(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053703
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】pH応答性水溶性ポリマーおよびそれを用いたシアル酸の標識方法
(51)【国際特許分類】
C08F 220/34 20060101AFI20230406BHJP
C07H 13/12 20060101ALI20230406BHJP
C08F 220/10 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
C08F220/34
C07H13/12
C08F220/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021162895
(22)【出願日】2021-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】高井 まどか
(72)【発明者】
【氏名】チョウ テイヘキ
(72)【発明者】
【氏名】増田 造
【テーマコード(参考)】
4C057
4J100
【Fターム(参考)】
4C057CC03
4C057DD02
4C057HH10
4J100AL08P
4J100AL08Q
4J100AL08R
4J100BA03P
4J100BA15P
4J100BA32Q
4J100BA32R
4J100BA34P
4J100BA44P
4J100BA65Q
4J100BC53P
4J100CA04
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4J100DA01
4J100FA19
4J100FA28
4J100FA30
4J100JA15
4J100JA50
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水溶性で細胞毒性の問題がなく、細胞選択的な代謝標識を可能にするシアル酸標識物質担体およびそれを用いたシアル酸の標識方法の開発。
【解決手段】pH応答性水溶性ポリマーであって、
(a)次式:
で示される、N-アジドアセチルマンノサミン(ManNAz)含有モノマー、(b)親水性を有する(メタ)アクリレートモノマーを構成モノマーとして含み、ポリマー側鎖または主鎖末端に標的指向性分子を有する、前記pH応答性水溶性ポリマー。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH応答性水溶性ポリマーであって、
(a)次式:
【化1】
[式中、Rは、メチル基または水素原子である。]
で示される、N-アジドアセチルマンノサミン(ManNAz)含有モノマー、
(b)親水性を有する(メタ)アクリレートモノマー
を構成モノマーとして含み、
ポリマー側鎖または主鎖末端に標的指向性分子を有する、
前記pH応答性水溶性ポリマー。
【請求項2】
請求項1に記載のpH応答性水溶性ポリマーであって、前記構成モノマーとして
(c)標的指向性分子を有する(メタ)アクリレートモノマー
をさらに含む、前記pH応答性水溶性ポリマー。
【請求項3】
請求項1に記載のpH応答性水溶性ポリマーであって、
ポリマー主鎖末端に標的指向性分子を有する、前記pH応答性水溶性ポリマー。
【請求項4】
前記(b)の(メタ)アクリレートモノマーが、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA);ポリ(エチレングリコール)メタクリレート(PEGMA);および
次式:
【化2】
で示される双性イオン型モノマーからなる群より選択される1種または2種以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載のpH応答性水溶性ポリマー。
【請求項5】
前記(b)の(メタ)アクリレートモノマーが、2-メタクリルロイルオキシエチルオスホリルコリン(MPC)である、請求項1から3のいずれか一項に記載のpH応答性水溶性ポリマー。
【請求項6】
前記標的指向性分子が、抗体、アプタマー、レクチン、ペプチド、およびリガンドからなる群より選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載のpH応答性水溶性ポリマー。
【請求項7】
前記pH応答性水溶性ポリマーが、次式:
【化3】
[式中、l、mおよびnは、それぞれ独立して、1~98の整数であり、ただし、l+m+n=100であり、Aは、標的指向性分子を表し、---Aは、標的指向性分子が側鎖末端に共有結合していることを表し、ポリマー骨格中の-co-はモノマーの共有結合部位を表し、各モノマーユニットの配列は特に限定されなく、ランダム共重合またはブロック共重合のいずれでもよい。]
で示される、請求項2に記載のpH応答性水溶性ポリマー。
【請求項8】
次式:
【化4】
[式中、l、mおよびnは、それぞれ独立して、1~98の整数であり、ただし、l+m+n=100であり、ポリマー骨格中の-co-はモノマーの共有結合部位を表し、各モノマーユニットの配列は特に限定されなく、ランダム共重合またはブロック共重合のいずれでもよい。]
で示される、請求項7に記載のpH応答性水溶性ポリマーの前駆体ポリマー。
【請求項9】
前記pH応答性水溶性ポリマーが、次式:
【化5】
[式中、mおよびnは、それぞれ独立して、1~99の整数であり、ただし、m+n=100であり、Aは、標的指向性分子を表し、---Aは、標的指向性分子が主鎖末端に共有結合していることを表し、ポリマー骨格中の-co-はモノマーの共有結合部位を表し、各モノマーユニットの配列は特に限定されなく、ランダム共重合またはブロック共重合のいずれでもよい。]
で示される、請求項3に記載のpH応答性水溶性ポリマー。
【請求項10】
次式:
【化6】
[式中、mおよびnは、それぞれ独立して、1~99の整数であり、ただし、m+n=100であり、Zは、-COOH、-NH
2、、-SHおよび-NHSからなる群より選ばれる反応性基であり、ポリマー骨格中の-co-はモノマーの共有結合部位を表し、各モノマーユニットの配列は特に限定されなく、ランダム共重合またはブロック共重合のいずれでもよい。]
で示される、請求項9に記載のpH応答性水溶性ポリマーの前駆体ポリマー。
【請求項11】
ジスルフィド結合を有するジ(メタ)アクリレートモノマーを構成モノマーとしてさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のpH応答性水溶性ポリマー。
【請求項12】
ナノ粒子またはナノゲルの形態である、請求項11に記載のpH応答性水溶性ポリマー。
【請求項13】
請求項1から7、9、11および12のいずれか一項に記載のpH応答性水溶性ポリマーを含む、細胞表面上のシアル酸を標識するためのシアル酸標識物質担体。
【請求項14】
請求項13に記載のシアル酸標識物質担体を用いて、細胞表面上のシアル酸を標識することを含む、シアル酸の標識方法。
【請求項15】
次式:
【化7】
[式中、Rは、メチル基または水素原子である。]
で示される、N-アジドアセチルマンノサミン(ManNAz)含有モノマー。
【請求項16】
4-(4, 6-ジメトキシ-1, 3, 5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMTMM)および塩基の存在下、アジド酢酸およびD-マンノサミン塩酸塩を反応させることを含む、N-アジドアセチルマンノサミン(ManNAz)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアル酸の代謝標識化合物であるN-アジドアセチルマンノサミン(ManNAz)を担持しpHに応答して放出し得るpH応答性水溶性ポリマーおよびそれを用いたシアル酸の標識方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
分子標的療法における能動的標的化は、癌細胞における特異的な物質または領域を正確に同定することができるため、標的分子の種類が重要であるナノ材料を用いた受動的標的化(透過性および保持作用の増強)とは異なる。癌細胞の細胞膜受容体としては、受容体型チロシンキナーゼ、インテグリン、上皮増殖因子受容体、および葉酸受容体などが一般的に用いられている。
シアル酸は、様々な癌細胞表面上で過剰発現し、糖鎖末端に露出していることから、感受性バイオマーカーとして機能し、多くの生理学的プロセス、例えば、シグナル伝達、細胞認識、および免疫応答に関与する標的部位として適切であると考えられる。
非天然単糖類を用いる代謝標識は、特異的に糖鎖を標識するための強力な方法である。人工試薬は、生体直交型化学によって、代謝的に標識されたアジドシアル酸に結合される。ここで、シクロオクチン類、例えばジベンゾシクロオクチンとアジドとの間の銅を含まない「クリック」反応は、低免疫原性、著しい生体安定性および生体直交性を示す。
テトラアシル化N-アジドアセチルマンノサミン(Ac4ManNAz)はシアリル化(アジドシアル酸)の前駆物質として広く用いられている。ヒドロキシル基からアシル化されたAc4ManNAzは、疎水性を与え、膜貫通能を高める。しかし、水溶液中でのAc4ManNAzの溶解を助けるために有機溶媒を使用する必要があり、それによる細胞毒性も報告されている(非特許文献1)。さらに、これらのアセチル化単糖は、タンパク質のシステイン残基と非特異的に反応する。この望ましくないS-グリコシル化は、シアリル化標識の選択性および特異性に影響を及ぼし、おそらく、反応したタンパク質の生化学的機能にも影響を及ぼす。さらに、非天然単糖は、正常細胞および疾患細胞によって利用され得る。このため、Ac4ManNAzは、多細胞系における標的細胞のシアル酸を選択的に標識することができない。
シアリル化(アジドシアル酸)標識のための細胞選択性および水溶性を改善するために、いくつかの方法が開発されている。例えば、反応性基質をアセチル化N‐アジドアセチルマンノサミンのC-1/C-6上の水酸基に修飾した非天然単糖(Ac3ManNAz)は、特定の細胞の周りまたは内側でリリースされ、代謝過程に関与するが、適用された細胞タイプは限定的である(非特許文献2など)。また、様々なナノ材料担体が利用可能であり、キトサンナノ粒子およびリポソームに捕獲されたもの、ポリマーミセルおよびデンドリマー上に共有結合されたもの、あるいはハイドロゲルのポリマーナノ粒子上にコンジュゲートされたものなど、目的の細胞のシアリル化(アジドシアル酸)標識のための代謝前駆体を送達するために用いられてきた(非特許文献3から7など)。しかし、前述した課題は依然として残っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Zhang, X.; Li, R.; Chen, Y.; Zhang, S.; Wang, W.; Li, F. Applying DNA rolling circle amplification in fluorescence imaging of cell surface glycans labeled by a metabolic method Chem. Sci. 2016, 7, 6182-6189
【非特許文献2】Chang, P. V.; Dube, D. H.; Sletten, E. M.; Bertozzi, C. R. A Strategy for the Selective Imaging of Glycans Using Caged Metabolic Precursors J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 9516-9518
【非特許文献3】Lee, S.; Koo, H.; Na, J. H.; Han, S. J.; Min, H. S.; Lee, S. J.; Kim, S. H.; Yun, S. H.; Jeong, S. Y.; Kwon, I. C.; Choi, K.; Kim, K. Chemical Tumor-Targeting of Nanoparticles Based on Metabolic Glycoengineering and Click Chemistry ACS Nano 2014, 8, 2048-2063.
【非特許文献4】Xie, R.; Hong, S.; Feng, L.; Rong, J.; Chen, X. Cell-Selective Metabolic Glycan Labeling Based on Ligand-Targeted Liposomes J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 9914-9917.
【非特許文献5】Wang, H.; Bo, Y.; Liu, Y.; Xu, M.; Cai, K.; Wang, R.; Cheng, J. In vivo cancer targeting via glycopolyester nanoparticle mediated metabolic cell labeling followed by click reaction Biomaterials 2019, 218, 119305.
【非特許文献6】Lee, S.; Jung, S.; Koo, H.; Na, J. H.; Yoon, H. Y.; Shim, M. K.; Park, J.; Kim, J.-H.; Lee, S.; Pomper, M. G.; Kwon, I. C.; Ahn, C.-H.; Kim, K. Nano-sized metabolic precursors for heterogeneous tumor-targeting strategy using bioorthogonal click chemistry in vivo Biomaterials 2017, 148, 1-15.
【非特許文献7】Wang, H.; Sobral, M. C.; Zhang, D. K. Y.; Cartwright, A. N.; Li, A. W.; Dellacherie, M. O.; Tringides, C. M.; Koshy, S. T.; Wucherpfennig, K. W.; Mooney, D. J. Metabolic labeling and targeted modulation of dendritic cells Nat. Mater. 2020, 19, 1244-1252.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況下、水溶性で細胞毒性の問題がなく、細胞選択的な代謝標識を可能にするシアル酸標識物質担体およびそれを用いたシアル酸の標識方法の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ManNAzのpH応答性をもち水溶性ポリマー担体に基づく戦略、およびシアリル化の細胞選択的代謝標識のための戦略に基づいて上記課題を解決しようとするものである。ポリマー担体は、異なるモノマーの共重合により、生体適合性と多官能性の組み合わせが可能であり、側鎖または主鎖上の多価修飾により、標的細胞との相互作用を調節することが可能である。
すなわち、本発明は、以下に示すpH応答性水溶性ポリマー、その前駆体ポリマーおよびモノマー、シアル酸標識物質担体およびそれを用いたシアル酸標識方法を提供する。また本発明は、該ポリマーおよびモノマーに用いられるManNAzの新規な合成方法を提供する。
[1]pH応答性水溶性ポリマーであって、
(a)次式:
【化1】
[式中、Rは、メチル基または水素原子である。]
で示される、N-アジドアセチルマンノサミン(ManNAz)含有モノマー、
(b)親水性を有する(メタ)アクリレートモノマー
を構成モノマーとして含み、
ポリマー側鎖または主鎖末端に標的指向性分子を有する、
前記pH応答性水溶性ポリマー。
[2]前記[1]に記載のpH応答性水溶性ポリマーであって、前記構成モノマーとして
(c)標的指向性分子を有する(メタ)アクリレートモノマー
をさらに含む、前記pH応答性水溶性ポリマー。
[3]前記[1]に記載のpH応答性水溶性ポリマーであって、
ポリマー主鎖末端に標的指向性分子を有する、前記pH応答性水溶性ポリマー。
[4]前記(b)の(メタ)アクリレートモノマーが、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA);ポリ(エチレングリコール)メタクリレート(PEGMA);および
次式:
【化2】
で示される双性イオン型モノマーからなる群より選択される1種または2種以上である、前記[1]から[3]のいずれか一項に記載のpH応答性水溶性ポリマー。
[5]前記(b)の(メタ)アクリレートモノマーが、2-メタクリルロイルオキシエチルオスホリルコリン(MPC)である、前記[1]から[3]のいずれか一項に記載のpH応答性水溶性ポリマー。
[6]前記標的指向性分子が、抗体、アプタマー、レクチン、ペプチド、およびリガンドからなる群より選択される、前記[1]から[5]のいずれか一項に記載のpH応答性水溶性ポリマー。
[7]前記pH応答性水溶性ポリマーが、次式:
【化3】
[式中、l、mおよびnは、それぞれ独立して、1~98の整数であり、ただし、l+m+n=100であり、Aは、標的指向性分子を表し、---Aは、標的指向性分子が側鎖末端に共有結合していることを表し、ポリマー骨格中の-co-はモノマーの共有結合部位を表し、各モノマーユニットの配列は特に限定されなく、ランダム共重合またはブロック共重合のいずれでもよい。]
で示される、前記[2]に記載のpH応答性水溶性ポリマー。
[8]次式:
【化4】
[式中、l、mおよびnは、それぞれ独立して、1~98の整数であり、ただし、l+m+n=100であり、ポリマー骨格中の-co-はモノマーの共有結合部位を表し、各モノマーユニットの配列は特に限定されなく、ランダム共重合またはブロック共重合のいずれでもよい。]
で示される、前記[7]に記載のpH応答性水溶性ポリマーの前駆体ポリマー。
[9]前記pH応答性水溶性ポリマーが、次式:
【化5】
[式中、mおよびnは、それぞれ独立して、1~99の整数であり、ただし、m+n=100であり、Aは、標的指向性分子を表し、---Aは、標的指向性分子が主鎖末端に共有結合していることを表し、ポリマー骨格中の-co-はモノマーの共有結合部位を表し、各モノマーユニットの配列は特に限定されなく、ランダム共重合またはブロック共重合のいずれでもよい。]
で示される、前記[3]に記載のpH応答性水溶性ポリマー。
[10]次式:
【化6】
[式中、mおよびnは、それぞれ独立して、1~99の整数であり、ただし、m+n=100であり、Zは、-COOH、-NH
2、-SHおよび-NHSからなる群より選ばれる反応性基であり、ポリマー骨格中の-co-はモノマーの共有結合部位を表し、各モノマーユニットの配列は特に限定されなく、ランダム共重合またはブロック共重合のいずれでもよい。]
で示される、前記[9]に記載のpH応答性水溶性ポリマーの前駆体ポリマー。
[11]ジスルフィド結合を有するジ(メタ)アクリレートモノマーを構成モノマーとしてさらに含む、前記[1]から[6]のいずれか一項に記載のpH応答性水溶性ポリマー。
[12]ナノ粒子またはナノゲルの形態である、前記[11]に記載のpH応答性水溶性ポリマー。
[13]前記[1]から[7]、[9]、[11]および[12]のいずれか一項に記載のpH応答性水溶性ポリマーを含む、細胞表面上のシアル酸を標識するためのシアル酸標識物質担体。
[14]前記[13]に記載のシアル酸標識物質担体を用いて、細胞表面上のシアル酸を標識することを含む、シアル酸の標識方法。
[15]次式:
【化7】
[式中、Rは、メチル基または水素原子である。]
で示される、N-アジドアセチルマンノサミン(ManNAz)含有モノマー。
[16]4-(4, 6-ジメトキシ-1, 3, 5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMTMM)および塩基の存在下、アジド酢酸およびD-マンノサミン塩酸塩を反応させることを含む、N-アジドアセチルマンノサミン(ManNAz)の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、細胞表面上のシアル酸を標識するための新規なシアル酸標識物質担体およびそれを用いたシアル酸の標識方法を提供することができる。本発明のシアル酸標識物質担体は、水溶性で細胞毒性の問題がなく、細胞選択的な代謝標識を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】(A)フリーラジカル重合によるPMLMn合成、(B)HepG2特異的シアリル化標識およびイメージング戦略(すなわち、ポリマー-ASGPR認識媒介細胞内在化、代謝前駆体(ManNAz)放出、および生体直交化学に基づくシグナル分子修飾)を示す図である。
【
図2】(A)F-PMAnの化学構造、ならびにF-PMAnと共にインキュベートしたHepG2細胞のCLSMイメージングおよび平均蛍光強度(MFI)、(B)F-PMA50-LA40の化学構造、ならびにF-PMA50-LAmとインキュベートしたHepG2細胞のCLSMイメージングおよびMFI(スケールバー:20μm)(*: P ≦ 0.05、**: P ≦ 0.01、***: P ≦ 0.001)、(C1)HepG2細胞内のF-PMA50-LA40の局在画像化、培養時間0.5時間および2時間、ならびにLysoTrakcer(TM)Green DND-26プローブを用いた解析(スケールバー:10μm)(F-PMA50-LA40:λ
ex=561 nm; LysoTrakcer(TM)Green:λ
ex=488 nm)、(C2)および(C3)C1の撮像における線L1およびL2の蛍光強度分布に基づくF-PMA50-LA40およびLysoTrakcer(TM)Greenの共存評価を示す図である。
【
図3】(A)MACE-ManNAzの合成経路、(B)ManNAzおよびMACE-ManNAzのFTIRスペクトル、(C1)正イオンモードにおけるMACE-ManNAzのESI-質量スペクトル、(C2)および(C3)ESI-pH 5.0緩衝液(0.1μmol/Lクエン酸緩衝液)で約3日間処理したMACE-ManNAzの質量スペクトル(それぞれ陽性(C2)および陰性(C3)イオンモードで検出(注射濃度:1 g/mL))を示す図である。
【
図4】(A)PMLMnの化学構造、(B)PMM、PMLM50、およびPMLの
1H-NMRスペクトル(溶剤: D
2O)、(C)pH 5.0、6.0、7.0、8.0の緩衝液で処理した条件下でのCy5修飾ManNAc残基の累積放出量と放出時間(pH 5.0緩衝液:0.1 mol/Lクエン酸緩衝液; pH 6.0、pH 7.0、pH 8.0緩衝液:0.1 mol/Lリン酸緩衝液)、(D)CCK-8を用いたPMLM50のHepG2細胞毒性試験結果を示す図である。
【
図5】(A)異なる濃度のPMLM50と共にインキュベートしたHepG2細胞のCLSMイメージングおよび(B)そのMFI、(C)100μMおよび200μMのPML、PMM、およびManNAzと共にインキュベートしたHepG2細胞のCLSMイメージングおよび(D)そのMFI、(E)100μMおよび200μMのPMLM50とインキュベートされたHeLaおよびMCF-7細胞のCLSMイメージングおよび(F)そのMFI(PMLM50とインキュベートされたHepG2細胞のMFIは、AおよびBに基づく)(スケールバー: 20μm)(T試験を群比較のために使用、ns: P>0.05、**:P≦0.05、**: P≦0.01、***: P≦0.001)を示す図である。
【
図6】(A、B)異なる濃度の(A)PMLM100および(B)PMLM200と共にインキュベートしたHepG2細胞のCLSMイメージング、(C)そのMFI、(D、F)CLSMイメージングおよび(E、G)100倍および200倍の(D、E)PMLM100および(F、G)PMLM200と共にインキュベートしたHeLaおよびMCF-7細胞のMFIを示す。(10×、25×、25×、50×、100×、および200×は
図5(A)および(B)のPMLM50の10、25、50、100、および200μMに対応する同じ質量濃度であった(C)、(E)および(G)のPMLM50でインキュベートしたHepG2細胞のMFIは、
図5(A)および(B)に表されるデータに基づいていた)(スケールバー:20μm)(群比較にはT試験を使用、ns: P>0.05、*: P≦0.05 **: P≦0.01、***: P≦0.001)
【
図7-S1】MPC/APMAの異なる供給比7:3(PMA70)、5:5(PMA50)、および3:7(PMA30)を有するコポリマーの(A)化学構造、(B)
1H-NMRスペクトル(溶媒: D
2O)を示す図である。
【
図7-S2】PMA70、PMA50およびPMA30の正規化GPCトレースを示す図である。
【
図7-S3】蛍光MPC-ポリマー(F-PMAn)の調製のための合成経路を示す図である。
【
図7-S4】F-PMAnの
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図7-S5】PMAnに基づくPMA50-LAmの調製のための合成経路を示す図である。
【
図7-S6】PMA50-LAmの
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図7-S7】LA修飾蛍光MPC-ポリマー(F-PMA50-LAm)の調製のための蛍光分子修飾を示す図である。
【
図7-S8】F-PMA50-LAmの
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図7-S9】PMA50-LA40およびF-PMA50-LA40の各水溶液(0.5 mg/mL)の(A)UV-Vis吸収スペクトル、(B)フォトルミネセンス(PL)スペクトル(λex = 543 nm)、ならびに(C)緑色光の下で観察された画像を示す図である。
【
図7-S10】0、0.05、0.1、0.25、0.5、および1 mg/mLの濃度でF-PMA50-LA40と共にインキュベートしたHepG2細胞の(A)CLSMイメージング、(B)平均蛍光強度(MFI)(スケールバー:20μm)を示す図である。0.5 mg/mLの蛍光ポリマーを以下の実験で使用して、F-PMA50-LAmおよびF-PMAnの細胞内在化を研究した。
【
図7-S11】LAEMA(2-lactobionamidoethy methacrylate)の合成経路を示す図である。
【
図7-S12】異なる鎖長を有するPMLM50、PMLM100、およびPMLM200の
1H-NMRスペクトル(溶媒: D
2O)を示す図である。
【
図7-S13】PMM、PML、PMLM50、PMLM100およびPMLM200の正規化GPCトレースを示す図である。
【
図7-S14】PMLM50、PMLM100およびPMLM200のFTIRスペクトルを示す図である。
【
図7-S15】(A)PMM-Cy5の化学構造、(B)PMMおよびPMM-Cy5の
1H-NMRスペクトル(右上のパネルの画像は、PMMおよびPMM-Cy5、溶媒: D
2Oを表す)、(C)水中のPMMおよびPMM-Cy5のUV-Vis吸収スペクトルを示す図である。
【
図8】シアル酸の標識方法の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の各実施形態についてより具体的に説明する。
【0009】
1.pH応答性水溶性ポリマー
本発明のpH応答性水溶性ポリマーは、
(a)次式:
【化8】
[式中、Rは、メチル基または水素原子である。]
で示される、N-アジドアセチルマンノサミン(ManNAz)含有モノマー(以下、モノマー(a)という。)、
(b)親水性を有する(メタ)アクリレートモノマー(以下、モノマー(b)という。)
を構成モノマーとして含み、
ポリマー側鎖または主鎖末端に標的指向性分子を有することを特徴とする。
本発明のpH応答性水溶性ポリマーは、構成モノマーとしてモノマー(a)および(b)を含むことにより、ポリマー側鎖末端に水溶性のManNAzを担持し、pH変化に応答してManNAzを放出することを可能にし、さらに、親水性モノマーを共重合させることで、水溶性を改善して細胞毒性を回避することができる。本発明では、ManNAzがアシル化されていないため、タンパク質のシステイン残基との非特異的反応を抑制することができ、細胞選択性を有している。
また、本発明のpH応答性水溶性ポリマーは、ポリマー側鎖または主鎖末端に標的指向性分子を有することで、細胞選択性をより高めることができる。
本発明では、構成モノマーおよび標的指向性分子の構成比率を適宜選択し、ポリマー側鎖または主鎖末端を多価修飾することにより、標的細胞との相互作用を調節することを可能にする。
【0010】
以下、pH応答性水溶性ポリマーの各構成要素および具体例等について詳しく説明する。
【0011】
<モノマー(a)>
モノマー(a)は、ManNAzが有するヒドロキシ基の1つにカルボニルオキシエチルが結合し、pH変化、特にpHが酸性側に変化することに応答してManNAzを放出するように設計されている。ここでは、ManNAzが有する4つのヒドロキシ基のいずれにカルボニルオキシエチルが結合していてもよい。前述したとおり、モノマー(a)において、ManNAzはアシル化されていないため、タンパク質のシステイン残基と非特異的に反応することなく、細胞選択性を有している。また、親水性であり、水溶液に溶解させるために有機溶媒を使用する必要がないため、細胞毒性を回避することができる。
【0012】
モノマー(a)は、例えば、以下に示した合成経路で得ることができる。
【化9】
[式中、Rは、メチル基または水素原子である。]
【0013】
(工程1)
まず、4-ニトロフェニルクロロホルメート(2)を、脱水ジクロロメタン(DCM)に溶解し、この溶液に脱水DCM中の脱水ピリジンを添加する。この混合物に、脱水DCM中の2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(1)を低温(例えば約0℃)でゆっくり滴下し、室温に加温し、不活性雰囲気下で撹拌しながら反応させる。反応時間は特に限定されないが、通常、約30~50時間程度である。
副生成物の生成を抑えるため、4-ニトロフェニルクロロホルメート(2)は、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(1)の当量またはやや過剰に用いることが好ましく、例えば、1.0~1.2当量用いることが好ましい。
ピリジンは、他の塩基であってもよく、例えば、トリメチルアミン、N, N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、無機塩基(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムなど)などを用いることができる。
DCMは、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(1)および4-ニトロフェニルクロロホルメート(2)に対して不活性なものであれば他の有機溶媒であってもよく、例えば、ジクロロエタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素;テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒;トルエン、アセトニトリル、N, N-ジメチルホルムアミド(DMF)、酢酸エチルなどが好ましく用いられる。
反応後、溶媒を真空除去し、混合物をジエチルエーテル、次いで、塩化水素および飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムを添加して乾燥し濾過し、必要に応じて有機合成において通常用いられる方法(例えば、溶媒抽出、再結晶、カラムクロマトグラフィなど)で精製して、反応混合物から目的の化合物である2-((4-ニトロフェノキシ)カルボニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート(3)を得ることができる。
【0014】
(工程2)
ManNAzを無水ピリジンに溶解し、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)および工程1で得られた2-((4-ニトロフェノキシ)カルボニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート(3)を順に加える。混合物を室温下で約20~30時間反応させる。
DMAPは、他の求核触媒であってもよく、例えば、トリエチレンジアミン(TEDA)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、その他のルイス塩基などを用いることができる。
副生成物の生成を抑えるため、ManNAzは、2-((4-ニトロフェノキシ)カルボニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート(3)の当量またはやや過剰に用いることが好ましく、例えば、1.1~1.4当量用いることがより好ましい。
ピリジンは、他の有機溶媒であってもよく、例えば、THF、DMFなどが好ましく用いられる。
反応後、溶媒を真空除去し、必要に応じて有機合成において通常用いられる方法(例えば、溶媒抽出、再結晶、カラムクロマトグラフィなど)で精製して、反応混合物から目的の化合物(N-アジドアセチルマンノサミン)カルボニルオキシエチル(メタ)アクリレート(モノマー(a))を得ることができる。
【0015】
化合物(1)として、2-ヒドロキシエチルメタクリレートを用いることで、(N-アジドアセチルマンノサミン)カルボニルオキシエチルメタクリレート(MACE-ManNAz)を得ることができる。
また、化合物(1)として、2-ヒドロキシエチルアクリレートを用いることで、(N-アジドアセチルマンノサミン)カルボニルオキシエチルアクリレート(ACE-ManNAz)を得ることができる。
【0016】
<モノマー(b)>
モノマー(b)は、ラジカル重合によりモノマー(a)と容易に重合することができる。モノマー(b)を構成モノマーとして含むことにより、pH応答性水溶性ポリマーの水溶性を高めることができる。
モノマー(b)としては、親水性を有するものであれば特に限定されないが、生体適合性に優れているものであることが好ましい。
例えば、モノマー(b)としては、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA);ポリ(エチレングリコール)メタクリレート(PEGMA);および
次式:
【化10】
で示される双性イオン型モノマーからなる群より選択される1種または2種以上であることが好ましい。また、これらのメタクリレートモノマーに対応するアクリレートモノマーであってもよい。これらは市販されている。
これらの中でも、生体との親和性が極めて高く、タンパク質および細胞との非特異的相互作用を弱める効果があることから、双性イオン型モノマーが好ましく、それらの効果に優れている点で2-メタクリルロイルオキシエチルオスホリルコリン(MPC)が特に好ましい。
【0017】
前述したとおり、モノマー(a)および(b)は、ラジカル重合によって容易に共重合可能である。これらの重合比率は特に限定されなく、標的細胞に応じて適宜選択することができ、それにより標的細胞との相互作用を調節することができる。
【0018】
<標的指向性分子>
標的指向性分子は、目的の標的細胞に応じて適宜選択することができる。例えば、抗体、アプタマー、レクチン、ペプチド(例えば、RGDペプチドなど)、およびリガンド(例えば、葉酸、グリカンなど)からなる群より選択されるものが挙げられる。
標的指向性分子は、標的細胞との相互作用を容易にするため、ポリマー側鎖末端または主鎖末端の少なくともいずれか一方に有していることが好ましい。
ポリマー側鎖末端に標的指向性分子を導入する場合は、例えば、構成モノマーとして
(c)標的指向性分子を有する(メタ)アクリレートモノマー(以下、モノマー(c)という。)
を用い、モノマー(a)および(b)とラジカル重合させることで、容易に導入することができる(後述する実施形態1参照)。
また、ポリマー主鎖末端に標的指向性分子を導入する場合は、ポリマー主鎖末端に反応性基を導入し、この反応性基と共有結合し得る官能基および標的指向性分子を有する化合物と反応させることによってポリマー主鎖末端に標的指向性分子を導入することができる(後述する実施形態2参照)。
当業者であれば、標的分子に応じて適切な標的指向分子を選択し、公知の方法および技術水準に基づいて、ポリマーの適切な位置を選択して該標的指向分子を導入することができる。
【0019】
本発明のpH応答性水溶性ポリマーの実施形態の一例について説明する。
【0020】
<pH応答性水溶性ポリマーの具体例(実施形態1)>
本発明のpH応答性水溶性ポリマーの一実施形態として、ポリマー側鎖末端に標的指向性分子を有するものとしては、次式:
【化11】
[式中、l、mおよびnは、それぞれ独立して、1~98の整数であり、ただし、l+m+n=100であり、Aは、標的指向性分子を表し、---Aは、標的指向性分子が側鎖末端に共有結合していることを表し、ポリマー骨格中の-co-はモノマーの共有結合部位を表し、各モノマーユニットの配列は特に限定されなく、ランダム共重合またはブロック共重合のいずれでもよい。]
で示される構造を有するものが挙げられる。
【0021】
ここでは、前記モノマー(a)、(b)および(c)を、水性媒体中、フリーラジカル重合により共重合することにより、pH応答性水溶性ポリマーを得ることができる。モノマー(c)によって、ポリマー側鎖末端に標的指向性分子が導入されている。実施形態1によれば、ポリマー側鎖上で多価修飾が可能であり、標的細胞に応じて標的指向性分子を導入することができる。
各モノマー(a)、(b)および(c)の重合比率(すなわち、l:m:n)は、標的細胞に応じて適宜選択することができ、それにより標的細胞との相互作用を調節することができる。
なお、式中、構成モノマーとして、モノマー(a)、(b)および(c)のみを示しているが、本発明の目的を損なわないものであれば、任意の他のモノマーが共重合していてもよい。
また、各モノマーユニットの配列は特に限定されない。ランダム共重合またはブロック共重合のいずれでもよく、標的細胞に応じて適宜配列を制御すればよい。
【0022】
式中、標的指向性分子Aは、モノマー(c)が共重合することによって側鎖末端に共有結合している。
モノマー(c)は、標的指向性分子Aを予め有していてもよい。この様なモノマー(c)としては、標的指向性分子(例えば、抗体、アプタマー、レクチン、ペプチド(例えば、RGDペプチド)、およびリガンド(例えば、葉酸、グリカンなど)からなる群より選択されるいずれか1種または2種以上)を有するアクリレートモノマーまたはメタクリレートモノマーなどが挙げられる。例えば、2-ラクトビオナミドエチルメタクリレート(LAEMA)などが挙げられる。
【0023】
あるいは、例えば、次式:
【化12】
[式中、l、mおよびnは、それぞれ独立して、1~98の整数であり、ただし、l+m+n=100であり、ポリマー骨格中の-co-はモノマーの共有結合部位を表し、各モノマーユニットの配列は特に限定されなく、ランダム共重合またはブロック共重合のいずれでもよい。]
で示される、pH応答性水溶性ポリマーの前駆体ポリマーを用い、後からモノマー(c)に相当するモノマーユニットのNH
2に、-COOHまたは-SNH(N-ヒドロキシコハク酸イミド)などの反応性基が結合した標的指向性分子Aを反応させてアミド化することにより、標的指向性分子をポリマー側鎖末端に導入し、前記pH応答性水溶性ポリマーを得ることもできる。
【0024】
この場合、例えば、次式で示される反応経路に従って、pH応答性水溶性ポリマーを得ることができる。
【化13】
【0025】
<pH応答性水溶性ポリマーの具体例(実施形態2)>
本発明のpH応答性水溶性ポリマーの他の実施形態として、ポリマー主鎖末端に標的指向性分子を有するものとしては、次式:
【化14】
[式中、mおよびnは、それぞれ独立して、1~99の整数であり、ただし、m+n=100であり、Aは、標的指向性分子を表し、---Aは、標的指向性分子が主鎖末端に共有結合していることを表し、ポリマー骨格中の-co-はモノマーの共有結合部位を表し、各モノマーユニットの配列は特に限定されなく、ランダム共重合またはブロック共重合のいずれでもよい。]
で示されるものが挙げられる。
【0026】
ここでは、前記モノマー(a)および(b)を、水性媒体中、フリーラジカル重合により共重合し、さらに、ポリマー主鎖に反応性基を導入し、さらに、この反応性基と共有結合し得る官能基および標的指向性分子を有する化合物と反応させることによってポリマー主鎖末端に標的指向性分子を導入することができる。この方法によれば、重合反応がシンプルで制御し易い。
【0027】
この場合も、モノマー(a)および(b)の重合比率(すなわち、m:n)は、標的細胞に応じて適宜選択することができ、それにより標的細胞との相互作用を調節することができる。
また、式中、構成モノマーとしては、モノマー(a)および(b)のみを示しているが、本発明の目的を損なわないものであれば、任意の他のモノマーが共重合していてもよい。
各モノマーユニットの配列は特に限定されない。ランダム共重合またはブロック共重合のいずれでもよく、標的細胞に応じて適宜配列を制御すればよい。
【0028】
実施形態2では、例えば、次式:
【化15】
[式中、mおよびnは、それぞれ独立して、1~99の整数であり、ただし、m+n=100であり、Zは、-COOH、-NH
2、、-SHおよび-NHSからなる群より選ばれる反応性基であり、ポリマー骨格中の-co-はモノマーの共有結合部位を表し、各モノマーユニットの配列は特に限定されなく、ランダム共重合またはブロック共重合のいずれでもよい。]
で示される、pH応答性水溶性ポリマーの前駆体ポリマーに、反応性基Zと共有結合し得る官能基および標的指向性分子を有する化合物を反応させることによって、ポリマー主鎖末端に標的指向性分子を導入することができる。
【0029】
反応性基Zが-COOHである場合、例えば、ポリマー主鎖末端に、4-シアノ-4-[(フェニルカルボノチオイル)チオ]ペンタン酸(CPD)、3-[[(ベンジルチオ)カルボノチオイル]チオ]プロピオン酸、S-(チオベンゾイル)チオグリコール酸などの-COOHを有するRAFT(Reversible Addition Fragmentation chain Transfer)重合試薬を反応させることで、-COOHを導入することができる。また、-COOHは、活性エステル体であるNHS体(-NHS)であってもよい。-NHSは、活性化試薬N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を反応させることで導入することができる。あるいは、RAFT重合試薬として、4-シアノ-4-(フェニルカルボノチオイルチオ)ペンタン酸N-ヒドロキシスクシンイミジルを反応させることで、ポリマー主鎖末端に直接導入してもよい。
-COOHまたはその活性エステル体(-NHS)と共有結合し得る官能基としては、-NH2および-SHが好ましく挙げられる。これらの官能基の少なくとも一つおよび標的指向性分子を有する化合物を、前記前駆体ポリマーと反応させることで、目的とするpH応答性水溶性ポリマーを得ることができる。
【0030】
この場合、例えば、次式で示される反応経路に従って、pH応答性水溶性ポリマーを得ることができる。
【化16】
【0031】
反応性基Zが、-NH2である場合、例えば、ポリマー主鎖末端に、アミノ基(-NH2)または保護されたアミノ基を有する化合物(例えば、Boc-Lys-OHなど)を反応させることで、-NH2を導入することができる。また、-NH2は、活性エステル体であるNHS体(-NHS)であってもよい。-NHSの導入方法については前述したとおりである。これと共有結合し得る官能基としては、-COOHおよび-SHが挙げられる。これらの官能基の少なくとも一つおよび標的指向性分子を有する化合物を、前記前駆体ポリマーと反応させることで、目的とするpH応答性水溶性ポリマーを得ることができる。
【0032】
反応性基Zが、-SHである場合、ポリマー主鎖末端に、スルフヒドリル基(-SH)を有する化合物(例えば、システアミンなど)を反応させることで、-SHを導入することができる。また、-SHは、活性エステル体であるNHS体(-NHS)であってもよい。-NHSの導入方法については前述したとおりである。これと共有結合し得る官能基としては、-COOHおよび-NH2が挙げられる。これらの官能基の少なくとも一つおよび標的指向性分子を有する化合物を、前記前駆体ポリマーと反応させることで、目的とするpH応答性水溶性ポリマーを得ることができる。
【0033】
<pH応答性水溶性ポリマーの具体例(実施形態3)>
本発明のpH応答性水溶性ポリマーの他の実施形態として、ナノ粒子またはナノゲルの形態のpH応答性水溶性ポリマーが挙げられる。このようなpH応答性水溶性ポリマーは、構成モノマーとして前記モノマー(a)、(b)および(c)に加えて、ジスルフィド結合を有するジ(メタ)アクリレートモノマーを用い、フリーラジカル重合により共重合することにより得ることができる。ナノ粒子またはナノゲルの表面に標的指向性分子を結合させるため、標的指向性分子は、ナノ粒子またはナノゲルを形成後に共有結合により導入することが好ましい。
【0034】
例えば、次式で示される反応経路に従って、ナノ粒子またはナノゲルの形態のpH応答性水溶性ポリマーを得ることができる。
【化17】
【0035】
これらの構成モノマーをフリーラジカル重合により共重合することで、ナノ粒子またはナノゲルを形成することができ、その表面に-NH2を有するpH応答性水溶性ポリマーの前駆体ポリマーを得ることができる。
各モノマーの重合比率は、標的細胞に応じて適宜選択することができ、それにより標的細胞との相互作用を調節することができる。また、本発明の目的を損なわないものであれば、任意の他のモノマーが共重合していてもよい。
この前駆体ポリマーに、-NH2と共有結合し得る官能基の少なくとも一つおよび標的指向性分子を有する化合物を反応させることで、ナノ粒子またはナノゲルの表面に標的指向性分子を結合させることができる。-NH2と共有結合し得る官能基としては、-COOH、-SHおよび-NHSなどが挙げられる。-COOHおよび標的指向性分子を有する化合物としては、例えば、抗体、ペプチド(例えば、RGDペプチド)、ラクトビオン酸、葉酸などが挙げられる。-NHSおよび標的指向性分子を有する化合物としては、例えば、NHS-PEG-RGD、 NHS-PEG-葉酸、NHS-PEG-ビオチンなどが挙げられる。
あるいは、前駆体ポリマーに、標的指向性分子を結合するためのリンカーを反応させ、これを介して、標的指向性分子を導入してもよい。そのようなリンカーとしては、例えば、SH-PEG-NHS、マレイミド-PEG-NHSなどが挙げられる。
【0036】
このような本発明のpH応答性水溶性ポリマーは、水溶性で細胞毒性の問題がなく、細胞選択的な代謝標識が可能であるため、細胞表面上のシアル酸を標識するためのシアル酸標識物質担体として有用である。
【0037】
2.シアル酸標識物質担体およびシアル酸の標識方法
本発明のシアル酸標識物質担体は、細胞表面上のシアル酸を標識するためのシアル酸標識物質担体であって、前記pH応答性水溶性ポリマーを含むことを特徴とする。
前記pH応答性水溶性ポリマーは、モノマー(a)を構成モノマーとして含むことにより、水溶性であり、ManNAzを担持することができ、pHが酸性側に変化することに応答してManNAzを放出することができる。ManNAzはアシル化されていないため、タンパク質のシステイン残基と非特異的に反応することなく、細胞選択性を有している。また、親水性であり、水溶液に溶解させるために有機溶媒を使用する必要がないため、細胞毒性を回避することができる。
前記pH応答性水溶性ポリマーは、モノマー(b)を構成モノマーとしてさらに含むことにより、水溶性を高めることができ、タンパク質吸着を減少させ、非特異的相互作用を回避することに貢献することができる。
さらに、モノマー(c)を構成モノマーとして含むことによりポリマー側鎖末端に標的指向性分子を導入するか(実施形態1)、ポリマー主鎖末端に共有結合を介して標的指向性分子を導入するか(実施形態2)、あるいは、ジスルフィド結合を有するジ(メタ)アクリレートモノマーを構成モノマーとして含むことによりナノ粒子またはナノゲルの形態にし、その表面に共有結合を介して標的指向性分子を導入する(実施形態3)ことで、標的細胞に対する特異的相互作用を高めることができる。
前記pH応答性水溶性ポリマーは、構成モノマーの重合比率や標的指向性分子の位置を適宜選択することが可能であり、それにより標的細胞との相互作用を調節することができる。
本発明のシアル酸標識物質担体は、このような機能を有するpH応答性水溶性ポリマーにシアル酸標識物質であるManNAzを担持させることにより、細胞毒性を回避しながら、細胞表面上のシアル酸を選択的に標識することができる。
【0038】
図8は、シアル酸の標識方法の一例を説明するための図である。
【0039】
図8では、(N-アジドアセチルマンノサミン)カルボニルオキシエチルメタクリレート(MACE‐ManNAz)(モノマー(a))、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)(モノマー(b))、および2-ラクトビオナミドエチルメタクリレート(LAEMA)(モノマー(c))の3種類のモノマーを構成モノマーとして有するpH応答性水溶性ポリマーを例として説明する。なお、このpH応答性水溶性ポリマーは一例である。上記で説明した他のpH応答性水溶性ポリマーを用いた場合も同様にして細胞表面上のシアル酸を標識することができる。
【0040】
MPCは、高水溶性であり、蛋白質吸着を減少させ、非特異的相互作用を回避するのに役立つことができ、生体適合性が高いために生体内の研究および応用に多く使用されてきた。LA残基を有するLAEMAは標的分子(ここでは肝細胞膜上に高発現するレセプター:ASGPR)を認識する機能があり、細胞表面上のASGPRに結合することができ、細胞内在化を誘導する(工程I)。ASGPRを含まない他の細胞はこのpH応答性水溶性ポリマーとは結合せず、MPCが有するホスホリルコリン(PC)成分の存在のために、細胞へのポリマー吸着が阻害される。
pH応答性水溶性ポリマーを細胞に取り込んだ後、側鎖の炭酸エステル結合が加水分解により切断されて、親水性代謝前駆体(N-アジドアセチルマンノサミン、ManNAz)を酸性条件下で放出する(工程II)。次いで、ManNAzはシアリル化の代謝過程に導入され(工程III)、アジド(N3)を有するシアル酸として発現する(工程IV)。
pH応答性水溶性ポリマーから放出されたManNAzはアセチル化を伴わないため、システイン残基との反応を誘導せず、シアリル化に対する標識特異性を保証することができる。本発明では、上記のようにしてシアル酸を代謝的に標識することができる。
シアル酸を代謝標識した後は、生体直交型化学により、標識検証および画像化分析のためにシアル酸に共有結合的に生体標識色素などを修飾することができる(工程IV)。
上記は、本発明のシアル酸の標識方法の一例を示したものである。前記pH応答性水溶性ポリマーは、普遍的なプラットフォームであると考えることができる。標的細胞に応じて標的指向性分子を変化させることによって、異なる標的細胞にも使用することができる。
【0041】
4.N-アジドアセチルマンノサミン(ManNAz)の製造方法
既に述べたとおり、従来、シアル酸代謝標識にはAc4ManNAzが使用されてきたが、Ac4ManNAzを使用すると、2つの主な欠点がある。第1に、Ac4ManNAzは疎水性であるために、使用時に細胞毒性を誘発する有機溶媒を使用する必要があるということである。第2に、アセチル化単糖は、タンパク質のシステイン残基と非特異的に反応するため、シアル酸標識に対する特異性を損ない、おそらく関連する蛋白質の機能に影響を及ぼすことである。
ManNAzは、シアル酸の代謝標識において、Ac4ManNAzと同じ機能を有するだけでなく、水溶性であり、システイン残基への望ましくない化学反応を回避することができる。さらに、本発明の戦略によれば、ManNAzの低膜貫通孔率を補うことが可能となり、その利用可能性はますます高まるものと考えられる。
そこで、本発明では、ManNAzの合成経路を最適化した新規な製造方法を提供する。
現在、D-マンノサミンおよびアジド乳酸に基づいてManNAzを合成する2つの主要な経路が知られている。
一つは、縮合剤として1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)を使用し、溶離液としてジクロロメタンとメタノールの混合物を使用してフラッシュクロマトグラフィーで精製する方法である(Steichen, S. D.; Caldorera-Moore, M.; Peppas, N. A. A review of current nanoparticle and targeting moieties for the delivery of cancer therapeutics Eur. J. Pharm. Sci. 2013, 48, 416-427.)。この方法は、pH値によって調整され、大量の溶離液を必要とする。
もう一つは、アジド酢酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステルを最初に合成し、次にD-マンノサミンと反応させる方法である(Kamaly, N.; Xiao, Z.; Valencia, P. M.; Radovic-Moreno, A. F.; Farokhzad, O. C. Targeted polymeric therapeutic nanoparticles: design, development and clinical translation Chem. Soc. Rev. 2012, 41, 2971-3010.)。この方法では中間体を経るために、工程が多い。
【0042】
本発明では、従来のプロセスを単純化し、効率的な精製を行うために、4-(4, 6-ジメトキシ-1, 3, 5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMTMM)を試薬として用いるものである。すなわち、本発明のN-アジドアセチルマンノサミン(ManNAz)の製造方法は、
4-(4, 6-ジメトキシ-1, 3, 5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMTMM)および塩基(例えば、トリエチルアミン(TEA))の存在下、アジド酢酸およびD-マンノサミン塩酸塩を反応させることを特徴とする。なお、DMTMMは水和物の形態であってもよく、これらの試薬は市販品されている。
【化18】
【0043】
まず、D-マンノサミン塩酸塩および塩基を有機溶媒中に添加する。次いで、アジド酢酸およびDMTMMを添加し、この混合物を室温で撹拌しながら反応させる。塩基としては、TEAのほか、N, N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)などを用いることができる。反応時間は特に限定されないが、通常20~40時間であり、20~30時間が好ましい。
D-マンノサミン塩酸塩および塩基を溶解させる有機溶媒としては、低級アルコールが好ましく、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコールなどが好ましく用いられる。
副生成物の生成を抑えるため、アジド酢酸、DMTMMおよび塩基はそれぞれ、D-マンノサミン塩酸塩に対して当量またはやや過剰に用いることが好ましい。特に、塩基は、D-マンノサミン塩酸塩を有機溶媒中に溶解させるため、D-マンノサミン塩酸塩に対して1当量で用いることが好ましい。
反応後、TEAを添加し、次いでジクロロメタン(DCM)などの有機溶媒を添加して洗浄し、N-メチルモルホリン(NMM)を除去することが好ましい。TEAに代えて、DIPEAなどの塩基を用いることもできる。ここでは、前記反応で用いた塩基と同じものを用いることが好ましい。例えば、前記反応で塩基としてTEAを用いた場合、TEAを用いることが好ましい。
洗浄に用いる有機溶媒としては、反応生成物に対して不活性なものであれば特に限定されないが、反応生成物は粘性であるため、反応生成物を十分に溶解できる有機溶媒が好ましく、DCMが特に好ましい。
得られた反応生成物は、必要に応じて有機合成において通常用いられる方法(例えば、溶媒抽出、再結晶、カラムクロマトグラフィなど)で精製する。本発明においては、酢酸エチルおよびメタノールによるフラッシュクロマトグラフィーによって精製することが好ましい。
上記の方法によれば、より少ない溶出液および工程数でManNAzを得ることができる。
【実施例0044】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されない。
【0045】
以下の項目について実験を行った。なお、各実験の詳細については、サポート情報に示す。
【0046】
I.実験セクション
<ポリ(MPC-co-LAEMA)(PML)、ポリ(MPC-co-MACE-ManNAz)(PMM)、およびPMLMnの調製>
MPC、LAEMA、およびMACE-ManNAzの異なるモノマー供給比を用いて、ポリマーをフリーラジカル重合によって合成した。合計0.1 Mのモノマーおよび異なる濃度の開始剤V-50を5 mLの水に溶解した(供給の詳細をサポート情報の表2に示す)。混合物をArガスで15分間バブリングにかけ、溶液中に溶解した酸素を除去した。次いで、この溶液をアルゴン雰囲気下で密封し、60℃で12時間撹拌した。ポリマーを水に対して7日間透析し、このプロセスに使用した水を毎日新鮮な水と交換した。凍結乾燥後、ポリマーを得て秤量し、重合収率を計算した。ポリマー上のモノマーの割合は1H-NMRを実施することによって算出し、ポリマーの分子量は、GPCを実施することによって測定した。
【0047】
<HepG2細胞を用いたPMLM50の細胞毒性試験>
HepG2細胞に対するPMLM50の細胞毒性を、CCK-8を用いて試験した。HepG2細胞(1×105細胞/mL)を播種し、24時間インキュベートした。PMLM50を種々の濃度で培養培地に溶解し、その後、それを細胞に添加し、細胞インキュベーター中、37℃で3日間、細胞と共にインキュベートした。洗浄を行い、新鮮な培地で置き換えた後、CCK-8アッセイを用いて細胞毒性を評価した。
【0048】
<ポリマーからのManNAzのpH応答性放出特性>
次に、1 mg/mLのCy5で修飾したPMM(PMM-Cy5)3 mLを水中で透析膜に透過させた。透析膜を紐で結び、遠心管に入れた。pH値の異なる17 mLの緩衝液を添加した(pH 5.0:0.1 mol/Lクエン酸緩衝液; pH 6.0、pH 7.0、pH 8.0:0.1 mol/Lリン酸緩衝液)。37℃のウォーターバスシェーカーにチューブを入れて振り混ぜ、一定時間経過後、透析液1 mLを取り出して検体を採取し、新たな緩衝液1 mLを加えた。UV-Vis吸収分光法を用いて測定した648 nmでの吸光度値を用いて、異なるpH条件下でのPM-Cy5の蓄積放出特性を計算した。
【0049】
<PML、PMM、およびPMLMnによる異なる細胞の共焦点レーザ走査顕微鏡(CLSM)イメージング>
種々の細胞の細胞懸濁液2 mL(1×10
5細胞/mL)を35 mmのガラス底細胞培養皿に播種し、細胞を24時間培養した。PBSで3回洗浄した後、異なるポリマー(PML、PMM、PMLM50、PMLM100、およびPMLM200)を、培養培地中の種々の濃度でこれらの細胞に添加した。
図5に示すPMLM50の質量濃度0、10、25、50、100、および200μM、ならびに
図6に示すPMLM100およびPMLM200の質量濃度10×、25×、50×、100×、および200×は、それぞれ0.19、0.47、0.94、1.89、3.77 mg/mLであった。3日間インキュベートした後、細胞をPBSで5回洗浄し、続いて4℃に約10分間置いた。次いで、PBS中25μMのDBCO-Cy5を添加し、細胞を4℃で1時間インキュベートし、蛍光分子を取り除くためにPBSで洗浄工程に供した後、細胞の固定を、PBS中4%パラホルムアルデヒドを用いて15分間行い、細胞をPBSで再度洗浄した。DAPIを含むFlouromount-Gを使用して、細胞を被覆し、CLSMイメージングのために細胞核を染色した。
DAPIおよびCy5チャネルは、CLSMソフトウェアZENのデフォルト設定を使用して選択し、それぞれ405および640 nmで励起した。Cy5チャネルのDWは645~700 nmの範囲とした。露出過多を避け、イメージングの明瞭さを維持するために、レーザ「マスターゲイン」をCy5チャンネルに対して800 Vに設定した。使用したレーザは0.2%、ピンホールは1 AU、デジタルオフセットは-10、デジタルゲインは1.0であった。
【0050】
図1において、(A)は、フリーラジカル重合によるPMLMn合成、(B)はHepG2特異的シアリル化標識およびイメージング戦略(すなわち、ポリマー-ASGPR認識媒介細胞内在化、代謝前駆体(ManNAz)放出、および生体直交化学に基づくシグナル分子修飾)を示す。
図2において、(A)は、F-PMAnの化学構造、ならびにF-PMAnと共にインキュベートしたHepG2細胞のCLSMイメージングおよび平均蛍光強度(MFI)を示す。(B)は、F-PMA50-LA40の化学構造、ならびにF-PMA50-LAmとインキュベートしたHepG2細胞のCLSMイメージングおよびMFI(スケールバー:20μm)(*: P ≦ 0.05、**: P ≦ 0.01、***: P ≦ 0.001)を示す。(C1)は、HepG2細胞内のF-PMA50-LA40の局在画像化、培養時間0.5時間および2時間、ならびにLysoTrakcer(TM)Green DND-26プローブを用いた解析(スケールバー:10μm)(F-PMA50-LA40:λ
ex=561 nm; LysoTrakcer(TM)Green:λ
ex=488nm)、(C2)および(C3)は、C1の撮像における線L1およびL2の蛍光強度分布に基づくF-PMA50-LA40およびLysoTrakcer(TM)Greenの共存評価を示す。
図3において、(A)は、MACE-ManNAzの合成経路、(B)は、ManNAzおよびMACE-ManNAzのFTIRスペクトル、(C1)は、正イオンモードにおけるMACE-ManNAzのESI-質量スペクトル、(C2)および(C3)は、ESI-pH 5.0緩衝液(0.1μmol/Lクエン酸緩衝液)で約3日間処理したMACE-ManNAzの質量スペクトル(それぞれ陽性(C2)および陰性(C3)イオンモードで検出(注射濃度:1 g/mL))を示す。
図4において、(A)は、PMLMnの化学構造、(B)は、PMM、PMLM50、およびPMLの
1H-NMRスペクトル(溶剤: D
2O)、(C)はpH 5.0、6.0、7.0、8.0の緩衝液で処理した条件下でのCy5修飾ManNAc残基の累積放出量と放出時間(pH 5.0緩衝液:0.1 mol/Lクエン酸緩衝液; pH 6.0、pH 7.0、pH 8.0緩衝液:0.1 mol/Lリン酸緩衝液)、(D)はCCK-8を用いたPMLM50のHepG2細胞毒性試験結果を示す。
図5において、(A)は、異なる濃度のPMLM50と共にインキュベートしたHepG2細胞のCLSMイメージングおよび(B)はそのMFIを示す。(C)は100μMおよび200μMのPML、PMM、およびManNAzと共にインキュベートしたHepG2細胞のCLSMイメージングおよび(D)はそのMFIを示す。(E)は100μMおよび200μMのPMLM50とインキュベートされたHeLaおよびMCF-7細胞のCLSMイメージングおよび(F)はそのMFIを示す。(PMLM50とインキュベートされたHepG2細胞のMFIは、AおよびBに基づく)(スケールバー: 20μm)(T試験を群比較のために使用、ns: P>0.05、**:P≦0.05、**: P≦0.01、***: P≦0.001)
図6において、(A、B)は、異なる濃度の(A)PMLM100および(B)PMLM200と共にインキュベートしたHepG2細胞のCLSMイメージングを示し、(C)はそのMFIを示す。(D、F)は、CLSMイメージングおよび(E、G)は100倍および200倍の(D、E)PMLM100および(F、G)PMLM200と共にインキュベートしたHeLaおよびMCF-7細胞のMFIを示した。(10×、25×、25×、50×、100×、および200×は
図5(A)および(B)のPMLM50の10、25、50、100、および200μMに対応する同じ質量濃度であった(C)、(E)および(G)のPMLM50でインキュベートしたHepG2細胞のMFIは、
図5(A)および(B)に表されるデータに基づいていた)(スケールバー:20μm)(群比較にはT試験を使用、ns: P>0.05、*: P≦0.05 **: P≦0.01、***: P≦0.001)
【0051】
II.サポート情報
1.材料
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)は、日油株式会社(東京、日本)から入手した。
シアニン3NHSエステル(NHS-Cy3)は、Abcam(Cambridge、UK)から購入した。
ラクトビオン酸(LA)、無水硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、無水硫酸マグネシウム、2-プロパノール、アセトン、ジエチルエーテル、ヘキサン、酢酸エチル、ジクロロメタン(DCM)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メタノール、およびエタノールは和光純薬工業株式会社(大阪府、日本)から購入した。
2, 2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド(V-50)、トリフルオロ酢酸、トリエチルアミン(TEA)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、ブロモ酢酸、アジ化ナトリウム、ヨウ素、グリコール酸、硝酸ナトリウム、2-モルホリノエタンスルホン酸・一水和物(MES、株式会社同仁化学研究所)、1 M塩化水素、硫酸(H2SO4)、0.1 mol/Lリン酸塩緩衝液(pH 6.0、pH 7.0、pH 8.0)、2-アミノ-2-デオキシ-D-マンノース塩酸塩(D-マンノサミン塩酸塩)、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドn水和物(DMTMM)、4%パラホルムアルデヒドリン酸塩緩衝液、Cell Counting Kit-8(CCK-8、株式会社同仁化学研究所)、酸化重水素、クロロホルム-d、メタノール-d4、脱水ジクロロメタン、脱水ピリジン、脱水メタノール、透析膜(MWCO:14,000 Da)を富士フイルム和光純薬株式会社(大阪府、日本)より購入した。
0.1 mol/Lクエン酸緩衝液(pH 5.0)は、武藤化学株式会社(東京、日本)から購入した。
1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)、4-ニトロフェニルクロロホルメート、および2-ヒドロキシエチルメタクリレートは、東京化学工業株式会社(東京、日本)から購入した。
2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩(AEMA)、N-(3-アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩(APMA)、シアニン5ジベンゾシクロオクチン(DBCO-Cy5)、およびHPLC用蒸留水は、Sigma-Aldrich(St. Louis、MO、USA)から入手した。
LysoTracker(TM)Green DND-26は、Thermo Fisher Scientific Inc(Waltham、MA、USA)から購入した。
Fluoromount-G(TM)およびDAPIを含むFluoromount-G(TM)は、Invitrogen(Carlsbad、CA、米国)から購入した。
ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン-ストレプトマイシン溶液、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH 7.4)、およびダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)はGibco(USA)から入手した。
HepG2(ヒト肝癌)、MCF-7(ヒト乳癌)、およびHeLa(ヒト子宮頸癌)細胞はAmerican Type Culture Collection(Manassas、VA、USA)から入手した。
全ての化学物質は、さらに精製することなく使用した。超純水(18MΩ)は、Milli-Q(TM)超純水製造装置(Millipore、Burlington、MA、USA)を使用して得た。
【0052】
2. 装置
核磁気共鳴(NMR)分光法(ECZ-400SおよびECZ-500R)(日本電子株式会社、東京、日本)を用いて、1H-NMRおよび13C-NMRスペクトルを収集した。
Eyela-Freeze Dryer(FD-1000、東京理化器械株式会社、東京、日本)を用いて水溶性ポリマーを調製した。
UV-Vis吸収スペクトルは、分光光度計(V-670、日本分光株式会社、東京、日本)を用いて測定し、蛍光スペクトルは、分光蛍光光度計(FP-6600、日本分光株式会社)を用いて測定した。
分子イオンの分子量は、高分解能エレクトロスプレーイオン化質量分析計(ESI-HRMS、micrOTOF II、Bruker Corp、Billerica、MA、USA)を用いて測定した。
FTIRスペクトルは、フーリエ変換赤外(FTIR)分光光度計(IRSpirit、株式会社島津製作所、京都、日本)を用いて得た。
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)システムは、日本分光株式会社から入手した。
蛍光画像は倒立共焦点レーザ走査型顕微鏡(CLSM)(LSM 800、ZEISS,Oberkochen、Germany)を用いて得た。
【0053】
3. 実験
3.1 ポリ(MPC-co-APMA)(PMAn)の調製
モノマーMPCおよびAPMAを用いて、ポリ(MPC-co-APMA)(PMAn)をフリーラジカル重合により合成した。
MPC/APMAの一連のモノマー比を有するモノマー(合計0.3 M)およびV-50(0.006 M)を水に溶解した(表1)。Arで20分間バブリングして溶存酸素を除去した後、Ar雰囲気下で混合物を密封し、60℃で12時間撹拌した。
重合後、反応溶液を水に対して3日間透析した。透析したPMAn溶液を凍結乾燥し、PMAn粉末を回収した。得られたポリマーを秤量して収率を測定した。ポリマーに対するMPCおよびAPMAの比率は
1H-NMRを実施することによって計算し、分子量は、GPCを実施することによって確認した。
図7-S1は、7:3(PMA70)、5:5(PMA50)、および3:7(PMA30)のMPC/APMAの異なる供給比を有するコポリマーの(A)化学構造、(B)
1H-NMRスペクトル(溶媒: D
2O)を示したものである。
図7-S2は、PMA70、PMA50およびPMA30の正規化GPCトレースを示したものである。
結果を表1に示す。
【0054】
【0055】
3.2 蛍光MPC-ポリマー(F-PMAn)の調製
図7-S3に示した合成経路に従って蛍光MPC-ポリマー(F-PMAn)を調製した。
3mg/mLのPMAnを、MeOH:H
2O = 1:1(v:v)の溶媒混合物に溶解し、その後、1重量%のNHS-Cy3を添加した。この混合溶液を暗所にて室温で24時間撹拌した。
次に、1 mLのMeOH中の10 mgのグリコール酸および400 mgのEDCを添加した。
さらに24時間撹拌した後、ポリマーをMeOHおよびH
2Oの混合物に対して5日間透析した。ここで、透析液のMeOHとH
2Oの体積比は、徐々に1:1、1:2、1:3、1:4、0:1まで減少した。ピンク色の固体F-PMAnを凍結乾燥によって回収した。
図7-S4にF-PMAnの
1H-NMRスペクトルを示す。
図7-S4中、点線のボックスでマークしたピークは、Cy3、溶媒: D
2Oに起因する。
【0056】
3.3 PMA50のLA修飾(PMA50-LAm)
図7-S5において、
1H-NMRの結果から導かれたPMA50におけるMPC/APMAモル分率(0.57:0.43)に従って(表1)、APMA由来のアミノ基の20%、40%、および60%の相対モル比を有するLAを用いてPMA50を修飾し、PMA50-LA20、PMA50-LA40、およびPMA50-LA60をそれぞれ得た。
具体的には、30 mgのPMA50を、6 mLの0.1 M MES緩衝液(pH 6)に溶解した。異なる量のLAおよびEDC(LAのモル数で50倍)を4 mLのMES緩衝液中で混合し、ポリマー溶液に添加した。ここで、PMAn-LA20、PMAn-LA40、およびPMAn-LA60に対して、それぞれ3.771 mg、7.542 mg、および11.313 mgのLAを用いた。
この混合物を室温で24時間撹拌した。生成物を水に対して3日間透析し、続いて凍結乾燥した。
図7-S6に、PMA50-LAmの
1H-NMRスペクトルを示す。
図7-S6中、三角形を用いてマークしたピークは、LA、溶媒: D
2Oに起因する。
1H-NMRスペクトルにおけるLA残基からのピークの相対強度は、修飾LAの相対量の増加と共に増加した。
【0057】
3.4 LA修飾蛍光MPC-ポリマー(F-PMA50-LAm)の調製
図7-S7に示した合成経路に従ってLA修飾蛍光MPC-ポリマー(F-PMAn)を調製した。
図7-S7において、F-PMA50-LAmの蛍光分子修飾手順は、F-PMA50について記載したものと同じであった(
図7-S3参照)。LA修飾を行った後、3 mg/mLのPMA50-LAmを、MeOH:H
2O = 1:1(v:v)の溶媒混合物に溶解し、1重量%のNHS-Cy3を添加した。
次に、この混合溶液を暗所にて室温で24時間撹拌した。反応の完了後、1 mLのMeOH中の10 mgのグリコール酸および400 mgのEDCを添加し、混合物をさらに24時間撹拌した。次に、ポリマーをMeOHとH
2Oの混合溶媒に対して5日間透析した。MeOHとH
2Oの体積比は徐々に1:1、1:2、1:3、1:4、0:1にまで減少した。
次いで、ピンク色の固体を凍結乾燥によって得た。
図7-S8にF-PMA50-LAmの
1H-NMRスペクトルを示す。
図7-S8中、点線のボックスでマークしたピークは、Cy3、溶媒: D
2Oに起因する。
図7-S9にPMA50-LA40およびF-PMA50-LA40の各水溶液(0.5 mg/mL)の(A)UV-Vis吸収スペクトル、(B)フォトルミネセンス(PL)スペクトル(λex = 543 nm)、ならびに(C)緑色光の下で観察された画像を示す。
【0058】
3.5 細胞培養
HepG2(ヒト肝癌)、MCF-7(ヒト乳癌)、およびHeLa(ヒト子宮頸癌)細胞は、10% FBS、100μg/mLペニシリン、および100μg/mLストレプトマイシンを含むDMEM中で培養した。全ての細胞は、5% CO2を含有する加湿インキュベーター中、37℃で培養した。
【0059】
3.6 F-PMAnおよびF-PMA50-LAmで処理したHepG2細胞のCLSMイメージング
HepG2細胞(2.5×10
6細胞/mL)をガラス底細胞培養皿に播種し、24時間培養した。PBSによる洗浄工程に供した後、PBS中の2 mLの0.5 mg/mL蛍光MPC-ポリマー(F-PMAnおよびF-PMA50-LAm)を培養皿に添加し、細胞を30分間インキュベートした。細胞を、PBSを用いて3回洗浄し、PBS中の4%パラホルムアルデヒドを細胞の固定のために15分間使用した。細胞を再びPBSで洗浄工程に供し、その後、それらをDAPI-Flouromount-G(TM)で覆い、CLSMを実施することによって評価した。
CLSMイメージングは、CLSMソフトウェアZENのデフォルト設定を用いて行った。DAPIおよびCy3チャネルを、それぞれ405および561 nmで励起した。Cy3シグナルは、550~700 nmの検出波長(DW)で観察された。レーザ「master gain」は700 Vに設定し、使用したレーザは0.2%、ピンホールは1 AU、デジタルオフセットは-10、デジタルゲインは1.0であった。
HepG2細胞内部のF-PMA50-LA40の局在イメージングを行った。HepG2細胞を、前述のプロトコールに従ってF-PMA50-LA40と共に30分間または2時間インキュベートした。洗浄完了後、LysoTracker(TM)Green DND-26を細胞に添加し、1時間インキュベーションを行った。PBSを用いて洗浄した後、4%パラホルムアルデヒドを用いて細胞の固定を行い、DAPI-Flouromount-G(TM)を用いて細胞を覆った。画像化結果をCLSMによって収集した。
図7-S10に、0、0.05、0.1、0.25、0.5、および1 mg/mLの濃度でF-PMA50-LA40と共にインキュベートしたHepG2細胞の(A)CLSMイメージング、(B)平均蛍光強度(MFI)を示す(スケールバー:20μm)。
0.5 mg/mLの蛍光ポリマーを以下の実験で使用して、F-PMA50-LAmおよびF-PMAnの細胞内在化を研究した。
【0060】
3.7 2-ラクトビオナミドエチルメタクリレート(LAEMA)の調製
図7-S11に示した合成経路に従って2-ラクトビオナミドエチメタクリレート(LAEMA)を調製した。
2-ラクトビオナミドエチメタクリレート(LAEMA)モノマーは、主に文献に報告されている方法に基づいて合成された(参考文献1、2)。
図7-S11に示すように、ラクトビオン酸(15 g)およびトリフルオロ酢酸(150μL)を50℃下で無水メタノール(90 mL)に溶解し、溶解を約8時間観察した後、混合物を真空蒸留した。得られたラクトビオノラクトン(10.2 g、30 mmol)を直ちに20 mLのメタノールに溶解し、15mLのメタノール溶液中のAEMA(6g、36.23 mmol)および10 mLのTEAを添加した。この混合物を室温で24時間撹拌した。その後、反応混合物を濃縮し、2-プロパノール中で再沈殿させた。アセトンで洗浄した後、白色固体を集め、真空中で乾燥させた。収率:57.7%。
1H-NMR (400 MHz, D2O) δ (ppm) 6.07 (s, 1H), 5.66 (s, 1H), 4.48 (d, J = 7.78 Hz, 1H), 4.35 (d, J = 2.74 Hz, 1H), 4.23 (t, J = 5.49 Hz, 2H), 4.11 (t, J = 3.20 Hz, 1H), 3.98-3.81 (m, 3H),3.79 (d, J = 2.74 Hz, 0.5H), 3.76-3.54 (m, 6H), 3.54-3.45(m, 2H), 3.14 (q, J = 7.32 Hz,0.5H), 1.86 (s, 3H).
13C-NMR (100 MHz, D2O) δ (ppm) 174.55,169.62, 135.72, 126.97, 103.49, 80.99, 75.32, 72.40, 72.33, 71.35, 70.97, 70.34, 68.53, 63.50, 61.91, 61.01, 46.61, 37.92, 17.34. HRMS (ESI): [M+Na]+, 492.1693 (calculated), 492.1689 (found).
【0061】
3.8 アジド酢酸およびN-アジドアセチルマンノサミン(ManNAz)の調製
アジド酢酸は、参考文献3、4に報告されている方法に基づいて合成した。ブロモ酢酸(5g、35.98 mmol)をフラスコ中の40 mLの水に加えた。溶解後、アジ化ナトリウム(5g、71.9 mmol)を加えた。この混合物を室温で24時間撹拌し、1 M塩化水素(100 mL)を加えた。
次に、アジド酢酸をジエチルエーテル(3×80 mL)で抽出し、飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ジエチルエーテルを減圧除去した後、アジド酢酸を回収し、-20℃で保存した。収率:80.1%。
1H-NMR (400 MHz, chloroform-d) δ (ppm) 9.485 (br. s, 1H), 3.989 (s, 2H). HRMS (ESI):[M-H]-, 100.0147 (calculated), 100.0144 (found).
【0062】
N-アジドアセチルマンノサミン(ManNAz)の合成のために、D-マンノサミン塩酸塩(539.1 mg、2.5 mmol)およびTEA(348.7μL、2. 5 mmol)を30 mLの無水メタノールに添加した。単糖が完全に溶解した後、アジド酢酸(277.9 mg、2.75 mmol)およびDMTMM(761.0 mg、2.75 mmol)を添加した。反応混合物を室温で24時間撹拌した。次いで、溶媒を真空中で除去した。TEA(500μL)およびDCM(30 mL)を加え、この混合物を超音波で分散させた。液相を除去した後、サンプルをDCMで回洗浄した。(DCMでの洗浄工程を行って、N-メチルモルホリン[NMM]を除去した)。不溶物を濾過し、回収した(溶解のためにメタノールを使用し、濾紙に付着した不溶性残渣を回収した)。濃縮後、フラッシュカラムクロマトグラフィー(溶離液;酢酸エチル:メタノール=9:1、v:v)を用いた精製により、所望のManNAzを得た。収率:58.6%。
TLC:エタノール中の5% H2SO4で染色、Rf = 0.19。
1H-NMR (400 MHz, D2O) δ (ppm) 5.16 (dd, J = 9.56, 10.52 Hz, 0.5 H), 5.06 (dd, J = 9.61, 10.98 Hz, 0.5H),4.51 (d, J = 4.12 Hz, 0.5H),4.38 (d, J = 4.12 Hz, 0.5H),4.19-3.99 (m, 3H), 3.95-3.72(m, 3H), 3.61 (t, J = 10.06 Hz, 0.5H),3.51 (t, J = 10.98 Hz, 0.5H),3.47-3.34 (m, 0.5H). 13C-NMR (100 MHz, D2O) δ (ppm) 171.93, 171.04, 93.00, 92.90, 76.46, 72.09, 72.04, 68.88, 66.81, 66.59, 60.45, 54.35, 53.44, 51.79, 51.71. HRMS (ESI): [M+Na]+, 285.0811 (calculated), 285.0808 (found).
【0063】
3.9 2-((4-ニトロフェノキシ)カルボニルオキシ)エチルメタクリレート(NPCEMA)の調製
2-((4-ニトロフェノキシ)カルボニルオキシ)エチルメタクリレート(NPCEMA)の合成は、参考文献5、6に報告されている方法に基づいて行った。
4-ニトロフェニルクロロホルメート(3.4 g、16.87 mmol)を脱水DCM(20 mL)に溶解し、脱水DCM(20 mL)中の脱水ピリジン(1.22 g、15.4 mmol)を添加した。
この混合物に、無水DCM(20 mL)中の2-ヒドロキシエチルメタクリレート(2g、15.37 mmol)を0℃で滴下してゆっくりと添加した。混合物を室温に温め、不活性雰囲気下で40時間撹拌した。次いで、溶媒を真空中で除去した。混合物をジエチルエーテルに懸濁し、濾過して沈殿を除去した。1 M塩化水素および飽和塩化ナトリウム水溶液を用いて洗浄した後、無水硫酸ナトリウムを加えて有機層を乾燥させた後、濾過した。ヘキサンを用いた再結晶により白色の固体生成物を得た。収率:55.8%。
1H-NMR (400 MHz, chloroform-d) δ (ppm) 8.29 (d, J = 9.61 Hz, 2H), 7.39 (d, J = 9.15 Hz, 2H), 6.18 (t, J = 0.91 Hz, 1H), 5.64 (t, J = 1.83 Hz, 1H), 4.67-4.36 (m, 4H) 1.97 (t, J = 0.91 Hz, 3H). 13C-NMR (100 MHz, chloroform-d) δ (ppm) 167.24,155.59, 152.63, 145.68, 135.91, 126.71, 125.57, 122.00, 67.10, 62.08, 18.51. HRMS (ESI): [M+Na]+, 318.0590 (calculated), 318.2409 (found).
【0064】
3.10 (N-アジドアセチルマンノサミン)カルボニルオキシエチルメタクリレート(MACE-ManNAz)の調製
ManNAz(393.1 mg、1.5 mmol)を15 mLの無水ピリジンに溶解し、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP、146.6 mg、1.2 mmol)およびNPCEMA(402.3 mg、1.36 mmol)を連続的に添加した。この混合物を室温で24時間反応させた。次いで、溶媒を真空中で除去した。混合物をメタノールに溶解し、次いで濃縮した。フラッシュカラムクロマトグラフィー(溶離液;酢酸エチルから酢酸エチル:メタノールの混合物=20:1、v:v)を用いて、ManNAzおよびカルボニルエチルメタクリレート(1:1の比)を有する生成物を得た。収率:8.9%。
TLC:エタノール中5 % H2SO4で染色、Rf = 0.27。
1H-NMR (400 MHz, D2O) δ (ppm) 6.16 (s, 1H), 5.72 (s, 1H), 5.14 (s, 0.5H), 5.05 (s, 0.5H), 4.71-4.63 (0H), 4.61 (s, 0H), 4.58-4.47 (1H), 4.47-4.40 (1H), 4.37 (d, J = 4.6 Hz, 1H), 4.26 (td, J = 4.5, 1.7 Hz, 2H), 4.14-3.99 (3H), 3.97 (t,J = 1.8 Hz, 2H), 3.94-3.74 (6H), 3.75-3.37 (2H), 1.93 (s, 3H).
13C-NMR (100 MHz, D2O)δ (ppm) 171.90, 171.71, 171.00, 169.89, 169.40, 153.36, 135.83, 135.61, 127.21, 126.90, 110.38, 99.20, 94.62, 92.94, 92.84, 91.29, 84.69, 78.49, 77.17, 76.83, 76.40, 73.25, 72.02, 71.98, 71.59, 71.18, 68.84, 66.82, 66.74, 66.51, 66.32, 66.09, 66.03, 62.70, 62.39, 62.25, 60.38, 60.01, 59.59, 59.50, 55.86, 55.09, 54.29, 53.38, 52.12, 51.85, 51.71, 51.64, 17.38, 11.53.
HRMS (ESI): [M+Na]+, 441.1234 (calculated), 441.1229 (found).
【0065】
図7-S12は、異なる鎖長を有するPMLM50、PMLM100、およびPMLM200の
1H-NMRスペクトル(溶媒: D
2O)を示したものである。
図7-S13は、PMM、PML、PMLM50、PMLM100の正規化GPCトレースを示したものである。
表2に、MPC、LAEMA、およびMACE-ManNAzモノマーを用いて合成したPMM、PML、およびPMLMnコポリマーの特性を示す。
【0066】
【0067】
3.11 Cy5修飾PMM(PMM-Cy5)の調製
PMM(5 mg/mL)をMeOHおよびH
2Oの混合溶媒(1:1、v:v)に溶解し、次に、1重量%のDBCO-Cy5を添加した。この混合物を暗条件下、室温で24時間撹拌した。反応溶液をMeOHおよびH
2Oの混合溶媒に7日間透析した。透析物を毎日交換し、MeOH 対 H
2Oの比率を1:1から0:1に徐々に減少させた。次いで、ポリマーをH
2Oに対してさらに2日間透析した。蛍光ポリマーPMM-Cy5を凍結乾燥によって得、
1H-NMR、蛍光分光法、およびUV-Vis吸収分光法によって特性決定した。
図7-S15に、(A)PMM-Cy5の化学構造、(B)PMMおよびPMM-Cy5の
1H-NMRスペクトル(右上のパネルの画像は、PMMおよびPMM-Cy5、溶媒: D
2Oを表す)、(C)水中のPMMおよびPMM-Cy5のUV-Vis吸収スペクトルを示した。
【0068】
【0069】
II.結果および考察
<ポリマー担体上のPCおよびLAの機能>
設計されたポリマー担体は、3つのモノマー、すなわちMPC、LAEMA、およびMACE-ManNAzを統合したものである。MPCは双性イオン性極性基を保有し、水溶性および生体適合性を増加させ、細胞との非特異的相互作用を減少させ得る。Gal残基を有するLAEMAは肝癌細胞上のASGPRを特異的に認識した。MPCコポリマーの細胞浸透機能を試験するために、ポリ(MPC-co-APMP)(PMAn)の3つのランダムコポリマーを、供給物中の7:3、5:5、および3:7のMPC/APMA比でのフリーラジカル重合によって合成した(表1、
図7-S1~S2)。
【0070】
次に、供給物中の0.1 重量%のシアニン3NHSエステル(NHS-Cy3)をPMAnのN-(3-アミノプロピル)メタクリルアミド塩酸塩(APMA)のアミノ基と反応させ、残留アミノ基をグリコール酸との反応によってブロックした(
図7-S3)。
異なる比率のMPCを有するこれらの蛍光ポリマープローブ(F-PMAn、
図7-S4)を、肝細胞癌(HepG2)細胞と共にインキュベートした。
図2Aにおいて、細胞内のF-PMAnの量は画像化の蛍光強度によって表されており、これは、ポリマー上にLA残基が存在しないために、ポリマーと細胞との間の非特異的相互作用に起因していた。ポリマーのMPC分率の増加(F-PMA30からF-PMA70へ)に伴い、MPCコポリマーの非特異的細胞取り込みは、50%以上のMPC分率を用いて効果的に抑制された。従って、ポリマー上の親水性PC成分は、非特異的送達を減少させることが確認された。ポリマー担体上のPCは、標的細胞上の標識の特異性および選択性の増加に寄与し得る。
【0071】
細胞との相互作用に対するMPC画分の耐性および利用可能なより高いLA画分を考慮して、供給物中の50% MPC画分を含むPMA50を使用して、細胞内在化および他のその後の実験におけるLAの役割を決定した。1H-NMRの結果(表1)からPMA50に対するAPMAの計算モル分率に基づいて、供給物中のAPMAの様々な相対モル比を有するLAを、カルボキシル基およびアミノ基の縮合によってPMAnに化学修飾した。
【0072】
様々なLA比(PMA50-LAm)を有するLA修飾ポリマーの構成および
1H-NMRスペクトルを
図7-S5およびS6に示した。次いで、F-PMA50-LAmを、0.1 wt% NHS-Cy3での修飾および残りのアミノ基の遮断によって回収した(
図7-S7~S8)。
図7-S9はPMA50-LA40およびF-PMA50-LA40のUV-Vis吸収スペクトルおよび蛍光発光スペクトルを示し、F-PMA50-LA40のピークは543 nm付近(
図7-S9(A))および563 nm付近(
図7-S9(B))であり、F-PMA50-LA40のCy3修飾をさらに確認した。
【0073】
まず、異なる濃度のF-PMA50-LA40をHepG2細胞と共にインキュベートした。
図7-S10の画像化結果の蛍光強度はF-PMA50-LA40濃度の増加と共に増強され、これはポリマーの添加によって生成された蛍光を示した。
次に、HepG2細胞を、異なる量の修飾LAと共にF-PMA50-LAmと共にインキュベートした(
図2(B))。ポリマー上のLA画分の増加と共に、より多くのポリマーが細胞内に見出された。同じMPC画分のために、細胞-ポリマー相互作用に対するMPCの影響に差はなかった。そこで、LAを介した細胞内移行を検証した。
【0074】
LAとASGPRとの間の高い親和性のために、LA残基を有する種々の人工試薬を、RME様式で肝細胞に送達した。本実施例では、HepG2細胞に対するLA修飾ポリマーの細胞内移行を、細胞内のリソソームを標識するためにLysoTrackerを用いて評価した。F-PMA50-LA40をHepG2細胞と異なる期間(0.5時間および2時間)インキュベートし、リソソームとの共局在を調べた(
図2C)。細胞の取り込みは、0.5時間以内でさえ、急速に起こった。特異的系統(0.5 h-L1および2 h-L2)での蛍光分布に基づいて、F-PMA50-LA40のほとんど全てがリソソーム中に見出され、これによりHepG2細胞によるLA修飾ポリマー内在化のRME様式を確認した。典型的には、エンドサイトーシスによる内在化が細胞コンパートメントの迅速な酸性化を誘導する。リソソームの最終pHは4.5~5.5の範囲であった。種々のヒドロラーゼが存在したが、シアリル化のための代謝前駆体(ManNAz)を放出するトリガーとして酸性pHを考慮することは有効な方法であると考えられる。
【0075】
<MACE-ManNAzの合成とキャラクタリゼーション>
ManNAzは、システイン残基との望ましくない反応を発生させることなく、細胞シアリル化標識のために使用し得る。本実施例では、ManNAzの合成経路を、より少ない合成ステップおよびより少ないクロマトグラフィー溶出液を用いて、試薬としてDMTMMを使用して最適化した。代謝前駆体としてManNAzを使用すると、細胞表面上のシアル酸をアジド基で代謝的に標識することができる。適切な共有結合および応答放出は、ManNAzの細胞への運搬および放出のための有効なアプローチである。
【0076】
炭酸エステル結合形成は単純であるが、結合は非芳香族ヒドロカルビルに結合した安定な構造であると考えられる。一般に(4-ニトロフェニル)メチル、(4-フェニルボロン酸)メチル、チオレチル、およびカンプトテシン、などの特定の不安定な脱離基またはカーゴ分子が、カーボネートエステル結合の破壊を促進するために使用された。ここでは、メタクリレート誘導体は、炭酸エステル結合を形成するためにManNAzと反応した(
図3(A))。反応後、メタクリレート成分とManNAzとの比率が1:1の生成物をクロマトグラフィーによって分離し、
1H-NMRによって確認した。
13C-NMRおよびヘテロ核多重結合スペクトルにより、生成物はManNAz上に特異的な水酸基修飾部位を持たないことが確認された。ManNAzとMACE-ManNAz(
図3(B))のFTIRスペクトルから、2107.35 cm
-1付近のピークはManNAzとMACE-ManNAz上のアジド群の存在を強調した。これらの結果は、MACE-ManNAzがその後の代謝標識およびアジドの存在に基づく生体直交型化学に関連する関与に適していることを示唆した。
【0077】
<酸性pH条件下でのMACE-ManNAzの構造変化>
炭酸エステルは、MACE-ManNAzにおけるManNAzのメタクリレートへの結合のための結合であった。酸性pH条件下でのMACE-ManNAzの構造変化を調べるために、水性条件下および緩衝液(pH 5.0)中で約3日間インキュベートした後のMACE-ManNAzを、エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-質量)によって測定した(
図3(C1)~(C3))。MACE-ManNAzおよびManNAzの分子イオンピークは、441.1229(
図3(C1))および285.0824(
図3(C2))で観察された。
図3(C1)および(C2)の約441と285との間のそれぞれの比を、pH 5.0緩衝液での処理後に比較し、ManNAzの分子イオンピークを
図3(C2)に示した。MACE-ManNAzのピークは明らかでなかった。さらに、2-(カルボキシオキシ)エチルメタクリレートおよび2-ヒドロキシエチルメタクリレートなどの他の生成分子が、pH 5.0の緩衝液で3日間処理したMACE-ManNAzのESI-質量スペクトル(負イオンモード)において見出された(
図3(C3))。これらの結果は、MACE-ManNAzの炭酸エステル結合が壊れ、ManNAzが酸性pH条件下で放出されることを示した。
【0078】
<PML、PMM、PMLMnの調製と特性評価>
MPC、LAEMA(
図7-S11)、およびMACE-ManNAzのモノマーに基づいて、PML、PMM、およびPMLMnのランダムコポリマー(PMLM50、PMLM100、およびPMLM200)をフリーラジカル重合によって合成した。PML、PMM、およびPMLM50は、同じ開始剤濃度を用いて調製した。
図4Aは、PMLMnの化学構造を示す。開始剤濃度を低下させることによって、PMLM100およびPMLM200もまた、より大きな重合度のために合成された。
1H-NMRおよびGPCの結果を含む、詳細な供給および合成の結果を、表2および
図4(B)、
図7-S12およびS13に示した。これらのポリマーについて、ManNAzおよびLA残基からの陽子化学シフトが
1H-NMRスペクトル(
図4(B)および
図7-S12)において観察され、これは、対応する単量体の重合反応を示した。
【0079】
アジド基は、その後の代謝標識および生体直交型化学に必要であった。
図7-S14ではPMLM50、PMLM100、およびPMLM200のFTIRスペクトルに2107 cm
-1付近に明らかなアジドピークはなかったが、これはポリマー上のManNAzの相対分率がFTIR検知には低すぎたためであった。さらに、DBCO基はCu(I)-触媒なしでアジドとの反応を特異的に示し、安定なトリアゾール結合を形成することができる。したがって、重合および精製プロセスがアジドをクエンチできるかどうかを研究するために、DBCO-Cy5を用いてPMMとの反応を確立した。
【0080】
透析による精製後にチャートレウスPMM-Cy5を得た(
図7-S15(A))。PMMの
1H-NMR結果と比較して、PMM-Cy5のピーク上の6.5~8.5 ppmの出現ピークは、Cy5修飾を示唆した(
図7-S15(B))。さらに、PMM-Cy5のUV-Vis吸収スペクトルにおける648 nm付近のピークは、PMM-Cy5上のCy5部分の存在を示した(
図7-S15(C))。これらの結果は水中での透析によるフリーラジカル重合反応および精製が安定なカーボネートエステル結合を維持し、アジドの化学反応性に影響しないことを示した。したがって、ManNAzを有するポリマー担体は、アジドベースの生体直交型化学を用いたシアリル化標識に使用されることが期待された。
【0081】
<ポリマーからのManNAzの酸性pH応答性放出>
前述のように、リソソームは、酸性pH条件が活性物質放出を誘発し得るLA修飾ポリマーによって媒介されるエンドサイトーシスの間に形成された。MACE-ManNAz上の炭酸エステル結合の酸性pH応答性破壊とManNAzの放出を検証した。さらに、DBCO-Cy5を、ポリマー上のManNAz残基と反応させて、PMM-Cy5の形成をもたらし、これを、5.0~8.0の範囲のpH値を有する異なる緩衝液中でインキュベートして、ポリマーのpH応答動態を試験した。ManNAz含有部分の時間的累積放出を
図4(C)に示す。ここでCy5を検出標的として使用した。環境中のpH低下は放出効率を効果的に改善した。特にpH 5.0では72時間での累積放出量は50%以上であった。したがって、リソソーム中の酸性条件はポリマー担体からのManNAzの放出、およびその後のシアリル化の代謝標識に有効であったが、細胞内の特定の酵素の加水分解も重要なメカニズムであり得る。
【0082】
<ポリマー担体に基づく生細胞におけるシアリル化の細胞選択的標識および画像化>
ManNAzおよび側鎖上のLA残基を有するPMLM50を、細胞シアリル化標識および画像化のために細胞と共にインキュベートした。細胞表面上に発現されたASGPRを有するHepG2細胞はPMLM50上のLA残基を認識することができ、次いで細胞内在化が起こった。
図4Dに示すように、異なる濃度(0~200μM)のPMLM50は、HepG2細胞活性に対して明らかな効果を示さなかった。特にMPC成分によって与えられるポリマーの親水性は、それらの高い水溶性および生体適合性に寄与した。そこで、異なる濃度のPMLM50を、HepG2細胞とのインキュベーションのために使用し、続いて、DBCO-Cy5を使用してシアル酸修飾を行った(
図5(A))。PMLM50濃度が増加すると、蛍光強度が増強された(
図5(B))。PMLM50濃度が100μMを超えると、HepG2細胞からの顕著な蛍光が観察された。
さらに、HepG2細胞を、ManNAzを負荷していないPMLおよびLA残基を有さないPMMで処理した。しかし、この場合はDBCO-Cy5との反応後のイメージング結果において明確な蛍光を示さなかった(
図5(C)および(D))。側鎖上にLA残基が存在しなかったので、PMMは、HepG2細胞表面上のASGPRに結合することができなかった。特に、ManNAzを担持するPMMについては、PMMは細胞によって吸収され得ず、ManNAzはポリマーから放出され得なかった。したがって、LA-ASGPR媒介性のポリマーキャリアの細胞内在化がさらに実証された。さらに、PMLはManNAzを有しておらず、LA残基を有しており、PMLと共にインキュベートしたHepG2細胞の蛍光強度は低く、ポリマー処理なしのものと同様であり(
図5(B)の0μMの結果を参照のこと)、これは、ポリマー担持ManNAzによって代謝的に標識されたアジドシアル酸に起因するイメージング蛍光を検証した。これらの結果は、細胞シアル酸がポリマーキャリアの内部移行およびManNAzの関与のために観察されたことを示唆し、このポリマーベースのストラテジーが生細胞におけるシアル化の代謝標識に有効であることを示した。
【0083】
さらに、MCF-7細胞はHeLa細胞によって発現されるものよりも高いレベルのASGPRを発現し、HepG2細胞におけるASGPR発現は最も高かった。MCF-7およびHeLa細胞をPMLM50と共にインキュベートして、ポリマー担体の細胞選択性を調べた。
図5(E)および(F)に示される画像化結果は、MCF-7およびHeLa細胞の蛍光強度がHepG2細胞の蛍光強度よりも低いことを実証した。200μMポリマーを用いて、HepG2細胞のイメージング蛍光強度はMCF-7細胞のそれより82.33%増加し、HeLa細胞のそれより168.14%増加し、ASGPRのより高い発現を有するHepG2細胞に対する細胞選択性を実証した。本実施例では、100μMおよび200μMのPMLM50を使用した結果と比較して、より高い濃度のポリマーキャリアが異なる細胞間の差を増加させるのに有効であった。これらの結果は、ASGPR受容体媒介インターナリゼーションがポリマーキャリアの膜貫通送達のための主要な様式であることを示し、そして標的細胞のシアリル化が設計されたポリマーキャリア(PMLM50)に基づいて選択的に標識され得ることを実証した。
【0084】
<細胞選択的シアリル化標識に対するポリマー鎖長の効果>
ポリマー型プローブ/担体は、鎖長の特別な特性を有する。ポリマー鎖の延長は、認識単位(LA残基)の密度を増加させ、膜貫通効率を高め、代謝シアリル化標識の効率を改善することができる。したがって、開始剤濃度を減少させることによって、PMLM50よりも大きな分子量を有するPMLM100およびPMLM200を調製した。HepG2細胞とのインキュベーションのために異なる質量濃度のPMLMnを使用して、イメージング結果を
図6(A)および(B)に示した。PMLMnについてのMPC、LAEMA、およびMACE-ManNAzモノマーの画分は、供給物中で同じであった。したがって、
図6のPMLM100およびPMLM200の質量濃度は、PMLM5の質量濃度と同じであった(
図5)。同様に、100μMのPMLM50の結果よりも高い質量濃度でPMLM100およびPMLM200で処理したHepG2細胞において明確な画像化蛍光が観察された。
図6(C)では異なる鎖長を有するPMLMnを使用したイメージング結果と比較して、蛍光強度はPMLMnの質量濃度の増加と共に明らかに増加した。本実施例で使用した最高質量濃度(3.77 mg/mL)では、HepG2細胞の蛍光強度は鎖長の増加と共に増強された。蛍光強度は、PMLM200からPMLM50と比較して23.80%、PMLM100からPMLM50と比較して12.46%、およびPMLM200からPMLM100と比較して10.09%増強された。これらの増強は、レセプター特性、ポリマー上のLAの密度および分布、ならびにポリマー構造の差異に起因し得る、PMLMn分子量の変化(表2)ほど有意ではなく、限定されたものであった。ポリマー媒介細胞内在化および代謝シアリル化標識に基づくこの研究におけるPMLMnの濃度下では、ポリマー担体の鎖長を増加させることはある程度内在化効率を改善することができ、改善の余地があった。さらに、PMLM100およびPMLM200もまた、MCF-7およびHeLa細胞の処置のために使用した(
図6(D)~(G))。HepG2細胞イメージングの蛍光強度は、PMLM100を用いたMCF-7細胞の蛍光強度より88.01%、HeLa細胞の蛍光強度より165.79%増強され、PMLM200を用いたMCF-7細胞の蛍光強度より140.83%、HeLaの蛍光強度より211.47%増加した。全体として、PMLMnを使用する細胞選択性の効果を考慮すると、鎖長の増加は標的細胞に対するシアリル化標識のより良好な選択性を導き、これは、より長いポリマーキャリアのより高いLA密度によって引き起こされるより高い蛍光強度から利益を得ることができた。この場合、より長いポリマーキャリアはMPCの密度を改善し、ポリマーの非特異的相互作用を減少させ、シグナル対ノイズ比を増加させ、シアリル化標識に対する細胞選択性を増強した。しかし、PMLMnと共にインキュベートしたHepG2細胞の画像化結果では、細胞内の蛍光が観察された。長鎖長を有するpH応答性ManNAz放出を有する水溶性ポリマー担体は優れた生体適合性MPCコポリマーのために、生体イメージングおよび治療における細胞選択的標的化に使用することが期待される。
【0085】
III.結論
以上に述べたとおり、本発明によれば、pH応答性ManNAz放出を有する水溶性ポリマー担体の開発に基づいて、生細胞におけるシアリル化の細胞選択的標識のための戦略が提案される。本実施例では、ポリマー担体(PMLMn)をMPC、LAEMAおよびMACE-ManNAzモノマーと共重合させた。高い親水性を有するPMLMn上のPCユニットは、ポリマーの水溶性および生体適合性の改善、ならびに非特異的ポリマー-細胞相互作用の抑制に寄与した。LAEMAのLA残基を用いて、肝癌細胞表面上のASGPRを認識し、RME様式でPMLMnの内在化を誘導した。MACE-ManNAzを合成し、シアリル化標識を実現するために細胞内に負荷代謝前駆体(ManNAz)を放出した。炭酸エステル結合は酸性pH応答性加水分解であることが判明し、アセチル化のないManNAzは細胞内蛋白質のシステイン残基との非特異的反応を引き起こさなかった。異なるレベルのASGPR発現を有する異なる細胞(HepG2、MCF-7、およびHeLa細胞)のインキュベーションのために、ポリマーキャリアは、非細胞毒性およびシアリル化標識に対する良好な細胞選択性を示した。さらに、PMLMnの鎖長の増加と共に、蛍光強度の増加および改善された細胞選択性が観察された。
代謝シアリル化標識のためのポリマー担体は、水溶性および多価相互作用による細胞選択性の増強を実現した。MPC-コポリマーが、生体適合性の高いin vivo研究および適用のために連続して使用されていることを考慮すると、pH応答性ManNAz放出のこのアプローチは細胞特異的グリコシル化研究、臨床診断および処置の種々の癌標的化適用(例えば、バイオイメージング、薬物送達、および免疫調節)のために有望である。
【0086】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。