性がなく粘度の測定ができないため、「固体」と判断した。
【0079】
その後、分散組成物3-1について、フッ素樹脂系パウダー(1)とヘキサメチルジシラザンでの表面処理をしたシリカフィラー(2)の合計割合が全量に対して70重量%となるようにDMAcで段階的な希釈及び撹拌を行い、50rpmで測定時の粘度2590cP、100rpmで測定時の粘度1700cPの分散組成物3-2を得た。
【0080】
分散組成物3-2について、銅箔(電解銅箔、厚さ;12μm、樹脂層側の表面粗度Rz;0.6μm)の上に、熱処理後の厚みが50μmとなるように塗工後、熱風オーブンを用いて120℃で3分、280℃で3分、340℃で6分の熱処理を行い、片面金属張積層板3を得た。得られた片面金属張積層板3に凝集物等は見られなかった。
【0081】
次に片面金属張積層板3の樹脂面同士を重ね合わせ、320℃で5分間、2MPaの圧力をかけてプレスを実施し、両面金属張積層板3を得た。得られた両面金属張積層板3について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、フッ素樹脂フィルム3を調製した。
フッ素樹脂フィルム3のCTEは58.1ppm/Kであり、調湿時の10GHzのDk=2.96、Df=0.0023、調湿時の60GHzのDk=3.03、Df=0.0027であった。
【0082】
<実施例4>
プライミクス株式会社(旧社名:特殊機化工業株式会社)のT.K.HIVIS MIX(型式2P-03)の容器内に、粉粒状のフッ素系樹脂としてフッ素樹脂系パウダー(1)を98.4g、無機フィラーとしてヘキサメチルジシラザンでの表面処理をしたシリカフィラー(2)を101.6g、分散剤として分散剤(1)を20g及びDMAcを21.1g加え、30rpmで5分間撹拌をした。
【0083】
次に、フッ素樹脂系パウダー(1)とヘキサメチルジシラザンでの表面処理をしたシリカフィラー(2)の全量に対する割合を微調整するため、DMAcを混練物に少量加え30rpmで5分間撹拌し混錬物の状態確認を行う作業を混練物が塊状になるまで繰り返し実施した。なお本検討では、フッ素樹脂系パウダー(1)とヘキサメチルジシラザンでの表面処理をしたシリカフィラー(2)の合計割合が全量に対して78.3重量%となった際に塊状となり、混錬物の塊内部にも粉状部分は観察されなかった。前記塊状になった状態から30rpmでの固練りを開始し、15分間隔で停止し、撹拌翼及び容器側壁の混練物のかき取りを実施した。この作業を計4回、合計60分間の固練りを行い、分散組成物4-1を得た。
分散組成物4-1は、流動性がなく粘度の測定ができないため、「固体」と判断した。
【0084】
その後、分散組成物4-1について、フッ素樹脂系パウダー(1)とヘキサメチルジシラザンでの表面処理をしたシリカフィラー(2)の合計割合が全量に対して70重量%となるようにDMAcで段階的な希釈及び撹拌を行い、50rpmで測定時の粘度2320cP、100rpmで測定時の粘度1720cPの分散組成物4-2を得た。
【0085】
分散組成物4-2について、銅箔(電解銅箔、厚さ;12μm、樹脂層側の表面粗度Rz;0.6μm)の上に、熱処理後の厚みが50μmとなるように塗工後、熱風オーブンを用いて120℃で3分、280℃で3分、340℃で6分の熱処理を行い、片面金属張積層板4を得た。得られた片面金属張積層板4に凝集物等は見られなかった。
【0086】
次に片面金属張積層板4の樹脂面同士を重ね合わせ、320℃で5分間、2MPaの圧力をかけてプレスを実施し、両面金属張積層板4を得た。得られた両面金属張積層板4について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、フッ素樹脂フィルム4を調製した。
フッ素樹脂フィルム4のCTEは117.5ppm/Kであり、調湿時の10GHzのDk=2.73、Df=0.0023、調湿時の60GHzのDk=2.78、Df=0.0027であった。
【0087】
<実施例5>
実施例2で得られた分散組成物2-1をフッ素樹脂系パウダー(1)とヘキサメチルジシラザンでの表面処理をしたシリカフィラー(2)の合計割合が全量に対して74重量%又は72重量%となるように、それぞれDMAcで段階的な希釈及び撹拌を行った。74重量%とした分散組成物2-3の粘度は、50rpmで測定時に5160cP、100rpmで測定時に3310cPであり、72重量%とした分散組成物2-4では50rpmで測定時の粘度3320cP、100rpmで測定時の粘度2350cPであった。
【0088】
<実施例6>
実施例2で得られた分散組成物2-2について、銅箔(電解銅箔、厚さ;12μm、樹脂層側の表面粗度Rz;0.6μm)の上に、熱処理後の厚みが75μmとなるように塗工後、熱風オーブンを用いて120℃で4分30秒、280℃で4分30秒、340℃で9分の熱処理を行い、片面金属張積層板2-2を得た。
得られた片面金属張積層板2-2に凝集物等は見られなかった。
【0089】
次に片面金属張積層板2-2の樹脂面同士を重ね合わせ、320℃で5分間、2MPaの圧力をかけてプレスを実施し、両面金属張積層板2-2を得た。得られた両面金属張積層板2-2について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、フッ素樹脂フィルム2-2を調製した。
フッ素樹脂フィルム2-2のCTEは23.4ppm/Kであり、調湿時の10GHzのDk=2.65、Df=0.0024、調湿時の60GHzのDk=2.76、Df=0.0025であった。
【0090】
<比較例1>
プライミクス株式会社(旧社名:特殊機化工業株式会社)のT.K.HIVIS MIX(型式2P-03)の容器内に、粉粒状のフッ素系樹脂としてフッ素樹脂系パウダー(1)を58.7g、無機フィラーとしてヘキサメチルジシラザンでの表面処理をしたシリカフィラー(1)を141.3g、分散剤として分散剤(1)を20g及びDMAcを55.1g加え、30rpmで5分間撹拌をした。この際、フッ素樹脂系パウダー(1)とヘキサメチルジシラザンでの表面処理をしたシリカフィラー(1)の合計割合が全量に対して72.7重量%であり、高粘度の粘性混錬物となり、固練りが実施できない状態であった。前記高粘度の粘性混練物について、30rpmでの撹拌を行い、15分間隔で停止、撹拌翼及び容器側壁の混練物のかき取りを実施した。この作業を計4回、合計60分間の撹拌を行い、分散組成物5-1を得た。
分散組成物5-1の粘度は、5rpmで測定時の粘度89300cP、10rpmで測定時の粘度52300cPであった。
【0091】
その後、分散組成物5-1について、フッ素樹脂系パウダー(1)とヘキサメチルジシラザンでの表面処理をしたシリカフィラー(1)の合計割合が全量に対して70重量%となるようにDMAcで段階的な希釈及び撹拌を行い、50rpmで測定時の粘度1720cP、100rpmで測定時の粘度1410cPの分散組成物5-2を得た。
【0092】
分散組成物5-2について、銅箔(電解銅箔、厚さ;12μm、樹脂層側の表面粗度Rz;0.6μm)の上に、熱処理後の厚みが50μmとなるように塗工後、熱風オーブンを用いて120℃で3分、280℃で3分、340℃で6分の熱処理を行い、金属張積層板5を得た。得られた金属張積層板5には目視で観察できる100μm以上の凝集物が全面に見られた。
【0093】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。