(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005421
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】予成形体、予成形方法および圧縮ボンド磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/08 20060101AFI20230111BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20230111BHJP
H01F 7/02 20060101ALI20230111BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20230111BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20230111BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230111BHJP
H02K 15/03 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
H01F1/08 130
H01F41/02 G
H01F7/02 A
H01F7/02 E
B22F3/00 C
B22F3/02 M
B22F1/00 J
B22F3/02 P
B22F3/02 R
H02K15/03 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107308
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柘植 勇輝
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
5E062
5H622
【Fターム(参考)】
4K018AA11
4K018AA27
4K018BA05
4K018BA18
4K018BB04
4K018BC11
4K018BC12
4K018BC30
4K018CA02
4K018CA04
4K018CA09
4K018EA01
4K018FA08
4K018KA46
5E040AA03
5E040BB05
5E062CD05
5E062CE01
5E062CG02
5H622AA03
5H622DD01
5H622DD02
5H622DD04
5H622QA02
5H622QA04
5H622QB10
(57)【要約】
【課題】ボンド磁石の磁気特性の低下を抑制しつつ、保形性や取扱性を確保できる新たな形態の予成形体を提供する。
【解決手段】本発明は、磁石粒子と熱硬化性樹脂の混合物または混練物からなる粉末状または顆粒状の磁石原料の一部が結着してなる外殻部と、外殻部内にある磁石原料の残部からなる内包部とを有する予成形体である。外殻部は、例えば、熱硬化性樹脂が未硬化のまま結着した部分である。内包部は、粉末状または顆粒状の磁石原料からなる。このような予成形体は、例えば、磁石原料を温間加圧成形する予成形工程を経て得られる。予成形工程は、例えば、磁石原料を充填する予成形型の内壁面の温度である予成形温度(Tp)をts≦Tp≦ts+20℃(ts:熱硬化性樹脂の軟化点)としてなされる。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石粒子と熱硬化性樹脂の混合物または混練物からなる粉末状または顆粒状の磁石原料の一部が結着してなる外殻部と、
該外殻部内にある該磁石原料の残部からなる内包部と、
を有する予成形体。
【請求項2】
前記外殻部の外表面の少なくとも一部には、前記熱硬化性樹脂が複数粒子間に亘って一体化した連結部を有する請求項1に記載の予成形体。
【請求項3】
前記内包部の少なくとも一部は、粉末状または顆粒状である請求項1または2に記載の予成形体。
【請求項4】
前記磁石粒子は、前記磁石原料全体に対して88~98質量%含まれる請求項1~3のいずれかに記載の予成形体。
【請求項5】
前記磁石粒子は、希土類異方性磁石粒子を含む請求項1~4のいずれかに記載の予成形体。
【請求項6】
真密度(ρ0)に対する見掛密度(ρ)の割合である相対密度(ρ/ρ0)が48~72%である請求項1~5のいずれかに記載の予成形体。
【請求項7】
磁石粒子と熱硬化性樹脂の混合物または混練物からなる磁石原料を温間加圧成形する予成形工程を備え、
請求項1~6のいずれかに記載の予成形体が得られる予成形方法。
【請求項8】
前記予成形工程は、前記磁石原料を充填する予成形型の内壁面の温度である予成形温度(Tp)を、前記熱硬化性樹脂の軟化点(ts)~該軟化点+20℃(ts≦Tp≦ts+20℃)にしてなされる請求項7に記載の予成形方法。
【請求項9】
前記熱硬化性樹脂は、第1軟化点(ts1)を有する第1樹脂と該第1軟化点よりも高い第2軟化点(ts2)を有する第2樹脂とを少なくとも含み、
前記予成形工程は、前記磁石原料を充填する予成形型の内壁面の温度である予成形温度(Tp)を、該第1軟化点~該第2軟化点(ts1≦Tp≦ts2)にしてなされる請求項7に記載の予成形方法。
【請求項10】
前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の軟化点中で、前記第1軟化点(ts1)は最小であると共に前記第2軟化点(ts2)は最大であり、
前記予成形温度(Tp)は、該第1軟化点超で該第2軟化点未満(ts1<Tp<ts2)である請求項9に記載の予成形方法。
【請求項11】
請求項1~6のいずれかに記載の予成形体を加熱圧縮成形する本成形工程を備える圧縮ボンド磁石の製造方法。
【請求項12】
前記磁石粒子は、異方性磁石粒子を含み、
前記本成形工程は、前記予成形体を入れたキャビティに配向磁場を印加してなされる請求項11に記載の圧縮ボンド磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮ボンド磁石の製造に用いられる予成形体等に関する。
【背景技術】
【0002】
省エネルギー化等を図るため、電磁機器(電動機等)に永久磁石が用いられることが多い。永久磁石には、磁石粉末を焼結させた焼結磁石と、磁石粉末を樹脂で結合させたボンド磁石がある。ボンド磁石は形状自由度が大きく、焼結磁石よりも成形性に優れる。
【0003】
ボンド磁石には、主に、磁石粉末と熱可塑性樹脂の溶融混合物をキャビティへ射出して成形して得られる射出ボンド磁石と、磁石粉末と熱硬化性樹脂の混合物または混練物(単に「磁石原料」という。)を、キャビティ内で加熱圧縮成形して得られる圧縮ボンド磁石とがある。圧縮ボンド磁石は、通常、射出ボンド磁石よりも磁石粉末の割合が大きく、高磁気特性であり、また熱硬化性樹脂を用いるため耐熱性等にも優れる。
【0004】
ところで、圧縮ボンド磁石の製造時、高温なキャビティ内へ粉末状または顆粒状の磁石原料をそのまま充填すると、先に充填された磁石原料(特に樹脂)の軟化や溶融により、充填性の低下、キャビティ内における不均質化(磁石粒子と熱硬化性樹脂の分布バラツキ)等が生じることがある。そこで、粉末状または顆粒状の磁石原料を予め低圧成形した予成形体(仮圧縮成形体)を、キャビティへ投入して加熱圧縮成形(「本成形」という。)することがなされる。これに関連する記載が、例えば、下記の特許文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、室温域(非加熱状態)で、ボンド磁石用樹脂組成物を0.1~0.2t/cm2(約10~20MPa)で加圧して得た仮圧縮成形体を、その直下に非接触で配置した高温キャビティへ送入して、圧縮ボンド磁石を製造している。室温域で低圧成形した仮圧縮成形体(予成形体)は崩壊し易くて搬送し難いため、特許文献1では、予成形型と本成形型を上下に近接配置して対応している。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、搬送等を可能にする保形性を有する新たな形態の予成形体等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、コア・シェル構造の予成形体を着想し、磁石原料を温間成形することにより所望の保形性を有する予成形体を得ることに成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0009】
《予成形体》
(1)本発明は、磁石粒子と熱硬化性樹脂の混合物または混練物からなる粉末状または顆粒状の磁石原料の一部が結着してなる外殻部と、該外殻部内にある該磁石原料の残部からなる内包部と、を有する予成形体である。
【0010】
(2)本発明の予成形体は、磁石原料の均質的な圧粉体ではなく、外殻部と内包部を有するコア・シェル構造となっている。外殻部(シェル部)は、磁石原料の一部が結着(連結、結合等)してなり、予成形体の保形やハンドリング等に必要な強度を担う。内包部(コア部)は、そのような強度が必要なく、圧縮ボンド磁石の製造に適した低密度な状態を担う。本発明の予成形体によれば、そのハンドリング性の確保とボンド磁石の磁気特性の確保とが高次元で両立され得る。
【0011】
《予成形方法》
本発明は、予成形体の製造方法としても把握される。例えば、本発明は、磁石粒子と熱硬化性樹脂の混合物または混練物からなる磁石原料を温間加圧成形する予成形工程を備える予成形方法でもよい。
【0012】
《圧縮ボンド磁石の製造方法》
本発明は、圧縮ボンド磁石の製造方法としても把握される。例えば、本発明は、予成形体を加熱圧縮成形する本成形工程を備える圧縮ボンド磁石の製造方法でもよい。
【0013】
《圧縮ボンド磁石/磁気部材》
本発明は、圧縮ボンド磁石や、圧縮ボンド磁石を筐体のキャビティに一体成形した磁気部材(電磁部材)等としても把握される。以下、本明細書では適宜、圧縮ボンド磁石を単に「ボンド磁石」という。
【0014】
《その他》
特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また、特に断らない限り、本明細書でいう「x~yμm」はxμm~yμmを意味する。他の単位系(kA/m、kOe等)についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】予成形体の成形条件とその見掛密度の関係を示す散布図である。
【
図2A】温間成形した予成形体の外観と破壊モードを示す写真である。
【
図2B】常温成形した予成形体の外観と破壊モードを示す写真である。
【
図3】温間成形した予成形体と常温成形した予成形体の各外表面を顕微鏡で観察して得た写真である。
【
図4】予成形体の見掛密度・相対密度がボンド磁石の配向率へ及ぼす影響を示す散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書中に記載した事項から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を上述した本発明の構成に付加し得る。製造方法に関する構成要素も物に関する構成要素ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0017】
《磁石原料》
磁石原料は、磁石粒子(粉末)と熱硬化性樹脂(粉末)の混合物または混練物からなり、粉末状または顆粒状である。混合物は、熱硬化性樹脂と磁石粒子を常温域で混合して得られる粉末状でもよいし、熱硬化性樹脂と磁石粒子を加熱しつつ混合して得られる顆粒状でもよい。混練物は、磁石粒子と熱硬化性樹脂を混練(特に加熱混練)して得られる顆粒状である。顆粒状の磁石原料は、磁石粒子の表面に熱硬化性樹脂が略均一的に付着した組成物粒子(単に「コンパウンド」という。)からなる。混練したコンパウンドは、混合したコンパウンドよりも、磁石粒子の表面に付着した熱硬化性樹脂が緻密となり易い。なお、コンパウンドの製造に供される熱硬化性樹脂は、固形状(粒子状等)でなくてもよい。
【0018】
熱硬化性樹脂と磁石粒子の加熱は、例えば、温間状態(例えば40~120℃さらには80~100℃)で行われる。熱硬化性樹脂を流動状態(軟化または溶融した状態)にした混合や混練により、磁石粒子の割れが抑制され得る。
【0019】
《磁石粒子》
磁石粒子は、単種でも、複数種でもよい。複数種の磁石粒子は、合金組成、粒径(粒度分布)、特性(異方性・等方性)等の少なくとも一つが異なる粉末を混合して得られる。
【0020】
磁石粒子は、例えば、平均粒径の異なる粗粉末と微粉末の混合粉末でもよい。粗粉末の平均粒径は、例えば、40~200μmさらには80~160μmである。微粉末の平均粒径は、例えば、1~10μmさらには2~6μmである。平均粒径は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社日本レーザー製HELOS)にて測定(フラウンホーファー法を用いた測定)して定まる。
【0021】
粗粉末と微粉末の合計(または磁石粉末全体)に対する粗粉末の質量割合は、例えば、60~90質量%さらには65~80質量%である。換言すると、その合計に対する微粉末の質量割合は、例えば、10~40質量%さらには20~35質量%である。また、磁石原料(磁石粒子と樹脂(添加剤を含む)の合計)に対する磁石粒子の割合は、例えば、88~98質量%、91~95質量%さらには92~94質量%である。
【0022】
磁石粒子として、例えば、希土類磁石粒子がある。希土類磁石粒子には、NdとFeとBを基成分とするNdFeB系、SmとFeとNを基成分とするSmFeN系、SmとCoを基成分とするSmCo系等がある。一例として、磁石粒子は、NdFeB系異方性磁石粒子からなる粗粒子と、SmFeN系異方性磁石粒子またはSmCo系異方性磁石粒子からなる微粒子との混合粒子でもよい。なお、磁石粒子には、希土類等方性磁石粒子やフェライト粒子が含まれてもよい。
【0023】
《熱硬化性樹脂》
熱硬化性樹脂は、磁石粒子を保持するバインダとなる。熱硬化性樹脂には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等がある。代表的なエポキシ樹脂は、例えば、主剤(プレポリマー)と硬化剤の混合物からなり、エポキシ基による架橋ネットワーク化により硬化する。エポキシ樹脂の主剤として、例えば、ノボラック型、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビフェニル型、ナフタレン型、脂肪族型、グリシジルアミン型等が用いられる。エポキシ樹脂の硬化剤として、例えば、アミン系、フェノール系、酸無水物系が用いられる。主剤と硬化剤の少なくとも一方は、2種以上の樹脂でもよい。なお、熱硬化時期をキュア処理(熱硬化工程)により調整できる一液性エポキシ樹脂を用いてもよい。
【0024】
熱硬化性樹脂は、硬化促進剤、離型剤等の添加剤を含む樹脂組成物でもよい。本明細書では、そのような樹脂組成物も単に「熱硬化性樹脂」という。なお、磁石粒子は、熱硬化性樹脂に対応した界面活性剤で被覆処理されたものでもよい。本明細書では、そのような表面処理がなされた磁石粒子も単に「磁石粒子」という。ちなみに、エポキシ樹脂に対応する界面活性剤として、例えば、チタネート系カップリング剤やシラン系カップリング剤がある。
【0025】
《予成形体》
(1)予成形体は、外殻部と内包部を有する。外殻部は、磁石原料(特に熱硬化性樹脂)の一部が結着してなる。内包部は、その外殻部内にある磁石原料の残部からなる。
【0026】
外殻部は、磁石原料の粒子(混合された磁石粒子と熱硬化性樹脂粒子、またはコンパウンド)が単に圧接された状態(圧粉状態)でもよい。さらに外殻部の外表面の少なくとも一部には、磁石原料を構成する熱硬化性樹脂がその複数粒子間(複数の熱硬化性樹脂粒子間または複数のコンパウンド粒子間)に亘って一体化した連結部があると好ましい。連結部は、例えば、熱硬化性樹脂が加熱された成形型の内壁面に接触して軟化または溶融した後、磁石原料の隣接粒子間で再固化して形成される。当然ながら、熱硬化性樹脂が一体化した連結部の外縁は、磁石原料粒子を構成する熱硬化性樹脂の外縁よりも拡張(拡大)される。連結部は、軟化等した熱硬化性樹脂が濡れ拡がって外殻部の外表面全体を層状または膜状に被覆するものでもよいし、外殻部の外表面に島状に点在するものでもよい。なお、内包部に限らず外殻部にある熱硬化性樹脂も、硬化反応(架橋反応)が殆ど進行せず、実質的に未硬化な状態であるとよい。
【0027】
内包部の磁石原料は、圧粉状でも、粉末状または顆粒状でも、それらが混在した状態でもよい。内包部の磁石原料が予成形前の状態に近いほど、ボンド磁石の磁気特性の向上が図れ得る。
【0028】
予成形体は、例えば、真密度(ρ0)に対する見掛密度(ρ)の割合である相対密度(ρ/ρ0)が48~72%、50~70%、55~65%である。真密度は、磁石原料を構成する磁石粒子と熱硬化性樹脂の各密度と配合比から求まる。見掛密度は、予成形体の質量をその見掛体積(例えば、外形寸法から算出される容積)で除して求まる。
【0029】
(2)予成形体は、例えば、磁石原料を温間加圧成形して得られる(予成形工程)。予成形工程は、例えば、磁石原料を充填する予成形型の内壁面の温度である予成形温度(Tp)を、ts≦Tp≦ts+20℃さらにはts+5℃≦Tp≦ts+15℃(ts:熱硬化性樹脂の軟化点)としてなされてもよい。
【0030】
軟化点の測定方法として、環球式(ASTM D36)またはカップ&ボール式(ASTM D3461)がある。いずれも、円筒形状の容器に充填した材料上に錘を乗せて加熱して、錘による軟化した材料の押出量が所定値になったときの温度を軟化点としている。
【0031】
本発明に係る軟化点(ts)は、実測値の他、カタログ等に記載された軟化点でもよい。また、その軟化点(ts)は、熱硬化性樹脂が複数種の樹脂からなる樹脂組成物の場合なら、各樹脂(例えば、主剤と硬化剤)の配合比とそれぞれの既知な軟化点とから、複合則に沿って算出された軟化点でもよい。
【0032】
さらに、熱硬化性樹脂が複数種の樹脂からなる場合、各樹脂の軟化点の中間温度を、予成形温度(Tp)としてもよい。例えば、熱硬化性樹脂が、第1軟化点(ts1)を有する第1樹脂と第1軟化点よりも高い第2軟化点(ts2)を有する第2樹脂とを少なくとも含む場合なら、磁石原料を充填する予成形型の内壁面の温度である予成形温度(Tp)を、ts1≦Tp≦ts2として予成形工程を行ってもよい。熱硬化性樹脂が軟化点の異なる3種以上の樹脂からなる場合、第1軟化点(第1樹脂)と第2軟化点(第2樹脂)の選択は任意である。
【0033】
熱硬化性樹脂が複数の樹脂からなり、それらの軟化点中で第1軟化点(ts1)が最小であり第2軟化点(ts2)が最大なら、予成形温度(Tp)は第1軟化点超で第2軟化点未満(ts1<Tp<ts2)としてもよい。換言すると、予成形温度(Tp)は、最小の軟化点(tsm1)と最大の軟化点(tsm2)の中間温度としてもよい(tsm1<Tp<tsm2)。
【0034】
予成形温度を熱硬化性樹脂の軟化点付近とすると、予成形工程に係る成形圧力や成形時間の調整が容易となる。予成形温度が軟化点に対して過小でも過大でも、所望する外殻部や内包部の形成が困難となる。
【0035】
予成形工程は、成形圧力を、例えば、0.1~100MPa、0.5~50MPaさらには1~10MPaとしてなされるとよい。成形圧力が過小では、予成形体の成形自体が困難である。過大な成形圧力は、磁石粒子の割れ、予成形体の密度増大等を招く。
【0036】
予成形工程は、成形時間を、例えば、1~20秒さらには1~5秒程度行えば十分である。成形時間を比較的短くすることで、所望の外殻部と内包部を有する予成形体を効率的に得ることができる。
【0037】
(3)予成形体は、ボンド磁石を成形するキャビティへ充填、装填、投入等できる形態であればよい。予成形体は、ボンド磁石に近似させた一体物でもよいし、ボンド磁石に応じて細分化された分割物でもよい。予成形体の形状は、本成形工程のキャビティ形状に沿っているとよい。通常、予成形工程には、本成形工程とは異なる成形型が用いられる。
【0038】
《本成形体/本成形工程》
(1)ボンド磁石となる本成形体は、予成形体をキャビティ内で加熱圧縮成形して得られる(本成形工程)。磁石原料に異方性磁石粒子(特に希土類異方性磁石粒子)を含むとき、本成形工程は予成形体を入れるキャビティへ配向磁場を印加してなされるとよい。
【0039】
成形圧力(圧縮力)は、例えば、5~500MPa、10~250MPa、20~100MPaさらには30~50MPaである。圧縮力が過大では、ボンド磁石またはキャビティの変形、磁石粒子(特に、磁石合金に水素処理(HDDR、d―HDDR)して得られた粒子)の割れ等を生じ得る。圧縮力は過小でなければ、低圧成形(例えば、100MPa以下)でも、高Brや高Hkを発現するボンド磁石が得られる。なお、HkはBr(残留磁束密度)の90%に相当する磁束密度における逆磁界の大きさを表し、逆磁界に対する有効磁束密度の指標または磁化曲線(J-Hカーブ)の角形性の指標となる。
【0040】
成形温度(加熱温度)は、例えば、120~200℃さらには130~170℃である。加熱温度が過小では、熱硬化性樹脂の軟化または溶融が不十分となり、磁石粒子の割れや配向率の低下等を招き得る。加熱温度が過大では、熱硬化性樹脂の早期硬化、磁石粒子の酸化劣化等により、ボンド磁石の磁気特性の低下を招く。
【0041】
配向磁場は、通常、予成形体(磁石原料)の圧縮方向に交差(さらには直交)する配向方向へ印可される。配向磁場の大きさは、例えば、0.5~3Tさらには1~2Tである。配向磁場は、ボンド磁石が成形されるキャビティの内周面における磁束密度である。配向磁場の起磁源は、電磁石でも、(希土類)永久磁石でもよい。
【0042】
(2)ボンド磁石は、本成形体のままでも、本成形体に樹脂を硬化させる熱処理(キュア処理)や着磁が施されたものでもよい。キュア処理は、熱硬化性樹脂の種類に応じた温度で、本成形体を加熱してなされる。その加熱温度は、例えば、130~250℃さらには150~230℃である。
【0043】
着磁は、例えば、2~6T程度の磁場を印加してなされてもよい。なお、配向磁場中で加熱圧縮成形されたボンド磁石は必ずしも着磁されなくてもよいが、着磁によりボンド磁石の磁気特性の向上が望める。
【0044】
ボンド磁石は、本成形工程後にキャビティから取出(排出)されたものでもよいし、本成形工程でキャビティ(スロット等)を有する筐体と一体化されたものでもよい。ボンド磁石を筐体のキャビティに一体化した磁気部材として、例えば、電動機(車両駆動用モータ、エアコン、家電製品用モータ等)の界磁子(回転子、固定子)がある。なお、電動機は、直流電動機でも交流電動機でもよい。また電動機には、モータのみならずジェネレータも含まれる。
【実施例0045】
成形条件を種々変更して複数の予成形体(試料)を製作した。また、その予成形体を用いてボンド磁石を製作した。これらの外観や特性を評価した。このような具体例に基づいて、本発明を以下に詳しく説明する。
【0046】
《試料の製造》
(1)磁石粉末と熱硬化性樹脂
磁石粉末として、水素処理(d-HDDR)して製造された粗粉末である市販のNdFeB系異方性磁石粉末(愛知製鋼株式会社製マグファイン/Br:1.28T、iHc:1313kA/m、平均粒径:125μm)と、微粉末である市販のSmFeN系異方性磁石粉末(住友金属鉱山株式会社製SmFeN合金微粉C/Br:1.35T、iHc:875kA/m、平均粒径:3μm)を用いた。
【0047】
熱硬化性樹脂として、表1に示す主剤(第1樹脂)および硬化剤(第2樹脂)からなるエポキシ樹脂を用いた。いずれも常温域で粉末状であった。さらに本実施例では、そのエポキシ樹脂へ表1に示す硬化促進剤および離型剤(両者を併せて「添加剤」という。)を配合した樹脂組成物を調製した。本明細書では、添加剤を含む樹脂組成物も、単に「エポキシ樹脂」という。
【0048】
ホットプレート上に置いた樹脂組成物は、ホットプレートの表面温度が約60℃となる頃に変形(軟化)を始めた。その温度は、主剤の軟化点(ts1)と硬化剤の軟化点(ts2)、およびそれらの配合比から算出される軟化点:53℃×100+65℃×74.4)/(100+74.4)≒58.1℃(約59℃)と近似した。
【0049】
(2)磁石原料
磁石粉末(粗粉末および微粉末)と熱硬化性樹脂の混合物をニーダで加熱しつつ混合(適宜「溶融混合」という。)して、顆粒状のコンパウンド(混練物/磁石原料)を調製した。混合物の配合比は、その全体に対する質量割合で、粗粉末:65.2質量%、微粉末:27.9質量%、熱硬化性樹脂(添加剤を含む):6.9質量%とした。それぞれの真密度と配合比から求まる磁石原料の真密度(ρ0)は5.6g/cm3となる。
【0050】
ちなみに、体積割合でいうと、磁石粉末(粗粉末と微粉末)と熱硬化性樹脂は7:3となる。粗粉末と微粉末の体積割合は、それらの質量割合とほぼ同じで、7:3となる。
【0051】
混練は、ニーダの容体を90℃に保持し、ニーダを低速回転(10rpm)させて、5分間行った(溶融混合工程)。このとき熱硬化性樹脂は、軟化または溶融した状態となった。但し、低温・短時間の溶融混合であるため、熱硬化性樹脂は殆ど熱硬化していない状態である。
【0052】
(3)予成形工程
コンパウンドを予成形型のキャビティへ装填して、直方体(上下面:□13.8mm)の予成形体を製作した。キャビティの内壁面温度(型側壁温度)は、約23℃(常温)、60℃若しくは65℃(温間)、150℃(熱間)のいずれかとした。これらの温度は、金型の内側壁の近傍に埋設した熱電対により測定される温度である。各温度毎に、成形圧力(0.15~500MPa)を種々変化させた。
【0053】
(4)本成形工程
温間成形した各予成形体を、本成形型のキャビティへ投入し、加熱配向磁場中で圧縮成形した。このとき、キャビティの内壁面温度:150℃、成形圧力(圧縮力):20MPaとした。また、配向方向は圧縮方向(軸方向)に直交する方向(横方向)とし、配向磁場(5~18kOe/398~1432kA/m)は種々変化させた。こうして、直方体(上下面:□14mm)の本成形体を得た。
【0054】
なお、比較試料として、予成形体を用いずに、顆粒状のコンパウンドを本成形型のキャビティへ直接投入して、同様に配向磁場中で加熱圧縮成形した本成形体も製作した。
【0055】
(5)熱処理工程
金型のキャビティから取り出した本成形体を大気中で150℃×30分間加熱した(キュア処理)。こうして熱硬化性樹脂を熱硬化させたボンド磁石を得た。各ボンド磁石には、空芯コイルを用いて6Tの磁場を印加する着磁も行った(着磁工程)。
【0056】
《観察・測定》
(1)予成形体の成形圧力と見掛密度(ρ)
成形温度と成形圧力が異なる予成形体の各見掛密度(ρ)を求めた。見掛密度は、予成形体毎に質量と寸法を測定し、寸法から求める体積で質量を除して求めた。それらの関係を
図1にまとめて示した。
【0057】
(2)予成形体の外観と破壊モード
温間成形した予成形体(ρ=3g/cm
3)と常温成形した予成形体(ρ=3g/cm
3)について、外観と破壊モードを
図2Aと
図2B(両者を併せて「
図2」という。)にそれぞれ示した。破壊モードは、予成形体をプラスチックハンマーで軽く打撃したときの状態を示す。
【0058】
また、予成形体の外表面を光学顕微鏡で観察した。各予成形体の観察像を
図3に併せて示した。なお、各予成形体の表面(一部)に現れた樹脂の境界(外縁)を実線または破線により示した。
【0059】
(3)ボンド磁石の配向率
ボンド磁石の磁気特性から配向率を求めた。その配向率と本成形工程の配向磁場と予成形体の見掛密度(ρ[g/cm
3])または相対密度(%)との関係を
図4にまとめて示した。
【0060】
ここで、ボンド磁石の磁気特性は、直流BHトレーサー(東英工業株式会社製TRF-5BH-25Auto)を用いて、常温測定で得られたB-H曲線から求めた。相対密度(ρ/ρ0[%])は、予成形体の見掛密度(ρ)を磁石原料の真密度(ρ0)で除して求めた。
【0061】
配向率は、各配向磁場(kOe)を印加したときの残留磁束密度(Brx)を、配向磁場:20kOe(1591kA/m)を印加したときの残留磁束密度(Br0)で除して求めた。
【0062】
《評価》
(1)予成形体の見掛密度
図1からわかるように、温間低圧成形により、粉末状のコンパウンドの嵩密度(ρ:2.4g/cm
3)の嵩密度に近い見掛密度の予成形体が得られた。
【0063】
(2)予成形体の保形性
図2Aからわかるように、温間成形した予成形体には、外殻部(シェル部)が形成されており、その内側(内包部/コア部)は、コンパウンドが顆粒状であった。一方、
図2Bからわかるように、常温成形した予成形体は、外殻部(シェル部)の形成がなく、軽い衝撃でも全体が崩壊して顆粒状になることもわかった。
【0064】
このような相違は、
図3に示すように、予成形体の外表面付近における熱硬化性樹脂の形態(連結部の有無)に起因していると考えられる。
【0065】
(3)ボンド磁石の配向率
図4からわかるように、配向磁場の大きさに拘わらず、予成形体の見掛密度が低いほど、ボンド磁石の配向率は大きくなった。なお、見掛密度が2.8g/cm
3である予成形体を用いたボンド磁石の配向率は、顆粒状のコンパウンドをそのまま用いたボンド磁石の配向率と殆ど同じになることもわかった。
【0066】
以上から、外殻部と内包部を有する予成形体により、ボンド磁石の磁気特性の低下を抑制しつつ、保形性(ひいては取扱性)が確保され得ることがわかった。
【0067】