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特開2023-52260体調評価方法、熱中症発症リスク評価方法、および、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023052260
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】体調評価方法、熱中症発症リスク評価方法、および、プログラム
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/30 20180101AFI20230404BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20230404BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
G16H50/30
A61B5/00 102B
A61B5/00 G
A61B5/11 200
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001250
(22)【出願日】2023-01-06
(62)【分割の表示】P 2018075361の分割
【原出願日】2018-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】397039919
【氏名又は名称】一般財団法人日本気象協会
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】清野 健
(72)【発明者】
【氏名】藤尾 宜範
(72)【発明者】
【氏名】林 洋行
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 善一郎
(72)【発明者】
【氏名】真田 知世
(57)【要約】
【課題】被評価者の心拍指数と体力指数とを算出する体調評価方法、被評価者の熱中症発症リスク指数を算出する熱中症発症リスク評価方法、さらに、これらの各種評価方法をコンピュータである制御手段に実行させるコンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】本願で開示する体調評価方法は、コンピュータプログラムによって動作するコンピュータによって被評価者の体調を評価する体調評価方法であって、前記被評価者の心拍データを検出する心拍検出手段と、前記被評価者の動作に伴う加速度データを検出する加速度検出手段とを備えた測定装置を用い、前記測定装置により取得された所定期間における前記被評価者の心拍データと加速度データとに基づいて、前記被評価者の心拍指数と体力指数とを算出する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータプログラムによって動作するコンピュータによって被評価者の体調を評価する体調評価方法であって、
前記被評価者の心拍データを検出する心拍検出手段と、前記被評価者の動作に伴う加速度データを検出する加速度検出手段とを備えた測定装置を用い、
前記測定装置により取得された所定期間における前記被評価者の心拍データと加速度データとに基づいて、
前記被評価者の心拍指数と体力指数とを算出することを特徴とする、体調評価方法。
【請求項2】
前記所定期間における前記心拍データの集合と前記所定期間における前記加速度データの集合とに対する回帰直線から前記心拍指数と前記体力指数とを算出する、請求項1に記載の体調評価方法。
【請求項3】
コンピュータプログラムによって動作するコンピュータによって被評価者の熱中症発症リスク指数を算出する熱中症発症リスク評価方法であって、
前記被評価者の心拍データを検出する心拍検出手段と、前記被評価者の動作に伴う加速度データを検出する加速度検出手段と、前記被評価者の服内温度を検出する温度検出手段とを備えた測定装置を用い、
前記測定装置により取得された前記被評価者の前記心拍データと前記加速度データとの少なくともいずれか一方に基づいて算出された前記被評価者が行った作業の強度を示す作業負担指数と、
前記測定装置が測定した前記服内温度と、環境温度とに基づいて算出された前記被評価者の暑熱負荷指数とに基づいて、
前記被評価者の熱中症発症リスク指数を算出し、
請求項1または請求項2のいずれかに記載された前記被評価者の体調評価方法において算出された前記心拍指数と前記体力指数とを用いて、前記熱中症発症リスク指数を補正することを特徴とする熱中症発症リスク評価方法。
【請求項4】
前記作業負担指数と前記暑熱負荷指数とをそれぞれ軸とする2次元マップ上に、前記被評価者の熱中症発症リスク指標を表示する、請求項3に記載の熱中症発症リスク評価方法。
【請求項5】
コンピュータを制御手段として用い、請求項1または2に記載の体調評価方法、または、請求項3または4に記載された熱中症発症リスク評価方法のいずれかを前記制御手段に実行させることを特徴とする、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、被評価者が装着することで当該被評価者の心拍データと動作に伴う加速度データとを検出する測定装置を用いて、被評価者の作業負担指数を算出する作業負担推定方法、および、被評価者の心拍指数と体力指数とを算出する体調評価方法、さらに測定装置によって検出された心拍データと加速度データと服内温度とを用いて、被評価者の熱中症発症リスクを算出する熱中症発症リスク評価方法、さらに、これらの各評価方法をコンピュータである制御手段に実行させるコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線LANなどインターネットへの接続環境が整備されるとともに、ブルートゥース(登録商標)などの近距離での情報伝達を可能とする手段の発達、さらに、スマートフォンなどの高性能のモバイル機器や、体温や心拍数、発汗量などの身体データを測定可能な小型センサ機器の普及により、センサ機器で取得されたデータをインターネットに接続されたモバイル機器に伝達することで、評価対象者の健康状態を管理して体調不良に起因する事故などの不測の事態を防止する管理システムが実用化されている。
【0003】
このような体調管理システムの例として、地球温暖化に伴って発症リスクの高まりが社会問題化されている熱中症の発症を管理して予防するシステムが知られている。例えば、加速度センサと紫外線センサ、GPS受信部を備え、操作入力部と表示・音声報知部、インターネット接続部などを有する筐体を被管理者に装着させて、被管理者の運動量と、被管理者が屋外屋内のいずれにいるかなどの位置情報とを把握し、インターネット経由で取得した気温、湿度などの気象条件に基づいてWBGT指標によって熱中症の発症リスクを判定し、判定結果にしたがって適宜の休憩を指示することで熱中症の発症を予防するものが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-210233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の熱中症発症予防システムでは、被管理者は情報取得手段である小型の筐体を衣服に固着して所持していれば、皮膚に直接接触させなくても自身の熱中症発症リスクをリアルタイムで把握し、適宜の対応策を採ることができる。
【0006】
しかし、例えば重いものをゆっくりと持ち上げたりする作業では、身体の大きな移動が生じなくても大きな肉体的負荷が加わることになる。また、被管理者の体調によっては、同じ条件下であっても熱中症の発症リスクが大きく変化することが考えられるが、上記従来の熱中症発症予防システムでは、被管理者が自ら入力した睡眠時間などのデータに基づいた補正が行われるのみであり、被管理者が正確な入力を行わなかったり、作業中に体調の急変が生じたりした場合には、熱中症の発症リスク判定基準を変更して正確なリスク管理を行うことは困難である。
【0007】
本願は、上記従来技術の有する課題を解決することを目的とするものであり、被評価者の作業の強度を示す作業負担指数を算出する作業負担推定方法、被評価者の心拍指数と体力指数とを算出する体調評価方法、被評価者の熱中症発症リスク指数を算出する熱中症発症リスク評価方法、さらに、これらの各種評価方法をコンピュータである制御手段に実行させるコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本願で開示する作業負担指数評価方法は、被評価者の心拍データを検出する心拍検出手段と、前記被評価者の動作に伴う加速度データを検出する加速度検出手段とを備えた測定装置を用い、前記測定装置により取得された前記被評価者の前記心拍データと前記加速度データとの少なくともいずれか一方に基づいて、前記被評価者が行った作業の強度を示す作業負担指数を算出することを特徴とする。
【0009】
また、本願で開示する体調評価方法は、被評価者の心拍データを検出する心拍検出手段と、前記被評価者の動作に伴う加速度データを検出する加速度検出手段とを備えた測定装置を用い、前記測定装置により取得された所定期間における前記被評価者の心拍データと加速度データとに基づいて、前記被評価者の心拍指数と体力指数とを算出することを特徴とする。
【0010】
さらに、本願で開示する熱中症発症リスク評価方法は、前記被評価者の服内温度を検出する温度検出手段をさらに備えた前記測定装置を用い、本願で開示する作業負担推定方法により算出された前記作業負担指数と、前記測定装置が測定した前記服内温度と、環境温度とに基づいて算出された前記被評価者の暑熱負荷指数とに基づいて、前記被評価者の熱中症発症リスク指数を算出することを特徴とする。
【0011】
さらにまた、本願で開示するコンピュータプログラムは、コンピュータを制御手段として用い、本願で開示する作業負担推定方法、体調評価方法、および熱中症発症リスク評価方法のいずれかを前記制御手段に実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記構成により、本願で開示する作業負担推定方法は、被評価者の体調や個人差が勘案された作業負担指数を算出できる。
【0013】
また、本願で開示する体調評価方法は、被評価者の心拍指数と体力指数とを算出して、評価時における被評価者の体調を正確に評価することができる。
【0014】
さらに、本願で開示する熱中症発症リスク評価方法は、被評価者の心拍データと、動作を示す加速度データと、服内温度と環境温度のデータとから、被評価者の作業の強度を示す作業負担指数と熱的要素を示す暑熱負荷指数とに基づいて、被評価者が熱中症を発症するリスクを評価することができる。
【0015】
さらにまた、本願で開示するコンピュータプログラムは、本願で開示する作業負担指数評価方法、体調評価方法、熱中症発症リスク評価方法のいずれかを、制御手段であるコンピュータに実行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施形態として説明する熱中症発症リスク管理システムの全体構成を説明するイメージ図である。
図2図2は、実施形態として説明する熱中症発症リスク管理システムの各部の構成を示すブロック図である。
図3図3は、被管理者の各種情報を取得する測定装置である生体センサを備えたアンダーシャツの構成を説明する図である。図3(a)がアンダーシャツの表面を、図3(b)がアンダーシャツの裏面を示す。
図4図4は、本実施形態で説明する熱中症発症リスク管理システムにおける、熱中症発症リスク評価方法を説明するフローチャートである。
図5図5は、加速度偏差に対する心拍応答を示す標準心拍応答の測定結果を示す図である。図5(a)は、約300万点のデータをすべてプロットした図を、図5(b)は、加速度データに対する心拍応答の中央値を用いて得られた標準心拍応答を示す。
図6図6は、本実施形態にかかる体調評価方法における、心拍指数と体力指数との推定方法を説明する図である。
図7図7は、本実施形態において説明する作業負担推定方法において、作業負担指数を求める第1の補正マップを説明する図である。
図8図8は、本実施形態において説明する作業負担推定方法において、作業負担指数を求める第2の補正マップを説明する図である。
図9図9は、本実施形態で示す評価方法で得られた熱中症の発症リスクを、作業負担指数と暑熱負荷指数とをそれぞれ軸として示す2次元のマップの表示例である。
図10図10は、本実施形態にかかる体調評価方法で求められた心拍指数と体力指数の値と、被評価者に対して行ったアンケート結果との相関関係を説明する図である。図9(a)が作業開始前のデータを、図9(b)が作業後のデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願で開示する作業負担推定方法は、被評価者の心拍データを検出する心拍検出手段と、前記被評価者の動作に伴う加速度データを検出する加速度検出手段とを備えた測定装置を用い、前記測定装置により取得された前記被評価者の前記心拍データと前記加速度データとの少なくともいずれか一方に基づいて、前記被評価者が行った作業の強度を示す作業負担指数を算出する。
【0018】
このようにすることで、被評価者の動作の大きさおよび早さと、被評価者の心拍数との両面から作業負担指数を算出することができ、たとえば、重いものを持ち上げるような動作はゆっくりではあるが高い負荷が加わる作業を行っている場合でも、被評価者の作業負担を正確に推定することができる。
【0019】
本願で開示する作業負担推定方法において、複数人を測定対象として得られた前記心拍データと前記加速度データとに基づいて標準心拍応答モデルを作成し、前記作業負担指数を算出する際に前記標準心拍応答モデルを用いることができる。このようにすることで、ヒトの標準的な心拍応答を表した標準心拍応答モデルを用いて、個人差を補正することができる。
【0020】
また、前記標準心拍応答モデルは、同じ作業に従事する複数人を測定対象として作成されることが好ましい。例えば、同じ建築現場で建築作業に従事する複数人の作業員を測定対象として得られたデータを基に作成された標準心拍応答モデルは、当該作業者の典型的な心拍応答を表しており、当該作業に最適化された作業負担指数を算出することができる。
【0021】
さらに、過去の所定期間における当該被評価者の前記心拍データと前記加速度データである履歴データと、前記標準心拍応答モデルと、に基づいて前記被評価者の前記心拍データを補正した標準化心拍数を算出し、前記標準化心拍数に基づいて前記被評価者の前記作業負担指数を算出することが好ましい。このようにすることで、作業負担に対する心拍数の変化における被評価者それぞれの個性を標準化して、より正確な作業負担指数を算出することができる。
【0022】
また、前記被評価者の前記加速度データと前記標準心拍応答モデルとに基づいて前記被評価者の推定標準化心拍数を算出し、前記推定標準化心拍数に基づいて前記被評価者の前記作業負担指数を算出することが好ましい。このようにすることで、測定装置から得られた心拍データの信頼性が低い場合でも、加速度データから推定した心拍データの近似値を用いて作業負担指数を算出することができる。
【0023】
さらにまた、当該被評価者について初めて前記作業負担指数を算出する場合には、前記加速度データにのみ基づいて前記作業負担指数を算出することが好ましい。このようにすることで、個人差が大きく現れる心拍データの影響を回避して、初めて作業負担指標を算出する被評価者に対してもよりリスクの低い方向で作業負担を推定することができる。
【0024】
本願で開示する体調評価方法は、被評価者の心拍データを検出する心拍検出手段と、前記被評価者の動作に伴う加速度データを検出する加速度検出手段とを備えた測定装置を用い、前記測定装置により取得された所定期間における前記被評価者の心拍データと加速度データとに基づいて、前記被評価者の心拍指数と体力指数とを算出する。
【0025】
このようにすることで、本願で開示する体調評価方法では、被評価者の評価時点での状態や周辺環境などが勘案されたより正確な体調評価を行うことができる。
【0026】
本願で開示する体調評価方法において、前記所定期間における前記心拍データの集合と前記所定期間における前記加速度データの集合とに対する回帰直線から前記心拍指数と前記体力指数とを算出することが好ましい。
【0027】
本願で開示する熱中症発症リスク評価方法は、前記被評価者の服内温度を検出する温度検出手段をさらに備えた前記測定装置を用い、本願で開示されるいずれかの作業負担推定方法により算出された前記作業負担指数と、前記測定装置が測定した前記服内温度と、環境温度とに基づいて算出された前記被評価者の暑熱負荷指数とに基づいて、前記被評価者の熱中症発症リスク指数を算出する。
【0028】
このようにすることで、本願で開示する熱中症リスク評価方法では、本願で開示する作業負担推定方法で算出された正確な作業負担指数と、被評価者の周囲の熱的環境を勘案して、より精度の高い熱中症発症リスク指数を算出することができる。
【0029】
本願で開示する熱中症発症リスク評価方法において、前記心拍指数と前記体力指数とを用いて前記熱中症発症リスク指数を補正することが好ましい。このようにすることで、被評価者の評価時点での体調を勘案した熱中症発症リスク指数の算出をすることができる。
【0030】
また、前記作業負担指数と前記暑熱負荷指数とをそれぞれ軸とする2次元マップ上に、前記被評価者の熱中症発症リスク指標を表示することが好ましい。このようにすることで、たとえば複数の被評価者の熱中症発症リスクや特定の被評価者個人の熱中症発症リスクを、その高低とともに作業負担要因と暑熱負荷要因とに分けた状態で視覚的に把握することができる。この結果、熱中症発症リスクが高いと評価された被評価者を容易に発見して注意を促すことができ、また、熱中症発症リスクを低下させるためのより有効な対策を採用することができる。
【0031】
本願で開示するコンピュータプログラムは、コンピュータを制御手段として用い、本願で開示する作業負担推定方法、体調評価方法、および、熱中症発症リスク評価方法のいずれかを前記制御手段に実行させる。このようにすることで、コンピュータを用いて、本願で開示するそれぞれの評価方法を実行することができる。
【0032】
以下、本願で開示する作業負担推定方法、体調評価方法、熱中症発症リスク評価方法、および、コンピュータプログラムについて、本願で開示する各種の評価方法を用いて体調を管理する体調管理システムを例示しながら、図面を用いて説明する。
【0033】
(実施の形態)
本実施形態では、本願で開示する熱中症発症リスク評価方法を用いて被管理者の熱中症発症リスク指数を算出し、算出した熱中症発症リスク指数に基づいて、管理者が、熱中症を発症するリスクが高く危険な状態になりつつある被管理者に警告し、熱中症の発症を回避することができる熱中症発症リスク管理システムを示して説明する。
【0034】
より具体的には、本実施形態で説明する熱中症発症リスク管理システムは、炎天下での重労働を強いられるなど強い肉体的負荷と熱的負荷とがかかる建築現場の作業者を被管理者(評価方法の被評価者)として、現場監督などの管理者が、管理対象の作業者が熱中症とならないように管理するために導入されるものである。
【0035】
また、本実施形態で説明する熱中症発症リスク管理システムに用いられる測定装置を用いて、被評価者の体調を評価する体調評価方法についても併せて説明する。
【0036】
なお、以下で説明する熱中症発症リスク管理システムは、本願で開示する熱中症発症リスク評価方法が採用されたシステムの例示にすぎず、システム例を構成する個々の部材は、本願で開示する熱中症発症リスク評価方法をはじめ、本願で開示する作業負担推定方法や体調評価方法を何ら制限するものではない。
【0037】
[システムの概要]
図1は、本実施形態においで説明する熱中症発症リスク管理システムの概略構成を説明するためのイメージ図である。
【0038】
また、図2は、本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムの各部の構成例を示すブロック図である。
【0039】
図1に示すように、建築現場で作業する作業者10は、服内温度と、心拍データと、体の動きを検出するための加速度検出手段である3次元加速度センサを備えた、測定装置である生体センサ11を胸部に装着するとともに、生体センサ11で得られた各種情報を外部に送信する情報送信部として機能する携帯端末としてのスマートフォン12を所持している。なお、本実施形態で説明する熱中症発症リスク管理システムでは、作業者10が被管理者に相当する。さらに、本願で開示する作業負担推定方法、体調評価方法、熱中症発症リスク評価方法では、作業者10が被評価者に相当する。
【0040】
本実施形態で説明する熱中症発症リスク管理システムでは、作業者10の各種情報を取得する生体センサ11は、作業者10が着用するアンダーシャツの胸部に装着されている。
【0041】
図3は、本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムで作業者が着用するアンダーシャツの構成例を示す図である。図3(a)が、生体センサが装着されたアンダーシャツの表面を示し、図3(b)がアンダーシャツの裏面、すなわち、作業者の体表面に対向して接触する側を示している。
【0042】
図3に示すように、本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムで作業者10が着用するアンダーシャツ18の胸部には、生体センサ11が配置されている。より具体的には、生体センサ11は、アンダーシャツ18の表面18aの胸部中央部分に配置された、データ取得送信ユニット11aと、このデータ取得送信ユニット11aに接続され、アンダーシャツ18の裏面18b、つまり、皮膚に接する側の部分に左右方向に延在して配置された電極部11bとから構成されている。
【0043】
本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムでは、生体センサ11によって作業者10の心拍、服内温度、動作を検出するものであり、アンダーシャツ18の裏面に配置された心拍検出手段である電極が胸部に接触することで、より正確に作業者10の心拍を検出することができるようになっている。また、服内温度を検出する温度センサ(図示省略)と、3次元方向の加速度を検出する加速度センサチップ(図示省略)は、データ取得送信ユニット11a内に収容されている。
【0044】
本実施形態で説明する熱中症発症リスク管理システムにおいて、作業者10の心拍、服内温度、動作を取得する測定装置の配置例は、図3に示したアンダーシャツ18に生体センサ11を固着する方法には限られない。たとえば、生体センサ11を接着性の高いシート状の装着カバー内に入れてこれを胸部に直接貼り付ける方法、生体センサ11を体に密着保持することができる伸縮性のある装着ベルトを用いて作業者の胸部に配置する方法などを採用することができる。しかし、装着カバーや装着ベルトを用いる方法では、作業者10が生体センサ11を装着することによって感じる違和感を解消できず、また、長時間装着する場合に、汗などによって、生体センサ11が作業者の体表面から外れたり装着位置がずれたりする恐れがある。
【0045】
これに対して、図3に示したように生体センサ11を作業者10が着用するアンダーシャツ18に固着する方法によれば、作業者10が、生体センサ11を装着することに対する特別な意識を緩和して必要な情報を取得することができる。また、仮に作業者10の発汗や作業中の体のひねりなどが生じた場合でも、アンダーシャツ18に固着された生体センサ11が、作業者10の体表面から外れてしまうことはなく、その装着位置も実質的に変化しない状態を維持することができる。このため、作業者10の心拍の一部を心拍データとして取得できない場合はあるものの、心拍データが全く取得できない状況が継続して続く事態は回避することができる。
【0046】
作業者10の情報を取得する測定装置として生体センサ11を用いる場合に、生体センサ11の配置場所としては、上記した作業者の胸部以外にも、作業者の腰部、背中、上腕部や脚部などに配置される形態を採用することができる。これらの場合においても、生体センサ11を作業者の体表面に密着固定する方法としては、アンダーウェアの内表面に電極部11bを、外表面にデータ取得送信ユニット11aを配置する方法のほか、装着カバーや装着ベルトを用いて生体センサを固定する方法が採用できる。ただし、本実施形態にかかる作業負担推定方法、体調評価方法、熱中症発症リスク評価方法では、被評価者の心拍数の変化に基づいてそれぞれの評価指数を求める判断が基本となるため、作業者10の心拍を検出する上では胸部に生体センサ11を配置することが最も好ましいと考えられ、その点で、図3に示したようなアンダーシャツ18を用いることが実用的であると考えられる。
【0047】
また、本実施形態で説明したような、工事現場で働く作業者を管理対象とする熱中症発症リスク管理システムとしてではなく、たとえば、トレーニングを行うスポーツ選手などの体調評価を行う場合などでは、被評価者がスポーツウェアを着用することが考えられ、この場合も上半身に着用されるウェアの胸部に生体センサを配置することが最も合理的である。
【0048】
生体センサ11と作業者11が所持するスマートフォン12とは、ブルートゥース(Bluetooth:登録商標)などの短距離間通信によって常時接続されていて、生体センサ11が取得する各種の情報は、随時スマートフォン12に送られている。
【0049】
スマートフォン12は、生体センサ11から送られた作業者10の情報を送信する被評価者情報送信部13、データ受信部15、データ送信部16によって、無線LANや携帯電話の情報キャリアを用いて常時ネットワーク環境としてのインターネット20に接続されている。そして、スマートフォン12は、インターネット20上に設置されたリスク評価判定部22を備えたサーバであるクラウドサーバ21に被評価者情報である作業者10の服内温度、心拍データ、加速度センサの測定データを伝送する。
【0050】
クラウドサーバ21は、内部にデータ受信部23とデータ送信部26を備えていて、インターネット20を介した情報の授受を行うことができるとともに、評価判定部22を備えていて、複数の作業者10からの測定データを受信して、それぞれの作業者についての熱中症発症リスクを評価、判定し、熱中症の発症リスクが高まっている場合にはその旨を当該作業者に警告する警告情報を作成する。また、クラウドサーバ21は、データ記録部24を備えていて、複数人いる作業者10それぞれからの測定データ、警告情報の作成履歴などを時系列に記録することができる。
【0051】
さらに、クラウドサーバ21は、気象情報取得部25を有していて、インターネット20を介して気象情報を提供する情報サイトから気象情報を取得して、作業者10が作業している地域での気温や湿度、日照量などの現在時刻での気象条件や、今後数時間内における変化を見込んだ気象予報を取得することができる。
【0052】
また、クラウドサーバ21は、インターネット20を介して、熱中症発症リスクの判定対象の作業者10の作業を建築現場で監督する管理者である現場監督30が使用する管理者情報端末としてのパソコン31と接続されている。このため、作業者10が作業する作業現場にいる現場監督30は、パソコン31のデータ受信部33によって、クラウドサーバ21から随時送信される作業者10から得られた測定結果や、評価判定部22によって警告情報が生成されたか否かを把握することができる。
【0053】
クラウドサーバ21の評価判定部22は、作業者が装着する測定装置である生体センサ11から得られた心拍データ、加速度データ、服内温度データに基づいて、作業者10の体調評価し、さらに、作業負担指数を算出して、服内温度情報と、インターネットを経由して取得した作業地の環境温度情報とを加味して、作業者10の熱中症発症リスク指数を算出する。
【0054】
なお、評価判定部22で行われる、作業者10の作業負担推定、体調評価、熱中症発症リスク評価の具体的な内容については、後に詳述する。
【0055】
また、クラウドサーバ21は、データ記録部24に記録された判定対象の作業者10の過去の履歴情報としての履歴データや、気象情報取得部25で取得した作業地域の気象情報、さらには、判定対象の作業者と同じ現場で働いている、判定対象の作業者以外の作業者から取得された各種情報の変化などの環境情報に基づいて、作業者10の熱中症発症リスク評価結果を補正して、より現実に即した熱中症発症リスクの評価判定を行うことができる。
【0056】
なお、本実施形態で例示する熱中症発症リスク管理システムにおいて、評価判定部22を備えるのはクラウドサーバ21に限られない。例えば、管理者情報端末や事業所の管理コンピュータ上に、リスク判定部を含めたクラウドサーバ21の各種機能を実装してもよく、その機能が実現できるのであれば、評価判定部が実装される場所や機器は問わない。
【0057】
現場監督30のパソコン31は、作業者10を含めた当該現場監督30が監督する作業現場に所属する作業者についての測定装置で得られた各種の情報や警告情報が生成されたか否かを管理する情報管理部32を備えている。情報管理部32は、クラウドサーバ21から送信された情報に基づいて、それぞれの作業者から得られた情報や警告情報が生成されたか否かの熱中症発症リスク評価判定の基準となる情報を常に最新情報として把握している。また、情報管理部32は、取得した各作業者の熱中症発症リスクの評価判定結果やその他の環境情報を表示画像処理部35へと出力し、表示画像処理部35で液晶モニタなどの表示デバイス36上に表示される画面内容が調整される。
【0058】
このようにして、現場監督30は、自分が監督する作業現場で働く作業者10の情報や熱中症発症リスクなどを、全体として一元的に、または、作業者個々の詳細情報として見やすい画面で把握することができる。なお、表示画像処理部35で処理された表示デバイス36に表示される具体的な画面内容については、適宜形成されるシステムによって求められる情報を見やすく表示できればよいため、本明細書での具体的な詳細の説明は省略する。
【0059】
図1に示したように、現場監督が使用するパソコンがデスクトップタイプである場合は、表示デバイス36はパソコン本体とは別体のものとなる。このように、情報管理部32などを有する管理者情報端末31と管理者用の画面表示を行う表示デバイス36とは、物理的に一体のものには限られない。また、例えば、複数人でデータを確認する場合などには、専用の大型画像表示装置を用いたり、プロジェクターによって表示画像をスクリーンや壁面などに拡大投影したりすることも考えられる。
【0060】
さらに、現場監督30のパソコン31では、警告情報を通知した後に当該作業者10から得られる各種情報や、作業者10からの警告情報の受領確認を受け取ることで、作業者10が熱中症の発症を予防するための対策を行ったか否かを確認することができ、作業者10が熱中症の発症を予防するための対応をとっていない場合には、対象の作業者10に繰り返して警告情報を伝達するなど、作業者10の注意喚起を行うことができる。
【0061】
また、現場監督30は、空調や換気などの作業現場の作業環境を改善するための対策を採ることが可能である場合には、適宜実行して自身が監督する作業現場での熱中症の発症を予防することができる。
【0062】
なお、上記説明では、作業者10に熱中症を発症するリスクが高くなっていることを報知する警告情報を、クラウドサーバ21の評価判定部22で生成する例を説明したが、警告情報を、現場監督30のパソコン31に設置された情報管理部32で生成することができる。また、評価判定部22と、情報管理部32の双方で警告情報を生成するように設定することもできる。このようにすることで、作業現場を実際に監督している現場監督30のパソコン31から、評価判定部22での判定結果に先んじて警告情報を生成して対象となる作業者10に伝達することで、作業現場の実情に応じて熱中症の発症リスクをより低減することができる場合がある。
【0063】
クラウドサーバ21の評価判定部22、または、現場監督30のパソコン31で生成された警告情報は、現場監督30のパソコン31のデータ送信部34から、無線LANなどのローカルネットワークや携帯電話の情報キャリアを含めたネットワークを介して作業者10が装備するスマートフォン12に送信される。警告情報を受け取ったスマートフォン12の警告報知部14は、音声、画面表示、ランプの点灯または点滅、振動などの各種の情報伝達手段を用いて、作業者10に対して、自分が熱中症を発症するリスクが高まっていることを報知する。警告情報を確認した作業者10は、スマートフォン12のタッチパネルまたは操作ボタンなどを通じて警告情報を受け取った旨を報告するとともに、作業を中断して休息をとるなど熱中症を予防するための対策を実行する。
【0064】
作業者10のスマートフォン12は、作業者10が警告情報を確認して作業を中断したことを監督者30のパソコン31に送信し、監督者30は、作業者10が熱中症の発症を予防する対策をとったことを確認できる。
【0065】
さらに、本実施形態で説明する熱中症発症リスク管理システムでは、現場監督30が把握している作業現場での熱中症発症リスクデータを、作業者10のスマートフォン12に送信して、作業者10が、自分が働いている作業現場での熱中症発症リスクの現状を確認することができる。例えば、自分以外の作業者の熱中症発症リスクが高くなっていることが確認できれば、各作業者自身が熱中症の発症を積極的に予防する対応を採ることが可能となる。また、他に熱中症発症リスクの警告情報を受け取って作業を中断した作業者がいることがわかれば、現場監督30からの自分宛の警告情報により素直に応じることが期待できる。
【0066】
さらに、作業者10が所有するスマートフォン12で、当該作業者10の現在までの熱中症発症リスクの変化や、生体センサ11で取得された自身の心拍数、加速度データから計算された健康状態の評価結果や、消費カロリーなどの関連情報を画面に表示して、作業者10自身が参照することができる。これら、作業者10が所有するスマートフォンでの表示画面についても、それぞれの目的に応じて必要事項を見やすく表示することができればよいため、本明細書での詳細な説明は省略する。
【0067】
クラウドサーバ21は、インターネット20を通じて作業者10が所属する会社や事業所40内の管理コンピュータ41にも接続されていて、現場監督30のパソコン31に送信された作業者10の測定結果情報や、クラウドサーバ21が熱中症の発症リスクを判断するために用いた各種の情報を、リアルタイムで、事業所40の管理コンピュータ41に対して送信する。事業所40の管理コンピュータ41は、自身のデータ受信部42とデータ送信部43とを備えているため、インターネットを介して現場監督30のパソコン31とも接続されていて、現場監督30から作業者10に対して警告情報が正しく伝達されたか、作業者10が熱中症の予防対策をとったか、などの情報を確認し、必要に応じて所定の指示を行うことができる。このようにすることで、作業者10が所属する事業所40においても、作業者10の状況や作業現場での対応を確認することができ、作業者10の熱中症発症リスクの回避をバックアップすることができる。
【0068】
また、図1では明示していないが、クラウドサーバ21、現場監督30のパソコン31、および、事業所40の管理コンピュータ40は、インターネット20で接続されているため、パソコン31や管理コンピュータ40の側からクラウドサーバ21にアクセスすることができ、クラウドサーバ21でのデータ処理内容を制御したり、評価判定部22での判定プログラムを更新したり、クラウドサーバ21から熱中症予防管理に必要な情報を適宜取り出したりすることができる。
【0069】
なお、上記説明においては、作業者が装備する携帯端末としてスマートフォンを例示したが、作業者の携帯端末はスマートフォンには限られず、携帯電話機やタブレット機器、さらには、熱中症発症リスク管理システムに特化した、情報の送受信が可能な専用の小型端末機器を用いることができる。
【0070】
また、現場監督が操作する管理者情報端末としては、例示したパソコン、特に図1で図示したデスクトップパソコン以外にも、ノートパソコン、タブレット型パソコン、小型サーバ機器などの、ネットワークを通じた情報の送受信とデータ表示、データ記録などが可能な各種の情報機器を採用することができる。
【0071】
さらに、上記説明では、現場監督の管理者情報端末から作業者の携帯端末に警告情報を送信する形態を説明したが、警告情報がクラウドサーバの評価判定部で生成される場合には、クラウドサーバから直接作業者の携帯端末に警告情報を送信するようにシステムを構成することもできる。
【0072】
なお、本実施形態で例示した熱中症発症リスク管理システムのように、建設現場での作業者の熱中症の発症リスクを管理する場合は、管理対象となる作業者の位置が建設現場内に限定される。また、作業期間も一定以上の日数にわたるため、当該建築現場で無線LANを構築することも可能となる。このように、被管理者が一定の範囲内にのみ存在する場合には、独自の無線LANを構築し、それぞれの作業者の生体情報の現場監督の管理者情報端末への送信を、インターネットを介さずにLAN内で行うことができる。この場合には、管理者情報端末から、または、LAN内に設置されたサーバユニットや別のパソコンなどの情報機器からインターネットに接続することで、クラウドサーバ内のリスク判定部で熱中症発症のリスク判定をしたり、気象情報取得部で取得した気象情報を利用したりすることができる。また、熱中症の発症リスクを判定するリスク判定部を建築現場のLANに接続されているサーバユニットやパソコンに設けることができる。
【0073】
一方、熱中症発症リスク管理システムとして、たとえば運送業界での作業者を対象とする場合には、被管理者が遠距離を移動することが想定される。このような場合でも、上記例示した熱中症発症リスク管理システムでは、被管理者の測定装置からの情報をインターネット上に配置されたクラウドサーバにてデータの管理や評価判定を行うため、被管理者が特定に位置にとどまっていない場合でもそのまま対応することができるという利点がある。
【0074】
[熱中症発症リスク評価方法]
次に、本願で開示する熱中症発症リスク評価方法の具体的内容について説明する。
【0075】
本願で開示する熱中症発症リスク評価方法では、被評価者が装着する測定装置が備える心拍検出手段によって検出された被評価者の心拍データと、三次元の加速度センサにより取得された加速度データとに基づいて被評価者の行った作業の強度を示す作業負担指数を算出する。また、測定装置から得られた被評価者の服内温度と、被評価者が作業している現場の環境温度とに基づいて、被評価者の暑熱負荷指数を算出する。そして、これら算出された作業負担指数と暑熱負荷指数とに基づいて、熱中症を発症するリスクを示す熱中症発症リスク指数を算出する。
【0076】
なお、以下の熱中症発症リスク評価方法の説明に当たっては、図2を用いて説明した本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムの各構成部分を適宜例示して説明する。
【0077】
図4は、本実施形態で説明する熱中症発症リスク管理システムでの、評価判定部における熱中症発症リスク評価の流れを示すフローチャートである。
【0078】
本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムでは、インターネット上のクラウドサーバ21が備える制御手段である評価判定部22が、被評価者である作業者10が装着している測定装置である生体センサ11からの得られたデータと、クラウドサーバ21内の各構成部分から取得されたデータに基づいて、作業者10の作業負担指数と暑熱負荷指数とを算出して熱中症発症リスク指数を算出する。
【0079】
図4に示すように、評価判定部22での評価が始まる(START)と、評価判定部22は、被評価者の作業負担指数の算出を開始する。
【0080】
なお、評価判定部22での評価の開始(START)は、作業者10自身、または、管理者である現場監督30などが測定装置である生体センサ11の電源スイッチを「ON」にする、タイマーによって作業開始時間となると自動的に生体センサ11の動作が開始するように設定されている、生体センサ11を備えたアンダーシャツ18を作業者が着用したことを生体センサ11自体が検出して動作を開始する、などの各種方法で設定することができる。
【0081】
作業負担指数の算出を行うために、評価判定部22は、まず、データ記録部24に評価対象の作業者10の過去のデータとして心拍データと加速度データである履歴データが記録されているか否かを確認する(ステップS101)。
【0082】
当該作業者10が過去に本実施形態で説明する熱中症発症リスク管理システムでの評価対象となって、データ記録部24に作業者10の履歴データが記録されている場合(ステップS101で「Yes」の場合)は、その履歴データの集合から、加速度に対して心拍数が線形に変化する線形区間を求め、その線形区間に含まれる履歴データに対して回帰直線を求める。この履歴データから求めた回帰直線は、当該作業者の心拍応答の特徴(個性)を表している。この回帰直線の傾きを心拍応答係数αr、切片を切片心拍数βrと定義し算出する(ステップS102)。
【0083】
その後、評価判定部22は、生体センサ11で測定された作業者10の心拍データの検出を行う(ステップS103)。
【0084】
一方、当該作業者10の履歴データが存在していない場合、また、データは存在しているが前回のデータが記録されてから一定の期間(一例として1ヶ月)が経過している場合は、評価判定部22は当該作業者10の正しい標準化心拍数を算出できないと判断して、心拍データに基づかず加速度データのみから当該作業者10の作業負担指数を算出する。評価判定部22は、作業者10の動作を示す数値である加速度偏差を算出(ステップS110)し、加速度偏差のみに基づいて、作業者10の作業負担指数を算出する(ステップS111)。この場合、加速度偏差に適当な係数を掛ける等、所定の数式を用いて作業負担指数に変換すればよい。
【0085】
データ記録部24に作業者10の履歴データが記録されている場合(ステップS101で「Yes」の場合)、心拍データを検出するに当たって評価判定部22は心拍データの信頼性を確保する。本実施形態の熱中症発症リスク管理システムでは、上述したように被評価者である作業者10の心拍データをより良好に取得できるよう、作業者10が着用するアンダーシャツ18の裏面18bに生体センサ11の電極部11bが配置されている。しかし、作業者の体の動きや体表面の発汗などの影響で、心拍を正しく検出できないことがある。このため、本実施形態の熱中症発症リスク管理システムでは、被評価者である作業者10の心拍データを正しく測定できていない場合に、誤ったデータで作業負担指数を算出して熱中症の発症リスク評価を誤ることがないように、心拍データが正しく取得できているか否かを確認している。
【0086】
まず、評価判定部22は、心拍データの信頼性を評価するために心拍波形検出率を算出する(ステップS104)。
【0087】
生体センサからサンプリングした生データは、被評価者の皮膚と電極との接触不良等の影響で、一定割合のノイズ(異常な心拍データ)が含まれている可能性がある。そこで1拍ごとのデータ(心拍間隔)に対して、例えば、心拍間隔が0.33秒以上かつ1.33秒以下であって、かつ、1つ前のデータとの差(差分心拍間隔)が0.15秒以下のデータを正常と判定してラベリングする。
【0088】
正常/異常を判定する閾値は、任意に設定可能であるが、生理学的な見地に基づいて有り得ない心拍間隔のデータを除去できるように適当な数値を設定すればよい。そして、測定データを所定の時間幅でk個 の部分区間に分け、各部分区間ごとに正常とラベリングされたデータが区間全データ中に何割含まれているかを心拍波形検出率Qとして計算する。
【0089】
次に、評価判定部22は、各部分区間ごとに心拍波形検出率を判定する(ステップS105)。
【0090】
心拍波形検出率が基準値(例えば50%)以上であれば当該区間について信頼性があると判断し(ステップS105で「Yes」の場合)、心拍データを用いて作業負担指数を算出する(ステップS106)。
【0091】
一方、心拍波形検出率が基準値(50%)未満であれば信頼性がないと判断し(ステップS105で「No」の場合)、当該区間については加速度データを用いて作業負担指数を算出するステップS110に進む。
【0092】
なお、上記説明において基準値は一例であり、生体センサの性能や被評価者の職種等によって適宜調整すればよい。例えば、動作の激しい職種では閾値を低く、動作の少ない職種では閾値を高く設定してもよい。
【0093】
心拍波形検出率が50%以上である場合(ステップS105で「Yes」の場合)には、評価判定部22は、得られた心拍データから中央心拍数を算出する(ステップS106)。ここでは、ステップS104で設定した部分区間に対して、各部分区間ごとの代表値(中央値)をもって中央心拍数データとする。代表値は区間平均値であってもよいが、好ましくは、区間中央値である。測定装置から取得したデータにイレギュラーな値が少数含まれていても、その影響を排除できるからである。
【0094】
さらに、評価判定部22は、同時に生体センサ11から得られた加速度データから、作業者10の動作状況を示す数値である加速度偏差を算出する(ステップS107)。
【0095】
次に、履歴データと予め作成した標準心拍応答モデルとに基づいて、中央心拍数を補正し、標準化心拍数を求める(ステップS108)。
【0096】
具体的には、心拍応答係数および切片心拍数、ならびに、標準心拍応答モデルのパラメータである標準心拍応答係数および標準切片心拍数を用いて、中央心拍数データを以下の数式(式1)で標準化心拍数に変換する。
【0097】
HRS[k]=(αs/αr)(HR[k]-βr)+βs (式1)
ここで、
・中央心拍数データ :HR[k]
・標準化心拍数 :HRS[k]
・心拍応答係数 :αr
・切片心拍数 :βr
・標準心拍応答係数 :αs
・標準切片心拍数 :βs
である。なお、ここでkは、部分区間の番号を表す。
【0098】
標準心拍応答モデルとは、大人数を測定対象として得られた大規模データを基に作成された心拍応答モデルである。加速度(身体の動き)に対するヒトの標準的な心拍応答を表したモデルで、各種パラメータ及び所定の数式で表現できる。
【0099】
標準心拍応答モデルを求めるための測定結果の一例を、図5に示す。
【0100】
図5(a)は大規模データの全て(約300万点)をプロットしたもので、濃淡はデータの密度を表している。図5(a)中に示す線51が5%のデータラインを、線52が25%のデータラインを、線53が50%のデータラインを、線54が75%のデータラインを、線55が95%のデータラインを示している。
【0101】
これに対して各区間の中央値を求めたものが図5(b)の×印であり、各中央値に対して当てはめた近似曲線FHR(符号76)が標準心拍応答モデルを表している。
【0102】
近似曲線FHRは種々の曲線あてはめ手法によって求めることができ、加速度偏差ARMSを与えたとき、推定標準化心拍数FHRを与える関数FHR(ARMS)として表現できる。また、FHRの直線的に変化している部分(加速度が0.05あたり~0.45あたりの区間)の傾きが標準心拍応答係数に相当し、近似曲線の切片が標準切片心拍数に相当する。
【0103】
なお、大規模データは、当該現場における複数の作業員の過去数日間のデータであってもよいし、別の現場で予めサンプリングしておいた蓄積データであってもよい。好ましくは、当該作業者と同様の作業に従事する大人数の作業者を測定対象として得られた大規模データを基に、標準心拍応答モデルを作成するのがよい。これは当該作業に最適化された心拍応答モデルであり、その作業に従事する作業者の典型的な心拍応答を表すと考えられる。大規模データの基になる人数に特に決まりはないが、サンプリング数が多い方がより高精度に心拍応答を近似できる。好ましくは5人以上、より好ましくは50人以上である。蓄積期間についても特に決まりはないが、好ましくは同じ現場で2日以上、より好ましくは5日以上のデータを取得することが好ましい。
【0104】
このようにして得られた標準化心拍数と加速度偏差とに基づいて、評価判定部22は作業者10の作業負担指数を算出する(ステップS109)。
【0105】
このとき、評価判定部22は、標準化心拍数を用いるか、それとも推定標準化心拍数を用いるかを、標準化心拍応答モデルに基づいて作成された補正マップを利用して判定する。測定装置である生体センサ11から得られた心拍データと3次元加速度センサの数値から、中央心拍数と加速度偏差とを求める具体的方法、補正マップを用いた心拍データの選択基準等については、後に詳述する。
【0106】
一方、心拍波形検出率Qが基準値(上記例では50%)以上ではない場合(ステップS105で「No」の場合)には、評価判定部22は、得られた心拍データの信憑性が低いと判断して中央心拍数の算出は行わずに、生体センサ11から得られた加速度データから作業者10の動作状況を示す数値である加速度偏差を算出する(ステップS110)。この場合には、加速度偏差のみに基づいて、評価判定部22は作業者10の作業負担指数を算出する(ステップS111)。
【0107】
ステップS111で得られた作業負担指数は、ステップS109で得られた作業負担の数値と比較して、心拍データが反映されていない分精度が劣ると考えられるが、作業者10の動作が連続して行われていることから、心拍データが得られていないことを理由としてその間の作業負担指数を算出しないよりも連続して作業負担指数が得られていることが好ましい。
【0108】
さらに評価判定部22は、生体センサ11から得られた作業者10の服内温度データと、作業者10が作業する現場での環境温度データとに基づいて、作業者10の暑熱負荷指数を算出する(ステップS112)。作業現場の環境温度データは、クラウドサーバ21の気象情報取得部25により取得された作業現場の周囲の気温データ、作業者が屋内で作業している場合などではその作業場に配置された温度センサから得られる温度情報などに基づいて、取得することができる。
【0109】
なお、作業者10の服内温度データと環境温度データとに基づいて暑熱負荷指数を算出する具体的な手順については、追って詳述する。
【0110】
そして、評価判定部22は、得られた作業負担指数と暑熱負荷指数とに基づいて、当該作業者10の熱中症発症リスクを熱中症発症リスク指数として算出する(ステップS113)。
【0111】
本実施形態に示す熱中症発症リスク判断システムにおける熱中症発症リスク指数は、作業負担指数と暑熱負荷指数との線形和として判断できる。このため、熱中症発症リスク指数の値が大きいほど、当該作業者が熱中症を発症するリスクが高くなり、熱中症発症リスク指数の大きさを領域として規定することで、熱中症発症リスクが、高い(=危険)な状態にあるのか、やや高い(=注意)な状態にあるのか、それとも低い(=安全)な状態にあるのかをランク付けすることができる。このため、評価判定部22で算出された熱中症発症リスク指数のランクに応じて、作業者10自身が、または、監督者である現場監督30が、作業を停止して休憩する、作業負担を減らす、または、服内温度を下げるなどして暑熱負荷を低減する、などの対応を採ることができ、熱中症の発症を効果的に回避することが可能となる。
【0112】
[コンピュータプログラム]
上記、図4のフローチャートを用いて説明した評価判定部22での判定動作、また、後述する、作業負担指数、暑熱負荷指数、熱中症発症リスク指数の算出や、体調評価のアルゴリズムは、評価判定部22として用いたコンピュータを動作させるコンピュータプログラムとして実現することができる。
【0113】
[熱中症発症リスクの評価方法]
ここで、本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムにおいて用いられている熱中症発症リスク評価方法の、熱中症発症リスク指数を算出するアルゴリズムについて説明する。
【0114】
(作業負担の推定)
<a.前処理>
まず、心拍データと加速度データについて、作業負担指数を算出する前処理を行う。
【0115】
心拍データの前処理は、図4のフローチャートを用いて説明したとおり、作業者10が装着している生体センサ11が検出した心拍データから、中央心拍数を算出する(図4におけるステップS106)ことで行われる。
【0116】
より具体的には、部分区間の心拍波形検出率が50%以上であった場合に、部分区間に含まれる心拍データの取得間隔から部分区間あたり(例えば、過去1分間あたり)の心拍数に換算して中央心拍数HRを得る。
【0117】
一方、加速度センサによって得られた加速度データについては、以下の手続きによって過去1分間の平均値ΔAを求める。
【0118】
1)不等時間間隔データの指数移動平均
x軸、y軸、z軸それぞれの方向の加速度データ{Ax(t)}、{Ay(t)}、{Az(t)}について、時定数を10secとして、統計学の手法である指数移動平均法を用いてそれぞれの軸方向における加速度データの指数移動平均を求める。時定数は特に限定されないが、例えば5~10secの範囲で加速度センサの性能に応じて適宜決定すればよい。
【0119】
ここでは、x軸、y軸、z軸それぞれの方向の指数移動平均を、それぞれ{Sx(t)}、{Sy(t)}、{Sz(t)}とする。
【0120】
2)指数移動平均の除去
各軸の加速度データから、上述の指数移動平均を除去し、トレンド除去された時系列加速度を求める
たとえば、x軸の場合は、「Ax(t)-Sx(t)」となる。
【0121】
3)2乗和の計算
トレンド除去された時系列加速度について、以下の式(式2)を用いて各時刻での2乗を計算して和を求める
【0122】
【数1】
【0123】
4)1分ごとの加速度の平均
上記求めた2乗和「ΔA2(t)」の1分ごとの平均値「ΔA2 ave」を計算する。ここでは、データ点数の数で割って平均値とする。また、加速度の2乗平均「ΔA2 ave」の平方根「ΔAave」を計算する。ここで、ΔAaveは加速度偏差ARMSである。
【0124】
<b.異常値の除去>
心拍データから得られた心拍数のデータについて、非数値データと、心拍数が40以下のものと180以上のものとを異常値として除去する。
【0125】
また、加速度データについては、非数値データと、「ΔAが0.05以下、もしくは、0.55以上のデータを異常値として除外する。
【0126】
<c.切片心拍数と心拍応答係数の計算>
履歴データの集合に関して、加速度偏差に対して中央心拍数が線形に変化する線形応答区間を設定し、その線形応答区間に含まれるデータに対して回帰直線を求める。この回帰直線の傾きが心拍応答係数αr、切片が切片心拍数βrとなる。
【0127】
回帰直線の当てはめ方法については、特に限定しない。例えば、加速度偏差が0.05~0.4の区間を線形応答区間と設定し、その間をm個の部分区間(mは例えば3~7)に分ける。次に、各部分区間に関して中央心拍数と加速度偏差の中央値をそれぞれ求める。そして、求めたm点の中央値座標に対して回帰直線をあてはめる。
【0128】
<d.作業負担指数の計算>
図4において、ステップS108で示したように、被測定者である作業者10の履歴データがある場合は、この履歴データと標準心拍応答モデルとに基づいて、標準化心拍数HRSが計算される。標準化心拍数HRSを算出することで、被測定者個々の特性による心拍データから作業負担指数を算出する上での個人差を補正することができる。
【0129】
一方、推定標準化心拍数は、標準心拍応答モデルの近似式FHR(ARMS)を用いて、被測定者の加速度偏差ARMSから標準的な心拍数を推定するものである。実際の作業負担指数算出においては、標準化心拍数と推定標準化心拍数のどちらを信頼するかがポイントとなる。本実施例では、標準心拍応答モデルに基づいて作成した補正マップを用いて、どちらの心拍数を選択するかを判定し、補正心拍数HRsを得る。
【0130】
図7は、補正マップの第1の例である。
【0131】
図7に示すように、補正マップには、標準切片心拍数βsをy軸切片とし直線部分の傾きが標準心拍応答係数αsである近似曲線FHR71が記載されている。ここで近似曲線FHR71を判定線とする。なお、加速度偏差が0.45を超える部分からは、図7に示すように判定線71は直線ではなくなり、加速度偏差に対する中央心拍数の上昇度合いが低下していくことが判明している。
【0132】
図7に示す補正マップでは、被測定者である作業者の動作を示す加速度偏差が0.2である部分に境界線72が設けられている。加速度偏差が0.2よりも小さい領域では、動作による心拍数の変化よりも情動による影響が大きく現れ、加速度偏差が0.2よりも大きい領域では、体が動くことによる心拍数の変動が大きいと考えられるからである。
【0133】
図7に示す補正マップでは、心拍数と加速度偏差との関係がマップ中ハッチングで示された領域73および領域77の範囲となるように補正される。たとえば、加速度偏差が0.2までの範囲では、標準化心拍数が大きく判定線71よりも上側に位置する場合には、図中矢印74として示すように判定線71の数値、すなわち推定標準化心拍数が補正心拍数HRsとして用いられ、標準化心拍数が標準切片心拍数βsよりも小さい場合には、標準切片心拍数βsの値を補正心拍数HRsとして採用する。また、標準化心拍数が判定線71以下かつ標準切片心拍数βs以上の場合は、標準化心拍数をそのまま補正心拍数HRsとして採用する。このようにすることで、加速度偏差が0.2よりも小さな領域では、推定標準化心拍数よりも大きな標準化心拍数が検出された場合は情動による影響としてこれを排除することができる。
【0134】
一方、加速度偏差が0.2よりも大きな領域では、前述の標準心拍応答係数αsと同じ傾き、すなわち、近似曲線FHRの直線部分と平行に、心拍数値が大きすぎると判断される領域を規定する平行線76を引いて、この平行線76と判定線71とで挟まれた領域77内が正しい心拍数が検出できたと判断する。この領域77に該当する場合には、そのままの標準化心拍数を補正心拍数HRsとして用いて作業負担指数が計算される。標準化心拍数が、上限を示す平行線76よりも大きい場合は、図中矢印78として示すように、平行線76上の値を補正心拍数HRsとして採用することでエラーの影響を排除する。また、判定線71よりも下側の領域に現れた数値は、図中矢印79として示すように判定線71上の数値、すなわち推定標準化心拍数を補正心拍数HRsとして採用することで、被測定者が一定以上の動きをしているにもかかわらず低すぎる心拍数値が作業負担指数の算出に用いられることを回避できる。
【0135】
図8に示す補正マップは、検出された心拍データの信頼性がより高いと判断される場合に使用される補正マップである。
【0136】
心拍データの信頼性が高い場合としては、生体センサ11より取得された心拍データの検出率が判定基準(一例として50%)よりも高く、例えば、80%を超える状態が続いているような場合が想定できる。
【0137】
図8に示す補正マップは、基本的には図7に示した補正マップと同様であるが、加速度偏差が0.2以上であって、標準化心拍数が判定線81よりも低い領域にある場合が異なっている。図8に示す、心拍データの信頼性が高い場合には、判定線81の下方に、加速度偏差0.2における標準切片心拍数βsの位置から判定線81に平行な下限を規定する境界線88を引いて、境界線88と判定線81との間の領域89の標準化心拍数を補正心拍数HRsとしてそのまま用いるとともに、標準化心拍数が境界線88よりも小さい場合には、図中矢印91として示すように境界線88上の値が補正心拍数HRsとして採用される。
【0138】
このようにすることで、広い範囲で標準化心拍数を採用して、より精度の高い作業負担指数を算出することができる。
【0139】
<e.作業負担の評価>
補正マップを用いて得られた補正心拍数HRcに基づいて、以下のように作業負担指数Wを計算する。
【0140】
まず、以下の数式(式3)を用いて補正心拍数HRcを代謝当量METsに変換する。
【0141】
METs=aMETs×HRc+bMETs (式3)
ここで、aMETsとbMETsは所定のパラメータであり、呼吸計測実験に基づいて決定することができる。
【0142】
次に、以下の数式(式4)を用いて代謝当量METsを作業負担指数Wに変換する。
【0143】
W=aW×METs+bW (式4)
ここで、aWとbWは所定のパラメータである。
【0144】
例えば、aW=0,2、bW=-0.2と設定した場合、作業負担の評価としては、作業負担指数Wが0.6以上であれば高代謝率の作業、すなわち、負担が大きい作業、Wの数値が1以上の場合は、きわめて代謝率の高い作業、すなわち作業者への負担がとても大きな作業とすることができる。
【0145】
(暑熱負荷の評価)
測定装置11により得られた服内温度Tiと、環境温度として得られた外気温Toとを用いて、暑熱負荷指数Hを以下の式(式5)によって求める。
【0146】
【数2】
【0147】
なお、暑熱負荷指数Hが0より小さい場合は、H=0とする。
【0148】
暑熱負荷指数Hが0.6以上の場合は、暑熱負荷が比較的高い状態、暑熱負荷指数Hが1以上である場合は、暑熱負荷が極めて高い状態であると評価することができる。
【0149】
(熱中症発症リスクの評価)
上記計算によって得られた作業負担指数Wと暑熱負荷指数Hとを用いて、下記式(式6)として示すように、評価対象の作業者10の熱中症発症リスク評価指数Rを求める。
【0150】
【数3】
【0151】
ここで、aは、評価対象の作業者の暑熱順化に対応して規定される数値であり、暑熱順化ありの場合a=-1.8、暑熱順化なしの場合a=-1.3とする。
【0152】
以上のようにして求めた熱中症発症リスク評価数値Rについて、Rが0.6未満の場合は発症リスクが低リスク、Rが0.6以上で1.0未満の場合は要注意の警戒レベル、Rが1.0以上の場合は高リスクであり熱中症発症の危険レベル、と判定することができる。
【0153】
なお、実際に熱中症の発生まで検証することはできないため、熱中症の発症リスクの判断基準を定めるに当たっては、熱中症の発症リスクをより厳しく判断できるように、すなわち、より安全サイドにたって決定すべきである。
【0154】
(熱中症発症リスクの連続評価)
作業者10が装着する測定装置である生体センサ11から得られる測定結果などに基づいて、当該作業者の熱中症発症リスクを連続的に評価する場合には、暑熱負荷指数Hと作業負担指数Wそれぞれの指数移動平均値を、サンプリングの間隔を1分間として以下の式(式7)、(式8)から求める。
【0155】
【数4】
【0156】
なお、ここでw1=2/31、w2=2/11とする。
【0157】
さらに以下の式(式9)から、熱中症発症リスク指数Rの指数移動平均値が求まる。
【0158】
【数5】
【0159】
たとえば、熱中症発症リスク指数Rの指数移動平均値が1以上の状態が30分以上続いた場合には、熱中症を発症するリスクが極めて高い状態であると判断されて、作業者に休憩を促すなどの熱中症を発症しないように対応策を採る。
【0160】
(2次元マップでの表示)
上記の式(式6)からわかるように、本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムにおいて熱中症発症リスクを表す指数Rは、作業者10に対する暑熱負荷指数Hと、作業負担指数Wとの線形和として表現される。
【0161】
このことを利用して、熱中症発症リスク指数を、暑熱負荷指数と作業負担指数とをそれぞれ軸とする2次元のマップ上に熱中症発症リスク指標として表示することができる。たとえば、2次元のマップ上に、管理者である現場監督30が管理する複数人の作業者10それぞれにおける、現在時点での熱中症発症リスク指数に応じた記号を表示することで、現場監督30は、管理対象の作業者の全体的なリスク指標を一目で把握することができる。
【0162】
図9は、本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムにおいて、複数の作業者それぞれについて求められた熱中症発症リスク指標を、2次元のマップ上に示した状態を示す図である。
【0163】
図9に示すマップでは、縦軸101が作業負担指数Wを、横軸102が暑熱負荷指数Hをそれぞれ示している。また、Rを示す式(式6)において、熱中症発症リスク指数が0.6以上であれば「注意」の領域、熱中症発症リスク指数が1以上である場合には、熱中症の発症リスクが極めて高い「危険」領域であることに対応して、作業負担指数Wと暑熱負荷指数Hそれぞれが単独で熱中症発症リスク指数が0.6、1.0となる位置に応じて、マップ上には領域の境界線が2本(103、104)記載されている。
【0164】
このようにすることで、原点から第1の境界線103までの間の領域を、熱中症発症リスクが少ない「安全」な領域105と、第1の境界線103と第2の境界線104までの間の領域を、熱中症発症リスクが比較的高い「注意」の領域106と、第2の境界線から外側の領域は、熱中症発症リスク評価値が1以上の「危険」な領域107とすることができる。
【0165】
このように領域が区分されたマップ上に、個々の作業者の熱中症発症リスク指標をその作業負担指数と、暑熱負荷指数とに基づいて「▼」のマーク(符号108)として表示すれば、現場監督は、自己が管理すべき作業者のうち、熱中症発症リスク指数のレベルごとに何名が該当しているかを一目で把握することかできる。
【0166】
さらに、たとえば、「▼」マーク108として示される作業者が、作業負担指数を示す縦軸101側に偏って表示されている場合には、管理対象の作業者に対する暑熱負荷はあまり大きくない傾向にあることがわかるなど、熱中症発症リスクを高めている要因が、作業負担なのか暑熱負荷なのかを把握することができ、それぞれの負担を低減する対策を採ることで、作業者全員の熱中症発症リスクを低減させることができる。
【0167】
以上説明したように、本実施形態にかかる熱中症発症リスク管理システムでは、個々の被評価者の熱中症発症リスク指標を、作業負担指数と暑熱負荷指数とをそれぞれの軸とする2次元マップ上に表すことができる。このため、たとえば、複数の作業者を監督する現場監督が所持する管理者情報端末の表示画面に2次元マップを表示し、管理対象となる作業者個々の熱中症発症リスク指標をマップ上に一括表示することで、個々の作業者の熱中症発症リスクと、管理対象となる作業者の全体的な熱中症発症リスク傾向を、一目で把握することができる。
【0168】
また、2次元マップ上に表示することで、作業負担と暑熱負荷とのいずれが熱中症発症リスクを引き上げているかが視覚的に理解できるため、たとえば、個々の作業者が所持する携帯端末上に自身の熱中症発症リスク指標を2次元マップで表示することで、作業者自身が熱中症発症のリスクが高くならないようにするより有効な対策を採ることができるようになる。
【0169】
(体調評価)
上記実施形態では、熱中症発症リスク管理システムにおいて、発症リスク評価を行うアルゴリズムについて説明した。このアルゴリズムは、熱中症発症リスクの一要因としての被評価者の作業負担を、被評価者である作業者の心拍と3次元加速度センサによる動作内容とを、作業者が装着した測定装置が検出することで評価した。このような、被評価者の身体状況について、熱中症発症リスクの評価に限らず、より広い状況下での被評価者の体調評価を行う手段として用いることができる。
【0170】
以下では、被評価者の心拍と動作とに基づいて、当該被評価者の体調を行う具体的方法について説明する。
【0171】
a.測定装置の装着
体調評価を行う被評価者の心拍と3次元センサによる動作の検出は、上記実施形態で説明した作業者が装着する測定装置11によって行うことができる。特に、図3に示したような、裏側(体表に対向する側)に心拍を検出する電極11bが配置されたアンダーシャツを用いることで、被評価者の体の動きに追従して電極11bが被評価者の胸部に接触することができ、安定して高い精度で心拍を検出することができる。
【0172】
また、アンダーシャツに配置された測定装置で測定された被評価者の心拍と動作を示す3次元加速度データとを、被評価者が所持する携帯端末に送信し、さらに携帯端末からインターネットに情報を送信するシステム構成を採用することで、被評価者が測定装置を装着することについての違和感を少なくすることができる。
【0173】
もちろん、たとえば、スポーツ選手がトレーニングを行っている状況下で健康状態を評価する場合など様々な評価シーンを想定した場合に、被評価者が着用するアンダーシャツの胸部に測定装置を配置し、被評価者が別途携帯端末を所持することは必須ではなく、被評価者の心拍と動作とを検出する測定装置をより違和感なく装着できて、測定装置で検出されたデータを健康状態の評価を行う評価判定部に送信できる構成であれば、具体的手段についての限定はない。
【0174】
b.評価のアルゴリズム
健康状態を評価するアルゴリズムは、基本的には、上述した熱中症発症リスクの評価における作業負担指数を算出するアルゴリズムと同じである。
【0175】
c.前処理
まず、心拍データと加速度データについて、評価数値を算出する前の前処理を行う。
【0176】
心拍データの前処理は、上述の熱中症発症リスク評価の前処理と同様にして、1分間の中央心拍数HRを得る。
【0177】
加速度センサによって得られた加速度データの前処理については、熱中症発症リスクの評価における場合と同様にして、トレンド除去された時系列加速度について各時刻での2乗を計算し、求めた2乗和「ΔA2(t)」の1分ごとの平均値「ΔA2 ave」を計算し、加速度の2乗平均「ΔA2 ave」の平方根「ΔAave」を計算する。
【0178】
d.異常値の除去
異常値の除去も同様に、加速度については、非数値データを除去し、ΔAが0.05以下、もしくは、0.55以上のデータを除外する。また、心拍データについては、非数値データと心拍数が40以下、もしくは、180以上のものを除外する。
【0179】
e.心拍指数、体力指数の計算
上述の作業負担指数の算出と同様に中央心拍数と加速度偏差との相関を表示するグラフから回帰直線を求めて、その回帰直線の切片である心拍指数HR0と、回帰直線の傾きαを基に求められる体力指数PIとを得る。
【0180】
心拍指数HR0の算出方法を、図6を用いて説明する。
【0181】
図6は、横軸:加速度偏差、縦軸:中央心拍数として、測定データから得られた加速度偏差と中央心拍数をプロットしたものである。加速度偏差が0.05~0.4の区間に入るデータに対して回帰直線61を当てはめる。この回帰直線61の切片62が心拍指数HR0となる。また、回帰直線61の傾きαを用いて体力指数PIを以下の式(式10)により求める。
【0182】
PI=α/αs (式10)
ここで、αsは標準心拍応答モデルのパラメータである標準心拍応答係数である。
【0183】
ただし運動指数PIの算出方法はこれに限らず、回帰直線の傾きαを所定の数式で線形変換して求めればよい。例えば、分かりやすい指標とするために1が正常値となるよう、適当な数値で定数倍および定数和して求めてもよい。
【0184】
以上のようにして求めた、心拍指数と体力指数とから、被評価者の健康状態を評価することができる。
【0185】
このようにして得られた心拍指数と体力指数とを、大人数から得られた大規模データや、被評価者の過去の測定結果と比較することによって、評価時における被評価者の体調変化を検出することができる。
【0186】
図10は、本実施形態で説明した体調評価指数である心拍指数、および、体力指数の値と、作業者の健康状態について行ったアンケート結果との相関度合いを示す図である。
【0187】
図10において、図10(a)が作業開始前の評価数値とアンケート結果との相関を示し、図10(b)が作業後の評価数値とアンケート結果との相関を示す。
【0188】
図10(a)に示すように、作業開始前に行った健康状態を問うアンケートに対して、「問題なし」と回答した作業者1689人と、「疲労感・倦怠感がある」「頭痛がある」「腹痛がある」のいずれかを回答した「不調あり」の作業者126人では、心拍指数の数値と、体力指数の数値とにおいて明らかに有意の差があった。なお、それぞれのグラフの上側には、各作業者グループにおける標準偏差の差を数値化して示している。
【0189】
また、図10(b)に示すように、作業後に行った健康状態を問うアンケートに対して、「症状なし」と回答した作業者1641人と、「めまいや立ちくらみがする」「顔がほてる」「手足の痙攣がある」「足がつる」「頭痛、吐き気がある」のいずれかを回答した「症状あり」の作業者137人でも、心拍指数の数値と、体力指数の数値とにおいて明らかに有意の差があった。
【0190】
心拍指数の上昇は交感神経の亢進を反映し、心理ストレスや疲労で値が上昇する。また、上述の熱中症発症リスク評価値の指標とした、暑熱負荷によっても上昇することが予想される。一方、体力指数は,運動や作業負担に対する心拍数の応答性能を反映し、図10では1が正常の基準となるように体力指数を定義した。この体力指数は、加齢や循環器疾患の影響で値が減少すると考えられるため、値が1より小さい場合は、高負荷の作業を控えることが推奨される。
【0191】
以上のように、本実施形態において説明したアルゴリズムによって、被評価者の心拍と動作との測定データから、被評価者の体調評価を行えることが確認できた。
【0192】
なお、体調評価を行う上記アルゴリズムでは,実際の被評価者の心拍数と体の動きとの関係から安静時心拍数の推定値である心拍指数と、体力指数とを計算するものであり、被評価者の体の動きに伴う心拍数データの変動について一定数以上のデータが必要となる。このため、健康状態を正確に評価する上では、午前中、または、午後の半日間、もしくは、一日間の範囲で測定データを取得した上で、評価結果を算出することが好ましい。
【0193】
また、このようにして得られた体調評価結果を熱中症発症リスク評価に加味することで、熱中症の予防をより確実に行うことができる可能性がある。この場合、たとえば、被評価者の評価時の体調を指標化したり、複数の領域を区切ってどの領域に含まれるかを判定したりして、その指標や該当領域に応じて熱中症発症リスク指数の判定基準を変更することが考えられる。
【0194】
さらに、上述した、作業負担指数は、一般的な作業負荷の判断指標であるカロリーやMETSの数値に換算することが可能である。このため、たとえば、本実施形態で説明した熱中症発症リスク管理システムにおいて、作業者が所持する携帯端末に、作業負担をカロリー表示やMETS数値として表示することで、作業者の自己の作業量に対する興味をかき立てることができる。このようにすることで、作業者がより積極的に熱中症発症リスク管理システムに参加するようなり、熱中症発症リスクの低減と、より正確なリスク評価を行う上で必要な大規模データの蓄積に貢献することとなる。
【産業上の利用可能性】
【0195】
本願で開示する作業負担推定方法、体調評価方法、熱中症発症リスク評価方法は、たとえば、建築現場や運送業など、肉体的負荷と熱的負荷とが大きな状態で作業する作業者の体調評価や熱中症発症リスクを管理する方法として有用である。また、本願で開示するコンピュータプログラムは、本願で開示する作業負担推定方法、体調評価方法、熱中症発症リスク評価方法を実行するための制御手段として用いられるコンピュータを動作させるものとして有用である。特に、社会問題化している熱中症の発症リスクを管理者が管理する管理システムに採用することで、様々状況下での被管理者の体調を管理者が容易に把握することができる体調管理システムを実現することができる。
【符号の説明】
【0196】
10 作業者(被管理者、被評価者)
11 生体センサ(測定装置)
22 リスク判定部
30 現場監督(管理者)
31 パソコン(管理者情報端末)
35 表示画像処理部
36 表示デバイス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10