IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フジミインコーポレーテッドの特許一覧

特開2023-5463表面修飾コロイダルシリカおよびこれを含む研磨用組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005463
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】表面修飾コロイダルシリカおよびこれを含む研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20230111BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20230111BHJP
   C01B 33/149 20060101ALI20230111BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C01B33/18 C
C09K3/14 550D
C01B33/149
H01L21/304 622B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107392
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】坪田 翔吾
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昌明
(72)【発明者】
【氏名】芦▲高▼ 圭史
(72)【発明者】
【氏名】篠田 潤
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 雄介
【テーマコード(参考)】
4G072
5F057
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072AA28
4G072DD06
4G072GG02
4G072HH28
4G072HH30
4G072JJ45
4G072KK17
4G072MM02
4G072PP17
4G072QQ05
4G072QQ06
4G072UU01
4G072UU30
5F057AA37
5F057DA03
5F057EA07
(57)【要約】
【課題】表面修飾されたコロイダルシリカの研磨対象物に対する濡れ性を向上させ、かつ経時安定性を向上させうる手段を提供する。
【解決手段】コロイダルシリカと、前記コロイダルシリカを表面修飾する重量平均分子量が20,000以上であるポリオキシアルキレン鎖を有する表面修飾基と、を含む、表面修飾コロイダルシリカ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカと、
前記コロイダルシリカを表面修飾する、重量平均分子量が20,000以上であるポリオキシアルキレン鎖を有する表面修飾基と、
を含む、表面修飾コロイダルシリカ。
【請求項2】
前記ポリオキシアルキレン鎖は、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン鎖、およびポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン鎖からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の表面修飾コロイダルシリカ。
【請求項3】
前記ポリオキシアルキレン鎖は、ポリオキシエチレン鎖である、請求項1または2に記載の表面修飾コロイダルシリカ。
【請求項4】
前記表面修飾基は、ウレタン結合を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の表面修飾コロイダルシリカ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の表面修飾コロイダルシリカと、
分散媒と、
を含む、研磨用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面修飾コロイダルシリカおよびこれを含む研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、物理的に半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカやアルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤等を含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法であり、具体的には、シャロートレンチ分離(STI)、層間絶縁膜(ILD膜)の平坦化、タングステンプラグ形成、銅と低誘電率膜とからなる多層配線の形成等の工程で用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、分子量が15,000以下のポリエチレンオキサイドにより表面改質されたコロイダルシリカおよびこれを含有するCMP用研磨組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-256184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、研磨組成物の研磨対象物に対する濡れ性が低く、研磨対象物の表面状態を良好に保つ、および/または適度な研磨速度を得るといった研磨性能の向上効果を十分に得られないという問題がある。また、特許文献1に記載の技術では、表面改質(表面修飾)されたコロイダルシリカの分散性が経時とともに低下するなど、経時安定性が不十分であるという問題がある。
【0006】
そこで本発明は、表面修飾されたコロイダルシリカの研磨対象物に対する濡れ性を向上させ、かつ経時安定性を向上させうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を積み重ねた。その結果、コロイダルシリカと、前記コロイダルシリカを表面修飾する重量平均分子量が20,000以上であるポリオキシアルキレン鎖を有する表面修飾基と、を含む、表面修飾コロイダルシリカにより上記課題が解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、表面修飾されたコロイダルシリカの研磨対象物に対する濡れ性を向上させ、かつ経時安定性を向上させうる手段が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、コロイダルシリカと、前記コロイダルシリカを表面修飾する重量平均分子量が20,000以上であるポリオキシアルキレン鎖を有する表面修飾基と、を含む、表面修飾コロイダルシリカである。かような構成を有する本発明の一実施形態による表面修飾コロイダルシリカによれば、研磨対象物に対する濡れ性が向上し、かつ経時安定性が向上しうる。
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明は、以下の実施形態のみには限定されない。
【0011】
本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。
【0012】
[表面修飾コロイダルシリカ]
(コロイダルシリカ)
本発明に係る表面修飾コロイダルシリカに含まれるコロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法が挙げられ、いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカであっても、本発明において好適に用いられる。しかしながら、金属不純物低減の観点から、ゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。ゾルゲル法によって製造されたコロイダルシリカは、半導体中に拡散性のある金属不純物や塩化物イオン等の腐食性イオンの含有量が少ないため好ましい。ゾルゲル法によるコロイダルシリカの製造は、従来公知の手法を用いて行うことができ、具体的には、加水分解可能なケイ素化合物(例えば、アルコキシシランまたはその誘導体)を原料とし、加水分解・縮合反応を行うことにより、コロイダルシリカを得ることができる。
【0013】
コロイダルシリカの平均一次粒子径の下限は、1nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましく、7nm以上であることがさらに好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、コロイダルシリカの平均一次粒子径の上限は、100nm以下が好ましく、75nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に発生しうるスクラッチ等のディフェクトを抑えることができる。なお、コロイダルシリカの平均一次粒子径は、例えば、BET法で測定されるコロイダルシリカの比表面積に基づいて算出される。
【0014】
コロイダルシリカの平均二次粒子径の下限は、2nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、15nm以上であることがさらに好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、コロイダルシリカの平均一次粒子径の上限は、200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましい。なお、コロイダルシリカの平均二次粒子径は、例えば、レーザー回折散乱法に代表される動的光散乱法により測定することができる。
【0015】
コロイダルシリカの平均会合度は、5.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.0以下であることがさらに好ましい。欠陥をより低減することができる。コロイダルシリカの平均会合度はまた、1.0以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましく、1.5以上であることがさらに好ましい。平均会合度は、コロイダルシリカの平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる。
【0016】
コロイダルシリカの形状は、特に制限されず、球形状であってもよいし、非球形状であってもよい。非球形状の具体例としては、三角柱や四角柱等の多角柱状、円柱状、円柱の中央部が端部よりも膨らんだ俵状、円盤の中央部が貫通しているドーナツ状、板状、中央部にくびれを有するいわゆる繭型形状、複数の粒子が一体化しているいわゆる会合型球形状、表面に複数の突起を有するいわゆる金平糖形状、ラグビーボール形状等、種々の形状が挙げられ、特に制限されない。
【0017】
[ポリオキシアルキレン鎖を有する表面修飾基]
本発明の表面修飾コロイダルシリカは、表面修飾基を有する。本発明に係る表面修飾基は、重量平均分子量が20,000以上であるポリオキシアルキレン鎖を有する基である。
【0018】
上記ポリオキシアルキレン鎖の例としては、例えば、ポリエチレングリコール鎖、ポリプロピレングリコール鎖、ポリトリメチレングリコール鎖、ポリテトラメチレングリコール鎖、ポリイソブチレングリコール鎖などが挙げられる。本発明に係る表面修飾基において、上記ポリオキシアルキレン鎖は、1種のみのオキシアルキレンからなるものであってもよいし、2種以上のオキシアルキレンからなるものであってもよい。2種以上のオキシアルキレンからなるポリオキシアルキレン鎖としては、例えば、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン鎖、ポリオキシエチレン-ポリオキシテトラメチレン鎖、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン鎖等が挙げられる。本発明に係る表面修飾基が2種以上のオキシアルキレンからなるものである場合、2種以上のオキシアルキレンの結合形態は、ランダム、交互、ブロック、周期的のいずれであってもよい。中でも、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン鎖、およびポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン鎖からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ポリオキシエチレン鎖がより好ましい。
【0019】
本発明の表面修飾基は、ポリオキシアルキレン鎖の末端が脂肪族炭化水素基で封止された構造を有していてもよい。すなわち、ポリオキシアルキレン鎖の一方の末端のヒドロキシル基における水素原子が脂肪族炭化水素基に置換されていてもよい。
【0020】
上記ポリオキシアルキレン鎖の末端を封止する脂肪族炭化水素基としては、炭素数1以上10以下の脂肪族炭化水素基が挙げられる。炭素数1以上10以下の脂肪族炭化水素基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基等の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基;ビニル基、アリル基等の直鎖状または分枝鎖状のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基などが挙げられる。中でも、直鎖状または分枝鎖状のアルキル基が好ましい。
【0021】
本発明の表面修飾基におけるポリオキシアルキレン鎖は、ポリオキシアルキレンとしての重量平均分子量(Mw)で、20,000以上である。ポリオキシアルキレン鎖の重量平均分子量が20,000未満の場合、濡れ性が低下する。また、所望の性能を得るために、合成の際に表面修飾剤を多く入れる必要があり、その結果、表面修飾コロイダルシリカの経時安定性が低下する。ポリオキシアルキレン鎖の重量平均分子量の上限は、特に制限されないが、100,000以下が好ましく、50,000以下がより好ましい。なお、ポリオキシアルキレンの重量平均分子量は、ポリエチレングリコールを標準物質とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0022】
さらに、本発明に係る表面修飾基は、ケイ素原子および連結基を含むことが好ましく、下記式(1)で表される基、下記式(2)で表される基、および下記式(3)で表される基からなる群より選択される少なくとも1つの基であることがより好ましい。下記式(1)~(3)中の波線が付された結合手は、コロイダルシリカの表面に結合する。
【0023】
【化1】
【0024】
上記式(1)~(3)中、
は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1以上30以下の炭化水素基を表し、
は、それぞれ独立して、アルキレン基を表し、
nは、それぞれ独立して、オキシアルキレン鎖[-(O-R)-]の平均重合度(数平均重合度)であって、280以上の数であり、
Xは、それぞれ独立して、単結合または連結基(1以上の原子を有する二価の基)を表し、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1以上3以下の脂肪族炭化水素基、または下記式(a)で表される基を表し、
【0025】
【化2】
【0026】
上記式(a)中、Rは、[-X-(O-R-OR]を表し、この際、RにおけるX、R、R、およびnは、それぞれ、上記式(1)~(3)で定義されるX、R、R、およびnと同様であり、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1以上3以下の脂肪族炭化水素基を表し、lおよびmは、それぞれ独立して、0以上の数を表す。なお、式(a)において、ケイ素原子から左に伸びる結合手が酸素原子に結合する。式(a)中の波線が付された結合手は、コロイダルシリカの表面に結合する。
【0027】
上記式(1)~(3)中、Rで用いられる炭素数1以上30以下の炭化水素基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、tert-アミル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、2-シクロヘキシルエチル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、tert-ヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、tert-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、イソノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基などのアルキル基;ビニル基、1-メチルエテニル基、2-メチルエテニル基、プロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、デセニル基、ペンタデセニル基、1-フェニルプロペン-3-イルなどのアルケニル基;フェニル基、ナフチル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-ビニルフェニル基、3-イソプロピルフェニル基、4-イソプロピルフェニル基、4-ブチルフェニル基、4-イソブチルフェニル基、4-tert-ブチルフェニル基、4-ヘキシルフェニル基、4-シクロヘキシルフェニル基、4-オクチルフェニル基、4-(2-エチルヘキシル)フェニル基、4-ステアリルフェニル基、2,3-ジメチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、2,5-ジメチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、3,4-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、2,4-ジ-tert-ブチルフェニル基などのアルキルアリール基;ベンジル基、フェネチル基、2-フェニルプロパン-2-イル基、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基などのアリールアルキル基;スチリル基、シンナミル基などのアリールアルケニル基等が挙げられる。
【0028】
上記式(1)~(3)中、Rは、アルキレン基を表し、好ましくは炭素数1以上4以下のアルキレン基である。炭素数1以上4以下のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基(メチルエチレン基)、トリメチレン基、ブチレン基(テトラメチレン基)、イソブチレン基などが挙げられる。中でも、エチレン基、プロピレン基が好ましい。複数のRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。複数のRが異なる場合、上記オキシアルキレン鎖[-(O-R)-]の結合形態は、ランダム、交互、ブロック、周期的のいずれであってもよい。
【0029】
上記式(1)~(3)中、nは、オキシアルキレン鎖[-(O-R)-]の平均重合度(数平均重合度)であり、280以上の数を表す。nは、好ましくは345以上1725以下の数、より好ましくは455以上1390以下の数である。nが280以上であると、本発明に係る表面修飾基同士の立体障害が充分となり分散媒中で分散しやすくなり、また、研磨対象物への良好な濡れ性を示す。
【0030】
上記式(1)~(3)中、Xは単結合または連結基(1以上の原子を有する二価の基)を表す。上記連結基としては、例えば、二価の炭化水素基、ウレタン結合、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート基、アミド基、これら1種以上が複数個連結した基などが挙げられる。
【0031】
上記二価の炭化水素基としては、炭素数が1以上18以下の直鎖状、分枝鎖状、または環状のアルキレン基が挙げられる。炭素数が1以上18以下の直鎖状、分枝鎖状、または環状のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基(メチルエチレン基)、トリメチレン基、ブチレン基(テトラメチレン基)、1-メチルプロピレン基、2-メチルプロピレン基、1,2-ジメチルプロピレン基、1,3-ジメチルプロピレン基、1-メチルブチレン基、2-メチルブチレン基、3-メチルブチレン基、2,4-ジメチルブチレン基、1,3-ジメチルブチレン基、n-ペンチレン基、n-へキシレン基、n-ヘプチレン基、n-オクチレン基、エタン-1,1-ジイル基、プロパン-2,2-ジイル基、デカン-1,10-ジイル基、ウンデカン-1,11-ジイル基、ドデカン-1,12-ジイル基、トリデカン-1,13-ジイル基、テトラデカン-1,14-ジイル基、ペンタデカン-1,15-ジイル基、ヘキサデカン-1,16-ジイル基、ヘプタデカン-1,17-ジイル基、オクタデカン-1,18-ジイル基、シクロペンタン-1,2-ジイル基、シクロペンタン-1,3-ジイル基、シクロヘキサン-1,1-ジイル基、シクロヘキサン-1,2-ジイル基、シクロヘキサン-1,3-ジイル基、シクロヘキサン-1,4-ジイル基、メチルシクロヘキサン-1,4-ジイル基、シクロヘキサン-1,4-ジメチレン基等が挙げられる。
【0032】
上記Xにおける連結基としては、合成のしやすさから、ウレタン結合を含むことが好ましく、二価の炭化水素基(特に、直鎖状または分枝鎖状のアルキレン基)とウレタン結合とを含む基であることがより好ましい。また、上記式(1)~(3)中のケイ素原子とX中の二価の炭化水素基(特に、直鎖状または分枝鎖状のアルキレン基)とが直接結合していることが好ましい。具体的には、Xは、-(CH-NH-C(=O)-(左端のCはケイ素原子に、右端のCはポリオキシアルキレン鎖中のOにそれぞれ結合)であることがより好ましい。なお、上記式中、kは1以上18以下の数を表し、好ましくは1以上6以下の数、より好ましくは1以上3以下の数である。
【0033】
上記式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1以上3以下の脂肪族炭化水素基を表す。炭素数1以上3以下の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基などが挙げられる。中でも、アルキル基が好ましい。なお、式(2)中のRも式(1)中のRと同様である。
【0034】
上記式(a)中、Rは、[-X-(O-R)n-OR]を表す。RにおけるX、R、R、およびnは、それぞれ、上記式(1)~(3)について例示および説明したものと同様であり、好ましい態様も同様である。また、オキシアルキレン鎖[-(O-R)-]を2種以上有する場合の結合形態についても上述の通りである。なお、ケイ素原子から左に伸びる結合手が酸素原子に結合する。式中の波線が付された結合手はコロイダルシリカの表面に結合する。
【0035】
上記式(a)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1以上3以下の脂肪族炭化水素基を表す。上記炭素数1以上3以下の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基等の直鎖状または分枝鎖状のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基などが挙げられる。中でも、直鎖状または分枝鎖状のアルキル基が好ましい。
【0036】
上記式(a)中、lおよびmは、それぞれ独立して、0以上の数を表す。lが付された構成単位とmが付された構成単位との結合順序は特に限定されない。すなわち、式(1)または(2)中の酸素原子と結合する式(a)中のケイ素原子は、lが付された構成単位におけるケイ素原子であってもよく、mが付された構成単位におけるケイ素原子であってもよい。同様に、式(a)中のRと結合する式(a)中の酸素原子は、lが付された構成単位における酸素原子であってもよく、mが付された構成単位における酸素原子であってもよい。また、lおよびmのうち一方が1以上の数であり他方が2以上の数である場合、lが付された構成単位とmが付された構成単位との結合形態は、ランダム、交互、ブロック、周期的のいずれであってもよい。
【0037】
本発明の表面修飾コロイダルシリカが、複数のR~R、X、l、m、またはnを有する場合、上記複数のR~R、X、l、m、およびnは、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0038】
なお、上記式(1)および(2)中、R、Rが水素原子である構造は、コロイダルシリカと結合した本発明に係る表面修飾基中の未反応のアルコキシシリル基が加水分解した構造などを示すものである。また、R、Rが炭素数1以上3以下の脂肪族炭化水素基である構造は、コロイダルシリカと結合した本発明に係る表面修飾基中の未反応のアルコキシシリル基が残存している構造などを示すものである。また、R、Rが上記式(a)で表される基である構造は、コロイダルシリカと結合した本発明に係る表面修飾基中の未反応のアルコキシシリル基と、未反応の後述のポリオキシアルキレン鎖含有シランカップリング剤および/またはコロイダルシリカと脱水縮合により結合した他の本発明に係る表面修飾基中のアルコキシシリル基とが反応した構造などを示すものである。
【0039】
[表面修飾コロイダルシリカの製造方法]
本発明の表面修飾コロイダルシリカの製造方法は、特に制限されず、例えば、
(a)重量平均分子量が20,000以上であるポリオキシアルキレンの末端ヒドロキシ基と反応し得る基を有するシランカップリング剤と、ポリオキシアルキレンとを用いて、ポリオキシアルキレン鎖含有シランカップリング剤を予め合成し、これとコロイダルシリカとを反応させる方法:
(b)重量平均分子量が20,000以上であるポリオキシアルキレンの末端ヒドロキシ基と反応し得る基を有するシランカップリング剤とコロイダルシリカとを反応させてから、重量平均分子量が20,000以上であるポリオキシアルキレンをさらに反応させる方法:
等が挙げられる。中でも、反応のコントロールが容易であり、製造コストをより低減することができる等の観点から、(a)の方法を用いることが好ましい。以下、(a)の方法について詳説する。
【0040】
<ポリオキシアルキレン鎖含有シランカップリング剤を合成する工程>
本工程では、ポリオキシアルキレンの末端ヒドロキシ基と反応し得る基を有するシランカップリング剤と重量平均分子量が20,000以上であるポリオキシアルキレンとを反応させて、ポリオキシアルキレン鎖含有シランカップリング剤(以下、単に「表面修飾剤」とも称する)を合成する。
【0041】
ポリオキシアルキレンの末端ヒドロキシ基と反応し得る基を有するシランカップリング剤としては、特に制限されないが、イソシアネート基含有シランカップリング剤が好ましい。イソシアネート基含有シランカップリング剤の例としては、例えば、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルジメトキシメチルシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、イソシアネートメチルトリメトキシシラン、イソシアネートメチルトリエトキシシラン、イソシアネートメチルジメトキシメチルシラン等が挙げられる。これらシランカップリング剤は、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。また、これらシランカップリング剤は市販品を用いてもよいし、合成品を用いてもよい。
【0042】
重量平均分子量が20,000以上であるポリオキシアルキレンとしては、特に制限されず、例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン、ポリオキシテトラメチレン、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンジブロックコポリマー、ポリオキシプロピレン-ポリオキシテトラメチレンジブロックコポリマー、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレントリブロックコポリマー等が挙げられる。なお、コポリマーの結合形態は、ランダム、交互、ブロック、周期的のいずれであってもよい。
【0043】
これらポリオキシアルキレンは、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。また、ポリオキシアルキレンは、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。これらポリオキシアルキレンの中でも、本発明の効果が得られやすいという観点から、ポリオキシエチレンが好ましい。
【0044】
上記のシランカップリング剤とポリオキシアルキレンとの反応は、特に制限されず、例えば、無溶媒または有機溶媒中で行うことができる。使用できる有機溶媒としては、例えば、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等の鎖状または環状エーテル;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン等の鎖状ケトン;アセトニトリル等のニトリルなどが挙げられる。
【0045】
シランカップリング剤とポリオキシアルキレンとを混合することにより、表面修飾剤が得られる。混合方法としては、ポリオキシアルキレンに対して、シランカップリング剤を添加し混合する方法が好ましい。この場合、シランカップリング剤の添加形態については、一括で添加してもよいし、分割して添加してもよいし、連続的に添加してもよい。連続的に添加する場合の添加速度は、適宜調整されうる。ポリオキシアルキレンが固体状の場合、この混合の前にポリオキシアルキレンを加熱し、ポリオキシアルキレンを液状としてから混合を行ってもよい。
【0046】
混合する際の攪拌速度は、特に制限されず、適宜設定することができる。混合する時間は、15分以上2時間以下であることが好ましい。
【0047】
混合後の反応温度は、20℃以上200℃以下であることが好ましく、50℃以上150℃以下であることがより好ましい。また、混合後の反応時間は、1時間以上50時間以下が好ましく、2時間以上30時間以下であることがより好ましい。反応雰囲気は、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、その他不活性ガス雰囲気等のいずれであってもよい。反応時の圧力についても、常圧下(大気圧下)、加圧下、減圧下のいずれであってもよく、特に制限されない。本発明に係る反応は、常圧下(大気圧下)で進行しうることから、常圧下(大気圧下)で反応を実施することが好ましい。
【0048】
シランカップリング剤とポリオキシアルキレンとの混合モル比(シランカップリング剤/ポリオキシアルキレン)は、0.5以上1.5以下が好ましい。
【0049】
このようにして、本発明に係る表面修飾剤を得ることができる。得られた表面修飾剤の構造は、例えば、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いた全反射法(ATR法)により赤外吸収スペクトルを測定し、確認することができる。この方法の詳細は、実施例に記載されている。
【0050】
本工程を行った後、表面修飾剤の単離・精製を行ってもよいが、単離・精製を行わずに、次の(コロイダルシリカと表面修飾剤とを反応させる工程)を行ってもよい。
【0051】
<コロイダルシリカと表面修飾剤とを反応させる工程>
本工程は、上記で得られた表面修飾剤とコロイダルシリカとを反応させて、本発明に係る表面修飾コロイダルシリカを得る工程である。上記コロイダルシリカは、表面にシラノール基を有しており、このシラノール基が反応部位となり、表面修飾剤との間でシロキサン結合を形成する。
【0052】
表面修飾剤(ポリオキシアルキレン鎖含有シランカップリング剤)は、下記式(1’)で表される化合物であることが好ましい。該表面修飾剤は、1種単独でも、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
【化3】
【0054】
上記式(1’)中、R、R、X、およびnは、それぞれ、上記式(1)~(3)中におけるものとして例示および説明されたものと同様であり、好ましい態様も同様である。2種以上の上記式(1’)で表される化合物を用いる場合、複数のR、R、X、およびnは、それぞれ同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0055】
上記式(1’)中、Rは、それぞれ独立して、炭素数1以上3以下の脂肪族炭化水素基を表す。上記炭素数1以上3以下の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等の直鎖状または分枝鎖状のアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基等の直鎖状または分枝鎖状のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基などが挙げられる。中でも、直鎖状または分枝鎖状のアルキル基が好ましい。
【0056】
本工程は、溶媒中で行うことが好ましい。該溶媒としては、水および/または上記(ポリオキシアルキレン鎖含有シランカップリング剤を合成する工程)で例示した有機溶媒が挙げられる。溶媒は、1種単独でも、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
コロイダルシリカと、表面修飾剤と、溶媒とを含む混合溶液を、反応容器内で攪拌しながら、反応させる。反応に供するコロイダルシリカと表面修飾剤との比率は、所望とする表面修飾の程度により適宜選択される。コロイダルシリカと表面修飾剤との比率の一例を挙げれば、コロイダルシリカ100質量部に対して、表面修飾剤の使用量が0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。
【0058】
コロイダルシリカと表面修飾剤との混合方法は、特に制限されないが、コロイダルシリカに対して、表面修飾剤を添加し混合する方法が好ましい。この場合、コロイダルシリカの添加形態については、一括で添加してもよいし、分割して添加してもよいし、連続的に添加してもよい。混合する際の攪拌速度は、特に制限されず、適宜設定することができる。
【0059】
反応温度は、20℃以上200℃以下であることが好ましく、30℃以上150℃以下であることがより好ましい。また、反応時間は、1時間以上50時間以下が好ましく、2時間以上30時間以下であることがより好ましい。反応雰囲気は、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、その他不活性ガス雰囲気等のいずれであってもよい。反応時の圧力についても、常圧下(大気圧下)、加圧下、減圧下のいずれであってもよく、特に制限されない。本発明に係る反応は、常圧下(大気圧下)で進行しうることから、常圧下(大気圧下)で反応を実施することが好ましい。
【0060】
以上のようにして、本発明の表面修飾コロイダルシリカが得られる。
【0061】
得られた表面修飾コロイダルシリカが、水以外の分散媒を含んでいる場合には、必要に応じて、水以外の分散媒を水で置換してもよい。水以外の分散媒を水で置換する方法は特に限定されず、例えば、表面修飾コロイダルシリカを加熱しながら水を一定量ずつ滴下する方法が挙げられる。また、表面修飾コロイダルシリカを沈殿・分離、遠心分離等により、水以外の分散媒と分離した後に、水に再分散させる方法も挙げられる。
【0062】
本発明に係る表面修飾コロイダルシリカの製造方法は、他の工程をさらに含んでもよい。このような他の工程の例としては、表面修飾コロイダルシリカを含む分散液をろ過する工程、表面修飾コロイダルシリカを含む分散液と他の添加剤(好ましくはpH調整剤)とを混合する工程、他の添加剤を混合した後さらにろ過する工程、等が挙げられる。
【0063】
本発明に係る表面修飾コロイダルシリカの構造は、例えば、29Si-NMRを用いて、T2成分(上記式(2)の形態)やT3成分(上記式(3)の形態)を検出することによって確認することができる。本明細書では、Tは、O原子と結合している結合手の数が3つであり、ポリオキシアルキレン鎖と結合している結合手の数が1つであるSi原子を意味し、2、3の数字は、Si原子が関与しているSi-O-Si結合の数を意味する。例えば、T2成分とは、O原子と結合している結合手の数が3つであるSi原子のうち、2個のSi-O-Si結合に関与しているSi原子を有する成分を意味する。表面未修飾のコロイダルシリカにおいては、ポリオキシアルキレン鎖と結合しているT2成分およびT3成分が検出されないが、本発明の表面修飾コロイダルシリカでは、T2成分およびT3成分が検出される。この検出方法の詳細は、実施例に記載されている。
【0064】
本発明の表面修飾コロイダルシリカは、本発明に係る表面修飾基が親水的なコロイダルシリカの表面を修飾し、これによって水、有機溶媒のいずれにも親和性を示し、高い分散性を有しうる。また、様々な研磨対象物に対する濡れ性が向上したものとなる。このため、CMP用の研磨砥粒、無機フィラー、無機バインダー、高分子材料改質剤、高分子凝集剤、吸着剤、塗料用添加剤、ハードコート剤、滑り防止剤、光学フィルム用反射防止剤、金属表面処理剤、耐熱剤、帯電防止剤、触媒担体、オルガノゾルなど、多様な分野で好適に使用することができる。以下では、本発明の表面修飾コロイダルシリカを含む研磨用組成物について説明する。
【0065】
[研磨用組成物]
上記の製造方法により得られた表面修飾コロイダルシリカは、研磨砥粒として好適に用いられる。すなわち、本発明の好ましい一実施形態によれば、本発明の表面修飾コロイダルシリカと、分散媒と、を含む、研磨用組成物が提供される。
【0066】
研磨用組成物に含まれる上記の分散媒としては、水および/または上記(ポリオキシアルキレン鎖含有シランカップリング剤を合成する工程)で例示した有機溶媒が挙げられる。分散媒は、1種単独でも、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
本実施形態に係る研磨用組成物に含まれる表面修飾コロイダルシリカは、砥粒としての機能を発揮する。当該表面修飾コロイダルシリカの含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。また、表面修飾コロイダルシリカの含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。すなわち、表面修飾コロイダルシリカの含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.2質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。
【0068】
本実施形態に係る研磨用組成物は、本発明の効果が阻害されない範囲で、水溶性高分子、pH調整剤、錯化剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0069】
本実施形態に係る研磨用組成物は、例えば、単結晶シリコン、多結晶シリコン(ポリシリコン)、窒化ケイ素、炭窒化ケイ素(SiCN)、酸化ケイ素、金属、SiGe、樹脂等の研磨対象物の研磨に好適に用いられる。研磨対象物は、1種の材料のみからなってもよいし、2種以上の材料を組み合わせたものであってもよい。
【0070】
酸化ケイ素を含む研磨対象物の例としては、例えば、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOSタイプ酸化ケイ素面(以下、単に「TEOS」とも称する)、HDP(High Density Plasma)膜、USG(Undoped Silicate Glass)膜、PSG(Phosphorus Silicate Glass)膜、BPSG(Boron-Phospho Silicate Glass)膜、RTO(Rapid Thermal Oxidation)膜等が挙げられる。
【0071】
上記金属としては、例えば、タングステン、銅、アルミニウム、コバルト、ハフニウム、ニッケル、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等が挙げられる。
【実施例0072】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0073】
(実施例)
重量平均分子量(Mw)が20,000であるポリオキシエチレン(PEO20,000、富士フイルム和光純薬株式会社製、固体状)150gを、1000mLの密閉耐熱容器に取分け、80℃雰囲気エアバス内で20時間加熱溶解した。20時間経過した後、容器ごと80℃ホットプレート上に乗せ、蓋を外し、攪拌ペラを用いて300rpmで攪拌を行った。攪拌中に、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製)1.5gを0.2g/secの速度で投入した。投入後、さらに1時間、300rpmで攪拌を続けた。再び密閉して、80℃雰囲気のエアバス内に戻し、20時間加温し、目的の表面修飾剤1を得た。
【0074】
別途、濃度10質量%の高純度コロイダルシリカ(平均二次粒子径:70nm、ゾルゲル法で合成されたもの)水溶液800gを、1000mLのフラスコに採取したものを用意し、マントルヒーターで液温60℃まで加温した。60℃に到達後、該水溶液を100rpmで攪拌しながら、上記で得られた表面修飾剤1を1.5g投入した。さらに、マントルヒーターを用いて液温を60℃に保ちつつ、100rpmで2時間攪拌を実施し、目的とする表面修飾コロイダルシリカ1を得た。
【0075】
得られた表面修飾コロイダルシリカ1の全質量に対する、PEO20,000の修飾量(含有量)を算出したところ、0.19質量%であった。
【0076】
(比較例1)
重量平均分子量(Mw)が10,000であるポリオキシエチレン(PEO10,000、Merck KGaA社製、固体状)150gを、1000mLの密閉耐熱容器に取分け、80℃雰囲気エアバス内で20時間加熱溶解した。20時間経過した後、容器ごと80℃ホットプレート上に乗せ、蓋を外し、攪拌ペラを用いて300rpmで攪拌を行った。攪拌中に、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製)3.0gを0.2g/secの速度で投入した。投入後、さらに1時間、300rpmで攪拌を続けた。再び密閉して80℃雰囲気のエアバス内に戻し、20時間加温し、目的の表面修飾剤2を得た。
【0077】
別途、濃度10質量%の高純度コロイダルシリカ(平均二次粒子径:70nm、ゾルゲル法で合成されたもの)水分散液800gを、1000mLのフラスコに採取したものを用意し、マントルヒーターで液温60℃まで加温した。60℃に到達後、該水溶液を100rpmで攪拌しながら、上記で得られた表面修飾剤2を0.75g投入した。さらに、マントルヒーターを用いて液温を60℃に保ちつつ、100rpmで2時間攪拌を実施し、目的とする表面修飾コロイダルシリカ2を得た。
【0078】
得られた表面修飾コロイダルシリカ2の全質量に対する、PEO10,000の修飾量(含有量)を算出したところ、0.09質量%であった。
【0079】
(比較例2)
重量平均分子量が200であるポリエチレングリコール(PEG200、富士フイルム和光純薬株式会社製、液状)21gを、1000mLの密閉耐熱容器に取分け、容器ごと80℃ホットプレート上に乗せ、蓋を外し、攪拌ペラを用いて300rpmで攪拌を行った。攪拌中に、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製)20gを0.2g/secの速度で投入した。投入後、さらに1時間、300rpmで攪拌を続けた。再び密閉して、80℃雰囲気のエアバス内に入れ、20時間加温し、目的の表面修飾剤3を得た。
【0080】
別途、濃度10質量%の高純度コロイダルシリカ(平均二次粒子径:70nm、ゾルゲル法で合成されたもの)水溶液800gを、1000mLのフラスコに採取したものを用意し、マントルヒーターで液温60℃まで加温した。60℃に到達後、該水溶液を100rpmで攪拌しながら、上記で得られた表面修飾剤3を0.03g投入した。さらに、マントルヒーターを用いて液温を60℃に保ちつつ、100rpmで2時間攪拌を実施し、目的とする表面修飾コロイダルシリカ3を得た。
【0081】
得られた表面修飾コロイダルシリカ3の全質量に対する、PEG200の修飾量(含有量)を算出したところ、0.002質量%であった。
【0082】
(比較例3)
表面修飾剤2の投入量を1.5gに変更したこと以外は、比較例1と同様にして、表面修飾コロイダルシリカ4を得た。
【0083】
得られた表面修飾コロイダルシリカ2の全質量に対する、PEO10,000の修飾量(含有量)を算出したところ、0.19質量%であった。
【0084】
(比較例4)
表面修飾剤3の投入量を3.1gに変更したこと以外は、比較例2と同様にして、表面修飾コロイダルシリカ4を得た。
【0085】
得られた表面修飾コロイダルシリカ4の全質量に対する、PEG200の修飾量(含有量)を算出したところ、0.19質量%であった。
【0086】
(比較例5)
重量平均分子量が20,000であるポリオキシエチレン(PEO20,000、富士フイルム和光純薬株式会社製、固体状)150gを、250mLの密閉耐熱容器に取分け、80℃雰囲気エアバス内で20時間加熱溶解した。
【0087】
別途、濃度10質量%の高純度コロイダルシリカ(平均二次粒子径:70nm、ゾルゲル法で合成されたもの)水溶液800gを、1000mLのフラスコに採取したものを用意し、マントルヒーターで液温60℃まで加温した。60℃に到達後、該水溶液を100rpmで攪拌しながら、上記で加熱溶解したPEG20,000を1.485g投入した。これにより、目的とするポリエチレングリコールとコロイダルシリカとの混合物を得た。
【0088】
[評価]
<表面修飾剤の構造確認>
上記で得られた表面修飾剤1について、下記のFT-IR装置を用い、構造確認を行った:
使用装置:フーリエ変換赤外分光分析装置(Spectrum100、パーキンエルマー社製)
検出方法:ATR(Attenuated Total Reflection、全反射測定)法。
【0089】
具体的には、上記実施例の3-イソシアネートプロピルトリメトキシシランを投入後10分経過した時点で、反応系内から1gをサンプリングした。得られたサンプルを、Spectrum100のATR測定用クリスタル上に載せ、FT-IRスペクトルを測定した。その結果、2260cm-1付近にシランカップリング剤由来のイソシアネート基のピークが存在していることを確認できた。
【0090】
さらに、反応が終了した時点で、反応系内から1gをサンプリングした。得られたサンプルを、Spectrum100のATRクリスタル上に載せ、FT-IRスペクトルを測定した。その結果、2260cm-1付近において、シランカップリング剤由来のイソシアネート基のピークが消失していることを確認することができた。これにより、ポリオキシエチレンとシランカップリング剤とが結合した表面修飾剤1が生成していることが確認できた。
【0091】
また、上記比較例1および2で得られた表面修飾剤2および表面修飾剤3について、上記の表面修飾剤1でのサンプリングと同様に、シランカップリング剤の反応が10分経過した後および反応終了後の両方でサンプリングを行い、上記と同様の方法でFT-IRの測定を行った。その結果、10分経過後に存在していた、2260cm-1付近におけるシランカップリング剤由来のイソシアネート基のピークが、反応終了後に消失していることを確認することができ、目的の表面修飾剤2および3が生成していることが確認できた。
【0092】
<表面修飾コロイダルシリカの構造確認>
表面修飾コロイダルシリカの構造は、下記の29Si-NMR装置を用いて確認した。具体的には、実施例の表面修飾コロイダルシリカ1の合成において、シランカップリング剤およびポリオキシアルキレンの量を増やしたこと以外は同様にして、測定用モデルサンプル2種を作製し、このモデルサンプルを用いて29Si-NMRを測定した。モデルサンプルBは、モデルサンプルAよりもシランカップリング剤およびポリオキシアルキレンの量がより多いサンプルである。また、比較のため、表面未修飾のコロイダルシリカも準備した。
【0093】
29Si-NMR装置≫
分光器:AVANCE300(ブルカー社製)
観測核:29Si(共鳴周波数59.6MHz)
測定法:CP/MAS法(ブルカー社製、標準パルスシークエンスcp.av 使用)
・MAS条件:3.5kHz
待ち時間:4秒
接触時間:8ミリ秒
積算回数:モデルサンプルA:80,000回
モデルサンプルB:65,536回
表面未修飾のコロイダルシリカ:4,096回
測定温度:室温(実測値24℃)。
【0094】
29Si-NMRの測定を行った結果、モデルサンプルAおよびモデルサンプルBの両方において、T2成分およびT3成分の存在が確認できた。一方、表面未修飾のコロイダルシリカでは、T2成分およびT3成分の存在が確認できなかった。このことから、実施例の合成方法により、目的とする表面修飾コロイダルシリカが得られていることを確認できた。
【0095】
<濡れ性>
上記実施例および比較例1~3で作製した表面修飾コロイダルシリカ水分散液、および比較例5で作製した混合物シリカ水溶液をビーカーにそれぞれ取分け、2cm×5cm角に切り出したシリコンウェーハをそれぞれ30秒間浸漬させた。シリコンウェーハを引き上げたのち、ワイピングクロスを用いて30秒間擦った。その後、純水を貯めたビーカーにシリコンウェーハを浸漬させ、軽く振とうさせながら30秒間洗浄した。洗浄後、シリコンウェーハを引き上げ、表面の濡れ状態を目視観察し、下記基準によって濡れ性を評価した。評価が○であれば実用可能である:
○(良好):シリコンウェーハ全面のうち7割以上が濡れ状態を維持している
△(一部不良):シリコンウェーハの5割以上7割未満が濡れ状態を維持している
×(不良):シリコンウェーハの5割未満が濡れ状態を維持している。
【0096】
なお、比較例4のサンプルは一部ゲル化したため、濡れ性が評価できなかった。
【0097】
(経時安定性)
実施例、および比較例1~4で作製した表面修飾コロイダルシリカ水分散液、ならびに比較例5で作製した混合物を100gずつ、それぞれ別の密閉容器(容量100mL)に取分け、室温(25℃)で24時間静置させた。24時間経過後、目視にて沈降状態やシリカゾルがゲルに変化しているかを観察し、下記基準によって表面修飾コロイダルシリカの経時安定性を評価した。評価が○であれば実用可能である:
○(良好):静置開始時と比べて変化がない
△(やや不良):若干の沈降が確認される
×(不良):沈降が激しい。
【0098】
濡れ性および経時安定性の評価結果を、下記表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
上記表1から明らかなように、実施例の表面修飾コロイダルシリカは、濡れ性および経時安定性の両方に優れることが分かった。一方、比較例1~5の表面修飾コロイダルシリカは、濡れ性および経時安定性の少なくとも一方の性能が劣ることが分かった。