(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005364
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】銅張積層板および銅張積層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 5/56 20060101AFI20230111BHJP
C25D 21/00 20060101ALI20230111BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20230111BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C25D5/56 Z
C25D21/00 J
H05K1/03 630H
H05K3/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107217
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 芳英
【テーマコード(参考)】
4K024
【Fターム(参考)】
4K024AA09
4K024AB03
4K024AB15
4K024BA12
4K024BB11
4K024BC01
4K024CA01
4K024CA02
4K024CA04
4K024CA06
4K024CB14
4K024GA07
(57)【要約】
【課題】耐折性の優れた銅張積層板、およびその銅張積層板の製造方法を提供する。
【解決手段】銅張積層板1は、基材10と、基材10の表面に成膜された銅めっき被膜20とを備える。銅めっき被膜20は、基材10の表面に成膜された下層21と、低電流密度での電解めっきにより下層21の表面に成膜された中間層22と、中間層22の表面に成膜された表層23とを備える。銅めっき被膜20に低電流密度で成膜された中間層22が挿入されているので、銅張積層板1の耐折性を向上できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の表面に成膜された銅めっき被膜と、を備え、
前記銅めっき被膜は、
電流密度上昇期間を経てまたは経ずに第1電流密度での電解めっきにより前記基材の表面に成膜された下層と、
第2電流密度での電解めっきにより前記下層の表面に成膜された中間層と、
第3電流密度での電解めっきにより前記中間層の表面に成膜された表層と、を備え、
前記第2電流密度が0.25~1.0A/dm2であり、かつ、前記中間層の厚さが0.05~0.1μmであり、
前記第1電流密度および前記第3電流密度は前記第2電流密度より高い
ことを特徴とする銅張積層板。
【請求項2】
前記中間層は前記銅めっき被膜の厚さ方向の40~60%の範囲内に位置している
ことを特徴とする請求項1記載の銅張積層板。
【請求項3】
前記第1電流密度および前記第3電流密度は4~10A/dm2である
ことを特徴とする請求項1または2記載の銅張積層板。
【請求項4】
前記下層および前記表層の厚さは、それぞれ、前記中間層の厚さの40~90倍である
ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の銅張積層板。
【請求項5】
基材の表面に下層、中間層および表層からなる銅めっき被膜を成膜して銅張積層板を得る方法であって、
電流密度上昇期間を経てまたは経ずに第1電流密度での電解めっきにより前記基材の表面に前記下層を成膜する下層成膜工程と、
第2電流密度での電解めっきにより前記下層の表面に前記中間層を成膜する中間層成膜工程と、
第3電流密度での電解めっきにより前記中間層の表面に前記表層を成膜する表層成膜工程と、を備え、
前記第2電流密度が0.25~1.0A/dm2であり、かつ、前記中間層の厚さが0.05~0.1μmであり、
前記第1電流密度および前記第3電流密度は前記第2電流密度より高い
ことを特徴とする銅張積層板の製造方法。
【請求項6】
前記中間層は前記銅めっき被膜の厚さの40~60%の範囲内に位置している
ことを特徴とする請求項5記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項7】
前記第1電流密度および前記第3電流密度は4~10A/dm2である
ことを特徴とする請求項5または6記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項8】
前記下層および前記表層の厚さは、それぞれ、前記中間層の厚さの40~90倍である
ことを特徴とする請求項5~7のいずれかに記載の銅張積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅張積層板および銅張積層板の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、フレキシブルプリント配線板(FPC)などの製造に用いられる銅張積層板、およびその銅張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話などの電子機器には、樹脂フィルムの表面に配線パターンが形成されたフレキシブルプリント配線板が用いられる。フレキシブルプリント配線板は樹脂フィルムに銅箔を積層した銅張積層板から製造される。
【0003】
銅張積層板の製造方法としてメタライジング法が知られている(例えば、特許文献1)。メタライジング法による銅張積層板の製造は、例えば、つぎの手順で行なわれる。まず、樹脂フィルムの表面にニッケルクロム合金からなる下地金属層を成膜する。つぎに、下地金属層の上に銅薄膜層を成膜する。つぎに、銅薄膜層の上に銅めっき被膜を成膜する。銅めっきにより、配線パターンを形成するのに適した膜厚となるまで導体層を厚膜化する。メタライジング法により、樹脂フィルム上に直接導体層が成膜された、いわゆる2層基板と称されるタイプの銅張積層板が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の電子機器の小型化、薄型化にともない、フレキシブルプリント配線板は小さい曲率半径の曲げを伴う使い方が多くなっている。フレキシブルプリント配線板を小さい曲率半径で繰り返し曲げ伸ばしすると配線部の表面からクラックが生じ、クラックが成長して断線することがある。そのため、耐折性の優れた銅張積層板が求められている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、耐折性の優れた銅張積層板、およびその銅張積層板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の銅張積層板は、基材と、基材の表面に成膜された銅めっき被膜とを備える。銅めっき被膜は、基材の表面に成膜された下層と、低電流密度での電解めっきにより下層の表面に成膜された中間層と、中間層の表面に成膜された表層とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、銅めっき被膜に低電流密度で成膜された中間層が挿入されているので、銅張積層板の耐折性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る銅張積層板の断面図である。
【
図3】中間層の厚さと耐折性との関係を示すグラフである。
【
図4】中間層の位置と耐折性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る銅張積層板1は、基材10と、基材10の表面に成膜された銅めっき被膜20とからなる。
図1に示すように基材10の片面のみに銅めっき被膜20が成膜されてもよいし、基材10の両面に銅めっき被膜20が成膜されてもよい。
【0011】
基材10は絶縁性を有するベースフィルム11の表面に金属層12が成膜されたものである。ベースフィルム11としてポリイミドフィルム、液晶ポリマー(LCP)フィルムなどの樹脂フィルムを用いることができる。金属層12はスパッタリング法などの乾式成膜法により成膜される。金属層12は下地金属層13と銅薄膜層14とからなる。下地金属層13と銅薄膜層14とはベースフィルム11の表面にこの順に積層されている。一般に、下地金属層13はニッケル、クロム、またはニッケルクロム合金からなる。特に限定されないが、ベースフィルム11の厚さは10~100μmが一般的であり、下地金属層13の厚さは5~50nmが一般的であり、銅薄膜層14の厚さは50~400nmが一般的である。
【0012】
なお、下地金属層13はなくてもよい。銅薄膜層14はベースフィルム11の表面に下地金属層13を介して成膜されてもよいし、下地金属層13を介さずベースフィルム11の表面に直接成膜されてもよい。
【0013】
銅めっき被膜20は銅薄膜層14の表面に成膜されている。特に限定されないが、銅めっき被膜20の厚さは、サブトラクティブ法により加工される銅張積層板1の場合8~12μmが一般的である。なお、金属層12と銅めっき被膜20とを合わせて「導体層」と称する。
【0014】
銅めっき被膜20は、下層21、中間層22および表層23からなる3層構造を有する。下層21、中間層22および表層23は基材10(銅薄膜層14)の表面にこの順に積層されている。より詳細には、下層21は基材10(銅薄膜層14)の表面に直接成膜されている。中間層22は下層21の表面に直接成膜されている。表層23は中間層22の表面に直接成膜されている。表層23は銅めっき被膜20の最も外側に位置する。言い換えれば、銅めっき被膜20の厚さ方向の中間に中間層22が挿入されており、中間層22より銅めっき被膜20が基材10側の下層21と、表面側の表層23とに分割されている。
【0015】
銅めっき被膜20の厚さの主を担うのは下層21と表層23である。中間層22は下層21、表層23のそれぞれに比べて薄い。具体的には、下層21および表層23の厚さは、それぞれ、中間層22の厚さの40~90倍であることが好ましい。
【0016】
このような3層構造の銅めっき被膜20は、銅めっき被膜20を成膜する電解めっきの途中で電流密度を通常よりも低くする期間を設けることにより得られる。低電流密度での電解めっきにより成膜された層が中間層22となる。以下、銅めっき被膜20の成膜方法を具体的に説明する。
【0017】
銅めっき被膜20は、例えば、ロールツーロール方式のめっき装置により成膜できる。この方式のめっき装置は、ロールツーロールにより長尺帯状の基材10を搬送しつつ、基材10に対して電解めっきを行なう装置である。めっき装置はロール状に巻回された基材10を繰り出す供給装置と、めっき後の基材10(銅張積層板1)をロール状に巻き取る巻取装置とを有する。
【0018】
めっき装置には基材10を搬送するための複数のクランプが設けられている。複数のクランプが基材10の両縁を把持し、基材10を搬送する。基材10の搬送経路には、前処理槽、めっき槽30、および後処理槽が配置されている。基材10はめっき槽30内を搬送されつつ、電解めっきによりその表面に銅めっき被膜20が成膜される。これにより、長尺帯状の銅張積層板1が得られる。
【0019】
図2に示すように、めっき槽30は基材10の搬送方向に沿った横長の単一の槽である。基材10はめっき槽30の中心に沿って搬送される。めっき槽30には銅めっき液が貯留されている。めっき槽30内を搬送される基材10は、その全体が銅めっき液に浸漬されている。
【0020】
銅めっき液は水溶性銅塩を含む。銅めっき液に一般的に用いられる水溶性銅塩であれば特に限定されず用いられる。銅めっき液は硫酸を含んでもよい。硫酸の添加量を調整することで、銅めっき液のpHおよび硫酸イオン濃度を調整できる。銅めっき液は一般的にめっき液に添加される添加剤を含んでもよい。添加剤として、ブライトナー成分、レベラー成分、ポリマー成分、塩素成分などから選択された1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
銅めっき液の各成分の含有量は任意に選択できる。ただし、銅めっき液は銅を15~70g/L、硫酸を20~250g/L含有することが好ましい。そうすれば、銅めっき被膜20を十分な速度で成膜できる。銅めっき液はブライトナー成分を1~50mg/L含有することが好ましい。そうすれば、析出結晶を微細化し銅めっき被膜20の表面を平滑にできる。銅めっき液はレベラー成分を1~300mg/L含有することが好ましい。そうすれば、突起を抑制し平坦な銅めっき被膜20を成膜できる。銅めっき液はポリマー成分を10~1,500mg/L含有することが好ましい。そうすれば、基材10端部への電流集中を緩和し均一な銅めっき被膜20を成膜できる。銅めっき液は塩素成分を20~80mg/L含有することが好ましい。そうすれば、異常析出を抑制できる。
【0022】
銅めっき液の温度は20~35℃が好ましい。また、めっき槽30内の銅めっき液を撹拌することが好ましい。例えば、ノズルから噴出させた銅めっき液を基材10に吹き付けることで、銅めっき液を撹拌できる。
【0023】
めっき槽30の内部には、基材10の搬送方向に沿って複数のアノード31が配置されている。また、基材10を把持するクランプはカソードとしての機能も有する。アノード31とクランプ(カソード)との間に電流を流すことで、基材10の表面に銅めっき被膜20を成膜できる。
【0024】
なお、
図2に示すめっき槽30には、基材10の表裏両側にアノード31が配置されている。したがって、ベースフィルム11の両面に金属層12が成膜された基材10を用いれば、基材10の両面に銅めっき被膜20を成膜できる。
【0025】
めっき槽30の内部に配置された複数のアノード31は、それぞれに整流器が接続されている。したがって、アノード31ごとに異なる電流密度となるように設定できる。本実施形態では、めっき槽30の内部が基材10の搬送方向に沿って複数の区域に区分けされている。具体的には、上流から下流に向かって、電流密度上昇区域RZ、第1区域FZ、第2区域SZおよび第3区域TZが設定されている。各区域は一または複数の連続するアノード31が配置された領域に対応する。
【0026】
ベースフィルム11に成膜された金属層12は比較的薄いため、電解めっきの初期に電流密度を高くすると、金属層12のうち給電部(クランプ)と接触する部分が溶解する恐れがある。一方で、生産性を上げるには電流密度をできるだけ高くすることが好ましい。そこで、電解めっきの初期において、電流密度を徐々に上昇させることが行なわれる。電流密度上昇区域RZでは電流密度を徐々に上昇させながら電解めっきを行なう。以下、電解めっき初期の電流密度を徐々に上昇させる期間、すなわち基材10が電流密度上昇区域RZを通過する期間を「電流密度上昇期間」という。電流密度上昇期間における電流密度は、1~5A/dm2の範囲で徐々に上昇させることが好ましい。
【0027】
電流密度上昇期間を経て、溶解の恐れがない程度の厚さ(例えば、1.0μm)まで銅めっき被膜20が厚くなった後は、比較的高い一定の電流密度で電解めっきを行なう。このような電解めっきを行なう区域が第1区域FZおよび第3区域TZである。以下、第1区域FZにおける電流密度を「第1電流密度D1」といい、第3区域TZにおける電流密度を「第3電流密度D3」という。
【0028】
第1区域FZと第3区域TZの間の第2区域SZにおいて、比較的低い電流密度での電解めっきを行なう。以下、第2区域SZにおける電流密度を「第2電流密度D2」という。
【0029】
基材10は、電流密度上昇区域RZ、第1区域FZ、第2区域SZおよび第3区域TZをこの順に通過する。これにより、基材10の表面に銅めっき被膜20が成膜される。より詳細には、電流密度上昇区域RZおよび第1区域FZにおける電解めっきにより下層21が成膜される(下層成膜工程)。つぎに、第2区域SZにおける電解めっきにより中間層22が成膜される(中間層成膜工程)。最後に、第3区域TZにおける電解めっきにより表層23が成膜される(表層成膜工程)。
【0030】
言い換えれば、電流密度上昇期間を経て第1電流密度D1での電解めっきにより成膜された層が下層21である。第2電流密度D2での電解めっきにより成膜された層が中間層22である。第3電流密度D3での電解めっきにより成膜された層が表層23である。このように、3層構造を有する銅めっき被膜20を成膜できる。
【0031】
なお、金属層12の溶解の恐れがない場合には、めっき槽30に電流密度上昇区域RZを設けなくてもよい。この場合、めっき槽30の内部には、上流から下流に向かって、第1区域FZ、第2区域SZおよび第3区域TZが設定される。下層21は電流密度上昇期間を経ずに第1電流密度D1での電解めっきにより成膜される。
【0032】
銅めっき被膜20は枚葉方式のめっき装置によっても成膜できる。枚葉状の基材10をめっき槽内の銅めっき液に浸漬して電解めっきを行ない、基材10の表面に銅めっき被膜20を成膜する。この際、電流密度を時間の経過にともない変化させる。具体的には、電流密度上昇期間を経てまたは経ずに第1電流密度D1での電解めっきを行ない下層21を成膜する(下層成膜工程)。つぎに、第2電流密度D2での電解めっきを行ない中間層22を成膜する(中間層成膜工程)。最後に、第3電流密度D3での電解めっきを行ない表層23を成膜する(表層成膜工程)。
【0033】
本実施形態の銅張積層板1は、銅めっき被膜20に低電流密度で成膜された中間層22が挿入されているため、耐折性に優れている。ここで、耐折性とは繰り返しの曲げ伸ばしに対する強度を意味し、MIT試験により評価される。
【0034】
耐折性が向上する理由は不明なところもあるが、概ねつぎのとおりであると考えられる。銅張積層板1を小さい曲率半径で曲げると銅めっき被膜20の最表面に強い引張応力がかかる。そのため、曲げ伸ばしを繰り返すと、結晶粒界などをきっかけとして銅めっき被膜20の表面にクラックが生じる。銅めっき被膜20に中間層22を挿入すると、下層21と表層23とで、再結晶が別々に進行し、結晶粒が銅めっき被膜20の上下で分断された状態となる。そのため、銅張積層板1を曲げた時に銅めっき被膜20の最表面にかかる引張応力が緩和されクラックが生じにくくなる。これにより、耐折性が向上すると考えられる。
【0035】
銅張積層板1の耐折性は中間層22を成膜する際の電流密度(第2電流密度D2)と中間層22の厚さの影響を受ける。耐折性を向上するという観点からすると、第2電流密度D2が0.25~1.0A/dm2であり、かつ、中間層22の厚さが0.05~0.1μmであることが好ましい。
【0036】
ここで、層の厚さは、電解めっきにおける電流密度とめっき時間とから求められる。具体的には、式(1)に示すように、電流密度J[A/dm
2]、めっき時間T[分]および所定の係数kを乗じて厚さd[μm]が求められる。なお、係数kはめっき液などの条件に依存する値であり、試験により定められる。
【数1】
【0037】
第1電流密度D1および第3電流密度D3は第2電流密度D2より高ければよい。ただし、第1電流密度D1および第3電流密度D3は4~10A/dm2が好ましい。第1電流密度D1および第3電流密度D3は同じでもよいし、異なってもよい。
【0038】
銅張積層板1の耐折性は中間層22の銅めっき被膜20の厚さ方向の位置の影響も受ける。耐折性を向上するという観点からすると、中間層22は銅めっき被膜20の厚さ方向の40~60%の範囲内に位置することが好ましい。ここで、0%は基材10の表面を意味し、100%は銅めっき被膜20の表面を意味する。
【実施例0039】
(共通の条件)
ベースフィルムとして、厚さ35μmのポリイミドフィルム(宇部興産社製 Upilex-35SGAV1)を用意した。ベースフィルムをマグネトロンスパッタリング装置にセットした。マグネトロンスパッタリング装置内にはニッケルクロム合金ターゲットと銅ターゲットとが設置されている。ニッケルクロム合金ターゲットの組成はCrが20質量%、Niが80質量%である。真空雰囲気下で、ベースフィルムの片面に、厚さ25nmのニッケルクロム合金からなる下地金属層を形成し、その上に厚さ150nmの銅薄膜層を形成した。
【0040】
つぎに、銅めっき液を調整した。銅めっき液は硫酸銅を120g/L、硫酸を70g/L、ブライトナー成分を16mg/L、レベラー成分を20mg/L、ポリマー成分を1,100mg/L、塩素成分を50mg/L含有する。ブライトナー成分としてビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド(RASCHIG GmbH社製の試薬)を用いた。レベラー成分としてジアリルジメチルアンモニウムクロライド-二酸化硫黄共重合体(ニットーボーメディカル株式会社製 PAS-A―5)を用いた。ポリマー成分としてポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体(日油株式会社製 ユニルーブ50MB-11)を用いた。塩素成分として塩酸(和光純薬工業株式会社製の35%塩酸)を用いた。
【0041】
前記銅めっき液が貯留されためっき槽に基材を供給した。電解めっきにより基材の片面に厚さ8.5μmの銅めっき被膜を成膜した。ここで、銅めっき液の温度を31℃とした。また、電解めっきの間、ノズルから噴出させた銅めっき液を基材の表面に対して略垂直に吹き付けることで、銅めっき液を撹拌した。
【0042】
(基準試料)
電解めっきにおける電流密度およびめっき時間を表1のとおり設定した。表1中の層番号は基材の表面に接する層から順に採番している。すなわち、電解めっきの初期は電流密度を1.38A/dm2、3.02A/dm2と段階的に上昇させ、その後電流密度を5.03A/dm2として厚さが8.5μmとなるまで銅めっき被膜を成膜した。したがって、銅めっき被膜は中間層を有さない。得られた銅張積層板を基準試料とする。
【0043】
【0044】
基準試料の耐折性をMIT試験により評価した。MIT試験はJIS C6471(1995)に従って行なった。試験機として東洋精機製作所製MIT耐折疲労試験機D型を用いた。試料には1mm幅の配線パターンを形成した。試料を曲率半径0.36mmで135°折り曲げ、続いて反対方向に135°折り曲げる操作を繰り返して、配線の導通が途切れたときの回数(耐断線回数)を測定した。以下、基準試料の耐断線回数を100%として、他の試料の耐断線回数を評価する。
【0045】
(電流密度、厚さの評価)
つぎに、銅めっき被膜の中間層の電流密度および厚さと耐折性との関係を評価した。
電解めっきにおける電流密度およびめっき時間を表2のとおり設定した。すなわち、電解めっきの初期は電流密度を1.38A/dm2、3.02A/dm2と段階的に上昇させ、その後電流密度(第1電流密度)を5.03A/dm2として厚さ4.17μmの下層を成膜した。つぎに、電流密度(第2電流密度)を0.25A/dm2として中間層を成膜した。最後に電流密度(第3電流密度)を5.03A/dm2として表層を成膜した。ここで、中間層のめっき時間を変化させ、中間層の厚さが0.05、0.07、0.10μmの3種類の銅めっき被膜を成膜した。得られた銅張積層板を試料1~3とする。
【0046】
【0047】
電解めっきにおける電流密度およびめっき時間を表3のとおり設定した。すなわち、中間層を成膜する際の電流密度(第2電流密度)を0.50A/dm2とした。また、中間層のめっき時間を変化させ、中間層の厚さが0.05、0.07、0.10μmの3種類の銅めっき被膜を成膜した。得られた銅張積層板を試料4~6とする。
【0048】
【0049】
電解めっきにおける電流密度およびめっき時間を表4のとおり設定した。すなわち、中間層を成膜する際の電流密度(第2電流密度)を0.75A/dm2とした。また、中間層のめっき時間を変化させ、中間層の厚さが0.05、0.07、0.10μmの3種類の銅めっき被膜を成膜した。得られた銅張積層板を試料7~9とする。
【0050】
【0051】
電解めっきにおける電流密度およびめっき時間を表5のとおり設定した。すなわち、中間層を成膜する際の電流密度(第2電流密度)を1.00A/dm2とした。また、中間層のめっき時間を変化させ、中間層の厚さが0.05、0.07、0.10μmの3種類の銅めっき被膜を成膜した。得られた銅張積層板を試料10~12とする。
【0052】
【0053】
試料1~12の耐折性をMIT試験により評価した。その結果を
図3に示す。
図3のグラフより、基準試料よりも耐折性の優れた銅張積層板を得るには、中間層を成膜する際の電流密度(第2電流密度)を0.25~1.0A/dm
2とし、かつ、中間層の厚さを0.05~0.1μmとすればよいことが分かる。なお、中間層の厚さは0.1μm以下でもよいし、0.1μm未満でもよい。
【0054】
また、耐折性を向上するという観点からは、第2電流密度を0.25~0.5A/dm2とし、かつ、中間層の厚さを0.05~0.07μmとするか、第2電流密度を0.75~1.0A/dm2とし、かつ、中間層の厚さを0.07~0.1μmとすることがより好ましい。そうすれば、耐断線回数が基準試料の107%以上となる。
【0055】
(厚さ方向の位置の評価)
つぎに、銅めっき被膜の厚さ方向における中間層の位置と耐折性との関係を評価した。
電解めっきにおける電流密度およびめっき時間を表6のとおり設定した。すなわち、電解めっきの初期は電流密度を1.38A/dm2、3.02A/dm2と段階的に上昇させ、その後電流密度(第1電流密度)を5.03A/dm2として下層を成膜した。つぎに、電流密度(第2電流密度)を0.25A/dm2として厚さ0.07μmの中間層を成膜した。最後に電流密度(第3電流密度)を5.03A/dm2として表層を成膜した。ここで、第1、第3電流密度による電解めっきの時間を変化させ、銅めっき被膜の厚さ方向における中間層の位置が異なる5種類の銅めっき被膜を成膜した。得られた銅張積層板を試料13~17とする。
【0056】
【0057】
試料13~17の耐折性をMIT試験により評価した。その結果を
図4に示す。
図4のグラフより、基準試料よりも耐折性の優れた銅張積層板を得るには、中間層を銅めっき被膜の厚さの40~60%の範囲内に位置させることが好ましく、45~55%の範囲内に位置させることがより好ましいことが分かる。