(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054782
(43)【公開日】2023-04-14
(54)【発明の名称】光学素子の表面形状を評価する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G01B 11/24 20060101AFI20230407BHJP
G01M 11/00 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
G01B11/24 D
G01M11/00 L
G01M11/00 M
G01B11/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022159447
(22)【出願日】2022-10-03
(31)【優先権主張番号】10 2021 211 172.6
(32)【優先日】2021-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100229264
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 正一
(72)【発明者】
【氏名】レギーナ クルーゼ
【テーマコード(参考)】
2F065
2G086
【Fターム(参考)】
2F065AA53
2F065BB25
2F065DD03
2F065DD06
2F065FF52
2F065MM04
2F065PP13
2F065QQ25
2F065UU05
2G086FF01
2G086GG04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】光学素子の光学面の表面形状を評価する方法を提供する。
【解決手段】被検物としての光学素子は、干渉試験装置の測定領域内に完全に配置される。個々の測定間で、被検物を被検物回転軸周りに回転させる。M個及びN個の等距離の回転位置を有する少なくとも2つの測定系列が記録され、ここでM及びNは互いに素の自然数である。異なる測定系列の第1及び第2測定値が併せて評価される。評価動作は、反復評価法、すなわち求められる最終結果に段階的に近づくために同一又は同様の評価ステップを複数回繰り返すプロセスの使用を伴う。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子の光学面の表面形状を評価する方法であって、
前記光学素子は、前記光学面が干渉試験装置の測定領域内に完全に配置されるように被検物として前記試験装置に組み込まれ、
複数回の干渉測定が前記被検物で実行され、且つ
前記測定間で、被検物回転軸周りの前記被検物の制限された回転により、前記試験装置に対する前記被検物の回転位置が変更され、
第1測定により第1測定系列を形成するために、M個の第1測定値が360°/Mの回転角度差を有するM個の回転位置で取得され、第2測定系列を形成するために、N個の第2測定値が360°/Nの回転角度差を有するN個の回転位置で取得され、ここでM及びNは互いに素の自然数であり、且つ
評価動作において、前記光学面の前記表面形状を評価するための形状情報を確認するために、測定値が併せて評価され、
前記評価動作において、以下のステップ:
(A)前記第1測定に基づき第1形状誤差量を計算するステップであり、該第1形状誤差量は前記第1測定系列の共通の随伴回転形状誤差量であるステップと、
(B)前記第1測定系列の共通の非随伴回転誤差を含む第1試験セットアップ誤差を求めるために、前記第1形状誤差量を前記第1測定値から減算するステップと、
(C)前記第1試験セットアップ誤差を用いて、該第1試験セットアップ誤差の減算により前記第1形状誤差量から得られる補正第1形状誤差量を計算するステップと、
(D)第2試験セットアップ誤差を求めるために、前記補正第1形状誤差量を前記第2測定値から減算するステップと、
(E)前記第2試験セットアップ誤差を用いて、該第2試験セットアップ誤差を考慮して前記第2測定値から得られる補正第2形状誤差量を計算するステップと、
(F)前記第1測定系列及び前記第2測定系列の共通の非随伴回転誤差を含む補正第1試験セットアップ誤差を求めるために、前記補正第2形状誤差量を用いて、該補正第2形状誤差量を前記第1測定値から減算することにより前記第1試験セットアップ誤差を補正するステップと、
(G)前記補正第1試験セットアップ誤差を用いて、再度補正された第1形状誤差量を計算するステップと、
(H)結果を収束基準と比較して、比較の結果に応じてステップ(A)~(H)を任意に繰り返すステップと
が反復して実行される方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、ミラー(200)の形態の被検物が試験され、前記ミラーは反射面(210)を有し、該反射面の表面積は対称軸に対して回転対称ではないことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、前記ミラーは偏心孔(230)を有することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法において、3つ以上の測定系列が実行され、その結果が相互に計算されることを特徴とする方法。
【請求項5】
光学素子の光学面の表面形状を評価する装置(100)であって、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法を実行するよう構成されたことを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子、特にマイクロリソグラフィ投影露光装置のミラー又はレンズ素子の表面形状を評価する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトリソグラフィ法及び投影露光システムは、現在では半導体コンポーネント及び他の微細構造コンポーネント、例えばマイクロリソグラフィ用のマスク等の製造に主に用いられている。この場合、マスク(レチクルとも称する)用に作製される構造パターンが、照明系により整形された照明光で照明され、投影レンズを用いて基板の機能層に縮小して投影され、上記機能層は感光層で被覆されている。感光層の現像後に、構造パターンに対応する構造がエッチング法により機能層に転写される。
【0003】
作製する構造の微細化を可能にするために、この数十年で、深紫外域(DUV)からの光で動作すると共に液浸の有無を問わず1に近い又は1以上の高い像側開口数NAを有する屈折及び反射屈折光学系のほかに、より小さな開口数で動作すると共に実質的に極紫外域(EUV)からの、特に5nm~30nmの範囲の作動波長の、例えば約13.5nmの作動波長の使用電磁放射線の短波長により高分解能を得る光学系も開発されてきた。極紫外域からの放射線(EUV放射線)は、より高い波長で透明な光学材料により吸収されるので、EUVリソグラフィにはミラー系が用いられる。
【0004】
像側開口数の増大は、投影露光装置で用いられるミラーの所要ミラー面積の拡大を伴う傾向がある。その結果としてさらに、製造に加えて、ミラーの表面形状の試験に対する技術的要求も厳しくなりつつある。
【0005】
本願で検討する方法の場合、光学面の表面形状の試験は干渉測定を用いて実行される。干渉表面測定の場合、概して検査対象の表面により反射された測定波が参照波と重畳され、その際に生成された干渉パターンが捕捉される。結果として、測定によりアクセス可能な表面の実際の形状は、試験のために所望の目標形状と干渉法により比較される。製造公差を満たしているか超えているかを確かめるために、インターフェログラムに基づき偏差が定量化される。
【0006】
歴史的な理由で、被検物の光学面のその目標形状からの形状偏差を形状誤差又は「形状誤差量(Figure)」とも称する。したがって、形状誤差量測定又は形状誤差量試験も、かかる方法に関する術語として用いられることが多い。形状誤差量測定の目的は、形状誤差量、すなわち被検物誤差をできる限り正確に評価することである。
【0007】
かかる測定法の場合に生じる1つの問題は、例えば干渉計に位置する光学コンポーネントが完璧な表面形状からの偏差を有し且つ/又は完璧に位置合わせされていないので、干渉計のセットアップが実際には理想的でなく、理想的なセットアップからの偏差があることである。その影響で、例えば、参照波の波面が予め規定される目標波面に十分に正確に対応しないので、参照波が誤差を有し得る。こうした誤差は、試験セットアップ誤差として測定結果に影響を及ぼし、測定された光学面の表面形状の評価が不正確になり得る。
【0008】
したがって、十分に少ない誤差を有する試験結果を得ようとする際の中心的な目標は、被検物誤差と試験セットアップ誤差とを相互に確実に分離することである。
【0009】
場合によっては、被検物誤差と試験セットアップ誤差とを分離するために、形状誤差量測定中に回転平均化法が適用される。検査対象の光学素子(以下、「被検物」とも称する)は、個々の測定間で回転軸周りに等距離ずつ回転させられ、複数の異なる回転位置でインターフェログラムが取得されて評価される。回転平均化法は、「随伴回転」シグネチャを被検物に割り当てることができる一方で、「非随伴回転」誤差は試験セットアップに起因するものとされる。それにより、絶対誤差の非常に良好な推定が得られる。しかしながら、回転対称部分及び回転位置の数の対称性を有する部分、いわゆるうねりは、捕捉することができない。例として、回転平均形状誤差量測定に12個の回転位置を用いる測定法の場合、被検物誤差の12回対称性と試験セットアップ誤差の12回対称性とを区別することは不可能である。
【0010】
実験によれば、高次誤差は低次誤差よりも小さい傾向がある。したがって、これらは最終製品の誤差への寄与が少ない。したがって、うねり誤差をできる限り高次(例えば100次うねり)にすることに価値があると考えられる。しかしながら、これには、100個以上の回転位置をまず測定する必要があり、これは非常に長い測定時間及びマシンタイムを要するので、最終製品の費用を高くする一因となる。
【0011】
特許文献1は、被検物回転軸周りの回転により漸進的に複数の回転位置にすることができる被検物における非回転対称波面収差を干渉測定する方法を記載している。少なくとも1つの測定結果が、回転位置のそれぞれで確認される。測定は、少なくとも2つの測定系列(M,N)で実行され、測定系列(M,N)のそれぞれの測定結果(M1…Mm,N1…Nm)が、それぞれ相互に等距離の被検物の回転位置で確認される。測定系列(M,N)のそれぞれは、特定の数n、mの測定を含み、m及びnは自然数且つ互いに素な数である。最後に、全ての測定結果が数学的に評価される。この測定法は、「N+M」回転位置から非常に効率的に「N×M」対称うねり誤差を生じさせることができる。この方法は、N形状誤差量とM形状誤差量との間の差を形成することによりM次及びN次うねりに関する被検物誤差とセットアップ誤差とを区別することが可能であることに基づく。この目的で、N回転位置測定又はM回転位置測定が、形成されたNM形状誤差で補正される。同等数の測定点の場合、この方法では、上述の回転位置テストよりも高い絶対精度が得られる。換言すれば、この方法では、測定点の数を大幅に減らした回転位置テストの精度に匹敵する精度を得ることができる。
【0012】
特許文献2は、光学素子の表面形状を特性化する別の方法を記載している。この方法でも、多数の干渉測定が被検物すなわち光学素子で実行され、測定のそれぞれが、光学素子の各部分から出る試験波と参照波との間のインターフェログラムの記録を伴う。これらの測定間で、試験波に対する光学素子の位置が被検物回転軸周りの回転により段階的に変えられる。光学素子の形状誤差量は、これらの測定に基づき計算される。計算は、複数回の反復ステップにおいて、光学素子の形状誤差量がいずれの場合も前進計算を実行することにより確認されるように反復して実行され、これらの反復ステップのそれぞれが、前の反復ステップに基づき適合させた参照波にいずれの場合も基づく。この方法は、被検物の表面積全体が1回の測定で捕捉されるのではなく、被検物の全面積をカバーしないサブアパーチャを記録することしか可能でない場合でも機能するので、この方法は、比較的大型のミラー等の試験にも適している。
【0013】
リソグラフィ用の光学系のさらなる開発に伴い、複雑な形状を有する光学素子が増えており、従来の技術を用いたその試験は不可能であるか、又は経済的に実行可能な方法では可能とならない。光学系は、例えば、非回転対称形状を有し且つ/又は光学素子の対称中心に対して対称に位置しない切欠き又は孔を有するミラーを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】独国特許出願公開第100 58 650号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10 2017 217 371号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明が対処する課題は、光学素子の光学面の表面形状を評価する(被検物回転を用いる)一般型の方法であって、被検面が試験中に被検物回転軸として用いられる軸に対して全域的に回転対称でない場合でも、比較的短い総測定時間内で確実な試験の実行を可能にする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この課題を解決するために、本発明は、請求項1の特徴を有する方法と請求項5の特徴を有する装置とを提供する。好ましい発展形態は従属請求項で特定される。全ての請求項の文言を参照により本明細書の内容に援用する。
【0017】
本方法は、光学素子の光学面の表面形状を評価するのに役立つ。したがって、これにより形状誤差量試験が可能である。光学素子は、使用可能な取り付け状態でマイクロリソグラフィ投影露光装置の光学系、例えば投影レンズの一部である、例えばミラー又はレンズ素子であり得る。光学素子は、被検面が干渉試験装置の測定領域内に完全に配置されるように被検物として試験装置に組み込まれる。用語「被検物」は、ここでは光学面がその形状又は形状偏差に関して試験される光学素子を指し、すなわち「被試験素子」を指す。
【0018】
表面の形状が仕様に十分に正確に対応するかを試験するために、複数回の干渉測定が被検物で実行される。干渉測定において、表面から出る試験波と参照波とが重畳又は干渉させられ、それにより表面形状に関する情報を含むインターフェログラムを発生させる。インターフェログラムの強度分布から、測定値を例えば波面又は位相情報の形態で確認することができ、続いてそれに基づきさらなる評価が行われる。
【0019】
本方法は、被検物回転を行う。すなわち、個々の測定間で、被検物回転軸周りの被検物の制限された回転により、試験装置に対する被検物の回転位置が変更される。結果として、被検物は、複数の異なる回転位置で測定される。評価動作において、光学面の表面形状を評価するための形状情報を確認するために、インターフェログラムから得られた測定値が併せて評価される。
【0020】
特許文献1から既知の方法と同様に、本方法は、異なる数の回転位置を用いた少なくとも2つの測定系列を実行するものとする。第1測定系列は、第1測定により確認されるM個の第1測定値を含む。測定値は、それぞれの間に360°/Mの回転角度差があるM個の異なる等距離の回転位置に関連する。第2測定値は、類似の方法で取得され、N個の回転位置に関する測定値を含む第2測定系列を形成する。第2測定値が取得される回転位置間には、それぞれ360°/Nの回転角度差がある。数M及びNは、互いに素の自然数である。
【0021】
この従来の方法は、表面の目標形状が対称軸に対して回転対称である場合に良好な結果をもたらし、対称軸は被検物回転軸として用いられ、被検面は、被検物回転軸を中心とした事実上円形の外輪郭を有すると共に、被検物回転軸に対して回転対称でないギャップ、切欠き、又は孔を有しない限りにおいて全域的に具現される。かかる被検面は、ここでは全域的に回転対称であるという。これらの条件がある場合、用いられる術語は「軸上開口」の試験を含む。
【0022】
さらに、本発明は、「軸外開口」の、すなわち被検面が全域的に回転対称でない被検物での確実な試験も可能にする。この目的で提案されるステップは後述する。
【0023】
請求項に係る発明による方法と上述の従来技術との本質的な相違は、測定結果の評価にある。評価動作は、反復評価法、すなわち求められる最終結果に段階的に近づくために同一又は同様の評価ステップを複数回繰り返すプロセスの使用を伴う。
【0024】
第1ステップ(A)において、第1形状誤差量が第1測定に基づき計算される。第1形状誤差量は、第1測定系列の共通の随伴回転形状誤差量である。第1形状誤差量は、M個の回転位置全てに関する第1測定値に実質的に等しく存在する形状情報を含む。これは、被検物における形状偏差に実際には起因する誤差が全ての回転位置で同じように、但し被検物回転軸に対してそれぞれ異なる回転位置で現れるという考察に基づく。したがって、インターフェログラムにおけるこの誤差のシグネチャは、被検物に随伴して回転する。しかしながら、この方法ステップでは、回転対称誤差部分及び回転位置の数の対称性に関する誤差部分を取得することができない。結果として、方法ステップ(A)の結果は、M次うねりに関する被検物誤差と、試験セットアップに起因する寄与すなわち試験セットアップ誤差とを依然として含む。
【0025】
後続のステップ(B)において、第1試験セットアップ誤差を求めるために、上述の第1形状誤差量が第1測定値から(すなわち、第1測定の生データから)減算される。第1試験セットアップ誤差は、第1測定系列の非随伴回転誤差を含む。これらは、測定セットアップの理想的でない位置合わせに起因する誤差、例えば被検物の回転中のゆらぎ誤差を主に含む。さらに、これらは、実際に用いられる参照波が理想的に提供される参照波からずれることに由来する誤差を含む。
【0026】
後続のステップ(C)において、こうして確認された第1試験セットアップ誤差が、補正第1形状誤差量の計算に用いられる。後者は、第1測定値、すなわち第1測定の生データから第1試験セットアップ誤差の減算により得られる。
【0027】
本願において、上記一連の方法ステップを第1サイクル又はMサイクルとも称する。基礎となる生データ(第1測定値)がM個の回転位置に存在するので、Mサイクル単独では、M次うねりに関する被検物誤差とM次うねりに関する試験セットアップ誤差とを識別することができない。
【0028】
請求項に係る方法は、M次うねりに関する誤差をN次うねりに関する誤差から分離することを可能にする。この目的で、多少短縮した表現方法では、M次うねりに関する補正被検物誤差被検物誤差(すなわち、再構成された第1形状誤差量)がN回転位置サイクルの再構成に供給されるか又はそこで処理される。そこでは、生データ(第2測定系列の第2測定値)は、N次うねりに関する被検物誤差及びN次うねりに関する試験セットアップ誤差を担持するだけである。このサイクルにおけるM次うねりは、M回転位置サイクルの補正によってのみ登録され、N個の回転位置での再構成により抑制される。換言すれば、それにより、M次うねりに関する被検物誤差をM次うねりに関する試験セットアップ誤差から分離することができる。
【0029】
したがって、後続のステップにおいて、第1測定系列の結果及び第2測定系列の結果が特定の方法で「相互に融合される」。本発明の一形態によれば、これは、方法ステップ(D)において、第2試験セットアップ誤差を求めるために、ステップ(C)で確認された補正第1形状誤差量を第2測定値から減算することにより行われる。したがって、このステップでは、Mサイクルからの情報がNサイクルに導入される。
【0030】
ステップ(E)において、こうして確認された第2試験セットアップ誤差を続いて用いて、第2試験セットアップ誤差を考慮して第2測定値、すなわち第2測定系列の生データから得られる補正第2形状誤差量が計算される。
【0031】
その後、ステップ(F)において、補正第2形状誤差量を用いて第1試験セットアップ誤差が補正される。これは、第1測定系列及び第2測定系列の共通の非随伴回転誤差をこのとき含む第1試験セットアップ誤差を求めるために、補正第2形状誤差量を第1測定値から減算することにより行われる。
【0032】
その後、ステップ(G)において、この補正第1試験セットアップ誤差を用いて、再度補正された第1形状誤差量が計算される。
【0033】
N回転位置サイクルの再構成後に、この再構成結果は、補正としてM回転位置サイクルの再構成に再度供給される。これは、N次うねりに関する被検物誤差の補正又はさらなる抑制につながる。
【0034】
十分に正確な結果が被検物の表面形状で得られるまで、すなわち例えば特定の収束基準が満たされるまで、この一連の方法ステップを反復することが可能である。したがって、ステップ(H)は、収束基準との比較と、比較の結果に応じた上記ステップ(A)~(H)の反復とを含む。
【0035】
これらの方法ステップを複数回繰り返して、すなわち反復して適用することにより、M次うねりに関する被検物誤差、N次うねりに関する被検物誤差、並びにM次うねりに関する試験セットアップ誤差及びN次うねりに関する試験セットアップ誤差の相互の分離がより良好になり、公倍数、すなわちN×Mのみが最終結果に残るようになる。これは、ここまでは前述の特許文献1からの方法に類似する。
【0036】
しかしながら、これに対して、Mサイクル及びNサイクルの結果は反復的方法で交互に計算されるので、N次うねり及びM次うねりの補正が被検物が通過する全域で行われる。この計算は、以下で「スティッチング」とも称する。結果として、これは、測定の任意の段階で測定領域に位置していた表面のあらゆる部分について試験セットアップ誤差に関する情報を確認することができることを意味する。特定の測定の場合に、すなわち特定の回転位置の場合に、測定領域の部分領域について情報が取得されない(この測定での「不良画素」につながる)としても、この領域を回転位置のいずれかで測定できる限りは試験セットアップ誤差を再構成することができる。
【0037】
こうして、「スティッチング」により、無効画像領域及び/又は平均化エッジの重複が生じることがない。したがって、この方法は、関心領域が被検物回転軸に対して全域的に回転対称でない被検物にも適用可能である。これは例えば、多重折り曲げビーム経路において光学系の他のミラー間を通るビームをビネッティングなしで通過させるために軸外切欠きを含むミラーの場合に当てはまり得る。別の例は、外輪郭が円形でなく公称回転対称表面形状の対称軸を中心としている光学素子、例えば楕円ミラーの表面である。
【0038】
正確に2つの測定系列のみを実行してそれらの結果を併せて評価すれば十分であり得る。いくつかの実施形態は、3つ以上の測定系列、例えば3つ、4つ、又は5つの測定系列を実行してそれらの結果を相互に計算するものとする。これにより、測定時間が長くなる代わりにより正確な可能性がある結果を得ることができる。
【0039】
本発明のさらなる利点及び態様は、特許請求の範囲と図を参照して以下で説明する本発明の例示的な実施形態の説明とから明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】被検物の光学面の表面形状を評価する干渉試験装置のセットアップを概略的に示す。
【
図2】従来技術(PA)による方法の評価アルゴリズムを示す。
【
図3】従来技術の方法でのM次うねりの媒介効果及び軸外開口の試験時の問題を示す。
【
図4】本発明の一実施形態における評価動作の一連の方法ステップを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明による方法及び本発明による測定装置の例示的な一実施形態を、マイクロリソグラフィ投影露光装置の投影レンズ又は照明系のミラーの光学面の表面形状の評価に基づき以下で説明する。
【0042】
本方法は、様々な干渉試験装置により実行することができる。
図1は、非常に概略的な基本図で、光学素子の形態の被検物200の光学面210の表面形状を評価する試験装置100のセットアップを示す。試験装置は、例としてマイケルソン干渉計のような光学セットアップで示す。これは、他の干渉計原理に従って動作することもでき、例えば、試験装置はフィゾー干渉計として構成され得る。試験は干渉測定の測定結果に基づき、こうした理由で、試験装置100は測定装置100と称することもできる。
【0043】
干渉試験装置100、特に、光源110、基準素子120、ビームスプリッタ130、及び生じる干渉パターンを捕捉するための検出器を備えた装置150。上記装置は、例えばカメラを有し得る。装置150は、特にコンピュータベースのデータ処理ユニットを含む評価ユニット170を収容した制御ユニット160に結合され、データ処理ユニットでは、インターフェログラムから得られた測定値を評価する測定動作が実行される。制御ユニット160は、自動試験装置の動作を協調させ制御する働きをする。
【0044】
被検物は、被検面210が試験装置の測定領域140内に完全に配置されるように回転可能に取り付けられた被検物ホルダに組み込まれる。被検物ホルダは、被検物が所定の角度増分で被検物回転軸220周りに回転して特定の回転位置に停止できるように制御ユニットにより回転可能である。
【0045】
被検物200の被検面210の目標形状は、表面の対称軸に対して回転対称(球面又は非球面)である。被検物は、上記対称軸が被検物回転軸にできる限り正確に対応するように収容される。
【0046】
干渉測定が被検物で実行され、表面210から出る試験波と基準素子から出る参照波との間のインターフェログラムが各干渉測定で確認される。測定間で、被検物回転軸220周りの被検物の制限された回転により、試験装置に対する被検物の回転位置が変更される。評価動作において、光学面の表面形状を評価するための形状情報を確認するために、インターフェログラム又はそこから得られた測定値が併せて評価される。
【0047】
第1測定系列を形成するために、M回の測定が実行される。この場合、M個の測定値が360°/Mの回転角度差を有するM個の回転位置(M1、M2等)で取得される。第2測定系列を形成するために、N個の測定値(N1、N2等)が360°/Mの回転角度差を有するN個の回転位置で取得される。この場合、M及びNは互いに素の自然数である。第1測定系列のM個の測定値をここでは「第1測定値」とも称し、第2測定系列のN個の測定値を対応して「第2測定値」とも称する。
図1は、M=3及びN=5の例に基づき回転位置の状況を示す。各測定系列において、回転位置は、被検物200の全回転で等距離又は等間隔の角度位置に配置される。
【0048】
これらの一般的態様に関しては、手順は特許文献1に記載の方法に対応するが、特定の欠点を回避するために上記方法を変更する。
【0049】
理解を深めるために、最初に特許文献1から知られている方法をより詳細に説明し、この方法を以下では「N+M法」とも称する。この従来の方法の基礎となるアルゴリズムを
図2に概略的に示す。この方法は、等距離の360°/N回転位置及び360°/M回転位置に関する測定データ又は測定値を最初に記録することを含む。これらの測定値記録の系列又はサイクルは、
図1ではそれぞれN-CYC(Nサイクル)及びM-CYC(Mサイクル)で表される。各生データが続いてそれぞれ各ステップREC(P
N)及びREC(P
M)で再構成されて、各サイクルの形状誤差量を形成する。
図2において、P
NはNサイクルから導出されたN形状誤差量、すなわちN個の回転位置からの再構成を表す。同様のことが、P
M、すなわちMサイクルからの形状誤差量(N形状誤差量)にも当てはまる。形状誤差量P
Nを計算するためのN個の回転位置の再構成REC(P
N)は、以下のように表すことができる。
Figure
N=Figure+Errors
rot+FigureSet-up
N
【0050】
同様のことが、Mサイクルにも当てはまる。この場合、パラメータ「Errorsrot」は、回転対称被検物及び試験セットアップ誤差、すなわち回転平均化により求めることができない誤差を含む。パラメータ「FigureSet-upN」は、被検物及び試験セットアップのN次うねりに関する不可分の誤差を示す。再構成された形状誤差量PN及びPMはそれぞれ、M次うねりに関する被検物及び試験セットアップ誤差を含む。
【0051】
これらは、回転位置の数が限られていることにより相互に分離することができない。この「M+M法」の利点の1つは、N次及びM次うねりに関する再構成された形状誤差量PN及びPMにより、N次うねり及びM次うねりに関する各被検物及び試験セットアップ誤差を相互に分離することにある。それにより、最小公倍数N×Mのうねりのみが最終結果に存在したままであり得る。
【0052】
この目的を果たすために、後続の方法ステップDIFFにおいて、最初に2つの再構成された形状誤差量間の差が形成され、これを
図2では記号「-」で表す。この差は、このとき被検物及び試験セットアップ誤差のN次うねり及びM次うねりを伴う。パラメータCorrNMが差形成により計算され、このパラメータに関しては以下が成り立つ。
Corr
NM=FigureSet-up
M-FigureSet-up
N
【0053】
後続のステップAVEにおいて、形成されたこの差がN個の等距離の360°/Nステップで回転され、各回転による差が平均化される。これは以下で記述される。
CorrNM_N=FigureSet-upN-FigureSet-upN×M
【0054】
結果として、M次うねりは係数Nによる平均化により抑制される。これにより、N×M次うねりの残差を用いた試験セットアップ誤差のN次うねりの良い近似が得られる。
【0055】
続いて、ステップCORRにおいて、このN次うねりを再構成されたN回転位置測定からの減算により補正することができる。FigureMの補正は、以下のように記述することができる。
FigureN×M=FigureM-CorrNM_N=Figure+Errorsrot+FigureSet-upN×M
【0056】
N×M次うねりに関する被検物及び試験セットアップ誤差のみが、このとき最終結果に残り、これらの誤差はこの方法では相互に分離することができない。
【0057】
本発明者らの見識によれば、この方法の実用上の欠点は、特定の被検物にこのN+M回転平均化法を適用すると、形状誤差量測定結果に測定結果のギャップがある大きな領域が生じ得ることである。したがって、この「従来的な」N+M回転平均化法は、全域的に回転対称である開口に対してのみ有効である。これらの開口は、本明細書では「軸上開口」とも称する。被検物回転軸に対して被検面が回転対称であり且つ全域的に(すなわち、例えば軸外のギャップ又は切欠きなく)具現される場合に、軸上開口が存在する。
【0058】
しかしながら、被検面が被検物回転軸に対して全域的に回転対称でない被検物幾何形状は多い。その一例は、軸外且つ/又は非円形の切欠きを有し且つ/又は非円形の外周を有するミラー面である。これらの場合を、本明細書では「軸外開口」の場合と称する。
【0059】
本発明者らの認識では、軸外開口の場合のN+M回転位置法の適用性が制限されることの主な問題は、項CORRNM_Nを求めるためのN次うねりに関する被検物及び試験セットアップ誤差の媒介の使用にある。完全な試験セットアップ開口が軸外系では測定されないことにより、測定画像は(被検物の形状に応じて)、様々な割合で、無効画素、すなわち測定領域の領域要素が割り当てられない画像素子からなる。
【0060】
軸外N+M法の場合に生じる平均化問題を、
図3を参照して説明する。
図3は、被検物200の被測定面の平面図を概略的に示し、被測定面は円形の外周を有し、その中心が被検物回転軸220として用いられる。この例の場合、中心に対して偏心して、孔としても具現され得る切欠き230がミラーに設けられる。小さな正方形記号はNサイクルからの例示的な4次うねりを表し、バツ印はMサイクルからの例示的な3次うねりを表す。
【0061】
図3は、M次うねり(M=3の場合)の媒介効果を明確に示す。副
図ST1、ST2、ST3、及びST4は、中心(被検物回転軸220)の外側に位置する切欠き230を有するミラーの形態の被検物200の、それぞれ方位角方向に90°オフセットした4つの回転位置を示す。さらに、副
図Corr_NM_Nから、無効画像領域が重複する場合の問題が明らかである。他の平均化法(例えば、無効領域の値が意図的に「0」に設定される方法)の場合でも、エッジが領域境界で生じて結果を不正確にする。こうした理由で、従来的なN+M法は全域軸上開口でのみ適切に機能する。
【0062】
ここで、特許文献2に記載の方法を簡単に参照されたい。当該方法は、全域的な試験セットアップ誤差を補正するのに適している。異なる測定結果が反復的方法で相互に計算されるので、この方法で用いられる手順を本願において「反復スティッチング」とも称する。ここでも、方法は必要な測定データの記録から始まる。その場合、対応するN個の回転位置での単一の測定サイクルのみが通常は記録される。このサイクルの個別測定の数は、前述のN+M法よりも概して大幅に多い。この方法では、N次うねりに関する被検物誤差とN次うねりに関する試験セットアップ誤差とを相互に分離することができない。
【0063】
請求項に係る発明による方法は、ここで改良をもたらす。例示的な一実施形態を、
図4の概略図を参照して説明する。
図4は、異なる回転位置で取得された測定値の評価に用いられる評価動作の一連の方法ステップを概略的に示す。短破線で囲んだテキストフィールド(右側にM-CYCで表す)は、Mサイクル、すなわちM個の測定値を有する測定系列に関する。この測定系列は、ここでは包括的にM個の第1測定を有する第1測定系列とも称する。これに対応して、参照符号N-CYCは、N個の測定値(第2測定値)を有する第2測定系列に関連するNサイクルを示す。関連するテキストフィールドは、長破線で囲まれている。図の下部でブロックを横方向に接続する曲線矢印は、評価法の反復性を示す。
【0064】
従来技術から既知のN+M法を軸外系に適用できるように、N次うねり及びM次うねりに関する被検物誤差及び試験セットアップ誤差を相互に分離するために評価中に特定のステップが実行される。つまり、ここで、被検面上の全ての該当測定点に関する試験セットアップ誤差の影響を、反復手順により再構成することができる。
【0065】
試験法は、
図1を参照して従来的なN+M法について例として説明したように、測定値の記録から始まる。したがって、例えばM個の回転位置に関する第1測定系列において、そこで対応して記録されたインターフェログラムが取得され、第1測定値がそこから得られる。等距離の回転位置の回転で、N回転位置サイクル及びM回転位置サイクルを記録すれば十分である。
【0066】
既知のN+M法との差異として、この方法に基づき軸外系をその表面形状に関して試験することも可能となるが、これは評価において起こる。
【0067】
図4の例示的な方法は、ここでは例としてMサイクルで実行される反復から始まる。この場合、最初に、第1形状誤差量P1が(M個の回転位置に関する)第1測定に基づき計算される。例示的に考察するように、第1形状誤差量は、第1測定系列の共通の随伴回転形状誤差量である。この場合、回転位置毎に対応する回転位置の対応する場所で起こるような誤差は、(回転した)被検物に関連するものであり、(固定の)試験セットアップに関連するものではないと思われる。この第1形状誤差量P1は、実際に求められる形状誤差量すなわち被検物の表面に対する、いわば一次近似である。
【0068】
次のステップは、第1測定系列の共通の非随伴回転誤差を含む第1試験セットアップ誤差PA1の計算を含む。この目的で、上記で求められた第1形状誤差量P1が第1測定値から減算される。換言すれば、被検物に随伴して回転する誤差は、被検物に随伴して回転しない誤差から減算され、被検物及び試験セットアップそれぞれに割り当てられる。
【0069】
次の方法ステップにおいて、このようにして求められた第1試験セットアップ誤差PA1を続いて用いて、補正第1形状誤差量P1Kが計算される。当該補正第1形状誤差量は、第1試験セットアップ誤差PA1の減算により第1形状誤差量P1から得られる。M個の回転位置における基礎となる生データ、すなわち第1測定値の生データがあるので、この結果、すなわち補正第1形状誤差量P1Kは、このときM次うねりに関する被検物誤差及びM次うねりに関する試験セットアップ誤差を依然として含む。
【0070】
続いて、M次うねりに関する誤差をN次うねりに関する誤差から分離するために、M次うねりを含む再構成された被検物誤差、すなわち補正第1形状誤差量P1Kが、N回転位置サイクルN-CYCの対応する再構成に導入される。他方のサイクルへのこの変更を、斜め矢印W1で表す。
図4の画像において、補正第1形状誤差量P1Kは、こうして第2測定値から、すなわちNサイクルの生データから減算される。結果として、第2試験セットアップ誤差PA2がNサイクルの測定値に基づき求められる。後続の方法ステップにおいて、上記第2試験セットアップ誤差を用いて、補正第2形状誤差量P2Kが計算される。補正第2形状誤差量P2Kは、第2試験セットアップ誤差を考慮して第2測定系列(第2測定値)の生データから得られる。
【0071】
N回転位置サイクルのこの再構成後に、この再構成結果(すなわち補正第2形状誤差量P2K)は、N回転位置サイクルの再構成に補正として再度導入され、これを斜め矢印W2で表す。この方法ステップは、N次うねりに関する被検物誤差の抑制又は補正につながる。
【0072】
補正第2形状誤差量P2Kは、続いて、補正第2形状誤差量P2KをNサイクルの生データから、すなわち第1測定値から減算することにより第1試験セットアップ誤差PA1を補正するために用いられる。そこから得られる補正第1試験セットアップ誤差PA1Kは、第1測定系列及び第2測定系列の、すなわちMサイクル及びNサイクル両方の共通うねり誤差のみを依然として含む。
【0073】
この方法の反復適用により、M次うねり及びN次うねりに関する被検物及び試験セットアップ誤差が相互により確実に分離され、理想的には従来的なN+M法のように公倍数すなわちN×Mのみが最終結果に残るようになる。このアルゴリズムは、最終結果に徐々に近づく。それぞれ得られた結果を収束基準と比較して、収束基準が満たされていることが分かれば、計算を終了することができる。そうでなければ、反復ループが少なくとももう1回行われる。
【0074】
公倍数すなわちN×Mのみが最終結果RESに残ったままであり、この点でこれは従来的なN+M法に対応する。しかしながら、本方法の場合に、再構成が異なるうねりに関する2つのサイクルの結果の反復相互計算の実行(反復スティッチング)を含むことにより、N次及びM次うねりの補正を被検物が通過する全域で行うことができ、したがって(
図3に示すような)無効画像領域又は平均化エッジの重複が生じない。
【外国語明細書】