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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005503
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】欠陥の検査方法及び検査システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/892 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
G01N21/892 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021107474
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】幸本 壮悟
(72)【発明者】
【氏名】平野 祐哉
【テーマコード(参考)】
2G051
【Fターム(参考)】
2G051AA41
2G051AB02
2G051BA11
2G051CA03
2G051CA07
2G051CB02
2G051DA06
2G051EA12
2G051EB01
2G051EC03
2G051EC04
(57)【要約】
【課題】連続的に搬送される長尺のフィルムにおける欠陥の検査方法及び検査装置であって、客観的な基準に基づき幅広い領域にわたり、低い閾値でも欠陥を検知することができるものを提供する。
【解決手段】フィルムにおける欠陥に対応して変動する物性を複数の測定点Poにおいて測定しデータ集合を取得する工程(I)、前記データ集合のデータを領域Rに対応させて区分し、前記領域Rのそれぞれについてのデータのサブ集合を構成する工程(II)、前記サブ集合のそれぞれについて、前記フィルムの面内のある方向Cの一直線に沿って整列する測定点群PoCにおける算術平均値AvCを求め、方向Dに沿った、ある基準位置から前記測定点群PoCまでの距離DsDと、前記算術平均値AvCとの関係のプロファイルEを構成する工程(III)、及び前記プロファイルEに基づいて、前記欠陥の存在を検知する工程(IV)、を含む検査方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に搬送される長尺のフィルムにおける、欠陥の存在を検知する検査方法であって、
前記フィルムにおける、前記欠陥に対応して変動する物性を、前記フィルムの面内のある方向L及び前記方向Lとは異なる面内の方向Wにわたる複数の測定点Poにおいて測定し、複数の前記測定点Poに係る複数組の測定データからなるデータ集合を取得する工程であって、前記測定データのそれぞれの組は、各々の前記測定点Poに係る、前記方向L及び前記方向Wに沿った座標情報及び前記物性の測定値の情報を含む、工程(I)、
前記データ集合のデータを、前記フィルムの複数の領域Rに対応させて区分し、前記領域Rのそれぞれについてのデータのサブ集合を構成する工程(II)、
前記サブ集合のそれぞれについて、複数の前記測定点Poのうち前記フィルムの面内のある方向Cの一直線に沿って整列する測定点群PoCにおける前記測定値の算術平均値AvCを求め、前記方向Cとは異なる面内の方向Dに沿った、ある基準位置から前記測定点群PoCまでの距離DsDと、前記算術平均値AvCとの関係のプロファイルEを構成する工程(III)、及び
前記プロファイルEに基づいて、前記欠陥の存在を検知する工程(IV)、
を含む検査方法。
【請求項2】
前記工程(IV)が、
複数の前記領域Rのそれぞれにおける前記プロファイルEの全領域における極大値と極小値を特定し、隣り合う極大値及び極小値の間の傾きの絶対値の集合を取得し、
前記絶対値の集合のうちの最大値が、所定の傾き閾値以上の値である場合、当該値に係る前記領域Rにおいて、前記欠陥が存在すると判定することを含む、請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記工程(II)~(IV)の複数組であって、前記方向Dが前記フィルムの長手方向となす角度θが互いに異なるものを行い、それぞれの角度θごとの前記絶対値の最大値を求め、
前記工程(II)~(IV)の複数組のうちのいずれかにおける前記領域Rにおいて前記最大値が前記所定の傾き閾値以上の値である場合、当該値に係る前記領域Rにおいて、前記欠陥が存在すると判定することを含む、請求項2に記載の検査方法。
【請求項4】
欠陥限度の指標となる前記欠陥を有する限度見本フィルムにおける、前記物性を、前記限度見本フィルムの面内のある方向Lx及び前記方向Lxとは異なる面内の方向Wxにわたる複数の測定点Poxにおいて測定し、複数の前記測定点Poxに係る複数組の測定データからなるデータ集合を取得する工程であって、前記測定データのそれぞれの組は、各々の前記測定点Poxに係る、前記方向Lx及び前記方向Wxに沿った座標情報及び前記物性の測定値の情報を含む、工程(Ix)、
前記限度見本フィルムの複数の前記測定点Poxのうち前記フィルムの面内のある方向Cxの一直線に沿って整列する測定点群PoCxにおける前記測定値の算術平均値AvCxを求め、前記方向Cxとは異なる面内の方向Dxに沿った、ある基準位置から前記測定点群PoCxまでの距離DsDxと、前記算術平均値AvCxとの関係のプロファイルExを構成する工程(IIIx)、及び
前記プロファイルExの、前記欠陥に対応する箇所を含む領域における極大値と極小値を特定し、隣り合う極大値及び極小値の間の傾きの絶対値の集合を取得し、前記絶対値の集合のうちの最大値SLx又はそれより小さい値を、前記傾き閾値として設定する工程(IVx)を含む、請求項2又は3に記載の検査方法。
【請求項5】
前記領域Rのそれぞれが、前記方向Cに平行な辺及び前記方向Dに平行な辺により構成される四角形の形状であり、
複数の前記領域Rは、前記方向C及び前記方向Dに沿って前記フィルムの面に分布する、請求項2~4のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項6】
前記工程(IV)が、前記プロファイルEをフーリエ変換し、前記算術平均値AvCの変動の周期と、前記周期における前記変動の大きさとの関係を示すパワースペクトルであるプロファイルFを取得し、前記プロファイルFにより周期的な前記欠陥の存在を検知することを含む、請求項1に記載の検査方法。
【請求項7】
前記工程(II)~(IV)の複数組であって、前記方向Dが前記フィルムの長手方向となす角度がθが互いに異なるものを行い、それぞれの角度θごとの前記プロファイルFを取得し、
複数の前記角度θに係る複数の前記プロファイルFを対比し、相対的に大きな前記変動を示す前記方向Dの角度θを検知することを含む、請求項6に記載の検査方法。
【請求項8】
前記プロファイルEにおける前記距離DsDと前記算術平均値AvCとの関係が、これらの移動平均値によって規定される、請求項1~7のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項9】
欠陥限度の指標となる前記欠陥を有する限度見本フィルムにおける、視認可能な前記欠陥が、工程(IV)において存在すると判定されるよう、前記移動平均値の個々を構成する要素の数を設定することを含む、請求項8に記載の検査方法。
【請求項10】
前記方向L及び前記方向Wが互いに直交し、前記方向C及び前記方向Dが互いに直交する、請求項1~9のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項11】
前記方向L及び方向Wの一方が前記フィルムの長手方向であり、他方が幅方向である、請求項1~10のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項12】
前記物性が、光透過率、ヘイズ、写像性、膜厚、吸光度、屈折率、位相差、光学軸角度、色度、表面抵抗値、表面自由エネルギー、表面温度、質量、密度、又はこれらの組み合わせである、請求項1~11のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項13】
前記物性が面内位相差Reである、請求項12に記載の検査方法。
【請求項14】
連続的に搬送される長尺のフィルムにおける、欠陥の存在を検知する検査システムであって、
前記フィルムの搬送経路の近傍の位置に設けられた計測装置、及び前記計測装置に接続された情報処理装置を備え、
前記計測装置は、前記フィルムにおける、前記欠陥に対応して変動する物性を、前記フィルムの面内のある方向L及び前記方向Lとは異なる面内の方向Wにわたる複数の測定点Poにおいて測定する装置であり、
前記情報処理装置は、
前記計測装置により測定された測定値を、複数の前記測定点Poに係る複数組の測定データからなるデータ集合として取得するユニットであって、前記測定データのそれぞれの組は、各々の前記測定点Poに係る、前記方向L及び前記方向Wに沿った座標情報及び前記物性の測定値の情報を含む、ユニット(i)、
前記データ集合のデータを、前記フィルムの複数の領域Rに対応させて区分し、前記領域Rのそれぞれについてのデータのサブ集合を構成するユニット(ii)、
前記サブ集合のそれぞれについて、複数の前記測定点Poのうち前記フィルムの面内のある方向Cの一直線に沿って整列する測定点群PoCにおける前記測定値の算術平均値AvCを求め、前記方向Cとは異なる面内の方向Dに沿った、ある基準位置から前記測定点群PoCまでの距離DsDと、前記算術平均値AvCとの関係のプロファイルEを構成するユニット(iii)、及び
前記プロファイルEに基づいて、前記欠陥の存在を検知するユニット(iv)、
を含む検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送される長尺のフィルムの欠陥を検知する検査方法及び検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
長尺のフィルムを製造する場合、フィルムの品質を維持するために、製造されたフィルムにおける欠陥の有無を監視し、欠陥が存在する場合はそれを検知することが求められる。効率的な製造を行う観点からは、かかる監視は、連続的に製造され搬送される長尺のフィルムを、インラインでの監視、即ち長尺のフィルムが連続的に搬送されるラインにおける連続的な監視により行うことが求められる。しかしながら、長尺のフィルムの幅方向及び長さ方向の全体にわたりそのような監視を行うことは困難である。特に、光学フィルムのように、僅かな程度の品質の欠陥が不良とされるフィルムの製造において、そのような欠陥を漏れなく検知することは困難である。
【0003】
欠陥の検知は、従来より、限度見本と検査対象との対比により行われている。かかる対比においては、欠陥限度の指標となる欠陥を有する限度見本のフィルムと、監視対象のフィルムとが目視で対比され、限度見本に存在する欠陥の程度を超える欠陥が視認された場合に欠陥ありと判定される。しかしながら、作業者の作業負荷軽減及び判定の基準の客観性担保のため、目視による対比ではなく、測定機器により測定したフィルム表面の物性値の情報を元に、欠陥の存在を判定することが提案されている。さらに、そのような判定をフィルム製造ラインにおいて連続的に行うため、フィルム表面の画像等の二次元的な分布を有する情報を測定機器により取得し、かかる情報を判定に利用することが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-009800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、そのような情報により欠陥の存在を判定する場合、測定機器により容易に把握できる欠陥以外の欠陥を確実に把握することが困難であった。例えばフィルムの表面の明るさ及び色のムラ等として把握されるもの等、フィルム表面の比較的広い範囲にわたって存在し、正常な部分との境界が曖昧な欠陥については、測定機器による把握が非常に困難であった。特に、限度見本において目視により視認される欠陥と同程度の閾値で欠陥を検知するよう測定限界を設定することは、従来の測定機器により取得された情報による欠陥の検知では非常に困難であった。この問題は、特に均質な物性が求められる光学フィルムの分野では特に顕著であった。
【0006】
従って、本発明の目的は、連続的に搬送される長尺のフィルムにおける欠陥の検査方法及び検査装置であって、その明確さの程度が低く且つ正常な部分との境界が曖昧である欠陥をも、客観的な基準に基づき幅広い領域にわたり、低い閾値でも検知することができるものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記の課題を解決するべく検討した。その結果、本発明者は、フィルムの表面において測定される二次元的な分布を有する物性値を特定の処理工程により処理することにより前記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記のものを含む。
【0008】
〔1〕 連続的に搬送される長尺のフィルムにおける、欠陥の存在を検知する検査方法であって、
前記フィルムにおける、前記欠陥に対応して変動する物性を、前記フィルムの面内のある方向L及び前記方向Lとは異なる面内の方向Wにわたる複数の測定点Poにおいて測定し、複数の前記測定点Poに係る複数組の測定データからなるデータ集合を取得する工程であって、前記測定データのそれぞれの組は、各々の前記測定点Poに係る、前記方向L及び前記方向Wに沿った座標情報及び前記物性の測定値の情報を含む、工程(I)、
前記データ集合のデータを、前記フィルムの複数の領域Rに対応させて区分し、前記領域Rのそれぞれについてのデータのサブ集合を構成する工程(II)、
前記サブ集合のそれぞれについて、複数の前記測定点Poのうち前記フィルムの面内のある方向Cの一直線に沿って整列する測定点群PoCにおける前記測定値の算術平均値AvCを求め、前記方向Cとは異なる面内の方向Dに沿った、ある基準位置から前記測定点群PoCまでの距離DsDと、前記算術平均値AvCとの関係のプロファイルEを構成する工程(III)、及び
前記プロファイルEに基づいて、前記欠陥の存在を検知する工程(IV)、
を含む検査方法。
〔2〕 前記工程(IV)が、
複数の前記領域Rのそれぞれにおける前記プロファイルEの全領域における極大値と極小値を特定し、隣り合う極大値及び極小値の間の傾きの絶対値の集合を取得し、
前記絶対値の集合のうちの最大値が、所定の傾き閾値以上の値である場合、当該値に係る前記領域Rにおいて、前記欠陥が存在すると判定することを含む、〔1〕に記載の検査方法。
〔3〕 前記工程(II)~(IV)の複数組であって、前記方向Dが前記フィルムの長手方向となす角度θが互いに異なるものを行い、それぞれの角度θごとの前記絶対値の最大値を求め、
前記工程(II)~(IV)の複数組のうちのいずれかにおける前記領域Rにおいて前記最大値が前記所定の傾き閾値以上の値である場合、当該値に係る前記領域Rにおいて、前記欠陥が存在すると判定することを含む、〔2〕に記載の検査方法。
〔4〕 欠陥限度の指標となる前記欠陥を有する限度見本フィルムにおける、前記物性を、前記限度見本フィルムの面内のある方向Lx及び前記方向Lxとは異なる面内の方向Wxにわたる複数の測定点Poxにおいて測定し、複数の前記測定点Poxに係る複数組の測定データからなるデータ集合を取得する工程であって、前記測定データのそれぞれの組は、各々の前記測定点Poxに係る、前記方向Lx及び前記方向Wxに沿った座標情報及び前記物性の測定値の情報を含む、工程(Ix)、
前記限度見本フィルムの複数の前記測定点Poxのうち前記フィルムの面内のある方向Cxの一直線に沿って整列する測定点群PoCxにおける前記測定値の算術平均値AvCxを求め、前記方向Cxとは異なる面内の方向Dxに沿った、ある基準位置から前記測定点群PoCxまでの距離DsDxと、前記算術平均値AvCxとの関係のプロファイルExを構成する工程(IIIx)、及び
前記プロファイルExの、前記欠陥に対応する箇所を含む領域における極大値と極小値を特定し、隣り合う極大値及び極小値の間の傾きの絶対値の集合を取得し、前記絶対値の集合のうちの最大値SLx又はそれより小さい値を、前記傾き閾値として設定する工程(IVx)を含む、〔2〕又は〔3〕に記載の検査方法。
〔5〕 前記領域Rのそれぞれが、前記方向Cに平行な辺及び前記方向Dに平行な辺により構成される四角形の形状であり、
複数の前記領域Rは、前記方向C及び前記方向Dに沿って前記フィルムの面に分布する、〔2〕~〔4〕のいずれか1項に記載の検査方法。
〔6〕 前記工程(IV)が、前記プロファイルEをフーリエ変換し、前記算術平均値AvCの変動の周期と、前記周期における前記変動の大きさとの関係を示すパワースペクトルであるプロファイルFを取得し、前記プロファイルFにより周期的な前記欠陥の存在を検知することを含む、〔1〕に記載の検査方法。
〔7〕 前記工程(II)~(IV)の複数組であって、前記方向Dが前記フィルムの長手方向となす角度がθが互いに異なるものを行い、それぞれの角度θごとの前記プロファイルFを取得し、
複数の前記角度θに係る複数の前記プロファイルFを対比し、相対的に大きな前記変動を示す前記方向Dの角度θを検知することを含む、〔6〕に記載の検査方法。
〔8〕 前記プロファイルEにおける前記距離DsDと前記算術平均値AvCとの関係が、これらの移動平均値によって規定される、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の検査方法。
〔9〕 欠陥限度の指標となる前記欠陥を有する限度見本フィルムにおける、視認可能な前記欠陥が、工程(IV)において存在すると判定されるよう、前記移動平均値の個々を構成する要素の数を設定することを含む、〔8〕に記載の検査方法。
〔10〕 前記方向L及び前記方向Wが互いに直交し、前記方向C及び前記方向Dが互いに直交する、〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載の検査方法。
〔11〕 前記方向L及び方向Wの一方が前記フィルムの長手方向であり、他方が幅方向である、〔1〕~〔10〕のいずれか1項に記載の検査方法。
〔12〕 前記物性が、光透過率、ヘイズ、写像性、膜厚、吸光度、屈折率、位相差、光学軸角度、色度、表面抵抗値、表面自由エネルギー、表面温度、質量、密度、又はこれらの組み合わせである、〔1〕~〔11〕のいずれか1項に記載の検査方法。
〔13〕 前記物性が面内位相差Reである、〔12〕に記載の検査方法。
〔14〕 連続的に搬送される長尺のフィルムにおける、欠陥の存在を検知する検査システムであって、
前記フィルムの搬送経路の近傍の位置に設けられた計測装置、及び前記計測装置に接続された情報処理装置を備え、
前記計測装置は、前記フィルムにおける、前記欠陥に対応して変動する物性を、前記フィルムの面内のある方向L及び前記方向Lとは異なる面内の方向Wにわたる複数の測定点Poにおいて測定する装置であり、
前記情報処理装置は、
前記計測装置により測定された測定値を、複数の前記測定点Poに係る複数組の測定データからなるデータ集合として取得するユニットであって、前記測定データのそれぞれの組は、各々の前記測定点Poに係る、前記方向L及び前記方向Wに沿った座標情報及び前記物性の測定値の情報を含む、ユニット(i)、
前記データ集合のデータを、前記フィルムの複数の領域Rに対応させて区分し、前記領域Rのそれぞれについてのデータのサブ集合を構成するユニット(ii)、
前記サブ集合のそれぞれについて、複数の前記測定点Poのうち前記フィルムの面内のある方向Cの一直線に沿って整列する測定点群PoCにおける前記測定値の算術平均値AvCを求め、前記方向Cとは異なる面内の方向Dに沿った、ある基準位置から前記測定点群PoCまでの距離DsDと、前記算術平均値AvCとの関係のプロファイルEを構成するユニット(iii)、及び
前記プロファイルEに基づいて、前記欠陥の存在を検知するユニット(iv)、
を含む検査システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、連続的に搬送される長尺のフィルムにおける欠陥の検査方法及び検査装置であって、その明確さの程度が低く且つ正常な部分との境界が曖昧である欠陥をも、客観的な基準に基づき幅広い領域にわたり、低い閾値でも検知することができるものが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の検査システム、及び本発明の検査システムを用いた本発明の検査方法の実施の一例を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、フィルム表面における、本発明の検査方法の工程(I)~工程(II)の工程の測定点の分布及びその区分の一例を模式的に示す部分上面図である。
図3図3は、図2における領域R1-1を、より拡大して模式的に示す部分上面図である。
図4図4は、図3について示した領域R1-1について工程(III)において得られたプロファイルEの一例を模式的に示すグラフである。
図5図5は、フィルム表面における、本発明の検査方法の工程(I)~工程(II)の工程の測定点の分布及びその区分の、別の一例を模式的に示す部分上面図である。
図6図6は、図5における領域R51を、より拡大して模式的に示す部分上面図である。
図7図7は、角度θ図5に示すものとは異なる態様における、本発明の検査方法の工程(II)の区分の一例を模式的に示す部分上面図である。
図8図8は、測定点を規定するグリッドのマス目と方向Cとが非平行な場合における測定点の設定の例を模式的に示す部分上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0012】
本願において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。長尺のフィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0013】
〔検査方法及び検査システムの概要〕
本発明の検査方法は、連続的に搬送される長尺のフィルムにおける欠陥の存在を検知する方法であり、本発明の検査システムは、連続的に搬送される長尺のフィルムにおける欠陥の存在を検知する検査システムである。具体的には、本発明の検査方法及び検査システムは、長尺のフィルムの製膜の工程、製膜されたフィルムに対し処理を行う工程、及びフィルムを回収する工程等のフィルムの処理の工程、及びこれらの工程の間のフィルムの搬送のいずれかの段階において、搬送されるフィルムを検査対象として監視し、フィルムに欠陥が存在していたらそれを検知する。
【0014】
長尺のフィルムはその長手方向に沿って搬送経路において連続的に搬送される。製膜されたフィルムに対する処理の例としては、延伸、加熱、冷却、他のフィルムとの貼合、フィルム表面上への材料の塗布等の処理が挙げられる。また、フィルムの回収の例としては、長尺のフィルムの巻取りが挙げられる。
【0015】
長尺のフィルムの寸法は、特に限定されないが、その幅方向の寸法は、好ましくは600mm以上3000mm以下である。また、フィルムの厚さは、好ましくは10μm以上150μm以下である。かかる幅及び厚みを有するフィルムの場合、フィルム全体に亘る欠陥の存在をインラインで監視することが比較的困難であるため、本発明の検査方法及び検査システムを特に好ましく適用することができる。
【0016】
本発明の検査方法は、下記工程(I)~(IV)を含む。
工程(I):フィルムにおける、欠陥に対応して変動する物性を、フィルムの面内のある方向L及び方向Lとは異なる面内の方向Wにわたる複数の測定点Poにおいて測定し、複数の測定点Poに係る複数組の測定データからなるデータ集合を取得する工程であって、測定データのそれぞれの組は、各々の測定点Poに係る、方向L及び方向Wに沿った座標情報及び物性の測定値の情報を含む、工程。
工程(II):データ集合のデータを、フィルムの複数の領域Rに対応させて区分し、領域Rのそれぞれについてのデータのサブ集合を構成する工程。
工程(III):サブ集合のそれぞれにおいて、複数の測定点Poのうちフィルムの面内のある方向Cの一直線に沿って整列する測定点群PoCにおける測定値の算術平均値AvCを求め、方向Cとは異なる面内の方向Dに沿った、ある基準位置から測定点群PoCまでの距離DsDと、算術平均値AvCとの関係のプロファイルEを構成する工程。
工程(IV):プロファイルEに基づいて、欠陥の存在を検知する工程。
【0017】
また、本発明の検査システムは、連続的に搬送される長尺のフィルムにおける、欠陥の存在を検知する検査システムであって、フィルムの搬送経路の近傍の位置に設けられた計測装置、及び計測装置に接続された情報処理装置を備え、計測装置は、フィルムにおける、欠陥に対応して変動する物性を、フィルムの面内のある方向L及び方向Lとは異なる面内の方向Wにわたる複数の測定点Poにおいて測定する装置であり、情報処理装置は:
計測装置により測定された測定値を、複数の測定点Poに係る複数組の測定データからなるデータ集合として取得するユニットであって、測定データのそれぞれの組は、各々の測定点Poに係る、方向L及び方向Wに沿った座標情報及び物性の測定値の情報を含む、ユニット(i)、
データ集合のデータを、フィルムの複数の領域Rに対応させて区分し、領域Rのそれぞれについてのデータのサブ集合を構成するユニット(ii)、
サブ集合のそれぞれについて、複数の測定点Poのうちフィルムの面内のある方向Cの一直線に沿って整列する測定点群PoCにおける測定値の算術平均値AvCを求め、方向Cとは異なる面内の方向Dに沿った、ある基準位置から測定点群PoCまでの距離DsDと、算術平均値AvCとの関係のプロファイルEを構成するユニット(iii)、及び
プロファイルEに基づいて、欠陥の存在を検知するユニット(iv)、を含む。
【0018】
本発明の検査方法は、本発明の検査システムを用いて実行しうる。具体的には、検査システムの計測装置及び情報処理装置のユニット(i)により工程(I)を実行し、続いて情報処理装置のその他のユニットにより工程(II)~(IV)を実行しうる。
【0019】
以下において、図面を参照して本発明の検査方法及び検査システムの例を具体的に説明する。図1は、本発明の検査システム、及び本発明の検査システムを用いた本発明の検査方法の実施の一例を模式的に示す斜視図である。
【0020】
図1において、検査システム100は、矢印A1方向に搬送される長尺のフィルム11を検査するシステムである。検査システム100は、フィルムの搬送経路の下側に設けられた光源101、フィルムの搬送経路の上側に、光源101と対向して設けられた計測装置102、及び計測装置102に接続された情報処理装置103を備える。
【0021】
〔工程(I):計測装置、及び情報処理装置のユニット(i)〕
工程(I)では、フィルムにおける物性を測定する。
計測装置が測定する物性は、一種以上の、フィルムの欠陥に対応して測定値が変動する物性としうる。物性の例としては、光透過率、ヘイズ、写像性、膜厚、吸光度、屈折率、位相差、光学軸角度、色度、表面抵抗値、表面自由エネルギー、表面温度、質量、密度、及びこれらの組み合わせが挙げられる。これらの中で好ましい例としては、位相差が挙げられ、特に好ましい例としては面内位相差Reが挙げられる。面内位相差は、長尺の光学フィルムを製造するにあたり、均質であることが求められる物性である一方、従来技術において、幅広い領域にわたり所望の精度でインラインで監視することが困難であったため、本発明の検査方法の利益を特に有用に享受することができる。
【0022】
図1の例において、計測装置102は、光源101から出射し、透明なフィルムを透過した光を撮像し、それによりフィルム11の面内位相差を多数の測定点において測定しうる撮像装置である。撮像装置は、偏光イメージセンサーを備えるものとしうる。偏光イメージセンサーは、入射した光のうちの、ある偏光方向に振動する直線偏光に基づく画像を撮像する装置である。撮像装置は、特に、一台の装置で複数種類の偏光方向の直線偏光を同時に撮像しうる装置であることが好ましい。そのような計測装置の例としては、複屈折マッピング計測装置、商品名「KAMAKIRI」(株式会社フォトロン製)が挙げられる。但し撮像装置はこれに限られず、複数種類の偏光方向の直線偏光を撮像しうる複数の装置の組み合わせであってもよい。このように複数種類の偏光方向の直線偏光についての、透過光の画像を同時に撮像することにより、フィルムの面内位相差を、フィルムの面内の多数の測定点において同時に測定することができる。
【0023】
図1に示す例では、検査システム100は、計測装置102として複数台の撮像装置を備え、これらはフィルム幅方向に整列し、それぞれがフィルムの幅方向の一部の領域を撮像し、撮像された情報を元にフィルム幅方向全体の情報を得ている。このような構成を備えることにより、安価な装置で広幅のフィルムの検査を行うことができる。しかしながら本発明はこれに限られず、撮像装置は一台で全幅をカバーするものであってもよく、一台又は複数台の撮像装置でフィルムの幅方向の一部の領域のみをカバーし、その範囲のみについて検査を行うものであってもよい。
【0024】
工程(I)における物性の測定は、フィルムの面内のある方向L、及び方向Lとは異なる面内の方向Wにわたる複数の測定点Poにおいて行う。このような複数の測定点における測定を行うことにより、二次元的に分布する測定結果を取得することができる。測定される物性の種類によっては、一つの測定を実行するためにフィルムのある程度の面積の広がりが必要である場合があるが、その場合は、そのような面積の中心を測定点と見做しうる。
【0025】
正確な測定を容易に行う観点から、方向L及び方向Wは、好ましくは互いに直交する方向であり、より好ましくはフィルムの長手方向及び幅方向である。図1に示す例では、幅方向の全体又は一部にわたって計測を行い、さらに連続的に搬送される長尺フィルムについて連続的に測定を行うことにより、長手方向及び幅方向に分布する測定点Poにおける測定を行っている。
【0026】
工程(I)では、かかる測定を行うことにより、複数の測定点Poに係る複数組の測定データからなるデータ集合を取得する。ここで、測定データのそれぞれの組は、各々の測定点Poに係る、方向L及び方向Wに沿った座標情報及び物性の測定値の情報を含む。
【0027】
図2は、フィルム表面における、本発明の検査方法の工程(I)~工程(II)の工程の測定点の分布及びその区分の一例を模式的に示す部分上面図である。図2は部分図であり、図示の便宜上、図2においてはフィルムの長手方向の矢印L1で示される領域のみが具体的に示されるが、実際には、これより長い領域において繰り返される単位において本発明を実施しうる。
【0028】
図2の例においては、フィルムの長手方向L1に平行な方向である、矢印A1方向に搬送される長尺のフィルム11の表面が部分的に示される。図2においては、フィルム11の表面を区分するグリッドを、フィルム11の長手方向及び幅方向に延長する線により示している。測定はグリッドにおけるそれぞれのマス目において行われ、従って一つのマス目が一つの測定点に対応する。図示の便宜上、図2においては粗いグリッドを示しているが、実際には、フィルムの寸法に対して、これより細かいグリッドを規定し、より多数の測定点を規定しうる。また、グリッド及びそれにより規定される測定点は、実際にはフィルム11の全面にわたるものとしうるが、図示の便宜のため、図2ではその一部のみを示している。測定点の密度は、所望の欠陥検知の精度が得られるよう適宜設定しうる。例えば、フィルム表面上の測定点の間隔は、方向L及び方向Wのそれぞれにおいて、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.2mm以上であり、好ましくは2.0mm以下、より好ましくは1.0mm以下である。
【0029】
図1に示した計測装置102により、フィルムの幅方向の領域即ち矢印W1で示される領域の複数の測定点にわたり同時に測定が行われ、フィルム幅方向に整列する測定点Po1-1、Po1-2、・・・Po1-Zにおける測定値が得られる。
【0030】
さらに、計測装置102は、フィルムの長さ方向即ち矢印L1で示される領域の複数の測定点にわたっても同時に測定を行いうる。加えて、さらに矢印A1方向に連続的に搬送されるフィルム11について、ライン上の同じ位置において繰り返し測定を行うことにより、長尺のフィルムの長さ方向の、より長い領域の複数の測定点にわたって連続的に測定を行いうる。これにより、フィルム長さ方向及び幅方向に整列する測定点Po1-1、Po1-2、・・・Po1-Zに加えて、測定点Po2-1、Po2-2、・・・Po2-Z、測定点Po3-1、Po3-2、・・・Po3-Z、・・・における測定値が得られる。
【0031】
計測装置により測定された情報は、計測装置に接続される情報処理装置のユニット(i)により取得されうる。そこで、測定点のそれぞれについて、フィルム表面上のある点を基準とした座標情報を、測定値と共に記録し、それにより一組の測定データを構成しうる。その結果、ユニット(i)において、多数の測定点Poに係る複数組の測定データからなるデータ集合を構成しうる。座標情報は、例えば測定点Po1-1の位置を基準とした、そこからの矢印L1方向及びW1方向の距離により示される座標情報としうる。
【0032】
取得されたデータ集合のデータは、そのまま以降の工程に供してもよいが、必要に応じて、この時点でノイズを除去する工程を行ってもよい。例えば、取得されたデータ集合を、二次元フーリエ変換に供し、変換後のデータを得、特定範囲の周波数領域の強度を全て0に置き換え、その後さらに逆フーリエ変換を行って、周期性欠陥の影響を持たない逆変換後のデータを得て、これを工程(II)に供してもよい。周期性欠陥以外の欠陥に特に着目した欠陥の検出を行うことが求められる場合、かかる変換-逆変換の工程を行うことにより、そのような欠陥の検出を実現することができる。
【0033】
〔工程(II):ユニット(ii)〕
工程(II)は、工程(I)で得られたデータ集合のデータを、フィルムの複数の領域Rに対応させて区分する工程である。かかる区分により、領域Rのそれぞれに対応する、複数の測定点Poについての測定データのサブ集合が構成される。このような区分は、情報処理装置のユニット(ii)により行いうる。ユニット(ii)は、ユニット(i)において構成されたデータ集合をユニット(i)から取得し、かかる区分の工程を行うユニットとしうる。
【0034】
図2の例においては、複数の領域Rは、フィルムの長手方向及び幅方向にそれぞれ分布する矩形の領域として規定される。具体的には、複数の領域Rは、フィルムの幅方向に整列する一列の領域R1-1~R1-5と、その下流側に整列する領域R2-1~R2-5、R3-1~R3-5、・・・とを含む。それぞれの領域Rにおいては、フィルムの長手方向及び幅方向に整列する多数の測定点Poが含まれ、これらの測定点Poにかかる測定データが、それぞれの領域Rにおける測定データのサブ集合を構成する。
【0035】
〔工程(III):ユニット(iii)〕
工程(III)では、領域Rのそれぞれについてのデータのサブ集合について、プロファイルEを構成する。プロファイルEの構成は、情報処理装置のユニット(iii)により行いうる。ユニット(iii)は、ユニット(ii)で構成されたデータのサブ集合をユニット(ii)から取得し、かかるプロファイルEの構成を行うユニットとしうる。
【0036】
工程(III)を、図3を参照して説明する。図3は、図2における領域R1-1を、より拡大して模式的に示す部分上面図である。
【0037】
工程(III)では、まず、複数の測定点Poのうちフィルムの面内のある方向Cの一直線に沿って整列する測定点群PoCにおける測定値の算術平均値AvCを求める。図3の例では、方向Cは、矩形の領域R1-1の四辺のうちの二辺12C及び13Cと平行な方向であり、且つフィルムの幅方向Wと平行な方向としうる。この例では、辺12Cに最も近い列において整列する測定点Po1-1、Po1-2、Po1-3、・・・Po1-Yの群PoC、測定点群PoCよりも辺13C側に位置する測定点Po2-1、Po2-2、Po2-3、・・・Po2-Yの群PoC、測定点Po3-1、Po3-2、Po3-3、・・・Po3-Yの群PoC、・・・及び測定点PoY-1、PoY-2、PoY-3、・・・PoY-Yの群PoCが規定され、測定点群PoCの測定値の算術平均AvC、測定点群PoCの測定値の算術平均AvC、測定点群PoCの測定値の算術平均AvC、・・・及び測定点群PoCの測定値の算術平均AvCが、それぞれ求められる。
【0038】
一つの測定点群PoCにおける測定点Poの数、及び一つの領域Rにおける測定点群PoCの数は、所望の欠陥検知の精度が得られるよう適宜設定しうる。例えば、一つの測定点群PoCにおける測定点Poの数は、好ましくは50個以上、より好ましくは100個以上であり、好ましくは4000個以下、より好ましくは2000個以下である。また、一つの領域Rにおける測定点群PoCの数は、好ましくは5000個以上、より好ましくは10000個以上であり、好ましくは400000個以下、より好ましくは200000個以下である。
【0039】
工程(III)では、次に、方向Cとは異なる面内の方向Dに沿った、ある基準位置から測定点群PoCまでの距離DsDを求める。距離DsDは、基準位置から方向Dに沿った線により表現しうる。つまり、基準位置における当該線の位置から、当該線と測定点群PoCの整列する列との交わる位置までの距離を、距離DsDとしうる。欠陥の存在を明確に反映したプロファイルを得る観点から、方向Dは方向Cと直交する方向であることが好ましい。図3の例では、方向Dは、矩形の領域R1-1の四辺のうちの二辺12D及び13Dと平行な方向であり、且つフィルムの長手方向Lと平行な方向としうる。この例では、測定点群PoCの位置を基準位置としうる。その場合、基準位置から測定点群PoCまでの距離DsDはゼロとなる。そして、基準位置から測定点群PoCまでの距離DsD、基準位置から測定点群PoCまでの距離DsD、・・・及び基準位置から測定点群PoCまでの距離DsDのそれぞれは、測定点群PoCからのグリッドのマス目の数に応じて求められる。距離DsDは、マス目の数等の測定点の間隔を反映する何らかの単位によって表現してもよく、かかる単位に対応した、フィルム表面上の測定点間距離の実寸によって表現してもよい。
【0040】
工程(III)では、次に、距離DsDと、算術平均値AvCとの関係のプロファイルEを取得する。視覚的理解を容易にする目的で、プロファイルEは、例えば、距離DsDを横軸に採り、算術平均値AvCを縦軸に採ったグラフとして表現しうる。
【0041】
プロファイルEにおける距離DsDと算術平均値AvCとの関係は、それらの数値そのものにより規定してもよく、距離DsDと、算術平均値AvCの移動平均値とによって規定してもよい。例えば、連続する複数の測定点群の距離DsDの平均と、かかる複数の測定点群の算術平均値AvCのさらなる平均値との関係に基づいて、プロファイルEを取得してもよい。図3を参照してより具体的に説明すると、例えば移動平均値の点数(即ち、移動平均値の個々を構成する要素の数)を3点とする場合、測定点群PoC~PoCの距離DsD~DsDの平均値DsD1-3、測定点群PoC~PoCの距離DsD~DsDの平均値DsD2-4、測定点群PoC~PoCの距離DsD~DsDの平均値DsD3-5、・・・及び測定点群PoC(Y-2)~PoCの距離DsD(Y-2)~DsDの平均値DsD(Y-2)-Yを横軸に採り、測定点群PoC~PoCの測定値の算術平均値AvC~AvCのさらなる平均値AvC1-3、測定点群PoC~PoCの測定値の算術平均値AvC~AvCのさらなる平均値AvC2-4、測定点群PoC~PoCの測定値の算術平均値AvC~AvCのさらなる平均値AvC3-5、・・・及び測定点群PoC(Y-2)~PoCの測定値の算術平均値AvC(Y-2)~AvCのさらなる平均値AvC(Y-2)-Yを縦軸に採り、プロファイルEを取得してもよい。
【0042】
移動平均値の点数を少なくすることにより欠陥の検知の感度が高くなる。一方、移動平均値の点数を多くすることにより測定結果へのノイズの混入を低減することができる。例えば工程(IV)の第一の具体例(後述)において、プロファイルEにおける極大値と極小値との間の傾きを求める場合、移動平均値に基づくプロファイルEを使用すると、微小であるが急な傾きを有するノイズを除去することができる。欠陥限度の指標となる欠陥を有する限度見本フィルムにおける視認可能な欠陥が、後の工程(IV)において「欠陥が存在する」と判定されるよう、移動平均値の点数を調整して設定すると、ノイズの混入を低減しながら所望の感度での検査を行うことができるため好ましい。
【0043】
〔工程(IV):ユニット(iv)〕
工程(IV)では、プロファイルEに基づいて、欠陥の存在を検知する。欠陥の存在の検知は、情報処理装置のユニット(iv)により行いうる。ユニット(iv)は、ユニット(iii)で構成されたプロファイルEをユニット(iii)から取得し、プロファイルEに示された情報を元に欠陥の検知を行うユニットとしうる。但し欠陥の存在の検知手段は、ユニット(iv)には限られず、例えば、得られたプロファイルEをグラフとして表示し、かかるグラフを操作者が視認し、グラフ上に欠陥を示す特徴が見出された場合は欠陥が存在すると判定することも可能である。
【0044】
このようなプロファイルEは、多数の測定点において得られた複雑な情報の傾向を、欠陥の存在に良好に追随する単純な態様で表示しうるものとなる。本発明の検査方法では、このようなプロファイルEに基づいて欠陥の存在を検知することにより、明確さの程度が低く且つ正常な部分との境界が曖昧である欠陥をも、計測装置により測定された情報による客観的な基準に基づき、幅広い領域にわたり検知することができる。
【0045】
プロファイルEにおける欠陥の存在の検知は、欠陥の存在に対応してプロファイルEに出現する特徴を検知することにより行いうる。欠陥が全く存在せず、且つ測定に際してのノイズが全く混入しない場合、プロファイルEにおいて、算術平均値AvCの値(移動平均値である場合をも含む。以下において同じ。)は通常一定の値になり、プロファイルEはピークが存在しない平坦な状態となる。したがって例えば、プロファイルEにおける算術平均値AvCの値の変動が、ある閾値を超えた場合、欠陥が存在すると判定することにより、欠陥の検知を行いうる。かかる閾値は例えば、限度見本のフィルムにおける、欠陥限度の指標となる欠陥と同程度以上の明確さを有する欠陥が検出されるよう調整しうる。また、プロファイルEにおいて、何らかの周期的な算術平均値AvCの値の変動が存在する場合、周期的な欠陥が存在すると判定しうる。
【0046】
〔工程(IV)の具体例:第一の具体例〕
より具体的な工程(IV)の例を、以下において、第一の具体例及び第二の具体例として説明する。
第一の具体例として、工程(IV)は:
複数の領域RのそれぞれにおけるプロファイルEの全領域における極大値と極小値を特定し、隣り合う極大値及び極小値の間の傾きの絶対値の集合を取得し、
前記絶対値の集合のうちの最大値が、所定の傾き閾値以上の値である場合、当該値に係る領域Rにおいて、欠陥が存在すると判定する
ことを含む。
【0047】
工程(IV)の第一の具体例を、図4を参照して説明する。図4は、図3について示した領域R1-1について工程(III)において得られたプロファイルEの一例を模式的に示すグラフである。
【0048】
このグラフにおいて、横軸は、図3における測定点群PoCを基準位置とした、そこからの距離DsDを示し、縦軸は当該距離DsDにおける各測定点群PoCの測定値の算術平均AvCを示す。横軸の左端は、測定点群PoCに対応し、右端は測定点群PoCに対応する。このプロファイルEにおいては、7点の極大値Mx1~Mx7、及び8点の極小値mn1~mn8が存在する。したがって、隣り合う極大値及び極小値の間の傾きとして、破線で示す傾きSL1~SL14が存在する。傾きは、測定値/長さ(例えば面内位相差nm/フィルム上の距離mm)の次元を有する数値となる。傾きSL1~SL14のうち、その絶対値が最大のものをフィルムの欠陥を反映した指標として得ることができる。したがって、傾きの絶対値の最大値が、所定の傾き閾値以上の値である場合、領域R1-1において、欠陥が存在すると判定しうる。
【0049】
上に述べた傾き閾値は、欠陥限度の指標となる欠陥を有する限度見本フィルムにおける、視認可能な欠陥が、工程(IV)において存在すると判定されるよう設定しうる。特に、限度見本フィルムを参照した傾き閾値の設定は、限度見本フィルムについて、上に述べた工程(I)及び(III)を行い、それにより得られたプロファイルを参照することにより行いうる。より具体的には、かかる傾き閾値の設定は:
欠陥限度の指標となる欠陥を有する限度見本フィルムにおける物性を、限度見本フィルムの面内のある方向Lx及び方向Lxとは異なる面内の方向Wxにわたる複数の測定点Poxにおいて測定し、複数の測定点Poxに係る複数組の測定データからなるデータ集合を取得する工程であって、測定データのそれぞれの組は、各々の測定点Poxに係る、方向L及び方向Wに沿った座標情報及び物性の測定値の情報を含む、工程(Ix)、
限度見本フィルムの複数の測定点Poxのうちフィルムの面内のある方向Cxの一直線に沿って整列する測定点群PoCxにおける測定値の算術平均値AvCxを求め、方向Cxとは異なる面内の方向Dxに沿った、ある基準位置から測定点群PoCxまでの距離DsDxと、算術平均値AvCxとの関係のプロファイルExを構成する工程(IIIx)、及び
プロファイルExの、欠陥に対応する箇所を含む領域における極大値と極小値を特定し、隣り合う極大値及び極小値の間の傾きの絶対値を取得し、絶対値のうちの最大値SLx又はそれより小さい値を、傾き閾値として設定する工程(IVx)を含みうる。
【0050】
工程(Ix)、(IIIx)及び(IVx)のそれぞれは、工程(I)、(III)及び(IV)の実施に使用する装置と同じ装置を用い、工程(I)、(III)及び(IV)の実施条件に揃えた条件で実施することにより容易に実施しうる。また、限度見本フィルムが大面積のフィルムである場合、必要に応じ工程(II)と同様に、工程(Ix)で得られたデータ集合を、限度見本フィルムの複数の領域Rxに対応させて区分し、領域Rxのそれぞれについてのデータのサブ集合を構成し、かかるサブ集合のそれぞれについてプロファイルExを構成し、その上で複数のプロファイルExにおける傾きの絶対値の最大値を、最大値SLxとして採用してもよい。
【0051】
方向Lxと方向Wxとがなす角は、方向Lと方向Wとがなす角と同じ角度に設定し得、通常は直交する角度である。方向Cxと方向Dxとがなす角も、方向Cと方向Dとがなす角と同じ角度に設定し得、通常は直交する角度である。方向Dxは、傾き閾値を適切に設定する観点から、傾き最大値SLxが最も大きくなる方向に設定することが好ましい。例えば、限度見本フィルムの面内のある基準方向に対しDxがなす角が様々な方向となるよう、複数の方向Dxを設定し、それらのそれぞれについて工程(Ix)、(IIIx)及び(IVx)を行い、それらから得られたプロファイルEx傾き絶対値の最大値のうち、最も大きいものを、傾き最大値SLxとして採用しうる。または、限度見本フィルムに存在する欠陥がスジ状の欠陥である場合、かかるスジに直交する方向を方向Dxとして設定してもよい。
【0052】
傾き閾値としては、傾き最大値SLx又はそれより小さい値を設定しうる。傾き最大値SLxに対する傾き閾値の値は、所望の検出精度が得られるよう適宜設定しうるが、好ましくは傾き最大値SLxの0.8倍~1.2倍、より好ましくは傾き最大値SLxの0.9倍~1.0倍としうる。
【0053】
上に述べた傾き絶対値の最大値は、あるフィルムの検査対象箇所に対し、方向Dがある一方向である場合のみについて求めてもよい。しかしながら、より多様な欠陥を的確に把握する観点から、傾き絶対値の最大値は、方向Dが互いに異なる、複数の場合について求めることが好ましい。より具体的には、工程(IV)として上に述べた第一の具体例を採用する場合においては、工程(II)~(IV)の複数組であって、方向Dがフィルムの長手方向となす角度θが互いに異なるものを行い、それぞれの角度θごとの傾き絶対値の最大値を求め、工程(II)~(IV)の複数組のうちのいずれかにおける領域Rにおいて最大値が前記所定の傾き閾値以上の値である場合、当該値に係る領域Rにおいて、欠陥が存在すると判定することが好ましい。
【0054】
〔工程(IV)の具体例:第二の具体例〕
第二の具体例として、工程(IV)は、プロファイルEをフーリエ変換し、算術平均値AvCの変動の周期と、当該周期における変動の大きさとの関係を示すパワースペクトルであるプロファイルFを取得し、プロファイルFにより周期的な欠陥の存在を検知することを含む。第二の具体例においては、プロファイルEは、フィルム上の測定値が、様々な周期において変動しているか否かを把握するのに十分な長さを有することが求められる。したがって、領域Rの方向Dに沿った長さが上に述べた例よりも長くなるよう、領域Rを配置することが、当該工程を実施する上で好ましい。
【0055】
図5は、フィルム表面における、本発明の検査方法の工程(I)~工程(II)の工程の測定点の分布及びその区分の、別の一例を模式的に示す部分上面図であり、図6は、図5における領域R51を、より拡大して模式的に示す部分上面図である。この例は、工程(II)における領域Rの配置を、図2図3に示す例における配置よりも、工程(IV)の第二の具体例の実施に適した態様としたものである。
【0056】
図2と同様に、図5は部分図であり、図示の便宜上、図5においてはフィルムの長手方向の矢印L61で示される領域のみが具体的に示されるが、実際には、これより長い領域において、矢印L61で示される領域における単位と同様に繰り返される単位において本発明を実施しうる。
【0057】
図5の例においては、フィルムの長手方向L61に平行な方向である、矢印A1方向に搬送される長尺のフィルム11の表面が部分的に示される。図5においては、フィルム11の表面を区分するグリッドは、領域R51の内部のみについて示しているが、実際の計測装置による測定は、図2に示した場合と同様に、フィルムのより広い領域としうる。測定はグリッドにおけるそれぞれのマス目において行われ、従って一つのマス目が一つの測定点に対応する。図示の便宜上、図2と同様図5においても粗いグリッドを示しているが、実際には、フィルムの寸法に対して、これより細かいグリッドを規定し、より多数の測定点を規定しうる。
【0058】
図2に示した例と同様に、工程(I)において、図1に示した計測装置102により、フィルムの幅方向の領域即ち矢印W1で示される領域の複数の測定点にわたり同時に測定が行われ、フィルム幅方向に整列する測定点Po51-1、Po51-2、・・・における測定値が得られる。
【0059】
さらに、計測装置102は、フィルムの長さ方向即ち矢印L1で示される領域の複数の測定点にわたっても同時に測定を行いうる。加えて、さらに矢印A1方向に連続的に搬送されるフィルム11について、ライン上の同じ位置において繰り返し測定を行うことにより、長尺のフィルムの長さ方向の、より長い領域の複数の測定点にわたって連続的に測定を行いうる。これにより、フィルム長さ方向及び幅方向に整列する測定点Po51-1、Po51-2、・・・に加えて、測定点Po52-1、Po52-2、・・・、測定点Po53-1、Po53-2、・・・、・・・における測定値が得られる。
【0060】
工程(II)に関し、図5図6の例においては、複数の領域Rとして、一つの領域R51のみを示している。但し本発明の実施に際しては、さらに、領域R51の上流及び下流にも、同様の領域(不図示)を繰り返し規定しうる。それぞれの領域Rにおいては、フィルムの長手方向及び幅方向に整列する多数の測定点Poが含まれ、これらの測定点Poにかかる測定データが、それぞれの領域Rにおける測定データのサブ集合を構成する。
【0061】
工程(III)に関し、図6の例においては、方向Cは、矩形の領域R51の四辺のうちの二辺52C及び53Cと平行な方向であり、且つフィルムの幅方向Wと平行な方向としうる。この例では、辺52Cに最も近い列において整列する測定点Po51-1、Po51-2、Po51-3、・・・Po51-Vの群PoC51、測定点群PoC51よりも辺53C側に位置する測定点Po52-1、Po52-2、Po52-3、・・・Po52-Vの群PoC52、測定点Po53-1、Po53-2、Po53-3、・・・Po53-Vの群PoC53、・・・及び測定点Po5W-1、Po5W-2、Po5W-3、・・・Po5W-Vの群PoC5Wが規定され、測定点群PoC51の測定値の算術平均AvC51、測定点群PoC52の測定値の算術平均AvC52、測定点群PoC53の測定値の算術平均AvC53、・・・及び測定点群PoC5Wの測定値の算術平均AvC5Wが、それぞれ求められる。
【0062】
工程(III)に関し、図6の例においては、図3の例と同様、方向Dは方向Cと直交する方向であることが好ましく、この例では、方向Dは、矩形の領域R51の四辺のうちの二辺52D及び53Dと平行な方向であり、且つフィルムの長手方向Lと平行な方向としうる。この例では、測定点群PoC51の位置を基準位置としうる。その場合、基準位置から測定点群PoC51までの距離DsD51はゼロとなる。そして、基準位置から測定点群PoC52までの距離DsD52、基準位置から測定点群PoC53までの距離DsD53、・・・及び基準位置から測定点群PoC5Wまでの距離DsD5Wのそれぞれは、測定点群PoC51からのグリッドのマス目の数に応じて求められる。
【0063】
さらに、得られた距離DsD(即ちDsD51~DsD5W)と、それぞれの測定点群PoCの算術平均値AvC(即ちAvC51~AvC5W)の値について、必要に応じて移動平均値を求めた上で、これらの関係のプロファイルEを取得する。
【0064】
工程(IV)の第二の具体例では、このようにして得られたプロファイルEをフーリエ変換する。その結果、波長又は周波数と、測定値の算術平均値AvCの波の強度との関係を示すパワースペクトルであるプロファイルFが得られる。検査対象のフィルムに周期的な欠陥が全く存在せず、且つ測定に際してのノイズが全く混入しない場合、かかるプロファイルFは全周波数においてゼロとなる。一方、周期的な欠陥が存在する場合、プロファイルF内の特定の周波数において強度の値が突出する。かかる強度の値の突出が、ある閾値を超えた場合に周期的な欠陥が存在すると判定することにより、周期的な欠陥の検知を行いうる。かかる閾値は例えば、限度見本との対比、プロファイルF内で相対的に突出した周波数を検出する等の手法により適宜定めうる。また、パワースペクトルの積算値を求めることにより、方向Dにおける種々の周期的な欠陥の存在の程度の指標を得ることができる。
【0065】
工程(IV)の第二の具体例を実施し、プロファイルFを取得する場合、方向Dが前記フィルムの長手方向となす角度がθが異なる複数の測定結果を取得し、それらを対比することが特に有用である。即ち、工程(IV)の第二の具体例を実施する場合は、工程(II)~(IV)の複数組であって、方向Dがフィルムの長手方向となす角度がθが互いに異なるものを行い、それぞれの角度θごとのプロファイルFを取得することが特に好ましい。この場合、例えば複数の角度θに係る複数のプロファイルFを対比し、相対的に大きな変動を示す方向Dの角度θと、そのピッチを検知しうる。かかる対比を行い、相対的に大きな変動を示す方向の角度及びピッチを検知することにより、周期的な欠陥が、フィルム面内のどの方向に沿って発生しているかの情報を得ることができる。このような情報は、例えばフィルム製造工程へのフィードバック調整において特に有用に使用することができる。
【0066】
図7は、角度θ図5に示すものとは異なる態様における、本発明の検査方法の工程(II)の区分の一例を模式的に示す部分上面図である。矢印L61で示す領域は、図5におけるそれと同じ領域を示している。図5の例においては、方向Dはフィルムの長手方向Lと平行な方向であり従って角度θは0°であった一方、図7の例では角度θは26.6°に設定している。この例において、領域R71は、その長辺とフィルムの長手方向Lとがなす角は26.6°であり、従って領域R71において長辺方向を方向Dとして設定することにより、方向Dがフィルムの長手方向となす角度がθを26.6°に設定しうる。
【0067】
図7の例のように、方向Dが方向Lと非平行であり非垂直である場合において、測定データ集合は、別個の測定により取得してもよいが、図5の例において測定したものと同じデータ集合を使用してもよい。後者の場合であって、方向Cを、測定点のグリッドとは非平行な方向に設定した場合、方向Cの一直線に沿って整列する測定点群PoCは、測定点群PoCを規定するグリッドに沿ったもので無くてもよく、方向Cと平行な、ある直線に沿って存在する測定点Poの群とし得る。例えば、図8に示す通り、グリッド81のマス目により規定される測定点のうち、グリッドとは非平行である方向Cと平行な直線82cに沿って存在する測定点PoC82-1、PoC82-2、PoC82-3、PoC82-4、PoC82-5、PoC82-6、・・・を、当該直線に沿って整列する測定点群PoCとしうる。
【0068】
工程(IV)の第二の具体例において、方向Dがフィルムの長手方向となす角度がθが互いに異なるものを行い、それぞれのθDにおいて得られたパワースペクトル積算値のうち最も大きな値が得られた領域Rについてのθを、最大値を与える角度θMaxとしうる。ここで、θMaxを与えた領域Rの方向D及びそれに直交する方向Cを、それぞれ方向D及び方向Cとして設定した上で、さらに方向C及び方向Dに平行な方向に領域Rのグリッドを設定し、矩形の多数の領域Rについて、工程(IV)の第一の具体例として上に述べた工程を行ってもよい。かかる工程を行うことにより、より有効な欠陥の検出を行うことができる。
【0069】
〔本発明の検査方法の用途〕
本発明の検査方法は、長尺のフィルムを搬送する搬送ライン上において用いうる。かかる搬送ラインの例としては、長尺のフィルムの製造ライン、既に製造された長尺のフィルムの検査のためのライン、及び既に製造された長尺のフィルムを用いて製品を製造するためにフィルムを供給するための供給ラインが挙げられる。このような搬送ライン上において、連続的に搬送される長尺のフィルムに対して本発明の検査方法を実施することにより、インラインでのフィルムの品質の監視が可能となる。例えば、長尺のフィルム上の欠陥が存在する箇所を位置情報として記録し、当該フィルムを用いた製品の製造に際してかかる箇所のフィルムを使用対象から除去するといった操作を行うことにより、高品質の製品を容易に製造することができる。または、フィルムの製造ラインにおいて本発明の検査方向を実施し、欠陥の存在が検知された場合、かかる欠陥の発生を抑制するようフィルムの製造条件を適宜制御するといったフィードバック制御を行うこともできる。
【実施例0070】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0071】
〔実施例1〕
(1-1.工程(I))
図1に示す検査システムを用いて、本発明の検査方法の工程(I)を行う。
フィルム11が連続的に搬送される、位相差フィルム製造ラインにおいて、光源101、計測装置102及び情報処理装置103を備える検査システム100を設け、工程(I)を行う。計測装置102及び情報処理装置103としては、偏光高速カメラ及び制御部からなる複屈折マッピング計測装置(商品名「KAMAKIRI」、株式会社フォトロン製)を用いる。フィルム11の長手方向を方向L、幅方向を方向Wとし、フィルム11の面内位相差を、方向L及び方向Wにわたる複数の測定点Poにおいて測定する。隣り合う測定点の間隔は、方向L及び方向Wのそれぞれにおいて0.5mmとする。かかる測定により、複数の前記測定点Poに係る複数組の測定データからなるデータ集合を取得する。測定データのそれぞれの組は、各々の測定点Poに係る、方向L及び方向Wに沿った座標情報及び面内位相差の測定値の情報を含む。
【0072】
(1-2.工程(II)~(IV):その1)
(1-1)で取得されたデータ集合を元に、本発明の検査方法の工程(II)~(IV)の一例を行う。
領域RA-1として、フィルム11の、測定データが取得された表面のある部分に、方向Cに延長する辺及び方向Dに延長する辺により区画される矩形の領域を設定する(工程(II))。領域Rは、方向Cの長さを100mm、方向Dの長さを2048mmとする。領域Rの配置は、フィルム11の幅方向中央部とし、方向Dとフィルム長手方向とがなす角θは0°とする。
【0073】
領域RA-1内の、方向Cの一直線に沿って整列する測定点群PoCにおける測定値の算術平均値AvCを求める。方向Cと平行な辺のうちの一つを基準位置とする。多数の測定点群PoCのそれぞれについて、方向Dに沿った、基準位置から測定点群PoCまでの距離DsDを算出する。これらの値から、距離DsDと、算術平均値AvCとの関係のプロファイルEを構成する(工程(III))。
【0074】
構成されたプロファイルEに基づいて、欠陥の存在の検知を行う(工程(IV))。
プロファイルEを、高速フーリエ変換し、算術平均値AvCの変動の周期(単位:フィルム上の変動の波長)と、その周期における強度(即ちAvCの値の変動の大きさ)との関係を示すパワースペクトルであるプロファイルFを取得する。波長0~50mmの範囲における強度を積算し、積算値を求める。
【0075】
さらに領域RA-1とは別に、角θを、領域Rとは異なる値に変更し、15°ずつ15°~165°とした、複数の領域RA-2~RA-12を設定する。これらの領域Rは、領域Rの中央を中心に、領域RA-1を回転させることにより設定する。領域RA-2~RA-12のそれぞれの短辺方向を方向C、長辺方向を方向Dとして、領域RA-1と同様に、プロファイルE及びプロファイルFを取得し、積算値を求める。
【0076】
得られた積算値のうち最も大きな値が得られた領域Rについてのθを、最大値を与える角度θMaxとして選択し、θMaxを与えた領域Rの方向D及びそれに直交する方向Cを、それぞれ方向D及び方向Cとして設定する。方向C及び方向Dに平行な方向にグリッドを設定し、100mm×100mmの寸法の、多数の矩形の領域Rを設定する。
【0077】
領域Rのそれぞれの内の、方向Cの一直線に沿って整列する測定点群PoCにおける測定値の算術平均値AvCを求める。方向Cと平行な辺のうちの一つを基準位置とする。多数の測定点群PoCのそれぞれについて、方向Dに沿った、基準位置から測定点群PoCまでの距離DsDを算出する。移動平均の点数を6点として移動平均処理を行い、距離DsDと、算術平均値AvCとの関係のプロファイルEを構成する。プロファイルEの全領域における極大値と極小値を特定し、隣り合う極大値及び極小値の間の傾きの絶対値を求め、それらのうちの最大のものが、所定の閾値以上であるか否かにより、領域R内の欠陥の有無を判定する。
【0078】
(1-3.工程(II)~(IV):その2)
(1-1)で取得されたデータ集合を元に、本発明の検査方法の工程(II)~(IV)の別の一例を行う。
【0079】
(1-1)で取得されたデータ集合のうち、フィルム11の幅方向全域、及び長手方向2048mmの領域の測定データを、検査対象の測定データとして使用する。測定データを、二次元の高速フーリエ変換に供し、変換後のデータを得る。変換後のデータにおける、波長が50mm未満の周波数領域の強度を全て0に置き換え、その後さらに逆フーリエ変換を行って、逆変換後のデータを得る。逆変換後のデータは、周期性欠陥の影響を持たないデータとなる。
【0080】
フィルム11の、検査対象の測定データが取得された表面の全体に亘り、互いに直交する方向CG-1及び方向DG-1に平行な方向にグリッドを設定し、100mm×100mmの寸法の、多数の矩形の領域RG-1を設定する。方向DG-1とフィルム長手方向とがなす角θは0°とする(工程(II))。
【0081】
領域RG-1内の、方向CG-1の一直線に沿って整列する測定点群PoCにおける測定値の算術平均値AvCを求める。方向CG-1と平行な辺のうちの一つを基準位置とする。多数の測定点群PoCのそれぞれについて、方向DG-1に沿った、基準位置から測定点群PoCまでの距離DsDを算出する。移動平均の点数を6点として移動平均処理を行い、距離DsDと、算術平均値AvCとの関係のプロファイルEG-1を構成する(工程(III))。
【0082】
構成されたプロファイルEG-1に基づいて、欠陥の存在の検知を行う(工程(IV))。プロファイルEG-1の全領域における極大値と極小値を特定し、隣り合う極大値及び極小値の間の傾きの絶対値を求め、それらのうちの最大のものが、所定の閾値以上であるか否かにより、複数の領域Rのそれぞれの内の欠陥の有無を判定する。
【0083】
〔実施例2〕
以下の変更点以外は、実施例1と同じ操作により、本発明の検査方法を行う。
・計測装置102として、偏光高速カメラに代えて、色相を記録しうるハイスピードカメラを使用し、フィルム11の面内のRGBの色相データを連続的に取得し、得られた色相データをグレイスケール化し、得られたスケールの値を、測定値として使用する。
【0084】
〔実施例3〕
以下の変更点以外は、実施例1と同じ操作により、本発明の検査方法を行う。
・計測装置102として、偏光高速カメラに代えて、色相を記録しうるハイスピードカメラを使用し、フィルム11の面内のRGBの色相データを連続的に取得し、得られた色相データのうちのR値を、測定値として使用する。
【0085】
〔実施例4〕
以下の変更点以外は、実施例1と同じ操作により、本発明の検査方法を行う。
・計測装置102として、偏光高速カメラに代えて、色相を記録しうるハイスピードカメラを使用し、フィルム11の面内のRGBの色相データを連続的に取得し、得られた色相データのうちのG値を、測定値として使用する。
【0086】
〔実施例5〕
以下の変更点以外は、実施例1と同じ操作により、本発明の検査方法を行う。
・計測装置102として、偏光高速カメラに代えて、色相を記録しうるハイスピードカメラを使用し、フィルム11の面内のRGBの色相データを連続的に取得し、得られた色相データのうちのB値を、測定値として使用する。
【0087】
〔実施例6〕
以下の変更点以外は、実施例1と同じ操作により、本発明の検査方法を行う。
・計測装置102として、偏光高速カメラに代えて、インライン膜厚系を使用し、フィルム11の面内の膜厚データを連続的に取得し、得られた膜厚の値を、測定値として使用する。
【符号の説明】
【0088】
100:検査システム
11:フィルム
101:光源
102:計測装置
103:情報処理装置
Po1-1、Po1-2、・・・Po1-Y、Po1-Z:測定点
Po2-1、Po2-2、・・・Po2-Y、Po2-Z:測定点
Po3-1、Po3-2、・・・Po3-Y、Po3-Z:測定点
1-1~R1-5:領域R
2-1~R2-5:領域R
3-1~R3-5:領域R
12C:辺
13C:辺
PoC、PoC、PoC、・・・PoC:測定点群
12D:辺
13D:辺
DsD、DsD、DsD、・・・DsD:距離
DsD:距離
AvC:測定値の算術平均
Mx1~Mx7:極大値
mn1~mn8:極小値
SL1~SL14:傾き
Po51-1、Po51-2、・・・Po51-V:測定点
Po52-1、Po52-2、・・・Po52-V:測定点
Po53-1、Po53-2、・・・Po53-V:測定点
Po5W-1、Po5W-2、・・・Po5W-V:測定点
PoC51、PoC52、PoC53、・・・PoC5W:測定点群
DsD51、DsD52、DsD53、・・・DsD5W:距離
51:領域R
71:領域R
82c:グリッドとは非平行である方向Cと平行な直線
PoC82-1~PoC82-6:測定点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8