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特開2023-54515積層構造体、及び積層構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054515
(43)【公開日】2023-04-14
(54)【発明の名称】積層構造体、及び積層構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20230407BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
H01L21/02 B
H01L21/20
H01L27/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163411
(22)【出願日】2021-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】515277942
【氏名又は名称】株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
(71)【出願人】
【識別番号】308035117
【氏名又は名称】株式会社イオンテクノセンター
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 公平
(72)【発明者】
【氏名】名倉 宙志
(72)【発明者】
【氏名】松前 貴司
(72)【発明者】
【氏名】高木 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】日暮 栄治
(72)【発明者】
【氏名】倉島 優一
(72)【発明者】
【氏名】三井田 高
【テーマコード(参考)】
5F152
【Fターム(参考)】
5F152LP07
5F152MM03
5F152NN12
5F152NQ03
(57)【要約】
【課題】酸化ガリウム系半導体基板にSi膜が積層された積層構造体の製造方法であって、スマートカットによりSi基板からSi膜を精度よく分離することができる積層構造体の製造方法、及びその製造方法により製造された積層構造体を提供する。
【解決手段】一実施の形態として、Si基板12の一方の主面121から所定の深さの位置に水素イオンをイオン注入して、面状のイオン注入領域122を形成する、イオン注入工程と、Si基板12の一方の主面121と、(001)面を主面とする酸化ガリウム系半導体基板10の一方の主面101とを接合する、基板接合工程と、350℃以上、450℃以下の温度の熱処理を施すことにより、イオン注入領域122において水素脆化を生じさせて、Si基板12を分割し、酸化ガリウム系半導体基板10の一方の主面101上にSi膜11を残す、Si膜形成工程と、を含む、積層構造体1の製造方法を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si基板の一方の主面から所定の深さの位置に水素イオンをイオン注入して、面状のイオン注入領域を形成する、イオン注入工程と、
前記Si基板の前記一方の主面と、(001)面を主面とする酸化ガリウム系半導体基板の一方の主面とを接合する、基板接合工程と、
350℃以上、450℃以下の温度の熱処理を施すことにより、前記イオン注入領域において水素脆化を生じさせて、前記Si基板を分割し、前記酸化ガリウム系半導体基板の前記一方の主面上にSi膜を残す、Si膜形成工程と、
を含む、積層構造体の製造方法。
【請求項2】
前記Si膜形成工程の後に、450℃以上、630℃以下の温度の熱処理を施すことにより、前記Si膜のダメージを回復させる回復工程を含む、
請求項1に記載の積層構造体の製造方法。
【請求項3】
(001)面を主面とする酸化ガリウム系半導体基板と、
前記酸化ガリウム系半導体基板に積層されたSi膜と、
を備え、
前記Si膜の(111)面のX線ロッキングカーブの半値幅が150arcsec以下である、
積層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造体、及び積層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Ga基板に直接接合されたSi基板を薄膜化し、Ga基板と薄膜化されたSi基板をそれぞれドリフト層とチャネル層として用いた縦型のパワートランジスタが知られている(特許文献1参照)。特許文献1のパワートランジスタによれば、絶縁破壊電界強度が大きい酸化ガリウムを用いることによりドリフト層を薄くして、オン状態やスイッチング時の電力損失を低減することができる。また、チャネル層にSiを用いることにより、チャネル層に酸化ガリウムを用いる場合と比較してチャネル抵抗を低減し、デバイスのオン抵抗を低減することができる。
【0003】
一般的に、異種基板上にエピタキシャル膜を成長させる場合には、基板とエピタキシャル膜の結晶構造の違いに起因する結晶欠陥がエピタキシャル膜中に発生する。特に、GaとSiでは結晶構造が著しく異なるため、酸化ガリウム基板上にSi膜をエピタキシャル成長させる場合、単結晶膜を得ることすら極めて難しい。
【0004】
特許文献1に記載された、Ga基板に直接接合されたSi基板を薄膜化してSi膜を形成する技術によれば、GaとSiの結晶構造の違いに起因する結晶欠陥がSi膜中に発生するおそれがなく、積層されたGa基板とSi膜を高い信頼性が要求されるパワーデバイスに適用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6873516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、酸化ガリウム基板に接合されたSi基板を薄膜化する方法の1つとしてスマートカット(登録商標)が挙げられている。スマートカットでは、水素をイオン注入して熱を加えることにより水素脆化を生じさせて、イオン注入面で基板を分割する。スマートカットにおいて基板を分割するにはある程度の温度での加熱が必要とされるが、温度が高いほど水素イオンがイオン注入面から拡散移動しやすくなり、分割の精度が低下するおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、酸化ガリウム系半導体基板にSi膜が積層された積層構造体の製造方法であって、スマートカットによりSi基板からSi膜を精度よく分離することができる積層構造体の製造方法、及びその製造方法により製造された積層構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]、[2]の積層構造体の製造方法、及び[3]の積層構造体を提供する。
【0009】
[1]Si基板の一方の主面から所定の深さの位置に水素イオンをイオン注入して、面状のイオン注入領域を形成する、イオン注入工程と、前記Si基板の前記一方の主面と、(001)面を主面とする酸化ガリウム系半導体基板の一方の主面とを接合する、基板接合工程と、350℃以上、450℃以下の温度の熱処理を施すことにより、前記イオン注入領域において水素脆化を生じさせて、前記Si基板を分割し、前記酸化ガリウム系半導体基板の前記一方の主面上にSi膜を残す、Si膜形成工程と、を含む、積層構造体の製造方法。
[2]前記Si膜形成工程の後に、450℃以上、630℃以下の温度の熱処理を施すことにより、前記Si膜のダメージを回復させる回復工程を含む、上記[1]に記載の積層構造体の製造方法。
[3](001)面を主面とする酸化ガリウム系半導体基板と、前記酸化ガリウム系半導体基板に積層されたSi膜と、を備え、前記Si膜の(111)面のX線ロッキングカーブの半値幅が150arcsec以下である、積層構造体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸化ガリウム系半導体基板にSi膜が積層された積層構造体の製造方法であって、スマートカットによりSi基板からSi膜を精度よく分離することができる積層構造体の製造方法、及びその製造方法により製造された積層構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る積層構造体の垂直断面図である。
図2図2(a)~(c)は、本発明の実施の形態に係る、スマートカットを用いる積層構造体の製造工程を示す垂直断面図である。
図3図3は、図2(a)に示されるイオン注入工程の直後のSi基板の断面の透過電子顕微鏡(TEM)観察像の一例である。
図4図4は、回復工程における熱処理の温度と、Si膜の(111)面のX線ロッキングカーブの半値幅との関係を示すグラフである。
図5図5は、Si膜形成工程の直後(回復工程の直前)のSi膜の表面(剥離面)の原子間力顕微鏡(AFM)観察像である。
図6図6は、本発明の実施の形態に係る積層構造体を用いて形成される半導体デバイスの例である縦型パワートランジスタの垂直断面図である。
図7図7(a)は、実施例に係る試料の順方向、逆方向の電流-電圧特性(対数表示)であり、図7(b)は、順方向の電流-電圧特性(線形表示)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔実施の形態〕
(積層構造体の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る積層構造体1の垂直断面図である。積層構造体1は、(001)面を主面とする酸化ガリウム系半導体基板10と、酸化ガリウム系半導体基板10に積層されたSi膜11とを備える。
【0013】
酸化ガリウム系半導体基板10は、酸化ガリウム系半導体の単結晶からなる。ここで、酸化ガリウム系半導体とは、Ga、又は、Al、Inなどの元素が添加されたGaをいう。例えば、酸化ガリウム系半導体は、(GaAlIn(1-x-y)(0<x≦1、0≦y≦1、0<x+y≦1)で表される組成を有する。GaにAlを添加した場合にはバンドギャップが広がり、Inを添加した場合にはバンドギャップが狭くなる。
【0014】
酸化ガリウム系半導体基板10を構成する酸化ガリウム系半導体の単結晶は、β型の結晶構造を有する。また、酸化ガリウム系半導体基板10は、Si、Snなどのドーパントを含んでいてもよい。酸化ガリウム系半導体基板10は、例えば、FZ(Floating Zone)法やEFG(Edge Defined Film Fed Growth)法等の融液成長法により育成したGa系単結晶のバルク結晶をスライスし、表面を研磨することにより形成される。
【0015】
なお、酸化ガリウム系半導体基板10は、単一の基板であってもよく、また、酸化ガリウム系半導体の単結晶からなる下地基板と、その上に設けられた、酸化ガリウム系半導体の単結晶からなるエピタキシャル膜から構成されるものであってもよい。酸化ガリウム系半導体基板10が下地基板とエピタキシャル膜から構成される場合は、エピタキシャル膜の表面が後述する接合面101となる。
【0016】
Si膜11は、Siの単結晶からなる膜であり、基板から薄膜を分割するスマートカットにより形成される。スマートカットによる成膜では、エピタキシャル成長による成膜における、基板とエピタキシャル膜の結晶構造の違いに起因する結晶欠陥の発生や、基板を研磨して薄膜化する成膜における、研磨量の面内ばらつきによる膜厚の不均一性などの問題を回避し、結晶欠陥が少なく、かつ膜厚の均一性の高い薄膜を得ることができる。スマートカットによれば、1μm以下の均一な厚さの薄膜を得ることができる。例えば、厚さ数100μmの基板に研削、研磨加工を施し、1μm以下の均一な厚さの薄膜を得ることはできない。
【0017】
また、基板から分割された後のSi膜11のダメージを回復する回復工程(後述する)における熱処理温度を450℃以上、630℃以下とすることにより、より効果的にダメージを回復し、Si膜11の(111)面のX線ロッキングカーブの半値幅を150arcsec以下とすることができる。(111)面のX線ロッキングカーブの半値幅が150arcsec以下となる高い結晶性をSi膜11が有することにより、低損失な半導体デバイス、例えばチャネル移動度の劣化が抑制された、低損失なパワートランジスタを製造することができる。
【0018】
(積層構造体の製造方法)
図2(a)~(c)は、本発明の実施の形態に係る、スマートカットを用いる積層構造体1の製造工程を示す垂直断面図である。
【0019】
まず、酸化ガリウム系半導体基板10及びSi基板12を準備し、それぞれの一方の主面(以下、接合面と呼ぶ)101、121にCMP(chemical mechanical polishing)、機械研磨等による平坦化処理を施す。酸化ガリウム系半導体基板10とSi基板12は、典型的には、4~8インチの直径を有するが、それ以上の直径を有する場合であっても積層構造体1の製造は可能であると考えられる。また、酸化ガリウム系半導体基板10とSi基板12は、例えば、ともに100~600μmの厚さを有する。
【0020】
次に、図2(a)に示されるように、Si基板12の接合面121から所定の深さの位置に水素イオンをイオン注入し、面状のイオン注入領域122を形成する(以下、イオン注入工程と呼ぶ)。
【0021】
後述するように、イオン注入領域122を分割面としてSi基板12を分割し、Si基板12から分離される膜が積層構造体1のSi膜11となるため、Si基板12の接合面121からのイオン注入領域122の深さは、目的とするSi膜11の厚さに応じて決定される。
【0022】
イオン注入される水素イオンのドーズ量は、例えば、2×1016~8×1016/cmである。また、イオン注入の注入エネルギーは、イオン注入領域122の接合面121からの深さによって決定され、例えば、接合面121から950nm程度の深さにイオン注入領域122を形成する場合には、およそ110keVのエネルギーで水素イオンをイオン注入する。
【0023】
次に、図2(b)に示されるように、表面活性化接合法により、酸化ガリウム系半導体基板10の接合面101と、Si基板12の接合面121とを真空中で接触させ接合する(以下、基板接合工程と呼ぶ)。例えば、5×10-6Pa程度の圧力下の超高真空中チャンバー内において、1.5keVのエネルギーで加速したAr原子ビームを照射することにより、接合面101と接合面121の最表面を除去して、露出したそれらの新生面同士を接触させることにより、接合面101と接合面121を接合する。接合面101と接合面121を接合させた後、剥がれを防ぐために酸化ガリウム系半導体基板10とSi基板12をジグ等により固定してもよい。
【0024】
次に、図2(c)に示されるように、基板接合工程を経て接合面101と接合面121とが接合された状態の酸化ガリウム系半導体基板10とSi基板12に熱処理を施し、Si基板12のイオン注入領域122において水素脆化を生じさせて、Si基板12を分割し、酸化ガリウム系半導体基板10の接合面101上にSi膜11を残す(以下、Si膜形成工程と呼ぶ)。
【0025】
Si膜形成工程における熱処理の温度は、350℃以上、450℃以下の範囲にあり、また、350℃以上、400℃以下の範囲にあることが好ましい。また、Si膜形成工程における熱処理は、例えば、N又はAr雰囲気下で1~10分間行われる。なお、熱処理は、減圧下の真空チャンバー内で行われてもよいし、真空チャンバー以外の他の炉内で行われてもよい。
【0026】
図3は、図2(a)に示されるイオン注入工程の直後のSi基板12の断面の透過電子顕微鏡(TEM)観察像の一例である。図3に示される例では、Si基板12の接合面121から深さおよそ950nmの位置に厚さおよそ170nmのイオン注入領域122が形成されている。図3に示されるSi基板12は、CZ(Czochralski)法により製造された、直径100mm、厚さ510~540μm、抵抗率0.007~0.009Ωmのp型のSi基板であり、イオン注入領域122は、110keVのエネルギーで5×1016cm-2のドーズ量になるように水素イオンを注入することにより形成されたものである。
【0027】
図2(c)に示されるSi膜形成工程における熱処理の温度を350℃以上、450℃以下とすることにより、イオン注入領域122において十分に水素脆化を生じさせ、かつイオン注入領域122からの水素イオンの拡散移動を抑えることにより水素脆化が生じる領域の広がりを抑え、精度よくSi基板12を分割することができる。また、Si膜形成工程における熱処理の温度を400℃以下とすることにより、より効果的にイオン注入領域122からのSiの拡散移動を抑えることができる。また、Si膜形成工程における熱処理の温度を低く抑えることにより、積層構造体1の製造に必要なコストやエネルギーを低減することができる。
【0028】
Si膜形成工程において450℃以下という比較的低い温度の熱処理でSi基板12を分割することができるのは、酸化ガリウム系半導体基板10の(001)面である接合面101の[010]方向とSi基板12の接合面121の線膨張係数差(例えば、酸化ガリウム系半導体基板10の典型例であるGa基板の[010]方向の線膨張係数とSi基板12の線膨張係数は、それぞれ7.8と2.6)が特に大きく、接合面のSi基板12側近傍に大きな応力が発生するためと考えられる。なお、Siの結晶系が立方晶系であるため、Si基板12の接合面121の面方位に依らず、上記の温度の熱処理でSi基板12を分割することができる。
【0029】
Si膜形成工程の後には、再度の熱処理を施すことにより、イオン注入工程やSi膜形成工程において生じたSi膜11のダメージを回復する(以下、回復工程と呼ぶ)。
【0030】
図4は、回復工程における熱処理の温度と、Si膜11の(111)面のX線ロッキングカーブの半値幅との関係を示すグラフである。Si膜11を半導体デバイスのチャネル層として用いる場合には、Si膜11が、(111)面のX線ロッキングカーブの半値幅が150arcsec以下程度の結晶性を有することが好ましい。
【0031】
図4によれば、回復工程における熱処理の温度がおよそ450℃以上、630℃以下のときに、Si膜11の(111)面のX線ロッキングカーブの半値幅がおよそ150arcsec以下となる。また、回復工程における熱処理の温度がおよそ490℃以上、620℃以下のときに、Si膜11の(111)面のX線ロッキングカーブの半値幅がおよそ140arcsec以下となり、熱処理の温度がおよそ530℃以上、610℃以下のときに、Si膜11の(111)面のX線ロッキングカーブの半値幅がおよそ130arcsec以下となり、さらにSi膜11の結晶性が改善する。このため、回復工程における熱処理の温度は、450℃以上、630℃以下の範囲にあることが好ましく、490℃以上、620℃以下の範囲にあることがより好ましく、530℃以上、610℃以下の範囲にあることがさらに好ましい。なお、回復工程における熱処理は、例えば、N又はAr雰囲気下で1~10分間行われる。また、熱処理は、減圧下の真空チャンバー内で行われてもよいし、真空チャンバー以外の他の炉内で行われてもよい。
【0032】
回復工程の後には、Si膜11の表面に化学機械研磨(CMP)などの研磨処理を施して、平坦化させてもよい。
【0033】
図5は、Si膜形成工程の直後(回復工程の直前)のSi膜11の表面(剥離面)の原子間力顕微鏡(AFM)観察像である。図5の観察像に係る測定データから算出された平均面粗さ(Ra)は4.3nm、自乗平均面粗さ(RMS)は6nmと十分に小さく、Si膜形成工程において、Si基板12が精度よく分割されたことが確認された。例えば、積層構造体1を用いた半導体デバイスの製造工程において、Si膜11の表面のRa、RMSがともに10nm以下であれば、フォトリソグラフィを適切に実施することができる。
【0034】
その後、酸化ガリウム系半導体基板10から分離したSi基板12を図2(a)に示されるSi基板12として、上記の工程を繰り返すことにより、1枚のSi基板12から複数の積層構造体1のSi膜11を形成することができる。
【0035】
(積層構造体の適用例)
図6は、積層構造体1を用いて形成される半導体デバイスの例である縦型パワートランジスタ2の垂直断面図である。縦型パワートランジスタ2は、トレンチゲート構造を有する縦型のMOSFETであり、半導体層として積層構造体1を用いている。
【0036】
積層構造体1の酸化ガリウム系半導体基板10は、n型ドレイン層10a及びドリフト層10bを含み、Si膜11は、n型ソース領域11a、p型Siバルク層11b、及びp型ブロック層11cを含む。
【0037】
また、積層構造体1には、n型ソース領域11a側からドリフト層10bにまで達するトレンチ21が設けられ、トレンチ21内にはトレンチゲート電極22及びゲート酸化膜23が設けられ、トレンチ21の下には窒素イオンが注入された電流分離層24が設けられ、トレンチ21の上には被覆絶縁膜25が設けられている。そして、n型ソース領域11aとn型ドレイン層10aには、それぞれソース電極26とドレイン電極27が接続されている。
【0038】
スマートカットにより形成されるSi膜11には、酸化ガリウム系半導体基板10とSi膜11の結晶構造の違いに起因する結晶欠陥が含まれないため、縦型パワートランジスタ2は高い信頼性を有する。
【0039】
(実施の形態の効果)
上記本発明の実施の形態によれば、酸化ガリウム系半導体基板10に接合されたSi基板12をスマートカットにより分割する際に、450℃以下という比較的低い温度の熱処理を施してSi基板12を分割するために、イオン注入面からの水素イオンの拡散移動を抑え、Si基板12からSi膜11を精度よく分離することができる。
【0040】
また、450℃以上、630℃以下の温度の熱処理を施して、スマートカットによるSi膜11のダメージを回復させることにより、特に優れた結晶性を有するSi膜11を得ることができる。
【実施例0041】
上記実施の形態に係る酸化ガリウム系半導体基板10とSi膜11の積層体の接合部分の整流性を確認するため、n型のGa基板とp型のSi基板を直接接合し、接合部分の電気特性を評価した。以下、その方法と結果について説明する。
【0042】
まず、本実施例に係る評価に用いるn型のGa基板とp型のSi基板を用意した。ここで、Ga基板は、(001)面を主面とする10mm×15mmの長方形の基板であり、1~5×1017cm-3程度のドナー濃度と、500μm程度の厚さを有する。また、Si基板は、CZ法を用いて製造された、22mm×22mmの正方形の基板であり、0.08~0.12Ωcm程度の抵抗率と、295~345μm程度の厚さを有する。
【0043】
次に、Si基板の表面にメサパターンを形成した。このメサパターンは、2.2mm間隔でマトリクス状に並んだ、上面が2.2mm×2.2mmの正方形であり、高さが10μm程度である四角錐台により構成される。
【0044】
次に、表面活性化接合法により、Si基板のメサパターンが形成された表面をGa基板に直接接合した。5×10-6Pa程度の圧力下の超高真空中チャンバー内において、1.5keVのエネルギーで加速したAr原子ビームを照射することにより、Ga基板の接合面とSi基板の接合面(メサパターンが形成された表面)の最表面を除去して、露出したそれらの新生面同士を接触させることにより、接合面同士を接合した。
【0045】
次に、Si基板のGa基板と反対側の表面に、Si基板とオーミック接触するAl電極を形成し、また、Ga基板のSi基板と反対側の表面に、Ga基板とオーミック接触するTi/Au電極を形成した。
【0046】
次に、上記のAl電極とTi/Au電極の間に電圧を印加し、電流-電圧特性を測定した。
【0047】
図7(a)は、測定された順方向、逆方向の電流-電圧特性(対数表示)であり、図7(b)は、測定された順方向の電流-電圧特性(線形表示)である。図7(a)、(b)に示される電流-電圧特性から、整流性が得られたことが確認できる。
【0048】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、発明の主旨を逸脱しない範囲内において上記実施の形態及び実施例の構成要素を任意に組み合わせることができる。
【0049】
また、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0050】
1…積層構造体、 10…酸化ガリウム系半導体基板、 101…接合面、 11…Si膜、 12…Si基板、 121…接合面、 122…イオン注入領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7