(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023052583
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】払拭装置、液体吐出装置、及び払拭方法
(51)【国際特許分類】
B65H 27/00 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
B65H27/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023008433
(22)【出願日】2023-01-24
(62)【分割の表示】P 2019050260の分割
【原出願日】2019-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(72)【発明者】
【氏名】玉井 智広
(72)【発明者】
【氏名】水谷 佑樹
(57)【要約】
【課題】 繊維層を表面に有する接触部材と被接触部材との間に圧力が印加された状態で被接触部材が搬送される場合、繊維層において被接触部材と接触していた領域と接触していなかった領域との間に境界部が生じることに起因して、異常画像が生じる課題がある。また、繊維層と繊維層が固定されている基材との間において接着強度が求められる課題がある。
【解決手段】 被接触部材の液体組成物が付与された領域に対して接触する接触部材であって、前記接触部材は、基材と、前記被接触部材と接触しフッ素樹脂繊維を含有するフッ素樹脂繊維層と、を有し、前記フッ素樹脂繊維層は、前記基材等に対して固定されており、前記フッ素樹脂繊維層の前記基材等に対して固定されている側における前記フッ素樹脂繊維の存在比率Xと、前記フッ素樹脂繊維層の前記被接触部材と接触する側における前記フッ素樹脂繊維の存在比率Yと、の比X/Yは、1.00未満である接触部材。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接触部材の液体組成物が付与された領域に対して接触する接触部材であって、
前記接触部材は、基材と、前記被接触部材と接触しフッ素樹脂繊維を含有するフッ素樹脂繊維層と、を有し、
前記フッ素樹脂繊維層は、前記基材に対して直接的又は間接的に固定されており、
前記フッ素樹脂繊維層の前記基材に対して直接的又は間接的に固定されている側における前記フッ素樹脂繊維の存在比率Xと、前記フッ素樹脂繊維層の前記被接触部材と接触する側における前記フッ素樹脂繊維の存在比率Yと、の比X/Yは、1.00未満である接触部材。
【請求項2】
前記フッ素樹脂繊維層は、接着部材により前記基材に対して直接的又は間接的に固定されており、
前記フッ素樹脂繊維層は、前記接着部材を含浸した含浸部と、前記接着部材を含浸していない非含浸部と、を有する請求項1に記載の接触部材。
【請求項3】
前記存在比率Xは、前記含浸部における前記フッ素樹脂繊維の存在比率であり、
前記存在比率Yは、前記非含浸部における前記フッ素樹脂繊維の存在比率である請求項2に記載の接触部材。
【請求項4】
前記比X/Yは、0.30以上0.80以下である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の接触部材。
【請求項5】
前記フッ素樹脂繊維層の厚さは、300μm以上700μm以下である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の接触部材。
【請求項6】
前記フッ素樹脂繊維層の透気度は、4秒以上16秒以下である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の接触部材。
【請求項7】
前記基材は、直径が50mm以上100mm以下のローラ形状である請求項1乃至6のいずれか一項に記載の接触部材。
【請求項8】
前記被接触部材は、記録媒体である請求項1乃至7のいずれか一項に記載の接触部材。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の接触部材を有し、
前記液体組成物が付与された前記被接触部材を乾燥させる乾燥装置。
【請求項10】
更に、前記被接触部材の前記領域を有する面の背面側から前記被接触部材に付与された前記液体組成物を加熱する液体組成物加熱手段を有する請求項9に記載の乾燥装置。
【請求項11】
前記被接触部材に前記液体組成物を付与する液体組成物付与手段と、
前記液体組成物が付与された前記被接触部材を搬送する搬送経路と、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の接触部材と、を有し、
前記接触部材は、前記搬送経路において、前記被接触部材の前記領域に対して接触するように配置されている印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触部材、乾燥装置、及び印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット装置などの印刷装置の内部には、カット紙等の被印刷物を搬送するため搬送手段が設けられている。この搬送手段は、被印刷物を、インクジェットインクなどの液体組成物を付与する液体組成物付与手段や、付与された液体組成物を加熱することで乾燥させる液体組成物加熱手段へと導く。搬送手段としては種々のものがあるが、軸線方向に沿って間隔を置いて複数配設したローラが用いられることが多い。
【0003】
しかし、このような搬送手段のうち液体組成物が付与された領域に対して直に接触するものは、搬送手段に対する液体組成物の転写が不具合として発生する場合がある。
【0004】
特許文献1には、棒状の芯体と、芯体の外周面に螺旋状に巻回されて配置される易滑性樹脂繊維を含む線材とを備え、印刷機能を有する機器に使用されて被印刷物を送るローラが開示されている。これにより、被印刷物をスムーズに送り、かつ、印刷画像品質を高い状態に維持することができるローラが提供される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、繊維層を表面に有する接触部材と記録媒体などの被接触部材との間に圧力が印加された状態で被接触部材が搬送される場合、繊維層において被接触部材と接触していた領域と接触していなかった領域との間に境界部が生じ、その後、液体組成物を付与された別の被接触部材が境界部を跨ぐように搬送されるとき、異常画像が生じる課題がある。また、繊維層と繊維層が固定されている基材との間において接着強度が求められる課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、被接触部材の液体組成物が付与された領域に対して接触する接触部材であって、前記接触部材は、基材と、前記被接触部材と接触しフッ素樹脂繊維を含有するフッ素樹脂繊維層と、を有し、前記フッ素樹脂繊維層は、前記基材に対して直接的又は間接的に固定されており、前記フッ素樹脂繊維層の前記基材に対して直接的又は間接的に固定されている側における前記フッ素樹脂繊維の存在比率Xと、前記フッ素樹脂繊維層の前記被接触部材と接触する側における前記フッ素樹脂繊維の存在比率Yと、の比X/Yは、1.00未満である接触部材である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の接触部材は、繊維層を表面に有する接触部材を用いた場合に、異常画像の発生を抑制し、接触部材の繊維層と繊維層が固定されている基材との間における接着強度を向上させる優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、ローラ形状の接触部材を用いて被接触部材を搬送する一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、接触部材の製造方法の一例を説明する模式図である。
【
図3】
図3は、連続紙を用いる印刷装置の一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、被接触部材が接触部材に接していることを示す模式図である。
【
図5】
図5は、原子間力顕微鏡を用いて得られるフォースカーブの一例を示すグラフである。
【
図6】
図6は、プローブを備えるカンチレバーの一例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0010】
<<接触部材>>
本実施形態の接触部材は、被接触部材の液体組成物が付与された領域に対して接触し、基材と、被接触部材と接触しフッ素樹脂繊維を含有するフッ素樹脂繊維層と、を有する。また、フッ素樹脂繊維層は、基材に対して直接的又は間接的に固定されている。ここで、フッ素樹脂繊維層が基材に対して直接的に固定されている場合とは、例えば、フッ素樹脂繊維層と基材が熱融着、プライマー等の接着剤、これらの組み合わせなどにより一体化していることを表す。また、フッ素樹脂繊維層が基材に対して間接的に固定されている場合とは、例えば、フッ素樹脂繊維層と基材の間に下地層が1層以上設けられ、フッ素樹脂繊維層と下地層、下地層同士、下地層と基材が熱融着、プライマー等の接着剤、これらの組み合わせなどにより一体化していることを表す。なお、以降の説明では、フッ素樹脂繊維層が基材に対して直接的又は間接的に固定されていることを、単に、基材に対して固定されている、とも称する。
【0011】
<フッ素樹脂繊維層>
本実施形態の接触部材は、被接触部材と接触する表面にフッ素樹脂繊維を含有するフッ素樹脂繊維層を有する。また、フッ素樹脂繊維層は、層の最表面にフッ素樹脂繊維を有することが好ましい。フッ素樹脂繊維を用いることにより、フッ素樹脂繊維と直接接触する被接触部材の液体組成物が付与された領域に対する潤滑性や剥離容易性を向上させることができる。フッ素樹脂繊維を構成するフッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA、融点300~310℃)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、融点330℃)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP、融点250~280℃)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE、融点260~270℃)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF、融点160~180℃)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE、融点210℃)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPE、融点290~300℃)等、及び、これらのポリマーを含むコポリマー等を挙げることができ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。
【0012】
フッ素樹脂繊維は、これらフッ素樹脂を紡糸して形成されるが、単一のフッ素樹脂からなる樹脂繊維、複数種類のフッ素樹脂からなる樹脂繊維、及びフッ素樹脂にフッ素樹脂以外の材料が混合された樹脂繊維のいずれであってもよいが、単一のフッ素樹脂からなる樹脂繊維、複数のフッ素樹脂からなる樹脂繊維であることが好ましい。なお、本実施形態においてフッ素樹脂繊維は、フッ素樹脂自体、又はフッ素樹脂とフッ素樹脂以外の材料との混合物自体が繊維化しているものを示す。そのため、例えば、ガラス樹脂繊維などの表面をフッ素樹脂でコーティングして固めたものなどは、本実施形態におけるフッ素樹脂繊維に含まれない。
【0013】
また、市販されているフッ素樹脂繊維としては、例えば、トヨフロンBF800S、2402、1412(東レ社製)などが挙げられるが、これらはいずれもポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含むフッ素樹脂繊維である。
【0014】
フッ素樹脂繊維層の厚さは、200μm以上であることが好ましく、300μm以上であることがより好ましい。また、フッ素樹脂繊維層の厚さは、800μm以下であることが好ましく、700μm以下であることがより好ましい。接触部材の表面がフッ素樹脂繊維構造を有し、フッ素樹脂繊維構造を有する層の厚さが200μm以上であることにより、接触部材が被接触部材と接触することで両者の間に高い圧力が生じる場合などにおいても、接触部材と被接触部材との間の接触面の垂直方向に圧力を分散させることができる。これにより、接触部材が被接触部材の液体組成物が付与された領域に対して接触する場合であっても、接触部材に対して被接触部材上の液体組成物が転写されることを抑制することができる。また、フッ素樹脂繊維構造を有する層の厚さが800μm以下であることにより、接触部材が被接触部材を搬送するローラとして用いられた場合においても、被接触部材を良好に搬送することができる。また、フッ素樹脂繊維構造を有する層の厚さが300μm以上800μm以下であることにより、接触部材に対して被接触部材上の液体組成物が転写されることをより抑制することができる。フッ素樹脂繊維層の厚さが300μm以上であることにより接触部材と被接触部材との間の接触面の垂直方向に圧力をより分散させることができ、800μm以下であることによりフッ素樹脂繊維層と被接触部材との間の摩擦によりフッ素樹脂繊維構造がだれることを抑制することができる。
【0015】
フッ素樹脂繊維層を形成するフッ素樹脂繊維の構造は、モノフィラメント及びマルチフィラメントのいずれであってもよいが、モノフィラメントであることが好ましい。モノフィラメントは、フッ素樹脂繊維の内部に液体組成物が染み込みにくいため、接触部材が被接触部材の液体組成物が付与された領域に対して接触する場合であっても、接触部材に対して被接触部材上の液体組成物が転写されることを抑制することができる。
【0016】
フッ素樹脂繊維層の形状は、特に制限されないが、基材に巻回されて配置されるシート状の形状であることが好ましい。シート状とは、繊維同士が容易に分離しない加工がなされることで、フッ素樹脂繊維層が平面状又は曲面状の形状を有する状態を示し、線状である状態を含まない。繊維同士が容易に分離しない加工とは、例えば、原料を押し出し成型により紡糸した繊維を機械的に織り込む加工、繊維同士を熱や圧力などにより接合する加工など、公知の方法を用いて行う加工が挙げられるが、接触面積を減らしつつ接触点を増やすことができる点から、比較的長さの短い繊維同士を接合する加工が好ましい。フッ素樹脂繊維層がシート状であることにより、接触部材が被接触部材と接触する部分が、フッ素樹脂繊維層の最外部に位置するフッ素樹脂繊維の頂部となる。これにより、接触部材と被接触部材との間の接触面積を減らしつつ、フッ素樹脂繊維の頂部を接触部材の表面に多数存在させることができるため、接触部材が被接触部材の液体組成物が付与された領域に対して接触する場合であっても、接触部材に対して被接触部材上の液体組成物が転写されることを抑制することができる。なお、本実施形態では、線状の繊維を基材に巻回することで形成されるフッ素樹脂繊維層の形状を排除しないが、フッ素樹脂繊維層は上記のシート状の形状であることが好ましい。フッ素樹脂繊維層がシート状であることにより、線状である場合に比べて、接触部材と被接触部材との間に生じる圧力を分散させることができ、接触部材に対して被接触部材上の液体組成物が転写されることを抑制することができるためである。
【0017】
フッ素樹脂繊維層は、上記の通り、「基材に対して直接的又は間接的に固定」されている(以降、単に「基材に対して固定」とも記載する)。このとき、フッ素樹脂繊維層の基材に対して固定されている側におけるフッ素樹脂繊維の存在比率を存在比率Xとし、フッ素樹脂繊維層の被接触部材と接触する側におけるフッ素樹脂繊維の存在比率を存在比率Yとし、存在比率Yに対する存在比率Xの割合である比X/Yを算出した場合、1.00未満である。
【0018】
比X/Yを1.00未満とする理由について
図1を用いて説明する。
図1は、ローラ形状の接触部材を用いて被接触部材を搬送する一例を示す模式図である。
【0019】
図1(A)に示すように、フッ素樹脂繊維層を表面に有する接触部材10と記録媒体などの被接触部材11との間に圧力が印加された状態で被接触部材11が搬送される場合、
図1(B)に示すように、フッ素樹脂繊維層における被接触部材11と接触していた領域と接触していなかった領域との間の境界部で、フッ素樹脂繊維層の圧縮差に伴う微小段差10a、10bが生じる。その後、
図1(C)に示すように、液体組成物を付与された別の被接触部材12が微小段差10bを跨ぐように搬送された場合、付与された液体組成物により形成される画像の微小段差10bを通過した部分において、異常画像13が生じる課題がある。この異常画像13の発生を抑制するためには、例えば、あらかじめ、フッ素樹脂繊維層の被接触部材11、12と接触する側を被接触部材11、12の搬送時に印加される圧力以上の圧力で圧縮し、フッ素樹脂繊維層の被接触部材11、12と接触する側におけるフッ素樹脂繊維の存在比率Yを高めることで、微小段差10bの発生を抑制することが挙げられる。
【0020】
しかし、フッ素樹脂繊維層の圧縮差に伴う微小段差10bの発生を抑制するために、フッ素樹脂繊維層全体を圧縮し、全体におけるフッ素樹脂繊維の存在比率が高められたフッ素樹脂繊維層を用いた場合、フッ素樹脂繊維層を構成する繊維間の隙間が減少し、フッ素樹脂繊維層を接触部材の基材又は下地層に固定するための接着部材が繊維間の隙間に含浸されにくくなり、フッ素樹脂繊維層と基材又は下地層との間における接着強度が低下する課題がある。特に、本願のように繊維としてフッ素樹脂繊維を用いた場合、フッ素樹脂繊維層と基材又は下地層との間における接着強度は、フッ素樹脂繊維間の隙間に接着部材を十分に含浸させて物理的にアンカリングできるかに強く依存するため、他の種類の樹脂繊維を用いた場合に比較してより大きな課題が生じる。このような接着強度低下を抑制するためには、例えば、フッ素樹脂繊維層を基材又は下地層に対して固定する前に、フッ素樹脂繊維層の基材に対して固定されている側を圧縮せず、フッ素樹脂繊維層の基材に対して固定されている側におけるフッ素樹脂繊維の存在比率Xを高めないことで、繊維間の隙間を維持することが挙げられる。
【0021】
すなわち、比X/Yを1.00未満とすることで、異常画像の発生抑制と、フッ素樹脂繊維層と基材又は下地層との間における接着強度低下の抑制を両立させることができる。
【0022】
なお、存在比率Xは、フッ素樹脂繊維層の基材に対して固定されている側におけるフッ素樹脂繊維の存在比率を表すが、例えば、フッ素樹脂繊維層を基材に対して固定するためにフッ素樹脂繊維層中に含浸させられている接着部材が存在する場所(以降、「含浸部」とも記載する)におけるフッ素樹脂繊維の存在比率を表す。なお、存在比率Xを測定する場所としては、接着部材が存在するがフッ素樹脂繊維が存在しない場所は除かれる。
【0023】
また、存在比率Yは、フッ素樹脂繊維層の被接触部材と接触する側におけるフッ素樹脂繊維の存在比率を表すが、例えば、フッ素樹脂繊維層を基材に対して固定するためにフッ素樹脂繊維層中に含浸させられている接着部材が存在しない場所(以降、「非含浸部」とも記載する)におけるフッ素樹脂繊維の存在比率を表す。
【0024】
また、比X/Yは、1.00未満であるが、0.3以上0.8以下であることがより好ましい。この範囲内であることで、接触部材が被接触部材と接触したときに生じる微小段差の発生が抑制され、異常画像の発生がより抑制される。また、この範囲内であることで、フッ素樹脂繊維と接着部材が絡み合い、十分な剥離応力が生じるため、フッ素樹脂繊維層と基材又は下地層との間における接着強度低下より抑制される。
【0025】
存在比率X及び存在比率Yは、フッ素樹脂繊維層の断面におけるフッ素成分の面積を基に算出する。具体的には、まず、フッ素樹脂繊維層を、フッ素樹脂繊維層の面方向に対して垂直に切断して断面を形成する。次に、この断面に対してフッ素成分のマッピングを実施する。フッ素成分のマッピングには、一例として、EDS元素分析(Phenom ProX、PhenomWorld社製)を用いることができる。得られたデータを基に、ProSuiteソフトウェアにより、フッ素成分が存在する部分の面積とフッ素成分が存在しない部分の面積の比率を算出する。算出された比率のうち、フッ素樹脂繊維層の基材に対して固定されている側(例えば、含浸部)における比率を存在比率X、フッ素樹脂繊維層の被接触部材と接触する側(例えば、非含浸部)における比率を存在比率Yとする。算出された存在比率X及び存在比率Yから、比X/Yを求める。なお、存在比率X及び存在比率Yの算出においては、100μm×100μmの測定面積を用い、5箇所における測定値の平均値を採用する。
【0026】
フッ素樹脂繊維層の透気度は、4秒以上16秒以下であることで、画像の剥離を抑制することができるので好ましい。透気度が4秒以上であることで、被接触部材からの接触面圧の分散効果が発生し、画像剥離を抑制する効果が向上する。また、16秒以下であることで、被接触部材との密着が抑制されるため、画像剥離を抑制する効果が向上する。なお、本実施形態における透気度は、ガーレー式自動透気度計(Emo社製)により、ISO5636に準拠した方法で実施する。より具体的には、フッ素樹脂繊維層において300mlの空気を、通過径φ10mmに対して透過させた際にかかる時間を計測する。測定位置を変えて10点測定し、平均値を透気度とする。
【0027】
フッ素樹脂繊維層を基材から剥離する際に必要とする力である剥離力は、7N/cm以上であることが好ましい。7N/cm以上であることで、フッ素樹脂繊維層と基材又は下地層との間における接着強度低下を抑制することができる。なお、本実施形態における剥離力は、接触部材に設けられたフッ素樹脂繊維層に切り込みを入れ、フッ素樹脂繊維層の切り込みを入れられた部分において100mm/5秒の速度で90°剥離応力を計測することにより求める。具体的には、まず、接触部材に設けられたフッ素樹脂繊維層に対し、剃刀を垂直に当てて幅30mm、長さ100mmの領域(評価領域)を囲むように切り込みを入れる。次に、デジタルフォースゲージ(A&D社製)を用いて評価領域の幅が短い側の端部をつかみ、上記条件の下で剥離力を測定する。測定値は、測定距離100mm内における最大値とする。また、本測定は、位置の異なる評価領域を3つ作成し、各領域における測定値を平均することで得られる平均値を採用する。
【0028】
<基材>
基材は、長尺な金属製の棒状体であることが好ましく、その断面が円形である円柱体又は円筒体などのローラ形状であることがより好ましい。基材がこれら形状であることにより、接触部材を、被接触部材を搬送するローラとして用いることができる。接触部材をローラとして用いる場合、基材の断面の円の直径は、50mm以上100mm以下であることが好ましい。直径がこの範囲であることにより、接触部材が被接触部材の液体組成物が付与された領域に対して接触する場合であっても、接触部材に対して被接触部材上の液体組成物が転写されることを抑制することができる。直径が50mm以上であることにより接触部材と被接触部材との間に生じる単位面積あたりの圧力が低下し、液体組成物の転写が抑制される。一方で、直径が100mm以下であることにより接触部材と被接触部材との間で生じる滑りが抑制され、それにより液体組成物の転写が抑制される。
【0029】
また、基材の材料としては、例えば、ステンレス、アルミニウム等の各種金属、銅、ステンレス等の金属焼結体、及びセラミクス焼結体などを用いることができる。
【0030】
また、基材は、多孔質体であることが好ましい。多孔質体の基材上にフッ素樹脂繊維層が設けられて接触部材が構成されていることで、接触部材が被接触部材の液体組成物が付与された領域に対して接触する場合であっても、接触部材に対して被接触部材上の液体組成物が転写されることを抑制することができる。これは、接触部材が被接触部材と接触して圧力が発生したときに、フッ素樹脂繊維層が多孔質体表面の空隙に入り込み、圧力を分散させることができるためである。また、基材が多孔質体であることにより、被接触部材上の液体組成物から液体成分が揮発する場合においても、フッ素樹脂繊維層及び多孔質体の基材を通して揮発成分を逃がすことができ、接触部材表面で揮発した液体成分が液滴となることを抑制することができる。多孔質体である基材の材料としては、銅、ステンレス等の金属焼結体、及びセラミクス焼結体などが挙げられる。この多孔質体である基材を有する接触部材を加熱し、被接触部材上の液体組成物が付与された領域を乾燥させるための手段として用いる場合、基材は熱伝導率が高い銅、ステンレス等の金属焼結体であることが好ましい。
【0031】
<<接触部材の製造方法>>
本実施形態の一例である接触部材の製造方法は、基材に接着剤を付与して接着剤層を形成する接着剤層形成工程と、接着剤層上にフッ素樹脂繊維層を配置して接着剤をフッ素樹脂繊維層に浸透させることで含浸させる接着剤浸透工程と、フッ素樹脂繊維層に含浸された接着剤が硬化して接着部材を形成することで基材と接触部材が固定化される固定化工程と、基材と固定化された接触部材を加圧することでフッ素樹脂繊維層の接着部材を含浸していない領域におけるフッ素樹脂繊維の存在比率を高める加圧工程と、を有する。
【0032】
この製造方法について、
図2を用いて説明する。
図2は、接触部材の製造方法の一例を説明する模式図である。まず、
図2(A)に示すように、基材30上に接着剤を塗布して接着剤層31を形成する。次に、接着剤層31上にフッ素樹脂繊維層を配置して接着剤をフッ素樹脂繊維層の一部領域に浸透させることで含浸させる。すると、
図2(B)に示すように、基材30上に、接着剤が含浸されているフッ素樹脂繊維層の一部領域である接着剤含浸領域32と、接着剤が含浸されていないフッ素樹脂繊維層の他の領域である接着剤非含浸領域33と、が形成される。その後、接着剤含浸領域32に含浸されている接着剤が硬化して接着部材を形成することで基材と接触部材が固定化される。更に、基材と固定化された接触部材を加圧すると、
図2(C)に示すように、接着剤非含浸領域33が圧縮されてフッ素樹脂繊維の存在比率が高まった非含浸部35が形成される。一方で、接着剤含浸領域32はフッ素樹脂繊維間に接着部材が含浸されていて圧縮されにくいため、フッ素樹脂繊維の存在比率が非含浸部35より低い含浸部34が形成される。
【0033】
また、本実施形態では、固定化工程より前の工程において、フッ素樹脂繊維層を加圧する工程を有さないことが好ましい。固定化工程より前にフッ素樹脂繊維層を加圧する工程を有さないことで、フッ素樹脂繊維層を基材から剥離する際に必要とする力である剥離力が高まる。剥離力が高まることで、フッ素樹脂繊維層と基材又は下地層との間における接着強度低下を抑制することができる。
【0034】
<<乾燥装置、印刷装置>>
本実施形態の乾燥装置は、液体組成物が付与された被接触部材を乾燥させる装置であって、上記接触部材を有し、必要に応じて、被接触部材に付与された液体組成物を加熱する液体組成物加熱手段、及び接触部材を加熱する接触部材加熱手段などを有する。
【0035】
また、本実施形態の印刷装置は、被接触部材に液体組成物を付与する液体組成物付与手段、液体組成物が付与された被接触部材を搬送する搬送経路、上記接触部材を有し、必要に応じて、被接触部材を供給する被接触部材供給手段、被接触部材に付与された液体組成物を加熱する液体組成物加熱手段、及び接触部材を加熱する接触部材加熱手段などを有する。
【0036】
乾燥装置、及び印刷装置について
図3を用いて説明する。
図3は、連続紙を用いる印刷装置の一例を示す模式図である。
図3に示す印刷装置100は、被接触部材供給手段1、液体組成物付与手段2、液体組成物加熱手段3、接触部材4、接触部材加熱手段5、及び被接触部材回収手段6を有する。また、印刷装置100は、乾燥装置50を有するが、乾燥装置50は印刷装置と一体の装置でも、別の独立した装置でもよい。
【0037】
<被接触部材供給手段>
被接触部材供給手段1は、回転駆動することにより、ロール状に巻かれて収納された被接触部材7を印刷装置100内の搬送経路8に供給する。搬送経路8における被接触部材7の搬送方向を矢印Dで示す。
【0038】
被接触部材供給手段1は回転駆動を調整することによって、被接触部材7を、50m/分以上の高速で搬送する。
【0039】
被接触部材7は、印刷装置100の搬送方向Dに連続するシート状の被搬送物であり、具体的には連続紙などの記録媒体である。連続紙としては、例えば、ロール状に丸められたロール紙、所定の間隔ごとに折り曲げられた連帳紙等が挙げられる。被接触部材7は、被接触部材供給手段1と被接触部材回収手段6の間の搬送経路8に沿って搬送される。また、被接触部材7の搬送方向8における長さは、少なくとも被接触部材供給手段1と被接触部材回収手段6との間に設けられた被接触部材7の搬送経路8の長さより長い。本実施形態の印刷装置100は、このように印刷装置100の搬送方向Dに連続する被接触部材7を用い、且つ高速で被接触部材7を搬送するため、被接触部材7には被接触部材供給手段1と被接触部材回収手段6の間において大きな張力が付加されている。
【0040】
<液体組成物付与手段>
液体組成物付与手段2は、複数のノズルが配列された複数のノズル列を有するインクジェット吐出ヘッドであり、ノズルからのインクの吐出方向が、被接触部材7の搬送経路8を向くように設けられている。これにより、液体組成物付与手段2は、被接触部材7に対し、マゼンタ(M)、シアン(C)、イエロー(Y)、及びブラック(K)の各色のインクと、付与されたインクの表面を保護するために付与される後処理液と、を液体組成物として順次吐出する。なお、吐出されるインクの色はこれらに限らず、ホワイト、グレー、シルバー、ゴールド、グリーン、ブルー、オレンジ、バイオレットなどの色であってもよい。
【0041】
なお、本実施形態では、一例として、液体組成物がインク、及び後処理液である場合を説明したが、これら以外の液体組成物であってもよい。例えば、インク、インクに含まれる色材を凝集させるために付与される前処理液、付与されたインクの表面を保護するために付与される後処理液、及び金属などの無機粒子を分散させた電気回路などを形成するための液体などが挙げられ、これらを適宜混合または重ねた液体などであってもよい。
【0042】
また、本実施形態では、一例として、液体組成物がインクジェット吐出ヘッドで被接触部材7に付与される場合について説明したが、他の手段で付与されてもよい。例えば、スピンコート、スプレーコート、グラビアロールコート、リバースロールコート、バーコート等の各種公知の手段を用いることができる。
【0043】
<液体組成物加熱手段>
液体組成物加熱手段3は、被接触部材7の液体組成物が付与された領域を有する面の背面側から被接触部材7に付与された液体組成物を加熱して乾燥させる。なお、液体組成物を加熱する手段は、特に限定されないが、例えば、温風を吹き付ける手段、被接触部材7の背面を加熱ローラ、フラットヒータ等に接触させて乾燥させる手段等の各種公知の手段を用いることができる。
【0044】
<接触部材>
接触部材4は、被接触部材7を搬送しつつ、被接触部材7の搬送方向Dを変える。また、接触部材4は、円柱状又は円筒状のローラである。
【0045】
本実施形態の印刷装置100は、上記の通り、被接触部材供給手段1が、被接触部材7を50m/分以上で搬送する。このように高速で搬送する場合、
図3に示すように、被接触部材7の搬送方向を接触部材4を用いて変えるとき、接触部材4と被接触部材7との間には大きな圧力が付加されることになる。これにより、接触部材5に設けられたフッ素樹脂繊維層において、被接触部材7と接触している場所と接触していない場所との境界で微小段差が生じやすくなる。また、それに伴って、その後、微小段差を跨ぐように搬送される被接触部材7において異常画像が生じやすくなる。そのため、本実施形態の接触部材を用いることが好ましい。また、被接触部材7上の液体組成物が付与された領域と接触部材4が接触する場合、液体組成物が接触部材4に転写されやすくなるので、本実施形態の接触部材を用いることが好ましい。
【0046】
本実施形態の印刷装置100は、上記の通り、印刷装置100の搬送方向Dに連続する被接触部材7を用い、且つ高速で被接触部材7を搬送するため、被接触部材7には被接触部材供給手段1と被接触部材回収手段6の間において大きな張力が付加されている。このような場合に、
図3に示すように、大きな張力が付加された被接触部材7の搬送方向を接触部材4により変える場合、接触部材4と被接触部材7との間には大きな圧力が付加されることになる。これにより、接触部材5に設けられたフッ素樹脂繊維層において、被接触部材7と接触している場所と接触していない場所との境界で微小段差が生じやすくなる。また、それに伴って、その後、微小段差を跨ぐように搬送される被接触部材7において異常画像が生じやすくなる。そのため、本実施形態の接触部材を用いることが好ましい。また、被接触部材7上の液体組成物が付与された領域と接触部材4が接触する場合、液体組成物が接触部材4に転写されやすくなるので、本実施形態の接触部材を用いることが好ましい。
【0047】
接触部材4は、
図3に示すように、液体組成物加熱手段3に対し、被接触部材7の搬送方向Dの下流側に設けられている。接触部材4上の液体組成物が液体組成物加熱手段3によって乾燥させられてから、被接触部材7上の液体組成物が付与された領域と接触部材4が接触するので、液体組成物の接触部材4に対する転写がより抑制されるため好ましい。 また、接触部材4上の液体組成物が液体組成物加熱手段3によって乾燥させられた後において、被接触部材7の液体組成物が付与された領域に対し最初に接触する部材は、接触部材4であることが好ましい。被接触部材7の液体組成物が付与された領域に対して最初に接触する部材は、液体組成物の転写が起きやすいので、本実施形態の接触部材を用いることが好ましい。
【0048】
また、接触部材4がローラである場合、
図3に示すように、被接触部材7がローラに巻き付くことで、ローラが被接触部材7の液体組成物が付与された領域に対して接触する。このとき、被接触部材7のローラに対する巻率は、10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましく、20%以上であることが更に好ましい。10%以上であることで、ローラと被接触部材7との間に生じる単位面積あたりの圧力が低下し、液体組成物のローラに対する転写が抑制される。また、被接触部材7のローラに対する巻率は、90%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましく、50%以下であることが更に好ましい。50%以下であることで、被接触部材7の搬送を好適に行うことができる。
【0049】
なお、本実施形態における「巻率」について
図4を用いて説明する。
図4は、被接触部材が接触部材に接していることを示す模式図である。
図4に示すように、ローラ形状の接触部材4に対し、被接触部材7が巻き付くことで接している場合において、「巻率」は、被接触部材が接触部材から分離する一方の端部を9a、他方の端部を9bとしたとき、被接触部材7及び接触部材4が接している側における9aと9bの間の接触部材4の周長Xが、接触部材4の全周長に対して占める割合を示す。
【0050】
<接触部材加熱手段>
接触部材加熱手段5は、接触部材4を加熱する。これにより、加熱された接触部材4が被接触部材7の液体組成物が付与された領域に対して接触することで、被接触部材7上の液体組成物が付与された領域を乾燥させる。このとき、液体組成物の乾燥が不十分な場合だけでなく、液体組成物に含まれる樹脂が熱により軟化する場合などに起因して、接触部材4に対する液体組成物の転写が不具合として発生しやすくなる。そのため、本実施形態の接触部材を用いることが好ましい。
【0051】
また、接触部材加熱手段5は、例えば、ヒータ、温風を吹き付ける手段等の各種公知の手段を用いることができる。
【0052】
接触部材加熱手段5は、
図3に示すように、接触部材4の内部に配置されるが、外部に配置されていてもよい。また、接触部材4と別体として配置されても、一体として組み込まれてもよい。なお、接触部材4の基材が多孔質体であって、接触部材加熱手段5を接触部材4の内部に配置した場合、接触部材加熱手段5から生じる熱や温風を効率よく被接触部材7に伝達することができる。
【0053】
<被接触部材回収手段>
被接触部材回収手段6は、回転駆動することにより、液体組成物を付与することで画像が形成された被接触部材7を巻き取ってロール状に収納する。
【0054】
<<印刷方法>>
本実施形態の印刷方法は、被接触部材に対して液体組成物を付与する液体組成物付与工程と、被接触部材の液体組成物が付与された領域に対して接触部材が接触する接触工程と、を有する。また、必要に応じて、液体組成物加熱工程を有する。
【0055】
<液体組成物付与工程>
液体組成物付与工程は、被接触部材供給手段1から供給された被接触部材7に、インクなどの液体組成物を付与する工程である。これにより、被接触部材7上に液体組成物が付与された領域が形成される。
【0056】
<液体組成物加熱工程>
液体組成物加熱工程は、液体組成物付与工程の後に、付与された液体組成物を加熱することで乾燥させる工程である。乾燥は、記録媒体にベタつきが感じられない程度に行うことが好ましい。なお、
図3に示す乾燥工程では、付与された液体組成物を液体組成物加熱手段3により乾燥させるが、特別な乾燥手段を用いず、自然乾燥させてもよい。
【0057】
<接触工程>
接触工程は、被接触部材7の液体組成物が付与された領域に対して接触部材4が接触する工程である。なお、液体組成物が付与された領域とは、被接触部材7上の液体組成物が付与された面における領域を示し、液体組成物が付与されていない反対側の面における領域は含まれない。また、液体組成物が付与された領域とは、液体組成物が付与されたことで特定される場所を表し、液体組成物の状態は問わない。言い換えると、接触部材が、液体組成物が付与された領域と接触するときに、この領域に付与された液体組成物が付与されたときの状態を維持している液体状態である必要はなく、液体組成物の一部液体成分が気化した液体状態や、液体組成物の全液体成分が気化した固体状態等であってもよい。
【0058】
図3に示すように、被接触部材7は、接触部材4と接触しつつ搬送される。また、接触部材4は、被接触部材7を巻き付かせるように搬送することで、被接触部材7の搬送方向Dを変える。更に、被接触部材7の内部又は近傍に接触部材加熱手段5が設けられている場合、接触部材4は、被接触部材7を搬送しつつ被接触部材7上の液体組成物が付与された領域を乾燥させる。
【0059】
<<液体組成物>>
本実施形態における液体組成物は、特に限定されないが、インク、インクに含まれる色材を凝集させるために付与される前処理液、付与されたインクの表面を保護するために付与される後処理液、及び金属などの無機粒子を分散させた電気回路などを形成するための液体などが挙げられる。これらは、適宜公知の組成で用いることができる。以降、一例として、液体組成物としてインク及び後処理液を用いた場合について説明する。
【0060】
<インク>
以下、インクに用いる有機溶剤、水、色材、樹脂、ワックス、添加剤等について説明する。
【0061】
-有機溶剤-
有機溶剤としては特に制限されず、水溶性有機溶剤を用いることができる。例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類や多価アルコールアリールエーテル類などのエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類が挙げられる。
【0062】
多価アルコール類の具体例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、エチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ペトリオール等が挙げられる。
【0063】
多価アルコールアルキルエーテル類としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
【0064】
多価アルコールアリールエーテル類としては、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等が挙げられる。
【0065】
含窒素複素環化合物としては、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。
【0066】
アミド類としては、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等が挙げられる。
【0067】
アミン類としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0068】
含硫黄化合物類としては、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等が挙げられる。
【0069】
その他の有機溶剤としては、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン等が挙げられる。
【0070】
湿潤剤として機能するだけでなく、良好な乾燥性を得られることから、沸点が250℃以下の有機溶剤を用いることが好ましい。
【0071】
有機溶剤として、炭素数8以上のポリオール化合物、及びグリコールエーテル化合物も好適に使用される。炭素数8以上のポリオール化合物の具体例としては、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールなどが挙げられる。
【0072】
グリコールエーテル化合物の具体例としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類;エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類などが挙げられる。
【0073】
特に、インク組成物として樹脂を用いる場合には、N,N-ジメチル-β-ブトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-エトキシプロピオンアミド、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、プロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、これらの中でも、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミドなどのアミド溶剤が特に好ましく、樹脂の造膜性が促進され、高い耐摺過性を発現することができる。
【0074】
有機溶剤の沸点としては、180℃以上250℃以下が好ましい。沸点が180℃以上であると、乾燥時の蒸発速度を適切に調節でき、レベリングが十分に行われ、表面凹凸が小さくなり、光沢性を向上できる。逆に、250℃より大きいと乾燥性が低く、長時間の乾燥が必要になることがある。近年の印刷技術の高速化に伴って、インクの乾燥にかかる時間が律速になっており、乾燥時間を短縮する必要があるため、長時間の乾燥は好ましくない。
【0075】
有機溶剤のインク中における含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上60質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0076】
また、上記のアミド溶剤のインク中における含有量としては、0.05質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がより好ましい。
【0077】
-水-
インクにおける水の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0078】
-色材-
色材としては特に限定されず、顔料、染料を使用可能である。
顔料としては、無機顔料又は有機顔料を使用することができる。これらは、1種単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。また、顔料として、混晶を使用しても良い。
【0079】
顔料としては、例えば、ブラック顔料、イエロー顔料、マゼンダ顔料、シアン顔料、白色顔料、緑色顔料、橙色顔料、金色や銀色などの光沢色顔料やメタリック顔料などを用いることができる。
【0080】
無機顔料として、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローに加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
【0081】
また、有機顔料としては、アゾ顔料、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。これらの顔料のうち、溶媒と親和性の良いものが好ましく用いられる。その他、樹脂中空粒子、無機中空粒子の使用も可能である。
【0082】
顔料の具体例として、黒色用としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、または銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料があげられる。
【0083】
さらに、カラー用としては、C.I.ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、138、150、153、155、180、185、213、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22、23、31、38、48:2、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3、48:4、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、184、185、190、193、202、207、208、209、213、219、224、254、264、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19、23、38、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルー)、15:1、15:2、15:3、15:4(フタロシアニンブルー)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36、等がある。
【0084】
染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能であり、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0085】
染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー9,45,249、C.I.アシッドブラック1,2,24,94、C.I.フードブラック1,2、C.I.ダイレクトイエロー1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック3,4,35が挙げられる。
【0086】
インク中の色材の含有量は、画像濃度の向上、良好な定着性や吐出安定性の点から、0.1質量%以上15質量%以下が好ましく、より好ましくは1質量%以上10質量%以下である。
【0087】
顔料を分散してインクを得る方法としては、顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法、顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法、分散剤を用いて分散させる方法、などが挙げられる。
【0088】
顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法としては、例えば、顔料(例えばカーボン)にスルホン基やカルボキシル基等の官能基を付加することで、水中に分散可能とする方法が挙げられる。
【0089】
顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法としては、顔料をマイクロカプセルに包含させ、水中に分散可能とする方法が挙げられる。これは、樹脂被覆顔料と言い換えることができる。この場合、インクに配合される顔料はすべて樹脂に被覆されている必要はなく、被覆されない顔料や、部分的に被覆された顔料がインク中に分散していてもよい。
【0090】
分散剤を用いて分散させる方法としては、界面活性剤に代表される、公知の低分子型の分散剤、高分子型の分散剤を用いて分散する方法が挙げられる。
【0091】
分散剤としては、顔料に応じて例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等を使用することが可能である。
【0092】
分散剤として、竹本油脂社製RT-100(ノニオン系界面活性剤)や、ナフタレンスルホン酸Naホルマリン縮合物も、分散剤として好適に使用できる。
【0093】
分散剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0094】
-顔料分散体-
顔料に、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを得ることが可能である。また、顔料と、その他水や分散剤などを混合して顔料分散体としたものに、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを製造することも可能である。
【0095】
顔料分散体は、水、顔料、顔料分散剤、必要に応じてその他の成分を混合、分散し、粒径を調整して得られる。分散は分散機を用いると良い。
【0096】
顔料分散体における顔料の粒径については特に制限はないが、顔料の分散安定性が良好となり、吐出安定性、画像濃度などの画像品質も高くなる点から、最大個数換算で最大頻度が20nm以上500nm以下が好ましく、20nm以上150nm以下がより好ましい。顔料の粒径は、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0097】
顔料分散体における顔料の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な吐出安定性が得られ、また、画像濃度を高める点から、0.1質量%以上50質量%以下が好ましく、0.1質量%以上30質量%以下がより好ましい。
【0098】
顔料分散体に対し、必要に応じて、フィルター、遠心分離装置などで粗大粒子をろ過し、脱気することが好ましい。
【0099】
-樹脂-
インク中に含有する樹脂の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂などが挙げられる。
【0100】
これらの樹脂からなる樹脂粒子を用いても良い。樹脂粒子を、水を分散媒として分散した樹脂エマルションの状態で、色材や有機溶剤などの材料と混合してインクを得ることが可能である。樹脂粒子としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。また、これらは、1種を単独で用いても、2種類以上の樹脂粒子を組み合わせて用いてもよい。
【0101】
これらの中でも、ウレタン樹脂粒子は、ウレタン樹脂粒子を用いたインクを付与して形成した画像のタック力が大きく、耐ブロッキング性を悪化させてしまうため、他の樹脂粒子と混合して使用することが好ましいが、ウレタン樹脂粒子のタック力の強さは画像を強固に形成させ、定着性を向上させることができる。また、ガラス転移温度(Tg)が-20℃以上70℃以下のウレタン樹脂粒子は、ウレタン樹脂粒子を用いたインクを付与して形成した画像のタック力がより大きく、定着性をより向上させることができる。
【0102】
また、上記の樹脂の中でも、アクリル樹脂を用いたアクリル樹脂粒子は吐出安定性に優れ、またコスト面でも低価格であるため、広く使用されている。しかし、耐摺擦性が劣ることから、弾性を持つウレタン樹脂粒子と混合して使用することが好ましい。
【0103】
ウレタン樹脂粒子の含有量(質量%)と、アクリル樹脂粒子の含有量(質量%)との質量比(ウレタン樹脂粒子/アクリル樹脂粒子)としては、0.03以上0.7以下が好ましく、0.1以上0.7以下がより好ましく、0.23以上0.46以下が更に好ましい。
【0104】
樹脂粒子の体積平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な定着性、高い画像硬度を得る点から、10nm以上1,000nm以下が好ましく、10nm以上200nm以下がより好ましく、10nm以上100nm以下が特に好ましい。
【0105】
体積平均粒径は、例えば、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0106】
樹脂の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、定着性、インクの保存安定性の点から、インク全量に対して、1質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0107】
インク中の固形分の粒径については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。吐出安定性、画像濃度などの画像品質を高くする点から、インク中の固形分の粒径の最大頻度が最大個数換算で20nm以上1000nm以下が好ましく、20nm以上150nm以下がより好ましい。固形分は樹脂粒子や顔料の粒子等が含まれる。粒径は、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0108】
-ワックス-
インク中にワックスを含有することで、耐摺擦性を向上させることができ、樹脂と併用することにより光沢度の向上させることができる。ワックスとしては、ポリエチレンワックスが好ましい。ポリエチレンワックスとしては、市販品を用いることができ、市販品としては、例えば、AQUACER531(ビックケミージャパン社製)、ポリロンP502(中京油脂社製)、アクアペトロDP2502C(東洋アドレ株式会社製)、アクアペトロDP2401(東洋アドレ株式会社製)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0109】
ポリエチレンワックスの含有量としては、インク全量に対して、0.05質量%以上2質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.5質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上0.45質量%以下がさらに好ましく、0.15質量%以上0.45質量%以下が特に好ましい。含有量が、0.05質量%以上2質量%以下であると、耐摺擦性と光沢性の向上に十分な効果がある。また、含有量が、0.45質量%以下であると、インクの保存安定性、及び吐出安定性が特に良好になり、インクジェット方式での使用により適する。
【0110】
-添加剤-
インクには、必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、防腐防黴剤、防錆剤、pH調整剤等を加えても良い。
【0111】
<後処理液>
後処理液は、透明な層を形成することが可能であれば、特に限定されない。後処理液は、インクと同様の有機溶剤、水、ワックス、樹脂、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐防黴剤、及び防錆剤等を必要に応じて選択し、混合して得られる。また、後処理液は、被接触部材全域に塗布しても良いし、インクが付与された領域にのみに塗布しても良い。
【0112】
<液体組成物が付与された領域の物性>
液体組成物が付与された領域におけるタック力は、80nN以上110nN以下であることが好ましい。タック力が80nN以上であることにより、液体組成物が付与されて形成された領域(例えば、液体組成物としてインクを用いた場合における画像部)の結着力を向上させることができ、膜強度が増加し、十分な定着性を得ることができる。また、タック力が110nN以下であることにより、被接触部材上の液体組成物が付与された領域と接触部材が接触する場合であっても、液体組成物が接触部材に転写されにくくなる。
【0113】
液体組成物が付与された領域におけるタック力は、例えば、次の方法により算出することができる。被接触部材の液体組成物が付与された領域におけるタック力の測定方法としては、原子間力顕微鏡(以下、「AFM」とも称することがある、装置名:SPM-9500J3、株式会社島津製作所製)を使用する。タック力の測定対象としては、各種印刷装置にて被接触部材上に付与された液体組成物の領域を使用できる。AFMのプローブを画像に接触させ、100nm押し込んだ後にプローブを引き上げ、画像から離れる際のカンチレバーのしなりをモニターし、
図5のようなフォースカーブを得る。その変位量xに、
図6に示すようなカンチレバー20のバネ定数kを掛けて得られる値(F=kx)をタック力とすることができる。なお、カンチレバー20としては、球状の酸化シリコンをプローブ21として備えるカンチレバー20を使用することができる。測定は、測定温度23℃、湿度35%RH、プローブ径3.5μm、測定モード:フォースカーブ測定、測定周波数1Hzの条件で実施する。
【0114】
液体組成物が付与された領域におけるタック力を、80nN以上110nN以下にすることを容易にする方法としては、特に限定されないが、色材、水、有機溶剤、ワックスを含む液体組成物を用いること、ウレタン樹脂粒子の含有量(質量%)と、アクリル樹脂粒子の含有量(質量%)との質量比(ウレタン樹脂粒子/アクリル樹脂粒子)を、0.1以上0.7以下とすることなどが挙げられる。
【0115】
<<被接触部材>>
被接触部材としては、特に制限なく用いることができ、普通紙、光沢紙、特殊紙、布などの記録媒体を用いることができるが、低浸透性記録媒体(低吸収性記録媒体とも称する)に対して特に好適に用いることができる。
【0116】
低浸透性記録媒体とは、水透過性、吸収性、又は吸着性が低い表面を有する記録媒体を意味し、内部に多数の空洞があっても外部に開口していない材質も含まれる。低浸透性記録媒体としては、商業印刷に用いられるコート紙や、古紙パルプを中層、裏層に配合して表面にコーティングを施した板紙のような記録媒体等が挙げられる。このような低浸透性の記録媒体を用いたときに、被接触部材上の液体組成物が付与された領域と接触部材が接触する場合、液体組成物が接触部材に転写されやすくなるので、本実施形態の接触部材を用いることが好ましい。
【0117】
<低浸透性記録媒体>
低浸透性記録媒体としては、例えば、支持体と、支持体の少なくとも一方の面側に設けられた表面層と、を有し、更に必要に応じてその他の層を有するコート紙などの記録媒体が挙げられる。
【0118】
支持体と表面層を有する記録媒体においては、動的走査吸液計で測定した接触時間100msにおける純水の記録媒体への転移量は、2mL/m2以上35mL/m2以下が好ましく、2mL/m2以上10mL/m2以下がより好ましい。
【0119】
接触時間100msでのインク及び純水の転移量が少なすぎると、ビーディングが発生しやすくなることがあり、多すぎると、画像形成後のインクドット径が所望の径よりも小さくなりすぎることがある。
【0120】
動的走査吸液計にて測定した接触時間400msにおける純水の記録媒体への転移量は、3mL/m2以上40mL/m2以下が好ましく、3mL/m2以上10mL/m2以下がより好ましい。
【0121】
接触時間400msでの転移量が少ないと、乾燥性が不十分となり、多すぎると、乾燥後の画像部の光沢が低くなりやすくなることがある。接触時間100ms及び400msにおける純水の記録媒体への転移量は、いずれも記録媒体の表面層を有する側の面において測定することができる。
【0122】
ここで、動的走査吸収液計(dynamic scanning absorptometer;DSA,紙パ技協誌、第48巻、1994年5月、第88頁~92頁、空閑重則)は、極めて短時間における吸液量を正確に測定できる装置である。動的走査吸液計は、吸液の速度をキャピラリー中のメニスカスの移動から直読する、試料を円盤状とし、この上で吸液ヘッドをらせん状に走査する、予め設定したパターンに従って走査速度を自動的に変化させ、1枚の試料で必要な点の数だけ測定を行う、という方法によって測定を自動化したものである。
【0123】
紙試料への液体供給ヘッドはテフロン(登録商標)管を介してキャピラリーに接続され、キャピラリー中のメニスカスの位置は光学センサで自動的に読み取られる。具体的には、動的走査吸液計(K350シリーズD型、協和精工株式会社製)を用いて、純水又はインクの転移量を測定することができる。
【0124】
接触時間100ms及び接触時間400msにおける転移量としては、それぞれの接触時間の近隣の接触時間における転移量の測定値から補間により求めることができる。
【0125】
-支持体-
支持体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、木材繊維主体の紙、木材繊維及び合成繊維を主体とした不織布のようなシート状物質などが挙げられる。
【0126】
支持体の厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50μm~300μmが好ましい。また、支持体の坪量は、45g/m2~290g/m2が好ましい。
【0127】
-表面層-
表面層は、顔料、バインダー(結着剤)を含有し、更に必要に応じて、界面活性剤、その他の成分を含有する。
【0128】
顔料としては、無機顔料、もしくは無機顔料と有機顔料を併用したものを用いることができる。無機顔料としては、例えば、カオリン、タルク、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、非晶質シリカ、チタンホワイト、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、クロライトなどが挙げられる。無機顔料の添加量は、バインダー100質量部に対し50質量部以上が好ましい。
【0129】
有機顔料としては、例えば、スチレン-アクリル共重合体粒子、スチレン-ブタジエン共重合体粒子、ポリスチレン粒子、ポリエチレン粒子等の水溶性ディスパージョンがある。有機顔料の添加量は、表面層の全顔料100質量部に対し2質量部~20質量部が好ましい。
【0130】
バインダーとしては、水性樹脂を使用することが好ましい。水性樹脂としては、水溶性樹脂及び水分散性樹脂の少なくともいずれかを好適に用いることができる。水溶性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、アセタール変性ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエステルとポリウレタンなどが挙げられる。
【0131】
表面層に必要に応じて含有される界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アニオン活性剤、カチオン活性剤、両性活性剤、非イオン活性剤のいずれも使用することができる。
【0132】
表面層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、支持体上に表面層を構成する液を含浸又は塗布する方法により行うことができる。表面層を構成する液の付着量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、固形分で、0.5g/m2~20g/m2が好ましく、1g/m2~15g/m2がより好ましい。
【実施例0133】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0134】
<ブラック顔料分散体の調製例>
カーボンブラック(NIPEX160、degussa社製、BET比表面積150m2/g、平均一次粒径20nm、pH4.0、DBP吸油量620g/100g)20g、下記構造式(1)で表される化合物20ミリモル、及びイオン交換高純水200mLを、室温環境下、Silversonミキサー(6,000rpm)で混合した。
【0135】
得られたスラリーのpHが4より高い場合は、硝酸20ミリモルを添加した。30分後に、少量のイオン交換高純水に溶解された亜硝酸ナトリウム(20ミリモル)を上記混合物にゆっくりと添加した。更に、撹拌しながら60℃に加温し、1時間反応した。カーボンブラックに下記構造式(1)で表される化合物を付加した改質顔料が生成できた。
【0136】
次に、pHをNaOH水溶液により10に調整することにより、30分後に改質顔料分散体が得られた。少なくとも1つのジェミナルビスホスホン酸基又はジェミナルビスホスホン酸ナトリウム塩と結合した顔料を含んだ分散体とイオン交換高純水を用いて透析膜を用いた限外濾過を行い、更に超音波分散を行って顔料固形分濃度16質量%となる親水性官能基としてビスホスホン酸基を有する自己分散型ブラック顔料分散体を得た。
【0137】
【0138】
<液体組成物1(インク)の調整例>
50.00質量%のブラック顔料分散体(顔料固形分濃度16%)、2.22質量%のポリエチレンワックスAQUACER531(不揮発分45質量%、ビックケミージャパン社製)、30.00質量%の3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、10.0質量%のプロピレングリコールモノプロピルエーテル、2.00質量%のシリコーン系界面活性剤(TEGO Wet 270、巴工業株式会社製)、及びイオン交換水を残量となるように混合し、1時間攪拌した後、平均孔径が1.2μmのメンブレンフィルターでろ過して、液体組成物1(インク)を得た。
【0139】
<液体組成物2(後処理液)の調整例>
1,3-ブタンジオール22部、グリセリン11部、固形分が35質量%のポリウレタンエマルションSU-U0705(中央理化工業社製)15部、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール2部、フッ素系ノニオン性界面活性剤Capstone(登録商標)FS-3100(Dupont社製)0.05部、2,4,7,9-テトラメチル-4,7-デカンジオール0.1部、防腐防黴剤プロキセルLV(アビシア社製)0.2部、固形分が30質量%のポリエチレンワックスのポリロンP502(中京油脂社製)10部及び水39.65部を混合し、液体組成物2(後処理液)を得た。
【0140】
<実施例1>
-接触部材の製造-
直径が75mmであるアルミの中空ローラ(ミスミ社製)の基材の表面に、フッ素樹脂繊維であるトミーファイレック PA5LH(モノフィラメント、巴川製紙社製)を、シリコーン系接着剤を塗布して形成した接着剤層を介して貼り付けた。接着剤が硬化した後、フッ素樹脂繊維が巻き付いたローラを、3本のステンレスローラーにより構成された加圧冶具により、50kg/cmの線圧を加えながら10秒/周の回転速度で2回転させることでフッ素樹脂繊維層を有する接触部材1を作製した。
【0141】
-フッ素樹脂繊維の存在比率X、Y-
繊維層を、繊維層の面方向に対して垂直に切断して断面を形成した。次に、この断面に対してフッ素成分のマッピングを実施した。フッ素成分のマッピングには、EDS元素分析(Phenom ProX、PhenomWorld社製)を用いた。得られたデータを基に、ProSuiteソフトウェアにより、フッ素成分が存在する部分の面積とフッ素成分が存在しない部分の面積の比率を算出した。算出された比率のうち、含浸部における比率を存在比率X、非含浸部における比率を存在比率Yとした。算出された存在比率X及び存在比率Yから、比X/Yを求めた。なお、存在比率X及び存在比率Yの算出においては、100μm×100μmの測定面積を用い、5箇所における測定値の平均値を採用した。結果を表1に示す。
【0142】
-繊維層の厚さ-
作製した接触部材の厚さを、共焦点顕微鏡LEXT(オリンパス社製)を用いて測定した。具体的には、まず、繊維層中の接着部材をトルエン(和光特級)に溶解させることで繊維層を基材から分離させた。次に、分離された繊維層を、繊維層の面方向に対して垂直に切断して断面を形成し、この断面の10箇所で測定した厚さの平均値を採用した。結果を表1に示す。
【0143】
-繊維層の透気度-
繊維層の透気度は、ガーレー式自動透気度計(Emo社製)により、ISO5636に準拠した方法で実施した。具体的には、まず、繊維層中の接着部材をトルエン(和光特級)に溶解させることで繊維層を基材から分離させた。次に、分離された繊維層において300mlの空気を、通過径φ10mmに対して透過させた際にかかる時間を計測した。測定位置を変えて10点測定し、平均値を透気度とした。結果を表1に示す。
【0144】
-接触部材を組み込んだ印刷装置による印刷-
インクジェットプリンティングシステム(RICOH Pro VC60000、株式会社リコー製)に接触部材を組み込んだ改造機を作製し、被接触部材である記録媒体に画像を印刷した。接触部材は、印刷装置の搬送経路において、付与された液体組成物1(インク)および液体組成物2(後処理液)を乾燥させる乾燥手段の下流側であって、且つ液体組成物1(インク)および液体組成物2(後処理液)を付与した領域に最初に直接接触する位置に組み込んだ。記録媒体としては、Lumi Art Gloss 130gsm(Stora Enso社製、紙幅520.7mm)のロール紙、及びこのロール紙を1/4の紙幅に裁断した別のロール紙を使用した。第一段階として、1/4の紙幅に裁断されたロール紙を改造機にセットし、50m/分の速度で15km搬送した。第二段階として、裁断されていないロール紙に1,200dpiの解像度で液体組成物1(インク)を用いてベタ画像を印刷し、間を置かずに液体組成物1(インク)の上から液体組成物2(後処理液)を用いてベタ画像を印刷した。なお、第二段階の印刷時においては、液体組成物1(インク)及び液体組成物2(後処理液)で形成されるベタ画像は、接触部材上における、第一段階でロール紙が搬送された場所と搬送されていない場所の境界に接触しつつ搬送された。
【0145】
<実施例2~16、比較例1~11>
実施例1において、基材として用いられる中空ローラの直径、繊維層として用いられる繊維の種類、繊維層が巻き付いた接着剤硬化後のローラに対して加えられる線圧、印刷装置に組み込まれた接触部材に対する記録媒体の巻率を表1に示す内容に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2~16、比較例1~11における操作を実施した。
【0146】
なお、比較例7~11においては、基材に貼り付ける前の繊維層に対し、高速カレンダー装置(由利ロール社製)を用いて線厚20kg/cm、速度1m/分で挟み込むことで処理した。
【0147】
なお、表1において、繊維層の商品名、及び製造会社名については下記の通りである。
【0148】
・トミーファイレック PA5LH(フッ素樹脂繊維、モノフィラメント、巴川製紙製)
・トミーファイレック PA10LH(フッ素樹脂繊維、モノフィラメント、巴川製紙製)
・トヨフロン406D(フッ素樹脂繊維、マルチフィラメント、東レ社製)
・トヨフロン2402(フッ素樹脂繊維、マルチフィラメント、東レ社製)
・トヨフロンFP002CD(フッ素樹脂繊維、マルチフィラメント、東レ社製)
・トヨフロンT33R(フッ素樹脂繊維、マルチフィラメント、東レ社製)
・トヨフロンBF-800S(フッ素樹脂繊維、マルチフィラメント、東レ社製)
【0149】
[画像剥離性]
上記実施例、比較例においてベタ画像剥離性について評価した。具体的には、上記の「接触部材を組み込んだ印刷装置による印刷」の操作を行った後のベタ画像部を、300mmの距離から目視で観察した。接触部材上における、紙幅が小さいロール紙が搬送された場所と搬送されていない場所の境界部分を通過したベタ画像部分において、任意の25mm角の範囲を指定し、その範囲内におけるベタ画像が剥がれている箇所の数を数えた。画像剥離性については下記の評価基準に基づいて評価した。結果を表1に示す。評価がC以上である場合を実用可能であると評価した。
【0150】
(評価基準)
A:剥がれが2箇所以下
B:剥がれが3箇所以下以上6箇所以下
C:剥がれが7箇所以上11箇所以下
D:剥がれが12箇所以上
【0151】
[繊維層剥離性]
上記実施例、比較例において繊維層剥離性について評価した。具体的には、作製した接触部材に設けられた繊維層に対し、剃刀を垂直に当てて幅30mm、長さ100mmの領域(評価領域)を囲むように切り込みを入れた。次に、デジタルフォースゲージ(A&D社製)を用いて評価領域の幅が短い側の端部をつかみ、100mm/5秒の速度で90°剥離応力を測定した。測定値は、測定距離100mm内における最大値とした。また、本測定は、位置の異なる評価領域を3つ作成し、各領域における測定値を平均することで得られる平均値を採用した。結果を表1に示す。評価結果が7N/cm以上である場合を実用可能であると評価した。
【0152】
請求項1に係る発明は、被接触部材の液体組成物が付与された領域に対して接触する接触部材であって、前記接触部材は、基材と、前記被接触部材と接触しフッ素樹脂繊維を含有するフッ素樹脂繊維層と、を有し、前記フッ素樹脂繊維層は、前記基材に対して直接的又は間接的に固定されており、前記フッ素樹脂繊維層の前記基材に対して直接的又は間接的に固定されている側における前記フッ素樹脂繊維の存在比率Xと、前記フッ素樹脂繊維層の前記被接触部材と接触する側における前記フッ素樹脂繊維の存在比率Yと、の比X/Yは、1.00未満であり、前記接触部材は、前記被接触部材を搬送する搬送手段であり、前記接触部材は、前記被接触部材と接触する領域と、接触しない領域を有する接触部材である。