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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023052479
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】積層体およびプラスチック容器
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20230404BHJP
   A61J 1/05 20060101ALI20230404BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
B32B27/32 E
A61J1/05 311
B65D65/40 D
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005979
(22)【出願日】2023-01-18
(62)【分割の表示】P 2019569643の分割
【原出願日】2019-02-05
(31)【優先権主張番号】P 2018018232
(32)【優先日】2018-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【弁理士】
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】美尾 篤
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 豊明
(72)【発明者】
【氏名】野村 純平
(72)【発明者】
【氏名】鳥屋部 果穂
(57)【要約】
【課題】滅菌処理によっても透明性の低下が生じにくく、落下等の衝撃による破損が生じにくく、保存容器として適正な強度を有し、なおかつ収容物である医薬品等の成分の保存安定性に優れた積層体及びプラスチック容器を提供する。
【解決手段】環状炭化水素骨格を有するオレフィンモノマー成分から構成されてなる非晶性の環状オレフィン系樹脂を含む第1樹脂層11と、ポリエチレン、ポリプロピレンもしくはエチレン・α-オレフィン共重合体を主成分とする第2樹脂層12とを含む、少なくとも2層以上からなる積層体であって、第1樹脂層11は、熱可塑性エラストマーを10質量%以下の割合で含有し、内容物と接触する最内層である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状炭化水素骨格を有するオレフィンモノマー成分から構成されてなる非晶性の環状オレフィン系樹脂を含む第1樹脂層と、
ポリエチレン、ポリプロピレンもしくはエチレン・α-オレフィン共重合体を主成分とする第2樹脂層とを含む、少なくとも2層以上からなる積層体であって、
前記第1樹脂層は、熱可塑性エラストマーを10質量%以下の割合で含有し、内容物と接触する最内層であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記第2樹脂層には直鎖状低密度ポリエチレンが用いられ、前記第1樹脂層との層間が直接接するように積層されていることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマーが、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマーのうち1種類以上から選択されたことを特徴とする、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマーは、前記第1樹脂層に0.05~10質量%の割合で含有されてなることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体が対向するように重ね合わせるように配置された、内容物を保存するための収容部と、前記内容物を排出するための口部を備えたことを特徴とする、プラスチック容器。
【請求項6】
前記内容物が医薬品であることを特徴とする、請求項5に記載のプラスチック容器。
【請求項7】
前記医薬品は、ピラゾロン誘導体であるエダラボンまたはその薬学的に許容され得る塩を含有する水溶液であることを特徴とする、請求項6に記載のプラスチック容器。
【請求項8】
前記プラスチック容器が、輸液バッグまたはブロー成形容器である、請求項5~7のいずれか1項に記載のプラスチック容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及び容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、点滴静注用の製剤として注射用の薬剤を予め希釈調製し、プラスチックなどからなる可撓性を有する容器(プラスチック容器)に充填したソフトバッグ製剤が開発されている。当該ソフトバッグ製剤は、使用時の利便性や迅速性に加え、ガラス製の瓶やアンプルと比べて、破損の危険性が軽減されることや廃棄性に優れることから有用であるとされている。
本願は、2018年2月5日に、日本に出願された特願2018-018232号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【0003】
しかし、ポリエチレン(以下、「PE」と表記する場合がある)やポリプロピレン(以下、「PP」と表記する場合がある)などの通常のポリオレフィン系樹脂(以下、「PO樹脂」と表記する場合がある)や、塩化ビニルなどの医薬容器の材質として一般的に使用される樹脂を成形したフィルムは、ラジカル捕捉製剤を始めとする一部の薬品を吸着あるいは透過する。その結果、薬液の有効成分がプラスチック容器に吸着されたり、薬液がプラスチック容器を構成する樹脂フィルムに含まれる添加剤や低分子成分と相互作用したりするなどし、これらはソフトバッグ製剤を開発する上での課題となっていた。
【0004】
そこで、プラスチック容器に薬品等の吸着や透過することを抑制し、バリア(遮蔽)性を有する樹脂として、環状オレフィン系樹脂を用いることが提案されている。環状オレフィン系樹脂は、分子骨格中に脂環式炭化水素構造を有するため、嵩高く分子鎖の運動が制限されることから、分子の吸収や透過が発生しにくく、上記添加剤や薬剤成分との相互作用が小さいために、優れた保存安定性を示すことが知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、外層(表層)がPP、最内層が環状オレフィン系樹脂、両層の間の中間層がPPからなる構成を備えた輸液バッグが、「エダラボン」を収容する容器として適していることが記載されている。このような構成の容器は、製剤の保存安定性は十分であるものの、環状オレフィン樹脂が固く脆い性質を有しているために、誤って容器が落下するなど衝撃が加わった際に、シール部の部分的な剥離やピンホールなどの破壊が生じ、液漏れに至るなど、耐衝撃性に問題を有している。
【0006】
環状オレフィン系樹脂は製膜や成形加工時に、樹脂に含まれる成分の凝集によるゲルやフィッシュアイ、もしくは酸化や炭化に起因する欠陥(練り込み異物等という意味で)を生じやすいという課題が存在する。これらの欠点を補うために、特許文献2や特許文献3では、環状オレフィン系樹脂に一定の割合で、ポリエチレン、ポリプロピレンや、エチレン・α-オレフィン共重合体(オレフィン系樹脂)を配合する手段が提案されている。
【0007】
この技術を用いることで加工性は向上するが、薬剤等の充填後に行われる蒸気滅菌の操作によって、容器の透明性が大きく低下してしまう問題がある。この問題は医薬品等の製造工程で、収容物の品質が適正であるかを目視やカメラ等で検査する際の障害となるため好ましくなく、第十七改正日本薬局方の7.02プラスチック製医薬品容器試験法で規定されている、透明性の規格を逸脱する懸念がある。
【0008】
また、収容物の重量が大きい場合に、十分な水準の耐衝撃性を付与するためには、配合するオレフィン系樹脂の比率を高めなければならず、バリア層の分子運動性が高くなるために、収容物の成分濃度低下など、容器として機能すべき保存安定性能が不十分となる可能性がある。
【0009】
上述のように、プラスチックに薬剤吸着が発生しやすい医薬品等において、充分な透明性や物理的特性を有しながら、薬液成分の保存安定性に優れたプラスチック容器は完成されておらず、その開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2016-22092号公報
【特許文献2】特開2012-86876号公報
【特許文献3】特表2005-525952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、滅菌処理によっても透明性の低下が生じにくく、落下等の衝撃による破損が生じにくく、保存容器として適正な強度を有し、なおかつ収容物である医薬品等の成分の保存安定性に優れた積層体及びプラスチック容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明は、環状炭化水素骨格を有するオレフィンモノマー成分から構成されてなる非晶性の環状オレフィン系樹脂を含む第1樹脂層と、ポリエチレン、ポリプロピレンもしくはエチレン・α-オレフィン共重合体を主成分とする第2樹脂層とを含む、少なくとも2層以上からなる積層体であって、前記第1樹脂層は、エラストマーを10質量%以下の割合で含有することを特徴とする積層体を提供する。
【0013】
前記エラストマーが、熱可塑性エラストマーであってもよい。
前記熱可塑性エラストマーが、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマーのうち1種類以上から選択されてもよい。
前記エラストマーは、前記第1樹脂層に0.05~10質量%の割合で含有されてもよい。
【0014】
また、本発明は、上記の積層体が対向するように重ね合わせるように配置された、内容物を保存するための収容部と、前記内容物を排出するための口部を備えたことを特徴とする、プラスチック容器を提供する。
【0015】
前記内容物が医薬品であってもよい。
前記医薬品は、ピラゾロン誘導体であるエダラボンまたはその薬学的に許容され得る塩を含有する水溶液であってもよい。
前記プラスチック容器が、輸液バッグまたはブロー成形容器であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、層間の接着強度やヒートシール強度に優れ、高温の滅菌処理等においても透明性が低下しにくく、落下等の衝撃による破損が生じにくく、保存容器として適正な強度を有し、なおかつ収容物である医薬品等の成分の保存安定性に優れた積層体及びプラスチック容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態の積層体を示す断面図である。
図2】第2実施形態の積層体を示す断面図である。
図3】第3実施形態の積層体を示す断面図である。
図4】第4実施形態の積層体を示す断面図である。
図5】本発明のプラスチック容器の一例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、好適な実施形態に基づいて、本発明を説明する。
本実施形態の積層体は、環状炭化水素骨格を有するオレフィンモノマー成分から構成されてなる非晶性の環状オレフィン系樹脂を含む第1樹脂層と、ポリエチレン、ポリプロピレンもしくはエチレン・α-オレフィン共重合体を主成分とする第2樹脂層とを含む、少なくとも2層以上からなる積層体であって、前記第1樹脂層は、エラストマーを10質量%以下の割合で含有することを特徴とする。
【0019】
図1に示す積層体10は、第1樹脂層11の片側に第2樹脂層12を配置した2層の構造である。図2に示す積層体20は、第1樹脂層11の両側に第2樹脂層12を配置した3層の構造である。2層構造の積層体10では、内容物と接触する最内層が第1樹脂層11であり、外側に第2樹脂層12が配置されてもよい。3層構造の積層体20では、内容物と接触する最内層が一方の第2樹脂層12であり、外側がもう一方の第2樹脂層12であってもよい。
【0020】
第2樹脂層12は、ポリエチレン、ポリプロピレンもしくはエチレン・α-オレフィン共重合体を主成分とする。第2樹脂層12が、ポリエチレン、ポリプロピレンもしくはエチレン・α-オレフィン共重合体の少なくとも1種を、2種以上であれば合計で、例えば50~100重量%含むことが好ましい。第1樹脂層11の両側に第2樹脂層12を配置した場合は、それぞれの第2樹脂層12の厚さ、組成等が同一でもよく、厚さ、樹脂のグレード、ブレンド比率等の少なくとも1以上が異なってもよい。
【0021】
滅菌温度として120℃以上の条件が適用される場合には、第2樹脂層12において、ポリエチレン系樹脂の代わりに融点の高いポリプロピレン系樹脂を配置してもよい。第2樹脂層12がポリプロピレン系樹脂を含む場合は、図3~4に示すように、第1樹脂層11と第2樹脂層12の間に、両層と良好に接着する、接着性樹脂層13を設けた構造とすることが適切である。
図3に示す積層体30は、第1樹脂層11の片側に接着性樹脂層13を介して第2樹脂層12を配置した3層の構造である。図4に示す積層体40は、第1樹脂層11の両側に接着性樹脂層13を介して第2樹脂層12を配置した5層の構造である。
第1樹脂層11の両側に接着性樹脂層13を配置した場合は、それぞれの接着性樹脂層13の厚さ、組成等が同一でもよく、厚さ、樹脂のグレード、ブレンド比率等の少なくとも1以上が異なってもよい。第1樹脂層11の両側に第2樹脂層12を配置した場合は、片側の第2樹脂層12のみがポリプロピレン系樹脂を含んでもよく、第1樹脂層11と片側の第2樹脂層12との間のみに接着性樹脂層13を設けた4層の構造としてもよい。
【0022】
プラスチック容器として適切な柔軟性や透明性などの物理特性を付与するために、第2樹脂層12および接着性樹脂層13は、2種以上の異なる物性を有する樹脂を混配して使用するか、もしくは2層以上の配置としても良い。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンもしくはエチレン・α-オレフィン共重合体を主成分とする第2樹脂層12を2層以上互いに隣接させてもよい。あるいは、第1樹脂層11と第2樹脂層12の間に、2層以上の接着性樹脂層13を配置してもよい。
【0023】
第2樹脂層12に用いるポリエチレン系樹脂(ポリエチレンまたはエチレン・α-オレフィン共重合体)としては、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が好適である。LLDPEは、通常、炭素数4以上のα-オレフィンを共重合させ、短鎖の分岐を導入することで、長鎖の分岐が少なく、直鎖状の分子構造を有する。LLDPEに共重合されるα-オレフィンとしては、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等が挙げられる。
特にシングルサイト系触媒を用いて重合されたLLDPEは、分子量分布が狭く、機械的特性に優れるので好ましい。シングルサイト系触媒としては、メタロセン系触媒が挙げられる。メタロセン系触媒としては、シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を含み、金属がジルコニウム、ハフニウム等であるメタロセン化合物を含む触媒が挙げられる。
【0024】
第2樹脂層12に用いるポリプロピレン系樹脂層は、ポリプロピレン(PP)系樹脂を主として含む層である。ポリプロピレン系樹脂層に使用されるポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体であってもよいし、エチレン又は炭素数4~8のα-オレフィンの少なくとも1種以上との共重合体であってもよい。ポリプロピレン系樹脂層に含まれるポリプロピレン系樹脂が共重合体である場合、その共重合体は、ランダム共重合体でもよいし、ブロック共重合体でもよい。ポリプロピレン系樹脂層は、1種のポリプロピレン系樹脂を含有してもよく、2種以上のポリプロピレン系樹脂層を含有してもよい。ポリプロピレン系樹脂層に柔軟性を付与するため、軟質ポリプロピレン(R-TPO)のグレードを選択しても良く、必要に応じてゴムや熱可塑性エラストマー成分を添加するなどを行っても良い。
【0025】
接着性樹脂層13としては、例えば、環状オレフィン系樹脂層とポリプロピレン系樹脂層とを接着する場合、直鎖状低密度ポリエチレンとスチレン系エラストマーとポリプロピレン系樹脂とからなる樹脂成分を含み、(直鎖状低密度ポリエチレン):(スチレン系エラストマー及びポリプロピレン系樹脂の合計)の割合が、重量比として40:60~95:5の範囲内である樹脂層が挙げられる。このほか、三菱ケミカル株式会社やMCPPイノベーション合同会社のポリオレフィン系接着性樹脂であるモディック(登録商標)、オレフィン系熱可塑性エラストマーであるゼラス(登録商標)等が挙げられる。
【0026】
第1樹脂層11としては、内容物の保存環境よりも十分に高いガラス転移温度を有する、環状炭化水素骨格(環状オレフィン骨格)を単位構造として有する樹脂などを用いることができる。第1樹脂層11を構成する樹脂は、1種以上のオレフィンモノマーからなる重合体又はその二重結合が水素化された重合体であり、かつ、オレフィンモノマーのうち少なくとも1種は環状炭化水素骨格を有する環状オレフィンモノマーである。環状オレフィンモノマーとしては、例えばノルボルネン化合物等が挙げられる。このような非晶性ポリマーを、ここでは環状オレフィン系樹脂と称する。
環状オレフィン系樹脂は、2種以上のオレフィンモノマーのうち少なくとも1種が環状炭化水素骨格を有しない非環状オレフィンモノマーである共重合体であってもよい。環状オレフィン系樹脂に用いることが可能な非環状オレフィンモノマーとしては、エチレン又は炭素数4~8のα-オレフィンが挙げられる。
【0027】
環状オレフィン系樹脂は、ノルボルネン化合物の開環メタセシス重合の後、残った二重結合を水素化した重合体、2種以上の環状オレフィンモノマーからなる付加重合体、環状オレフィンモノマーと非環状オレフィンモノマーとを共重合した付加重合体などを包含する。環状オレフィン系樹脂の製造方法としては、ノルボルネン化合物の開環メタセシス重合体を水素化する方法、2種以上の環状オレフィンモノマーの共重合反応による方法、環状オレフィンモノマーとα-オレフィンの共重合反応による方法が挙げられる。
【0028】
ノルボルネン化合物の開環メタセシス重合体を水素化した重合体の基本構造としては、例えば、次の式(I)が挙げられる。すなわち式(I)では、環状骨格とエチレン骨格が交互配置されたポリマーとして記述される。式(1)の環状骨格は、1,3-シクロペンチレン骨格である。ただし、ノルボルネン化合物の開環メタセシス重合体自体は、共重合体である必要はない。
【0029】
【化1】
【0030】
式(I)において、nは1以上の整数であり、R及びRは水素原子またはアルキル基を示す。R及びRは互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。R及びRは、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0031】
式(I)に示す構造は、n個の1,3-シクロペンチレン骨格の有する置換基R及びRが互いに同一で、ノルボルネン化合物の開環メタセシス重合体が単独重合体(ホモポリマー)である場合に限られない。式(I)に示す構造は、2種以上のノルボルネン化合物の開環メタセシス重合体を水素化したポリマーであってもよい。その例として、次の式(II)が挙げられる。
【0032】
【化2】
【0033】
式(II)において、m及びnは1以上の整数であり、R及びRは水素原子またはアルキル基を示す。m及びnは互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。R及びRは互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。R及びRは、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0034】
ノルボルネン化合物の開環メタセシス重合体を水素化した重合体の具体例として、例えば日本ゼオン株式会社製の「ZEONEX(登録商標)」、「ZEONOR(登録商標)」等が挙げられる。
【0035】
また、環状オレフィンモノマーと非環状オレフィンモノマーとを共重合した付加重合体としては、次の式(III)が挙げられる。式(III)の共重合体は、環状骨格とエチレン骨格がランダム配置されたポリマーとして記述される。式(I1I)の環状骨格は、2,3-ノルボルナニレン骨格である。
【0036】
【化3】
【0037】
式(III)において、m及びnは1以上の整数であり、R、R及びRは水素原子またはアルキル基を示す。m及びnは互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。R、R及びRは互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。R及びRは、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0038】
ここで、R、R、Rがともに水素原子であるポリマーとしては、ポリプラスチック株式会社製「TOPAS(登録商標)」が挙げられる。また、R及びRがアルキル基であり、Rが水素原子であるポリマーとしては、三井化学株式会社製「アペル(登録商標)」が挙げられる。
【0039】
これらの環状オレフィン系樹脂は、水蒸気バリア性に優れ、入手も容易である。上述のように、本実施形態の積層体においては、第1樹脂層の主成分として、これらの環状オレフィン系樹脂を使用することができる。第1樹脂層は、環状オレフィン系樹脂の少なくとも1種を、2種以上であれば合計で、例えば50重量%以上100重量%未満の割合で含むことが好ましい。
【0040】
第1樹脂層は、1種の環状オレフィン系樹脂を含んでもよく、2種以上の環状オレフィン系樹脂を含んでもよい。ここで、2種以上の環状オレフィン系樹脂とは、式(I)~(III)のうちいずれか1つの式に該当する2種以上の環状オレフィン系樹脂でもよく、式(I)~(III)のうち2つ以上の式について各々1種以上の環状オレフィン系樹脂でもよく、更に式(I)~(III)に該当しない環状オレフィン系樹脂を含んでもよい。また、第1樹脂層は、積層体における最内層(シーラント層)であってもよい。
【0041】
次に、環状オレフィン系樹脂の市販品を例示する。上記と一部が重複するが、例えば、ZEONEX(登録商標)(日本ゼオン株式会社製、ノルボルネン系モノマーの開環メタセシス重合体の水素化ポリマー)、TOPAS(登録商標)(ポリプラスチックス株式会社製、ノルボルネンとエチレンとのコポリマー)、ZEONOR(登録商標)(日本ゼオン株式会社製、ジシクロペンタジエンとテトラシクロペンタドデセンとの開環重合に基づくコポリマー)、アペル(登録商標)(三井化学株式会社製、エチレンとテトラシクロドデセンとのコポリマー)、アートン(登録商標)(JSR株式会社製、ジシクロペンタジエン及びメタクリル酸エステルを原料とする極性基を含む環状オレフィン樹脂)等を挙げることができる。
【0042】
第1樹脂層は、環状オレフィン系樹脂以外に、エラストマーを含有する。第1樹脂層に用いられるエラストマーとしては、ゴムや熱可塑性エラストマー等が挙げられる。第1樹脂層がエラストマーを含有することにより、落下等の外力が加わった際の破損リスクを低減することができる。第1樹脂層に含まれるエラストマーの割合としては10質量%以下の割合が好ましく、0.05~10質量%の間であることが望ましい。環状オレフィン系樹脂の組成比率が低い場合、落下等の外力が加わった際の破損リスクは低減するが、微量成分やプラスチックと親和性の高い薬剤成分が吸着され、収容される薬剤成分の保存安定性が不十分となるおそれがある。第1樹脂層に含まれる環状オレフィン系樹脂の割合としては、90質量%以上の割合が好ましく、90~99.95質量%の間であることが望ましい。第1樹脂層は、PE、PP等の非環状ポリオレフィン系樹脂を含有しなくてもよく、第1樹脂層に含まれるポリマー成分が環状オレフィン系樹脂とエラストマーのみであってもよい。
【0043】
第1樹脂層に用いられるエラストマーとしては、スチレン系エラストマーであることが望ましい。第1樹脂層に用いられるスチレン系エラストマーとしては、スチレンと脂肪族オレフィンとの共重合体が挙げられる。スチレンを含むブロックがハードブロックを構成し、脂肪族オレフィンを含むブロックがソフトブロックを構成する。スチレン系エラストマーの具体例としては、スチレン-エチレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-イソプレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶ブロック共重合体(SEBC)、水添スチレン-ブタジエンゴム(HSBR)、等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0044】
第1樹脂層に用いられるエラストマーは、オレフィン系熱可塑性エラストマーでもよい。オレフィン系熱可塑性エラストマー(「TPO」と表記する場合がある)としては、分子拘束成分(ハードセグメント)として、ポリエチレン(PE)またはポリプロピレン(PP)等のオレフィン系ポリマー(樹脂成分)を有し、ゴム弾性を示す柔軟性成分(ソフトセグメント)として、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)やエチレンプロピレンゴム(EPR)などのオレフィン系ゴム成分を有する共重合体が挙げられる。
【0045】
本実施形態の積層体を構成する各層、すなわち第1樹脂層、接着性樹脂層、第2樹脂層等を構成する材料には、容器外観の向上や品質の安定化、その他必要とされる性能を付与するために、安全衛生性を損なわない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤等の各種添加剤等を含有してもよい。
【0046】
本実施形態の積層体(シート)に用いる各層(フィルム)を成形する方法は特に制約されないが、Tダイ成形、インフレーション成形等が挙げられる。Tダイ成形後にフィルム、シート等を冷却ロールで急冷してもよい。長尺のフィルム、シート等を連続的に成形する場合には、成形後にフィルム、シート等の長尺成形体を巻き取ると、生産性に優れるので好ましい。
【0047】
積層体は、基材とシーラント層、必要に応じて他の層を積層した構成が例示される。すなわち、各層間には接着剤層またはアンカー剤層を介しても良いし、層間が直接接するように積層されていても良い。他の層としては、補強層、ガスバリア層、遮光層、印刷層など、適宜、一層または複数層を選択することができる。シーラント層とは、ヒートシールに用いられる層であり、包装材料としては内容品に接する最内層に配置される。ヒートシールは、シーラント層を溶融させることにより接着させる方法であるが、シール方法には特に制約はなく、熱板シール、超音波シール、高周波シール、インパルスシール等が挙げられる。基材は、積層体のうちシーラント層とは反対側である他方の最表面であってもよいし、他方の最表面より内側に積層されてもよい。
【0048】
本実施形態の積層体の製造方法としては、特に限定されることなく、押出ラミネート工法、ドライラミネート工法、共押出工法、又はこれらのうち2以上の工法の併用により、積層体を構成する各層を適宜積層すればよい。シーラント層の厚みは、包装材料の用途にも依存し、特に限定されるものではないが、通常は5~150μm程度であり、好ましくは15~100μmである。接着性樹脂層の厚みは、特に限定されないが、例えば10~100μmである。積層体の総厚みとしては、必要とされる性能(透明性、柔軟性)やコスト(生産性、材料費)とのバランスから、150~300μmとするのが望ましく、特に190~250μmであることが一般的である。
【0049】
本実施形態の積層体によれば、第1樹脂層と第2樹脂層の間の層間強度、又は第1樹脂層と接着性樹脂層と第2樹脂層の間の層間強度を大幅に向上することができる。
また、本実施形態の積層体において、第2樹脂層がポリプロピレン系樹脂を含む場合は、ポリエチレン系樹脂層と環状オレフィン系樹脂層とから構成される積層体と比較して、高い耐熱性を有する。このため、120℃を超える高温に対しても耐熱性を有し、高圧蒸気滅菌も可能である。
また、本実施形態の積層体は、ポリプロピレン系樹脂層と環状オレフィン系樹脂層とから構成される積層体と比較して、高い耐熱性を有し、高圧蒸気滅菌を実施しても剥離強度の低下が抑制され、容器の耐衝撃性を向上することができる。
【0050】
本実施形態の容器は、本実施形態の積層体を用いて形成することができる。容器としては、包装袋(パウチ)、チューブ包装等が挙げられる。包装袋に注出口を設ける場合、注出口としては、包装袋を構成する積層体のシーラント層と接合して密封性が確保できれば好適に使用できる。好ましくは、積層体のシーラント層とヒートシール可能な樹脂からなる注出口を用いて、注出口と積層体とをヒートシールによって接合することが望ましい。積層体と注出口をヒートシールする場合、シーラント層を内側として積層体を重ね合わせた間に注出口を挿入してヒートシールしてもよいし、注出口の一端にフランジ部や舟形形状の融着基部を設け、このフランジ部や融着基部を積層体に設けた穴の周縁や包装袋の開口部内面とヒートシールしてもよい。
【0051】
本実施形態の容器は、医薬品等の薬剤、飲食物、化粧品等を収容するための容器として好適に利用できる。薬剤は、ニトログリセリン、アルブミン、ビタミン類、微量元素、ラジカル捕捉剤等、一般の樹脂に対する吸着性又は透過性が高い物質でもよい。好ましい医薬品等の薬剤として、ピラゾロン誘導体であるエダラボンまたはその薬学的に許容され得る塩を含有する水溶液が挙げられる。ピラゾロン誘導体は、ピラゾロンの炭素原子又は窒素原子にアルキル基、芳香族基、ハロゲン原子等の置換基を1以上有してもよい。ピラゾロン誘導体は、有機酸、無機酸等と塩類を形成していてもよい。
【0052】
包装袋の形態は、三方袋、四方袋、合掌貼り袋、ガゼット袋、自立袋等の小型包装袋(パウチ)のほか、例えばバッグインボックス用の内袋やドラム缶内装袋などの大型の袋等、特に限定なく適用可能である。容器の形態として、図5に示すように、内容物を保存するための収容部51と、内容物を排出するための口部52を有するプラスチック容器50が好ましく、例えば、輸液バッグまたはブロー成形容器が挙げられる。収容部51は、本実施形態の積層体が対向するように重ね合わせるように配置して構成することができる。
【0053】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【実施例0054】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0055】
(積層体の製造方法)
Tダイ式多層製膜機を用いて、表層/中間層/最内層の厚みがそれぞれ180μm/50μm/30μmとなるように共押出工法により積層体を製造した。
表層(第2樹脂層)には、ポリプロピレンをベースとする熱可塑性エラストマー「ゼラス(登録商標)」(三菱化学株式会社製、密度0.89g/cm、融解ピーク温度162℃)を用いた。
【0056】
中間層(接着性樹脂層)には、LLDPEとポリプロピレン(PP)と相溶化剤とからなる3成分を所定の比率でドライブレンドしたペレットを用いた。LLDPEとしては、気相法メタロセン系ポリエチレン「ハーモレックス(登録商標)」(日本ポリエチレン株式会社製、密度0.908g/cm、融解ピーク温度120℃)を用いた。PPとしては、メタロセン系ポリプロピレン「ウィンテック(登録商標)」(日本ポリプロ株式会社製、密度0.90g/cm、融解ピーク温度125℃)を用いた。相溶化剤としては、スチレン含有量12重量%のSEBS「タフテック(登録商標)」(旭化成株式会社製)を用いた。接着性樹脂層は質量比でLLDPE:PP:SEBS=55:35:10となるよう配合した。
【0057】
最内層(第1樹脂層)には、環状オレフィン系樹脂「TOPAS(登録商標)」(密度1.02g/cm、ガラス転移温度138℃)を用い、表1に示す種々のエラストマー成分を所定の比率で配合した。
【0058】
【表1】
【0059】
4種のSEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体)としては、「タフテック(登録商標)」(旭化成株式会社製、スチレン含有量12~43重量%)を用いた。
SEPS(スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体)としては、「セプトン(登録商標)」(株式会社クラレ製、スチレン含有量18重量%)を用いた。SEBC(スチレン-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶ブロック共重合体)、HSBR(水添スチレン-ブタジエンゴム)、CEBC(オレフィン結晶-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶ブロック共重合体)としては、それぞれ「ダイナロン(登録商標)」(株式会社JSR製)を用いた。
【0060】
(実験1)
上記の積層体の製造方法を用いて、表2に示す組成の最内層を有する積層体を製造した。製膜した積層体を用い、最内層同士を重ね合わせ、充填口を除いて積層体の外周をヒートシールし、外寸が172mm×115mmとなる輸液バッグ形状のパウチ容器を作製した。外周シール幅が5mmとなるようにトリミングし、パウチの内部に105mLの水を充填した後、充填口をヒートシールしてパウチを密封した。
【0061】
【表2】
【0062】
密封後のパウチの高圧滅菌処理を、高圧蒸気滅菌器により、121℃、20分間の条件で実施した。高圧滅菌処理後は、冷却水によりパウチの温度を速やかに下げた後、パウチのヒートシール強度、透明性、および落下試験による耐衝撃性を測定した。また、収容物として水の代わりに、後述するモデル製剤を充填したものを検体として、長期保存した際の安定性を評価した。
【0063】
ヒートシール強度は、次の手順により測定した。まず、パウチのヒートシール部分から直角の方向に幅15.0mm、展開長さ100mm以上の試験片を採取し、試験片のヒートシール部分を中央にしてヒートシール部分の両側のシート部を180°に開き、両側の各シート部を、つかみ間隔50mmで引張試験機のつかみ部に取り付けた。次に、引張速度300mm/minの一定速度でヒートシール部分が破断するまで引張荷重を測定し、破断するまでの最大荷重(N/15mm)をヒートシール強度とした。
ヒートシール強度の評価については、JIS Z0238(ヒートシール軟包装袋及び半剛性容器の試験方法)を考慮して、「レトルト殺菌用袋などで、強いヒートシール強さを要する場合」の23N/15mm以上を「良」、それ未満を「不良」と評価した。
【0064】
透明性は次の手順により評価した。第十七改正日本薬局方(JP17)の7.02プラスチック製医薬品容器試験法に記述された透明性試験第1法に従い、積層体の検体をパウチ部から0.9cm×4cmの大きさに5個切り出し、水を満たした紫外線吸収スペクトル測定用セルに浸し、水だけを満たしたセルを対照として、紫外可視分光光度計により波長450nmの光線透過率を測定し記録した。透明性の評価については、同薬局方のプラスチック製水性注射剤容器の規格で光線透過率が55%以上でなければならないことを勘案して、5検体の光線透過率の測定値の平均が65%以上であるものを「良」、それ未満となったものを「不良」とした。
【0065】
落下試験による耐衝撃性は、次の手順で評価した。水が充填されて滅菌が完了したバッグを、5℃の冷蔵庫に12時間以上冷却した。冷温状態に維持したまま、2mの高さからパウチ腹を下に向けて自由落下させる試験を1袋に対して50回連続で実施した。バッグの割れを認めた場合、その回数をもって試験を中止し、破袋発生時の落下回数を記録し、次の計算式で表されるスコアを付点した。
【0066】
(落下試験スコア)=0.2×(破袋発生時の落下回数-1)
ただし、50回落下時に破袋を認めない検体は、破袋発生前の落下回数(破袋発生時の落下回数-1)を50回とみなして、落下試験スコアを10点とした。
【0067】
各水準に対し10バッグを単位として試験を行い、10検体の落下試験スコアの合計点を落下試験合計点とした。各水準の落下試験合計点を相互に比較し、性能の優劣を判定した。落下試験合計点が80点以上となったものを「良」、80点を下回るものを「不良」とした。
【0068】
モデル製剤の保存安定性の評価は、次の手順により評価した。上記の積層体の製造方法にしたがって製膜した積層体から、上述したように輸液バッグ形状のパウチ容器を形成した。容器内には、下記表3に示す組成(エダラボンモデル製剤の組成)で、pH3.85に調製したエダラボン含有水溶液をモデル製剤とし、容器内に105mLを充填して密封した。
モデル製剤を収容した容器は、高圧蒸気滅菌器により121℃、20分間の滅菌処理を行い、冷却完了後に容器外側を乾燥させ、バック製剤とした。当該滅菌操作を完了したバッグ製剤を、二軸延伸ポリエステル/アルミニウム箔/直鎖状低密度ポリエチレンの3層構成からなるドライラミネート外装袋内に、脱酸素剤(三菱ガス化学株式会社製「エージレス(登録商標)」)とともに収納し、外装袋の開口部をヒートシールしてモデル製剤入りバッグ検体の作製を完了した。
【0069】
【表3】
【0070】
作製したモデル製剤入りバッグ検体は、温度:70℃、相対湿度:90%の環境に15日間保管した。保存後のエダラボン残存率は、次に示す条件で液体クロマトグラフ法により測定した。
【0071】
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:243nm)
カラム:内径4.6mm、長さ150mmのステンレス管に粒径5μmのオクタデシルシリル化シリカゲルを充填した液体クロマトグラフィー用カラム。
カラム温度:40℃付近の一定温度。
移動相:メタノール:水:酢酸=49.8:49.8:0.4
流速:1.0mL/min.
注入量:20μL
【0072】
試験検体バッグからエダラボン約0.9mgに対応する量として正確に3mLの内容物を採取し、移動相を加えて10mLとし、この液から1mLを正確に量り、移動相を加えて正確に100mLとし、測定溶液とした。測定溶液20μLにつき、上述の試験条件にて、液体クロマトグラフィーにより試験を行った。それぞれのピーク面積を自動積分法により測定した。以下の式によりそれぞれの試験条件についてエダラボン成分の残存率を求めた。初期値のエダラボンのピーク面積は、試験検体バッグに充填する前に調製直後のモデル製剤から正確に3mLを採取した以降は、保存試験完了後のエダラボンのピーク面積と同様の手順で測定した。
【0073】
エダラボン残存率(%)=(保存試験完了後のエダラボンのピーク面積)/(初期値のエダラボンのピーク面積)×100(%)
【0074】
初期値に対するエダラボン残存率が、95%から105%の範囲であったとき「良」と判定し、これを逸脱したものを「不良」と判定した。
【0075】
一連の評価を行った結果を表4に示す。最内層(第1樹脂層)がエラストマー成分と非晶性ポリマーを含むことにより、ヒートシール強度の低下は発生せず、耐衝撃性が大幅に向上することが示された。しかし、エラストマー成分の添加量が過剰となる場合、滅菌後の透明性やモデル製剤の保存安定性が不十分な水準へ近づいていくことが明らかであるため、一定の割合でエラストマー成分を含む組成が適正であることが示唆された。
【0076】
【表4】
【0077】
(実験2)
実験1で用いた以外のエラストマー成分を添加した場合、同様の性能向上効果が発現するかどうかを検証するため、表5に示すエラストマー添加量の最内層を有する積層体を製造した。その他の手順(パウチの作製、滅菌処理、ヒートシール強度および透明性の測定、落下試験、モデル製剤の保存安定性)は、実験1と同様にした。
【0078】
【表5】
【0079】
実験2における一連の評価結果を、実験1の番号0及び1-1の評価結果と共に表6に示す。スチレン系エラストマーの種類によらず、大幅な耐衝撃性の向上が図られた。番号2-7に示すように、ポリスチレンブロックを含まない、オレフィン系エラストマー成分の添加では、スチレン系エラストマーの添加よりは改質効果が低かったものの、薬液バッグ容器として必要な性能を満たすことが確認された。
【0080】
【表6】
【0081】
(実験3)
実験1および実験2で最内層に添加したエラストマーに代え、特許文献2や特許文献3で提示された、ポリオレフィン樹脂を添加した場合、性能向上効果が発現するかどうか、および性能向上効果を発現するのに必要となる添加量を検証するため、表7に示す添加樹脂と配合量の最内層組成で、積層体を製造した。その他の手順(パウチの作製、滅菌処理、ヒートシール強度および透明性の測定、落下試験、モデル製剤の保存安定性)は、実験1および実験2と同様にした。表7におけるポリオレフィン種のうち、LLDPEとランダムPPは中間層(接着性樹脂層)を構成する樹脂と同一の銘柄を使用した。
【0082】
【表7】
【0083】
実験3における一連の評価結果を、実験1の番号0及び1-1の評価結果と共に表8に示す。ポリエチレン(LLDPE)の配合は、エラストマーと同水準の添加量では必要な性能が得られず、耐衝撃性を引き上げるためには番号3-4のように多量の配合が必要となる傾向がみられた。ポリプロピレン(ランダムPP)の配合では、20%まで添加しても耐衝撃性は不十分であった。一方で配合量を増加させると、モデル製剤中のエダラボン残存率が低下し、医薬品の保存容器として必要な性能を満たせないことが示唆された。また、ポリプロピレンの配合では、その比率を増加させていくと滅菌後のヒートシール強度が徐々に低下していく傾向が確認された。最内層にポリオレフィン樹脂を添加した場合、20%までの添加量ではヒートシール強度の規格を下回るものはなかったが、他の要求性能とあわせてすべてを満たすものは、実験3の一連の積層体からは見出だせなかった。
【0084】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、層間の接着強度やヒートシール強度に優れ、高温の滅菌処理等においても透明性が低下しにくく、落下等の衝撃による破損が生じにくく、保存容器として適正な強度を有し、なおかつ収容物である医薬品等の成分の保存安定性に優れた積層体及びプラスチック容器を提供することができる。
【符号の説明】
【0086】
10,20,30,40…積層体
11…第1樹脂層
12…第2樹脂層
13…接着性樹脂層
図1
図2
図3
図4
図5