IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越半導体株式会社の特許一覧

特開2023-54965シリコンウエーハ及びSOIウエーハ並びにそれらの製造方法
<>
  • 特開-シリコンウエーハ及びSOIウエーハ並びにそれらの製造方法 図1
  • 特開-シリコンウエーハ及びSOIウエーハ並びにそれらの製造方法 図2
  • 特開-シリコンウエーハ及びSOIウエーハ並びにそれらの製造方法 図3
  • 特開-シリコンウエーハ及びSOIウエーハ並びにそれらの製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054965
(43)【公開日】2023-04-17
(54)【発明の名称】シリコンウエーハ及びSOIウエーハ並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20230410BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
H01L27/12 B
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164013
(22)【出願日】2021-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】水澤 康
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 温
(72)【発明者】
【氏名】松原 寿樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 達夫
(72)【発明者】
【氏名】大槻 剛
【テーマコード(参考)】
5F045
【Fターム(参考)】
5F045AA06
5F045AB03
5F045AB32
5F045AC01
5F045AC08
5F045AC11
5F045AC16
5F045AC19
5F045AD09
5F045AD12
5F045AE21
5F045AE23
5F045AF03
5F045DA59
(57)【要約】
【課題】 抵抗率が10Ω・cm以上500Ω・cm未満のシリコン単結晶基板上にポリシリコン膜を成膜したウエーハにおいて、高調波が低減されたシリコンウエーハ及びSOIウエーハを提供する。
【解決手段】 抵抗率が10Ω・cm以上500Ω・cm未満のシリコン単結晶基板上に、2×1019~2.5×1022atoms/cmの炭素濃度のポリシリコン膜を有することを特徴とするシリコンウエーハ、並びに、抵抗率が10Ω・cm以上500Ω・cm未満のシリコン単結晶基板上に、2×1019~2.5×1022atoms/cmの炭素を含有するポリシリコン膜、誘電体層、及び、シリコン単結晶膜が、この順に構成された構造を有することを特徴とするSOIウエーハ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗率が10Ω・cm以上500Ω・cm未満のシリコン単結晶基板上に、2×1019~2.5×1022atoms/cmの炭素濃度のポリシリコン膜を有することを特徴とするシリコンウエーハ。
【請求項2】
高周波デバイス用ウエーハであることを特徴とする請求項1に記載のシリコンウエーハ。
【請求項3】
抵抗率が10Ω・cm以上500Ω・cm未満のシリコン単結晶基板上に、2×1019~2.5×1022atoms/cmの炭素を含有するポリシリコン膜、誘電体層、及び、シリコン単結晶膜が、この順に構成された構造を有することを特徴とするSOIウエーハ。
【請求項4】
高周波デバイス用ウエーハであることを特徴とする請求項3に記載のSOIウエーハ。
【請求項5】
抵抗率が10Ω・cm以上500Ω・cm未満のシリコン単結晶基板上に、減圧下でシリコン原子及び炭素原子を含有するガスを供給することで2×1019~2.5×1022atoms/cmの炭素濃度のポリシリコン膜を気相成長させることを特徴とするシリコンウエーハの製造方法。
【請求項6】
前記シリコン原子及び炭素原子を含有するガスを、モノメチルシランガス及びトリメチルシランガスの少なくともいずれか一方を含むものとすることを特徴とする請求項5に記載のシリコンウエーハの製造方法。
【請求項7】
高周波デバイス用ウエーハとして前記シリコンウエーハを製造することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のシリコンウエーハの製造方法。
【請求項8】
抵抗率が10Ω・cm以上500Ω・cm未満のシリコン単結晶基板である第1の基板を準備するステップと、
前記第1の基板上に、減圧下でシリコン原子及び炭素原子を含有するガスを供給することで2×1019~2.5×1022atoms/cmの炭素濃度のポリシリコン膜を気相成長させて、気相成長シリコンウエーハを作製するステップと、
第2の基板として、シリコン単結晶基板の表面に誘電体層が形成された基板を準備するステップと、
前記気相成長シリコンウエーハのポリシリコン膜と、前記第2の基板を、前記誘電体層を介して貼り合わせるステップと
を含むことを特徴とするSOIウエーハの製造方法。
【請求項9】
前記シリコン原子及び炭素原子を含有するガスを、モノメチルシランガス及びトリメチルシランガスの少なくともいずれか一方を含むものとすることを特徴とする請求項8に記載のSOIウエーハの製造方法。
【請求項10】
高周波デバイス用ウエーハとして前記SOIウエーハを製造することを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のSOIウエーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウエーハ及びSOIウエーハ並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路を作製するための基板として、主にCZ(Czochra1ski、チョクラルスキー)法によって作製されたシリコンウエーハが用いられている。特に、通信機器内の集積回路も高機能化、小型化の要求が強い。通信機器内の集積回路では、トランジスタなどの能動素子やインダクター等の受動素子が組み合わされている。それらの素子が扱う信号のレベルは大信号から微弱な信号まで非常に広い範囲である。そのため、半導体基板上で別々の集積回路の信号がお互いに干渉することを少なくしなければならない。また、能動素子および受動素子ともに、抵抗損失成分や浮遊容量成分を小さくしないと、消費電流が増加し、通信機器の動作時間が短くなってしまうことから、高調波レベルは極めて小さな値であることが望ましい。
【0003】
これらの高周波用集積回路には、シリコンウエーハが用いられている場合がある。使用されるシリコンウエーハは、抵抗損失を低減するため抵抗率を高くする必要がある。抵抗率が高いほど、高周波特性が向上することがわかっている。さらに特性を改善するために、トラップリッチ(Trap-rich)層を用いたウエーハが多く使用されている(特許文献1、2参照)。
【0004】
具体的には、トラップリッチ層としてポリシリコン層(多結晶シリコン層)が多く用いられている。高抵抗率基板に高周波信号が入力されると反転層が形成されることで基板の抵抗率が変わってしまう。そこでトラップリッチ層中の深い準位でキャリアを捕獲することで、抵抗率を高い状態に保つことができ、良好な高周波特性を得ることができる。
【0005】
受動素子では、高抵抗率基板の上にトラップリッチ層としてポリシリコン層を形成したウエーハが用いられる。
【0006】
他方、能動素子にはトラップリッチ層を使ったSOIウエーハが多く使用されている。このようなSOIウエーハの具体的な構造は、高抵抗率基板上にトラップリッチ層としてポリシリコン層、その上に誘電体層としての酸化膜層、その上に単結晶シリコン層である。
【0007】
しかし、通信機器の小型化や消費電力低減等の要求から、さらなる高周波特性の向上、特に高調波を低減することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2015-503853号公報
【特許文献2】特開2019-129195号公報
【特許文献3】特表2009-545886号公報
【特許文献4】特表2013-531899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、抵抗率が10Ω・cm以上500Ω・cm未満のシリコン単結晶基板上にポリシリコン膜を成膜したウエーハにおいて、高調波が低減されたシリコンウエーハ及びSOIウエーハ並びにそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、抵抗率が10Ω・cm以上500Ω・cm未満のシリコン単結晶基板上に、2×1019~2.5×1022atoms/cmの炭素濃度のポリシリコン膜を有することを特徴とするシリコンウエーハを提供する。
【0011】
このような炭素濃度のポリシリコン膜を有するシリコンウエーハは、炭素を含むポリシリコン膜の作用により、高調波レベルを低減できる。この理由は、炭素を含むポリシリコン膜がトラップリッチ層として働き、反転層の形成を阻害するためと考えられる。
【0012】
そのため、本発明のシリコンウエーハは、高周波デバイス用ウエーハとして好適である。
【0013】
また、本発明は、抵抗率が10Ω・cm以上500Ω・cm未満のシリコン単結晶基板上に、2×1019~2.5×1022atoms/cmの炭素を含有するポリシリコン膜、誘電体層、及び、シリコン単結晶膜が、この順に構成された構造を有することを特徴とするSOIウエーハを提供する。
【0014】
このような炭素濃度のポリシリコン膜を有する本発明のSOIウエーハは、炭素を含むポリシリコン膜の作用により、高調波レベルを低減できる。
【0015】
そのため、本発明のSOIウエーハは、高周波デバイス用ウエーハとして好適である。
【0016】
また、上記目的を達成するため、本発明は、抵抗率が10Ω・cm以上500Ω・cm未満のシリコン単結晶基板上に、減圧下でシリコン原子及び炭素原子を含有するガスを供給することで2×1019~2.5×1022atoms/cmの炭素濃度のポリシリコン膜を気相成長させることを特徴とするシリコンウエーハの製造方法を提供する。
【0017】
気相成長により上記炭素濃度のポリシリコン膜を有するシリコンウエーハを製造する方法であれば、高調波レベルが低減されたシリコンウエーハを製造することができる。
【0018】
この場合、前記シリコン原子及び炭素原子を含有するガスを、モノメチルシランガス及びトリメチルシランガスの少なくともいずれか一方を含むものとすることが好ましい。
【0019】
これらのガスを用いることにより、ポリシリコン膜に簡単に良好な炭素ドープを行うことができる。
【0020】
また、本発明のシリコンウエーハの製造方法は、高周波デバイス用ウエーハとして前記シリコンウエーハを製造することに好適である。
【0021】
また、本発明は、抵抗率が10Ω・cm以上500Ω・cm未満のシリコン単結晶基板である第1の基板を準備するステップと、前記第1の基板上に、減圧下でシリコン原子及び炭素原子を含有するガスを供給することで2×1019~2.5×1022atoms/cmの炭素濃度のポリシリコン膜を気相成長させて、気相成長シリコンウエーハを作製するステップと、第2の基板として、シリコン単結晶基板の表面に誘電体層が形成された基板を準備するステップと、前記気相成長シリコンウエーハのポリシリコン膜と、前記第2の基板を、前記誘電体層を介して貼り合わせるステップとを含むことを特徴とするSOIウエーハの製造方法を提供する。
【0022】
気相成長により上記炭素濃度のポリシリコン膜を有する気相成長シリコンウエーハを作成し、これを用いて貼り合わせ法によりSOIウエーハを製造する方法であれば、高調波レベルが低減されたSOIウエーハを製造することができる。
【0023】
この場合、前記シリコン原子及び炭素原子を含有するガスを、モノメチルシランガス及びトリメチルシランガスの少なくともいずれか一方を含むものとすることが好ましい。
【0024】
これらのガスを用いることにより、ポリシリコン膜に簡単に良好な炭素ドープを行うことができる。
【0025】
また、本発明のSOIウエーハの製造方法は、高周波デバイス用ウエーハとして前記SOIウエーハを製造することに好適である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の炭素濃度のポリシリコン膜を有するシリコンウエーハは、炭素を含むポリシリコン膜の作用により、高調波レベルを低減できる。この理由は、炭素を含むポリシリコン膜がトラップリッチ層として働き、反転層の形成を阻害するためと考えられる。また、本発明の炭素濃度のポリシリコン膜を有するSOIウエーハも、炭素を含むポリシリコン膜の作用により、高調波レベルを低減できる。また、本発明のシリコンウエーハの製造方法及びSOIウエーハの製造方法は、上記の高調波レベルが低減されたシリコンウエーハ及びSOIウエーハを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明のシリコンウエーハの製造方法の一例を示すフロー図である。
図2】本発明のSOIウエーハの製造方法の一例を示すフロー図である。
図3】2次高調波と炭素濃度の関係を示したグラフである。
図4】3次高調波と炭素濃度の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
上記のように、通信機器の小型化や消費電力低減等の要求から、さらなる高周波特性の向上、特に高調波を低減することができるウエーハが求められていた。
【0030】
本発明者らは、この課題について鋭意検討した。実験の一つとして、抵抗率が10Ω・cm以上500Ω・cm未満のシリコン基板に、減圧下にて、シリコン及び炭素を含有するガス雰囲気(例えばモノメチルシランガスまたはトリメチルシランガス)で厚さ0.5~5μmで炭素濃度が1×1017~2.5×1022atoms/cmの炭素ドープポリシリコン膜を形成した。これらのウエーハに線路長2200μmの電極を形成し、2次および3次高調波を測定した。その結果、炭素濃度が高くなるほど2次および3次高調波レベルを低減できることがわかった。このうち、2×1019atoms/cm以上の炭素濃度のポリシリコン膜であれば、2次および3次高調波レベルを十分に低減できることがわかった。
【0031】
この理由は、炭素ドープポリシリコン膜がトラップリッチ層として働き、反転層の形成を阻害するためと考えられる。また、炭素濃度が高くなるほど高調波特性が向上したのは、炭素濃度が高くなるに従って、炭素起因のトラップ密度が高くなったためである。
【0032】
このことから、炭素ドープしたポリシリコン膜がトラップリッチ層として有効であることがわかったことから、能動素子として使用されるトラップリッチSOIウエーハにも適応できることがわかった。
【0033】
一方、ポリシリコン膜の炭素濃度が2.5×1022atoms/cmを超える場合は、成長速度が極めて遅くなり、現実的な成長時間で膜を厚くすることができなかった。
【0034】
以上の知見から、本発明者らは、本発明を為すに到った。すなわち、本発明の一つの態様は、抵抗率が10Ω・cm以上500Ω・cm未満のシリコン単結晶基板上に、2×1019~2.5×1022atoms/cmの炭素濃度のポリシリコン膜を有することを特徴とするシリコンウエーハである。また、本発明のもう一つの態様は、抵抗率が10Ω・cm以上500Ω・cm未満のシリコン単結晶基板上に、2×1019~2.5×1022atoms/cmの炭素を含有するポリシリコン膜、誘電体層、及び、シリコン単結晶膜が、この順に構成された構造を有することを特徴とするSOIウエーハである。
【0035】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0036】
[シリコンウエーハ及びその製造方法]
本発明のシリコンウエーハの製造方法の一例を図1に示した。図1は、シリコンウエーハの製造方法の製造プロセスを示したものである。この方法は、上記のように、トラップリッチ層として炭素ドープポリシリコン膜を用いたシリコンウエーハの製造方法である。
【0037】
まず、図1(a)に示すように、抵抗率が10Ω・cm以上500Ω・cm未満のシリコン単結晶基板11を用意する。次に、図1(b)に示すように、シリコン単結晶基板11の上に、減圧下でシリコン原子及び炭素原子を含有するガスを供給することで2×1019~2.5×1022atoms/cmの炭素濃度のポリシリコン膜(以下、単に「炭素ドープポリシリコン膜」とも称する)12を気相成長させる。
【0038】
炭素ドープポリシリコン膜12の気相成長は、減圧下で行うことにより、ポリシリコン膜中にドープする炭素以外の不純物濃度を下げることができる。炭素ドープポリシリコン膜12を形成する圧力は減圧であればよく特に限定する必要はないが、10Torr程度、例えば、5Torr以上20Torr以下で行うことが好ましい(1Torrは約133Paであるので、10Torrは約1.3kPa、5Torr以上20Torr以下は約0.67kPa以上約2.7kPa以下である)。
【0039】
ポリシリコン膜の気相成長における炭素ドープは、上記のように、シリコン原子及び炭素原子を含有するガス(原料ガス)を用いる。原料ガスとしては、モノメチルシランガス及びトリメチルシランガスの少なくともいずれか一方を含むものとすることが好ましい。また、気相成長は、上記原料ガスに加え、水素やアルゴン等のキャリアガスを含んでいてもよい。
【0040】
このとき、600~1000℃で気相成長させることにより、炭素ドープポリシリコン膜12を良好に形成することができる。
【0041】
また、形成する炭素ドープポリシリコン膜12の厚さが所望の厚さになるように気相成長の圧力、温度、時間、濃度等を適宜設定することが好ましい。炭素ドープポリシリコン膜12の厚さは0.5μm以上5μm以下とすることができるが、これに限定されない。
【0042】
このようにして、本発明のシリコンウエーハ10を製造することができる。図1(b)に示したように、本発明のシリコンウエーハ10は、抵抗率が10Ω・cm以上500Ω・cm未満のシリコン単結晶基板11上に、2×1019~2.5×1022atoms/cmの炭素濃度のポリシリコン膜(炭素ドープポリシリコン膜)12を有する。この場合、炭素ドープポリシリコン膜12がトラップリッチ層として機能する。
【0043】
このうち、2×1019atoms/cm以上の炭素濃度のポリシリコン膜であれば、2次および3次高調波レベルを十分に低減できる。一方、ポリシリコン膜の炭素濃度が2.5×1022atoms/cmを超える場合は、成膜条件にもよるが、成長速度が極めて遅くなり、現実的な成長時間で膜を厚くすることができない。
【0044】
本発明における炭素ドープポリシリコン膜12を形成するシリコン単結晶基板11の抵抗率は、上記のように10Ω・cm以上500Ω・cm未満とする。この点について、従来、高周波デバイス用に優れた高調波特性を得るためには抵抗率が極めて高いシリコン単結晶基板を用いる必要があった。本発明では、抵抗率が500Ω・cm未満のシリコン単結晶基板を用いる場合であっても、抵抗率が極めて高いシリコン単結晶基板を用いる場合の高調波特性と同等以上とすることができる。さらに、ポリシリコン層の炭素濃度をより高い濃度にすることにより、抵抗率が100Ω・cm未満の通常抵抗のシリコン基板であっても優れた高調波特性を得ることができる。
【0045】
このように、本発明のシリコンウエーハ10は、高周波デバイス用ウエーハとして好適である。
【0046】
[SOIウエーハ及びその製造方法]
次に、SOIウエーハの製造方法について説明する。本発明のSOIウエーハの製造方法の一例を図2に示した。
【0047】
図2(a)、(b)で示した第1の基板上への気相成長シリコンウエーハ30の作製は、図1(a)、(b)で示したシリコンウエーハ10の製造方法と同様である。
【0048】
まず、図2(a)に示したように、抵抗率が10Ω・cm以上500Ω・cm未満のシリコン単結晶基板である第1の基板31を準備する。その後、図2(b)に示したように、第1の基板31の上に、炭素ドープポリシリコン膜32を成長させた気相成長シリコンウエーハ30を作製する。図2(b)の気相成長は、図1(b)と同様に、減圧下でシリコン原子及び炭素原子を含有するガスを供給することで2×1019~2.5×1022atoms/cmの炭素濃度のポリシリコン膜32を気相成長させることによって行う。気相成長シリコンウエーハ30は、貼り合わせの際にベースウエーハとなる。
【0049】
図1(b)と同様に、炭素ドープポリシリコン膜32の気相成長は、減圧下で行うことにより、ポリシリコン膜中にドープする炭素以外の不純物濃度を下げることができる。炭素ドープポリシリコン膜32を形成する圧力は減圧であればよく特に限定する必要はないが、10Torr程度、例えば、5Torr以上20Torr以下で行うことが好ましい(1Torrは約133Paであるので、10Torrは約1.3kPa、5Torr以上20Torr以下は約0.67kPa以上約2.7kPa以下である)。
【0050】
ポリシリコン膜の気相成長における炭素ドープは、図1(b)と同様であり、上記のように、シリコン原子及び炭素原子を含有するガス(原料ガス)を用いる。原料ガスとしては、モノメチルシランガス及びトリメチルシランガスの少なくともいずれか一方を含むものとすることが好ましい。また、気相成長は、上記原料ガスに加え、水素やアルゴン等のキャリアガスを含んでいてもよい。
【0051】
このとき、600~1000℃で気相成長させることにより、炭素ドープポリシリコン膜32を良好に形成することができる。
【0052】
また、形成する炭素ドープポリシリコン膜12の厚さが所望の厚さになるように気相成長の圧力、温度、時間、濃度等を適宜設定することが好ましい。
【0053】
また、気相成長シリコンウエーハ30とは別に、図2(c)、(d)で示したように、第2の基板40を準備する。第2の基板40は、まず、図2(c)に示したように、シリコン単結晶基板41を準備し、その表面に誘電体層42を形成することによって準備することができる。シリコン単結晶基板41としては、抵抗率が例えば10Ω・cm程度のシリコン基板とすることができるがこれに限定されない。誘電体層42としては酸化膜等を形成することができる。この誘電体層42は、CVD法などの公知の方法を用いて形成することができる。誘電体層42として酸化膜を形成する場合は、熱酸化により基板表面全体に酸化膜を形成することができる。第2の基板40は、ボンドウエーハとなる。
【0054】
誘電体層42を形成するシリコン単結晶基板41の抵抗率は、作製するデバイスの仕様によって決定することができる。一方、炭素ドープポリシリコン膜32を形成するシリコン単結晶基板(第1の基板)31の抵抗率は10Ω・cm以上500Ω・cm未満とする。この点について、SOIウエーハについても、上記のシリコンウエーハと同様に、従来、高周波デバイス用に優れた高調波特性を得るためには抵抗率が極めて高いシリコン単結晶基板を用いる必要があった。本発明では、抵抗率が500Ω・cm未満のシリコン単結晶基板を用いたSOIウエーハの場合であっても、抵抗率が極めて高いシリコン単結晶基板を用いる場合の高調波特性と同等以上とすることができる。さらに、ポリシリコン層の炭素濃度をより高い濃度にすることにより、抵抗率が100Ω・cm未満の通常抵抗のシリコン基板を用いたSOIウエーハであっても優れた高調波特性を得ることができる。
【0055】
図2(a)、(b)のステップと、図2(c)、(d)のステップの順番は問わない。どちらを先に行ってもよく、並行して行うこともできる。
【0056】
上記のように気相成長シリコンウエーハ30と第2の基板40を準備した後、図2(e)に示したように、気相成長シリコンウエーハ30のポリシリコン膜(炭素ドープポリシリコン膜)32と、第2の基板40を、誘電体層42を介して貼り合わせる(接合する)。このようにしてSOIウエーハを製造することができる。
【0057】
また、貼り合わせの後、図2(f)に示したように、シリコン単結晶基板41の部分を薄膜化することができる(薄膜化したシリコン単結晶膜45)。この薄膜化は、誘電体層(例えば酸化膜)42の側のシリコン単結晶基板41を研磨する方法やイオン注入剥離法により、所望のシリコン単結晶膜45の厚さにすることができる。イオン注入剥離法は、例えば、図2(e)の貼り合わせ前に、シリコン単結晶基板41の誘電体層42側から水素イオン等を注入してシリコン単結晶基板41内にイオン注入層を形成しておき、貼り合わせ後に熱処理等によりイオン注入層に沿って剥離することによって行うことができる。
【0058】
このようにして、本発明のSOIウエーハ50を製造することができる。本発明のSOIウエーハ50は、抵抗率が10Ω・cm以上500Ω・cm未満のシリコン単結晶基板31上に、2×1019~2.5×1022atoms/cmの炭素を含有するポリシリコン膜(炭素ドープポリシリコン膜)32、誘電体層42、及び、シリコン単結晶膜45が、この順に構成された構造を有する。この場合、炭素ドープポリシリコン膜32がトラップリッチ層として機能する。
【0059】
従って、本発明のSOIウエーハ50は、高周波デバイス用ウエーハとして好適である。
【0060】
[高調波特性]
シリコンウエーハやSOIウエーハの高調波特性の測定について説明する。
【0061】
[SOIウエーハの場合]
SOIウエーハの高調波特性の測定は以下のようにして行う。2次高調波特性(2HD特性)および3次高調波特性(3HD特性)は、まず、最も上のシリコン単結晶層(シリコン単結晶層45)を除去した後に、誘電体層(例えば酸化膜)42上に金属(例えばアルミニウム)でCo-Planar Waveguide(CPW)を形成し、この金属電極(アルミニウム電極)の両端にプローブを接地させる。その後、どちらか側から高周波信号を入力し、もう片側から出力される2次もしくは3次高調波を測定する(例えば、周波数1GHz、入力電力15dBm)。
【0062】
その結果、シリコン単結晶基板31上の炭素ドープポリシリコン膜32の炭素濃度が高くなると、トラップリッチ層中の深い準位でのキャリア捕獲能力が向上するので、シリコン単結晶基板31が高抵抗率ではない場合であっても優れた2次高調波特性及び3次高調波特性を得ることができる。
【0063】
2次高調波特性および3次高調波特性は、ポリシリコン膜32の厚さが厚いほど向上する。
【0064】
[シリコンウエーハの場合]
シリコンウエーハの高調波特性の測定は以下のようにして行う。シリコン単結晶基板11上に炭素ドープポリシリコン膜12を形成したシリコンウエーハ(気相成長シリコンウエーハ)10の2次高調波特性および3次高調波特性を測定する場合は、炭素ドープポリシリコン膜12の表面に酸化膜を形成してから、上記と同様の手順で、酸化膜上に金属(例えばアルミニウム)でCo-Planar Waveguide(CPW)を形成し、この金属電極(アルミニウム電極)の両端にプローブを接地させる。その後、どちらか側から高周波信号を入力し、もう片側から出力される2次もしくは3次高調波を測定する(例えば、周波数1GHz、入力電力15dBm)。
【0065】
このように、本発明のシリコンウエーハ及びSOIウエーハは、2次高調波特性および3次高調波特性を向上させることができ、高周波デバイス用ウエーハとして好適である。
【0066】
なお、多結晶シリコン中に炭素をドープするウエーハについては、特許文献3や特許文献4に記載がある。
【0067】
特許文献3では、多結晶炭素ドープのウエーハに言及しているが、本発明とは構造が異なる。本発明はシリコン基板上に炭素ドープポリシリコン膜を成膜した構造であるのに対し、特許文献3は、基板上に炭素含有シリコン層とその上に炭素を含有しないシリコン層を形成し、炭素を含有しないシリコン層をエッチングで所望の厚さまで除去する。この特許文献3の構造では、炭素含有シリコン層上に炭素を含有していないシリコン層があることで、炭素を含有しているシリコン層がトラップリッチ層として機能しない。
【0068】
また、特許文献4では、多結晶炭素ドープのウエーハについて言及しているが、特許文献4では、シリコン単結晶基板は特に高抵抗率ではなく、高周波デバイス用ウエーハでもない。
【実施例0069】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0070】
[実施例1]
図1(a)、(b)に沿って、本発明のシリコンウエーハ10を製造した。まず、直径300mm、n型で抵抗率が10Ω・cmのシリコン単結晶基板11を複数準備した。次に、複数のシリコン単結晶基板11に10Torr(約1.3kPa)の減圧下にて、モノメチルシランガス雰囲気で気相成長を行い(温度:800℃、時間:10分)、条件を変えて、厚さ0.5~5μmで炭素濃度が1×1017~2.5×1022atoms/cmの炭素ドープポリシリコン膜12を形成した(炭素濃度が低いポリシリコン膜12の厚さは5μmで、炭素濃度が高いポリシリコン膜12の厚さは0.5μm)シリコンウエーハ10とした。
【0071】
製造したシリコンウエーハ10に対し、2次高調波特性、3次高調波特性を測定するために炭素ドープポリシリコン膜12の上に酸化膜を形成した。酸化膜はCVD(導入ガス:モノシラン+酸素+アルゴン、温度:500℃)により形成した。
【0072】
これらのシリコンウエーハ10の酸化膜上に線路長2200μmのアルミニウム電極を形成し、2次および3次高調波特性を測定した。その結果(図3図4参照)、炭素濃度が高くなるに従って、2次および3次高調波レベルが低下し、炭素ドープポリシリコン膜12の炭素濃度を2×1019~2.5×1022atoms/cmにすることによって優れた2次高調波特性及び3次高調波特性が得られることがわかった。
【0073】
この結果から、炭素ドープポリシリコン膜12をトラップリッチ層として用いることができ、その炭素濃度によって2次および3次高調波のレベルを低減できることがわかり、フィルター等の受動素子用ウエーハとして炭素ドープポリシリコン膜12を形成したシリコンウエーハ10が有効であることがわかった。
【0074】
2次高調波特性および3次高調波特性は以下のように測定した。ポリシリコン膜上に形成した酸化膜上に金属(アルミニウム電極)でCo-Planar Waveguide(CPW)を形成し、電極の両端にプローブを接地させた。その後、どちらか側から高周波信号を入力し、もう片側から出力される2次もしくは3次高調波特性を測定した(周波数1GHz、入力電力15dBm)。
【0075】
[比較例1]
直径300mm、n型で抵抗率が10Ω・cmのシリコン単結晶基板に炭素ノンドープのシリコン含有雰囲気(トリクロロシランガス)ポリシリコン膜を成膜した以外は実施例1と同様の条件でシリコン単結晶基板上にポリシリコン膜を形成したシリコンウエーハとし、実施例1と同様に2次高調波特性を評価した。その結果、トラップリッチ層としてポリシリコン膜の2次高調波レベルは-25dBm程度となった。この結果を実施例1の場合と比較した。その結果実施例1の炭素ドープ膜の炭素濃度が2×1019atoms/cm以上であれば、炭素ノンドープのポリシリコン膜を用いた場合よりも良好になることがわかった。
【0076】
[実施例2]
図2(a)~(f)に沿って、本発明のSOIウエーハ50を製造した。まず直径300mm、シリコン単結晶基板(第1の基板)31上に炭素濃度が2×1019atoms/cmのポリシリコン膜(厚さ:0.5μm)32を実施例1と同様の条件で成膜したシリコンウエーハ(気相成長シリコンウエーハ)30をベースウエーハとして用意した(図2(a)、(b))。別途、直径300mmのシリコン単結晶基板41の表面に、誘電体層42として厚さ400nmの酸化膜を形成したシリコンウエーハ(第2の基板40)をボンドウエーハとして用意した(図2(c)、(d))。次にベースウエーハ(気相成長シリコンウエーハ30)の炭素ドープポリシリコン膜32の面とボンドウエーハ(第2の基板40)の酸化膜面(誘電体層42の表面)を接合し(図2(e))、酸化膜面側から研磨を行い、シリコン単結晶膜45を1μm残したSOIウエーハ50とした(図2(f))。
【0077】
[比較例2]
また、比較例2として、実施例2のベースウエーハの炭素ドープポリシリコン膜32の代わりに比較例1と同様の条件で炭素ノンドープのポリシリコン膜(厚さ:2μm)とを形成したベースウエーハを用意した以外は、実施例2と同様にしてSOIウエーハを形成した。
【0078】
これらの実施例2と比較例2のSOIウエーハのシリコン単結晶層を研磨して除去して酸化膜層を露出させた後、酸化膜上に線路長2200μmのアルミニウム電極を形成し、実施例1と同様の手順で2次高調波特性を測定した結果、実施例2の方が、比較例2よりも2次高調波特性が-10dBm程度良好であることがわかった。すなわち、実施例2の炭素ドープ膜の炭素濃度が2×1019atoms/cm以上であれば、炭素ノンドープのポリシリコン膜を用いた場合よりも良好になることがわかった。
【0079】
この結果から、トラップリッチ層として炭素濃度が2×1019atoms/cm以上の炭素ドープポリシリコン膜を用いることが高周波特性に対して有効であることがわかった。
【0080】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0081】
10…シリコンウエーハ、
11…シリコン単結晶基板、 12…炭素ドープポリシリコン膜、
30…気相成長シリコンウエーハ、
31…第1の基板(シリコン単結晶基板)、
32…炭素ドープポリシリコン膜、
40…第2の基板、 41…シリコン単結晶基板、 42…誘電体層、
45…薄膜化したシリコン単結晶膜、
50…SOIウエーハ。
図1
図2
図3
図4