(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053549
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】新規ソホロリピッド誘導体
(51)【国際特許分類】
C07H 15/04 20060101AFI20230406BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230406BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20230406BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20230406BHJP
C07H 15/08 20060101ALI20230406BHJP
A23L 33/145 20160101ALI20230406BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20230406BHJP
C12P 19/12 20060101ALI20230406BHJP
C11D 3/22 20060101ALI20230406BHJP
C11D 1/68 20060101ALI20230406BHJP
C11D 1/06 20060101ALI20230406BHJP
C05G 3/50 20200101ALI20230406BHJP
C09K 23/52 20220101ALI20230406BHJP
【FI】
C07H15/04 D CSP
A61K47/26
A61K8/60
A61Q19/10
C07H15/08
A23L33/145
A23L33/125
C12P19/12
C11D3/22
C11D1/68
C11D1/06
C05G3/50
B01F17/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162645
(22)【出願日】2021-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】512216805
【氏名又は名称】アライドカーボンソリューションズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】福岡 徳馬
(72)【発明者】
【氏名】森田 友岳
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋介
(72)【発明者】
【氏名】廣田 真
(72)【発明者】
【氏名】八代 洵
(72)【発明者】
【氏名】平山 修治
(72)【発明者】
【氏名】司馬 俊士
(72)【発明者】
【氏名】山縣 洋介
【テーマコード(参考)】
4B018
4B064
4C057
4C076
4C083
4D077
4H003
4H061
【Fターム(参考)】
4B018MD29
4B018MD81
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF13
4B064AF03
4B064CA06
4B064DA19
4C057BB03
4C057DD03
4C057JJ05
4C057JJ08
4C076DD08
4C076DD66
4C076FF70
4C083AD211
4C083BB04
4C083CC23
4C083EE09
4C083FF01
4D077AB08
4D077AB10
4D077AB11
4D077AB12
4D077AB17
4D077AC01
4D077DD63X
4D077DE02X
4D077DE07X
4D077DE08X
4D077DE09X
4D077DE10X
4H003AB05
4H003AC02
4H003DA01
4H003DA02
4H003DA05
4H003EB41
4H003FA37
4H061AA01
4H061DD19
4H061EE61
4H061EE66
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水溶性が高く、かつ界面活性を有する新規ソホロリピッド誘導体を提供する。
【解決手段】ソホロリピッド生産菌(例えばStarmerella bombicolaなど)の培養生産物中から単離した、例えば下記一般式で示される構造のソホロリピッド誘導体を提供する。
(式中、R
1~R
3はそれぞれ独立して、水素、炭素数2~22の脂肪酸エステル、または上記SL基であるが、R
1~R
3の少なくとも1つはSL基である。SL基中のRは、同一または異なって、水素またはアセチル基を表し、R
nは炭素数13~21の直鎖状または分枝状のアルキル基またはアルケニル基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)の一般式で示される、ソホロリピッド誘導体。
式(1)
【化1】
(式中、R
1~R
3はそれぞれ独立して、水素、炭素数2~22の脂肪酸エステル、または上記SL基であるが、R
1~R
3の少なくとも1つはSL基である。SL基中のRは、同一または異なって、水素またはアセチル基を表し、R
nは炭素数13~21の直鎖状または分枝状のアルキル基またはアルケニル基を表す。)
ただし、SL基が下記式(2)の化学式で表されるソホロリピッド誘導体を除く。
式(2)
【化2】
(式中、Rは同一または異なって、水素またはアセチル基を表し、nは11~19の整数を表す。)
【請求項2】
下記式(3)の化学式で表されるいずれかの化合物である、ソホロリピッド誘導体。
式(3)
【化3】
(式中のSL基は、上記式(1)での定義と同一であり、R’は炭素数2~22の脂肪酸エステルを表す。ただし、SL基が上記式(2)で表される場合のソホロリピッド誘導体を除く。)
【請求項3】
請求項1または2に記載のソホロリピッド誘導体からなる界面活性剤、洗浄剤、または乳化剤。
【請求項4】
飼料、肥料、飲食品、農薬、医薬品、医薬部外品、または化粧品のための、請求項3に記載の界面活性剤、洗浄剤、または乳化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ソホロリピッド誘導体および該誘導体を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
親水基が糖で構成される糖型界面活性剤のうち、微生物由来の天然界面活性剤であり安全性の高い糖型バイオ界面活性剤は、優れた界面活性剤として知られている。これらのうちソホロリピッドは、糖脂質であり両親媒性構造を有するため強い界面活性作用を有し、生分解性と安全性が高いことから、バイオサーファクタントの主役として用途開発が進められている。
【0003】
ソホロリピッドを生産する酵母としては、担子菌酵母であるスタルメレラ・ボンビコラ(Starmerella bombicola)が代表的であり、そのバイオサーファクタントの生産力は培養液1L当たり400g以上にも達するため、商業ベースの生産に使用されている。
ソホロリピッドは、グルコースが2→1位でエーテル結合してできた二糖であるソホロースの1位に、ヒドロキシ脂肪酸がエーテル結合してできた下記式(4)で表されるラクトン型(LSL)と、下記式(5)で表される酸型(ASL)の分子構造を有する糖脂質である。微生物生産物中にはこれらが一種または複数種含まれる混合物として存在する。
【0004】
ソホロリピッドのラクトン型(非イオン型)と酸型(アニオン型)とでは、界面活性剤としての性質が大きく異なり、これらの組成の異なる混合物やこれらを作り分ける方法など、ソホロリピッド製品の構造や機能のバラエティを拡充する技術開発が行われている。
例えば、上記のスタルメレラ・ボンビコラ(Starmerella bombicola)が生産するソホロリピッドは、一般的にラクトン型と酸型がおおよそ6~8:2~4の混合物として得られ、主成分であるラクトン型は酸型と比べて低濃度で優れた表面張力低下能を示す(非特許文献1)ほか、高い抗菌活性を示すことが報告されている(非特許文献2)。
【0005】
一方、加水分解によってラクトン環を開環して化学的に安定な高純度の酸型ソホロリピッドを得て、これを配合した洗浄剤が報告されている(特許文献1)。また、キャンディダ・フロリコラ(Candida floricola)を生産菌として培養することで、酸型ソホロリピッドのみを選択的に製造する方法が報告されている(特許文献2)。
さらに、複数存在する官能基が修飾されたソホロリピッド誘導体のほか、ソホロリピッド重合体などのラクトン型、酸型とは分類の異なる新規構造の誘導体も報告されている(特許文献3、非特許文献3)。
また、キャンディダ・バチスタエ(Candida batistae)を生産菌として培養することで、ソホロースに結合する脂肪酸部分の構造が異なるソホロリピッドが得られることも報告されている(非特許文献4)。
【0006】
式(4)
【化4】
(LSL)
式(5)
【化5】
(ASL)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-70231号公報
【特許文献2】特開2008-247845号公報
【特許文献3】国際公開第2015/20114号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of Oleo Science (2013) Vol.62, p.857-864
【非特許文献2】Journal of Microbiology and Biotechnology (2002) Vol.12, p.235-241
【非特許文献3】Carbohydrate Research (2012) Vol.348, p.33-41
【非特許文献4】Journal of Oleo Science (2008) Vol.57, p.359-369
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来知られているソホロリピッドの構造は、おおよそ上記のラクトン型と酸型の二つのパターンしかなく、物性・機能の拡充のためには、構造のバラエティの拡張が求められている。
本発明は、飼料、肥料、飲食品、農薬、医薬品、医薬部外品、または化粧品などの広範囲の分野に適用することができる、新規なソホロリピッド誘導体を提供することを課題とする。
また、本発明は、新規ソホロリピッドを含む組成物、特に界面活性剤、洗浄剤、または乳化剤を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、広く研究されているソホロリピッド生産菌(例えばStarmerella bombicolaなど)の培養生産物中に、従来知られているソホロリピッドとは分子構造が異なる未知の成分が存在することを各種機器分析によって確認し、これらを単離・精製して構造解析を行い、新規構造のソホロリピッド誘導体であることを解明した。
物性解析によれば、これら新規ソホロリピッド誘導体は、従来のソホロリピッドとは異なる界面活性、自己組織化特性を示し、優れた洗浄成分として機能することを確認して、本発明の完成に至った。
【0011】
本発明は、下記(1)、(2)に記載のソホロリピッド誘導体に関する。
(1)下記式(1)の一般式で示される、ソホロリピッド誘導体。
式(1)
【化1】
(式中、R
1~R
3はそれぞれ独立して、水素、炭素数2~22の脂肪酸エステル、または上記SL基であるが、R
1~R
3の少なくとも1つはSL基である。SL基中のRは、同一または異なって、水素またはアセチル基を表し、R
nは炭素数13~21の直鎖状または分枝状のアルキル基またはアルケニル基を表す。)
ただし、SL基が下記式(2)の化学式で表されるソホロリピッド誘導体を除く。
式(2)
【化2】
(式中、Rは同一または異なって、水素またはアセチル基を表し、nは11~19の整数を表す。)
(2)下記式(3)の化学式で表されるいずれかの化合物である、ソホロリピッド誘導体。
式(3)
【化3】
(式中のSL基は、上記式(1)での定義と同一であり、R’は炭素数2~22の脂肪酸エステルを表す。ただし、SL基が上記式(2)で表される場合のソホロリピッド誘導体を除く。)
【0012】
また、本発明は、下記(3)(4)に記載の界面活性剤、洗浄剤、または乳化剤に関する。
(3)上記(1)または(2)に記載のソホロリピッド誘導体からなる界面活性剤、洗浄剤、または乳化剤。
(4)飼料、肥料、飲食品、農薬、医薬品、医薬部外品、または化粧品のための、上記(3)に記載の界面活性剤、洗浄剤、または乳化剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明の新規ソホロリピッド誘導体は、従来のソホロリピッドとは異なる界面活性や自己集合特性を示し、優れた洗浄成分として機能するので、ソホロリピッド製品の構造・機能バラエティを拡充できる。従来のソホロリピッドと比較して、水溶性が高い非イオン型界面活性剤として機能する。
また、安全性の高い天然物由来のソホロリピッド誘導体であるから、各製品の安全性を高めることもでき、飼料、肥料、飲食品、農薬、医薬品、医薬部外品または化粧品などの広範囲の分野に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1で取得したSL混合物固体の順相TLC分析の結果を示す。
【
図2】実施例1で取得したSL混合物固体の逆相TLC分析の結果を示す。
【
図3】実施例1で取得したSL混合物固体を逆相カラムクロマトグラフィーに供したクロマトグラムを示す。
【
図4】実施例4で分離した化合物AのLC/MS解析の結果を示す。
【
図5】実施例4で分離した化合物BのLC/MS解析の結果を示す。
【
図6】実施例4で分離した化合物CのLC/MS解析の結果を示す。
【
図8】化合物Bの
1H-NMRの結果(拡大)を示す。
【
図11】化合物A、B、Cそれぞれに蒸留水を加えた、0.1wt%水溶液の写真。
【
図12】化合物A、B、Cのそれぞれの表面張力低下能を示す。Aは薄い●、Bは○、Cは●。
【
図13】実施例1で取得したSL混合物固体のMALDI-TOF/MS解析の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、新規ソホロリピッド誘導体と、該誘導体を含む組成物に係るものである。
本発明のソホロリピッド誘導体(以下、「SL誘導体」ということがある。)は、下記の一般式(1)で示される。
式(1)
【化1】
ここで、式中のR
1~R
3はそれぞれ独立して、水素、炭素数2~22のいずれかの脂肪酸エステル、または上記SL基のいずれかである。ただし、R
1~R
3の少なくとも1つはSL基である。
炭素数2~22のいずれかの脂肪酸エステルは、-(O)C-炭化水素基で表され、この炭化水素基の炭素数は1~21である。
また、SL基中のRは、同一または異なってもよく、水素またはアセチル基を表し、R
nは炭素数13~21の直鎖状または分枝状のアルキル基またはアルケニル基を表す。
ただし、SL基が下記式(2)の化学式で表されるソホロリピッド誘導体を除く。
式(2)
【化2】
(式中、Rは同一または異なって、水素またはアセチル基を表し、nは11~19の整数を表す。)
【0016】
本発明のSL誘導体は、下記の化学式(3)で表される化合物のいずれか一つであってよい。
式(3)
【化3】
ここで、式中のSL基は、上記式(1)での定義と同一である。R’は炭素数2~22の脂肪酸エステルであり、-(O)C-炭化水素基で表され、この炭化水素基の炭素数は1~21である。
ただし、SL基が上記式(2)で表される場合のソホロリピッド誘導体を除く。
【0017】
本発明のSL誘導体は、SL生産菌の培養物中から得られるが、SLのグリセリドであるため化学的に合成することができる。
たとえば、SLとグリセリンを非アルコール系の有機溶媒(クロロホルム、トルエン、アセトン等)中または無溶媒下で、リパーゼなどの固定化酵素を触媒としてエステル化(エステル交換または加水分解の逆反応)を行うことにより、または、グリセリンの代わりに植物油(トリグリセリド)を用いて、同様にエステル交換反応を行うことにより製造することができる。特に、反応性に優れたラクトン型(LSL)を用いれば、グリセリン等と混合して加熱撹拌することで、本発明のSL誘導体を製造することができる。
さらに、SL基中の水酸基は培養物中から得られた後からでも無水酢酸等と反応させることでアセチル化することが可能である。この反応を利用することで、全水酸基にアセチル基を導入して親油性を向上したSL誘導体(例えば化学式(1)のSL基中のRが全てアセチル基)を製造することができる。
【0018】
本発明の組成物は、本発明のSL誘導体の有する界面活性に依る界面活性剤として、または乳化剤、分散剤として、飼料、肥料、飲食品、農薬、医薬品、医薬部外品または化粧品、及びこれらの添加物に適用することができる。
本発明の組成物に含まれるSL誘導体の量は、特に限定されないが、0.01~100wt%、好ましくは0.1~50wt%、より好ましくは1~30wt%である。組成物におけるSL誘導体の量が1wt%以下のように少ない場合、水溶性が小さくなり、一方、50wt%以上のように多い場合、経済性が低下する。
[実施例]
【0019】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。実施例では、「%」は、「wt%」を意味する。
【実施例0020】
ソホロリピッドの生産・回収
スタルメレラ・ボンビコラ(Starmerella bombicola)ATCC22214株の培養
(1)種培養
保存培地(酵母エキス10g/L、ペプトン20g/L、グルコース20g/L、寒天20g/L)に保存しておいた上記のスタルメレラ・ボンビコラ(Starmerella bombicola)ATCC22214株を、酵母エキス10g/L、ペプトン20g/L、グルコース20g/Lの組成の液体培地4mLが入った試験管に1白金耳接種し、28℃で振とう培養を1日間行った。
(2)本培養
(1)で得られた菌体培養液を、10g/Lの酵母エキス、20g/Lのペプトン、100g/Lのグルコースおよび100g/Lのなたね油の組成の液体培地30mLが入った三角フラスコに接種し、振とう培養を28℃にて7日間行った。
(3)ソホロリピッドの回収
(2)で得られた培養液を1時間静置することで下層にSL相が生じる。このSL相を回収し、水酸化ナトリウム水溶液で中和、水で洗浄することでSL混合物を水溶液の状態で回収した。また、得られたSL混合物水溶液について以降の実験を行うために、ヘキサンを添加して撹拌、遠心分離することでヘキサン相に残存油脂や脂肪酸を抽出・除去し、水相を凍結乾燥してSL混合物固体を回収した。
(4)ラクトン型ソホロリピッド、酸型ソホロリピッド標品の精製
以降の実験で標品として利用するために既知の精製手法によって、ラクトン型SL(LSL)および酸型SL(ASL)を分離した。すなわち、上記SL混合物固体をアセトンに溶解してシリカゲル(ワコーゲルC-200)をガラスカラム管に充填したシリカゲルカラムに供し、クロロホルムとアセトンの混合液を展開溶媒とするカラムクロマトグラフィー法によって精製した。クロロホルムとアセトンの割合は、8:2でLSLを、続いて2:8で酸型SLをそれぞれ分離回収し、それぞれの回収した画分が目的のLSL標品、ASL標品であることを、後述する薄層クロマトグラフィー解析によって確認した。