(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005365
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】防護ネット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
E04G 5/00 20060101AFI20230111BHJP
E04G 21/32 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
E04G5/00 301E
E04G21/32 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107218
(22)【出願日】2021-06-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2020年12月10日、名古屋工業大学 卒業論文審査会、卒業論文、卒業論文梗概集、2021年2月1日、日本建築学会東海支部研究報告集第59号、2021年2月23日、2020年度 日本建築学会東海支部研究集会において、伊藤洋介、河邊伸二、高間健太、浦田匡真が発明した防護ネット及びその製造方法に関する研究について公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】500489015
【氏名又は名称】建装工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】河邊 伸二
(72)【発明者】
【氏名】高間 健太
(72)【発明者】
【氏名】浦田 匡真
(57)【要約】
【課題】住環境の改善が可能な防護ネットを提供する。
【解決手段】防護ネット10は、建築物20の外壁面の外側に組み立てられた仮設足場30に広げて取り付けられ、一方の面が黒色であり、他方の面が白色である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の外壁面の外側に組み立てられた仮設足場に広げて取り付けられ、一方の面が黒色であり、他方の面が白色である防護ネット。
【請求項2】
厚さ方向の断面において、黒色と白色の境界は厚さ方向の中心線よりも黒色側に偏っている請求項1に記載の防護ネット。
【請求項3】
メッシュ状のシートと、
前記シートに施され、前記一方の面及び前記他方の面のいずれかを形成する塗膜と、
を備えている請求項1及び請求項2のいずれか一項に記載の防護ネット。
【請求項4】
前記シートは白色であり、前記塗膜は黒色である請求項3に記載の防護ネット。
【請求項5】
形成される面が鉛直方向に広がるように広げた際、直射日光が当たる面が白色である請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の防護ネット。
【請求項6】
建築物の外壁面の外側に組み立てられた仮設足場に広げて取り付けられた状態において、黒色の面が前記建築物側を向き、白色の面が外部空間側を向いている請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の防護ネット。
【請求項7】
白色及び黒色のいずれか一方の色であるメッシュ状のシートの一方の面に白色及び黒色の他方の色の塗料を塗装する防護ネットの製造方法。
【請求項8】
前記シートは白色であり、前記塗料は黒色である請求項7に記載の防護ネットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防護ネット及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は従来の防護ネットを開示している。この防護ネットは、建築物を建設する際や改修する際に建築物の外壁面の外側に組み立てられた仮設足場に広げて取り付けられる。この防護ネットは建築資材の落下や粉塵等の飛散を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の防護ネットは、一般的に、灰色一色、及び黒一色のいずれかが多く使用されている。灰色一色の防護ネットを仮設足場に広げて取り付けた場合、建築物側から外部空間へ向けての透視性が悪く、建築物内で生活する居住者は圧迫感を感じることになる。黒一色の防護ネットを仮設足場に広げて取り付けた場合、灰色一色の防護ネットに比べて透視性は良いが、建築物側の内部温度が高くなり、夏場においては居住者に不快感を与えることになる。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、住環境の改善が可能な防護ネットを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の防護ネットは、建築物の外壁面の外側に組み立てられた仮設足場に広げて取り付けられ、一方の面が黒色であり、他方の面が白色である。
【0007】
この防護ネットは、白色の面側からの日射による熱を通しにくく、黒色の面側からの透視性が良い。このため、この防護ネットは、建築物の外壁面の外側に組み立てられた仮設足場に黒色の面を建築物側に向け、白色の面を外部空間側に向けて広げて取り付けると、内部温度の上昇を抑制し、建築物側から外部空間へ向けての透視性がよく、居住者は圧迫感を抑制することができる。
【0008】
したがって、本発明の防護ネットは、住環境の改善をすることができる。
【0009】
ここで、「黒色」とは、マンセル値における明度を示すマンセルバリューの値が1.0から4.5までの範囲であればよく、色相を示すマンセルヒューの値、及び彩度を示すマンセルクロマの値は限定されず、黒色系であればよい。社団法人日本塗料工業会発行 2017年J版 標準色見本帳において、JN-10からJN-45までの無彩色の黒色系も含まれる。「白色」とは、マンセル値における明度を示すマンセルバリューの値が7.0から9.5までの範囲であればよく、より好ましくは8.7以上であるとよく、色相を示すマンセルヒューの値、及び彩度を示すマンセルクロマの値は限定されず、白色系であればよい。社団法人日本塗料工業会発行 2017年J版 標準色見本帳では、JN-87からJN-95までの無彩色の白色系も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1の防護ネットを建築物の外壁面の外側に組み立てられた仮設足場に広げて取り付けた状態を示す概略図である。
【
図3】内部温度を測定する測定装置の概略図である。
【
図4】内部温度と測定時刻の関係を示すグラフである。
【
図6】LogMAR低価値を示すレーダーチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
本発明の防護ネットは、厚さ方向の断面において、黒色と白色の境界は厚さ方向の中心線よりも黒色側に偏り得る。この防護ネットは、白色の面側からの日射による熱をより通しにくくなる。
【0012】
本発明の防護ネットは、メッシュ状のシートと、前記シートに施され、前記一方の面及び前記他方の面のいずれかを形成する塗膜と、を備え得る。この場合、一方の面が黒色であり、他方の面が白色である防護ネットを容易に製造することができる。
【0013】
本発明の防護ネットにおいて、前記シートは白色であり、前記塗膜は黒色であり得る。この場合、熱を通しにくく、且つ黒色側の面からの透視性の良い防護ネットを容易に製造することができる。
【0014】
本発明の防護ネットは、形成される面が鉛直方向に広がるように広げた際、直射日光が当たる面が白色であり得る。このように防護ネットを広げることによって、直射日光による熱を通しにくくなる。
【0015】
本発明の防護ネットは、建築物の外壁面の外側に組み立てられた仮設足場に広げて取り付けられた状態において、黒色の面が前記建築物側を向き、白色の面が外部空間側を向き得る。この場合、防護ネットよりも建築物側の内部温度の上昇を抑制し、建築物側から外部空間へ向けての透視性がよく、居住者は圧迫感を抑制することができる。
【0016】
本発明の防護ネットの製造方法は、白色及び黒色のいずれか一方の色であるメッシュ状のシートの一方の面に白色及び黒色の他方の色の塗料を塗装する。この場合、一方の面が黒色であり、他方の面が白色である防護ネットを容易に製造することができる。
【0017】
本発明の防護ネットの製造方法において、前記シートは白色であり、前記塗料は黒色であり得る。この場合、熱を通しにくく、且つ黒色側の面からの透視性の良い防護ネットを容易に製造することができる。
【0018】
本発明の防護ネットを具体化した実施例1について、図面を参照しつつ説明する。
【0019】
<実施例1>
実施例1の防護ネット10は、
図1に示すように、マンション等の建築物20の修繕工事の際に外壁面の外側に組み立てられた仮設足場30に広げて取り付けられる。この防護ネット10は、白色のメッシュ状のシート11と、このシートの一方の面にインクジェット印刷機によって塗装した黒色の塗膜13とを備えている。つまり、この防護ネット10は、一方の面が黒色であり、他方の面が白色である。防護ネット10の一方の面が黒色であり、他方の面が白色であるとは、広げた防護ネット10を一方の面から見た際に全体的に黒色に見え、他方の面から見た際に全体的に白色に見える状態をいう。また、防護ネット10の黒色と白色の境界は、防護ネット10の厚さ方向の断面において、厚さ方向の中心線よりも黒色側に偏っていても、白側に偏っていてもよい。なお、防護ネット10の黒色と白色の境界は、
図2に示すように、防護ネット10の厚さ方向の断面において、厚さ方向の中心線Sよりも黒色側に偏っていると、白色の面側からの日射による熱をより通しにくくなるため好適である。
【0020】
シート11は、塩化ビニール樹脂製の防炎加工したものである。シート11は、JIS A8952に定められた建築工事用シートの性能基準の2類の要件を満たすものである。シート11は、原糸の太さが500d(デニール)であり、1平方インチ(2.54cm×2.54cm)当り、縦糸及び横糸が18本ずつ存在する。フィラメントカウントは96本である。シートは、上述した建築工事用シートの性能基準の2類の要件を満たし、原糸の太さは、250d(デニール)以上、且つ500d(デニール)以下であればよく、フィラメントカウントは適宜変更することができる。
【0021】
防護ネット10は、黒色の面が建築物20側を向き、白色の面が外部空間40側を向くように、形成される面が鉛直方向に広がるように仮設足場30に広げて取り付けられる。仮設足場30にこのように取り付けられた防護ネット10は直射日光が当たる面が白色であると、防護ネット10よりも建築物20側の内部温度の上昇をより抑制することができ、好適である。
【0022】
防護ネット10の比較例として、メッシュ状のシートからなる色が異なる防護ネット60A,60B,60Cを用意した。黒一色の防護ネット60Aを比較例1とし、灰色一色の防護ネット60Bを比較例2とし、白一色の防護ネット60Cを比較例3とする。比較例1~3の各防護ネット60A,60B,60Cも、塩化ビニール樹脂製の防炎加工したものであり、糸の太さが500d(デニール)であり、1平方インチ(2.54cm×2.54cm)当り、縦糸及び横糸が18本ずつ存在する。
【0023】
分光測色計(コニカミノルタ製CM-600D)を用いて実施例1の防護ネット10、比較例1~3の各防護ネット60A,60B,60Cの色を測定した。実施例1の防護ネット10は、黒色側の面及び白色側の面の夫々を測定した。各防護ネット10,60A,60B,60Cはメッシュ状であるため、網目を通して、背後の色も測定されてしまう。このため、各防護ネット10,60A,60B,60Cの夫々を白色の板上に1枚を広げた場合、2枚を重ねて広げた場合、4枚を重ねて広げた場合、8枚を重ねて広げた場合の夫々について測定した。この際、各防護ネット10,60A,60B,60Cを広げた板も測定した。正反射光を含むSCI方式で測定した結果を表1に示し、正反射光を除去したSCE方式で測定した結果を表2に示す。各防護ネット10,60A,60B,60Cの重ねる枚数を増やした方が背後の色の影響が少なくなり、8枚を重ねて測定して得られた各数値が各防護ネット10,60A,60B,60Cの実際の色に近い数値であると考えられる。実施例1の防護ネット10を8枚重ねて黒色側の面を測定した際のマンセルバリューの値は、SCI方式において2.74であり、SCE方式において2.7である。実施例1の防護ネット10を8枚重ねて白色側の面を測定した際のマンセルバリューの値は、SCI方式において8であり、SCE方式において7.97である。
【0024】
【0025】
【0026】
<防護ネットの建築物側の温度の測定>
次に、建築物20の外壁面の外側に組み立てられた仮設足場30に防護ネット10を広げて取り付けた際の建築物20側の空間を再現する試験箱50を製作し、内部温度の測定を行った。
【0027】
試験箱50は、
図3に示すように、二面に開口を持ち縦置きに設置した。試験箱50の内寸は、400mm(幅)×100mm(奥行)×400mm(高さ)である。試験箱50は、測定中に地熱等の影響を防ぐため、断熱材(押出法ポリスチレンフォーム)を用いて作製した。試験箱50は、日光の反射・拡散を防ぐため、表面を黒色のフェルトで覆った。温度測定には、データロガー51とCu-Co熱電対53を用いた。熱電対53は、立ち面の中央から防護ネット10側に約200mm離れた位置に測定部53Aを設置し、他端をデータロガー51に接続した。
【0028】
実施例1の白黒の防護ネット10は、黒色の面を試験箱50側に向け、白色の面を外側に向けて、二面の開口部を覆うように試験箱50に取り付けた。比較例1~3の防護ネット60A,60B,60Cも実施例1の防護ネット10と同様に二面の開口部を覆うように試験箱50に取り付けた。実施例1の防護ネット10、及び比較例1~3の防護ネット60A,60B,60Cを取り付けた4個の試験箱50と、防護ネットを取り付けていない1個の試験箱50とを日射が当たる場所に配置し、12:30~13:30の間、1分ごとに同時に試験箱50の内部温度を測定した。
【0029】
図4に示すように、比較例1の黒一色の防護ネット60A、比較例2の灰色一色の防護ネット60B、実施例1の白黒の防護ネット10、比較例3の白一色の防護ネット60Cの順に内部温度が高くなっている。つまり、実施例1の白黒の防護ネット10は、比較例1の黒一色の防護ネット60A、及び比較例2の灰色一色の防護ネット60Bに比べて内部温度が低いが、比較例3の白一色の防護ネット60Cに比べて内部温度が高い。
【0030】
<防護ネットの透視性と内部空間の感じ方の測定>
防護ネット10に覆われた内部空間からの透視性と内部空間の感じ方を評価するために、
図5に示すように、被験者Hが入れる大きさで測定装置70を製作した。測定装置70は人工気候室内に設けた。測定装置70は、立方体形状の枠組71を幅40mmの鉄製フレームで製作した。枠組71に囲まれた空間の寸法は1200mm(幅)×2500mm(奥行)×1800mm(高さ)である。底面と被験者Hの背面には木製パネル73を設置し、照明の反射による影響を防ぐために内面を黒色のフェルトで覆った。防護ネット10,60A,60B,60Cは枠組71の上側に被せ、被験者Hの前面の防護ネット10,60A,60B,60Cがシワにならないように磁石で固定した。この際、実施例1の防護ネット10は、黒色の面が被験者H側に向くように枠組71に上側に被せた。被験者Hは、内部に置かれた椅子Cに腰掛け、防護ネット10,60A,60B,60C越しに2500mm離れた視対象(視力検査表X1と景観写真X2)を見る。被験者Hと被験者Hの前面の防護ネット10,60A,60B,60Cとの距離は2000mmである。測定を行った際の人工気候室の条件を表3に示す。
【0031】
【0032】
後述する「視力検査表を用いた透視性の測定」における被験者Hは20代から60代の男女計33名であり、「景観写真を用いた透視性の測定」及び「内部空間の感じ方の測定」における被験者Hは20代から60代の男女計29名である。各測定における被験者Hは両眼視力が0.6以上であり、色覚等の異常がない人である。
【0033】
1.視力検査表を用いた透視性の測定
視力検査で一般的に使用されるランドルト環の視力検査表X1による視力測定で透視性を評価した。ランドルト環の視力検査は認識できる切れ目の最小の大きさの視角MAR(minimum angle of resolution)で表し、その逆数を視力評価値としている。この評価値は単純に視角の逆数に相当するため、そのまま統計処理を用いて評価できない。そのため、(式1)に示すように測定される視力評価値の逆数の対数変換をしたLogMARを用いた。
【0034】
【0035】
防護ネット10,60A,60B,60Cをかける前の測定結果をLogMAR1とし、防護ネット10,60A,60B,60Cをかけた後の測定結果をLogMAR2として、(式2)をLogMAR低下値として評価した。
【0036】
【0037】
図5に示すように、測定する部屋の大きさを考慮し、視力検査表X1から2500mm離れた位置に被験者Hを椅子Cに座らせて測定した。視力検査表X1は2500mm用に作成したものを使用した。視力検査表X1は通常の背景が白色、ランドルト環が黒色の検査表(以下、検査表1とする)と検査表の色と養生シートの色が重なり見えにくいことが考えられるため、背景の白色とランドルト環の黒色を反転させた検査表(以下、検査表2とする)も使用した。また検査表1と検査表2では無彩色となるため、有彩色についても考慮し、背景が白色、指標が色の3原色のマゼンタ、シアン、イエローの検査表(以下、それぞれ検査表3、検査表4、検査表5とする)を作成し、計5種類の検査表を使用して測定を行った。
【0038】
図6に示すように、検査表1と検査表2において、実施例1の白黒の防護ネット10、比較例1の黒一色の防護ネット60A、比較例2の灰色一色の防護ネット60B、比較例3の白一色の防護ネット60Cの順に透視性が良い。検査表3~5において、透視性の順番に違いが見られるが、実施例1の白黒の防護ネット10は、どの検査表においても透視性が良い。検査表5において、防護ネット10,60A,60B,60Cをかける前に測定したLogMARが低いことから、LogMAR低下値も他の検査表に比べ低い値になっている。
【0039】
2.景観写真を用いた透視性の測定
実際の防護ネットの施工現場で想定される景観で防護ネット10,60A,60B,60Cの透視性の測定を行うため、景観写真X2を用いて透視性を評価した。景観写真X2は都会の街並みが印刷された人工景観写真と街路樹が印刷された自然景観写真の2種類とした。防護ネット10,60A,60B,60C越しの景観写真X2の見やすさについて7段階評定尺度法によって評価した。
【0040】
図7に示すように、人工景観写真と自然景観写真の見やすさの平均値に大きな差が見られない。透視性は人工景観写真と自然景観写真のどちらにおいても、実施例1の白黒の防護ネット10、比較例1の黒一色の防護ネット60A、比較例2の灰色一色の防護ネット60B、比較例3の白一色の防護ネット60Cの順に良い。色ごとの見やすさの平均値について分散分析の結果、実施例1の白黒の防護ネット10は比較例1~3の防護ネット60A,60B,60Cに比べて見やすさに1%水準で有意差が認められた。次に多重比較の結果、実施例1の白黒の防護ネット10と比較例1の黒一色の防護ネット60Aは、比較例2及び3の防護ネット60B,60Cに比べて1%水準で有意差が認められた。このように、実施例1の白黒の防護ネット10は比較例1の黒一色の防護ネット60Aと同様に透視性が良く、比較例2の灰色一色の防護ネット60B、比較例3の白一色の防護ネット60Cよりも透視性が良い。
【0041】
3.内部空間の感じ方の測定
防護ネット10,60A,60B,60C内の内部空間における感じ方について、「開放感」、「温冷感」、「明るさ」、「快不快感」の4項目を7段階評定尺度法によって評価した。
【0042】
図8に示すように、「明るさ」以外の項目において実施例1の白黒の防護ネット10は、比較例1~3の防護ネット60A,60B,60Cに比べ防護ネットなしの場合との差が小さい。このように、実施例1の白黒の防護ネット10は防護ネット10の設置前後において内部空間の感じ方の変化が小さい。
【0043】
4.透視性と内部空間の感じ方の相関
透視性の良さが内部空間の感じ方に与える影響を検討するために、各被験者Hの人工景観の見やすさと自然景観の見やすさの平均値と、内部空間の感じ方の相関を調べた。開放感と見やすさの相関係数は0.58であり、開放感と透視性には相関が見られた。また快不快感と見やすさの相関係数は0.51であり、快不快感と透視性には相関が見られた。これらから、防護ネットの透視性に対して内部空間の開放感と快不快感は相関があり、透視性が高くなると開放的、快適と感じやすいと考えられる。
【0044】
上述したように、各測定結果によって、以下のことが分かった。
(1)実施例1の白黒の防護ネット10は、比較例1の黒一色の防護ネット60A、及び比較例2の灰色一色の防護ネット60Bに比べて内部温度が低くなるが、比較例3の白一色の防護ネット60Cに比べて内部温度は高くなる。
(2)実施例1の白黒の防護ネット10は、比較例1の黒一色の防護ネット60Aと同様に透視性がよく、比較例2の灰色一色の防護ネット60B及び比較例3の白一色の防護ネット60Cに比べて透視性が良い。
(3)実施例1の白黒の防護ネット10は、設置前後において内部空間の感じ方の変化が小さい。
(4)防護ネットの透視性に対して内部空間の開放感と快不快感は相関があり、透視性が高くなると、開放的、快適と感じやすく、圧迫感が抑制される。
【0045】
以上説明したように、実施例1の白黒の防護ネット10は、建築物20の外壁面の外側に組み立てられた仮設足場30に広げて取り付けられ、一方の面が黒色であり、他方の面が白色である。
【0046】
この防護ネット10は、白色の面側からの日射による熱を通しにくく、黒色の面側からの透視性が良い。このため、この防護ネット10は、建築物20の外壁面の外側に組み立てられた仮設足場30に黒色の面を建築物20側に向け、白色の面を外部空間40側に向けて取り付けると、内部温度の上昇を抑制し、建築物20側から外部空間40へ向けての透視性がよく、居住者の圧迫感を抑制することができる。
【0047】
したがって、実施例1の防護ネット10は、住環境の改善をすることができる。
【0048】
実施例1の防護ネット10を建築物20の外壁面の外側に組み立てられた仮設足場30に広げて取り付けられた状態において、日射は角度をもって入射するため、防護ネット10の厚さ方向の中心線Sを超えて入射する場合がある。この場合、防護ネット10の黒色と白色の境界が、防護ネット10の厚さ方向の断面において、防護ネット10の厚さ方向の中心線Sよりも黒色側に偏っていると、日射が入射する面が白色となり、日射による熱をより通しにくくなる。
【0049】
実施例1の防護ネット10は、白色のメッシュ状のシート11と、シート11に施され、一方の面を形成する黒色の塗膜13と、を備えている。この場合、一方の面が黒色であり、他方の面が白色であって、熱を通しにくく、且つ黒色側の面からの透視性の良い防護ネット10を容易に製造することができる。
【0050】
実施例1の防護ネット10は、建築物20の外壁面の外側に組み立てられた仮設足場30に取り付けられた状態おいて、黒色の面が建築物20側を向き、白色の面が外部空間40側を向いている。つまり防護ネット10は、形成される面が鉛直方向に広がるように広げた際、直射日光が当たる面が白色である。この場合、防護ネット10は、直射日光による熱を通しにくく、防護ネット10よりも建築物20側の内部温度の上昇を抑制し、建築物20側から外部空間40へ向けての透視性がよく、居住者は圧迫感を抑制することができる。
【0051】
実施例1の防護ネット10の製造方法は、白色のメッシュ状のシートの一方の面に黒色の塗料を塗装する。この場合、一方の面が黒色であり、他方の面が白色であり、熱を通しにくく、且つ黒色側の面から透視性の良い防護ネット10を容易に製造することができる。
【0052】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例1に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1の防護ネットにおいて、一方の面の黒色はマンセル値における明度を示すマンセルバリューの値が1.0から4.5までの範囲であればよく、他方の面の白色はマンセル値における明度を示すマンセルバリューの値が7.0からN9.5までの範囲であればよく、より好ましくはマンセルバリューの値が8.7以上であるとよい。
(2)実施例1の防護ネットは、白色のメッシュ状のシートに黒色の塗料を塗装して、白色のシートの一方の面を黒色の塗膜で形成したが、黒色のメッシュ状のシートに白色の塗料を塗装して、黒色のシートの一方の面を白色の塗膜で形成してもよい。
(3)実施例1の防護ネットは、厚さ方向の断面において、黒色と白色の境界が厚さ方向の中心線よりも黒色側に偏っていたが、黒色と白色の境界が厚さ方向の中央であって一方に偏っていなくてもよい。
(4)実施例1の防護ネットは、黒色の塗膜をインクジェット印刷機によって形成したが、塗膜はグラビア印刷機によって形成してもよい。
(5)実施例1の防護ネットは、JIS A8952に定められた建築工事用シートの性能基準の2類の要件を満たすメッシュ状のシートを利用したが、1類の要件を満たすシートであってもよい。
(6)実施例1の防護ネットは、JIS A8952に定められた建築工事用シートの性能基準の2類の要件を満たし、糸の太さが500d(デニール)であり、1平方インチ(2.54cm×2.54cm)当り、縦糸及び横糸が18本ずつ存在するメッシュ状のシートを利用したが、1平方インチ当たりの縦糸13本及び横糸18本のメッシュ状のシート等、糸の太さ、1平方インチ当たりの縦糸及び横糸の本数が異なっていてもよい。例えば、以下の表に示すような防炎加工された塩化ビニール樹脂製のシートA~シートDであってもよい。シートA~シートCは、JIS A8952に定められた建築工事用シートの性能基準の2類の要件を満たし、シートDは、JIS A8952に定められた建築工事用シートの性能基準の1類の要件を満たす。シートA~シートCの250d(デニール)のフィラメントカウントは48本であり、500d(デニール)のフィラメントカウントは96本である。シートDの1000d(デニール)のフィラメントカウントは96本であり、2000d(デニール)のフィラメントカウントは192本である。
【0053】
【符号の説明】
【0054】
10,60A,60B,60C…防護ネット
11…シート
14…塗膜
20…建築物
30…仮設足場