IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アライドカーボンソリューションズ株式会社の特許一覧 ▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

<>
  • 特開-新規ソホロリピッド誘導体 図1
  • 特開-新規ソホロリピッド誘導体 図2
  • 特開-新規ソホロリピッド誘導体 図3
  • 特開-新規ソホロリピッド誘導体 図4
  • 特開-新規ソホロリピッド誘導体 図5
  • 特開-新規ソホロリピッド誘導体 図6
  • 特開-新規ソホロリピッド誘導体 図7
  • 特開-新規ソホロリピッド誘導体 図8
  • 特開-新規ソホロリピッド誘導体 図9
  • 特開-新規ソホロリピッド誘導体 図10
  • 特開-新規ソホロリピッド誘導体 図11
  • 特開-新規ソホロリピッド誘導体 図12
  • 特開-新規ソホロリピッド誘導体 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053549
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】新規ソホロリピッド誘導体
(51)【国際特許分類】
   C07H 15/04 20060101AFI20230406BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230406BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20230406BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20230406BHJP
   C07H 15/08 20060101ALI20230406BHJP
   A23L 33/145 20160101ALI20230406BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20230406BHJP
   C12P 19/12 20060101ALI20230406BHJP
   C11D 3/22 20060101ALI20230406BHJP
   C11D 1/68 20060101ALI20230406BHJP
   C11D 1/06 20060101ALI20230406BHJP
   C05G 3/50 20200101ALI20230406BHJP
   C09K 23/52 20220101ALI20230406BHJP
【FI】
C07H15/04 D CSP
A61K47/26
A61K8/60
A61Q19/10
C07H15/08
A23L33/145
A23L33/125
C12P19/12
C11D3/22
C11D1/68
C11D1/06
C05G3/50
B01F17/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162645
(22)【出願日】2021-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】512216805
【氏名又は名称】アライドカーボンソリューションズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】福岡 徳馬
(72)【発明者】
【氏名】森田 友岳
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋介
(72)【発明者】
【氏名】廣田 真
(72)【発明者】
【氏名】八代 洵
(72)【発明者】
【氏名】平山 修治
(72)【発明者】
【氏名】司馬 俊士
(72)【発明者】
【氏名】山縣 洋介
【テーマコード(参考)】
4B018
4B064
4C057
4C076
4C083
4D077
4H003
4H061
【Fターム(参考)】
4B018MD29
4B018MD81
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF13
4B064AF03
4B064CA06
4B064DA19
4C057BB03
4C057DD03
4C057JJ05
4C057JJ08
4C076DD08
4C076DD66
4C076FF70
4C083AD211
4C083BB04
4C083CC23
4C083EE09
4C083FF01
4D077AB08
4D077AB10
4D077AB11
4D077AB12
4D077AB17
4D077AC01
4D077DD63X
4D077DE02X
4D077DE07X
4D077DE08X
4D077DE09X
4D077DE10X
4H003AB05
4H003AC02
4H003DA01
4H003DA02
4H003DA05
4H003EB41
4H003FA37
4H061AA01
4H061DD19
4H061EE61
4H061EE66
(57)【要約】      (修正有)
【課題】水溶性が高く、かつ界面活性を有する新規ソホロリピッド誘導体を提供する。
【解決手段】ソホロリピッド生産菌(例えばStarmerella bombicolaなど)の培養生産物中から単離した、例えば下記一般式で示される構造のソホロリピッド誘導体を提供する。

(式中、R~Rはそれぞれ独立して、水素、炭素数2~22の脂肪酸エステル、または上記SL基であるが、R~Rの少なくとも1つはSL基である。SL基中のRは、同一または異なって、水素またはアセチル基を表し、Rは炭素数13~21の直鎖状または分枝状のアルキル基またはアルケニル基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)の一般式で示される、ソホロリピッド誘導体。
式(1)
【化1】
(式中、R~Rはそれぞれ独立して、水素、炭素数2~22の脂肪酸エステル、または上記SL基であるが、R~Rの少なくとも1つはSL基である。SL基中のRは、同一または異なって、水素またはアセチル基を表し、Rは炭素数13~21の直鎖状または分枝状のアルキル基またはアルケニル基を表す。)

ただし、SL基が下記式(2)の化学式で表されるソホロリピッド誘導体を除く。
式(2)
【化2】
(式中、Rは同一または異なって、水素またはアセチル基を表し、nは11~19の整数を表す。)
【請求項2】
下記式(3)の化学式で表されるいずれかの化合物である、ソホロリピッド誘導体。
式(3)
【化3】
(式中のSL基は、上記式(1)での定義と同一であり、R’は炭素数2~22の脂肪酸エステルを表す。ただし、SL基が上記式(2)で表される場合のソホロリピッド誘導体を除く。)
【請求項3】
請求項1または2に記載のソホロリピッド誘導体からなる界面活性剤、洗浄剤、または乳化剤。
【請求項4】
飼料、肥料、飲食品、農薬、医薬品、医薬部外品、または化粧品のための、請求項3に記載の界面活性剤、洗浄剤、または乳化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ソホロリピッド誘導体および該誘導体を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
親水基が糖で構成される糖型界面活性剤のうち、微生物由来の天然界面活性剤であり安全性の高い糖型バイオ界面活性剤は、優れた界面活性剤として知られている。これらのうちソホロリピッドは、糖脂質であり両親媒性構造を有するため強い界面活性作用を有し、生分解性と安全性が高いことから、バイオサーファクタントの主役として用途開発が進められている。
【0003】
ソホロリピッドを生産する酵母としては、担子菌酵母であるスタルメレラ・ボンビコラ(Starmerella bombicola)が代表的であり、そのバイオサーファクタントの生産力は培養液1L当たり400g以上にも達するため、商業ベースの生産に使用されている。
ソホロリピッドは、グルコースが2→1位でエーテル結合してできた二糖であるソホロースの1位に、ヒドロキシ脂肪酸がエーテル結合してできた下記式(4)で表されるラクトン型(LSL)と、下記式(5)で表される酸型(ASL)の分子構造を有する糖脂質である。微生物生産物中にはこれらが一種または複数種含まれる混合物として存在する。
【0004】
ソホロリピッドのラクトン型(非イオン型)と酸型(アニオン型)とでは、界面活性剤としての性質が大きく異なり、これらの組成の異なる混合物やこれらを作り分ける方法など、ソホロリピッド製品の構造や機能のバラエティを拡充する技術開発が行われている。
例えば、上記のスタルメレラ・ボンビコラ(Starmerella bombicola)が生産するソホロリピッドは、一般的にラクトン型と酸型がおおよそ6~8:2~4の混合物として得られ、主成分であるラクトン型は酸型と比べて低濃度で優れた表面張力低下能を示す(非特許文献1)ほか、高い抗菌活性を示すことが報告されている(非特許文献2)。
【0005】
一方、加水分解によってラクトン環を開環して化学的に安定な高純度の酸型ソホロリピッドを得て、これを配合した洗浄剤が報告されている(特許文献1)。また、キャンディダ・フロリコラ(Candida floricola)を生産菌として培養することで、酸型ソホロリピッドのみを選択的に製造する方法が報告されている(特許文献2)。
さらに、複数存在する官能基が修飾されたソホロリピッド誘導体のほか、ソホロリピッド重合体などのラクトン型、酸型とは分類の異なる新規構造の誘導体も報告されている(特許文献3、非特許文献3)。
また、キャンディダ・バチスタエ(Candida batistae)を生産菌として培養することで、ソホロースに結合する脂肪酸部分の構造が異なるソホロリピッドが得られることも報告されている(非特許文献4)。
【0006】
式(4)
【化4】
(LSL)
式(5)
【化5】
(ASL)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-70231号公報
【特許文献2】特開2008-247845号公報
【特許文献3】国際公開第2015/20114号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of Oleo Science (2013) Vol.62, p.857-864
【非特許文献2】Journal of Microbiology and Biotechnology (2002) Vol.12, p.235-241
【非特許文献3】Carbohydrate Research (2012) Vol.348, p.33-41
【非特許文献4】Journal of Oleo Science (2008) Vol.57, p.359-369
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来知られているソホロリピッドの構造は、おおよそ上記のラクトン型と酸型の二つのパターンしかなく、物性・機能の拡充のためには、構造のバラエティの拡張が求められている。
本発明は、飼料、肥料、飲食品、農薬、医薬品、医薬部外品、または化粧品などの広範囲の分野に適用することができる、新規なソホロリピッド誘導体を提供することを課題とする。
また、本発明は、新規ソホロリピッドを含む組成物、特に界面活性剤、洗浄剤、または乳化剤を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、広く研究されているソホロリピッド生産菌(例えばStarmerella bombicolaなど)の培養生産物中に、従来知られているソホロリピッドとは分子構造が異なる未知の成分が存在することを各種機器分析によって確認し、これらを単離・精製して構造解析を行い、新規構造のソホロリピッド誘導体であることを解明した。
物性解析によれば、これら新規ソホロリピッド誘導体は、従来のソホロリピッドとは異なる界面活性、自己組織化特性を示し、優れた洗浄成分として機能することを確認して、本発明の完成に至った。
【0011】
本発明は、下記(1)、(2)に記載のソホロリピッド誘導体に関する。
(1)下記式(1)の一般式で示される、ソホロリピッド誘導体。
式(1)
【化1】
(式中、R~Rはそれぞれ独立して、水素、炭素数2~22の脂肪酸エステル、または上記SL基であるが、R~Rの少なくとも1つはSL基である。SL基中のRは、同一または異なって、水素またはアセチル基を表し、Rは炭素数13~21の直鎖状または分枝状のアルキル基またはアルケニル基を表す。)
ただし、SL基が下記式(2)の化学式で表されるソホロリピッド誘導体を除く。
式(2)
【化2】
(式中、Rは同一または異なって、水素またはアセチル基を表し、nは11~19の整数を表す。)
(2)下記式(3)の化学式で表されるいずれかの化合物である、ソホロリピッド誘導体。
式(3)
【化3】
(式中のSL基は、上記式(1)での定義と同一であり、R’は炭素数2~22の脂肪酸エステルを表す。ただし、SL基が上記式(2)で表される場合のソホロリピッド誘導体を除く。)
【0012】
また、本発明は、下記(3)(4)に記載の界面活性剤、洗浄剤、または乳化剤に関する。
(3)上記(1)または(2)に記載のソホロリピッド誘導体からなる界面活性剤、洗浄剤、または乳化剤。
(4)飼料、肥料、飲食品、農薬、医薬品、医薬部外品、または化粧品のための、上記(3)に記載の界面活性剤、洗浄剤、または乳化剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明の新規ソホロリピッド誘導体は、従来のソホロリピッドとは異なる界面活性や自己集合特性を示し、優れた洗浄成分として機能するので、ソホロリピッド製品の構造・機能バラエティを拡充できる。従来のソホロリピッドと比較して、水溶性が高い非イオン型界面活性剤として機能する。
また、安全性の高い天然物由来のソホロリピッド誘導体であるから、各製品の安全性を高めることもでき、飼料、肥料、飲食品、農薬、医薬品、医薬部外品または化粧品などの広範囲の分野に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1で取得したSL混合物固体の順相TLC分析の結果を示す。
図2】実施例1で取得したSL混合物固体の逆相TLC分析の結果を示す。
図3】実施例1で取得したSL混合物固体を逆相カラムクロマトグラフィーに供したクロマトグラムを示す。
図4】実施例4で分離した化合物AのLC/MS解析の結果を示す。
図5】実施例4で分離した化合物BのLC/MS解析の結果を示す。
図6】実施例4で分離した化合物CのLC/MS解析の結果を示す。
図7】化合物BのH-NMRの結果を示す。
図8】化合物BのH-NMRの結果(拡大)を示す。
図9】化合物AのH-NMRの結果を示す。
図10】化合物CのH-NMRの結果を示す。
図11】化合物A、B、Cそれぞれに蒸留水を加えた、0.1wt%水溶液の写真。
図12】化合物A、B、Cのそれぞれの表面張力低下能を示す。Aは薄い●、Bは○、Cは●。
図13】実施例1で取得したSL混合物固体のMALDI-TOF/MS解析の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、新規ソホロリピッド誘導体と、該誘導体を含む組成物に係るものである。
本発明のソホロリピッド誘導体(以下、「SL誘導体」ということがある。)は、下記の一般式(1)で示される。
式(1)
【化1】
ここで、式中のR~Rはそれぞれ独立して、水素、炭素数2~22のいずれかの脂肪酸エステル、または上記SL基のいずれかである。ただし、R~Rの少なくとも1つはSL基である。
炭素数2~22のいずれかの脂肪酸エステルは、-(O)C-炭化水素基で表され、この炭化水素基の炭素数は1~21である。
また、SL基中のRは、同一または異なってもよく、水素またはアセチル基を表し、Rは炭素数13~21の直鎖状または分枝状のアルキル基またはアルケニル基を表す。
ただし、SL基が下記式(2)の化学式で表されるソホロリピッド誘導体を除く。
式(2)
【化2】
(式中、Rは同一または異なって、水素またはアセチル基を表し、nは11~19の整数を表す。)
【0016】
本発明のSL誘導体は、下記の化学式(3)で表される化合物のいずれか一つであってよい。
式(3)
【化3】
ここで、式中のSL基は、上記式(1)での定義と同一である。R’は炭素数2~22の脂肪酸エステルであり、-(O)C-炭化水素基で表され、この炭化水素基の炭素数は1~21である。
ただし、SL基が上記式(2)で表される場合のソホロリピッド誘導体を除く。
【0017】
本発明のSL誘導体は、SL生産菌の培養物中から得られるが、SLのグリセリドであるため化学的に合成することができる。
たとえば、SLとグリセリンを非アルコール系の有機溶媒(クロロホルム、トルエン、アセトン等)中または無溶媒下で、リパーゼなどの固定化酵素を触媒としてエステル化(エステル交換または加水分解の逆反応)を行うことにより、または、グリセリンの代わりに植物油(トリグリセリド)を用いて、同様にエステル交換反応を行うことにより製造することができる。特に、反応性に優れたラクトン型(LSL)を用いれば、グリセリン等と混合して加熱撹拌することで、本発明のSL誘導体を製造することができる。
さらに、SL基中の水酸基は培養物中から得られた後からでも無水酢酸等と反応させることでアセチル化することが可能である。この反応を利用することで、全水酸基にアセチル基を導入して親油性を向上したSL誘導体(例えば化学式(1)のSL基中のRが全てアセチル基)を製造することができる。
【0018】
本発明の組成物は、本発明のSL誘導体の有する界面活性に依る界面活性剤として、または乳化剤、分散剤として、飼料、肥料、飲食品、農薬、医薬品、医薬部外品または化粧品、及びこれらの添加物に適用することができる。
本発明の組成物に含まれるSL誘導体の量は、特に限定されないが、0.01~100wt%、好ましくは0.1~50wt%、より好ましくは1~30wt%である。組成物におけるSL誘導体の量が1wt%以下のように少ない場合、水溶性が小さくなり、一方、50wt%以上のように多い場合、経済性が低下する。
[実施例]
【0019】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。実施例では、「%」は、「wt%」を意味する。
【実施例0020】
ソホロリピッドの生産・回収
スタルメレラ・ボンビコラ(Starmerella bombicola)ATCC22214株の培養
(1)種培養
保存培地(酵母エキス10g/L、ペプトン20g/L、グルコース20g/L、寒天20g/L)に保存しておいた上記のスタルメレラ・ボンビコラ(Starmerella bombicola)ATCC22214株を、酵母エキス10g/L、ペプトン20g/L、グルコース20g/Lの組成の液体培地4mLが入った試験管に1白金耳接種し、28℃で振とう培養を1日間行った。
(2)本培養
(1)で得られた菌体培養液を、10g/Lの酵母エキス、20g/Lのペプトン、100g/Lのグルコースおよび100g/Lのなたね油の組成の液体培地30mLが入った三角フラスコに接種し、振とう培養を28℃にて7日間行った。
(3)ソホロリピッドの回収
(2)で得られた培養液を1時間静置することで下層にSL相が生じる。このSL相を回収し、水酸化ナトリウム水溶液で中和、水で洗浄することでSL混合物を水溶液の状態で回収した。また、得られたSL混合物水溶液について以降の実験を行うために、ヘキサンを添加して撹拌、遠心分離することでヘキサン相に残存油脂や脂肪酸を抽出・除去し、水相を凍結乾燥してSL混合物固体を回収した。
(4)ラクトン型ソホロリピッド、酸型ソホロリピッド標品の精製
以降の実験で標品として利用するために既知の精製手法によって、ラクトン型SL(LSL)および酸型SL(ASL)を分離した。すなわち、上記SL混合物固体をアセトンに溶解してシリカゲル(ワコーゲルC-200)をガラスカラム管に充填したシリカゲルカラムに供し、クロロホルムとアセトンの混合液を展開溶媒とするカラムクロマトグラフィー法によって精製した。クロロホルムとアセトンの割合は、8:2でLSLを、続いて2:8で酸型SLをそれぞれ分離回収し、それぞれの回収した画分が目的のLSL標品、ASL標品であることを、後述する薄層クロマトグラフィー解析によって確認した。
【実施例0021】
ソホロリピッドの薄層クロマトグラフィー解析
実施例1で得られたSL混合物固体について、メタノールに溶解して薄層クロマトグラフィー(TLC)解析を行った。
まず、シリカゲルTLCガラスプレート(Merck社製TLCシリカゲル60F254ガラスプレート)を用いて、展開溶媒にクロロホルム/メタノール/アンモニア水=80/20/2混合溶媒を用いた、従来の順相系でのTLC分析を行った。アンスロン硫酸指示薬で成分の検出を行うと、糖骨格を含む化合物は青緑色で検出される。その結果、非極性のLSLが上部に、高極性のASLが下部に展開される結果となった(図1)。
次に、逆相修飾シリカゲルTLCプレート(Merck社製TLCシリカゲル60RP-18F254Sガラスプレート)を用いて、展開溶媒にメタノール/水=95/5混合溶媒を用いた逆相系での分析を行ったところ、予想通り順相時とは逆に高極性のASLが上部に、非極性のLSLが中部に展開されるとともに、さらに下部に従来法では検出されなかった構造未知の糖脂質と思われるスポットが検出された(図2)。
この結果から、実施例1で得られたSL混合物には、従来知られているLSL、ASLとは異なる糖脂質が含まれていることが明らかとなった。
【実施例0022】
ソホロリピッドの高速液体クロマトグラフィー解析
実施例1で得られたSL混合物固体について、メタノールで溶解し高速液体クロマトグラフィー(HPLC)解析を行った。コロナ荷電化粒子検出器(CAD)(Thermo社製CoronaTMVeoTM)を搭載したHPLC(Thermo社製Thermo Scientific Ultimate 3000 HPLC)を用い、分析カラムは逆相系ODSカラム(GLサイエンス社製InertSustainTM VC18)を用いて、カラム温度は40℃、溶離液は5mMギ酸アンモニウムメタノール/5mMギ酸アンモニウム水混合溶媒系で、グラジエントプログラムをメタノール70%(ステップ0分→3分)、70%→100%(グラジエント3分→18分)、100%(ステップ18分→25分)、70%(ステップ25分→35分)とし、流速0.3mL/mで成分分析を行った。得られたクロマトグラムを図3に示す。
分析の結果、保持時間3分~10分にASL、12分~16分LSLが検出された後、18分前後、20分前後、22分前後にそれぞれ未知成分ピークが3つ(A、B、C)検出された。これらの結果は、実施例2の逆相TLC解析でASL、LSLの後から未知糖脂質が検出される結果と一致するものであった。
【実施例0023】
構造未知糖脂質の分離・精製
実施例3で新たに検出された3つのピーク成分を単離するために、シリカゲルカラムクロマトグラフィー法による成分分離を行った。まず実施例1(4)と同様のクロロホルム/アセトン混合溶媒を用いた順相カラム法により、クロロホルム/アセトン=50/50溶媒でLSL画分をほぼ全量溶出させ、その後アセトン100%やメタノール100%溶媒でASLや目的の未知糖脂質が混在する残りの成分を回収した。次にオクタデシル基で修飾されたシリカゲル(ワコーゲル100C18)を充填したカラムを用いて、メタノール/水混合溶媒を展開溶媒とする逆相カラムクロマトグラフィー法により、ASLと未知糖脂質を分離する2段階のカラム精製法によって未知糖脂質を分離・回収した。分離した各成分は逆相TLC解析および逆相HPLC解析によってほぼ単一スポット、単一ピークの成分であることを確認した。
以降は逆相カラムから溶出された順に化合物A、B、Cとする。化合物Aは透明粘稠な固体、BはAよりも硬質な透明固体、Cは蝋状の白色固体であった。
【実施例0024】
構造未知糖脂質のマススペクトル解析
実施例4で分離した化合物A、B、Cについて、液体クロマトグラフィー/マススペクトル(LC/MS)解析を行った。電子スプレーイオン化マススペクトロメトリー(ESI-MS)(Thermo社製Exactive Plus)を連結した実施例3に記載のHPLCを用い、分離条件は実施例3と同様の条件でLC/MS解析を行った結果を、それぞれ図4~6に示す。
化合物Aの主成分はm/z=1468、Bはm/z=2157、Cはm/z=1731(全て検出はネガティブモード)であり、その他各主成分から-42の成分(1426、2115、1689)が混在していた。これは糖脂質型バイオ界面活性剤によくみられるパターンで、アセチル基が1個外れた化合物であるものと予想された。さらに、各成分から+114の成分(1582、2271、1845)やそこから-42の成分も混在しており、これらは全て主成分の官能基が一部修飾されたものと予想された。化合物A~C中には、基本骨格は同じで脂肪酸組成の異なるものが混在していることが予想される。
【実施例0025】
構造未知糖脂質の構造解析
実施例4で分離した化合物A、B、Cについて、核磁気共鳴スペクトル(NMR)解析により化学構造の同定を行った。Bruker社製NMR(AV-400)を用いて、まず最も含有量の多い化合物BについてH-NMR解析を行ったところ、構造既知のASLとほぼ同じパターンのスペクトルであることが確認された(図7)。
一方、糖骨格部分のスペクトルを拡大して比較したところ、5.3ppm付近にASLとは異なる新しいピークが現れたとともに、4.1~4.4ppm付近のピーク面積比が基準ピークとなるソホロース1位のピークと比較して明らか大きいことが確認された。これらのピークをさらに詳細に解析するためにH-HCOSY解析を行ったところ、元々4.1~4.4ppm付近に現れるソホロース6位由来のピークとは別の新しいピークがこの位置で重なっており、これらが5.3ppm付近の新しいピークと相関していることが分かった(図8)。
【0026】
化合物BのNMRデータを表1に示す。
【表1】
【0027】
以上の結果より、化合物BはASLの構造に加えて、これら2種類のピークを示す化学構造を持つSL誘導体であることが分かった。これら5.3ppm付近と4.1~4.4ppm付近にピークが現れる典型的な化合物の例として、油脂(脂肪酸トリグリセリド)のグリセリン骨格が挙げられる。以上を踏まえて、化合物Bはグリセリンの3つの水酸基にASLがエステル結合した化学式(6)の化合物であると推定された。
実施例5で確認された化合物Bの主成分は、m/z=2157であり、これは脂肪酸部位がC18:1のASLが2個、C18:2のASLが1個グリセリンにエステル結合したトリグリセリド構造の化合物の分子量と完全に一致した。以上を総合して、化合物Bは化学式(6)の化合物であると同定した。
式(6)
【化6】
【0028】
同様の解析を化合物AとCについて行った。化合物AとCのH-NMR解析の結果を、図9と10に示す。また、化合物AまたはCのNMRデータを、表2または表3に示す。
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
NMR測定結果から推定される最も可能性の高い代表的な構造の化合物として、化合物AはグリセリンにASLが2個結合した化学式(7)の化合物、化合物CはグリセリンにASLが2個と長鎖脂肪酸が1個エステル結合した化学式(8)の化合物であると推定された。いずれも実施例5で確認された各化合物主成分の分子量と一致しており、この構造解析の結果を支持するものであった。
ただし、生産菌培養物中に含まれる誘導体はこれらに限られるものではない。
式(7)
【化7】
式(8)
【化8】
【実施例0031】
新規ソホロリピッド誘導体A~Cの水溶液
実施例4で分離した化合物A、B、Cについて、それぞれ10mgをメスフラスコ中に秤取し、蒸留水を加えてメスアップすることで、1mg/mL(0.1wt%)水溶液を調製した(図11)。
化合物A、Bは完全に溶解して透明の水溶液が得られたが、Cは白濁した。さらA、Bについては同様の方法で、10mg/mL(1wt%)水溶液を調製したところ、Aは白濁し、Bは完全に溶解した。さらに、白濁した化合物A、Cの水溶液を冷蔵庫中に静置したところ、どちらも完全に溶解して透明な水溶液となった。
この温度に応じた水溶液の状態変化は可逆的な現象であり、これは室温(25℃以下)以下に曇点を有することを示すものであった。すなわち化合物AとCが実施例6で構造決定された通り、非イオン性界面活性剤であることを支持するものであった。また以上の結果から、長鎖脂肪酸が結合している化合物Cと比べてそれが無い化合物Aの方が高い水溶性を示し、さらに化合物Bはこれらと比べて高分子量でありながら極めて水溶性の高い非イオン性界面活性剤であることが確認された。
【実施例0032】
新規SL誘導体A~Cの表面張力低下能
実施例4で分離した化合物A、B、Cについて、各濃度の水溶液を調製し、接触角計(協和界面科学社製DMo-500)を使用してペンダントドロップ法(Young Laplhas法)により水溶液の表面張力測定を行った。水溶液濃度-表面張力を対数プロットしたグラフを図12に示す。
化合物Cは濃度によらず水溶液の表面張力値にほとんど変化が無かったが、A、Bでは濃度の増加に伴って表面張力が大きく低下した。また、どちらも濃度の増加に伴いプロットの中で2段階の変曲点があることが確認され、表面張力値が一定になる後半の変曲点から臨界ミセル濃度(CMC)を算出すると、化合物AはCMC=1.91g/L(約1.3×10-3M)、その時の表面張力値(γCMC)は40.4mN/m、化合物BはCMC=2.99g/L(約1.4×10-3M)、γCMCは41.4mN/mであった。LSL、ASLのこれらの値は文献よりそれぞれLSL:CMC=1.4×10-5M、γCMC=32.3mN/m、ASL:CMC=1.2×10-4M、γCMC=37.1mN/mであり、今回見出された新規SL誘導体はこれらと比較して非イオン性界面活性剤でありながら極めて水溶性が高く、穏やかな表面張力低下能を示すこと、すなわち水系での使用に非常に適した界面活性剤であることが示された。
【実施例0033】
ソホロリピッドのマトリックス支援レーザーイオン化飛行時間マススペクトル(MALDI-TOF/MS)解析
実施例1で得られたSL混合物固体について、日本分光社製JMS-3000 SpiralTOF-MSを用い、マトリックスに2',4',6'-トリヒドロキシアセトフェノン(THAP)を用いてMALDI-TOF/MS解析を行った(図13)。
従来のLSL、ASLとは異なるm/z=803.4の構造未同定化合物のピークが検出された。これはSLがグリセリンにエステル結合した化合物A~Cの構造を参考にして、分子量から算出すると、化学式(9)のようなグリセリンに脂肪酸部位がC18:1のASLが1個エステル結合した化合物(Na付加体)であることが推定された。
式(9)
【化9】
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の新規SL誘導体は、水溶性、表面張力低下能、自己組織化特性に優れており、安全性の高い天然物由来のソホロリピッド誘導体であるから、飼料、肥料、飲食品、農薬、医薬品、医薬部外品および化粧品などの幅広い分野に適用できる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13