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特開2023-5414水分散表面処理コロイダルシリカの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005414
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】水分散表面処理コロイダルシリカの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/141 20060101AFI20230111BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20230111BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20230111BHJP
   C09K 3/14 20060101ALN20230111BHJP
   C09G 1/02 20060101ALN20230111BHJP
【FI】
C01B33/141
B24B37/00 H
H01L21/304 622B
C09K3/14 550D
C09G1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107293
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 和之
【テーマコード(参考)】
3C158
4G072
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CB01
3C158DA12
3C158DA17
3C158ED10
3C158ED26
3C158ED28
4G072AA25
4G072AA28
4G072CC01
4G072DD06
4G072EE01
4G072GG03
4G072HH30
4G072JJ11
4G072JJ23
4G072KK03
4G072LL11
4G072MM02
4G072PP15
4G072QQ07
4G072RR05
4G072TT19
4G072TT30
4G072UU01
4G072UU30
5F057AA21
5F057AA28
5F057AA29
5F057BA11
5F057BA15
5F057BB03
5F057DA03
5F057EA01
5F057EA07
5F057EA17
(57)【要約】
【課題】金属不純物及び分散剤を含まず、且つ、長期保存における粘度上昇が少ない水分散コロイダルシリカの提供。
【解決手段】
下記工程(A1)、(A2)及び(A3)を含む水分散表面処理コロイダルシリカの製造方法。
工程(A1):下式(I)で表される4官能性シラン化合物等からコロイダルシリカを得る合成工程
Si(OR14 (I)
(式中、R1は、独立に、炭素原子数1~6の一価炭化水素基を表す。)
工程(A2):下式(II)で表される3官能性シラン化合物等による表面処理工程
2Si(OR33 (II)
(式中、R2は置換又は非置換の炭素原子数1~20の1価炭化水素基を表し、R3は、独立に、炭素原子数1~6の1価炭化水素基を表す。)
工程(A3):分散媒置換工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(A1)、(A2)及び(A3)を含む水分散表面処理コロイダルシリカの製造方法。
工程(A1):下式(I)で表される4官能性シラン化合物、その部分加水分解縮合物又はこれらの混合物を、塩基性物質の存在下、親水性有機溶媒及び水を含む混合液中で加水分解縮合することによってコロイダルシリカを得る工程
Si(OR14 (I)
(式中、R1は、独立に、炭素原子数1~6の一価炭化水素基を表す。)
工程(A2):工程(A1)で得られたコロイダルシリカに、下式(II)で表される3官能性シラン化合物、その部分加水分解縮合物又はこれらの混合物を添加し、コロイダルシリカ表面にR2SiO3/2単位を導入し、表面処理コロイダルシリカを得る工程
2Si(OR33 (II)
(式中、R2は置換又は非置換の炭素原子数1~20の1価炭化水素基を表し、R3は、独立に、炭素原子数1~6の1価炭化水素基を表す。)
工程(A3):工程(A2)で得られた表面処理コロイダルシリカの分散媒中の親水性有機溶媒を、水に置換する工程
【請求項2】
工程(A2)において、式(II)で表される3官能性シラン化合物、その部分加水分解縮合物又はこれらの混合物の添加量が、工程(A1)で得られるコロイダルシリカ中のSiO2単位1モル当り0.001~1モルである請求項1に記載の水分散表面処理コロイダルシリカの製造方法。
【請求項3】
製造された水分散表面処理コロイダルシリカ中の金属不純物の濃度が0~1質量ppmである請求項1又は2に記載の水分散表面処理コロイダルシリカの製造方法。
【請求項4】
製造された水分散表面処理コロイダルシリカ中の親水性有機溶媒の濃度が0~1質量%である請求項1~3のいずれか1項に記載の水分散表面処理コロイダルシリカの製造方法。
【請求項5】
製造された水分散表面処理コロイダルシリカ中の固形分濃度が15~50質量%である請求項1~4のいずれか1項に記載の水分散表面処理コロイダルシリカの製造方法。
【請求項6】
製造された水分散表面処理コロイダルシリカの25℃における動粘度が1~100mm2/sである請求項1~5のいずれか1項に記載の水分散表面処理コロイダルシリカの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分散表面処理コロイダルシリカの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の半導体デバイスの著しい微細化に伴い、シリコンウェハー研磨、半導体デバイスの化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing、以下、「CMP」と記す)プロセス等にシリカ粒子が小さいコロイダルシリカが用いられている。
【0003】
CMPプロセス用コロイダルシリカとして、シリコンウェハー等の汚染を防止する理由から、金属不純物の極めて少ない高純度コロイダルシリカが求められている。特許文献1では、金属不純物の含有量が少ない、カチオン性基を有するシランカップリング剤で変性したコロイダルシリカの製造方法が開示されている。しかしながら、シリカ表面にカチオン性基が存在することにより、カチオン性基とシラノール基との間で水素結合が生じたり、カチオン性基がシラノール基同士の縮合触媒として作用することでシリカ同士の凝集を引き起こす場合があった。
【0004】
また、シリカ濃度が高いコロイダルシリカを製造することは、製造効率の向上を図るだけでなく、貯蔵運搬効率を向上させたり、研磨に用いられる研磨剤の配合を自由に調節ができ、配合自由度を高めることができるということからも好ましい。
一方、コロイダルシリカをCMPプロセスに使用する際、再使用するとコロイダルシリカの粘度上昇が生じるため、研磨剤としての効能を充分に発揮できないという問題があった。それ故、高濃度であり、且つ、長期にわたり粘度の上昇が少ないコロイダルシリカが望まれている。
【0005】
そこで、特許文献2では、高濃度のコロイダルシリカの分散性を向上させるため、硫酸、硝酸、クエン酸のような無機酸又は有機酸系の分散剤をコロイダルシリカに添加する方法が開示されている。これらの分散剤を用いることで金属不純物の混入を防ぎつつコロイダルシリカの分散性を向上させることが可能であるが、長期保存においてpH値の変化によりシリカ同士の凝集や粘度上昇が起こる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-162533号公報
【特許文献2】特許第5270344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、金属不純物及び分散剤を含まず、高濃度であり、且つ、長期保存における粘度上昇が少ない水分散コロイダルシリカを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を行った結果、親水性有機溶媒の存在下でゾルゲル法により得られた水分散コロイダルシリカ表面の一部を3官能性シラン化合物等で処理した後、分散媒を水で置換することによって、金属不純物及び分散剤を含まず、高濃度であり、長期に渡って粘度上昇が少ない水分散表面処理コロイダルシリカを得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は、下記の水分散表面処理コロイダルシリカの製造方法を提供するものである。
【0010】
[1]
下記工程(A1)、(A2)及び(A3)を含む水分散表面処理コロイダルシリカの製造方法。
工程(A1):下式(I)で表される4官能性シラン化合物、その部分加水分解縮合物又はこれらの混合物を、塩基性物質の存在下、親水性有機溶媒及び水を含む混合液中で加水分解縮合することによってコロイダルシリカを得る工程
Si(OR14 (I)
(式中、R1は、独立に、炭素原子数1~6の一価炭化水素基を表す。)
工程(A2):工程(A1)で得られたコロイダルシリカに、下式(II)で表される3官能性シラン化合物、その部分加水分解縮合物又はこれらの混合物を添加し、コロイダルシリカ表面にR2SiO3/2単位を導入し、表面処理コロイダルシリカを得る工程
2Si(OR33 (II)
(式中、R2は置換又は非置換の炭素原子数1~20の1価炭化水素基を表し、R3は、独立に、炭素原子数1~6の1価炭化水素基を表す。)
工程(A3):工程(A2)で得られた表面処理コロイダルシリカの分散媒中の親水性有機溶媒を、水に置換する工程
[2]
工程(A2)において、式(II)で表される3官能性シラン化合物、その部分加水分解縮合物又はこれらの混合物の添加量が、工程(A1)で得られるコロイダルシリカ中のSiO2単位1モル当り0.001~1モルである[1]に記載の水分散表面処理コロイダルシリカの製造方法。
[3]
製造された水分散表面処理コロイダルシリカ中の金属不純物の濃度が0~1質量ppmである[1]又は[2]に記載の水分散表面処理コロイダルシリカの製造方法。
[4]
製造された水分散表面処理コロイダルシリカ中の親水性有機溶媒の濃度が0~1質量%である[1]~[3]のいずれかに記載の水分散表面処理コロイダルシリカの製造方法。
[5]
製造された水分散表面処理コロイダルシリカ中の固形分濃度が15~50質量%である[1]~[4]のいずれかに記載の水分散表面処理コロイダルシリカの製造方法。
[6]
製造された水分散表面処理コロイダルシリカの25℃における動粘度が1~100mm2/sである[1]~[5]のいずれかに記載の水分散表面処理コロイダルシリカの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法により得られる水分散表面処理コロイダルシリカは、金属不純物及び分散剤を含まず、高濃度であり、且つ、長期保存における粘度上昇が少ないため、シリコンウェハーの研磨や半導体デバイスのCMPプロセス等に研磨砥粒として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の水分散表面処理コロイダルシリカの製造方法は、下記工程(A1)、(A2)及び(A3)を含む水分散表面処理コロイダルシリカの製造方法である。
工程(A1):コロイダルシリカを得る合成工程
工程(A2):3官能性シラン化合物による表面処理工程
工程(A3):分散媒の置換工程
以下、各工程を順に追って説明する。
【0013】
工程(A1):コロイダルシリカを得る合成工程
本工程は、下式(I)で表される4官能性シラン化合物、その部分加水分解縮合物又はこれらの混合物を、塩基性物質の存在下、親水性有機溶媒及び水を含む混合液中で加水分解縮合することによってコロイダルシリカを得る工程である。
Si(OR14 (I)
(式中、R1は、独立に、炭素原子数1~6の一価炭化水素基を表す。)
【0014】
上式(I)中、R1は、炭素原子数1~6の1価炭化水素基であるが、炭素原子数1~4のものが好ましく、特に炭素原子数1~2のものが好ましい。R1で表される1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基等が挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基であり、特に好ましくは、メチル基及びエチル基である。
【0015】
上式(I)で表される4官能性シラン化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン及びテトラフェノキシシラン等が挙げられ、好ましくは、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン及びテトラブトキシシランであり、特に好ましくは、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランである。また、上式(I)で表される4官能性シラン化合物の加水分解縮合物としては、例えば、メチルシリケート、エチルシリケート等が挙げられる。
【0016】
塩基性物質としては、例えばアンモニア、ジメチルアミン、ジエチルアミン等が挙げられ、好ましくは、アンモニア及びジエチルアミンであり、特に好ましくはアンモニアである。これらの塩基性物質は、所要量を水に溶解したものが使用できる。
【0017】
親水性有機溶媒としては、上式(I)で表される化合物および/またはその部分加水分解縮合物ならびに水を溶解するものであれば特に制限はなく、例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、t-ブタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられ、アルコール類が好ましい。アルコールの炭素原子数が増すと生成するシリカ粒子の粒子径が大きくなるため、目的とするシリカ粒子の粒径によりアルコールの種類を選択することができる。
【0018】
本工程において使用される水の量は、上式(I)で表される4官能性シラン化合物および/またはその部分加水分解縮合物のヒドロカルビルオキシ基の合計1モルに対して0.5~5モルであることが好ましく、0.6~2モルであることがより好ましく、0.7~1モルであることが特に好ましい。なお、前述の塩基性物質を水に溶解して用いる場合は、該塩基性物質を溶解する水も本工程中の「水」に含まれる。
水に対する親水性有機溶媒の比率は、シリカ粒子と混合溶媒との親和性および製造の容易性の点から、質量比で0.2~10であることが好ましく、0.3~5であることがより好ましい。
塩基性物質の量は、得られるシリカ粒子の大きさの点から、上式(I)で表される4官能性シラン化合物および/またはその部分加水分解縮合生成物のヒドロカルビルオキシ基の合計1モルに対して0.01~2モルであることが好ましく、0.03~0.5モルであることがより好ましい。
【0019】
本工程における加水分解縮合の反応条件は、反応温度20~120℃、反応時間1~8時間が好ましく、反応温度20~100℃、反応時間1~6時間がより好ましい。
【0020】
工程(A1)で得られるコロイダルシリカ中のシリカ粒子の濃度は2~20質量%が好ましく、特に3~10質量%が好ましい。
【0021】
工程(A2):3官能性シラン化合物による表面処理工程
本工程は、工程(A1)で得られたコロイダルシリカに、下式(II)で表される3官能性シラン化合物、その部分加水分解縮合物又はこれらの混合物を添加し、コロイダルシリカ表面にR2SiO3/2単位を導入し、表面処理コロイダルシリカを得る工程である。
2Si(OR33 (II)
(式中、R2は置換又は非置換の炭素原子数1~20の1価炭化水素基を表し、R3は、独立に、炭素原子数1~6の1価炭化水素基を表す。)
【0022】
上式(II)中、R2は、炭素原子数1~20の1価炭化水素基であるが、好ましくは炭素原子数1~10、特に好ましくは炭素原子数1~3の1価炭化水素基である。R2で表される1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル等のアルキル基等が挙げられ、特に好ましくは、メチル基、エチル基及びプロピル基である。また、これらの1価炭化水素基の水素原子の一部または全部が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、好ましくは、フッ素原子で置換されていてもよい。
【0023】
上式(II)中、R3は、炭素原子数1~6の1価炭化水素基であるが、炭素原子数1~4のものが好ましく、特に炭素原子数1~2のものが好ましい。R3で表される1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基等が挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基であり、特に好ましくは、メチル基及びエチル基である。
【0024】
上式(II)で表される3官能性シラン化合物の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、i-プロピルトリメトキシシラン、i-プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、(ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシル)トリメトキシシラン等が挙げられる。
【0025】
上式(II)で表される3官能性シラン化合物の使用量は、工程(A1)で得られたコロイダルシリカ中のSiO2単位(上式(I)由来のSi原子)1モルに対して好ましくは0.001~1モル、より好ましくは0.01~0.1モル、特に好ましくは0.01~0.05モルである。
【0026】
本工程(A2)では、工程(A1)で得られたコロイダルシリカに、上式(II)で表される3官能性シラン化合物を添加し、次の反応条件で3官能性シラン化合物によるシリカの表面処理反応を行う。本工程(A2)における反応条件は、反応温度40~60℃、反応時間1~10時間が好ましく、反応温度50~60℃、反応時間1~8時間がより好ましい。
【0027】
本工程で得られる表面処理コロイダルシリカは、体積基準の粒度分布におけるメジアン径(D50)が5~300nmであることが好ましく、10~150nmがより好ましい。
【0028】
工程(A3):分散媒の置換工程
本工程は、工程(A2)で得られた表面処理コロイダルシリカの分散媒中の親水性有機溶媒を水に置換する工程である。工程(A3)で置換される親水性有機溶媒には、工程(A1)で使用した親水性有機溶媒および縮合によって生じたアルコール等の揮発性副生成物が含まれる。
置換方法としては、工程(A2)で得られた表面処理コロイダルシリカを加熱し、加熱による留出分と同量以上の水を加えながら濃縮する加熱濃縮法、フィルターを用いた限外ろ過などの方法により容易にかつ経済的に水分散表面処理コロイダルシリカを得ることができる。
【0029】
水の添加量は、水分散表面処理コロイダルシリカの安定性の観点から使用した親水性有機溶媒および生成したアルコール量の合計に対して好ましくは重量比で0.5~4倍量、より好ましく1.8~3.0倍量である。
【0030】
本工程で得られる水分散表面処理コロイダルシリカ中の親水性有機溶媒の濃度は、0~1質量%とすることが好ましく、0~100ppmとすることがより好ましく、0~10ppmとすることが特に好ましい。水分散表面処理コロイダルシリカ中の固形分濃度は、15~50質量%とすることが好ましく、30~40質量%とすることがより好ましい。
【0031】
本発明の製造方法により、ナトリウム、カリウム、鉄、カルシウム、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、銅等の金属不純物の含有量が少なく高純度である水分散表面処理コロイダルシリカが得られる。これらの金属不純物の総濃度は、水分散表面処理コロイダルシリカ全体の質量に対して0~1質量ppmであることが好ましく、0~0.5質量ppmであることがより好ましい。
【0032】
また、本発明の製造方法により、硫酸、硝酸、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、クエン酸、安息香酸、安息香酸アンモニウム、クエン酸三アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム及びクエン酸テトラメチルアンモニウム等の分散剤を使用せず、長期保存における粘度上昇が少なく安定性に優れた水分散表面処理コロイダルシリカが得られる。
本発明の製造方法により製造された水分散表面処理コロイダルシリカの25℃における動粘度は、1~100mm2/sであることが好ましく、5~20mm2/sであることがより好ましい。このような範囲であれば、研磨剤として用いた際に好適なものとなる。
【実施例0033】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、下記の実施例は、本発明を何ら制限するものではない。各実施例および比較例で得られた水分散コロイダルシリカについて下記の評価を行い、結果を表1に示した。
【0034】
[粒度分布]
シリカ粒子が0.5質量%となるように水分散コロイダルシリカをメタノールで希釈し、超音波を10分間照射した際の粒度分布を、動的光散乱法ナノトラック粒度分布測定装置(NanotracWaveII-Ex150、マイクロトラックベル社製)により測定し、得られた体積基準の粒度分布を基に、メジアン径(D50)、累積95%径(D95)を算出した。
また、下記式で求められるCV値により粒子の単分散性を評価した。CV値が小さいほど粒子の単分散性が高いことを示す。
CV[%]=(SD/MV)×100
(式中、SDは、測定における標準偏差であり、MVは体積平均径である。)
【0035】
[固形分濃度]
水分散コロイダルシリカをアルミニウムシャーレに1.5g精秤・採取し、105℃で3時間乾燥させた残差(X)gを精秤して以下の計算式でシリカ固形分濃度を算出した。
シリカ固形分濃度(質量%)=(X/1.5)×100
【0036】
[残存メタノール量測定]
ヘッドスペースガスクロマトグラフィー測定装置一式(HP6890 Series GC system、 5975 Mass Selective Detector、 G1888 Network headspace Sampler、いずれもアジレント・テクノロジー(株)製)を使用し、60℃で30分加熱しながらバイアルの気相部分を分析することにより、水分散コロイダルシリカ中の残存メタノール量を測定した。
【0037】
[金属不純物量測定]
ICP発光分光分析装置(Agilent 5110 ICP-OES、アジレント・テクノロジー(株)製)を使用して金属元素を測定し、水分散コロイダルシリカ中の金属不純物量を算出した。
【0038】
[動粘度]
キャノンフェンスケ粘度計を用いて25℃における水分散コロイダルシリカの動粘度を測定した。
また、100mlポリエチレン製瓶に水分散コロイダルシリカを80g入れ密栓したものを60℃で保存し、14日後、30日後、60日後の25℃における動粘度を測定した。
【0039】
[実施例1]
・工程(A1)
攪拌機、滴下ロート及び温度計を備えた3リットルのガラス製反応器に、メタノール793.0g、イオン交換水32.1g及び28%アンモニア水40.6gを入れて混合した。この溶液を53℃に調整し、撹拌しながらテトラメトキシシラン646.5gおよび5.5%アンモニア水160.9gを、同時に滴下を開始し、前者は6時間、後者は4時間かけて滴下した。テトラメトキシシランの滴下終了後、さらに0.5時間攪拌を継続して加水分解縮合を行うことにより、コロイダルシリカを得た。このコロイダルシリカ中のシリカ粒子の濃度は15.5質量%であった。
【0040】
・工程(A2):
前記工程(A1)で得られたコロイダルシリカに25℃でメチルトリメトキシシラン6.5g(コロイダルシリカ中のSiO2単位1モルに対して0.01モル相当量)を加えた後、55℃で1時間撹拌しコロイダルシリカの表面処理を行った。
【0041】
・工程(A3):
前記工程(A2)で得られた表面処理コロイダルシリカに25℃で、イオン交換水1000gを加えた後、メタノールを留去した。このとき、メタノールを留去しながら分散液の容量を一定に保つようにイオン交換水を滴下し、内温が100℃、且つpH7.5以下になった時点でイオン交換水の滴下を終了し、水分散表面処理コロイダルシリカ(i)770gを得た。
【0042】
[実施例2]
実施例1の工程(A2)において、メチルトリメトキシシランの添加量を32.5g(コロイダルシリカのSiO2単位1モルに対して0.05モル相当量)に変更した以外は実施例1と同様にして、水分散表面処理コロイダルシリカ(ii)805gを得た。
【0043】
[実施例3]
実施例1の工程(A2)において、メチルトリメトキシシラン6.5gをプロピルトリメトキシシラン32.5g(コロイダルシリカのSiO2単位1モルに対して0.05モル相当量)に変更した以外は実施例1と同様にして、水分散表面処理コロイダルシリカ(iii)783gを得た。
【0044】
[実施例4]
実施例1の工程(A2)において、メチルトリメトキシシラン6.5gを3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン10.5g(コロイダルシリカのSiO2単位1モルに対して0.01モル相当量)に変更した以外は実施例1と同様にして、水分散表面処理コロイダルシリカ(iv)795gを得た。
【0045】
[実施例5]
実施例1の工程(A1)において、反応温度を36℃に変更した以外は実施例1と同様にして、水分散表面処理コロイダルシリカ(v)775gを得た。
【0046】
[実施例6]
実施例1の工程(A1)において、反応温度を20℃に変更した以外は実施例1と同様にして、水分散表面処理コロイダルシリカ(vi)778gを得た。
【0047】
[比較例1]
実施例1において、工程(A2)を行わなかった以外は同様にして、水分散コロイダルシリカ(vii)771gを得た。
【0048】
[比較例2]
実施例5において、工程(A2)を行わなかった以外は同様にして、水分散コロイダルシリカ(viii)775gを得た。
【0049】
[比較例3]
実施例1において、工程(A2)を行わなかった以外は同様にして、水分散コロイダルシリカ780gを得た。得られた水分散コロイダルシリカに安息香酸アンモニウム0.17g(コロイダルシリカ固形分の質量に対して660ppm)を添加し、室温で1時間撹拌することにより水分散コロイダルシリカ(ix)を得た。
【0050】
[比較例4]
比較例3において、安息香酸アンモニウムの添加量を0.084g(コロイダルシリカ固形分の質量に対して330ppm)に変更した以外は同様にして、水分散コロイダルシリカ(x)を得た。
【0051】
【表1】
【0052】
以上の結果から、本発明の製造方法により得られる水分散表面処理コロイダルシリカは、金属不純物及び分散剤を含まず、高濃度であり、且つ、長期保存における粘度上昇が少ないものであることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の製造方法により得られる水分散表面処理コロイダルシリカは、金属不純物及び分散剤を含まず、且つ、高濃度でありながらも長期保存における粘度上昇が少ないため、シリコンウェハーの研磨や半導体デバイスのCMPプロセス等に研磨砥粒として好適に用いることができる。